以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の回路配線基板の製造方法は、以下の工程a〜gを備えており、さらに必要に応じ、工程h等の任意の工程を備えることができる。本発明の製造方法で製造される回路配線基板は、絶縁樹脂層の上に回路配線を形成してなるものである。
工程a) 金属製のシート状支持部材の上に直接に、又は金属製のシート状支持部材に支持されたポリイミド樹脂層の上に、ポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥し、ポリイミド前駆体樹脂層を形成する工程:
本発明で用いられるシート状支持部材は、絶縁樹脂層を補強する目的と、絶縁樹脂層の熱による伸縮変化を抑制して、配線パターンの寸法精度を維持する目的で使用されるものである。また、絶縁樹脂層の形成をキャスト法によって行う際に、樹脂液が塗布される対象となり、樹脂液を展延する際の支持体としても機能する。シート状支持部材はカットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状で使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。さらに、回路配線基板における配線パターン精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、シート状支持部材は長尺に形成されたロール状のものが好ましい。
シート状支持部材の材質は、絶縁樹脂層形成におけるポリイミド前駆体樹脂のイミド化の熱処理またはカバーレイフィルムを熱圧着する際の加熱に対する安定性の観点から、熱収縮率が500ppm以下であることが必要であり、0〜300ppmの範囲内が好ましく、具体的には金属であることが好ましい。熱収縮率が500ppmよりも大きいと、加熱前後の寸法変化が生じ、絶縁樹脂層に形成された配線の寸法変化を抑制できず、配線の寸法精度を維持する効果が得られなくなる。また、配線の形成の際の耐薬品性の観点でも、シート状支持部材の材質は、金属が好ましい。従って、シート状支持部材としては、金属のフィルム、例えば銅箔、ステンレス箔、鉄箔、ニッケル箔、ベリリウム箔、アルミニウム箔、亜鉛箔、インジウム箔、銀箔、金箔、スズ箔、ジルコニウム箔、タンタル箔、チタン箔、鉛箔、マグネシウム箔、マンガン箔及びこれらの合金箔が挙げられる。この中でも、特に銅箔又は銅合金は、絶縁樹脂層の作製をキャスト法で行う場合に、例えば、ポリイミド前駆体溶液の塗布工程、乾燥・熱処理工程及び剥離工程における操作性のバランスがよいので好ましい。それに対して、例えば、ポリイミドフィルムを支持体とした場合、加熱処理等により収縮し、上側の絶縁樹脂層(例えば、ポリイミド樹脂層)もそれに引っ張られ、配線の寸法精度が低下してしまう。したがって、シート状支持部材の材質として合成樹脂は適用できない。
また、剛性面を考慮すると、シート状支持部材は、厚みが6μm〜70μmの範囲内であることが好ましく、12μm〜35μmの範囲内であることがより好ましい。シート状支持部材の厚みが6μm未満では、十分な剛性が得られず、70μmを超えると、絶縁樹脂層との分離(剥離)が困難になる場合がある。
また、絶縁樹脂層との分離性(剥離性)を考慮すると、絶縁樹脂層と接する面側のシート状支持部材の表面粗度Rzは1.4μm未満が好ましく、より好ましくは1.2μm以下のものを使用することがよい。このような範囲のものを使用することで、剥離後における絶縁樹脂層の外観を良好にすることができる。特に、シート状支持部材にポリイミド前駆体溶液を流延塗布し、熱処理によって硬化したポリイミド樹脂層を剥離する工程を適用したときに、上記効果が得られ易くなるので好ましい。なお、表面粗度Rzは「10点平均粗さ」を表し、JIS B 0601に準じて測定される。別の観点から、シート状支持部材は、絶縁樹脂層と接する面側の表面に水滴を載せたとき、シート状支持部材と水との接触角が60°を超え170°以下のものを使用することがよい。より好ましくは水との接触角が70°以上100°以下である。この接触角は、シート状支持部材の表面の化学的性質と表面粗さの二つの因子によって決定される。接触角が上記範囲を超えると、シート状支持部材と絶縁樹脂層との接着強度が大きくなりすぎ、絶縁樹脂層の剥離時のハンドリング性が低下するだけでなく、剥離後の絶縁樹脂層の外観が悪くなる傾向になる。
本発明において絶縁樹脂層を構成する樹脂は、ポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂がある。
ポリイミド樹脂は、前駆体をイミド化(硬化)することによって形成することができるが、ここでいう前駆体とは、その分子骨格中に感光性基、例えばエチレン性不飽和炭化水素基を含有するものも含まれる。イミド化の詳細については後述する。
回路配線基板の絶縁樹脂層が単一層のポリイミド樹脂で構成される場合には、低熱膨張性のポリイミド樹脂が好適に利用できる。具体的には、線熱膨張係数(CTE)が1×10−6 〜30×10−6(1/K)の範囲内、好ましくは1×10−6 〜25×10−6(1/K)の範囲内、より好ましくは15×10−6 〜25×10−6(1/K)の範囲内である低熱膨張性のポリイミド樹脂である。このようなポリイミド樹脂を絶縁樹脂層として適用すると、回路配線基板としての反りを抑制できるので有利である。しかし、上記線熱膨張係数を超えるポリイミド樹脂も使用可能であり、その場合には金属析出層との密着性を向上させることができる。
上記ポリイミド樹脂としては、一般式(1)で現される構造単位を有するポリイミド樹脂が好ましい。一般式(1)中、Ar1は式(2)又は式(3)で表される4価の芳香族基を示し、Ar2は式(4)又は式(5)で表される2価の芳香族基を示し、R1は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、X及びYは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO、SO2若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、n1は独立に0〜4の整数を示し、qは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
上記構造単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよい。構造単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。このような構造単位を有するポリイミド樹脂の中で、好適に利用できるポリイミド樹脂は、非熱可塑性のポリイミド樹脂である。
ポリイミド樹脂は、一般に、ジアミンと酸無水物とを反応させて製造されるので、ジアミンと酸無水物を説明することにより、ポリイミド樹脂の具体例が理解される。上記一般式(1)において、Ar2はジアミンの残基ということができ、Ar1は酸無水物の残基ということができるので、好ましいポリイミド樹脂をジアミンと酸無水物により説明する。しかし、ポリイミド樹脂は、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
酸無水物としては、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が好ましく例示される。また、酸無水物として、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等も好ましく例示される。さらに、酸無水物として、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物等も好ましく例示される。
その他の酸無水物としては、例えば1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が好ましく例示される。また、ジアミンとしては、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン等が好ましく例示される。
その他のジアミンとして、例えば2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
酸無水物およびジアミンは、それぞれ、その1種のみを使用することもできるし、あるいは2種以上を併用して使用することもできる。また、上記一般式(1)に含まれないその他の酸無水物又はジアミンを上記の酸無水物又はジアミンと共に使用することもでき、この場合、上記一般式(1)に含まれない酸無水物又はジアミンの使用割合は90モル%以下、好ましくは50モル%以下とすることがよい。酸無水物又はジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移点(Tg)等を制御することができる。
前駆体の合成は、ほぼ等モルの酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させることにより行うことができる。使用する溶媒については、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
ポリイミド樹脂として、熱可塑性のポリイミド樹脂を用いることもできる。熱可塑性のポリイミド樹脂に使用される前駆体としては、一般式(6)で表される構造単位を有する前駆体が好ましい。一般式(6)において、Ar3は式(7)、式(8)又は式(9)で表される2価の芳香族基を示し、Ar4は式(10)又は式(11)で表される4価の芳香族基を示し、R2は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、V及びWは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO2若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、m1は独立に0〜4の整数を示し、pは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
上記一般式(6)において、Ar3はジアミンの残基ということができ、Ar4は酸無水物の残基ということができるので、好ましい熱可塑性のポリイミド樹脂をジアミンと酸無水物により説明する。しかし、熱可塑性のポリイミド樹脂は、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
熱可塑性のポリイミド樹脂の形成に好適に用いられるジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。その他、上記ポリイミド樹脂の説明で挙げたジアミンを挙げることができる。
熱可塑性のポリイミド樹脂の形成に好適に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が挙げられる。その他、上記ポリイミド樹脂の説明で挙げた酸無水物を挙げることができる。
熱可塑性のポリイミド樹脂の形成に好適に用いられるジアミンおよび酸無水物は、それぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記以外のジアミン及び酸無水物を併用することもできる。
熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体において、式(6)で表される構造単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよい。構造単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。式(6)で表される構造単位は複数であるが、1種であっても2種以上であってもよい。有利には、式(6)で表される構造単位を主成分とすることであり、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上含む前駆体であることがよい。
合成されたポリイミド樹脂(熱可塑性のポリイミド樹脂を含む)の前駆体は溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリイミド前駆体樹脂は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。
ポリイミド前駆体樹脂層を形成する方法は、前駆体の溶液をシート状支持部材の上に直接塗布するか、又はシート状支持部材に支持されたポリイミド樹脂層の上に塗布した後に乾燥することで形成できる。塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
上記の前駆体の層は、後に行われる工程である金属イオンを含有する水溶液の含浸と、さらにその後の金属析出層の形成に直接関与するので、乾燥においては、ポリイミド前駆体樹脂の脱水閉環の進行によるイミド化を完結させないように温度を制御する。乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば、60〜200℃の範囲内の温度条件で1〜60分の範囲内の時間をかけて乾燥を行うことがよいが、好ましくは、60〜150℃の範囲内の温度条件で乾燥を行うことがよい。前駆体の状態を残すことは、金属イオンを含有する水溶液を含浸させるために必要である。乾燥後の前駆体の層は前駆体の構造の一部がイミド化していても差し支えないが、イミド化率は50%以下、より好ましくは20%以下として前駆体の構造を50%以上残すことが好ましい。なお、前駆体のイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、透過法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1,000cm−1のベンゼン環炭素水素結合を基準とし、1,710cm−1のイミド基由来の吸光度から算出される。
絶縁樹脂層は、単層のポリイミド樹脂層から形成されるものでも、複数層からなるものでもよい。ポリイミド樹脂層を複数層とする場合、異なる構成成分からなる前駆体の層の上に他の前駆体を順次塗布して形成することができる。前駆体の層が3層以上からなる場合、同一の構成の前駆体を2回以上使用してもよい。層構造が簡単である2層又は単層、特に単層は、工業的に有利に得ることができるので好ましい。また、前駆体の層の厚み(乾燥後)は、3〜100μmの範囲内、好ましくは3〜50μmの範囲内にあることがよい。前駆体を塗布する本発明の方法では、前駆体の層の厚みを自由に調節することが可能である。このため、前駆体の層を3μm以上の厚みに形成することによって、金属イオン含浸工程(後述)において金属イオンの含浸量を十分に確保できる。その結果、金属析出層形成工程(後述)における金属析出層を、導通が可能な膜状に形成することも可能となる。
前駆体の層を複数層とする場合、金属析出層(後述)に接するポリイミド樹脂層が熱可塑性のポリイミド樹脂層となるように前駆体の層を形成することが好ましい。熱可塑性のポリイミド樹脂を用いることで、金属析出層との密着性を向上させることができる。このような熱可塑性のポリイミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が350℃以下であるものが好ましく、より好ましくは200〜320℃である。
また、単層又は複数層の前駆体の層を一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド樹脂層とした後に、更にその上に前駆体の層を形成することも可能である。この場合、ポリイミド樹脂層と前駆体の層との密着性を向上させるため、ポリイミド樹脂層の表面をプラズマにより表面処理することが好ましい。このプラズマによる表面処理によって、ポリイミド樹脂層の表面を粗化させるか、又は表面の化学構造を変化させることができる。これによって、ポリイミド樹脂層の表面の濡れ性が向上し、前駆体の溶液との親和性が高まり、該表面上に前駆体の層を安定的に保持できるようになる。
プラズマとしては、例えば大気圧方式のプラズマ処理装置を用い、真空処理室内でアルゴン、ヘリウム、窒素又はこれらの混合ガスのプラズマを生成させる。この際の処理圧力は5000〜200000Paの範囲内、処理温度は10〜40℃の範囲内、高周波(あるいはマイクロ波)出力は50〜400Wの範囲内とすることが好ましい。なお、アルカリ処理によるポリイミド樹脂の加水分解も前駆体の層との密着性を向上させることができるので有効である。ここで、アルカリとしては、例えばLiOH、KOH、NaOH等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられ、好ましくはKOHまたはNaOHから選ばれる1種以上を用いることができる。
ポリイミド前駆体樹脂溶液としては、市販品も好適に使用可能であり、例えば宇部興産株式会社製の非熱可塑性ポリイミド前駆体樹脂ワニスであるU-ワニス-A(商品名)、同U-ワニス-S(商品名)、新日鐵化学株式会社製の熱可塑性ポリイミド前駆体樹脂ワニスSPI−200N(商品名)、同SPI−300N(商品名)、同SPI−1000G(商品名)、東レ株式会社製のトレニース#3000(商品名)等が挙げられる。
工程b) ポリイミド樹脂の前駆体を含んで構成されるポリイミド前駆体樹脂層に金属イオンを含有する水溶液を含浸させ、乾燥することによって金属イオン含有のポリイミド前駆体樹脂層を形成する工程:
金属イオンとしては、還元工程で用いる還元剤の酸化還元電位より高い酸化還元電位を持つ金属種のイオンを、特に制限無く用いることができる。そのような金属種を含む金属化合物としては、例えばCu、Ni、Pd、Ag、Au、Pt、Sn、Fe、Co、Cr、Rh、Ru等の金属種を含むものを挙げることができる。金属化合物としては、前記金属の塩や有機カルボニル錯体などを用いることができる。金属の塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩などを挙げることができる。金属塩は、前記金属がCu、Ni、Pdである場合に好ましく用いられる。また、上記金属と有機カルボニル錯体を形成し得る有機カルボニル化合物としては、例えばアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン類、アセト酢酸エチル等のβ−ケトカルボン酸エステルなどを挙げることができる。
金属化合物の好ましい具体例として、Ni(CH3COO)2、Cu(CH3COO)2、Pd(CH3COO)2、NiSO4、CuSO4、PdSO4、NiCO3、CuCO3、PdCO3、NiCl2、CuCl2、PdCl2、NiBr2、CuBr2、PdBr2、Ni(NO3)2、NiC2O4、Ni(H2PO2)2、Cu(NH4)2Cl4、CuI、Cu(NO3)2、Pd(NO3)2、Ni(CH3COCH2COCH3)2、Cu(CH3COCH2COCH3)2、Pd(CH3COCH2COCH3)2などを挙げることができる。
含浸工程で用いる金属イオン溶液中には、金属化合物を30〜300mMの範囲内で含有することが好ましく、50〜100mMの範囲内で含有することがより好ましい。金属化合物の濃度が30mM未満では、金属イオンをポリイミド前駆体樹脂層中に含浸させるための時間がかかり過ぎるので好ましくなく、300mM超では、ポリイミド前駆体樹脂層の表面が腐食(溶解)する懸念がある。
金属イオン溶液は、金属化合物のほかに、例えば緩衝液などのpH調整を目的とする成分を含有することができる。
含浸方法は、ポリイミド前駆体樹脂層の表面に金属イオン溶液が接触することができる方法であれば、特に限定されず、公知の方法を利用することができる。例えば、浸漬法、スプレー法、刷毛塗りあるいは印刷法等を用いることができる。含浸の温度は0〜100℃、好ましくは20〜40℃付近の常温でよい。また、含浸時間は、浸漬法を適用する場合、例えば1分〜5時間が好ましく、5分〜2時間がより好ましい。浸漬時間が1分より短い場合には、ポリイミド前駆体樹脂層への金属イオンの含浸が不十分になって後述するアンカー効果が十分に得られない。一方、浸漬時間が5時間を越えても、金属イオンのポリイミド前駆体樹脂層への含浸の程度は、ほぼ横ばいになっていく傾向になる。
含浸後、ポリイミド前駆体樹脂層を乾燥する。乾燥方法は、特に限定されず、例えば自然乾燥、エアガンによる吹きつけ乾燥、あるいはオーブンによる乾燥等を用いることができる。乾燥条件は、10〜150℃で5秒〜60分間、好ましくは25〜150℃で10秒〜30分間、更に好ましくは30〜120℃で、1分〜10分間である。
工程c) ポリイミド樹脂の前駆体を含んで構成されるポリイミド前駆体樹脂層の表面に、パターン化されたレジストマスクを形成する工程:
レジストパターンの形成は、公知の方法が適用でき、特に限定されない。例えば、感光性レジストを、ポリイミド前駆体樹脂層(又は金属イオン含有のポリイミド樹脂層)の表面にラミネート又は塗布して、レジスト層を形成した後、露光、現像、硬化し、レジストパターンを形成するフォトリソグラフィー技術を利用することができる。この工程cは、工程bの次に行うことが好ましいが、工程bの前に行うこともできる。
また、工程cにおいて、レジストマスクの形成は、パターン形状を有する鋳型のパターン形状面にレジストインクを付着させた後、該レジストインク付きの鋳型のパターン形状面をポリイミド前駆体樹脂層の表面に接触させて、レジストインクをポリイミド前駆体樹脂層の表面に付着させることによって行うことが好ましい。この方法では、配線間隔が1〜10μmの範囲内、好ましくは2〜5μmの範囲内のファインピッチで回路配線を形成できる。
このような形成方法を採用する場合、まず、凹凸パターン形状面にレジストインクが付着した鋳型を準備する。凹凸パターン形状面を有する鋳型は、パターンの凸部に付着させたレジストインクをポリイミド前駆体樹脂層(又は金属イオン含有のポリイミド樹脂層)に転写する際に使用するものである。この目的から、鋳型としては、レジストインクの濡れ性が良好であると共に、レジストインクに対する耐薬品性を有する材質であることが望ましく、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)、フッ素樹脂、石英、酸化ケイ素、炭化ケイ素、ガラス、シリコン、ニッケル、タンタルなどの材質のものが好適に使用できる。鋳型は、単一の材料から構成してもよいし、硬質な基材によって支持されたものでもよい。この鋳型の凹凸パターンは、既知のフォトリソグラフィー技術とエッチング加工により形成できる。また、鋳型のパターン形状面には、レジストインクとの濡れ性を改善するために、プラズマ処理や表面改質剤による処理を施してもよい。
鋳型は、回路配線基板のパターン化導体層(回路配線)のネガ型に対応する凹凸パターンを有している。鋳型のパターン形状面における凹部の幅(又は凸部の幅)は、0.05μm以上とすることが好ましく、この凹部の深さ(又は凸部の高さ)は0.5μm以上であることが好ましい。このような範囲とすることで、鋳型へのレジストインクの付着および樹脂層への転写時にパターンが潰れることを抑制できる。なお、回路配線基板の用途に応じて、鋳型におけるパターン形状面の凹凸のそれぞれの幅を上記範囲内で任意に変更可能であるが、例えばフレキシブル配線基板用途では、凹部の幅(又は凸部の幅)は1〜25μmの範囲内とすることが好ましい。更に、鋳型の形状は、印刷をバッチ式で行うための平板状であってもよく、連続式とするためのロール状であってもよい。
レジストインクは、疎水性のレジスト層を形成するインク溶質と、それを希釈溶液化するための溶剤とを含有する。レジストインクの付着量や転写量を調節するため、溶剤により希釈し濃度調整して用いることが望ましい。レジストインクは、印刷に用いる鋳型の凹凸パターンに対する濡れ性が良く、均一にレジストインクを付着できることが望ましい。溶剤の揮発後は、液状もしくは半固体状であり、ポリイミド前駆体樹脂表面へのインク転写の際に流動性と粘着性を有することが望ましい。レジストインクの転写後、乾燥もしくは加熱によりポリイミド前駆体樹脂表面に定着し、疎水性を発現させることが望ましい。
インク溶質は、ポリイミド前駆体樹脂表面に定着し疎水性を発現するため、ポリイミド樹脂と化学結合するための有機官能基(例えばアミノ基、エポキシ基など)と、撥水性を示す疎水基や化学構造を有することが望ましい。インク溶質の具体例としては、例えば、末端変性シリコーン、シランカップリング剤、エポキシオリゴマーなどが挙げられる。以下順に説明する。
<末端変性シリコーン>
末端変性シリコーンは、アミノ変性もしくはエポキシ変性のシリコーンであって、以下に示すように、官能基の導入位置は、側鎖、片末端、両末端、側鎖両末端型のいずれでも良い。一般式(12)で示される側鎖型は、ポリシロキサンの側鎖に有機変性基を導入したものである。一般式(13)で示される片末端型は、ポリシロキサンの片末端に有機変性基を導入したものである。一般式(14)で示される両末端型は、ポリシロキサンの両末端に有機変性基を導入したものである。一般式(15)で示される側鎖両末端型は、ポリシロキサンの側鎖と両末端の両方に有機変性基を導入したものである。
上記一般式(12)〜(15)中、R3は、以下に示すアミノ基またはエポキシ基を有する有機変性基を意味し、R3’は、炭化水素基を意味し、平均繰り返し数であるm2、n2は、それぞれ1〜20、好ましくは5〜15の数を意味する。
[ここで、アミノ基、エポキシ基に結合する基R
4としては、例えばプロピル基、ブチル基、フェニル基、フェニルメチルエーテル基などが挙げられる]
主鎖のシロキサン骨格としては、例えばジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサンなどが挙げられる。シリコーンの分子量は、官能基1つ当たり800以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
このような変性シリコーンの例としては、ジアミノプロピルポリジメチルシロキサン、ジアミノプロピルポリジフェニルシロキサン、ジグリシドキシプロピルプロピルポリジメチルシロキサン、ジグリシドキシプロピルプロピルポリジフェニルシロキサンなどが挙げられる。
アミノ変性のシリコーンであって、両末端型のジアミノシロキサンとしては、下記一般式(16)で表されるジアミノシロキサンが好ましく用いられる。
[但し、Ar
5及びAr
6は、それぞれ、酸素原子を含有していてもよい2価の有機基を示し、R
5〜R
8は、それぞれ炭素数1〜6の炭化水素基を示し、平均繰り返し数であるm
3は、1〜20、好ましくは5〜15の数を意味する。
一般式(16)で表されるジアミノシロキサンの具体例としては、下式で表されるジアミノシロキサンが好ましい。なお、下式において、m3は上記と同じ意味を有する。
変性シリコーンを含む溶液(レジストインク)の溶媒として代表的なものとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、2−ペンタノン、3−ペンタノン、γ−ブチロラクトン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらは、単独で用いても、数種を混合させて用いてもよい。特に好ましくは、トルエンがよい。末端変性シリコーンを含有する溶液(レジストインク)中の変性シリコーンの濃度は、0.1〜5重量%濃度が好ましく、0.5〜1重量%濃度がより好ましい。
<シランカップリング剤>
有機官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機官能基としてエポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、特に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン及び/又は3−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
シランカップリング剤は、有機溶媒の溶液(レジストインク)として使用する。有機溶媒としては、シランカップリング剤を溶解可能な液体であれば、特に限定されない。このような有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、2−ペンタノン、3−ペンタノン、γ−ブチロラクトン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。シランカップリング剤を含有する溶液(レジストインク)中のシランカップリング剤の濃度は、0.1〜5重量%濃度が好ましく、0.5〜1重量%濃度がより好ましい。
<エポキシオリゴマー>
本発明で用いるエポキシオリゴマーとしては、特に限定されず、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビフェニル型、クレゾールノボラック型等のエポキシオリゴマーを挙げることができ、これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。エポキシオリゴマーは、エポキシ当量が800以下であることが好ましく、500以下がより好ましい。
エポキシオリゴマーを含む溶液(レジストインク)の溶媒として代表的なものとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、2−ペンタノン、3−ペンタノン、γ−ブチロラクトン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらの中でも、特にトルエンが好ましい。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、あるいは数種を混合させて用いてもよい。エポキシオリゴマーを含有する溶液(レジストインク)中のエポキシオリゴマーの濃度は、0.1〜5重量%濃度が好ましく、0.5〜1重量%濃度がより好ましい。
レジストインクには、上記溶質および溶媒のほかに、レジストインクの粘度や溶媒の揮発性を調整する目的で、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂などの高分子成分を配合することもできる。また、レジストインクの粘度は、鋳型への付着性と、金属イオン含有層へ付着した際のパターンの精度を維持できるようにする観点から、0.2〜5cP程度とすることが好ましい。
以上の構成を有するレジストインクを鋳型に付着させる方法としては、例えば、レジストインクを含浸させた多孔質体に鋳型のパターン形状面を接触させる方法や、鋳型のパターン形状面をレジストインク中に浸漬する方法、レジストインクを鋳型のパターン形状面にスプレーする方法、平滑な基板に薄膜塗布したレジストインクを鋳型のパターン形状面に転写する方法などを採用できる。
次に、ポリイミド前駆体樹脂層(又は金属イオン含有のポリイミド前駆体樹脂層)の表面に、レジストインク付きの鋳型のパターン形状面を接触させることでレジストインクを付着させ、パターン形状が転写されたレジストマスクを形成する。つまり、レジストインクを用いて微細パターンの印刷を行う。印刷は、レジストインクをむらなくポリイミド前駆体樹脂層(又は金属イオン含有のポリイミド前駆体樹脂層)の表面に付着させる観点から、鋳型のパターン形状面を所定の圧力例えば100〜1000Pa程度でポリイミド前駆体樹脂層(又は金属イオン含有のポリイミド前駆体樹脂層)の表面に当接させることが好ましい。また、上記と同様の観点から、ポリイミド前駆体樹脂層(又は金属イオン含有のポリイミド前駆体樹脂層)の表面にレジストインクを印刷した後、常温で溶媒を揮発させてから、パターンがずれないように鋳型を接触させ、レジストインクを再付着させて印刷を繰り返し行うことも好ましい。
印刷後に上記の末端変性シリコーン、シランカップリング剤またはエポキシオリゴマーを含有するレジストインクを定着させるための乾燥方法は、特に限定されず、自然乾燥、エアガンによる吹きつけ乾燥、あるいはオーブンによる乾燥等を用いることができる。乾燥条件は、極性溶媒の種類にもよるが、10〜150℃で5秒〜60分間、好ましくは25〜150℃で10秒〜30分間、更に好ましくは30〜120℃で1分〜10分間である。
上記のように、鋳型を用いてパターン化されたレジストマスクを形成する方法では、ポリイミド前駆体樹脂層(又は金属イオン含有のポリイミド前駆体樹脂層)の表面に形成されたレジストパターンは、次の金属析出層形成工程においてレジストマスクで被覆された部分の金属析出を抑制する機能に加えて、マスク領域(すなわち、回路配線の間の樹脂表面)に定着し配線間の表面絶縁抵抗を高める機能も有している。また、レジストマスクの構成成分は、樹脂表面に一部含浸した状態で樹脂と化学的に結合しているため、耐熱性があり、フォトリソグラフィーで一般的に用いられる感光性レジスト材料と異なり、以降の工程で剥離する工程を省略できる。
工程d) ポリイミド前駆体樹脂層中の金属イオンを還元することによって、レジストマスクで被覆されていない領域のポリイミド前駆体樹脂層の表層部に金属を析出させて金属析出層を形成する工程:
還元処理の方法は、特に湿式還元法を利用することが有利である。湿式還元法は、金属イオンが含浸したポリイミド前駆体樹脂層(金属イオン含有層)を、還元剤を含有する溶液(還元剤溶液)中に浸漬することにより、レジスト層でマスクされていない露出した領域で金属イオンを還元する方法である。この湿式還元法では、金属イオン含有層の内部(例えば表層部より深い位置の深層部やレジスト層の直下の被覆部)に存在する金属イオンが、その場所で還元されて金属として析出してしまうことを抑制しながら、金属イオン含有層の表層部で優勢的に金属析出を行わせることができる効果的な方法である。また、湿式還元法では、金属析出のムラが少なく、短時間で均一な金属析出層を形成することが可能である。
なお、本発明方法では、ポリイミド前駆体樹脂の溶液を塗布することによってポリイミド前駆体樹脂層を形成するため、金属イオン含有層の厚みを十分に確保することが容易である。このため、樹脂層内に含浸できる金属イオンの量(すなわち、樹脂層内の金属イオンの含有量)を大幅に増加させることができる。この結果、金属析出層形成工程で得られる金属析出層を膜状とすることができるため、後述する無電解メッキ工程の省略が可能となる。無電解メッキは、メッキ液の管理や廃液の処理が煩雑であるという問題があるため、無電解メッキを実施せずに基材への密着性に優れた回路配線を形成できるならば、その工業的価値は非常に大きい。
還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン等のホウ素化合物が好ましい。これらのホウ素化合物は、例えば次亜燐酸ナトリウム、ホルマリン、ヒドラジン類等の溶液(還元剤溶液)にして用いることができる。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度は、例えば0.005〜0.5mol/Lの範囲内が好ましく、0.01〜0.1mol/Lの範囲内がより好ましい。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度が0.005mol/L未満では、金属イオン含有層中に含まれる金属イオンの還元が不十分になることがあり、0.5mol/Lを超えるとホウ素化合物の作用で、ポリイミド前駆体樹脂が溶解してしまうことがある。
また、湿式還元処理では、レジスト層でマスクされていない領域を、10〜90℃の範囲内、好ましくは50〜70℃の範囲内の温度の還元剤溶液中に、20秒〜30分、好ましくは30秒〜10分、更に好ましくは1分〜5分の時間で浸漬する。浸漬によって、金属イオン含有層中の金属イオンが還元剤の作用で還元されて、金属イオン含有層の表層部で金属が粒子状に析出する。還元の終点では、金属イオン含有層の露出した表層部以外(例えば深層部やレジスト層の直下の被覆部)のポリイミド前駆体樹脂中に、金属イオンは殆ど存在しない状態となる。これは、表層部で金属が析出するに伴い、金属イオン含有層中の金属イオンが均一な濃度分布を維持しながら、金属イオン含有層のマスクされていない領域の表層部に移動し、移動した金属イオンが表層部付近で還元され、金属析出が生じることによるものと考えられる。還元の終点では、ポリイミド前駆体樹脂層中に金属イオンは殆ど残留しない状態となるが、仮に、ポリイミド前駆体樹脂層中に金属イオンが残留したとしても、後述する酸処理によって、残留する金属イオンを除去することができる。還元の終点の見極めとしては、例えば、金属イオン含有層(あるいは、ポリイミド前駆体樹脂層)の断面を、エネルギー分散型X線(EDX)分析装置を用いて測定し、残留する金属イオンの原子重量%を読み取ることによって確認できる。
本実施の形態では、金属析出層形成工程において、回路配線のシード層となる金属析出層は、パターン形成されたレジスト層で被覆されていない部分にのみ形成され、レジスト層の下部には形成されないため、最終的にシード層を除去するためのフラッシュエッチング工程は不要であり、工程数の削減と、回路配線基板の信頼性の向上を図ることが可能である。
工程e)金属析出層の上に、無電解メッキおよび/又は電気メッキによりパターンを有する回路配線を形成する工程:
無電解メッキは、金属析出層が形成されたポリイミド前駆体樹脂層を無電解メッキ液に浸漬することによって行われる(無電解メッキ工程)。この無電解メッキにより、無電解メッキ層が形成される。この無電解メッキ層は、後で行われる電気メッキの核となる。
無電解メッキ工程で用いる無電解メッキ液としては、ポリイミド前駆体樹脂への影響を考慮して、中性〜弱酸性の次亜燐酸系のニッケルメッキ液や、ホウ素系のニッケルメッキ液を選択することが好ましい。次亜燐酸系のニッケルメッキ液の市販品として、例えば、トップニコロン(商品名;奥野製薬工業株式会社製)を挙げることができる。また、ホウ素系のニッケルメッキ液の市販品として、例えばトップケミアロイB−1(商品名;奥野製薬工業株式会社製)、トップケミアロイ66(商品名;奥野製薬工業株式会社製)を挙げることができる。また、無電解メッキ液のpHは4〜7の中性〜弱酸性に調整することが好ましい。この場合、例えば硫酸、塩酸、硝酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、酢酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸を用いることが可能であり、更に、ホウ酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の弱酸と、これらのアルカリ塩を組み合わせて緩衝作用を持たせてもよい。無電解メッキ処理の温度は、80〜95℃の範囲内とすることができ、好ましくは85〜90℃の範囲内である。また無電解メッキ工程の処理温度は、20秒〜10分とすることができ、好ましくは30秒〜5分、より好ましくは1分〜3分である。
次に、無電解メッキ層を核として電気メッキを施し、電気メッキ層を形成する(電気メッキ工程)。電気メッキにより、無電解メッキ層を覆うように電気メッキ層が形成される。電気メッキは、例えば硫酸、硫酸銅、塩酸および光沢剤[例えば、市販品として日本マクダーミット製のマキュスペック(商品名)や奥野製薬工業製のトップルチナSF(商品名)等]を含有する組成のメッキ液中で、無電解メッキ層を陰極とし、Cu等の金属を陽極として実施する。電気メッキにおける電流密度は、例えば0.2〜3.5A/dm2の範囲内とすることが好ましい。なお、電気メッキの陽極としては、例えばCu以外にNi、Co等の金属を用いることができる。また、メッキ液には、必要に応じて塩化ナトリウム等の塩化物を添加することができる。
なお、前記のとおり、本発明方法では、ポリイミド前駆体樹脂層の形成の方法と金属析出層形成工程における還元方法を最適化することにより、無電解メッキ工程を省略することも可能である。
パターンを有する回路配線を形成した後は、不要となったレジスト層を剥離する。レジスト層を剥離する方法は問われないが、例えば1〜4重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液に浸漬する方法などが好ましい。この際、アルカリ溶液の作用によるポリイミド改質層の変質を抑制するため、アルカリ溶液の濃度は4重量%以下にすることが好ましい。なお、イミド化後にレジスト層の剥離を行うと、レジスト剥離用のアルカリ溶液等の作用によって、ポリイミド樹脂に変質などの悪影響を与えるおそれがあるため、レジスト層の剥離は、次工程のポリイミド前駆体樹脂のイミド化よりも前に行うことが好ましい。ただし、レジスト層を回路配線の回路間絶縁層の一部とする場合には、レジスト層の剥離は必要としないので、この限りではない。
ここで、ポリイミド前駆体樹脂層中の金属イオンの除去について説明する。湿式還元処理において、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン等の金属塩を使用した場合、又はレジスト層の剥離において、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属塩を使用した場合、前記金属塩由来の金属イオンがポリイミド前駆体樹脂層中に存在する場合があるので、これを除去することが好ましい。金属イオンの除去は、酸の水溶液に浸漬して行うことがよく、その際に適用可能な酸は、ポリアミド酸のカルボキシル基と配位結合している金属イオンを解離させるため、ポリアミド酸よりも強い酸(酸解離定数pKaが3.5以下)を選択することが好ましく、更には、還元によって析出した金属を溶解しない酸を選択することが好ましい。このような酸の具体例としては、例えばクエン酸(pKa=2.87)、シュウ酸(pKa=1.04)等が挙げられる。なお、塩酸、硝酸、硫酸などの強い酸は金属析出層を溶解する恐れがあり、また酢酸(pKa=4.56)は酸の強度が低く、金属イオンの除去が困難となるので好ましくない。金属イオンを除去するための浸漬処理の条件として、濃度が1〜15重量%の範囲内、好ましくは5〜10重量%の範囲内で、温度20〜50℃の範囲内の酸の水溶液に、2〜10分間の範囲内で浸漬させることが好ましい。このような酸処理を行うことで、還元終了後又はレジスト層剥離後において、ポリイミド前駆体樹脂層中に残留する金属イオンも同時に除去することができる。なお、金属イオンを除去する方法は、例えば、「第17回マイクロエレクトロニクスシンポジウム予稿集」、2007年9月、179頁〜182頁にも開示されている。
工程f)ポリイミド前駆体樹脂層を熱処理によってイミド化し、シート状支持部材の上に積層された絶縁樹脂層を形成する工程:
イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。還元およびメッキにより形成した金属層である回路配線の酸化を抑制するため、低酸素雰囲気下での熱処理が好ましく、具体的には、窒素又は希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、水素などの還元ガス雰囲気下、あるいは真空中で行うことが好ましい。また、工程fは、工程eの後に行うことが好ましいが、工程eの前に行っても良い。このような熱処理を経由することで、シート状支持部材の上に、絶縁樹脂層(単層又は複数層のポリイミド樹脂層)を積層形成することができる。
工程g)前記シート状支持部材を前記絶縁樹脂層から分離する工程:
工程gは、工程fを行った後に実施される。このように、シート状支持部材を備えた状態で熱処理を完了させることにより、絶縁樹脂層に反りがない状態でパターン形成が可能となり、寸法精度を向上させることができる。
本発明方法では、工程fを経由した後、工程gの前に、任意工程として工程hを備えることが好ましい。
工程h)前記配線より上層に、カバーレイフィルムを熱圧着して絶縁被膜を形成する工程:
カバーレイフィルムは、配線を保護するための保護樹脂層として機能する。カバーレイフィルムは、配線のパターンに応じて所定形状に加工された、例えばエポキシ樹脂やポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂の接着性フィルムを用い、熱圧着によって配線を覆うように積層する。熱圧着は、公知の熱プレス法によって行うことができる。カバーレイフィルムを熱圧着する際に、シート状支持部材を備えた状態で行うことにより、絶縁樹脂層の熱収縮を抑制し、絶縁樹脂層に形成された配線の寸法変化を抑制して、配線の寸法精度を維持することができる。
以上のように、本発明方法では、工程f(および必要により工程h)の後で、工程gを行い、シート状支持部材と絶縁樹脂層を分離することにより、絶縁樹脂層の上に高い寸法精度で回路配線が形成された回路配線基板を作製することができる。また、このようにして得られる回路配線基板は、特に、長尺のものである場合に、配線の寸法精度を維持する本発明の効果が大きくなる。従って、少なくとも上記シート状支持部材と絶縁樹脂層を剥離して回路配線基板を作製する工程以前の工程までは、ロール・トウ・ロール方式で行うことが好ましい。
ここで、図1を参照しながら、本発明の作用について説明する。図1(a)は、シート状支持部材1を付けたままでポリイミド前駆体樹脂層3のイミド化(工程f;熱処理)を行った場合を示し、同図(b)は、シート状支持部材1を付けていない状態で、ポリイミド前駆体樹脂層3のイミド化を行った場合を示している。まず、従来の方法では、図1(b)中に示したように、配線7を形成する前にシート状支持部材1を剥離してしまうため、イミド化の際の加熱によりポリイミド樹脂層3aに収縮ストレス(図1(b)において黒矢印で示す)が加わる。その結果、イミド化の前後において配線7の寸法に変化が生じ、例えば配線間隔はL1>L2となり、寸法精度が低下してしまう。このようにして生じる配線の寸法精度の低下は、配線間隔が狭いほど問題となりやすい。特に、配線間隔が狭いファインピッチ回路(例えば、配線間隔が1〜10μmの範囲内)になるほど、寸法精度の低下により、隣接する配線間での電気信号の干渉が生じやすくなり、電子部品の信頼性と歩留まりを低下させる大きな原因となる。
本発明方法では、シート状支持部材1にポリイミド前駆体樹脂層3を積層した状態でダイレクトメタラーゼーション法により配線7の形成を行い、図1(a)に示したように、さらにイミド化を行った後、シート状支持部材1の剥離を行う。シート状支持部材1との積層によってイミド化の際の加熱によるポリイミド樹脂層3aの収縮が抑制されるので、イミド化の前後において配線7の寸法精度はほとんど変化せず、例えば配線間隔L1とL2は、ほぼ同じ長さとなる。従って、フォトリソグラフィー技術で形成される、配線間隔が20〜50μm、好ましくは25〜40μm程度の回路配線の形成において十分に高い寸法精度が得られる。また、例えばパターン形状を有する鋳型を用いるマイクロコンタクトプリント技術で形成される、配線間隔が1〜10μmの範囲内、好ましくは2〜5μmの範囲内のより微細なファインピッチ回路の形成において、加熱による配線の寸法変化が防止されるので、いっそう大きな効果が得られる。
また、キャスト法を採用することによって、シート状支持部材1に、キャスト法における支持体としての機能と、ポリイミド樹脂層3a(またはポリイミド前駆体樹脂層3)を補強する機能と、配線7の寸法精度を維持する機能を持たせることにより、使用部品点数の削減と、ラミネートや剥離などの工程数の削減を図ることが可能になる。
図1では、加熱を伴う工程としてイミド化処理を例に挙げて説明したが、カバーレイフィルムを熱圧着させるカバーレイ加工でも、シート状支持部材1を付けておくことによって同様の作用効果が得られる。
このように、本発明方法では、キャスト法によって形成したポリイミド前駆体樹脂層3をシート状支持部材1に付けた状態で、配線形成後の熱処理工程(イミド化、カバーレイ加工)を行うことによって、配線7の寸法精度の低下を防止し、微細なファインピッチで、寸法精度が高く、しかも配線7とポリイミド樹脂層3aとの密着信頼性が高い回路配線基板を製造できる。
なお、以上の説明では、本発明方法の特徴的工程のみを説明した。すなわち、回路配線基板を製造する際に、通常行われる上記以外の工程、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例において特にことわりない限り、各種測定、評価は下記によるものである。また、実施例に用いた略号は下記の意味を有する。
m-TB:2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
PMDA:ピロメリット酸二無水物
DANPG:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
[加熱後寸法変化率の測定]
寸法変化率の測定は、以下の手順で行った。まず、300mm角の試料を用い、200mm間隔にてドライフィルムレジストを露光、現像することによって、位置測定用ターゲットを形成する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中にてエッチング前(常態)の寸法を測定した後に、試験片のターゲット以外の銅をエッチング(液温40℃以下、時間10分以内)により除去する。温度23±2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中に24±4時間静置後、エッチング後の寸法を測定する。これにより初期の位置ターゲット間の距離を得ることが出来る。
次に、本試験片を250℃のオーブンで1時間加熱処理し、その後の位置ターゲット間の距離を測定する。縦方向及び横方向の各3箇所の常態に対する寸法変化率を算出し、各々の平均値をもって加熱処理後の寸法変化率とする。加熱寸法変化率は下記数式により算出した。
加熱寸法変化率(%)=(B―A)/A × 100
A ; 配線形成後のターゲット間距離
B ; 加熱後のターゲット間距離
[線熱膨張係数の測定]
線熱膨張係数の測定は、サーモメカニカルアナライザー(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて255℃まで20℃/分の速度で昇温し、その温度で10分間保持した後、更に5℃/分の一定速度で冷却した。冷却時の240℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を算出した。
[密着性の評価]
密着性の評価は、3mm幅の回路配線の測定用試験片を作製し、ストログラフ-M1(東洋精機製作所社製)を用いて、室温で90°方向に引き剥がし強さを測定することにより評価した。なお、密着性の評価は、引き剥がし強さが0.5kN/m以上1.0kN/m未満である場合を「実用性に問題はない」とし、1.0kN/m以上である場合を「優れる」と評価した。
[反りの評価方法]
裁断機によって導体層形成樹脂フィルムを裁断して、10cm×10cmサイズのシートを作成し、このシートを机上に載置したときに最も机の面から浮き上がった部分の机の面からの高さを、ノギスを用いて測定した。その高さを導体層形成樹脂フィルムの反り量とし、反り量が2mm未満の場合「反りがない」と評価した。
[金属層のシート抵抗の測定]
抵抗率計測器(三菱化学社製MCP−T610)を用いて、JIS K 7194に準拠する方法にて、金属層のシート抵抗の測定を行った。なお、金属層のシート抵抗における測定値が、50Ω/□(ohm/square)を超える場合を「電気メッキ困難」であるレベルとし、50Ω/□以下である場合を「電気メッキ可能」であるレベルと評価した。また、30Ω/□以下である場合は、金属層が導電性皮膜として「特に優れる」と評価した。
作製例1
500mlセパラブルフラスコの中において、撹拌しながら15.77gのm-TB(0.074モル)及び2.41gのTPE-R(0.008モル)を264gのDMAcに溶解させた。次に、その溶液に窒素気流下で17.82gのPMDA(0.082モル)を加えた。その後、4時間撹拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液aを得た。
作製例2
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながら30.3gのDANPG(0.1モル)を352gのDMAcに溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で9.3gのPMDA(0.04モル)及び20.5gのBTDA(0.06モル)を加えた。その後、約3時間撹拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液bを得た。
実施例1
シート状支持部材として、長尺の銅箔1(日本電解社製HL箔、剥離面のRz1.2μm、水との接触角90°、厚さ18μm)の上に、イミド化後の厚みが25μmとなるように非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aを塗布し、130℃で20分間乾燥した。更にその上に、イミド化後の厚みが1.4μmとなるように熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液bを塗布し、130℃で20分間乾燥することで、ポリイミド前駆体樹脂層A1を得た。
次に、上記樹脂層A1を、100mM酢酸ニッケル水溶液(25℃)に10分間浸漬し、樹脂層A1にニッケルイオンを含浸させて含浸層(金属イオン含有層)を形成した。その後に、含浸層の表面にドライフィルムレジスト(旭化成株式会社製、商品名:サンフォートAQ、厚さ10μm)を110℃にてラミネートし、フォトマスクを介して紫外線露光し、0.5重量%の炭酸ナトリウム水溶液にて現像することにより、50μm{配線幅/配線間隔(L/S)=20μm/30μm}のマスクパターンが形成されたポリイミド前駆体樹脂層B1を得た。
上記樹脂層B1を、10mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液(30℃)に2分間浸漬し、レジスト層でマスクしていない領域の含浸層の表面にニッケルの析出層を形成し、ニッケル析出樹脂層C1を得た。この樹脂層C1におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、20Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。形成したニッケル層に対して、電気銅メッキ浴中で、3.5A/dm2の電流密度で電気メッキを行い、銅膜厚み12μmの銅配線を形成し、銅配線形成樹脂層D1を得た。
得られた樹脂層D1を、2重量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)に3分間浸漬してレジストパターンを剥離した後、10重量%のシュウ酸水溶液(25℃)に2分間浸漬することで、残留金属イオンを除去した。
上記樹脂層D1をイオン交換水で洗浄した後、窒素雰囲気下で、約15分間かけて360℃まで加熱することでイミド化を完了した。その後、窒素雰囲気下で常温まで冷却し、シート状支持部材付き回路配線基板E1を得た。この回路配線基板E1を真空中で250℃、1時間かけて加熱処理した後、シート状支持部材から回路配線基板E1を剥離して、回路配線基板E1’を得た。得られた回路配線基板E1’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが1.1kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E1’の絶縁樹脂層(ポリイミド樹脂層)の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であった。また、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
上記のシート状支持部材付き回路配線基板E1の配線側の面に、カバーレイフィルム(ニッカン工業社製、商品名:ニカフレックス、ベースフィルム厚み25μm、接着剤層厚み25μm)を装着し、160℃、1時間の加熱プレスでカバーレイフィルムを積層したシート状支持部材付き回路配線基板F1を得た後、シート状支持部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F1’を得た。上記手法と同様の方法で、加熱寸法変化率を測定したところ、−0.002%であった。
実施例2
実施例1において、イミド化後の厚みが25μmとなるように非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aを塗布し、かつイミド化後の厚みが1.4μmとなるように熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液bを塗布したことに代えて、イミド化後の厚みが25μmとなるように非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aのみを塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C2、シート状支持部材付き回路配線基板E2及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E2’を作製した。得られた樹脂層C2におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、25Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E2’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.7kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に問題はなかった。この回路配線基板E2’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.002%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E2にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F2’を得た。
実施例3
実施例1において、イミド化後の厚みが25μmとなるように非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aを塗布したことに代えて、イミド化後の厚みが5μmとなるように非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aを塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C3、シート状支持部材付き回路配線基板E3及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E3’を作製した。得られた樹脂層C3におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、20Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E3’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが1.1kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E3’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E3にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F3’を得た。
実施例4
実施例1において、イミド化後の厚みが25μmとなるように非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aを塗布し、かつイミド化後の厚みが1.4μmとなるように熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液bを塗布したことに代えて、イミド化後の厚みが6μmとなるように非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aのみを塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C4、シート状支持部材付き回路配線基板E4及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E4’を作製した。得られた樹脂層C4におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、25Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E4’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.7kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に問題はなかった。この回路配線基板E4’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.002%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E4にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F4’を得た。
実施例5
シート状支持部材として、長尺の銅箔1の上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液aを塗布し、130℃で20分間乾燥後、約15分間かけて360℃まで加熱して、厚さが25μmのポリイミド樹脂層を形成し、シート状支持部材に支持されたポリイミド樹脂層を作製した。このポリイミド樹脂層の表面をアルゴン及びヘリウムの不活性ガス雰囲気下で、印加電圧5kV、周波数10kHzで250Wの電力で、プラズマ処理を25秒間実施した後、その上に、イミド化後の厚みが1.4μmとなるように熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂溶液bを塗布し、130℃で20分間乾燥することで、ポリイミド前駆体樹脂層A5を得た。
実施例1において、ポリイミド前駆体樹脂層A1の代わりに、ポリイミド前駆体樹脂層A5を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C5、シート状支持部材付き回路配線基板E5及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E5’を作製した。得られた樹脂層C5におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、20Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E5’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが1.0kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E3’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E5にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F5’を得た。
実施例6
実施例1と同様にして、シート状支持部材の上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層と熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層からなるポリイミド前駆体樹脂層A6を形成した後、樹脂層A6にニッケルイオンを含浸させて含浸層(金属イオン含有層)を形成した。
ジアミノプロピル−ポリジメチルシロキサン(信越化学工業(株)製 KF8010)の1%トルエン溶液をインクとして染み込ませたメンブランフィルター(MILLIPORE社製 ニトロセルロースメンブランフィルター 孔径0.22μm)に、PDMS(通称シリコーンゴム)製の凹凸パターン(凹部の深さ;5μm、パターン形状;配線幅/配線間隔(L/S)=5μm/5μm、パターン面積;1平方cm)をスタンプすることで、凹凸パターン表面にインクを付着させた。インクを付着させた凹凸パターンを1分間乾燥後(室温23℃、湿度50%)、上記のニッケルイオンを含浸させた樹脂層A6の表面に再度スタンプすることで凹凸パターン表面のインクを樹脂層A6の表面に転写し、続いて130℃にて5分間熱処理し、樹脂層A6の表面にマスクパターンが形成されたポリイミド前駆体樹脂層B6を得た。
上記樹脂層B6を、実施例1と同様の方法で処理し、ニッケル析出樹脂層C6を作製した。得られた樹脂層C6におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、20Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。形成したニッケル層に対して、電気銅メッキ浴中で、0.5A/dm2の電流密度で電気メッキを行い、銅膜厚み3μmの銅配線を形成し、銅配線形成樹脂層D6を得た。
上記樹脂層D1を、実施例1と同様の方法で処理し、シート状支持部材付き回路配線基板E6及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E6’を作製した。得られた回路配線基板E6’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが1.0kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E6’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E6にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F6’を得た。
実施例7
実施例2と同様にして、シート状支持部材の上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層からなるポリイミド前駆体樹脂層A7を形成した後、樹脂層A7にニッケルイオンを含浸させて含浸層(金属イオン含有層)を形成した。
実施例6において、ポリイミド前駆体樹脂層A6の代わりに、ポリイミド前駆体樹脂層A7を使用した以外は、実施例6と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C7、シート状支持部材付き回路配線基板E7及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E7’を作製した。得られた樹脂層C7におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、25Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E7’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.6kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に問題はなかった。この回路配線基板E7’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.002%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E7にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F7’を得た。
実施例8
実施例5と同様にして、長尺シート状支持部材に支持されたポリイミド樹脂層を作製した後、ポリイミド樹脂層をプラズマ処理し、この層の上に熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層からなるポリイミド前駆体樹脂層A8を形成した後、樹脂層A8にニッケルイオンを含浸させて含浸層(金属イオン含有層)を形成した。
実施例6において、ポリイミド前駆体樹脂層A6の代わりに、ポリイミド前駆体樹脂層A8を使用した以外は、実施例6と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C8、シート状支持部材付き回路配線基板E8及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E8’を作製した。得られた樹脂層C8におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、20Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E8’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが1.0kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E8’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E8にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F8’を得た。
実施例9
実施例6において、ジアミノプロピル−ポリジメチルシロキサンの1%トルエン溶液の代わりに、アミノプロピル−トリエトキシシラン(信越化学工業(株)製 KBE−903)の1重量%トルエン溶液を用いた以外は、実施例6と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C9、シート状支持部材付き回路配線基板E9及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E9’を作製した。得られた樹脂層C9におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、20Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E8’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが1.0kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E9’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E9にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F9’を得た。
実施例10
実施例6において、ジアミノプロピル−ポリジメチルシロキサンの1%トルエン溶液の代わりに、エポキシオリゴマー(東都化成(株)製 ZX−1059)の1重量%トルエン溶液を用いた以外は、実施例6の方法で、ニッケル析出樹脂層C10、シート状支持部材付き回路配線基板E10及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E10’を作製した。得られた樹脂層C10におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、20Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E10’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが1.0kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E10’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E10にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F10’を得た。
実施例11
実施例1と同様にして、シート状支持部材の上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層と熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層からなるポリイミド前駆体樹脂層A11を形成した。
ジアミノプロピル−ポリジメチルシロキサン(信越化学工業(株)製 KF8010)の1%トルエン溶液をインクとして染み込ませたメンブランフィルター(MILLIPORE社製 ニトロセルロースメンブランフィルター 孔径0.22μm)に、PDMS(通称シリコーンゴム)製の凹凸パターン(凹部の深さ;2μm、パターン形状;配線幅/配線間隔(L/S)=2μm/2μm、パターン面積;1平方cm)をスタンプすることで、凹凸パターン表面にインクを付着させた。インクを付着させた凹凸パターンを1分間乾燥後(室温23℃、湿度50%)、上記のニッケルイオンを含浸させた樹脂層A11の表面に再度スタンプすることで凹凸パターン表面のインクを樹脂層A11の表面に転写し、続いて130℃にて5分間熱処理し、樹脂層A11の表面にマスクパターンが形成されたポリイミド前駆体樹脂層B11’を得た。
次に、上記樹脂層B11’を、100mM酢酸ニッケル−600mMアンモニアの混合水溶液(25℃)に10分間浸漬し、レジストパターンが形成され、更にニッケルイオンが含浸されたポリイミド前駆体樹脂層B11を形成した。
上記樹脂層B11を、実施例1と同様の方法で処理し、ニッケル析出樹脂層C11を作製した。得られた樹脂層C11におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、25Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。形成したニッケル層に対して、電気銅メッキ浴中で、0.5A/dm2の電流密度で電気メッキを行い、銅膜厚み3μmの銅配線を形成し、銅配線形成樹脂層D11を得た。
上記樹脂層D11を、実施例1と同様の方法で処理し、シート状支持部材付き回路配線基板E11及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E11’を作製した。得られた回路配線基板E11’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.9kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に問題はなかった。この回路配線基板E11’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E11にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F11’を得た。
実施例12
実施例2と同様にして、シート状支持部材の上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層からなるポリイミド前駆体樹脂層A12を形成した。
実施例11において、ポリイミド前駆体樹脂層A11の代わりに、ポリイミド前駆体樹脂層A12を使用した以外は、実施例11と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C12、シート状支持部材付き回路配線基板E12及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E12’を作製した。得られた樹脂層C12におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、30Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E12’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.5kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に問題はなかった。この回路配線基板E12’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.002%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E12にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F12’を得た。
実施例13
実施例5と同様にして、長尺シート状支持部材に支持されたポリイミド樹脂層を作製した後、ポリイミド樹脂層をプラズマ処理し、この層の上に熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層からなるポリイミド前駆体樹脂層A13を形成した。
実施例11において、ポリイミド前駆体樹脂層A11の代わりに、ポリイミド前駆体樹脂層A13を使用した以外は、実施例11と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C13、シート状支持部材付き回路配線基板E13及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E13’を作製した。得られた樹脂層C13におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、25Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E13’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.8kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に問題はなかった。この回路配線基板E13’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E13にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F13’を得た。
実施例14
実施例11において、ジアミノプロピル−ポリジメチルシロキサンの1%トルエン溶液の代わりに、アミノプロピル−トリエトキシシラン(信越化学工業(株)製 KBE−903)の1重量%トルエン溶液を用いた以外は、実施例11と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C14、シート状支持部材付き回路配線基板E14及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E14’を作製した。得られた樹脂層C14におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、25Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E14’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.9kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E14’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E14にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F14’を得た。
実施例15
実施例11において、ジアミノプロピル−ポリジメチルシロキサンの1%トルエン溶液の代わりに、エポキシオリゴマー(東都化成(株)製 ZX−1059)の1重量%トルエン溶液を用いた以外は、実施例11と同様の方法で、ニッケル析出樹脂層C15、シート状支持部材付き回路配線基板E15及びシート状支持部材を剥離した回路配線基板E15’を作製した。得られた樹脂層C15におけるニッケル析出層のシート抵抗を測定した結果、25Ω/□であり、金属皮膜として特に優れていた。また、得られた回路配線基板E15’は、反りもなく、銅配線の引き剥がし強さが0.9kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に優れていた。この回路配線基板E15’の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)であり、加熱寸法変化率は−0.001%であった。
実施例1と同様にして、シート状支持部材付き回路配線基板E15にカバーレイフィルムを積層後、シート状部材を剥離して、カバーレイフィルム付き回路配線基板F15’を得た。
上記実施例1〜15の試験の概要と試験結果を表1にまとめて示した。
比較例1
実施例1と同様にして、銅箔1の上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層と熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体樹脂層からなるポリイミド前駆体樹脂層を形成した後、窒素雰囲気下で、約15分間かけて360℃まで加熱することで、銅箔に積層されたポリイミド樹脂層を形成した。このポリイミド樹脂層を銅箔から剥離し、ロール状のポリイミドフィルムを得た。このフィルムの熱可塑性ポリイミド樹脂層側の面に、長尺スパッタリング装置にて、槽内圧力3×10−4Pa、アルゴンガス雰囲気下でプラズマ発生させ、ニッケル:クロムの合金層[比率8:2、99.9重量%、以下、ニクロム層]が厚さ30nmの薄膜となるようにポリイミド層A上に成膜した。このニクロム層上にさらにスパッタリングにより銅(99.99重量%)を0.2μm成膜して、スパッタリング膜を形成した。このスパッタリング膜の上に、電解銅メッキによって更に12μm厚みの銅層を形成し、導体層を有する回路形成用基板を形成した。次に、この回路形成用基板の導体層を50μmピッチの櫛型パターン及び位置ターゲット用の導体部位を形成するために塩化第二鉄溶液によりエッチング加工し、回路配線基板を得た。本基板を真空中で250℃、1時間かけて加熱処理し、その後、シート状支持部材から位置ターゲット用の導体部位付のポリイミド層Aを剥離し、加熱寸法変化率を測定した。絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)、加熱寸法変化率は−0.005%であった。
比較例2
実施例1において、シート状支持部材として市販のポリイミドフィルムであるユーピレックスS(登録商標;宇部興産株式会社製、厚み50μm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、回路配線基板を得た。この回路配線基板の絶縁樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)、加熱寸法変化率は−0.04%であった。
比較例3
シート状支持部材を使用せず、市販のポリイミドフィルムであるカプトンEN(商品名;東レ・デュポン株式会社製、厚み38μm)に、スパッタリング及び電解銅メッキによって12μmの厚みの導体層を形成した。次に、導体層を位置ターゲット用の導体部位が残存するようにエッチング加工することで回路配線基板を得た。本基板を真空中で250℃、1時間かけて加熱処理し、ポリイミド樹脂層の線熱膨張係数と加熱寸法変化率を測定した。ポリイミド樹脂層の線熱膨張係数は23×10−6/K(=23ppm)、加熱寸法変化率は−0.05%であった。
比較例4
5Nの水酸化カリウム水溶液の中に、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名:カプトンEN、100mm×100mm×25μm厚、線熱膨張係数(CTE)16×10-6/K)を50℃、10分間浸漬した。その後、浸漬したポリイミドフィルムをイオン交換水で充分水洗し、1重量%濃度の塩酸水溶液(25℃)に30秒浸漬した後、さらにイオン交換水で充分水洗し、圧縮空気を吹き付けて乾燥することで、表面処理ポリイミドフィルムを得た。
次に、上記表面処理ポリイミドフィルムを、100mM酢酸ニッケル水溶液(25℃)に10分間浸漬し、アルカリ処理層にニッケルイオンを含浸させて含浸層(金属イオン含有層)を形成した。その後、含浸層の表面にドライフィルムレジスト(旭化成株式会社製、商品名:サンフォートAQ、10μm厚さ)を温度110℃にてラミネートし、フォトマスクを介して紫外線露光し、0.5重量%の炭酸ナトリウム水溶液にて現像して50μm{配線幅/配線間隔(L/S)=20μm/30μm}のレジストパターンを形成して、レジストパターンが形成されたフィルムを得た。
上記フィルムを、10mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液(30℃)に2分間浸漬し、レジスト層でマスクしていない領域の含浸層の表面にニッケルの析出層を形成し、ニッケル析出フィルムを得た。このニッケル析出フィルムのシート抵抗を測定した結果、1500Ω/□であった。次に、このフィルムを無電解ニッケルメッキ浴(奥野製薬工業株式会社製、商品名:トップニコロンTOM−S)に、温度80℃で30秒間浸漬させることで、電気銅メッキの下地となるニッケル層を形成した。ここで、無電解ニッケルメッキにより形成したニッケル層のシート抵抗は15Ω/□であった。さらに、形成したニッケル層に対して、電気銅メッキ浴中で、3.5A/dm2の電流密度で電気メッキを行い、銅膜厚み10μmの銅配線を形成し、銅配線形成フィルムを得た。
得られた銅配線形成フィルムを、2重量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)に3分間浸漬してレジストパターンを剥離した後、10重量%のシュウ酸水溶液(25℃)に2分間浸漬することで、残留金属イオンを除去した。
上記銅配線形成フィルムをイオン交換水で洗浄した後、窒素雰囲気下で、約15分かけて360℃まで加熱することで、イミド化を完了した。その後、窒素雰囲気下で常温まで冷却し、銅配線形成フィルムを得た。銅配線の引き剥がし強さが0.7kN/mであり、絶縁樹脂層と配線との密着性に問題はなかったが、加熱寸法変化率は−0.05%であった。
表1に示されるように、シート状支持部材としての銅箔を付けた状態でイミド化処理までの工程を行った実施例1〜15では、いずれも加熱寸法変化率が−0.001%であり、イミド化のための熱処理を行っても配線パターンの寸法精度が維持されていた。この寸法精度は、熱圧着によってカバーレイフィルムを形成した後もほぼ維持することができた(実施例1参照)。また、凹凸パターンを有する鋳型を用いて2〜5μm幅で配線形成を行った実施例6〜15においても、配線寸法の精度を維持することが可能であった。
一方、配線形成前にポリイミド樹脂層とシート状支持部材を剥離した比較例1や、シート状支持部材として合成樹脂を使用した比較例2、シート状支持部材を使用せずに配線形成を行った比較例3、比較例4では、加熱寸法変化率が−0.005%〜−0.05%と大きくなり、配線パターンの寸法精度の大幅な低下が確認された。
以上、本発明の実施の形態を述べたが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。