JP5126107B2 - 人工衛星の姿勢制御装置 - Google Patents
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Description
CMGのジンバル角速度と人工衛星に作用する姿勢制御トルクの間の関係はヤコビ行列を用いて以下の(1)式のように表わされる。
姿勢制御トルクτを実現するためのCMGジンバル角速度の目標値は、ヤコビ行列Jの擬似逆行列を用いて以下の(2)式で求められる。
この特定のCMGジンバル角の組合せを一般にCMGの特異点と呼び、出力できないトルク方向を特異方向と呼ぶ。特異点においては、特異方向の姿勢制御トルクを発生できないため、任意の三軸姿勢制御を行うことができない。
図1は本発明の実施の形態1による人工衛星の姿勢制御装置の構成を示すブロック図である。人工衛星1には、姿勢制御トルクアクチュエータとして複数台のCMGが搭載されているが、以下の説明ではそのうちの1台のCMGを制御する部分を用いて説明する。無論、他のCMGについても同じ実施の形態が適用される。
図1のブロック図ではCMG2と、CMG2のジンバル角およびジンバル角速度を推定するジンバル推定部3と、人工衛星1の姿勢角および姿勢角速度を推定する姿勢推定部4と、人工衛星1の姿勢を変更するための目標姿勢角および目標姿勢角速度、並びにこれら目標姿勢角および目標姿勢角速度に力学的に整合するCMG2のジンバル角計画値、ジンバル角速度計画値およびジンバル角加速度計画値を生成する目標軌道計画部5と、目標軌道計画部5からの目標姿勢角および目標姿勢角速度、並びに姿勢推定部4からの姿勢角および姿勢角速度の推定値との誤差を低減すべくフィードバック姿勢制御トルクを求める姿勢制御フィードバック演算部6を備えている。
姿勢推定部4は、例えば人工衛星1に姿勢センサ(スタートラッカや地球センサなど)と姿勢角速度センサ(ジャイロスコープ)を搭載し、これらのセンサ出力を用いてカルマンフィルタを構成することにより、人工衛星1の姿勢角と姿勢角速度を推定することができるものである。
人工衛星1の初期(現在の)姿勢と、姿勢変更の目標となる終端姿勢が与えられると、初期姿勢から終端姿勢への姿勢変更は、例えば非特許文献1に示されるように、オイラー軸(Euler Axis)とよばれる1軸まわりの回転で実現することができる。
この回転軸をuaとすると、姿勢変更のためにCMG2が発生すべき角運動量方向ucは以下の(6)式によって求めることができる。
P.C.Hughes, "Spacecraft Attitude Dynamics", John Wiley & Sons, 1986, 11頁の図2.3.
姿勢変更を高精度で速やかに行うためには、CMG2で発生可能な角運動量の最大値付近の角運動量によって人工衛星1に大きな姿勢角速度を発生させる必要がある。姿勢変更に必要な角運動量方向ucが求まると、その方向にCMG2が発生できる最大角運動量と、その時のCMG2のジンバル角を以下の手順によって求めることができる。
CMG2が発生できる最大角運動量の集合は一般に最大角運動量包絡面と呼ばれ、角運動量空間において閉じた曲面を構成する。この最大角運動量包絡面に関しては、例えば非特許文献2の3章で述べられた手法により求めることができるので、詳細な説明は省略する。
Wie, B., "Singularity Analysis and Visualization for Single-Gimbal Control Moment Gyro Systems," Journal of Guidance, Control, and Dynamics, Vol. 27, No. 2, 2004, pp.271-282. 黒河,"小型衛星用3ユニットCMGの制御則",機械技術研究所所報,Vol. 53,No. 6,1999,pp.203-209.
最大姿勢角速度発生後はジンバルを保持してCMG2の発生角運動量を保持し、人工衛星1が最大姿勢角速度を発生する状態を継続する。
姿勢変更区間の終端付近で再びCMG2のジンバルを駆動して零の状態に戻し、CMG2が発生した角運動量を解放し、人工衛星1の姿勢角速度を零として目標姿勢への姿勢変更を完了する。図2では姿勢変更区間中のCMG2のジンバル角と発生角運動量および人工衛星1の姿勢角速度と姿勢角の履歴の一例を示している。
CMG2のジンバル角計画値が求まると、角運動量保存則から人工衛星1の姿勢軌道を求めることができる。衛星全体の角運動量は、人工衛星1の角運動量とCMG2の発生角運動量の和で与えられる。以下の(7)式に示すように、角運動量保存則より衛星全体の角運動量は慣性空間において保存される。
目標軌道計画部5からの目標姿勢角および目標姿勢角速度と、姿勢推定部4から得られた姿勢角および姿勢角速度の推定値との誤差(姿勢角誤差および姿勢角速度誤差)を用いて、姿勢制御フィードバック演算部6において、この誤差を低減するようにフィードバック姿勢制御トルクを求める。
姿勢角誤差をeθ、姿勢角速度誤差をeωとすると、フィードバック姿勢制御トルクτFBは、例えばPD制御を用いて、以下の(8)式で求めることができる。
次にCMGステアリング演算部7において、このフィードバック姿勢制御トルクτFBを用いて、姿勢変更に必要なCMG2のジンバル角とジンバル角速度の目標値を求める。CMG2のジンバル角の関数として与えられるヤコビ行列Jを特異値分解すると、以下の(9)〜(13)式で表される。
また、(16)〜(18)式より、(19)式を用いて計算されるジンバル角速度の補正値は、特異点近傍領域を含めて連続的に変化するものとなる。
また、フィードフォワード補償演算部9では、目標軌道計画部5で生成されたジンバル角加速度計画値によるCMG2の慣性力と、人工衛星1の姿勢角速度とCMG2のもつ角運動量によるジャイロ項の和を求めて、フィードフォワードジンバル制御トルクとする。
以上述べた角度制御系と角速度制御系による出力トルクと、CMGステアリング演算部7で求めたフィードフォワードジンバル制御トルクの和を求め、ジンバル制御トルクとし、CMG2のジンバル制御を行う。
また、特異点の近傍領域においては、少なくとも特異方向を除いた部分的なフィードバック姿勢制御が可能となり、フィードバックの効果を最大限に利用できる。
これにより、CMG2の高出力トルクを利用して、特異点に影響されることなく、人工衛星の姿勢を高精度に変更させ、姿勢変更後は目標姿勢に速やかに整定させることができる。
また、上記ジンバル角およびジンバル角速度の補正値は、特異点近傍領域を通過する際にも連続な値となるため、連続的なフィードバック姿勢制御を実現する。
これにより、人工衛星の姿勢を高精度に変更させ、姿勢変更後は目標姿勢に速やかに整定させることができる。
次に、図4および図5を参照して、本発明の実施の形態2における人工衛星の姿勢制御装置の構成について述べる。実施の形態1では、人工衛星を姿勢変更させる場合の姿勢制御装置について述べたが、本実施の形態では人工衛星の姿勢をある定常姿勢で保つ場合について述べる。
CMGステアリング演算部7においては、実施の形態1と同様の手順でジンバル角およびジンバル角速度の補正値を求めて、上記のように零としたジンバル角計画値およびジンバル角速度計画値に重畳し、目標ジンバル角および目標ジンバル角速度とする。フィードフォワード補償演算部9では、姿勢推定部4による人工衛星1の姿勢角速度とCMG2のもつ角運動量によるジャイロ項を求めて、フィードフォワードジンバル制御トルクとする。
ジンバル制御演算部8では、このフィードフォワードジンバル制御トルクを用いて、目標ジンバル角と目標ジンバル角速度に、CMG2のジンバルが軌道追従するように制御系を構成する。
上記のように、人工衛星の姿勢をある定常姿勢で保つ場合には、人工衛星1の姿勢制御装置は図4に示すように図1と比べて簡略化できる。
実施の形態2において、ジンバル制御演算部8の制御帯域を十分高く確保できる場合には人工衛星の姿勢制御装置を以下のように構成することができる。
図6は本実施の形態における人工衛星の姿勢制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態2と同様に、目標軌道計画部5においてCMG2のジンバル角計画値、ジンバル角速度計画値およびジンバル角加速度計画値を零とすることができ、処理を簡略化することができる。また、ジンバル制御演算部8の制御帯域を十分高く確保できる場合、CMGステアリング演算部7からのフィードフォワードジンバル制御トルクを省略することができる。そのため、本実施の形態におけるCMGステアリング演算部7は図7に示すように構成することができ、図5よりもさらに簡略化できる。
上記のように、人工衛星1の姿勢をある定常姿勢に保つ場合に、ジンバル制御演算部8の制御帯域を十分高く確保できる場合には、人工衛星1の姿勢制御装置は図6に示すように、図4よりさらに簡略化できる。
人工衛星の姿勢変更の際に、人工衛星に付随する柔構造特定の振動モードの励起を抑制することができれば、より高精度な姿勢変更が可能となる。この振動モードの励起を抑制するためには、人工衛星の姿勢角の目標軌道の加加速度を抑制する必要がある。CMGを用いた場合にはこれはジンバル角の目標軌道の加速度、すなわちジンバル角加速度を抑制することに相当する。そのためには特異点近傍において、ジンバル角加速度が連続となる軌道を生成する必要がある。
本実施の形態においては、このジンバル角加速度が連続となる軌道を生成可能とする構成について述べる。
関数gとしてg2あるいはg3を用いた場合には、特異点近傍領域(α3=ε)および特異点(α3=0)においてJ+の第3項の係数g/max(α3g,ε)は連続かつ微分可能となる。このため、J+を乗じて得られるジンバル角速度の補正値も連続かつ微分可能であり、結果として得られるジンバル角加速度は連続となる。
なお、上記の例では比較のため、関数g1を挙げた。関数gとしてg1を用いた場合には上記g2、g3を用いた場合と異なり、特異点近傍領域および特異点において、J+の第3項の係数g/max(α3g,ε)は連続であるが、微分可能ではない。このため、J+を乗じて得られるジンバル角速度の補正値も微分可能とならず、結果として得られるジンバル角加速度は不連続となる。
以上より、特異点近傍領域あるいは特異点領域通過の際にも、人工衛星の姿勢をより高精度に変更させ、姿勢変更後は速やかに目標姿勢に整定させることができる。
また、上記ジンバル角およびジンバル角速度の補正値を用いることにより、特異点近傍領域通過あるいは特異点通過の際の人工衛星の加加速度を抑制することができ、人工衛星に付随する柔構造特性の振動モードの励起を抑制することができる。
これにより、特異点近傍領域あるいは特異点領域通過の際にも、人工衛星の姿勢をより高精度に変更させ、姿勢変更後は速やかに目標姿勢に整定させることができる。
Claims (3)
- 姿勢を制御するためのCMGを複数台有する人工衛星に搭載され、
上記人工衛星の姿勢角および姿勢角速度を推定する姿勢推定部と、
上記CMGのジンバル角およびジンバル角速度を推定するジンバル推定部と、
上記人工衛星の姿勢を変更するための目標姿勢角および目標姿勢角速度並びに上記CMGのジンバル角計画値、ジンバル角速度計画値およびジンバル角加速度計画値からなる目標軌道を計画する目標軌道計画部と、
上記目標軌道計画部からの上記目標姿勢角および上記目標姿勢角速度並びに上記姿勢推定部からの上記姿勢角および上記姿勢角速度の推定値との誤差を低減すべくフィードバック姿勢制御トルクを求める姿勢制御フィードバック演算部と、
上記姿勢制御フィードバック演算部からの上記フィードバック姿勢制御トルク並びに上記目標軌道計画部からの上記ジンバル角計画値、上記ジンバル角速度計画値および上記ジンバル角加速度計画値並びに上記ジンバル推定部からの上記ジンバル角の推定値、上記姿勢推定部からの上記姿勢角速度の推定値とから、上記CMGの目標ジンバル角および目標ジンバル角速度、並びに姿勢変更にともなうCMGの慣性力やジャイロ項を補償するフィードフォワードジンバル制御トルクを演算するCMGステアリング演算部と、
上記CMGステアリング演算部からの上記目標ジンバル角および上記目標ジンバル角速度に、上記ジンバル推定部からの上記ジンバル角の推定値および上記ジンバル角速度の推定値が追従するようにジンバル制御トルクを求めるジンバル制御演算部と
を備えた人工衛星の姿勢制御装置において、
上記CMGステアリング演算部は上記目標軌道計画部からの上記ジンバル角計画値および上記ジンバル角速度計画値に上記フィードバック姿勢制御トルクから求められるジンバル角およびジンバル角速度の補正値を重畳し、
上記補正値を、
上記CMGが特異方向の姿勢制御トルクを出力できなくなる特異点から離れた領域では、上記フィードバック姿勢制御トルクを実現する上記ジンバル角およびジンバル角速度の第1の補正値とし、
上記特異点の近傍領域では、上記フィードバック姿勢制御トルクの上記特異方向の成分を零とし、残りの成分を保存するトルクを実現する上記ジンバル角およびジンバル角速度の第2の補正値とした
ことを特徴とする人工衛星の姿勢制御装置。 - ジンバル角およびジンバル角速度の補正値は特異点近傍領域通過時において連続的に変化することを特徴とする請求項1記載の人工衛星の姿勢制御装置。
- ジンバル角およびジンバル角速度の補正値は特異点近傍領域通過時においてその高階微分値も含めて連続的に変化することを特徴とする請求項2記載の人工衛星の姿勢制御装置。
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