図1は本発明の実施形態におけるクラッチユニットXの全体構成を示す縦断面図、図2は図1に示すクラッチユニットXの右側面図、図3は図1に示すクラッチユニットXの左側面図、図4は図1のA−Aに沿う横断面図、図5は図1のB−B線に沿う横断面図である。また、図6〜図19はクラッチユニットXの主要な各構成部品を示す図である。図20〜図25はクラッチユニットXの主要な構成部品の組み付け状態を示す図である。
クラッチユニットXは、例えばレバー操作により座席シートの高さ調整を行う自動車用シートリフタ部〔図26および図27(a)(b)参照〕に組み込まれる。このクラッチユニットXは、図1〜図5に示すように、入力側に設けられたレバー側クラッチ部11と、出力側に設けられた逆入力遮断機能のブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構成となっている。
レバー側クラッチ部11は、図1、図2および図4に示すように、例えば操作レバー(図示せず)が連結された入力側部材としてのレバー側側板13およびレバー側外輪14と、そのレバー側外輪14からのトルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する連結部材としての内輪15と、その内輪15の外周面15aとレバー側外輪14の内周面14aとの間に形成された楔すきま20に配設された係合子としての例えば複数の円筒ころ16と、円筒ころ16を円周方向等間隔に保持する保持器17と、その保持器17を中立状態に復帰させるための第一の弾性部材である内側センタリングばね18と、レバー側外輪14を中立状態に復帰させるための第二の弾性部材である外側センタリングばね19とを有する。なお、後述の出力軸22の端部にウェーブワッシャ30を介してワッシャ31を圧入することにより、構成部品の抜け止めとしている(図1参照)。
ロック型と称されるタイプで逆入力遮断機能を有するブレーキ側クラッチ部12は、図1、図3および図5に示すようにレバー側クラッチ部11からのトルクが入力される連結部材としての内輪15と、出力側部材としての出力軸22と、回転が拘束された静止側部材としてのブレーキ側外輪23、カバー24およびブレーキ側側板25と、そのブレーキ側外輪23と出力軸22間の楔すきま26に配設され、両部材間での係合・離脱により内輪15からの入力トルクの伝達と出力軸22からの逆入力トルクの遮断を制御する複数対の係合子としての円筒ころ27と、各対の円筒ころ27間に介挿され、それら円筒ころ27同士に離反力を付勢する弾性部材としての例えば断面N字形の板ばね28とで主要部が構成されている。なお、出力軸22には突起22fが設けられ、この突起22fがクリアランスをもって挿入された孔15dが内輪15に設けられている(図1参照)。
次に、このクラッチユニットXにおけるレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ部12の主要な構成部品について詳述する。
図6(a)(b)はレバー側クラッチ部11のレバー側側板13を示す。このレバー側側板13は、その中央部位に出力軸22および内輪15が挿通される孔13aが形成され、外周縁部に複数(例えば5つ)の爪部13bが突設されている。これらの爪部13bは、軸方向に屈曲成形されてその先端を二股状とし、後述するレバー側外輪14の切欠き凹部14e〔図7(c)参照〕に挿入して二股状の先端を外側へ拡開させることにより、レバー側側板13をレバー側外輪14に加締め固定している。なお、図中の符号13cは、座席シートの高さ調整を操作するための操作レバー(図示せず)をレバー側側板13に取り付けるための複数(例えば4つ)の孔である。
図7(a)〜(c)はレバー側外輪14を示す。このレバー側外輪14は、一枚の板状素材をプレス加工によりカップ状に成形したもので、中央部14cに出力軸22および内輪15が挿通される孔14bが形成され、その中央部14cから軸方向に延びる筒状部14dの内周には、複数のカム面14aが円周方向等間隔に形成されている(図4参照)。
このレバー側外輪14の外周縁部には複数(例えば3つ)の爪部14f,14gが突設されて軸方向に屈曲成形されている。これら爪部14f,14gのうち、一つの爪部14fは、後述する外側センタリングばね19の二つの係止部19a〔図12(a)参照〕間に挿入配置されて係止され、残り二つの爪部14gは、後述するブレーキ側外輪23〔図16(b)参照〕の端面に接触した状態でレバー側外輪14の回転によりそのブレーキ側外輪23の端面上を摺動し、カバー24の外周に設けられた回転ストッパとしての二つの係止部24e,24f〔図17(b)参照〕と回転方向で当接可能とすることで、操作レバーの操作角度を規制するようにしている。
また、レバー側外輪14の外周には、レバー側側板13の爪部13b〔図6(a)(b)参照〕が挿入される複数(図では5つ)の切欠き凹部14eが形成されている。この切欠き凹部14eに挿入されたレバー側側板13の爪部13bを加締めることによりレバー側側板13とレバー側外輪14が連結されている。レバー側外輪14とそのレバー側外輪14に加締め固定されたレバー側側板13とでレバー側クラッチ部11の入力側部材を構成している。
図8(a)(b)は内輪15を示す。この内輪15は、出力軸22が挿通される有底の筒状部15bの外径にレバー側外輪14のカム面14aとの間に楔すきま20(図4参照)を形成する外周面15aを備えている。また、筒状部15bの端部に拡径部15cが一体的に形成され、その拡径部15cに、ブレーキ側クラッチ部12の保持器として機能させるため、円筒ころ27および板ばね28を収容するポケット15eが円周方向等間隔に形成されている。なお、図中の符号15dは、出力軸22の突起22f(図1参照)がクリアランスをもって挿入される孔である。
この筒状部15bの底部をプレスにより打ち抜き加工することでその底部に出力軸22(後述のレバー側軸部22c1)が回転可能に挿通される孔15fを形成している。この孔15fの内径面は、回転可能な出力軸22の案内面となっている。筒状部15bの内径寸法は出力軸22の外径寸法よりも大きく設定され、これにより、筒状部15bの内径と出力軸22の外径との間に隙間mが形成されている。なお、この内輪15は、前述したように筒状部15bの底部をプレスにより打ち抜き加工することでその底部に出力軸22が回転可能に挿通される孔15fを形成していることから、内輪15を製作する上でのコスト低減を図っている。
この内輪15は、図20(a)(b)に示すように、その拡径部15c側から筒状部15bの底部の孔15fに出力軸22を挿入することにより組み付けられる。この時、出力軸22が筒状部15bの孔15fに挿入し易いように、孔15fの内側周縁部に面取り15gが施されている。この面取り15gが出力軸22の挿入時の案内面となっている。また、筒状部15bの内径寸法を出力軸22の外径寸法よりも大きくすることにより筒状部15bの内径と出力軸22の外径との間に隙間mを形成することで、出力軸22の外径面に打ち傷などの突起があったとしても、筒状部15bへの出力軸22の挿入が可能であり、組み立て性の向上を図っている。
図9および図10(a)〜(e)は樹脂製の保持器17を示す。この保持器17は、円筒ころ16を収容する複数のポケット17aが円周方向等間隔に形成された円筒状部材である。この保持器17の一方の端部には、二つの切欠き凹部17bが形成され、それぞれの切欠き凹部17bの隣接する二つの端面17cに前述の内側センタリングばね18の係止部18aが係止される〔図10(b)参照〕。
図11(a)(b)は内側センタリングばね18を示す。この内側センタリングばね18は、径方向内側に屈曲させた一対の係止部18aを有する断面円形のC字状ばね部材からなり、外側センタリングばね19の内径側に位置する(図1参照)。この内側センタリングばね18は、保持器17とブレーキ側クラッチ部12の静止側部材であるカバー24との間に配設され〔図21(a)(b)参照〕、両係止部18aが保持器17の二つの端面17c〔図9および図10(b)参照〕に係止されると共にカバー24に設けられた爪部24b〔図17(a)(b)参照〕に係止されている。
この内側センタリングばね18では、レバー側外輪14からの入力トルクの作用時、一方の係止部18aが保持器17の一方の端面17cに、他方の係止部18aがカバー24の爪部24bにそれぞれ係合するので、レバー側外輪14の回転に伴って内側センタリングばね18が押し拡げられて弾性力が蓄積され、レバー側外輪14からの入力トルクの開放時、その弾性復元力により保持器17を中立状態に復帰させる。
図9および図10(b)(d)に示すように内側センタリングばね18の係止部18aが係止される保持器17の端面17cに、内側センタリングばね18の係止部18aを抱え込む引掛かり部17dを周方向に突設している。この内側センタリングばね18は、前述したように保持器17とカバー24との間に組み付けられるが、その組み付け公差上、保持器17がカバー24から離間するように軸方向移動することがある。その場合、内側センタリングばね18が保持器17とカバー24との間の隙間に潜り込もうとするが、引掛かり部17dが突設されていることから、内側センタリングばね18の係止部18aが保持器17の端面17cから軸方向に抜脱しようとしても、その係止部18aの抜脱を引掛かり部17dで阻止することができる。その結果、内側センタリングばね18の係止部18aを保持器17の端面17cに係止させた状態を維持することが容易となり、その内側センタリングばね18の機能を確実に発揮させることができる。
この内側センタリングばね18が断面円形状を有することから、その内側センタリングばね18の係止部18aと接触する保持器17の端面17cを断面R形状としている。このように、保持器17の端面17cを内側センタリングばね18の係止部18aの外径形状に合致した断面R形状とすることで、内側センタリングばね18の係止部18aが保持器17の端面17cに接触する当接状態を安定化させることができる。
また、保持器17の端面17cに突設された引掛かり部17dの突出寸法tは内側センタリングばね18の外径の1/6〜1/3とする。このように寸法を規定することにより、内側センタリングばね18の係止部18aが保持器17の端面17cから軸方向に抜脱することを確実に阻止できると共に、内側センタリングばね18を保持器17に組み付けるに際して引掛かり部17dを乗り越えさせて内側センタリングばね18の係止部18aを保持器17の端面17cに軸方向から挿入することが容易となる。
なお、引掛かり部17dの突出寸法tが内側センタリングばね18の外径の1/6よりも小さいと、内側センタリングばね18の係止部18aが保持器17の端面17cから軸方向に抜脱し易くなり、逆に、1/3よりも大きいと、内側センタリングばね18を保持器17に組み付けるに際して引掛かり部17dを乗り越えさせて内側センタリングばね18の係止部18aを保持器17の端面17cに軸方向から挿入することが困難となる。
なお、保持器17の端面17cに突設された引掛かり部17dの先端面17eは保持器17の軸方向と平行に形成されているが、例えば45°程度の角度で端面17cから前方へ延びるテーパ状の傾斜面とすることも可能である。また、図10(e)に示すように、引掛かり部17dの先端面17eの突端に面取り部17fを形成すれば、内側センタリングばね18を保持器17に組み付けるに際して引掛かり部17dを容易に乗り越えさせることができるので、内側センタリングばね18の係止部18aを保持器17の端面17cに軸方向から挿入することがより一層容易となる。
図12(a)(b)は外側センタリングばね19を示す。この外側センタリングばね19はC字状をなし、その両端を径方向外側に屈曲させた一対の係止部19aを有する帯板状ばね部材であり、内側センタリングばね18の外径側に位置する(図1参照)。また、外側センタリングばね19は、後述するようにカバー24の入力側端面に設けられた立ち上がり部24g(図1参照)により径方向位置が規制された状態で、カバー24とレバー側外輪14との間に形成された空間に配置されている。
外側センタリングばね19は、レバー側クラッチ部11のレバー側外輪14とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配設され、図23に示すように両係止部19aがレバー側外輪14に設けられた爪部14fに係止されると共にカバー24に設けられた爪部24dに係止されている〔図7(a)〜(c)および図17(a)(b)参照〕。この係止部19aは、内側センタリングばね18の係止部18aに対して円周方向の位相(180°)をずらせて配置されている。
この外側センタリングばね19では、レバー側外輪14から入力トルクが作用してレバー側外輪14が回転した場合、一方の係止部19aがレバー側外輪14の爪部14fに、他方の係止部19aがカバー24の爪部24dにそれぞれ係合するので、レバー側外輪14の回転に伴って外側センタリングばね19が押し拡げられて弾性力が蓄積され、レバー側外輪14からの入力トルクを開放すると、その弾性復元力によりレバー側外輪14を中立状態に復帰させる。
なお、外側センタリングばね19が円周方向に押し拡げられる際に、その係止部19aに径方向外側への力が作用し、外側センタリングばね19が径方向に位置ずれしようとする。しかしながら、この外側センタリングばね19はカバー24の立ち上がり部24gにより径方向に位置規制されているため〔図17(a)(b)および図23参照〕、その径方向への位置ずれを未然に防止でき、外側センタリングばね19を確実に安定して作動させることが可能となる。
図13および図14(a)〜(c)は出力軸22を示す。この出力軸22は、レバー側クラッチ部11の側に位置するレバー側軸部22c1と、ブレーキ側クラッチ部12の側に位置するブレーキ側軸部22c2と、それらレバー側軸部22c1とブレーキ側軸部22c2との間に配置され、径方向外側に延びて拡径した大径部22dとを一体的に形成した鍛造部品である。このブレーキ側軸部22c2の先端には、シートリフタ部41と連結するためのピニオンギヤ41gが一体的に形成されている。
大径部22dの外周面には複数(例えば6つ)の平坦なカム面22aが円周方向等間隔に形成され、ブレーキ側外輪23の内周面23bとの間で設けられた楔すきま26(図5参照)に二つの円筒ころ27および板ばね28がそれぞれ配されている。この大径部22dの一方の端面には、摩擦リング29が収容配置される環状凹部22bが形成されている。また、図中の符号22fは、大径部22dの他方の端面に形成された突起で、内輪15の孔15dにクリアランスをもって挿入される〔図1および図8(a)(b)参照〕。
レバー側軸部22c1、大径部22dおよびブレーキ側軸部22c2からなる出力軸22を鍛造により製作するに際しては、まず、図22(a)に示すようにレバー側軸部22c1を固定側の金型50aで成形すると共にブレーキ側軸部22c2を可動側の金型50bで成形することになる。この時、大径部22dとなる部分がフランジ状に形成され、その後、図22(b)に示すようにレバー側軸部22c1を支持する固定側の金型50cに対して、ブレーキ側軸部22c2を支持する可動側の金型50dで大径部22dを成形する。その場合、レバー側軸部22c1とブレーキ側軸部22c2とで同軸ずれが生じる可能性があるため、その鍛造後にブレーキ側軸部22c2を後加工として旋盤加工する。
この鍛造後の後加工としての旋盤加工をブレーキ側軸部22c2に施すことにより、レバー側軸部22c1とブレーキ側軸部22c2との同軸度を確保する。このようにしてレバー側軸部22c1とブレーキ側軸部22c2との同軸度を確保できれば、そのブレーキ側軸部22c2が挿通されるブレーキ側側板25の孔25b〔図18(a)(b)参照〕に対する位置決め精度が向上する。つまり、レバー側軸部22c1とブレーキ側軸部22c2との同軸度の確保により、レバー側軸部22c1の回転に対してブレーキ側軸部22c2が偏心回転することを回避することができる。その結果、ブレーキ側側板25の孔25bに挿通されたブレーキ側軸部22c2がブレーキ側側板25に接触することによる抵抗を小さくすることができ、レバー側クラッチ部11でのレバー操作トルクが増大することを抑制できる。
また、この出力軸22は、前述したように、外周面に複数(例えば6つ)の平坦なカム面22aと、レバー側軸部22c1側の端面に複数(例えば6つ)の突起22fとを有する。出力軸22を鍛造により製作するに際しては、図22(b)に示すようにこれら複数のカム面22aと突起22fとをレバー側軸部22c1を成形する固定側の金型50cでもって同時に成形する。つまり、この固定側の金型50cは、大径部22dのカム面22aを成形する周壁部50c1と、突起22fを成形するための凹部50c2とを有する。
このように複数のカム面22aと突起22fを一つの金型50cの周壁部50c1および凹部50c2で同時成形することにより、カム面22aと突起22fとの相対的な位置関係にずれが生じにくい。つまり、レバー側クラッチ部11からブレーキ側クラッチ部12へのトルク伝達時、カム面22a上で係合する円筒ころ27が楔すきま26から離脱することより出力軸22のロック状態が解除された上で、内輪15の孔15dと出力軸22の突起22fとのクリアランスが詰まって内輪15が出力軸22の突起22fと回転方向で当接するように、カム面22aと突起22fとの相対的な位置関係が設定されている。従って、カム面22aと突起22fとの相対的な位置関係にずれが生じにくくなれば、出力軸22のロック状態が解除した後に内輪15の孔15dと出力軸22の突起22fとを確実に当接させることができ、スムーズなトルク伝達が可能となる。
図15(a)〜(d)は断面N字形の板ばね28を示す。この板ばね28は、図15(a)〜(c)に示すように、一方の曲成部28aと他方の曲成部28bとで異なる大きさのR形状としている。図15(a)〜(c)では、例えば、一方の曲成部28aを小さなR形状、他方の曲成部28bを大きなR形状とした場合を例示している。
このように、一方の曲成部28aと他方の曲成部28bとで異なる大きさのR形状とすることにより、板ばね28の運搬時などの取り扱いで、図15(d)に示すように複数の板ばね28を上下に重ね合わせる場合、一方の曲成部28aと他方の曲成部28bとが上下方向で交互に位置するように複数の板ばね28を重ね合わせれば、その上下方向で接する一方の曲成部28aと他方の曲成部28bとのR形状の大きさが異なることから、それら曲成部28a,28b同士が嵌まり込むことなく、この板ばね28のブレーキ側クラッチ部12への組み付け時に分離させる作業が容易となる。
また、板ばね28は、一方の曲成部28aが位置する側の端部の板幅方向両端に面取り28cを形成している。板ばね28の運搬時、一方の曲成部28aが位置する側の端部を下にした状態〔図15(a)〜(c)の状態〕で板ばね28を搬送路上に載置し、図15(a)中の矢印の方向に移動させる場合、一方の曲成部28aが位置する側の端部が搬送路上で摺接した状態となるが、その一方の曲成部28aが位置する側の端部に面取り28cを形成していることにより、搬送路上で引っ掛かることなく、その搬送路上での板ばね28の移送をスムーズに行える。
なお、前述の場合、一方の曲成部28aが位置する側の端部の板幅方向両端に面取り28cを形成しているが、他方の曲成部28bが位置する側の端部の板幅方向両端にも面取りを形成するようにしてもよい。その場合、板ばね28の上下向きにかかわりなく、板ばね28をスムーズに移動させることができる。
図16(a)〜(c)および図17(a)〜(c)はブレーキ側外輪23およびそのカバー24を示す。ブレーキ側外輪23は、一枚の素材をプレスで打ち抜き加工した厚肉の板状部材であり、カバー24は、一枚の別素材をプレス加工により成形したものである。図18(a)(b)はブレーキ側側板25を示す。前述のブレーキ外輪23とカバー24は、このブレーキ側側板25により一体的に加締め固定される。なお、図中の符号25bは出力軸22が挿通された孔、符号25cは後述の摩擦リング29の突起29aが嵌合する孔である。
ブレーキ側外輪23の外周には複数(3個)の切欠き凹部23aが形成されると共に、これら切欠き凹部23aに対応させて、カバー24の外周にも複数(3個)の切欠き凹部24aが形成されている。これら切欠き凹部23a,24aにブレーキ側側板25の爪部25aが挿入される〔図21(a)(b)および図24(a)参照〕。これら切欠き凹部23a,24aに挿入されたブレーキ側側板25の爪部25aを加締めることによりブレーキ外輪23とカバー24を連結してブレーキ側側板25と共に一体化する〔図24(b)参照〕。このブレーキ側側板25の爪部25aの加締めは、図24(a)(b)に示すようにその爪部25aの二股状先端部を外側へ拡開させることにより行われる。
ブレーキ側外輪23の切欠き凹部23aおよびカバー24の切欠き凹部24aは、図16(a)〜(c)および図17(a)〜(c)に示すようにその対向する両側端面23a1,24a1が径方向に対して所定の角度θをなすようにテーパ状となっている。つまり、切欠き凹部23aの両側端面23a1と切欠き凹部24aの両側端面24a1とは、径方向外側に向けて近接する方向に傾斜するテーパ状をなし、両側端面23a1,24a1の幅寸法は、径方向外側に向けて漸減するようになっている。
このように、ブレーキ側外輪23の切欠き凹部23aの両側端面23a1およびカバー24の切欠き凹部24aの両側端面24a1をテーパ状としたことにより、それら切欠き凹部23a,24aに挿入されたブレーキ側側板25の爪部25aが径方向外側に移動する量を軽減させることができ、そのブレーキ側側板25の爪部25aが切欠き凹部23a,24aから抜け出ることを未然に防止している。
また、ブレーキ側外輪23の切欠き凹部23aおよびカバー24の切欠き凹部24aには、その底面に台形状の受け部23a2,24a2を設けている。このような台形状の受け部23a2,24a2を設けることにより、切欠き凹部23a,24aに挿入されたブレーキ側側板25の爪部25aが径方向内側に移動することを規制することができる。なお、ブレーキ側外輪23の切欠き凹部23aの底面でブレーキ側側板25側の端縁に面取り23a3を形成することが好ましい〔図16(a)参照〕。この面取り23a3は、ブレーキ側側板25の爪部25aの曲げ根元部分の逃げとなることから、ブレーキ側側板25の爪部25aを受け部23a2,24a2に確実に当接させることができて径方向内側への移動を確実に規制できる。
前述したように、カバー24と共に一体化されるブレーキ側外輪23およびブレーキ側側板25は、隙間なく密着した状態で組み立てる必要がある。一方、ブレーキ側外輪23は一枚の素材をプレスで打ち抜き加工した厚肉の板状部材であることから、その内外径エッジ部にバリが存在することがある。
そこで、図18(a)(b)に示すようにブレーキ側側板25のブレーキ側外輪23との対向面に、ブレーキ側外輪23に存在するバリを逃げるための環状凹溝25m,25nを形成している。径方向内側に位置する内側凹溝25mは、ブレーキ側外輪23の内径エッジ部に対応する位置に設けられ、径方向外側に位置する外側凹溝25nは、ブレーキ側外輪23の外径エッジ部に対応する位置に設けられている。
このように、ブレーキ側側板25のブレーキ側外輪23と対向する面に内側凹溝25mおよび外側凹溝25nを形成したことにより、ブレーキ側外輪23の内外径エッジ部にバリが存在しても、そのバリを内側凹溝25mおよび外側凹溝25nに収容することができて、バリの挟み込み等がなくなり、ブレーキ側外輪23とブレーキ側側板25とを隙間なく密着した状態で組み立てることができる〔図25(a)(b)参照〕。その結果、従来行っていたブレーキ側外輪23のバリ取り工程が不要となり、ブレーキ側外輪23を製作する上でのコスト低減化が図れると共にブレーキ側側板25とブレーキ側外輪23との組み付け性も向上する。
ブレーキ側外輪23の内周面23bと出力軸22のカム面22aとの間に楔すきま26が形成されている(図5参照)。カバー24には軸方向に突出する爪部24bが形成され、その爪部24bをレバー側クラッチ部11の内側センタリングばね18の二つの係止部18a間に配置している〔図11(b)および図23参照〕。
このカバー24の爪部24bは、その爪部形成位置の外径側を面起こしすることにより形成されている。カバー24の外周には軸方向に突出する爪部24dが形成されている。この爪部24dは、レバー側クラッチ部11の外側センタリングばね19の二つの係止部19a間に配置される〔図12(a)および図23参照〕。このカバー24の外周内側には、打ち抜き孔24cと同心状に立ち上がり部24gが形成されており、この立ち上がり部24gにより外側センタリングばね19の径方向位置を規制している。
カバー24の外周には二組の係止部24e,24fが段付き加工により形成されている〔図21(a)(b)参照〕。これら係止部24e,24fは、カバー24がブレーキ側外輪23の端面に接触した状態でレバー外輪14の回転によりそのブレーキ側外輪23の端面上を摺動する爪部14gと回転方向で当接可能とすることで、操作レバーの操作角度を規制する回転ストッパとして機能する。つまり、操作レバーの操作によりレバー外輪14が回転すれば、その爪部14gがカバー24の係止部24eと24fとの間でカバー24の外周に沿って移動することになる。
ブレーキ側側板25の外周には、シートリフタ部へのクラッチ取付部として、一つのフランジ部25eと二つのフランジ部25fが設けられている(図2〜図4参照)。これら三つのフランジ部25e,25fの先端部には、シートリフタ部への取付用孔25g,25hが穿設されてその取付孔25g,25hを囲撓するように円筒部25i,25jが軸方向に突設されている。
図19(a)〜(c)は樹脂製の摩擦リング29を示す。摩擦リング29の端面には、その円周方向に沿って等間隔に円形の突起29aが複数個設けられ、この突起29aをブレーキ側側板25の孔25cに圧入して嵌合させることによりブレーキ側側板25に固着される(図1および図3参照)。
この突起29aの圧入時、樹脂材による突起29aの弾性変形でもって孔25cとの嵌合状態が得られる。このように突起29aと孔25cの圧入嵌合構造を採用することにより、搬送時などの取り扱いで摩擦リング29がブレーキ側側板25から脱落することを未然に防止でき、組立時のハンドリング性を向上させることができる。
この摩擦リング29は出力軸22の大径部22dに形成された環状凹部22bの内周面22eに締め代をもって圧入される〔図14(a)(b)参照〕。摩擦リング29の外周面29cと出力軸22の環状凹部22bの内周面22eとの間に生じる摩擦力によって、出力軸22に回転抵抗が付与される。この回転抵抗の付与により、静止側部材であるブレーキ側側板25と出力軸22との間で生じる急激な滑りによるスティックスリップ音を未然に防止するようにしている。この回転抵抗の大きさは、出力軸22に入力される逆入力トルクの大きさを勘案して適宜設定すればよい。
この摩擦リング29の外周面29cには、複数の凹溝状のスリット29bが円周方向等間隔に形成されている(図5参照)。このようにスリット29bを設けることにより、摩擦リング29に弾性を持たせることができることから、出力軸22の内径公差および摩擦リング29の外径公差に対する摺動トルクの変化率が大きくなることはない。
つまり、摩擦リング29の外周面29cと出力軸22の環状凹部22bの内周面22eとの間に生じる摩擦力によって付与される回転抵抗の設定範囲を小さくすることができて回転抵抗の大きさを適正に設定することが容易となる。また、そのスリット29bがグリース溜まりとなるので摩擦リング29の外周面29cが出力軸22の環状凹部22bの内周面22eとの摺動で摩耗することを抑制できる。
以上の構成からなるクラッチユニットXにおけるレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ12の動作を説明する。
レバー側クラッチ部11では、レバー側外輪14に入力トルクが作用すると、円筒ころ16がそのレバー外輪14と内輪15間の楔すきま20に係合し、その円筒ころ16を介して内輪15にトルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、レバー側外輪14および保持器17の回転に伴って両センタリングばね18,19に弾性力が蓄積される。その入力トルクがなくなると、両センタリングばね18,19の弾性力によりレバー側外輪14および保持器17が中立状態に復帰する一方で、内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、このレバー側外輪14の回転繰り返し、つまり、操作レバーのポンピング操作により、内輪15は寸動回転する。
ブレーキ側クラッチ部12では、出力軸22に逆入力トルクが入力されると、円筒ころ27がその出力軸22とブレーキ側外輪23間の楔すきま26と係合して出力軸22がブレーキ側外輪23に対してロックされる。従って、出力軸22からの逆入力トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされてレバー側クラッチ部11への逆入力トルクの還流が遮断される。
一方、レバー側外輪14からの入力トルクがレバー側クラッチ部11を介して内輪15に入力され、内輪15が円筒ころ27と当接して板ばね28の弾性力に抗して押圧することにより、その円筒ころ27が楔すきま26から離脱して出力軸22のロック状態が解除され、出力軸22は回転可能となる。内輪15がさらに回転すると、内輪15の孔15dと出力軸22の突起22fとのクリアランスが詰まって内輪15が出力軸22の突起22fと回転方向で当接することにより、内輪15からの入力トルクが突起22fを介して出力軸22に伝達され、出力軸22が回転する。
以上で詳述した構造を具備するクラッチユニットXは、例えば自動車用シートリフタ部に組み込まれて使用される。図26は自動車の乗員室に装備される座席シート40を示す。座席シート40は着座シート40aと背もたれシート40bとで構成され、着座シート40aの高さHを調整するシートリフタ部41などを備えている。着座シート40aの高さHの調整はシートリフタ部41の操作レバー41aによって行う。
図27(a)はシートリフタ部41の一構造例を概念的に示す。シートスライドアジャスタ41bのスライド可動部材41b1にリンク部材41c,41dの一端がそれぞれ回動自在に枢着される。リンク部材41c,41dの他端はそれぞれ着座シート40aに回動自在に枢着される。リンク部材41cの他端はリンク部材41eを介してセクターギヤ41fに回動自在に枢着される。セクターギヤ41fは着座シート40aに回動自在に枢着され、支点41f1回りに揺動可能である。リンク部材41dの他端は着座シート40aに回動自在に枢着される。
前述した実施形態のクラッチユニットXは、着座シート40aの適宜の部位に固定される。このクラッチユニットXの着座シート40aへの固定は、ブレーキ側側板25の三つのフランジ部25e,25fを、その円筒部25i,25jの先端部分を外側へ拡径させるように塑性変形させることで着座シート40aのシートフレーム40c(図28参照)に加締め固定する。
一方、レバー側クラッチ部11のレバー側側板13に例えば樹脂製の操作レバー41aが結合され、ブレーキ側クラッチ部12の出力軸22に回転部材であるセクターギヤ41fと噛合するピニオンギヤ41gが設けられている。このピニオンギヤ41gは、図1および図14(a)(b)に示すように出力軸22のブレーキ側軸部22c2の先端に一体的に形成されている。
前述したシートフレーム40cには、図28に示すように、出力軸22の先端軸部22c3が挿通される孔40c1が形成され、その孔40c1の周縁部に弾性部40c2が形成されている。この弾性部40c2は、シートフレーム40cの孔40c1の周縁部を軸方向外側へ向けて屈曲させ、さらに、軸方向内側へ向けて折り返すように成形することによりU字状をなす。つまり、弾性部40c2は、外側筒状部40c21とそれに連設された内側筒状部40c22とで構成される。
このような弾性部40c2を設けたことにより、出力軸22がレバー側軸部22c1を中心に回転した場合、ブレーキ側軸部22c2が偏心回転したとしても、弾性部40c2の弾性変形によりブレーキ側軸部22c2の偏心量を吸収し、シートフレーム40cの弾性部40c2と出力軸22の先端軸部22c3との接触による抵抗を小さくすることができ、レバー側クラッチ部11でのレバー操作トルクが増大することを抑制できる。
なお、前述した弾性部40c2は、シートフレーム40cの他の部分よりも薄肉にすることが有効である。この弾性部40c2を薄肉とすれば、その弾性変形が容易となり、シートフレーム40cの弾性部40c2と出力軸22の先端軸部22c3との接触による抵抗をより一層小さくすることができる。また、弾性部40c2における外側筒状部40c21と内側筒状部40c22との間のすきま量sは、出力軸22の先端軸部22c3の偏心予想量と同等に設定すればよい。
前述のシートフレーム40cでは、弾性部40c2を一体的に形成した場合について説明したが、図29に示すように、弾性部40c3をシートフレーム40cとは別体で設けることも可能である。この弾性部40c3は、外側筒状部40c31とその一端を内側に折り返すように連設された内側筒状部40c32と、外側筒状部40c31の他端を外側に屈曲させるように連設されたフランジ部40c33とからなり、可撓性を有する鉄系部材で構成される。
弾性部40c3は、外側筒状部40c31をシートフレーム40cの孔40c4に圧入することにより装着するか、あるいは、フランジ部40c33をシートフレーム40cの孔40c4の周縁部に溶接することにより装着することが可能である。なお、この弾性部40c3の作用効果については、図28の弾性部40c2と同等であるため、重複説明は省略する。
図27(b)において、操作レバー41aを反時計方向(上側)に揺動操作すると、その方向の入力トルクがクラッチユニットXを介してピニオンギヤ41gに伝達され、ピニオンギヤ41gが反時計方向に回動する。そして、ピニオンギヤ41gと噛合するセクターギヤ41fが時計方向に揺動して、リンク部材41cの他端をリンク部材41eを介して引っ張る。その結果、リンク部材41cとリンク部材41dが共に起立して、着座シート40aの座面が高くなる。
このようにして、着座シート40aの高さHを調整した後、操作レバー41aを開放すると、操作レバー41aが二つのセンタリングばね18,19の弾性力によって時計方向に回動して元の位置(中立状態)に戻る。なお、操作レバー41aを時計方向(下側)に揺動操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート40aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー41aを開放すると、操作レバー41aが反時計方向に回動して元の位置(中立状態)に戻る。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。