JP5111747B2 - 拮抗微生物コーティング種子、その製造方法、及び作物における病害の防除方法 - Google Patents

拮抗微生物コーティング種子、その製造方法、及び作物における病害の防除方法 Download PDF

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本発明は、拮抗微生物コーティング種子、その製造方法、及び作物における病害の防除方法に関する。
近代農業において、農薬・肥料の使用が作物の生産性を飛躍的に高めたことは明らかである。また、農薬による防除体制が整い、より生産効率の高い単一作物の連作が行われるようになってきた。ところが、化学肥料・農薬を使用した集約型農業生産において、連作障害、特に土壌病害の発生が重要な問題となってきている。土壌病害の被害額は日本国内だけで1兆円にも達するという試算がなされており、これに対する農薬の使用量も年々増加している。しかしながら、化学肥料・化学農薬の人間の健康や環境への影響が問題となってきており、肥料・農薬の使用量を削減する為の努力が進められてきている。その中の一つに、拮抗微生物を用いた生物防除技術の開発がある(非特許文献1、2)。これまでにバチルス(Bacillus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、非病原性エルビニア(Erwinia)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌、非病原性フザリウム(Fusarium)属糸状菌、トリコデルマ(Trichoderma)属糸状菌、グリオクラディウム(Gliocladium)属糸状菌、ペニシリウム(Penicillium) 属糸状菌、タラロマイセス(Talaromyces)属糸状菌、ピシウム(Pythium)属糸状菌、などが単離され、防除効果が確認されている。しかしながら、これらの生物防除は、広く普及する技術にまではなっていない。その原因の一つとして、微生物資材の製造コストが高く、広い圃場に施用する事は経済的でないし、その割には効果が不安定であることがある。その為、より少量の拮抗微生物を用いて、より安定した効果を出す為に、セル育苗苗の段階での施用も検討されている(特許文献1、2)。さらに、最も少量で簡単な処理方法として、種子にコーティングする方法が考えられている(特許文献3、4)。しかしながら、拮抗微生物を種子に処理した場合、種子の乾燥、貯蔵条件が拮抗微生物の生存条件と合致しない事が多く、拮抗微生物の生存率は低下しやすい。その為、種子より有効微生物を単離して種子に再導入する方法(特許文献5、6)であれば、種子の保存、貯蔵条件に適応して長期保存が可能としており、特許の実施例とおりの再現性が得られれば、実用化できると考えられるが、いまだに実用化には至っていない。また、ポット試験の結果が、多様な現場土壌においては再現が難しいことも一因と考えられる。
特開平9-308372号公報 特開平11-335217号公報 特開平10-203917号公報 特開平11-4606号公報 特開2001-346407号公報 特開2002-003322号公報 特開2003-34607号公報 微生物の資材化:研究の最前線、(2000)、編集 鈴井孝仁他、ソフトサイエンス社 Annual Review of Phytopathology, 31(1993), 53-80
本発明は、病害防除効果が高く保存安定性の高い拮抗微生物コーティング種子を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、種子への拮抗微生物の安定導入方法と保存安定性およびその防除効果について検討を行った。
その結果、本発明者らは、驚くべきことに、種子に拮抗微生物を減圧接種すること、拮抗微生物を接種した種子を低温低湿条件下で乾燥させること、またはその両方を組み合わせることにより、拮抗微生物がコーティングされた種子の状態での拮抗微生物の生存率を飛躍的に高めることが可能となることを見出した。また、こうして製造された拮抗微生物コーティング種子は、播種、発芽に対しても問題がなく、作物に対する土壌病害に対して高い防除価を示す事を見出した。上記の本発明者らにより初めて確認された現象は、例えば以下のように説明することができる。減圧接種法により拮抗微生物は種子の表皮の内側まで導入させることができる。種子の表皮の内側は、乾燥した種子表面とは異なり、種子が生存できるだけの水分が保持されていることから、種子の表皮の内側まで導入させた拮抗微生物はその水分を利用して生存することができ、拮抗微生物の生存率が飛躍的に高まるものと推定される。また、拮抗微生物接種後に種子を低温低湿条件下で乾燥処理することにより、拮抗微生物が温度によりダメージを受けることが少なくなるため、拮抗微生物の生存率が飛躍的に高まる。
本発明者らは更にまた、こうして製造された拮抗微生物コーティング種子は、低温低湿条件下で貯蔵することにより、長期間安定保存できることを見出した。
即ち本発明は、より具体的には、下記の発明を包含する。
(1)種子に拮抗微生物を減圧接種することを特徴とする拮抗微生物コーティング種子の製造方法。
(2)種子に拮抗微生物を減圧接種した後に、低温低湿条件下で乾燥することを更なる特徴とする(1)記載の方法。
(3)種子に拮抗微生物を接種し、接種後に前記種子を低温低湿条件下で乾燥することを特徴とする拮抗微生物コーティング種子の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法により製造された拮抗微生物コーティング種子。
(5)作物の種子に拮抗微生物を減圧接種し、前記種子を播種することを特徴とする、作物における病害の防除方法。
(6)作物の種子に拮抗微生物を減圧接種した後に、低温低湿条件下で乾燥することを更なる特徴とする(5)記載の方法。
(7)作物の種子に拮抗微生物を接種し、接種後に前記種子を低温低湿条件下で乾燥し、前記種子を播種することを特徴とする、作物における病害の防除方法。
(8)拮抗微生物を接種した作物の種子を、乾燥終了後から播種までの間に、低温低湿条件下で貯蔵することを更なる特徴とする(5)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
なお(8)において、「拮抗微生物を接種した作物の種子」とは、(8)が(5)又は(6)に従属する場合には、「拮抗微生物を減圧接種した作物の種子」を意味する。
本発明は、病害防除効果が高く保存安定性の高い拮抗微生物コーティング種子、その製造方法、及び前記拮抗微生物コーティング種子を用いた、作物における病害の防除方法を提供する。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において「拮抗微生物コーティング種子」とは、拮抗微生物を種子にコーティングしたものを言う。すなわち、拮抗微生物が種子にコーティングされている限り、裸種子のままであっても良いし、フィルムコート種子、ペレット種子、ゲル被覆種子、シーダーテープ、シードグラフ、プライミング処理種子など様々な加工処理が施された種子であっても良い。コーティングされた微生物の量は特に限定されないが、101〜1010 cells/粒の範囲内で含まれていれば良い。
本発明に用いる種子としては、特に限定するものではないが、例えばタマネギ、ネギなどのユリ科の種子、ホウレンソウ、テンサイなどのアカザ科の種子、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、ダイコンなどのアブラナ科の種子、ソラマメ、エンドウなどのマメ科の種子、ニンジン、セルリー、ミツバなどのセリ科の種子、レタス、シュンギク、ゴボウなどのキク科の種子、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科の種子、メロン、キュウリ、スイカ、カボチャなどのウリ科の種子、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ等のイネ科の種子等の作物種子;パンジー、ビオラ、ペチュニア、トルコギキョウ、ストック、アスター、シクラメン、プリムラ、キンギョソウ、ジニア、マリーゴールド、アサガオ、ヒマワリ、コスモス、ラナンキュラス、ラベンダー、ルピナス、ミムラス、ポピー、ベゴニア、ネメシア、ビンカ、トレニア、デルフィニューム、ダイアンサス、ゼラニューム、センニチコウ、スイートピー、サルビア、ガーベラ、ガザニア、カレンジュラ、グロキシニア、ケイトウ、インパチェンス、アネモネ、アゲラタム等の花卉種子;その他には飼料作物種子、牧草、芝などの種子が挙げられる。
本発明に用いる拮抗微生物としては、植物病原微生物に対して拮抗性を示すものであれば特に限定されないが、例えば、グラム陽性細菌類として、バチルス(Bacillus)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌、グラム陰性細菌類として、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、非病原性エルビニア(Erwinia)属細菌、糸状菌類として、非病原性フザリウム(Fusarium)属糸状菌、トリコデルマ(Trichoderma)属糸状菌、グリオクラディウム(Gliocladium)属糸状菌、ペニシリウム(Penicillium) 属糸状菌、タラロマイセス(Talaromyces)属糸状菌、ピシウム(Pythium)属糸状菌、などが挙げられる。
具体的な拮抗微生物の例としては、下記の例などが知られている。バチルス セレウス KI2N株 (FERM P-17147、特許第3140430号公報)は、複数の真菌に対して生育抑制効果を示し、キュウリの苗立ち枯病を始めとするリゾクトニア ソラニ(Rhizoctonia solani)などに対して病害抑制効果を持つ。バチルス ズブチリス NCIB12376株 (FERM P-14647、特許3554592号公報)、NCIB12616株 (FERM P-14646、同公報)は、野菜、花卉の灰色かび病を始め多くの植物病害に対して防除効果を示す。シュードモナス属細菌による病害の防除(非特許文献1)としては、シュードモナス・プチダFP-16株(トマトの根面から分離された菌株で、青枯菌に抗菌活性物質を産生し、圃場においても高い青枯病発病抑制効果を有する菌株)、シュードモナス・フルオレッセンス FPH9601株(FERM BP-5479)、およびシュードモナス・フルオレッセンスFPT-9601株(FERM BP-5478)によるトマト青枯病の防除、シュードモナス sp. HAI00377株(ハクサイの根内からP-1培地(蛍光性pseudomonads選択培地)を用いて平板希釈法にて分離、高いハクサイ根こぶ病発病抑制効果を示す菌株)(非特許文献1)によるアブラナ科根こぶ病の防除、シュードモナスsp.CAB-02株(FERM P-15237, 特許第2884487号公報)による、イネの細菌病防除(モミゲンキ水和剤)などが知られている。ストレプトミセス sp. R-5株(FERM BP-7179, 特許第3629212号)は、ツツジ科の植物病害防除に効果がある。また、トリコデルマ ハルジアナムSK5-5株 (微工研菌寄第13327号,特許第3046167号)は、植物病害防除菌と報告されている。トリコデルマ ハルジアナムkubota株は、商品名ハルジンLとして灰色かび病の防除効果があることが知られている(月刊 現代農業2003年9月号、P155-159、農文協)。トリコデルマ・アトロビリデSKT-1株 (FERM P-16510,特開平11-253151号公報)、SKT-2株 (FERM P-16511,同公報)、およびSKT-3株(FERM P-17021,同公報)は、イネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病、イネ褐条病に対して防除効果を示す。非病原性エルビニア・カロトボーラCGE234M403株 (FERM BP-4328、特許第3040322号)は、軟腐病、黒腐病、イネ苗立枯細菌病の防除に有効である。
これらの拮抗微生物は、種子、植物体、土壌などからスクリーニングし、単離して用いることも出来る。更にまた、防除の対象とする植物病原微生物と同一培地上にて対峙もしくは交差するように塗抹し、病原微生物の生育適温下において数日培養し、双方の生育を観察して病原微生物の生育が候補菌によって明らかに抑制されているものを、拮抗性を持つ微生物として選択して本発明に使用することができる(植物病原性微生物研究法、(1993)、脇本哲監修、ソフトサイエンス社)。本発明の拮抗微生物の培養条件に関しては、実験書(新編 土壌微生物実験法 (1997) 土壌微生物研究会編、養賢堂)等に記載されている条件を用いることができる。培地は、例えば肉エキス培地、LB培地、ポテトデキストロース(PD)培地、1/10 PD培地、キングB寒天培地などを用い、培養方法は、例えば、シャーレ、試験管、フラスコ、ジャーファメンターなどの容器内で、静置、振とう、攪拌などの条件で行えばよく、特殊な培養条件で行う必要はない。
本発明において「減圧接種」とは、吸引機と連結した密閉容器を作成し、拮抗微生物を混和・接触させた種子を入れ、容器内部の空気を吸引することにより陰圧条件を作り出し種子表面の空気を除去した後、常圧(約760 mmHg)に戻すことで、拮抗微生物を種子表皮の内側に導入させる方法を言う。吸引機としては、一般に広く使用されているものでよく、例えばアスピレーター(aspirator)、サッカー(sucker)、油回転真空ポンプ、ドライ真空ポンプなどを使用することができる。陰圧にした時の到達圧力は種子と拮抗微生物が死滅したり、細胞に実質的な障害を受けない範囲であれば良く、例えば1 mmHg〜755 mmHg、好ましくは、100 mmHg〜700 mmHg(常圧、大気圧を0 mmHgとした時の真空度で表記した)の範囲である。常圧から最高陰圧に達するまでの時間は特に限定されないが例えば1 秒〜120 分の範囲で行えば良い。また、最高陰圧条件下に置く時間は、1分〜100分の範囲であれば良い。その後、ゆっくり常圧に戻すが、陰圧条件から常圧に戻す時間は、1 秒〜120 分の範囲で行えばよい。最高陰圧条件下に120分以上の長時間置くことは、発芽率が著しく低下する為に好ましくない場合がある。密閉容器は、吸引ビンや耐圧ビンにゴム栓を付けたり、シールテープで塞ぐことにより密閉系としたものなどを作成して使用することができ、密閉系が保てる様になっていれば形状・材質などに特別な制限はない。容器のサイズは、種子と拮抗微生物の量に応じて適宜選択することができ、例えば、1 ml〜1000 m3の範囲から選択できる。吸引機と密閉容器をつなぐ連結部分は、密閉系が保て、かつ陰圧条件に耐えうる耐圧のパイプであればよく、種子や拮抗微生物に害を与えない材質のものであれば特に制限はない。装置を組み立てるのが難しければ、既存の減圧乾燥装置、低温減圧乾燥装置、ロータリーエバポレーター、凍結乾燥機などを利用する事も可能である。
減圧接種のために種子と拮抗微生物を混和・接触させる方法としては、一般に行われる方法であれば良く、特別な制限はない。例えば、拮抗微生物を含む懸濁液中に種子を浸す、拮抗微生物を含む懸濁液を種子に噴霧する、拮抗微生物を含む粉剤中に種子を投入して粉衣するなどである。攪拌や混合を行うことは種子と拮抗微生物との接触効率を上げる上で好ましいが、過度に行うと種子を傷つける場合もあるので注意が必要である。
種子に接種する拮抗微生物の量は特に限定されないが例えば101〜1010 cells/粒の範囲であれば良い。
本発明の拮抗微生物コーティング種子の製造方法は、上記の方法で種子に拮抗微生物を減圧接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行うものであることがより好ましい。或いはまた、本発明の拮抗微生物コーティング種子の製造方法は、上記の減圧接種以外の方法で種子に拮抗微生物を接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行う方法であっても良い。ここで、「種子に拮抗微生物を(減圧)接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥する」とは、低温低湿条件下での乾燥工程が、拮抗微生物の種子への接種よりも時間的に後に行われる限りいずれの形態をも包含する。すなわち、本発明においては、拮抗微生物の種子への接種の後に続けて、種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行っても良いし、拮抗微生物の種子への接種の後に追加的な処理(例えばペレット造粒、フィルムコート処理)を施した後に、種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行っても良い。減圧接種以外の方法で種子に拮抗微生物を接種する方法としては、拮抗微生物を含む懸濁液中に種子を浸す、拮抗微生物を含む懸濁液を種子に噴霧する、拮抗微生物を含む粉剤中に種子を投入して粉衣するなどの方法が挙げられるがこれらには限定されない。
本発明の拮抗微生物コーティング種子処理における「低温低湿条件」とは、常温(約25℃)以下の温度(低温)で、かつ室内の湿度以下の湿度(低湿)である条件のことを言う。「低温」とはより具体的には、−80℃以上常温以下の範囲の温度であり、その中でも特に−10℃以上20℃以下の範囲の温度が望ましい。「低湿」とは、室内の湿度以下であることを言い、室内の湿度によって変わるが、通常0%以上80%以下の範囲の湿度である。その中でも特に0%以上40%以下の範囲が望ましい。低温にする方法としては、冷却装置を有する部屋または冷却剤を入れた容器、クーラーボックス、冷蔵庫、冷凍庫などを用いる方法が挙げられる。湿度を下げる方法としては、生石灰などの化学的乾燥剤や、シリカゲル、ゼオライト、粘土鉱物などの物理的乾燥剤、除湿機などを用いる方法が挙げられる。
乾燥後の種子の含水率は、0.01%以上20%以下の範囲であることが望ましい。より好ましい含水率は0.1%以上10%以下である。それよりも含水率が高い場合は、貯蔵中に種子の発芽率が低下する、あるいは貯蔵中に種子の発芽が起こる、カビなどの雑菌が種子に付着し増殖する、などの問題が発生する。逆に、含水率が低い場合は、微生物の生存率が低下してしまう。また、種子の発芽率低下が起こる場合もある。
本発明の方法に従って製造した拮抗微生物コーティング種子の貯蔵は、拮抗微生物の生菌数、種子の発芽などに出来るだけ影響の少ない条件で行うことが望ましい。このような条件としては低温低湿条件が挙げられる。貯蔵条件に関して「低温」とは、−80℃以上30℃以下であることが好ましく、0℃以上20℃以下であることがより好ましい。また、貯蔵条件に関して「低湿」とは、0%以上80%以下であることが好ましく、0%以上50%以下であることがより好ましい。
本発明の方法で製造した拮抗微生物コーティング種子を播種することにより、作物における病害、特に土壌病害を軽減、抑制することができる。すなわち本発明は、拮抗微生物コーティング種子を用いた、作物における病害の防除方法に関する。例えば、拮抗微生物コーティング種子を播種、育苗した後、土壌病原微生物に汚染された土壌を含む圃場またはポットに苗を定植して栽培した場合に、土壌病害の発生が軽減・抑制される。
本発明の病害の防除方法は、他の病害防除方法と併用することが可能である。他の病害防除方法としては、例えば、土壌病原微生物の土壌菌密度を下げる為の土壌消毒処理、薬剤処理、土壌改良剤処理、高畝処理などが挙げられる。また、拮抗微生物でコーティングする種子として、病害抵抗性の品種あるいは病害耐病性の品種の種子を用いることは防除効果をさらに高める上で好ましい。
以下に本発明の実施例を掲げて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。例えば、下記実施例で用いられる種子以外の野菜類、花卉類、穀物類、飼料作物、牧草、芝の種子に対して本発明を適用することも可能である。
参考例1:キャベツフィルムコート種子へのグラム陽性細菌(バチルス菌)の接種および乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
拮抗微生物として、グラム陽性細菌(バチルス セレウス)(Bacillus cereus) KI2N株を用いた。バチルス セレウス KI2N株は株式会社バイテクより分譲していただいた。
バチルス セレウス KI2N株をPD液体培地に植菌し、35℃で2日間振とう培養後、遠心機で集菌し、これを接種源とした。
集菌したバチルス セレウスKI2N株に、ポリビニルアルコールで作製したバインダー溶液5mlを加え、回転子(攪拌子)を用いてKI2N株を十分に分散させ、キャベツ種子(品種:金系201号、(株)サカタのタネ)100gに少量ずつ加えながら、十分に攪拌した。この種子を、30℃の温風循環乾燥機に入れ、24時間乾燥させた。
参考例1と同ロットの種子を用い同様の方法で、微生物(バチルス セレウスKI2N株)の入っていないバインダー溶液で種子をフィルムコート処理し、乾燥処理を行ったものを対照とした。
種子中におけるバチルス セレウスKI2N株の生存率は、下記の方法で求めた。種子100粒を10 mlの滅菌水に懸濁し、さらに10倍・100倍・1000倍・10000倍希釈液を作成した。これらの菌懸濁液を希釈平板法によりPDA寒天培地上に塗布した。35℃で3日間培養し、コロニーの出現により判定した。また、種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、フィルムコート種子150粒(50粒×3反復)を置床し、20℃暗黒条件16時間・30℃明条件8時間下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
参考例1の結果を表1に示す。KI2N株の接種による種子発芽率の低下は見られなかった。KI2N株を接種した乾燥前の種子では、2.5×104cfu/粒の菌密度であったが、30℃で24時間乾燥させた後の種子の菌密度は、1.5×102cfu/粒であった。本参考例により、微生物を接種したキャベツフィルムコート種子を30℃で長時間乾燥すると、微生物の菌密度が約100分の1になり、菌密度が激減することが判明した。このことから、種子に微生物を高濃度で定着させることは、きわめて難しい事が明らかになった。
Figure 0005111747
実施例1:ニンジン種子へのグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)の減圧接種および低温低湿乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
拮抗微生物として、グラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を用いた。
シュードモナスHAI00377株をキングB寒天培地を入れた9cmシャーレに植菌し、25℃、2日間静置培養した。コーンラージ棒を用いて集菌し、1/5000 Tween80を添加した蒸留水に懸濁した。希釈平板法で生菌数を測定したところ、約1 x 1010 cfu/mlであった。ニンジン種子(品種:ベータ312、(株)サカタのタネ)200gをメッシュで包みイチゴパックに収め、浮かばないように重りを載せ、種子が沈むように菌懸濁液300mlを注いだ。減圧接種法は、コンパクトエアーポンプNUP-2(アズワン製)を用いて、陰圧条件とした。ポンプ排気能力は、12 l/min、到達圧力は、300 mmHg、最高陰圧条件に達するまでの時間は、約2分であった。5分間、最高陰圧条件に置いた後、ゆっくりコックを開いて常圧に戻した。常圧に戻るまでの時間は、約20秒であった。余剰水分を除去する為に恒温乾燥機(MOV-212F)(SANYO製)にて、30℃、1時間通風乾燥を行った。
こうして得られた拮抗微生物コーティング種子を更にペレット造粒した。以下にペレット造粒工程について説明する。上記で得られたコーティング済みのニンジン種子全量(約200g)を回転した造粒装置Pelletizing unit(SEED PROCESSING社製)に投入し、種子を攪拌しながら造粒用バインダー3.0%ポリビニルアルコールを種子にスプレーし湿らせた。種子が十分に湿った後、造粒用粉体(珪藻土・炭酸カルシウムなどの混合物)を所定量加えた。さらに造粒用バインダーと造粒用粉体を交互に添加しながらペレットを造粒した。造粒後、篩を使用して、得られたペレットのうち直径3.0〜3.5mmのもののみを選別した。低温低湿乾燥は、15℃の低温室に、デシケーターを入れ、その中に乾燥剤としてシリカゲルを入れることにより行った。ビーカーに上記ペレット種子を入れて、デシケーター中に置き、48時間乾燥させた。このときのデシケーター中の湿度は約20%であった。
比較例1
実施例1と同様の方法でHAI00377菌を培養、集菌した。拮抗微生物の浸漬処理は、同じ量の種子と拮抗微生物懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例1と同様に余剰水分を除去、ペレット造粒後、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で通風乾燥した。乾燥時間は48時間であった。このときの部屋の湿度は約45%であった。
ペレット造粒種子中におけるHAI00377株の生存率は、下記の方法で求めた。ペレット種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、HAI00377株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。また、種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、ペレット種子150粒(50粒×3反復)を置床し、20℃16時間・30℃8時間の変温・暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
実施例1と比較例1の結果を表2に示す。HAI00377株を減圧接種後ペレット加工し15℃で低湿乾燥した区(実施例1)では、HAI00377株の生存率は90%、HAI00377株を浸漬接種後ペレット造粒加工し30℃で通風乾燥した区(比較例1)では、HAI00377株の生存率は24%となり、比較例1よりも実施例1の方がより高い生存率となった。また、実施例のニンジンペレット種子の発芽率は、85%以上であり、比較例とほぼ同等であった。このことからニンジンペレット種子の製造において、用いられるニンジン種子に拮抗微生物を減圧接種した後、低温低湿乾燥する方法が、拮抗微生物をニンジン種子に定着させるのに有効であることが明らかになった。
Figure 0005111747
実施例2:トマト種子へのグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)の減圧接種および低温低湿乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
トマト種子(品種:マイロック、(株)サカタのタネ)に拮抗微生物として、グラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を実施例1と同様の条件で減圧接種した。余剰水分を除去する為に恒温乾燥機(MOV-212F)(SANYO製)にて、30℃、1時間通風乾燥を行った。低温低湿乾燥は、15℃の低温室に、デシケーターを入れ、その中に乾燥剤としてシリカゲルを入れた。ビーカーに上記種子を入れて、デシケーター中に置き、48時間乾燥させた。このときのデシケーター中の湿度は約20%であった。
比較例2
実施例1と同様の方法でHAI00377菌を培養、集菌した。拮抗微生物の浸漬処理は、同じ量の種子と拮抗微生物懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例1と同様に余剰水分を除去後、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で通風乾燥した。乾燥時間は48時間であった。このときの部屋の湿度は約45%であった。
種子中におけるHAI00377株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、HAI00377株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。また、種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、種子150粒(50粒×3反復)を置床し、25℃一定温度・暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
実施例2と比較例2の結果を表3に示す。HAI00377株を減圧接種後15℃で低湿乾燥した区(実施例2)では、HAI00377株の生存率は90%、HAI00377株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例2)では、HAI00377株の生存率は14%となり、比較例2よりも実施例2の方がより高い生存率となった。実施例2では種子の発芽率に関しても90%以上の高い値を示し、問題のないことがわかった。このことからトマト種子において、拮抗微生物を減圧接種した後、低温低湿乾燥する方法が、拮抗微生物をトマト種子に定着させるのに有効であることが明らかになった。
Figure 0005111747
実施例3:ブロッコリー種子へのグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)の減圧接種および低温低湿乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
ブロッコリー種子(品種:緑嶺、(株)サカタのタネ)に対し、拮抗微生物としてグラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を用いて、実施例1と同様の条件で減圧接種および低温低湿乾燥を行った。低温低湿乾燥後のデシケーター中の湿度は約20%であった。
比較例3
実施例1と同様の方法でHAI00377菌を培養、集菌した。拮抗微生物の浸漬処理は、同じ量の種子と拮抗微生物懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例1と同様に余剰水分を除去後、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で通風乾燥した。乾燥時間は48時間であった。このときの部屋の湿度は約45%であった。
種子中におけるHAI00377株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、HAI00377株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。また、種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、種子150粒(50粒×3反復)を置床し、20℃16時間・30℃8時間の変温・暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
実施例3と比較例3の結果を表4に示す。HAI00377株を減圧接種後15℃で低湿乾燥した区(実施例3)では、HAI00377株の生存率は96%、HAI00377株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例3)では、HAI00377株の生存率は20%となり、比較例3よりも実施例3の方がより高い生存率となった。実施例では種子の発芽率に関しても90%以上の高い値を示し、問題のないことがわかった。このことからブロッコリー種子において、拮抗微生物を減圧接種した後、低温低湿乾燥する方法が、拮抗微生物をブロッコリー種子に定着させるのに有効であることが明らかになった。
Figure 0005111747
実施例4:カボチャ種子へのグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)の減圧接種および低温低湿乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
カボチャ種子(品種:メルヘン、(株)サカタのタネ)へ拮抗微生物として、グラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を用いて、実施例1と同様の条件で減圧接種および低温低湿乾燥を行った。低温低湿乾燥後のデシケーター中の湿度は約20%であった。
比較例4
実施例1と同様の方法でHAI00377菌を培養、集菌した。拮抗微生物の浸漬処理は、同じ量の種子と拮抗微生物懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例1と同様に余剰水分を除去後、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で通風乾燥した。乾燥時間は48時間であった。このときの部屋の湿度は約45%であった。
種子中におけるHAI00377株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、HAI00377株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。また、種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、種子150粒(50粒×3反復)を置床し、25℃一定温度・暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
実施例4と比較例4の結果を表5に示す。HAI00377株を減圧接種後15℃で低湿乾燥した区(実施例4)では、HAI00377株の生存率は60%、HAI00377株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例4)では、HAI00377株の生存率は10%となり、比較例4よりも実施例4の方がより高い生存率となった。実施例では種子の発芽率に関しても88%あり、問題のないことがわかった。このことからカボチャ種子において、拮抗微生物を減圧接種した後、低温低湿乾燥する方法が、拮抗微生物をカボチャ種子に定着させるのに有効であることが明らかになった。
Figure 0005111747
実施例5:エダマメ種子へのグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)の減圧接種および低温低湿乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
エダマメ種子(品種:天ヶ峰、(株)サカタのタネ)へ拮抗微生物として、グラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を用いて、実施例1と同様の条件で減圧接種および低温低湿乾燥を行った。低温低湿乾燥後のデシケーター中の湿度は約20%であった。
比較例5
実施例1と同様の方法でHAI00377菌を培養、集菌した。拮抗微生物の浸漬処理は、同じ量の種子と拮抗微生物懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例1と同様に余剰水分を除去後、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で通風乾燥した。乾燥時間は48時間であった。このときの部屋の湿度は約45%であった。
種子中におけるHAI00377株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、HAI00377株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。また、種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、種子150粒(50粒×3反復)を置床し、25℃一定温度・暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
実施例5と比較例5の結果を表6に示す。HAI00377株を減圧接種後15℃で低湿乾燥した区(実施例5)では、HAI00377株の生存率は96%、HAI00377株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例5)では、HAI00377株の生存率は30%となり、比較例5よりも実施例5の方がより高い生存率となった。実施例では種子の発芽率は、27%であったが、比較例も39%と低く、今回使用した種子の品質がたまたま悪かった為であり、処理条件の影響は小さいと考えられる。このことからエダマメ種子において、微生物を減圧接種した後、低温低湿乾燥する方法が、微生物を定着させるのに有効であることが明らかになった。
Figure 0005111747
実施例6:ホウレンソウ種子へのグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)・グラム陽性細菌(バチルス菌)・糸状菌(トリコデルマ菌)の減圧接種および低温低湿乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
ホウレンソウ種子(品種:プラトン、(株)サカタのタネ)へグラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を用いて、実施例1と同様の条件で減圧接種および低温低湿乾燥を行った。キングB寒天培地を入れた9cmシャーレに植菌し、25℃、2日間静置培養した。コーンラージ棒を用いて集菌し、1/5000 Tween80を添加した蒸留水に懸濁した。希釈平板法で生菌数を測定したところ、約1 x 1010 cfu/mlであった。
シュードモナスHAI00377株の減圧接種は、以下の方法で行った。ホウレンソウ種子200gをメッシュで包みイチゴパックに収め、浮かばないように重りを載せ、種子が沈むように菌懸濁液300mlを注いだ。減圧接種法は、コンパクトエアーポンプNUP-2(アズワン製)を用いて、陰圧条件とした。ポンプ排気能力は、12 l/min、到達圧力は、30 cmHg (= 0.39 kg/cm2)、最高陰圧条件に達するまでの時間は、約2分であった。5分間、最高陰圧条件に置いた後、ゆっくりコックを開いて常圧に戻した。常圧に戻るまでの時間は、約20秒であった。余剰水分を除去する為に恒温乾燥機(MOV-212F)(SANYO製)にて、30℃、1時間通風乾燥を行った。
こうして得られた拮抗微生物コーティング種子に更にフィルムコート処理を施した。以下にフィルムコート処理について説明する。上記で得られたコーティング済みのホウレンソウ種子全量(約200g)に、ポリビニルアルコールで作製したバインダー溶液8mlを少量ずつ加えながら、十分に攪拌した。低温低湿乾燥は、15℃の低温室に、デシケーターを入れ、その中に乾燥剤としてシリカゲルを入れることにより行った。ビーカーに上記種子を入れて、デシケーター中に置き、48時間乾燥させた。このときのデシケーター中の湿度は約20%であった。
種子中におけるHAI00377株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、HAI00377株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。
グラム陽性細菌(バチルス セレウス)(Bacillus cereus) KI2N株は、キングB寒天培地で培養し、1/5000 Tween80を添加した蒸留水に懸濁し、1010cfu/mlの菌懸濁液を作成し、接種源とした。
バチルス セレウスKI2N株の減圧接種および低温低湿乾燥は、シュードモナスHAI00377株と同様の方法で行った。
種子中におけるバチルス セレウスKI2N株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒、10粒を10 mlの滅菌水に懸濁し、さらに10倍希釈液を作成した。これらの菌懸濁液を80℃、10分間処理する事により、耐熱性の芽胞を形成しているバチルス以外の微生物を死滅させた。熱処理した後の菌懸濁液をYG培地上に塗布し、30℃、2日間培養してコロニーの出現の有無を調べた。判定基準を4段階とした(−:コロニーなし。+:50 粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。++:10粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。+++:1粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。)。
トリコデルマ ハルジアナムkubota株はカワタ工業株式会社より分譲をしていただいた。糸状菌(トリコデルマ ハルジアナム)(Trichoderma harzianum)kubota株は、PDA培地で培養し、1/5000 Tween80を添加した蒸留水に懸濁し、107cfu/mlの菌懸濁液を作成し、接種源とした。
トリコデルマ ハルジアナムkubota株の減圧接種および低温低湿乾燥は、シュードモナスHAI00377株と同様の方法で行った。
トリコデルマ ハルジアナムKubota株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒/、5粒を10ml滅菌水に懸濁した。さらに10倍希釈液も作成した。これらの菌懸濁液を希釈平板法によりローズベンガル寒天培地上に塗布した。25℃で1週間培養し、緑色のトリコデルマ菌特有のコロニーの出現により判定した。判定基準を4段階とした(−:コロニーなし。+: 50 粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。++: 5粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。+++: 0.5粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。++++: 0.05粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される)。
上記拮抗微生物コーティング種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、種子150粒(50粒×3反復)を置床し、20℃一定温度・暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
比較例6
実施例6と同様の方法でシュードモナスHAI00377菌、バチルス セレウスKI2N株およびトリコデルマ ハルジアナムKubota株の培養、集菌を行った。これら拮抗微生物の浸漬処理は、同じ量の種子と拮抗微生物懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例1と同様に余剰水分を除去後、フィルムコート処理を行い、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で通風乾燥した。乾燥時間は48時間であった。このときの部屋の湿度は約45%であった。
種子中におけるシュードモナスHAI00377菌、バチルス セレウスKI2N株およびトリコデルマ ハルジアナムKubota株の生存率は、実施例6と同様の方法で求めた。また、種子の発芽率についても、実施例6と同じ方法を用いて求めた。
実施例6と比較例6の結果を表7に示す。HAI00377株については、減圧接種後15℃で低湿乾燥した区(実施例6-1)では、HAI00377株の生存率は100%、HAI00377株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例6-1)では、HAI00377株の生存率は92%となり、比較例6-1よりも実施例6-1の方がより高い生存率となった。
KI2N株については、減圧接種後15℃で低湿乾燥した区(実施例6-2)は、KI2N株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例6-2)と比べて明らかに生存率が高いことがわかった。
Kubota株については、減圧接種後15℃で低湿乾燥した区(実施例6-3)と、Kubota株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例6-3)比べると、乾燥直後の菌の生存率には違いがないものの、実施例では種子の発芽率が90%と高い値を示した。以上のことからホウレンソウのフィルムコート種子の製造において、用いられるホウレンソウ種子に対してグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)、グラム陽性細菌(バチルス菌)、または糸状菌(トリコデルマ菌)を減圧接種した後、低温低湿乾燥する方法が、ホウレンソウ種子への微生物の定着および種子の発芽率の向上のために有効であることが明らかになった。
Figure 0005111747
実施例7:イネ種子へのグラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)・グラム陽性細菌(バチルス菌)・糸状菌(トリコデルマ菌)の減圧接種および/または低温低湿乾燥が菌の生存率および種子の発芽率に与える影響
イネ種子(品種:ヒノヒカリ、宮崎県)へグラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を用いて、実施例1と同様の条件で減圧接種および低温低湿乾燥を行った。
シュードモナスHAI00377株の減圧接種または低温低湿乾燥のどちらか一方、または両方の処理を行った。HAI00377株の減圧処理は実施例1と同様の方法で行い、浸漬処理は、同じ量の種子とHAI00377株の懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。低温低湿乾燥は実施例1と同様の方法で15℃にて行い、通風乾燥は余剰水分を除去後、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で乾燥した。いずれの場合も乾燥時間は48時間であった。
種子中におけるHAI00377株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、HAI00377株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。
バチルス セレウス(Bacillus cereus) KI2N株は、キングB寒天培地で培養し、1/5000 Tween80を添加した蒸留水に懸濁し、1010cfu/mlの菌懸濁液を作成し、接種源とした。
種子中におけるバチルス セレウスKI2N株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒、10粒を10 mlの滅菌水に懸濁し、さらに10倍希釈液を作成した。これらの菌懸濁液を80℃、10分間処理する事により、耐熱性の芽胞を形成しているバチルス以外の微生物を死滅させた。熱処理した後の菌懸濁液をYG培地上に塗布し、30℃、2日間培養してコロニーの出現の有無を調べた。判定基準を4段階とした(−:コロニーなし。+:50 粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。++:10粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。+++:1粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。)。
トリコデルマ ハルジアナム(Trichoderma harzianum)kubota株は、PDA培地で培養し、1/5000 Tween80を添加した蒸留水に懸濁し、107 cfu/mlの菌懸濁液を作成し、接種源とした。
トリコデルマ ハルジアナムKubota株の生存率は、下記の方法で求めた。種子50粒/、5粒を10ml滅菌水に懸濁した。さらに10倍希釈液も作成した。これらの菌懸濁液を希釈平板法によりローズベンガル寒天培地上に塗布した。25℃で1週間培養し、緑色のトリコデルマ菌特有のコロニーの出現により判定した。判定基準を4段階とした(−:コロニーなし。+: 50 粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。++:5粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。+++: 0.5粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。++++, 0.05粒/10mlの希釈率でコロニーが検出される。)。
上記拮抗微生物コーティング種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、種子150粒(50粒×3反復)を置床し、20℃一定温度・暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
比較例7
実施例7と同様の方法でシュードモナスHAI00377菌、バチルス セレウスKI2N株およびトリコデルマ ハルジアナムKubota株の培養、集菌を行った。これら拮抗微生物の浸漬処理は、同じ量の種子と拮抗微生物懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例7と同様に余剰水分を除去後、30℃の湿度コントロールを行っていない部屋で通風乾燥した。乾燥時間は48時間であった。
種子中におけるシュードモナスHAI00377菌、バチルス セレウスKI2N株およびトリコデルマ ハルジアナムKubota株の生存率は、実施例7と同様の方法で求めた。また、種子の発芽率についても、実施例7と同じ方法を用いた。
実施例7と比較例7の結果を表8に示す。シュードモナスHAI00377株については、実施例7-1〜7-3の3条件における拮抗微生物の生存率が82〜100%であったのに対して、HAI00377株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例7-I)は、56%となった。種子の発芽率に関しては、比較例でやや低く、実施例の3試験区では90%以上の高い発芽率を示した。
KI2N株については、比較例7-IIではイネ種子を熱処理することにより、耐熱性芽胞形成細菌(バチルス属細菌)が検出されなかったのに対して、実施例7-4〜7-6の3条件ではバチルス属細菌の耐熱性芽胞が検出された。種子の発芽率に関しては、比較例7-II、実施例7-4〜7-6ともに95%以上の高い発芽率であった。
Kubota株については、比較例7-IIIで生存率の低下が認められたが、実施例7-7〜7-9の3試験区では生存率が高く維持されていた。種子の発芽率に関しては、比較例7-IIIに比べて実施例7-7〜7-9の3試験区はいずれもやや高く95%以上の発芽率を示した。
以上のことからイネ種子において、グラム陰性細菌(シュードモナス属細菌)・グラム陽性細菌(バチルス属細菌)・糸状菌(トリコデルマ属糸状菌)を減圧接種または低温低湿乾燥のいずれか一方、または両方の処理を行うことが種子への定着に有効であることが明らかになった。
Figure 0005111747
実施例8:各微生物コーティング種子の貯蔵試験
実施例1および比較例1のニンジンのペレット種子、実施例7および比較例7のイネ種子を用いて湿度は30〜35%、温度条件はそれぞれ5℃、15℃、25℃で貯蔵後、各条件ごとに生菌数を測定した。
結果を表9に示す。
ニンジンのペレット種子の貯蔵試験では、比較例1の条件では生存率の低下が著しかったが、実施例1の条件では90%の高い生存率が示された。
イネの種子の貯蔵試験では、5℃と15℃の貯蔵温度の場合に、比較例7-Iでは10%程度の生存率であったが、実施例7-1〜7-3では26%〜100%、特に実施例7-3では84%〜100%と高い生存率であった。イネ種子へバチルス属細菌をコーティングして貯蔵した場合に、比較例7-IIでは、バチルス属細菌は検出できなかったが、実施例7-6の条件では5℃、と15℃でバチルス属細菌が検出された。
Figure 0005111747
実施例9:アブラナ科根こぶ病に対する拮抗微生物コーティング種子の防除効果
ブロッコリー種子(品種:緑嶺、(株)サカタのタネ)に対し、拮抗微生物としてグラム陰性細菌(シュードモナス)(Pseudomonas sp.) HAI00377株を実施例3および比較例3と同じ条件でコーティングして、微生物コーティング種子を作成した。
ブロッコリー種子をストレプトマイシン添加キングB寒天培地に置床、25℃で3日間培養後に蛍光を発するコロニーが出現する種子を数えることにより、HAI00377の種子定着率を算出した。
結果を表10に示す。減圧接種・低温低湿乾燥処理では微生物の定着率100%であった。一方、浸漬接種・加温通風乾燥では微生物の定着率は7%であった。
Figure 0005111747
上記それぞれの方法で内生細菌を処理した種子を培養土(メトロミックス350)を詰めた128穴セルトレーに播種し、温室で3週間育苗した。本葉1.5枚の苗を、アブラナ科野菜根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae 菌株:HTKZE)の休眠胞子を1000個/gの濃度で混和した土壌を詰めた10.5cmYポットに移植することにより、根こぶ病菌を接種した。温室(最低18℃-最高28℃)で25日間栽培したのち、根部を水洗し、各個体の根こぶ病発病程度を調査した。発病調査には、以下の発病評点を用いた。発病評点0:発病が認められない。1:根こぶが側根部に僅かに着生している。2:根こぶが主根、側根に着生しやや肥大している。3:根こぶの着生、肥大が著しい。発病度は次式により算出した。
発病度=[(発病評点×各発病評点の個体数)×100]/[3×調査個体数]
防除価は次式により算出した。
防除価=100−[処理区の発病度/無処理区の発病度×100]
結果を表11に示す。減圧接種・低温低湿乾燥法によって内生細菌処理した区は浸漬接種・加温通風乾燥区や無処理区に比べて発病程度が低く、37%の防除効果が認められた。
Figure 0005111747
以上の結果から、種子に拮抗微生物を減圧接種する方法、種子に拮抗微生物を接種後、低温低湿条件下で乾燥する方法、およびこれらを組み合わせる方法により、種子へ接種した拮抗微生物の生存率は著しく高まることは明らかである。更に、本発明に基づいて作成した拮抗微生物コーティング種子は、土壌病害に対して高い防除価を示した。したがって、本発明を利用することにより、病害防除効果が高く保存安定性の高い種子を安価かつ簡便に提供する事が可能になる。

Claims (10)

  1. 種子に拮抗微生物を減圧接種し、接種後に前記種子を−10℃以上20℃以下の低温且つ0%以上80%以下の範囲の低湿条件下で乾燥して、乾燥後の種子の含水率を0.01%以上20%以下にすることを特徴とする、拮抗微生物コーティング種子の製造方法。
  2. 前記減圧接種後の種子にペレット造粒またはフィルムコート処理を施した後に、前記乾燥を行うことを含み、前記含水率が当該工程を経て得られた種子の含水率であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. 前記減圧接種において、種子を拮抗微生物とともに最高陰圧条件下において1分〜100分保持すること、並びに、最高陰圧時の真空度が1mmHg〜755mmHg(大気圧を0mmHgとしたときの真空度)であることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
  4. 使用する種子と拮抗微生物との組み合わせが、
    種子がセリ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がナス科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がアブラナ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がウリ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がマメ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がアカザ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌、バチルス属細菌、又はトリコデルマ糸状菌であるか、或いは
    種子がイネ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌、バチルス属細菌、又はトリコデルマ糸状菌であるか、のいずれかである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法により製造された拮抗微生物コーティング種子。
  6. 作物の種子に拮抗微生物を減圧接種し、接種後に前記種子を−10℃以上20℃以下の低温且つ0%以上80%以下の範囲の低湿条件下で乾燥して、乾燥後の種子の含水率を0.01%以上20%以下にすることを特徴とする、作物における病害の防除方法。
  7. 前記減圧接種後の種子にペレット造粒またはフィルムコート処理を施した後に、前記乾燥を行うことを含み、前記含水率が当該工程を経て得られた種子の含水率であることを特徴とする請求項記載の方法。
  8. 前記減圧接種において、種子を拮抗微生物とともに最高陰圧条件下において1分〜100分保持すること、並びに、最高陰圧時の真空度が1mmHg〜755mmHg(大気圧を0mmHgとしたときの真空度)であることを特徴とする、請求項又は記載の方法。
  9. 使用する種子と拮抗微生物との組み合わせが、
    種子がセリ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がナス科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がアブラナ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がウリ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がマメ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌であるか、
    種子がアカザ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌、バチルス属細菌、又はトリコデルマ糸状菌であるか、或いは
    種子がイネ科の種子であり、且つ拮抗微生物がシュードモナス属細菌、バチルス属細菌、又はトリコデルマ糸状菌であるか、のいずれかである、請求項のいずれか1項記載の方法。
  10. 拮抗微生物を接種した作物の種子を、乾燥終了後から播種までの間に、0℃以上20℃以下の低温且つ0%以上50%以下の範囲の低湿条件下で貯蔵することを更なる特徴とする請求項のいずれか1項記載の方法。
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