以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の原理を説明する概念図である。
図1には、スピーカユニットが取り付けられるバッフル板9が示されており、紙面左手前側がバッフル板9の前側になり、紙面右奥側がバッフル板9の後側となる。図1では、バッフル板9を前側からみたときを基準にして上下および左右を呼び分ける。
バッフル板9は、正面視すると四角形状に形成され、4辺がそれぞれ異なる曲率で湾曲するように力が付与されて弾性変形している。バッフル板9の4辺の曲率の大きさは、左辺91、上辺92、下辺93、右辺94の順に次第に大きくなっている。このため、バッフル板9が面方向において異なる曲率で湾曲し、これによってバッフル板9には、面方向に異なる張力が付与されている。バッフル板9において付与されている張力が最も小さい領域は、最も大きな曲率の下辺93と次に大きな曲率の右辺94で挟まれた角部領域であり、以下、この領域を最小張力領域95と称する。バッフル板9の最小張力領域95以外の個所は、それぞれの曲率に応じた張力が付与され、バッフル板9には、面方向に異なる大きさの張力が付与されている状態となる。これによって、バッフル板9は、面方向に張力が分散した状態となり、周波数ごとの共振点も面方向に分散する。このため、振動するバッフル板9において、特定の周波数に共振が集中することが抑えられ、特定の周波数による共振を目立たなくすることができる。
なお、バッフル板9の凸となる前側に音波が放出されるようにスピーカユニットを取り付けた場合は、バッフル板9の前側が聴取者側になり、バッフル板9の凸となる前側とは反対方向の後側に音波が放出されるようにスピーカユニットを取り付けた場合は、バッフル板9の後側が聴取者側になる。
以下、図1を用い説明した原理を適用した、本発明の一実施形態であるバッフル型スピーカ装置を説明する。
図2は、本発明の第1実施形態であるバッフル型スピーカ装置1の前側を示す図である。図3は、図2に示すバッフル型スピーカ装置1の後側を示す図である。
図2では、紙面左手前側がバッフル型スピーカ装置1の前側になり、紙面右奥側がバッフル型スピーカ装置1の後側になる。以下、バッフル型スピーカ装置1を前側からみたときを基準にして上下および左右を呼び分ける。
図2および図3に示すように、バッフル型スピーカ装置1は、バッフル板11と、このバッフル板11に取り付けられたスピーカユニット12を有する。
バッフル板11には、中心から右側斜め下方にややずれた位置に開口11aが形成されている。開口11aには、バッフル板11の後側からスピーカユニット12が図示しないネジで取り付けられている。
スピーカユニット12は、コーン紙で形成された振動板121と、振動板121を支持するフレーム122と、振動板121を振動させる磁気回路部123と、磁気回路部123に音声信号を送るリード線124と、図3に示す、ケーブル端子125を有する。また、バッフル板11の、上辺に沿った上側折曲部112と、下辺に沿った下側折曲部113と、右辺に沿った右側折曲部114が、それぞれ後側に折り曲げられて、外周の縁にそれぞれ上側稜線112aと、下側稜線113aと、右側稜線114aが形成されている。バッフル板11がこのように折り曲げられて、正面視すると長方形となっている前側を向いた部分を、以下ベース部111と称する。上側折曲部112、下側折曲部113、右側折曲部114を、それぞれ折り曲げることによって、ベース部111の強度を向上させている。
スピーカユニット12の振動板121は、フレーム122に支持され、開口11aからベース部111の前側に臨むように配置されている。磁気回路部123は、ボイスコイルとマグネットを有し、フレーム122の後面に設けられている。リード線124は、一端がフレーム122を貫通して磁気回路部123に接続し、他端がケーブル端子125に接続している。ケーブル端子125は、後述する、バッフル板11の上側折曲部112に取り付けられている。
バッフル板11は、中空ポリカーボネイトで形成されている。この中空ポリカーボネイトは、軽量で弾性があり、スピーカユニット12を取り付けた場合に、スピーカユニット12の振動板121の振動に追従させて振動させるのに好適である。
図2に示すベース部111と上側折曲部112との間には、左端部に上側湾曲形状決定部材13が配置され、この上側湾曲形状決定部材13から、右方向にそれぞれ所定間隔をあけて左側補強部材141と、中央補強部材142と、右側補強部材143が配置されている。以下、左側補強部材141と、中央補強部材142と、右側補強部材143を総称して、補強部材14と称することもある。また、ベース部111と下側折曲部113の間には、左端部に下側湾曲形状決定部材15が配置されている。なお、ベース部111と上側折曲部112の間とは異なり、ベース部111と下側折曲部113の間には、補強部材は設けられていない。上側湾曲形状決定部材13と下側湾曲形状決定部材15は、ポリカーボネイト製、あるいはアルミニウム製の板材で形成された張力付与部材16で連結されている。
上側湾曲形状決定部材13および補強部材14は、全て三角柱状の木片であり、この三角柱状を構成する5面のうちの四角形の一面が、ベース部111の後面に配置され、木ネジ17で前側から固定されている。また、上側折曲部112は、上側湾曲形状決定部材13および補強部材14の、上側に突出する上角13a、14aの角度に応じて折れ曲がっている。上側折曲部112の、図3では右端部分となる左端部分は、図3に示すように張力付与部材16の上端部分と一緒に、上側湾曲形状決定部材13に木ネジ17で後側から固定されている。さらに、上側折曲部112は、補強部材14にそれぞれ木ネジ17で後側から固定されている。これらにより、上側折曲部112の折り曲げられた状態が維持されている。上側湾曲形状決定部材13および3つの補強部材14の上角13a、14aの角度は、左端部に配置される上側湾曲形状決定部材13の上角13aが最も大きく、右側の補強部材ほど徐々に小さくなって、最も右側に配置される右側補強部材143の上角14aが最も小さい。右側補強部材143からさらに右側の部分には補強部材が設けられず、上側折曲部112の右端側の部分がベース部111と密着するように折り曲げられている。
また、ベース部111と下側折曲部113の間のうち、左端部に下側湾曲形状決定部材15が配置されている。この下側湾曲形状決定部材15も三角柱形状の木片であるが、上側湾曲形状決定部材13と形状が異なる。この形状の違いは後述する。なお、上側湾曲形状決定部材13、補強部材14、下側湾曲形状決定部材15は、プラスチック製のものであってもよい。下側湾曲形状決定部材15は、上側湾曲形状決定部材13と同様に、三角柱形状を構成する5面のうちの四角形の一面がベース部111の後面に配置され、木ネジ17で前側から固定されている。さらに、下側湾曲形状決定部材15の下側に突出した下角15aの角度に応じて下側折曲部113が折れ曲がり、図3に示すように張力付与部材16の下端側部分と一緒に、木ネジ17で下側湾曲形状決定部材15に後側から固定されている。下側折曲部103の右端部分は、上側折曲部112の右端部分と同様に、ベース部111に密着するように折り曲げられている。
バッフル板11の右側折曲部114は、まず最初に、上側折曲部112および下側折曲部113を後側に折り曲げ、折り曲げられた上側折曲部112の右側部分と下側折曲部113の右側部分を後側にもう一度折り曲げることによって形成されたものである。また、ボルト18とナット19によって右側折曲部114が折り曲げられた状態が維持されている。
これら、木ネジ17と、ボルト18と、ナット19が、本発明にいう維持手段の一例に相当する。
次に、図4を用いて、上側湾曲形状決定部材13と下側湾曲形状決定部材15の形状の違いにより、ベース部111を面方向に曲率を異ならせて湾曲させている状態を説明する。
図4は、図2に示すバッフル型スピーカ装置1の側面を示す図である。図4(a)には、バッフル型スピーカ装置1の左側面が示されており、図4(b)には、バッフル型スピーカ装置1の右側面が示されている。
図4(a)に示すように、張力付与部材16の上端部分が上側折曲部112と合せて上側湾曲形状決定部材13に固定され、張力付与部材16の下端部分が下側折曲部113と合せて下側湾曲形状決定部材15に固定されることで、ベース部111の左端部が湾曲し、張力が付与されている。この張力付与部材16は、ベース部111の左端部を湾曲させるように上側湾曲形状決定部材13と下側湾曲形状決定部材15を相対的に傾かせ、その状態のそれぞれの傾き角度を固定するものであり、上側湾曲形状決定部材13と下側湾曲形状決定部材15の相対的な傾き角度を固定することでベース部111に張力が付与されている。なお、ベース部111には、スピーカユニット12の重量によっても張力が付与される。また、上側湾曲形状決定部材13の上角13aの角度αに対し、下側湾曲形状決定部材15の下角15aの角度βは小さい。さらに、上側湾曲形状決定部材13の上下方向の長さよりも、下側湾曲形状決定部材15の上下方向の長さの方が長い。またさらに、前述したように、ベース部111の右端部分は、上側折曲部112と下側折曲部113が、ベース部111の裏側と密着するように折り曲げられている。これらのため、ベース部111の上側は、左端部から右端部にかけて、上側湾曲形状決定部材13の上角13aの角度αに応じた曲率から徐々に大きな曲率となっている。一方、ベース部111の下側も、左端部から右端部にかけて曲率が大きくなっているが、ベース部111の下側では、下側湾曲形状決定部材15の下角15aの角度βに応じた曲率から徐々に大きな曲率となっている。この角度αと角度βの角度の違いによって、左右方向においても、ベース部111の上側部分と下側部分で、曲率が変化する度合が異なっている。
このように、ベース部111全体を面方向に曲率を異ならせて湾曲させているため、ベース部111には、面方向に異なる張力が付与されて張力が分散した状態となっている。さらに、前述のごとく、スピーカユニット12の重量による張力の付与も加わって、ベース部111に付与される張力はより分散した状態となっている。
また、3つの補強部材14は、ベース部111の上側部分における左端部から右端部にかけて徐々に大きくなる曲率に対応させて、それぞれの上角14aの角度を徐々に小さくしている。これによって、ベース部111の上側部分を、左端部から右端部への曲率の変化を維持した状態で補強することができる。なお、補強部材14のそれぞれの上角14aの角度を調整することによって、ベース部111の上側における左右方向の曲率をさらに複雑に変化するように調整することもできる。
図5は、図2に示すバッフル型スピーカ装置1の組立セット1Aを用いた組立方法の一例を示す図である。図5では、紙面左手前側がバッフル型スピーカ装置1の後側になり、紙面右奥側がバッフル型スピーカ装置1の前側となる。
図5(a)に示すように、バッフル板11には、ベース部111が設けられている。まず最初に、上側湾曲形状決定部材13と、補強部材14と、下側湾曲形状決定部材15を、それぞれベース部111の後面に当て、ベース部111の前側からそれぞれ木ネジ17で固定する。上側湾曲形状決定部材13および補強部材14の上下方向の位置は、それぞれの上端部をベース部111の後面における上側折曲部112とベース部111の境界線(折曲線に相当)に合せる。また、上側湾曲形状決定部材13および補強部材14の左右方向の位置は、ベース部111の後面の図5では右端部となる左端部に上側湾曲形状決定部材13を配置し、この上側湾曲形状決定部材13の図5では左方向となる右方向にそれぞれ所定間隔をあけて、左側補強部材141と、中央補強部材142と、右側補強部材143を配置する。下側湾曲形状決定部材15は、下端部をベース部111と下側折曲部113の境界線(折曲線に相当)に合せ、ベース部111の後面における図5では右端部となる左端部に配置する。次に、スピーカユニット12を、ベース部111の後側から開口11aに配置し、図示しないネジでベース部111に取り付ける。なお、図5(a)および図5(b)では、図面を簡略化するため、リード線124とケーブル端子125は省略している。張力付与部材16を上側湾曲形状決定部材13と下側湾曲形状決定部材15に掛け渡して配置する。
次に、図5(b)に示すように、上側折曲部112を後側に折り曲げ、上側折曲部112の左端部と張力付与部材16の上端部分を合せて、上側湾曲形状決定部材13に木ネジ17で後側から固定する。さらに、上側折曲部112を、3つの補強部材14にそれぞれ木ネジ17で後側から固定する。次に、下側折曲部113を後側に折り曲げ、ベース部111を前側が凸となるように湾曲させながら、張力付与部材16を後側に凸となるように湾曲させ、下側折曲部113を、張力付与部材16の下端部分と合せて下側湾曲形状決定部材15に木ネジ17で後側から固定する。ベース部111を前側が凸となるように湾曲させる際には、上側湾曲形状決定部材13と下側湾曲形状決定部材15の相対的な傾き角度を調整しながらベース部111を湾曲させることになる。
次に、図5(c)に示すように、右側折曲部114を、折り曲げられた上側折曲部112の右側部分と下側折曲部113の右側部分を合せて後側に折り曲げてボルト18とナット19で固定し、右側折曲部114が折り曲げられた状態を維持する。最後に、ケーブル端子125を上側折曲部112に取り付けて、バッフル型スピーカ装置1の組立が完了する。
なお、バッフル型スピーカ装置の組立セット1Aのバッフル板11に、予め開口11aを形成せず、組み立てる者が、ベース部111を指で叩き、叩いたときの響き方が最も気に入った位置に開口11aを形成するようにしてもよい。また、開口11aに代えて、ベース部111の、振動板121と対向する位置に、複数の小孔を形成し、この小孔からスピーカユニット12の音波が前方に放出されるようにしてもよい。
なお、図5に示すバッフル型スピーカ装置1の組立方法は一例であり、この組立方法に限定されるものではない。
次に、バッフル型スピーカ装置1の再生状態を説明する。図示しないアンプから送られた音声信号に基づいて磁気回路部123が振動板121を振動させると、振動板121の振動がフレーム122を介してベース部111に伝わる。このため、振動板121の振動に追従してベース部111が振動する。ベース部111が振動することで、ベース部111が振動板121の延長状態を作り出して、ベース部111の全体から音波が出るようになる。特に、ベース部111は、振動板121の低音域の振動で振動するため、低音域の音波が多く出て、低音の特性を向上させることができる。さらに、前述したように、ベース部111の全体を面方向に曲率を異ならせて湾曲させているため、ベース部111には、面方向に異なる張力が付与されて張力が分散された状態となっている。さらに、スピーカユニット12の重量による張力の付与も加わって、ベース部111に付与される張力はより分散した状態となっている。これらのため、ベース部111は、周波数ごとの共振点が面方向に分散し、振動するベース部111において、特定の周波数に共振が集中することが抑えられ、ベース部111の特定の周波数による共振を目立たなくすることができる。また、上側折曲部112、下側折曲部113、および右側折曲部114を折り曲げることによって、上側稜線112a、下側稜線113a、および右側稜線114aの強度が増し、上側稜線112a、下側稜線113a、および右側稜線114aに到達した振動が収束する。続いて、他の実施形態のバッフル型スピーカ装置について説明する。以下の説明では、これまで説明したきた第1実施形態のバッフル型スピーカ装置1との相違点を中心に説明し、重複する説明は省略する。また、これまで説明した構成要素と同じ構成要素には、これまで用いた符号と同じ符号を付して説明する。
図6は、本発明の第2実施形態であるバッフル型スピーカ装置3の前側を示す図である。
図6では、紙面左手前側がバッフル型スピーカ装置3の前側になり、紙面右奥側がバッフル型スピーカ装置3の後側となる。以下、バッフル型スピーカ装置3を前側からみたときを基準にして上下および左右を呼び分ける。
図6に示すように、バッフル型スピーカ装置3は、スピーカユニット12がネジ37で取り付けられたバッフル板31と、このバッフル板31を吊下げる支持部材32を有する。
支持部材32は、板状の基部321と、パイプ材を連結材で連結して形成した門状の枠部322を有する。枠部322は、2本の縦パイプ3221と、2本の横パイプ3223と、支持パイプ3225を有する。2本の縦パイプ3221は、基部321の上面における左右両端部分に、後側にやや傾斜させてそれぞれ立設したものである。2本の横パイプ3223は、T字状連結部材3224で互いに連結され、2本の縦パイプ3221の上端部間をL字状連結材3222を介して連結するものである。支持パイプ3225は、T字状連結部材3224に取り付けられ、T字状連結部材3224と共に前後方向に回動可能とされ、縦パイプ3221の傾斜した状態を支持するものである。基部321の後面における左右方向の略中央部分には、上方に突出した姿勢維持片3211が設けられている。
バッフル板31は、ポリカーボネイト板で形成され、後面からスピーカユニット12がネジ37で取り付けられている。また、バッフル板31における、スピーカユニット12の振動板121と対向する位置には、第1実施形態の開口11aに代えて図示しない複数の小孔が形成されている。
バッフル板31は、左辺に沿った左側折曲部312と、右辺に沿った右側折曲部313が、上辺に沿った上側湾曲部314を残して、それぞれ後側に折り曲げられ、外周の縁にそれぞれ左側稜線312aと、右側稜線313aが形成されている。なお、この左側折曲部312と右側折曲部313の左右方向の幅は略同じであるが、第1実施形態の上側折曲部112と下側折曲部113のように、左側折曲部312と右側折曲部313の左右方向の幅を異ならせてもよい。また、上側湾曲部314は、左右方向における中央部分に切欠き314aが形成され、後側に円弧状に曲げられている。上側湾曲部314は、支持部材32のL字状連結部材3222とT字状連結部材3224に掛けられ、切り欠き314aからT字状連結部材3224に連結した支持パイプ3225が後方に延びている。バッフル板31がこのように折り曲げられて、正面視すると長方形となっている前側を向いた部分を、以下ベース部311と称する。なお、左側折曲部312と右側折曲部313を、それぞれ折り曲げることによってベース部311の強度を向上させている。また、ベース部311には、スピーカユニット12の重量によって張力が付与される。
左側折曲部312とベース部311との間における下端部に左側湾曲形状決定部材33が配置され、右側折曲部313とベース部311との間における下端部に右側湾曲形状決定部材34が配置され、それぞれベース部311に木ネジ17で前側から固定されている。左側湾曲形状決定部材33と右側湾曲形状決定部材34は、第1実施形態の上側湾曲形状決定部材13と下側湾曲形状決定部材15と同様に三角柱状の木片である。また、左側湾曲形状決定部材33は左角33aを有し、右側湾曲形状決定部材34は右角34aを有する。なお、左側湾曲形状決定部材33と右側湾曲形状決定部材34は同一形状で、左角33aと右角34aの角度は同じであるが、左角33aと右角34aの角度を異ならせてもよい。なお、左側湾曲形状決定部材33と右側湾曲形状決定部材34は、プラスチック製のものであってもよい。
左側折曲部312の下端部分は、ポリカーボネイト板で形成された張力付与部材35の左端部分と合せて左側湾曲形状決定部材33に図示しない木ネジで後側から固定されている。また、右側折曲部313の下端部分が、張力付与部材35の右端部分と合せて右側湾曲形状決定部材34に図示しない木ネジで後側から固定されている。これらにより、左側湾曲形状決定部材33と右側湾曲形状決定部材34は、後側に凸となるように湾曲した状態の張力付与部材35によって連結されて左側湾曲形状決定部材33と右側湾曲形状決定部材34の相対的な傾き角度が維持されることで、ベース部311の下端部分は前側に凸となるように湾曲し、張力が付与されている。
また、左側折曲部312と右側折曲部313の上端部分は、ベース部311に密着するように折り曲げられ、支持部材32のL字状連結部材3222に掛けられた上側湾曲部314と合せてボルト18とナット19で固定されている。これによって、ベース部311は、下端部分の、左側湾曲形状決定部材33の左角33aの角度と右側湾曲形状決定部材34の右角34aの角度に応じた曲率の湾曲から、ベース部311の上端部に向かうに従い曲率が徐々に大きくなるように変化して湾曲している。このため、ベース部311も面方向において曲率が異なるように湾曲し、張力が分散した状態となっている。これにより、ベース部311は、周波数ごとの共振点が面方向に分散して、振動するベース部311において、特定の周波数による共振を目立たなくすることができる。
また、バッフル板31は、張力付与部材35が姿勢維持片3211に当接することにより、下端側が前側に位置するように前後方向に傾いた姿勢が維持されている。なお、バッフル板31と姿勢維持片3211の当接を解除してバッフル板31の下端を後方に回動させ、ベース部311の姿勢を垂直に近づけることも可能である。また、バッフル板31を姿勢維持片3211に当接させた状態で、支持パイプ3225を、横パイプ3223に対して前後方向に回動させ、ベース部311の姿勢を調整することもできる。
図7は、本発明の第3実施形態であるバッフル型スピーカ装置5を示す図である。
図7(a)には、バッフル型スピーカ装置5の前側が示されており、図7(b)には、バッフル型スピーカ装置5の後側が示されている。以下、バッフル型スピーカ装置5を前側からみたときを基準にして上下および左右を呼び分ける。
図7(a)および(b)に示すように、バッフル型スピーカ装置5は、開口51aが形成されたバッフル板51と、バッフル板51を取り付ける枠部材53を有する。
バッフル板51は、段ボール板で形成されている。バッフル板51には、開口51aから振動板121が臨むように後側からスピーカユニット12が図示しないネジで取り付けられている。図7(b)に示すように、バッフル板51は、上辺に沿った上側折曲部512と、右辺に沿った右側折曲部513が後側に折り曲げられ、正面視すると長方形となっている。このバッフル板51の長方形の部分を以下、ベース部511と称する。上側折曲部512は、先端が後側を向くように略90度折り曲げられており、右側折曲部513は、先端が後側を向くように略90度折り曲げられた状態で右側折曲部513の前後方向略中間部分がさらに内側に折り返され、右側折曲部513自体が半分に折り曲げられた状態になっている。図7(b)に示す右側折曲部513の点線は、右側折曲部513自体が半分に折り曲げられた際の折り曲げ線を示すものである。
枠部材53は、板状の上枠531と、左枠532と、右枠533と、下枠534が枠状に固定されたものである。枠部材53の内側の四隅には、角柱状の角柱固定部材535がそれぞれ設けられている。また、枠部材53の内側の四隅には、角柱固定部材535を囲むようにL字状のL字部材536がそれぞれ設けられている。角柱固定部材535の前後方向の長さは、各枠と略同じであり、L字部材536の前後方向の長さは、角柱固定部材535と比べてかなり小さめに設定されている。
ベース部511は、後面を角柱固定部材535とL字部材536とにあてた状態で、前側から木ネジ17で角柱固定部材535に取り付けられている。上側折曲部512は、角柱固定部材535が位置する部分となる左右両端部分を切り欠いて後側に折り曲げられている。これによって、ベース部511の上側部分には張力が付与されている。また、右側折曲部513も、角柱固定部材535が位置する部分となる上下両端部分を切り欠いて後側に折り曲げられている。右側折曲部513は、前述のように、上側折曲部512と異なる折り曲げ方をしているため、ベース部511の右側部分には、ベース部511の上側部分と異なる張力が付与されている。また、ベース部511のスピーカユニット12を取り付けた部分には、スピーカユニット12の重量によっても張力が付与されている。これらによって、ベース部511には、面方向に異なる張力が付与され、張力が分散した状態となっている。このため、ベース部511は、周波数ごとの共振点が面方向に分散して、振動するベース部511における、特定の周波数による共振を目立たなくすることができる。
図8は、本発明の第4実施形態であるバッフル型スピーカ装置7の後側を示す図である。
図8では、紙面左手前側がバッフル型スピーカ装置7の後側になり、紙面右奥側がバッフル型スピーカ装置7の前側となる。以下、バッフル型スピーカ装置7を前側からみたときを基準にして上下および左右を呼び分ける。
図8に示すように、バッフル型スピーカ装置7は、スピーカユニット12が図示しないネジで取り付けられたバッフル板71と、バッフル板71を補強する上補強部材73と、下補強部材74と、左補強部材75と、右補強部材76を有する。
バッフル板71は、段ボール板で形成されている。バッフル板71は、左辺に沿った左側折曲部712と、右辺に沿った右側折曲部713が後側に折り曲げられ、正面視すると長方形となっている。このバッフル板の長方形の部分を以下、ベース部711と称する。
ベース部711の上端部分の後側に、板状の木片で形成された上補強部材73が設けられ、ベース部711の下端部分の後側に、板状の木片で形成された下補強部材74が設けられて、ベース部711は、前側から図示しない木ネジで上補強部材73と下補強部材74に取り付けられている。また、左側折曲部712の上端部分は、後側から木ネジ17で上補強部材73に取り付けられており、左側折曲部712の下端部分も、後側から木ネジ17で下補強部材74に取り付けられている。また、右側折曲部713についても同様である。なお、左側折曲部712の、後側から木ネジ17で上補強部材73に取り付けられた部分と、左側折曲部712の、後側から木ネジ17で下補強部材74に取り付けられた部分は、左側折曲部712からベース部711の前側に跨るテープ77でそれぞれ被覆されている。また、右側折曲部713についても同様である。
左補強部材75は、上下方向に延びた板状の木片で形成されている。左補強部材75は、ベース部711と左側折曲部712の間に設けられ、上方に向かうに従い、図8では右側となる左側に傾斜する姿勢となっている。左側折曲部712の上側部分は、不図示のボルトと鬼目ナットからなる上側締結手段78で左補強部材75に固定されている。また、左側折曲部712の下側部分も、不図示のボルトと鬼目ナットからなる下側締結手段79で左補強部材75に固定されている。なお、上側締結手段78と下側締結手段79の不図示のボルトは、ベース部711の前側から、ベース部711と左補強部材75と左側折曲部712を貫通したものである。さらに、左側折曲部712は、上側締結手段78と下側締結手段79の間において、上下方向に所定間隔をあけて後側から取り付けられる2つの木ネジ17で左補強部材75に固定されている。左側折曲部712を左補強部材75に固定する上側締結手段78と、下側締結手段79と、2つの木ネジ17の左右方向の位置関係は、左補強部材75の傾斜した姿勢に対応して、下から上に向かうに従い図8では右側となる左側にずれた状態となっている。
右補強部材76も、左補強部材75と同様に上下方向に延びた板状の木片で形成されるが、左補強部材75よりも横幅が大きいものである。右補強部材76は、ベース部711と右側折曲部713の間に略垂直な姿勢で配置されている。また、右側折曲部713も、上側部分が上側締結手段78で右補強部材76に固定され、下側部分が下側締結手段79で右補強部材76に固定されている。上側締結手段78は、右補強部材76の上端部左隅に取り付けられ、下側締結手段79は、右補強部材76の下端部右隅に取り付けられている。さらに、右側折曲部713は、上側締結手段78と下側締結手段79の間に、上下方向に所定間隔をあけて後側から取り付けられる3つの木ネジ17で左補強部材75に固定されている。右側折曲部713を右補強部材76に固定する上側締結手段78と、下側締結手段79と、3つの木ネジ17の左右方向の位置関係も、下から上に向かうに従い図8では右側となる左側にずれた状態となっている。
これらのように、左側折曲部712と右側折曲部713は、左右方向にずれた位置の上側締結手段78、下側締結手段79、木ネジ17で、左補強部材75と右補強部材76に固定されているため、ベース部711の左右両端部分に付与される張力が異なる。また、ベース部711のスピーカユニット12を取り付けた部分には、スピーカユニット12の重量によっても張力が付与されている。これらによって、ベース部711には、面方向に異なる張力が付与され、張力が分散した状態となっている。このため、ベース部711は、周波数ごとの共振点が面方向に分散し、振動するベース部711における、特定の周波数による共振を目立たなくすることができる。なお、上補強部材73、下補強部材74、左補強部材75、右補強部材76は、プラスチック製のものであってもよい。
図9は、図2に示す本発明の第1実施形態であるバッフル型スピーカ装置1の音響特性の効果を比較例と対比して示す棒グラフであり、図10は、図7に示す本発明の第3実施形態であるバッフル型スピーカ装置5の音響特性の効果を比較例と対比して示す棒グラフである。図9および図10の棒グラフでは、縦軸に音圧レベル(dB)を示し、横軸に対数表示で周波数(Hz)を示す。
測定には、株式会社ネットメイト社製の測定用マイク、音場測定ディスク、アナログ・デジタル変換器、解析用ソフトウェア(商品名:「パソコンFFTアナライザーシステム」)を用いた。測定用マイクは、スピーカ装置の前方約1.3mの位置に設置した。予め、CDプレーヤーで音場測定ディスクの正弦波(1kHz、正相、−20dB)を再生し、アンプのボリュームとマイクレベルを調整して、FFT(Fast Fourier Transform)表示が−40dBになるように設定した。ここでは、この−40dBの音圧レベルを基準にする。図9および図10の棒グラフに示す、2点鎖線の直線は、この−40dBの音圧レベルを示すものである。次に、CDプレーヤーで音場測定ディスクの正弦波スイープ(20Hz〜20kHz、−20dB)を再生し、各周波数の音圧レベルを測定した。
図9では、図2に示す本発明の第1実施形態であるバッフル型スピーカ装置1の測定結果を実線で示す。このバッフル型スピーカ装置1は、バッフル板11を厚さ2mmのポリカーボネイト板で形成し、ベース部111を、横75cm、縦53cmの大きさとしたものである。また、従来の平面バッフル型スピーカ装置の測定結果を比較例1として一点鎖線で示す。この比較例1は、バッフル板を厚さ4.5mm、横45cm、縦30cmの中空ポリカーボネイトで形成し、この平板状のバッフル板に単にスピーカユニットを取り付けた従来構造のものである。さらに、バッフル板を用いないスピーカユニット単独の測定結果を比較例2として点線で示す。バッフル型スピーカ装置1、比較例1、比較例2のスピーカユニットとして、パイオニア社製のPAX−A20を用いた。図9に示すように、40Hz以上400Hz以下の低音域の周波数では、比較例1、2に比べて、バッフル型スピーカ装置1の音圧レベルが高く、低音域の再生能力が優れていることが分かる。また、400Hzを超える周波数においても、バッフル型スピーカ装置1は、比較例1、2よりも基準である−40dB(二点鎖線参照)に比較的近い傾向であり、音響特性が優れていることが分かる。さらに、従来構造の比較例1では、800Hz付近で共振が生じているのではないかと考えられるが、バッフル型スピーカ装置1では各周波数帯で基準となる−40dBに近いため、特に目立った共振が生じていないことが分かる。
図10では、図7に示す本発明の第3実施形態であるバッフル型スピーカ装置5の測定結果を実線で示す。このバッフル型スピーカ装置5は、バッフル板51を厚さ4mmの段ボール板で形成し、ベース部511を、横62cm、縦45cmの大きさとしたものである。また、従来の平面バッフル型スピーカ装置の測定結果を比較例3として一点鎖線で示す。この比較例3は、バッフル板を、厚さ15mm、横100cm、縦100cmの三層硬質段ボール板で形成し、この平板状のバッフル板に単にスピーカユニットを取り付けた従来構造のものである。さらに、バッフル板を用いないスピーカユニット単独の測定結果を比較例4として点線で示す。バッフル型スピーカ装置5、比較例3、比較例4のスピーカユニットとして、JBL社製のJBL2115を用いた。図10に示すように、40Hz以上400Hz以下の低音域の周波数では、比較例3、4に比べて、バッフル型スピーカ装置5の音圧レベルが高く、低音域の再生能力が優れていることが分かる。また、400Hzを超える周波数においても、バッフル型スピーカ装置5は、比較例3、4よりも基準である−40dB(二点鎖線参照)に比較的近い傾向であり、音響特性が優れていることが分かる。さらに、従来構造の比較例3では、800Hz付近で共振が生じているのではないかと考えられるが、バッフル型スピーカ装置5では各周波数帯で基準となる−40dBに近いため、特に目立った共振が生じていないことが分かる。
以上説明したように、本実施形態のバッフル型スピーカ装置1,3,5,7,によれば、低音特性を向上させ、バッフル板11,31,51,71が特定の周波数で集中して共振することを防いでバッフル板11,31,51,71の特定の周波数による共振を目立たなくすることができる。
本発明は上述の実施の形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことが出来る。例えば、第2実施形態、第3実施形態、第4実施形態については、完成品としてのバッフル型スピーカ装置3,5,7として説明したが、各バッフル型スピーカ装置3,5,7の構成部品を有するバッフル型スピーカ装置の組立セットとしてもよい。また、上記各実施の形態におけるバッフル板の上下左右に形成した折曲部を、上下左右の別の位置に形成してもよいし、折曲部の数を増減させてもよい。
なお、以上説明した各実施形態の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を他の実施形態に適用してもよい。