以下、図面とともに本発明による核磁気共鳴撮像システム、及び核磁気共鳴撮像方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
まず、本発明による核磁気共鳴撮像システム、及び撮像方法において用いられる核磁気共鳴撮像素子の構成について説明する。図1は、核磁気共鳴撮像素子の一実施形態の平面構成を概略的に示す図である。また、図2は、図1に示した撮像素子の断面構造を示す断面図である。
ここで、図1においては、核磁気共鳴撮像素子1Aの構成のうちで、後述する磁場印加用電極群20の構成、及びRFアンテナ15の設置位置(設置範囲)等を具体的に示すとともに、その他の素子構造については模式的に図示している。また、以下の説明においては、図1の平面構成において、基板の測定面に平行で互いに直交する2つの軸をそれぞれx軸(第1軸)、及びy軸(第2軸)とし、測定面に垂直な軸をz軸とする。また、図2は、撮像素子1Aにおける電極群20の中心位置を通りx軸及びz軸に平行な面での断面構造を示している。
本実施形態による核磁気共鳴撮像素子1Aは、基板10と、磁場印加用電極群20と、RFアンテナ15とを備えて構成されている。本撮像素子1Aでは、基板10に対して所定領域に核磁気共鳴の測定領域12が設定される。図2に示す構成では、測定領域12の設定の具体的な一例として、基板10の一方の面である測定面(図2中の上面)11から所定深さの基板10内の領域が測定領域12として設定されており、その測定領域12内に測定対象物13が配置されている。
撮像素子1Aは、図2に示すように、基板10に対して磁場印加用電極群20とRFアンテナ15とが集積化された素子構造となっている。磁場印加用電極群20は、基板10の測定面11上に集積化されて設けられた複数の電極から構成され、測定領域12に対して核磁気共鳴測定に必要な磁場を印加して、測定領域12内で局所的な測定位置を設定するために用いられる。また、この電極群20は、測定面11上において測定領域12を囲むように、領域12からみてx軸方向、及びy軸方向に略対称となる電極パターンで形成されている。
具体的には、磁場印加用電極群20は、均一磁場用電極25と、第1傾斜磁場用電極30、35と、第2傾斜磁場用電極40、45との3種類の電極によって構成されている。均一磁場用電極25は、測定領域12に対して、設定すべき測定位置に応じた均一磁場を印加するための電極であり、測定領域12を囲むように形成された矩形のループ電極によって構成されている。このループ電極25は、図1中の左下を起点とした一巻きコイルを構成しており、その両端部にそれぞれ電流供給用の配線26、27が設けられている。
本撮像素子1Aでは、この電極25によって測定領域12に印加される均一磁場の大きさを制御することにより、領域12内での測定位置を所望の位置に設定することが可能な構成となっている。例えば、電極25による均一磁場の大きさを変えていくことにより、領域12内においてx軸方向またはy軸方向に測定位置を走査することができる。なお、測定領域12に対する均一磁場の印加については、この基板10上に集積化されて測定位置の制御に用いられる均一磁場用電極25に加えて、磁石、コイル等による通常の静磁場印加手段(図示していない)が合わせて用いられる。
第1傾斜磁場用電極30、35は、測定領域12に対して、基板10の測定面11に平行な第1軸であるx軸方向について傾斜磁場を印加するための電極であり、x軸方向について測定領域12を挟むように形成された一対の第1スプリット電極によって構成されている。スプリット電極30は、図1中で領域12からみて左側(x軸の負の側)で、電極25の左辺の外側にy軸に沿って延びる直線状の電極パターンで形成されており、その両端部にそれぞれ電流供給用の配線31、32が設けられている。また、スプリット電極35は、領域12からみて右側(x軸の正の側)で、電極25の右辺の外側に同じくy軸に沿って延びる直線状の電極パターンで形成されており、その両端部にそれぞれ電流供給用の配線36、37が設けられている。
第2傾斜磁場用電極40、45は、測定領域12に対して、基板10の測定面11に平行な第2軸であるy軸方向について傾斜磁場を印加するための電極であり、y軸方向について測定領域12を挟むように形成された一対の第2スプリット電極によって構成されている。スプリット電極40は、図1中で領域12からみて下側(y軸の負の側)で、電極25の下辺の外側にx軸に沿って延びる直線状の電極パターンで形成されており、その両端部にそれぞれ電流供給用の配線41、42が設けられている。また、スプリット電極45は、領域12からみて上側(y軸の正の側)で、電極25の上辺の外側に同じくx軸に沿って延びる直線状の電極パターンで形成されており、その両端部にそれぞれ電流供給用の配線46、47が設けられている。
これらの各電極からなる電極群20に対し、基板10に対して所定位置にRFアンテナ15が設けられている。RFアンテナ15は、基板10での測定領域12に対して、測定対象物13中の原子核に生じる核磁気共鳴を測定するためのRFパルスを照射するRF照射手段である。本実施形態においては、図2に示すように、基板10の測定面11上には電極群20を覆う絶縁層16が設けられており、この絶縁層16上にRFアンテナ15が形成されている。これにより、RFアンテナ15は、基板10の測定面11上に、電極群20に対して絶縁層16によって絶縁された状態で集積化されている。
次に、上記の撮像素子1Aを用いた本発明による核磁気共鳴撮像システムについて説明する。図3は、核磁気共鳴撮像システムの一実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態による撮像システムは、核磁気共鳴撮像素子1Aと、均一磁場用電流源50と、傾斜磁場用電流源51、52と、RF波発生器60と、検出器54と、制御装置56とを備えて構成されている。
これらのうち、撮像素子1Aの構成については、図1及び図2に関して上述した通りである。また、本構成において、電流源50、51、52によって、磁場印加用電極群20を構成する電極のそれぞれに対して磁場発生用の電流を供給する電流供給手段が構成されている。
均一磁場用電流源50は、撮像素子1Aの電極25に均一磁場発生用の電流Istを供給するための電流源であり、図1に示すように、配線26、27の間に接続されている。第1傾斜磁場用電流源51は、電極30、35にx軸方向の傾斜磁場発生用の電流Ixを供給するための電流源であり、配線31、32の間、及び配線36、37の間に接続されている。第2傾斜磁場用電流源52は、電極40、45にy軸方向の傾斜磁場発生用の電流Iyを供給するための電流源であり、配線41、42の間、及び配線46、47の間に接続されている。これらの電流源50、51、52としては、例えば、立ち上がり時間がナノ秒程度の高速スイッチを有する直流電流源が好適に用いられる。
RF波発生器60は、分配器61、位相調整器62、第1スイッチ63、第2スイッチ64、及び合成器65とともに、撮像素子1AのRFアンテナ15に対してRFパルスを供給するRFパルス供給手段を構成している。このRFパルス供給手段からRFアンテナ15へのRFパルスは、具体的な測定内容に応じて単一のRFパルス、または複数のRFパルスからなるRFパルス列として供給される。
具体的には、RF波発生器60から出力されたRF波は、分配器61によって等分配される。そして、分配された一方のRF波は、スイッチ63を介して合成器65へと入力される。また、他方のRF波は、位相調整器62で位相が調整された後にスイッチ64を介して合成器65へと入力される。そして、合成器65で合成されたRF波が、核磁気共鳴測定用のRFパルスとして撮像素子1AのRFアンテナ15へと供給される。
このような構成において、発生器60からのRF波出力のON/OFF、及び位相調整器62、スイッチ63、64の動作を制御することにより、撮像素子1AのRFアンテナ15へと供給されるRFパルスを制御することができる。なお、RFパルス供給手段の具体的な構成については、図3はその一例を示すものであり、これ以外にも様々な構成を用いて良い。
検出器54は、撮像素子1Aにおける測定領域12内での測定対象物13からの核磁気共鳴信号を検出する検出手段である。この検出器54は、静磁場印加手段による静磁場、及び磁場印加用電極群20による磁場を含む所定の磁場が測定領域12に印加された状態で、RFアンテナ15から測定領域12へとRFパルスを照射することによって生じた核磁気共鳴信号を、光学的または電気的な方法等で検出して外部へと取り出す。このような核磁気共鳴信号の取得を、測定領域12への磁場の印加条件、及びRFパルスの照射条件を変えながら実行することにより、測定領域12内にある測定対象物13の2次元の画像情報を取得することができる。
これらの電流源50、51、52、RF波発生器60を含むRFパルス供給手段、及び検出器54に対して、制御装置56が設置されている。制御装置56は、撮像素子1Aにおいて測定領域12内に配置されている測定対象物13に対する核磁気共鳴による撮像を制御する撮像制御手段である。本撮像システムにおける制御装置56は、測定領域12内でx軸方向の位置Xm及びy軸方向の位置Ymが選択された測定位置(Xm,Ym)に対し、所定の操作方法で測定対象物13の原子核の核スピンの操作を行うように、撮像システムの各部の動作を制御する。
すなわち、制御装置56は、それぞれ所定条件で磁場印加用電極群20による磁場の印加、及びRFアンテナ15によるRFパルスの照射を行う複数段階の操作過程を含む測定過程によって、測定位置における測定対象物13の原子核の核スピンを操作した後、検出器54によって核磁気共鳴信号の検出を行って、測定位置(Xm,Ym)における局所的な核スピンの情報を取得する。また、このような核スピンの情報の取得を測定位置を変更しながら繰り返して実行することにより、測定対象物13の2次元の画像が取得される。なお、制御装置56による撮像の制御方法については、具体的にはさらに後述する。
本実施形態による核磁気共鳴撮像素子、及びそれを用いた撮像システム、撮像方法の効果について説明する。
図1及び図2に示した撮像素子1Aでは、素子1Aを構成する基板10に対して所定領域において、測定対象物13を含む測定領域12を設定するとともに、その基板10上に磁場印加用電極群20等を集積することによって、撮像素子1Aを構成している。このように、核磁気共鳴測定に必要な磁場印加用の電極等が集積化された構成の素子を用いることにより、測定対象物13についての画像情報を高い分解能で取得することができる。
さらに、測定領域12への磁場の印加に用いられる電極群20について、均一磁場用電極25、第1傾斜磁場用電極30、35、及び第2傾斜磁場用電極40、45の3種類の電極を設けている。これらの電極を組み合わせて用いることにより、測定領域12内での局所的な測定位置の設定、制御、測定位置の変更、走査、及びそれによる測定対象物13の画像情報の取得を好適に実現することが可能となる。
また、図3に示した撮像システムでは、上記したように磁場印加用の電極等が基板10上に集積化された構成の撮像素子1Aを用い、電極群20を構成する3種類の電極に対して、それぞれ対応する電流源から磁場発生用の電流を供給して測定を行っている。これにより、測定領域12内での局所的な測定位置を確実に制御しつつ、測定対象物13の画像情報の取得を高い分解能で好適に実現することが可能となる。
さらに、測定対象物13の画像取得において、設定された測定位置(Xm,Ym)に対し、複数段階の操作過程を含む測定過程によって測定対象物13の原子核の核スピンを操作した後に核磁気共鳴信号の検出を行って、測定位置における局所的な核スピンの情報を取得している。このように、測定過程において所定の手順で核スピンを操作した後に、検出器54による核磁気共鳴信号の検出を1回のみ行って測定位置での核スピンの情報を取得する構成により、上記した測定対象物についての画像取得を効率的に実行することが可能となる。
また、図1に示した構成例では、測定領域12に磁場を印加するための電極群20での各電極の具体的な構成として、ループ電極25、一対の第1スプリット電極30、35、及び一対の第2スプリット電極40、45によって電極群20を構成している。このような電極パターンとすることにより、測定位置設定用の均一磁場、x軸方向の傾斜磁場、及びy軸方向の傾斜磁場の測定領域12への印加を、基板10上に好適に集積することが可能な簡単な電極構成で実現することができる。
図4は、図1に示した構成の電極群20を有する撮像素子1Aにおける電極パターンの作製例を示す電子顕微鏡写真である。ここでは、素子1Aの基体となる基板10として厚さ0.5mmのGaAs半導体基板を用い、金によって電極群20の各電極パターンを形成している。本作製例では、基板上に厚さ20nmのチタンを介して金の電極パターンを形成している。なお、チタン層は基板と金との密着性を高めるためのものであり、不要であれば設けなくても良い。また、電極パターンについては、均一磁場用電極25のループ形状の内側の幅(電極間隔)を50μmとし、各電極のパターン幅を1μmとしている。図4より、図1に示した構成の電極群20の電極パターンが良好に得られていることがわかる。また、電極群20の具体的な電極構成については、これ以外にも様々な構成を用いて良い。
一般には、撮像素子1Aを構成する基板10としては、上記したGaAs基板のように表面が充分に平坦な材質の基板を好適に用いることができる。また、電極群20の各電極については、例えば金、アルミなどの材質による電極パターンを用いることができる。あるいは、測定が超伝導転移温度以下の低温で行われる場合には、超伝導材料からなる電極パターンを用いても良い。また、各電極の厚さについては、例えば200nm〜1μm程度の厚さとすることが好ましい。
また、撮像素子1Aの断面構造についても、図2に示した構造以外にも様々な構成を用いることが可能である。図5は、図1及び図2に示した撮像素子の変形例(a)、(b)の断面構造を示す断面図である。
図5の変形例(a)は、測定領域12にRFパルスを照射するRFアンテナ17が基板10の測定面11とは反対側の面、すなわち、基板10に対して電極群20とは反対側の面上に形成されている点で図2に示した構成と異なっている。このように、RFアンテナについては、基板の測定面11上、または測定面11とは反対側の面上に集積化される構成など、必要に応じてその設置位置を変更して良い。一般には、RFアンテナなどのRF照射手段は、電極群20が測定面11上に集積化される基板10に対して、測定領域12にRFパルスを照射することが可能な所定位置に設けられていれば良い。
図5の変形例(b)は、基板10に対する測定領域の設定が図2の構成例、及び図5の変形例(a)と異なっている。すなわち、変形例(b)では、測定領域の設定の他の例として、基板10の測定面11上の領域が測定領域18として設定されており、その測定領域18内に測定対象物19が配置されている。このように、測定領域及び測定対象物については、具体的な測定対象物の種類等に応じて、基板10の測定面11上、または測定面11から所定深さの基板10内の領域など、必要に応じて測定領域を設定して良い。
例えば、図2の構成例、及び図5の変形例(a)のように、基板10の測定面11から所定深さの基板10内に測定対象物13が配置される構成では、測定対象物13はあらかじめ基板10内に埋め込まれて配置される。このような測定対象物13の具体的な例としては、例えば量子ドット、量子ビットなどが挙げられる。すなわち、このような構成の撮像素子は、量子コンピュータ等に用いられる量子ビットの読み出しに利用することが可能である。この場合、基板10中での量子ビットの深さは、例えば測定面11から数100nm〜数μm程度とすることが好ましい。
また、図5の変形例(b)のように、基板10の測定面11上に測定対象物19が配置される構成では、測定対象物19はあらかじめ基板10上に配置されていても良く、あるいは必要に応じて基板10上に配置、交換される構成であっても良い。
ここで、本発明における核磁気共鳴による「撮像」とは、例えば、医療分野においてMRI装置を用いて行われている画像取得のような例に限られるものではない。例えば、測定領域内において、ナノ領域の核スピンによる量子ビットが複数配列されている場合に、測定位置を制御しながら、個々の量子ビットについて局所検出を行っていくような場合も「撮像」、すなわち測定領域12についての画像取得に含んでいる。一般には、設定された測定領域内において、測定位置を特定、制御しながら、局所的な情報を核磁気共鳴信号によって検出することが可能であれば良い。
測定領域12内での測定対象物13からの核磁気共鳴信号を検出する検出器54(図3参照)に用いられる核スピン検出方法については、上記したように、例えば光学的または電気的な方法で核磁気共鳴信号を検出する方法を用いることができる。あるいは、それら以外の方法で核磁気共鳴信号を検出する方法を用いても良い。
核磁気共鳴信号を光学的に検出する方法は、例えば図5に示す変形例(a)、(b)のような構造において好適に用いることができる。このような光学的な検出方法の一例について説明する(例えば非特許文献「D. Gammon et al., "Nuclear Spectroscopy in Single Quantum Dots:Nanoscopic Raman Scattering and Nuclear Magnetic Resonance", ScienceVol.277, pp.85-88 (1997)」を参照)。この方法では、まず、円偏光した光を測定対象物に照射することにより、対象物中の原子核での核スピンを偏極させる。そして、核スピンの偏極の度合いによって量子ドットの発光エネルギーがシフトすることを利用し、RFパルスを照射して核スピンの状態を変化させた際のエネルギーシフト量を核磁気共鳴信号として検出する。
一方、核磁気共鳴信号を電気的に検出する方法は、例えば図2に示す構成例、及び図5に示す変形例(a)のような構造において好適に用いることができる。このような電気的な検出方法の一例について説明する(例えば非特許文献「G. Yusa et al., "Controlled Multiple Quantum Coherences ofNuclear Spins in a Nanometre-Scale Device", Nature Vol.434, pp.1001-1005(2005)」を参照)。この方法では、まず、スピン偏極した電流をナノ領域に流して、対象物中の原子核での核スピンを偏極させる。そして、核スピンを偏極させると対象物の電気抵抗が変化することを利用し、RFパルスを照射して核スピンの重ね合わせ状態を生成した際の電気抵抗を核磁気共鳴信号として検出する。
図1〜図3に示した核磁気共鳴撮像システムの構成について、本発明による核磁気共鳴撮像方法とともにさらに説明する。なお、以下において、図6に示すように、全体の測定領域12内での測定位置(測定範囲)について、核磁気共鳴測定によって情報を得ようとする測定位置が、位置P(Xm,Ym)に設定されているものとする。
上記実施形態の撮像素子1A及び撮像システムでは、上記したように、検出器54による核磁気共鳴信号の取得を、測定領域12への磁場の印加条件、及びRFパルスの照射条件を適宜に設定して実行することにより、測定領域12についての2次元の画像情報が取得される。また、このような測定領域12への磁場の印加条件、及びRFパルスの照射条件は、例えばパーソナルコンピュータなどを用いて構成される撮像制御手段である制御装置56によって制御される(図3参照)。
ここで、電極群20の各電極に供給される電流パルス、及び測定領域12に照射されるRFパルスは、制御装置56によってパルス幅、強度、パルスの同期等が制御される。また、検出器54で取得された核磁気共鳴信号は制御装置56へと入力され、この制御装置56において、測定対象物13の画像化処理、あるいは量子ビットの読み出し処理などの必要な処理が行われる。
このような構成では、制御装置56が、第1傾斜磁場用電極30、35、または第2傾斜磁場用電極40、45への電流の供給、及びそれによって測定領域12に印加される傾斜磁場を制御することで、測定位置を設定する軸方向を選択するとともに、均一磁場用電極25への電流の供給、及びそれによって測定領域12に印加される均一磁場を制御することで、領域12内において、測定位置を走査することが好ましい。
このように、第1傾斜磁場用電極30、35または第2傾斜磁場用電極40、45によって傾斜磁場を印加して、測定位置を設定する軸方向(x軸方向またはy軸方向)を選択するとともに、均一磁場用電極25によって測定領域12に印加される均一磁場の大きさの設定または変更を制御することにより、領域12内における測定位置の設定、及びその変更、走査を好適に実現することができる。
具体的には、制御装置56が、複数段階の操作過程を含む測定過程について、(1)第1傾斜磁場用電極30、35への電流供給をON、第2傾斜磁場用電極40、45への電流供給をOFFとして、x軸方向について傾斜磁場が印加されて測定位置Xmが選択された状態で、測定領域12にRFパルスを照射する操作過程と、(2)第2傾斜磁場用電極40、45への電流供給をON、第1傾斜磁場用電極30、35への電流供給をOFFとして、y軸方向について傾斜磁場が印加されて測定位置Ymが選択された状態で、測定領域12にRFパルスを照射する操作過程とを含む測定過程を用いて、測定対象物13に対して核磁気共鳴による撮像を行うことが好ましい。
このような測定領域に対する磁場の印加、及びそれによる測定位置Pの選択について、図6〜図8を用いて説明する。ここで、図6に示すように、測定領域12内で設定された測定位置P(Xm,Ym)に対し、2次元の測定面であるxy面内において、測定位置Pを通りy軸に平行なx=Xmの直線をXm線、測定位置Pを通りx軸に平行なy=Ymの直線をYm線とする。
また、測定領域12に印加される磁場について、静磁場印加手段によって印加される磁場B0が測定対象物13の原子核の核スピンに共鳴する周波数に対応する磁場に固定されていると仮定する。このとき、測定領域12内の各位置(x,y)において、磁場B0に加えて電極群20によって印加される測定位置設定用の磁場をΔB(x,y)とすると、測定領域12内で測定位置設定用の磁場がΔB=0となる位置(範囲)において、核磁気共鳴が発生する。
このような条件において、第1傾斜磁場用電極30、35への電流供給をON、第2傾斜磁場用電極40、45への電流供給をOFFとして、x軸方向の測定位置Xmを選択する場合を考える。具体的には、均一磁場用電極25に対して電流源50から均一磁場発生用の電流Istが供給されて、測定領域12に均一磁場Bstが印加されているものとする。また、第1傾斜磁場用電極30、35に電流源51からx軸方向の傾斜磁場発生用の電流Ixが供給されて、測定領域12にx軸方向傾斜磁場B1(x)が印加されているものとする。
このとき、図7に示すように、測定領域12内の各位置(x,y)に対し、測定位置設定用の磁場として、x座標に依存する磁場ΔB=Bst+B1(x)が印加される。そして、ΔB=Bst+B1(Xm)=0となるx=Xmの直線であるXm線上の各位置において、核磁気共鳴が発生するための条件が満たされることとなる。均一磁場Bst、及び傾斜磁場B1(x)を設定する際には、選択しようとするx軸方向の測定位置Xmについてこのような条件ΔB=0が満たされるように、各磁場の値、及び電極に供給される電流の値が設定される。
また、y軸方向の測定位置Ymの選択についても、均一磁場Bst、及びy軸方向傾斜磁場B2(y)によって同様に、測定位置Ymを選択することができる。この場合、ΔB=Bst+B2(Ym)=0となるy=Ymの直線であるYm線上の各位置において、核磁気共鳴が発生するための条件が満たされることとなる。均一磁場Bst、及び傾斜磁場B2(y)を設定する際には、選択しようとするy軸方向の測定位置Ymについてこのような条件ΔB=0が満たされるように、各磁場の値、及び電極に供給される電流の値が設定される。
また、図8に示すように、x軸方向の測定位置Xmの選択については、上記したように測定位置Xmに対応して設定された均一磁場Bst、及び傾斜磁場B1(x)を測定領域12に印加した場合(図8(a))に加えて、逆符号の均一磁場−Bst、及び反転した傾斜磁場−B1(x)を測定領域12に印加した場合(図8(b))にも同様に、測定位置Xmを選択することができる。これは、y軸方向の測定位置Ymの選択についても同様である。このような2種類の測定位置の設定方法は、後述するように勾配エコー操作において好適に用いることができる。
次に、複数段階の操作過程を含む測定過程による核スピンの操作方法について、その具体例とともにさらに説明する。以下の説明においては、RFパルス照射前の磁場中での核スピンの状態を「初期状態」、核スピンが90°パルスの照射によって90°倒れた状態を「中間状態」、核スピンが180°倒れて反対方向を向いている状態を「反転状態」と定義する。
複数段階の操作過程を含む測定過程による原子核の核スピンの操作方法については、撮像システムの制御装置56が、複数段階の操作過程を含む測定過程を経た段階において、測定位置Pで核スピンが中間状態となり、測定位置Pを除く測定領域12内の全ての位置で核スピンが初期状態となるように、測定対象物13の原子核の核スピンを操作することが好ましい。
このように、複数段階の操作過程を含む測定過程において、測定領域12内で測定位置Pでの核スピンのみが中間状態となるように核スピンの操作を行うことにより、測定過程を経た後に検出器54によって核磁気共鳴信号の検出を行うことで、測定位置P(Xm,Ym)のみについての局所的な核スピンの情報を確実に取得することが可能となる。
具体的には、核スピンを操作する測定過程について、(1)3段階以上の操作過程を有し、測定位置の核スピンを所定状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置を除く位置の核スピンを中間状態とする前過程と、(2)3段階以上の操作過程を有し、測定位置の核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置を除く位置の核スピンを初期状態とする後過程とを含む測定過程によって、測定対象物の原子核の核スピンを操作することが好ましい。
測定対象物の原子核の核スピンの操作方法において、このように構成された測定過程を用いることにより、測定領域12内で測定位置Pでの核スピンのみを中間状態とする核スピンの操作を、少ない操作過程で確実に実現することが可能となる。具体的には、前過程を3段階の操作過程とし、後過程を同じく3段階の操作過程とした場合に、最少で6段階の操作過程によって測定過程を構成することができる。
また、このように前過程と後過程とを有して構成される測定過程において、前過程及び後過程のそれぞれは、y軸方向に延びるXm線上で中間状態になっている核スピンに対する2段階の操作過程によるy軸勾配エコー操作、またはx軸方向に延びるYm線上で中間状態になっている核スピンに対する2段階の操作過程によるx軸勾配エコー操作の少なくとも一方を含むことが好ましい。
この場合、2段階の操作過程によるx軸勾配エコー操作は、図8に模式的に示したように、均一磁場用電極25によって均一磁場Bst1が印加されるとともに、第1傾斜磁場用電極30、35によってx軸方向について傾斜磁場B1(x)が印加されてx軸方向の位置Xmが選択される第1操作過程と、均一磁場用電極25によって第1操作過程とは逆符号で均一磁場−Bst1が印加されるとともに、第1傾斜磁場用電極30、35によってx軸方向について第1操作過程とは反転した傾斜磁場−B1(x)が印加されてx軸方向の位置Xmが選択され、第1操作過程とともにx軸方向の勾配エコー操作を構成する第2操作過程とによって構成することができる。
同様に、2段階の操作過程によるy軸勾配エコー操作は、均一磁場用電極25によって均一磁場Bst2が印加されるとともに、第2傾斜磁場用電極40、45によってy軸方向について傾斜磁場B2(y)が印加されてy軸方向の位置Ymが選択される第1操作過程と、均一磁場用電極25によって第1操作過程とは逆符号で均一磁場−Bst2が印加されるとともに、第2傾斜磁場用電極40、45によってy軸方向について第1操作過程とは反転した傾斜磁場−B2(y)が印加されてy軸方向の位置Ymが選択され、第1操作過程とともにy軸方向の勾配エコー操作を構成する第2操作過程とによって構成することができる。
図9は、複数の操作過程を含む核磁気共鳴の測定過程の第1実施例を示すタイミングチャートである。また、図10は、図9に示した実施例における核スピンの操作方法を示す模式図である。なお、以下の第1〜第5実施例においては、いずれも、測定過程を最少の6段階の操作過程T1〜T6によって構成した例を示している。ただし、このような測定過程に含まれる操作過程については、7段階以上の操作過程によって測定過程を構成しても良い。
図9は、第1実施例において、測定領域12に照射されるRFパルス、及び磁場印加用電極群20に供給される磁場発生用の電流パルスについて示している。これらのうち、磁場発生用の電流パルスは、測定領域12に印加される磁場パルスに対応している。
また、以下の各実施例において核スピンの操作に用いられるRFパルスは、全て90°パルス(π/2パルス)である。この90°パルスについては、例えば、静磁場印加手段から印加される磁場B0の条件下で、測定対象物13を構成している原子核の核スピンに共鳴する周波数に固定することが好ましい。また、各RFパルスのパルス時間幅τは、所定のRF強度において、90°パルスとなる時間幅として設定される。
なお、図9のタイミングチャートにおいては、連続する操作過程のRFパルス間の時間を0とした例を示しているが、操作過程ごとにRFパルス間に時間を空ける構成としても良い。ただし、この場合のパルス時間間隔については、測定対象物13における核スピンのコヒーレント時間に比べて充分に短い時間間隔に設定することが好ましい。
また、本実施例においては、図9のチャート(a)〜(d)に示すように、RF強度、及びパルス時間幅τが同じで位相が異なる4種類のRFパルスとして、(a)位相0°の90°パルス、(b)位相90°の90°パルス、(c)位相180°の90°パルス、及び(d)位相270°の90°パルスを用いて核スピンの操作を行っている。これらのRFパルスの位相については、図3に示した構成において、位相調整器62の動作を制御することによって、RFパルスの位相を制御することができる。
また、図9において、チャート(e)、(f)、(g)は、それぞれ、電極群20から測定領域12に印加される磁場発生用に各電極へと供給される電流パルスを示すタイミングチャートである。具体的には、チャート(e)はx軸方向の第1傾斜磁場用電極30、35へと供給される電流パルスIxを、チャート(f)はy軸方向の第2傾斜磁場用電極40、45へと供給される電流パルスIyを、また、チャート(g)は均一磁場用電極25へと供給される電流パルスIstを示している。
基板10上に集積化された電極群20によって測定領域12に印加される磁場(局所磁場)を発生させるための磁場発生用電流パルスとしては、図3に関して上述したように、電流源50から電極25に供給される電流パルスIst、電流源51から電極30、35に供給される電流パルスIx、及び電流源52から電極40、45に供給される電流パルスIyの3種類の電流パルスがある。
電流パルスIstは、均一磁場Bstを発生させるための電流パルスである。また、電流パルスIxは、x軸方向についての傾斜磁場(磁場勾配)B1(x)を発生させるための電流パルスである。また、電流パルスIyは、y軸方向についての傾斜磁場B2(y)を発生させるための電流パルスである。図9のタイミングチャートにおいては、これらの電流パルスIx、Iy、Istは、上記したように、それぞれチャート(e)、(f)、(g)に示されている。
電流パルスIx、Iy、Istの電流値は、設定すべき測定位置(Xm,Ym)に対応する磁場B1(x)、B2(y)、Bstに応じた値に設定される。ここで、これらの磁場のうちで均一磁場Bstについては、以下において、x軸方向の位置Xmを選択する際の均一磁場をBst=Bst1、y軸方向の位置Ymを選択する際の均一磁場をBst=Bst2とする。
本実施例の核スピンの操作方法では、操作過程T1〜T6のうち、前半の3段階の操作過程T1〜T3が、測定位置Pの核スピンを反転状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程を構成している。また、後半の3段階の操作過程T4〜T6が、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程を構成している。
具体的には、まず、第1操作過程T1において、均一電流パルスIst1及びx軸傾斜電流パルスIxが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst1及びx軸方向傾斜磁場B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、RFパルスとして、位相0°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図10(a)に示すように、測定位置Pを含むXm線上の各位置の核スピンが、初期状態からx軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。
次に、第2操作過程T2において、均一電流パルスIst2及びy軸傾斜電流パルスIyが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst2及びy軸方向傾斜磁場B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相90°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図10(b)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、初期状態からy軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、y軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第3操作過程T3において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相0°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図10(c)に示すように、測定位置Pの核スピンが、中間状態から反転状態へと遷移する。このとき、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは変化しない。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、第2操作過程T2とは反転したy軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを反転状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程が終了する。また、この前過程を構成する操作過程T1〜T3のうち、2段階の操作過程T2、T3が、前過程におけるy軸勾配エコー操作の過程となっている。
続いて、第4操作過程T4において、均一電流パルスIst1及びx軸傾斜電流パルスIxが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst1及びx軸方向傾斜磁場B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相180°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図10(d)に示すように、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、測定位置Pの核スピンが、反転状態からx軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。また、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは、x軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第5操作過程T5において、均一電流パルス−Ist1及びx軸傾斜電流パルス−Ixが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst1及び反転したx軸方向傾斜磁場−B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、本操作過程では、測定領域12へのRFパルスの照射は行われない。これにより、図10(e)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは、第4操作過程T4とは反転したx軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
最後に、第6操作過程T6において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相270°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図10(f)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程が終了し、6段階の操作過程からなる測定過程が終了する。また、この後過程を構成する操作過程T4〜T6のうち、2段階の操作過程T4、T5が、後過程におけるx軸勾配エコー操作の過程となっている。
このように、測定位置Pで核スピンが中間状態となり、測定位置Pを除く測定領域12内の全ての位置で核スピンが初期状態となった図10(f)の状態で、検出器54によって核磁気共鳴信号の検出を行う。これにより、測定位置P(Xm,Ym)における局所的な核スピンの情報を選択的に取得することができる。核磁気共鳴信号を取得したら、必要に応じて核スピンを緩和もしくは励起させて、初期状態へと戻す。
また、上記方法において、測定位置(Xm,Ym)は、測定領域12に印加される均一磁場及び傾斜磁場の組合せ、すなわち電極群20の各電極に供給される電流値の組合せによって設定される。したがって、これらの電流値を制御して測定位置を測定領域12内で走査することによって、測定領域12内にある測定対象物13の2次元の画像情報を、高分解能で取得することが可能である。
また、例えばこのような核磁気共鳴撮像システムを、ナノ領域の核スピンを量子ビットとした量子コンピュータ等における量子ビットの局所検出装置に応用する場合、上記の電流値を制御することにより、読み出す量子ビットを選択することが可能となる。
図11は、複数の操作過程を含む核磁気共鳴の測定過程の第2実施例を示すタイミングチャートである。また、図12は、図11に示した実施例における核スピンの操作方法を示す模式図である。
本実施例の核スピンの操作方法では、操作過程T1〜T6のうち、前半の3段階の操作過程T1〜T3が、測定位置Pの核スピンを反転状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程を構成している。また、後半の3段階の操作過程T4〜T6が、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程を構成している。また、本実施例の測定過程において、操作過程T1〜T3を含む前過程については第1実施例と同様である。
続いて、第4操作過程T4において、均一電流パルスIst2及びy軸傾斜電流パルスIyが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst2及びy軸方向傾斜磁場B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相270°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図12(d)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、測定位置Pの核スピンが、反転状態からy軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、y軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第5操作過程T5において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、本操作過程では、測定領域12へのRFパルスの照射は行われない。これにより、図12(e)に示すように、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、第4操作過程T4とは反転したy軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
最後に、第6操作過程T6において、均一電流パルス−Ist1及びx軸傾斜電流パルス−Ixが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst1及び反転したx軸方向傾斜磁場−B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相180°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図12(f)に示すように、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程が終了し、6段階の操作過程からなる測定過程が終了する。また、この後過程を構成する操作過程T4〜T6のうち、2段階の操作過程T4、T5が、後過程におけるy軸勾配エコー操作の過程となっている。
このように、測定位置Pで核スピンが中間状態となり、測定位置Pを除く測定領域12内の全ての位置で核スピンが初期状態となった図12(f)の状態で、検出器54によって核磁気共鳴信号の検出を行う。これにより、測定位置P(Xm,Ym)における局所的な核スピンの情報を選択的に取得することができる。
また、本実施例は、測定過程の前過程、及び後過程での勾配エコー操作についての構成が第1実施例と異なっている。すなわち、図9、図10に示した第1実施例では、前過程において、y軸方向に延びるXm線上の核スピンに対する2段階の操作過程T2、T3によるy軸勾配エコー操作を行うとともに、後過程において、x軸方向に延びるYm線上の核スピンに対する2段階の操作過程T4、T5によるx軸勾配エコー操作を行っている。
これに対して、図11、図12に示した第2実施例では、前過程において、Xm線上の核スピンに対するy軸勾配エコー操作を行うとともに、後過程において、同じくXm線上の核スピンに対するy軸勾配エコー操作を行っている。このように、測定過程での前過程及び後過程における勾配エコー操作については、両者で同じ軸方向の勾配エコー操作を行う構成としても良い。
一般には、上記したように、測定過程において、前過程及び後過程のそれぞれで、y軸方向に延びるXm線上で中間状態になっている核スピンに対する2段階の操作過程によるy軸勾配エコー操作、またはx軸方向に延びるYm線上で中間状態になっている核スピンに対する2段階の操作過程によるx軸勾配エコー操作の少なくとも一方を実行することが好ましい。これにより、最終的に測定領域12内で測定位置Pでの核スピンのみを中間状態とする核スピンの操作を好適に実現することができる。
図13は、複数の操作過程を含む核磁気共鳴の測定過程の第3実施例を示すタイミングチャートである。また、図14は、図13に示した実施例における核スピンの操作方法を示す模式図である。
本実施例の核スピンの操作方法では、操作過程T1〜T6のうち、前半の3段階の操作過程T1〜T3が、測定位置Pの核スピンを初期状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程を構成している。また、後半の3段階の操作過程T4〜T6が、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程を構成している。
具体的には、まず、第1操作過程T1において、均一電流パルスIst1及びx軸傾斜電流パルスIxが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst1及びx軸方向傾斜磁場B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、RFパルスとして、位相0°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図14(a)に示すように、測定位置Pを含むXm線上の各位置の核スピンが、初期状態からx軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。
次に、第2操作過程T2において、均一電流パルスIst2及びy軸傾斜電流パルスIyが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst2及びy軸方向傾斜磁場B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相90°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図14(b)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、初期状態からy軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、y軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第3操作過程T3において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相180°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図14(c)に示すように、測定位置Pの核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。このとき、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは変化しない。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、第2操作過程T2とは反転したy軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを初期状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程が終了する。また、この前過程を構成する操作過程T1〜T3のうち、2段階の操作過程T2、T3が、前過程におけるy軸勾配エコー操作の過程となっている。
続いて、第4操作過程T4において、均一電流パルスIst1及びx軸傾斜電流パルスIxが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst1及びx軸方向傾斜磁場B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相180°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図14(d)に示すように、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、測定位置Pの核スピンが、初期状態からx軸の負の方向を向く中間状態へと遷移する。また、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは、x軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第5操作過程T5において、均一電流パルス−Ist1及びx軸傾斜電流パルス−Ixが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst1及び反転したx軸方向傾斜磁場−B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、本操作過程では、測定領域12へのRFパルスの照射は行われない。これにより、図14(e)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは、第4操作過程T4とは反転したx軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
最後に、第6操作過程T6において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相270°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図14(f)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程が終了し、6段階の操作過程からなる測定過程が終了する。また、この後過程を構成する操作過程T4〜T6のうち、2段階の操作過程T4、T5が、後過程におけるx軸勾配エコー操作の過程となっている。
このように、測定位置Pで核スピンが中間状態となり、測定位置Pを除く測定領域12内の全ての位置で核スピンが初期状態となった図14(f)の状態で、検出器54によって核磁気共鳴信号の検出を行う。これにより、測定位置P(Xm,Ym)における局所的な核スピンの情報を選択的に取得することができる。
また、本実施例は、操作過程T1〜T3による前過程を経た段階において、測定位置Pで核スピンが初期状態となっている点で第1実施例と異なっている。すなわち、図9、図10に示した第1実施例では、前過程を経た段階において、測定位置Pで核スピンが反転状態となっている。これに対して、図13、図14に示した第3実施例では、前過程を経た段階において、測定位置P以外の位置での核スピンは第1実施例と同じ状態であるが、測定位置Pの核スピンは反転状態ではなく初期状態となっている。
一般には、前過程を経た段階において、測定位置Pの核スピンを反転状態または初期状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とすることが好ましい。これにより、最終的に測定領域12内で測定位置Pでの核スピンのみを中間状態とする核スピンの操作を好適に実現することができる。
図15は、複数の操作過程を含む核磁気共鳴の測定過程の第4実施例を示すタイミングチャートである。また、図16は、図15に示した実施例における核スピンの操作方法を示す模式図である。
本実施例の核スピンの操作方法では、操作過程T1〜T6のうち、前半の3段階の操作過程T1〜T3が、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程を構成している。また、後半の3段階の操作過程T4〜T6が、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程を構成している。
具体的には、まず、第1操作過程T1において、均一電流パルスIst1及びx軸傾斜電流パルスIxが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst1及びx軸方向傾斜磁場B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、RFパルスとして、位相0°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図16(a)に示すように、測定位置Pを含むXm線上の各位置の核スピンが、初期状態からx軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。
次に、第2操作過程T2において、均一電流パルスIst2及びy軸傾斜電流パルスIyが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst2及びy軸方向傾斜磁場B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相90°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図16(b)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、初期状態からy軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、y軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第3操作過程T3において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、本操作過程では、測定領域12へのRFパルスの照射は行われない。これにより、図16(c)に示すように、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、第2操作過程T2とは反転したy軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程が終了する。また、この前過程を構成する操作過程T1〜T3のうち、2段階の操作過程T2、T3が、前過程におけるy軸勾配エコー操作の過程となっている。
続いて、第4操作過程T4において、均一電流パルスIst2及びy軸傾斜電流パルスIyが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst2及びy軸方向傾斜磁場B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相0°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図16(d)に示すように、測定位置Pの核スピンが、中間状態から反転状態へと遷移する。このとき、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは変化しない。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、y軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第5操作過程T5において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相270°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図16(e)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、測定位置Pの核スピンが、反転状態からy軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。また、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンは、第4操作過程T4とは反転したy軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
最後に、第6操作過程T6において、均一電流パルス−Ist1及びx軸傾斜電流パルス−Ixが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst1及び反転したx軸方向傾斜磁場−B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相180°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図16(f)に示すように、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程が終了し、6段階の操作過程からなる測定過程が終了する。また、この後過程を構成する操作過程T4〜T6のうち、2段階の操作過程T4、T5が、後過程におけるy軸勾配エコー操作の過程となっている。
このように、測定位置Pで核スピンが中間状態となり、測定位置Pを除く測定領域12内の全ての位置で核スピンが初期状態となった図16(f)の状態で、検出器54によって核磁気共鳴信号の検出を行う。これにより、測定位置P(Xm,Ym)における局所的な核スピンの情報を選択的に取得することができる。
また、本実施例は、測定領域12へのRFパルスの照射が行われない操作過程が前過程に含まれている点で第1実施例と異なっている。すなわち、図9、図10に示した第1実施例では、後過程に含まれる操作過程T5が、測定領域12へのRFパルスの照射が行われない操作過程となっている。これに対して、図15、図16に示した第4実施例では、前過程に含まれる操作過程T3が、測定領域12へのRFパルスの照射が行われない操作過程となっている。
前過程及び後過程において1回ずつ行われる勾配エコー操作に用いられる4段階の操作過程では、そのうちの1回をRF照射なしとして勾配エコーのみを行う操作過程とすることが好ましい。また、このRF照射なしの操作過程については、上記したように前過程及び後過程のいずれに含まれる構成としても良い。また、RF照射なしの操作過程が前過程に含まれる第4実施例では、図16に示すように、前過程を経た段階における測定位置Pの核スピンが、反転状態または初期状態ではなく中間状態のままとなっており、後過程の最初の操作過程T4において核スピンが反転状態とされる。
一般には、RFパルスの照射を行わない操作過程が後過程に含まれる場合(第1、2、3実施例)、前過程を経た段階において、測定位置Pで核スピンが反転状態または初期状態となることが好ましい。また、RFパルスの照射を行わない操作過程が前過程に含まれる場合(第4実施例)、前過程を経た段階において、測定位置Pで核スピンが中間状態となるとともに、後過程の最初の操作過程を経た段階において、測定位置Pで核スピンが反転状態または初期状態となることが好ましい。
図17は、複数の操作過程を含む核磁気共鳴の測定過程の第5実施例を示すタイミングチャートである。また、図18は、図17に示した実施例における核スピンの操作方法を示す模式図である。
本実施例の核スピンの操作方法では、操作過程T1〜T6のうち、前半の3段階の操作過程T1〜T3が、測定位置Pの核スピンを反転状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを中間状態とする前過程を構成している。また、後半の3段階の操作過程T4〜T6が、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程を構成している。また、本実施例の測定過程において、操作過程T1〜T3を含む前過程については第1実施例と同様である。
続いて、第4操作過程T4において、均一電流パルスIst1及びx軸傾斜電流パルスIxが電極群に供給され、測定領域12に対して均一磁場Bst1及びx軸方向傾斜磁場B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、本操作過程では、測定領域12へのRFパルスの照射は行われない。これにより、図18(d)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは、x軸方向の傾斜磁場によって位相がずれる。
次に、第5操作過程T5において、均一電流パルス−Ist1及びx軸傾斜電流パルス−Ixが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst1及び反転したx軸方向傾斜磁場−B1(x)が印加される。このとき、x軸方向の位置Xmが選択され、Xm線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相180°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図18(e)に示すように、測定位置Pを除くXm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、測定位置Pの核スピンが、反転状態からx軸の正の方向を向く中間状態へと遷移する。また、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンは、第4操作過程T4とは反転したx軸方向の傾斜磁場によって位相が再収束する。
最後に、第6操作過程T6において、均一電流パルス−Ist2及びy軸傾斜電流パルス−Iyが電極群に供給され、測定領域12に対して逆符号の均一磁場−Bst2及び反転したy軸方向傾斜磁場−B2(y)が印加される。このとき、y軸方向の位置Ymが選択され、Ym線上において核磁気共鳴の発生条件が満たされた状態となる。また、位相270°のRFパルスが測定領域12に照射される。これにより、図18(f)に示すように、測定位置Pを除くYm線上の各位置の核スピンが、中間状態から初期状態へと遷移する。また、このとき、測定位置Pの核スピンは変化しない。
以上により、本実施例での測定過程における、測定位置Pの核スピンを中間状態とし、Xm線上及びYm線上で測定位置Pを除く位置の核スピンを初期状態とする後過程が終了し、6段階の操作過程からなる測定過程が終了する。また、この後過程を構成する操作過程T4〜T6のうち、2段階の操作過程T4、T5が、後過程におけるx軸勾配エコー操作の過程となっている。
このように、測定位置Pで核スピンが中間状態となり、測定位置Pを除く測定領域12内の全ての位置で核スピンが初期状態となった図18(f)の状態で、検出器54によって核磁気共鳴信号の検出を行う。これにより、測定位置P(Xm,Ym)における局所的な核スピンの情報を選択的に取得することができる。
また、本実施例では、後過程に含まれるx軸勾配エコー操作の操作過程T4、T5において、RF照射なしの操作過程が後段の操作過程T5ではなく、前段の操作過程T4となっている点で第1実施例と異なっている。このように、RF照射なしの操作過程については、勾配エコー操作の前段、後段の操作過程のいずれに設定しても良い。これは、前過程に含まれる勾配エコー操作においてRF照射なしの操作過程を用いる構成においても同様である。
本発明による核磁気共鳴撮像システム、及び撮像方法は、上記した実施形態及び実施例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、磁場印加用電極群を構成する各電極の具体的な電極パターンについては、図1に示した構成以外にも様々な構成を用いて良い。一般には、基板に集積化される磁場印加用電極群は、測定領域に対して、設定すべき測定位置に応じた均一磁場を印加する均一磁場用電極と、測定領域に対して、基板の測定面に平行なx軸方向について傾斜磁場を印加する第1傾斜磁場用電極と、測定領域に対して、測定面に平行でx軸と直交するy軸方向について傾斜磁場を印加する第2傾斜磁場用電極とを有して構成されていれば良い。
また、撮像素子における基板、電極群、RFアンテナの積層構造等についても、上記した構成に限らず、様々な構成を用いて良い。また、上記構成の撮像素子を用いた具体的な撮像方法についても、上記した方法に限らず、具体的な測定対象物の種類、配置、電極群の構成等に応じて様々な方法を用いることが可能である。
また、上記実施形態では、核磁気共鳴測定に用いられる核磁気共鳴撮像素子として、一方の面が測定面となっている基板を有し、磁場印加用電極群が基板の測定面上に集積化されて設けられた構成の撮像素子を用いている。一般には、核磁気共鳴撮像素子は、核磁気共鳴の測定領域に磁場を印加して、測定領域内で局所的な測定位置を設定するための磁場印加用電極群、及び測定領域に対してRFパルスを照射するためのRF照射手段を含み、磁場印加用電極群が、均一磁場用電極と、x軸方向についての第1傾斜磁場用電極と、y軸方向についての第2傾斜磁場用電極とを有する構成であれば良い。
また、上記した第1〜第5実施例では、いずれも測定過程において、前過程が、RFパルスとして位相0°の90°パルスを照射する操作過程と、位相90°の90°パルスを照射する操作過程とを含み、後過程が、RFパルスとして位相180°の90°パルスを照射する操作過程と、位相270°の90°パルスを照射する操作過程とを含む構成を用いている。
このような測定過程については、上記した構成に限らず、例えば、前過程が、RFパルスとして位相0°の90°パルスを照射する操作過程と、位相270°の90°パルスを照射する操作過程とを含み、後過程が、RFパルスとして位相180°の90°パルスを照射する操作過程と、位相90°の90°パルスを照射する操作過程とを含む構成とすることも可能である。また、前過程及び後過程のそれぞれにおける勾配エコー操作については、その前段、後段の操作過程での傾斜磁場の向きを入れ換えても良い。
1A…核磁気共鳴撮像素子、10…基板、11…測定面、12…測定領域、13…測定対象物、15…RFアンテナ、16…絶縁層、20…磁場印加用電極群、25…均一磁場用電極、26、27…配線、30、35…第1傾斜磁場用電極、31、32、36、37…配線、40、45…第2傾斜磁場用電極、41、42、46、47…配線、50…均一磁場用電流源、51…第1傾斜磁場用電流源、52…第2傾斜磁場用電流源、54…検出器、56…制御装置、60…RF波発生器、61…分配器、62…位相調整器、63…第1スイッチ、64…第2スイッチ、65…合成器。