JP5096137B2 - 新規エレクトロクロミック材料及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は、種々の装置に使用されるエレクトロクロミック材料に関する。
エレクトロクロミック材料、即ち、酸化又は還元時に色を変える材料は、近年、益々商業的な重要性が増してきている。エレクトロクロミック装置は、陽極、陰極、電解質、及び限定された表面にあるか、あるいは溶解されている一種以上のエレクトロクロミック材料を含む電解セルであり、当該電解セルは、一方の(あるいは双方の)電極(陽極及び陰極)での電気化学反応の結果として色変化が観察されるように、当該装置の光吸収特性を変える手段を提供する。
広範な種類のエレクトロクロミック材料及び装置が、記述されてきた。エレクトロクロミック装置は、スマートウィンドー、自動調光ミラー、及び固定又は変調ディスプレーとしての用途が見出されている。種々な範疇のエレクトロクロミック材料に係る報告が、発表されてきた(例えば、N. Rowley と R. Mortimer 著の「New Electrochromic Materials(新規なエレクトロクロミック材料)」、Science Progress 発行(2002年)、85巻3号、243〜262頁、及びK. Ho, C. Greenberg、D. MacArthur 編の「電気化学協会会報」に掲載された「Electrochromic Materials(エレクトロクロミック材料)」 、96巻23号、1997年参照)。エレクトロクロミック効果を論証する最も重要な化合物の種類は、遷移金属酸化物、プラッシアンブルー系、ビオロゲン、導電性ポリマー、並びに遷移金属及びランタニドの配位錯体である。
電子搬送体として金属酸化物を用いるエレクトロクロミック方式は、透明な導電性電極上に析出された、例えば、WO3、NiO、MoO3、IrO2又はCO23などの遷移金属酸化物の層の色変化を利用する。密接に関連する装置では、当該エレクトロクロミック材料として、プラッシアンブルー(FeIIFeIII(CN)6 -及び類似物のようなフェリシアン化鉄系の無機「ポリマー」材料)を使用する。これらの無機エレクトロクロミック材料を用いる方式の色変化は、酸化又は還元時の電解質から無機バルク層への対イオンのインターカレーションの結果であるので、かかる装置での関連する色変化は、比較的小面積の装置の場合でも数十秒のオーダーでかなり遅い。応答時間は、その金属酸化物の層を極めて薄くすることによって改良されるが、そうすると容認できないほど劣ったコントラスト装置になってしまう。よって、これらの無機エレクトロクロミック方式は、現在のところ、エレクトロクロミックウィンドーの用途への利用に限られている。
エレクトロクロミックポリマーが広く研究されてきた結果、酸化又は還元時での色変化の範囲を提案することができる。ピロール、チオフェン、アニリン、フラン、カルバゾール、アズレン、及びインドールのような芳香族化合物の化学的又は電気化学的な酸化によって生成されるポリマーが、最も一般的なものであった。当該エレクトロクロミックポリマーが透明な導電性基板上に薄膜として析出されたエレクトロクロミック装置が、記載されている。多くのポリマー電子発色団は、酸化又は還元状態での安定性に限られていた。当該装置の作動時での遅い応答時間に起因する制限は、電荷バランスを維持するため対イオンが拡散により当該ポリマー層に出入りしなければならない際にも、遭遇している。
遷移金属の錯体やフタロシアニンも、また、エレクトロクロミック材料としての用途に使用されてきたが、限られた用途しか見出されていない。
酸化又は還元時に色を変える分子エレクトロクロミック材料は、最近になって、大きな関心がもたれている。とりわけ、最も利用されるグループのエレクトロクロミック材料は、ビオロゲンとしてよく知られている、1,1´−二基置換−4,4´−ビピリニジウム塩である。この電子発色団分子は、二つの対向透明電極間に挿まれている電解質溶液に溶解されていてもよい。少なくとも一種の可溶性分子電子発色団及び第二の可溶性(分子)又は不溶性(金属酸化物又はプルシアンブルー)の電子発色団を含むかかる装置は、米国特許第6,433,914号、同第4,902,108号、及び同第5,128,700号明細書に記載されている。この設計の変形では、A. Sammells等の「J. Electrochem. Soc.(電気化学協会誌)」、1986年、133巻、1270頁、及びHo. & Greenberg 編の「Electrochromic Materials(エレクトロクロミック材料)、1997年、電気化学協会、ニュージャージー州、ペニントンに開示されるような、透明な導電性電極上に析出されたポリマー薄膜に結合している、あるいはそれに含まれている電子発色団分子を利用している。これに代えて、電子発色団分子が、化学吸着法あるいは化学結合生成法のいずれかによって、透明な、ナノ微晶質薄膜電極の表面に、直接結合されてもよい。電子発色団分子の単層を、透明で、広い表面積の、ナノ多孔質−ナノ微晶質半導体電極に結合させると、強いエレクトロクロミックのコントラスト変化及び比較的短いスイッチング時間をもつ装置を得ることが可能となる。かかるナノ微晶質エレクトロクロミック装置は、Fitzmaurice 等の「Displays(ディスプレー)」(1999年)、20号、137〜144頁、「J. Phys. Chem. B2000(ジャーナル・オブ・フィジカルケミストリー B2000)」、104巻、1号、1449〜1459頁、WO97/35227、WO98/35267、米国特許第6,301,038号、同第6,605,239号明細書、WO127690、WO98/3267、及び、米国特許出願2002/0181068号、同出願2002/0021482号明細書(分子電子発色団を化学吸着させることによって変性された半導体ナノ構造の金属酸化物を含む少なくとも1個の電極を含む)に記載されている。
ナノ微晶質金属酸化物薄膜のナノ多孔質特性のために、化学吸着したエレクトロクロミック分子の単分子層は、両電極及び対イオンを含有する電解質溶液と接していて、それにより、エレクトロクロミックレドックス過程時に速やかな電荷補償を促進し、そして速やかなスイッチング時間を確保している。良好な薄膜形成性を有し、また高い導電性と透明性を有することが分っているナノ多孔質−ナノ微晶質金属酸化物は、Gratzel 等の「J. Amer. Chem. Soc.(アメリカ化学協会誌)」1993年、115巻、6382頁に開示されているようなTiO2である。また、ナノ微晶質SnO2も、Fitzmaurice 等の「J. Phys. Chem. B2000(ジャーナル・オブ・フィジカルケミストリー B2000)」、104巻、1号、1449〜1459頁に、エレクトロクロミック装置に使われることが記載されている。
更に、TiO2のような、透明なナノ微晶質金属酸化物電極と組合せて使用する場合には、電子が導電帯から分子電子発色団に可逆的に移動するために、当該電子発色団が、液体−電解質界面で、TiO2の導電帯エッジに近接して存在するレドックス電位を有することが必要である。よって、TiO2を使用するときには、電解還元時に色変化を受けるための分子が必要である。
電解還元時に、透明で、薄く着色した状態から、安定した強く着色した(ラジカル)状態に、可逆的な色変化を受けることが分かっている分子電子発色団には、ビオロゲン、同類のジアザピレニウム、ペリレンジカルボキシイミド、及びナフタレンジカルボキシイミドが含まれる。電解還元時に、透明で、薄く着色した状態から、安定した強く着色した(ラジカル)状態に、可逆的な色変化を受けることが分かっている分子電子発色団には、フェノチアジン、トリアリールアミン、置換フェニレンジアミン、及び、とりわけフェロセンが含まれる。
ビオロゲンは、最も研究され、商業的にも利用される分子電子発色団材料である。そのジカチオン形態、つまり酸化形態は、無色であり、電解還元すると、安定な強く着色されたラジカル陽イオンが生じる。適当な分子起動エネルギーレベルに達するように好適な窒素置換体を選べば、原理上は、ラジカル陽イオンのカラー選択が可能である。短いアルキル鎖を含有するビオロゲンでは、青紫色に着色したラジカル陽イオンが得られる。より長い鎖を含有するもの又は芳香族環含有置換体では、種々なビオロゲン状態の電荷移動錯体化(二量体化)に起因して、深紅色に着色したラジカルが得られる傾向がある。典型的な、N,N´−ジアルキルビオロゲンの陽イオンラジカルでは、有機溶媒中で、10000〜20000M-1cm-1の吸光係数で、600nm近辺に最大の吸収を示す。当該ビオロゲンは、一般に、低い電気化学的還元電位(例えば、−0.1〜−0.5V/SCE)を有し、よって、ナノ微晶質TiO2材料との使用に極めて好適である。ビオロゲン電子発色団は、安定で強く着色したラジカル状態が得られるけれども、当該ビオロゲンには、合成的に置換許容な置換体の種類や、達成可能な色範囲が極めて限られているという欠点がある。更にまた、ビオロゲンの可溶性形態、特に、N,N´−ジメチルビオロゲンは、発癌物質であることが知られ、したがって、その製造及びかかる物質を含むエレクトロクロミック装置の廃棄に関しては深刻な健康問題を有する。
他の電子発色団、例えば、ペリレンジカルボキシイミド及びナフタレンジカルボキシイミド類から得られるものは、低い電気化学還元電位を有するが、しかし、これらは、一般の溶媒に対して極く限られた可溶性しか有しないため、その合成及び使用が難しい。
多くの有機分子、特に、共役炭素環式及び複素環式芳香族化合物では、電気化学的酸化又は還元時に色の変化を受けるけれども、電子発色性方式に高い影響力又は実用性が見出せるような分子は、限られた数しかない。分子電子発色団に係る望ましい特性には、「オフ」状態(非還元又は非酸化状態)での目に見える色領域における高度な透明性、電解還元又は電解酸化(「オン」状態)時での可視スペクトル領域における高い吸収性、還元/酸化のための低い電気化学的電位、「オン」又は「オフ」状態での高い安定性(双安定性)、出発分子構造の合成的変換による色調和性、簡便な合成、一般溶媒での高い可溶性、及び低い毒性が含まれる。好ましい電子発色団は、酸化又は還元時に、つまり、無色から強く着色された状態へ、あるいは着色された状態から無色の状態に変わるときに、最も大きなコントラストの変化を受けるものである。酸化又は還元時に、ある着色状態から異なる着色状態に変わる電位発色団は、あまり望ましくないものである。
新規で改良された電子発色団分子、特に、高コントラストのエレクトロクロミック効果を示し、低い電気化学電位を有し、合成的に調和可能な色を有し、双安定性であり、通常の溶媒に可溶性であり、しかも非発癌性であるもの、を求める絶えざる要求がある。本発明の目的は、種々なエレクトロクロミック装置に使用するかかる新規な電子発色団材料を提供することにある。
本発明によれば、以下の一般構造I:
Figure 0005096137
式中、
Xは、炭素、窒素、酸素、又は硫黄であり、
nは、0、1、又は2であり、
3は、独立して、電子吸引性基又は置換もしくは非置換のアルキル又はアリール基であり、
1及びR5は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、又は置換もしくは非置換の複素環式基を表し、そして
2及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は電子吸引性基、又は置換もしくは非置換のアルキル基を表す、
の置換−1,1−ジオキソ−チオピランを含む、エレクトロクロミック材料、及び当該エレクトロクロミック材料を用いた装置が提供される。
本発明には、数個の利点が含まれ、それらの全てではないが、いくつかは単一の実施態様に含まれる。本発明のエレクトロクロミック材料は、エレクトロクロミックディスプレー及び装置における電子発色団としての応用に理想的な特性を有している。これらのチオピランの1電子を還元すると、強く着色し、非常に安定なラジカルが得られるが、これば、エレクトロクロミックの用途に極めて有用である。相当するチオピランラジカルの色は、出発の構造について簡便な合成操作を施すことによって容易に変わる。本発明のエレクトロクロミック用途に係る新規な材料は、色調和可能性、双安定性、非毒性、低い電気化学的還元電位に起因する低い動作電圧という利点を有する。
本発明は、新規な種類の電子発色団(本明細書では、また、「エレクトロクロミック材料」とも言う)に関し、更に詳細には、二基置換−ジオキソ−チオピラン電子発色団、及び特に可逆的な濾光又は光学ディスプレーに適したそれを用いたエレクトロクロミック装置に関する。当該好ましい電子発色団は、高い着色とコントラスト、双安定性、低い還元電位、色調和性、及び低毒性を有する。
以下に示す一般構造Iの置換−1,1−ジオキソ−チオピランは、エレクトロクロミック装置に用いる電子発色団に関して望ましい特性を示す。
Figure 0005096137
式中、Xは、炭素、窒素、酸素、又は硫黄であり、nは、0、1、又は2であり、R3は、独立して、電子吸引性基又は置換もしくは非置換のアルキル又はアリール基であり、R1及びR5は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、又は置換もしくは非置換の複素環式基(例えば、ピリジン、ピロール、フラン、チエニル)を表し、そしてR2及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は電子吸引性基、又は置換もしくは非置換のアルキル基を表す、
例えば、R3は、ハロゲン、シアノ、COOH、CO2CH3、CO2−アルキル、CON(C25)2、SO2CH3、SO2−アリール、SO2CF3、SO2−アルキル、PO32、SO3H、B(OH)2、又はSO2N(C25)2のような電子吸引性基であってよい。一の実施態様では、nが、1又は2であるときに、R3が、別個に又は独立して、置換もしくは非置換のアリール又は置換もしくは非置換のアルキルであってもよい。更に、R3は、それらが結合している炭素原子と一緒になって縮合した、1個以上の電子吸引性基を含有する飽和もしくは不飽和の5−又は6−員環を形成していてもよい。
例えば、R1及びR5は、置換もしくは非置換のアルキル基、フェニル、ナフチルのような置換もしくは非置換のアリール基、又はピリジン、ピロール、フラン、又はチエニルのような置換もしくは非置換の複素環式基を表してもよい。
2及びR4は、それぞれ独立して、水素、又はハロゲン、シアノ、COOH、CO2CH3、CO2−アルキル、CON(C25)2、SO2CH3、SO2−アリール、SO2CF3、PO32、SO3H、B(OH)2、SO2N(C25)2のような電子吸引性基、又は置換もしくは非置換のアルキル基、フェニル、ナフチルのような置換もしくは非置換のアリール基、又はピリジン、ピロール、フラン、又はチエニルのような置換もしくは非置換の複素環式基を表してもよい。
1及びR2又はR4及びR5は、それらが結合している炭素原子と一緒になって縮合した飽和もしくは不飽和の5−又は6−員環を形成してもよい。一の実施態様では、式Iのエレクトロクロミック材料では、Xが炭素であり、そしてnの値が2である。その他の実施態様では、Xが窒素であり、そしてnが1である。その他の実施態様では、Xが酸素又は硫黄であり、そしてnの値が0である。
本明細書で使用する用語「アリール」又は「アリール基」は、フェニル又はナフチルのような非置換アリール基、及び置換アリール基の両者を意味する。本明細書中でアリール基のような基に言及する際に使用する用語「置換の」は、かかる基が、低級アルキル、低級アルケン、ニトロ、ハロ、第一、第二又は第三アミノ、シアノ、スルフェート、カルボキシレート、ホスホネートなどのような基で置換されていることを意味する。本明細書で使用する用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、又は沃素を意味する。低級アルキルは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、例えば、メチル、エチルなどをいう。更に、アルキル、アルキレン基又はアルケニル基に関しては、これらが分枝されていても、あるいは分枝されていなくてもよく、また環構造を含むと解される。一般構造Iの置換−1,1−ジオキソ−チオピランは、好ましくは、2,6−二基置換−1,1−ジオキソ−チオピランである。
2−及び6−位に種々の置換基をもつ中間体4H−チオピラン−4−オン1,1−ジオキシドを製造する合成ルートは、米国特許第4,514,482号、同第5,039,585号明細書、並びにN. Rule、M. Detty、J. Kaeding、J. Sinicropi等発表の「J. Org. Chem.(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー)」、1995年、60巻、1665頁、及びC. Chen、G. Reynolds、H. Luss、J. Perlstein等発表の「J. Org. Chem. (ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー)」、1986年、51巻、3282頁に記載されている。当該チオピラン−4−オン中間体は、M. Detty、R. Eachus、J. Sinicropi、J. Lenhard、M. McMillan、A. Lanzafame、H. Luss、R. Young、J. Eilers等発表の「J. Org. Chem.(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー)」、1995年、60巻、1674頁(これらはここで参照したことにより、全てが本明細書中に含まれる。)に開示されるように、ジシアノメチリデン及び関連する誘導体に容易に変換される。
また、本明細書に記載の本発明によれば、不可逆的な化学吸着のナノ微晶質金属酸化物電極を促進させる官能基を含むチオピラン電子発色団が提供される。特に有用な官能基には、TiO2又はSnO2表面の活性部位、つまりナノ多孔質−ナノ微晶質の薄膜を構成するナノ微晶質に容易に結合するものである。上記で定義したように、これらの官能基は、置換基R1〜R5の一部として含まれてよい。不可逆的な化学吸着を促進させる好ましい基は、TiIV又はSnIVに対して強い親和性を有することが先に示されたもの、即ち、カルボキシレート、サリシレート、又はホスホネートなどである。一種以上のこれらの基が、一般構造Iに含まれてよい。
電子発色団Iの実証的な具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定される、と解してはならない。
Figure 0005096137
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上記に挙げた好ましい化合物には、I−1〜I−6、I−8〜I−13、I−15〜I−25、I−27〜I−35、I−40、I−41、I−46、I−48、I−49が含まれる。更に、化合物I−7、I−14、I−26、I−36〜I−38、I−42〜I−44、I−47、I−62〜I−65、I−69が好ましい。より好ましい化合物には、I−39、I−66、I−67、I−68、I−50〜I−61、I−70、I−71が含まれる。本発明の最も好ましい電子発色団には、I−2,I−6、及びI−8が含まれる。一つの好ましい実施態様では、エレクトロクロミック材料には、ナノ微晶質のTiO2又はSnO2に結合する基を有するエレクトロクロミックスルホン構造が含まれる。
本発明の分子電子発色団は、その電気化学的還元電位に特徴を有する。ある種のチオピラン誘導体は、M. Detty、R. Eachus、J. Sinicropi、J. Lenhard、M. McMillan、A. Lanzafame、H. Luss、R.Young、J. Eilers等発表の「J. Org. Chem.(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリ)」、1995年、第60巻、1674頁に記載されるように、低い電気化学的還元電位を有して、安定なラジカルを形成することが既に報告されている。好ましくは、当該電子発色団は、飽和カロメル電極(SCE)に対して−1.0〜+0.2ボルトの電気化学的還元電位を有する。より好ましくは、当該電子発色団は、SCEに対して−0.8〜−0.1ボルトの電気化学的還元電位を有する。最も好ましくは、当該電子発色団は、SCEに対して−0.6〜−0.2ボルトの電気化学的還元電位を有する。
また、本発明の分子エレクトロクロミック材料は、中性状態の色及び還元、好ましくは1電子の還元によって発生するラジカルイオンの色に特徴を有する。中性状態とラジカルイオン状態との間の色差は、屡、コントラスト変化と呼ばれる。大きなコントラスト変化が好ましい。これらのエレクトロクロミックスルホン材料のいくつかの用途の場合では、スルホンの中性形態が無色であることが好都合であるといえる。一般構造Iのエレクトロクロミック材料に係る無色の中性形態は、置換基R1〜R5に1個以上の電子吸引性置換基を有するときが好ましい。したがって、例えば、無色の中性状態は、R3にジシアノメチリデンを含み、R1及びR5置換基がトリフルオロメチルフェニルである実証的具体例I−6において得られる。また、無色の中性状態は、置換基R1及びR5がアルキルで、Xが炭素であるときに得られやすい。1電子の還元によって発生するラジカルイオンは、可視スペクトル領域に高い吸光度の吸収を示すことが、好ましい。また、対応するラジカルイオンの色は、一般構造Iの材料を合成的に変性することによって調整可能であることが、好ましい。一般構造Iの電子発色団における色調整は、Xを変えることによって、及び/又は置換基R1〜R5を変えることによって達成される。例えば、ラジカル陽イオンの色は、実証的な具体例I−6〜I−8では、R1及びR5の置換基をトリフルオロフェニルからニトロフェニルに合成的に変えることによって、紫色から緑色に変えることができる。三原色のディスプレー用途の場合には、種々のX及び/又は種々のR1〜R5をもつ一般構造Iの複数個のエレクトロクロミック材料が用いられて、還元時に、赤、緑、及び青色、あるいは、これに加えて、シアン、マゼンタ、及びイエロー色が発色する。
また、本発明の電子発色団は、付加的な特性も示す。当該エレクトロクロミック材料は、還元時に色を変えることが可能であり、そしてこの還元時での色変化は可逆的である。当該エレクトロクロミック材料は、還元状態及び非還元状態で安定であることが好ましい。
本発明では、基板、少なくとも2個の電極、電極間に位置する電解質、電子供与体、及び一般構造Iの置換−1,1−ジオキソ−チオピランを含むエレクトロクロミック材料を含んでなるエレクトロクロミック装置が提供される。好ましい実施態様では、当該エレクトロクロミック装置又は設備には、透明基板上に配置された第1の電極、第2の電極、電解質、電子供与体、及び構造Iのエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック材料が含まれる。
当該エレクトロクロミック材料は、それがエレクトロクロミック特性を示すことができることを条件として、当該装置内のいかなる場所に配置されてもよい。一の実施態様では、当該エレクトロクロミック材料は、少なくとも一方の電極上の不溶性薄膜である。その他の実施態様では、当該エレクトロクロミック材料は、少なくとも一方の電極に化学的に接合されている。その他の実施態様では、当該エレクトロクロミック材料は、少なくとも一方の電極に化学吸着されている。その他の実施態様では、当該エレクトロクロミック材料は、電解質内に配されている。
当該エレクトロクロミック材料は、エレクトロクロミック層に含まれていてもよい。この層には、好ましくは、スルホン電子発色団が、溶液中に、ゲル中にあるいは固体層中に存在して含まれていてもよい。同様に、当該エレクトロクロミック層には、種々なスルホン電子発色団の混合物、又はスルホン電子発色団と他の好適な電子発色団との混合物が含まれていてもよい。この混合比は、広範な限定値内で変えられてよい。この混合比によって、所望の色彩又は黒色の程度が最適化されてよく、そして/また、エレクトロクロミック装置に用いられるときの所望の動的特性が最適化されてもよい。
当該エレクトロクロミック層に係る更なる可能な添加剤には、UV吸収剤がある。具体例には、UNINOL(登録商標)3000(2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、BASF製)、Tinuvin(登録商標)P、SANDUVOR(登録商標)3035(2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、Clariant製)、Tinuvin(登録商標)571(2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−ドデシル−4−メチルフェノール、Chiba製)、Cyasorb24(登録商標)(2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、American Cyanamid Company製)、UVINUL(登録商標)3035(エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、BASF製)、UVINUL(登録商標)3039(2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、BASF製)、UVINUL(登録商標)3088(2−エチルヘキシル−p−メトキシシアナメート、BASF製)、CHIMASSORB(登録商標)90(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、Ciba製)がある。また、UV吸収剤の混合物が、使用されてもよい。当該UV吸収剤は、0.01〜2モル/L、好ましくは0.04〜1モル/Lの範囲で使用される。当該エレクトロクロミック層に使用可能な更なる添加剤は、高透過率(白濁、即ち「オフ」)状態にある間に、所定のエレクトロクロミック層の色を統制して維持する種々なレドックス安定化剤である。いかなる好適なレドックス安定化剤、例えば米国特許第6,433,914号明細書に記載されるもの、が使用されてよく、それには、キノン、ピリリウム及びビピリリウム塩、置換アントラセン、置換アルコキシベンゼン、及び置換ポリヒドロキシベンゼンが含まれる。なお、ある種の添加剤、例えば、UV吸収剤やレドックス安定化剤が、電解質層に加えられることも好ましいといえる。
第1の電極の基板は、硼珪酸塩ガラス又はソーダ石灰ガラス、天然及び合成ポリマー樹脂、プラスチック、又は複合物のような、可視領域で透明である多くの材料のいずれか一種から作られることが好ましいが、その電極層は、反射性であるか、あるいは他に不透明であってもよい。透明支持体上に配置される第1の電極は、また、実質的に透明な導電性材料である。当該透明の導電性材料は、フッ素をドープした酸化錫(FTO)、例えば、Pikington製のTECガラス、又はインジウム錫酸化物(ITO)、ドープした酸化亜鉛、又は当該分野で公知な他の材料の層であってよい、と考えている。この透明な導電層には、酸化インジウム、二酸化チタン、酸化カドミウム、ガリウムインジウム酸化物、五酸化ニオブ及び二酸化錫のような他の金属酸化物が含まれてもよい。Polaroid社による国際公開WO/36261号を参照のこと。また、ITOのような第1の酸化物に加えて、少なくとも一の当該導電層には、セリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム及び/又はタンタルのような第2の金属酸化物が含まれてもよい。Fukuyoshi等(凸版印刷)の米国特許第5,667,853号明細書を参照のこと。他の透明な導電性酸化物には、ZnO2、Zn2SnO4、Cd2SnO4、Zn2In25、MgIn24、Ga23−In23、又はTaO3が含まれるが、これらに限定されない。当該導電層は、その材料やその下引き層の材料にもよるが、例えば、DC−スパッタリング又はRF−DCスパッタリングのような、低温スパッタリング技術又は直流スパッタリング技術によって作られてよい。当該導電層は、錫酸化物もしくはインジウム錫酸化物(ITO)、又はポリチオフェンからなる透明導電層であってもよい。典型的に、当該導電層は、250Ω/□未満の抵抗となるように基板上にスパッタされる。インジウム錫酸化物(ITO)は、良好な環境安定性、90%までの透過率、そして20Ω/□未満の抵抗率を有する、実際のところコスト的にも効率のよい好ましい導電材料である。実証的な好ましいITO層は、透明であるという目的を考慮すると、その薄膜がディスプレー用途に有用となるように、可視領域、つまり400nm〜700nmで、80%以上の透過率(%T)を有する。好ましい実施態様では、当該導電層には、多結晶質である低温ITO層が含まれる。当該ITO層は、好ましくは、10〜120nmの厚さであり、また、プラスチック上で20〜60Ω/□の抵抗率を達成するためには、50〜100nmの厚さであることが好ましい。実証的に好ましいITO層は、60〜80nmの厚さである。これに代えて、当該導電層は、銅、アルミニウム又はニッケルのような金属からなる不透明な導電体であってもよい。仮に、当該導電層が不透明な金属であるならば、その金属は、光吸収性導電層を創るため、金属酸化物であってもよい。また、当該導電層は、型押しされてもよい。好ましい実施態様では、第1の電極は、陰極として機能する。
また、第2の電極は、透明であっても、透明でなくてもよく、例えば、エレクトロクロミック装置がミラーであるならば、反射性であってよい。それ自体、第2の電極は、透明又は不透明の導電性酸化物、又は金属もしくは金属同士の組み合わせであってよい。第2の電極用基板は、第1の電極のそれと同じものであってよく、あるいは、エレクトロクロミック装置のタイプにもよるが、透明である必要はない。それ自体、第2の電極用基板は、ほんの少数の例を挙げれば、ガラス、ポリマー、金属、及びセラミックスが含まれてよい。好ましい実施態様では、第2の電極は、陽極として機能する。
電解質は、液体又はゲル形態であってよく、好ましくは、好適な溶媒及び少なくとも一種の電気化学的に不活性な塩が含まれる。好適な不活性の導電性塩は、リチウム、ナトリウム及びテトラアルキルアンモニウムの塩又は溶融塩である。テトラアルキルアンモニウム塩のアルキル基は、1〜18個の炭素原子を有していてよく、同一であっても、異なっていてもよい。これらの塩に好適である陰イオンには、テトラフルオロ硼酸塩、テトラフェニル硼酸塩、シアノトリフェニル硼酸塩、テトラメトキシ硼酸塩、テトラプロポキシ硼酸塩、テトラフェノキシ硼酸塩、過塩素酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、メタンスルホネート、エタンスルホネート、テトラデカンスルホネート、ペンタデカンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、ペルフルオロブタンスルホネート、ペルフルオロオクタンスルホネート、ベンゼンスルホネート、クロロベンゼンスルホネート、トルエンスルホネート、ブチルベンゼンスルホネート、t−ブチルベンゼンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート、トリフルオロメチルベンゼンスルホネート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロ砒酸塩、ヘキサフルオロシリケート、7,8−又は7,9−ジカルバニド−ウンデカ硼酸塩が含まれる。他の好適な塩の具体例には、ヘキサフルオロホスフェート、ビス−トリフルオロメタンスルホネート、ビス−トリフルオロメチルスルホニルアミド、テトラアルキルアンモニウム、ジアルキル−1,3−イミダゾリウム及びリチウムペルクロレートが含まれる。好適な溶融塩の具体例には、トリフルオロメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス−トリフルオロメチルスルホニルアミド及び1−プロピル−ジメチルイミダゾリウム−ビス−トリフルオロメチルスルホニルアミドが含まれる。導電性塩は、好ましくは、0〜1モル/Lの範囲で用いられる。
溶媒は、それが透明で、電気化学的に不活性な塩がそれに可溶であることを条件として、いかなる好適な溶媒であってもよい。更に、当該溶媒は、室温より高い沸点及びヘキサンの誘電率よりも高い誘電率を有していてもよい。好ましくは、当該溶媒は、10〜50の誘電率を有する。また、当該溶媒は、非腐食性で、非毒性であってよい。好適な溶媒には、アセトニトリル、ブチロニトリル、グルタロニトリド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルオキサゾリジノン、ジメチル−テトラヒドロピリミジノン、3,3´−オキシジプロピオニトリル、ヒドロキシプロピオニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、スルホラン、3−メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン及びそれらの混合物が含まれてよい。
また、溶媒は、例えば高分子電解質、多孔質固体又は大きな活性表面積を有するナノサイズの粒子によって粘調化されて、ゲルが形成されてもよい。他のポリマー添加剤が、電解活性溶液の粘度を調整するために含まれてもよい。これは、色別れ、即ち、スイッチオン状態でエレクトロクロミック装置を長時間操作した際に発生する縞状又は斑点状の色の生成、を回避し、また、電源を切った後の脱色速度を調整するために重要である。好適な増粘剤は、この目的に慣用の全ての化合物、例えば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート(Luctite L(登録商標))、ポリカーボネート又はポリウレタンである。
電子供与体は、可逆的に酸化されるいかなる有機、無機、又は有機金属の電解活性物質であってもよい。電子供与体は、第2の電極上に不溶性薄膜として存在する電解質溶媒に溶解していても、あるいは第2の電極に付着しているナノ微晶質の半導体薄膜に化学吸着していてもよい。当該電子供与体は、無色であることが好ましい。当該電子供与体は、それ自体、第2の電極での酸化時に色変化を受けても、受けなくてもよい。一の実施態様では、当該電子供与体には、酸化時に色を変えるエレクトロクロミック材料が含まれていてもよい。好ましい色変化は、無色から着色であり、そして可逆性であることである。好ましい電子供与体には、フェノチアジン、トリアリールアミン、アジン、置換フェニレンジアミン、及びメタロセンが含まれる。最も好ましい電子供与体は、N−エチルフェノチアジン、5,10−ジヒドロ−ジメチルフェナジン、N,N−テトラメチルフェニレンジアミン、トリ−p−トリルアミン、及びフェロセンである。当該エレクトロクロミック層におけるスルホン及び電子供与体のそれぞれの濃度は、少なくとも10-4モル/Lであり、好ましくは0.001〜0.5モル/Lである。
また、本発明では、透明基板上に配置された第1の電極、第2の電極、電解質、電子供与体、第1及び第2の電極の中間に存在し、あるいはそれに付着している一層以上のナノ多孔質−ナノ微晶質の半導体薄膜、及び中間のナノ多孔質−ナノ微晶質の半導体薄膜の少なくとも一層に化学吸着している構造Iの一種以上のスルホン電子発色団を含む、エレクトロクロミック装置又は設備が提供される。
一の好ましい実施態様では、ナノ多孔質−ナノ微晶質半導体薄膜は反射性である。本発明の一の実施態様では、ナノ多孔質−ナノ微晶質半導体薄膜は、第1の電極に付着している。その他の実施態様では、ナノ多孔質−ナノ微晶質半導体薄膜は、第1の電極と第2の電極の両者に付着している。本発明のその他の態様では、ナノ多孔質−ナノ微晶質半導体薄膜に付着した第1及び第2の電極に加えて、別個のナノ多孔質−ナノ微晶質半導体薄膜が、二つの電極の間に反射層として用いられてもよい。
当該ナノ微晶質半導体薄膜は、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタル、銀、亜鉛、ストロンチウム、鉄(Fe2+又はFe3+)又はニッケルのようないずれかの好適な金属の酸化物、又はプロブスカイトともいう、それらの混合金属酸化物であってよい。TiO2、WO3、MoO3、ZnO、SnO2、及びSbをドープしたSnO2が、特に好ましい。当該ナノ微晶質半導体薄膜は、装置の一方もしくは両者の電極上に不溶性薄膜として析出されてよく、そして装置内の二つの電極に析出されるときには、これらのナノ微晶質半導体薄膜は、同じであっても、異なっていてもよい。
以下の実施例は、本発明を説明するために提供される。
電気化学的還元電位は、A. Bard 及びL. Faulkner 編の「Electrochemical Methods(電気化学的方法)」、Wiley、ニューヨーク(1980年)、213〜248頁に記載されるような、サイクリックボルタンメトリー法によって測定した。この手法では、電子発色団は、0.1モルのテトラブチルアンモニウムテトラフルオロ硼酸塩電解質を含有する約5×10-4モル濃度のアセトニトリル溶液で溶解する。この溶液に約5分間窒素を通して泡立たせることによって、当該溶液から酸素を除去した。ルギンプローブで参照電極と作用電極の各区分室間を接触させた2個の区分室、3個の電極ボルタンメトリーセルを用いた。作用電極は、ディスク型(1.6mm直径)の白金又は金製であるが、これらを、ぞれぞれの実験前に、1μmのダイヤモンドペーストで磨き、水洗し、乾燥した。全ての電位を、22℃で、NaCl−飽和カロメル電極(SCE)に対して測定した。測定は、0.1V/秒又は0.2V/秒の電位掃引速度を用いて行った。還元電位は、サイクリックボルタンモグラムの陽極及び陰極のピーク電位の平均とした。本発明の典型的なチオピラン電子発色団に係るSCEに対する還元電位値Erは、表Aに掲載する。
Figure 0005096137
種々のチオピラン発色団がそれらの相当するラジカル陽イオンとなる1電子の電気化学的還元に伴うスペクトルの変化は、スペクトロ電気化学的手法によって測定した。この手法では、当該チオピランは、0.1モルのテトラブチルアンモニウムテトラフルオロ硼酸塩電解質を含有する5×10-4モル〜1×10-6モル濃度のアセトニトリル溶液で溶解する。当該溶液を、67cm2面積のPtゲージ作用電極、機械的攪拌機、第2のPt電極を含有する対電極の区分室、及びSCE参照電極を含有する参照電極の区分室を備えた、50mLの3個の区分室の電量セルシステムからなる中央区分室に配置する。対電極と参照電極の区分室は、多孔質ガラスフリットを用いて主電解区分室と分離されている。約10分間この溶液に窒素を通して泡立たせることによって、当該溶液から酸素を除去した。当該チオピラン電子発色団の網羅的な1電子還元を、調整された電位クーロメータ法により行い、その際、作業電極を、色素の可逆的還元電位Erの−200mV電位に維持した。その電解溶液を、陽イオンラジカルの吸収スペクトルを測定するため、0.8mmの内径のテフロン(登録商標)管を通して、1mm又は10mm路長の石英スペクトルフローセルに速やかにポンプ輸送した。吸収スペクトル(波長に対する光学濃度)を、ダイオードアレー分光光度計を用いて記録した。着色状態の安定性を、時間の関数としてラジカル陽イオンの吸収スペクトルを看視することによって測定した。光学吸光度及び吸収最大値のデータを、表Bに掲載する。
Figure 0005096137
表Bのデータによると、無色の中性状態は、2及び6位の置換基が1個以上の電子吸引性置換基を有するアルキル置換基又は芳香族置換基である2,6−二基置換−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン電子発色団にとって好ましいことを示す。
実施例1:インダンジオン及びスルホンのジシアノメチリジン誘導体の合成
中間体4H−チオピラン−4−オン1,1−ジオキシドと種々な置換基との2−及び6−位での合成製造ルートは、N. Rule、M. Detty、J. Kaeding、J. Sinicroopi等発表の「J. Org. Chem.(ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー)」、1995年、60巻、1665頁に記載されているが、ここで引用したことにより、これを本明細書に含める。当該チオピラン−4−オン中間体は、米国特許第4,514,481号明細書(3頁60行)に開示されているように、エタノール中で1,3−インダンジオンと塩基触媒縮合することによって、容易に、相当するインダンジオン誘導体に変換される。同様に、米国特許第4,514,481号明細書(3頁、35行)に開示されるように、チオピラン−4−オン−1,1−ジオキシドをマロノニトリルと縮合させることによって、容易に、ジシアノメチリジン誘導体が供給できる。
実施例2:アセトニトリル中での2,6−ジ−(3−トリフルオロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン(I−6)のエレクトロクロミック性
構造的に上記I−6で表される、2,6−ジ−(3−トリフルオロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピランのエレクトロクロミック特性は、アセトニトリル溶液中で測定した。電気化学的還元電位は、サイクリックボルタンメトリーによって測定して、SCEに対して−0.16Vであり、無色の溶液、即ち、アセトニトリルのような非水溶媒中に溶解するときに可視領域で全く吸収を示さない溶液、であることを示した。−0.5Vの印加電位下での調整された還元電位では、図1の吸収スペクトルによって示されるような、広範囲の可視スペクトルに亘ってスペクトル吸収を示す強く着色した陰イオンラジカルを生じた。当該チオピランラジカル陰イオンは、非常に高い光学吸収率を有して、15,400M-1cm-1であることが測定され、よって、そのエレクトロクロミック効果に起因して非常に高いコントラスト変化を生じた。その視認可能な着色陰イオンラジカルは、24時間の期間に亘って吸収スペクトルに僅かな変化しか示さず、非常に安定であった。この電気化学的に誘発されたスペクトル変化は、完全に可逆的であった。Pt作用電極に対して0Vの電位を再度印加すると、中性チオピランI−6のスペクトルが定量的に再現されて、再び無色溶液となった。この還元/酸化サイクルは、顕著な光学信号の喪失も無しに何度でも繰り返すことができた。
これらのデータは、2,6−ジ−(3−トリフルオロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン(I−6)が、エレクトロクロミックの用途における使用に非常に好ましい特性を有する電子発色団であることを示している。当該チオピラン電子発色団は、還元時に強く着色した状態を与え、高いコントラストのエレクトロクロミック効果を付与し、双安定性であり、それによって無色から着色状態に何度でも繰り返えすことが可能な、低還元電位をもつ無色の分子材料である。
実施例3:アセトニトリル中での2−フェニル,6−トリル−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン(I−2)のエレクトロクロミック性
構造的に上記I−2のように表される2−フェニル,6−トリル−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピランのエレクトロクロミック特性は、アセトニトリル溶液中で測定した。I−2の電気化学的還元電位は、サイクリックボルタンメトリーによって測定して、SCEに対して−0.22Vであり、アセトニトリルのような非水溶媒中に溶解するときに淡い黄色の溶液を示した。−0.5Vの印加電位下での調整された還元電位では、図2の吸収スペクトルによって示されるような、広範囲の可視スペクトルに亘ってスペクトル吸収を示す強く着色した陰イオンラジカルを生じた。当該チオピランラジカル陰イオンは、非常に高い光学吸収率を有して、12,400M-1cm-1であることが測定され、よって、そのエレクトロクロミック効果に起因して非常に高いコントラスト変化を生じた。その視認可能な着色陰イオンラジカルは、24時間の期間に亘って吸収スペクトルに僅かな変化しか示さず、非常に安定であった。この電気化学的に誘発されたスペクトル変化は、完全に可逆的であった。Pt作用電極に対して0Vの電位を再度印加すると、中性チオピランI−2のスペクトルが定量的に再現されて、再び淡い黄色の溶液となった。この還元/酸化サイクルは、顕著な光学信号の喪失も無しに何度でも繰り返すことができた。
実施例4:アセトニトリル中での2,6−ジ−(4−ニトロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン(I−8)のエレクトロクロミック性
構造的に上記I−8のように表される2,6−ジ−(4−ニトロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピランのエレクトロクロミック特性は、アセトニトリル溶液中で測定した。I−8の電気化学的還元電位は、サイクリックボルタンメトリーによって測定して、SCEに対して−0.48Vであり、アセトニトリルのような非水溶媒中に溶解するときに無色の溶液を示した。−0.7Vの印加電位下での調整された還元電位では、図3の吸収スペクトルによって示されるような、可視スペクトルにおける706nm及び490nmで二つの吸収バンドを示す緑に着色した陰イオンラジカルを生じた。当該チオピランラジカル陰イオンは、非常に高い光学吸収率を有し、よって、そのエレクトロクロミック効果に起因して非常に高いコントラスト変化を生じた。Pt作用電極に対して0Vの電位を再度印加すると、中性チオピランI−8のスペクトルが再現されて、再び無色の溶液となった。
実施例5:4H−1,1−ジオキソ−2−フェニル−6−トリル−4−(ジシアノメチリデン)チオピランを含むエレクトロクロミック装置
エレクトロクロミック装置を、2枚の透明な導電性酸化物(TCO)基板間の空洞に、スルホン4H−1,1−ジオキソ−2−フェニル−6−トリル−4−(ジシアノメチリデン)チオピランI−2を含有する電解質溶液を満たすことによって製作した。当該電解質溶液は、試薬級アセトニトリルから調製し、0.1モルの過塩素酸リチウムを含んでいた。この電解質に、30ミリモルのI−2と30ミリモルのN−エチルフェノチアジンを添加した。N−エチルフェノチアジンは、陽極で酸化を受けるレドックス発色団(即ち、電子供与体)として作用し、これは当該装置の陰極で起こるI−2の還元反応を補足する。透明な導電性酸化物基板は、ガラスのスライド(TEC8/3、Pikington製)上にフッ素をドープしたSnO2であって陰極として作用し、当該溶液がエレクトロクロミック層として作用する間は陽極として作用した。
当該エレクトロクロミック装置は、先ず、1ミルのテフロン(登録商標)フィルムから作ったU型スペーサを、一方のTCOプレートの導電性側に設置した。同様のU型ガスケットを、テフロン(登録商標)スペーサを取り囲む寸法に、熱可塑性シーラントから切断した。第2のTCOプレートを、電気的接続の面を設けるように1/4インチだけずらした2枚のTCOプレートをもつ構成の上面に、導電側を下方に向けて設置した。TCOプレートの一対を、一緒に固定して、約5分間、150℃で加熱して、永久シールを作製した。冷却後、TCOプレートの接着した一対を窒素ガスで充填した密封環境に移した。電解質/電子発色団の溶液を窒素で10分間パージし、その脱気した電解質/電子発色団の溶液を、TCOプレート間の(約1ミル幅の)空洞内にピペットで装填した。一度満たされたら、U型空洞の頂部を、開口部に亘ってエポキシシーラント(ChemGrip)のストライプを塗付して密閉した。得られた電気化学的に活性な面積は、2×2.5cmであった。装置の概略は、図4に示されている。
陽極と陰極の接続は、鰐皮亀裂のクリップを用いて、それぞれのガラスプレートに通ずる結合ワイヤによって行った。DC電圧を、PAR Model 173ポテンシオスタット/ガルバノスタットを介して印加した。当該装置のエレクトロクロミック動作は、(DC電圧を印加して)スイッチオンにあるとき、次いで0ボルトを印加することによるスイッチオフ(反転)にあるときの装置のスペクトルの応答を監視することによって決定した。当該スペクトルは、HP8450Aダイオードアレー分光光度計の光路に当該エレクトロクロミック装置を置くことによって得た。このスペクトルは、電解質中にスルホンI−2又はフェノチアジンを含有させない同様な装置のベースラインの吸収に合わせて補正した。図5に示されるスペクトルは、装置に印加される電位を、装置の色が淡い黄色から暗褐色/黒に変わる0Vから3Vに切り換えたときの高いコントラストのエレクトロクロミック効果を示す。装置に0Vを再印加すると、定量的に、淡い原色に戻った。この過程を、何度も繰り返した。
この実験の結果は、4H−1,1−ジオキソ−2−フェニル−6−トリル−4−(ジシアノメチリデン)チオピランのようなスルホンは、優れた分子エレクトロクロミック材料であることを示している。電子発色団としてスルホンI−2及びフェノチアジンを含む、ここで示すようなエレクトロクロミック装置は、高いオン/オフのコントラスト比を有し、低印加電圧でスイッチング性に優れ、オン状態からオフ状態へ速やかに(秒で)切り換えられ、そして多くの繰返しに亘って可逆的であることを示している。
実施例6:2,6−ジ−(3−トリフルオロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピランを含むエレクトロクロミック装置
エレクトロクロミック装置を作製し、2倍の厚さのテフロン(登録商標)スペーサをTCOガラスプレートの間に入れたこと、及びスルホン化合物が、2,6−ジ−(3−トリフルオロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピランI−6であったことを除いて、実施例5に記載したように試験した。1.5VのDC電圧を印加する前後のエレクトロクロミック装置に記録された吸収スペクトルを、図6に示す。その結果によると、装置の色が無色、透明から暗紫色に変わる際に、適度なDC電位の印加時に高いコントラストのエレクトロクロミック効果を示している。当該装置に0Vを再印加すると、装置は、定量的に無色、透明に戻った。この過程を、0Vで10秒、1.5Vで10秒の周期的な印加によって多数回繰り返したところ、数時間後の記録されたスペクトルに僅かな変化しか見られなかった。
0V(破線の曲線)、−0.3V(実線の曲線)、及び再度の0V(点線の曲線)の印加電位での2,6−ジ−(3−トリフルオロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン(I−6)の電解質溶液のスペクトルを示すグラフである。 0V(破線の曲線)、−0.3V(実線の曲線)、及び再度の0V(点線の曲線)の印加電位での2−フェニル,6−トリル−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン(I−2)の電解質溶液のスペクトルを示すグラフである。 0V(破線の曲線)、−0.7V(実線の曲線)の印加電位での2,6−ジ−(4−ニトロフェニル)−4H−1,1−ジオキソ−4−(ジシアノメチリデン)チオピラン(I−8)のアセトニトリル電解質溶液のスペクトルを示すグラフである。 本発明によるエレクトロクロミック装置の一実施態様を示す略図である。 3VのDC電圧の印加前(点線の曲線)及び印加後(実線の曲線)における本発明によるエレクトロクロミック装置に記録された吸収スペクトルを示すグラフである。 1.5VのDC電圧の印加前(点線の曲線)及び印加後(実線の曲線)における本発明によるエレクトロクロミック装置に記録された吸収スペクトルを示すグラフである。

Claims (16)

  1. 以下の一般構造I:
    Figure 0005096137
    式中、
    Xは、炭素、窒素、酸素、又は硫黄であり、
    nは、0、1、又は2であり、
    3は、独立して、電子吸引性基又は置換もしくは非置換のアルキル又はアリール基であり、
    1及びR5は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、又は置換もしくは非置換の複素環式基を表し、そして
    2及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は電子吸引性基、又は置換もしくは非置換のアルキル基を表す、
    の置換−1,1−ジオキソ−チオピランを含むエレクトロクロミック材料。
  2. 前記R 3 が、ハロゲン、シアノ、COOH、CO 2 CH 3 、CO 2 −アルキル、CON(C 2 5 ) 2 、SO 2 CH 3 、SO 2 −アリール、SO 2 CF 3 、SO 2 −アルキル、PO 3 2 、SO 3 H、B(OH) 2 、又はSO 2 N(C 2 5 ) 2 からなる群より選ばれる電子吸引性基を表す、請求項1に記載のエレクトロクロミック材料。
  3. 前記R 1 〜R 5 が、一緒にあるいは別個に、金属酸化物電極に対して不可逆的な化学吸着を促進させるカルボキシレート、サリシレート、又はホスホネート基を含む、請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック材料。
  4. 前記エレクトロクロミック材料が、−1.0〜+0.2V/SCEの電気化学的還元電位を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック材料。
  5. 前記エレクトロクロミック材料が、ナノ微晶質TiO 2 又はSnO 2 に対する結合基を有するエレクトロクロミックスルホン構造を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック材料。
  6. 前記エレクトロクロミック材料が、還元時に色変化が可能であり、それが選択的に可逆的である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック材料。
  7. 基板、少なくとも2個の電極、当該電極間に位置する電解質、電子ドナー、及び以下の一般構造:
    Figure 0005096137
    式中、
    Xは、炭素、窒素、酸素、又は硫黄であり、
    nは、0、1、又は2であり、
    3は、独立して、電子吸引性基又は置換もしくは非置換のアルキル又はアリール基であり、
    1及びR5は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、又は置換もしくは非置換の複素環式基を表し、そして
    2及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は電子吸引性基、又は置換もしくは非置換のアルキル基を表す、
    の置換−1,1−ジオキソ−チオピランを含むエレクトロクロミック材料を含んでなる、エレクトロクロミック装置。
  8. 前記電解質が、少なくとも一種の溶媒及び少なくとも一種の電気化学的に不活性な塩を含む、請求項7に記載のエレクトロクロミック装置。
  9. 前記溶媒が10〜50の誘電率を有する、請求項8に記載のエレクトロクロミック装置。
  10. 前記電解質が液体又はゲル形態にある、請求項7〜9のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック装置。
  11. 前記ゲルが、ポリ電解質、多孔質固体又はナノ粒子により形成されている、請求項10に記載のエレクトロクロミック装置。
  12. 前記電解質が、少なくとも一種のUV吸収剤を更に含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック装置。
  13. 前記電解質が、少なくとも一種のレドックス安定化剤を更に含む、請求項7〜12のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック装置。
  14. 前記少なくとも一種のレドックス安定化剤が、キノン、ピリリウム、及びビピリリウム塩、置換アントラセン、置換アルコキシベンゼン、及び置換ポリヒドロキシベンゼンからなる群より選ばれる、請求項13に記載のエレクトロクロミック装置。
  15. 前記電子ドナーが、可逆的に酸化される、有機、無機、又は有機金属の電子活性材料である、請求項7〜14のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック装置。
  16. 前記電子ドナーが、前記第1の電極又は第2の電極の少なくとも一方に存在している、請求項7〜15のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック装置。
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