JP5093659B2 - 非調質フェライト・パーライト鋼材 - Google Patents
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Description
一般に、鋼を高強度化すると靱性が低下するが、高強度化して前記鋼材として使用するためには、少なくとも従来使用していた鋼材と同等の製品靱性を確保する必要がある。
従来、鋼材の強化方法としては、固溶強化や、マルテンサイト等との複合組織化による第2相による強化、結晶粒の微細化、析出強化等の方法が知られている。
これによれば、熱間圧延後の冷却速度を厳密に制御しなければならないこと、鋼材の被削性を向上させたい場合には、Sを添加することが望ましいが、Ti−Mo系炭化物を含む析出物を微細に析出させ、強度を向上させるために、有価金属元素であるTi及びMoを所定量添加することが必要である(段落番号0038、0039)。
そして、上記目的を達成するために、MnSを主体とする微細硫化物をフェライト−パーライト二相組織中のフェライト中に分散析出させることにより、高強度且つ高靭性を備えた非調質鋼を製造することを課題とする。
C :0.30〜0.65質量%、
Si:0.10〜0.50質量%、
Mn:0.50〜1.50質量%、
S :0.003〜0.100質量%、
Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.005〜0.060質量%
であって、残部がFe及び不可避不純物からなる鋼に対して、1300℃超えから固相線温度以下までの温度範囲内において溶体化熱処理を施した後、5℃/sec以上の冷却速度で冷却し、次いで時効熱処理を、下記(1)式:
P=(T+273){20+log(t/60)}・・・・・・(1)
但し、T:オーステナイト温度域での時効熱処理の保持温度(℃)
t:時効熱処理の保持時間(min)
で示す時効熱処理パラメーターPの値が24200〜27000の範囲内となる条件において施すことにより、フェライト組織中に、MnSを主成分とする粒径200nm以下の非金属介在物粒子を分散析出させたことに特徴を有するものである。
P=(T+273){20+log(t/60)}・・・・・・(1)
但し、T:オーステナイト温度域での時効熱処理の保持温度(℃)
t:時効熱処理の保持時間(min)
で示す時効熱処理パラメーターPの値が24200〜27000の範囲内となる条件において施すことに特徴を有するものである。
S45C系成分の鋼であって、この鋼がγ域内における従来公知のMnSの溶解度曲線を超えるMn及びS含有量を有すると否とにかかわらず、この鋼に対して、先ず1300℃を超える温度以上であって当該鋼を溶融状態(完全液相状態)から冷却させたときの固相線温度以下の温度範囲内において溶体化熱処理を施し、次いで当該鋼を水冷によりγ域内の温度まで急冷し、γ域内の温度範囲内において種々の条件で時効熱処理を行なった。
その結果、MnSを含む硫化物系の微細介在物がフェライト組織中に析出する場合が存在することを確認した。このMnSを含む微細析出物を有するフェライト・パーライト組織鋼においては、通常のフェライト・パーライト組織鋼においてパーライト体積率の増加による硬度上昇よりも明らかに大きな硬度の上昇が認められ、その硬度の上昇状態の特徴として、パーライト体積率の増加につれて上昇する硬度に極大値が出現することが認められ、この極大値を出現させる特定な条件が存在することを見出した。なお、パーライト体積率は、パーライト面積率の測定によるものであり、両者は同一であるとみなすことができる。また、上記MnSを含む硫化物系の微細介在物の粒径は約50〜200nm程度であることが観察された。
(1)化学成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.30〜0.65質量%
Cは強度の確保のために添加する。Cが0.30質量%未満では、この作用が過小であり、一方、0.65質量%を超えると、フェライト分率が低下し、強度が過大となるため靭性が劣化する。従って、C含有量は0.30〜0.65質量%とする。好ましくは、0.42〜0.48質量%の範囲内とするのがよい。
Si:0.10〜0.50質量%
Siは製鋼工程における脱酸に必要な元素であり、0.10質量%未満では脱酸作用が不足し、一方、0.50質量%を超えると、靭性の確保に不利となる。従って、Si含有量は0.10〜0.50質量%の範囲内とする。好ましくは、0.15〜0.35質量%とするのがよい。
Mn:0.50〜1.50質量%
Mnは製鋼工程において脱酸作用を有し、また変態温度を低下させ、組織の微細化に効果がある。Mnは0.50質量%未満ではこの作用が過小であり、一方、1.50質量%を超えると固溶強化により強度が過大となり、靭性が劣化しやすい。従って、Mn含有量は0.50〜1.50質量%の範囲内とする。好ましくは、0.60〜0.90質量%とするのがよい。
S:0.003〜0.100質量%
Sは溶体化処理工程の後で行なわれるオーステナイト温度域において行なう時効熱処理工程において、微細なMnSを析出させて硬さの向上を図るために必要な成分である。S含有量が0.003質量%未満ではこの作用が過小であり、一方、0.100質量%を超えると、MnSを含む析出物が多くなり過ぎて靭性及び延性を低下させる。従って、S含有量は0.003〜0.100質量%の範囲内とする。好ましくは0.003〜0.070質量%とするのがよく、更に好ましくは0.003〜0.045質量%とするのがよい。
Cr:0.20質量%以下
Crは固溶強化、及びパーライトのラメラ間隔の微細化により、強度上昇効果がある。このような効果を発揮させるためには、0.05質量%以上含有することがよいが、本発明においては、安価な原料を使用するとの観点から、敢えて添加しなくても微細なMnSの析出により強度を確保できる。一方、電気炉鋼においてスクラップからの混入を避けられない場合を考慮して、0.20質量%までを許容するものとする。従って、Cr含有量は0.20質量%以下とし、0質量%であってもよい。
Al:0.005〜0.060質量%
Alは製鋼工程における脱酸に必要な元素であり、またAlNとして析出し、時効熱処理後の空冷時における組織の粗大化を抑制する作用を有する。Al含有量が0.005質量%未満ではこのような作用が過小であり、一方、0.060質量%を超えると固溶強化が著しくなり、靭性が劣化する。従って、Al含有量は0.005〜0.060質量%とする。
τOR=μb/L ・・・・・・・・・(2)
但し、
μ:当該材料のヤング率(=75.3GPa)
b:バーガースベクトル(=2.4Å)
L:微細析出物間の距離(Å)
なお(2)式は、例えば、加藤雅治 「入門転位論」P145(11.7)式 棠華房 1999年 に開示されている。
本願発明においては、上記MnSを含む硫化物系の微細介在物の析出により、フェライト・パーライト組織鋼材においてパーライト分率の増大につれて上昇する強度の増加分以上に上昇した強度の増加分(ΔTS)は、ビッカース硬さの上昇分(ΔHV)で、最大約65であった。即ち、ΔTS≒65×3.3≒220MPaに相当する。そこで、上記(2)式において、τOR=220MPaとみなすことができるので、微細析出物間の距離(L)を算出すると、L≒820Å=82nmが得られる。
以上の概算より、本発明における化学成分組成を有するフェライト・パーライト組織鋼材は、微細介在物の析出分布、例えばMnSを含む粒径が約200nm以下の微細介在物粒子が、望ましくは60nm以下の粒子が、当該微細析出粒子間の距離として大きくとも100nm以下、望ましくは80nm以下で分散分布していることが必要であると推論される。この際、粒子形状がτORの値、従ってΔTSの値に及ぼす影響は小さいと考えられる。
このように、本願発明による製造方法によれば、粒径約200nm以下、小さいものとしては50nmのMnSを含む硫化物系の微細析出物が認められているので、微細析出物間の距離(L)は精々100nm以下となっているといえる。
また、ビッカース硬さを240以上確保することも可能であり、その条件として、後述する(1)式で表わされる時効熱処理パラメーターPが、25000〜27000であって、鋼の成分組成の内、S含有量を0.003〜0.045質量%の範囲内とすることにより達成することができる。
上記した所定の化学成分組成を有する溶鋼を造塊法により鋼塊に鋳造し、分塊圧延によりブルーム又はビレットに熱間圧延して鋼片を調製する。一方、前記溶鋼を連続鋳造法によりブルーム又はビレットに鋳造して鋼片を調製する。こうして得られた鋼片(半成品)を、最終的に鋼材として必要とする所望の寸法・形状に熱間圧延又は熱間鍛造により熱間加工する。得られた熱間加工鋼材を溶体化熱処理により、Mn−Sの固溶曲線以上のMn及びS成分を固溶させる。その際、溶体化処理温度の設定値により、固溶限以下のMn、Sしか含有されていない場合であっても、固相線温度以下であって1300℃超えの温度において、所定時間以上保持することにより、完全固溶させる。溶体化処理後の冷却速度は5℃/sec以上とする。次に、オーステナイト温度域まで加熱して、時効熱処理によりMnSを析出させる。この際、時効熱処理条件としては、下記(1)式の時効熱処理パラメーターPが、24200〜27000の範囲内となるように、保持温度及び保持時間を設定する。
P=(T+273){20+log(t/60)}・・・・・・(1)
但し、T:オーステナイト温度域での時効熱処理の保持温度(℃)
t:時効熱処理の保持時間(min)
HV(ref)=HV(α)Fα/100+HV(P)Fp/100
・・・・・・(3)
但し、Fα:フェライトの面積%
Fp:パーライトの面積%
HV(α):フェライトのビッカース硬さであって、例えば公知の90とし、
HV(P):パーライトのビッカース硬さであって、例えば公知の260とすればよい。
〔1.試験方法〕
所定の化学成分組成の供試鋼塊を溶製し、これを熱間鍛造後、所要寸法の材料を切り出し、これに溶体化熱処理を施して供試材を調製し、これから時効熱処理用の材料を切り出し、これに時効熱処理を施して試験材とし、これからビッカース硬さ試験片及び顕微鏡試験片を採取して、確性試験を行なった。試験の詳細は以下の通りである。
〔1−1.供試鋼塊とその成分組成〕
表1に示す各化学成分組成の鋼を実験用の50kg真空誘導溶解炉で溶製し、鋼塊に鋳造して供試鋼塊1〜4を得た。
供試鋼塊の化学成分組成は、JISのS45C相当であってS含有量のみを変化させ、その他の成分含有量は全て実質的に同じである。供試鋼塊1は、通常程度の脱硫操作後の溶鋼のS含有量例で0.010質量%であり、供試鋼塊2及び3はいずれも、S含有量が高炉から出銑された溶銑における通常のS含有量水準例でそれぞれ0.040質量%及び0.060質量%あって、脱硫処理を施さない場合の溶鋼成分を想定したものであり、そして供試鋼塊4は、溶銑及び溶鋼において高度の脱硫処理を施した場合のS含有量を想定した場合の例であって0.004質量%である。なお、P及びNは不可避的含有量を想定したものであり、Crの0.15質量%は溶銑成分としては通常あり得ない高い水準であるが、これは電気炉溶製鋼におけるスクラップからの高濃度不可避混入の場合を想定したものである。
次いで、供試鋼塊をいずれも1200℃に加熱した後、熱間鍛造して、50mm×50mm×1m長さの4本の鍛造材を調製した。そして、各鍛造材から50mm角×150mm長さの材料を2本ずつ採取し、溶体化熱処理条件として、表2に示すように、一方の鍛造材には保持温度1300℃で保持時間60分の処理を、そして他方の鍛造材には保持温度1400℃で保持時間30分の処理を施して常温まで水冷して、供試材1〜8を調製した。
次に、上記溶体化熱処理済みの供試材1〜8から時効熱処理用試験材を採取して、時効熱処理を施した。時効熱処理条件としての保持温度(T)と保持時間(t)との組み合わせを表3〜6に示すように、次の通り設定した。
先ず、保持温度(T)は、溶体化処理温度が1300℃の供試材1、3、5及び7については、800℃〜1200℃の範囲内の表3〜6に示した温度を採用し、溶体化処理温度が1400℃の供試材2、4、6及び8については、800℃〜1300℃の範囲内の表3〜6に示した温度を採用した。そして、保持温度(T)及び保持時間(t)の設定値は、次の条件が満たされるように行なった。即ち、下記(1)式:
P=(T+273){20+log(t/60)}・・・・・・(1)
但し、T:時効熱処理の保持温度(℃)
t:時効熱処理の保持時間(min)
で表わされるPを時効熱処理パラメーターとして採用し、保持時間(t)を10〜500minの範囲内に限定し、且つこの時効熱処理パラメーター(P)の値が、保持温度(T)の上昇及び保持時間(t)の増加につれて連続的に増大するように決定した。なお、時効熱処理後の試験材は常温まで空冷した。
なお、上記熱処理用の試験材の採取方法は、溶体化熱処理済みの供試材から、表面酸化物生成領域を除いた後、10mm角×20mm長さの試験材を、長さ20mmの方向が供試材の長さ方向になるようにして、所要個数だけ採取した。また、供試材から採取する試験材の個数は、表3〜6に示した時効熱処理条件の数を考慮して各供試材1〜8毎に決めた。
上記の通り時効熱処理が施されて出来上がった確性用試験片について、ビッカース硬さ(HV)測定試験、並びに顕微鏡観察によるパーライトの面積%(Fp)測定試験、適宜選定した試験片についての抽出レプリカのTEMによる組織観察及び硫化物系析出物(非金属介在物)の形態観察及び当該析出物のEDS(特性X線のエネルギー分散法)分析による析出物の同定・定量試験を行なった。これらの詳細は次の通りである。
ビッカース硬さ(HV)の測定は、試験片(10mm角×20mm長さ)の長さ方向の中点におけるC方向断面の中心点とその上下及び左右位置の計5箇所について行い、測定値は最大値と最小値とを除いた3測定値の平均値で表示する。また、ビッカース硬さ(HV)を測定した試験面を鏡面研磨仕上げし、顕微鏡観察の画像処理により、パーライトの面積%(Fp)を測定した。前記表3〜6に、Fp及びHVの測定値を併記した。
表3〜6には更に、上記パーライトの面積%(Fp)の測定値に基づき評価されるビッカース硬さの推定値(本明細書ではHV(ref)と表記する)も記載した。ここで、HV(ref)は下記(3)式:
HV(ref)=HV(α)Fα/100+HV(P)Fp/100
・・・・・・(3)
但し、Fα :フェライトの面積%
Fp :パーライトの面積%
HV(α):フェライトのビッカース硬さであって公知の90とし、
HV(P):パーライトのビッカース硬さであって公知の260とした、
により表わされる、フェライト・パーライト組織を有する鋼においてフェライト及びパーライトの各面積%で評価されるビッカース硬さの推定値である。なお、Fp =100−Fαとした。そして、ビッカース硬さ(HV)の測定値と推定値との差の値:HV−HV(ref)を併記した。
図1〜4の全てにおいて、溶体化処理温度が1300℃及び1400℃のいずれの場合でも、フェライト面積%の測定値により(3)式で推定されたビッカース硬さHV(ref)は、時効熱処理パラメーター(P)の増大につれて、ほぼ単調に概略直線的に上昇している。この挙動は、時効熱処理条件である保持温度T及び保持時間tにより安定したフェライト・パーライト2相組織鋼が得られているために、フェライト面積%の測定値を用いて(3)式により算出したビッカース硬さの推定値HV(ref)が妥当なものであったことを推定するものである。
しかしながら、ビッカース硬さHVのこの特異な挙動を示す上昇曲線は、溶体化処理温度が1300℃の場合には、認められない。
そして、上記の通り溶体化処理温度が1300℃及び1400℃のいずれであっても、実測ビッカース硬さHVは、時効熱処理パラメーター(P)の増加につれて、上昇傾向を示しているのは、パーライトの面積%(Fp)の増加による寄与部分が硬さ上昇のベースにあると推定される。
(2−1)上記の通り、実測ビッカース硬さHVが極大値をとった硬さ測定試験片の全て(試験番号14、30、51、67)について、測定箇所と実質的に同じ位置について、TEMにより非金属介在物の形態観察を行ない、EDS分析による制限視野解析により、微細非金属介在物の状態を調べた。その結果、上記全ての試験片において、微細硫化物系非金属介在物の析出・分布を認めることができた。図5に、表3中の試験番号14(S=0.010質量%、1400℃溶体化処理後、1000℃×50minの時効熱処理試験片)におけるフェライト・パーライト2相組織のフェライト中に微細硫化物系析出物(非金属介在物)が分布している状態を例示し、図6及び7に、当該析出物のEDS分析により同定及び定量分析結果を図示し、これに基づきその析出物の構成化合物の状態を模式図的に示した。
図5〜図19は、実施例でS含有量が0.010質量%の鋼を、1400℃溶体化処理後、1000℃×50minの時効熱処理後におけるフェライト・パーライト2相組織のフェライト中に微細硫化物析出物が分布している状態とその構成化合物の分析結果を例示するTEM写真等であり、表3中の試験No.14で得られた鋼材の試験結果である。
図5はフェライト・パーライト2相組織のフェライト中に微細硫化物析出物が分布している状態を例示するTEM写真であり、図6はその中央部の析出物粒子の5倍拡大写真であり、図7はその析出物粒子の一部を拡大した写真である。図8はその内の1個の析出物とその構成化合物を模式図で示したものである。この析出物中のaの部分及びbの部分のEDS分析による同定・定量分析結果のそれぞれを、図9及び図10に示す。
この析出物は、大きさが約60nm(0.06μm)の球状体を呈し、組成としてMnS及び(Cu、Mn)Sの複合析出物が認められた。
図11は、同じく上記図7中に見られる他の析出物であり、その大きさは約50nmで滑らかな多角形状体を呈し、その構成化合物を模式図で示したものである。この析出物中のaの部分及びbの部分のEDS分析による同定・定量分析結果のそれぞれを、図12及び図13に示す。この析出物は、大きさが約50nm(0.05μm)であり、組成として(Mn、Cu)SとCrを含むTiN複合析出物が認められた。
図14〜図19は、上記試験No.14の試験片における他の視野で認められたフェライト中に微細硫化物析出物が分布している状態とその構成化合物の分析結果を例示するTEM写真等である。
図14はフェライト・パーライト2相組織のフェライト中に微細硫化物析出物が分布している状態を例示するTEM写真であり、図15はその中央部の析出物粒子の5倍拡大写真であり、図16はその内の1個の析出物とその構成化合物を模式図で示したものである。この析出物中のa、b及びcの部分のEDS分析による同定・定量分析結果のそれぞれを、図17〜図19に示す。この析出物は、大きさが約210nm(0.21μm)の異形円乃至角状の状体を呈し、MnSからなる初析介在物に、Al及びCrを含む酸化物と約60nmのTiNとが複合析出していることが確認された。
なお、上記微細析出非金属介在物の中には、時効熱処理中の旧オーステナイト結晶粒界に析出していたものが、その後の空冷過程に生成したフェライト中に分布するに至ったと推定されるものがある。
図1〜4において、実測のビッカース硬さHVが極大値をとり、しかも推定ビッカース硬さHV(ref)よりも高水準にあるのは、本試験の条件下においては、表3〜6で供試材2、4、6及び8を1000℃で時効熱処理を施した場合に該当している。この条件で製造されたフェライト・パーライト鋼のビッカース硬さHVは、焼入れ・焼戻しの強化処理を施さなくても、即ち、非調質状態で210〜270程度となっている。これは従来のS45C系成分の鋼材製品におけるように、焼入れ・焼戻し処理が施された場合のビッカース硬さである200〜220という水準と比較して同等乃至それを著しく超えるものである。
ここで、実施例はいずれも溶体化処理後の時効熱処理温度が1000℃の場合に限られているが、これは十分条件であって、必要条件ではない。即ち、本発明で目的とする高強度非調質フェライト・パーライト鋼材は、適切な溶体化処理後に、(1)式の時効熱処理パラメーター(P)の値が24200以上27000以下を満たせば得られる。
実施例において、かかる高水準の硬さを有する鋼が得られる理由は、前記図5〜9において記載した微細な粒状の硫化物系非金属介在物がフェライト組織中に分散析出することにより強化されていることによると考えられる。また、実施例においては、この微細な粒状介在物の分散析出は、鋼材の靭性向上に対する寄与が推定される。これに対して従来のS45C系成分鋼材中の硫化物系非金属介在物の存在形態は、熱間加工方向に伸張乃至分断変形した大きさが1〜数10μmの非金属介在物となっており、そのために鋼材の高強度・高靭性化には寄与しない。
以上の試験より、本発明に係る高強度非調質フェライト・パーライト鋼材の製造方法及びその産業上の有用性が確認された。
Claims (6)
- 化学成分組成が、
C :0.30〜0.65質量%、
Si:0.10〜0.50質量%、
Mn:0.50〜1.50質量%、
S :0.003〜0.100質量%、
Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.005〜0.060質量%
であって、残部がFe及び不可避不純物からなる鋼に対して、1300℃超えから固相線温度以下までの温度範囲内において溶体化熱処理を施した後、5℃/sec以上の冷却速度で冷却し、次いで時効熱処理を、下記(1)式:
P=(T+273){20+log(t/60)}・・・・・・(1)
但し、T:オーステナイト温度域での時効熱処理の保持温度(℃)
t:時効熱処理の保持時間(min)
で示す時効熱処理パラメーターPの値が24200〜27000の範囲内となる条件において施すことにより、フェライト組織中に、MnSを主成分とする粒径200nm以下の非金属介在物粒子を分散析出させたことを特徴とする非調質フェライト・パーライト鋼材。 - 前記化学成分組成を有する鋼に対して、1300℃超えから固相線温度以下までの温度範囲内において溶体化熱処理を施した後に、5℃/sec以上の冷却速度でオーステナイト温度域内まで急冷し、引き続き時効熱処理を、下記(1)式:
P=(T+273){20+log(t/60)}・・・・・・(1)
但し、T:オーステナイト温度域での時効熱処理の保持温度(℃)
t:時効熱処理の保持時間(min)
で示す時効熱処理パラメーターPの値が24200〜27000の範囲内となる条件において施すことを特徴とする請求項1に記載の非調質フェライト・パーライト鋼材。 - 前記時効熱処理を施している期間中に、前記鋼に対して熱間加工を施すものであって、前記(1)式の時効熱処理の保持時間tとして、当該熱間加工の待ち時間を含めた当該熱間加工に要した総時間を採用することを特徴とする請求項2に記載の非調質フェライト・パーライト鋼材。
- 前記溶体化熱処理は、溶鋼が鋳造された後の1300℃超えから固相線温度以下までの温度範囲内にある鋼塊又は鋳片に対して施すものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の非調質フェライト・パーライト鋼材。
- 前記フェライト・パーライト鋼材は、ビッカース硬さが210以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の非調質フェライト・パーライト鋼材。
- 前記フェライト・パーライト鋼材は、前記化学成分組成の内、S含有量が0.003〜0.045質量%であって、ビッカース硬さが240以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の非調質フェライト・パーライト鋼材。
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2007
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