JP5090645B2 - 神経細胞移植補助剤および移植用神経細胞の製造法 - Google Patents
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しかしながら、実際に臨床応用されている胎児神経細胞移植は、環境因子の修飾はまったくなされないまま行われており、これが、顕著な効果を生み出せない原因のひとつとなっていると考えられる。動物実験レベルでは、脊髄損傷に対する神経幹細胞移植の際にグリア細胞によるバリア形成を抑制するコンドロイチナーゼとともに細胞を移植する方法(非特許文献1)や炎症性ケモカインを抑制することにより移植神経細胞の生存率を高める方法が報告されているが、細胞の組織への侵入を高める方法の報告はない。
一方、エストロゲンの神経保護効果やシナプス形成促進効果などはin vitroで報告されているが、細胞移植の際の効果については、全身のエストロゲン濃度が移植神経幹細胞のドーパミンニューロンへの分化を促進するという報告(非特許文献3)のみである。他臓器においても組織の保護にエストロゲンが働くことが報告されているが(非特許文献4)、移植効率への影響などについては報告がない。
また、植物由来のレクチンであるコンカナバリンAの神経細胞に対する効果や移植効率に対する効果はこれまでに検討されたことがない。
Nature. 2002 Apr 11;416:636-40 Curr Opin Genet 2000; 10: 120-127. J Neurosci Res. 2005 Feb 1;79:279-86 Surgery. 2004 Aug;136:336-45
移植の際に、MMP2タンパク質、または宿主組織のMMP2を活性化、あるいは産生を増加させる物質を同時に添加することで胎仔網膜由来神経前駆細胞を宿主網膜内に広く侵入させることができることを見出した。さらに、MMP2タンパク質およびMMP2を活性化する物質が移植用神経細胞の製造や神経細胞移植の際の補助剤として使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤及び/又はマトリクスメタロプロテイナーゼ2タンパク質を有効成分とする神経細胞移植補助剤。
(2) マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤がエストロゲン及びコンカナバリンから選ばれる1種類以上の化合物である、(1)の神経細胞移植補助剤。
(3) 神経細胞が網膜細胞である、(1)または(2)の神経細胞移植補助剤。
(4) 体外において、神経細胞にマトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤及び/またはマトリクスメタロプロテイナーゼ2タンパク質を添加することを特徴とする移植用神経細胞の製造法。
(5) マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤がエストロゲン及びコンカナバリンから選ばれる1種類以上の化合物である、(4)の移植用神経細胞の製造法。
(6) 神経細胞が網膜細胞である、(4)または(5)の移植用神経細胞の製造法。
本発明の移植補助剤を網膜神経移植に使用する場合、適用疾患としては、網膜変性や視機能障害を起こした眼科疾患、具体的には、炎症や外傷によるものに加え、緑内障(原発性緑内障、続発性緑内障)、網膜血管閉塞症、糖尿病網膜症、虚血性視神経症、加齢黄斑変性、網膜色素変性、レーベル病、小口病、網膜色素線条、網膜静脈周囲炎、Eales病、虚血性眼症候群、網膜細動脈瘤、又は高血圧、腎疾患もしくは血液疾患による網膜症、網膜ジストロフィー、黄斑ジストロフィー、黄斑浮腫、網膜分離症、錐体ジストロフィー等が挙げられる。
MMP2遺伝子の転写を活性化させる物質としては、フォルボールエステル(Phorbol ester), エストロゲン(17β-estradiol (E2))などの化合物、インターロイキン−1(IL-1), 腫瘍壊死因子−α(TNF-alpha), トランスフォーミング増殖因子β−1(TGF β-1)などのタンパク質を含む。
MT-MMPを活性化する物質としては、植物由来のレクチンであるコンカナバリンA(concanavalin A)などが挙げられる。
フォルボールエステル, エストロゲンは市販のものを用いてもよいし、合成して用いてもよい。IL-1, TNF-alpha, TGF beta-1、コンカナバリンAなどのタンパク質は市販のものを用いてもよいし、遺伝子組み換えによって得られたものを用いてもよい。コンカナバリンAの例としては、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。
ただし、MT-MMPを活性化するものである限り、この配列のものに限定されず、その他の
公知のコンカナバリンAやそれらのホモログであってもよい。コンカナバリンAのホモログとしては例えば配列番号3のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有し、神経細胞の移植効率を向上させるタンパク質が挙げられる。
なお、エストロゲンおよびコンカナバリンAのMMP2に対する効果は、それぞれ、Am J Physiol Renal Physiol 2002; 282: F164-169.、Proc Natl Acad Sci U S A 2001; 98: 13693-13698.に記載されている。
なお、本発明の神経細胞移植補助剤は、上記MMP2活性化剤とMMP2タンパク質の両方を含むものであってもよい。
エストロゲンおよびコンカナバリンAなどのMMP2活性化剤及びMMP2タンパク質は、溶解剤、希釈剤、界面活性剤などの薬学的に許容される担体と組み合わせて移植補助剤として使用してもよい。
また、神経細胞はMMP2をコードする遺伝子(例えば、配列番号1のDNA)が外来的に導入された細胞であってもよい。MMP2遺伝子の導入はプラスミドやウイルスベクターなどを使用する公知の方法に従って行うことができる。
1.試薬
活性型MMP-2はChemicon社から購入した。コンカナバリンA(ConA)はWako社から購入した。MMP-2阻害剤(Cis-9-Octadecenoyl-N-hydroxylamide)はCalbiochem社から購入した。エストロゲン(E2)はSigma社から購入した。
網膜移植片培養はMethods 2002; 28: 387-395.、Brain Res 2002;954:286-293.に記載の方法に従って行った。成体のフィッシャーラット(Shimizu Laboratory Supplies, 京都)から目を摘出した。残った組織から網膜神経を取り出し、Millicell-CM チャンバーフィルター(Millipore社; 直径30mm)上に、神経細胞層を上にして置いた。Millicell-CM チャンバーフィルターを、1ウェルあたり1 ml の培養液 [50% minimum essential medium with Hepes (Invitrogen), 25% Hanks' solution (Invitrogen), 25% 熱不活化ウマ血清, 200 μM L-グルタミン及び5.75 mg/ml グルコース]を含む6ウェル培養プレート (Millipore)に入れた。
各ウェルには、それぞれ、0.1μg/ml活性化型MMP-2, 20μg/ml Con A, 20μg/ml Con A
+20μg/ml MMP-2阻害剤, 10-10M E2, 10-10M E2 +20μg/ml MMP-2阻害剤, 20μg/ml Con A + 10-10M E2, 20μg/ml Con A+10-10M E2 + 20μg/ml MMP-2 阻害剤, 20μg/ml MMP-2 阻害剤を添加した。培養液に何も添加しないウェルをコントロールとした。
体外移植は次のようにして行った。生後0〜2日のgreen fluorescent protein (GFP) トランスジェニックマウス(大阪大学岡部氏より入手) から単離した網膜由来神経前駆細胞をPapain Dissociation System (Worthington Biochemical)を用いてばらばらにし、この細胞懸濁液 (1.0×105 cells/μl) を2 μlずつ、上記で用意したプレートの、宿主網膜(フィッシャーラット由来)とチャンバーフィルターの間(網膜下腔)に添加し、 34°C、 5% CO2の条件で培養した。培地は一日おきに交換し、約1週間後に組織学的解析のために凍結切片を作製した。
In vivo 移植は Mol Cell Neurosci 2001;18:473-484.に記載の方法に従って行った。生体 C57BL/6 マウスに、60 mg/kg の MNU (N-Methyl-N-nitrosourea;Sigma)を腹腔内投与することにより網膜の変性を誘導した。網膜変性処理の7日後に、20 μg/ml Con A及び 10-10M E2を含む1μlの細胞懸濁液(1.0×105 cells/μl) をガラスピペットを用い、強膜を介して網膜変性モデルマウスの網膜下腔に注入した。Con A及び E2を含まない細胞懸濁液を注入し、これをコントロールとした。
移植後4週のマウスに過剰のpentobarbitalナトリウムを注射して処理し、PBS、ついで4%パラホルムアルデヒド(メルク社)/0.1Mリン酸バッファーで還流した。眼球を摘出し、これを新たな4% PFAに4℃で16時間浸漬し、次いで25% sucrose/PBSに浸漬した。optimal cutting temperature compound (Miles社)に包埋した後, 12−16μm の連続した凍結切片をクライオスタット上で調製した。
移植細胞を含む切片を共焦点レーザー顕微鏡 (Leica Microsystems社)を用いてGFPの蛍光を観察した。10切片ごとの平均細胞数を数え、宿主網膜全体にわたってサンプリングした。各セクションにおける全GFP陽性細胞に対する宿主網膜に侵入したGFP陽性細胞の数
を数え、宿主網膜に侵入した細胞のパーセンテージを算出した。細胞数は平均値±SDで表した。全てのデータはStudent's t-testによって評価した。
体外器官培養系での網膜由来神経前駆細胞移植におけるMMP-2の効果
新生仔GFPマウスから調製した網膜由来神経前駆細胞を用い、この細胞の、器官培養された宿主網膜への侵入を外から加えたMMP-2が促進するかについて調べた結果、移植の際にMMP-2を加えた群では全GFP陽性細胞のうちの18.43 ( 1.60% が宿主網膜に侵入した(図1)。一方、MMP-2を加えない対照群では2.46 ( 0.54%であり、MMP-2添加の効果は有意であった(p < 0.01)。
また、Con A, E2をそれぞれ単独または組合わせて添加し、移植細胞の侵入の程度を調べた結果、Con A投与群, E2投与群, Con A+E2投与群では、それぞれ15.68 ( 2.86%, 12.88 ( 2.29%, および17.72 ( 2.43%が宿主網膜に侵入した(図2、3)。統計的な有意差はCon A投与群がコントロール群に対してp < 0.05, E2投与群がコントロール群に対してp
< 0.01であった。両者を同時に加えた場合に相加的効果は見られなかったものの、網膜内層(inner retina)に侵入する細胞の数が増加した。
さらに、上記のConAおよびE2の効果がMMP-2を介するものであるかについて検討するため、MMP-2 阻害剤を同時に加えて評価した。その結果、MMP-2阻害剤はConAおよびE2、Con
A+E2の効果を低下させた(侵入率はそれぞれ7.54 ( 0.55%, 5.82 ( 1.06%, 11.71 (1.66%であった)(図4、5)。
次に、MNU(N‐methyl‐N‐nitrosourea)誘発網膜変性症モデルマウスを用いて網膜由来神経前駆細胞のインビボでの移植効率に対するConA とE2 の影響を調べた。移植4週後、動物を処理し、凍結切片を作製して解析した結果、ConA+E2 処理群(図6B)では宿主網膜の内顆粒層(INL)および内網状層(IPL)に移植細胞が侵入したが、非処理群(図6A)では大部分の細胞が網膜下腔にとどまっていることがわかった。
生体ラット海馬由来神経幹細胞(adult rat hippocampus-derived neural stem cells :AHSC)の移植効率に対するMMP-2 の効果
AHSCは胎仔網膜細胞と比べて移植効率がよい。そこで、両細胞における各MMPの発現量をRT-PCRで調べた。その結果、MMP2のみが胎仔(胎生19日)網膜細胞に比べてAHSCで多く発現していることがわかった。
Claims (3)
- マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤及び/又はマトリクスメタロプロテイナーゼ2タンパク質を有効成分とする網膜細胞移植補助剤であって、
マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤がエストロゲン及びコンカナバリンから選ばれる1種類以上の化合物である、網膜細胞移植補助剤。 - マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤及び/又はマトリクスメタロプロテイナーゼ2タンパク質を有効成分とする網膜細胞移植用生着促進剤であって、
マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤がエストロゲン及びコンカナバリンから選ばれる1種類以上の化合物である、網膜細胞移植用生着促進剤。 - 体外において、網膜細胞にマトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤及び/又はマトリクスメタロプロテイナーゼ2タンパク質を添加することを特徴とする移植用網膜細胞の製造法であって、
マトリクスメタロプロテイナーゼ2活性化剤がエストロゲン及びコンカナバリンから選ばれる1種類以上の化合物である、移植用網膜細胞の製造法。
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