JP5087965B2 - 極低炭フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents
極低炭フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 Download PDFInfo
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そこで特許文献1には、リジング特性を改善するために、フェライト系ステンレス鋼においてMgを含有する酸化物を鋼板の断面に析出させる技術が開示されている。
そのため、場合によっては特許文献3に示されるようなワイヤでMgを溶融させ、連鋳の鋳型の中に注入する必要があった。
ところがフェライト系ステンレス鋼、特に炭素含有量が極めて小さいフェライト系ステンレス鋼(以下、極低炭フェライト系ステンレス鋼という)では、特許文献4のようなオーステナイト相はほとんど晶出しない。そのため、熱間圧延や冷間圧延で大きい圧下をかけても、再結晶によって組織が微細化されることは期待できない。つまり極低炭フェライト系ステンレス鋼では、オーステナイト相はほとんど晶出しないので、鋳型に鋳込んだ溶鋼が凝固するまでの冷却過程にて凝固組織を微細化する技術を導入しなければならない。
本発明の極低炭フェライト系ステンレス鋼においては、前記した組成に加えて、Cu:0.3〜0.8質量%およびNi:0.1〜0.8質量%を含有することが好ましい。
また、鋳型に鋳込んだ溶鋼が凝固を完了して鋳片または鋼塊となるまでの冷却過程にて、溶鋼に電磁撹拌を付与することが好ましい。
C:0.01質量%以下
CはCrと結合してCr炭化物を形成し、耐食性を向上させる固溶Cr量を低減する作用を有する。C含有量が0.01質量%を超えると、その作用が顕著に現われて、耐食性の劣化をもたらす。また、後述するBがNと結合して生成されるBNはCを凝集する性質を有しており、C含有量が0.01質量%を超えると、Cの濃度のむらが大きくなり、等軸晶率が低減してしまう。したがって、Cは0.01質量%以下とした。なお、C含有量を低減することによって、溶鋼の凝固温度を上昇させて凝固の過冷却を増やし、凝固組織の等軸晶化を促進する効果が得られる。
Siは、溶鋼の精錬時に生成するCr酸化物の還元および溶鋼の脱酸に有用な元素である。Si含有量が0.03%未満では、その効果が得られない。一方、0.3質量%を超えると、極低炭フェライト系ステンレス鋼の成形性が劣化する。したがって、Siは0.03〜0.3質量%の範囲内とした。
Mnは、溶鋼を脱酸し、さらに極低炭フェライト系ステンレス鋼の強度を発現させる元素である。Mn含有量が0.1質量%未満では、この効果は得られない。一方、0.5質量%を超えると、MnSの析出量が増加して耐食性が劣化する。したがって、Mnは0.1〜0.5質量%の範囲内とした。
Pは、極低炭フェライト系ステンレス鋼の靱性,熱間加工性,耐食性を劣化させる元素である。P含有量が0.05質量%を超えると、極低炭フェライト系ステンレス鋼の靱性,熱間加工性および耐食性が著しく劣化する。したがって、Pは0.05質量%以下とした。
S:0.01質量%以下
Sは、極低炭フェライト系ステンレス鋼の靱性,熱間加工性,耐食性を劣化させる元素である。S含有量が0.01質量%を超えると、極低炭フェライト系ステンレス鋼の靱性,熱間加工性および耐食性が著しく劣化する。したがって、Sは0.01質量%以下とした。
Crは、フェライト系ステンレス鋼の耐食性および耐酸化性を確保するのに有効な元素である。Cr含有量が20質量%未満では、その効果が十分に得られない。一方、25質量%を超えると、475℃脆性と呼ばれる現象が生じ易くなり、フェライト系ステンレス鋼の靱性が著しく低下する。したがって、Crは20〜25質量%の範囲内とした。
Tiは、Al-Ti系複合介在物を形成させて、フェライト系ステンレス鋼の凝固組織を微細化し、等軸晶率を高めることによって成形性を向上させる元素である。さらに、Tiは鋼中のN,Cと結合して炭化物,窒化物や炭窒化物を形成し、基地に固溶するC,Nを低減してフェライト系ステンレス鋼の成形性,耐食性,靱性を向上させる作用も有する。Ti含有量が少なすぎる場合は、その効果が十分に得られず、特に0.2質量%未満では、等軸晶率が70%以上の凝固組織が得られない。一方、0.5質量%を超えると、等軸晶率の向上には有効であるが、Tiの酸化物および窒化物が凝集して疵の起点となり、フェライト系ステンレス鋼の表面性状を損なう原因になる。したがって、Tiは0.2〜0.5質量%の範囲内とした。
Bは、Ti,Nと化合してBN,TiB2を析出させ、核生成の起点となるとともに、粒界を強化する作用を有する。B含有量が0.003質量%未満では、核生成の起点となる析出物が十分に生成しない。一方、0.08質量%を超えると、Tiと同様に等軸晶率の向上には有効であるが、結晶粒界にBが偏析して、内部割れが発生する。本発明では、Bは0.0053〜0.08質量%の範囲内とした。
Nは、Ti,B,Cを核として不均一核生成した介在物を生成させ、凝固組織を微細化して等軸晶率を高めるのに必須の元素である。N含有量が0.005質量%未満では、析出物がほとんど生成しないので核生成の起点にならない。一方、0.015質量%を超えると、核生成には有効であるが、その核となる析出物を起点として表面欠陥が発生するとともに、靱性の著しい低下を招く。したがって、Nは0.005〜0.015質量%の範囲内とした。
Cu:0.3〜0.8質量%
Cuは、耐食性を向上させる元素である。Cu含有量が0.3質量%未満では、耐食性向上の効果が得られない。一方、0.8質量%を超えると、熱間圧延工程(すなわち加熱炉おける加熱または圧延機における圧延)にて低融点のCu化合物を形成し易くなる。したがって、Cuは0.3〜0.8質量%の範囲内が好ましい。
Niは、微量の添加で耐食性を向上させる元素である。Ni含有量が0.1質量%未満では、耐食性向上の効果が得られない。一方、0.8質量%を超えると、C含有量によっては熱間圧延工程でオーステナイト相が生成し易くなり、組織が2相化して耐食性が劣化する。したがって、Niは0.1〜0.8質量%の範囲内が好ましい。
次に、本発明の極低炭フェライト系ステンレス鋼を製造する方法を説明する。
溶銑の溶製は、特定の技術に限定せず、高炉や電気炉,溶融還元炉等を用いて従来から知られている方法で行なう。ただし溶銑にCrを含有させる必要があるので、Cr鉱石を電気炉に装入して溶銑を溶製する、あるいはCr鉱石粉を溶融還元炉に装入して溶銑を溶製することが好ましい。
得られた溶銑の精錬は、脱炭精錬(いわゆる1次精錬)と脱ガス精錬(いわゆる2次精錬)に大別される。脱炭精錬は、特定の技術に限定せず、転炉や平炉等を用いて従来から知られている方法で行なう。脱ガス精錬は、特定の技術に限定せず、RH法,DH法,VAD法,VOD法等の従来から知られている真空精錬技術で行なう。ただしVOD法を採用して脱ガス精錬を行なうことが好ましい。その理由は、本発明の成分は極低炭素であり、脱炭を効率良く進める必要があるからである。RH法等では、酸素がCrと結合し易いので、脱炭の効率が低下する惧れがある。そのため、VOD法を採用することが好ましい。
脱ガス精錬を終了した後、得られた溶鋼を脱ガス精錬容器から排出して取鍋に収容するまでにTiとBを添加することが好ましい。TiとBを脱炭精錬の段階で添加すると、脱ガス精錬によってTi,Bが除去され、歩留りが低下する。Ti,Bは高価な金属であるから、歩留りを向上して原料コストを削減するために、脱ガス精錬を終了した後で溶鋼に添加する。
また鋳型に鋳込んだ溶鋼の冷却過程で、Ti,B,NおよびCの中から選ばれる2種以上の元素を含む析出物を、デンドライトの樹幹に析出させる。この析出した析出物が結晶生成核になるので、微細な凝固組織が得られる。
Claims (6)
- C:0.01質量%以下、Si:0.03〜0.3質量%、Mn:0.1〜0.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:20〜25質量%、Ti:0.2〜0.5質量%、B:0.0053〜0.08質量%およびN:0.005〜0.015質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする極低炭フェライト系ステンレス鋼。
- 前記組成に加えて、Cu:0.3〜0.8質量%およびNi:0.1〜0.8質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の極低炭フェライト系ステンレス鋼。
- 溶銑を脱炭精錬した後、脱ガス精錬を行ない、さらに脱酸材を添加して脱酸し、得られた溶鋼を取鍋に収容するまでにTiとBを添加して、C:0.01質量%以下、Si:0.03〜0.3質量%、Mn:0.1〜0.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:20〜25質量%、Ti:0.2〜0.5質量%、B:0.0053〜0.08質量%およびN:0.005〜0.015質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する溶鋼を得た後、前記溶鋼を前記取鍋に収容しさらに前記取鍋から鋳型に鋳込んで鋳片または鋼塊とすることを特徴とする極低炭フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- 前記溶鋼が、前記組成に加えて、Cu:0.3〜0.8質量%およびNi:0.1〜0.8質量%を含有することを特徴とする請求項3に記載の極低炭フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- 前記脱ガス精錬をVODで行ない、前記脱酸材としてSiまたはAlを使用することを特徴とする請求項3または4に記載の極低炭フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- 前記鋳型に鋳込んだ前記溶鋼が凝固を完了して鋳片または鋼塊となるまでの冷却過程にて、前記溶鋼に電磁撹拌を付与することを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の極低炭フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
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