JP5076868B2 - 配線基板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は配線基板の製造方法に関するものである。
電子部品が実装される回路基板(配線基板)として、セラミックスで構成された基板(セラミックス基板)上に、金属材料で構成された配線が形成されたセラミックス回路基板が、広く用いられている。このようなセラミックス回路基板では、基板(セラミックス基板)自体が、多機能性材料で構成されているため、多層化による内装部品の形成、寸法の安定性等の点で有利である。
そして、このようなセラミックス回路基板は、セラミックス粒子とバインダーとを含む材料で構成されたセラミックス成形体上に、形成すべき配線(導体パターン)に対応するパターンで、金属粒子を含む組成物を付与し、その後、当該組成物が付与されたセラミックス成形体に対し、脱脂、焼結処理を施すことにより製造されている。また、このようなセラミックス回路基板は、一般に、配線の密度の向上を目的として、複数のセラミックス基板と複数の導体パターンとを交互に積層させた積層体として製造される。
ところで、セラミックス成形体上へのパターン形成の方法としては、スクリーン印刷法が広く用いられている。その一方で、近年、配線の微細化(例えば、線幅:60μm以下の配線)、狭ピッチ化による回路基板の高密度化が求められているが、スクリーン印刷法では、配線の微細化、狭ピッチ化に不利であり、上記のような要求に応えるのが困難である。
そこで、近年、セラミックス成形体上へのパターン形成の方法として、液体吐出ヘッドから金属粒子を含む液体材料(導体パターン形成用インク)を液滴状に吐出する液滴吐出法、いわゆるインクジェット法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、従来の導体パターン形成用インクでは、吐出待機時や長時間連続して吐出した際に、液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)の液滴の吐出部付近において、導体パターン形成用インクの分散媒の揮発により導電性微粒子が析出してしまうといった問題があった。このように液滴の吐出部付近に導電性微粒子が析出すると、吐出された液滴の軌道が変化し(いわゆる、飛行曲がりが発生し)、目的の部位に液滴を着弾させることができなくなったり、液滴の吐出量が不安定化する等の問題を生じることがあった。また、このような場合、従来の導体パターン形成用インクによって基板上に形成されたパターンは、十分に均一な厚さ、幅を有することが困難であった。
また、従来においては、セラミックス成形体上に形成されたパターンから、セラミックス成形体を積層する際や、パターンを焼結する際に、パターン中に亀裂(クラック)が生じやすく、結果として形成した導体パターンの一部に断線が生じやすいものとなっていた。特に、近年の配線の微細化、狭ピッチ化による回路基板の高密度化に伴い、このような問題の発生が顕著であった。
特開2007−84387号公報
本発明の目的は、信頼性の高い導体パターンを備えた配線基板の製造方法を提供すること、液滴の吐出安定性に優れ信頼性の高い導体パターンを形成できる導体パターン形成用インクを提供すること、信頼性の高い導体パターンを提供すること、および、このような導体パターンを備え信頼性の高い配線基板を提供することにある。
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の配線基板の製造方法は、液滴吐出法により、水系分散媒と水系分散媒に分散した金属粒子と糖アルコールとを含む導体パターン形成用インクを、セラミックス粒子とバインダーとを含む材料で構成されたセラミックス成形体上に、所定のパターンで付与するインク付与工程と、
前記パターンが形成された前記セラミックス成形体を、複数枚加温下で圧着することにより積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を焼結することにより、セラミックス基板と導体パターンとを有する配線基板を形成する焼結工程とを有し、
前記糖アルコールの融点は、前記セラミックス成形体に含まれるバインダーのガラス転移温度よりも高いものであり、
前記積層体形成工程での前記セラミックス成形体の温度は、前記バインダーのガラス転移温度より高く、前記糖アルコールの融点より低いものであることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い導体パターンを備えた配線基板の製造方法を提供することができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記積層体形成工程は、静水圧プレス法により、複数枚の前記セラミックス成形体を圧着するものであることが好ましい。
これにより、信頼性の特に高い導体パターンを備えた配線基板の製造方法を提供することができる。
本発明の配線基板の製造方法では、前記インク付与工程は、前記セラミックス成形体を、40〜80℃に加温するものであることが好ましい。
これにより、より微細なパターンを容易に形成することができ、より信頼性の高い導体パターンを製造することができる。
本発明の導体パターン形成用インクは、液滴吐出法により、セラミックス粒子とバインダーとを含む材料で構成されたセラミックス成形体上に付与され、導体パターンの形成に用いられる導体パターン形成用インクであって、
前記セラミックス成形体は、導体パターン形成用インクが付与された状態で積層されて焼結されるものであり、
水系分散媒と、水系分散媒に分散した金属粒子と、糖アルコールとを含み、
前記糖アルコールの融点は、前記セラミックス成形体に含まれる前記バインダーのガラス転移温度よりも高いことを特徴とする。
これにより、液滴の吐出安定性に優れ、信頼性の高い導体パターンを形成できる導体パターン形成用インクを提供することができる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記糖アルコールとして、少なくとも2種以上の成分を含むことが好ましい。
これにより、導体パターン形成用インクの保水性を特に優れたものとしつつ、糖アルコールが結晶として析出することをより確実に防止でき、形成する導体パターンでの断線、クラックの発生をより確実に防止することができる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記糖アルコールとして、単糖由来の糖アルコールを含むものであることが好ましい。
これにより、液滴の吐出安定性を特に優れたものとすることができ、形成される導体パターンの信頼性を特に高いものとすることができる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記糖アルコールとして、二糖由来の糖アルコールを含むものであることが好ましい。
これにより、糖アルコールが結晶として析出することをより確実に防止でき、形成する導体パターンでの断線、クラックの発生をより確実に防止することができる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記糖アルコールの融点は、90〜200℃であることが好ましい。
これにより、糖アルコールが結晶として析出することをより確実に防止でき、形成する導体パターンでの断線、クラックの発生をより確実に防止することができる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、導体パターン形成用インクは、ポリグリセリン化合物を含むものであることが好ましい。
これにより、糖アルコールが結晶として析出することをより確実に防止でき、形成する導体パターンでの断線、クラックの発生をより確実に防止することができる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記バインダーのガラス転移温度は、25〜95℃であることが好ましい。
これにより、糖アルコールが結晶として析出することをより確実に防止でき、形成する導体パターンでの断線、クラックの発生をより確実に防止することができる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記セラミックス成形体の前記バインダーは、ポリビニルブチラールを含むものであることが好ましい。
ポリビニルブチラールは、本発明の導体パターン形成用インクと適度な親和性を有するため、所望の形状のパターンをより正確に形成することができ、形成される導体パターンは、信頼性の特に高いものとなる。
本発明の導体パターンは、本発明の導体パターン形成用インクによって形成されたことを特徴とする。
これにより、信頼性の高い導体パターンを提供することができる。
本発明の配線基板は、本発明の導体パターンが備えられてなることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い配線基板を提供することができる。
本発明の配線基板は、本発明の配線基板の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
これにより、信頼性の高い配線基板を提供することができる。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
まず、本発明の配線基板の製造方法に先立ち、配線基板の製造に用いられる導体パターン形成用インクおよび導体パターン形成用インクの製造方法について説明する。
《導体パターン形成用インク》
本発明の導体パターン形成用インクは、セラミックス基板上に導体パターンを形成するのに用いるインクであり、特に、液滴吐出法によって導体パターンを形成するのに用いるインクである。また、本実施形態では、セラミックスとバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)に導体パターン形成用インクを付与するものとして説明する。なお、セラミックス成形体およびセラミックス成形体に付与されたインクのパターン(前駆体)は、後述するように焼結処理され、それぞれセラミックス基板および導体パターンとなる。
以下、導体パターン形成用インクの好適な実施形態について説明する。なお、本実施形態では、金属粒子を水系分散媒に分散してなる分散液として、銀粒子が分散した分散液を用いた場合について代表的に説明する。
導体パターン形成用インク(以下、単にインクともいう)は、水系分散媒と、水系分散媒に分散した銀粒子と、糖アルコールとを含むものである。
以下、導体パターン形成用インクの各構成成分について詳細に説明する。
[水系分散媒]
まず、水系分散媒について説明する。
本発明において、「水系分散媒」とは、水および/または水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)で構成されたもののことを指す。このように、水系分散媒は、水および/または水との相溶性に優れる液体で構成されたものであるが、主として水で構成されたものであるのが好ましく、特に、水の含有率が70wt%以上のものであるのが好ましく、90wt%以上のものであるのがより好ましい。
水系分散媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、導体パターン形成用インク中における水系分散媒の含有量は、25〜60wt%であることが好ましく、30〜50wt%であることがより好ましい。これにより、インクの粘度を好適なものとしつつ、分散媒の揮発による粘度の変化を少ないものとすることができる。
[銀粒子]
次に、銀粒子(金属粒子)について説明する。
銀粒子は、形成される導体パターンの主成分であり、導体パターンに導電性を付与する成分である。
また、銀粒子は、インク中において分散している。
銀粒子の平均粒径は、1〜100nmであるのが好ましく、10〜30nmであるのがより好ましい。これにより、インクの吐出性をより高いものとすることができるとともに、微細な導体パターンを容易に形成することができる。
また、インク中に含まれる銀粒子(分散剤が表面に吸着していない銀粒子)の含有量は、0.5〜60wt%であるのが好ましく、10〜45wt%であるのがより好ましい。これにより、導体パターンの断線をより効果的に防止することができ、より信頼性の高い導体パターンを提供することができる。
また、銀粒子(金属粒子)は、その表面に分散剤が付着した銀コロイド粒子(金属コロイド粒子)として、水系分散媒中に分散していることが好ましい。これにより、銀粒子の水系分散媒への分散性が特に優れたものとなり、インクの液滴吐出性が特に優れたものとなる。
分散剤は、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの分散剤は、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とOH基の数が3個未満であったり、COOH基の数がOH基の数よりも少ないと、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
このような分散剤は、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基が銀微粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とSH基の数が2個未満すなわち片方のみであると、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
インク中における銀コロイド粒子の含有量は、1〜60wt%程度であるのが好ましく、10〜50wt%程度であるのがより好ましい。銀コロイド粒子の含有量が前記下限値未満であると、銀の含有量が少なく、導体パターンを形成した際、比較的厚い膜を形成する場合に、複数回重ね塗りする必要が生じる。一方、銀コロイド粒子の含有量が前記上限値を超えると、銀の含有量が多くなり、分散性が低下し、これを防ぐためには攪拌の頻度が高くなる。
また、銀コロイド粒子の熱重量分析における500℃までの加熱減量は、1〜25wt%程度が好ましい。コロイド粒子(固形分)を500℃まで加熱すると、表面に付着した分散剤、後述する還元剤(残留還元剤)等が酸化分解され、大部分のものはガス化されて消失する。残留還元剤の量は、僅かであると考えられるので、500℃までの加熱による減量は、銀コロイド粒子中の分散剤の量にほぼ相当すると考えられる。加熱減量が1wt%未満であると、銀粒子に対する分散剤の量が少なく、銀粒子の充分な分散性が低下する。一方、25wt%を超えると、銀粒子に対する残留分散剤の量が多なり、導体パターンの比抵抗が高くなる。但し、比抵抗は、導体パターンの形成後に加熱焼結して有機分を分解消失させることである程度改善することができる。そのため、より高温で焼結されるセラミックス基板等に有効である。
なお、銀コロイド粒子の形成については、後に詳述する。
[糖アルコール]
本発明の導体パターン形成用インクには、糖アルコールが含まれている。
糖アルコールは、糖類のアルデヒド基およびケトン基を還元して得られるものである。
ところで、従来の導体パターン形成用インクを用いてパターンを形成した場合、吐出部付近で水系分散媒が揮発しやすく、液滴の吐出が不安定なものとなってしまう。このため、均一な膜厚、線幅のパターンを形成するのが難しいものであった。この結果、セラミックス成形体の積層時や焼結時において、パターンの薄い部分等からクラック等が発生し、形成される導体パターンは、クラック、断線等が多く信頼性の劣るものであった。
これに対し、本発明の導体パターン形成用インクは、糖アルコールが含まれている。糖アルコールは、一般に、保湿性に優れた成分であり、導体パターン形成用インクの分散媒の揮発を防止することに寄与することのできる成分である。このため、導体パターン形成用インクに糖アルコールが含まれていることにより、インクジェット装置の吐出部付近において水系分散媒が揮発することを防止でき、インクの粘度の上昇、乾燥が抑えられる。この結果、インクの液滴の吐出安定性が優れたものとなる。すなわち、インクの液滴の重量のばらつきが小さいものとなり、目詰まり、飛行曲がり等が少ないものとなる。また、特に、インクジェット装置に導体パターン形成用インクを充填した後に、長期間(例えば、5日間)運転を行わずにインクジェット装置を待機状態とした場合であっても、本発明の導体パターン形成用インクは、均一な量で、目的とする位置に精度よく吐出されることができる。
また、導体パターン形成用インクによって形成されたパターン(前駆体)では、乾燥(脱水系分散媒)される際に、水系分散媒が揮発するとともに、糖アルコールの濃度が上昇する。これにより、導体パターンの前駆体の粘度が上昇するため、前駆体を構成するインクの不本意な部位への流れ出しがより確実に防止される。その結果、形成される導体パターンをより高い精度で所望の形状とすることができる。
また、セラミックス成形体上に付与された導体パターン形成用インクの液滴は、糖アルコールが含まれることにより、インクを付与する工程においては、完全に乾燥することが防止される。これにより、液滴上にさらにインクの液滴を付与した場合であっても、好適に液滴同士が混合、密着することができる。このため、所望の形状のパターンを均一な膜厚、幅で形成でき、信頼性の高い導体パターンを形成することができる。また、このように複数回同一箇所にインクの液滴を付与することにより、比較的厚さの大きい導体パターンを形成することができる。
以上より、厚さおよび幅が均一なパターンをインクによって容易に形成でき、得られる導体パターンは、厚さおよび幅が均一なものとなる。
また、糖アルコールは、分子量あたりの酸素数が多いため、雰囲気が糖アルコールの分解温度に達すると、容易に分解して除去される。このため、導体パターンを形成する際には、パターンの温度を糖アルコールの分解温度よりも高くすることで、導体パターン内から糖アルコールを確実に除去(酸化分解)することができる。
ところで、パターンが形成されたセラミックス成形体は、複数枚積層されて焼結される。セラミックス成形体を積層する際には、一般に、十分に高い温度に加温しつつセラミックス成形体同士を圧着させる。導体パターン形成用インクにただ単純に糖アルコールを含ませた場合、形成される導体パターンに断線が発生することを本発明者らは見出した。
このため、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、圧着時において、糖アルコールが溶融し、引き続く工程までの間に冷却されたセラミックス成形体中において、糖アルコールが結晶として析出しており、析出した結晶が前駆体に損傷を与えていることをさらに見出した。
そこで、本発明者らは、本発明に至った。すなわち、導体パターン形成用インクに含まれる糖アルコールの融点を、セラミックス成形体に含まれるバインダーのガラス転移温度よりも高いものとすることで、形成される導体パターンに断線が発生することを防止できることを見出した。これは、以下のように考えられる。圧着時において、セラミックス成形体は、含まれるバインダーのガラス転移温度以上に加温される。このとき、糖アルコールの各成分の融点がバインダーのガラス転移温度より高いため、糖アルコールの各成分は、溶融せずに導体パターン中に分散した状態が維持される。このため、セラミックス成形体の積層体が冷却された場合であっても、糖アルコールは、結晶として析出することが防止される。この結果、セラミックス成形体の積層体中において、パターン(前駆体)は、糖アルコールの結晶によって損傷を受けることが好適に防止されるこのため、形成される導体パターンは、断線等が防止された信頼性の高いものとなる。
これに対し、導体パターン形成用インクに含まれる糖アルコールの融点が、セラミックス成形体に含まれるバインダーのガラス転移温度以下の場合、セラミックス成形体の積層、圧着中において、糖アルコールは、融点以上に加温されてしまう。この結果、パターン中の糖アルコールは溶融してしまい、セラミックス成形体が冷却された際に結晶として析出してしまう。この結果、形成される導体パターンは、断線、損傷が多く信頼性が劣るものとなる。
また、導体パターン形成用インクの糖アルコールの融点は、セラミックス成形体のバインダーのガラス転移温度よりも高いものであればよいが、セラミックス成形体のバインダーのガラス転移温度よりも3℃高いことが好ましく、5℃高いことがより好ましい。これにより、より確実に糖アルコールの結晶が析出することを防止でき、形成される導体パターンは、特に信頼性の高いものとなる。
なお、後述するように、セラミックス成形体の積層時の温度は、糖アルコールの融点より低く、バインダーのガラス転移温度より高いものとすることができる。
また、本明細書中において、糖アルコールの融点は、例えば、JIS K0064に準拠して測定することができる。また、本明細書中において、バインダー等の成分のガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して測定することができる。
導体パターン形成用インクに用いることのできる糖アルコールとしては、バインダーのガラス転移温度より高いものであれば特に限定されないが、例えば、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、スレイトール、グリトール、タリトール、ガラクチトール、アリトール、アルトリトール、ドルシトール、イディトール、グリセリン(グリセロール)、イノシトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、ツラニトール等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上述した中でも、糖アルコールとして、単糖由来の糖アルコールを含むことが好ましい。単糖由来の糖アルコールは、保湿性に特に優れており、導体パターン形成用インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
また、上述した中でも、糖アルコールは、単糖由来の糖アルコールとして、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトールおよびイノシトールから選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。これらの糖アルコールは、インク中においては特に保湿性に優れるものであり、導体パターン形成用インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
また、上述した中でも、糖アルコールとして、二糖由来の糖アルコールを含むことが好ましい。二糖由来の糖アルコールは、比較的融点が高いものであるとともに、結晶化しにくい糖アルコールである。また、糖アルコールとして複数種の成分が導体パターン形成用インク中に含まれている場合、二糖由来の糖アルコールは、他の糖アルコールが結晶として析出することを確実に防止することができる。以上より、セラミックス成形体の積層前後において、より確実に糖アルコールの結晶が析出して、パターンが損傷することが防止される。
また、上述した中でも、糖アルコールは、二糖由来の糖アルコールとして、マルチトール、ラクチトールから選択される1種または2以上を含むことが好ましい。これらの糖アルコールは、特に結晶化しにくい糖アルコールである。また、糖アルコールとして複数種の成分が導体パターン形成用インク中に含まれている場合、他の糖アルコールの成分が結晶として析出することをより確実に防止することができる。これにより、形成される導体パターンは、特に信頼性が高いものとなる。
また、導体パターン形成用インクは、糖アルコールとして、少なくとも2種以上の成分を含むことが好ましい。このように糖アルコールとして、複数種の成分が混在することにより、各成分同士が干渉しあって互いの成分の結晶化をより確実に防止することができる。これにより、形成される導体パターンは、特に信頼性が高いものとなる。
特に、導体パターン形成用インクは、糖アルコールとして、単糖由来の糖アルコールと、二糖由来の糖アルコールとが含まれる場合、保水性が特に優れたものとなるとともに、糖アルコールが特に結晶化して析出しにくいものとなる。この結果、導体パターン形成用インクは、液滴の吐出安定性が特に優れたものとなり、均一な膜圧、線幅のパターンを形成することができる。また、形成される導体パターンは、クラック断線等がより確実に防止された信頼性の高いものとなる。
また、このような場合、導体パターン形成用インク中における単糖由来の糖アルコールの含有量をA[wt%]、二糖由来の糖アルコールの含有量をB[wt%]としたとき、1≦A/B≦12の関係を満足することが好ましく、3≦A/B≦9の関係を満足することがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクは、保水性を特に優れたものとしつつ、糖アルコールが結晶として析出することがより確実に防止される。
糖アルコールの融点は、バインダーのガラス転移温度よりも高いものであれば特に限定されないが、90〜200℃であることが好ましく、90〜180℃であることがより好ましい。これにより、糖アルコールの結晶化をより確実に防止しつつ、焼結時において、より確実に糖アルコールは除去されることができる。このため、焼結後に糖アルコールが導体パターン中に残存して、抵抗値等を下げることが防止される。すなわち、形成される導体パターンは、信頼性が特に高いものとなる。
なお、糖アルコールが複数種含まれる場合、上述したような糖アルコールの融点は、複数種の糖アルコールのうち、最も融点の低い糖アルコールの融点とすることができる。
また、導体パターン形成用インク中における糖アルコールの含有量は、3〜20wt%であるのが好ましく、5〜15wt%であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの水系分散媒の揮発をより確実に抑制することができ、導体パターン形成用インクは、より長期にわたって液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。これに対し、インク中に含まれる糖アルコールの含有量が前記下限値未満であると、インクの組成によってはインクの保湿性を十分に高くすることができない場合がある。一方、前記上限値を超えると、銀粒子に対する糖アルコールの量が多なりすぎ、焼結時に残存しやすくなる。その結果として、導体パターンの比抵抗が高くなる。但し、比抵抗は、焼結時間や焼結環境の制御によりある程度改善することができる。
[有機バインダー]
また、導体パターン形成用インクは、有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーは、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンにおいて、銀粒子の凝集を防止するものである。すなわち、形成されたパターンにおいて、有機バインダーは、銀粒子同士の間に存在することで銀粒子同士が凝集して、パターンの一部に亀裂(クラック)が生じることを防止できる。また、焼結時においては、有機バインダーは、分解されて除去されることができ、パターン中の銀粒子同士は、結合して導体パターンを形成する。以上により、有機バインダーを含んだ導体パターン形成用インクを用いた場合、クラック、断線が発生することをより確実に防止しつつ、容易に所望の形状の導体パターンを形成することができる。
有機バインダーとしては、特には限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール#200(重量平均分子量200)、ポリエチレングリコール#300(重量平均分子量300)、ポリエチレングリコール#400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール#600(重量平均分子量600)、ポリエチレングリコール#1000(重量平均分子量1000)、ポリエチレングリコール#1500(重量平均分子量1500)、ポリエチレングリコール#1540(重量平均分子量1540)、ポリエチレングリコール#2000(重量平均分子量2000)等のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール#200(重量平均分子量:200)、ポリビニルアルコール#300(重量平均分子量:300)、ポリビニルアルコール#400(平均分子量:400)、ポリビニルアルコール#600(重量平均分子量:600)、ポリビニルアルコール#1000(重量平均分子量:1000)、ポリビニルアルコール#1500(重量平均分子量:1500)、ポリビニルアルコール#1540(重量平均分子量:1540)、ポリビニルアルコール#2000(重量平均分子量:2000)等のポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル等のポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリグリセリンエステルとしては、例えば、ポリグリセリンのモノステアレート、トリステアレート、テトラステアレート、モノオレエート、ペンタオレエート、モノラウレート、モノカプリレート、ポリシノレート、セスキステアレート、デカオレエート、セスキオレエート等が挙げられる。
この中でも、有機バインダーとして、ポリグリセリン化合物を用いた場合、以下のような効果が得られる。
ポリグリセリン化合物は、導体パターン形成用インクによって形成されたパターン(後に詳述する導体パターンの前駆体)を乾燥(脱分散媒)した際に、パターンにクラックが発生するのを特に好適に防止することができる。これは、以下のように考えられる。導体パターン形成用インク中にポリグリセリン化合物が含まれることにより、銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を保つことができる。さらに、ポリグリセリン化合物は比較的沸点が高いため、水系分散媒の除去時においては除去されず、銀粒子の周囲に付着する。以上により、水系分散媒除去時において、ポリグリセリン化合物が銀粒子を包み込んだ状態が長く続き、水系分散媒の揮発による急激な体積収縮が避けられるとともに銀の粒成長(凝集)が妨げられる結果、パターン中のクラックの発生が抑制されると考えられる。
また、ポリグリセリン化合物は、導体パターンを形成する際の焼結時において、断線が発生するのをより確実に防止することができる。これは、以下のように考えられる。ポリグリセリン化合物は、比較的沸点あるいは分解温度が高い。このため、導体パターン形成用インクから導体パターンを形成する過程において、比較的高温であっても、インクで形成されたパターン中に存在することができる。
また、ポリグリセリン化合物が蒸発或いは熱(酸化)分解するまでは、銀粒子の周囲にポリグリセリン化合物が存在し、銀粒子同士の接近と凝集とを抑制することができ、ポリグリセリン化合物が分解した後には、より均一に銀粒子同士を接合させることができる。
さらに、焼結時においてパターン中の銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖(ポリグリセリン化合物)が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を保つことができる。また、このポリグリセリン化合物は、適度な流動性を有している。このため、ポリグリセリン化合物を含むことにより、導体パターンの前駆体は、セラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が優れたものとなる。
以上より、形成された導体パターンに断線が生じることをより確実に防止することができると考えられる。
また、さらに、ポリグリセリン化合物と糖アルコールとは、親和性が高いものである。このため、有機バインダーがポリグリセリン化合物含むものである場合、セラミックス成形体の積層時において、糖アルコールが結晶化することがより確実に防止される。
また、このようなポリグリセリン化合物を含むことにより、インクの粘度をより適度なものとすることができ、インクジェットヘッドからの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。また、成膜性も向上させることができる。
なお、ポリグリセリン化合物は、分子中に比較的多量の酸素原子を含むため、焼結時において、分解温度以上の雰囲気下に置かれることにより、容易かつ確実に分解してパターン中から除去される。
ポリグリセリン化合物としては、上述した中でも、ポリグリセリンを用いるのが好ましい。ポリグリセリンは、糖アルコールとの親和性が特に高いため、インク中での流動性が十分に高いものとなる。このため、インクによって形成されたパターンは、乾燥、焼結時において、流動性を十分に高いものとすることができる。また、糖アルコールが結晶化することをより確実に防止することができる。この結果形成される導体パターンは、断線、クラックの発生をより確実に防止される。さらに、ポリグリセリンは、水系分散媒への溶解度も高いので、好適に用いることができる。
また、有機バインダーとしては、その重量平均分子量が300〜3000であるものを用いるのが好ましく、400〜1000であるものを用いるのがより好ましく、400〜600であるものを用いるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンを乾燥した際に、クラックの発生をより確実に防止することができる。また、有機バインダーと糖アルコールとの親和性が十分に高いものとなり、焼結時において、インクによって形成されたパターンは、より長期にわたって流動性を維持することができ、セラミック成形体の温度変化による収縮、膨張への追従性が特に優れたものとなる。これに対し、有機バインダーの重量平均分子量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、水系分散媒を除去する際に有機バインダーが分解しやすい傾向があり、クラックの発生を防止する効果が小さくなる。また、有機バインダーの重量平均分子量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、排除体積効果等によりインク中への溶解性、分散性が低下する場合がある。
また、インク中に有機バインダーの含有量は、1〜40wt%であるのが好ましく、5〜20wt%であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性を特に優れたものとしつつ、クラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。これに対して、有機バインダーの含有量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、クラックの発生を防止する効果が小さくなる場合がある。また、有機バインダーの含有量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、インクの粘度を十分に低いものとすることが困難な場合がある。
また、導体パターン形成用インク中の前記結晶性を有する糖アルコールの含有量をX[wt%]、前記有機バインダーの含有量をY[wt%]としたとき、0.5≦X/Y≦20の関係を満足することが好ましく、1.0≦X/Y≦10の関係を満足することがより好ましい。これにより、形成されたパターンが吸湿することを確実に防止しつつ、パターンの流動性を十分なものとすることができ、形成される導体パターンは、断線、クラックの発生がより確実に防止されたものとなる。また、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
[その他の成分]
また、導体パターン形成用インクには、上記成分の他、アセチレングリコール系化合物が含まれていてもよい。アセチレングリコール系化合物は、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整する機能を有するものである。また、アセチレングリコール系化合物は、少ない添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することができる。また、吐出した液滴内に気泡が混入した場合であっても、速やかに気泡を除去することができる。
このように、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することにより、より微細な導体パターンを形成することができる。
上記化合物は、具体的には、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角が40〜90°(より好ましくは50〜80°)に調整する機能を有するものである。接触角が小さすぎると、微細な線幅の導体パターンを形成するのが困難となる場合がある。一方、接触角が大きすぎると、吐出条件等によっては、均一な線幅の導体パターンを形成するのが困難となる場合がある。また、着弾した液滴とセラミックス成形体との接触面積が小さくなりすぎてしまい、着弾した液滴が着弾位置からずれてしまう場合がある。
アセチレングリコール系化合物としては、例えば、サーフィノール104シリーズ(104E、104H、104PG−50、104PA等)、サーフィノール400シリーズ(420、465、485等)、オルフィンシリーズ(EXP4036、EXP4001、E1010等)(「サーフィノール」および「オルフィン」は、日信化学工業株式会社の商品名)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、インク中には、HLB値が異なる2種以上のアセチレングリコール系化合物を含んでいるのが好ましい。導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
特に、インク中に含まれる2種以上のアセチレングリコール系化合物のうち、最もHLB値が高いアセチレングリコール系化合物のHLB値と、最もHLB値が低いアセチレングリコール系化合物のHLB値との差が、4〜12であるのが好ましく、5〜10であるのがより好ましい。これにより、より少ないアセチレングリコール系化合物の添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の高いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、8〜16であるのが好ましく、9〜14であるのがより好ましい。
また、インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の低いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、2〜7であるのが好ましく、3〜5であるのがより好ましい。
インク中に含まれるアセチレングリコール系化合物の含有量は、0.001〜1wt%であるのが好ましく、0.01〜0.5wt%であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角をより効果的に所定の範囲に調整することができる。
また、導体パターン形成用インクには、上記成分の他、1,3−プロパンジオールが含まれていてもよい。これにより、インクジェットヘッドの吐出部付近における水系分散媒の揮発をより効果的に抑制することができるとともに、インクの粘度をより適度なものとすることができ、吐出安定性がさらに向上する。
インク中に1,3−プロパンジオールを含む場合、その含有量は、0.5〜20wt%であるのが好ましく、2〜10wt%であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。
なお、導体パターン形成用インクの構成成分は、上記成分に限定されず、上記以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、導体パターン形成用インクは、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールを含んでいてもよい。
《導体パターン形成用インクの製造方法》
次に、上述したような導体パターン形成用インクの製造方法の一例について説明する。
本実施形態では導体パターン形成用インクは、銀コロイド粒子が水系分散媒中に分散したコロイド液であるとして説明する。
本実施形態のインクを製造する際には、まず、上記分散剤と、還元剤とを溶解した水溶液を調製する。
分散剤の配合量としては、出発物質である硝酸銀のような銀塩中の銀と分散剤とのモル比が1:1〜1:100程度となるように配合することが好ましい。銀塩に対する分散剤のモル比が大きくなると、銀粒子の粒径が小さくなって導体パターン形成後の粒子同士の接触点が増えるため、体積抵抗値の低い被膜を得ることができる。
還元剤は、出発物質である硝酸銀(AgNO3−)のような銀塩中のAgイオンを還元して銀粒子を生成するという働きを有する。
還元剤としては、特に限定されず、例えば、ヒドラジン、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン系;水酸化ホウ素ナトリウム、水素ガス、ヨウ化水素等の水素化合物系;一酸化炭素、亜硫酸次亜リン酸等の酸化物系、Fe(II)化合物、Sn(II)化合物等の低原子価金属塩系、D−グルコースのような糖類、ホルムアルデヒド等の有機化合物系、あるいは上記の分散剤として挙げたヒドロキシ酸であるクエン酸、りんご酸や、ヒドロキシ酸塩であるクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウムやタンニン酸等が挙げられる。中でも、タンニン酸や、ヒドロキシ酸は還元剤として機能すると同時に分散剤としての効果を発揮するため好適に用いることができる。あるいは、金属表面で安定した結合を形成する分散剤として上記に挙げたメルカプト酸であるメルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸やメルカプト酸塩であるメルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸カリウム等を好適に用いることができる。これらの分散剤や還元剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの化合物を使用する際には、光や熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
また、還元剤の配合量としては、上記出発物質である銀塩を完全に還元できる量が必要であるが、過剰な還元剤は不純物として銀コロイド液中に残存してしまい、成膜後の導電性を悪化させる等の原因となるため、必要最小限の量が好ましい。具体的な配合量としては、上記銀塩と還元剤とのモル比が1:1〜1:3程度である。
本実施形態において、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液のpHを6〜12に調整することが好ましい。
これは、以下のような理由による。例えば、分散剤であるクエン酸三ナトリウムと還元剤である硫酸第一鉄とを混合した場合、全体の濃度にもよるがpHは大体4〜5程度と、上記したpH6を下回る。このとき存在する水素イオンは、下記反応式(1)で表される反応の平衡を右辺に移動させ、COOHの量が多くなる。したがって、その後、銀塩溶液を滴下して得られる銀粒子表面の電気的反発力が減少し、銀粒子(コロイド粒子)の分散性が低下してしまう。
−COO+H → −COOH…(1)
そこで、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液にアルカリ性の化合物を添加し、水素イオン濃度を低下させる。
添加するアルカリ性の化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水等を用いることができる。これらの中では、少量で容易にpHを調整できる水酸化ナトリウムが好ましい。
なお、アルカリ性の化合物の添加量が多すぎて、pHが12を超えると、鉄イオンのような残存している還元剤のイオンの水酸化物の沈殿が起こりやすくなる。
次に、本実施形態のインクの製造工程では、調製した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液に銀塩を含む水溶液を滴下する。
銀塩としては、特に限定されず、例えば、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、硫酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀、クロム酸銀、硝酸銀、二クロム酸銀等を用いることができる。これらの中では、水への溶解度が大きい硝酸銀が好ましい。
また、銀塩の量は、目的とするコロイド粒子の含有量、および、還元剤により還元される割合を考慮して定められるが、例えば、硝酸銀の場合、水溶液100重量部に対して15〜70重量部程度とするのが好ましい。
銀塩水溶液は、上記銀塩を純水に溶かすことにより調製し、調製した銀塩の水溶液を徐々に前述した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液中に滴下する。
この工程において、銀塩は還元剤により銀粒子に還元され、さらに、該銀粒子の表面に分散剤が吸着して銀コロイド粒子が形成される。これにより、銀コロイド粒子が水溶液中にコロイド状に分散した水溶液が得られる。
得られた溶液中には、コロイド粒子のほかに、還元剤の残留物や分散剤が存在しており、液全体のイオン濃度が高くなっている。このような状態の液は、凝析が起こり、沈殿しやすい。そこで、このような水溶液中の余分なイオンを取り除いてイオン濃度を低下させるために、洗浄を行うことが望ましい。
洗浄の方法としては、例えば、得られたコロイド粒子を含む水溶液を一定期間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、純水を加えて再度攪拌し、さらに一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度が繰り返す方法、上記静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過等でイオンを取り除く方法等を挙げることができる。
あるいは、次のような方法で洗浄を行ってもよい。溶液を製造した後に溶液のpHを5以下の酸性の領域に調整し、上記反応式(1)の反応の平衡を右辺に移動させることで銀粒子表面の電気的反発力を減少させ、積極的に金属コロイド粒子を凝集させた状態で洗浄を行い、塩類や溶媒を除去することができる。メルカプト酸のような低分子量の硫黄化合物を分散剤として粒子表面に有する金属コロイド粒子であれば金属表面で安定した結合を形成するため、凝集した金属コロイド粒子は、溶液のpHを6以上のアルカリ性の領域に再調整することにより、容易に再分散し、分散安定性に優れた金属コロイド液を得ることができる。
本実施形態のインクの製造過程では、上記工程の後、必要により銀コロイド粒子が分散した水溶液に水酸化アルカリ金属水溶液を添加し、最終的なpHを6〜11に調整することが好ましい。
これは、還元後に洗浄を行ったため、電解質イオンであるナトリウム濃度が減少している場合があり、このような状態の溶液では、下記反応式(2)で表される反応の平衡が右辺へ移動する。このままでは、銀コロイドの電気的反発力が減少して銀粒子の分散性が低下するため、適当量の水酸化アルカリを添加することにより、反応式(2)の平衡を左辺に移動させ、銀コロイドを安定化させるのである。
−COONa+HO → −COOH+Na+OH…(2)
このときに使用する上記水酸化アルカリ金属としては、例えば、最初にpHを調整する際に用いた化合物と同様の化合物を挙げることができる。
pHが6未満では、反応式(2)の平衡が右辺に移動するため、コロイド粒子が不安定化し、一方、pHが11を超えると、鉄イオンのような残存しているイオンの水酸化塩の沈殿が起こりやすくなるため好ましくない。ただし、予め鉄イオン等を取り除いておけば、pHが11を超えても大きな問題はない。
なお、ナトリウムイオン等の陽イオンは水酸化物の形で加えるのが好ましい。これは、水の自己プロトリシスを利用できるため最も効果的にナトリウムイオン等の陽イオンを水溶液中に加えることができるからである。
以上のようにして得られた銀コロイド粒子が分散した水溶液に、前述したような糖アルコール等の他の成分を添加することにより、導体パターン形成用インク(本発明の導体パターン形成用インク)を得る。
なお、糖アルコール等の他の成分の添加時期は、特に限定されず、銀コロイド粒子の形成後ならいつでもよい。
《配線基板の製造方法および導体パターンの形成方法》
次に、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法および導体パターンの形成方法について説明する。
図1は、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の概略の工程を示す説明図、図2は、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造工程説明図、図4は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図、図5は、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)の概略構成を説明するための模式図である。
本発明の配線基板の製造方法は、液滴吐出法により上述したような導体パターン形成用インクをセラミックス成形体上に所定のパターンで付与するインク付与工程と、パターンが形成されたセラミックス成形体を、複数枚加温下で圧着することにより積層して積層体を形成する積層体形成工程と、積層体を焼結することにより、セラミックス基板と導体パターンとを有する配線基板を形成する焼結工程とを有する。また、本実施形態においては、配線基板の製造方法は、セラミック成形体を準備するセラミックス成形体準備工程と、セラミックス成形体上に形成されたパターンから水系分散媒を除去する乾燥工程とをさらに有する。
以下、各工程について詳細に説明する。
[セラミックス成形体準備工程]
まず、セラミックス成形体を準備する。
原料粉体として、平均粒径が1〜2μm程度のアルミナ(Al)や酸化チタン(TiO)等からなるセラミックス粉末と、平均粒径が1〜2μm程度のホウ珪酸ガラス等からなるガラス粉末とを用意し、これらを適宜な混合比、例えば1:1の重量比で混合する。
次に、得られた混合粉末に適宜なバインダー(結合剤)や可塑剤、有機溶剤(分散剤)等を加え、混合・撹拌することにより、スラリーを得る。
バインダーは、上述したような糖アルコールの融点よりもガラス転移温度が低いものであれば特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール、アクリル系、セルロース系等のバインダー樹脂を用いることができる。
ないが、ポリビニルブチラールを含むことが好ましい。ポリビニルブチラールは、本発明の導体パターン形成用インクと適度な親和性を有するため、所望の形状のパターンをより正確に形成することができる。また、ポリビニルブチラールは、水に不溶であり、かつ、いわゆる油系の有機溶媒に溶解しあるいは膨潤し易いものである。
アクリル系のバインダー樹脂としては、例えばアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物の単独重合体を用いることができる。また、アクリル系のバインダー樹脂としては、該(メタ)アクリレート化合物の2種以上から得られる共重合体、あるいは(メタ)アクリレート化合物と不飽和カルボン酸類等の他の共重合性単量体から得られる共重合体を用いることができる。
なお、バインダーは、例えばアジピン酸エステル系可塑剤、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)フタル酸エステル系可塑剤、グリコールエステル系可塑剤等の可塑剤を含有しても良い。
また、バインダーのガラス転移温度は、上述したような糖アルコールの融点よりも低ければよいが、25〜95℃であることが好ましく、30〜85℃であることがより好ましい。これにより、セラミックス成形体が不用意に変形して導体パターンに損傷を与えたり、複数の導体パターン間での導通が不良になることを確実に防止することができる。また、焼結時において、より確実にバインダーは分解して除去されることができる。
次に、得られたスラリーを、ドクターブレード、リバースコーター等を用いてPETフィルム上にシート状に形成し、製品の製造条件に応じて数μm〜数百μm厚のシートに成形し、その後、ロールに巻き取る。
続いて、製品の用途に合わせて切断し、さらに所定寸法のシートに裁断する。本実施形態では、例えば1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断する。
次に、必要に応じて所定の位置に、COレーザー、YAGレーザー、機械式パンチ等によって孔開けを行うことでスルーホールを形成する。そして、このスルーホールに、金属粒子が分散した厚膜導電ペーストを充填することにより、図2(a)に示すようなコンタクト6となるべき部位を形成する。さらに、厚膜導電ペーストをスクリーン印刷によって所定の位置に端子部(図示せず)を形成する。このようにしてコンタクト6、端子部までを形成することにより、セラミックグリーンシート(セラミックス成形体)7を得る。なお、厚膜導電ペーストとしては、本発明の導体パターン形成用インクを用いることができる。
[インク付与工程]
以上のようにして得られたセラミックスグリーンシート7の一方の側の表面に、本発明における導体パターンとなる回路5の前駆体を、前記コンタクト6に連続した状態に形成する(インク付与工程)。すなわち、図2(a)に示すようにセラミックスグリーンシート7上に、前述したような導体パターン形成用インク(以下単にインクともいう)10を液滴吐出(インクジェット)法により付与し、前記回路5となる前駆体11を形成する。
導体パターン形成用インクの吐出は、例えば図3に示すインクジェット装置(液滴吐出装置)50、および、図4に示すインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)70を用いることにより行うことができる。以下に、インクジェット装置50およびインクジェットヘッド70について説明する。
図3は、インクジェット装置50の斜視図である。図3において、X方向はベース52の左右方向であり、Y方向は前後方向であり、Z方向は上下方向である。
インクジェット装置50は、インクジェットヘッド(以下、単にヘッドと呼ぶ)70と、基板S(セラミックスグリーンシート7)を載置するテーブル46とを有している。なお、インクジェット装置50の動作は、制御装置53により制御されるようになっている。
基板Sを載置するテーブル46は、第1移動手段54によりY方向に移動および位置決め可能とされ、モータ44によりθz方向に揺動および位置決め可能とされている。
一方、ヘッド70は、第2移動手段(図示せず)によりX方向に移動および位置決め可能とされ、リニアモータ62によりZ方向に移動および位置決め可能とされている。また、ヘッド70は、モータ64,66,68により、それぞれα,β,γ方向に揺動および位置決め可能とされている。このような構成のもとにインクジェット装置50は、ヘッド70のインク吐出面70Pと、テーブル46上の基板Sとの相対的な位置および姿勢を、正確にコントロールできるようになっている。
また、テーブル46の裏面には、ラバーヒータ(図示せず)が配設されている。テーブル46上に載置されたセラミックスグリーンシート7は、その上面全体がラバーヒータにて所定の温度に加温されるようになっている。
セラミックスグリーンシート7に着弾したインク10は、その表面側から水系分散媒の少なくとも一部が蒸発する。このとき、セラミックスグリーンシート7は加熱されているので、水系分散媒の蒸発が促進される。そして、セラミックスグリーンシート7に着弾したインク10は、乾燥とともにその表面の外縁から増粘し、つまり、中央部に比べて外周部における固形分(粒子)濃度が速く飽和濃度に達することから表面の外縁から増粘していく。外縁の増粘したインク10は、セラミックスグリーンシート7の面方向に沿う自身の濡れ広がりを停止するため、着弾径しいては線幅の制御が特に容易になる。
この加温温度は、特に限定されないが、具体的には、40〜80℃であることが好ましく、50〜70℃であることが好ましい。これにより、より確実にインク10の濡れ広がりを防止し、着弾径および線幅の制御を確実に行うことができる。また、従来の導体パターン形成用インクを用いた場合、このようにセラミックスグリーンシートが加熱された状態では、後述するノズル91付近のインクが乾燥しやすく、目詰まり、液滴吐出量の不安定化等が発生しやすかった。しかしながら、本発明の導体パターン形成用インクは、糖アルコールを含むことにより、ノズル91付近での水系分散媒の揮発が好適に防止され、インクは長期にわたって安定的に吐出される。
ヘッド70は、図4に示すように、インクジェット方式(液滴吐出法)によってインク10をノズル(吐出部)91から吐出するものである。
液滴吐出法として、圧電体素子としてのピエゾ素子を用いてインクを吐出させるピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。このうちピエゾ方式は、インクに熱を加えないため、材料の組成に影響を与えないなどの利点を有する。そこで、図4に示すヘッド70には、前述したピエゾ方式が採用されている。
ヘッド70のヘッド本体90には、リザーバ95およびリザーバ95から分岐された複数のインク室93が形成されている。リザーバ95は、各インク室93にインク10を供給するための流路になっている。
また、ヘッド本体90の下端面には、インク吐出面を構成するノズルプレート(図示せず)が装着されている。このノズルプレートには、インク10を吐出する複数のノズル91が、各インク室93に対応して開口されている。そして、各インク室93から対応するノズル91に向かって、インク流路が形成されている。一方、ヘッド本体90の上端面には、振動板94が装着されている。この振動板94は、各インク室93の壁面を構成している。その振動板94の外側には、各インク室93に対応してピエゾ素子92が設けられている。ピエゾ素子92は、水晶等の圧電材料を一対の電極(図示せず)で挟持したものである。その一対の電極は、駆動回路99に接続されている。
また、ノズルプレート96は、ステンレスで構成された基材と、基剤を覆うようにして設けられ、主としてシリカ化合物で構成されたシリカ膜と、シリカ膜を覆うようにして設けられ、フルオロアルキルシラン化合物を含む撥液膜とによって構成されている。
このように、ノズルプレート96の表面がフルオロアルキルシラン化合物を含む撥液膜を有することにより、インクとノズルプレート96との親和性を適度なものとすることができ、インクのノズルプレート96への接触角をより容易に上述したようなものとすることができる。これにより、インクは吐出部91からより好適に液切れしやすいものとなり、また、インクの液滴量を特に調整しやすいものとなる。また、このような撥液膜を有することにより、ノズルプレート96は、耐摩耗性、耐候性に特に優れたものとなる。
また、シリカ膜は、撥液膜とステンレスの基材とを密着させる機能を有するとともに、ステンレスの基材を保護する機能を有する。
以上より、このようなノズルプレート96を用いたインクジェット装置は、特に長期にわたってインクの液滴の吐出性が特に安定したものとなる。
そして、駆動回路99からピエゾ素子92に電気信号を入力すると、ピエゾ素子92が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子92が収縮変形すると、インク室93の圧力が低下して、リザーバ95からインク室93にインク10が流入する。また、ピエゾ素子92が膨張変形すると、インク室93の圧力が増加して、ノズル91からインク10が吐出される。なお、印加電圧を変化させることにより、ピエゾ素子92の変形量を制御することができる。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子92の変形速度を制御することができる。すなわち、ピエゾ素子92への印加電圧を制御することにより、インク10の吐出条件を制御し得るようになっている。
したがって、このようなヘッド70を備えたインクジェット装置50を用いることにより、インク10を、セラミックスグリーンシート7上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出し、配することができる。ところで、導体パターンの形成に用いる液滴吐出装置(産業用)は、プリンターに適用されるもの(民生用)とは全く異なるものであり、例えば、大量生産を行うため、大量の液滴を長時間にわたって吐出することが求められる。また、導体パターンの形成に用いる液滴吐出装置(産業用)では、プリンターに適用されるもの(民生用)で用いるインクに比べて、一般に、粘度が高いものであるため、吐出時の液切れも悪く、インクジェットヘッドの吐出部(ノズル)にインクが残存しやすい。また、凝集した金属粒子等の固形分によって液滴吐出ヘッドの吐出部の目詰まりが起こりやすく、液滴の飛行曲がりが頻発する。このように、安定して液滴の吐出を行うことができない場合、インクを用いて微細な導体パターンを形成することが困難な問題があった。しかしながら、インク10は、本発明の導体パターン形成用インクであるので、上記したような効果が得られ、安定して液滴の吐出を行うことができる。よって、前駆体11を、精度良くしかも容易に形成することができる。
また、導体パターンを形成する際には、インクを付与してから予備加熱して水系分散媒を蒸発させ、予備加熱後の膜の上に再度インクを付与する、といった工程を繰り返し行うことで、厚膜の導体パターンを形成することもできる。
特に、本発明の導体パターン形成用インクには、糖アルコールが含まれている。このため、上述したようにセラミックグリーンシートを加温した場合であっても、前駆体11中に水系分散媒が完全に除去することが防止され、適度に水系分散媒が保持された状態となる。
また、特に、導体パターン形成用インクに前述したようなポリエーテル化合物が含まれている場合、水系分散媒を蒸発させた後のインクには、上述したようなポリエーテル化合物と銀コロイド粒子とが残存しており、このポリエーテル化合物は比較的粘度が高いので、形成された膜が完全に乾燥しない状態でも膜が流失してしまうおそれがない。従って、一旦、インクを付与して乾燥してから長時間放置し、その後、再度インクを付与することが可能になる。
また、上述したような糖アルコールおよびポリエーテル化合物は比較的沸点も高いので、インクを付与して乾燥してから長時間放置してもインクが変質するおそれがなく、再度インクを付与することが可能になり、均質な膜を形成できる。これにより、導体パターン自体が多層構造になるおそれがなく、層間同士の間の比抵抗が上昇して導体パターン全体の比抵抗が増大するおそれがない。
上記の工程を経ることによって形成された導体パターンは、従来のインクによって形成された導体パターンに比べて厚く形成することができる。より具体的には5μm以上の厚みのものを形成することができる。このような導体パターンは上記インクにより形成されるものであるので、5μm以上の厚膜に形成してもクラックの発生が少なく、低比抵抗の導体パターンを構成することができる。なお、厚みの上限については特に規定する必要はないが、過剰に厚くなると分散媒やポリエーテル化合物の除去が難しくなって比抵抗が増大するおそれがあるので、100μm以下程度にするのが良い。
[乾燥工程]
次に、セラミックスグリーンシート上に形成された前駆体11から水系分散媒を除去する。
乾燥条件としては、例えば、40〜80℃で行うのが好ましく、50〜70℃で行うのがより好ましい。このような条件とすることにより、乾燥した際に、クラックが発生するのをより効果的に防止することができる。
[積層体形成工程]
このようにして前駆体11を形成したら、同様の工程により、前駆体11を形成したセラミックスグリーンシート7を必要枚数、例えば10枚から20枚程度作製する。
次いで、これらセラミックスグリーンシートからPETフィルムを剥がし、図2に示すようにこれらを積層する。このとき、積層するセラミックスグリーンシート7については、上下に重ねられるセラミックスグリーンシート7間で、それぞれの前駆体11が必要に応じてコンタクト6を介して接続するように配置する。
その後、複数枚重ねられたセラミックスグリーンシート7を加熱しつつ、各セラミックスグリーンシート7同士を圧着する。これにより、積層体12を得る。
ところで、本工程では、積層時におけるセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)の温度は、バインダーのガラス転移温度より高く、インクに含まれている糖アルコールの融点より低いものである。これにより、糖アルコールが溶融して積層後に結晶化することを防止しつつ、複数のセラミックスグリーンシート7同士を強固に密着させることができる。すなわち、セラミックスグリーンシート7に含まれるバインダーは、ガラス転移温度より高く加温されることで、わずかに軟化し、隣接するセラミックスグリーンシート7に含まれるバインダーと接合される。一方で、パターン中に含まれる糖アルコールは、融点よりも低い温度に加温されているため、前駆体11中で分散した状態を維持でき、溶融して、さらに結晶化することがない。このため、積層されるセラミックスグリーンシート7間で前駆体11が損傷することが防止される。
これに対し、積層時におけるセラミックスグリーンシート7の温度がバインダーのガラス転移温度以下だと、セラミックスグリーンシート7同士が密着できないものとなってしまう。この結果、セラミックスグリーンシート7間での剥離等が起きやすく、これにともない、形成される導体パターンが断線しやすい。
一方、積層時におけるセラミックスグリーンシート7の温度が糖アルコールの融点よりも高いと、糖アルコールが溶融、結晶化してしまい、前駆体11が損傷しやすくなる。この結果、形成される導体パターンには、断線が多いものとなってしまう。
また、セラミックスグリーンシート7のバインダーのガラス転移温度をT[℃]、糖アルコールの融点をT[℃]、積層時におけるセラミックスグリーンシート7の温度をT[℃]としたとき、本発明の配線基板の製造方法では、T<T<Tの関係を満足するものであればよいが、T+2<T<T−2の関係を満足することが好ましく、T+4<T<T−4の関係を満足することがより好ましく上述したような効果をより顕著に得ることができる。
また、本工程では、複数枚のセラミックスグリーンシート7の圧着は、静水中で複数枚のセラミックスグリーンシート7を加熱しつつ加圧する、静水圧プレス法により行われることが好ましい。これにより、重ねられた複数枚のセラミックスグリーンシート7に対して、均一に圧力がかかり、各セラミックスグリーンシート7のゆがみや、得られる積層体12のゆがみが確実に防止されるものとなる。また、このように静水中で加圧と同時に加温されることにより、重ねられた複数枚のセラミックスグリーンシート7に対して、より均一に熱を伝えることができる。これにより、前駆体11の各部位における加熱温度がより均等になることができ、前駆体11の加熱温度をより厳密に制御することができる。これにより、前駆体11の一部分に熱が過度に伝えられ、糖アルコールが溶融、結晶化することを確実に防止することができる。
また、このような場合、圧着時における静水圧は、250〜400kgf/mであることが好ましい。
[焼結工程]
このようにして積層体12を形成したら、例えば、ベルト炉などによって加熱し、焼結処理する。これにより、各セラミックスグリーンシート7は焼成されることで、図2(b)に示すようにセラミックス基板2(本発明の配線基板)となり、また、前駆体11は、これを構成する銀コロイド粒子が焼結して配線パターンや電極パターンからなる回路(導体パターン)5となる。そして、このように積層体12が加熱処理されることで、この積層体12は後述する図5に示した積層基板3となる。
ここで、積層体12の加熱温度としては、セラミックスグリーンシート7中に含まれるガラスの軟化点以上とするのが好ましく、具体的には、600℃以上900℃以下とするのが好ましい。また、加熱条件としては、適宜な速度で温度を上昇させ、かつ下降させるようにし、さらに、最大加熱温度、すなわち前記の600℃以上900℃以下の温度では、その温度に応じて適宜な時間保持するようにする。
このようにガラスの軟化点以上の温度、すなわち前記温度範囲にまで加熱温度を上げることにより、得られるセラミックス基板2のガラス成分を軟化させることができる。したがって、その後常温にまで冷却し、ガラス成分を硬化させることにより、積層基板3を構成する各セラミックス基板2と回路(導体パターン)5との間がより強固に固着するようになる。
また、このような温度範囲で加熱することにより、得られるセラミックス基板2は、900°以下の温度で焼成されて形成された、低温焼成セラミックス(LTCC)となる。
ここで、セラミックスグリーンシート7上に配されたインク10中の金属は、加熱処理によって互いに融着し、連続することによって導電性を示すようになる。
このような加熱処理によって回路5は、セラミックス基板2中のコンタクト6に直接接続させられ、導通させられて形成されたものとなる。ここで、この回路5が単にセラミックス基板2上に載っているだけでは、セラミックス基板2に対する機械的な接続強度が確保されず、したがって衝撃等によって破損してしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態では、前述したようにセラミックスグリーンシート7中のガラスを一旦軟化させ、その後硬化させることにより、回路5をセラミックス基板2に対し強固に固着させている。したがって、形成された回路5は、機械的にも高い強度を有するものとなる。
なお、このような加熱処理により、回路4についても前記回路5と同時に形成することができ、これによってセラミックス回路基板1を得ることができる。
このようなセラミックス回路基板1の製造方法にあっては、特に積層基板3を構成する各セラミックス基板2の製造に際して、前述したようなインク10(本発明の導体パターン形成用インク)をセラミックスグリーンシート7に対して配しているので、この導体パターン形成用インク10をセラミックスグリーンシート7上に所望のパターン状で良好に配置することができ、したがって高精度の導体パターン(回路)5を形成することができる。
≪導体パターン≫
本発明の導体パターンは、上述したような導体パターン形成用インクを用いて形成される薄膜状の導体パターンであって、銀粒子が相互に結合されてなり、少なくとも導体パターン表面において前記銀粒子同士が隙間なく結合しており、かつ比抵抗が20μΩcm未満のものである。
特に、当該導体パターンは、本発明の導体パターン形成用インクを液滴吐出法により吐出して形成され、上述したような本発明の配線基板の製造方法によって形成されるので、セラミックス成形体との密着性が高く、特に信頼性が高いとともに、より微細なパターンとなっている。
導体パターンの比抵抗は、20μΩcm未満であることが好ましく、15μΩcm以下であることがより好ましい。上記比抵抗が20μΩcm以上になると、導電性が要求される用途、すなわち回路基板上に形成する電極等に用いることが困難となる。
≪配線基板≫
次に、上述したような方法によって得られる本発明の配線基板について説明する。
図5は、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の一例を示す縦断面図である。
図5に示すように、セラミックス回路基板(配線基板)1は、セラミックス基板2が多数(例えば10枚から20枚程度)積層されてなる積層基板3と、この積層基板3の最外層、すなわち一方または両方の側の表面に形成された、微細配線等からなる回路4とを有して形成されたものである。
積層基板3は、積層されたセラミックス基板2、2間に、本発明の導体パターン形成用インクにより形成された回路(導体パターン)5を備えている。
また、これら回路5には、これに接続するコンタクト(ビア)6が形成されている。このような構成によって回路5は、上下に配置された回路5、5間が、コンタクト6によって導通したものとなっている。なお、回路4も、回路5と同様に、本発明の導体パターン形成用インクにより形成されたものとなっている。
本発明に係る配線基板は、各種の電子機器に用いられる電子部品となるもので、各種配線や電極等からなる回路パターン、積層セラミックスコンデンサ、積層インダクター、LCフィルタ、複合高周波部品等を基板に形成してなるものである。
なお、このような配線基板は、携帯電話やPDA等の移動通話機器の高周波モジュール、インターポーザー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、加速度センサー、弾性表面波素子、アンテナや櫛歯電極等の異形電極、その他各種計測装置等の電子部品等に適用することができる。
また、このような配線基板は、本発明の導体パターン形成用インクを用いて製造されているため、配線基板中の導体パターンは、任意の目的の部位間で確実に導通することができ、導体パターンの信頼性に優れている。また、配線基板に微細な導体パターンが設けられている場合であっても、信頼性に優れたものとなっている。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述した実施形態では、金属粒子を溶媒に分散してなる分散液として、コロイド液を用いる場合について説明したが、コロイド液でなくてもよい。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[1]導体パターン形成用インクの調製
導体パターン形成用インク(インク)1〜15は、以下のようにして製造した。
10N−NaOH水溶液を3mL添加してアルカリ性にした水50mLに、クエン酸3ナトリウム2水和物17g、タンニン酸0.36gを溶解した。得られた溶液に対して3.87mol/L硝酸銀水溶液3mLを添加し、2時間攪拌を行い銀コロイド液を得た。得られた銀コロイド液に対し、導電率が30μS/cm以下になるまで透析することで脱塩を行った。透析後、3000rpm、10分の条件で遠心分離を行うことで、粗大金属コロイド粒子を除去した。
この銀コロイド液に、表1に示す糖アルコールと、有機バインダーと、アセチレングリコール系化合物としてのサーフィノール104PG50(日信化学工業社製)およびオルフィンEXP4036(日信化学工業社製)と、1,3−プロパンジオールとを添加した。このときの銀コロイド液のpHが6〜11の範囲にないときは、1N−NaOH水溶液を用いて銀コロイド液のpHを6〜11に調整した。さらに濃度調整用のイオン交換水を添加して調整し、導体パターン形成用インクとした。
また、導体パターン形成用インク16は、以下のようにして製造した。
50mmol/Lの濃度の硝酸銀水溶液:1000mlを撹拌しながら、低分子量の硫黄化合物としてメルカプト酢酸:3.0gを添加した後、アンモニア水(26wt%)にて水溶液のpHを10.0に調整した。室温下、この水溶液に還元剤として400mmol/Lの濃度の水素化ホウ素ナトリウム水溶液:50mlを急速に添加することにより還元反応を行いメルカプト酢酸を粒子表面に有する銀コロイド粒子を溶液中で生成させた。
こうして得られたコロイド溶液を硝酸(20wt%)を用いてpHを3.0に調整し、銀コロイド粒子を沈降させた後、真空濾過器で濾別し、濾液の電気伝導度が10.0μS/cm以下になるまで水洗して、銀コロイド粒子の湿ケーキを得た。
この銀コロイド粒子の湿ケーキを濃度が10%になるように水に添加し、撹拌しながらアンモニア水(26wt%)にてpHを9.0に調整して再分散させて、さらに濃縮して、銀コロイド液を得た。
以下、導体パターン形成用インク1と同様にして導体パターン形成用インクを調製した。
[2]液滴吐出安定性評価
上述のようにしてえら得れた導体パターン形成用インク1〜16を製造直後にそれぞれ図3、4に示すようなインクジェット装置に投入した。まず、上記導体パターン形成用インクを搭載した上記インクジェット装置を用いて描画を行い、インクが安定して吐出されることを確認した。次に、インクジェット装置を、インクジェットヘッドを描画位置から外した待機状態で室温25℃、相対湿度50%、クラス100のクリーンルーム環境下に7日間放置した。次に、インクジェット装置の電源を入れて、上記のようにして得られたセラミックスグリーンシート20枚に対してベタパターンの描画を行った。インクの吐出が不安定になった場合は、インクジェット装置に搭載されている所定のクリーニング機能を用い、吐出の安定した状態に復帰させた。以上の操作を行い、下記評価基準により吐出安定性を評価した。
A:描画中にノズルの目詰まりが発生せず、インクが安定して吐出される。(吐出安定性良好。)
B:描画中に目詰まりが発生し、インクの吐出が安定するまでに2回以内のクリーニング動作を要する。(実用上問題なし。)
C:描画中に目詰まりが発生し、インクの吐出が安定するまでに3回以上のクリーニング動作を要する。(実用可能。)
D:描画中に目詰まりが発生し、クリーニング動作によっても回復しない。(実用不可。)
さらに、待機状態の期間を30日間として、上記と同様の操作を行い、上記と同様の評価を行った。
表1に各導体パターン形成用インクの組成および吐出安定性評価の結果を示す。なお、表中、各材料の含有量は、導体パターン形成用インク中における含有量を示し、また、表中、「ポリグリセリン」は、ポリグリセリン#500(平均重量分子量:462)、「ポリエチレングリコール」は、ポリエチレングリコール#500(平均重量分子量:500)を用いた。また、表中、「PVB」は、ポリビニルブチラールのことを示し、各ポリビニルブチラールのガラス転移温度は、ポリビニルブチラールに可塑剤を添加することにより、表のような温度に調節した。また、表中「G−41H」は、アクリル系のバインダ樹脂(日新化成社製)を示す。また、表中、糖アルコールの融点は、EXSTAR6000 DSC(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いてJIS K0064に準拠して測定した。また、バインダーのガラス転移温度は、EXSTAR6000 DSC(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)JIS K7121に準拠して測定した。
Figure 0005076868
[3]セラミックス回路基板の作製および評価
(実施例1)
まず、以下のようにしてセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を用意した(セラミックス成形体準備工程)。
平均粒径が1〜2μm程度のアルミナ(Al)と酸化チタン(TiO)等からなるセラミックス粉末と、平均粒径が1〜2μm程度のホウ珪酸ガラス等からなるガラス粉末とを1:1の重量比で混合し、バインダー(結合剤)としてポリビニルブチラール(PVB)、可塑剤としてジブチルフタレートを加え、混合・撹拌することにより得たスラリーを、ドクターブレードでPETフィルム上にシート状に形成したものをセラミックスグリーンシートとし、1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断したものを使用した。
次に、上述のようにして得られた導体パターン形成用インク1を、それぞれ図3、4に示すようなインクジェット装置に投入した。
次に、上記セラミックスグリーンシートを60℃まで昇温し、保持した。各吐出ノズルからそれぞれ1滴当り15ngの液滴を順次吐出し、線幅が50μm、厚み15μm、長さが10.0cmのライン(前駆体)を20本描画した(インク付与工程)。各ライン間の距離は、5mmとした。
そして、このラインが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で30分間加熱して乾燥した(乾燥工程)。
上記のようにして、ラインが形成されたセラミックスグリーンシートを第1のセラミックスグリーンシートとした。この第1のセラミックスグリーンシートを各インクにつき、20枚ずつ作成した。また、各シートについて、クラックがあるか否かを確認した。この結果を表2に示した。なお、表2には、第1のセラミックスグリーンシートのうち、ラインにクラックの入っていない良品の数を示した。
次に、別のセラミックスグリーンシートに上記の金属配線の両端位置に機械式パンチ等によって孔開けを行うことで計40箇所に直径100μmのスルーホールを形成し、ラインを形成した導体パターン形成用インクを充填することでコンタクト(ビア)を形成した。さらに、このコンタクト(ビア)上に2mm角のパターンを、導体パターン形成用インク1を用いて上記液滴吐出装置を用いて端子部を形成した。
この端子部が形成されたセラミックスグリーンシートを第2のセラミックスグリーンシートとした。
次に、第2のセラミックスグリーンシートの下に第1のセラミックスグリーンシートを積層し、さらに無加工のセラミックスグリーンシートを補強層として2枚積層し、生の積層体を得た。この生の積層体を各インクにつき、第1のセラミックスグリーンシート20枚それぞれに作成し、各インクにつき20ブロックずつ作成した。
次に、生の積層体を、静水圧プレス法により、90℃の温水下で、350kg/cmの圧力で30秒間プレスし、積層体を得た(積層体形成工程)。すなわち、このとき、生の積層体中での各セラミックスグリーンシートは、90℃の環境下で圧着された。
次に、大気中において、昇温速度66℃/時間で約6時間、昇温速度10℃/時間で約5時間、昇温速度85℃/時間で約4時間といった連続的に昇温する昇温過程を経て、最高温度890℃で30分間保持するといった焼結プロファイルに従って焼結し、セラミックス回路基板(配線基板)を得た(焼結工程)。
冷却後、各セラミックス回路基板について、20本の導体パターン上に形成された端子部間にテスタをあて、それぞれ導通の有無を確認し、導通率が100%であったものを良品とした。なお、導通率は、各セラミックス回路基板中にある導通のあった導体パターンの数を、形成した導体パターンの数(20本)で除したものとした。
(実施例2〜20)
表2に示すように用いるインク、バインダーの種類、インク付与工程でのセラミックスグリーンシートの温度、積層体形成時でのセラミックスグリーンシートの温度を表2に示す以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板(配線基板)を得た。
(比較例1、2)
表2に示すように用いるインク、バインダーの種類、インク付与工程でのセラミックスグリーンシートの温度、積層体形成時でのセラミックスグリーンシートの温度を表2に示す以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板(配線基板)を得た。
これらの結果およびを表2に示す。
Figure 0005076868
表1、2に示すように、各実施例で用いた導体パターン形成用インク(導体パターン形成用インク1〜10、12〜16)は、いずれも、吐出安定性に優れるものであった。
また、表2に示すように各実施例では、断線等が防止され、導通率の高い導体パターンが得られた。すなわち、信頼性の高い配線基板が得られた。
これに対し、各比較例では、満足な結果が得られなかった。
また、インク中における銀コロイド粒子の含有量を20wt%、30wt%に変更したところ、上記と同様の結果が得られた。
配線基板の製造方法の概略の工程を示す説明図である。 (a)〜(b)は図1の配線基板の製造工程説明図である。 インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。 インクジェットヘッドの概略構成を説明するための模式図である。 配線基板の概略構成を示す側断面図である。
符号の説明
1…配線基板(セラミックス回路基板) 2…セラミックス基板 3…積層基板 4、5…回路(導体パターン) 6…コンタクト 7…セラミックスグリーンシート 10…導体パターン形成用インク(インク) 11…前駆体 12…積層体 44…モータ 46…テーブル 50…インクジェット装置(液滴吐出装置) 52…ベース 53…制御装置 54…第1移動手段 62…リニアモータ 64、66、68…モータ 70…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド、ヘッド) 70P…インク吐出面 90…ヘッド本体 91…ノズル(吐出部) 92…ピエゾ素子 93…インク室 94…振動板 95…リザーバ 96…ノズルプレート 99…駆動回路 S…基板

Claims (3)

  1. 液滴吐出法により、水系分散媒と水系分散媒に分散した金属粒子と糖アルコールとを含む導体パターン形成用インクを、セラミックス粒子とバインダーとを含む材料で構成されたセラミックス成形体上に、所定のパターンで付与するインク付与工程と、
    前記パターンが形成された前記セラミックス成形体を、複数枚加温下で圧着することにより積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
    前記積層体を焼結することにより、セラミックス基板と導体パターンとを有する配線基板を形成する焼結工程とを有し、
    前記糖アルコールの融点は、前記セラミックス成形体に含まれるバインダーのガラス転移温度よりも高いものであり、
    前記積層体形成工程での前記セラミックス成形体の温度は、前記バインダーのガラス転移温度より高く、前記糖アルコールの融点より低いものであることを特徴とする配線基板の製造方法。
  2. 前記積層体形成工程は、静水圧プレス法により、複数枚の前記セラミックス成形体を圧着するものである請求項1に記載の配線基板の製造方法。
  3. 前記インク付与工程は、前記セラミックス成形体を、40〜80℃に加温するものである請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。
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