JP5070525B2 - タリウム含有鉄・砒素化合物およびその製法並びに砒素・タリウム含有水溶液の処理方法 - Google Patents
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Description
以下、この化合物の製法について説明する。
上記の化合物を合成するためには、処理の対象となる砒素含有物質およびタリウム含有物質、並びに鉄含有物質、酸化剤が必要である。
水系溶媒中で砒素がイオンとして存在しうる物質であれば種々のものが採用できる。湿式亜鉛製錬で生じる砒化銅を処理対象とする場合であれば、例えば特許文献2に開示されるように、当該砒化銅のパルプに希薄な硫酸溶液を加えてパルプ濃度が50〜200g/L(g/1000cm3)となるように調整した後、酸素を加えて該パルプを溶解した硫酸酸性の砒素含有液を採用することができる。この場合、砒素含有液中には銅や亜鉛などの有価金属が比較的多量に含まれるが、本発明の製法は水熱合成反応であるため、不純物を特に厳しく制限する必要はない。
水系溶媒中でタリウムが1価のイオンとして存在しうる物質であれば種々のものが採用できる。例えばTl2SO4を主体とする物質や、TlClを主体とする物質が挙げられる。3価のタリウム物質も存在するが、3価のタリウムは不安定で、ハロゲン存在下でなければ1価になる。湿式亜鉛製錬の浄液工程で生じるカドミウムを含んだタリウム残渣を使用することもできる。発明者らの検討の結果、タリウム残渣中のカドミウムは、本発明に従って合成される化合物中に取り込まれない。鉄の加水分解により酸が発生するので、その酸の影響で液中に溶解したまま留まるものと考えられる。カドミウムを含む原料物質を使用して合成された化合物は、固液分離または洗浄の過程でカドミウムを除去すれば問題ない。タリウム含有物質中の不純物についても、特に厳しく制限する必要はない。
水系溶媒中において2価の鉄イオンが供給される塩類が採用される。硫酸塩、硝酸塩、塩化物のどれでも構わないが、経済的には硫酸塩が好ましい。例えば、硫酸第一鉄7水和物(FeSO4・7H2O)が好適である。これはチタン製錬の副産物として多量に存在し、それをそのまま使用することができる。予め鉄塩を溶解させた水溶液を用意してもよいが、例えば上記のFeSO4・7H2Oを合成反応の昇温過程で撹拌しながら溶解させても構わない。
酸化剤としては酸素ガスを使用することが好ましい。本発明では後述のようにオートクレーブなどの密閉容器中で水溶液の温度を上昇させ、酸化反応を起こさせる。酸化剤として空気を使用すると、反応に消費されない不活性ガス成分によって容器内の圧力が上昇し、ガスを送り込めなくなってしまう。酸素ガス以外の使用可能な酸化剤としては、過酸化水素水、オゾン、二酸化マンガンなどが挙げられる。
〔被処理液の調製〕
前記の砒素含有物質、タリウム含有物質および鉄含有物質を混合した溶液を作る。後述の実施例に示されるように、本発明によって合成されるタリウム含有鉄・砒素化合物における鉄、砒素、タリウムのモル比は、例えばFe:As:Tl=1:1:0.003程度である。したがって、各原料物質から供給される鉄、砒素、タリウムが過不足なく当該化合物の生成に使用されると仮定すれば、鉄、砒素、タリウムのモル比が上記に近い比率となるようにすればよいことになる。しかし、実際にはその通りにはいかない。種々検討の結果、下記(1)式および(2)式を満たす範囲のモル比に調整することが好ましい。
0.9≦Fe/As≦2.0 ……(1)
0.0025≦Tl/As≦0.1 ……(2)
特に、(1)式に替えて下記(1)’式を採用することがより好ましい。
1.3≦Fe/As≦1.7 ……(1)’
また、(2)式に替えて下記(2)’式を採用することがより好ましく、下記(2)’’式を採用することが一層好ましい。
0.0025≦Tl/As≦0.01 ……(2)’
0.0030≦Tl/As≦0.0050 ……(2)’’
液のpHは2以下とすることが望ましく、1以下が一層望ましい。
上記のようにして準備した被処理液を、オートクレーブのような密閉可能な耐圧・耐熱容器(以下、単に「容器」という)に入れ、ある程度の容積の気相部分を残して密閉状態としたのち、撹拌しながら昇温していく。前述のように、鉄含有物質として固体物質を使用し、この昇温過程で溶解させても構わない。その場合は、鉄含有物質が溶解した後の液が、上述の条件を満たすようにする。
反応後のスラリーは、温度を100℃未満に低下させた後、固液分離に供される。固液分離はフィルタープレス、遠心分離、デカンターなど一般的な手法で実施できる。
固液分離によって発生した液(后液)は、例えば硫酸酸性の場合FeSO4の加水分解でH2SO4が発生することにより、pHが1より低くなる。酸化還元電位ORPは400mV以上になる。この后液中には極微量であるが未反応の砒素、鉄、タリウムが存在する他、加水分解で生じた酸(例えば硫酸)が存在する。この后液は製錬工程内で酸を含む液として再利用される。
出発原料として以下のものを用いた。
・砒素含有物質: As濃度500g/Lの砒素溶液の試薬(和光純薬工業社製)を純水などで希釈したもの。
・タリウム含有物質: Tl2SO4の試薬(和光純薬工業社製)。
・鉄含有物質: 硫酸第一鉄7水和物FeSO4・7H2Oの試薬(和光純薬工業社製)。
これらを秤量し、純水と混合して、砒素濃度50g/L、鉄濃度55.91g/L、タリウム濃度0.5g/Lの被処理液0.7Lを用意した。この場合、モル比でFe/As=1.5、Tl/As=0.0037となる。
表1に、被処理液の条件および反応条件を示す(以下の各例において同じ)。
ろ過した后液について、pH測定、ORP測定、滴定による酸濃度(FA=Free Acid)の測定、液濃度の組成分析を行った。また、液濃度からAs、Fe、Tlの沈殿率を求めた。
表2に、ろ過性および后液の測定結果を示す(以下の各例において同じ)。
乾燥固形物について、組成分析を行い、As、Fe、S、Tlの含有量(質量%またはppm)を調べた。その分析値からFe/As原子比およびTl/As原子比を算出した。また、As1トンを固定するために発生する乾燥固形物の量(発生量)を算出した。
表3に、固形分についてのこれらの測定結果を示す(以下の各例において同じ)。
粒度分布は、堀場製作所(株)製のレーザ回折式粒度分布測定装置LA−500を用いて測定し、平均粒径D50、および粒径5μm以下の粒子の体積割合を求めた。
BET比表面積は、ユアサアイオニクス(株)製、モノソーブを用いて、BET一点法により測定した。
比重は、Beckman式比重測定装置で測定した。
圧縮密度は、1トン成形による固形分のかさ密度を測定することにより求めた。
Cu−Kα線使用、管電圧40kV、管電流300mA、走査速度0.01°/sec、走査角度2θ:5〜85°、シンチレーションカウンター使用。
図1にX線回折パターンを示す(以下の各例において同じ)。
表4に、乾燥固化物に上記測定結果および溶出試験結果を示す(以下の各例において同じ)。
反応温度を125℃として、比較例1と同様の実験を行った。
ただし、この場合、反応温度を100℃より高温とするために、オートクレーブでの昇温過程および反応時の取扱いが少し異なる。すなわち、ここでは以下のようにした。
被処理液オートクレーブに入れ、密閉状態とし、1000rpmで強撹拌しながら100℃になるよう昇温した。気相部に存在する不活性ガス(初期の空気に由来するもの)をできるだけ排除するために、100℃の状態で気相部に通じるバルブを一旦開き、ゲージ圧がゼロになるまで内部のガスを追い出した。その後、再度密閉状態とし、125℃まで昇温し、その温度に保った。125℃で気相部のゲージ圧は0.23MPa付近で一定となった。その後、純度99%の酸素ガスを容器内に吹き込んだ。気相部の酸素分圧が概ね0.2MPaに維持されるように、ゲージ圧が約0.43MPaとなるように酸素ガス導入バルブを調整した。この状態で撹拌を継続しながら5h保持した。この間に沈殿物の合成反応は終了している(以下の各例において同じ)。
その他の実験条件は比較例1と同じである。
反応温度を150℃として、比較例1と同様の実験を行った。
ただし、この場合、オートクレーブでの昇温過程および反応時の取扱いを比較例2と同様の手順とし、150℃での気相部の酸素分圧が概ね0.2MPaに維持されるように、ゲージ圧が約0.65MPaとなるように酸素ガス導入バルブを調整した。
反応温度を175℃として、比較例1と同様の実験を行った。
ただし、この場合、オートクレーブでの昇温過程および反応時の取扱いを比較例2と同様の手順とし、175℃での気相部の酸素分圧が概ね0.2MPaに維持されるように、ゲージ圧が約1.0MPaとなるように酸素ガス導入バルブを調整した。
反応温度を200℃として、比較例1と同様の実験を行った。
ただし、この場合、オートクレーブでの昇温過程および反応時の取扱いを比較例2と同様の手順とし、200℃での気相部の酸素分圧が概ね0.2MPaに維持されるように、ゲージ圧が約1.7MPaとなるように酸素ガス導入バルブを調整した。
比較例1、2、3のように、反応温度が150℃以下の場合、タリウムの共沈が起こらず、タリウムを固形物中に固定することができなかった。得られた固形物はスコロダイト型の結晶構造を持つものである(図1)。
Claims (8)
- 砒素イオンとタリウムイオンと2価の鉄イオンを含む水溶液を酸化剤存在下で150℃を超える温度域に加熱して、タリウムを鉄および砒素と共に沈殿析出させる工程を有する、砒素とタリウムが不溶化したタリウム含有鉄・砒素化合物の製法。
- 加熱温度域を165〜210℃とする請求項1に記載のタリウム含有鉄・砒素化合物の製法。
- 前記酸化剤が酸素ガスである請求項1または2に記載のタリウム含有鉄・砒素化合物の製法。
- オートクレーブ中で、気相部の酸素分圧(ゲージ圧)を0.1〜0.5MPaに維持し、水溶液を撹拌しながら沈殿反応を進行させる請求項3に記載のタリウム含有鉄・砒素化合物の製法。
- 前記結晶性の化合物は、結晶構造がスコロダイトと異なるものである請求項1〜4のいずれかに記載のタリウム含有鉄・砒素化合物の製法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の製法で得られる化合物の結晶構造を有し、質量割合で砒素20%以上、タリウム1000ppm以上を含む、砒素とタリウムが不溶化したタリウム含有鉄・砒素化合物。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の製法で得られる化合物の結晶構造を有し、質量割合で砒素32〜38%、タリウム2500〜3700ppmを含む、砒素とタリウムが不溶化したタリウム含有鉄・砒素化合物。
- 砒素イオンとタリウムイオンと2価の鉄イオンを含む水溶液を酸化剤存在下で150℃を超える温度域に加熱して、タリウムを鉄および砒素と共に沈殿析出させる工程を有する、砒素およびタリウム含有水溶液の処理方法。
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