従来から建具等の枠体に開閉体を装着する手段としては、開閉体が回転扉の場合では丁番やピボットヒンジやスライドヒンジ等の保持金具が、引き戸や引き出し等の直線移動する戸体の場合は戸車やスライドレール等の保持金具が用いられ、これらの保持金具にて枠体の所定の位置に開閉体を装着する場合がほとんどである。そして同時にこれら保持金具には装着後の枠体に対する開閉体の位置を適正な位置に建付け調整する機構をも組み込まれている場合が多く、建付け調整の方向は枠体に対して前後左右上下の3方向のものが一般的である。つまり、これらの保持金具には固定枠体により簡単な操作で開閉体を装着する嵌め込み機構と、その後に建付け位置を調整するための移動調整機構が必要とされることになり、最終的には枠体に開閉体を完全に固定する固定手段も併せて必要である。
昨今では既に様々な嵌め込み機構や建付け調整機構が用いられているのであるが、最も普及している構成としては、固定ねじ10と調整ねじ4を用い、固定ねじ10を緩めた後で調整ねじ4にて相対的に移動させてから再度固定ねじ10にて任意の位置で固定する図15に示す構成や、固定ねじ10を緩めてから偏芯カムを回転させ、再度固定操作する図16に示す構成が一般的であり、これらの基本動作をより発展させた機構も特開平8−144617号公報や特開平10−331509号公報や特開2000−160918号公報や特開2003−301653号公報等に多数報告されている。これらで共通している点は調整手段と固定手段を別々に有していることが挙げられ、固定手段は圧倒的にねじによるものが多く、さらには調整手段を中央位置に挟んで両側2ヵ所にて固定ねじ10にて固定操作するものが頻繁に用いられている。
また保持金具による枠体21への開閉体の嵌め込み機構においては、外ケース1と内ケース2に凸部と凹部を設けておいて互いを掛け合わせる構成や、ばね性を有した突起部分と凹部を両ケースに設けておいて互いを嵌め込む機構等を用い、保持金具を枠側ケースと開閉体側ケースに分離して振り分けて枠体と開閉体にあらかじめ取り付けておき、両者を合体させることにより枠体21に開閉体を装着する構成が非常に頻繁に用いられている。しかしこの装着操作においても嵌め込んだだけで完了するものは比較的少なく、大きな荷重を受ける装置等においては嵌め込み後にやはり固定手段が必要になる。
ここで上記のような構成での一連の操作を想定すると、まず装着のための機構に伴う仮嵌め込み操作と固定操作が必要になり、その後に前後左右上下各方向への調整のための操作と各々での固定操作が必要になり、調整操作や固定操作にねじを用いる場合などは非常に多数のねじを緩めたり締め付けたりする必要が生じ、手間なだけでなく、締め付け忘れ等のミスも発生しがちでありそれほど良い方法とはいえない。しかしねじを用いる構成がコスト面において圧倒的に安価に実施できる場合が多く、そのための操作工程が複数必要になる機構をあえて採用している場合もまれではない。
また最近では、これら保持金具自体を建具等の表面に突出させて取り付ける面付けがデザイン性において好ましくないとされ、建具内に埋め込んで装着する内臓仕様が多くなってきている。するとどうしても箱型に掘り込まれた内部に保持金具が挿入されるため、建付け調整の操作面が一方向のみに限定されることになる。つまり図15に示すような調整ねじ4の方向と固定ねじ10の方向とが直行するような構成は不可能になる。そこで図17に示すような調整ねじ4の両側に2ヵ所の固定ねじ10による固定手段が用いられる構成が必要になり、使用するねじの本数も増加しさらに調整機構が複雑になり、同時に固定操作も手間になる。
特開平8−144617号公報
特開平10−331509号公報
特開2000−160918号公報
特開2003−301653号公報
そこで、建付け調整後に固定動作を必要としないような調整方法が望まれるが、例えば図17のような構成で固定ねじ両方を無くすと、位置調整は可能であるが雄ねじと雌ねじ間の遊びががたつきとして残ったままになり性能面で不完全である。さらには調整ねじに対して片側のみの位置で固定ねじを1本のみ配置すると、固定時に片側に寄った状態で固定されてしまい均等に固定するには調整ねじを中心とする両側2ヵ所にて固定することが必要と想定される。また、装着時の嵌め込み後の固定操作においても別部材としての固定手段が付属されている構成が多く、建付け調整と分離された機能として設けられている場合がほとんどである。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、建付け調整のための操作を簡単化すると共に、調整後の固定動作が無くても不備を生じない調整方法を提案することを第一の目的とする。またどうしても建付け調整後の固定手段が必要な場合は極力固定のための操作を少なくできるような構成を提案することを第二の目的とする。さらに保持金具を装着する段階で調整とは別途の部材を用いず、調整のための固定手段と嵌め込みのための手段を同一の部材にて兼用できるような構成を提案することを第三の目的とする。
本発明では上記問題点を解決するために次の技術手段を設けた。保持金具の建付け調整の操作に関しては、操作面に対して同一面上の各方向に移動調整する場合と、操作面に対して垂直方向に移動調整する場合がありそれぞれにおいて条件が異なる。本発明は操作面に対して垂直方向に移動調整する場合の機構であり、まず最初の構成としては、一定距離隔てた2枚の面材部分を有し、垂直方向に調整ねじをがたつき無しに空転するように装着した外ケースを形成し、その内側に同様に一定の間隔を有し共に雌ねじ部を設けた2枚の平行な面材を備えた内ケースを両方の雌ねじ部を調整ねじで同時に貫通させた状態で螺合して構成する。
このときの内ケースの雌ねじ部の形成方法が重要であり、一定間隔離れた状態でのその距離を保持したまま2枚の面材を同時にねじ切りする必要がある。するとねじピッチが正しく設定され、調整ねじの雄ねじ部を2ヵ所の雌ねじ部に貫通させて螺合することができる。また上記の2枚の雌ねじ部を有する面材の距離は広いほど外ケースに対しての内ケースのがたつきは小さくなり、調整ねじの回転操作により外ケースと内ケースの位置を相対的に移動させた建付け調整後のぐらつきも少なくすることが可能になる。
しかし上記構成のみでは雌ねじ部と調整ねじの雄ねじ部との螺合部分の僅かな遊びは2ヵ所とも均一に残った状態である。そこで前記内ケースの2枚の面材間の距離を雌ねじ部形成後に微量変化させてから調整ねじの雄ねじ部を螺合させると良い。この微量寸法を前述での遊び分に設定しておくと、最初の面材に設けられた雌ねじ部に調整ねじを螺合後、次の面材の雌ねじ部に螺合される段階では遊び分のみピッチとして移動した状態になっており、雌ねじ部と調整ねじの雄ねじ部が完全に密着した状態で螺合されることになる。したがって調整ねじに対する内ケースのがたつきを排除することが可能になる。
さらに別の手段としては、内ケースの2枚の面材の雌ねじ部に調整ねじを貫通させて螺合した状態から、2枚の面材間に遊び吸収部材や遊び吸収ばね部材を挿入すると良い。すると両雌ねじ間の距離を遊び分のみ押し広げるか若しくは引き寄せることになり、同様に外ケースの調整ねじと内ケースの雌ねじ部とのがたつきを排除することができる。したがって遊び吸収部材は2枚の面材の内寸より遊び分のみ大きいかもしくは小さい寸法にて設定しておくと良い。遊び吸収ばね部材を用いる場合はばねの力にて遊び分を押し引きさせなければならないため、かなり圧縮強度の高い押しばねを用いる必要がある。さらには2枚の面材間の距離がコの字形状にて形成されている場合などでは、コの字部材自体を弾性変形の範囲内で微小距離変形させておいてねじ切り加工する構成も可能である。
上記構成では常に調整ねじは回転操作可能な状態を保持しつつどの位置に調整した段階でもがたつきを排除する機構になるが、次にさらに発展させた構成を説明する。一定距離隔てた2枚の面材部分を有し、垂直方向に調整ねじをがたつき無しに空転するように装着した外ケースを形成し、その内側に同様に一定の間隔を有し共に雌ねじ部を設けた2枚の平行な面材を備えた内ケースを両方の雌ねじ部を調整ねじで同時に貫通させた状態で螺合する構成は同様であり、さらに前記内ケース若しくは外ケースのいずれかの面に別途固定ねじを設ける。すると建付け調整後に固定ねじを回転させる操作により、内ケースの両面材同士かもしくは内ケースと外ケースを押し付ける動作になる。その結果内ケースの雌ねじ部と調整ねじが非常に強く押し付けられ、外ケースと内ケースを完全に固定することができる。したがってこの構成は固定ねじを緩めない限り建付け調整操作をも不可能としたことが特徴である。
次にまた別の構成を説明する。まず複数の並設された雌ねじ部を有する外ケースと、複数の頭部に歯車部分を有しかつ雄ねじ部を備えた歯車付調整ねじを内ケースにがたつきなしに空転する状態で装着しておく。そして互いの歯車部分が同一面上にて噛み合った状態で全ての雄ねじ部を外ケースの雌ねじ部に螺合する。このとき歯車付調整ねじの頭部面にドライバー等で回転操作できるように十字孔等を設けておく。するとどれか一個の調整ねじを回転操作することにより外ケースと内ケースを平行方向に移動調整可能になる。
上記での複数の歯車を用いる構成では非常に多くの組み合わせが可能であり、たとえば前記雌ねじ部が2ヵ所設けられており、2個の歯車部分と雄ねじ部を有した調整ねじが噛み合った状態で配置されており、片方の雄ねじと雌ねじが逆ねじにて構成されている構成が最も単純である。また前記雌ねじ部が2ヵ所設けられており、2個の歯車部分と雄ねじ部を有した調整ねじとその間に1個の歯車を配置し、互いに常に同一面上にて噛み合わせて構成し、どれか1個の歯車部分を回転させることにより外ケースと内ケースを平行方向に移動調整可能とする構成も可能である。さらには複数の歯車部分を連結させたような構成も可能である。
しかし、上記の構成のままでは歯車間や雌ねじ部と調整ねじの雄ねじ部とのがたつきに関しては考慮されておらず、さらにこれらの遊びをも無くす構成が必要である。そこで、前記歯車部分と雄ねじ部を有した調整ねじを内ケースに空転する状態でがたつき無しに保持し、かつ別途固定ねじと固定ねじ用雌ねじ部を設け、調整ねじ頭部と内ケースが接面した状態で固定ねじにて外ケースと内ケースを締め付ける構成が簡単である。したがってこの構成においての調整操作は一ヵ所の固定ねじの操作と調整ねじによる2操作が必要になる。
つまり上記での複数の歯車部分を連動させる構成においては、2枚の比較的広い面同士を平行に移動調整させる場合に適しており、常に一個の歯車を回転させる操作のみで建付け調整を実施することが可能になる。また前述の2枚ずつの面材での構成では調整ねじの回転方向にケース自体が回転しようとするため、移動側のケースを案内しておく必要性があるのに対して、歯車での構成では比較的移動の際の案内を必要としない点が特徴として挙げられる。
さらには大きく離れた2ヵ所の平行面を一操作にて同時に建付け調整したい場合においても上記の歯車の構成が優れている。例えば上下に分離された2ヵ所の平行面に各々上記の複数の雌ねじ部と歯車と雄ねじ部を有した調整ねじからなる構成が配置されている場合では、離れた各位置にて別々に調整操作することになり、そのままでは2操作必要でありかつ離れた位置での調整代は自動的には同じにはならない。そこで離れた2ヵ所の歯車部分同士をラックもしくはチェーンにて連結してやるとよい。するとどこか一ヵ所の調整ねじを回転操作させるだけで全ての平行面を同じだけ移動調整できることになり非常に有効である。
次に外ケースと内ケースを上下方向に建付け移動調整する構成を説明する。まず外ケースと内ケースに互いが上下方向に面対した略水平面を設けておき、外ケースの略水平面に頭部締め付け面が略下方向を向いた配置で上下調整ねじを螺合しておく。そして内ケースの略水平面に上下調整ねじの雄ねじ部は挿入可能であるが頭部締め付け面よりは幅狭の溝を形成しておき、内ケースの溝を外ケースの上下調整ねじに引っ掛ける動作にて内ケースを吊り下げる。するとそのまま上下調整ねじを回転させる操作により外ケースに対する内ケースの上下位置を移動させることができる。
また扉等建具の開閉体を枠体に嵌め込む動作としては、上から下に吊り下げる操作で一旦引っ掛けてから固定する場合が多い。この点において、上記上下調整機構は建付け調整のための上下調整ねじをそのまま引っ掛け金具としても用いていることになり、部品点数を削減する意味で非常に効果的である。また外ケースが枠体内に掘り込まれているような納まりであれば、上下調整ねじが操作しにくい場合もあるため、略水平面に若干傾斜をつけておき、ドライバー等の調整工具の先を入れやすくしておくとさらに操作性が向上し、かつ引っ掛け時に外れにくくなる方向にこの傾斜の角度を設定しておくと仮嵌め込み時により安定させることも可能である。
また逆の発想で、上下調整ねじを頭部が上を向いた配置にて外ケースに螺合しておき、溝もしくは孔を備えた内ケースの凹部を調整ねじの頭に乗せて保持し、そのまま上下調整ねじを回転させて上下調整する構成も可能である。これら上下調整後の固定方法は特に限定されないが、別の位置にて固定ねじ等で締め付けるのが最も簡単である。また、前述のように両略水平面にもう一個雌ねじ部と固定ねじを設け、挟み付けるかもしくは押し付ける構成を備えておいても良い。
調整ねじをがたつき無しに空転させた状態で外ケースに保持し、2枚の雌ねじ部を設けた平行な面材を有する内ケースを設け、調整ねじの雄ねじ部を両方の雌ねじ部分に同時に貫通させた状態にて両ケースを構成したことにより、ぐらつきや遊びの少ない両ケースの移動調整が可能になる。また2枚の雌ねじ部間の距離が長いほどその効果は大きくなる。さらには2枚の雌ねじ部を有する面材間の距離を微量変化させるか、若しくは遊び吸収部材や遊び吸収ばね部材を2枚の面材間に挿入する手段を設けると、雌ねじ部と雄ねじ部との微小な遊びによるぐらつきも排除することができる。その結果移動調整後の固定動作を省略することも可能になる。
また建付け調整後の位置保持をより強固に必要とする場合は、上記の構成に追加して内ケース若しくは外ケースに別途固定ねじを設け、建付け調整後に内ケースの両雌ねじ間の距離を強制的に変化させるか、若しくは外ケースのどちらか片方の面と内ケースのどちらか片方の面の距離を強制的に変化させるとよい。すると内ケースの雌ねじ部と調整ねじを強く押し付け合わせて外ケースと内ケースを完全に固定可能とすることができ、固定ねじを緩めない限り調整ねじを回す操作も不可能となり、より確実な両ケースの固定動作を得ることができる。
複数の並設された雌ねじ部を有する外ケースと、複数の歯車部分と雄ねじ部を備えた調整ねじを備えた内ケースを有し、互いの歯車部分が同一面上にて噛み合った状態で全ての雄ねじ部を雌ねじ部に螺合する構成では、どれか一個の調整ねじを回転させる一操作のみで外ケースと内ケースを平行方向に移動調整することができる。
前記の複数の雌ねじ部と、歯車部分と雄ねじ部を有した調整ねじとの構成を、大きく離れた複数ヵ所の平行面に配置し、離れた複数ヵ所の歯車部分同士をラックもしくはチェーンにて連結する。その結果どこか一ヵ所の調整ねじを回転操作させるだけで全ての平行面を同じ距離だけ移動調整することができる。したがって離れた各位置にて別々に調整操作する必要が無くなり、そのままでも移動調整代は自動的に同じ距離になり非常に効果的である。
両ケースの嵌め込み動作と上下調整を同じ部材で実施できる構成として、外ケースに頭部締め付け面が略下方向を向いた配置で上下調整ねじを螺合しておき、内ケースの略水平面に上下調整ねじの雄ねじ部は挿入可能であるが頭部締め付け面よりは幅狭の溝を形成しておき、内ケースの溝を外ケースの上下調整ねじに引っ掛ける動作にて内ケースを吊り下げる動作にて構成する。するとそのまま上下調整ねじを回転させる操作により外ケースに対する内ケースの上下位置を移動できることになる。この構成は上下調整ねじを両ケースを嵌め込む際の引っ掛け部分に兼用したことが特徴であり、部品点数を削減することができる。
以下図面に基づいて本発明の開閉体保持金具に関する実施の形態を説明する。実施形態では建具としてはドアを想定し、枠体21と扉20に掘り込んだ状態で装着する隠し丁番を開閉体保持金具として使用した構成において説明する。図1は隠し丁番全体の分解斜視図であり、隠し丁番自体の開閉の機構は特に限定されるものではないため説明は省略するが、必要条件としては扉20を閉じた状態で丁番全体が扉20面や枠体21正面に露出しないようにすることが重要であり、したがって枠体21と扉20の吊り元側の厚み方向面のみで前後左右上下の建付け調整を実施できなければならない。ここで、前後の調整は図16に示す偏芯部材での構成が優れている。そこで本発明においては比較的困難な左右調整の第一の構成を図1〜図5にて説明する。
図1に示すように枠側には外ケース1と内ケース2を装着し、扉20側には扉20側ケースを装着し、羽根22と軸心23にて両者を連結した構成が簡単である。図1では左右方向の建付け調整機構を枠側に配置した状態にて表記しており、外ケース1を上下2ヵ所に配置し、内ケース2を両者に組み付け、両者の位置を移動させることにより調整する構成である。図2は外ケース1と内ケース2を枠体21に掘り込んで装着した状態の側面図であり、左右方向への建付け調整機構が関与していない羽根22等他の部分は省略して表記している。
まず図1に示すように、一定距離隔てた2枚の平行な面材部分3を有した外ケース1を設け、その面に左右調整ねじ4をがたつき無しに空転するように取り付けるための調整ねじ取り付け孔5を設けておく。そして同様に一定距離隔てた2枚の平行な面材部分3を有した内ケース2を設け、その両面に雌ねじ部6を形成しておく。そして図2に示すように外ケース1を上下に2個対称に配置し、外ケース1の2枚の平行な面材部分3内に内ケース2の2枚の平行な面材部分3が入り込んだ状態にして、左右調整ねじ4を内ケース2の両方の雌ねじ部6を同時に貫通させた状態で螺合し、左右調整ねじ4を調整ねじ取り付け孔5に差し込んだ状態で外ケース1にがたつき無しに空転する状態にて構成する。すると左右調整ねじ4をドライバー等で回転させる操作により外ケース1に対する内ケース2の位置を移動調整することができる。
この左右調整ねじ4を外ケース1に対して空転させる機構はどのようなものでもよく、図2では左右調整ねじ4の先端を回転可能な状態で外ケース1の片方の調整ねじ取り付け孔5にかしめた状態で表記しているが、図示はしないがEリング等で保持して空転させる手段や、左右調整ねじ4の頭部に溝を形成しておき、外ケース1の厚み部分をその溝に嵌め込む手段や、左右調整ねじ4自体の全長を外ケース1の2枚の平行な面材部分3の内寸と一致させ、2枚の平行な面材部分3間にきちっと遊び無く挿入する手段等が簡単である。また、この内ケース2の2ヵ所の雌ねじ部6が重要であり、一定間隔離れた状態でのその距離を保持したまま2枚の面材部分3を同時にねじ切り加工する必要がある。するとねじピッチが正しく設定され、左右調整ねじ4の雄ねじ部7を2ヵ所の雌ねじ部6に貫通させて螺合することができる。
ここで、通常雌ねじ部6が一ヵ所のみ配置されている図15のような構成は既に頻繁に使用されているのであるが、この場合は雌ねじ部6と雄ねじ部7の遊びがあり、その分傾きやねじれが非常に大きくなりがたがたの状態になりがちである。この現象は内ケース2の雌ねじ部6を有する面材部分3の厚みが小さいほど顕著である。その点図2に示すような2枚の平行な面材部分3に同時に雌ねじ部6を構成しておくと、2枚の平行な面材部分3間の外寸と同じ長さのナットに螺合した状態にほぼ近くなりがたつきを小さくすることが可能になる。その結果上記の2枚の雌ねじ部6を有する面材部分3の距離が広いほど外ケース1に対しての内ケース2のがたつきは小さくなり、左右調整ねじ4の回転操作により外ケース1と内ケース2の位置を相対的に移動させた建付け調整後の別途固定手段を排除することが可能になる。
しかし図2の構成のみでは雌ねじ部6と雄ねじ部7との螺合部分の山と谷の僅かな遊びは2ヵ所とも均一に残った状態である。この遊びは1級ねじと2級ねじとでは当然異なり、ねじ切りの精度が悪い場合は無視できないと想定される。そこで前記内ケース2の2枚の面材間の距離を雌ねじ部6形成後に微量変化させてから左右調整ねじ4の雄ねじ部7を螺合させると良い。この微量寸法を前述での遊び分に設定しておくと、最初の面材部分3に設けられた雌ねじ部6に左右調整ねじ4を螺合後、次の面材部分3の雌ねじ部6に螺合される段階では遊び分のみピッチとして移動した状態になっており、雌ねじ部6と左右調整ねじ4の雄ねじ部7の山と谷が完全に密着した状態で螺合されることになる。
その手段としては、図2に示す構成で内ケース2の2枚の平行な面材部分3に同時にねじ切り工程を実施した後で、わずかに2枚の平行な面材部分3を広げるか狭めることにより実施できる。しかし実際には十分の数ミリ程度のごく微量な変形になるため弾性変形範囲内になってしまい加工としては難しい。そこでねじ切り時にその微量寸法分をゲージにて押し広げた状態で保持しながら2ヵ所同時にタップ加工するとよく、加工後ゲージからはずすとその分弾性変形で戻り、よりがたつきの少ない構成を得ることが可能になる。
上記と同様の効果を得るさらに別の手段としては、図3に示すように内ケース2の2枚の面材部分3の雌ねじ部6に左右調整ねじ4を貫通させて螺合した状態から、内ケース2の2枚の面材部分3間に遊び吸収部材8を挿入すると良い。図3は内ケース2の両面材部分3間にねじ山の遊び分のみ長い遊び吸収部材8を嵌め込んだ状態を示しており、両雌ねじ部6間の距離を遊び分のみ押し広げることにより両ケースのがたつきを無くすことができる。また逆に内ケース2の両面材部分3を引き寄せることによっても同様に外ケース1の左右調整ねじ4と内ケース2の雌ねじ部6とのがたつきを排除することができる。
さらに別の手段としては、図4に示すように内ケース2の両面材部分3間に遊び吸収ばね部材として押しばねを挿入する構成が可能である。すると上記と同様に両面材間の距離を押し広げることになり、ねじ山間の遊びが無くなり両ケースのがたつきを排除することができる。この遊び吸収ばね部材9を用いる場合はばねの力にて遊び分を押し引きさせなければならないため、かなり圧縮強度の高い押しばねを用いるとよい。また、図2に示す両面材部分3間の距離をねじ切り時に微量変形させておく構成では、面材部分3の弾性力が必要とされることになり、比較的内ケース2の面材部分3の厚みが大きく曲げ強度にも強い場合に適している。その点図3および図4に示す後で内ケース2の両面材間を押し広げて保持する構成は比較的両面材部分3の厚みが薄く、面材部分3自体の弾性強度が小さい場合に適しており、条件に合わせて使い分けると良い。
上記の図2および図3および図4に示す構成では、左右調整ねじ4は常に回転操作可能な状態を保持しつつどの位置に調整した段階でも両ケース間のがたつきを排除する機構である。それに対して、さらに発展させた別の構成を図5にて説明する。まず一定距離隔てた2枚の面材部分3に左右調整ねじ4をがたつき無しに空転させる外ケース1と、その内側に同様に一定の間隔を有し共に雌ねじ部6を設けた2枚の面材部分3を備えた内ケース2を両方の雌ねじ部6を左右調整ねじ4で同時に貫通させた状態で螺合する構成は同様であり、さらに前記内ケース2若しくは外ケース1のいずれかの面に別途固定ねじ10を設ける。そして外ケース1に固定ねじ挿入孔11を設けておく。
図5(a)は固定ねじ10を内ケース2に螺合して建付け調整後に内ケース2の両面材部分3間を押し広げる動作になり、図5(b)は建付け調整後に内ケース2の片方の面材部分3と外ケース1の片方の面材部分3を引き寄せる動作になり、どちらにおいても建付け調整後に固定ねじ10を回転させる操作により、内ケース2の雌ねじ部6と左右調整ねじ4が非常に強く押し付けられ、外ケース1と内ケース2を完全に固定することができる。この図5の構成は固定ねじ10を螺合する際の非常に強いねじのトルクを用いることにより両面材部分3間の距離を強力に変化させることができるため、がたつきを吸収するだけでなく完全に両ケースを調整後の位置で固定することが可能である。したがってこの構成では固定ねじ10を緩めない限り建付け調整操作も不可能になり、その結果調整順序としては一旦固定ねじ10を緩め、左右調整を実施した後に再度固定ねじ10を締め付ける操作になり、2工程の操作が必要である。
次に左右調整における第二の構成を図6〜図11にて説明する。第一の構成と同様に外ケース1と内ケース2を設け、複数の並設された雌ねじ部6を内ケース2に形成し、複数の頭部に歯車部分12を有しかつ雄ねじ部7を備えた歯車付調整ねじ13を外ケース1にがたつきなしに空転する状態で装着しておく。図6は歯車付調整ねじ13を2本用いた構成を示す斜視図であり、図7は側面図であり、互いの歯車部分12が同一面上にて噛み合った状態で全ての雄ねじ部7を内ケース2の雌ねじ部6に螺合する。そして歯車付調整ねじ13の頭部面のいずれか一個にドライバー等で回転操作できるように十字孔等を設け、正面からの操作を可能にしておく。図6は歯車部分12が2個直接噛み合った構成であるため両者の回転方向は逆になる。そこで片方の雄ねじ部7と雌ねじ部6を逆ねじにて形成しておくと良い。するとどちらか一個の歯車付調整ねじ13を回転操作することにより外ケース1に対して内ケース2を完全に平行なままの状態で移動調整可能になる。
上記での複数の歯車部分12を連動させる構成においては、2枚の比較的広いケース面同士を平行に移動調整させる場合に適しており、常に一ヵ所の歯車部分12を回転させる操作のみで建付け調整を実施することが可能になる。この点をさらに発展させると、図8に示すように2個の歯車付調整ねじ13の間にさらに平歯車14を挿入して両歯車付調整ねじ13の雄ねじ部7間の距離を広げてやることも可能である。この図8の構成では両歯車付調整ねじ13間の平歯車14が一個であるため両歯車付調整ねじ13の回転方向が同じになり、図6の構成のように片方の歯車付調整ねじ13を逆ねじにする必要はない点が優れている。また図示はしないが両歯車付調整ねじ13間に複数の平歯車14を互いが噛み合った状態で挿入すると非常に広い面を一操作で平行移動させることも簡単である。
ここで、第一の構成では2枚の面材部分3に螺合される左右調整ねじ4が1本であったため、左右調整ねじ4の回転方向に内ケース2自体が回転しようし、その結果内ケース2を外ケース1の面に当てて案内しておく必要性があるのに対して、歯車付調整ねじ13を用いる第二の構成では図7に示すように比較的移動の際の案内を必要としない点がもうひとつの特徴である。図6と図7ではより両ケース間のがたつきを小さくするために2枚の面材部分3に雌ねじ部6を設けた第一の構成にさらに追加して歯車付調整ねじ13を用いた状態で表記している。しかし第二の構成では横方向の二ヵ所にて歯車付調整ねじ13にて平行移動させるためがたつき等の条件は比較的良くなり、内ケース2の雌ねじ部6を有する面材部分3が1枚のみの構成であっても一定以上の性能が得られると想定される。
図9は第二の構成のさらに別案の正面図であり、図10は側面図である。図9と図10は第二の構成にさらに固定ねじ10を設けたものであり、外ケース1に固定ねじ挿入孔11を設け、内ケース2に固定ねじ10用の雌ねじ部6を設けておく。すると建付け調整後に固定ねじ10を螺合することで、両ケースを挟み付けるかもしくは突っ張って完全に固定することができる。したがって固定動作で両ケースが傾かないように固定ねじ10の位置は2本の歯車付調整ねじ13の真ん中付近が適しており、この構成においての調整操作は一ヵ所の固定ねじ10の操作と左右調整ねじ4による2操作が必要になる。
また図2や図7に示すように、内蔵丁番等の建具用保持金具の建付け調整においては比較的上下に長い内ケース2を平行に移動させる必要性が生じることが多い。そこで図7に示すように上下に分離された2ヵ所の平行面に各々上記の複数の雌ねじ部6と歯車付調整ねじ13からなる構成が配置されている場合では、離れた上下各位置にて別々に調整操作することになり、そのままでは2操作必要でありかつ離れた位置での調整代は自動的には同じにはならない。そこで、さらに調整の手間を無くす手段を図11にて説明する。
この大きく離れた2ヵ所の平行面を一操作にて同時に建付け調整したい場合においては上記での第二の構成である歯車付調整ねじ13を用いた手段が優れており、図11に示すように離れた2ヵ所の歯車部分12同士をラック15もしくはチェーンにて連結してやるとよい。するとどこか一ヵ所の歯車付調整ねじ13を回転操作するだけで全ての歯車部分12が回転することになり上下の平行面を同じ距離だけ移動調整することができる。また、図11では歯車部分12同士を連結する手段を直線状のラック15にて表記しているが、建付け調整幅を大きくしたい場合は歯車付調整ねじ13の回転数も多く必要になりラック15の移動距離は非常に大きくなる。その場合は図示はしないがラック15を円形のベルト状にするか、もしくはチェーンを用いて上下の歯車付調整ねじ13の外側に巻きつけてエンドレスに連動するように設定しておくと良い。
次に、扉20等建具の開閉体を枠体21に嵌め込む吊り込み動作について説明する。通常では保持金具を適宜枠側もしくは扉20側に分離して両者をあらかじめ振り分けて枠体21と開閉体に装着しておき、分離した部分に両者を合体させる部分を設けて枠体21に開閉体を組み付けるのが一般的である。ドア等の建具では枠体21に対して扉20を上から下に吊り下げる操作で一旦引っ掛けてから仮保持しておき、その後に完全に固定する場合が多い。そこで凹凸部分を有する金具を両者に振り分けて設け、両者を互いに嵌め込んで枠体21に一旦扉20を引っ掛け、その後にねじ等で別途固定する構成がほとんどである。
そこで図12に示すように、凹凸部分を有する金具の代わりに外ケース1に頭部を有する仮保持用ねじ16を水平方向に螺合して建具の枠体21に装着し、仮保持用ねじ16の雄ねじ部7は貫通できるが頭部は貫通できない細幅部分と頭部も貫通できる広幅部分を有する略瓢箪形状の係合孔17を備えた内ケース2を設けておくと良い。すると仮保持用ねじ16の頭部を内ケース2の係合孔17に貫通させた後に下方にずらして吊り下げた状態で一旦仮保持でき、その後そのまま仮保持用ねじ16を締め付ける動作により内ケース2を外ケース1に固定することができる。つまり吊り込みの際の凸側の金具を仮保持用ねじ16の頭部にて兼用することが特徴で、この仮保持用ねじ16がそのまま固定ねじ10の役割も兼ね、別途ヵ所での固定ねじ10の挿入および締め付けが不要になる。
次に上記の仮保持用ねじ16の頭部を吊り込みの際の引っ掛け部分に利用する構成での発展形を図13と図14にて説明する。まず図13に示すように外ケース1と内ケース2に互いが上下方向に面対した略水平面18を設けておき、外ケース1の略水平面18に頭部締め付け面が略下方向を向いた配置で仮保持用ねじ16を螺合しておく。そして内ケース2の略水平面18に仮保持用ねじ16の雄ねじ部7は挿入可能であるが頭部締め付け面よりは幅狭の係合溝19を形成しておき、内ケース2の係合溝19を外ケース1の仮保持用ねじ16に引っ掛ける動作にて内ケース2を吊り下げる。その状態の側面図が図14であり、両ケースの略水平面18を図14に示すように若干傾斜させておくと仮吊り込み後の保持動作においても有効である。そして別の位置にて固定ねじで内ケース2と外ケース1を固定しておく。
すると固定ねじ10を緩めた状態でそのまま内ケース2を引っ掛けた仮保持用ねじ16を回転させる操作により外ケース1に対する内ケース2の上下位置を移動させることができる。つまりこの構成の特徴は内ケース2を引っ掛けるための仮保持用ねじ16がそのまま建付け調整における上下調整ねじになり、上下調整のための構成部品は他に何も必要とせず、部品点数を削減する意味で非常に効果的である。また図14に示すように外ケース1が枠体21内に掘り込まれているような納まりであれば、前述の略水平面18の若干の傾斜が非常に有効になり、ドライバー等の調整工具の先が入れやすく、上下調整の際の仮保持用ねじ16の操作性をさらに向上させることが可能である。また図示はしないが仮保持用ねじ16と内ケース2と外ケース1の略水平面18を上下に反転させたような逆の構成で、仮保持用ねじ16を頭部が上を向いた配置にて外ケース1に螺合しておき、内ケース2を調整ねじの頭に乗せて仮保持し、そのまま仮保持用ねじ16を回転させて上下調整するような構成も可能である。