JP5038639B2 - 培養人工骨 - Google Patents
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Description
そこで近年、自家骨の代わりに正常な骨に置き換わる生体吸収性の人工骨の研究が行われてきた。その理由として、人工骨移植は移植骨を採取するための侵襲がなく、多くの骨量を確保することができ、欠損の大きさに関係なく使用できるなど有用性が高いことが挙げられる。しかし、従来の人工骨には、自家骨が持つほどの骨誘導能がないという欠点があった。実際、人工骨として生体吸収性ポリマーの鋳造により作製された多孔体が知られている(特許文献1)。
培養人工骨として、連通孔の少なくとも1つが直径20μm以上である多孔体に培養骨組織が組み込まれているものがすでに公知である(特許文献2)。しかしながら、多孔体の特性の好ましい形態として本発明で開示している繊維構造体については示唆されていない。また、繊維構造体にて、間葉系幹細胞を増殖させたもの、あるいは前骨芽細胞を増殖させたものについてそれぞれ開示されているが、繊維構造体としての好ましい形態については何ら記載がされていない(特許文献3)、あるいは実質的に平面の繊維構造体であり、本発明で開示している3次元構造を有するものではなく、さらには骨分化誘導因子なしでは骨誘導能も認められていない(非特許文献1)。補綴材として、好ましい形態について記載された3次元の繊維構造を持ち、かつ骨誘導能を有する材料については、まだ報告されていない。
なお、本明細書全体にわたって、細胞を含有していない人工骨と区別するために、細胞を補綴材に含有した本発明のような人工骨を「培養人工骨」と称す。
(補綴材)
本発明の培養人工骨を構成する補綴材は、単数または複数の繊維が積層され、集積されて形成された自己支持能がある3次元の繊維構造体からなる。繊維構造体の平均繊維径は0.05〜10μmであり、鋳造により作製された多孔体よりも比表面積が大きく、細胞が接着する十分な面積を取ることができる。平均繊維径が、0.05μmよりも小さいと該繊維構造体の強度が保てないため好ましくない。また平均繊維径が10μmよりも大きいと繊維の比表面積が小さく生着する細胞数が少なくなるため好ましくない。より好ましくは平均繊維径が0.2〜10μm、さらに好ましくは平均繊維径が0.2〜8μmである。
ここで、繊維の任意の横断面が異形であるとは、繊維の任意の横断面が略真円形状をとらないいずれの形状も指し、繊維表面が一様に凹部及び/又は凸部を有して粗面化されている場合を含む。
ここで、上記の「微細な凹部」、「微細な凸部」、とは、繊維表面に0.1〜1μmの凹部または凸部が形成されていることをいい、「微細孔」とは、0.1〜1μmの径を有する細孔が繊維表面に存在することをいう。また、上記筋状に形成された凹部及び/又は凸部は、0.1〜1μm幅の畝形状が繊維軸方向に形成されていることをいう。
本発明の培養人工骨は、補綴材に骨誘導可能な細胞が含有されている。骨組織は、骨芽細胞により形成されており、骨芽細胞が産生する細胞外基質が重要な役割を果たしていることが考えられる。よって、この骨芽細胞を移植することにより骨再生が促進される。しかし、骨芽細胞は、生体の骨組織の表面に存在するため、この細胞を採取するのは困難で、健常な組織を傷付けるという点で問題がある。そこで、注射針などで採取可能な骨髄由来細胞をはじめとする骨分化誘導が可能な細胞を利用することは、健常な骨組織を傷付けないという点から好ましい。
骨誘導可能な細胞は、自家細胞が好ましい。
骨誘導可能な細胞の継代数は、好ましくは7回以下、さらに好ましくは5回以下である。
本発明の培養人工骨は、補綴材に骨誘導可能な細胞を播種し、含有させている。含有される骨誘導可能な細胞は、播種される時点及び播種されてからインビトロで培養された時点で細胞数が、1×103〜1×107個/cm3であることが好ましい。より好ましくは細胞数が1×104〜1×107個/cm3、さらに好ましくは細胞数が1×105〜1×107個/cm3である。含有の仕方は、補綴材の表面でも、内部まで浸潤していても良い。
本発明の培養人工骨の製造方法は、(i)補綴材を準備する工程、(ii)補綴材に骨誘導可能な細胞を含有させる工程からなる。補綴材及び骨誘導可能な細胞は、培養人工骨の項で説明したとおりである。
(ii)の工程は、補綴材に骨誘導可能な細胞を播種しただけでも、播種してからインビトロで培養しても良い。
実施例で使用した材料、測定方法は以下の通りである。
(2)塩化メチレン、エタノール:和光純薬工業(株)製
(3)ラット間葉系幹細胞:大日本住友製薬(株)ラボラトリープロダクツ部製
(4)PBS:Invitrogen社製
(5)α−MEM:Invitrogen社製
(6)Antibiotics Antimycotics:Invitrogen社製
(7)FBS:HYCLONE社製
(8)骨芽細胞分化用サプリメント:大日本住友製薬(株)ラボラトリープロダクツ部製
(9)トリプシン-EDTA(0.25%トリプシン、1mM EDTA・4Na):Invitrogen社製
(10)TritonX-100:Sigma社製
(11)Pico Green(登録商標) ds DNA Quantitationkit:Molecular Probe社製
(12)酢酸マグネシウム四水和物:和光純薬工業(株)製
(13)硫酸亜鉛七水和物:和光純薬工業(株)製
(14)N−(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸:同仁化学研究所(株)製
(15)2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール:シグマアルドリッチジャパン社製
(16)1mol/L 塩酸:和光純薬工業(株)製
(17)p−ニトロフェニルりん酸二ナトリウム六水和物:和光純薬工業(株)製
(18)1mol/L 水酸化ナトリウム溶液:和光純薬工業(株)製
(19)p−ニトロフェノール:Sigma社製
(補綴材の製造)
ポリ乳酸−ポリグリコール酸(モル比50/50)共重合体1.5g、塩化メチレン/エタノール=7.5/1(重量部/重量部)8.5gを室温(25℃)で混合し15重量%のドープ溶液を調製した。図1に示す装置を用いて(ノズルと電極の間に静電除去器(春日電機(株))及び巻き取り機(HEIDON)を設置する)、120分間吐出し、巻き取り器7で紡糸された糸を巻き取り、繊維構造体を得た。このときの巻き取り機の回転数は100rpmであった。噴出ノズル1の内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズル1から巻き取り器7までの距離は20cm、噴出ノズル1から静電除去器8までの距離は35cm、噴出ノズル13から電極5までの距離は55cmであった。生検トレパンを用いて直径5mmの円柱状のものを切り出した。得られた補綴材の繊維径、高さ及び平均見かけ密度を表1に示す。繊維径については、試料をスパッタコーティング(Pt1.0nm)処理し、SEM(JSM−5310型(日本電子製)、加速電圧:2.0kV、撮影角度30°)により観察を行った。高さについてはノギスを用いて測定した。補綴材の見かけ密度については下記式により算出した。
ρ=4m/πd2h
(ρ:多孔体の見かけ密度、m:質量、d:直径、h:高さ)
図2に実施例1で得られた補綴材の光学顕微鏡写真(DIGITAL MICROSCOPEE,KEYENCE社、倍率:450倍)を示す。
大日本住友製薬(株)ラボラトリープロダクツ部から購入したラット間葉系幹細胞を15%FBS及び1%Antibiotics Antimycoticsを含むα−MEM中にて5%CO2下で培養した。継代を繰り返し、継代数2で凍結保存しておいたラット間葉系幹細胞を37℃のウォーターバスで溶解し、あらかじめ37℃に保温しておいたPBS中に移した。数回ピペッティングした後、900rpm、室温で5分間遠心分離を行った。上清を除去し、15%FBS及び1%Antibiotics Antimycoticsを含むα−MEMに懸濁し、8.6×105個/mLのラット間葉系幹細胞の懸濁液を調製した。
先に製造した補綴材に先に調製したラット間葉系幹細胞を1×106個/cm3となるように含有させた。この培養人工骨を15%FBS及び1%Antibiotics Antimycoticsを含むα−MEMを用いて、2週間培養した(n=4)。培地交換は3回/週で行った。
2週後に0.2%TritonX−100で室温、5分間処理し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液からDNA及びアルカリフォスファターゼ(ALP)の抽出液を調製した。この抽出液から、Pico Green(登録商標) ds DNA Quantitationkitを用いてDNA量を、国際臨床化学会の勧告案に基づく反応緩衝液を用いてALP活性を測定し、DNA量当たりのALP活性を算出した。
キットに含まれているλDNAスタンダード及びTEを用いて、段階希釈系列の標準DNA溶液を調製した。これら標準DNA溶液及び試料を100μLずつ96穴マイクロプレートに入れた。キットに含まれているReagentを100μLずつ加え、よく撹拌後、室温で5分間静置した。その後、蛍光マイクロプレートリーダーにて485nmの波長で励起して535nmの波長にて蛍光を測定した。標準DNA溶液の値から検量線を作成し、それを基に試料のDNA量を算出した。その結果を表2に示す。
骨芽細胞の指標とされているALPはp−ニトロフェノールリン酸を基質とし、p−ニトロフェノールとリン酸を生成する。そこで生成されるp−ニトロフェノールの吸光度変化を測定することでALP活性を算出した。ALP活性の測定に用いた反応緩衝液は活性化剤、AMP緩衝液、ALP基質液、反応停止液、p−ニトロフェノール希釈液及び1mmol/L p−ニトロフェノール原液であった。活性化剤は、酢酸マグネシウム四水和物(終濃度100mmol/L)、硫酸亜鉛七水和物(終濃度50mmol/L)及びN−(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸(終濃度100mmol/L)からなる。AMP緩衝液は、活性化剤(終濃度2%)及び2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(終濃度0.35mol/L)からなり、1mol/L塩酸でpH=10.4〜10.5に調整した。ALP基質液は、AMP緩衝液及びp−ニトロフェニルリン酸二ナトリウム六水和物(終濃度16mmol/L)からなる。反応停止液は1mol/L 水酸化ナトリウム溶液からなる。p−ニトロフェノール希釈液は、1mol/L 水酸化ナトリウム溶液(終濃度0.02mmol/L)からなる。1mmol/L p−ニトロフェノール原液は、p−ニトロフェノール希釈液及びp−ニトロフェノール(終濃度1mmol/L)からなる。
ALP活性=試料のp−ニトロフェノール濃度×反応停止後の試料溶液量/反応時間
×(抽出液量/測定に使用した抽出液量)
(1)及び(2)で算出されたDNA量及びALP活性を用いて、下記式によりDNA量当たりのALP活性を求めた。その結果を表4に示す。
DNA量当たりのALP活性=ALP活性/DNA量
コントロール群(n=3)として、補綴材を用いず、ラット間葉系幹細胞を12穴マイクロプレートに5×103個/cm2となるように播種し、2週間単層培養した。培地交換は3回/週で行った。実施例1と同様に評価を行いDNA量、ALP活性及びDNA量当たりのALP活性を求めた。その結果を表2〜4に示す。
実施例1の培養人工骨は参考例1のコントロール群に比べ、2.3倍高い骨分化誘導能が認められた。
(補綴材の製造)
実施例1と同様に、表1に示すような補綴材を得て、ラット間葉系幹細胞を調製し、培養人工骨を体積比5%となるように骨芽細胞分化用サプリメントを添加した15%FBS及び1%Antibiotics Antimycoticsを含むα−MEMを用いて、2週間培養し培養人工骨(n=4)を得て、実施例1と同様にDNA量、ALP活性及びDNA量当たりのALP活性を求めた。その結果を表2〜4に示す。
コントロール群として、補綴材を用いず、体積比5%となるように骨芽細胞分化用サプリメントを添加した15%FBS及び1%Antibiotics Antimycoticsを含むα−MEMを用いて、2週間培養した以外は、実施例2と同様に評価を行った。その結果を表2〜4に示す。
実施例2の培養人工骨は、参考例2のコントロール群に比べ、1.2倍高い骨分化誘導能が認められた。
2. 紡糸液
3. 紡糸液保持槽
4. 電極
5. 電極
6. 高電圧発生器
7. 巻き取り装置
8. 静電除去装置
Claims (9)
- (i)平均繊維径が0.05〜10μmの生体吸収性ポリマーの繊維構造体から構成され、平均見かけ密度が50〜300kg/m3、高さが2.0mm以上の多孔体からなる補綴材、並びに(ii)補綴材に含有された骨誘導可能な細胞、からなる培養人工骨。
- 該多孔体の平均繊維径が、0.2〜8μmであることを特徴とする請求項1に記載の培養人工骨。
- 該生体吸収性ポリマーが、主として脂肪族ポリエステルからなる請求項1に記載の培養人工骨。
- 該脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、及びそれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の培養人工骨。
- 平均見かけ密度が、100〜250kg/m3であることを特徴とする請求項1に記載の培養人工骨。
- 骨誘導可能な細胞が、骨髄由来細胞であることを特徴とする請求項1に記載の培養人工骨。
- 該骨髄由来細胞が、間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項6に記載の培養人工骨。
- 骨誘導可能な細胞が、7回以下の継代数であることを特徴とする請求項1に記載の培養人工骨。
- 骨誘導可能な細胞が、1×103〜1×107個/cm3の濃度で補綴材に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の培養人工骨。
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