以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態にかかるインクジェット記録装置に関して、使用するインク、記録ヘッドの構成、プリンタの装置構成等とともに、本発明の実施形態を詳細に説明する。
インク
最初に、本発明の第1実施形態かかるインクジェット記録装置としてのインクジェットプリンタで使用するインクについて説明する。
本実施形態では、ブラックインクとして、後述のように記録モードに応じて2種類のインクが用いられる。そのうち、第1のブラックインクは、色材としてカーボンブラックからなる顔料を用いたものである。この顔料の表面にカルボキシル基等の表面処理を施すことでインク中に分散可能にしている。また、インクの水分蒸発を抑制するためにグリセリン等の多価アルコール類を保湿剤として添加することが好ましい。さらに、この顔料インクは文字等のキャラクタを記録する場合に用いられることから、普通紙に形成されるブラックインクドットのエッジが劣化しないことが重要であるが、エッジが劣化しない範囲でインクの浸透性を調整するためにアセチレングリコール系の界面活性剤を添加しても良い。また、この顔料と記録媒体との結着力を高めるために高分子ポリマーをバインダーとして添加しても良い。
一方、第2のブラックインクは、色材としてブラック染料を用いる。また、記録媒体の表面で十分高速なインクの浸透を実現するためにアセチレングリコール系の界面活性剤を臨界ミセル濃度以上添加する。また、本インクも水分蒸発を抑制するためにグリセリン等の多価アルコール類を保湿剤として添加することが好ましい。また、尿素等を色材の溶解性を高めるために添加しても良い。
本実施形態では、カラーインクとしてシアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクが用いられる。これらはそれぞれシアン、マゼンタ、イエロー色の染料が用いられ、第2のブラックインクと同様な保湿剤、界面活性剤、および添加物を添加することが好ましい。
また、第2のブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクの表面張力は概略同じになるように界面活性剤を調整することが望ましい。これは普通紙においての浸透性を同じにすることで紙面上での各インク間で記録された領域間のにじみ(ブリード)を抑制することができる。また、上記特性以外のインクの浸透性および粘度などの特性は、第2のブラックインクとシアンインク、マゼンタインク、イエローインクとは同等に調整する。
記録ヘッドの構成
次に、本実施形態の記録ヘッドの構成について図1および図2を参照して説明する。
図1は、本プリンタに装着された状態の記録ヘッドを記録媒体側から見た図であり、各記録チップの配置を示した模式図である。
同図に示すように、本実施形態の記録ヘッドは、カラーインク用チップ1100とブラックインク用チップ1200を基材1000に接続することにより形成される。そして、ブラックインク用チップ1200は、上記第1ブラックインクを吐出するための吐出口(本明細書では、ノズルともいう)を配列したものである。このチップは、カラーインク用チップ1100より記録媒体搬送方向(副走査方向)に長い、つまり、吐出口の配列範囲が長いチップであり、また、カラーインク用チップの各インクの吐出口列と所定量副走査方向にずれて設けられる。図1に図示されるように、カラーインク用チップ1100に配列される吐出口列の搬送方向下流側の端部位置が、ブラックインク用チップ1200に配列される吐出口列の搬送方向下流側の端部位置よりも、搬送方向の下流となるように配置
している。これは、ブラックインク用チップを用いて文書等を記録する場合の記録(本明細書では、印字ともいう)速度を重視するためである。すなわち、ブラックインク用チップ1200の副走査方向に配列した吐出口列により、チップの1回の走査での記録可能な副走査方向の幅がカラーインク用チップ1100よる記録よりも大きくなっている。また、記録媒体上の同一記録領域に対しカラーインクの付与に先行して顔料ブラックインクの記録を行うことが可能であるように、カラーインク用チップ1100とブラックインク用チップ1200は記録媒体の搬送方向に沿ってずらした位置に配置してある。このように構成することで、ブラックインク用チップ1200から顔料ブラックインクを吐出して記録してから、カラーインク用チップ1100により記録を行うまでの時間差を設けることができ、顔料ブラックインクで記録された画像と、染料カラーインクで記録された画像との間のインクのにじみが低減される。
図2は、カラーインク用チップ1100における各色インクの吐出口の配置を示した模式図である。
本実施形態のカラーインク用記録チップは、シアン、マゼンタ、イエローの各インクおよび上記第2のブラックインクについて、それぞれ複数の吐出口およびそれぞれの吐出口に対応した、吐出に利用される熱エネルギーを発生するヒータなどが設けられたものである。そして、各色インクについて2つの吐出口列が設けられるとともに、その吐出口列の配置が、シアン、マゼンタ、イエローの各インクについては前述したような対称配置であり、第2のブラックインクについては、そのような配置を採らず、イエローインクの吐出口列y2とマゼンタインクの吐出口列m2との間に、吐出口列k1、k2が配置される構成とする。この配置により、図10、図11にて後述するように、第2のブラックインクに関して他のカラーインクとの間の付与順もしくは重なり方を往方向と復方向とで大きく異ならないようにするものである。
カラーインク用チップの具体的構成は、シリコン製の同一のチップ1100に6個の溝を形成し、溝ごとにそれぞれのインクの上述した吐出口などが形成される。すなわち、吐出口、これに連通するインク路、インク路の一部に形成されたヒータ、およびこれらのインク路に共通に連通する供給路などが形成される。
また、チップ1100の各溝の間には上記ヒータを駆動するための駆動回路(不図示)が設けられる。ヒータや駆動回路は、半導体の製膜プロセスと同じプロセスによって製造される。また、インク路や吐出口は樹脂によって形成される。さらに、シリコンチップの裏面には各溝に対してそれぞれにインクを供給するインク供給路が設けられる。
6個の溝は、図において走査方向左側から順に、第1溝1001、第2溝1002、第3溝1003、第4溝1004、第5溝1005、第6溝1006とするとき、本実施形態では、第1溝1001および第6溝1006にシアンインクを供給し、第2溝1002および第5溝1005にマゼンタインクを供給し、第3溝1003にイエローインクを供給し、第4溝1004に染料を色材とする第2のブラックインクを供給する。
そして、第1溝1001には、64n(nは1以上の整数;例えばn=4)個の吐出口から成るシアンインクのノズル列c1を、第2溝1002には64n個の吐出口から成るマゼンタインクのノズル列m1を構成する。また、第3溝1003の第2溝側には64n個の吐出口から成るイエローインクのノズル列y1を、第3溝1003の第4溝側には64n個の吐出口から成るイエローインクのノズル列y2を構成する。さらに、第5溝1005には64n個の吐出口から成るマゼンタインクのノズル列m2を、第6溝1006には64n個の吐出口から成るシアンインクのノズル列c2を構成する。また、第4溝1004の第3溝側には64n個の吐出口から成る染料ブラックインク(第2ブラックインク)のノズル列k1を、第4溝1004の上記ノズル列k1に隣接して64n個の吐出口から成る同じ染料ブラックインクのノズル列k2を構成する。
各ノズル列はそれぞれ概略等ピッチで吐出口を配置し、また、それぞれ同じ色のインクのノズル列間では各吐出口の配列ピッチの半分だけ相互の配置を副走査方向にずらしてある。これは各画素について1回の記録走査における記録ドットによる記録媒体の被覆効率が最も高いように構成するためである。
本実施形態では、シアン、マゼンタ、イエローのインク組み合わせを第1のインクの組み合わせとし、シアン、マゼンタ、イエローの各インク、および第2ブラックインクの組み合わせを第2のインクの組み合わせとする。図2の対称配置からも明らかなように、第1のインクの組み合わせにおいて、任意の2種類以上のインクを用いて表現する2次色または3次色の記録の場合には2つ付与順をもつことができる。
図3を参照して、この第1のインクの組み合わせのインクの付与順について、より具体的に説明する。図3において、シアンドット(シアンインクにより形成されるドット、以下、同じ)を縦線で表し、マゼンタドットを横線で表し、イエロードットを格子線で表している。また、本図は実際の重なり順番がわかる様にドットの重なりをずらして模式化している。
シアンインクとマゼンタインクの組み合わせによる2次色である青色(C+M)は、同図から明らかなように、往復それぞれの走査で、ノズル列c1、m1の組みとノズル列c2、m2の組みを用いることにより、インクの付与順番がシアンの次にマゼンタがくる画素とマゼンタの次にシアンがくる画素の2種類を記録することができる。また、記録データの処理によって、これらの種類について往路および復路の双方の走査でほぼ同数発生させることが可能である。また、後述する1パス記録とマルチパス記録のいずれによっても可能となる。このように、本実施形態では、双方向記録において、全ての画素について同じ付与順とするのではなく、付与順序ないしドットの重なり方について2種類があり、これらの種類がほぼ同数発生するように記録データの処理等を行うことにより、付与順序が異なることに起因した色むらを目立たなくする。
同様に、シアンとイエローの組み合わせによる2次色である緑色(C+Y)は、ノズル列c1、y1の組みとノズル列c2、y2の組みを用いるにより、付与順番がシアンの次にイエローがくる画素とイエローの次にシアンがくる画素の2種類を生成することができ、また、マゼンタとイエローの組み合わせによる2次色である赤色(M+Y)は、ノズル列m1、y1の組みとノズル列m2、y2の組みを用いることにより、付与順番がシアンの次にイエローがくる画素とイエローの次にシアンがくる画素の2種類を生成することができる。また、シアン、マゼンタおよびイエローのインクによる3次色においても、ノズル列c1、m1およびy1の組みとノズル列c2、m2およびy2の組みを用いることにより、シアン、マゼンタ、イエローの付与順番になる画素とイエロー、マゼンタ、シアンの付与順番になる画素の2種類を生成することができる。
なお、第2のブラックインクについては、シアンとマゼンタとの関係は同様に2種類の重なり方が可能であるが、イエローとの関係は対称配置ではないためその2種類の重なり方は図3に示すような付与順が完全に逆になる付与順とはならない。本発明の実施形態は、これを利用し、図10、図11で後述されるように、その2種類の重なり方の違いが大きくならないようにするものである。
プリンタの装置構成
図4は、本実施形態のインクジェットプリンタの装置構成を示す図であり、ケースカバーを除いた状態で示す斜視図である。
同図に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタは、図1にて説明した記録ヘッド3を着脱自在に搭載するキャリッジ2と、これを移動させて記録ヘッドの走査を行うための駆動機構を備える。すなわち、キャリッジ2は、駆動源であるキャリッジモータM1の駆動力がベルト、プーリなどからなる伝動機構4を介してキャリッジ2に伝えられることによりキャリッジ2を図4の矢印A方向に往復移動させることができる。キャリッジ2には、本プリンタで用いるインクの種類に対応してインクカートリッジ6が着脱自在に搭載される。図1および図2にて説明したように、本実施形態では、第1および第2のブラックインク、シアン、マゼンタ、イエローの5種類のインクを用いるが、図4においては簡略化して4個のインクカートリッジのみを示している。
キャリッジ2には、図1および図2に示したブラックインク用チップ1200とカラーインク用チップ1100における各溝にそれぞれ対応するインクがカートリッジから供給されるようそれぞれのインク供給路が形成される。また、キャリッジ2と上記各チップからなる記録ヘッド3は、両部材の接合面が適切に接して所要の電気的接続ができるよう構成される。これにより、記録ヘッド3は、記録信号に応じて前述のヒータに電圧パルスを印加してインクに気泡を生じさせこの気泡の圧力によって吐出口からインクを吐出することができる。すなわち、電気熱変換体であるヒータはパルスが印加されることにより熱エネルギーを生じ、これによりインクに生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させるものである。
また、記録媒体である記録紙Pを搬送(紙送り)する給紙機構(紙送り機構)5を備え、記録ヘッドの走査に応じて所定量の紙送りを行う。さらに、キャリッジ2の移動範囲の一端には、記録ヘッド3の吐出回復処理を行うための回復装置10を備える。
このようなインクジェットプリンタにおいて、記録紙Pは給紙機構5によって記録ヘッド3の走査領域に送り込まれ、記録ヘッド3の走査によって記録紙Pに画像や文字などの記録が行なわれる。
上述の装置構成をより詳細に説明すると、キャリッジ2は、キャリッジモータM1の駆動力を伝達する伝動機構4を構成する駆動ベルト7の一部に連結されており、また、ガイドシャフト13に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されている。これにより、キャリッジモータM1の駆動力がキャリッジ2に伝達されてその移動を行うことができる。この場合、キャリッジ2は、キャリッジモータM1の正転および逆転によってそれぞれ往方向または復方向の移動を行うことができる。また、図4において、8はキャリッジ2の矢印A方向における位置を検出するためのスケールを示し、本実施形態では、透明なPETフィルムに所定のピッチで黒色のバーを印刷したものを用いており、その一方はシャーシ9に固着され、他方は不図示の板バネで支持されている。このスケールのバーをキャリッジ2に設けられるセンサが光学的に検出することにより、キャリッジ2の位置を検出することができる。
記録ヘッド3の走査領域で、記録ヘッド3の走査でそれぞれの吐出口列に対向する領域に不図示のプラテンが設けられており、このプラテン上を搬送される記録紙Pに対してそれぞれのインクを吐出することにより、プラテンによって平坦な面が維持された記録紙に記録が行われる。
14は不図示の搬送モータM2によって駆動される搬送ローラを示し、15は不図示のバネにより記録シートを搬送ローラ14に当接するピンチローラ、16はピンチローラ15を回転自在に支持するピンチローラホルダをそれぞれ示す。また、17は搬送ローラ14の一端に取り付けられた搬送ローラギアを示し、この搬送ローラギア17に不図示の中間ギアを介して伝達された搬送モータM2の回転により、搬送ローラ14が駆動される。20は記録ヘッド3によって画像が形成された記録紙を装置外ヘ排出するための排出ローラを示し、同様に搬送モータM2の回転が伝達されることで駆動される。なお、排出ローラ20には不図示のバネの押圧力によって不図示の拍車ローラが記録紙に当接する。22は拍車ローラを回転自在に支持する拍車ホルダを示す。
キャリッジ2が記録動作のために往復移動する範囲(走査領域)外の所定の位置(例えばホームポジションと対応する位置)には、上述のように、記録ヘッド3の吐出性能を維持するための回復装置10が配設されている。この回復装置10は、記録ヘッド3の吐出口面をキャッピングするキャッピング機構11と記録ヘッド3の吐出口面(各色の吐出口列が設けられた面)をクリーニングするワイピング機構12を備えており、このキャッピング機構11による吐出口面のキャッピングに連動して回復装置内の不図示の吸引機構(吸引ポンプ等)により吐出口からインクを強制的に排出させ、それによって、記録ヘッド3のインク路内の増粘インクや気泡等を除去するなどの吐出回復処理を行うことができる。また、非記録時等に、記録ヘッド3の吐出口面をキャッピングすることによって、記録ヘッドを保護するとともにインクの乾燥を防止することができる。さらに、ワイピング機構12は、キャッピング機構11の近傍に配されて、記録ヘッド3の吐出口面に付着したインク滴を拭き取ることにより、そのクリーニングを行う。そして、これらキャッピング機構11およびワイピング機構12により、記録ヘッド3を正常な吐出状態に保つことが可能となっている。
図5は図4に示した装置構成を具えたインクジェットプリンタの制御系の概略構成を示すブロック図である。
図5に示すように、コントローラ600は、マイクロコンピュータ形態のCPU601、後述する各種記録モードの実行やその際の記録動作の制御、また、後述する画像処理のシーケンスに対応したプログラムや所要のテーブルその他の固定データを格納したROM602、上記各記録モード実行の際のキャリッジモータM1の制御、紙送りモータM2の制御、記録ヘッド3における吐出制御等の制御信号を生成する特殊用途集積回路(ASIC)603、画像データを展開する領域や作業用の領域等を設けたRAM604、CPU601、ASIC603およびRAM604を相互に接続してデータの授受を行うシステムバス605、以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、それぞれのデジタル信号をCPU601に供給するA/D変換器606などで構成される。
610は画像データの供給源となるホストコンピュータ(あるいは画像読取り用のリーダや、デジタルカメラなど)を示し、インターフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等をコントローラ600と送受信する。
620はスイッチ群を示し、電源スイッチ621、プリント開始を指令するためのスイッチ622、および記録ヘッド3の回復処理の起動を指示するための回復スイッチ623など、操作者による指令入力を受容するためのスイッチを有する。630はセンサ群を示し、記録ヘッド3がその移動によりホームポジションhに位置することを検出する、上記スケール8と組合わされるフォトカプラ631、環境温度を検出するためにプリンタの適宜の箇所に設けられた温度センサ632等から構成される。さらに、640はキャリッジモータM1を駆動するドライバ、642は紙送りモータM2を駆動するためのドライバをそれぞれ示す。
以上の構成において、本実施形態のプリンタは、インターフェース611を介して転送された記録データのコマンドを解析し、記録すべき画像データをRAM602に展開する。画像データの展開領域(展開バッファ)は、横を主走査方向の記録可能領域分の画素数Hpに対応したサイズ、縦を記録トヘッドにおけるノズル列により1回の走査で記録される縦方向の画素数である64n(nは1以上の整数;例えばn=4)に対応したサイズとしてそれぞれ構成し、RAM602の記憶領域上に確保される。また、記録走査において記録ヘッドにデータを送るために参照されるRAM602上の記憶領域(プリントバッファ)は、横を主走査方向の記録可能領域分の画素数Vpに対応したサイズ、縦を記録ヘッドの1回のプリント走査でプリントされる縦方向の画素数である64nに対応したサイズとして構成し、RAM602の記憶領域上に確保される。
ASIC603は、記録ヘッドによる記録走査の際に、RAM602の記憶領域(プリントバッファ)に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して各吐出口ごとにヒータの駆動データデータを取得し、それを記録ヘッド3(のドライバ)に転送する。
データ処理
本実施形態では、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の多値データに所定の画像処理を施すことにより、本プリンタで用いるインク色に対応したシアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの量子化された2値または3値のデータに変換する。なお、本実施形態では、この処理をホスト装置610において行うが、プリンタのコントローラ等において行なってもよい。
本実施形態のデータ処理は、後述する記録モードに応じて実行されるものであり、具体的には記録モードに応じて2値データまたは3値データへの変換を行なう。具体的には、記録速度の高い記録モードでは2値データへの変換を行ない、より高い画質が可能な記録モードでは3値データへの変換を行なう。また、このデータ処理および記録動作において、処理にかかる画素の単位は、図2に示した同じインク色のそれぞれ2つの吐出口列において、各吐出口列の吐出口配列ピッチの1/2の間隔で副走査方向において隣接する2つの吐出口(従って、異なる吐出口列の吐出口)によるそれぞれのインクドットを形成可能な単位ないしサイズであり、また、この画素においてこれらドットは離れた位置に形成される。より具体的には、画素の単位は、図3に示した、2つの格子点に形成されるドットを有した領域が一つの単位である。
さらに、このデータ処理は、双方向記録行なうために、各色インクの2つの吐出口列に対応させてデータ振り分けを行なう。具体的には、それぞれの吐出口列に対応するプリントバッファを設け、対応するプリントバッファに上記の2値データまたは3値データを格納する処理を行なう。これにより、各走査ではそれぞれの吐出口列に対応したプリントバッファのデータを読み出し、それぞれの吐出口列の吐出口からインクを吐出すべくデータ転送を行なう。
(2値の場合)
上記のように、シアン、マゼンタ、イエローの量子化されたデータが2値の場合は、同じインク色で対となる2つの吐出口列(ノズル列)で同一のプリントバッファを用いる。
具体的には、シアンノズル列c1およびシアンノズル列c2に同じシアン第1プリントバッファを割り当て、同様に、マゼンタノズル列m1およびマゼンタノズル列m2に対してはマゼンタ第1プリントバッファを割り当て、イエローノズル列y1およびイエローノズル列y2に対してはイエロー第1プリントバッファを割り当てる。すなわち、2値化されたデータは、例えばシアンインクの場合、全てシアン第1プリントバッファに展開する。そして、往走査では、シアン第1プリントバッファに展開された2値データを参照して、記録ヘッドのシアンノズル列c1とシアンノズル列c2の両方の吐出口に対応させて転送しその対応する吐出口からインクを吐出する。復走査でも同様、シアン第1プリントバッファに展開された2値データを参照して、シアンノズル列c1とシアンノズル列c2の吐出口に対応させて転送しその対応する吐出口からインクを吐出する。このように本実施形態では、シアンノズル列c1とシアンノズル列c2で同一の画像を記録媒体上に記録することになる。すなわち、2値データが1の画素は、同一インク色について異なる吐出口列の吐出口から吐出されるインクによる2つのドットで構成されることになる。同様にして、マゼンタ、イエローについてもマゼンタ第1プリントバッファ、イエロー第1プリントバッファを参照してそれぞれ2つの吐出口列によって画像を記録する。
この場合、各画素(2値データが1の画素)を構成する2つのドットが異なるノズル列によるものであることから、図3にて示したように、2次色、3次色であっても2種類のインク付与順序が存在し、従って、記録画像全体でもこの付与順序が異なるドットが同数存在することになる。これにより、走査方向の違いによる各色インク相互の付与順序ないし重なり方の違いは、画素単位および記録画像全体の双方で緩和されて、色むらの発生を低減できる。
なお、後述されるように、記録モードによっては、顔料インクである第1のブラックインクを用いるが、その2値データは通常の記録と同様に1つのプリントバッファに格納され、また、記録の際には参照されて、ブラックインク用チップ1200の各吐出口に対応させて記録ヘッドに転送される。これは次に説明する3値の場合も同様である。
(3値の場合)
シアン、マゼンタ、イエローの量子化されたデータが3値の場合は、画素のドット形成について、それぞれ、ドットなし、1ドット、および2ドットの3段階となる。これに対応して、3値データの内容は0、1、2であり、0の場合にはドットなし、1の場合には1ドット、2の場合には2ドットとなる。
この場合、プリントバッファは各インク色の各ノズル列に対応するように第1のプリントバッファと第2のプリントバッファとに記憶領域を分けて管理する。すなわち、シアンノズル列c1に対してはシアン第1プリントバッファを割り当て、マゼンタノズル列m1に対してはマゼンタ第1プリントバッファを割り当て、イエローノズル列y1はイエロー第1プリントバッファを割り当てる。また、イエローノズル列y2にはイエロー第2プリントバッファを割り当て、マゼンタノズル列m2に対してはマゼンタ第2プリントバッファを割り当て、シアンノズル列c2に対してはシアン第2プリントバッファを割り当て管理する。
そして、量子化された3値データが0の場合は第1および第2のプリントバッファの双方にデータ無しを意味する0を展開する。量子化された3値データが2の場合は、第1および第2のプリントバッファの双方に1ドットのデータを意味する1を展開する。これにより、インク色の3値データが2の場合には、往復走査のいずれでも、3値データが2の画素に対して異なるノズル列で各1ドットの計2ドットが形成される。量子化された3値データが1の場合は第1または第2のプリントバッファのどちらか一方に1を展開し、他方に0を展開する。この際、同一のインク色についてその3値データが1である度にどちらのプリントバッファに1を展開したか記憶しておき、3値データが次に1であるとき、そのデータを展開するプリントバッファを切り替えるようデータ展開を制御する。これにより、往復走査のいずれでも、3値データが1の画素に対して異なるノズル列のどちらか一方により1ドットを形成することになる。
以上説明した3値データの振り分けの結果、多数の画素でマクロ的に見れば異なるノズル列で記録されるドットの数が同数であることになり、付与順序が異なる2種類のドットが確率的に同数存在することになり、視覚的な色むらの認識が比較的困難となる。
上述したように、量子化されたデータが2値の場合のデータ処理は3値の場合のデータ処理に比較してデータの処理量が少ないので高速に記録する記録モードに適している。また、2値のデータ処理の場合、本実施形態では各画素について2ドットの構成であるため、記録画像の低濃度部で1ドットを使用する上記3値の処理に比較して粒状感において品位の劣る画像となるため、高画質の記録モードでは3値データを用いる。なお、粒状感で品位劣化の少ないイエローは2値の量子化を行って、その他の色を3値の量子化を用いてもよい。
なお、4値以上の階調表現を行う場合においても、吐出口列とプリントバッファとの対応を3値のデータ振り分けと同じものとするとともに、3値の場合と同様に、偶数個のドットによる表現の場合は第1および第2のプリントバッファの双方に同一個ドットを記録するようにデータを展開し、奇数個のドットによる表現の場合は第1または第2のプリントバッファのいずれか一方のドットが他方に対して1ドット多くなるようにデータを展開する。そして、同一インク色について階調表現のドット数が奇数個である度にどちらのプリントバッファが1ドット多いデータを展開したか記憶しておき、次に画素のドット数が奇数個であるときに1ドット多いデータを展開するプリントバッファを切り替えるようにデータを展開する。
ブラックインク(第2のブラックインク)の場合、図2に示したように、その2つの吐出口列は、シアン、マゼンタ、イエローインクのように対称配置ではないが、ブラックのプリントバッファおよび量子化データの振り分けは、上述したシアン、マゼンタ、イエローと同様の構成とする。
具体的には、量子化されたデータが2値の場合は、2つのノズル列で同一のプリントバッファを兼用する。また、量子化されたデータが3値の場合は、各ノズル列に対応するように第1のプリントバッファと第2のプリントバッファとに記憶領域を分けて管理する。すなわち、ブラックノズル列k1に対してはブラック第1プリントバッファを、ブラックノズル列k2に対してはブラック第2プリントバッファを割り当て管理するとともに、3値データの振り分けも上述したシアン、マゼンタ、イエローの3値データの振り分けと同じものとする。
ただし、シアン、マゼンタ、イエローの場合と異なり、図2に示したように、第2のブラックインクの吐出口列k1、k2は対称配置ではないため、シアンなどの他の色のインクと付与順ないし重なり順は、往復走査の往走査と復走査で異なるとともに、この2種類の付与順のドットの数を同じものとすることはできない。このため、図10、図11で後述されるように、その2種類の重なり方の違いが大きくならないようにする。
1パス記録
本実施形態では、記録モードについて後述されるように、記録モードに応じて、1パス記録またはマルチパス記録のそれぞれ双方向記録を行なう。まず、本実施形態の1パス記録を説明する。
図6は、カラーの記録物を1回の走査で完成させる1パス記録を模式的に説明する図である。
図において、1100は図1に示したカラーインク用チップを示し、1200は同様に顔料ブラックのブラックインク用チップを示しており、この図6では吐出向列の幅、走査で記録可能な幅として示されている。また、各チップにおける斜線部または網掛け部は走査で記録に使用している吐出口部分を示したものである。また、図における破線は記録媒体の1回の副走査(紙送り)による搬送量を示したものである。すなわち、本実施形態の1回の副走査による搬送量は、1回の記録ヘッドの走査で図2に示したカラーインク用チップの各色吐出向列の幅にあたる64n画素相当分である。また、図において紙面の左右が記録ヘッドの走査方向であり、紙面の上方向が記録媒体の搬送方向の下流側となる。
本実施形態の1パス記録は、記録モードについて後述されるように、ブラックインク用チップとカラーインク用チップの両方を用いるモードと、カラーインク用チップのみを用いるモードがあり、以下では両方のチップを用いる場合について説明するが、カラーインク用チップのみを用いるモードでも以下に示す記録動作と同様の動作が行なわれることは明らかであるから、その説明は省略する。また、両方のチップを用いるモードでは、カラーインク用チップ1100における第2のブラックインクの吐出口列k1、k2は用いられない。
まず、往走査S201で顔料ブラックインクのチップ1200で記録領域1の記録を行う。
次に、記録媒体を64n画素分搬送して、復走査S202で顔料ブラックのチップ1200によって記録領域2の記録を行う。
次に、記録媒体を64n画素分搬送して、往走査S203で顔料ブラックのチップ1200で記録領域3の記録を行い、同時に記録領域1をカラーインク用チップ1100により記録を行う。
以降、64n画素分の搬送を挟んだ復または往走査S204、S205、…では、走査S203と同様に2つの記録領域をそれぞれのチップにより記録を行ない、画像を完成させる。
本記録動作によれば顔料ブラックインクの記録は必ずカラーの記録より1記録走査分早く同一の記録領域を行うことが可能である。これにより顔料ブラックインクが記録媒体に十分に浸透した後にカラーインクを付与することになり、黒とカラーとの間に生じるにじみを低減できる。また、カラーインク間の付与順序に起因した色むらは、上述したように、付与順が異なる2種類のドットが略同数存在するように記録が行なわれるので、色むらを低減することができる。
マルチパス記録
本実施形態では、マルチパス記録において所定の記録領域を完成する複数回の走査それぞれのデータをランダムマスクを用いて生成し、この生成されたデータに基づく記録制御を行なう。以下では、ランダムマスクおよびそれによって生成されたデータに基づいて記録制御について説明する。また、このマルチパス記録は、記録モードについて後述されるように、シアン、マゼンタ、イエローインク以外に、第1ブラックインクである顔料ブラックインクまたは第2ブラックインクである染料ブラックインクを用いる場合のモードである。
(ランダムマスクの作成)
図7は同一記録領域を4回の走査で画像を完成させるためのマスク構成を模式的に示す図である。
マスクはマスクA、マスクB、マスクC、およびマスクDの4つの領域で構成される。マスクA、マスクB、マスクC、およびマスクDはそれぞれ16キロバイト(1キロバイトは16000ビット)で構成する。詳細には、同図に示されるように、各マスクは縦16ビットで横16000ビットの構成である。この縦と横のビットの関係は、量子化された画像データを構成する画素の縦と横の関係と一致する。また、マスクにおける画素の位置は同図の矢印で示されるように、縦方向をV、横方向をHとして管理する。ここで、マスクA、マスクB、マスクC、およびマスクDは記憶素子上で一続きに展開することにより、横方向のHにより各マスクを管理することができる。この管理の仕方によれば、マスクAの先頭は(H、V)=(0、0)となり、マスクBの先頭は(H、V)=(16000、0)となり、マスクCの先頭は(H、V)=(16000×2、0)となり、マスクDの先頭は(H、V)=(16000×3、0)となる。
図8は、本実施形態のランダムマスクの生成手順を示すフローチャートである。
S1000でランダムマスクの作成を開始する。次に、S1001でマスクの設定を開始する位置をマスクの先頭に設定する。すなわち、マスクAは(H、V)=(0、0)になり、マスクBは(H、V)=(16000、0)になり、マスクCは(H、V)=(16000×2、0)になり、マスクDは(H、V)=(16000×3、0)になる。次に、S1002では、0、1、2、3で構成される乱数を発生させる。次に、S1003、S1004およびS1005により、乱数の値に応じて記録または非記録を設定するマスクを決定する。
乱数が0の場合は、S1003での決定により、S1006、S1007、S1008、S1009の処理を実行する。すなわち、S1006においてマスクAに1を設定して記録ビットとする。ここで、この記録ビットとは、マスクの画素に対応する画像データの画素のデータを有効とするものであり、その画素の例えば2値データが1の場合はその画素にドットが形成されることを意味する。逆に、非記録ビットとは対応する画素のデータを無効にすることを意味する。次に、S1007、S1008、およびS1009においてそれぞれマスクB、マスクC、およびマスクDに0を設定して非記録ビットとする。乱数が1の場合は、同様にして、マスクBを記録ビット、その他を非記録ビットとし、乱数が2の場合は、マスクCを記録ビット、その他を非記録ビットとし、乱数が3の場合は、マスクDを記録ビット、その他を非記録ビットとする。これら1画素ごとのマスク設定の処理後、S1022ではマスクの全領域を設定し終えたかどうかを判断する。すなわちこの判断はマスクAの現在の設定位置が(H、V)=(16000、16)であるかの判断になる。S1022においてマスクの全領域を設定し終えていないと判断した場合、S1023に進む。S1023では次に設定を行うマスク上の位置を指定する。ここで、現在のV座標を1つ足すことになる。但し、現在のV座標が16の場合はVを1に設定してマスクA、マスクB、マスクC、マスクD、それぞれのH座標を1つ足すことになる。S1023の処理の後、S1002に進み上記の処理を繰り返す。S1022においてマスクの全領域を設定し終えている場合、S1024に進みランダムマスクの生成処理を終了する。
(記録制御)
上記のランダムマスクは記録媒体上の記録可能領域に対して、設定可能な構成をとる。記録媒体上の記録可能領域の座標を、主走査方向をHpとし、副走査方向をVpとする。本実施形態では、同一記録領域を4回の走査で画像を完成させるマルチパス記録を行なう。
本プリンタは、I/F611(図5)を介してホスト装置610から転送された記録データのコマンドを解析し、記録を行う画像データとしてRAMに展開する。この画像データの展開領域(展開バッファ)としては、横を記録可能領域分のVp画素とし、縦を記録ヘッドの走査で記録される縦方向の幅である、64nの4分の1である16n画素分としてRAM上に確保する。また、走査において記録ヘッドが参照するRAM上の記憶領域(プリントバッファ)としては、横を記録可能領域分のVp画素とし、縦を記録ヘッドの走査で記録される縦方向の幅である64n画素としてRAM上に確保する。
また、本プリンタのASICの機能として、プリントバッファの縦方向の16画素単位でプリントバッファの横方向に対するランダムマスクの開始位置であるH座標として指定できる構成をとる。さらに、ASICの機能として記録領域の横方向に対してランダムマスクの終端になった場合は、ランダムマスクの先頭にもどる機能を有する。すなわち記録領域の横方向に対してランダムマスクの横方向のH=0から16000を繰り返し対応させることになる。
上記の構成に基づき、ASICは記録ヘッドの走査の際にプリントバッファの画像データとランダムマスクのデータを対応させながら記憶領域に直接参照しながら双方のデータの論理積(AND)を行なって記録ヘッドに駆動データを転送する。
また、本実施形態では4回の走査で画像を完成させるため、1回の記録ヘッドの走査で記録ヘッドの縦の幅の4分の1の画像が完成される。従って、1回の記録ヘッドの走査でプリントバッファに展開された画像データの記録媒体搬送方向の下流側4分の1のデータが不必要になる。そこで、不必要になったプリントバッファの領域を画像データの展開用の展開バッファとして使用し、展開バッファとして使用していた記憶領域をプリントバッファの4分の1として使用する。すなわち記憶領域は、記録ヘッドの走査で記録される幅の4分の1単位の領域で管理する。そして、この管理する5つの領域を展開バッファとプリントバッファをローテーションしながら使用する。
図9は、本実施形態における記録動作およびその各走査で用いるマスクを説明する図である。
図において、破線は記録媒体の1回の副走査による搬送量を示すものである。本実施形態における1回の副走査による搬送量は、上述したように、1回の記録ヘッドの走査で記録する縦の幅の4分の1にあたる16n画素である。また、図において紙面の左右が記録ヘッドの走査方向となり、紙面の上方向が記録媒体の搬送方向の下流側となる。
図9において、A1、B1、C1、D1等の参照符号は、その記録領域に対するランダムマスクA、B、C、Dそれぞれの開始点の管理番号であり、このようにマスクの開始点が異なることによって記録領域および走査ごとに異なるマスクとし、また、同一の記録領域に対して4つのマスクが相互に補完関係となっている。ここで、数字が同一の場合はランダムマスクの開始位置が横方向に16000画素分オフセットしていることを示している。
ブラックインクの重なり方
本発明の一実施形態では、図2に示した記録ヘッドにおける第2のブラックインクの吐出口列配置により、双方記録時の各方向での重なり方による発色の違いを小さくするものである。
図10および図11は、図2に示した吐出口列配置による本実施形態のブラックインクの重なり方を示す模式図であり、図12および図13は、図16に示した従来例にかかる吐出口列配置によるブラックインクの重なり方を示す模式図である。
図10、図11、図12および図13は、記録ヘッドの走査方向ごとに各画素について2つのドットを形成する場合に、シアン、マゼンタ、イエローのインクとブラックインクの付与順序を示した図であり、付与順序が後になるインク程そのドットが上に重なるように示している。また、図3の場合と同様重なりの順序がわかるよう各インクのドットをずらして示している。
図12は、従来例である図16に示した記録ヘッドを第1溝9001側の方向(以下、この方向を往方向)に走査したときの各インクドットの付与順序を示したものである。このとき、各インクが全て重なると、k1、c1、m1、y1の順に重なるドットとk2、y2、m2、c2の順に重なるドットを形成することができる。一方、図13は、同様に図16に示した記録ヘッドを図12の走査の方向と逆の方向、すなわち復方向に走査したときの各インクドットの付与順序を示したものである。このとき、各インク種が全て重なると、y1、m1、c1、k1の順に重なるドットとc2、m2、y2、k2の順に重なるドットを形成することができる。
本発明の一実施形態では、以上のように、各色インクの吐出口列配置を、図16に示した従来例のブラックインクの吐出口列の配置のようにその吐出口列を端に配置するのではなく、図2に示したように、ブラックインク以外のカラーインクの吐出口列の間にこのブラックインクの吐出口列を配置する。これによって、往復走査でそれぞれ図10、図11に示すドットの重なり方を得るものである。これにより、図10と図11に示す、往復走査それぞれで形成されるドットの発色の違いを少なくすることができる。
具体的には、図2に示す吐出口列配置は、シアン、マゼンタ、イエローの吐出口列とブラックインクの吐出口列との位置関係を種々異ならせ、それぞれの場合の往復走査での色差を目視評価し、色差が最も少ないものとして求めたものである。すなわち、前述したように、本願発明者らは、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクまたはその一部のインクと、ブラックインクとを重ねて形成されるドットは、その重なり方、すなわち、ブラックインクが他のインクとの関係で何番目、もしくはどの色のインクに隣接して、重なるかによってそのドットの発色が異なることに着目し、この観点から上記のように色差の最も少ない吐出口列配置を定めたものである。
なお、本実施形態では、図10、図11に示したように、1つの画素に重なり方が異なる2種類のドットを配置するものとしたが、重なり方が1種類のドット、つまり1つのドットを形成する場合も、上述した観点および以下に説明するモデル化による推定と同様の推定が当てはまることはもちろんである。
以下では、双方向記録に起因した重なり順の違いによる発色の違い、もしくは上記のとおりブラックインクが他のインクとの関係で何番目重なるかによってそのドットの発色が異なる点を、モデル化によって考察する。
各色インクのドットの発色を、シアン、マゼンタ、イエローの光学反射濃度による色空間で考える。この場合、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクおよびブラックインクのそれぞれのドットの光学反射濃度(以下、単に濃度ともいう)を上記色空間で表現すると、
Vc=(vc、0、0)
Vm=(0、vm、0)
Vy=(0、0、vc)
Vk=(A×vc、B×vm、C×vc)
となる。ここで、ブラックインクはシアンインク、マゼンタインク、イエローインクよりも、これらの色の各成分において濃度を上げるために用いられるので次の式が成り立つ。
A≧1、B≧1、C≧1 (1)
なお、上記シアン、マゼンタ、イエローの光学反射濃度の各成分表示では、他の成分は比較的小さな値であることから、説明の簡略化のためそれらの値をゼロとして表している。
次に、インクの付与順序による発色(濃度)への寄与効率を数値で表わし、これらを付与順序が先の方からf1、f2、f3、f4とする。ここで、前述した様に一般的な記録媒体の場合はインクの付与順序が先である程発色に対しての寄与率は高いので、
f1>f2>f3>f4>0 (2)
の関係となる。
以上のモデル化の下で、まず、従来例にかかる図16に示した吐出口列配置による図12、図13に示すドットの発色を求める。
最初に、図12に示すk1、c1、m1、y1を重ねたドットの発色E1は、
E1=f1×Vk+f2×Vc+f3×Vm+f4×Vy (3)
となる。また、k2、y2、m2、c2を重ねたドットの発色E2は、
E2=f1×Vk+f4×Vc+f3×Vm+f2×Vy (4)
となる。これにより、図12に示す2つのドットの発色E3は、これらの和として表わされて、
E3=E1+E2=(2×f1)×Vk+(f2+f4)×Vc+(2×f3)×Vm+(f2+f4)×Vy (5)
となる。
これに対し、図13に示すy1、m1、c1、k1を重ねたドットの発色E4は、
E4=f4×Vk+f3×Vc+f2×Vm+f1×Vy (6)
となり、c2、m2、y2、k2を重ねたドットの発色E5は、
E5=f4×Vk+f1×Vc+f2×Vm+f3×Vy (7)
となり、その和である、図13に示す2つのドットの発色E6は
E6=2×f4×Vk+(f1+f3)×Vc+(2×f2)×Vm+(f1+f3)×Vy (8)
となる。
この結果、双方向記録による発色の差ΔEaは、
ΔEa=|E3−E6|
=|2(f1−f4)×Vk+(f2−f1+f4−f3)×Vc+2(f3−f2)×Vm+(f2−f1+f4−f3)×Vy| (9)
となる。ここで、
f1−f2=F1、f2−f3=F2、f3−f4=F3
とおくと、(2)式の関係から、
F1>0、F2>0、F3>0
であるから、ΔEaは、
ΔEa=|2(F1+F2+F3)×Vk−(F1+F3)×Vc−2×F2×Vm−(F1+F3)×Vy| (10)
となる。
図10は、上述したとおり、本発明の一実施形態にかかる、図2に示した吐出口列の配置関係を有した記録ヘッドを第1溝1001側の方向(以下、この方向を往方向とする)に走査した場合の各画素に形成される2つのドットのインク付与順序を示したものである。このとき、各インクが全て重なると、c1、m1、y1、k1の順に重なるドットと、y2、k2、m2、c2の順に重なるドットを形成することができる。図11は、図2に示した記録ヘッドを図10に示す場合の走査の方向と逆方向、すなわち復方向に走査した場合の2つのドットの付与順序を示したものである。このとき、各インクが全て重なると、k1、y1、m1、c1の順に重なるドットとc2、m2、k2、y2の順に重なるドットを形成することができる。
同様にして本実施形態にかかるドットの双方向記録における方向ごとの発色の差を、上記と同じモデル化により考察する。
図10に示すc1、m1、y1、k1を重ねたドットの発色E7は、
E7=f4×Vk+f1×Vc+f2×Vm+f3×Vy (11)
となり、y2、k2、m2、c2を重ねたドットの発色E8は、
E8=f2×Vk+f4×Vc+f3×Vm+f1×Vy (12)
となる。そして、これらの2つのドットの発色の和である発色E9は、
E9=E7+E8=(f2+f4)×Vk+(f1+f4)×Vc+(f2+f3)×Vm+(f1+f3)×Vy (13)
となる。
一方、図11に示すk1、y1、m1、c1を重ねたドットの発色E10は、
E10=f1×Vk+f4×Vc+f3×Vm+f2×Vy (14)
となり、c2、m2、k2、y2を重ねたドットの発色E11は、
E11=f3×Vk+f1×Vc+f2×Vm+f4×Vy (15)
となり、2つのドットの発色を足した発色E12は、
E12=E10+E11=(f1+f3)×Vk+(f1+f4)×Vc+(f2+f3)×Vm+(f2+f4)×Vy (16)
となる。これより、本実施形態にかかる双方記録における各方向の発色の差ΔEbは、
ΔEb=|E9−E12|=|−(f1−f2+f3−f4)×Vk+(f1−f2+f3−f4)×Vy|
または、
ΔEb=(F1+F3)×|Vy−Vk| (17)
となる。
次に、以上求めた従来例による濃度差ΔEaと本実施形態による濃度差Ebとを比較する。ここで、上記ΔEa、ΔEbを、Vc、Vm、Vyそれぞれの成分表記を用いて表わすと、式(10)より、
ΔEa2={(2A−1)×(F1+F3)+2A×F2}2×vc2
+{2B×(F1+F3)+2(B−1)×F2}2×vm2
+{(2C−1)×(F1+F3)+2C×F2}2×vy2
(18)
同様に、式(17)より、
ΔEb2={A×(F1+F3)}2×vc2
+{B×(F1+F3)}2×vm2
+{(C−1)×(F1+F3)}2×vy2
(19)
となる。これより、ΔEa2とΔEb2との差は、
ΔEa2−ΔEb2={(3A−1)×(F1+F3)+2A×F2}×{(A−1)×(F1+F3)+2A×F2}×vc2
+{3B×(F1+F3)+2(B−1)×F2}×{B×(F1+F3)+2(B−1)×F2}×vm2
+{(3C−2)×(F1+F3)+2C×F2}×{C×(F1+F3)+2C×F2}×vy2
(20)
となる。この式(20)において、式(1)の関係を適用すると、
ΔEa2−ΔEb2>0、 すなわち、ΔEa>ΔEb
が成り立つ。
このようにモデル化による推定によれば、図2に示した本実施形態にかかる吐出口列の配置関係を有した記録ヘッドを用いた場合の方が、図16に示した従来例にかかる吐出口列配置の記録ヘッドを用いるよりも、双方向記録における走査方向間の発色の差が小さいことがわかる。
また、式(17)は、本実施形態の発色の差ΔEbは、ブラックインクによる発色(濃度)とイエローインクによる発色(濃度)の差によって定まることがわかる。すなわち、図2に示す吐出口列の配置から明らかなように、イエローインクの吐出口列にブラックインクの吐出口列を隣接した配置としたとき、詳しくは、イエロー、マゼンタ、シアンインクそれぞれの吐出口列が対称配置をとる場合に最も内側のイエローインクの吐出口列にブラックインクの吐出口列を隣接した配置としたとき、往復走査での色差は式(17)のようにブラックインクによる発色(濃度)とイエローインクによる発色(濃度)の差によって定まるといえる。換言すれば、ブラックインクに対するイエローインクの発色の差が、他のカラーインクと較べて最も小さい場合に、図2に示す吐出口列配置とすることにより、双方向記録による色ずれをもっとも小さくできる。従って、イエローインクよりシアンインクあるいはマゼンタインクの方がブラックインクの発色に近い場合は、図2において、イエローインクの吐出口列の位置にそのインクの吐出口列を配置することが望ましい。
例えば、イエローインク、シアンインク、マゼンタインクのうちでブラックインクの発色に近いものがシアンインクであった場合は、図14に示す吐出口列配置が最も双方方向記録による発色の差が小さくなる。
なお、本実施形態は、以上説明した吐出口配置を有する記録ヘッドを用いるとともに、この記録ヘッドにより双方向のマルチパス記録を行う。これによっても、さらに走査方向ごとの発色の差が画像において生じさせる色むらを低減することができる。
記録モード
本実施形態は、さらに、多種類のインクを用いて双方向記録をする構成において、双方向記録に起因した色むらないし色ずれを低減すべく、用いるインクの種類に応じて異なる記録モードを実行する。
本実施形態では、以下の表1に示すように、記録ヘッドのカラーインク用チップ1100(図2)におけるシアン、マゼンタ、イエローインクの吐出口列のみを用いる場合、およびこれらインクにさらに顔料ブラックインクのブラックインク用チップ1200を用いる場合、2値データに基づいて1パスの双方向記録を行なう。これは、シアン、マゼンタ、イエローインクの場合、前述したように各色インク間の付与順ないし重なり順が異なる2種類のドットを画素ごとおよび画像全体で同じ数とすることができるからであり、また、顔料ブラックインクを用いる本実施形態の記録モードでは、この顔料ブラックインクとシアン等のカラーインクとは重ねられず、付与順序の問題を生じないからである。
一方、シアン等のカラーインクに加えて、カラーインク用チップ1100における染料ブラックインクの吐出口を用いる場合は、3値データに基づいてマルチパス記録を行なう。すなわち、本実施形態では、染料ブラックを、例えばグレイの階調をより良好に表現するべく、階調の比較的高い階調で他のカラーインクと重ねてドットを形成する。この場合、図2に示したように、この染料ブラックインクの吐出口列k1、k2は対称配置でないことから、染料ブラックインクと他のカラーインクとの付与順の違いを画素単位で解消できないため、マルチパス記録を行なうことにより、画像データに依存するものの、ラスターもしくは画像全体で可能な限り付与順の異なるドットが同数存在するようにする。すなわち、前述したように、対称配置となるシアン、マゼンタ、イエローのインクに加えて別の色もしくは種類のインクを用いる場合、双方向記録に対応してこれの吐出口列を全て対称配置をとすると、記録ヘッドのサイズが増すことになるため、このようなインクの吐出口列は、対称配置とせず対称配置の吐出口列の群を構成する2つの列の間、または、図2に示したようにこの群の外に配置する。そして、このような吐出口列を用いた記録モードでは、マルチパスにより双方向記録を行なう。なお、本明細書で吐出口もしくは吐出口列の「対称配置」とは、走査方向に直行する軸に関して必ずしも幾何学的に対称である必要はなく、図2、図10に示したように対称な吐出口列間で各吐出口は相互に上記軸方向にずれ定る場合も含み、また、上述したように、対称配置の吐出口列の群を構成するいずれかの2つの列の間に対称配置でない吐出口もしくは吐出口列が配されるような場合をも含む。
なお、上述したように、付与順を考慮したマルチパス記録を行なうのは、染料ブラックインクを用いる場合としたが、例えば、グレイ階調を顔料ブラックインクと他のインクとを重ねて表現することはもちろん可能であり、そのようなモードでは上記と同様マルチパス記録を行なうようにしてもよい。
以上説明した本実施形態の記録モードの使い分けの具体例を、以下の表1に示す。
表1において、モード1は、染料ブラックは使用しないでシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、および顔料ブラックインクを用いて普通紙に高速で記録する記録モードであり、このため、1パスの双方向記録を行う。
モード2は、モード1と同じインクを用いて普通紙に高品位で記録するモードである。この場合、上述したように色むらを考慮しても1パスによる双方向記録が可能であるが、一般に、マルチパス記録は高画質の記録が可能であることから、本モードでは、マルチパスによる双方向記録を行う。また、顔料ブラックインクと併せて、例えばグレイの階調表現を滑らかにするために染料ブラックを併用してもよく、上述したようにその場合はマルチパス記録が有効となる。なお、染料ブラックが階調表現に適切であるのは、顔料の記録ドットに比較して染料の記録ドットの光学濃度が低いからである。
モード3は,シアンインク、マゼンタインク、およびイエローインクを用いてコート紙に高速で記録するモードであり、このため、1パスによる双方向記録を行う。
モード4は、染料ブラック、シアンインク、マゼンタインク、およびイエローインクを用いてコート紙に高画質で記録するモードであり、このため、マルチパスによる双方向記録を行う。
モード5は、染料ブラック、シアンインク、マゼンタインク、およびイエローインクを用いて光沢紙に高画質で記録するモードであり、マルチパスによる双方向記録を行う。
なお、上記の記録モードの選択は、スイッチ群620またはホスト装置610を介して操作者が選択できるようにしても良いし、例えば、本プリンタまたはホスト装置が記録媒体の種類と記録すべき画像の種類(例えば、文書、グラフ、写真)を判別し、この判別に応じて記録モードを選択しても良い。
(第2実施形態)
上記第1実施形態で説明したように、対称配置の各インク吐出口列の間でそれらの最も内側のインクの吐出口列に対称配置をとらない(ブラック)インクの吐出口列を隣接した配置としたときに、往復記録での発色の差を小さくすることができる。本実施形態ではシアンインク、マゼンタインク、イエローインクにさらに追加する、吐出口列が対称配置をとらないインクを2色とした場合に関するものである。
図15は、本実施形態のカラーインクチップ1100における吐出口列配置を示す図である。本実施形態で追加するインクは低濃度のシアンインク(淡シアンインク;ノズル列c3、c4)と低濃度のマゼンタインク(淡シマゼンタインク;ノズル列m3、m4)である。これにより、低明度部の画像表現に淡シアン、淡マゼンタを使用してその部分の粒状感を低減することができる。
図15に示すように、カラーインクチップ1100には7個の溝が設けられる。すなわち、走査方向において順に第1溝2001、第2溝2002、第3溝2003、第4溝2004、第5溝2005、第6溝2006、第7溝2007が設けられる。本実施形態では、第1溝2001および第7溝2007にシアンインクを供給し、第2溝2002および第6溝2006にマゼンタインクを供給し、第3溝2003に淡シアンインクを供給し、第4溝2004にイエローインクを供給し、第5溝2005に淡マゼンタインクを供給する。そして、第1溝2001には64n(nは1以上の整数;例えばn=4)個の吐出口から成るシアンノズル列c1を構成する。第2溝2002には64n個の吐出口から成るマゼンタノズル列m1を構成する。第3溝2003の第2溝側には64n個の吐出口から成る淡シアンノズル列c3を構成する。第3溝2003の第4溝側には64n個の吐出口から成る淡シアンノズル列c4を構成する。第4溝2004の第3溝側には64n個の吐出口から成るイエローノズル列y1を構成する。第4溝2004の第5溝側には64n個の吐出口から成るイエローノズル列y2を構成する。第5溝2005の第4溝側には64n個の吐出口から成る淡マゼンタノズル列m3を構成する。第5溝2005の第6溝側には64n個の吐出口から成る淡マゼンタノズル列m4を構成する。第6溝2006には64n個の吐出口から成るマゼンタノズル列m2を構成する。第7溝2007には64n個の吐出口から成るシアンノズル列c2を構成する。
本実施形態において、上述の第1実施形態と同様のモデル化による推定によれば、往復走査で付与順序を制御できないノズル列c3、c4、m3、m4、すなわち、対称配置でないノズル列c3、c4、m3、m4を、他の対称配置のノズル列のうち、最も内側の対称配置のノズル列y1、y2に隣接して配置することにより、往復走査での色差を小さくでき、かつ、これらのイエローインクと淡シアンインクまたは淡マゼンタインクとの色差がその往復走査での色差を決定することになる。本実施形態の場合、シアンインクとマゼンタインクに対して、淡シアンインクと淡マゼンタインクの方が明度の点でイエローインクの発色に近いため、図15に示す吐出口列配置をとる。すなわち、本実施形態の構成の方がシアンインク、マゼンタインクのノズル列をノズル列c3、c4、m3、m4の位置に置く構成より有利である。
なお、上記第1の実施形態の場合は走査の方向によってインクの付与順序が変化するノズル列k1、k2が吐出するインク(ブラックインク)が無彩色であったために、付与順序を複数のノズル列で制御するノズル列を高い確率で使用することになり、走査方向による発色の差を軽減している。
ここで、実際の画像記録では画像処理により使用を避けることが可能であるイエローインクとブラックインクだけによる記録を図2に示す吐出口列配置の記録ヘッドで行った場合、走査の方向による発色の差ΔEcを上記実施形態と同様にモデル化により求めると
ΔEc=2×F1×|Vy−Vk|
となる。実際の記録ではF1≫F2、F3となる傾向にある。
そして、イエローインクとブラックインクの場合とプロセスブラックとブラックインクの場合を比較すると、
ΔEc/ΔEb≒2
となり、前者の場合は後者の2倍近い発色の差が走査方向で発生することになる。
本実施形態における色差は、淡シアンインク、淡マゼンタインクおよびイエローインクの間で発生するため、イエローインクとブラックインクの場合よりはその影響は小さい。ただし、本実施形態の場合、上記第1の実施形態のように画像処理で上記のインクの組み合わせを避けることは困難であるから、前述したように複数の記録走査を用いたマルチパス記録の構成を併せて用いることは有効である。
本実施形態も同様にインクの種類の応じた記録モードを用いる。この記録モードの使い分けの具体例を、以下の表2に示す。
モード1は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、顔料ブラックインクを用いて普通紙に高速で記録するモードであり、1パスによる双方向記録を行う。
モード2は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、顔料ブラックインクにさらに淡シアンインク、淡マゼンタインクを用いて普通紙に高品位で記録するモードであり、このため、マルチパスによる双方向記録を行う。
モード3は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを用いてコート紙に高速で記録するモードであり、1パスによる双方向記録を行う。
モード4は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、淡シアンインク、淡マゼンタインクを用いてコート紙に高画質で記録するモードであり、このため、マルチパスによる双方向記録を行う。
モード5は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、淡シアンインク、淡マゼンタインクを用いて光沢紙に高画質で記録するモードであり、このため、マルチパスによる双方向記録を行う。
(その他の実施形態)
上述の第1実施形態ではシアンインク、マゼンタインク、イエローインクにさらに追加するインクが染料ブラックであり、グレーの階調性を良好に表現することができ、また、第2実施形態では、淡シアン、淡マゼンタのインクを用い、低明度部の色再現領域を拡大するものである。しかし、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクに追加するインクはこれらのブラックインクや色材濃度の低いインクに限られないことはもちろんである。
例えばブラックインク等の代わりに、オレンジ、グリーン、ブルーなどのインクを使用してオレンジ、グリーン、ブルーに関する色再現領域を拡大してもよい。また、階調表現を改善する目的でシアンインク、マゼンタインク、イエローインクに対してさらにインクを追加することもできる。例えばイエローの低明度部の表現を改善するのであればブラックインクの代わりに低明度イエローもしくはグレーのインクを使用することができる。
この場合、これらインクの吐出口列は対称配置とせずに、これらの吐出口列の配置を、他の対称配置の吐出口列のうち、最も内側の対称配置の吐出口列に隣接して配置することにより、往復走査での色差を小さくできる。
以上のように、双方向記録をする構成において、色再現領域の拡大や階調表現の改善を行うために特別なインクを用いる場合でも、記録ヘッドのサイズの増大を必要最小限に抑えて、高速記録と特に色むらが低減された高品位の記録を行うことが可能となる。