従来の技術において、第2の電動機は、その出力軸が、プロペラ軸と並行となるように配置されており、歯車機構を介してプロペラ軸に連結されている。従って、第2の電動機の大型化が回避されたところで、車両の駆動機構全体の大型化を回避することが困難である。即ち、従来の技術には、車両に搭載するに際しての搭載性が著しく低いという構造的な問題点がある。本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、車両への搭載性を低下させることなく車両の動力性能及び経済性能を向上させ得る車両の駆動装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の駆動装置は、内燃機関と、第1電動機と、相互に差動回転可能に構成されてなる、前記内燃機関の出力軸に連結された第1回転要素、前記第1電動機の出力軸に連結された第2回転要素及び動力を出力可能な第3回転要素を有する第1差動機構と、前記第3回転要素を介して出力された動力を伝達する中間部材と、第2電動機と、相互に差動回転可能に構成されてなる、前記第2電動機の出力軸に連結された第4回転要素、前記中間部材に連結された第5回転要素及び前記第4及び第5回転要素よりも径方向外側に配置されると共に所定の固定部材に連結される第6回転要素を有する第2差動機構と、駆動輪に対し動力を伝達する出力部材と、前記出力部材に対する前記中間部材を介して伝達される動力の伝達が可能であると共に該動力の伝達に際し前記中間部材及び前記出力部材相互間の変速が可能な変速機とを備え、前記変速機は、受圧部及び該受圧部を介して供給される油圧に応じて係合力が変化する摩擦係合部を備えたブレーキ機構、受圧部及び該受圧部を介して供給される油圧に応じて係合力が変化する摩擦係合部を備えたクラッチ機構並びに相互に差動回転可能な複数の回転要素を有し、前記第2差動機構の、軸方向における動力伝達方向下流側において前記第2差動機構に隣接配置される第3差動機構を有し、前記ブレーキ機構の摩擦係合部は、前記第2差動機構の径方向外側に配置され、前記クラッチ機構の摩擦係合部は、前記第3差動機構の、軸方向における動力伝達方向下流側において前記ブレーキの摩擦係合部と軸方向に重なり合うように配置され、前記ブレーキ機構及び前記クラッチ機構の各々における前記受圧部は、前記第3差動機構の、軸方向における動力伝達方向下流側、且つ前記各々における前記摩擦係合部よりも前記径方向内側において相互に近接して配置されていることを特徴とする。
本発明に係る車両の駆動装置は、車両の動力源として、内燃機関、第1電動機及び第2電動機を少なくとも備えており、所謂ハイブリッド型の駆動装置として構成される。即ち、本発明に係る車両は、ハイブリッド車両である。
第1差動機構は、例えば、好適な一形態として、遊星歯車機構をなしており、内燃機関における、例えばクランクシャフト等の出力軸に対し直接的に又は間接的に連結された、例えばキャリア等の第1回転要素、第1電動機の出力軸に直接的に又は間接的に連結された、例えばサンギア等の第2回転要素、及び第1差動機構の動力(例えば、出力トルク)を後段に出力可能な、出力要素としての例えばリングギア等の第3回転要素を有し、これら各回転要素が相互に差動回転可能に構成されている。
この際、好適な一形態としては、第2回転要素(一義的に第1電動機)が、内燃機関の出力トルクの反力トルクを受け持つ反力要素として機能し、各要素相互間の差動作用により、当該出力トルクが、第3回転要素から動力として、例えば各種回転軸体等の形態を採り得る中間部材に出力される。
このように、第1差動機構は、所謂動力分割機構の少なくとも一部として機能し得ると共に、好適な一形態として、第1電動機の回転速度制御により第2回転要素の回転速度を二値的、段階的又は連続的に変化させることによって、第1回転要素の回転速度を理論的に、実質的に又は物理的、機械的、機構的若しくは電気的な構成上定まり得る制約の範囲内で現実的に、自由に変化させる、所謂電気的CVT(Continuously Variable Transmission)機能を実現することも可能である。
第2差動機構は、例えば、好適な一形態として、遊星歯車機構をなしており、相互に差動回転可能な第4、第5及び第6回転要素を有している。ここで、第2差動機構において、第4及び第5回転要素よりも、径方向(即ち、内燃機関の出力軸又は中間部材等の各種軸体の伸長方向たる軸方向と交わる(好適な一形態としては直交する)方向)外側(即ち、最も外側)に配置された、例えばリングギア等の第6回転要素は、例えば第2差動機構の、第2差動機構を含むより大きいユニットの、或いは第2差動機構とは別のユニット等を収容するための各種筐体又は各種ケース等、各種態様を採り得る概念としての固定部材に対し、例えば物理的に、機械的に、機構的に、電気的に又は磁気的に連結された構成を採る。即ち、第6回転要素は、相互に差動作用をなすべく第4回転要素及び第5回転要素に対し相対回転可能であるにせよ、その絶対的な回転速度は、理想的にはゼロ又はゼロと扱い得る程度に低い値に維持される。
このように第6回転要素が固定されていることに鑑みれば、第2電動機の出力軸が連結される、例えばサンギア又はキャリア等の第4回転要素の回転速度は、上記中間部材に直接的に又は間接的に連結された、例えばキャリア又はサンギア等の第5回転要素の回転速度に対し変化する。例えば、第2差動機構がシングルピニオン型の遊星歯車機構をなし、第2電動機の出力軸がサンギアに入力される構成を採る場合等には、必然的にキャリアである第5回転要素の回転速度は、第4回転要素の回転速度に対し減速される。即ち、少なくともこの場合、第2差動機構は所謂減速機構として機能する。
一方、駆動輪に対し直接的に、又は例えばデファレンシャルギア機構や各種減速機構等を適宜に介して間接的に動力を伝達する、例えば各種回転軸体等の出力部材と上記中間部材との間の動力伝達経路上には、当該出力部材に対し当該中間部材を介して伝達される動力の伝達が可能な変速機が備わる。
この変速機は、例えば湿式多板ブレーキ等、少なくとも受圧部及び摩擦係合部を備えたブレーキ機構、例えば湿式多板クラッチ等、少なくとも受圧部及び摩擦係合部を備えたクラッチ機構、及び相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた第3差動機構を含むと共に、中間部材及び出力部材相互間の変速(即ち、これら相互間の回転速度比の二値的、段階的又は連続的な変更)が可能な、物理的、機械的、機構的、電気的又は磁気的構成を有しており、中間部材の回転速度に対し出力部材の回転速度を相対的に且つ二値的に、段階的に又は連続的に、増加又は減少させることが可能に構成されている。
この種の第1差動機構、第2差動機構及び変速機が備わる本発明に係る車両の駆動装置では、例えば第1差動機構による上述した電気的CVT機能、例えば第2差動機構による減速機能、及び当該変速機能の協調作用等によって、車両の動力性能及び経済性能を相対的に向上(即ち、少なくともこれらの少なくとも一部が備わらない場合と較べて向上)させることが可能となる。
ここで、本発明に係る車両の駆動装置によれば、上述したように、第2差動機構を構成する回転要素のうち径方向において最も外側に位置する第6回転要素が、例えば筐体やケース等の各種固定部材に連結されることにより固定されている。この際、第2差動機構が有する複数の回転要素のいずれか一を固定することによって、第2差動機構に第2電動機の減速機能或いは増速機能を付与することのみを考えた場合、必ずしも第6回転要素が固定される必要はなく、第2電動機が連結される第4回転要素は除くとしても、例えば第5回転要素が固定されてもよいが、第6回転要素よりも径方向内側に位置する第5回転要素を物理的、機械的、機構的、電気的又は磁気的の別によらず固定せしめんとした場合、少なくとも最外郭に位置する第6回転要素を固定する場合と較べて幾らかなりその構成の複雑化が避け難い。即ち、第6回転要素が固定部材に連結されることにより、好適な一形態として、駆動装置全体の軸方向の長さを短縮化すること(軸方向の長さの肥大化又は長大化の防止を含む)が可能となる。
また、本発明に係る車両の駆動装置によれば、第3差動機構が第2差動機構の後方(即ち、軸方向において動力の伝達方向下流側であり、駆動輪に向かう側である)において、第2差動機構に隣接して配置されている。このため、駆動装置が径方向に無用に肥大化することはなく、装置構成をコンパクト化することが可能となる。
このような利点は、例えば上述した従来の技術のように、第2電動機の出力軸が、主たる動力伝達軸と平行に軸方向に伸長した構成の下、これら相互間を減速機構によって連結せしめる構造と較べた場合には顕著である。また、軸方向についてみても、上述したように第6回転要素を固定部材に連結せしめたことにより軸方向に対するコンパクト化も図られており、駆動装置が、少なくとも実践上搭載性の悪化を顕在化させる程度に、軸方向に長く又は大きくなることはない。
尚、「隣接」とは、必ずしも物理的に接触している状態のみを指すものではなく、各々における少なくとも一部同士が、物理的、機械的、機構的、電気的又は磁気的な制約を満たす範囲で可及的に近接して配置された状態を好適に含む概念である。
一方、本発明に係る車両の駆動装置によれば、変速機構の構成要素の一であるブレーキ機構における摩擦係合部が、第2差動機構の径方向外側に配置されている。ここで、「径方向外側に配置」とは、当該摩擦係合部の少なくとも一部が第2差動機構の少なくとも一部に対し径方向に重なり合うように配置されている状態を包括する概念であり、例えば当該摩擦係合部の一部が、第2差動機構の後方に隣接する第3差動機構の径方向外側に到達していてもよい趣旨である。但し、第2差動機構の第4回転要素が、主として第2電動機の出力トルクのみを負担するのに対して、第3差動機構の回転要素が負担する動力は、内燃機関、第1電動機及び第2電動機各々の出力トルクが適宜合算されたものとなり得るため、第3差動機構は、第2差動機構に対し、少なくとも径方向に大きくなり易い。従って、第2差動機構と第3差動機構とが隣接配置された場合には、第2差動機構の径方向外側には、自ずと空間が生じ得る。例えば、この空間に当該摩擦係合部を収容した場合、駆動装置全体を少なくとも径方向にコンパクトに構成することが容易となる。
他方、本発明に係る車両の駆動装置によれば、変速機構の構成要素の一であるクラッチ機構の摩擦係合部が、第3差動機構後方において上述したブレーキ機構の摩擦係合部と軸方向に重なり合うように配置されている。この際、「軸方向に重なり合うように」とは、これらが相互に近接しているか否かとは無関係であってよい。
また、本発明に係る車両の駆動装置によれば、ブレーキ機構及びクラッチ機構各々の受圧部が、第3差動機構後方且つ当該各々の摩擦係合部よりも径方向内側に相互に近接して配置されている。ここで、本発明に係る変速機は、その構成要素としてクラッチ機構を備えており、上述したようにクラッチ機構の摩擦係合部の方が、ブレーキ機構の摩擦係合部よりも後方に位置している。このため、本発明に係る車両の駆動装置では、ブレーキ機構及びクラッチ機構各々の係合力を左右する受圧部を、各々について別個に配置する必要はなく、第3差動機構後方に相互に近接して(一体又は略一体である状態も含む)配置することが可能となる。
例えば、受圧部を各々について別個に搭載する必要がある場合(例えば、クラッチ機構がブレーキ機構にて代替され、変速機の係合要素がいずれもブレーキ機構である場合等)、第2差動機構の径方向外側に摩擦係合部を配したとしても、この摩擦係合部の近傍に受圧部を配置する必要があり、例えば第2電動機のステータ内径部付近に空間が生じていた所で、第2差動機構をオフセットすることが困難であるが、受圧部が第3差動機構後方に集約されて配置されたことにより、当該空間に第2差動機構をオフセットすることが可能となり、軸方向の全長が短縮化される。また、この際、これら受圧部は、各摩擦係合部よりも径方向内側に位置しており、径方向に装置構成が肥大化することもない。
以上説明したように、本発明に係る車両の駆動装置によれば、第2差動機構及び変速機を構成する各要素の選択、当該各要素の配置態様及び設置態様、並びに当該各要素相互間の三次元的な位置関係等が最適化されており、軸方向及び径方向いずれにおいても、その全長の短縮化の促進又は肥大化の防止が図られている。従って、車両に搭載するに際しての搭載性を向上させることが、或いは搭載性の悪化を防止することが可能となっている。即ち、上述した第1差動機構、第2差動機構及び変速機の協調作用による車両の動力性能及び経済性能に係る利益を、車両への搭載性を低下させることなく享受することが可能となるのである。
本発明に係る車両の駆動装置の一の態様では、前記第3差動機構は、前記中間部材に連結されたリングギア、前記出力部材に接続されたキャリア、前記ブレーキ機構又は前記クラッチ機構に対し選択的に接続可能なサンギアを有する遊星歯車機構からなり、前記クラッチ機構は前記出力部材に連結されている。
この態様によれば、第3差動機構は、中間部材に連結されたリングギア、出力部材に連結されたキャリア及びブレーキ機構又はクラッチ機構に選択的に連結可能なサンギアの各回転要素を備えた遊星歯車機構からなり、クラッチ機構が出力部材に連結された構成を採る。
従って、サンギアがクラッチ機構に接続された場合、サンギアとキャリアとは直接的に又は間接的に連結された状態となり、その回転速度が等しくなる。遊星歯車機構の差動作用に鑑みれば、このように二つの回転要素の回転速度が等しければ、残余の一要素、即ちリングギアの回転速度もまたこれらと等しくなり、結局、中間部材の回転速度が出力部材の回転速度と等しくなる。即ち、この場合、所謂直結段(直結モード)と称されるような変速段が実現される。変速機が、このように直結段に相当する変速段を有する場合、上述した第1差動機構によってもたらされる電気的CVT機能により、車両を効率的に走行させることが可能となる。
第3差動機構が遊星歯車機構からなる本発明に係る車両の駆動装置の一の態様では、前記遊星歯車機構は、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、前記変速機は、変速段として、前記中間部材と前記出力部材とが直結された状態に相当する直結段、及び前記出力部材が前記中間部材に対しアンダードライブ状態となるU/D段を備える。
変速機においてクラッチ機構がサンギアに接続された場合に直結段が実現されるのに対し、ブレーキ機構がサンギアに接続された場合、遊星歯車機構がシングルピニオン型の遊星歯車機構であれば、入力要素たるリングギアから伝達される動力は、出力要素たるキャリアに対し、回転速度の減速を伴って伝達される。即ち、出力部材の回転速度は中間部材の回転速度よりも低くなり、所謂アンダードライブ状態が実現される。この態様によれば、直結段と、このアンダードライブ状態に対応するU/D段との2段変速により、車両を効率的に走行させることが可能となる。
第3差動機構が遊星歯車機構からなる本発明に係る車両の駆動装置の他の態様では、前記遊星歯車機構は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であり、前記変速機は、変速段として、前記中間部材と前記出力部材とが直結された状態に相当する直結段、及び前記出力部材が前記中間部材に対しオーバードライブ状態となるO/D段を備える。
変速機においてクラッチ機構がサンギアに接続された場合に直結段が実現されるのに対し、ブレーキ機構がサンギアに接続された場合、遊星歯車機構がダブルピニオン型の遊星歯車機構であれば、入力要素たるリングギアから伝達される動力は、出力要素たるキャリアに対し、回転速度の増速を伴って伝達される。即ち、出力部材の回転速度は中間部材の回転速度よりも高くなり、所謂オーバードライブ状態が実現される。この態様によれば、直結段と、このオーバードライブ状態に対応するO/D段との2段変速により、車両を効率的に走行させることが可能となる。特に、変速機がO/D段を有する場合、例えば車両が高速軽負荷走行中である場合等に生じ得る動力循環を回避することが、或いはその度合いを有意に低減することが可能となるため実践上有益である。
ここで特に、この態様によれば、遊星歯車機構がダブルピニオン型の遊星歯車機構として構成されるため、クラッチ機構によりサンギアとキャリアとを相互に係合させるに際し必要となるトルクが相対的に低減される(即ち、この場合、サンギア及びキャリア相互間の係合分担トルクが最も小さくなる)。従って、摩擦係合部を、例えば上述したように遊星歯車機構としてシングルピニオン型の遊星歯車機構を採る場合と較べてコンパクトに構成することが可能となる。クラッチ機構の摩擦係合部は、第3差動機構後方において、ブレーキ機構の摩擦係合部と軸方向に重なり合うように配置されており、摩擦係合部のコンパクト化(好適な一形態として、クラッチ板の枚数低減)は、即ち、駆動装置の全長の短縮化に繋がる。このため、この態様によれば、駆動装置の搭載性を一層向上させることが可能となる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド駆動装置10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン100、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)を動力源として備え、入力軸200、動力分割機構310、MG2減速機構320、変速機構330、中間軸400及び出力軸500を更に備え、不図示のハイブリッド車両の駆動輪に対し動力を供給することが可能に構成された、本発明に係る「車両の駆動装置」の一例である。
エンジン100は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド駆動装置10の主たる動力源として機能するように構成されている。尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する爆発力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の動力伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。
モータジェネレータMG1は、エンジン100からトルクの供給を受けて回転することにより、不図示のバッテリを充電するための、或いはモータジェネレータMG2に電力を供給するための発電を主として行うことが可能に構成された、本発明に係る「第1電動機」の一例たる電動発電機である。尚、モータジェネレータMG1は、無論電動機として機能することも可能に構成されている。
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2電動機」の一例たる電動発電機であり、エンジン100の動力をアシストする電動機として、或いはバッテリを充電するための発電機として機能するように構成されている。より具体的には、モータジェネレータMG2は、駆動力或いは制動力を補助(アシスト)する装置であり、駆動力をアシストする場合には、モータジェネレータMG1又はバッテリから供給される電力により電動機として機能し、制動力をアシストする場合には、ハイブリッド車両の駆動輪から伝達されるトルクによって回転させられて電力を発生する発電機として機能するように構成されている。
尚、これらモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。但し、他の形式のモータジェネレータであっても構わない。
入力軸200は、エンジン100における不図示のクランクシャフトに、該クランクシャフトの回転に応じて回転することが可能に連結されてなる回転軸体である。
動力分割機構310は、相互に差動回転可能な回転要素としてサンギア311、キャリア312及びリングギア313を備え、且つ軸線方向に自転し且つキャリア312の自転により公転するようにキャリア312に保持された、サンギア311及びリングギア313に噛合するピニオンギア(不図示)を備えてなる、本発明に係る「第1差動機構」の一例たる遊星歯車機構である。サンギア311は、モータジェネレータMG1の出力軸に連結された、本発明に係る「第2回転要素」の一例である。キャリア312は、入力軸200(即ち、一義的にエンジン100)に連結された、本発明に係る「第1回転要素」の一例である。リングギア313は、動力分割機構310の動力を出力するための回転要素であり、本発明に係る「第3回転要素」の一例である。リングギア313は、本発明に係る「中間部材」の一例たる中間軸400に連結されている。
MG2減速機構320は、相互に差動回転可能な回転要素として、サンギア321、キャリア322及びリングギア323を備え、且つ軸線方向に自転し且つキャリア322の自転により公転するようにキャリア322に保持された、サンギア321及びリングギア323に噛合するピニオンギア(不図示)を備えてなる、本発明に係る「第2差動機構」の一例たる遊星歯車機構である。サンギア321は、モータジェネレータMG2の出力軸に連結された、本発明に係る「第4回転要素」の一例である。キャリア322は、中間軸400に連結された、本発明に係る「第5回転要素」の一例である。リングギア323は、後述するケース11に物理的に固定された、本発明に係る「第6回転要素」の一例である。
変速機構330は、本発明に係る「第3差動機構」の一例たる差動機構として、相互に差動回転可能なサンギア331、キャリア332及びリングギア333の各回転要素を備え、且つ軸線方向に自転し且つキャリア332の自転により公転するようにキャリア332に保持された、サンギア331に噛合するインナーピニオンギア334及びリングギア333に噛合するアウターピニオンギア335を備えたダブルピニオン型の遊星歯車機構(符号省略)を備えると共に、係合要素としてクラッチ機構336及びブレーキ機構370を備えてなる、本発明に係る「変速機」の一例である。サンギア331は、クラッチ機構336又はブレーキ機構337に選択的に接続可能に構成された回転要素である。キャリア332は、ハイブリッド車両の駆動輪に対し、デファレンシャルギア等を含む最終減速機構等を適宜介して連結された、本発明に係る「出力部材」の一例たる出力軸500に連結され、出力軸500と一体に回転する回転要素である。リングギア333は、上述した中間軸400に連結されている。
クラッチ機構336は、湿式多板摩擦係合方式のクラッチ機構であり、一方の係合部材が出力軸500に、また他方の係合部材がサンギア331に連結されている。クラッチ機構336は、不図示の油圧駆動装置を備え、例えば、ハイブリッド駆動装置10全体の動作を統括して制御する、或いは当該油圧駆動装置を含む部分的な動作ユニットの動作を制御するECU等の制御系によりその動作が制御される構成となっており、当該油圧駆動装置の作用により係合部材同士の係合状態が可変に制御される構成となっている。尚、クラッチ機構336の詳細な構成については後述する。
ブレーキ機構337は、湿式多板摩擦係合方式のブレーキ機構であり、一方の係合部材が物理的又は機械的に固定され、他方の係合部材がサンギア331に連結されている。クラッチ機構336は、不図示の油圧駆動装置を備えており、例えば、ハイブリッド駆動装置10全体の動作を統括して制御する、或いは当該油圧駆動装置を含む部分的な動作ユニットの動作を制御するECU等の制御系によりその動作が制御される構成となっており、当該油圧駆動装置の作用により係合部材同士の係合状態が可変に制御される構成となっている。尚、ブレーキ機構337の詳細な構成については後述する。尚、クラッチ機構336及びブレーキ機構337は、常にいずれか一方が係合した状態に制御される構成となっている。
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10における、MG2減速機構320及び変速機構330の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置10の軸方向に沿った部分断面図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、左右が夫々前方及び後方に相当しており、上下が径方向(本発明に係る「径方向」の一例である)に相当している。図2において、中間軸400及び出力軸500は、ハイブリッド駆動装置10の図示径方向の略中心部分を貫通する同心の軸体であり(図2では、各軸の下方が省略されている)、左端部分にモータジェネレータMG2が示されている。即ち、図2では、エンジン100、モータジェネレータMG1及び動力分割機構310の図示は割愛されている。
図2において、MG2減速機構320は、モータジェネレータMG2におけるステータの径方向下部に形成された空間A(図示破線枠参照)を利用して図示前方にオフセットされており、一部が当該空間Aに配置された状態となっている。また、MG2減速機構320を構成するサンギア321、キャリア322及びリングギア323のうち、径方向最外郭に位置するリングギア323は、ハイブリッド駆動装置10のケース11に物理的に固定されている。
図2において、変速機構330のうち、本発明に係る「第3の差動機構」の一例をなすサンギア331、キャリア332及びリングギア333からなるダブルピニオン型の遊星歯車機構は、MG2減速機構320の後方(即ち、図中右側)において、MG2減速機構320に隣接して配置されている。
図2において、ブレーキ機構337は、その構成要素として、本発明に係る「摩擦係合部」の一例たるブレーキ板337a、ピストン337b及び本発明に係る「受圧部」の一例たる受圧部337cを備える。ブレーキ板337aは、複数枚のブレーキ板が相互に対向して軸方向に配列した構造を有し、両端部においてブレーキ機構337の各係合部材に連結されている。ブレーキ板337aは、ピストン337bにより軸方向に押圧される構成となっており、その際の押圧の度合いが、受圧部337cに加わる油圧に応じて調整される構成となっている。受圧部337cには、ケース11及び出力軸500に配された油路を介して作動油が供給される構成となっている。また、ブレーキ板337aは、MG2減速機構320の径方向外側(即ち、図中上側)に配置されている。
図2において、クラッチ機構336は、その構成要素として、本発明に係る「摩擦係合部」の他の一例たるクラッチ板336a、ピストン336b及び本発明に係る「受圧部」の他の一例たる受圧部336cを備える。クラッチ板336aは、複数枚のクラッチ板が相互に対向して軸方向に配列した構造を有し、両端部においてクラッチ機構336の各係合部材に連結されている。クラッチ板336aは、ピストン336bにより軸方向に押圧される構成となっており、その際の押圧の度合いが、受圧部336cに加わる油圧に応じて調整される構成となっている。受圧部336cには、ケース11及び出力軸500に配された油路を介して作動油が供給される構成となっている。また、クラッチ板336aは、変速機構330の遊星歯車機構の後方において、ブレーキ機構337のブレーキ板337aと軸方向に重なり合うように配置されている。
<実施形態の動作>
ハイブリッド駆動装置10では、変速機330の作用により、二段の変速段が実現される。この際、変速段の切り替えは、クラッチ機構336及びブレーキ機構337のいずれか一方が選択的に係合せしめられることにより適宜に実行される。ここで、図3を参照し、これら係合要素の係合状態と実現される変速段との関係について説明する。ここに、図3は、クラッチ機構336及びブレーキ機構337の係合表である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図3から明らかなように、変速機330では、クラッチ機構336が係合し、且つブレーキ機構337が解放された状態において、変速比(ここでは、エンジン100の一回転(即ち、一義的に中間軸400の一回転)に対する出力軸500の回転数とする)が相対的に低いLo側の変速段が実現され、クラッチ機構336が解放され、且つブレーキ機構337が係合した状態において、当該変速比が相対的に高いHi側の変速段が実現される。
次に、図4を参照し、変速機330の作用について説明する。ここに、図4は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を表す共線図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図4において、上下方向は回転速度に対応しており、図示する通り上方向が正回転に対応する。ハイブリッド駆動装置10における各差動機構(動力分割機構310、MG2減速機構320及び変速機構330)の物理的な構成によれば、各差動機構における各回転要素の共線図上の配置は、総体的に見て図示の通り左から順に、動力分割機構310、変速機構330及びMG2減速機構320と表すことができ、より詳細にみれば左から順にサンギア311(一義的にモータジェネレータMG1)、キャリア312(一義的にエンジン100)、リングギア313(一義的に中間軸400)、キャリア332(一義的に出力軸500)、リングギア333(一義的に中間軸400)、サンギア331(一義的にクラッチ機構336又はクラッチ機構337)、リングギア323、キャリア322(一義的に、中間軸400)及びサンギア321(一義的にモータジェネレータMG2)である。
動力分割機構310においてモータジェネレータMG1の回転速度制御により、サンギア311が図示白丸m1に相当する回転速度で回転する場合、動力分割機構310における各回転要素の差動作用により、各回転要素相互間のギア比に応じて、キャリア312の回転速度は図示白丸m2に相当する値となり、動力分割機構310の出力要素であるリングギア332の回転速度は図示黒丸m3に相当する値となる。
ここで、MG2減速機構320を見ると、キャリア322の回転速度(図示黒丸m5参照)は、中間軸400の回転速度と等価であり、即ち、上述したリングギア313の回転速度(図示黒丸m3参照)と等価である。また、リングギア323は、先に述べたようにケース11に固定されており回転速度はゼロである(図示白丸m4参照)。このため、残余の一回転要素たるサンギア321の回転速度は自ずと定まり、図示白丸m6に相当する値となる。即ち、MG2減速機構320によれば、モータジェネレータMG2から出力される動力は、その回転速度の減速を伴って出力要素たるキャリア322に出力されることとなる。尚、上記説明では、サンギア321が残余の一回転要素とされたが、モータジェネレータMG2が所望の回転速度に制御された場合には必然的にキャリア322が残余の一回転要素となり、図示破線で例示する中間軸400の回転速度は、図中上下方向に平行移動し得る。
一方、変速機構330を見ると、入力要素となるリングギア333の回転速度(図示黒丸m7参照)は、中間軸400の回転速度と等価であり、即ち、上述したリングギア313の回転速度(図示黒丸m3参照)及びキャリア322の回転速度(図示黒丸m5参照)と等価である。ここで、クラッチ機構336が係合した場合、サンギア331と出力要素たるキャリア332とが物理的に固定されるため、両者の回転速度は相互に等しくなり、夫々図示白三角m9及び白三角m8に相当する値となる。ここで、サンギア331及びキャリア332の回転速度が一致するということは、必然的に入力要素たるリングギア333の回転速度もこれらと等しくなることを意味し、結局、クラッチ機構336が係合するLo側の変速段では、中間軸400と出力軸500とが直結された状態となる。尚、これ以降、このLo側の変速段を適宜「直結段」と称することとする。
他方、変速機構330においてブレーキ機構337が係合すると、サンギア331の回転速度がゼロとなる(図示白四角m11参照)。従って、出力要素となるキャリア332の回転速度は、入力要素となるリングギア333の回転速度と、このサンギア331の回転速度とにより一義的に定まり、図示白四角m10に相当する値となる。このように、ブレーキ337が係合したHi側の変速段では、入力要素たるリングギア333に伝達される動力が、その回転速度の増速を伴って出力要素たるキャリア332に伝達される。即ち、所謂オーバードライブ状態が実現される。尚、これ以降、このHi側の変速段を適宜「O/D段」と称することとする。
次に、図5を参照し、変速機330の効果について説明する。ここに、図5は、ハイブリッド駆動装置10の効率を表す特性図である。
図5に示す特性は、ハイブリッド駆動装置10の電気効率(即ち、モータジェネレータによる発電効率と放電効率との積である)を一定とした場合の、機械的な効率の特性図である。即ち、ハイブリッド駆動装置10から出力される動力に電気的要素が影響していない場合(即ち、モータジェネレータの充放電が動力の出力に寄与していない場合)の効率が1である。また、横軸は出力軸500の回転速度に対するエンジン100の機関回転速度の値を表す指標値iである。即ち、指標値iが1未満となる領域(即ち、図示左端領域)は、ハイブリッド駆動装置10がオーバードライブ状態となる領域に相当する。
ここで、直結段に相当する特性が図示鎖線により表される。変速機構330の変速段として直結段が選択されている場合、当該オーバードライブ状態は、動力分割機構310による電気的CVT機能により実現される。この際、モータジェネレータMG1が負回転領域でエンジントルクの反力トルクを負担することにより力行状態となり、中間軸400にモータジェネレータMG1からの動力供給がなされ、このモータジェネレータMG1に対する電力供給のため、モータジェネレータMG2で発電が行われる。従って、直結段が選択されている場合、所謂動力循環により、オーバードライブ状態に対応する領域においてハイブリッド駆動装置10の効率は低下する。
一方、O/D段が選択されている場合、中間軸400の回転速度に対し出力軸500の回転速度が増速され、モータジェネレータMG1が力行状態に陥ることが抑制されるため、図示鎖線で示す特性が、左側にシフトする(図示実線参照)。このため、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置10によれば、直結段では効率が著しく低下する領域において効率の低下を抑制することが可能となり、ハイブリッド車両の経済性能が向上する。
また、上述したように、ハイブリッド駆動装置10では、MG2減速機構320により、モータジェネレータMG2の出力動力が回転速度の減速を伴って中間軸400に伝達され、この際の減速比をエンジン100の減速比よりも高く(即ち、ローギア側で)設定することができるため、このような減速機構が備わらない場合と較べて、ハイブリッド駆動装置の動力性能を向上させることができる。また、モータジェネレータMG2の回転速度が減速されることに鑑みれば、モータジェネレータMG2を、より高回転側の仕様とすることが可能となる。モータジェネレータMG2が高回転化されることによって、モータジェネレータMG2の体格は相対的に小さくなり得、ハイブリッド駆動装置10全体の体格を縮小することが可能となる。即ち、減速機構320が備わることにより、ハイブリッド駆動装置10の車両への搭載性が向上する。
更には、この動力性能の向上効果と、上述した経済性能の向上効果とを両立するための変速機構330のギア比のステップ量は、MG2減速機構320が備わることにより、この種の減速機構が備わらない場合と較べて減少する。従って、変速機構330が有する変速段は、直結段とO/D段の2段で実践上十分であり、変速機構が大型化することによる、ハイブリッド駆動装置の搭載性の低下が抑制される。
ここで特に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置10は、図2に例示した構成上の特徴によって、ハイブリッド車両に対する良好な搭載性が担保されている。ここで、再び図2を参照し、本実施形態の効果について更に説明することとする。
図2において、リングギア323がケース11に固定されている。ここで、MG2減速機構320に上述した減速機能を付与することのみを考えた場合、モータジェネレータMG2に連結されたサンギア321は別として、キャリア322を固定しても所望の減速比を得ることは可能である。ところが、図2において視覚的にも明らかな通り、キャリア322は、径方向においてリングギア323及びサンギア321に挟まれており、他の回転要素の回転を阻害することのないようにケース11(或いはケース11と概ね同等にこれらを固定し得る他の部材)に固定するためには、図示する構成と較べて幾らかなり軸方向(前後方向)への固定要素(例えば、固定用のマウント、固定用のアーム、或いは固定用のボルト又はナット等)の張り出し等が避け難い。また、このように固定形態が複雑化することに鑑みれば、径方向に対しても構成が肥大化する可能性が高くなる。その点、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置10では、最外郭に位置するリングギア323がケース11に固定されるため、MG2減速機構320が良好な設置性を有している。
また、このようにリングギア323が固定された場合、キャリア322の回転は阻害されないから、MG2減速機構320に対し潤滑油を供給するに際し、キャリア322に作用する遠心力を利用することができる。即ち、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置10の構成によれば、ケース11を含むハイブリッド駆動装置10のケース部分と、出力軸500或いは中間軸400の軸心部分に潤滑油(変速機構330を作動させる作動油と共用されてよい)の油路を構築し、キャリア322に給油された潤滑油をキャリア322の回転に際し生じる遠心力により、例えば最も潤滑油の供給が困難な部類に属するピニオンギアに対しても遅滞無く且つ不足無く供給することが可能となる。このように、リングギア323を固定した場合には、潤滑油の供給を遅滞無く且つ不足無く実行するための油路構成を簡素化することができる点においても、キャリア322を固定するに比して明らかに有利である。
一方、変速機構330を構成する遊星歯車機構は、MG2減速機構320と軸方向に隣接配置されており、例えば、モータジェネレータMG2の出力を、例えば中間軸400及び出力軸500に対し平行に配置された副軸等を介して動力を取り出すと共に、当該副軸と出力軸との間に然るべき減速機構を配する場合と較べて、径方向に明らかに省スペース化されている。
ここで、上述したようにMG2減速機構320の軸方向への肥大化が回避されることにより、変速機構330の遊星歯車機構後方空間には、相対的に大きな余裕が生じる。このため、ハイブリッド駆動装置10では、クラッチ機構336の受圧部336c及びブレーキ機構337の受圧部337cを、夫々当該遊星歯車機構後方に集約して配置することが可能となっている。ここで特に、このような、受圧部336c及び337cの集約配置は、変速機構330が有する二個の係合要素のうち一方をクラッチ機構(即ち、クラッチ機構336)とすることによってその実現が可能となっている。
即ち、係合要素として二個のブレーキ機構を備えて変速機構が形成された場合、各ブレーキ機構に対応する受圧部は、各ブレーキ機構各々に対応するブレーキ板近傍に配する必要が生じる。このため、例えば図2で言えば、上述した空間A(破線枠参照)近傍にブレーキ板337aを駆動するための受圧部を配さなければならず、先に述べたようにMG2減速機構320の一部を当該空間Aにオフセット配置することが困難となる。そのため、ハイブリッド駆動装置の構成は、必然的に軸方向に肥大化する。即ち、ハイブリッド駆動装置10では、変速機構330の係合要素の一方がクラッチ機構336であることによって、変速機構330の遊星歯車機構後方に各係合要素に対応する受圧部を集約して配置することが可能となり、MG2減速機構320を空間Aにオフセット配置することが可能となって、軸方向への装置構成の肥大化が抑制されているのである。また、この際、クラッチ機構336及びブレーキ機構337各々に対応する受圧部336c及び受圧部337cは、当該各々に対応する各摩擦係合部(即ち、ブレーキ板337a及びクラッチ板336a)よりも径方向内側に配置されており、上述したように集約配置されることにより径方向に装置構成が肥大化することも同時に防止されている。
一方、ブレーキ板337cは、MG2減速機構320の上方に配置されている。ここで、MG2減速機構320を構成する各回転要素のうち最内郭に位置するサンギア321は、その入力動力がモータジェネレータMG2の出力のみであるのに対し、変速機構330の遊星歯車機構を構成する各回転要素のうち最内郭に位置するサンギア331には、エンジン100の出力とモータジェネレータMG2の出力とを合算した比較的大きな動力が入力される。従って、物理的な耐久性を担保する等の目的から、変速機構330の遊星歯車機構は、MG2減速機構320と比較して径方向に大きくならざるを得ず、これらが相互に隣接配置される点に鑑みれば、MG2減速機構320の上方には、必然的にこの構成の差に応じた空間的余裕が生じている。ブレーキ板337cは、この空間的余裕を利用する形で極めて効率的に配置されている。また、クラッチ板336cは、このブレーキ板337cと軸方向に重なり合うように配置されており、この点においても径方向への装置構成の肥大化が防止されている。
また、本実施形態において、変速機構330を構成する遊星歯車機構は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であり、クラッチ機構336により相互に係合される回転要素は、サンギア331とキャリア332である。ここで、図4を見れば明らかなように、ダブルピニオン型の遊星歯車機構では、共線図上でサンギア331とキャリア332の位置関係は最も遠く、これらを相互に係合させるのに要するトルク容量は、比較的に小さくて済むことになる。従って、クラッチ機構336を構成する多板型のクラッチ板336cの枚数を、このように必要なトルク容量が小さくない場合と較べて低減することが可能となる。図2に戻り、クラッチ板336cは、軸方向に対向するように配置されており、その枚数の低減は即ち、クラッチ板336cの軸方向の長さの短縮化に直結する。即ち、本実施形態では、変速機構330の構成によって、ハイブリッド駆動装置10が軸方向に更にコンパクトな構成を有している。
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置10では、MG2減速機構320及び変速機構330を構成する各要素の選択、当該各要素の配置態様及び設置態様、並びに当該各要素相互間の三次元的な位置関係等が、相互に影響し合う複数の観点から最適化且つ高効率化されており、これら複数の観点からなされた最適化且つ高効率化によりもたらされる効果の協調作用によって、ハイブリッド駆動装置10の装置構成が、その軸方向にも径方向にもコンパクト化されている。従って、車両への搭載性を低下させることなく上述した車両の動力性能及び経済性能の向上が実現されるのである。
<第2実施形態>
本発明に係るハイブリッド駆動装置を実現する形態は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10に限定されない。ここで、図6を参照し、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置20について説明する。ここに、図6は、ハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に表しなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図6において、ハイブリッド駆動装置20は、変速機構330の代わりに変速機構600を備える点において、ハイブリッド駆動装置10と相違している。変速機構600は、本発明に係る「第3差動機構」の一例として、シングルピニオン型の遊星歯車機構を備える点において、ハイブリッド駆動装置10の変速機構330と相違している。即ち、ハイブリッド駆動装置20は、サンギア331及びリングギア333と噛合するピニオンギアを有するキャリア601を備えている。
このような構成を有するハイブリッド駆動装置20では、変速機構としての作用が第1実施形態と相違する。ここで、図7を参照し、変速機構600の作用について説明する。ここに、図7は、ハイブリッド駆動装置20の一動作状態を表す共線図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図4において、上下方向は回転速度に対応しており、図示する通り上方向が正回転に対応する。ハイブリッド駆動装置20における各差動機構(動力分割機構310、MG2減速機構320及び変速機構600)の物理的な構成によれば、各差動機構における各回転要素の共線図上の配置は、総体的に見て図示の通り左から順に、動力分割機構310、変速機構600及びMG2減速機構320と表すことができ、より詳細にみれば左から順にサンギア311(一義的にモータジェネレータMG1)、キャリア312(一義的にエンジン100)、リングギア313(一義的に中間軸400)、リングギア333(一義的に中間軸400)、キャリア601(一義的に出力軸500)、サンギア331(一義的にクラッチ機構336又はクラッチ機構337)、リングギア323、キャリア322(一義的に、中間軸400)及びサンギア321(一義的にモータジェネレータMG2)である。
ここで特に、変速機構600を見ると、入力要素となるリングギア333の回転速度(図示黒丸m7参照)は、中間軸400の回転速度と等価であり、即ち、上述したリングギア313の回転速度(図示黒丸m3参照)及びキャリア322の回転速度(図示黒丸m5参照)と等価である。
ここで、クラッチ機構336が係合した場合、サンギア331と出力要素たるキャリア601とが物理的に固定されるため、両者の回転速度は相互に等しくなり、夫々図示白三角m9及び白三角m8に相当する値となる。ここで、サンギア331及びキャリア332の回転速度が一致するということは、必然的に入力要素たるリングギア333の回転速度もこれらと等しくなることを意味し、結局、クラッチ機構336が係合する変速段では、中間軸400と出力軸500とが直結された状態となる。
一方、変速機構600においてブレーキ機構337が係合すると、サンギア331の回転速度がゼロとなる(図示白四角m11参照)。従って、出力要素となるキャリア601の回転速度は、入力要素となるリングギア333の回転速度と、このサンギア331の回転速度とにより一義的に定まり、図示白四角m12に相当する値となる。このように、ブレーキ337が係合した変速段では、入力要素たるリングギア333に伝達される動力が、その回転速度の減速を伴って出力要素たるキャリア332に伝達される。即ち、所謂アンダードライブ状態が実現される。
このように、本実施形態によれば、変速機構600により、第1実施形態と同様の直結段(但し、本実施形態では直結段がHi側の変速段である)と、アンダードライブ状態に相当するU/D段(即ち、Lo側の変速段である)との二段変速が実現される。この場合、クラッチ機構336により係合する回転要素(即ち、サンギア331とキャリア601)は、共線図上で隣接する関係となり、先に述べたクラッチ機構336のトルク容量低減による軸方向のコンパクト化は図り難いものの、その他構成上の特徴は、図2に示すものと同等であり、ハイブリッド駆動装置20の装置構成が、その軸方向にも径方向にもコンパクト化される旨の利益は何ら変ることなく享受される。
即ち、ハイブリッド駆動装置20においても、車両への搭載性を低下させることなく上述した車両の動力性能及び経済性能の向上が実現されるのである。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の駆動装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…ハイブリッド駆動装置、100…エンジン、200…入力軸、310…動力分割機構、311…サンギア、312…キャリア、313…リングギア、320…MG2減速機構、321…サンギア、322…キャリア、323…リングギア、330…変速機構、331…サンギア、332…キャリア、333…リングギア、334…インナーピニオンギア、335…アウターピニオンギア、400…中間軸、500…出力軸、600…変速機構、601…キャリア、モータジェネレータMG1…モータジェネレータMG2…モータジェネレータ。