以下、本発明の実施の形態について、図1から図8を用いて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る無線通信システムの概略を示す図である。以下、基地局から移動局に向けての送信(以下、「ダウンリンク」という。)における空間多重を用いた通信方法について説明を行う。
図1において、基地局1は複数のアンテナ素子を備え適応的にアンテナ指向性を可変できるものであり、SDM対応移動局2―1〜2は空間多重に対応した複数の移動局であり、SDM未対応移動局3―1〜3はSDM伝送に未対応である複数の移動局であり、送信ビーム4―1〜4は基地局1からの通信を行う移動局に対する複数のビームであり、通信エリア5は基地局1がSDM対応移動局2やSDM未対応移動局3と通信可能なエリアである。なお、SDM対応移動局2の数及びSDM未対応移動局3の数はこれに限定されるものではない。
本発明の無線通信システムは、通信エリア5内に、通信可能な複数のSDM対応移動局2及びSDM未対応移動局3が混在しているときに、異なる移動局間に対して空間多元接続と、同一の移動局に対する空間多重とのどちらか一方、あるいは同時に行うことが可能である。そして、空間多重度の効率的利用を可能とする。なお、以下ではSDM対応移動局2またはSDM未対応移動局3を含めてナンバリングしたものを移動局MSmと表現する。なお、mは通信エリア5内における移動局数Nms以下の自然数をとる。基地局1は、多数のSDM対応移動局2及びSDM未対応移動局3から、SDM、SDMAの同時またはどちらか一方が可能かを判定し、基地局アンテナから複数の送信ビーム4を形成する。これにより、基地局1は、可能と判定された空間多重化、空間多元接続を実現する。
図2は本実施の形態における無線通信システムの基地局BS及び移動局MSの詳細な構成を示している。なお、図2では、個別ユーザ送信データ系列211が2つの空間多重チャネル(SCH1、SCH2)を用いてSDM対応移動局MS1に伝送し、個別ユーザ送信データ系列212が1つの空間多重チャネル(SCH3)を用いて、SDM未対応移動局MS2に伝送する場合を示しているが、これに限定されることはない。
図2の基地局BSにおいて、空間多重伝送評価基準算出手段201は空間多重伝送に適するかを判定するための評価基準を算出するものであり、空間多元接続評価基準算出手段202は空間多元接続に適するかを判定するための評価基準を算出するものであり、判定手段203はそれらの評価基準値を用いて、SDM、SDMAを行う移動局の割り当てを判定する。また、ウエイト生成手段204は判定手段203の出力に基づき、伝搬路に適した指向性形成のためのウエイトを生成するものであり、多元接続制御手段205は判定手段203の出力に基づき所望の移動局のための送信データ系列の出力制御を行なうものである。ここでは、一例として移動局MS1への送信データ系列211、移動局MS2への送信データ系列212の出力制御が行われる。空間多重伝送制御手段206は判定手段203の出力に基づき、所望の移動局に対する空間多重伝送のための制御を行う。ここでは、一例として、SDM対応移動局MS1への送信データ系列211に対し、空間多重のための制御が行われる。また、空間多重伝送制御手段206は、1つの送信データ系列に対し、空間多重数に応じた複数の送信データ系列を生成させる直並列変換手段209と、直並列変換された送信データ系列(図では2つの空間多重チャネル(SCH1、SCH2)の場合を示す。)を空間的に直交させて送信するための部分空間直交化手段210とからなる。
また、ビーム形成部207は各空間多重チャネルSCH1〜SCH3に対しそれぞれ送信ウエイトW1〜W3を乗算するものであり、基地局アンテナ208は複数Nt個(ただし、Nt>1)のアンテナ素子からなる。なお、送信ウエイトWjはアンテナ素子数Nt個の要素(複素数値)を持つ列ベクトルからなる。
次に、SDM対応移動局MS1の構成について説明する。
アンテナ221は基地局BSから送信された高周波信号を受信する移動局MS1に備えられた複数Ns(1)個のものであり、受信部222は高周波信号をベースバンド信号に変換するものであり、空間多重分離手段223はベースバンド信号から空間多重された信号を分離受信するものであり、データ混合手段224は分離受信された信号を混合し送信された元のデータ系列に復元するものであり、受信データ系列225はデータ混合手段224から出力される。
次に、SDM未対応移動局MS2の構成について説明する。
移動局アンテナ231は基地局BSから送信された高周波信号を受信する移動局MS2に備えられたものであり、受信部232は高周波信号からMS2の受信データ系列233を出力する。
以下、本実施の形態における基地局1と移動局MSmとの通信の動作を説明する。
図3は、基地局1及び移動局MSmの通信割り当てのための処理手順を示すフローチャートである。フレーム同期及びシンボル同期確立後に、Nt個のアンテナ素子及び送信系を備える基地局1は、まず、それぞれの送信系から所定シンボル数Npからなる既知信号系列(以下、「アンテナ個別パイロット信号APk(t)」という。)を送信する(ステップS301)。ただし、kは基地局1における送信系の番号であり、k=1、2、...、Nt。また、t=1、...、Np。なお、基地局1のアンテナ素子数Ntが十分多い場合、あるいはSDMにおける空間多重数が基地局1のアンテナ素子数Ntよりも小さく制限されている場合、Nt個のすべての送信系を用いる必要はなく、一部のみを用いて、アンテナ個別パイロット信号を送信しても良い。
ここで、図4(a)〜(c)は、アンテナ個別パイロット信号の送信タイミング(フレーム構成)を示す図である。図4(a)は、アンテナ毎にアンテナ個別パイロット信号である既知信号系列A(401)の送信タイミングをずらし、時分割で送信することを示している。なお、アンテナ個別パイロット信号は同一のパターン、またはPN信号等による互いに直交する符号系列を用いることを示している。図4(b)は、異なるアンテナから互いに直交する既知符号系列Bk(402)を用いて、符号分割多重で送信することを示している。図4(c)は時分割送信と符号分割送信を組み合わせた方式を示す。すなわち、あるアンテナの組み合わせでは、同一時刻の時分割スロットを共有し、それぞれのアンテナ個別パイロット信号A1(403)、A2(404)は互いに直交する符号系列を用いて、符号分割多重で送信する。これにより基地局1におけるアンテナ数が多い場合の時分割送信のオーバヘッドを低減でき、また符合分割多重時の伝搬路における直交性の低減を緩和することができる。
一方、通信エリア5内に存在する移動局MSmは、基地局アンテナ毎に伝送されるアンテナ個別パイロット信号APk(t)を分離受信し、チャネル推定値を算出する(ステップS321)。さらには受信品質を測定する(ステップS322)。
以下、これらステップS321とステップS322の動作を説明する。通信エリア5内に存在する第m番目の移動局MSmは、Ns(m)個のアンテナと、Ns(m)個の受信系を備えており、最大Ns(m)個の空間多重チャネルをSDM受信可能とする。なお、mは通信エリア5内における移動局数Nms以下の自然数である。ここで、SDM未対応移動局3は、Ns(m)=1となり、SDM対応移動局2はNs(m)>1となる。移動局MSmは、第k番目のアンテナ個別パイロット信号APk(t)を、第j番目のアンテナ及び受信系で受信した結果であるrj、k (m)(t)(ただし、j=1、...、Ns(m))に対し、移動局MSmの内部で生成したAPk(t)との相関演算を行い、(式1)に示すような伝搬路のチャネル推定値hm(j、k)を算出する。なお、*は複素共役を行う演算子である。なお、この相関演算は複数回にわたるアンテナ個別パイロット信号APk(t)の受信結果を保存し、平均化処理を行ってもよい。その場合は、移動局の移動速度が十分小さければ、雑音の影響を低減でき、チャネル推定品質を高めることが可能となる。最終的に、第m番目の移動局MSmによるチャネル推定値は合計(アンテナ個別パイロット信号数Nt)×(移動局のアンテナ数Ns(m))個算出される。
続いて、アンテナ個別パイロット信号毎、移動局のアンテナ毎の受信品質Pm(j、k)を算出する。受信品質は受信信号電力、SIR(信号電力対干渉電力比)、SNR(信号電力対雑音電力比)等の適用が可能であり、以下ではSNRを用いた場合の例を示す。アンテナ個別パイロット信号APk(t)を用いてSNRを評価する場合、信号電力をSm(j、k)=|hm(j、k)|2/Npとし、(式2)で示す雑音電力Nm(j、k)を用いて受信品質Pm(j、k)、すなわちSNR評価(=Sm(j、k)/Nm(j、k))が可能である。
以上がステップS321とステップS322の動作である。
次に、移動局MSmは算出されたチャネル推定値hm(j、k)及び受信品質Pm(j、k)を、通信チャネルを介し基地局1へフィードバックする(ステップS323)。なお、受信品質に関しては、(アンテナ個別パイロット信号数Nt)×(移動局のアンテナ数Ns(m))個の全てをフィードバックする代わりに、フィードバック情報の削減のため、(式3)で示されるPs(m)を基地局アンテナ数Nt、及び移動局アンテナ数Ns(m)にわたり平均化したものを、通信チャネルを介し基地局1へフィードバックすることも可能である。
以下では受信品質としてPs(m)を伝送する方式について説明する。なお、ここでは、(式3)に示すように受信品質Pm(j、k)の平均値を算出しているが、中央値あるいは最大値等を用いてもよい。また、さらなるフィードバック情報量の削減のため、チャネル推定値hm(j、k)及び受信品質Pm(j、k)を所定間隔で量子化したテーブルを基地局、移動局側で共有し、そのテーブル番号を受け渡すようにしてもよい。
一方、基地局1において、空間多重伝送評価基準算出手段201及び空間多元接続評価基準算出手段202が、チャネル推定値hm(j、k)及び受信品質情報Ps(m)213に関するフィードバック情報を受信したか否かをチェックし(ステップS302)、受信している場合、判定手段203がそれらから算出した出力結果を基に優先割当移動局を決定する(ステップS303)。この移動局を優先的に割当てるスケジューリング方法としては、SIRに基づくパケットスケジューリングである、Maximum CIR法やProportional Fairness法等があり、文献A.Jalali et al, "Data Throughput of CDMA-HDR a High Efficeincy-High Data Rate Personal Communication Wireless System," IEEE VTC2000-Spring, pp.1854-1858において情報開示されている。ここでは、第A番目の移動局MSAが優先割り当てされ、移動局個別(ユーザ個別)の通信を開始するものとする。
次に、基地局1の判定手段203は、優先割当された移動局MSAがSDM伝送可能かどうかを空間多重伝送評価基準算出手段201で算出した評価値を基に判定する(ステップS304)。判定手段203は、SDM未対応移動局3であるならば、SDMA可能な移動局を探索する(ステップS306)。
一方、SDM対応移動局2ならばフィードバックされた伝搬路のチャネル推定値hA(j、k)を用いて、SDM対応処理を行い(ステップS305)、続いてSDMA可能な移動局を探索する(ステップS306)。ただし、k=1、...、Ntであり、j=1、...、Ns(A)である。判定の結果、Nc個の空間多重チャネル数が使用されるものとする。ただし、1≦Nc<Ns(A)を満たす自然数である。ここで、SDM対応処理は、移動局MSAに関するチャネル推定値hA(j、k)を(式4)のように行列表記し、H(A)を特異値分解することで得られるNs(A)個の特異値λjを算出し、所定値を超える特異値の数により空間多重チャネル数を判定することが可能である。ここで、j=1、...、Ns(A)である。また、別な方法としてはH(A)の(Ns(A)−1)個の行ベクトル間の相関係数(以下、空間相関係数)を算出し、所定値以下となる個数を空間多重チャネル数としても良い。
また、SDMA可能な移動局の探索(ステップS306)は、基地局1にフィードバックされたチャネル推定値あるいは受信品質情報を基に行う。まず、第A番目の移動局MSAの受信品質情報Ps(A)を除く、受信品質情報Ps(m)を用いて、所定レベルを超える品質の移動局を第1段階目に選択する。所定レベルの設定として、所定のマージン値Cを用いたPs(m)>Ps(A)+Cのように設定してもよい(ただし、mはA以外の通信エリア5内の移動局番号を示す)。この場合、第A番目の移動局MSAよりも受信品質が高い移動局を選択することができる。基地局1の送信電力制御を行う場合、基地局1からの送信電力は第A番目の移動局MSAよりも低く設定することが可能であり、移動局MSAに対する与干渉を低減できる。
次に、既に割当てられた移動局MSAでのチャネル推定値hA(j、k)と、第1段階で選択された移動局間のチャネル推定値hm(j、k)との空間相関係数SC(m、A)を(式5)あるいは(式6)を用いて算出する。ここで、*は複素共役を示す。ここで、mは、第1段階で選択された移動局の番号を示す。
第1段階で選択された全ての対象移動局MSmに対し、(式5)または(式6)による空間相関係数の演算を空間多元接続評価基準算出手段202において行い、第A番目の移動局MSAに対し、最も空間相関SC(m、A)が低い移動局MSmが、所定の空間相関係数値を下回っているか否かを判定する(ステップS307)。下回っている場合、空間多元接続移動局(第B番目の移動局とする)として選択し、さらに空間多元接続移動局がSDM対応移動局2かどうかを判定する(ステップS308)。もし、SDM未対応移動局3ならば、再度、SDMA可能な移動局MSmを探索する(ステップS306)。SDM対応移動局2ならば、フィードバックされた伝搬路のチャネル推定値hB(j、k)を用いて、ステップS305と同様な方法を用いてSDM対応処理を行う(ステップS309)。ただし、k=1、...、Ntであり、j=1、...、Ns(B)である。判定の結果、Nc(B)個の空間多重チャネル数が使用されるものとする。ただし、1<Nc(B)<Ns(B)を満たす自然数である。判定後、再度、SDMA可能な移動局MSmを探索する(ステップS306)。
なお、ステップS306において、既に複数の移動局MSmが割当てられている場合に、SDMA可能な移動局MSmを探索する際には、SC(m、A)の代わりに、(式7)に示すMSC(m)を用いる。MSC(m)は、既に割当てられた移動局A,B,C,...に対し最大のSC(m、k)を与える。ただし、kは既に割当てられた移動局MSA,MSB,MSC,...の番号を与える。
次に、ステップS307において、SDMA可能な移動局MSmが存在しないと判定した場合は、それ以上の空間多元接続は行わずにSDMを行うかどうかの通知(空間多重数を通知)を含めた通信開始通知を、割当てられた所定の移動局MSmに対して行う(ステップS310)。
次に、基地局は移動局MSmに対する個別ユーザチャネル送信を開始する(ステップS311)。一方、所定の移動局MSmは、基地局1からの通信開始通知を受信すると、個別ユーザチャネル受信のための処理を行い(ステップS324)、その後の送信されてきた信号を個別ユーザチャネルの受信を開始する(ステップS325)。なお、SDMA割当てされた各移動局MSmへの送信電力は、所定の受信品質が得られるように送信電力制御を行う。
なお、SDM対応移動局2とSDM未対応移動局3間で、SDMAを行う場合、SDM未対応移動局3は、空間領域での干渉抑圧ができない。このため、SDM未対応移動局3は目標とする受信品質をSDM対応移動局2よりも高く設定することにより、SDMA時における受信品質を確保することができる。
以上のように、SDM移動局2とSDMA未対応移動局3とが通信エリア5内に混在する場合においても、移動局MSmがアンテナ個別パイロット信号を用いてチャネル推定値及び受信品質情報を、基地局1側にフィードバックすることにより、基地局1はSDMとSDMAの同時あるいはどちらか一方を組み合わせた空間領域を用いた多重化の可能な移動局MSmを選択することができ、空間多重を効率的に活用することができる。
次に、上記の通信割当て処理行った後の、移動局MS及び基地局BSにおける指向性制御動作について、説明を行う。
第n番目の移動局MSnへの第k番目の空間多重チャネルにおける送信データ系列をSk n(t)とする(ただし、tは時刻を表す)。ここで、nは空間多元接続を行う移動局数Nd以下の自然数、kは第n番目の移動局MSnに対する空間多重数Nc(n)以下の自然数である。また、1≦Nc(n)<Ns(1)である。第n番目の移動局MSnにおける第p番目のアンテナで受信したチャネル推定値をhn(p、m)とする。このチャネル推定値hn(p、m)は、移動局MSnから基地局BSにフィードバックされた第m番目の基地局アンテナからのアンテナ個別パイロット信号APm(t)に対するものである。なお、mは基地局アンテナ数Nt以下の自然数、pは第n番目の移動局MSnにおけるアンテナ数Ns(n)以下の自然数である。ここで、第n番目の移動局MSnに対するチャネル推定行列Hnを(式8)のように定義する。
図2において、ウエイト生成手段204は、(式8)に示すチャネル推定行列Hnを用いて送信ウエイトを生成する。ここで、第j番目の空間多重チャネルに対する送信ウエイトベクトルWjは、(式9)のように、第j番目以外のSDMAされる他ユーザnに対し、干渉を生じないビーム形成を行う。nは第j番目を除くSDMAを行う移動局の総数Nd以下の自然数である。また、第n番目の移動局MSnのみが割当てられSDMAを行わない場合は、その移動局の空間多重数がNc(n)であるときは、基地局アンテナ208のうちからNc(n)個のアンテナを選択して送信する。
なお、(式9)は移動局間の送信信号が干渉しあわない直交条件を用いているが、このほかに、(式10)で示されるような最小二乗誤差規範(MMSE: Minimum Mean Square Error)によるウエイト生成方法を用いてもよい。ここで、ynjは、第j番目の移動局MSjへの送信信号が、第n番目の移動局MSnで受信される信号成分である。
ビーム形成部207は、ウエイト生成手段204により生成された、SDM及びSDMAに用いる空間多重チャネルの総数Tcに等しい数の送信ウエイトベクトルWj=[Wj1、 Wj2、...、WjNt]Tを用いて(ただし、jは空間多重チャネルの総数Tc以下の自然数、Tはベクトル転置を示す)、第j番目の空間多重チャネルの送信データ系列SCH(j)を基地局アンテナ数分(Nt)だけ複製し、送信ウエイトベクトルの各要素を乗算し、基地局アンテナ208から送信する。
以上のように、(式9)を満足する送信ウエイトWjを生成することで、空間多重チャネル数Nc(A)=1である第A番目の移動局MSAに向けた送信ウエイトがWjである場合、(式11)のように表せるチャネル推定値CAで受信される。また、空間多重チャネル数Nc(B)>1である第B番目の移動局MSBに向けた送信ウエイトがWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1である場合、(式12)のように表せる(Ns(B)×Nc(B))次のチャネル推定行列CBで受信される。
部分空間直交化手段210は、第B番目の移動局MSBに対しSDM伝送する場合に、空間多重チャネル数Nc(B)>1である第B番目の移動局MSBに向けた送信ウエイトがWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1であるとすると、(式12)のように表せる(Ns(B)×Nc(B))次のチャネル推定行列CBで受信される。また、予め(式13)に示すようにCBを特異値分解し、得られる特異値の大きい順にNc(B)個選択する。そして、それらの特異値λkに対応する右特異値ベクトルからなる右特異値行列Vs=[V1 V2 、...、VNc(B)]を用いて、(式14)に示すように空間多重チャネルのデータ系列S(t)=[S1 B(t)S2 B(t)...SNc(B) B(t)]Tに対し、右特異値行列Vsを左から乗算し、信号系列S2(t)を算出する。ここで、k=1〜Nc(B)である。ビーム形成部207はS2(t)のNc(B)個の要素に対し、それぞれ送信ウエイトWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1を乗算する。ここで、(式13)において、Uはチャネル推定行列CBの左特異値ベクトルから構成されるユニタリ行列、Vはチャネル推定行列CBの右特異値ベクトルから構成されるユニタリ行列、Qは対角成分を特異値とする対角行列である。
なお、受信部222は部分空間直交化手段210を省略する構成でも可能であり、その場合、(式14)におけるVsはNc次単位行列となる。
以上が基地局1の動作説明である。
次に、SDM対応移動局MSnではNc(n)個の空間多重チャネルを分離受信するために、またSDM未対応移動局MSnでは同期検波受信のために空間多重チャネル毎に既知信号系列(以下、空間多重チャネル個別パイロット信号)CPk(t)を埋め込んで送信する。ここで、kは空間多重チャネルの総数Tc以下の自然数である。ただし、送信信号が差動符号化され、遅延検波を適用する場合は、このような空間多重チャネル個別パイロット信号の送信は不要である。
図5(a)、(b)は空間多重チャネル個別パイロット信号CPk(t)の送信方法(フレーム構成)を示している。図5(a)は、空間多重チャネル個別パイロット信号系列Ak(501)の送信タイミングをずらし時分割で送信する方法を示している。アンテナ個別パイロット信号は同一のパターン、またはPN(擬似ランダム信号)信号等による互いに直交する符号系列を用いる。図5(b)は異なる、空間多重チャネルから互いに直交する符号系列B(502)を用いて、符号分割多重で送信する方法を示している。また、図4(c)で説明したように時分割送信と符号分割送信を組み合わせた方法も可能である。
次に、第n番目のSDM対応移動局MSnは、移動局MSにおける受信動作について説明する。
まず、Ns(n)個の移動局アンテナ221は空間多重された高周波信号を受信する。Ns(n)個の受信部222は、受信したNs(n)個のそれぞれの高周波信号に対し、周波数変換後に直交検波によりI信号、Q信号からなる複素ベースバンド信号rj (n)(t)をNs(n)個出力する。(ただし、jはNs(n)以下の自然数。)次に、空間多重分離手段223がSDM対応移動局MSnに対するNc(n)個の空間多重チャネルを分離する。
この空間多重チャネルの分離方法は、1)チャネル推定行列の逆行列を利用する方法(ゼロフォーシング手法)、2)最尤推定(結合推定)、3)V−BLAST等の手法の適用が可能である。以下では、1)の方法を用いた場合の動作について説明を行う。
まず、空間多重チャネルに個別に埋め込まれた空間多重チャネル個別パイロット信号CPk(t)を用いることで、(式15)に示すようにそれぞれの空間多重チャネル毎にチャネル推定値hn(j、k)を算出する。ここでkはSDM対応移動局MSnに向けて送信される空間多重チャネル数Nc(n)個以下の自然数である。なお、*は複素共役演算子であり、空間多重チャネル個別パイロット信号CPk(t)のシンボル数をNqとする。得られた空間多重チャネル毎にチャネル推定値hn(j、k)を構成要素とする(式16)に示すチャネル推定行列Hnを生成し、その一般逆行列(Hn)-1を受信信号ベクトルR=[r1 (n)(t)、r2 (n)(t)、...、rNs(n) (n)(t)]Tに左から乗算することで、それぞれの空間多重チャネルを分離受信する。なお、移動局MSnへの空間多重数及び空間多重チャネル個別パイロット信号の種別に関しては、予め基地局BSから移動局MSnへ制御チャネル等を通じて通知がなされる。
なお、空間多重分離の別な方法として、第B番目の移動局MSBに対しSDM伝送する場合に、部分空間直交化手段210を用いたとき、(式13)に示すようにCBの特異値分解で得られる特異値から大きい順にNc個選択し、それらの特異値に対応する左特異値ベクトルからなる右特異値行列Us=[U1 U2、...、UNc(B)]を用いて、その複素共役転置した行列(Us)Hを受信信号ベクトルR=[r1 (B)(t)、r2 (B)(t)、...、rNs(B) (B)(t)]Tに左から乗算する方法がある。これにより、それぞれの空間多重チャネルを分離受信することができる。この場合、予め右特異値行列Usを移動局MSBに対し通信回線を介して通知しておく。また、この方法を用いる場合、伝搬チャネル変動補償も同時に行われるため、空間多重チャネル個別パイロット信号の送信は不要となる利点がある。なお、移動局MSnへの空間多重数及び空間多重チャネル個別パイロット信号の種別に関しては、予め基地局BSから移動局MSnへ制御チャネル等を通じて通知がなされる。
次に、SDM未対応移動局MS1の受信動作について説明する。
受信部222は、アンテナにより受信された高周波信号を適宜周波数変換し、遅延検波、準同期検波、あるいは、同期検波を用いて、受信動作を行う。受信信号は、図示されない復号部により符号判定、復号化されユーザ送信データを復元する。なお、SDM未対応移動局MS1は、空間多重アクセスのため、同一干渉波成分が高くなることが予想されているが、干渉除去のために樋口他、電子情報学会技術報告RCS2000−134(2000)で開示されている文献等に記載のマルチパス干渉キャンセラーを搭載することで、同一干渉成分を除去することができる。そして、除去後の受信信号を、復号部により符号判定、復号化されユーザ送信データを復元することで高品質な受信性能を得ることができる。
以上のように本実施の形態では、基地局BSにおいてSDMとSDMAが組み合わされて送信するための、移動局の割り当てを行い、その移動局は送信指向性制御方法、及び移動局における空間分離受信方法を行っている。これにより、基地局が特定の移動局との空間多重伝送とともに、伝搬環境に応じて別な移動局に対しての空間多元接続を行うことが可能となり、基地局における空間的な自由度を効率的に利用することができ、SDMまたはSDMAによる空間多重技術及びユーザダイバーシチ効果を有効に活用し、無線通信システムの通信容量を改善することが可能になる。
なお、本実施形態をマルチキャリア伝送方式の無線通信システムに適用することも同様に可能である。この場合、1)複数サブキャリアの内の1つ(例えば、中心周波数に付近のサブキャリア等)を用いて、実施の形態1と同様な動作を行いサブキャリア共通の1つの送信ビームを形成する方法、2)複数サブキャリアの一部あるいは全てを用いて、実施の形態1と同様な動作、すなわち、それぞれのサブキャリ毎にチャネル推定値算出、受信品質推定を行い、基地局1にそれらの情報をフィードバックし、空間相関係数の算出に基づきSDM、SDMAを行う移動局MSmの割当てを行う方法が可能である。なお、空間相関係数算出時には、サブキャリア毎に、実施の形態1と同様に空間相関係数を算出し、それらの平均あるいは中央値、あるいは最大値、最小値等の代表値を最終的な空間相関係数として、移動局MSmを割当てる。また、サブキャリ毎に送信ビームを形成する送信ビーム形成方法により、本実施の形態を同様に適用することができる。
なお、本実施の形態において、SDMあるいはSDMAをトラフィック状況に応じて、移動局MSmの割当て処理を適応的に変化させることもできる。通信エリア5内に多数の移動局MSmが存在し、呼損が所定レベルより多く発生する場合は、図3におけるSDM対応処理(ステップS305、S309)を省略する処理により、SDMよりもSDMAが可能な移動局割当てを優先することができる。この場合、同時に通信が可能な移動局数を増大できるという効果が得られる。
また、通信エリア5の大小(またはセル半径)に応じて、移動局MSmの割当て処理を適応的に変化させることも可能である。この場合、マクロセルのように一般的に基地局アンテナ高が周辺建物よりも高い場合は、送受信間の見通しが確保できる通信エリア5内の場所率が比較的高くなるため、SDMよりもSDMAに適した伝搬環境下となる。このため、図3におけるSDM対応処理(ステップS305、S309)を省略する処理により、SDMよりもSDMAが可能な移動局割当てを優先させる。
なお、本実施の形態では、基地局1から移動局MSmに向けての送信(ダウンリンク)における空間多重を用いた通信方法について説明を行ったが、移動局MSmから基地局1への送信(アップリンク)においても、同様に適用することが可能である。この場合、移動局MSmの備えているアンテナ毎にアンテナ個別パイロット信号を時間分割、あるいは符号分割して基地局1に送信し、基地局1において、それぞれのアンテナ個別パイロット信号のチャネル推定値と受信品質を算出する。これにより、移動局MSmからのそれらのフィードバック情報を用いることなく、図3を用いて説明したものと同様な動作により移動局MSmのSDMあるいはSDMAの割当てが可能となる。
なお、本実施の形態では、基地局1から移動局MSmに向けての送信(ダウンリンク)におけるチャネル推定値及び受信品質情報は、基地局1に対し通信回線を介してフィードバックし、TDD(Time Division Duplex)を用いる無線通信システムにおいては、同一周波数を伝送媒体として用いるので、伝搬路の相反性から、移動局MSmの備えているアンテナ毎にアンテナ個別パイロット信号を時間分割、あるいは符号分割して基地局1に送信し、基地局1において、それぞれのアンテナ個別パイロット信号のチャネル推定値と受信品質を算出する。これにより、移動局MSmからのそれらのフィードバック情報を用いることなく、図3を用いて説明した通信割り当て処理と同様な動作により移動局MSmのSDMあるいはSDMAの割当てが可能となる。また、TDDにおけるアップリンクへの本実施の形態の適用も同様に可能である。
なお、受信品質情報として、本実施の形態で説明を行ったSNR等の受信品質の他に、移動局MSmの推定移動速度、ドップラー周波数推定値等の移動局MSmのモビリティに関連する評価値を組み合わせてもよい。この場合、受信品質情報のフィードバック、あるいはSDMA、またはSDM割当て処理により遅延が生じるが、所定のモビリティ以上の移動局は、SDMA、またはSDM割当て処理を行わないという判定動作を図3におけるステップS306に加えることで動作が可能となる。
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2に係る基地局装置の構成を示す図である。本実施の形態では、SDM対応移動局とSDM未対応移動局がエリア内に混在している無線通信システムにおいて、SDM未対応移動局を優先して通信を行う場合の空間的なチャネルの形成方法について説明する。
図6に示す基地局BSの構成は、実施の形態1で用いた図2におけるウエイト生成部204の代わりに、SDM未対応移動局用ウエイト生成手段601及びSDM対応移動局用ウエイト生成手段を設けている点が異なり、これによる送信ビーム生成方法が異なる。以下、実施の形態2と異なる部分を主に説明し、実施の形態1と同様な部分に関してはその説明を省略する。なお、実施の形態1と同様に、ダウンリンクにおける空間多重を用いた移動局MSの通信割当て処理行った後の、移動局MS及び基地局BSにおける指向性制御方法について説明する。
第n番目の移動局MSnへの第k番目の空間多重チャネルにおける送信データ系列をSk n(t)とする(ただし、tは時刻を表す)。ここで、nは空間多元接続を行う移動局数Nd以下の自然数、kは移動局MSnに対する空間多重数Nc(n)以下の自然数である。また、1≦Nc(n)<Ns(1)である。第n番目の移動局MSnの第p番目のアンテナで受信した場合のチャネル推定値をhn(p、m)とする。このチャネル推定値hn(p、m)は、移動局MSnから基地局BSにフィードバックされた第m番目の基地局アンテナ208からのアンテナ個別パイロット信号APm(t)に対するものである。なお、mは基地局アンテナ数Nt以下の自然数、pは第n番目の移動局MSnにおけるアンテナ数Ns(n)以下の自然数である。ここで、第n番目の移動局MSnに対するチャネル推定行列Hnを(式8)のように定義する。
SDM未対応移動局用ウエイト生成手段601は第s番目のSDM未対応移動局MSsに対する送信ウエイトベクトルWs=(H(s))Hを生成し、SDM対応移動局用ウエイト生成手段602に出力する。ただし、Hは複素共役転置を表す。この送信ウエイトベクトルWsにより、第s番目のSDM未対応移動局MSsでは、基地局BSの複数アンテナからの複数の送信信号が最大比合成された受信信号が得られる。
SDM対応移動局用ウエイト生成手段602は、SDM対応移動局MSjの第j番目の空間多重チャネルに対する送信ウエイトベクトルWjが、(式9)のように、第j番目以外のSDMAされる他ユーザnに対し、干渉を生じないビーム形成を行う。nはSDMAを行う移動局の総数Nd以下の自然数である。これにより、空間多重チャネル数Nc(A)=1である第A番目の移動局MSAに向けた送信ウエイトがWjである場合、(式11)のように表せるチャネル推定値CAで受信される。また、空間多重チャネル数Nc(B)>1である第B番目の移動局MSBに向けた送信ウエイトがWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1である場合、(式12)のように表せる(Ns(B)×Nc(B))次のチャネル推定行列CBで受信される。ここで、部分空間直交化手段210は、第B番目の移動局MSBに対しSDM伝送する場合に、空間多重チャネル数Nc(B)>1である第B番目の移動局MSBに向けた送信ウエイトがWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1であるとき、(式12)のように表せる(Ns(B)×Nc(B))次のチャネル推定行列CBで受信される。予め(式13)に示すようにCBを特異値分解し、得られる特異値の大きい順にNc(B)個選択し、それらの特異値λkに対応する右特異値ベクトルからなる右特異値行列Vs=[V1 V2 、...、VNc(B)]を用いて、(式14)に示すように空間多重チャネルのデータ系列S(t)=[S1 B(t)S2 B(t)...SNc(B) B(t)]Tに対し、右特異値行列Vsを左から乗算し、信号系列S2(t)を算出する。ここで、k=1〜Nc(B)である。
次に、ビーム形成部207がS2(t)のNc(B)個の要素に対しに対し、それぞれ送信ウエイトWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1を乗算する。ここで、(式13)において、Uはチャネル推定行列CBの左特異値ベクトルから構成されるユニタリ行列、Vはチャネル推定行列CBの右特異値ベクトルから構成されるユニタリ行列、Qは対角成分を特異値とする対角行列である。なお、部分空間直交化手段210を省略する構成でも可能であり、その場合、(式14)におけるVsはNc次単位行列となる。
移動局MSnでの動作は、実施の形態1と同様である。
以上のように、基地局BSにおいてSDMとSDMAが組み合わされて送信される場合について、実施の形態1とは異なるSDM未対応移動局へのビーム形成方法を用いる無線通信システムについて説明を行った。本実施の形態により、基地局はSDM未対応移動局に対しては、複数アンテナからの複数の送信信号が最大比合成される受信信号が得られる送信ビームを用いる。これにより、SDM未対応移動局への受信品質をあるレベルにおいて確保した状態で、SDMAを可能とすることができる。一方、SDM対応移動局への干渉度は増加するが、SDM対応移動局には備えた複数アンテナにより空間領域を用いた干渉除去が可能であるため、干渉に対する耐性がSDM未対応移動局よりも高い。これにより、無線通信システムとしてのスループットの減少を小さい範囲で納めることができる。
なお、本実施の形態をマルチキャリア伝送方式の無線通信システムに適用することも同様に可能である。この場合、1)複数サブキャリアの内の1つ(例えば、中心周波数に付近のサブキャリア等)を用いて、サブキャリア共通の1つの送信ビームを形成する方法、2)複数サブキャリアの一部あるいは全てを用いて、それぞれのサブキャリア毎のアンテナ個別パイロット信号に対するチャネル推定値を基に、サブキャリ毎に送信ビームを形成する送信ビーム形成方法により、本実施の形態を同様に適用することができる。
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3に係る基地局装置の構成を示す図である。本実施の形態において、空間多重伝送制御手段701が空間多重伝送されるチャネル間で時空間符号化を施す時空間符号化手段702を設けている点が、実施の形態1と異なる。以下、実施の形態1と異なる空間多重制御手段701の部分を主に説明する。また、実施の形態1と同様にダウンリンクにおいて空間多重を用いた移動局MSの通信割当て処理を行った後の、移動局MS及び基地局BSにおける指向性制御方法について図7を用いて説明を行う。
以下、実施の形態1と同様にダウンリンクにおいて空間多重を用いた移動局MSの通信割当て処理行った後の、移動局MS及び基地局BSにおける指向性制御方法について図7を用いて説明を行う。
第n番目の移動局MSnへの第k番目の空間多重チャネルにおける送信データ系列をSk n(t)とする(ただし、tは時刻を表す)。ここで、nは空間多元接続を行う移動局数Nd以下の自然数、kは移動局MSnに対する空間多重数Nc(n)以下の自然数である。また、1≦Nc(n)<Ns(1)である。第n番目の移動局MSnの第p番目のアンテナで受信した場合のチャネル推定値をhn(p、m)とする。このチャネル推定値hn(p、m)は、移動局MSnから基地局BSにフィードバックされた第m番目の基地局アンテナ208からのアンテナ個別パイロット信号APm(t)に対するものである。なお、mは基地局アンテナ数Nt以下の自然数、pは第n番目の移動局MSnにおけるアンテナ数Ns(n)以下の自然数である。ここで、第n番目の移動局MSnに対するチャネル推定行列Hnを(式8)のように定義する。
時空間符号化手段702は、図示していない所定の誤り訂正符号化処理、インターリーブ処理、変調位相平面上へのシンボルマッピング処理を施した後の、空間多重を行う移動局MS1に対する送信データ系列211に対し、時空間符号化処理を施した空間多重チャネルのデータ系列S(t)=[[S1 B(t)S2 B(t)...SNc(B) B(t)]を出力する。時空間符号化及びその復号方法に関しては、B.Vucetic, J.Yuan, "Space-Time Coding", J.Wiley & Sons Ltd(2003)において、STBC(Space-Time Block Coding), STTC(Space-Time Trellis coding), ST Turbo TC(Space-Time Turbo Trellis Codes)等の手法が情報開示されており、ここでは詳細説明を省略する。時空間符号化を施すことにより、伝送レートは低減するが、ダイバーシチ効果により受信品質の改善効果が得られる。
部分空間直交化手段210は、第B番目の移動局MSBに対しSDM伝送する場合に、空間多重チャネル数Nc(B)>1である第B番目の移動局MSBに向けた送信ウエイトがWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1である場合、(式12)のように表せる(Ns(B)×Nc(B))次のチャネル推定行列CBで受信されるが、予め(式13)に示すようにCBを特異値分解し、得られる特異値の大きい順にNc(B)個選択し、それらの特異値λkに対応する右特異値ベクトルからなる右特異値行列Vs=[V1 V2 、...、VNc(B)]を用いて、(式14)に示すように空間多重チャネルのデータ系列S(t)=[S1 B(t)S2 B(t)...SNc(B) B(t)]Tに対し、右特異値行列Vsを左から乗算し、信号系列S2(t)を算出する。ここで、k=1〜Nc(B)である。
なお、部分空間直交化手段210を省略する構成でも可能であり、その場合、(式14)におけるVsはNc次単位行列となるため、この場合、図8に示すような空間多重伝送制御手段801の構成になる。
次に、ビーム形成部207がS2(t)のNc(B)個の要素に対しに対し、ウエイト生成手段204において実施の形態1と同様な動作で得られた送信ウエイトWj、Wj+1、Wj+Nc(B)-1を乗算する。ここで、(式13)において、Uはチャネル推定行列CBの左特異値ベクトルから構成されるユニタリ行列、Vはチャネル推定行列CBの右特異値ベクトルから構成されるユニタリ行列、Qは対角成分を特異値とする対角行列である。
一方、SDM対応移動局MSnではNc(n)個の空間多重チャネルを分離受信するために、またSDM未対応移動局MSnでは同期検波受信のために空間多重チャネル毎に既知信号系列(以下、空間多重チャネル個別パイロット信号)CPk(t)を埋め込んで送信する。ここで、kは空間多重チャネルの総数Tc以下の自然数である。ただし、送信信号が差動符号化され、遅延検波を適用する場合は、このようなパイロット信号の送信は不要である。なお、空間多重チャネル個別パイロット信号CPk(t)の送信方法(フレーム構成)は実施の形態1で図5を用いて説明したものと同一である。
次に、移動局MSにおける受信動作について説明する。
まず、第n番目のSDM対応移動局MSnは、Ns(n)個の移動局アンテナ221により空間多重された高周波信号を受信する。Ns(n)個の受信部222は、受信したNs(n)個のそれぞれの高周波信号に対し、周波数変換後に直交検波によりI信号、Q信号からなる複素ベースバンド信号rj (n)(t)をNs(n)個出力する。(ただし、jはNs(n)以下の自然数。)
次に、空間多重分離手段721がSDM対応移動局MSnに対するNc(n)個の空間多重チャネルを分離する。空間多重分離手段721は、空間多重チャネルに個別に埋め込まれた空間多重チャネル個別パイロット信号CPk(t)を用いることで(式15)に示すようにそれぞれの空間多重チャネル毎にチャネル推定値hn(j、k)を算出し、さらに、時空間符号化手段702において用いた時空間符号化方法に対応した復号方法を用いて送信信号を復号化し、受信データ系列722を出力する。ここでkはSDM対応移動局MSnに向けて送信される空間多重チャネル数Nc(n)個以下の自然数である。なお、*は複素共役演算子であり、空間多重チャネル個別パイロット信号CPk(t)のシンボル数をNqとする。
なお、空間多重分離の別な方法として、次のようなものがある。すなわち、第B番目の移動局MSBに対しSDM伝送する場合に、部分空間直交化手段210を用いたとき、(式13)に示すようにCBの特異値分解で得られる特異値から大きい順にNc個選択し、それらの特異値に対応する左特異値ベクトルからなる右特異値行列Us=[U1 U2、...、UNc(B)]を用いて、その複素共役転置した行列(Us)Hを受信信号ベクトルR=[r1 (B)(t)、r2 (B)(t)、...、rNs(B) (B)(t)]Tに左から乗算する。この方法により、それぞれの空間多重チャネルを分離受信することができる。この場合、予め右特異値行列Usを移動局MSBに対し通信回線を介して通知しておく。なお、移動局MSnへの空間多重数及び空間多重チャネル個別パイロット信号の種別に関しては、予め基地局BSから移動局MSnへ制御チャネル等を通じて通知がなされる。
SDM未対応移動局MS1に対する動作は実施の形態1と同様である。
以上のように本実施の形態では、実施の形態1の効果に加え、SDM対応移動局に対する空間多重送信時に時空間符号化を施すことにより、同一データを空間的に多重して送信するため、SDM対応移動局に対する伝送レートは低減するが、送信ダイバーシチ効果を加えた誤り訂正能力が付加されたことにより受信品質の改善が得られる。これにより、所要の受信品質が得られるように送信電力制御を行う場合には、送信電力低減効果が得られる。あるいは、また、送信電力が一定の場合、所要の受信品質が得られる通信エリアを拡大する効果が得られる。
なお、本実施の形態において、時空間符号手段における符号化方法、符号化率を伝搬環境に応じて可変してもよく、これにより多様な伝搬環境に応じてスループットを向上することが可能となる。
なお、本実施の形態では、ダウンリンクにおけるSDM対応移動局に対する空間多重送信時に時空間符号化を施す例を示したが、アップリンクにおいても同様な適用が可能である。この場合、SDM対応移動局において、空間多重送信信号に対し時空間符号化を施し、基地局側では時空間符号化に応じた復号処理を適用する。