JP5017724B2 - 鋼材 - Google Patents
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なお、ブレース架構はエネルギー吸収機構を有しておらず、非常時の荷重に対して降伏しないようにブレース部材の断面に余裕を持たせている。ブレース部材が降伏すると残留変形が残って所謂スリップ現象を起こし、耐震上好ましくないからである。
そのため、引張鋼材自体にエネルギー吸収能力を持たせることが好ましいが、特許文献2のような焼入れおよび焼き戻しによる構成では、低強度部および高強度部のそれぞれの強度やこれらの強度差、低強度部の深さなどを均一に管理することが難しく、やはり施工品質の安定性の確保が課題となる。
一方、荷重のエネルギーにより鋼管に圧縮力が作用した際には、鋼管に作用した圧縮力が固定部材を介して棒鋼に伝達されることにより、棒鋼は鋼管の端部から飛び出したり撓むことなく、鋼管内に拘束された状態で圧縮される。
ここで、棒鋼の降伏点を超える荷重が加わり棒鋼が降伏した後も鋼管は弾性範囲内で変形するため、鋼管の降伏点に棒鋼による負担分を加えた鋼材全体としての大きな降伏点が得られる。
また、降伏後の棒鋼は、荷重による応力が増加することなく鋼管により拘束された状態でひずみだけが増加するため、荷重の載荷および除荷によるヒステリシスを大きく確保できる。この棒鋼の履歴性状に対応する荷重エネルギーが消費されることから、エネルギー消費量を大きくできる。
以上のように、本発明では鋼管が棒鋼よりも高強度とされ、かつ棒鋼が鋼管よりも低降伏点とされていることによって、前述のように鋼材全体としての降伏点を大きくできるとともに、エネルギー消費量を大きくできる。
また、引張強さが490N/mm2に相当する鋼材は、例えば、鉄骨造用の鋼材SN490(SM490)である。建築学会の鉄骨造の設計基準書において、このSN490(SM490)までは許容応力度が決められている。
以上から、降伏点または0.2%耐力が390N/mm2を超えるほど鋼管が高強度の場合、または引張強さが490N/mm2を超えるほど鋼管が高強度である場合に、鋼材全体としての降伏点をより高くできる。
図1は、本実施形態における鋼材を示す一部破断側面図である。この鋼材は、曲げ引張鋼材10と、曲げ引張鋼材10における軸方向一端側の部分を構造躯体の取付プレート9に取付固定する取付ナット20と、曲げ引張鋼材10における軸方向一端部に設けられる固定部材としての第1袋ナット30と、曲げ引張鋼材10の軸方向他端部に設けられて曲げ引張鋼材10を構造躯体の取付プレート9に取付固定する固定部材としての第2袋ナット40とを備えている。
なお、取付ナット20と取付プレート9との間にはワッシャー21が介装され、第2袋ナット40と取付プレート9との間にはワッシャー41が介装されている。
鋼管11は、高強度鋼材により形成され、図1および図3のように鋼管11の両端部の端縁から取付プレート9に固定される位置までを含む部分にはそれぞれ、鋼管雄ネジ部111が形成されている。
ここで、鋼管11は、棒鋼12の強度よりも高強度であり、鋼管11の強度は、降伏点または0.2%耐力が390N/mm2を超えるか、もしくは引張強さが490N/mm2を超えるように設定されている。本実施形態において、「高強度」とは、降伏点または0.2%耐力が390N/mm2を超えるか、もしくは引張強さが490N/mm2を超えることを言う。
棒鋼12は、鋼管11に比べて低降伏点の鋼材とされ、棒鋼12の両端部にはそれぞれ、図2および図4のように鋼管11の端部から突出する棒鋼雄ネジ部121が形成されている。
一方、鋼管11に圧縮力が作用した際には、鋼管11が弾性範囲内で圧縮変形するとともに、鋼管11に作用した圧縮力が第1袋ナット30および丸ナット13を介して棒鋼12に伝達される。すなわち、第1袋ナット30が棒鋼12を軸方向外側から軸方向内側に向かって押さえるため、棒鋼12は鋼管11の端部から飛び出したり撓むことなく、鋼管11内に拘束された状態で圧縮される。
図9は、履歴性状を示す。ここで、棒鋼12の降伏点を超える荷重が加わり棒鋼12が降伏した後も、鋼管11は弾性範囲内で変形するため、鋼管11の降伏点に、棒鋼による負担分を加えた大きな降伏点Pが得られる。
また、降伏後の棒鋼12は、荷重による応力が増加することなく鋼管11により拘束された状態でひずみだけが増加し、荷重の載荷および除荷による履歴は例えばA−B−C−Dのループとなる。すなわち、低降伏点の棒鋼12は降伏後破断までのひずみ量が大きく、棒鋼12の降伏点を超える荷重の載荷および除荷によるヒステリシスループの面積が大きい。
本実施形態の鋼材における曲げ引張鋼材10が高強度の鋼管11と低降伏点の棒鋼12によるハイブリッド鋼材であって前述のように鋼管11におけるひずみと棒鋼12におけるひずみとが合成される結果、降伏点とエネルギー消費量とを両方大きく確保できる。
そのうえ、棒鋼12ではなく鋼管11が高強度鋼材とされているため、棒鋼12の強度が鋼管11の強度よりも高強度とされた場合と比較して、圧縮力作用時に高強度鋼材が降伏せずに棒鋼12を拘束する弾性範囲を大きく確保できる。
以上の理由から降伏点とエネルギー消費量との両方をより大きく確保できるので、地震時や暴風時などの非常時の荷重エネルギーを十分に吸収できる。
本発明は以上の実施形態には限定されない。前記実施形態において、鋼管11の端部と棒鋼12の端部とは丸ナット13により固定されていたが、鋼管の端部と棒鋼の端部との固定手段はこのようなねじによる固定手段には限定されない。
例えば、図10のように鋼管51の両端部内周に形成された雌ネジ部512と、棒鋼52の両端部に形成された雄ネジ部522との間に後硬化型の樹脂(硬化樹脂)53が充填されることによって、鋼管51の端部と棒鋼52の端部とが固定されていてもよい。あるいは、鋼管内に棒鋼を挿入した状態で鋼管の両端をかしめることによって鋼管の端部と棒鋼の端部とが固定されていてもよい。
また、前記実施形態では第2袋ナット40が取付プレート9への固定手段と、鋼管11から飛び出さないように棒鋼11を押さえる手段とを兼ねていたが、これに限らず、第2袋ナット40の代わりに、取付ナット20および第1袋ナット30が設けられていても良い。
なお、構造躯体に曲げ引張鋼材を固定する手段は、前記実施形態の取付ナット20や第2袋ナット40に限らず、適宜な手段であってよい。
上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
10 曲げ引張鋼材
11 鋼管
12 棒鋼
13 丸ナット(棒鋼固定ナット)
20 取付ナット
30 第1袋ナット(固定部材)
40 第2袋ナット(固定部材)
111 雄ネジ部(鋼管雄ネジ部)
121 雄ネジ部(棒鋼雄ネジ部)
Claims (6)
- 軸方向両端側の部分がそれぞれ構造躯体に固定される鋼管と、
前記鋼管に挿入され、両端部がそれぞれ前記鋼管の端部に固定される棒鋼と、
前記鋼管の両端部にそれぞれ設けられ前記棒鋼を前記鋼管に固定するとともに、前記鋼管が圧縮された際に前記棒鋼を軸方向外側から軸方向内側に向かって押さえる固定部材と、を備え、
前記鋼管は、前記棒鋼の強度よりも高強度であり、
前記棒鋼は、前記鋼管の降伏点よりも低降伏点である
ことを特徴とする鋼材。 - 請求項1に記載の鋼材において、
前記固定部材はそれぞれ、前記鋼管の外周部に形成された鋼管雄ネジ部に螺合される袋ナットである
ことを特徴とする鋼材。 - 請求項2に記載の鋼材において、
前記袋ナットの少なくとも一方は、前記構造躯体に前記鋼管を固定する
ことを特徴とする鋼材。 - 請求項1から3のいずれかに記載の鋼材において、
前記鋼管は、その降伏点または0.2%耐力が390N/mm2を超えるか、もしくは引張強さが490N/mm2を超える
ことを特徴とする鋼材。 - 請求項1から4のいずれかに記載の鋼材において、
前記棒鋼の両端部にはそれぞれ、前記鋼管に挿入された状態で前記鋼管の端部から軸方向外側に突出する棒鋼雄ネジ部が形成され、
前記鋼管の端部と前記棒鋼の端部とは、前記棒鋼雄ネジ部に棒鋼固定ナットが螺合されることによって固定されている
ことを特徴とする鋼材。 - 請求項1から4のいずれかに記載の鋼材において、
前記鋼管の両端部内周にはそれぞれ、雌ネジ部が形成され、
前記棒鋼の両端部にはそれぞれ、前記雌ネジ部との間に硬化樹脂が設けられる雄ネジ部が形成される
ことを特徴とする鋼材。
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