上記のような多段化されたギヤトレインでは、車両の走行状態に適合する変速段の選択幅が広がるため、係合要素のつかみ替え操作も、単純な2要素のつかみ替えに止まらず、複雑な4要素のつかみ替えの必要性も生じてくる。こうした4要素のつかみ替えが必要となる例として、多数の変速段の中から特定の変速段へ一気に変速するいわゆる跳び変速がある。いずれにしても、こうした4要素の多重つかみ替えを行う場合、各係合要素の係合・解放の順序やタイミングをどのように制御するかが重要な問題であり、その制御如何では、変速機構内部で生じる変速の円滑な進行が損なわれ、変速の連続性が失われることで、変速中に段階的なショックが生じたり、変速終了時のショックが非常に大きくなったり、あるいは変速時間が必要以上に長くなる等の問題点が生じる。
そこで、本発明は、4つの係合要素の係合及び解放を必要とする変速のときに、変速の進行を円滑に行わせることで、変速中のショックの発生をなくしながら変速の間延びを防ぐことができる自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明は、第1の変速段から第2の変速段への変速のときに、4つの係合要素の作動を必要とし、第1の変速段が第1及び第2の係合要素の係合で達成され、第2の変速段が第3及び第4の係合要素の係合で達成され、前記第1の変速段と前記第2の変速段との間にある第3の変速段が第2及び第3の係合要素の係合で達成される自動変速機の制御装置において、前記制御装置は、第1の変速段から第2の変速段への変速のときに、第1の係合要素の解放を開始させた後に第2の係合要素の解放を開始させ、第3の係合要素の係合を完了させた後に第4の係合要素の係合を完了させ、第3の係合要素の係合を完了させる前に第2の係合要素の解放を開始させる制御を行い、第3の係合要素を完全係合に至る過渡的な状態に、第2の係合要素を完全解放に至る過渡的な状態にする変速制御手段を有することを特徴とする。
具体的には、前記変速制御手段は、第3の係合要素の係合が完了する直前に第2の係合要素の解放を開始させる構成を採るのが有効である。
更に具体的には、前記第2及び第3の係合要素は、それらの油圧サーボの油圧により制御され、前記変速制御手段は、第3の係合要素を、その油圧サーボの油圧の上昇により係合開始させた後に、第2の係合要素を、その油圧サーボの油圧の低下により解放開始させ、その後、更に第3の係合要素を、その油圧サーボの油圧を上昇させて係合完了させる構成とするのが有効である。
上記の構成において、前記変速制御手段は、第1の変速段から第2の変速段への変速の進行状態を検出し、該進行状態に応じて第2及び第3の係合要素の油圧サーボの油圧を制御するものとされ、変速の進行状態が、第1の基準値に達したことにより、第3の係合要素の油圧サーボの油圧を上昇させて第3の係合要素の係合を開始させ、変速の進行状態が、第1の基準値よりも変速が進行している状態を示す第2の基準値に達したことにより、更に上昇させて第3の係合要素を完全に係合させ、変速の進行状態が、第1の基準値と第2の基準値の間の進行状態を示す第3の基準値に達したことにより第2の係合要素の油圧サーボの油圧を低下させて第2の係合要素の解放を開始させる構成とするのが有効である。
また、前記変速制御手段は、第2の係合要素が解放を開始するまでの解放操作を、第1の係合要素の状態により制御する構成とするのが有効である。
そして、前記第1の係合要素の状態は、該第1の係合要素の解放操作により変化する変速の状態であり、前記第2の係合要素は、該第2の係合要素が解放を開始するまでの操作を該第2の係合要素の油圧サーボへの油圧の低下により制御されるものであって、該油圧の低下の特性は、前記変速の状態の判断に基づいて制御される構成とすることもできる。
また、前記変速制御手段は、第2の係合要素が解放を開始するまでの解放操作を、第1の係合要素の状態により制御する構成とするのが有効である。
そして、前記第1の係合要素の状態は、該第1の係合要素の解放操作により変化する変速の状態であり、前記第2の係合要素は、該第2の係合要素が解放を開始するまでの操作を該第2の係合要素の油圧サーボへの油圧の低下により制御されるものであって、該油圧の低下の開始タイミングは、前記変速の状態の判断に基づいて制御される構成とすることもできる。
また、前記第1の変速段から第2の変速段への変速は、前記4つの係合要素の1つを係合すると同時に他の1つの係合要素を解放することにより達成され且つ残りの2つの係合要素の作動により第2の変速段が達成される第3の変速段を経て行うものとされ、前記変速の状態は、第1の変速段から第3の変速段への変速の状態とされる構成を採ることもできる。
また、前記変速の状態は、変速の際に変化する変速機の入出力回転数を指標として判断され、前記第2の係合要素の油圧サーボへの油圧の低下の開始は、前記指標が所定値となったときとしてもよい。
あるいは、前記変速の状態は、係合させる第3の係合要素の係合力を指標として判断され、解放させる第2の係合要素の油圧サーボへの油圧の低下の開始は、係合させる第3の係合要素の係合開始のときとするのも有効である。
また、前記係合させる第3の係合要素の係合力は、該第3の係合要素の油圧サーボへの油圧に基づいて推定され、前記解放させる第2の係合要素の油圧サーボへの油圧の低下の開始は、前記係合させる第3の係合要素の油圧サーボの油圧が所定油圧以上となったときとするのが有効である。
また、前記変速の状態は、変速開始からの時間を指標として判断され、解放させる第2の係合要素の油圧サーボへの油圧の低下の開始は、前記変速開始からの時間が所定時間を経過したときとするのが有効である。
また、前記指標は変速機の入力軸回転数とされ、前記所定値は前記解放させる第2の係合要素が滑り始めるまでの時間を基に変速中の回転加速度から予測した回転数とされ、解放させる第2の係合要素の油圧サーボへの油圧の低下の開始は、前記入力軸回転数が予測した回転数になったときとするのが有効である。
また、前記油圧の低下の特性は、変速状態が進むにつれて所定量ずつ低下させる特性とすることもできる。
あるいは、前記油圧の低下の特性は、入力トルクに応じた油圧に安全率分の油圧を加算した値として設定され、該安全率分の油圧は、前記第1の変速段から第3の変速段への変速状態に応じて低減されるものとすることもできる。
また、前記第1の変速段から第2の変速段への変速は、アクセルペダルの踏み込みによるキックダウン変速とするのも有効である。
次に、前記第3の係合要素は、第2の係合要素の解放状態により変化する変速の進行状態により係合制御される構成とすることもできる。
また、前記第4の係合要素は、第2の係合要素の解放状態により変化する変速の進行状態により係合制御される構成とすることもできる。
あるいは、前記第4の係合要素は、第3の係合要素の係合状態により変化する変速の進行状態により係合制御される構成とすることもできる。
また、前記第4の係合要素は、その制御開始タイミングを第3の係合要素の係合状態により変化する変速の進行状態により制御され、第3の係合要素が完全に係合してから制御を開始される構成とすることもできる。
あるいは、前記第4の係合要素は、その制御開始タイミングを第3の係合要素の係合状態により変化する変速の進行状態により制御され、第3の係合要素の制御開始と同時に制御を開始され、第2の係合要素の解放状態による係合開始タイミングまで低圧で保持される構成とすることもできる。
一般に、4つの係合要素が関与する変速の過渡状態において、4つの係合要素が全て滑っている状態を生じさせた場合、そうした滑り状態が長いと、変速機構の変速状態が秩序なく進行することになり、変速が終了したときに大きな変速ショックを生む結果となる。また、解放側の係合要素と係合側の係合要素が同時に完全係合する状態が生じると、そこで変速の進行が一旦止まり、解放側の係合要素が滑り始めることで次の変速状態に移行することになるため、変速が2段階となり、運転者に違和感を与えることとなる。こうしたいずれかの状態が生じるのを避けるべく、常に1つの係合要素だけが係合している変速状態をつくり出すために、タイミング良く係合側の要素の係合と同時に解放側の要素の解放を開始することができたとしても、解放側の要素の解放動作は徐々に進行するものであるため、一旦変速の進行が緩やかになるのを避けることができず、上記2つの係合要素の完全係合状態が生じたときと同様に2段階の変速感が発生してしまう。したがって、理想の状態で変速を進行させ、かつ、変速が2段階となることなく連続的に行われるようにするためには、4つの係合要素の滑り状態が生じる期間をできるだけ短くし、かつ、1つの係合要素だけが完全係合している変速状態をできるだけ長くしながら、変速途中の過渡的な解放側と係合側の2要素の完全係合状態が生じないようにすることが必要になる。この点について、本発明の請求項1記載の構成では、第1の係合要素の解放の開始の後に第2の係合要素の解放を開始させることと、第3の係合要素の係合を完了させた後に第4の係合要素の係合を完了させることとで、4つの係合要素が全て滑っている変速状態をできるだけ短くし、かつ1つの係合要素が係合している変速状態を長くすることができ、しかも、第3の係合要素の係合を完了させる前に、第2の係合要素の解放を開始させることで、2つの係合要素が同時に完全係合する過渡状態をも生じさせない変速を行うことができるので、上述のように、理想の状態で変速を進行させつつ変速が2段階となることのない連続的な変速を行うことができる。
また、請求項4記載の構成では、第3の係合要素の係合が完了する(完全係合)直前に、第2の係合要素の解放を開始させるので、4つの係合要素が滑っている変速状態を極めて短い期間に限定することができる。
更に、請求項5記載の構成では、第3の係合要素の係合開始の後で、かつ、係合が完了する(完全係合)前に第2の係合要素の解放を開始させることで、第3の係合要素の係合開始に伴い生じる変速の鈍り感を、逆に第2の係合要素の滑りにより生じるエンジン吹きで相殺することにより、変速全体としては、滑らかな連続的な変速が可能となる。
次に、請求項6記載の構成では、検出された変速の進行状態を示す基準値に基づき油圧を制御することにより、狙いとするタイミングで、各係合要素の制御が正確に行えるようになる。
また、請求項7記載の構成では、第2の係合要素が解放を開始するまでの操作を第1の係合要素の係合状態により制御することで、第2の係合要素をタイミング良く解放開始させることができるため、変速の連続性をより向上させることができる。
そして、第2の係合要素が解放開始するまでの操作を、第2の係合要素の油圧サーボの油圧の低下の特性を制御することで調整できるため、第3の係合要素の係合開始とのタイミング調整を変速の状態の判断に合わせてより適切に行うことができるようになる。
また、請求項8記載の構成では、第2の係合要素が解放を開始するまでの操作を第1の係合要素の係合状態により制御することで、第2の係合要素をタイミング良く解放開始させることができるため、変速の連続性をより向上させることができる。
そして、第2の係合要素が解放開始するまでの操作を、第2の係合要素の油圧サーボの油圧の低下の開始タイミングを制御することで調整できるため、第3の係合要素の係合開始とのタイミング調整を変速の状態の判断に合わせてより適切に行うことができるようになる。
次に、請求項9記載の構成では、第1の変速段から第2の変速段への変速を、2つの係合要素を操作することで達成される第1の変速段から第3の変速段への変速を経て、2つの係合要素を操作することで達成される第3の変速段から第2の変速段への変速に移行させるようにしたので、一度に3つ以上の係合要素を同時に制御する必要がなくなるため、その制御性を良好にすることができ、変速ショックの発生を防止することができる。しかも、この変速の際に、第1の変速段から第3の変速段への変速の状態に応じて第3の変速段から第2の変速段への変速のための第2の係合要素の解放が制御されるため、全体の変速に連続性を持たせることができるので、運転者に違和感を与えることなくドライブフィーリングの向上を図ることができる。
更に、請求項10記載の構成では、変速時に変化する入出力回転数を指標として、解放される第2の係合要素を操作する油圧サーボへの油圧低下を開始することで、第2の変速段への変速に先立って解放される係合要素の油圧サーボの油圧低下が開始されるので、第2の変速段への変速開始をタイムラグなく行うことができ、変速時間を短縮することができる。
また、請求項11記載の構成では、変速時に係合される第3の係合要素の係合開始に関連して解放される第2の係合要素の油圧サーボへの油圧を低下させることで、該係合要素の油圧の低下し過ぎ、つまり滑ることによるエンジン吹きを、係合される第3の係合要素がトルク(係合力)を持ち始めていることで抑制することができ、変速終了時のエンジン吹きを低減することができる。
更に、請求項12記載の構成では、トルクを検出するためのセンサを別途設ける必要がないため、コスト低減を図ることができる。
また、請求項13記載の構成では、変速開始から所定時間後に、解放される第2の係合要素への油圧の低下を開始することで、極めて簡素な構成でもって第2の係合要素の油圧低下を開始することができるため、制御装置のメモリ容量の増大を防止することができる。
更に、請求項14記載の構成では、第2の係合要素が滑り始めるまでの時間を設定し、該時間から解放される係合要素への油圧低下を開始するための回転数を回転加速度により算出することで、第2の変速段への変速開始をタイムラグなく行うことができるとともに、変速終了時における解放される第2の係合要素の滑りによるエンジン吹きも防止することができる。
更に、請求項15記載の構成では、解放される第2の係合要素への油圧の低下を変速状態が進むにつれて所定量ずつ低下させることで、変速状態が進んでいない状態では係合要素の油圧が高めになるため、変速途中におけるエンジン吹き等を防止することができるとともに、変速状態が進むにつれて係合要素への油圧が低くなるため第2の変速段への変速開始をタイムラグなく行うことができる。
また、請求項16記載の構成では、解放される係合要素への待機油圧を設定する際には、理論的にはその時の変速機へ入力される入力トルクに応じた油圧に設定すれば、係合要素は滑ることなく保持することができるのであるが、実際には変速機個体間の係合特性のばらつきや経時変化等を考慮する意味で、ある程度の安全率をプラスして設定するのが通例である。その際に、安全率を大きく取り過ぎると、変速開始が遅れてしまう。逆に、安全率を小さくしすぎると、上記ばらつきが安全率より大きい場合には係合要素が滑りエンジン吹きが生じることとなる。したがって、変速の進行度により前記安全率を大きい値から順に小さくすることで、変速開始の遅れを防止することができるとともに、変速終了時におけるエンジン吹きの発生を確実に防止することができる。
次に、請求項17記載の構成では、キックダウン変速におけるレスポンスの向上を図ることができ、運転者の要求に敏速に対応することが可能となる。
次に、請求項18記載の構成では、第1の係合要素の係合状態により変化する変速の状態により第3の係合要素が係合制御されるため、不要なエンジン吹き又はタイアップを確実に防止することができる。
次に、請求項19記載の構成では、第1の係合要素の係合状態により変化する変速の状態により第4の係合要素が係合制御されるため、不要なエンジン吹き又はタイアップを確実に防止することができる。
次に、請求項20記載の構成では、第3の係合要素の係合状態により係合制御を行うことで、変速時間の増大又は不要なタイアップ等を確実に防止することができる。
次に、請求項21記載の構成では、第3の係合要素の係合が完全に完了してから第4の係合要素の制御を開始することで、不要なタイアップを防止することができる。
次に、請求項22記載の構成では、第3の係合要素の制御開始と同時に第4の係合要素の制御を開始することで、変速時間の短縮を可能とすることができる。また、第4の係合要素は所定のタイミングまではトルクを持たない所定の低圧、すなわちスプリング負荷相当の油圧で保持させているため、不要なタイアップを防止することができる。
次に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1〜図11は本発明の制御装置を適用した自動変速機の第1実施形態を示す。図1に制御装置の信号系のシステム構成をブロックで示すように、この制御装置は、その中核をなす電子制御装置(ECU)2と、それへ各種の情報を入力する入力手段としての各種センサ、すなわち、車両のエンジン回転数を検出するエンジン(E/G)回転数センサ31と、エンジン負荷を検出するスロットル開度センサ32と、変速機の入力回転を検出する変速機入力軸回転数センサ33と、変速機の出力軸回転から車速を検出する車速センサ34とを備え、制御情報に基づく駆動信号の出力で作動する出力手段としての複数のソレノイド、すなわち、図5を参照して後に詳記する油圧制御装置に配設された各ソレノイド弁41〜44のアクチュエータとしてのソレノイド1〜ソレノイド4とで構成されている。
図2は上記制御装置により制御される変速機構の一例としてのFR車用の6速ギヤトレインをスケルトンで示す。このギヤトレインは、ロックアップクラッチ付のトルクコンバータ7と、ラビニョタイプのプラネタリギヤセットGと、シンプルプラネタリタイプの減速ギヤG1との組合せからなる前進6段後進1段の変速機構とから構成されている。
変速機構の主体をなすプラネタリギヤセットGは、互いに径の異なる2つのサンギヤS2,S3と、1つのリングギヤR2と、大径サンギヤS2に外接噛合すると共にリングギヤR2に内接噛合するロングピニオンギヤP2と、小径サンギヤS3に外接噛合すると共にロングピニオンギヤP2にも外接噛合するショートピニオンギヤP3と、それら両ピニオンギヤP2,P3を支持するキャリアC2とからなるラビニョタイプのギヤセットで構成されている。そして、プラネタリギヤセットGの小径サンギヤS3は、多板構成のクラッチ(C−1)(以下、各係合要素について、それらの略号を各係合要素の前に記す)に連結され、大径サンギヤS2は、多板構成のC−3クラッチに連結されると共に、バンドブレーキで構成されるB−1ブレーキにより自動変速機ケース10に係止可能とされ、更にこれと並列するF−1ワンウェイクラッチと多板構成のB−2ブレーキによっても自動変速機ケース10に係止可能とされている。また、キャリアC2は、多板構成の係合要素としてのC−2クラッチを介して入力軸11に連結され、かつ、多板構成のB−3ブレーキにより変速機ケース10に係止可能とされるとともに、F−2ワンウェイクラッチにより変速機ケース10に一方向回転係止可能とされている。そして、リングギヤR2が出力軸19に連結されている。
減速プラネタリギヤG1は、シンプルプラネタリギヤで構成され、その入力要素としてのリングギヤR1が入力軸11に連結され、出力要素としてのキャリアC1がC−1クラッチを介して小径サンギヤS3に連結されると共に、C−3クラッチを介して大径サンギヤS2に連結され、反力を取る固定要素としてのサンギヤS1が変速機ケース10に固定されている。
この自動変速機の場合の各係合要素、すなわちクラッチ、ブレーキ及びワンウェイクラッチの係合・解放と達成される変速段との関係は、図3の係合図表に示すようになる。係合図表における○印は係合、無印は解放、△印はエンジンブレーキ達成のための係合、●印は変速段の達成に直接作用しない係合を表す。また、図4は各クラッチ、ブレーキ及びワンウェイクラッチの係合(●印でそれらの係合を示す)により達成される変速段と、そのときの各変速要素の回転数比との関係を速度線図で示す。
両図を併せ参照してわかるように、第1速段(1st)は、C−1 クラッチとB−3ブレーキの係合(本形態において、作動図表を参照してわかるように、このB−3ブレーキの係合に代えてF−2ワンウェイクラッチの自動係合が用いられているが、この係合を用いている理由及びこの係合がB−3ブレーキの係合に相当する理由については、後に詳記する1→2変速時のB−3ブレーキとB−1ブレーキのつかみ替えのための複雑な油圧制御を避け、B−3ブレーキの解放制御を単純化すべく、B−1ブレーキの係合に伴って自ずと係合力を解放するF−2ワンウェイクラッチを用いたものであり、B−3ブレーキの係合と同等のものである。)により達成される。この場合、入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がC−1クラッチ経由で小径サンギヤS3に入力され、F−2ワンウェイクラッチの係合により係止されたキャリアC2に反力を取って、リングギヤR2の最大減速比の減速回転が出力軸19に出力される。
次に、第2速段(2nd)は、C−1クラッチとB−1ブレーキの係合に相当するF−1ワンウェイクラッチの係合とそれを有効にするB−2ブレーキの係合(これらの係合がB−1ブレーキの係合に相当する理由については後に詳述する。)により達成される。この場合、入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がC−1クラッチ経由で小径サンギヤS3に入力され、B−2ブレーキ及びF−1ワンウェイクラッチの係合により係止された大径サンギヤS2に反力を取って、リングギヤR2の減速回転が出力軸19に出力される。このときの減速比は、図4にみるように、第1速(1st)より小さくなる。
また、第3速段(3rd)は、C−1クラッチとC−3クラッチの同時係合により達成される。この場合、入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がC−1クラッチとC−3クラッチ経由で同時に大径サンギヤS2と小径サンギヤS3に入力され、プラネタリギヤセットGが直結状態となるため、両サンギヤへの入力回転と同じリングギヤR2の回転が、入力軸11の回転に対しては減速された回転として、出力軸19に出力される。
更に、第4速段(4th)は、C−1クラッチとC−2クラッチの同時係合により達成される。この場合、一方で入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がC−1クラッチ経由で小径サンギヤS3に入力され、他方で入力軸11からC−2クラッチ経由で入力された非減速回転がキャリアC2に入力され、2つの入力回転の中間の回転が、入力軸11の回転に対しては僅かに減速されたリングギヤR2の回転として出力軸19に出力される。
次に、第5速段(5th)は、C−2クラッチとC−3クラッチの同時係合により達成される。この場合、一方で入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がC−3クラッチ経由で大径サンギヤS2に入力され、他方で入力軸11からC−2クラッチ経由で入力された非減速回転がキャリアC2に入力され、リングギヤR2の入力軸11の回転より僅かに増速された回転が出力軸19に出力される。
そして、第6速段(6th)は、C−2クラッチとB−1ブレーキの係合により達成される。この場合、入力軸11からC−2クラッチ経由で非減速回転がキャリアC2にのみ入力され、B−1ブレーキの係合により係止されたサンギヤS2に反力を取り、リングギヤR2の更に増速された回転が出力軸19に出力される。
なお、後進段(R)は、C−3クラッチとB−3ブレーキの係合により達成される。この場合、入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がC−3クラッチ経由で大径サンギヤS2に入力され、B−3ブレーキの係合により係止されたキャリアC2に反力を取り、リングギヤR2の逆転が出力軸19に出力される。
ここで、先に触れたF−1ワンウェイクラッチと両B−1、B−2ブレーキとの関係について説明する。この場合は、サンギヤS2に連結したF−1ワンウェイクラッチの係合方向を大径サンギヤS2の第2速段時の反力トルク支持方向に合わせた設定とすることで、F−1ワンウェイクラッチに実質上B−1ブレーキの係合と同等の機能を発揮させることができる。ただし、この大径サンギヤS2は、キャリアC2とは異なり、第2速段時のエンジンブレーキ効果を得るために係合するだけでなく、第6速段達成のためにも係止される変速要素であるため、B−1ブレーキが必要となる。また、大径サンギヤS2は、図4の速度線図でも解かるように、第1速段(1st)達成時には入力回転方向に対して逆方向に回転するが、第3速段以上の変速段の場合は、入力回転方向と同じ方向に回転する。したがって、F−1ワンウェイクラッチは、直接固定部材に連結することができないため、B−2ブレーキとの直列配置により係合状態の有効性を制御可能な構成としている。
このようにして達成される各変速段は、図4の速度線図上で、リングギヤR2の速度比を示す○印の上下方向の間隔を参照して定性的にわかるように、各変速段に対して比較的等間隔の良好な速度ステップとなる。このギヤトレインでは、通常の隣合う変速段間でのアップダウンシフトでは、係合要素の多重つかみ替えを要しないが、跳び変速においては、それを必要とする。ちなみに、特に跳び変速の必要性が生じるダウンシフト時には、6→3跳び変速と5→2跳び変速(ただし、この変速では、B−2ブレーキが制御の簡素化のために第2速以上で常時係合とされているため、F−1ワンウェイクラッチの自動係合がB−1ブレーキの係合の役割を果たす)がそれに当たる。
こうした構成からなる変速機構を前記各クラッチ及びブレーキの油圧サーボの操作で制御する油圧制御装置は、上記跳び変速が容易に可能となるように、各係合要素の油圧サーボは、電子制御装置2からのソレノイド駆動信号で独自のソレノイド弁により個々に独立して直接制御される構成が採られている。図5に具体的回路構成を示すように、この油圧回路は、図において具体的構成を省略してブロックで示すライン圧(車両走行負荷に応じて各係合要素を係合状態に保ち得る回路最高圧)の供給回路に接続されたライン圧油路51に対して、各コントロール弁45〜48が並列に接続され、各コントロール弁は、それぞれのソレノイド弁41〜44により印加されるソレノイド圧に応じて調圧作動する構成とされている。
具体的には、C−1クラッチの油圧サーボ61は、C−1コントロール弁45を介してライン圧油路51に接続され、C−1コントロール弁45のスプール端は、ソレノイド弁41を介してソレノイドモジュレータ圧(ソレノイド弁による調圧ゲインを大きくするためにライン圧をモジュレータ弁を介して減圧した油圧)油路52に接続されている。C−1コントロール弁45は、両端に径差を有するランドを備えるスプール弁とされ、小径ランド端に負荷されるスプリング荷重に抗して大径ランド端にソレノイド信号圧を印加することで、大径ランドでドレンポートを閉じ、ライン圧油路51に連なるインポートと油圧サーボ61に連なるアウトポートとの間を小径ランドで絞りながらライン圧油路51と油圧サーボ61とを連通させ、ソレノイド圧の解放により小径ランドでインポートを閉じ、大径ランドでドレンポートを開放して油圧サーボ61をドレン接続とする構成が採られている。一方、ソレノド弁41は、常開形のリニアソレノイド弁とされ、同様に両端にランドを有するスプールの一端に負荷されたスプリング荷重に抗してプランジャにかかる負荷でソレノイドモジュレータ圧油路52とソレノイ圧油路53間の絞りを調整し、且つソレノイド圧油路53のドレン量を調整してソレノイド圧を調圧する構成とされている。他のC−2クラッチ、B−1ブレーキ、C−3クラッチについても全く同様の各コントロール弁46,47,48と、ソレノイド弁42,43,44と、それらの間のつなぐソレノイド圧油路54,55,56からなる並列の回路構成が採られている。
こうした構成からなる自動変速機は、例えば、第1の変速段を6速段とした場合、6速段から該6速段に対して2段離れた3速段を第2の変速段とする6→3変速のときに、4つの係合要素(C−1クラッチ、C−2クラッチ、C−3クラッチ、B−1ブレーキ)の作動を必要とする。この場合に第1の変速段(6速段)が第1及び第2の係合要素(B−1ブレーキ,C−2クラッチ)の係合で達成され、第2の変速段が第3及び第4の係合要素(C−1クラッチ,C−3クラッチ)の係合で達成される。また、第1の変速段を5速段とした場合、5速段から2段離れた2速段への変速のときにも、4つの係合要素(C−1クラッチ、C−2クラッチ、C−3クラッチ、F−1ワンウェイクラッチ)の作動を必要とする。この場合の第1の係合要素はC−2クラッチ、第2の係合要素はC−3クラッチ、第3の係合要素はC−1クラッチ、第4の係合要素はF−1ワンウェイクラッチとなる。そこで、こうした変速に備えて、本発明に従い変速制御装置には、第1の係合要素(B−1ブレーキ又はC−2クラッチ)の解放を開始させた後に第2の係合要素(C−2クラッチ又はC−3クラッチ)の解放を開始させ、第3の係合要素(C−1クラッチ)の係合を完了させた後に第4の係合要素(C−3クラッチ又はF−1ワンウェイクラッチ)の係合を完了させ、第3の係合要素(C−1クラッチ)の係合を完了させる前に第2の係合要素(C−2クラッチ又はC−3クラッチ)の解放を開始させる変速制御手段21(図1参照)が設けられている。
ここにいう各係合要素の解放及び係合とは、完全解放及び完全係合に至る過渡的なスリップ状態を含むものとする。したがって、解放を開始させるとは、係合要素のスリップが開始されることを意味する。これを油圧により操作される係合要素についていえば、解放の開始とは、係合力の低下によりスリップが開始されることであり、油圧操作によらないワンウェイクラッチについていえば、解放の開始とは、回転部材の回転方向の変化に伴いフリーになることである。同様に、係合を完了させるとは、係合要素のスリップがなくなることを意味する。したがって、係合の完了とは、油圧により操作される係合要素の場合は、係合力の上昇によりスリップがなくなることであり、油圧操作によらないワンウェイクラッチの場合は、回転部材の回転方向の変化に伴いロックすることである。
この形態では、更に、変速制御手段21は、第1の変速段(6速段又は5速段)と第2の変速段(3速段又は2速段)に対して、上記4つの係合要素のうち2つの係合要素(C−1クラッチ、B−1ブレーキ)の作動で達成され、かつ他の2つの係合要素の作動で第2の変速段(3速段又は2速段)が達成される第3の変速段(4速段又は3速段)を設定し、第1の変速段(6速段又は5速段)から第2の変速段(3速段又は2速段)への変速を、第1の変速段(6速段又は5速段)から第3の変速段(4速段又は3速段)への変速を経て、第3の変速段(4逮段又は3速段)から第2の変速段(3速段又は2速段)への変速に移行させるものとされている。この場合の4つの係合要素は、第3の変速段(4速段又は3速段)への変速時に係合されるC−1クラッチと、該変速時に解放されるB−1ブレーキ又はC−2クラッチと、第2の変速段(3速段又は2速段)への変速時に係合されるC−3クラッチ又はF−1ワンウェイクラッチと、該変速時に解放されるC−2クラッチ又はC−3クラッチとなる。
次に、変速制御手段21の具体的構成を6→3変速の場合を例として説明する。この形態での変速制御手段21は、制御装置内のプログラムとして構成され、該プログラムに基づき出力されるソレノイド駆動信号による前記ソレノイド弁41〜44の作動による各係合要素の油圧サーボ61〜64の制御で変速が行われる。以下、変速制御手段21の制御フローを各係合要素ごとに説明する。
まず、第3の係合要素であるC−1クラッチを係合する制御フローを図6に示す。
〔C−1係合制御〕
この制御では、当初ステップS11によりタイマーをスタートさせる(タイマー開始t=0)。次いで、ステップS12によりサーボ起動制御サブルーチン処理を行う。この処理は、C−1クラッチの油圧サーボシリンダ内を満たすための油圧のファーストフィルと、油圧サーボピストンと係合要素の摩擦材との間の隙間を詰めるためのその後のピストンストローク圧を維持する処理であり、クラッチ係合のために通常行われる公知の処理である。次に、ステップS13により変速の進行を判断する指標としての進行状態(Shift R)を判断する(Shift R>S_End 1)。この変速の進行状態(Shift R)は、入力軸回転数や油圧サーボの油圧を判断指標とすることもできるが、本形態では、入出力軸回転数を指標として、
ShiftR=(変速機入力回転数−変速前ギヤ比×変速機出力回転数)×100
/変速機出力回転数×(変速後ギヤ比−変速前ギヤ比)〔%〕
で表されるものとし、例えば70%に設定され、図1に示す変速機入力軸回転数センサ33と車速センサ34による検出値を基に算出される。この判断は、当初不成立(No)となるので、変速が進行し成立に至るまで継続する。上記判断が成立(Yes ) したところで、ステップS14によりC−1クラッチを係合開始させるための昇圧を開始する(dPC1aの傾きでスイープアップ)。この処理は、具体的には、ソレノイド1への駆動信号電流値を制御して、図5に示すソレノイド弁41を調圧作動させ、それによるソレノイド圧でコントロール弁45による油圧サーボの油圧がdPC1aの傾きで上昇する処理を意味する(この駆動信号とサーボ圧の関係は、以下の全ての油圧制御において同様である)。そして、この昇圧を続けながら、次のステップS15で変速の進行状態(Shift R)から、変速が4速同期前、例えば90%に達した(Shift R>S_End 2)か否かを判断する。この判断も当初は不成立となるので、変速が進行して成立に至るまでステップ14に戻るループを繰り返してスイープアップを継続する。ステップS15の判断が成立すると、次に、ステップS16により、今度はC−1クラッチの係合を確実に維持するためにライン圧まで昇圧させる処理を行い(dPC1bの傾きでスイープアップ)ながら、次のステップS17でサーボ油圧がライン圧に達した(PC1>PFULL)か否かの判断を繰り返す。こうして、ステップS17の判断が成立したところでC−1クラッチ係合制御のための6−4変速制御終了となる。
次に、第1の係合要素であるB−1ブレーキを解放する制御フローを図7に示す。
〔B−1解放制御〕
この制御は、先のC−1クラッチ係合制御のための6−4変速制御と同時スタートとされており、先の制御と同様に、ステップS21でタイマをスタートさせる(タイマー開始t=0)。次に、ステップS22によりサーボ油圧を一旦確実に係合を維持できる圧(ライン圧)より若干低い所定圧に維持する処理を行う(PB1=PB1a)。この処理は各変速機ごとの個体差や経時変化によるC−1クラッチ作動のばらつきによるエンジン吹き防止のためのもである。この定圧維持の時間は、次のステップS23により監視され、その判断の成立(タイマt>t_wait)まで継続される。このタイマ時間経過後に、ステップS24によりサーボ油圧を一気に所定圧まで低下させるB−1ブレーキの解放開始処理を行い(PB1=PB1c)、続けてステップS25によりサーボ油圧を徐々に低下させる処理を行いながら(dPB1cの傾きでスイープダウン)、更に次のステップS26による変速の進行度合(Shift R)判断を行う。この場合も、当初は進行度合判断が不成立となるので、ステップS25に戻るループを繰り返す。こうしてステップS26による進行度合判断が成立(Shift R>S_End 2)すると、次のステップS27によりB−1ブレーキのサーボ油圧を完全に抜くための低圧処理を行う(dPB1dの傾きでスイープダウン)。この処理は、ソレノイド弁3がフル出力に達することで自ずと完了するので、特に監視判断を行わずにB−1ブレーキ解放のための6−4変速制御終了となる。
次に、第2の係合要素であるC−2クラッチを解放する制御フローを図8に示す。
〔C−2解放制御〕
この処理の前提として、6−4変速がすでに終了しているときには、このC−2解放制御がそぐわないものとなるので、この場合を除外する意味で、当初のステップS31で6−4変速終了判断を行い、これが成立のときには、以後の処理を跳ばしてC−2解放制御を終了させる。この除外の下に、次のステップS32で更に第3速段へのシフト指令が成立しているか否かの判断を行う(3rd判断)。これにより、他の変速段へのシフトとの峻別を行う。こうして本制御の実行が適切であることが確認された後に、ステップS33によりC−2クラッチのサーボ油圧低下の開始タイミングを決めるための変速の進行状態(Shift R)判断を開始する。この場合の変速の進行状態の判断指標は、変速機入力軸の回転数に基づく値(Shift R_S)とされている。そして、この判断が成立した(Shift R>Shift R_S)ところで、ステップS34によりC−2クラッチのサーボ油圧を一気に所定油圧まで低下させる(PC2=PC2_OS+PC2_to)低圧処理を実行する。この場合の所定油圧は、C−2クラッチへの入力トルクに見合った分の油圧(PC2_to)に安全率分の油圧(PC2_OS)を含むものとされている。
ここで、入力トルクは、スロットル開度とエンジン回転数のマップからエンジントルクを求め、トルクコンバータの入力回転数と出力回転数から速度比を求め、こうして求めたエンジントルクと速度比を乗算することで求めることができる。そして、入力トルクの油圧への変換は、入力トルクを該当する係合要素の油圧サーボのピストン受圧面積と摩擦材枚数と有効半径と摩擦係数とを乗算したもので除し、その値にピストンストローク圧を加算することでなされる。ただし、この場合は、図9に示すように、安全率分の油圧(PC2_OS)を変速の進行に合わせてPC2aからPC2bへ減少させていくものとする。この場合、PC2bを0とすることでC−2クラッチの解放(スリップ)が開始することになるが、この時点を変速の進行が100%より手前の点に設定することが本発明の最も特徴となる点である。この点については、後にC−1クラッチの係合(スリップ)開始タイミングとの関係で詳記する。このように低圧処理を行いながら、次のステップS35で第4速段同期手前を判定するための変速の進行状態(Shift R)判断を行う(Shift R>S_End 3)。そしてこの同期手前判断が成立したところで、今度はステップS36によりC−1クラッチのサーボ油圧(PC1)が入力トルクに対して係合維持に必要な油圧よりも低い油圧(PC1_eg*k)を超えているか否かを判断する(PC1>PC1_eg*k)。この場合のkは係数で例えば0.7程度の値とされる。なお、この判断における入力トルクは、上記のように算出される。この判断の成立により、4速段が完全に達成されていることになるので、続けて4−3変速制御に入る(4−3変速制御開始)。
4−3変速制御の最初のステップS37では、C−2クラッチのサーボ圧(PC2)をdPC2cの傾きでスイープダウンする処理を行いながら、ステップS38で変速の進行状態(Shift R)判断を行い(Shift R>S_End 2)、この判断が成立するまでスイープダウンを継続する。そして、これが成立したところで、最後にC−2クラッチのサーボ油圧を完全に抜くために、ステップS39により低圧処理を行う(dPC2dの傾きでスイープダウン)。この処理も、ソレノイド弁2がフル出力に達することで自ずと完了するので、特に監視判断を行わずにC−2クラッチ解放のための4−3変速制御終了となる。こうしてC−2解放制御終了となる。
次に、第4の係合要素であるC−3クラッチを係合する制御フローを図10に示す。
〔C−3係合制御〕
この制御は、前記C−1クラッチの係合制御と開始タイミングが異なるだけで実質同様のものであり、この制御では、当初ステップS51によりタイマーをスタートさせる(タイマー開始t=0)。次いで、ステップS52によりサーボ起動制御サブルーチン処理を行う。この処理は、C−3クラッチの油圧サーボシリンダ内を満たすための油圧のファーストフィルと、油圧サーボピストンと係合要素の摩擦材との間の隙間を詰めるためのその後のピストンストローク圧を維持する処理であり、クラッチ係合のために通常行われる公知の処理である。次に、ステップS53により変速の進行を判断する指標としての進行状態(Shift R)を判断する(Shift R>S End1)。この変速の進行状態(Shift R)については先述したとおりである。この判断は、当初不成立(No)となるので、変速が進行し成立に至るまで継続する。上記判断が成立(Yes ) したところで、ステップS54によりC−3クラッチを係合させるための昇圧を開始する(dPC3aの傾きでスイープアップ)。そして、この昇圧を続けながら、次のステップS55で変速の進行状態(Shift R)から、3速同期に達した(Shift R>S_End 2)か否かを判断する。この判断も当初は不成立となるので、変速が進行して成立に至るまでステップ54に戻るループを繰り返してスイープアップを継続する。ステップS55の判断が成立すると、次に、ステップS56により、今度はC−3クラッチの係合を確実に維持するためにライン圧まで昇圧させる処理を行い(dPC3bの傾きでスイープアップ)ながら、次のステップS57でサーボ油圧がライン圧に達した(PC1>PFULL)か否かの判断を繰り返す。こうして、ステップS57の判断が成立したところでC−3クラッチ係合制御のための4−3変速制御終了となる。
前記6→3変速制御による4つの係合要素の作動を、サーボ油圧と入力軸回転数との関係で図11にタイムチャートで示す。図において、係合要素回転数は、ブレーキの場合、その回転側要素がエンジン回転と同方向に回転する場合を正、逆を負とし、クラッチについては、クラッチ入力回転に対して出力要素側がエンジン回転方向に増速回転する側を正、逆を負とする。図にみるように、C−1クラッチの係合制御とB−1ブレーキの解放制御は同時に開始され、C−1クラッチのサーボ油圧がファーストフィル圧に昇圧されると同時に、B−1ブレーキのサーボ油圧は、一旦ライン圧より若干低い低圧とされた後に、解放開始の所定圧まで低下させられる。これにより6−4変速が開始され、入力軸回転数は上昇し始める。そして、B−1ブレーキのサーボ油圧は、一定の傾きで低下され、C−1クラッチのサーボ油圧はピストンストローク圧に保持されて、C−1クラッチは係合待機状態となる。このとき、B−1ブレーキのスリップが開始することで、図4を参照して解かるように、係合中のC−2クラッチの係合点を中心として、サンギヤS3が減速方向、サンギヤS2が増速方向に向かう。これにより、B−1ブレーキの回転要素側は係止の0の状態から正方向に回転し始め、C−3クラッチの出力要素側は、入力要素側の減速回転に対して出力要素側の負の回転から出力要素側が増速されて正方向の回転に向かう。一方、C−1クラッチは、エンジン回転に対して大幅に増速された正回転の状態から、エンジン回転と同速となる方向に減速していく。
次いで、入力軸回転数の上昇からC−2クラッチのサーボ油圧低下開始タイミングとなると、C−2クラッチのサーボ油圧は解放開始(スリップ)には至らない程度の油圧まで一気に低下され、そこから所定の傾きで低減されて行く。一方、4速段同期への6−4変速は進行して行き、入力軸回転数から4速段同期手前70%の判断(S_End 1)が成立したところでC−1クラッチのサーボ油圧が上昇させられ、C−1クラッチ係合(スリップ)が進行する。これによりC−1クラッチが係合完了手前90%になると、入力軸回転数による4速段同期手前の判断(S_End 2)が成立するので、C−1クラッチのサーボ油圧はライン圧への昇圧状態に切換えられる。他方、降下制御中のC−2クラッチのサーボ油圧は、その低減制御により4速段同期手前の判断(S_End 3)成立時に解放開始手前に達するに適した油圧となるように制御されてきているので、この段階から傾きを変える第2段階の制御状態とされる。この時点では、C−2クラッチがスリップし始めて負方向回転が生じ、直後に、解放の減速状態からスリップの減速状態で減速してきたC−1クラッチが係合の0回転に向かう。一方、C−3クラッチの回転は増加を続ける。そして、C−1クラッチのサーボ油圧がライン圧に達したことが判断された時点で、C−3クラッチの係合制御が開始される。これにより、C−3クラッチは4速同期(4thが100%)時の回転をピークとして減少し始め、やがてスリップによる減速状態を経て完全係合の回転数0の方向に向かう。このC−3クラッチの係合の進行に合わせた油圧制御は、70%進行及び同期手前の判断が3速段に置き代わるだけで、C−1クラッチの場合と同様である。やがて4−3変速の進行により3速段同期となったところで、C−2クラッチのサーボ油圧は完全解放され、C−3クラッチのサーボ油圧はライン圧まで高められる。このようにして6→3変速が連続する6−4−3変速の形態で実現される。
この場合の解放側のC−2クラッチと係合側のC−1クラッチの挙動が入力軸回転数の変化に与える影響を図12を参照して更に詳述する。図に示すように、仮に、C−1クラッチの油圧サーボの実線で示す昇圧に対して、点線で示すC−2クラッチの油圧サーボの低圧を行った場合には、C−2クラッチがまだスリップし始めないうちにC−1クラッチの係合が完了することになるので、入力軸回転数はトルクの引込みにより図に点線で示すように鈍りを生じ、これが運転者に変速途中のショックとして体感されることになる。こうした入力軸回転数の鈍りは、たとえC−1クラッチの係合完了点(PC1eg)とC−2クラッチの解放開始点(PC2to+PC2b)を理論どおりに一致させることができたとしても、必然的に生じるものである。これに対して、本実施形態による実線で示すC−2クラッチの油圧サーボの低圧によると、C−2クラッチが滑り始めた直後にC−1クラッチの係合完了(完全係合)が生じるようになるため、このC−2クラッチの解放開始直後のスリップ状態とC−1クラッチの係合完了寸前のスリップ状態のときに、適量のエンジン吹きにより上記鈍りを打ち消す入力軸回転数の連続上昇状態を得ることができる。
更に、図13は上記6−4−3変速との対比の意味で従来の6−4,4−3の2段階変速タイムチャートを示す。図13に示すタイムチャートにおいて、実質的な変速期間は、図に両端矢印6−4と、両端矢印4−3で示す期間となり、両変速期間の間に、図にタイムラグとして示す期間が実質的変速が行われない無効期間となるのに対して、図11に示すタイムチャートでは、図に両端矢印6−4と、両端矢印4−3で示す期間が連続することになり、上記タイムラグ分の変速期間の短縮が可能となる。
かくして、上記第1実施形態の変速制御装置によれば、B−1ブレーキの解放の開始の後にC−2クラッチの解放を開始させることと、C−1クラッチの係合を完了させた後に、C−3クラッチの係合を完了させることで、変速期間を通じて1つの係合要素、すなわち、C−2クラッチの解放開始までの係合維持と、C−1クラッチの係合完了からの係合維持とにより、係合が維持される変速期間を長くして、4係合要素が全て滑っている状態が生じる期間をできるだけ短くし、しかもC−1クラッチの係合を完了させる前に、C−2クラッチの解放を開始させることで、2要素が途中で同時に完全に係合することのない変速状態を得ているので、理想の状態で変速を進行させながら、変速が2段階となることのない連続的な変速を行うことができる。
また、C−1クラッチの係合開始の後で、かつ、完全係合の前にC−2クラッチの解放を開始させることで、C−1クラッチの係合開始に伴い生じる変速の鈍り感を、逆に第2の係合要素の滑りにより生じるエンジン吹きで相殺することにより、変速全体としては、滑らかな連続的な変速が可能となる。
しかも、C−2クラッチへの油圧の低下を第3の変速段(4速)への変速状態が進むにつれて所定量ずつ低下させることで変速状態が進んでいないほどC−2クラッチの油圧が高いため、第3の変速段(4速段)への変速途中におけるエンジン吹き等を防止することができるとともに、変速状態が進むにつれてC−2クラッチへの油圧が低くなるため第2の変速段(3速段)への変速開始をタイムラグなく行うことができる。
また、C−2クラッチへの待機油圧を設定する際には、理論的にはその時の変速機へ入力される入力トルクに応じた油圧に設定すれば、C−2クラッチは滑ることなく保持することができるのであるが、実際にはハード系のばらつき等を考慮する意味である程度の安全率をプラスして設定するのが通例である。その際に、安全率を大きく取り過ぎると第3の変速段(4速段)から第2の変速段(3速段)への変速開始が遅れてしまう。逆に、安全率を小さくしすぎると、ハード系のばらつきが安全率より大きい場合にはC−2クラッチが滑りエンジン吹きが生じることとなる。したがって、第1の変速段(6速段)から第3の変速段(4速段)への変速の進行度により前記安全率を大きい値から順に小さ<することで、第2の変速段(3速段)への変速開始の遅れを防止することができるとともに第3の変速段(4速段)への変速終了時におけるエンジン吹きの発生を確実に防止することができる。
そして、特にこの形態では、B−1ブレーキのサーボ油圧の制御を、変速開始と同時に入力トルクに応じた油圧に低下させることで、B−1ブレーキが滑り始めるようにしているため、入力回転数が直ちに上昇を開始する。したがって、この作動が実際の変速時間の短縮に役立つばかりでなく、素早い変速感を生じさせることになり、特にキックダウン変速におけるレスポンスの向上とドライブフィーリングの向上に有効に働き、運転者の要求に敏速に対応した跳び変速となる。
ところで、前記第1実施形態では、C−2クラッチのサーボ油圧を4速段への変速途中から所定勾配で4速段同期手前の変速状態(S End3)まで連続的にスイー プダウンさせているが、この油圧の低下特性は、他の特性とすることもできる。図14はこの特性の変形例を示すもので、4速段への変速開始(回転変化開始)からC−2クラッチのサーボ油圧をスイープダウンさせるものである。図の(A)の特性は、油圧を段階的に低下保持させる例であり、(B)は油圧を所定勾配で低下させる例であり、(C)は低下の勾配を変化される例であり、(D)は所定圧まで低下させて保持する例である。また、油圧低下の開始タイミングは、変速指令が入ったときでもよい。このように、油圧の低下特性は、前記第1実施形態の特性に限らず種々の形態を採ることができる。
同様に油圧低下の開始タイミングについても種々の形態を採ることができる。図15は油圧低下の開始タイミングを変更した第2実施形態の構成を示す。この形態では、6−4変速段階で係合されるC−1クラッチの油圧(PC1)が所定の値(PC1s)を超えたところで、4−3変速で解放されるC−2クラッチの油圧(PC2)の低下を開始する構成とされている。この場合の低圧の当初の油圧(PC2)は、PC2to+PC2a とされる。なお、図において破線で示す特性は、安全率を考慮しない場合の油圧特性を示す。
この第2実施形態のC−2クラッチの油圧(PC2)の低下制御によると、油圧低下の開始タイミングを専ら係合されるC−1クラッチのサーボ油圧の上昇に基づく判断で制御できるため、トルクを検出するためのセンサを別途設ける必要がないので、コスト低減を図ることができる利点が得られる。
次に、図16は、4−3変速段階で解放されるC−2クラッチの油圧(PC2)の低下をタイマ制御とする第3実施形態の構成を示す。この形態では、6−4変速の開始でスタートするタイマ(t)による計時で変速の進行を推定し、4速段同期前のタイミングに合わせてあらかじめ設定した所定時間(Time1)との比較で油圧低下を開始させる方法である。この所定時間(Time1)はマップの形態で変速制御装置にメモリさせておけばよい。なお、この形態のおいても、図において破線で示す特性は、安全率を考慮しない場合の油圧特性を示す。
この制御形態の場合、第3の変速段(4速段)への変速開始から所定時間(Time1)後に、C−2クラッチへの油圧の低下を開始することで、極めて簡素な構成によって第2の変速段(3速)への変速に先立ってC−2クラッチの油圧低下を開始することができるため、変速の進行を判断するためのセンサの設置を不要することができ、更にプログラム処理のための制御装置(ECU)のメモリ容量の増大を防止することができる。
次に、図17は、4−3変速段階で解放されるC−2クラッチの油圧(PC2)の低下を、変速機の入力軸回転数と出力軸回転数を基に制御する第4実施形態の構成を示す。この形態では、C−2クラッチが滑り始めるまでの時間(T)をあらかじめ実験等により設定する。そして、6−4変速中の回転加速度(ΔNt)を求めることで、時間(T)内でどれだけの回転数の変化が生じるかを求める。次に、6−4変速を開始したときの変速機の出力軸回転数に変速後(4速段)のギヤ比を乗算することで、6−4変速終了時の変速機入力軸回転数を予測する。そして、予測された入力軸回転数からC−2クラッチが滑り始めるまでに生じる回転変化量を差し引くことで、C−2クラッチの油圧低下を開始する変速機入力軸回転数(NtS)を算出する。ちなみに、この関係を式で表すと、
Nt>変速後の4速ギヤ比×出力軸回転数−ΔNt×T
となる。この形態のおいても、図において破線で示す特性は、安全率を考慮しない場合の油圧特性を示す。
このようにC−2クラッチが滑り始めるまでの時間(T)を設定し、該時間(T)からC−2クラッチへの油圧低下を開始するための回転数(NtS)を回転加速度(ΔNt)により算出することで、第2の変速段(3速段)への変速開始をタイムラグなく行うことができるとともに、第3の変速段(4速段)への変速終了時におけるC−2クラッチの滑りによるエンジン吹きも防止することができる。
前記の各実施形態は、第1実施形態に対してC−2クラッチの解放のための油圧制御を種々変更したものであるが、次に、第1実施形態に対してC−3クラッチの油圧供給のタイミングについても他の形態を採ることができる。図18はこの点を変更した第5実施形態をタイムチャートを示す。この形態では、C−3クラッチの油圧供給を6−4変速開始と同時に開始し、ファーストフィル後、油圧サーボのピストンが無効ストローク分を詰めて摩擦材が係合寸前の状態となる油圧に低圧(ピストンストローク圧)待機させる方法が採られている。
以上、6→3変速の場合について説明したが、5→2変速の場合についても、変速制御の形態は、制御対象とな係合要素が置き替わるだけで、同様のものとなる。この場合の第1の係合要素はC−2クラッチ、第2の係合要素はC−3クラッチ、第3の係合要素はC−1クラッチとなる。ただし、このギヤトレインの特殊性として、第2速段の達成にB−1ブレーキの係合に代えて第4の係合要素としてF−1ワンウェイクラッチの係合(ロック)を用いる構成が採られているため、6→3変速の場合と異なり、第2変速段階(3−2変速)でのB−1ブレーキの係合のための油圧制御は必要なくなるため、その分制御が簡略となる。
図19は5→2(5−3−2)変速のタイムチャートを示す。この場合、第1実施形態におけるB−1ブレーキに代えて同様の制御手法でC−2クラッチが解放制御され、C−2クラッチに代えて同様の手法でC−3クラッチが解放制御される。そして、上記のようにC−3クラッチに代わるべきB−1ブレーキの係合は、F−1ワンウェイクラッチの自動係合に替わるため、非制御とされている。この場合の各係合要素の回転は、第1実施形態の図11に示すタイムチャートと同様の手法で描いた係合要素回転数の線図と図4の速度線図との照合を以て説明に代える。この5→2変速の場合、第3の変速段(3速段)から第2の変速段(2速段)への変速において、解放側となる第2の係合要素としてのC−3クラッチを操作するのみで変速を行うことができるため、制御の簡素化を達成することができる。しかも、図に示すF−1ワンウェイクラッチの回転数の変化から解かるように、C−2クラッチの完全解放と同時に自動的にF−1ワンウェイクラッチのロックが生じることで変速が終了するため、変速期間の短縮も可能となる。
最後に図20は、例示のギヤトレインには当てはまらないが、一般的に、上記の係合関係とは逆に、第3の変速段でワンウェイクラッチによる係合がブレーキ係合に代えて用いられているギヤトレインの場合の変速のタイムチャートを示す。こうした場合、図示のように、第1変速段階による第3の変速段への同期が、この場合の第3の係合要素を構成するワンウェイクラッチのロックにより判断可能となり、しかも係合油圧の制御は第2変速段階時に単一の係合要素のサーボ油圧の制御となるため、制御は一層単純なものとなる。
以上、本発明を特定のギヤトレインにおける代表的な実施形態を挙げて詳説したが、本発明の思想は例示のギヤトレインに限定されるものではなく、4つの係合要素が関連する変速における係合要素の係合・解放関係が2要素同時つかみ替えとなる全てのギヤトレインに適用可能なものである。