JP5002803B2 - ダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法に関する。
ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:以下「DLC」ともいう。)の研究は、1970年に東京農工大学の難波らの研究グループによって始められ、1979年にはダイヤモンド状の薄膜を発表して話題となった。
そして現在、DLCはプラズマCVD(Chemical VaporDeposition)装置や、PLD(Pulsed Laser Deposition)法などを用いて作製され、主に工具の硬質被覆材として実用化されている。また、最近ではDLCを次世代半導体と捉え、可変バンドギャップの性質を利用して、ディスプレイ等に用いられる電子放出素子として応用されることが期待されている。
すなわち、現在のエレクトロニクスは、シリコン半導体を中心とする電子デバイスによるが、今後、シリコン半導体だけでは、これらあらゆる分野のエレクトロニクス化に対応することができないことが考えられる。特に送電システムなどエネルギー輸送に用いる電子デバイスは、現在のシリコン半導体の電子デバイスでは達成できない高パワー・高周波・高集積が必要であり、このためには、その物性値からみてシリコン半導体より優れている炭化ケイ素、ダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体、DLCなどの可変バンドギャップ半導体による開発が期待されている。
ダイヤモンドは、そのバンドギャップがSi、GaAs、SiCと比較して圧倒的に大きい(5.5eV)ことが最大の特徴である。また、耐熱性・耐化学薬品性・耐放射線性などでも他の材料より優れている。このような理由で、ダイヤモンド薄膜及びダイヤモンド薄膜と同様な性質を有するDLC薄膜は、電子デバイスとして、自動車、航空、宇宙、原子炉など幅広い分野への応用が強く期待されている。
また、ダイヤモンド及びDLCの特徴的な物性を活かす応用分野としては、電子エミッタ材料への利用が挙げられる。それらは他の半導体材料と異なり、固体から電子が自ら飛び出しやすい状態(NEA状態:Negative Electron Affinity状態)にすることができ、この性質を利用して、現在のプラズマディスプレイや液晶ディスプレイ、次世代の平面ディスプレイの電子放出材料としても期待されている。
このような次世代半導体として期待されているダイヤモンド、DLCを比べると、DLCは、可変バンドギャップという性質でダイヤモンドより優れているといえる。以下、DLCについて説明する。
(DLCとは)
炭素の形態は多様である。これは、炭素原子が4本の結合手を持つこと、さらに、これらの電子状態が種々の混成準位(SP、SP、SP)を形成することに起因する。炭素の同素体としては、ダイヤモンド、グラファイト、カルビン、C60、C70等が知られている。このうち、ダイヤモンドはSP混成軌道の三次元結晶、グラファイトはSP混成軌道の二次元結晶、カルビンはSP混成軌道の一次元結晶、C60やC70等はグラファイト同様にSP混成軌道であるがサッカーボールの形をした三次元の分子である。これに対して、DLCはSP、SPの混成軌道のアモルファス構造(非結晶質構造)であり、多くのダイヤモンドに似た特性、特徴をもっている。
(DLCの主な特徴)
(構造的特徴)
DLCは、ラマン分光分析による構造解析などから、非晶質なSP構造の中に非晶質のSP構造を持つものが分散した形で含まれるものと考えられる。つまり、ダイヤモンド構造に対応するSP結合を持ってはいるが、部分的にグラファイトの構造に対応するSP結合やH結合を含むために、長距離秩序的には決まった形を持たない。
(基本的特性)
薄膜状ダイヤモンドは、天然には存在しないものである。一方、天然ダイヤモンドの性質は、あらゆる物質の中でも最高の硬さを有し、熱的には絶縁性でありながら最も高い熱伝導性をもち、光学的にも屈折率が最も高い値を示すという極めて優れた性質をもつ材料である。DLCはそのダイヤモンドがアモルファス状であると思われる。DLCは、I−カーボン、硬質炭素膜、非晶質炭素膜(a−C)、水素化炭素膜(a−C:H)などと呼ばれている。それぞれの呼び名は、作製プロセス、膜質、膜構造のどの面を重視するかで変わってくる。
DLCの定義も、必ずしも明瞭ではなく、特に定量的に決められているわけではない。ダイヤモンド膜にしても、グラファイト状炭素が部分的に含まれていることが多いため、DLCとの明確な境ははっきりしていないが、DLCはSP、SP、ポリマーの各成分を含有していて、茶、もしくは黒色で表面平滑な硬い膜である。さらに、スパッタ装置以外で作製されたDLC膜は、H結合をも有している。
DLCは、高硬度、低摩耗、低摩擦、表面平滑性に優れている特徴を持っている。ビッカース硬度Hvが2000〜5000、電気抵抗率が10〜1014Ω・cmである。また、赤外領域で透光性があり、高屈折率等を示す。また、O、COなどの気体の透過が非常に少ないので、これを利用して食品や薬品の包装紙や容器に用いること等も検討され、一部では既に商品化されている。
そして、最近DLCの特徴として最も注目されている特性は、既に述べたように次世代半導体材料としての特性である。DLCが、SP、SPの構成比によって変化させることのできるバンドギャップを持つことや、NEA状態を取り易いこと等がそれにあたる。
なお、DLCは、コーティング材(硬質被覆材)としては今までに数多くの研究がされてきているが、半導体としては未だ十分な研究がされていないのが現状である。ゆえにコーティング材としてではなく半導体としての研究を進めることが現代の課題となっている。
(ダイヤモンド薄膜との比較)
DLCとダイヤモンド薄膜の特性の違いについて、天然ダイヤモンド、グラファイトを比較対象に加えて表1に示す。なお、DLCについては、H結合を有するものと、H結合を有しないものに分けて示してある。
CVDにより製造されたダイヤモンドもDLCも、種々の特性についてダイヤモンドに近い値をとる。もっとも、ダイヤモンドとDLCとで大きく異なることがある。1つめはバンドギャップで、ダイヤモンドが5.5eVなのに対し、DLCは可変バンドギャップである。その可変域は、DLC自体に明確な定義がないため具体的に上げることは困難だが、強いて挙げるとするとグラファイトの0eVからダイヤモンドの5.5eVの範囲ということになる。DLCは、構成するSP及びSPの割合でバンドギャップは変化するのである。2つめは熱伝導性である。これは、結晶構造をとっているダイヤモンドが、アモルファス構造であるDLCよりも熱伝導がし易いためである。
(表面構造)
DLCは、特徴的には緻密なアモルファス構造をしている。比較のために、DLC、ダイヤモンド及びグラファイトの各結晶構造をそれぞれ図21、図22及び図23に模式図で示す。各図において図中丸印で示す炭素原子が、隣接する炭素原子とどのように結合しているかにより、構造の相違が明らかである。DLCの表面は非常に滑らかであり、結晶粒界がない。その際立った表面特性である平滑性のために、DLCは優れた摩耗、摩擦特性を示すのである。摩耗、摩擦試験において比べられた値をみても、DLCの数値は他の硬質な薄膜と比べて、圧倒的に低い摩擦係数と優れた耐摩耗性、低攻撃性を示していることがわかる。しかし、DLCが400℃を超える環境下に置かれると、アモルファス構造が変化していき、DLCの特徴がなくなってしまい、炭素質膜になってしまう。
このように優れた特質、特性を有するDLCの製造方法に関しては、従来、プラズマCVD法やパルスレーザ蒸着法などが用いられてきた。このような従来のDLCの製造方法に関して、プラズマCVD法によるDLC膜の形成方法は、例えば、特許文献1に記載されている。
しかし、プラズマCVD法やパルスレーザ蒸着法といった従来のDLC膜の形成方法では、DLCを成膜させるのに、成膜させる対象物近傍を高真空度の環境にしなければならず、設備が大掛かりになるし、また、生産性も高いとはいえなかった。
また、関連技術に関して、特許文献2には、擬似ダイヤモンド被膜を形成するのに熱フィラメント蒸着反応装置を用いることが記載されているが、この熱フィラメント蒸着反応装置もまた、真空雰囲気中での成膜であるので、設備が大掛かりになるし、また、生産性も高くないという問題があった。また、特許文献3には、メタンガスを原料ガスとしてマイクロ波プラズマCVD法によりダイヤモンド粒子を形成することが記載されているが、このマイクロ波プラズマCVD法も真空雰囲気中での成膜であるので、設備が大掛かりになるし、また、生産性も高くない。更に、特許文献4には、熱フィラメントCVD法により被処理材表面に黒鉛質やダイヤモンド質粒子を生成することが記載されているが、この熱フィラメントCVD法もまた、真空雰囲気中での成膜であるので、設備が大掛かりになるし、また、生産性も高くない。
特開2005−002377号公報 特許第2939272号明細書 特開2002−281991号公報 特開2004−288460号公報
本発明は、上述した問題を有利に解決するものであり、可変バンドギャップにより次世代半導体として期待されているダイヤモンドライクカーボン膜を常圧で成膜させることを可能にして、これにより簡便な設備によっても成膜でき、さらには生産性の向上をも図ることのできるダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、Siからなる基体の表面上に、Niを含む金属化合物、Coを含む金属化合物、およびFeを含む金属化合物から選ばれる1種又は2種以上金属化合物を含有する溶液を塗布し、この基体の表面上に前記金属化合物を形成させる工程と、前記金属化合物が表面上に形成された基体を、常圧の炭化水素ガス含有雰囲気中で1400℃以上に加熱することにより、前記基体の表面上に、炭化水素ガスの熱分解によるダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程とを有し、前記金属化合物の金属原子の数量が、基体を構成する原子の単位表面積当たりの原子の個数の100分の1を超え、1未満となる範囲にて、前記金属化合物は前記基体の表面上に形成されることを特徴とするダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法である。
本発明のダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜を、常圧雰囲気中で成膜させることができる。したがって、簡便な設備によっても成膜でき、さらには生産性の向上をも図ることができる。
以下、本発明のダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法について、より具体的に説明する。
まず、ダイヤモンドライクカーボンを成膜させる基体上に、触媒作用を有する遷移金属から選ばれる1種又は2種類以上を複合した金属化合物を含有する溶液を塗布し、この基体の表面上に前記金属化合物を形成させる。この金属化合物は、炭化水素ガスの熱分解によりダイヤモンドライクカーボン被膜を成膜させる際の触媒となるものであり、この触媒を、成膜させる基体の表面に予め形成させておくことにより、炭化水素ガスの熱分解によりダイヤモンドライクカーボン被膜を、工業上実施可能な温度範囲にて、密着性良く成膜させることができる。
このような炭化水素ガスの熱分解反応によりダイヤモンドライクカーボン被膜を生成させるときの触媒金属としては、Ni、Fe、Co、Ru等の遷移金属が挙げられる。これらの遷移金属は、炭化水素ガスの熱分解によりダイヤモンドライクカーボン被膜を生成させるときの触媒として、同じ効果を有していて、1種又は2種以上を複合させて用いることができる。なお、本発明で用いる遷移金属は、上記したNi、Fe、Co、Ruに限定されず、炭化水素ガスの熱分解によりダイヤモンドライクカーボン被膜を生成させる反応の触媒となり得る遷移金属であればよい。
また、基体の表面に前記触媒金属を形成させるには、触媒金属そのものを微粉として付着させるよりも、触媒金属の化合物を溶液中に溶解又は微細分散させ、その溶液を塗布し乾燥させることにより金属化合物を前記基体上に形成させた後、化学反応、例えば還元反応により触媒金属を現出させたほうが均一性の面からも作業効率の面からも好ましい。したがって、本発明では、Ni、Fe、Co、Ru等の触媒作用を有する遷移金属から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物を用いることとする。なお、前記金属化合物としては、金属となることにより触媒作用を有するものに限られず、金属化合物そのものが触媒作用を有するものであってもよい。
金属化合物としては、溶媒に容易に溶解するものが好ましく、金属塩、例えば金属の無機酸塩があり、具体的には、硝酸ニッケル(Ni(NO・6HO)を用いることができる。硝酸ニッケルは、水に溶け易く、またアルコールにも溶解する。また、硝酸ニッケルは、高温環境下で炭化水素ガスが熱分解したときに生成する水素ガスにより還元されて、基体上に金属ニッケルが生成され、この金属ニッケルが触媒として作用すると考えられる。他の金属化合物としては、塩化ニッケルやニッケルカルボニルを用いることもできるが、塩化ニッケルを用いた場合には、高温加熱により塩素ガスが生成して環境を汚染するおそれがあり、また、ニッケルカルボニルは毒性を有する化合物なので取り扱いに注意を要する。そのため、これらの不利がなく、また、比較的安価で入手が容易な硝酸ニッケルを用いることは有利である。
金属化合物を溶解又は微細分散させる溶媒は、水、低級アルコール又はこれらの混合物を用いることができる。
金属化合物の溶液を塗布して形成させる割合は、金属化合物の金属原子の数量が、基体を構成する原子の単位表面積当たりの原子の個数の約10分の1となる割合とするのが好ましい。金属化合物は、金属として又は金属化合物そのものとして炭化水素ガスの熱分解によるダイヤモンドライクカーボン生成の触媒として作用し、基体の表面上にそのまま残存することになる。そのため、金属化合物の量が、あまりに多いと、ダイヤモンドライクカーボンを半導体装置の構成材料として用いる場合に、例えば、触媒としてのニッケルと基体としてのシリコンとが化合して、半導体装置の動作に何らかの影響を及ぼす可能性がある。しかし、金属化合物の量があまりに少ないと、触媒としての作用が十分でなく、ダイヤモンドライクカーボン膜が十分に形成されなかったり、膜の密着性が十分でなかったりするおそれがある。これらの観点から、金属化合物の金属原子の数量が、基体を構成する原子の単位表面積当たりの原子の個数の10分の1程度となる割合とするのが好ましい。好適範囲としては、前記原子の単位表面積当たりの原子の個数の100分の1を超え、1未満となる範囲とすることができる。
金属化合物の溶液を基体の表面上に塗布する方法としては、ロールコータ、スピンコータのような塗布装置を用いて塗布してもよいし、また簡易的に基体の表面上に予め秤量された溶液を滴下してもよい。さらに、基体の表面にマスキングを行うことにより、基体の表面の一部に選択的に金属化合物を形成させるようにすることもできる。
金属化合物を含有する溶液を塗布し、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成させる基体としては、炭化水素ガスの熱分解反応が生じる高温に耐え得る材料であれば特に限定されるものではないが、ダイヤモンドライクカーボン膜を可変バンドギャップの性質を利用した次世代半導体材料として利用するときには、基体に、シリコンやガリウムヒ素などの単結晶半導体材料を用いることができる。また、基体に酸化物や窒化物などの単結晶又は多結晶のセラミックスを用いることもできる。
なお、金属化合物を含有する溶液を塗布する前に、基体の表面を清浄状態にしておく必要があり、そのために予め基体表面をエッチング処理することは好ましい。
次に、本発明のダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法においては、金属化合物が表面上に形成された基体を、炭化水素ガス含有雰囲気中で1400℃以上に加熱することにより、前記基体の表面上に、炭化水素ガスの熱分解によるダイヤモンドライクカーボン膜を形成する。
このように炭化水素ガス含有雰囲気中で1400℃以上に加熱することにより、炭化水素ガスの熱分解が行われるとともに、還元性雰囲気により成膜の初期段階において硝酸ニッケルが還元されて金属ニッケルとなり、触媒の作用を果たし、熱分解により生じた炭化水素ガス中の炭素が、基体表面上にダイヤモンドライクカーボンとして生成する。基体上に金属化合物が表面上に形成されていない場合には、1400℃以上に加熱してもDLCが生成されず、生成した場合であっても良好な膜が得られない。
基体上に金属化合物が表面上に形成されている場合には、1300℃以上でDLCが生成されるが、1400℃未満の温度では、DLC膜の密着性が十分ではない。また、1300℃程度の温度では、基体を収容して所定の雰囲気にする加熱装置の内壁部にカーボンが付着してしまい、試料にこのカーボンが付着する可能性があり、また、装置の維持管理が難しくなる。したがって、基体の加熱温度は、1400℃以上とする。なお、加熱温度の上限については、成膜させる基体や成膜装置の耐熱性により工業上の実施が制約される。例えば、加熱装置の外壁に石英管を用いた場合には、石英ガラスが1500℃を超えたあたりから軟化が始まることから、加熱温度の上限は1450℃程度となる。もっとも、基体を赤外線アニール炉により、赤外線の表面加熱により加熱する場合には、基体を成膜装置の耐熱温度以上に加熱することができるので、1450℃以上に加熱することができる。
基体を加熱する際の雰囲気は、炭化水素ガス含有雰囲気とする。この炭化水素ガスが熱分解によるDLC膜の原料ガスとなるからである。炭化水素ガスとしては、メタンガス、エチレンガス、アセチレンガスなどを用いることができる。これらのうち、メタンガスは、入手が容易で安価であり、また、安全性も比較的高く取り扱いが容易であるので、メタンガスを用いることが好ましい。具体的には、メタンガスと不活性なアルゴンガスとの混合ガスを用いることができる。
基体を加熱してダイヤモンドライクカーボン膜を生成するときは、常圧で行うことができる。したがって、プラズマCVD法やパルスレーザ蒸着法のように減圧雰囲気や真空雰囲気に維持する必要がないので、製造設備は簡単なもので済み、また、維持管理も容易である。更に、複数の基体を成膜装置に連続的に供給して、連続的に成膜させることも可能になるので、基本的にバッチ処理になるプラズマCVD法やパルスレーザ蒸着法に比べて、生産性を向上させることができる。
本発明に従い、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成させる成膜装置の一例を、図面を用いて説明する。
図1は、成膜装置をブロック図で示したものであり、加熱装置1aには加熱手段1bが設けられており、この加熱装置1a内には、成膜させる基体Sが基体Sの支持装置1cに取り付けられている。加熱手段1bは電源4からの電力を受けて加熱装置1a内を加熱するものであり、電熱線や誘導加熱装置や赤外線照射装置などがある。
加熱装置1aには、ガス供給源2から炭化水素ガス含有ガスが所定の流量で連続的に供給される。このガス流量は、流量制御装置3により制御される。流量制御装置3は、流量計及びこの流量計からの流量データに基づいて流量を一定に維持する制御装置と、この制御装置からの指令により流量を調整するバルブとを有している。なお、この流量制御は、ガス供給源2から供給されるガスの流量があらかじめ定まっている場合には省略することも可能である。
加熱装置1aには温度制御装置5が設けられている。この温度制御装置5は、温度計と、この温度計からの温度データに基づいて加熱装置内を一定温度に維持する制御装置とを有していて、この制御装置からの信号に従って電力を調整し、加熱装置1a内の温度を一定に保つ。なお、加熱装置1a内の温度調整、温度維持の制御は、簡易的には、手動で行うことができ、この場合は温度制御装置5を省略することもできる。
次に、本発明のダイヤモンドライクカーボン膜の成膜を、種々の条件で行った実験について説明する。
(試料及び原材料)
本実験では、炭化水素ガス含有ガスとしてAr−CH混合ガスを用い、成膜させる基板としてp−タイプSi(100)ウェハーを用い、触媒として硝酸ニッケル水溶液を用いた。
Ar−CH混合ガスは、混合割合がAr:90vol%、CH:10vol%の混合ガスである。
Si(100)基板は、シリコンウェハーを10mm×10mmの大きさに切り、超音波洗浄器を用いてメタノール、アセトンの順でそれぞれ超音波洗浄をした。次いでSi基板表面上にあるSiO層の除去を行うため、フッ酸溶液に10分間浸しエッチング処理をした。このエッチング処理の反応式は、次のとおりである。
SiO+6HF→HSiF+2H
エッチング処理後は、再度、蒸留水、アルコール、アセトンで洗浄後、実験系内に導入することでSi基板表面の洗浄面を得た。
触媒としてSi基板上に使用する硝酸ニッケル水溶液は、触媒として使用するのに適した量について、Si基板の10mm×10mm表面のSi原子の数(約1015個)の約10分の1とし、約1014個の硝酸ニッケル原子を基板上にのせた。その方法は以下のような計算、作業にした。
1.硝酸ニッケル原子1014個の質量を次式により計算した。
1014÷(6.02×1023)=0.166×10−9(mol)
硝酸ニッケル:1mol=290.79gより
290.79×0.166×10−9≒48.27×10−9(g)
2.水溶液0.1ml中に48.27×10−9グラムの硝酸ニッケルを含んだ水溶液を作った。すなわち、硝酸ニッケルを所定量で蒸留水に溶かし薄め作製した。
3.Si基板上に前記作業2で作製した水溶液を0.1mlたらし、ドライオーブンを使用し水分を蒸発させた。
(実験装置)
プラズマCVD装置による成膜やPLD法による成膜と違い、それ専用とした既製の実験装置はない。よって、本実験では、実験装置は自ら組立て使用した。組み立てるのに使用した材料は以下のとおり。組立てた装置は図2に示す。
・石英管(長さ67.6cm、内円半径6cm、外円半径7.5cm)、
・シーロンテープ(目張り材)
・チューブ×2(Ar−CH混合ガス導入用、排気用)、
・カンタル線、
・断熱ブロック、
・スライドトランス(電圧源)、
・断熱用グラスウール(ガラス繊維)、
図2に示すように、加熱装置となる石英管11aの外周面に電熱線であるカンタル線11bを巻き掛け、このカンタル線11bを電源であるスライドトランス14に接続し、また、石英管11aの両端面にはそれぞれガス導入、排出用のチューブを接続し、一方のチューブからAr−CH混合ガスを石英管11a内に連続的に導入し、他方のチューブから使用後のガスを排出する。カンタル線11bの周りには断熱用グラスウールを巻きつけ、さらにその装置を断熱ブロック上に配置することで実験装置は完成である。この石英管11a内にシリコン基板Sを入れて、ガスを流しながら加熱する。
この実験装置により成膜された試料は、XPS装置、FE−SEM装置、ラマン分光分析装置、表面形状測定装置により各種の分析、計測を行った。これらの分析装置について以下説明する。
1.XPS:x−ray photoelectron spectroscopy(X線光電子分光法)
(歴史と原理)
X線光電子分光法、ときにはESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも呼ばれ“Electrons ejected from materials by monoenergetic x−ray photons are analyzed”の技術を基本としている。歴史的には1950年Steinhardtらによる報告があるが励起源を選択し、高分解能のスペクトルを得、その化学情報に注目してESCAの名をつけたりして精力的に研究を進め、今日に至っているのはK.Siegbahnらの研究に負うところが大きい。
ある物質を構成する元素のあるエネルギーレベルの束縛エネルギー(ここでは真空レベルが基準)をE (k)、これに照射したX線のエネルギーhν、放出される光電子の運動エネルギーをEkinとすると次式の関係
hν=E (k)+Ekin(実際はこれに分光器、試料の仕事関数などの項φが入ってhν=E (k)+ Ekin+φ)が得られるとされている。
しかし、光電子放出以外にオージェ電子放出、二次電子放出などがあるため、波動関数的な全エネルギーの変化で表現すると
Ψ tot(N)・E tot(N)・・・ψ(N、K)・E tot(N、K)
初状態(initial state)終状態(final state)で示される。ただしΨ tot(N)は全エネルギーE tot(N)に相当する初状態のN電子の波動関数、Ψ tot(N、K)は全エネルギーE tot(N、K)に相当するK番目の終状態のN電子の波動関数である。このようなエネルギー変化により固体表面のX線光電子スペクトル発生は図3のように示される。そして表面分析、固体表面の物理や化学などに応用される。
(装置)
XPS装置は電子線測定という原則、放出される電子の運動エネルギーから情報の測定範囲が極表面という条件により、超高真空(10−torr以下)装置として組み上げられる。超高真空を実現するためには低真空側ではロータリーポンプ(油回転ポンプ)、高真空側ではディフィージョンポンプ(油拡散ポンプ)、ゲッタポンプ(サブリメーションポンプ)、スパッタイオンポンプといった真空装置を併用して、徐々に高い真空を作っていかなければならない。
XPSに用いられる励起源は紫外線領域やX線領域になる種々のものが用いられるが、MgKα、AlKα(単色化したもの)が多く用いられる。X線強度を増すために大電流の回転陰極型X線源の応用、その他計測システムの高感度化などが試みられている。エネルギー分析器の多くは現在半円もしくは円筒型の静電阻止電位型エネルギー分析器を採用している。もちろん電算機によるデータ処理はこれらの装置では一般的事項として受け止められている。
(スペクトル)
XPSのスペクトルは図3に示した過程で各元素、各軌道により定まる束縛エネルギーをもって各元素から出現する。励起源のX線のエネルギーからこの束縛エネルギーを差し引き、分光器などの仕事関数の補正が入れば、放出される電子の運動エネルギーとなるわけである。この他にX線励起オージェ電子スペクトルが各エネルギーのところに出現する。
(1) 内殻レベル
光電子スペクトルの内殻レベルのスペクトルはj−jカップリングでは、その強度比はほぼ(2j+1)で与えられる。スペクトル線の強度については、後の定量性で述べる。ピーク幅はスペクトル線がガウス型とすれば半値全幅(FWHM)をΔEとすると
ΔE=(ΔE +ΔE +ΔE )1/2
ただしΔEnは内殻レベルのスペクトル幅、ΔEpはX線幅、ΔEaは分光器の分解能である。スペクトルとしてはオージェ遷移、他の化学シフト、帯電などで幅広いピークを与える。
(2) 最外殻レベル
価電子帯は絶縁物質か電気伝導体かによるバンドギャップの存在で、その出現の様子が異なる。その半値幅は内殻レベルのスペクトル線より広い。
(3) オージェシリーズ
図3に示した過程でオージェピークが出現するが使用するX線のエネルギーにより束縛のエネルギーが異なるが、運動エネルギーは一定である。
(スペクトルからの情報)
XPSでは、スペクトルからの情報で物質情報を得るわけであるが、それらの中で代表的なものについて以下に簡単に説明する。
・ 内殻レベルの化学シフト
XPSの内殻レベルのスペクトルにしばしば化学シフトが観察される。すなわち不等価な原子で酸化数が異なる場合、存在する周辺分子が異なる場合、格子内位置が異なる場合などではcharge potential modelに基づく次式でその状態が説明されることが多い。
=E +kq+Σq/rij
は原子iのある内殻レベルの束縛エネルギー、E は標準エネルギー、qは原子iの電荷、Σq/rijは周辺の点電荷jの合量、rは平均価電子半径である。これら化学シフトに関する式は緩衝効果を含まないなど、単純化するための仮定が入っていたりして必ずしも実際とは一致するわけではない。
・ 価電子帯構造
物質の電子構造、特に帯構造の研究に有効で、絶縁体や伝導体の遷移電子密度の変化などが測定できる。
・ オージェ化学シフトと形状
オージェ化学シフトは、原子内、原子外緩和エネルギーに関連し、いわゆるオージェパラメータとして状態分析の一つの指針となる。オージェ電子放出過程の最終レベルが価電子帯とかかわる場合には同一元素でも化合物ごとにそのプロファイルは変わる。
・ X線サテライト、ゴースト
XPSスペクトルの観察で励起源のX線、例えばAlKαが単色化されていない場合にはKα3α4によるサテライトピークが約10eV高運動エネルギー側にかなり明確に出現してくることはよく知られている。もちろんターゲット中に不純物が含まれたりすると、XPSもゴーストとして出現する。
・ 多重項分裂(Multiplet splitting)
価電子帯に不対電子をもつ化合物が内殻レベルにピーク分裂を起こす。例としてMn2+イオンの3sレベルの場合は5個の3d電子はすべて平行スピンの不対電子(6s)である。3s電子が放出されたあと、不対電子が存在し、そのスピンが3d電子のそれと平行(終状態5s)なら交換反応が起こって生じる。全スピンをSとすると、その分裂した3s相互の強度比はI(S+1/2)/I(S−1/2)=(S+1)/Sで示される。Mn2+中の3sについては(5/2+1)/5/2=1.4である。そしてそのエネルギー差は6.5eVであるが、緩和効果、その他でかなりその値は異なる。
・ シェ−クアップサテライト(Shake up satellite)
内殻の電子が光イオン化されて、外殻の電子がその急激なポテンシャル変化に追随できず、原子から振り出されてイオン化してしまう。これをシェ−クオフ(shake off)という。
一方シェ−クアップは完全にイオン化されるのではなく、原子のあいた軌道にとらえられた状態で励起されることをいう。
シェ−クアップサテライトはCuO、Cu2+化合物(3d)CuO、Cu2+(3d10)の例がよくもち出される電荷移動(charge transfer)または電子相関(electron configuration)によるものといわれ不対電子をもつ遷移金属化合物では強いシェ−クアップサテライトが出現し不対電子数や、配位子の種類に応じて強度やエネルギーが変化する。
(角度効果)
試料表面と光電子のなす角をθとすると、有効脱出深さはsinθに比例し、θ=90°における脱出深さを1とすればθ=5°付近で0.1に減少する。この効果を利用すると表面付近の組成の変化を調べることができる。また、このように角度を変えてXPSデータから薄膜などの膜厚を測定することにより、そのできた薄膜がどのように分布しているか(島状になっている、均一になっているなど)を調べることができる。
(XPSの留意事項)
・ 装置関数
分析化学では、個々の装置はそれぞれ異なった特性を持っているとして定性、定量測定をスタートする。換言すれば標準物質により装置特性を求め規格化する。装置特性は各装置で異なるためメーカーが変わればもちろんのこと同一メーカー、同一機種でもその特性は異なる。そして使用時間によっても変化する。そのため定量測定を行う時には何らかの方法で前もって装置関数を求めておき定期的にチェックする必要がある。
・ 装置の真空度と真空の質、そして汚染
XPSなど低エネルギーの電子を測定するため装置は超高真空機器である。現在の測定機器は一般に10−8Pa(10−10Torr)程度の真空度に保たれている。測定試料にもよるが清浄金属表面の測定では、この程度の真空度では不安があるが、逆に試料の分解が生じる時もある。一方、真空の質により炭素や酸素の汚染が比較的短時間で認められる場合もある。いずれにせよ測定する表面が何か、そこからどんな情報を得たいかによって真空の度合や質が考慮されなければならない。また、試料としてセレンや亜鉛など蒸気圧の高い試料は装置内に痕跡を残すことがあるので注意が必要である。更に、高真空を得るために試料をセットしてからベーキングをすることがあるが試料により注意しなければならない。
2.FE−SEM(電界放射走査型電子顕微鏡)
(FE−SEMとは)
FE−SEMは、試料に電子線を照射し、その表面形態を観察する装置である。試料に電子線を照射すると、試料表面から2次電子が発生する。細く絞られた入射電子ビームを試料表面に走査させ、発生した2次電子を検出し、発生量を輝度の信号に変換すると目的のSEM像が得られる。2次電子は凹凸のうち凸部分の方が発生量が多いため、SEM像では凸部分が明るく、凹部分が暗いものとなり、三次元的な凹凸をディスプレイや写真のような二次元の像として表すことができる。SEM観察を行うには、試料に金属やカーボンを蒸着し、導電性を付与する必要がある。これは試料に導電性がない場合、試料表面に電荷がたまり(チャージアップ)、正常なSEM像が得られないからであり、また、観察時の環境は高真空下であるため、生体試料などの含水試料は脱水処理が必要となる。他の材料でも断面構造解析には機械研磨や切断などの試料調製を行っている。FE−SEMの最大のメリットは光学顕微鏡の分解能を超えた倍率で立体的に試料の形状が評価できることで、逆にデメリットは高真空下で変形・変性するものは観察が非常に困難ということである。
(原理)
FE−SEMでは、電子銃から出た電子ビームを、コンデンサレンズで細く絞った後、テレビと同じように、偏向コイルで走査する。この電子ビームを対物レンズで焦点合わせなどを行って試料に当てると、試料表面の状態を反映した2次電子が試料から出てくる。ここでいう「レンズ」は、光学顕微鏡のガラスレンズではなく、電磁レンズ(コイル)である。この2次電子を2次電子検出器でとらえ、2次電子の量をブラウン管の明るさに変換するとともに、電子ビームの走査と、ブラウン管の走査を同期させるとCRT上に拡大像が現れる。そしてFE−SEMの倍率とは、ブラウン管上の画面の幅と、試料上で電子ビームが走査される幅の比となる。
図4に、FE−SEMの原理図を示す。図4中、符号21は電子銃であり、加熱したWフィラメントから熱電子を絞り、アノード22に印加した高電圧で加速し、高電子線を発生する。符号23、24はそれぞれ集束レンズ、対物レンズであり、集束レンズ22、対物レンズ23は、印加した磁界や電界が、光学レンズと同様の働きをする。電子レンズともいわれる。偏向コイル25は、試料上を走査するためコイルである。試料26は、試料27の上に取り付けられ、この試料台27自体が回転、移動することで試料27上の観測ポイントを設定する。試料27近傍には、検出器28及び増幅器が設けられている。検出器28は、二次電子収束電極、シンチレータ、光電子倍増管(PMT)から構成され、発生した二次電子の信号量をシンチレータで光の強度の変換、PMTで電気信号に変換増幅する。符号29は、試料上を走査するための走査回路である。走査速度の制御と走査幅の制御を行う。試料26が取り付けられた内部空間は高真空に維持される。この真空状態は、油拡散ポンプ30及び油回転ポンプ31との組み合わせにより実現され、低真空用の油回転ポンプ31と高真空用の油拡散ポンプ30とで排気シークエンスを行い、高真空状態をつくり、電子の散乱を防ぐ。
3.ラマン分光分析法
(歴史)
ラマン分光法は、1928年、インドのC.V.Raman博士によってラマン効果が発見され、1960年の、ラマン分光にとって理想的な光源であるレーザの発明によって、分析法としての地位を確かなものとなった。
さらに、1970年代後半には、光学顕微鏡との結合により、局所分析手法として多くの分野で使用されるようになったが、赤外吸収法(IR法)がフーリエ変換(FT)手法によって著しく進歩したのに対して、ラマン分光法ではその後長らく目新しい技術進歩がなく、測定時間の掛かる分析法と思われてきた。これは、ラマン散乱光が微弱なことと、僅かに異なる波長に強度の強いレーリー散乱光が存在するため、一般的なラマン装置には、ディテクタとして検出限界の高いフォトマルチプライヤ(PMT)と、迷光除去率の高いダブルモノクロメータが使用されていたことによる。
一方、時間分解等の分光用ディテクタとして利用されていたマルチチャンネルディテクタ(MCD)の性能向上は、CCDの採用により加速がつき、通常のラマン装置にも使用できるレベルになった。これにより、従来の、モノクロメータをスキャンさせてはシングルディテクタであるPMTが一波長ずつの信号を取り込んでいた方法と比較して、MCDは同時にスペクトル全体を取り込めるため、測定時間の短縮に大きく貢献した。
近年、ラマン分光法は、シングルモノクロメータタイプの顕微レーザラマン分光装置の登場により飛躍的に感度が向上し、さまざまな分野の先端研究において、新しい分析プローブとして再び多くの研究者の注目を集めてきている。
(原理)
ラマン分光分析法は、試料にレーザなどの単色光を照射したときに発生する散乱光のスペクトルを測定する分析方法である。図5に、この光散乱過程の模式図を示す。このラマン散乱光は、励起光から波長のシフトした光なので、測定波長範囲は励起光により変化し、赤外光より波長の短い波長領域(可視光、または紫外/近赤外光)を使用する。また、散乱光のほとんどは入射光と等しい波長を持つレイリー散乱で、ラマン散乱光はその10の6乗分の1程度の非常に微弱な信号なので、測定波長を理解し、他の強い光(レイリー光、蛍光、迷光)を避け、効率よくラマン散乱光を測定することが大変重要となる。そしてそのラマン散乱光を分析することによってどのような分子種があるか、さらにはどんな分子構造なのかがわかる。
(測定例)
1)結晶性の違いによるラマンスペクトルの差(C)
結晶性の解析は重要なラマンアプリケーションの一つである。カーボン(C)の結晶性の違いによるラマンスペクトルの差の一例を図6に示す。最も結晶性の高いカーボンであるダイヤモンドにおいては、鋭く強い1本のラマンピークが観察され、微小結晶および薄膜の結晶性評価などに使用されている。同じカーボン結晶でもダイヤモンドと異なる結晶構造のグラファイトに関しては、ダイヤモンドと異なる位置に、ラマンピークが現れ、グラファイトファイバ、カーボンファイバ、グラファイト電極などの評価に幅広く使用されている。ダイヤモンドやグラファイトのような完全な結晶構造を持たないカーボンでは、2本のラマンピークが観察され、結晶性が高くなるほどシャープなピークを示す。DLCはダイヤモンドのような完全な結晶ではないため、ラマンスペクトルで区別することができる。すなわち、XPSでは試料にカーボンが生成されていることしか分からないのであるが、同一試料のラマンスペクトルを分析することにより、生成したカーボンがダイヤモンドなのか、グラファイトなのか、それともダイヤモンドライクカーボンであるのかが分かるのである。最近では、用途が多様なDLCの評価にラマンが重要な役割を果たしている。
2)結晶性の違いによるラマンスペクトルの差(Si)
カーボン同様、シリコンの場合、結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコンの評価に用いられる。他の機器を用いた原素分析ではいずれもSi単一元素として測定され、区別がつかない場合であっても、ラマンスペクトルを分析することにより、結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコンの区別をすることができる。その他のシリコンにおけるラマン分析法の応用例としては、後述するGa−Asと同様に、シリコンでも結晶方位の解析が行え、特に、微小結晶、薄膜結晶における結晶方位の測定には、しばしばラマン測定が用いられる。また、微小域の結晶に及ぼす応力を、ラマンスペクトルのシフトから見積もることもできる。集積回路における微小部の応力は不良発生率に関わる重大な問題であり、このアプリケーションでも多くの顕微ラマン装置が使用されている。
3)結晶方位によるラマンスペクトルの差(GaAs)
結晶方位によるラマンスペクトルの違いが生じる。GaAsを例にすると、ラマン選択別に従いLoフォノンとToフォノンのスペクトルが現れる。シリコン等などLoフォノンとToフォノンの波長が同じ場合でも、偏光測定をすることで、同様に結晶方位を知ることが可能になる。
4)励起波長の選択と蛍光除去効果
ラマン測定では励起波長を選ぶことができ、励起波長の選択は蛍光除去にも効果を発揮する。同じ物質を測定した場合、ラマンピークは励起波長と共にずれるが、蛍光は同じ波長で発現するからである。
4. 表面形状測定装置
(原理)
ナノメートルオーダーの表面形状と131μmまでの膜厚を正確に測定出来る段差計で、先端にダイヤモンドのついた触針の下の試料を移動させる形で、試料表面を電気機械的に走査して測定を行う。
触針はLVDT(Linear Variable Differential Transformer:直線可変式差動トランス)のコア(鉄心)に機械的に連結されており、触針は表面の変動により上下に動く。LVDTのコアの変化に伴って、触針の移動に対応した電気信号が生じる。LVDTに位置変化に比例したアナログ信号が発生し、高精密積分型A/D(アナログ/ディジタル)コンバーターによってディジタル処理変換される。表面形状測定装置の制御系図を図7に示す。図7において、符号Sは試料、41は触針、42はLVDT、43は発信器、44は増幅器、45は相検出復調器、46はA/Dコンバータ、47はPCを用いた制御装置、48は、PCに接続される操作機器、49はプリンタである。
図8は、表面形状測定器の要部構成を示す斜視図である。表面形状測定器本体51には触診52が取り付けられている。また、表面形状測定器本体51には、ラックローディングブロック53と、サーフェスブロック54と、スロット55が設けられ、試料台56が、サーフェスブロック54上に移動可能に取り付けられる。試料台56には、ステージ57が設けられて、このステージ57上に試料が取り付け固定される。試料台56のガイドレール58がサーフェスブロック54の側端部に形成された直線状の溝に嵌め合わされ、試料台56のラック59が、ラックローディングブロック53に係合されて図示しない駆動装置により駆動されることにより、試料台56が、直線方向に移動可能になっている。
本実験では表面形状測定装置を、作製した試料の膜厚を測定することに使用した。
(実験1)
前述した試料及び原材料を用い、前述した実験装置用いて、本実験の実験条件及び得られた膜について、上述したXPS装置、FE−SEM装置、ラマン分光分析装置、及び表面形状測定装置を用いて分析した結果について、以下に説明する。
まず、本発明のダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法の比較例として、シリコン基板上に硝酸ニッケル水溶液を塗布しない場合について説明する。
メタン(CH)は熱をかけることにより、次式のように炭素と水素に分解する。
CH→C+2H
本実験では、この分解作用を利用してSi基板上に炭素からなる膜を堆積させることができるか、また堆積した膜の炭素の分析により、どのような膜が形成されるのかの調査を目的として実施した。
Si基板には、先に述べたように、前もって超音波洗浄をし、さらにフッ酸溶液でエッチング処理(1分間)をした。その後、図2に示した実験装置内に導入し、石英管11a内にAr−CHの混合ガスを流し、スライドトランス14を使いカンタル線11bに電流を流した。石英管11a内の温度は、900℃、1000℃、1450℃に変化させ、計3回実験を行った。なお、加熱時間は3回とも60分、石英管11a内の温度は、オプティカルパイロメーターを用い測定した。そして実験後、シリコン基板を装置内から取り出し、XPSスペクトルを測定した。
900℃、1000℃、1450℃の各温度で成膜実験を行った試料表面のXPSスペクトル(0〜950eV)を、それぞれ図9〜図11に示す。また、図12は、図11に示すXPSスペクトルの270〜295eVの間を拡大して示すスペクトル図である。なお、各図には参考のために各物質の電子軌道に対応する束縛エネルギー(eV)について示してある。
この図9を見ると、532eVに最も大きい突出したピークが見られた。これは酸素の1s電子を検出したことを表す。つまり、シリコン基板の表面は実験により酸化されたということになった。また、炭素原子については284eVにあるピークであり、酸素と比べるとその強度はきわめて弱い。なお、図中における100eV、149eVのピークは、それぞれSiの2p、2s電子を検出したことを表す。よって、石英管内の温度を900℃としたときは、シリコン基板表面の炭素は極めて少ないといえる。また、外観上も実験前のSi基板との変化は見られず、炭素系膜が十分堆積するには至らない結果となった。
次に、図10を見ると、図9とほぼ同じスペクトルを取る。つまり、1000℃で実験をしたときも900℃のときと同じ現象が基板上で起きていることになり、900℃で実験をしたとき同じく、炭素が堆積されたとは言えない。
次に、図11を見ると、284eVに鋭いピークが表れた。これは、炭素の1s電子を検出したものであると考えられる。それを拡大したものが図12である。図12より、そのピークは284.1eVで、炭素のXPSの束縛エネルギーに関する文献値とほぼ一致する。なお、図12に現れているピークはその左右で波形の半値幅が異なる。これは、いくつかのピークが重なり一つのピークを作っているということを意味し、その波形分離をすると、図12に現れているピークは、284.1(eV)、286.7(eV)、289.1(eV)の3つのピークから成る波形だと分析できる。また、図11を見ると、炭素以外に鋭いピークは見られない。つまり、1450℃で実験した場合、基板上には炭素のみ表れるということがわかる。
しかしながら、900℃、1000℃での実験の結果から、1450℃で堆積した炭素の下にはSiO層があると考えられる。SiOは絶縁体であることから、堆積した炭素の下にSiO層が存在することは、DLCを半導体として取り扱う場合に都合が悪い。よって実験系内には極力空気(酸素)が混入しないようにしなければならない。
シリコン基板表面に堆積した炭素を引っかくと、すぐに基板からはがれてしまうことから、堆積した炭素は密着性がないことがわかった。DLCは、密着性が良く、高い硬度を持つ物質である。そのことから堆積した炭素は、DLCではないことがわかる。
堆積した炭素の膜厚を、表面形状測定装置を用いて測定したところ、膜厚の平均は0.4695μm(4.695×10−7m)であった。
以上の実験により考察すると、DLCの成膜方法として、レーザーを使用するPLD法でDLC膜を作製する場合には、その基板の温度は数百℃で成膜を行う。そしてPLD法ではターゲットとなる炭素にレーザーを照射し基板に堆積させ、DLCを形成する。本実験は、PLD法での基板温度よりも高い温度で行っていることを考えると、基板側は炭素を堆積するのに十分な条件だが、CHの分解量が少ないためにDLCが得られず、堆積した炭素は十分な密着性や硬度が得られなかったと判断することができる。石英ガラスは1500℃を超えたあたりから軟化が始まるという性質がある。そのため、本実験で使用している実験装置では、1450℃以上で実験を行うことは実験装置の損傷を招くため実施できないが、上記したように本実験より多量のCHを分解することができれば密着性の強い炭素の膜を作製することや、引っかいても壊れることのない高硬度の膜、すなわちダイヤモンドライクカーボン膜を作製できる可能性はある。そこで、次の実験を行った。
(実験2)
実験2は、本発明のダイヤモンドライクカーボン製造方法の実施例を含むものである。
実験1で行った実験と同様の方法を用いて、この実験2では、硝酸ニッケルを触媒として使用した。これは、実験1で既に述べた実験装置の温度限界等を考慮し、触媒を使用することで原料ガスであるメタンガスの分解が促進され、実験1では堆積させることのできなかった温度での炭素の堆積が可能となり、また、実験1で堆積に成功した温度で実施した場合にはより厚い膜の形成が期待できるのではないかと考え、実験を行い分析した。またこの実験2では実験の再現性を高める目的でAr−CH混合ガスの流量を測り、一定の流量下において実験を行った。さらに実験中のSi基板の酸化を防ぐため実験系内への基板導入前に空気の除去作業を行った。また、メタンガスの熱分解により生じる水素ガスは、還元性ガスであり、多量のメタンガスを分解することができれば、Si基板の酸化を防ぐ作用も有すると考えられる。
加熱装置内に供給するガスの流量調整のための流量測定の原理は、次のものである。
断面積Sのシリンダー内部に石鹸膜をはり、シリンダーの一方から測定する気体(本実験ではAr−CH混合ガス)を流し、石鹸膜が距離x移動したときの時間tを計り体積を求め、流量を算出する。この原理に従い本実験における流量を計算すると、次のようになる。
シリンダーの直径0.62(cm)より断面積Sは、
S=(0.65/2)×π=0.33183(cm
時間t(s)に、石鹸膜が上昇する距離をx(cm)とすると、流量v(cm/t(s))は、
v=S×x=0.33183x(cm/t(s))
これにより、1分間に流れた容積W(ml/min)は、
W=v/t/60=60/t×0.33183x(ml/min)である。
ここで、1l(リットル)=1000cm、1cm=1ml。
ゆえにW=19.9098×x/t(ml/min)
本実験では、x=10cm、t=1.8secと定め、流量をw=110.61(ml/min)とした。
また、既に述べたように堆積物の下にSiOが存在するとDLCを半導体として用いる際に不都合が生じる可能性がある。よって基板の酸化を防ぐため本実験では、実験系内の空気の除去作業を行った。すなわち、Ar−CH混合ガスは空気と比べて重いので、ただガスを流しているだけでは空気が完全に排気されない。そのため加熱して実験系内の空気を攪拌させながらAr−CH混合ガスガスを流し実験系内の空気の残存量をなるべく減らし、基板導入前に石英管内をAr−CH混合ガス混合ガスで十分に充満させてから、実験を行った。
なお、念のため触媒について説明すると、触媒とは、化学反応においてその反応を促進させる物質である。但し、触媒自身は当該反応の影響を受けるが、最終的には反応に対して不変である。逆に、反応を遅くさせる触媒も存在する。触媒が、化学反応を促進させる原因は、反応物と触媒が、反応中間体を形成し最終的に反応生成物となる過程での活性化エネルギーが、触媒の存在しない場合の反応物から反応生成物への過程での活性化エネルギーより低くなるためである。これは、触媒の存在によって、より反応し易い経路が形成されたと言い換えることもできる。しかし、触媒の役目に関しては未解明な部分も多い。触媒と似たものに、表面の成長における、サーファクタント(界面活性剤)がある。
本実験では、触媒に硝酸ニッケルを使用した。硝酸ニッケルを化学式で書くとNi(NO・6HOとなり式量は290.8である。硝酸ニッケルは、水に大変溶けやすく、水に対する溶解度は94.2g/100g(25℃)である。また、アルコールにも溶ける。保管の際には湿度の低いところで密閉して保管しなければならない。特徴としては吸熱反応があげられ、触媒として使用した際、表面に炭素が析出しやすい傾向がある。メタン等の飽和炭化水素を、硝酸ニッケルを触媒として用いて直接分解する場合、水素と炭素のみが生成するので、本実験の期待に応える反応であると考えられる。
この実験2においては、Si基板には実験1と同様に前もって超音波洗浄をし、さらにフッ酸溶液でエッチング処理を(1分間)した。エッチング処理後は、再度、蒸留水、アルコール、アセトンで洗浄後、実験系内に導入することでSi基板表面の洗浄面を得た。
触媒としてSi基板上に使用する硝酸ニッケル水溶液は、触媒として使用するのに適した量について、Si基板の10mm×10mm表面のSi原子の数(約1015個)の約10分の1とし、約1014個の硝酸ニッケル原子を基板上にのせた。
その後、実験装置内に導入しAr−CHの混合ガスを流し、スライドトランス14を使いカンタル線11bに電流を流した。石英管11a内の温度を1300℃、1400℃と変化させ、計2回実験を行った。なお、加熱時間は2回とも60分、石英管内の温度はオプティカルパイロメーターを用い測定した。そして実験後、基板を装置内から取り出し、XPSスペクトルを測定した。
図13及び図14はそれぞれ、触媒を利用し1300℃、1400℃で作製した試料のXPSスペクトル(0〜950eV)を示したものである。また、図15には、図14で示した1400℃で作製した炭素の1s電子が検出される束縛エネルギー付近(275〜300eV)の拡大図を、図16には同じく酸素の1s電子が検出される束縛エネルギー付近(525〜550eV)の拡大図を示す。なお、各図には参考のために各物質の電子軌道に対応する束縛エネルギー(eV)について示してある。
図13及び図14をみると、図13及び図14ともに284eVにおいて鋭いピークが見られる。これは図11同様、炭素の1s電子を表すピークである。この炭素のピーク以外には特に突出したピークは見られない。つまり、試料表面には、ほぼ炭素しか存在していないということを意味する。それを拡大したのが図15であり、そのピークは284.4eVで、これも図12と同様、XPSの束縛エネルギーに関する文献値とほぼ一致する。なお、図15に現れているピークは、その左右で波形の半値幅が異なる。これはいくつかのピークが重なり一つのピークを作っているということを意味し、その波形分離をすると図15に現れているピークは、284.4(eV)、285.5(eV)、286.5(eV)の3つのピークからなる波形だと分析でき、それらはそれぞれグラファイト、ダイヤモンド、C−Oだと考えられる。
次に、図16を見ると、そのスペクトルは炭素のピークと比べて酸素のピーク強度が非常に弱いことがわかる。よって基板表面の酸素量は炭素と比較し非常に少ないといえる。
また、シリコン基板上に形成された膜について、実験1と同様に1300℃、1400℃で作製した試料のそれぞれについて引っかいてみると、実験1のときとは異なり、剥がれ落ちてしまうということはなかった。このことから触媒を使用して作製すると密着性、硬度のよい膜、すなわちDLC膜が形成されたと考えられる。そして、1300℃で作製した試料よりも、1400℃で作製した試料のほうが強固に密着していた。
なお、1300℃で作製した試料及び1400℃で作製した試料ともに膜厚を測定したところ、その値はそれぞれ5.68μm、6.40μmであった。この膜厚を、実験1で作製した試料の膜厚と比較すると、作製時の加熱温度が実験1よりも実験2の方が若干低いにもかかわらず、その差は約10倍以上も実験2の方が厚くなった。このことから触媒を使用して試料を作製することにより、膜の成長が促進されたと考えられる。
次に、実験2で加熱温度を1400℃として作製した炭素膜を以下に述べる分析方法で分析を行った。
1.ラマン分光法
ラマン分光法による分析は(株)イオン化学センターに試料を送り、分析を依頼した。分析の際の詳細は以下のとおり。
(分析装置)
装置名:U−1000(堀場製作所製)
レーザー線源:Arイオンレーザー
検出器:光電子増倍管
(測定条件)
レーザーパワー:300mW
レーザー波長:514.5nm
測定範囲:800〜2000カイザー
積算時間:1秒/ステップ
スリット幅:0.5mm
レーザービーム:100μm径
レーザー入射角:60度
2.FE−SEM
ラマン分光分析以外に、成膜された試料の表面をFE−SEMで観察を行った。
まず、ラマン分光法による分析の考察をする。
実験2(触媒を使用した実験)の1400℃で作製した炭素膜のラマン分光分析結果のラマンスペクトル図を図17に示す。このスペクトル図から1350cm−1と1580cm−1にピークが見られる。図6との照合により、これらはそれぞれダイヤモンドのピーク、グラファイトのピークであることがわかる。結晶性が高いと各ピークが突出し、それ以外は平坦なグラフになるというラマンの特徴や、図17の波形がブロードな形をとっているところから、試料の結晶構造がアモルファスだということが読み取れる。また、XPSでの分析でも述べたように試料表面にはほぼ炭素のみしか検出されておらず、このラマンスペクトルが炭素以外の物質の影響によるものとは考えにくい。よって作製した試料はDLCであると判断できる。
次に、FE−SEMによる分析の考察をする。
実験2(触媒を使用した実験)の1400℃で作製したDLC膜のFE−SEMを用いた顕微鏡組織写真を図18〜図20に示す。成膜されたDLC膜は、アモルファス構造をしているが、ナノメートルレベルオーダでみると粒子構造となっており、図18を見ると大きな粒子(直径約620nm)と小さな粒子(直径約200nm)との2種類があることがわかる。図19は、その小さな粒子を拡大してとらえた写真で、図20は大きな粒子をとらえた写真である。DLC表面の炭素の粒子サイズについて、文献がないという理由から文献値と比較するなどの分析することはできない。
大きな粒子、小さな粒子ともに炭素である。FE−SEMで見たところ、基板表面は全体的に図18のようになっていた。つまり、大きな粒子と小さな粒子の分量比はほぼ同じである。しかし、XPSは表面には炭素以外の物質は堆積していないという結果を出している。よって大小ともに写っている粒子は炭素だといえる。
大きな粒子は大きな粒子同士で、小さな粒子は小さな粒子同士でそのサイズが均一である。仮に小さな粒子が大きな粒子になる成長過程だとしたらその中間のサイズの粒子が存在するはずである。しかし基板表面のどこを調べてもそのようなサイズの粒子は存在せず、すべてが大小2種類である。その理由として以下のことが考えられる。
1つには粒子表面の違いである。大きな粒子のほうは表面の凹凸が多いのに対し小さい粒子のほうは表面の凹凸が少なく、滑らかなのが多い。つまり、表面性状によって結合できる状態とそうでない状態があるとすれば、結合できる表面をもつ粒子同士は結合し、結合できないものは、小さいサイズのまま存在するであろう。もし粒子の表面にそのような特徴があるのならこの大小2種類が存在するということも納得できなくもない。しかし、そのような粒子特性をもっていたとしても解決できない点がある。小さいサイズの粒子の存在は上記した理由で納得できるが、大きな粒子のほうは、結合できる表面状態であるならば大きさに上限はないはずである。しかし、実際は大きいほうの粒子も大きさは均一であり、上記したことが大小2種類の粒子を存在させる理由にはならないとも考えられる。また、小さいほうの粒子にも凹凸が多い表面を持つものもあるので、それらが大きなサイズに成長しなかった理由は必ずしも明らかではない。
もう一つには、単純に片方の粒子がグラファイト粒子でもう一方がダイヤモンド粒子ではないかということである。ラマン分光法の結果より、ダイヤモンドを示すピーク(1350cm−1)とグラファイトを示すピーク(1580cm−1)は、ほぼ同じ強度を示した。これは両者の構成比がほぼ1:1だということを示している。一方、FE−SEMで現れた大小の粒子の分量比も、目視観察にくより、ほぼ同じの1:1である(これは目視判断の結果であり、計器を用いて測定し判断したわけではない)。よって、大小の粒子がそれぞれグラファイト、もしくはダイヤモンドと位置付けることもできるのではないだろうか。
以上の実験から、次の事項が結論付けられる。
・触媒を使用しない場合、Ar−CH混合ガスを分解しSi基板上に炭素を堆積させるには約1450℃の温度が必要である。
・触媒を使用した場合、触媒を使用しないときより低温でAr−CH混合ガスの分解によりSi基板上に炭素を堆積させることが可能となる。
・実験系内温度を約1400℃まで上昇させ、かつ、基板上に硝酸ニッケルを触媒として用いメタンを分解させることにより、DLC膜を作製することが可能である。
(実験3)
実験3は、前記実験2の結果を元に、更に種々の条件によりDLC膜の形成を試み、その結果を評価したものである。
まず、前記実験2で1400℃の温度で成膜させたDLC膜について、半年経過後の膜の密着性を、粘着テープの引き剥がしテストにより評価したところ、この実験2で1400℃の温度で成膜させたDLC膜は、半年経過後においても、粘着テープで剥がれない接合強度を保っており、シリコン基板に対して良好な密着性を有していることが明らかとなった。
次に、硝酸ニッケルの濃度を変えて、硝酸ニッケル原子の個数を約1013個、約1014個、約1015個とした各条件について、加熱温度を1300℃とし、それ以外は実験2と同じ条件で成膜実験を行った。その結果、硝酸ニッケル原子の個数が約1014個、約1015個の条件の場合にDLCと思われる膜が生成した。しかしながら、これらの膜は、半年経過後においては、目視観察により部分的に剥がれが生じており、また、粘着テープを用いた密着性試験では、剥がれてしまい、長期間経過後の密着性が十分でなかった。
次に、触媒として、ニッケルの代わりに、鉄、コバルトを用いた実験を行った。この実験では、いずれも硝酸塩水溶液を利用し、触媒量を触媒金属原子の個数が約1013個、約1014個、約1015個の各条件について、加熱温度を1300℃とし、それ以外は実験2と同じ条件で成膜実験を行った。その結果、鉄触媒の場合は、触媒金属原子の個数が約1014個及び約1015個の場合に成膜された。成膜された膜は、半年経過後においては、粘着テープを用いた密着性試験では、容易に剥がれてしまい、長期間経過後の密着性が十分でなかった。コバルト触媒の場合は、触媒金属原子の個数が約1014個のみで成膜が可能であった。成膜された膜は、半年経過後においては、粘着テープを用いた密着性試験では、容易に剥がれてしまい、長期間経過後の密着性が十分でなかった。
以上の実験から、メタンを用いるDLC膜作製に関して、以下のことが分かる。
・反応温度(加熱温度)は、1400℃が、膜の(接着)強度のためには必要ある。
・触媒量は、できるだけ少ないほうがいいが、触媒金属原子の個数が約1014(Si基板の10mm×10mm表面のSi原子の数(約1015個)の約10分の1)は必要である。コバルトの例を考慮すると、1014が最適である。
・ニッケル以外にも、鉄、コバルト触媒も利用可能である。
・シリコンのほか、高温に耐える材料ならば、前記触媒を用いてDLCコーティングができる。例えば、セラミックスのDLC被覆などの可能性がある。
・成膜条件が本発明の条件範囲を外れる場合には、DLC被膜が剥離することがあるが、この剥離した膜は、ある程度の大きさを持っている。したがって、剥離した膜を別の機能材として応用することができる。
本発明のDLC膜を形成させる成膜装置の一例のブロック図である。 実施の形態において用いた成膜装置の模式図である。 XPS発生の模式図である。 FE−SEM装置の模式図である。 ラマン分光分析の原理となる光散乱過程の模式図である。 結晶性の異なるCのラマンスペクトルを示す図である。 表面形状測定器の制御系のブロック図である。 表面形状測定器の要部構成を示す斜視図である。 実験1における試料のXPSスペクトルを示す図である。 実験1における試料のXPSスペクトルを示す図である。 実験1における試料のXPSスペクトルを示す図である。 図11のXPSスペクトルの拡大図である。 実験2における試料のXPSスペクトルを示す図である。 実験2における試料のXPSスペクトルを示す図である。 図14のXPSスペクトルの拡大図である。 図14のXPSスペクトルの拡大図である。 実験2の試料のラマンスペクトルを示す図である。 DLC膜のFE−SEMを用いた顕微鏡組織写真である。 図18を拡大した顕微鏡組織写真である。 図18を拡大した顕微鏡組織写真である。 DLCの結晶構造の模式図である。 ダイヤモンドの結晶構造の模式図である。 グラファイトの結晶構造の模式図である。
符号の説明
1a 加熱装置
1b 加熱手段
1c 支持装置
2 ガス供給源
3 流量制御装置
4 電源
5 温度制御装置
S 基体

Claims (1)

  1. Siからなる基体の表面上に、Niを含む金属化合物、Coを含む金属化合物、およびFeを含む金属化合物から選ばれる1種又は2種以上金属化合物を含有する溶液を塗布し、この基体の表面上に前記金属化合物を形成させる工程と、
    前記金属化合物が表面上に形成された基体を、常圧の炭化水素ガス含有雰囲気中で1400℃以上に加熱することにより、前記基体の表面上に、炭化水素ガスの熱分解によるダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程とを有し、
    前記金属化合物の金属原子の数量が、基体を構成する原子の単位表面積当たりの原子の個数の100分の1を超え、1未満となる範囲にて、前記金属化合物は前記基体の表面上に形成されることを特徴とするダイヤモンドライクカーボン膜の製造方法。
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