以下、本発明による聴力判定システムの実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明による聴力判定システムは、語音聴取時のユーザ状態を、語音が聞き分けられたかどうかと、ユーザがどの程度快適に語音を聴取したかに分け、脳波によってそのユーザ状態を判定するために用いられる。たとえば、図1に示すように、聴力判定システムは快適性判定と語音明瞭度判定とを組み合わせたものである。ただし語音明瞭度判定を行わず、快適性判定のみを行ってもよい。
快適性判定は、単音節の語音を音声で呈示し、ユーザに音声を聞き分けさせる設定で、音声呈示を起点としたユーザの脳波信号の事象関連電位を指標にして行う。語音明瞭度判定は、単音節の語音を音声で呈示した後に文字を呈示し、ユーザに音声呈示と文字呈示が一致したかを判断させる設定で、文字呈示を起点としたユーザの脳波信号の事象関連電位を指標にして行う。ここで「事象関連電位」とは、脳波の一部であり、外的あるいは内的な事象に時間的に関連して生じる脳の一過性の電位変動をいう。
本明細書では、快適性と語音明瞭度が脳波の事象関連電位によって判定可能であることを説明する。まず、快適性判定と語音明瞭度判定がそれぞれどのような脳波成分によって実現できるかを検証するために、本願発明者らが実施した脳波計測実験の詳細を説明し、その後、実施形態を説明する。
1.本願発明者らが実施した実験
本願発明者らは、語音明瞭度判定以外にも快適性判定も必要と考えている。後述の実験の結果、本願発明者らは、快適性判定は、(1)どれだけ努力して語音を聞き分けたかを示す“努力性”、および、(2)語音をどれだけうるさいと感じたかを示す“うるささ”、の2要素に分離可能であることに想到した。これは、後述する語音明瞭度曲線の測定時のユーザ状態を詳細に分析した結果、初めて得られたものである。以下で、具体的に説明する。
語音明瞭度判定では、語音ごとに音声を聞き分けられたかどうかを○/×で判定し、聞き分けられた語音の数を判定対照の語音数(67S式語表の場合は20)で割って求める。先に述べた「語音明瞭度曲線」とは、複数の聴力レベルに対し、この語音明瞭度を測定し、その結果を表した曲線である。語音明瞭度判定で得られる判定結果は聞き分けの正答率であるため、聞き分けられたか否かは反映されているが、語音聴取時にユーザがどんな状態であったかは反映されない。しかしながら、聞き分けられた状況においては、快適に聞き分けができた場合と、聞き分けはできたが不快であった場合が存在する。
語音明瞭度判定は、補聴器販売店において実施される短時間の判定である。そのため、判定中のユーザは、最大限に努力して語音音声を聞き分けようとする。また、ユーザがうるさいと感じたかどうかは判定対象ではないため、我慢できないうるささでなければ少しうるさいと感じてもユーザは我慢して判定課題を遂行する。日常的に補聴器を装用する場合には、常に最大限の努力を維持して会話を聞き取ることは困難である。また、補聴器の装用が長時間にわたるため長時間にわたってうるささを我慢する必要があり、ユーザにとって負担になる。
これらの状況に鑑み、本願発明者らは、語音聴取時のユーザ状態として、努力あるいはうるささに対する我慢が不要な場合と、努力あるいはうるささに対する我慢が必要な場合は切り分けて判定すべきであると考えた。そして、それらが語音聴取時の快適性の要素であると特定した。努力性とうるささは、全く別の脳内処理であるため、脳波の測定によりそれぞれを切り分けて判定できる可能性がある。
そこで本願発明者らは、語音明瞭度判定と快適性判定を実現する脳波の特徴成分を特定するために以下の2種類の実験を実施した。
まず、単音節の語音を音声で呈示し、音声に対応する語音をユーザに思い浮かべさせる設定で、音声呈示を起点に事象関連電位を計測し、後から語音に対する快適性として「努力性」と「うるささ」に関する主観報告させる脳波計測実験(脳波計測実験1)を実施した。
さらに、単音節の語音を音声と文字で順に呈示する設定で、文字呈示を起点に事象関連電位を計測する脳波計測実験(脳波計測実験2)を実施した。
脳波計測実験1では、努力性/うるささに関する主観報告に基づき、それぞれ事象関連電位を加算平均した。脳波計測実験2では、実験の前後に取得したうるささに関する主観報告に基づき事象関連電位を加算平均した。脳波計測実験2では、実験中に取得した音声と文字の一致/不一致に基づき事象関連電位を加算平均した。
以下に上記の2種類の事象関連電位実験の結果をまとめる。
脳波計測実験1の結果、音声刺激を起点とした事象関連電位において、音声聞き分けに対する自信度が高い場合と比べて自信度が低い場合には、頭頂部において潜時約750msの陽性成分が惹起されることを発見した。
また、上記陽性成分とは独立に刺激音声の音圧レベルの増加に伴い潜時約200msの陰性成分の振幅が増大することを発見した。
脳波計測実験2の結果、文字刺激を起点とした事象関連電位において、音声の聞き分けが高い場合と比べて低い場合には、頭頂部において潜時約500msの陽性成分が惹起されること、音声の聞き分けが低い場合と比べて聞き分けが高い場合には、頭頂部において潜時約300msの陽性成分が惹起されること、を発見した。ここでの「潜時」とは、音声刺激が呈示された時刻を起点として陽性成分または陰性成分が出現するまでの時間を示す。
これら確認および発見から、(1)努力性の判定は、音声の聞き分け自信度との対応から音声が呈示された時刻を起点とした事象関連電位の潜時約750msの陽性成分の有無で判定可能なこと、(2)うるささの判定は、潜時約200msの陰性成分の有無から判定可能なこと、(3)語音明瞭度は、文字が呈示された時刻を起点とした事象関連電位の潜時約300msの陽性成分と、潜時約500msの陽性成分の有無で判定可能こと、を見出した。本手法により、語音明瞭度判定と同時に、その語音聴取時に努力していたか/うるさいと感じていたかの判定を、客観的・定量的に実現できる。
以下で、聴力判定を実現するために本願発明者らが実施した脳波計測実験の詳細を説明する。
1.1. 脳波計測実験1(快適性に関する実験)
脳波計測実験1では、音声呈示後に取得した努力性、および、うるささに関する主観報告と、音声を起点とした事象関連電位との関係を調べた。以下、図2から図9を参照しながら、脳波計測実験の実験設定および実験結果を説明する。
実験参加者は、正常な聴力を持つ大学・大学院生15名であった。
刺激として呈示した語音音声は、聞き取り間違いが多いとされる無声子音の中から日本聴覚医学会が制定した67S式語表の8音(シ、ス、キ、ク、タ、テ、ト、ハ)とした。正常な聴力を有する参加者に対して快適性の要素である「努力性」と「うるささ」とを操作するために、周波数ゲインを調整した語音音声を用いた。「周波数ゲイン」とは、複数の周波数帯域ごとのゲイン(回路の利得、増幅率)を意味する。
周波数ゲインの調整には、音圧3種類(大:Large、中:Middle、小:Small)×歪み2種類(なし:Flat、あり:Distorted)の計6条件を設定した。具体的には以下の(1)〜(6)のとおりである。条件の表記に関し、本明細書では、たとえば音圧大・歪みなしはLargeとFlatの頭文字を取り、LF条件などと記述する。
(1)LF(Large Flat)条件:音圧は大きく聞き分け易い音声として全ての周波数帯域においてゲインを20dB向上させた。(2)LD(Large Distorted)条件:音圧は大きいが聞き分けが難しい音声としてMD条件をベースに全体的に20dB向上させた。(3)MF(Middle Flat)条件:音圧が大きく聞き分けやすい音声として周波数ゲインの加工をしなかった。(4)MD(Middle Distorted)条件:聞き分けが難しい音声としてLF条件の音声を250Hz−16kHzの周波数のゲインを段々と−30dBまで調整(低減)した。(5)SF(Small Flat)条件:音圧は小さいが聞き分け易い音声として全ての周波数帯域においてゲインを20dB下げた。(6)SD(Small Distorted)条件:音圧が小さく聞き分けが難しい音声としてMD条件をベースに全体的に20dB下げた。
図2(a)は、音声と歪みの6条件を示す。また、図2(b)に、周波数ごとのゲイン調整量を示す。高周波数の周波数ゲインを低減させた理由は、高齢難聴の典型的なパターンである高音漸傾型を模擬するためである。音声刺激は、周波数特性がフラットなスピーカから呈示した。
脳波は頭皮上のFz、Cz、Pz、C3、C4(国際10−20法)、左右こめかみ、右目上下から右マストイドを基準に記録した。「マストイド」とは、耳の裏の付け根の下部の頭蓋骨の乳様突起である。図3(a)は、国際10−20法(10−20 System)の電極位置を示し、図3(b)は本実験で電極を装着した電極配置を示す。サンプリング周波数は200Hz、時定数は1秒とした。オフラインで1−6Hzのディジタルバンドパスフィルタをかけた。音声呈示に対する事象関連電位として、音声が呈示された時刻を起点に−200msから1000msの波形を切り出した。ここで、「−200ミリ秒」とは、音声を呈示する時刻より200ミリ秒前の時点をいう。
図4は、脳波計測実験の実験手順の概要を示す。まず、手順Aにおいて6条件に周波数ゲインを調整した単音節の音声を呈示した。呈示した音声の詳細は後述する。次に手順Bにおいて、参加者に音声を聞かせ、聞き取った音声に対応する文字を書き取らせた。呈示音声の条件を変えず、語音の種類のみ変化させた。手順AとBを5試行繰り返した。そして手順Cにおいて、参加者に手順Aで呈示された音声に対する、努力性/うるささ等に関する主観判定を行わせた。主観判定はタッチパネルを利用し、ビジュアルアナログスケール(100段階判定)で行った。上述の手順Aから手順Cを1ブロックとして12ブロック繰り返した(計60試行)。ブロックごとに呈示音声の音圧と歪みの条件は、ランダムな順序で変化させた。
図5は、1試行分の手順を示すフローチャートである。
ステップS11では、単音節の音声が実験参加者に呈示される。
ステップS12では、参加者は単音節の音声を聞いて対応する文字を思い浮かべる。
ステップS13では、参加者は聞き取った音声に対する文字を書き取る。
ステップS14では、音声が呈示された回数がカウントされる。呈示回数が4回まではS11に戻る。呈示回数が5回のときS15に進み、呈示回数をリセットする。
ステップS15では参加者はステップS11で聞き取った音声に対して主観を回答する。
以下、主観判定結果の分布と閾値の設定を説明する。
まず、主観判定の結果を示す。主観判定結果に基づき、後述の方法で決定した参加者ごとに閾値に基づいて、努力性/うるささの有無のラベル付けを行った。以下においては、その主観判定のラベルを参加者の状態とする。
図6は、努力性に関する参加者ごとの主観判定の結果である。全試行に対する割合が示されている。図6中の実線は主観判定結果の分布であり、破線は主観判定(努力性高、努力性低)を分割した閾値を示す。閾値は、主観判定の個人差が大きいため、個人ごとの判定結果(ビジュアルアナログスケールの1〜100)の順位に基づいて決定した。具体的には、個人内での判定結果の順位が中央になる値を閾値とした。ただし、判定結果が同じものは同じ主観判定(努力性高、努力性低)として扱った。
図7は、うるささに関する参加者ごとの主観判定の結果である。全試行に対する割合が表示されている。図7中の実線は主観判定結果の分布を示し、破線は主観判定(うるさい、うるさくない)を分割した閾値を示す。努力性と同様、主観判定の個人差が大きいため、本願発明らは、閾値を個人ごとに判定結果(ビジュアルアナログスケールの1〜100)の順位に基づいて決定した。具体的には、個人内での判定結果の順位が、判定結果が大きい方から3分の1をうるさい、それ以外をうるさくないとし、閾値を設定した。ただし、判定結果が同じものは同じ主観判定(うるさい/うるさくない)として扱った。
次に、努力性に関する実験結果を説明する。
以下、事象関連電位の結果を説明する。
まず、努力性の有無に基づいて加算平均した結果を示す。図8(a)は、頭頂部(Pz)における音声呈示を起点とした事象関連電位を、努力性に関する主観判定に基づき総加算平均した波形である。加算平均は、上記計測実験の全6条件におけるブロックごとの努力性に関する主観判定に基づいて行った。図8(a)の横軸は時間で単位はms、縦軸は電位で単位はμVである。図8(a)に示されたスケールから明らかなとおり、グラフの下方向が正(陽性)に、上方向が負(陰性)に対応している。図8(a)に示される破線は、努力性が低いと判定した場合の加算平均波形であり、実線は、努力性が高いと判定した場合の加算平均波形である。
図8(a)より、語音聴取時の努力性が低い場合(破線)に比べて努力性が高い場合(実線)では、潜時600−900msに陽性成分が出現していることが分かる。主観判定ごとの600−900msの区間平均電位を見てみると、努力性が低い場合は1.99μV、努力性が高い場合には2.73μVであった。区間平均電位をt検定した結果、10%水準で有意差があった。図8(b)はサンプリングごとのp値を計算した結果である。図8(b)より、音声刺激を起点に約600−900msの時間帯において、他の時間帯と比べてp値が小さいことが分かる。従って、語音聴取の努力性は、音声呈示を起点として潜時約600−900msの陽性電位に反映される可能性があるといえる。0msから1000msにおける全てのサンプリングごとにt検定を実施した結果、主観判定の違いによる有意差が15ms以上持続した時間帯は420−445ms、655−670ms、730−745ms、775−830msであった(p < .05)。
次に、うるささに関する実験結果を説明する。
まず、うるささの有無に基づいて加算平均した結果を示す。
図9は、頭頂部(Pz)において音声刺激を起点とした事象関連電位を、うるささに関する主観判定に基づき総加算平均した波形である。加算平均は、上記計測実験の全6条件における、ブロックごとのうるささに関する主観判定に基づいて行った。図9の横軸は時間で単位はms、縦軸は電位で単位はμVである。図9中に示されたスケールから明らかなとおり、グラフの下方向が正(陽性)に、上方向が負(陰性)に対応している。図9中に示される実線は、ユーザが主観判定で「うるさい」と感じた場合の総加算平均波形であり、破線は、ユーザが主観判定で「うるさくない」と感じた場合の加算平均波形である。
図9より、うるさくないと判定した破線に比べて、うるさいと判定した実線では、潜時約200msに惹起される陰性成分(N1成分)の潜時が短いことが分かる。参加者ごとのN1成分の潜時はうるさい場合は195ms、うるさくない場合には240msであった。潜時をt検定した結果、有意差が認められた(p < .05)。また、参加者ごとの潜時200ms−300msの区間平均電位は、うるさい場合は0.14μV、うるさくない場合には−1.38μVであった。潜時200ms−300msの区間平均電位をt検定した結果、うるさい場合の区間平均電位は有意に大きかった(p < .05)。よって、音声呈示を起点としたN1成分の潜時と、音声呈示を起点として約200−300msの陰性成分の平均電位はうるささを反映し、語音聴取時のうるささの指標として利用できる可能性がある。0ms−1000msにおける全てのサンプリングごとにt検定を実施した結果、主観判定の違いによる有意差が15 ms以上持続した時間帯は50−70ms、155−175ms、225−290ms、920−935msであった。
1.2. 脳波計測実験2(語音明瞭度に関する実験)
脳波計測実験2では、本願発明者らは、語音明瞭度と、文字呈示後の事象関連電位との関係を調べた。以下、図10から図13を参照しながら、脳波計測実験2の実験設定および実験結果を説明する。
実験参加者は、正常な聴力を有する大学・大学院生5名であった。
脳波は、図3(a)に示した頭皮上のFz、Cz、Pz、C3、C4(国際10−20法)から右マストイドを基準に記録した。サンプリング周波数は200Hz、時定数は1秒とした。オフラインで0.1−6Hzのディジタルバンドパスフィルタをかけた。文字呈示に対する事象関連電位として、文字が呈示された時刻を起点に−100msから1000msの波形を切り出した。事象関連電位の加算平均は、脳波計測実験3で取得したボタン押しの結果(絶対一致/絶対不一致)に基づいて行った。
図10は実験手順の概要を示す図である。
まず、手順Eにおいて単音節の音声を呈示した。語音は、聞き取り間違いが多いとされるナ行/マ行、ラ行/ヤ行、カ行/タ行から選択されている。語音聴取時の聞き取りやすさが変化するように、周波数ゲインを3段階に変えた下記3条件の音声を呈示した。
(1)ゲイン調整なし条件:周波数ゲイン調整なしの音声を呈示した。
(2)ゲイン小条件:250Hz−16kHzの周波数のゲインを段々と−25dBまで調整(低減)した音声を呈示した。
(3)ゲイン大条件:250Hz−16kHzの周波数のゲインを段々と−50dBまで調整(低減)した音声を呈示した。あらかじめ実験参加者には音声を聞いて対応する文字を思い浮かべるよう指示した。
図11は、条件(1)〜(3)のそれぞれにおける周波数ごとのゲイン調整量を示す。高周波数の周波数ゲインを低減させた理由は、高齢者の難聴の典型的なパターンを再現し、健聴者に対しても高齢難聴者の聞こえ難さと同等の聞こえを模擬するためである。
次に図10の手順Fにおいて実験参加者にキーボードのスペースキーを押させた。参加者がボタンを押すことにより、手順が次の手順Gに進む。この手順Fは参加者のペースで手順Gの文字刺激を呈示するために付加された。
手順Gにおいてディスプレイに一文字を呈示した。健常な聴力を有する参加者が不一致を感じるよう、50%の確率で手順Eで呈示した音声とは不一致な文字を呈示した。不一致な文字は、聞き取り間違いが多いとされるナ行とマ行、ラ行とヤ行、カ行とタ行をペアとして母音は揃えて音声とは異なる行の文字が選ばれた。たとえば、手順Eにおいて「な」を呈示した場合、手順Gでは一致条件として「な」、不一致条件として「ま」を呈示した。この場合、参加者が正しく音声を聞き取れたならば、「な」の呈示に対しては期待通りであると感じ、「ま」の呈示に対して期待はずれを感じることになる。
手順Hは、参加者が手順Eで呈示された音声と手順Gで呈示された文字に対して、どれくらい不一致を感じたかを確認するために設けられた。絶対一致と感じた場合にはキーボードの数字の5を押させ、多分一致と感じた場合には4を、分からない場合は3を、多分不一致と感じた場合には2を、絶対不一致と感じた場合には1をそれぞれ押させた。
本願発明者らは、手順Eから手順Hを108回繰り返して試行する実験を行った。本実験において、呈示語音はマ・ナ/ヤ・ラ/カ・タ行の各3音を使用し、それらの語音に対して3段階にゲイン調整を行った(計54種類)。
図12は1試行分の手順を示すフローチャートである。このフローチャートでは、説明の便宜のため、装置の動作と実験参加者の動作の両方を記載している。
ステップS21では単音節の音声が実験参加者に呈示される。
ステップS22では参加者は単音節の音声を聞いて対応する文字を思い浮かべる。
ステップS23では参加者は「次へ」ボタンとしてスペースキーを押す。
ステップS24ではステップS23を起点に音声と一致または不一致な文字をディスプレイに呈示するステップである。音声と文字とが一致する確率は50%である。よって、音声と文字とが不一致である確率も50%である。
ステップS25では参加者はステップS22で思い浮かべた文字とステップS24で呈示された文字とが一致したか否かを確認する。
ステップS26では参加者がステップS26でどれくらい一致/不一致と感じたかを1から5の数字キーで回答する。
図13は、頭頂部の電極位置(Pz)における事象関連電位を絶対不一致/絶対一致の主観判定ごとに総加算平均した結果を示す。刺激として文字が呈示された時刻を0msとして−100から1000msの事象関連電位が計算に用いられている。図13の横軸は時間で単位はms、縦軸は電位で単位はμVである。グラフの下方向が正(陽性)に対応し、上方向が負(陰性)に対応している。−100msから0msの平均電位を0に合わせてベースライン補正を行った。
図13に示される実線は、参加者が不一致を感じた場合の事象関連電位の加算平均波形であり、破線は参加者が一致を感じた場合の事象関連電位の加算平均波形である。図13によれば、(1)参加者が不一致と感じた実線に比べて、呈示参加者が一致と感じた破線では、潜時200msから400msを中心とする範囲に陽性成分が出現していること、および、(2)参加者が一致と感じた破線に比べて、呈示参加者が不一致と感じた実線では、潜時500msから600msを中心とする範囲内に陽性成分が出現していること、が分かる。0msから1000msにおける全てのサンプリングごとにt検定を実施した結果、上記語音明瞭度の違いによる有意差(p<.05)が20ms以上持続した時間帯は、270ms−390msと、450ms−540smsであった。
これらの脳波計測実験の結果から、(1)努力性、(2)うるささ、(3)語音明瞭度が特定の潜時の事象関連電位成分を見ることで、判定できる可能性があることが示された。
次に、識別率と加算回数との関係を説明する。
本願発明者らは、上記の実験に基づき発見した成分を判定に用いるのに、必要な加算回数を特定するための脳波データの分析を行った。各判定を行うための3種類の事象関連電位に対して加算回数順次増加させたときの識別率を調査した結果、一定の識別率(例えば80%)の達成を前提条件としたときに、(1)判定項目ごとに必要な加算回数が大きく異なること、(2)語音明瞭度判定は従来脳波で必要とされている加算回数(20回)よりも少ない加算回数でよいこと、(3)快適性判定では、従来脳波で必要とされている加算回数(20回)よりさらに多くの加算回数が必要なこと、を発見した。
以下、3種類の判定項目(努力性、うるささ、語音明瞭度)に対して行った分析の詳細を説明する。
努力性については、脳波計測実験1において計測した事象関連電位を用いて、主観報告の「努力性高/努力性低」を識別した。
まず、各「努力性高/努力性低」条件における全試行分の波形から加算回数分の波形をランダムに取り出し、加算平均を行った。本願発明者らは、この加算波形を各条件につき20波形分作成した。
次に、加算波形から上記実験において有意差ありと判定された区間(600ms−900ms)の平均電位を計算し、特徴量とした。また、各「努力性高/努力性低」条件における総加算平均波形においても同様の区間の平均電位を計算し、その平均値を閾値とした。そして、特徴量を計算した結果が、閾値より大きいときは「努力性高」、小さいときは「努力性低」と識別した。このときの全波形に対する識別結果の正解数の割合を識別率とした。
うるささについては、脳波計測実験1において計測した事象関連電位を用いて、主観報告の「うるさい/うるさくない」を識別した。まず、各「うるさい/うるさくない」条件における全試行分の波形から加算回数分の波形をランダムに取り出し、加算平均を行った。本願発明者らは、この加算波形を各条件につき20波形分作成した。
次に、加算波形から上記実験において有意差ありと判定された区間(200ms〜300ms)の平均電位とN1潜時とを計算し、これらを特徴量(2次元)とした。
ここで、これらの特徴量に対して「うるさい/うるさくない」を分ける識別境界について説明する。識別境界の計算には、総加算平均波形を用いた。各「うるさい/うるさくない」条件における総加算平均波形の平均電位とN1潜時とを、特徴量作成時と同様の区間に対して計算した。このように「うるさい/うるさくない」条件において計算した平均電位とN1潜時は、電位−時間のグラフにおいては「点」としてプロットされる。このとき、これらの2点を通る直線を考え、その直線の中点を通る垂線を識別境界とした。そして、特徴量を計算した結果が、識別境界より上にあるときは「うるさい」、下にあるときは「うるさくない」と識別した。このときの全波形に対する識別結果の正解数の割合を識別率とした。
次に、語音明瞭度の判定処理を説明する。
語音明瞭度については、脳波計測実験2において計測した事象関連電位を用いて、主観報告の「絶対一致/絶対不一致」を識別した。まず、各「絶対一致/絶対不一致」条件における全試行分の波形から加算回数分の波形をランダムに取り出し、加算平均を行った。この加算波形を、各条件につき20波形分作成した。つぎに、加算波形から上記実験において有意差ありと判定された区間(270ms−390ms、450ms−540ms)の平均電位を計算し、その差を特徴量とした。また、各「絶対一致/絶対不一致」条件における総加算平均波形においても同様の区間の平均電位差を計算し、その平均値を閾値とした。識別には前述の閾値を用いて、特徴量を計算した結果が、閾値より大きいときは「絶対一致」、小さいときは「絶対不一致」と識別した。このときの全波形に対する識別結果の正解数の割合を識別率とした。
実験の結果、本願発明者らは、加算回数と識別率の関係に関する以下のようなデータを得ることができた。図14は、以上の3つの判定項目に対し、加算回数を変化させたときの識別率の変化を示す。図14の識別率は上記計算を100回繰り返したときの平均値である。図14によると、被験者数が少ないために多少の変動が見られるが、基本的には全ての判定項目において横軸の加算回数が増加すると、識別率が向上している。ただし、努力性は回数を増やしても、識別率が上昇しにくいといえる。
一方、判定項目別の識別率に注目すると、それぞれの加算回数と識別率の関係が異なることが読める。語音明瞭度は加算回数5回で識別精度が80%に達するのに対し、うるささは加算回数20回で識別精度が70%である。そして、努力性の識別精度に関しては、さらに加算回数が多くても語音明瞭度とうるささの識別精度に及ばないといえる。実験の結果、本願発明者らはこのような特性を発見した。
この特性が見られる理由として、脳波成分の大きさの違いが考えられる。
図13に示す語音明瞭度の識別に使用した区間の電位差(図13中の「約6μV」、「約2.5μV」と示される電位差)と、図8と図9に示す快適性を識別するために使用した区間の電位差(それぞれの図において「約1μV」と示されている電位差)とは大きく異なっている。
この理由として、以下の2つが挙げられる。まずひとつめの理由として、刺激の種類の違いが考えられる。語音明瞭度の判定は視覚刺激に対する反応であるため、一般的に聴覚刺激に対する反応より大きな反応が出やすく脳波成分は大きくなる。それに対して快適性(「努力性」および「うるささ」)は聴覚刺激に対しての反応であるため、脳波成分の大きさが視覚刺激に対する反応と比較して小さくなると考えられる。
もうひとつの理由としては、判定内容の違いが考えられる。語音明瞭度は、聞き分けた語音と呈示された文字とが一致したかどうかという明確に判断ができる判定内容である。それに対して、快適性は快適かどうかという曖昧な判定である。そのため、快適性判定より語音明瞭度判定の方が脳波成分は大きくなると考えられる。したがって、識別方法などによっては、今回の実験で得られた識別精度は上下する可能性がある。しかしながら、刺激の種類と脳波成分のため、語音明瞭度と快適性の識別精度の順序関係は変化しないと考えられる。
ここで、判定項目ごとの必要加算回数について考える。必要加算回数は、加算回数と識別率の関係から決定する。たとえば、語音明瞭度判定で80%の識別精度が必要だとすると、そのときの必要加算回数は5回となる。このように、必要加算回数は判定項目ごとに必要な識別精度により決定される。そのため、必要加算回数は上記の識別精度が変化した場合には変動するし、実施する聴力判定内容によっても、必要とされる精度が変化する可能性があるため、変動することが予想される。以下では、必要加算回数について記述するために、一例として、語音明瞭度判定で必要な精度は80%であるとし、快適性で必要な精度は70%であるとして説明する。
以上をまとめると、図14に示されるように、一定の識別率(今回は語音明瞭度80%、快適性70%)を達成するには、明瞭度については従来必要とされてきた加算回数(20回)より少なくてよいが、快適性は従来と同程度、またはそれ以上の加算回数が必要なことが分かる。ただし、明瞭度と快適性の間で必要加算回数に違いがあるものの、これらは一連の音声呈示と文字呈示に対する反応として判定されるため、一回の試行では、明瞭度と快適性の反応はそれぞれ1回ずつ得られるだけである。
快適性の識別精度を保つためには、加算回数を従来の20回またはそれ以上にする必要がある。しかしながら、加算回数を増やすと、呈示時間が長くかかってしまう。たとえば、語音明瞭度を判定するために67S語表の20語音を用いた場合、20語音を各20回呈示した場合には、合計400回も呈示する必要がある。そのため、被験者は400回の呈示中、音声の聞き分けに集中する必要があり、被験者にとって大きな負担になると考えられる。また、選択に要する時間は、呈示音声の音圧を3種類、音声刺激間の間隔を3秒とし、裸時/装用時について聴力判定をすると、400回の呈示に最低2時間かかると推定される。
加算回数と呈示時間との関係に関し、本願発明者らは、語音明瞭度と快適性の必要加算回数の違いと、語音明瞭度と快適性の判定に必要な細かさが異なることに着目した。
本明細書でいう判定の「細かさ」とは、最終的に使用される判定結果の出力が語音ごとかいくつかの語音をまとめたものかを示す概念である。語音明瞭度判定は、語音が聞き分けられたかを判定するため、語音ごとに正解/不正解を判定する必要がある。一方、快適性判定における、うるささや、努力性の判定は語音ごとに快適/不快を判定する必要はなく、同じ音圧などの条件で同じように聞こえるものはまとめて判定してもよいと考えられる。この考え方は、快適性判定時のユーザの聞こえを分析した結果、本願発明者らが初めて想到したと言えるものである。以下、具体的に説明する。
まず、快適性判定時のユーザの聞こえについて、努力性判定とうるささ判定それぞれを説明する。 先に述べた通り、努力性は、ユーザがどれだけ努力して語音を聞き分けたかを示す指標である。ここで、ユーザが語音を聞き分けられない状況について考えると、呈示された音圧の大きさよりも、語音の周波数が近い場合に区別がつかなくなっていると推測される。したがって、努力性は周波数を基準にまとめて判定することができると考えられる。
図15は、周波数に対する音素ごとの聴力レベルをプロットした図である。図15によれば、音素の分布に偏り(周波数の偏り)があることが見て取れる。そのため、努力性をまとめて判定する場合には、図15中の分布ごとや、近い語音ごとにグループ化すればよい。
一方、うるささは、音の周波数帯が違っていても、その影響は小さく、音の振幅の大きさが直接の要因となる。したがって、語音の振幅の大きさを決定付ける母音の種類によりグループ化することができると考えられる。上記のように、同じ音の振幅や同じ周波数帯の音声はまとめて判定しても、語音ごとに快適性を判定したものと差は少ないと考えられる。つまり、語音明瞭度判定の方が細かい判定が必要であると言える。図16は、67S式語表の20語音を上記に従ってグループ化した例を示す。そして図16(a)は、努力性について図15の分布により、67S式語表の20語音をグループ化した例である。
たとえば図16(a)の「シ」および「ス」は、図15の周波数約6000Hz付近に位置する「s」のグループに分類される。また、図16(a)の「キ」、「ク」、「タ」、「テ」および「ト」は、図15の周波数約3500Hz付近に位置する「k」および「t」のグループに分類される。図16(a)の「ハ」および「ガ」は、図15の周波数約1800Hz付近に位置する「h」および「g」のグループに分類される。
一方、図16(b)はうるささについて、母音ごとに67S式語表の20語音をグループ化した例である。
これらのことから、本願発明者らは、必要な判定の細かさと必要な加算回数とを総合すると、細かい判定が必要な明瞭度判定については加算回数が少なくてよいこと、および、加算が多く必要な快適性判定については複数の語音をまとめて判定できることを見出した。図17は、本願発明者らがまとめた判定方法の関係を示す。
この知見から、本願発明者らは、必要加算回数が異なる聴力判定項目に対し、判定項目によって加算平均する波形を切り替えることで、全体としての音声と文字の呈示回数の削減が図れるという着想に至った。
以下、この着想に基づき構成した本発明の実施形態の詳細と本発明の効果について、快適性判定としてうるささ判定を行った場合を例にとり、図面を参照しながら説明する。
本願明細書においては、事象関連電位の成分を定義するためにある時点から起算した所定時間経過後の時刻を、たとえば「潜時約750ms」と表現している。これは、750msという特定の時刻を中心とした範囲を包含し得ることを意味している。「事象関連電位(ERP)マニュアル−P300を中心に」(加我君孝ほか編集、篠原出版新社、1995)の30頁に記載の表1によると、一般的に、事象関連電位の波形には、個人ごとに30msから50msの差異(ずれ)が生じる。したがって、「約Xms」や「Xms付近」という語は、Xmsを中心として30から50msの幅がその前後(例えば、300ms±30ms、750ms±50ms)に存在し得ることを意味している。
なお、上述の「30msから50msの幅」はP300成分の一般的な個人差の例であるが、上記潜時約750msの陽性成分はP300と比べて潜時が遅いためユーザの個人差がさらに大きく現れる。よって、より広い幅、たとえば前後に各100msから150ms程度の幅であるとして取り扱うことが好ましい。よって、本実施形態において、「潜時約750ms」は、潜時600msから900msであることを示す。潜時600msから900msは、潜時600m以上900ms以下を意味する。
また、「潜時200ms付近」や「潜時約200ms」についても、潜時200msに対して前後に各30から50msの幅を持つとしてもよいし、それよりも若干広い幅、たとえば前後に各50msから100msの幅を持つとしてもよい。
また、一般的には「陽性成分」とは0μVよりも大きい電位を意味する。しかしながら、本願明細書において「陽性成分」とは、絶対的に陽性である(0μVよりも大きい)ことを要しない。本願明細書では、聞き分け自信度が高いか低いかを識別するために「陽性成分」の有無を識別しており、聞き分け自信度の有意な高低を弁別できる限り、区間平均電位等が0μV以下であってもよい。
なお、一般的には「陰性成分」とは0μVよりも小さい電位を意味する。しかしながら本願明細書において「陰性成分」とは、絶対的に陰性である(0μVよりも小さい)ことを要しない。本願明細書では、うるさいと感じたか否かを識別するために「陰性成分」の有無を識別しており、うるさいと感じたか否かを識別できる限り、区間平均電位等が0μV以上であってもよい。陰性成分の大小を判定できる場合には、陰性成分の有無として記述している。
2. 実施形態1
図18は、本実施形態による聴力判定システム100の構成および利用環境を示す。
聴力判定システム100は、聴力判定装置1と、生体信号計測部3と、視覚刺激部4と、聴覚刺激部5と、を備えている。生体信号計測部3は、少なくとも2つの電極AおよびBと接続されている。例えば、電極Aはユーザ5のマストイドに貼り付けられ、電極Bはユーザ5の頭皮上の位置(いわゆるPz)に貼り付けられている。
聴力判定システム100は、単音節の語音を、音声と文字の順で、ユーザ2に呈示する。音声呈示時刻を起点に計測したユーザ2の脳波(事象関連電位)に基づき、快適性判定を行う。また、文字呈示時刻を起点に計測したユーザ2の脳波(事象関連電位)に基づき、語音明瞭度判定を行う。
生体信号計測部3により、電極Aと電極Bとの電位差に対応するユーザ2の脳波を取得する。生体信号計測部3は、電位差に対応する情報(脳波信号)を無線または有線で聴力判定装置1に送信する。図18では、当該情報を生体信号計測部3無線で聴力判定装置1に送信する例を示している。
聴力判定装置1は、聴力判定のための音声の音圧制御や、音声および文字の提示タイミングの制御を行い、ユーザ2に対して、聴覚刺激部5(たとえばスピーカ)を介して音声を呈示し、視覚刺激部4(たとえばディスプレイ)を介して文字を呈示する。
図19は、本実施形態による聴力判定装置1のハードウェア構成を示す。聴力判定装置1は、CPU30と、メモリ31と、オーディオコントローラ32と、グラフィックコントローラ33とを有している。これら互いにバス34で接続され、相互にデータの授受が可能である。
CPU30は、メモリ31に格納されているコンピュータプログラム35を実行する。コンピュータプログラム35には、後述するフローチャートに示される処理手順が記述されている。聴力判定装置1は、このコンピュータプログラム35にしたがって、同じメモリ31に格納されている語音DB12を利用して、聴力判定システム100の全体を制御する処理を行う。また、聴力判定装置1による判定結果は、メモリ31内の聴力判定結果DB10に格納される。この処理は後に詳述する。
オーディオコントローラ32は、CPU30の命令に従って、それぞれ、呈示すべき音声を生成し、生成した音声信号を指定された音圧で聴覚刺激呈示部5に出力する。
グラフィックコントローラ33は、CPU30の命令に従って、それぞれ、呈示すべき文字を生成し、視覚刺激呈示部4に出力する。
後述する聴力判定装置1の各機能ブロック(語音DB12を除く)は、それぞれ、図19に示すプログラム35が実行されることによって、CPU30、メモリ31、オーディオコントローラ32、グラフィックコントローラ33によって全体としてその時々で実現される機能に対応している。
図20は、本実施形態による聴力判定システム100のブロック構成図を示す。
聴力判定システム100は、聴力判定装置1と、生体信号計測部3と、視覚刺激呈示部4と、聴覚刺激呈示部5とを備えている。ユーザ2のブロックは説明の便宜のために示されている。
聴力判定システム100は、ユーザ2の脳波信号を利用して聴力判定を行う際に用いられる。聴力判定は、聴力判定装置1によって実行される。
以下、聴力判定システム100の構成要素の機能の概要を説明する。詳細な機能および構成は後に詳述する。
生体信号計測部3は、ユーザの脳波を計測し、音声と文字の刺激をそれぞれ起点とした事象関連電位を抽出する。視覚刺激呈示部4は、聴力判定装置1からの指示により、語音を示す文字をユーザに呈示する。呈示された文字は、ユーザ2の視覚への刺激となる。聴覚刺激呈示部5は、聴力判定装置1からの指示により、語音の音声をユーザに呈示する。呈示された音声は、ユーザ2の聴覚への刺激となる。
聴力判定装置1は、語音別加算部6と、グループ別加算部7と、明瞭度判定部8と、快適性判定部9と、聴力判定結果データベース(DB)10と、呈示語音制御部11と、語音データベース(DB)12とを備えている。
グループ別加算部7は、複数の語音のグループのデータを利用して、音声呈示を起点とした事象関連電位をグループ別に加算する。このグループは少なくとも1つ存在すればよい。各グループは、予め定められた規則に基づいて分類されている。たとえば母音のグループ、無声子音のグループ、有声子音のグループである。ただし、規則によっては要素となる語音が属しないグループが存在してもよい。
明瞭度判定部8は、語音別に加算された脳波波形から語音ごとの語音明瞭度を判定する。
快適性判定部9は、グループ別に加算された脳波波形からグループごとの快適性を判定する。
聴力判定結果DB10は、判定結果を格納する。
呈示語音制御部11は、語音を参照しユーザに呈示すべき語音を決定する。
語音別加算部6は、語音の情報を利用して、文字刺激呈示を起点とした事象関連電位を語音別に加算する。
語音DB12は、語音と語音のグループ分けのデータとを格納する。
以下、各ブロックを詳しく説明する。
生体信号検出部3は、ユーザ2の頭部に装着された電極における電位変化を計測する機器である。例えば、脳波計などが該当する。探査電極は、例えば、頭頂部のPzに、基準電極は左右どちらかのマストイドにおき、探査電極と基準電極の電位差である脳波を計測する。生体信号計測部3は、ユーザ2の脳波を計測し、呈示語音制御部11から受けたトリガを起点に所定区間(たとえば−200msから1000msの区間)の事象関連電位を切り出す。このとき、聴覚刺激に対応するトリガを起点とした事象関連電位をグループ別加算部7に送付し、視覚刺激に対応するトリガを起点とした事象関連電位を語音別加算部6に送付する。
なお、本実施形態の説明では、生体信号計測部3は、呈示語音制御部70からのトリガを起点にして予め定められた範囲の事象関連電位を切り出し、ベースライン補正を行って電位波形のデータを事象関連電位処理部55に送信するとした。しかしながら、この処理は一例である。他の処理として、たとえば、生体信号計測部50は継続的に脳波を計測し、事象関連電位処理部55が必要な事象関連電位の切り出しおよびベースライン補正を行ってもよい。当該構成であれば、呈示語音決定部70は生体信号計測部50にトリガを送信する必要はなくなり、事象関連電位処理部55にトリガを送信すればよい。
視覚刺激呈示部4は、ユーザ2に語音明瞭度判定のための文字を呈示するデバイスである。視覚刺激呈示部4は、例えば、テレビやディスプレイである。視覚刺激呈示部4は、呈示語音制御部11によって決定された語音の文字を表示面上に呈示する。
聴覚刺激提示部4はユーザに快適性判定のための音声を呈示するデバイスである。聴覚刺激提示部4は、例えば、スピーカやヘッドフォンである。聴覚刺激提示部4の種類は、任意である。しかしながら、正しい判定を行うには指定された音圧で音声を正確に呈示できるよう調整されている必要がある。それにより、聴覚刺激提示部4は、呈示語音制御部11によって決定された単音節の音声を正確に呈示することができる。
語音DB12は、聴力判定に用いる語音のデータベースである。図21は、語音DB12に格納されるデータベースの一例を示す。図21に示した語音DB12には、語音毎に、呈示する音声ファイル、子音ラベルの語音情報が格納されている。保存されている音声は、あらかじめ測定した難聴者のオージオグラムからフィッティング手法に基づいて周波数ごとのゲイン調整が完了しているとする。保存される語音の種類は、57S語表、67S語表に挙げられている語音でも良い。子音ラベルは、ユーザ2がどの子音において異聴が発生する確率が高いかを判定する際に利用される。
また、語音DB12は、複数の語音のグループのデータを有している。異聴発生尤度(異聴の発生しやすさ、または、異聴発生の確率)に応じたグループ分けされたデータは、ユーザ2がどのグループにおいて異聴発生する確率が高いかを判定する際に利用される。グループ分けは、たとえば大分類、中分類、小分類とする。
大分類は母音、無声子音、有声子音の分類でそれぞれ0、1、2のように表記している。中分類は無声子音内、有声子音内の分類である。無声子音内はサ行(中分類:1)とタ・カ・ハ行(中分類:2)に、有声子音内はラ・ヤ・ワ行(中分類:1)とナ・マ・ガ・ザ・ダ・バ行(中分類:2)に分類できる。小分類は、ナ・マ行(小分類:1)とザ・ガ・ダ・バ行(小分類:2)のように分類できる。異聴発生尤度については、「補聴器フィッティングの考え方」(小寺一興、診断と治療社、1999年、172頁)を参照した。
また、語音DB12は、グループ別に加算するための快適性判定別の加算グループのデータを有している。加算グループのデータは、グループ別加算部7において加算する事象関連電位を切り替える際に利用される。加算グループは、たとえばうるささ、努力性とする。うるささは判定語音の振幅別にそれぞれ0、1、2、3、4、5のように表記している。努力性は判定語音の周波数別にそれぞれ0、1、2、3、4、5のように表記している。
呈示語音制御部11は、語音DB12を参照し呈示する語音を決定し、決定した語音に関する情報を視覚刺激呈示部4と聴覚刺激呈示部5へ送信する。また、音声と文字それぞれの呈示時刻に合わせて、トリガを生体信号計測部3へ送信する。また、呈示する語音の情報を語音別加算部6へ送信し、呈示する語音情報と、その語音が持つグループ分けのデータをグループ別加算部7に送信する。また、決定した語音を、視覚刺激呈示部4および聴覚刺激呈示部5が呈示することも制御しても良い。
本実施形態においては、呈示語音制御部11は視覚刺激呈示部4および聴覚刺激呈示部5へ同じ語音情報を送信するとして説明する。
語音別加算部6およびグループ別加算部7は、呈示語音制御部11から受けた呈示語音情報の内容に応じて、生体信号計測部3から受けた事象関連電位の波形に関して、加算平均を行う波形を切り替える。
語音別加算部6は、生体信号計測部3から視覚刺激に対応するトリガを起点とした事象関連電位を受け取る。このとき、呈示語音制御部11から受け取った呈示語音情報を利用して、同じ語音の呈示によって得られた事象関連電位のみを選択して加算平均を行う。そして、語音ごとに所定回数の加算平均が実行された脳波データを明瞭度判定部8に送付する。同じ語音のみで加算平均した場合には語音ごとの聞き分け判定が可能となる。
グループ別加算部7は、生体信号計測部3から聴覚刺激に対応するトリガを起点とした事象関連電位を受け取る。このとき、呈示語音制御部11から受け取った呈示語音情報と語音が持つグループ分けのデータを利用して、同じグループ内の語音の呈示によって得られた事象関連電位を選択して加算平均を行う。そして、グループごとに所定回数の加算平均が実行された脳波データを快適性判定部9に送付する。
たとえば、グループ別加算部7は、同じ音声グループ(図21中の大分類など)に属する語音の呈示によって得られた事象関連電位を選択して加算平均を行う。
明瞭度判定部8は、語音別加算部6から受け取った加算平均済の脳波波形を識別し、語音ごとに語音明瞭度の有無を判定する。語音明瞭度の判定結果を聴力判定結果DB10に送信する。
図22は、明瞭度判定部8の構成を示す。
図22に示すように、明瞭度判定部9は、陽性成分判定部51と、判定部52とを備えている。
陽性成分判定部51は、語音別加算部6から受け取った加算平均済の脳波波形を受け取り、加算波形から潜時約300msまたは約500msの陽性成分の有無を判定する。陽性成分の有無は以下の方法で識別する。たとえば、陽性成分判定部51は、潜時200msから400msの最大振幅や潜時200msから400msの区間平均電位を所定の閾値と比較する。そして、潜時200msから400msの範囲内、または、潜時400msから600msの範囲内の最大振幅又は区間平均電位が閾値より大きい場合には「陽性成分あり」と識別し、小さい場合を「陽性成分なし」と識別する。
判定部52は、陽性成分判定部51から陽性成分の有無を受け取り、陽性成分の有無から明瞭度を判定し、判定結果を聴力判定結果DB10に送信する。
快適性判定部9は、グループ別加算部7から受け取った加算平均済の脳波(事象関連電位)の波形を識別し、グループごとの快適性の有無を判定する。快適性判定部9は、快適性の判定結果を聴力判定結果DB10に送信する。
図23は、快適性判定部9の構成を示す。
図23に示すように、快適性判定部8は、特徴成分判定部41と、判定部42と、基準データベース(DB)43とを有している。
特徴成分判定部41は、グループ別加算部7から受け取った加算平均済の脳波(事象関連電位)の波形と、基準DB43から陰性成分および陽性成分をそれぞれ検出するための潜時および閾値のデータを受け取る。
特徴成分判定部41は、陽性成分判定部41aと、陰性成分判定部41bとを備えている。
努力性を判定する場合は、陽性成分判定部41aは、加算波形から潜時約750msに陽性成分が存在するか否かを判定する。陽性成分の有無は以下の方法で識別する。たとえば、陽性成分判定部41aは、潜時600msから900msの最大振幅や潜時600msから900msの区間平均電位を所定の閾値と比較する。区間平均電位を用いる場合の「所定の閾値」は、一般的なユーザの陽性成分の有無の閾値として、上述の実験で得られた「努力性高」と「努力性低」の区間平均電位の中央値である2.36μVとしてもよい。そして、陽性成分判定部41aは、区間平均電位が閾値より大きい場合には「陽性成分あり」と識別し、小さい場合を「陽性成分なし」と識別する。上述の「潜時約750ms」および閾値は、基準DB43から受け取ったデータに基づいて設定される。
うるささを判定する場合は、陰性成分判定部41bは、加算波形から潜時約200msの陰性成分の有無を判定する。陰性成分の有無は以下の方法で識別する。たとえば、陰性成分判定部41bは、潜時100msから300msの最大振幅や潜時100msから300msの区間平均電位を所定の閾値と比較する。そして、区間平均電位が閾値より大きい場合には「陰性成分あり」と識別し、小さい場合を「陰性成分なし」と識別する。また、陰性成分判定部41bは、潜時100msから300msの陰性電位のピークの潜時を所定の閾値と比較してもよい。そして、陰性成分判定部41bは、陰性電位のピーク潜時が所定の閾値よりも短い場合には「陰性成分あり」と識別し、ピーク潜時が所定の閾値より小さい場合を「陰性成分なし」と識別する。「所定の閾値」は、一般的なユーザの陰性成分の有無の閾値として、上述の実験で得られた「うるさい」と「うるさくない」の陰性成分の潜時の中央値である218msとしてもよい。または、陰性成分判定部41bは、潜時約200msの典型的な陰性成分信号の波形から作成した所定のテンプレートとの類似度(たとえば相関係数)によって類似している場合を「陰性成分あり」と識別し、類似していない場合を「陰性成分なし」と識別してもよい。所定の閾値やテンプレートは、予め保持した一般的なユーザの陰性成分の波形から算出・作成してもよい。上述の潜時(「約200ms」等)および閾値は、基準DB43から受け取ったデータに基づいて設定される。
判定部42は、特徴成分判定部41から陽性成分および陰性成分の有無を受け取り、陽性成分および陰性成分の有無から快適性を判定し、判定結果を聴力判定結果DB10に送信する。
聴力判定結果DB10は、聴力判定結果を格納するデータベースである。明瞭度判定部8と快適性判定部9からそれぞれ判定結果を受け取り、聴力判定結果として保存する。
以下、図24〜図26を参照しながら、上述の聴力判定システム100の処理手順を詳細に説明する。
まず、図24を参照しながら図16の聴力判定システム100において行われる全体的な処理手順を説明する。図24は、聴力判定システム100において行われる処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS10において、生体信号計測部3はユーザ2の脳波の計測を開始する。以降のステップにおいて脳波計測は連続して行われる。
ステップS11において、呈示語音制御部11は、語音DB12を参照しながら呈示する単音節の語音を決定する。聴覚刺激呈示部5は、決定した語音の音声をユーザ2に呈示する。呈示語音制御部11は音声を呈示すると同時に、生体信号計測部3に対し音声刺激呈示トリガを送信し、グループ別加算部7に呈示語音情報と語音が持つグループ分けのデータを送信する。このとき、図21に示す子音ラベルや、大分類、中分類、小分類において、各語音に対応するラベルや番号がグループ分けのデータを参照する。たとえば、グループ分けを「大分類」にして、語音「あ」を呈示した場合には、呈示語音制御部11はグループ別加算部7にグループ分けのデータ「0」を送信する。
ステップS12において、呈示語音制御部11は、語音DB12を参照しながらステップS11で呈示した聴覚刺激に対応する単音節の語音を決定する。視覚刺激呈示部4は、ユーザ2に、決定した文字を呈示する。例えば、聴覚刺激呈示の1秒後(1000ms後)に、視覚刺激呈示を行う。呈示語音制御部11は、文字を呈示すると同時に、生体信号計測部3に対し視覚刺激呈示トリガを送信し、語音別加算部6に呈示した語音の情報を送信する。
ステップS13において、生体信号計測部3は、呈示語音制御部11からトリガを受けて、計測した脳波のうち、トリガを起点にたとえば−200msから1000msまでの事象関連電位を切り出す。そして−200msから0msの平均電位を求め、その平均電位が0μVになるよう、得られた事象関連電位をベースライン補正する。このとき、聴覚刺激に対応するトリガを起点とした事象関連電位をグループ別加算部7に、視覚刺激に対応するトリガを起点とした事象関連電位を語音別加算部6に送付する。
ステップS14において、グループ別加算部7は、ステップS13で切り出した事象関連電位を、呈示語音制御部11から受けた呈示語音と語音が持つグループ分けのデータに基づきグループごとに加算平均する。たとえば、図21に示す子音ラベルや、大分類、中分類、小分類、うるささ、努力性がグループ分けにあたる。グループ分けを「大分類」にして、語音「あ」が呈示されたときには、呈示語音制御部11からは語音「あ」と、グループ分けのデータ「0」が送信される。グループ別加算部7は、グループ分けのデータ「0」を参照し、その波形を記憶する。その後、グループ分けのデータが同じ語音(「い」、「う」、「え」、「お」)が呈示されたときには、グループ別加算部7は、これらの波形を加算平均する。
ステップS15において、語音別加算部6は、ステップS13で切り出した事象関連電位を、呈示語音制御部11から受けた呈示語音の情報に基づき、語音別に加算平均を行う。
ステップS16は、聴力判定予定の語音1セットに対して呈示が終了したか否かの分岐で、完了していない場合にはステップS11へ戻り、完了している場合にはステップS17へ進む。
ステップS17は、判定に必要な語音セット数に対して呈示が終了したか否かの分岐で、完了していない場合にはステップS11へ戻り、完了している場合にはステップS18へ進む。
ステップS18において、快適性判定部9は、グループ別加算部7からグループごとに加算平均した脳波データを受け取り、グループごとの快適性の有無を判定する。そして、快適性の判定結果を聴力判定結果DB12に送信する。以下、ステップS18の詳細を図25を参照しながら説明する。
図25は、図24のステップS18の詳細な処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS40において、特徴成分判定部41は、判定項目を「うるささ」にするか「努力性」にするかを判定する。すなわち特徴成分判定部41は、グループ別加算部7から判定項目を特定するデータを受け取り、判定項目がうるささの場合にはステップS41の処理へ進み、判定項目が努力性の場合にはステップS47の処理に進む。
ステップS41において、特徴成分判定部41は、基準DB43から陰性成分を検出するための潜時データを受け取る。
ステップS42において、特徴成分判定部41はグループごとに加算平均した脳波データを受け取る。
ステップS43において、陰性成分判定部41bは潜時約200msの陰性成分が存在するか否かを判定する。陰性成分判定部41bによって陰性成分が検出されなかった場合には処理はステップS44へ進み、陰性成分が検出された場合には処理はステップS45へ進む。
ステップS44において、判定部42は、ステップS11で呈示した語音に対して陰性成分判定部41bから潜時約200msの陰性成分がなかったこと受けて「快適」と判定し、判定結果を蓄積する。
ステップS45において、判定部42は、ステップS11で呈示した語音に対して陰性成分判定部41bから潜時約200msの陰性成分があったこと受けて「不快」と判定し、判定結果を蓄積する。
ステップS46において、判定部42は、快適性判定予定の全てのグループに対して快適性判定が完了したか否かを判定する。快適性判定が完了していない場合には処理はステップS41へ戻り、完了している場合には処理は終了する。
次に、努力性を判定項目とする処理を説明する。
ステップS47において、特徴成分判定部41は、基準DB43から陽性成分を検出するための潜時データを受け取る。
ステップS48において、特徴成分判定部41はグループごとに加算平均した脳波データを受け取る。
ステップS49において、陽性成分判定部41aは潜時約200msの陽性成分が存在するか否かを判定する。陽性成分判定部41aによって陽性成分が検出されなかった場合には処理はステップS50へ、陰性成分が検出された場合には処理はステップS51へ進む。
ステップS50において、判定部42は、ステップS11で呈示した語音に対して陽性成分判定部41aから潜時約750msの陽性成分がなかったこと受けて「快適」と判定し、判定結果を蓄積する。
ステップS51において、判定部42は、ステップS11で呈示した語音に対して陰性成分判定部41aから潜時約750msの陽性成分があったこと受けて「不快」と判定し、判定結果を蓄積する。
ステップS52において、判定部42は、快適性判定予定の全てのグループに対して快適性判定が完了したか否かを判定する。完了していない場合には処理はステップS47へ戻り、完了している場合には処理は終了する。
再び図24を参照する。
ステップS18において、明瞭度判定部8は語音別加算部6から語音ごとに加算平均した脳波データを受け取り、語音ごとの語音明瞭度の有無を判定する。そして、語音明瞭度の判定結果を聴力判定結果DB12に送信する。以下、ステップS19の詳細を図26を参照しながら説明する。
ステップS53において、陽性成分判定部51はグループごとに加算平均した脳波データを受け取る。
ステップS54は、陽性成分判定部51において潜時約300msの陽性成分が検出されたか否かによる分岐で、陽性成分が検出されなかった場合にはステップS53へ、陽性成分が検出された場合にはステップS54へそれぞれ進む。
ステップS55において、判定部52は、ステップS11で呈示語音制御部11から受け取ったグループに対し、陽性成分判定部41から潜時約300msの陽性成分があったことを受けて、快適と判定し、判定結果を蓄積する。
ステップS56において、判定部52は、ステップS11で呈示語音制御部11から受け取ったグループに対し、陽性成分判定部41から潜時300msの陽性成分がなかったことを受けて、不明瞭と判定し、判定結果を蓄積する。
ステップS57は、明瞭度判定予定の全ての語音に対して明瞭度判定が完了したか否かの分岐で、完了していない場合にはステップS53へ戻り、完了している場合には語音明瞭度判定を終了する。
ステップS20において、聴力判定結果DB10は、明瞭度判定部8からは語音ごとに明瞭/不明瞭が判定された判定結果を受け取り、快適性判定部9からはグループごとに快適/不快が判定された判定結果を受け取る。そして、それらの結果をデータベースに蓄積する。
これまで説明した聴力判定システム100において、判定項目によって加算する波形を切り替える効果を説明する。
以下では、音声と文字の呈示回数を考える上で、呈示回数を語音セットと必要セット数に分けて表現する。
「語音セット」とは、判定する語音をまとめたものであり、たとえば、67S語表の20語音を呈示する場合は、この20語音が語音1セットにあたり、その呈示回数は20回である。この語音セットを必要セット数分、繰り返すことで、脳波の加算平均が実現できる。
一方「必要セット数」とは、語音明瞭度判定と快適性判定、両方に必要な加算回数を達成するための語音セットの数である。上記の波形を切り替えない場合を例にすると、必要セット回数は20回である。また、合計の呈示回数は語音セットの語音×必要セット数となる。
図27は、明瞭度についての判定結果、および、語音をグループ化したときのグループごとの快適性の判定結果の一例を示す。
本発明における波形の切り替え効果について、図27に示すように、語音セット(20語音、67S語表)、語音明瞭度判定を20語音に対して、快適性判定を図21に示す大分類にまとめた場合を例にして説明する。前述のとおり、大分類は母音、無声子音、有声子音の分類である。このとき67S語表の20語音はそれぞれ、母音グループに3語音、有声子音グループに9語音、無声子音グループに8語音が含まれる。ここでは、語音別判定に必要な加算回数を5回、快適性判定に必要な加算を回数が20回として、必要セット数を計算する。
必要セット数を計算するときには、語音明瞭度判定、快適性判定それぞれについて必要なセット数を考える必要がある。
語音明瞭度判定は20語音に対して判定を行うため、語音セット(20語音)を5セット分呈示すれば、加算回数が5回となり、語音明瞭度判定が実現できる。
20語音:1語音×5セット=加算回数5回
一方、快適性判定は3グループに対して判定を行うため、3つのグループについてそれぞれ必要セット数を考えると、
母音:3語音×7セット=加算回数21回
有声子音:9語音×3セット=加算回数27回
無声子音:8語音×3セット=加算回数24回
となり、母音は7セット、有声子音は3セット、無声子音は3セットで快適性判定に必要な加算回数20回を達成できる。
ここで、両方の判定に必要な加算回数を達成するには、必要セット数が一番大きくなるものに合わせる必要がある。したがって、この例の場合は、グループ内の語音数が一番少ない母音グループに合わせて必要なセット数が決まり、その必要セット数は7回となる。
この結果より、必要なセット数は20回から7回に大きく削減できる。また、このときの判定結果は、図27に示すように、明瞭度は語音ごとに明瞭/不明瞭の判定結果が得られ、快適性は音声グループごとに快適/不快の判定結果が得られる。
ここで、図27の判定結果(○、×)は、加算波形に対して成分を検出し、その有無を判定した結果のことをいう。たとえば、語音明瞭度判定においては、陽性成分の有無を判定し、なしと判定されたものを○(明瞭)、ありと判定されたものを×(不明瞭)とする。
同様に、快適性判定においては、成分の有無を判定し、なしと判定されたものを○(快適)、ありと判定されたものを×(不快)とする。
上記の例において呈示語音20語音、呈示音声の音圧を3種類、音声刺激間の間隔を3秒とし、裸時/装用時について聴力判定時間について考える。本手法を用いる前は必要セット数が20回であり、判定時間は、
20語音×3種類×3秒×2パターン×20セット=7200秒(2時間)
であった。
これに対し、本手法を用いると
20語音×3種類×3秒×2パターン×7セット=2520秒(42分)
となる。そのため、判定時間は2時間から42分となり、大幅な時間短縮が実現できる。
本実施形態の聴力判定システム100によれば、音声・文字の呈示回数が削減され聴力判定が短時間で実現される。これによって、たとえば補聴器販売店における聴力判定において判定に要する時間が削減され、補聴器ユーザの手間が低減される。
なお、今回の実施例においては、うるささの判定結果が快適性を表すとした。快適性を判定するに際しては、脳波計測実験のときに記述した、努力性の判定結果が快適性を表すとしてもよいし、うるささと努力性の両方の判定結果が快適性を表すとしてもよい。
生体信号計測部3において、計測した事象関連電位の特徴成分のレベルや極性は、脳波計測用の電極を装着する部位や、基準電極および探査電極の設定の仕方に応じて変わる可能性がある。しかしながら、以下の説明に基づけば、当業者は、そのときの基準電極および探査電極の設定の仕方に応じて適切な改変を行って事象関連電位の特徴成分を検出し、聴力判定を行うことが可能である。そのような改変例は、本発明の範疇である。
なお、今回の実施例においては、グループ分けのデータは語音データベースが保持しているが、このデータはグループ別加算部7に持たせてもよい。
なお、グループ別加算部7において、グループ別に加算するときの音声グループは、同じ子音を持つ語音をグループにしてもよいし、異聴発生尤度(図21で示したグループの大分類・中分類・小分類)が同じ語音をグループにしてもよい。同じ子音を持つ語音で加算平均した場合にはどの子音において快適性が低いのかの判定が可能となる。また、異聴発生尤度グループごとに加算平均した場合には、たとえば有声子音と無声子音のグループ化では、有声子音に対して快適性が高いが、無声子音に対して快適性が低い、のようにグループごとの判定が可能となる。子音ごと、グループごとの加算平均では、グループ内に属する語音数分の加算回数が確保された加算波形がそれぞれ得られる。そのため、必要加算回数が多い快適性判定に対して、少ない音声・文字呈示回数で判定が可能となる。
なお、呈示する語音は語音DB12から選択するときに、必要加算回数分のみを呈示してもよい。たとえば、先ほどと同様、3つの音声グループ(母音:3語音、有声子音:9語音、無声子音:8語音)にまとめた場合を例にすると、必要セット数は7セットであった。このとき、有声子音グループと無声子音グループは必要セット数が3セットであるにもかかわらず、7セット分呈示しているため、判定時間は長くなる。このように、グループごとの必要セット数に対して、全体のセット数が多い場合には、そのセット数を減らすことができる。ただし、この場合には、語音明瞭度の必要セット数は5セットであるため、両判定を実現するには、5セットより減らすことはできない。したがって、有声子音グループと無声子音グループの必要セット数は5回となる。そのため、母音グループは7セット、有声子音グループと無声子音グループは5セットで呈示終了、のようにグループごとに必要加算回数に達した時点で呈示を終了してもよい。以上のように、必要加算回数分のみ呈示した場合には、本発明における時間短縮の効果がより大きくなる。
なお、呈示する語音は語音DB12からランダムに選択しても良いし、特定の子音またはグループの語音を集中的に選択してもよい。先ほどと同様、3つの音声グループ(母音:3語音、有声子音:9語音、無声子音:8語音)にまとめた場合を例にする。このとき、図28に示すように、特定のグループの語音(母音の「ア」)を繰り返す場合を考える。この場合には、先に述べた必要セット数の計算方法からすると、5セットで加算回数20回を達成できる。したがって、全ての判定に必要なセット数は5セットとなる。このように、グループ内の語音を調整すると、本発明における時間短縮の効果がより大きくなる。
なお、呈示する語音は語音DB12からランダムに選択する、特定の子音またはグループの語音を集中的に選択する方法と、必要加算回数分のみを呈示する方法を組み合わせてもよい。2つを組み合わせることにより、必要最小セット数で判定が可能になり、本システムにおける最短の判定時間で聴力判定を終了できる。
なお、呈示語音制御部11において、生体信号計測部3により計測したユーザ2の脳波信号成分の大きさから、それぞれの判定項目に必要なセット数を決定してもよい。信号成分の大きさからセット数を決定することにより、所望の精度を達成した状態で、ユーザにとって最短の判定時間で聴力判定を実現できる。
なお、呈示語音制御部11において、語音は聴力判定システム100から未判定/再判定な語音の情報を受けて決定しても良い。
なお、明瞭度判定部8と快適性判定部9において、陽性成分や陰性成分の識別は、閾値との比較によって行ってもよいし、テンプレートとの比較によって行ってもよい。
なお、聴力判定装置1は、1つの半導体回路にコンピュータプログラムを組み込んだDSP等のハードウェアとして実現されてもよい。そのようなDSPは、1つの集積回路で上述のCPU30、メモリ31、オーディオコントローラ32、グラフィックコントローラ33の機能を全て実現できる。
上述のコンピュータプログラム35は、CD−ROM等の記録媒体に記録されて製品として市場に流通され、または、インターネット等の電気通信回線を通じて伝送され得る。図19に示すハードウェアを備えた機器(たとえばPC)は、当該コンピュータプログラム35を読み込むことにより、本実施形態による聴力判定装置1として機能し得る。なお、語音DB12はメモリ31に保持されていなくてもよく、たとえばバス34に接続されたハードディスク(図示せず)に格納されていてもよい。
なお、本実施形態における聴力判定装置1は持ち運びが可能であるため、例えば、自宅や職場等のユーザが補聴器を利用する音環境に実際に補聴器と聴力判定装置1を持って行って聴力判定ができる。これにより、日常生活での聞こえがより正確に判定できる。
なお、図18では視覚刺激呈示部4はディスプレイであるとしたが、視覚刺激呈示部4はテレビであっても良い。テレビに接続する構成を採用することにより、聴力判定装置1はテレビに映像を表示するための映像信号を生成する周知の回路、および、その映像信号を出力する端子を備えるだけでよくなる。これにより、構成が簡易化された、持ち運びが簡易な聴力判定装置1を得ることができ、ユーザが利用する環境において聴力判定が可能となる。このとき、さらに聴覚刺激呈示部5はテレビに通常設けられているスピーカであってもよい。これにより、テレビへの映像信号および音声信号の生成回路および出力端子を備えるだけで、構成の簡易化が可能になる。
なお、図18では聴覚刺激呈示部5をスピーカとしたが、聴覚刺激呈示部5はヘッドフォンでも良い。ヘッドフォンを用いることで、持ち運びが簡易になりユーザが利用する環境において聴力判定が可能となる。
また、本実施形態においては、快適性判定の結果および明瞭度判定の結果は、聴力結果蓄積DB10に蓄積されるとしたが、蓄積しなくてもよい。たとえば結果蓄積DB80を快適性判定装置1の外部に設ける場合には、陽性成分判定部60および陰性成分判定部65の各判定結果を単に出力すればよい。各判定結果は、語音聴取の快適性に関する情報として利用され得る。
なお本明細書では、事象関連電位に明瞭度に関する主観を反映した成分が出現することを確認する意味で事象関連電位の波形を加算し、または加算平均している。しかしながらこれは一例である。特徴量抽出の方法(たとえば波形のウェーブレット変換)や識別方法(たとえばサポートベクターマシンラーニング)を工夫して利用することにより、非加算または数回程度の少数加算でも陽性成分・陰性成分の識別は可能である。たとえば語音別加算部6を省略してもよい。
これにより、ユーザが補聴器を利用する音環境においても聴力判定が実現できる。
なお、本実施形態では日本語の聴力判定を想定して説明した。しかしながら、単音節の語音であれば英語でも中国語でもよい。たとえば英語の場合には、単音節の単語を呈示し、単語ごとの判定をすればよい。図29は、単音節の単語ごとに、努力性、うるささおよび明瞭度を判定した結果の一例を示している。
3. 実施形態2
実施形態1では、語音明瞭度と、快適性とを同時に判定する例を説明した。
本実施形態では、快適性は判定するが語音明瞭度判定は行わない聴力判定システムを説明する。
図30は、本実施形態による聴力判定システム101のブロック構成図を示す。聴力判定システム101が実施形態1による聴力判定システム100と相違する点は、聴力判定装置102の構成である。具体的には、本実施形態にかかる聴力判定装置102から、実施形態1にかかる聴力判定装置1の視覚刺激呈示部4、語音別加算部6および明瞭度判定部8が省略されている。この構成の相違に伴って、呈示語音制御部11は、語音の文字を視覚刺激として出力するための指示を出力することはなく、また、視覚刺激を起点としたトリガを生体信号計測部3へ送信する必要もない。他は実施形態1による聴力判定システム100と同じである。
図31は、図30の聴力判定システム101において行われる全体的な処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートが実施形態1による聴力判定システム100のフローチャート(図24)と相違する点は、図24のステップS12、S15およびS19が省略されている点である。
共通する構成および処理動作については、実施形態1の説明を援用する。
本実施形態にかかる聴力判定システム101および聴力判定装置102によれば、明瞭度に関する判定を省いたことにより語音の区別の必要がなく、快適性に関する判定を行えばよいため、より短時間で判定結果を得ることができる。
4. 実施形態1および2の変形例
上述の実施形態による聴力判定システム100では、明瞭度判定部8(図22)内の陽性成分判定部51、および、快適性判定部9(図23)内の陽性成分判定部41aおよび陰性成分判定部41bにおいて、一般的なユーザの陽性成分/陰性成分から算出した閾値や、一般的なユーザの陽性成分/陰性成分のテンプレートを用いて、それぞれ陽性成分の有無と陰性成分の有無を判定した。
しかしながら、事象関連電位の波形は個人差が大きいため、それらを基準とした識別では、努力性・うるささを精度よく判定することは困難であった。
そのため、語音聴取の快適性判定の前にユーザごとの潜時約750msの陽性成分と潜時約200msの陰性成分の特徴を測定するためのキャリブレーションを行い、個人ごとの成分特徴に基づいて快適性を判定してもよい。キャリブレーションを行うか否かを、ユーザが選択してもよい。
キャリブレーションの方法は、たとえば以下のとおりである。
呈示語音制御部11は、語音DB12を参照して語音の種類を決定する。そして、呈示語音制御部11は、単音節の音声呈示について(1)ユーザが努力しないで聞けるが「うるさい」と感じる音圧レベル、あるいは、(2)努力が必要だが「うるさくない」と感じる音圧レベルを設定する。そして、聴覚刺激呈示部5を介してユーザ2に音声を呈示する。
そして、語音別加算部6およびグループ別加算部7は、生体信号計測部50で計測した事象関連電位を、音圧レベルごとに加算平均する。
最後に語音別加算部6およびグループ別加算部7は、音圧レベルごとの特徴量を保存する。より具体的には、語音別加算部6およびグループ別加算部7は、加算平均波形から、上述の陽性成分判定部51、および、陽性成分判定部41aおよび陰性成分判定部41bで識別に用いる特徴量をそれぞれ算出する。たとえば、特徴量が区間平均電位の場合には、所定区間の平均電位を算出する。そして、個別の閾値を基準DB43等に保存する。このようにして得られた平均値は、そのユーザ固有の特徴を表しているといえる。
このように得られた閾値を用いると、個々のユーザの個人差を考慮したより正確な判定を行うことが可能になる。
5. 実施形態3
図32は、実施形態3の補聴器調整システム103の構成を示す。補聴器調整システム103は、聴力判定システム104と、調整量DB301と、調整部303とを備える。補聴器調整システム103に含まれる構成要素は、互いに有線又は無線で接続されており、情報の送受信を行う。さらに調整部303は、有線又は無線により、図示しない補聴器と、情報の送受信を行う。
補聴器調整システム103に含まれる聴力判定システム104は、実施形態1と構成は同じである。聴覚判定システム104に含まれる呈示語音制御部302は、呈示語音制御部11と異なり、調整量DB301を参照して、決定した語音を調整する。
調整量DB301は、補聴器の調整量に関する複数の値を記憶している。例えば、図33は、調整量DB301に記憶されているデータの例を示す。図33に示す調整量は、5dB毎に大きくなる音圧の値を示している。調整量DB301は、5dBより小さい値ごとの増幅量を有していても良い。調整量DB301は、補聴器の調整に用いる増幅量の値を有することが好適である。また、調整量DB301は、指向性強度、子音強調、ノイズリダクション等の補聴処理に関する値、より詳しくは、補聴処理を調整するための情報を有していてもよい。例えば、図34は、調整量DB301に記憶されている、補聴処理を調整するための情報の例を示す。補聴処理を音声処理に関する付加機能として有する場合には、図34に示すように、指向性強度、子音強調、ノイズリダクションの各機能のON/OFFを示す情報を有していてもよい。ここでいう(1)指向性強度、(2)子音強調、(3)ノイズリダクションは以下の機能を有する。
(1)指向性強度:明瞭度そのものは変化しない。その一方、音源が異なるノイズが低減されるため、快適性は向上する。
(2)子音強調:子音の周波数帯のゲイン調整量を増やすため、明瞭度は向上する。その一方、音声そのものの周波数特性が変化するため、快適性が低下する。
(3)ノイズリダクション:ノイズとともに音声情報も低減されるため、明瞭度が下がる。その一方、うるささが低減する。
なお、図34には「ON」または「OFF」という文字が示されているが、これは一例である。調整量DB301は、「ON」および「OFF」に対応する数値を保持してもよい。たとえば調整量DB301は、「ON」に対応する数値「1」、および、「OFF」に対応する数値「0」を保持していてもよい。
呈示語音制御部302は、語音DB12を参照し、ユーザ2に提示する語音を決定する。呈示語音制御部302は、呈示語音制御部11と異なり、決定した語音を調整する。具体的には、呈示語音制御部302は、調整量DB301を参照し、決定した語音を調整する。また呈示語音制御部302は、調整した語音に関する情報を聴覚刺激提示部5に送信する。聴覚刺激呈示部5は、呈示語制御部302が調整した語音を、ユーザ2に呈示する。
調整部303は、呈示した語音の情報を呈示語音制御部302から受信する。語音の情報には、決定した語音と、調整量とが含まれる。調整部303は、聴力計測結果DB10に記憶されている結果に基づいて、適切な調整量であるか否かを判定する。適切な調整量でないと判定した場合、調整部303は調整量DB301を参照して、異なる調整量で調整するよう、呈示語音制御部302に指示する。
うるささが高いことを示す判定結果が得られている場合には、呈示語音制御部302は、例えば、前回の増幅量よりも小さい増幅量で調整を行う。
図35は、図32の補聴器調整システム103において行われる全体的な処理手順を示すフローチャートである。図35に示すフローチャートは、実施形態1による聴力判定システム100のフローチャート(図24)と相違し、ステップS31およびS32を有する。共通する構成および処理動作については、実施形態1の説明を援用する。
ステップS31において、調整部303は、ステップS20で保存された結果を参照して、快適性及び明瞭度を判定する。調整部303は、快適性及び明瞭度が所定の範囲内であると判定した場合には、呈示語音制御部302の調整が適切であると判定し処理は終了する。なお、このとき調整部303は、適切であると判定された調整量に基づいて、補聴器を調整し、または、適切であると判定された調整量の情報を補聴器に送信してもよい。
一方、調整部303が、快適性及び明瞭度の少なくともいずれか所定の範囲外であると判定した場合には、処理はステップS32に進む。調整部303は、調整量を変更させるための指示を呈示語音制御部302に出力する。ステップS32において、呈示語音制御部302は、調整部303からの指示を受けて調整量DB301を参照し、異なる調整量の情報を読み出し調整量を変更する。
上述のステップS32においては、うるささが高いことを示す判定結果が得られている場合には、呈示語音制御部302は、例えば、調整量DB301から前回の増幅量よりも小さい増幅量を示す情報を読込む、または、ノイズリダクションを「ON」にする。努力性が高いことを示す判定結果が得られている場合には、呈示語音制御部302は、例えば、調整量DB301から前回の増幅量よりも大きい増幅量の情報を読込む、または、指向性強度処理を「ON」にする。明瞭度が低いことを示す判定結果が得られている場合には、呈示語音制御部302は、例えば、調整量DB301から前回の増幅量よりも大きい増幅量の情報を読込む、または、子音強調処理を「ON」にする。
その後、処理はステップSS11に戻り、再度測定が行われる。
以上説明した構成および動作により、決定された語音を調整して再度の測定を行うことが可能になる。