JP5001478B2 - 細胞内物質導入ベクター - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、安定性と安全性に優れ、薬物、遺伝子等の適宜な物質を細胞内に効率よく導入できる、細胞内物質導入ベクターに関する。
【0002】
【従来の技術および欠点】
ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)は、薬物の投与方法や形態を工夫し、体内での薬物動態を制御することにより薬物を標的部位に選択的に送り込み、結果として最適の治療効果を得、さらに薬物による副作用を最小限にとどめることを目的とした薬物投与に関する新しい技術である。現在までに様々な DDS製剤が開発されているが、なかでもリポソーム製剤は欠損酵素の補充、制癌剤および抗生物質の投与、さらには遺伝子治療の分野においても脚光を浴びている。
【0003】
リポソームは、生体膜を構成しているリン脂質を基本とする脂質二重層からなる閉鎖型小胞体であって、安全性が高く、脂質膜と水層の部分から構成されているため、脂溶性または水溶性のいかんを問わず、様々な薬物を内包することができるので、薬物キャリアーとして優れた機能を有している。また、リポソームの表面に抗体やペプチド等を結合させることによりターゲッティング能を付与することができ、さらに脂質の種類を変化させたり、ポリエチレングリコール等で修飾することにより、温度感受性リポソーム、血中安定性リポソーム、プラスミド導入ベクターとしてのカチオニックリポソーム等、種々の性質の異なるキャリアー(ベクター)を作製できるという特性を有している。
【0004】
通常、リポソームはエンドサイトーシス経路により細胞内に取り込まれる。すなわち、細胞膜の一部がリポソームを徐々に取り囲み、次いで陥入し、次第にくびれて膜から離れ、リポソームを包み込んだ細胞内小胞となり(エンドサイトーシス)、細胞膜近傍の初期エンドソーム内に取り込まれる。その後、細胞深部の後期エンドソームに送られ、そして最終的にはライソゾームへと運ばれる。
ところが、ライソゾームは、その内部に約 40種類の酸性加水分解酵素を保有しており、ライソゾームへ運ばれたリポソームは、この加水分解酵素の作用により分解され、同時にリポソーム内に封入された薬物等も代謝されるため、薬物などが未変化体の状態で細胞質内に到達する割合が極端に低下するという問題があった。
【0005】
この致命的な欠点を克服するため、細胞のバリアーである細胞膜に障害を与えることなく細胞質に直接薬物等を導入する方法が検討されてきた。例えば、リポソームが膜融合能を獲得すればライソゾームを経由することなく、直接薬物等を細胞質ゾルまで送達することが可能となる。これまでに、リポソームを細胞へ融合させる方法として、pH感受性リポソーム(K.Kono et al.:Biochimica etBiophysica Acta、 1193,1(1994))およびウイルスのエンベロープ蛋白質をリポソームに組み込んだ再構成リポソーム(S.Bagai et al.:The Journal of Biological Chemistry、 269,1966(1994))が検討されている。しかし、pH感受性リポソームは細胞との融合効率が低く、再構成リポソームはエンベロープ蛋白質がリポソームの内層に配向することによる封入物質量の制限や操作が煩雑であるために融合効率が一定しないなどの欠点を有している。
【0006】
一方、センダイウイルス(sendai virus;hemagglutinating virus of Japan:HVJ)の膜融合能をリポソームに付与した膜融合リポソーム(fusogenic liposome)、すなわちセンダイウイルスとリポソームの融合体(HVJ−liposome)が報告されている(M.Nakanishi et al.:Experimental Cell Research、 159,399(1985))。HVJは、細胞間融合現象(Y.Maeda et al.:Experimental Cell Research、 108,108(1977))が認められたことから、動物細胞を用いた遺伝学の先駆けになったウイルスである。また、HVJはリポソームとも融合することができ、その融合体(HVJ−リポソーム)はさらに細胞膜と融合する。つまり、リポソームとHVJを直接反応させて作製したHVJ−リポソームは、いわゆるハイブリッドベクターであり、内部にリポソーム由来の空洞を有し、外側はウイルスエンベロープと同じスパイク構造を有している。HVJ−リポソームは、蛋白質、化学物質、遺伝子等、リポソーム内に封入できるものであればあらゆる物質をセンダイウイルスと同等の高い効率で細胞内に導入することができる(T.Nakagawa et al.:Drug Delivery System、 11,411(1996))。なおまた、HVJ-リポソームの改良型として、DNA結合能を有する核蛋白質である HMG−1(High Mobility Group−1)をDNAと共導入することにより、さらに導入効率が向上するという報告もある(Y. Kaneda et al.:J.Molec.Medicine、 73,289(1995))。
【0007】
このHVJ−リポソームによるリポソーム内容物の細胞質内への導入機構は、まずエンベロープ蛋白質の一つであるHN蛋白質が細胞表面に普遍的に存在するシアル酸を認識して結合し、次に細胞との融合に直接関係するF蛋白質により細胞と融合することにより行われる。しかし、HVJ−リポソームは、シアル酸を介して細胞膜との融合を行うために、同様にシアル酸を有する赤血球とも反応し、溶血を引き起こすことが判明した。このHVJ−リポソームの有する赤血球溶血作用は克服されておらず、そのために、HVJ−リポソームの投与方法はin vitroおよびex vivo等に限定され、in vivoおよび全身的な投与には適用できないと言う欠点がある。また、インフルエンザウイルスは凝集作用を有しているので、これもまた利用できない。
【0008】
特に遺伝子治療の面においては、目的遺伝子を標的細胞に正確に導入することが必要であり、安全でかつ効率のよい遺伝子導入法の開発は遺伝子治療研究の中で最も重要な研究課題である。現在臨床の場では、主にウイルスの感染機構を利用したレトロウイルスベクターやアデノウイルスベクター、合成脂質を用いたカチオニックリポソーム等のベクターが試みられている。
【0009】
しかしながら、これらのベクターは、その遺伝子導入効率、発現効率、安全性(免疫原性)等が実用的であるとは言い難く、それらを改善するための基礎的ならびに臨床的研究が精力的に行われているが、それらのベクターの改良にも限界が見えはじめてきたのが現状である。従って、新しい発想に基づいたベクターの開発が重要な課題となってきている。
一方、in vitroやex vivoによる薬物導入法は導入した細胞の組織への再構築、生体への負担、培養コスト等に多くの問題を抱えているので、今後は血球系や皮膚の細胞への遺伝子導入を除き、in vivoあるいは全身的な投与が主流となると考えられる。そのため、ベクターにも in vivoや全身的な投与に対応できるものが求められている。故に、赤血球溶血作用を有さず、安全性に優れ、かつ、導入効率の高い有用な細胞内物質導入ベクターの開発が望まれていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した問題点の解決、すなわちHVJ−リポソームのように実用性のある高い安定性と良好な細胞内物質導入率を有する一方、HVJ−リポソームに認められる欠点である赤血球溶血作用や、インフルエンザウイルスに認められる欠点である赤血球凝集作用を有しない、安全性に優れた、細胞内物質導入ベクターの提供を目的として行われたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
水疱性口内炎ウイルス(Vesicular Stomatitis Virus:VSV)は、ラブドウイルスのベシクロウイルス属に属する(−)単鎖RNA型ウイルスであって、膜表面にエンベロープ蛋白質であるG蛋白質を有している。その細胞への感染機構は、リポソームと同様、エンドサイトーシス経路により行われる。しかし、VSVはリポソームとは異なり、エンドソーム膜と融合する特性を有しているため、ライソゾーム内の加水分解酵素による分解を受けることなく、自身の遺伝子を細胞質内に導入している。つまり、VSVが細胞膜のフォスファチジルセリンに接着すると、細胞膜の構造変化により被覆ピットに内包され、細胞内に被覆小胞として取り込まれる(R.Schelgel et al.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA 、79,2291(1982))。その後、エンドソーム内に運ばれて弱酸性下になるとウイルスG蛋白質のコンフォメーションが変化し(R. Blumenthal et al.:Annls New York Academy of Sciences、285(1990))、ウイルス膜とエンドソーム膜が融合する。その結果、ウイルスゲノムはライソゾームに移行することなく、細胞質ゾルに放出されて感染が成立する。
【0012】
これまでに、VSVが膜融合能を有することは知られているが、ヒト赤血球に対する溶血作用はpH等様々な要因により変化し、溶血作用を示す場合もあれば、溶血作用を示さない場合もある(S.Yamada et al.: Biochemistry、25, 3703(1986);C.A.Bailey et al.:Virology、 133(1),111(1984);R.Schlegel et al.:J.Biol.Chem.、259(8),4691(1984);R.Schlegel et al.:J.Virol.、53(1),319(1985) )。また、VSVは多くの組織細胞に普遍的に存在するフォスファチジルセリンを受容体とするため、宿主域が広く(M.J.Clague et al.:Biochemistry、 29,1303(1990))、さらにウイルス増殖が速いことから大量のウイルスが採取できるという特徴を有している。一方、VSVとリポソームが融合することは報告されているが(S.Yamada et al.:Biochemistry、 25,3703(1986))、VSVとリポソームとの融合体(VSV-リポソーム)自体が採取されたことはなく、従って、VSV−リポソームを細胞内物質導入ベクターとして使用する試みも存在しなかった。
【0013】
本発明者らは、VSV−リポソームの細胞内物質導入ベクターとしての使用可能性を検討する目的で研究を重ねた結果、VSV−リポソームの単離、精製に成功し、VSV−リポソームがHVJ−リポソームと同様、実用性のある良好な安定性と細胞内物質導入率を有する一方、HVJ−リポソームとは異なって赤血球に対する溶血作用を有しない事実を確証し、このような確証事実に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、膜融合能を有するウイルス(例えばVSV)またはその部分とリポソームとを融合させた、生理的条件下でヒト赤血球に対して溶血または凝集作用を示すことのない、膜融合リポソームから成る、細胞内物質導入ベクターを提供するものであって、実用性のある安定性と細胞内物質導入率に加え、優れた安全性を有する点に長所が認められる。
【0015】
本発明で使用するウイルスは、生理的条件下でヒト赤血球に対して溶血または凝集作用を示すことのない、膜融合能を有するものであって、その代表例はVSVである。その他のウイルスの具体例としては、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス等を挙げることが出来る。ここに言う「生理的条件下」とは、ヒトの生体内条件を示し、in vitroで赤血球の溶血や凝集を惹き起こすウイルスであっても、ヒト生体内でそのような現象を起こさないものであれば、使用出来る。なお、ここに言う「膜融合能」とは、エンドソーム膜又は細胞膜に対する融合能を言う。
以下、ウイルスとして代表例であるVSVを使用する場合につき本発明を説明するが、他のウイルスを使用する場合にもこれに準じて実施することが出来る。
VSVは上記したとおり既知のウイルスであって、本発明においてはこれを不活化して使用する。不活性化は常套の方法、例えば紫外線照射や界面活性剤処理により行うことが出来る。VSVにはその変異体も包含され、また、ウイルス全体もしくはその部分あるいは遺伝子組み換えで作成されたウイルスもしくはその部分であっても、ウイルス膜融合能を有する限り、本発明で使用することができる。なお、「部分」の具体例としては、エンベロープ、膜融合蛋白質等が挙げられる。
【0016】
リポソームは、その構造から、多重層小胞(multilamellar vesicles:MLV)と単一層小胞に分類され、単一層小胞は径0.1μmを境にしてsmall(small unilamellar vesicles:SUV)とlarge(large unilamellar vesicles:LUV)に分けられる。MLVは0.1〜数μmの直径をもつリポソームでフイルム上の脂質膜と水溶液を混合し、ボルテクスイング法により調製する。一般に安定で高分子物質の保持効率も悪くはないが、大きさが不均一で多重層であるため、内容物の細胞への導入効率が劣る。しかし、MLVは超音波処理とその後のインキュベーション(アニーリング法)によってSUVからLUVへと変えることができる。SUVは大きさが均一(20〜50nm)であるが、高分子物質を保持しにくく、比較的不安定である。超音波法、プレーベジクル法、エタノール注入法、フレンチプレス法、コール酸除去法、トリトンX−100バッチ法などの作製法がある。LUVは0.1〜1.0μm径の小胞で、蛋白質やDNAなどの保持効率がよい反面、大きさが不均一である。カルシウム融合法、エーテル注入法、アニーリング法、凍結融解融合法、W/O/Wエマルジョン法などがある。このようにリポソームの調製には多数の方法が知られており、封入すべき物質の種類に応じて適宜のリポソームを選択し、それに応じて適当な調製法を採用すればよい。最も普通に採用されているリポソームの製造法の具体例としては、逆相蒸発法(F.Szoka et al.:Biochim. Biophys. Acta, Vol.601,559(1980))、エーテル注入法(D.W.Deamer:Ann. N. Y. Acad. Sci., Vol.308,250(1978))、界面活性剤法(J.Brunner et al.:Biochim. Biophys. Acta, Vol.455, 322(1976))、カルシウム融合法(D.PaPahadjopoulos et al.:Biophys.Acta,Vol.455,483(1976))等が挙げられる。
【0017】
リポソームを形成せしめるための脂質としては、一般に、リン脂質、コレステロール類、窒素脂質等が用いられるが、特にリン脂質が好適に使用される。より具体的には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを常法によって水素添加したものの他、ジアシルホスフェートが例示され、さらに前記物質のアシル基の具体例としてはラウリル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基などが挙げられる。例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質が例示される。
【0018】
これらのリン脂質を含む脂質は単独で用いることもできるが、二種以上を併用することも可能である。このとき、エタノールアミンやコリン等の陽性基を有する原子団を分子内に持つ脂質を用いることにより、陰性電荷を帯びている核酸物質の結合率を増加させることもできる。これらリポソーム形成時の主要なリン脂質の他に、一般にリポソーム形成用添加剤として知られるコレステロール、ステアリルアミン、α−トコフェロール等の添加剤を用いることもできる。
【0019】
VSVまたはその膜融合能を有する部分とリポソームからその間の融合体、すなわちVSV−リポソームを作成するには、自体常套の方法、例えば適宜の媒体中、両者を混合すればよい。通常、VSVのエンベロープが活性化されている条件下に融合させるのが好ましく、このために媒体を酸性条件下に保持する。VSVーリポソームの精製法としては種々の方法が考えられるが、本発明では、特に蔗糖密度勾配遠心分離法を採用して好結果を得ている。
【0020】
なお、細胞内に導入すべき物質の封入は、通常、融合体の形成に先立ってリポソームに対して行う。すなわち、リポソームに適宜の物質を封入したうえ、これを前記のとおりVSVと融合させて、物質の封入されたVSV−リポソーム融合体を調製する。リポソームに対する物質の封入は、自体常套の方法で実施することが出来、例えばリポソームを形成すべき材料(例えばリン脂質)の薄膜を封入すべき物質を含有する溶液に懸濁、混合するか、必要に応じ更に超音波処理等を施して製造することが出来る。なお、リポソームを形成すべき材料、封入すべき物質およびVSVを同時に混合し、必要に応じ超音波処理等を施してもよいが、この場合には、当該物質の封入効率やVSVとリポソームの融合効率が劣化する傾向がある。
【0021】
封入すべき物質としては、特に制限はないが、薬物、遺伝子等の使用が普通である。その具体例としては、抗生物質、化学療法剤、抗アレルギー薬、循環器官用薬、抗炎症薬、抗リウマチ薬、ホルモン、ビタミン、抗悪性腫瘍薬、リボ造影剤、生理活性を有するタンパク質、核酸等があり、使用する核酸として更に具体的には、細胞内に導入されて目的のタンパクを発現させることのできる目的タンパクをコードした核酸、目的のタンパクの発現を抑制することのできる核酸(アンチセンス核酸)、自殺遺伝子、アポトーシス誘導遺伝子等から選択することができる。
【0022】
リポソームに封入した物質を、更に核への移行、細胞質への内在化、エンドサイトーシス等を直接的あるいは間接的に促進し、効果的に細胞への導入を促進させるために、そのような能力のある物質をエンベロープあるいは融合蛋白を有するリポソームに共存または修飾させることができる。そのような物質は合成されたものでもよく、また、天然のもの、例えば生体内の細胞膜、細胞膜表面もしくは細胞内に存在する成分またはそのリガンドであってもよい。更に具体的には、タンパク質類、ペプチド類、抗体、受容体のリガンド、カルシウム依存性または非依存性の細胞間接着分子(カドヘリン類、Igファミリータンパク、セクレチン類、インテグリン類、プロテオグリカン類等)あるいはそのリガンド、糖類、糖タンパク質、グリコサミノグリカン類、アミノ酸、脂質、飽和もしくは不飽和脂肪酸、糖脂質、ステロイド骨格を有する物質、ポリエチレングリコール、アミン類、ポリアミン類等から選択することができる。
【0023】
前記物質は、また、膜融合能を有するウイルスのエンベロープまたは膜融合蛋白あるいは種々のウイルスのウイルス成分等から選択されてもよい。ここに言うウイルス成分とは、ペントン、ペントンベース、ファイバー、ヘキソン、キャプシド、エンベロープ、エンベロープ断片、膜融合タンパク、ウイルスタンパク(スパイク糖タンパク等)等、機能・構造を有する最小単位である。ゆえに、本発明の膜融合リポソームに、種々のウイルス成分を単離し、付与または置換させたり、膜融合ウイルスのエンベロープあるいは膜融合タンパクを単離して、種々のウイルスに付与またはウイルス成分と置換させたり、または膜融合ウイルスより単離したタンパクから成るリポソームを作成し、種々のウイルス成分を付与することもできる。更には、遺伝子組み換えにより、膜融合能を有するエンベロープまたは膜融合蛋白を発現させたウイルスも用いることが出来る。また、細胞表面のインテグリンに結合するペントンベース、フィブロネクチンおよびビトロネクチン等の接着分子の共通の配列であるArg−Gly−Asn配列を有するペプチドを利用することもできる。これら物質は天然もしくは合成のいかんを問わず、そのまま或いは誘導体、さらには2種またはそれ以上の混合物として利用されてもよい。
【0024】
膜融合能を有するウイルスとして、例えば、トガウイルス科(Togaviridae)のアルファウイルス(Alphaviruses)、オルトミキソウイルス科(Orthomyxoviridae)のインフルエンザウイルス(Influenzariruses)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、バンヤウイルス科(Bunyaviridae)、パラミキソウイルス科(Paramyxoviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、レトロウイルス科(Retroviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)およびイリドウイルス科(Iridoviridae)等がある。
【0025】
本発明のベクターを使用して物質を導入すべき細胞としては、真核細胞、特に動物細胞系を挙げることが出来、接着細胞系と浮遊細胞系のいずれであってもよい。また、一般には導入の困難な細胞系である初期細胞系、幹細胞系、線維芽細胞系、マクロファージ細胞系等を含め、広範囲な細胞系に適用できる。
封入すべき物質として薬物を選んだ場合、その製剤は、溶液、懸濁液、シロップ、リポソーム製剤、乳剤、シロップ等の液体の投与形態であってもよいし、錠剤、顆粒剤、粉末剤、カプセル剤等の固形の投与形態であってもよい。必要に応じ、上記製剤には、各種助剤、安定剤、潤滑剤、その他一般に使用される添加剤、例えば乳糖、クエン酸、酒石酸、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、白陶土、蔗糖、コーンスターチ、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、落下生油、オリーブ油、カカオバター、エチレングリコール等が添加され得る。
【0026】
本発明の細胞内物質導入ベクターを使用した医薬は、赤血球溶解作用を有しない、安全性の高いものであり、in vivo法で投与するか、または全身的な投与を行うのに適している。すなわち、治療目的の疾患、標的臓器等に応じた適当な投与経路により投与することが出来、例えば、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与するか、又は腎臓、肝臓、肺、脳、神経等の疾患の対象部位に直接投与することができる。疾患部位に直接投与すれば、臓器選択的に治療することができる。なお、ex vivo法で投与することも可能であり、この場合には、常法に準じ、ヒトの細胞(例えば、リンパ球、造血幹細胞等)を採取し、それに本発明の医薬で処理、感作を行い、その後に当該細胞をヒトの体へ戻せばよい。
【0027】
臨床においては、家族性高脂血症、閉塞性動脈硬化症(ASO)、高血圧、遺伝子欠損、自己免疫疾患等さまざまな分野で遺伝子治療が試みられている。例えば、PTCA(percutaneous transluminal coronary angioplasty)後の再狭窄の遺伝子治療においては、質のよいベクターの開発と、カテーテル(導入手段)の開発が望まれており、平滑筋細胞増殖抑制に働くアンチセンスオリゴヌクレオチド等の遺伝物質導入等、本発明のベクターが好ましく利用できる。
【0028】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1(紫外線照射によるVSVの不活化)
ヒト羊膜由来FL細胞を5vol.%ウシ胎児血清(FCS)(GIBCO)を含むイーグルMEM培地(日水製薬)で培養した。VSV New Jersey株は農林水産省家畜衛生試験場より分与されたものを用いた。VSVはFL細胞に感染、増殖させ、その培養上清をイーグルMEM培地で10倍に希釈したものをウイルス液として使用した。15Wの紫外線殺菌灯の直下15cm(124μW/cm2)のもとで60mm dish(Nunc)に層厚2mmになるようにウイルス液(4.2mL)を添加し、紫外線照射し、経時的に試料液を採取した。96穴マイクロプレートにFL細胞を4×104個播種し、37℃、5vol.%CO2下で24時間培養した。培養液を除去した後、別に1vol.%FCSイーグル MEM培地で10倍段階希釈したウイルス液をそれぞれ50μL/穴添加し、2日間培養した。細胞変性効果(CPE)を顕微鏡下で観察し、Behrena−Karber法にて50%培養細胞感染量(TCID50)を算出した。
表1(ウイルス不活化に対する紫外線照射の効果)に示すとおり、VSVの増殖能は30秒間の紫外線照射により失活した。以降の実験では、この不活化したVSVを使用した。
【表1】
【0029】
実施例2(VSV−リポソーム融合体の調製)
VSVと反応させるリポソームは、できるだけ小さい粒子にするため、直径100nmのフィルターを通して作製した。粒子変化によるリポソームの比重低下を考慮したVSV、リポソームおよびVSV−リポソーム反応物を分離するステップ蔗糖密度勾配遠心を行い、未反応のVSV、リポソームおよび VSV−リポソーム融合体の分離・精製を行った。
ウイルスの精製:VSVは5vol.%ウシ胎児血清加イーグル MEM培地でFL細胞に感染させ、増殖させた。この培養上清と24w/v%のポリエチレングリコール(PEG)6000を含む1.5M NaCl溶液を1:2の比率で混合し、最終濃度8w/v%のPEG6000を含む0.5M NaCl溶液とし、37℃、3時間攪拌した。このウイルス液を15000×g、20分遠心分離の後、沈殿をNTE溶液(0.13M NaCl、1mM EDTA、50mM Tris HCl、pH=7.8)2mLに懸濁した。次に、遠心チューブに60w/v%、45w/v%蔗糖/NTEをそれぞれ2mL、10mLずつ重層し、この最上層へ先のVSV懸濁液を添加し、21000rpm(Beckman SW28.1 ロータ)、4℃で45分間遠心分離した。その後、60w/v%と45w/v%蔗糖溶液の境界に存在するVSVを再度NTE溶液に懸濁し、その沈殿(VSV)を実験に使用した。また、VSVの長期保存はNTE溶液で懸濁し、−80℃以下で冷凍保存した。
【0030】
R hodamine (R h )添加リポソームの調製:卵フォスファチジルコリン(PC)(日本油脂)、ウシ脊髄由来L−α−phosphatidyl−L−serine solution(和光純薬工業)およびコレステロール(Chol)(和光純薬工業)をモル比4:1:5となるように混合した。この脂質15μmolをクロロホルム1.5mLに溶解し、さらに0.2mol%のN−(lissamine rhodamine B sulfonyl)−phosphatidylethanolamine(N−Rh−PE)(Avanti Polar Lipids)を加えた。これをロータリーエバボレーターを用いて55℃で沸騰を防ぎながら40〜50Kpaに減圧してクロロホルムを蒸発させ、ガラス製遠沈管の壁に薄膜を作成した。さらに30分間、100Kpa以上で残存溶媒を完全に除いた。この遠沈管にBSS(-)(10mM Tris、150mM NaCl、pH=7.6)300μL加えた後、55℃に30秒浸け、さらにボルテックスを30秒間行った。この操作を計10回繰り返すことによりRhodamine添加リポソームを作製した。次にリポソーム懸濁液を液体窒素に浸し、充分凍らせた後に55℃で融解する操作を計3回行った。最後に0.1μmのポリカーボネート製フィルターに10回通すことにより最大粒子径の均一化を行った。
【0031】
VSVとリポソームとの融合反応:VSVとリポソームとを融合させる条件は酸性条件下で行った。リポソームの外層は内層と同様に中性であるので、Econo−Pac 10 DG Chromatography Columns(BIO−RAD)によりクエン酸緩衝液(140mM NaCl、2mM MgCl2、1mM EDTA、80mM citrate、pH=5.5)に置換した。これを遠心操作により(23000rpm、1時間)沈殿させた VSVをよく懸濁し、氷中30分、37℃で15分間反応させた。
VSV−リポソーム反応物の分離:遠心用チューブに60,45,10w/v%蔗糖/NTEをそれぞれ2mL,6.5mL,6.5mLずつ重層し、この最上層へ先のVSV−リポソーム反応液を添加し、23000rpm,4℃で1時間ステップ蔗糖密度勾配遠心分離を行った。遠心分離の後、密度の高い順に0.8mLずつ採取し、20フラクションに分画した。
【0032】
リポソーム膜成分の定量:リポソームの膜成分の挙動は、リポソーム膜中のRhodamineの蛍光を測定することにより確認した。すなわち、各フラクション10μLをBSS(−)990μLに希釈し、これを励起波長 560nm、蛍光波長 590nmで測定した。
結果を図1に示す。(A)はリポソームの場合、(B)はVSV−リポソーム混合物の場合である。この図に見られるように、リポソーム単独ではフラクション19,20のみに蛍光が検出されたが、VSV−リポソーム反応液ではリポソーム分画のフラクション19,20とそれ以外の10にも顕著な蛍光が検出された。リポソームとVSVを反応させることにより、リポソームよりも明らかに比重の高い分画に蛍光が認められたことから、フラクション10にVSV−リポソーム融合体が存在していると考えることが出来る。
【0033】
実施例3(VSV−リポソーム融合体におけるVSV由来蛋白の検出)
フラクション10に存在するVSV由来の蛋白質の検出を行うことにより、このフラクションがVSVとリポソームの反応体であるかどうかを確認した。
リポソームの調製:実施例2に準じて行った。N-Rh-PEは加えずに作製した。
VSV - リポソーム反応物の分離: 実施例2に準じて行った。
ウイルス蛋白質の定量: 各フラクションの蛋白質定量はプロテインアッセイキット(BIO−RAD)を用いて行った。検量線はウシ血清アルブミン(Armour Pharmaceutical Company)溶液を用いて作製した。
【0034】
結果を図2に示す。(A)はリポソームの場合、(B)はVSV−リポソーム混合物の場合である。VSV単独とステップ蔗糖密度勾配遠心分離したものでは大部分の蛋白質が60w/v%と45w/v%蔗糖溶液の境界のフラクション3に存在していた。また、データには示していないが、このフラクションにウイルス感染活性の存在を確認している。一方、VSV−リポソーム反応物では、VSV単独のステップ蔗糖密度勾配遠心分離と同様、フラクション3に蛋白質が確認されたが、この分画以外にリポソームが存在する0%蔗糖溶液のフラクション20、さらに45w/v%と10w/v%蔗糖溶液の境界フラクション10にも蛋白質が検出された。VSVとリポソームを反応させることにより、フラクション10の蛋白質量が増加したこと、および、この同じ分画にリポソーム膜由来成分が存在することから、この分画にVSVとリポソームの融合体(VSV−リポソーム)が存在することが示唆された。
【0035】
実施例4(VSVとリポソームの融合体の証明)
これまでの結果では、VSVとリポソームが融合体として存在しているのか、あるいは単に結合しているだけか必ずしも明瞭ではないため、NBD/Rh法を用い、VSVとリポソームの結合形態を検討した(Douglas K.Struck,DickHoekstra,E.Pagano;Biochemistry 20,4093(1981))。7−nitro−2,1,3−benzoxadiazol−4-yl(NBD)およびRhは、それぞれ460nm、560nm付近に励起波長を、530nm、590nm付近に蛍光波長をもつ蛍光物質である。この蛍光物質は、両者が隣接して存在する場合、460nmでNBDを励起してもそのエネルギーがRhに移動してNBDの蛍光が消失し、逆にRhの蛍光が表れるという特徴がある。そこで、この両蛍光物質を組み込んだリポソームを作製した。このリポソームがVSVと融合するとリポソームの膜脂質成分はVSVの膜脂質成分によって希釈され、両蛍光物質の距離が長くなり、Rhへのエネルギー移動が行われず、NBDの530nmの蛍光消失が回復すると予想される。
【0036】
リポソームの調製:リポソームは混合脂質(PC:PS:Chol=4:1:5)にN−Rh-PE、N−(7-nitro−2,1,3−benzoxadiazol−4-yl)−phosphatidylethanolamine(N−NBD-PE)(Avanti Polar Lipids)を1mol%ずつ加え、実施例2に準じて調製した。
VSV−リポソームの作成および精製:VSV−リポソームは、上記リポソームから実施例2に準じて調製した。得られた VSV−リポソームはNTE溶液に懸濁し、23000rpm、4℃で1時間遠心分離し、その沈殿(VSV-リポソーム反応体)を実験に使用した。
【0037】
HVJ−リポソームの作製および調製:HVJ−リポソームは、水口らの方法を用いて作製した。センダイウイルスを遠心分離操作により(24000rpm、40分)沈殿させ、これに上記のリポソーム溶液を加えよく懸濁して、37℃で2時間反応させた。50,30,10w/v%BSS(−)(10mM Tris,150mM NaCl, pH=7.6)をそれぞれ2mL,6.5mL,6.5mLずつ重層し、この最上層へ先のHVJ−リポソーム懸濁液を添加し、24000rpm、4℃で2時間遠心分離した。遠心分離の後、30w/v%と10w/v%蔗糖/BSS(−)の境界に来るHVJ−リポソームを回収し、BSS(−)に懸濁し、20000rpm、4℃で40分間遠心し、洗浄した。遠心分離の後、沈殿をBSS(−)に懸濁した。
【0038】
蛍光スペクトル測定:リポソーム、HVJ−リポソーム、VSV−リポソームを励起波長460nm、蛍光波長590nmで蛍光強度を測定した。各々のリポソームの蛍光強度をそろえ、励起波長460nm、蛍光波長490〜650nmで蛍光スペクトルを測定した。さらに、20vol.%TritonX−100を終濃度が0.2vol.%となるように加え、完全にリポソームを破壊させ、その時の蛍光スペクトルを測定した。
【0039】
結果を図3に示す。(A)はリポソームの場合、(B)はHJVーリポソームの場合、(C)はVSV−リポソームの場合、(D)はVSV−リポソームに界面活性剤を添加した場合である。リポソームに460nmの励起エネルギーを照射したとき、NBDの励起エネルギーは、リポソーム膜上の距離的に近いRhに供給されるため、NBDの蛍光波長である530nmのピークは低く、逆にRhの蛍光波長である590nmの蛍光が強く表れている。このリポソームを用いて作成したHVJ−リポソームの場合、NBDの蛍光はリポソームの2倍の回復を示した。また、VSV−リポソームの場合は、HVJ−リポソームと同様NBDの蛍光強度が増加していた。また、それぞれにTriton X−100を加え、粒子を崩壊させた時には両物質の空間的距離が最大となり、リポソーム、HVJ−リポソーム、VSV−リポソームの全てで530nmを最大に単一のピークが検出された。これらの事実はVSVとリポソームが単に付着、結合しているのではなく、融合体を形成していることを証明している。これまでHVJ−リポソームに関しては、電子顕微鏡による形態および生化学的特性によりHVJとリポソームの融合体であることが示されている。図3(B)に示したHVJ−リポソーム融合体のパターンと図3(C)に示している VSV−リポソームのパターンが一致していることからも、VSVとリポソームは融合体として存在していると考えられる。
【0040】
実施例5(VSV−リポソーム融合体への物質導入封入効率の検討)
リポソームの調製:リポソームの調製は実施例2に準じて行うが、100mM 5(6)−carboxyfluorecein(CF)(SIGMA)を封入物質として用いた。未封入のCFはEcono-pac 10DG Chromatography Columnsを用いて除去した。
リポソーム封入物質の定量:BSS(−)990μLにステップ蔗糖密度勾配遠心分離後の各分画を10μL加え、励起波長490nm、蛍光波長520nmで蛍光強度を測定した。この時の蛍光強度をF0とした。次に、20vol.% Triton X−100を10μL加えることにより、リポソームを破壊した。この時の蛍光強度をFxとした。リポソームに封入された CFは次式により計算した。
【式1】
1.01×Fx−F0
【0041】
HVJ−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
HVJ−リポソーム、VSV−リポソームの封入効率の測定:リポソーム溶液をNTE溶液で希釈し、励起波長560nm、蛍光波長590nmでRhの蛍光強度を測定した。さらに、Triton X−100を加えて完全崩壊した後、励起波長490nm、蛍光波長520nmでCFの蛍光強度を測定した。同様に、HVJ−リポソーム溶液およびVSV−リポソーム溶液の両蛍光強度も測定した。Rhの蛍光強度あたりのCFの蛍光強度を測定し、リポソームに対する HVJ−リポソームおよび VSV−リポソームの封入効率を導いた。
【0042】
結果を図4に示す。この図には、VSVとリポソームを反応させ、ステップ蔗糖密度勾配遠心分離後のリポソーム封入物質の挙動が示されている。(A)はリポソームの場合、(B)はVSV−リポソーム混合物の場合である。リポソーム単独では蔗糖濃度10w/v%以下のフラクション19,20のみに蛍光が検出された。VSVとリポソームの反応物ではリポソーム分画のフラクション19,20とフラクション10に蛍光が検出された。これは図1のリポソーム膜を検出したときのフラクションのパターンと同様であることから、CFはVSV−リポソーム内に含まれていることが予想される。また、表2(種々のリポソームのカルボキシフルオレセインの包含効率)に示したように、この時のリポソームあたりの封入効率はHVJ−リポソーム73.4%、VSV−リポソーム66.4%であり、両者に有意な差は認められなかった。
【表2】
【0043】
実施例6(VSV−リポソームと細胞との結合性)
細胞:サル腎上皮細胞LLCMK2細胞は10vol.%ウシ胎児血清(FCS)を含むイーグルMEMで培養した。
リポソームの調製:実施例2に準じて行った。
VSV−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
膜融合リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
細胞接着率の測定:12穴プレートにLLCMK2細胞を1.0×105個播種した。24時間37℃、5vol.%CO2で培養した後、細胞を氷上で10分間プレインキュベートした。その後、氷冷したPBSで細胞を2回洗浄した後、蛍光量を一定にし、氷冷したVSV−リポソームを400μL加え、氷上で1,10,30,60分間インキュベートした。氷冷したPBSで2回洗浄した後、0.25w/v%トリプシン溶液500μLで細胞を剥がした。PBS500μLをさらに加え、蛍光光度計で蛍光強度を測定した。測定後、この溶液の蛋白質量を実施例1および3に準じて行い、蛋白質濃度に対する蛍光強度を算出した。
【0044】
結果、すなわちリポソーム(△)、VSV−リポソーム(●)、HVJ−リポソーム(□)の細胞への結合率の経時的変化を図5に示す。VSV−リポソームは HVJ−リポソームよりは劣るものの、通常のリポソームに比べると効率よく細胞に結合した。
【0045】
実施例7(ジフテリア毒素フラグメントA(DTA)を封入したVSV−リポソームの殺細胞効果)
DTA(分子量約62,000)はジフテリアによって産生されるジフテリア毒素のAドメインで、数分子細胞内に導入されれば NAD+によるポリペプチド鎖延長因子elongation factor2(eEF−2)のADP−リボシル化を触媒し、eEF−2を不活化することによって蛋白合成を阻害し、細胞を障害させることができる強力な毒素である。しかし、このフラグメントAは、細胞膜表面上に存在するジフテリア毒素受容体を識別・認識し、フラグメントAを細胞に送るフラグメントBを欠いているため単独では細胞質に入ることができない。そのため、リポソームに封入されたDTAは膜融合により細胞質に導入されなければ全く毒性を示さないことになる。このようにDTAはVSV−リポソームの細胞への物質導入キャリアーとして評価するための優れたマーカー蛋白質である。
【0046】
リポソームの調製:リポソームは、封入物質として200ng/300μL DTAまたはBSS(−)を用いて、実施例2に準じて行った。
VSV−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
蛋白質合成能の測定:24穴プレートにFL細胞を2.5×104個播種した。24時間37℃、5vol.%CO2で培養した後、細胞をイーグルMEMで1回洗浄し、種々のRhの蛍光量で濃度をそろえたDTA封入VSV−リポソームを200μL加えた。細胞を37℃で3時間処理し、イーグルMEMで2回洗浄した後、5vol.%FCSイーグルMEMで24時間培養した。細胞をメチオニンを含まないイーグルMEMで洗浄し、8μCi/mLの[35S]−メチオニン(Amersham)を含むイーグルMEMで37℃で3時間パルスした。トリクロロ酢酸不溶性画分に含まれる放射活性を、液体シンチレーションカウンターで測定した。
【0047】
リポソームリン脂質濃度の測定:DTA未封入リポソームを段階希釈し、リン脂質測定キット(リン脂質Bテストワコー)(和光純薬)を用いて測定した。
結果を図6に示す。図中、△は空のリポソームの場合、▲はDTAを含むリポソームの場合、○は空のリポソームの場合、●はVSV−リポソームの場合である。これから明らかなように、VSV−リポソームは、細胞へのDTA導入による蛋白質合成阻害効果を示した。VSV−リポソームが自身の細胞障害性を伴わずに膜融合によりリポソーム内に封入したDTAを細胞内に導入できることを示している。VSV−リポソームは通常のリポソームに比べ、その導入効率が100倍以上優れていることが判明した。
【0048】
実施例8(VSV−リポソームの溶血反応性)
VSV−リポソームを物質導入キャリアーとしてin vivoへ直接投与を考えた場合、生体内には物質導入を妨げる様々な阻害因子が存在すると考えられる。HVJ−リポソームは溶血を引き起こすという致命的欠点を有している。VSVはエンドサイトーシス経路により細胞に取り込まれ、エンドソーム内のpHが低下することによりエンベロープ蛋白質が活性化し、エンドソーム膜(細胞膜)と融合するが、赤血球の場合にはエンドサイトーシスを行わないことにより、溶血を引き起こさないと考えられ、VSV−リポソームの溶血性を検討した。また、VSVのエンベロープ蛋白質による融合が活性化される因子と考えられるpHにおいても同様に赤血球との反応性を検討した。
【0049】
リポソームの調製:実施例2に準じて行った。
VSV−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
HVJ−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
赤血球溶血反応の測定:赤血球溶血反応の評価はHsuらの方法(Ming−Chu Hsu,Andreas Scheld,Pumell W.Choppin;Viology 95,476(1979))を一部改変して行った。新鮮なヒト赤血球を採取し、heparin処理(血液1mLに対し 50unit加える)を行った後、BSS(−)で3回洗浄した。1vol.%赤血球/BSS(−)の懸濁液250μLを加えて混合し、4℃で1時間静置した。その後、直ちに1500×g、4℃、10分間遠心し、上清のヘモグロビン量を吸光波長540nmにおいて測定した。1vol.%Triton X−100で完全に溶解したときの吸光度を100%溶血として評価した。リポソーム濃度はRhの蛍光により一定量にそろえた。
【0050】
結果を表3(VSV−リポソームの溶血活性に対するpHの効果)に示す。HVJ−リポソームはHVJと同様、HA蛋白質の赤血球凝集活性、F蛋白質の融合活性の働きにより、著しい溶血反応が認められた。HVJ−リポソームはpHにほとんど影響されなかった。VSV−リポソームはエンドサイトーシスされないことにより、pH=7.0で全く溶血反応を示さなかった。さらに、G蛋白質が活性化されるpH=5.5においてもリポソーム同様ほとんど溶血反応を起こさなかった。
【表3】
【0051】
実施例9(VSV−リポソームの血漿安定性)
VSV−リポソームは、赤血球に対しては溶血反応を示さないことが明らかとなったが、その他の蛋白質や補体などの阻害因子が考えられる。VSV−リポソームの血漿安定性をリポソーム封入物質の維持という観点からラット新鮮血漿を用いて評価した。リポソーム封入物質としては5(6)−carboxyfluorecein(CF)を用いるが、この物質は高濃度では自己消光しているため、リポソームが崩壊しない限り発光しない。従って、リポソームから漏出し発光する蛍光を即座に測定できる。
【0052】
リポソームの調製:実施例5に準じて行った。
VSV−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
HVJ−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
血漿崩壊率の測定:ラットにheparinを静脈内投与し、血漿を回収した。37℃に保温した血漿450μLにリポソーム由来のリン脂質濃度6.5μg/mLのリポソーム、VSV−リポソーム、HVJ−リポソームを50μL加えた。経時的に10μLずつ採取し、氷冷したBSS(−)990μLに加えた。蛍光強度を励起波長490nm、蛍光波長520nmで測定し、さらに20vol.%Triton X−100を10μL加えてリポソームを完全崩壊させ、蛍光強度を測定した。そこで、血漿に加えないときの蛍光強度をF0、Triton X−100で処理していない試料の蛍光強度をFt、処理後の蛍光強度をFxとし、そのときの保持効率を次式で表した:
【式2】
保持効率(%)=(Ft−F0)/(1.01Fx−F0)×100
【0053】
結果を図7に示す。図中、●はCF含有VSV−リポソームの場合、□はCF含有HVJ−リポソームの場合、△はCF含有リポソームの場合を表す。VSV−リポソームの半減期は約10分であり、崩壊率は11%にとどまり、血漿中における安定性が非常に高いことが判明した。一方、HVJ−リポソームは半減期は約1分であり、血漿安定性は極めて悪かった。
【0054】
実施例10(VSV−リポソームの遺伝子導入ベクターとしての有用性)
細胞:サル腎上皮細胞LLCMK2細胞は10vol.%FCSを含むイーグルMEM培地で培養した。
プラスミドDNA:ニワトリβ−アクチンプロモーターとサイトメガロウイルスエンハンサー、およびSV40 early gene poly(A)signalをもつpCAL2(6.4Kb)を作成して用いた。
リポソームの調製:pCAL2(5mg/mL)を10mM Tris(pH=7.6)/150mM NaCl/10mM EDTAに懸濁し、実施例2に準じて行った。
VSV−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
HVJ−リポソームの精製:実施例4に準じて行った。
VSV−リポソーム、HVJ−リポソームを用いたトランスフェクション:12穴プレートにLLCMK2細胞を5.0×104個播種した。24時間、37℃、5vol.%CO2で培養した後、細胞をBSS(+)で洗浄し、10vol.%FCSイーグルMEMで懸濁したpCAL2を封入したHVJ−リポソーム(OD540=0.1)とそのRhの蛍光強度に相当するpCAL2を封入したVSV−リポソームを500μL加え、培養し、経日的にルシフェラーゼ活性を測定した。
ルシフェラーゼ活性の測定:ルシフェラーゼ活性はluciferase assay system(ピッカジーン)およびルミノメーター(Lumat LB9501,Berthold)を用いて測定した。細胞の蛋白質量は実施例1および3に準じて行った。活性はrelative light units(RLU)/μg proteinとして表した。
【0055】
結果を表4(LLCMK細胞に種々のリポソームにより導入されたルシフェラーゼ活性に対する培養時間の影響)に示す。リポソームを作用させたときはルシフェラーゼ活性はほとんど検出されなかった。HVJ−リポソームを作用させたときのルシフェラーゼ活性は反応1日目から高く、2日後に最大活性を示した後、4日後には最大活性の約1/3に減少した。VSV−リポソームは3日後に最大活性を示し、4日後には最大活性を示したときの約60%に減少した。以上の結果より、VSV−リポソームはプラスミドDNAも細胞に導入することができ、その最大活性はリポソーム単独に比べて170倍以上であった。HVJ−リポソームに比べると低かったが、この理由として細胞がエンドサイトーシスを行う粒子径は150〜200nmまでと言われており、今回、モデルであるpCAL2のサイズ自身のためにリポソームの粒子径を200nmにせざるを得なく、そのリポソームから作成した VSV−リポソームの粒子径は200nm以上であると考えられ、細胞に取り込まれにくかったためと考えられる。
【表4】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、ステップワイズ蔗糖密度勾配遠心分離後の各画分の蛍光強度を示すものである。
【図2】 図2は、ステップワイズ蔗糖密度勾配遠心分離後の各分画の蛋白濃度を示すものである。
【図3】 図3は、N−NBD−PE/N−Rh−PEリポソームとVSV間のトランスファーに対する融合の効果を示すものである。
【図4】 図4は、ステップワイズ蔗糖密度勾配遠心分離後の各分画の蛍光強度を示すものである。
【図5】 図5は、VSVリポソームのLLCMK細胞に対する結合の時間経過を示すものである。
【図6】 図6は、DTA含有VSV−リポソームのFL細胞に対する効果を示すものである。
【図7】 図7は、血漿中でのVSV−リポソームの安定性を示すものである。
Claims (4)
- (a)(i) 不活性化された水疱性口内炎ウイルス、または
(a)(ii) 水疱性口内炎ウイルス由来のエンベロープと、
(b)リポソームとを融合させた、生理的条件下でヒト赤血球に対して溶血または凝集作用を示すことのない、膜融合リポソームから成る、細胞内物質導入ベクター。 - リポソームに物質が封入されている、請求項1に記載の細胞内物質導入ベクター。
- 物質が薬物である、請求項2記載の細胞内物質導入ベクター。
- 物質が遺伝子である、請求項2記載の細胞内物質導入ベクター。
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