JP5001022B2 - きのこ類の栽培における害虫を衰弱あるいは死滅させるきのこの栽培方法 - Google Patents

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本発明は、きのこ類の栽培、特にしいたけ菌床の発生工程において、栽培の
害をなす害虫を衰弱或いは死滅させる方法に関し、更に詳細には菌床又はホダ木の表面に高温の湯を接触させることで害虫を死滅等させることを特徴とするきのこの栽培方法に関する。
従来、きのこ類の栽培においては、きのこ菌を食する害虫による栽培被害が多く発生している。具体的には、キノコバエやガガンボ等が、きのこの菌床表面に卵を産み、それが羽化して幼虫となると、成虫となる過程で菌床及びきのこを食べてしまい、又は傷つける等の害が発生する。特にしいたけ菌床栽培では、他のきのこ類に比較して長期間の発生管理が行われるため、これらの害虫の被害は経営的にも大きな影響を及ぼすほどに深刻化している。
一方、食品に対する安全、安心への関心の高まりにより、殺虫剤などの薬剤は一切使用できない方向となっており、安全性を確保しつつ害虫の対策を行うことが必須となっている。
そこで従来、(a)両面に粘着剤の塗布された粘着シートを用い、これにキノコバエやガガンボ等の成虫を止まらせてシートから離さず死亡させる方法や、(b)誘蛾灯などの光で誘って捕獲する方法や、虫の好きな果物の匂いで誘って捕獲する誘引具を用いる方法が知られている。
特願 2004−016531
しかし、これら方法では、当該害虫は産卵から成虫に成育するスピードが速く増殖が急激であるため、成虫の捕獲が間に合わない。又、一匹でも取り逃がすと、それが卵を産んで被害を拡大させる恐れがある。加えて、上記手法はすべて成虫を対象とするものであり、実際に菌床或いはきのこを食べる幼虫は、菌床のなかに隠れてしまうために捕らえることが困難であり、有効な手立てがないまま被害が拡大してしまう傾向にあった。
ところで、きのこを高温下に晒すことは、きのこを健全に生育させるには悪条件となるはずで、一般には用いられる方法ではない。しかし、本発明者が種々検討を重ねた結果、加熱手段、温度範囲及び接触時間等の条件を設定することで、それほどの悪影響を与えることなくきのこの健全な生育を図ることができ、且つ、上記害虫の被害を最小限に抑えることができる方法を見いだしたものである。
その結果、本発明は、主に害虫の卵、幼虫、蛹を対象とし、これら害虫の卵、幼虫、蛹の全部を衰弱又は死滅させることで食害の根源を絶ち、上記課題を解決したものである。
上記目的を達成するために、本発明は、きのこの栽培工程において、菌床或いはホダ木の表面及び表面付近に50〜80℃の湯を0.1秒以上接触させることで、菌床表面及び表面付近の組織に生息する害虫及びその卵、幼虫、蛹を衰弱あるいは死滅させることを特徴とする。
請求項2にあっては、菌床又はホダ木の表面に湯を接触させるにあたって、湯を散布あるいは湯に浸漬することを特徴とする。
請求項3にあっては、菌床又はホダ木の表面に湯を接触させるタイミングを、原基の発芽刺激後で発芽後3日までの間又はきのこの収穫直後としたことを特徴とする。
請求項4にあっては、きのこ類の栽培工程を、しいたけ菌床栽培としたことを特徴とする。
きのこの栽培工程において、菌床表面に50〜80℃の湯を0.1秒以上接触させることで、高温水を菌床表面の全域にほぼ均一の温度条件で行き渡らせることができ、キノコバエやガガンボといった害虫とその卵や幼虫及び菌食性のダニ類等を衰弱あるいは死滅させることができる。一方で、上記条件下にあっては、しいたけ等菌床が内部で拮抗力を生じて温湯に耐性を発揮し、菌床の活力やきのこの品質等への弊害を生じることがない。
きのこや菌床等への食害や、きのこに付着した幼虫をきのこと共にパックしてしまう異物混入などを防止することができる。
湯を接触させるにあたって湯を散布あるいは湯に浸漬すれば、菌床表面の湯の温度管理や接触時間の管理を正確で容易にすることができる。
湯を接触させるタイミングを原基の発芽刺激後で発芽後3日までの間とすることで、害虫の幼虫に直接的に湯を散布して最も効果的なものとし、且つ、きのこの子実体ヘのダメージを最小限に抑えることができる。
本発明の対象となるのは、きのこ類全般の菌床栽培や原木栽培であるが、特にしいたけ菌床栽培工程での害虫に有効であるため、以下、しいたけ菌床栽培を中心に解説する。
先ず、上記害虫の食害の根源を絶つ手段として、熱による害虫の衰弱又は死滅に着目した。
そして、この加熱手段にあって、熱風、又は蒸気による加熱を検討したが、これらは使用が困難であった。なぜなら、熱風は、加温が不均一であり、熱風の直接接触する箇所は高温となるが、周辺やその裏側等へは熱が届かず、わずかでも生き残る害虫、卵等を許してしまうからである。
そこで、上記工程下にあるしいたけ菌床に対し、高温の湯を接触させるが、具体的には、湯の散布又は湯への浸漬の手段を検討した。
例えば、図1に示す如く、温度調節が可能な給湯器1に、耐熱性のホース2を接続し、当該ホースの先端に断熱材を施した持ち手のある耐熱性のジョウロ3を接続したものを使用して、設定した条件で菌床表面に湯を散布する。
但し、菌床表面への湯の接触方法は、菌床を湯に漬けるなどの他の方法によってもよい。
次いで、きのこに湯を接触させるタイミングについて検討した。
一般にしいたけの菌床栽培は、(a)培地へ菌を接種する工程、(b)培地内に菌糸が蔓延する工程、(c)原基が形成される工程、(d)原基から発芽する工程、(e)発芽からきのこが生育する工程、(f)成熟したきのこを収穫する直前の工程、(g)成熟したきのこを収穫する工程とから成る。
この工程にあって、しいたけは、一旦(a)〜(f)の工程が終了した後には、(g)成熟したきのこを収穫する工程、(c)原基が形成される工程、(d)原基から発芽する工程、(e)発芽からきのこが生育する工程、(f)成熟したきのこを収穫する直前の工程、(g)きのこ収穫工程、が繰り返され、即ち、(g)〜(c)〜(d)〜(e)〜(f)〜(g)の工程が繰り返されるものとなる。
上記工程にあって、本発明の温湯を施すタイミングは、原則としてきのこの栽培過程のすべての過程で可能であるが、具体的には、当初の(a)〜(g)の工程のうち、(a)培地へ菌を接種する工程、(b)培地内に菌糸が蔓延する工程、及び(f)成熟したきのこを収穫する直前の工程を除いた、(c)、(d)、(e)、(g)の工程におい施術するのが望ましい。(a)及び(b)においては、菌床が袋又は容器内に収納されているので、害虫に侵されるおそれがないからであり、又、(f)の工程にあっては、収穫直前のきのこに温水を散布するのはきのこを傷めるおそれが大きいからである。
そして、このうち最も望ましい温水散布のタイミングは、(d)の原基の発芽刺激後で発芽後の2〜3日までの間である。
何故なら、きのこ収穫後であって発芽刺激後の菌床にあって、この時期は害虫の幼虫がきのこを食害するために菌床表面に動き出す時期でもあり、害虫の幼虫に直接的に湯を散布できるため、最も効果的であり、さらに、生育初期程度の生育状態にある子実体は、直接的に当該条件による湯を散布しても、生命力に富んだ再生力が旺盛な時期であり、大きなダメージを受けることなくその後の生育や品質にも問題を残さないからである。
又、きのこの収穫直後も望ましいタイミングであり、害虫の幼虫が表面に残っている一方で、子実体のなくなった状態であるからである。
次いで、高温の湯の接触の温度と時間の関係を検討した。
試験方法として、当該湯散布装置の給湯温度を40℃〜90℃に設定し、菌床の表面から一定間隔(例えば20cm程度)離れた位置から耐熱性のジョウロを菌床表面に向けて一定時間を散布する。6面体の菌床の全面を露出させた状態であれば各面に散布を継続する。また、菌床の上面1面からきのこを発生させて、側面底面に給水するなどで管理する栽培方法(特許3087171)では上面1面の湯散布でよい。このときの温度と時間は低温度ほど長時間で、高温度ほど短時間の設定とする。何故なら、低温の湯温であると害虫に対するダメージが少ないため長時間の散布を行うことで一定のダメージを与えることができ、高温の湯温であると害虫へ充分なダメージを与えられるが、菌床自体へのダメージも大きくなり副次的な被害が発生するため、短い散布時間とする必要があるからである。
菌床表面とジョウロとの距離は、離れるほど菌床表面に到達する時点での湯温が低下するため、予め設定湯温と菌床表面とジョウロとの距離による湯温低下状況を掌握して作業に当る必要がある。
具体的に、キノコバエ幼虫死滅する温度と時間との条件を検討したところ、下記の如き結果を得た。
試験条件:ガラスシャーレ上にキノコバエの幼虫を10匹載せ、各設定温度の湯をガラスシャーレに注入し、幼虫の経時変化を観察し、幼虫の動きが停止することで死亡を確認する。
試験条件:培養の完了したしいたけ菌床(約20×12×17cm)を各設定温度のバケツに浸漬し、20℃の部屋に放置し、10日後に菌床表面の状態、15日後に菌床内部状態を観察する。
上記表1及び表2に示す如く、50℃で、効果が期待できるが、その時間は30秒以上を要する。55℃では2秒間以上で害虫を衰弱或いは死滅させ、60℃では、1.5秒間以上を維持すれば害虫は衰弱或いは死滅し、100秒の程度であれば菌床表面は傷まない状態を維持できる。80℃では、0.1秒間以上を維持すれば害虫は衰弱或いは死滅するが、1秒未満であれば菌床表面が傷まない状態を維持できる。70℃では、1秒間以上を維持すれば害虫は衰弱或いは死滅し、5秒未満であれば菌床表面は傷まない状態を維持できる。
一方、40℃以下では、5分以上の処理をしても死亡を確認できず、逆に90℃以上では0.1秒程度の短時間であっても菌床表面に傷みが見られ、適切な温度条件でないことが確認された。
つまり、高温の80℃であれば、0.1秒程度で効果が発揮され、一方低温の50℃では、効果を発揮するには30秒以上の時間を要するが、菌床はそれ以後長時間の施術に耐えられる。よって、この範囲内の温度及び時間の条件が有効であることが確認された。
即ち、一定温度(40℃)以下の低温では、害虫の衰弱或いは死滅に決定的なダメージが与えられず、一方90℃以上の高温では、害虫が衰弱或いは死滅するが、菌床表面組織にダメージが残り、以後の栽培に支障をきたすおそれがある。
しかし、50℃〜80℃の範囲以内であれば、その接触時間を0.1秒以上で適切な時間に設定すれば、害虫を衰弱或いは死滅させることができる一方で、菌床及びきのこは再生力の旺盛な菌糸によって熱に対して強い耐性を発揮することができ、又、しいたけ菌床は防衛の為の組織、つまり拮抗作用によって作られた茶色の皮膜を備えているので、更に強い耐性を示すことができることが実証された。
<効果>
本発明は以上のように構成されているので、しいたけを始めとするきのこ類菌床又はホダ木にダメージを与えずにキノコバエやガガンボといった害虫の卵や幼虫及び菌食性のダニ類等を衰弱あるいは死滅させることができ、きのこや菌床への食害やきのこに付着した幼虫をきのこと共にパックしてしまう異物混入などを予防することができる。
培養容器にポリエチレン製袋にフィルターが装着された栽培袋を使用し、横20cm縦12cm高さ17cm重量約2700gの角型培地を成型し、常法により菌床を製造した。対象はしいたけとして品種は北研607号を使用し、培養は20℃で120日間管理を行い、発生は培養を終了した菌床の栽培容器を取り除き、15〜20℃の日較差をつけた環境で管理し、数時間の浸水操作で発芽刺激を行いながら計6回の発生収穫を行い、発生期間は175日間とした。
浸水による発生刺激後、3〜4日目で発芽が確認され、7〜8日目できのこが小指大の大きさに生育した。6回の発生刺激毎に発生刺激の6日後に湯散布処理を行った。
湯散布処理は、給湯器の給湯温度を70℃に設定し、菌床の表面から20cm程度離れた位置から耐熱性のジョウロを菌床表面に向けて約2秒間湯を散布し、6面体の菌床の全面に対し各面に2秒ずつ1菌床に合計12秒間散布を行った。
当該湯散布処理群と湯散布処理を行わない通常群(コントロール群)の比較観察を行い、効果の有無を確認した。
比較の結果を表3に示す。
上記の結果から明らかなように、通常の栽培管理方法であるコントロール群においては、4番発生時から害虫の被害が出始めて、以降の発生においては急激に被害が増加して、6番発生においては収穫されたきのこの66.7%に害虫被害が確認されるなど、問題が大きいことがわかる。対して湯散布処理群においては、5番発生までの害虫被害は0であり、6番発生において14.3%に害虫の影響が若干見られたのみである。6番発生までの栽培を通した全体の被害状況においても、コントロール群の12.3%に比較して湯散布処理群では1.5%と極端に少ないことが確認され、当該条件による湯散布処理の効果が実証された。
本発明は、しいたけを中心に説明したが同様の原理できのこ類全般に応用が可能である。又、菌床表面に付着しているバクテリア類やカビ類なども衰弱あるいは死滅させることができ、これらへの応用も可能である。
本発明の給湯器によって湯を散布する状態を示す模式図である。
符号の説明
1 給湯器
2 ホース
3 ジョウロ

Claims (2)

  1. しいたけの栽培において、菌床表面に、60〜80℃の湯を0.1秒〜100秒の範囲で、原基の発芽刺激後で発芽後3日までの間又はきのこの収穫直後のタイミングで接触させ、菌床の表面又は表面付近の組織に生息するしいたけ栽培に害をもたらす昆虫類及びその卵、幼虫、蛹を衰弱あるいは死滅させることを特徴とするしいたけの栽培方法。
  2. 菌床表面に湯を接触させるにあたって、湯を散布あるいは湯に浸漬することを特徴とする請求項1項記載のしいたけの栽培方法。
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