JP4997709B2 - ブローチ加工性に優れた窒化部品用素材及びその製造方法 - Google Patents

ブローチ加工性に優れた窒化部品用素材及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、歯車部品等複雑な穴形状を有する窒化部品に適した素材及びその製造方法に関するものであり、特にブローチ加工性と窒化特性が共に優れ、熱間鍛造によって製造される窒化部品用素材及びその製造方法に関する。
自動車、建設車両、建設機器等に使用される歯車部品等の中には、断面に複雑な穴形状を有する部品が多数ある。このような複雑な穴形状を一度に仕上げる加工方法としてブローチ加工と呼ばれる方法が実施されている。
ブローチ加工とは、ブローチと呼ばれる総形工具を用い、これをあらかじめ被加工物に加工された下穴に挿入し、下方向に引き抜くことにより、加工初期はブローチ下方の荒刃で加工を行い、ブローチの移動によって、最終的には上方の仕上げ刃までを被加工物内に貫通させて所定の形状を仕上げようとする加工方法である。この加工方法は、一度の加工で複雑な穴形状を加工できるというメリットがあるものの、低速であるが重切削の加工であり、必要な加工性を十分に確保できる材料の選択が不可欠となる。
また、複雑な穴形状を有するということは、当然の如く歪の発生は、部品の品質を大きく低下させることとなり、許容されるものではない。しかしながら、必要な強度、耐摩耗性の確保のために、従来から歯車部品に適用されている高周波焼入れを行った場合には、歪の発生が避けられないため、最近では、比較的歪を小さく抑えることのできる表面硬化処理方法である軟窒化処理の検討が進められている。
しかしながら、ブローチ加工性は、機械加工の中でも特殊かつ重切削の加工であり、ドリル加工や旋削加工等他の被削性評価で優れた結果が得られる場合とは、材料面での最適条件が一致せず、また、単純に硬さを低くしても必ずしもブローチ加工性は向上しないため、ブローチ加工性に優れた材料の開発が強く望まれていた。また、前記したように、歪を低減したいというニーズから窒化特性に優れた成分であるという条件もあり、両方の特性を満足できる材料の開発が強く望まれていた。
窒化特性に優れた材料としては、従来から多数の材料が検討かつ提案されており、非常に多数の特許が出願されている。例えば特許文献1に記載の発明が公開されている。
特開昭57−149455公報
この特許文献1に記載の鋼は、従来のCr含有合金鋼にNbを添加し、Nb炭化物の生成によって消費される分を除いた有効Nb量を確保できるように添加することによって、窒化処理時にNbNを生成させ、硬化深さを改善して窒化特性を改善することを特徴とするものである。
この特許はあくまでも一例であり、他にも多数の窒化特性を改善した鋼が特許出願され、公開されている。
しかしながら、従来提案されている発明には次の問題がある。
前記したように今までに多数の窒化特性を向上させた特許が出願されている。しかしながら、ブローチ加工性との関係で検討され、出願公開された窒化鋼の特許は皆無であり、いかなる特性がブローチ加工性向上に効果的であるのか、ほとんど明らかになっていない。本発明者等が検討した結果、通常機械加工性に最も影響が大きいとされている硬さについては、単純に低くしたとしてもブローチ加工性はほとんど改善されず、他の機械加工性が優れている場合でも、優れたブローチ加工性が得られないことが判明した。
また、前記特許文献には、Nb添加鋼について鍛造後に焼ならしした場合と鍛造焼入した場合における窒化処理後の硬さ分布について検討されているが、ブローチ加工性については勿論の事、他の機械加工性についても全く記載されておらず、硬さ、組織等をどのようにした場合にブローチ加工性が改善するかという点についてはほとんど明らかになっていない。
本発明は、以上説明した問題点を解決するために成されたものであり、複雑な穴形状を容易に加工できる優れたブローチ加工性の得られる材料側の条件を明確にし、かつ軟窒化処理によって強度を改善するのに適した窒化特性も有している窒化部品用素材及びその製造方法を新規に提案することを目的とする。
請求項1の発明は、質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.50%未満、Cr:0.30〜2.00%、Al:0.02〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物元素からなり硬さがHV210以上であり、ベイナイト組織からなることを特徴とするブローチ加工性に優れた窒化部品用素材である。
本発明者等は低速重切削を特徴とするブローチ加工時の工具寿命が、どの要因を変化させると改善されるのかという点について、詳しく調査した。具体的には鍛造後の処理条件を様々に変化させ、硬さが同じであった場合にどの組織が最もブローチ加工性が優れるかという点について詳しく調査した。その結果、同一硬さであってもCr含有合金鋼等を調質して得られるソルバイト組織は最もブローチ加工性が低下すること、ベイナイト組織はソルバイト組織に比べて優れたブローチ加工性を示すものの、フェライトパーライト組織とした場合の方が若干ブローチ加工性が改善されること、フェライトパーライト組織が最も良いブローチ加工性を有するものの靭性の点ではベイナイト組織が優れており、靭性とブローチ加工性の両方の特性をバランス良く確保しようとすると、ベイナイト組織が最も優れていることを見出したものである。
次に硬さとブローチ加工性の関係について検討した結果、ブローチ加工性はむしろ軟らかい方が低下するため、優れたブローチ加工性を得るには最低でもHV210以上の硬さを確保する必要があること、その結果、炭素鋼や合金鋼の調質品と同等の硬さとなり、強度上も問題のない窒化部品用素材を得ることができることを見出したものである。なお、前記した成分範囲内の鋼であれば、マルテンサイト組織が生成していないベイナイト組織であれば、加工性が明らかに低下するほど極端に硬度が上昇する(具体的にはHV300以上)ことはないため、硬さの上限については特に限定していない。
次に、本発明であるブローチ加工性に優れた窒化部品用素材で使用する鋼の各成分範囲の限定理由について説明する。なお、本発明の特徴は、ブローチ加工性を改善するための組織、硬さの限定及び限定した組織、硬さの条件を満足するための製造方法の特定にあり、成分自体はJIS規格とも重複する範囲であって、何ら特徴を有するものではない。但し、前記した通り本発明は窒化特性に優れる必要があり、かつ内部硬さを適切な範囲内とするために成分範囲の上下限をJIS規格鋼の上下限値に関係なく適切に設定しているので、以下にその理由について説明する。
C:0.10〜0.40%
Cは内部硬さを高め、必要な強度を確保するために不可欠となる元素であり、0.10%以上含有させる必要がある。しかし、0.40%を超えて含有させると軟窒化特性(表面硬さ、硬化深さ)が低下するとともに、内部硬さも高くなりすぎて、ブローチ加工性、靭性が低下するので、上限を0.40%とした。
Si:0.50%以下
Siは、鋼の製造時に脱酸のために必要な元素であり、Siを脱酸元素として使用する場合には、少量含有させる必要のある元素である。しかしながら、Siは窒化特性を低下させる元素であり、含有すると軟窒化後の表面硬さ、硬化深さが低下するので、その含有は、脱酸処理のための最低限の量とする必要があり、上限を0.50%とした。
Mn:0.30〜1.50%未満
Mnは、必要な焼入性を確保して内部硬さを高め、要求される強度を確保するために必要な元素であり、その効果を得るためには、0.30%以上含有させる必要がある。しかしながら、多量に含有させると、Cと同様に軟窒化特性が低下するとともに、芯部硬さが高くなりすぎて、ブローチ加工性、靭性が低下するため、上限を1.50%未満とした。
Cr:0.30〜2.00%
Crは、軟窒化後の表面硬さ、硬化深さを高めるとともに、焼入性を向上させ、必要な強度を確保する効果があり、本発明にとって非常に重要な元素である。従って、0.30%以上の含有が必要である。しかしながら、多量に含有させるとMnと同様に芯部硬さが高くなりすぎて、靭性、ブローチ加工性がともに低下するため、上限を2.00%とした。
Al:0.02〜0.50%、
Alは、脱酸に有効な元素であるとともに、窒化処理後の表面硬さを高め、軟窒化特性を改善する元素である。そして、脱酸だけでなく軟窒化特性の改善のために十分な効果を得るためには、最低でも0.02%以上の含有が必要である。しかしながら、多量に含有させると、前記した軟窒化特性向上効果が飽和するとともに、酸化物系介在物(アルミナ)が増加して、疲労強度に悪影響を及ぼすため、上限を0.50%とした。
また、組織、硬さ等を限定した理由については、既に前記した通りである。
次に、請求項1の窒化部品用素材を製造する方法(請求項2)の製造条件及びその限定理由について、以下に説明する。
請求項2は、質量%で、C:0.10%〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.30%〜1.50%未満、Cr:0.30〜2.00%、Al:0.02〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物元素からなる熱間圧延鋼材を、950〜1300℃に加熱及び熱間鍛造を行い、鍛造後500℃までの平均冷却速度が0.5℃/秒となるような条件で冷却することにより、硬さがHv210以上のメイナイト組織とすることを特徴とするブローチ加工性に優れた窒化部品用素材の製造方法である。
通常、Cr鋼、Cr-Mo鋼等の合金鋼を用い高強度高靭性を得る場合には、焼入焼もどし(調質)を行うのが普通である。そして、調質処理を行うと、鋼の組織はソルバイト組織となる。この組織からなる鋼は、強度、靭性が共に優れており、ブローチ加工性を考慮しなければ、最適な鋼材と言うことができる。しかしながら、ソルバイト組織からなる鋼は、ブローチ加工性が大きく劣るため、本発明により狙いとしている用途には到底使用できない。本発明者等は詳しく調査した結果、通常のように調質するのではなく、鍛造後ベイナイト組織が得られるような速度で冷却し、その後他の熱処理をすることなく軟窒化処理することで、ソルバイト組織に比較して若干靭性が低下するものの、強度、窒化特性には差異がなく、かつ製造上問題のないブローチ加工性が得られることを確認したものである。以下、具体的な製造方法について説明する。
請求項2からなる窒化部品用素材の製造方法では、まず最初に、請求項1で指定した成分からなる鋼を電気炉等で溶解し、熱間圧延により母材を製造する。この母材を所定の寸法に切断し、950〜1300℃に加熱し、加熱温度と同じ範囲(950〜1300℃)内で熱間鍛造を行う。
ここで、熱間鍛造時の加熱及び鍛造温度(表面温度)の下限を950℃としたのは、950℃未満の温度では変形抵抗が上昇し、鍛造時の荷重が上昇して鍛造しにくくなることと、低い温度で鍛造するとベイナイト組織が得られにくくなるという理由によるものである。
また、加熱温度の上限を1300℃としたのは、1300℃を超えて温度を高くしても、特にメリットはなくエネルギーの無駄になるだけであるとともに、結晶粒が粗大化して靭性が低下するという問題があるからある。
次に、鍛造が終了した直後の時点ではまだ高温であり、変態が完了しておらず、その後の冷却条件によっては狙いとする組織が得られなくなる場合がある。従って、優れたブローチ加工性を得るためには、鍛造後、変態が完了すると考えられる温度である500℃までを0.5℃/秒以上の速度で冷却することによって、ベイナイト組織への変態を完了させ、他の組織が生成しないようにする必要がある。
ここで、平均冷却速度の下限を0.5℃/秒としたのは、これ以上に冷却速度を遅くすると、ベイナイト組織が得られず、組織中にフェライトパーライト組織が許容量を超えて生ずる可能性があり、その場合には、ブローチ加工性については低下しないものの、靭性が大きく低下するためである。
次に500℃から室温までの冷却については、500℃までの冷却で既にベイナイト組織への変態が完了しているため、急冷しても、徐冷しても良く、冷却速度が変化しても組織には何ら影響がない。従って、実際の製造現場の都合に合わせて実施しやすい条件で冷却すれば良い。以上の工程によりブローチ加工性に優れた鍛造部品を製造することができる。
また、本発明では、室温まで冷却した後の組織は、ベイナイト組織としているが、これはベイナイト以外の組織の生成を全く許容しないという意味ではない。実際の製造においては様々な条件のばらつきによって特に少量のフェライトパーライト組織は生成してしまう可能性があるため、全く許容しないとすると製造が難しくなる恐れがあるためである。さらに、フェライトパーライト組織が生成した場合、ブローチ加工性については低下するのではなく改善されるとともに、低下する懸念がある靭性も少量の生成であれば大きく低下することはない。そこで、少量のフェライトパーライト組織については、実際の製造性を考慮して許容されるものとした。具体的には面積率で10%以下程度に抑制することが望ましい。但し、前記したようにマルテンサイト組織は著しく加工性が劣るため、少量の生成が許容されるのはフェライトパーライト組織のみであり、かつ靭性の問題を考慮すれば、0%であることが望ましいことは、勿論である。
製造された鍛造品からなる窒化部品用素材は、最終形状に対し、まだ荒成形の状態であるため、さらに所定の加工が施される。この際他の加工とともに、前記したブローチ加工も実施され、所定の製品形状に仕上げ加工される。このブローチ加工を実施する際、前記した工程で製造したことにより、適切な硬さと組織に調整されているため、容易にブローチ加工を施すことができ、仕上げ加工を完了することができる。
最後に軟窒化処理がされる。この軟窒化処理は、通常の窒化鋼に普通に実施されている条件でも良いが、若干条件を最適化して実施しても勿論構わない。前記した成分範囲の鋼は、必須元素としてはAl、任意添加元素としては、Nb、Ti、V等の窒化特性を高める元素が添加され、優れた窒化特性を有しているため、容易に狙いとする表面硬さ、硬化深さを得ることができる。
以上説明したように、本発明によって、窒化特性に優れ、ブローチ加工性に優れた窒化部品用素材を製造することが可能になったため、後工程であるブローチ加工によって複雑な穴形状を有する部品を効率良く(=工具寿命が長く、生産効率が良い)製造することができ、かつ軟窒化後の表面硬さ、硬化深さに優れた窒化部品を製造することができる。
請求項1に記載した鋼成分からなる窒化部品用素材を以上説明した工程で製造することによりブローチ加工が容易で、かつ窒化特性の優れた窒化部品用素材(鍛造による粗加工材)お製造することができるが、本発明では、必要に応じてNi、Mo、S、Bi、Se、Ca、Te、Nb、Tiの1種又は2種以上の元素を添加して、さらに軟窒化特性、強度、靭性、被削性を改善することができる。以下、それぞれの成分の限定理由について説明する。
Ni:2.00%以下、Mo:0.50%以下
Ni、Moは、本発明で得られる窒化部品の強度と靭性をさらに改善するために有効な元素であり、必要に応じ添加できる元素である。しかし、Ni、Moは請求項1で用いる各合金元素と比較して高価な元素であり、その添加量は得られる効果と添加によるコスト増加を比較して適切に調整する必要がある。但し、多量に添加すると、効果が飽和し、コスト増加に見合う特性の向上が得られる可能性がなくなるので、上限をNiは2.00%、Moは0.50%に限定した。
S:0.20%以下、Bi:0.30%以下、Se:0.30%以下、Ca:0.10%以下、Te:0.30%以下
S、Bi、Se、Ca、Teは被削性を改善する元素として良く知られている元素であり、必要に応じ請求項1で使用する鋼に加えさらに適量添加することによって、被削性(ブローチ加工性)を改善することができる元素である。しかし、これらの元素の添加は熱間加工性を劣化させ鍛造成形性が低下する原因になるとともに、疲労強度、靭性に悪影響を及ぼすため、その添加は最小限に抑える必要がある。そこで、多くてもBi、Se、Teは0.30%以下、Sは0.20%以下、Caは0.10%以下とする必要がある。
Nb:0.50%以下、Ti:1.00%以下、V:0.50%以下
Nb、Ti、Vは窒化処理により表面から鋼中に侵入するNと結合して硬質の窒化物を形成するため、窒化処理後の表面硬さを高め、軟窒化特性を改善することのできる元素である。従って、要求される窒化処理後の表面硬さに合わせて必要に応じ添加することができる。しかしながら、多量に添加しすぎても効果が飽和し、添加によるコスト増加に見合う効果が得られないため、上限をNbは0.50%、Tiは1.00%、V:0.50%とした。
なお、以上説明した任意添加元素を添加した鋼を用いて窒化部品用素材を製造する場合においての製造方法は、前記した任意添加元素を用いない場合に行う方法と全く同じである。従って、同様に熱間鍛造及び鍛造後の制御冷却をすることによって、ブローチ加工性の優れた窒化部品用素材を製造することができ、さらにブローチ加工等の機械加工を行った後軟窒化処理を行うことによって、表面硬さ、硬化深さの点で窒化部品を製造することができる。
次に、本発明である窒化部品用素材及びその素材を用いた窒化部品の製造方法の特徴を比較例と対比して、実施例により説明する。表1に実施例として用いた供試鋼の化学成分を示す。
Figure 0004997709
表1において、1〜14鋼は本発明で指定した成分範囲内の鋼であり、このうち、1、2鋼が請求項1、2に該当する供試鋼である。また、15〜20鋼はいずれかの成分が本発明で規定する範囲を外れている供試鋼であり、21、22鋼は従来から広く用いられてきた鋼であるJISのSCM420、S45Cである(以下、1〜14鋼を本発明鋼、15〜20鋼を比較鋼、21、22鋼を従来鋼と記す。)。




また、供試鋼は短時間に多数の成分の鋼の評価をするため、本発明鋼、比較鋼については、30kg真空誘導溶解炉によって溶解した鋼塊を用い、これを鍛伸及び機械加工してφ60mm×90mmの丸棒試験片を準備し、従来鋼である21、22鋼については、実際に製造されているφ60の丸棒の一部を採取することにより、同様にφ60×90mmの試験片を準備して、後述の試験を実施した。この試験片のうち、1〜20鋼の試験片については、1250℃に加熱し、同じ温度で高さが40mmとなるまで据込み加工し、加工後500℃までの平均冷却速度が0.5℃/秒(フェライトパーライト組織が若干量生成した場合の影響を把握するため、本発明の条件の下限の冷却速度に設定)となる条件で冷却し、その後室温まで空冷した。また、従来鋼である21、22鋼については、1200℃に加熱し、同じ温度で前記と同様に熱間鍛造後そのまま空冷し、焼入(860℃)及び焼もどし処理を行った。焼もどし処理は、芯部硬さが、前記1〜20鋼の平均程度(HV230)となるよう調整(21鋼は590℃、22鋼は600℃)して実施した。このようにして得られた試験片をその材料特性に影響が生じない方法で切断及び機械加工して、幅が40mm×高さが20mmのブローチ加工性評価用の試験片を作成した。
次にブローチ加工性の評価方法について説明する。実際の部品製造に使用されるブローチ歯は、非常に高価であるため、本実験では、評価用のブローチ歯(幅4mm、すくい角18°、2番角2°、横逃げ角13°、歯数5)を準備し、前記した幅が40mmの試験片を図1に示すような切削方向で総切削長40000mmのフライス加工(切削速度7m/分、削り代0.05mm)を実施した。この加工の際、ブローチ加工性が良いほど加工時の切削抵抗が小さくなるので、ブローチ加工性はフライス加工中の切削抵抗を測定することにより評価することができる。但し、加工の進行とともにブローチ歯が摩耗し、その影響によって切削抵抗に変化が生じる可能性があるので、前記加工の最終段階(総切削長40000mmの加工が終了する時を含む最終段階)での切削抵抗を測定した。また、試験片の一部を利用して、内部硬さについても測定を行った。
軟窒化特性は、前記した直径20mmの試験片を用いRXガスにアンモニアを混合した雰囲気ガス中にて560℃×2.5時間の条件で軟窒化処理を実施し、処理後に表面硬さと硬化深さを測定した。なお、ここで測定した硬化深さは、HV513(HRC50)となる深さである。但し、従来鋼S45C(22鋼)については、軟窒化では狙いとする表面硬さを得られないことから、通常高周波焼入れがされているため、前記焼入れ焼もどし処理し、高周波焼入れを行ったものの靭性値を比較のために測定した。また、SCM420(21鋼)についてはブローチ加工性が大きく劣ることがわかっているため、靭性については評価するまでもないと判断し、衝撃試験については行っていない。結果を表2に示す。
Figure 0004997709
表2から明らかなように、本発明の実施例である1〜14鋼を据込み鍛造し、組織がベイナイト組織となるよう500℃に達するまでの平均冷却速度を調整したものは、いずれも硬さがHV210以上のベイナイト組織を有しており、その結果軟窒化特性は劣るもののブローチ加工性には問題のない従来鋼であるS45Cの調質品(22鋼)と比較して同等以上のブローチ加工性を示す(切削抵抗が同等又は小さい)とともに、衝撃値についてはS45Cの調質後高周波焼入したものと比較して2倍程度の優れた値を示すことがわかる。また、ブローチ加工性が優れるだけでなく、軟窒化特性についても従来鋼であるSCM420(21鋼)と比較して同等以上の軟窒化特性を有することも明らかとなった。
それに対し、比較例である15〜20鋼を据込み鍛造し、同様に鍛造後調整冷却を行ったものは、ブローチ加工性、軟窒化特性のいずれかが劣ることが明らかとなった。すなわち、15鋼はC含有率が高いため、軟窒化特性と衝撃値がともに低下したものであり、16鋼は、Si含有率が高いため、軟窒化特性が低下したものであり、17鋼はMn含有率が高いため、軟窒化特性が低下したものであり、19鋼はCr含有率が高いため、衝撃値が低下したものである。また、15、17、19鋼はC、Mn又はCr含有率が高い影響で他の供試材に比較して芯部硬さが上昇している。前記したように、ブローチ加工性は、硬さが高いことが必ずしも加工性低下に結びつかないため、15、17、19鋼では、切削抵抗は大きく変化していないが、さらにC、Mn、Cr量を増加して硬さが上昇した場合には、ブローチ加工性が低下することが予測されるので注意が必要である。次に、18、20鋼は、軟窒化特性改善のために必要な元素であるCrまたはAl含有率が低いため、軟窒化特性が低下して窒化処理後の表面硬さが低く、硬化深さが浅くなったものであり、さらに18鋼については、Cr量の低減によって硬さがHV210未満に低下したため、ブローチ加工性が低下したものである。
なお、表2には記載してないが、1〜20鋼のフェライトパーライト組織は大部分が0%であり、少量含むものもあったが全て10%未満と少量に抑えられていた。従って、フフェライトパーライト組織が生成しても10%未満の少量である場合にはブローチ加工性、衝撃値への影響はほとんどないことがわかる。
また、従来鋼である21鋼(SCM420の調質品)は、調質によりソルバイト組織となってしまうため、芯部硬さを、本発明の試験片と同等に調整してもブローチ加工性が劣るものである。なお、22鋼(S45Cの調質品)は、軟窒化特性については、試験するまでもなく大きく劣ることがわかっているので、試験は実施していない。切削抵抗の結果は、問題なくブローチ加工ができる基準値を把握するために実施したもので、本発明の実施例のデータとの比較については、前記した通りである。
この結果より、従来の製造方法では、ブローチ加工性と、軟窒化特性及び衝撃値の全てについて満足できるものが得られなかったのに対し、本発明の方法を適用することにより、ブローチ加工しやすく、かつ軟窒化処理後の表面硬さ、硬化深さに優れ、かつ衝撃値も優れた窒化部品の製造が可能になることが明らかになった。
前記実施例では、鍛造条件、鍛造後の冷却条件等を固定して、評価した結果を示した。本実施例では、前記した表1に示した3鋼を用い、表3に示すように鍛造条件、500℃までの冷却条件を変化させて(表3の条件以外については前記実施例と同じ)、ブローチ加工性がどのように変化するかについて評価した。結果を表4に示す。
Figure 0004997709
Figure 0004997709
表4において、A〜Cの製造方法が本発明の条件を満足する場合であり、Dの条件は、鍛造後の冷却速度が、Eの条件は鍛造時の温度条件が本発明の条件を満足しない場合である。
この結果をみると、条件Dにより得た試験片は、据込み鍛造後の冷却速度が遅かったために、フェライトパーライト組織が23%と多量に生成したため、硬さがHV210未満に低下し、ブローチ加工性が低下したものである。このように成分が本発明で規定した範囲内であっても硬さが低すぎる場合には、ブローチ加工性が低下することがこの比較例よりわかる。さらに、フェライトパーライト組織が増加したことによって衝撃値も低下したものである。
また、条件Eにより得られた試験片は、鍛造時の加熱温度、鍛造温度が低すぎたために、ベイナイト組織が得られにくくなって、条件Dと同様にフェライトパーライト組織が25%と多量に生成し、硬さが低下し、ブローチ加工性、衝撃値がともに低下したものである。
これに対し、本発明で指定した条件を満足しているA〜Cの条件で作製した試験片は、全て従来鋼S45Cと比較して同等以上のブローチ加工性と2倍程度の衝撃値を有し、かつ必要な軟窒化特性を有していることが確認できた。
このように優れたブローチ加工性、軟窒化特性と高い衝撃値を両立させるためには、硬さがHV210以上のベイナイトからなる組織を得る必要があり、そのためには、成分を特定範囲内に限定した上で、鍛造時の加熱温度、その後の冷却速度を適切に調整することが効果的であることがわかる。
以上説明した基礎評価により、ブローチ加工がしやすく、かつ軟窒化特性にも優れた窒化部品の製造ができる可能性が明確となったので、実生産設備でその効果を確認するため、表1の1鋼に相当する鋼を実生産用の電気炉で溶解し、表3に示すAの条件で窒化部品を製造し、軟窒化特性とブローチ加工性の評価を行った。その結果、前記実施例で示した基礎評価結果とほぼ同様の効果が得られることが確認できた。
以上説明した通り、本発明は、成分を特定範囲に限定し、かつ適切な条件で鍛造し、冷却することによって、硬さがHV210以上のベイナイト組織とすることにより、ブローチ加工を容易にし、かつ衝撃値が高く軟窒化後の表面硬さ、硬化深さの優れた窒化部品を製造することができる。そのため、断面形状が複雑な穴形状を有する窒化部品を容易に製造することが可能となり、産業への貢献は極めて大きいものである。
ブローチ加工性の評価方法を説明する図である。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.50%未満、Cr:0.30〜2.00%、Al:0.02〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物元素からなり硬さがHV210以上であるベイナイト組織からなることを特徴とするブローチ加工性に優れた窒化部品用素材。
  2. 質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜1.50%未満、Cr:0.30〜2.00%、Al:0.02〜0.50%を含有し、残部がFe及び不純物元素からなる熱間圧延鋼材を、950〜1300℃に加熱及び熱間鍛造を行い、鍛造後500℃までの平均冷却速度が0.5℃/秒以上となるような条件で冷却することにより、硬さがHV210以上のベイナイト組織とすることを特徴とするブローチ加工性に優れた窒化部品用素材の製造方法。
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