JP4995408B2 - シリコンの精製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属シリコン(Si)をはじめとする不純物濃度の高い原料シリコンを精製して太陽電池等に使用可能な高純度シリコンを製造する方法に関するものである。
太陽電池に使用される高純度Siは、従来、シーメンス法(特許文献1等)により製造されてきた。この方法は、純度97%程度の金属シリコン原料を一旦、塩化した後、精製・還元して99.9999999%以上の高純度シリコンを得るものであり、反応に多大のエネルギーを消費するため原理的に製造費は高価になることが避けられない。そこで、金属シリコンを塩化すること無く、直接精製することにより製造費低減を目指した手法が過去いくつか検討されてきた。この様な手法において最も問題となる不純物成分はリン(P)である。これは、太陽電池用Si中のP濃度は約0.1ppm以下が求められるが、Pは、原料中には多量に含まれ、かつ、大部分の不純物元素に対して有効な不純物除去手段である凝固精製法がPに対しては効果が小さいからである。
金属シリコンからのPの除去方法として、溶融シリコンを高真空にさらし、融液中の溶融Pを蒸発除去する方法が知られている。その概念を図1を用いて説明する。蒸発容器内1に予め設置されたるつぼ3中に保持され、加熱装置4により融点以上の一定温度を維持したSi融液2からSi蒸気5とともにSi融液中に溶解しているPが蒸気7として蒸発する。一般にSi融点近傍の温度においてはPの蒸気圧はSiよりも高く、単位質量当りの蒸発速度がPの方が大きいので、Pを蒸発させ続ければ溶融Si中のPを減少させることができる。但し、常圧においてPの蒸発速度は、極めて小さいため、脱Pの所要時間は非現実的に長くなってしまう。そこで、圧力計9を監視しながら真空ポンプ8により蒸発容器中の雰囲気を所定圧まで減圧させることにより、Pの蒸発速度を上昇させる。このとき、蒸発容器1内圧力の減少による容器リーク等により酸素が容器内に浸入する。一般に高温真空装置内においては設備保全の観点から非酸化性雰囲気が好まれるので、従来技術においてはアルゴン(Ar)等の非凝縮性ガスを非凝縮ガス供給管10の弁11を適宜操作することにより蒸発容器1内に導き、蒸発容器内の酸素を系外にパージする。具体的には、例えば、非特許文献1では、雰囲気圧力10−2Pa以下の高真空下に小型るつぼ中の1640℃の溶融Siを置くことにより、0.1ppm程度のP濃度を満足している。また、特許文献2では、同様の原理で10−4から10−1Paの範囲で脱Pを行っている。しかし、実機サイズの巨大な真空炉をこの様な高真空状態に維持するためには、極めて大型、かつ、特殊な形式の真空設備と長時間の事前真空排気作業が必要となり、設備費や生産性の観点から現実的な生産プロセスにはなり得ない。
一方、より高圧条件での真空脱P作業を実施すれば真空ポンプ費用を削減できる可能性があるが、非特許文献1の雰囲気圧力190Paにおける脱P実験結果では脱P速度が高真空時の数十分の1に低下するため、所要の脱P速度を満足するためには炉自身を巨大化する必要があり、実用的ではない。
また、特許文献3では、脱P時の真空度を10−2Paから100Paの範囲で脱P速度を測定した結果が記載されている。この結果でも1Paの真空では、1時間の脱P作業で6ppm程度(当該明細書図1の除去率80%に対応)にまでしかPが減少しておらず、生産性の点から全く不十分なものである。
さらに、特許文献4では、金属Siを粉砕酸洗した後、5Paで1時間の真空脱気を行い、さらに、凝固精製を行うという複雑な手法で脱Pを図ったものである。この結果得られたSi中のP濃度は1ppm以下とされているが、現在の太陽電池用シリコンウェハ原料に最低限求められる0.1ppm以下の純度を満足しているかは不明であり、また、当該発明においては真空処理以外の工程でも1ppm程度までの脱Pに関しては原理的に効果がありえるので、真空処理単独の効果は不明である。
一方、高真空条件下というだけでは必ずしも高速の脱Pがなされないことも知られている。例えば、非特許文献2では、非特許文献1とほぼ同様の系で脱P実験を行ったが、2.7×10−2Paの高真空下であってもSi中で6ppm程度までしかP濃度が減少しないと報告している。この様に類似の条件であっても高真空下で脱P速度の高い場合と低い場合の両方が存在し、この原因は、これまで解明されてこなかった。このため工業的に意味のある脱P速度を確実に確保するためには予期できない脱P速度の変動に対処する必要があり、例えば、脱P速度上昇に効果の高い、高真空雰囲気化、並びに、Si浴の高温化を行うための過剰に余裕をもった設備能力と操業条件を予め設定しなければならなかった。具体的には、特許文献2記載の技術では0.1Pa以下の極端に低い雰囲気圧(0.1Pa以下の高真空を得るためには、汎用油回転真空ポンプ等安価なポンプを使用することは原理的に不可能であり、油拡散ポンプ等の高価な特殊真空ポンプを適用する必要がある)、並びに、一般に2000℃程度の高いSi浴温度を確保できる電子ビーム加熱装置を用いるという高価な製造方法を採用せざるをえず、シーメンス法に比べてより有効な製造方法とはなりえなかった。
また、脱P速度が作業ごとに大きく変動する要因のひとつとして、脱P作業中に、Si融液表面が薄い固体膜に覆われてSi融液からのPの蒸発を妨げる現象が知られていた。この薄い固体膜の発生状況によって脱P速度が変動するのである。従来技術においては、この薄い固体膜をSiO主体と考えて、例えば、特許文献5にみられる様に、非酸化性るつぼを使用し、非酸化性雰囲気の高真空下で作業することにより薄い固体膜の発生を回避しようとしていたが、薄い固体膜の発生を完全に防止することはできなかった。ここで、例えば、特許文献5にみられる様に、浴面上方から浴面に向けてプラズマジェットを吹き付けることや、電子ビームを照射することにより、Si融液を攪拌してこの薄い固体膜を破壊することも考えられるが、設備が大規模、高価となり、現実的ではない。
特公昭35−2982号公報公報 特開平7−309614号公報 特許2905353号公報 特開昭56−32319号公報 特許第2905353号公報 特許第3205352号公報 湯下ら、日本金属学会誌、第61巻、10号、1086〜1093頁(1997) 鈴木ら、日本金属学会誌、第54巻、2号、161〜167頁(1990)
まとめると、従来技術においては次の2つの問題が存在した。即ち、第1に、比較的低コストでの生産が期待できる0.1Paを超える雰囲気圧力条件下では脱P速度が著しく減少して生産性を低下させること。第2に、脱P速度を決定する機構が不明であり、脱P速度が装置や操業条件毎に極端に変動し、かつ、変動量も予測できなかったため、装置設計や操業条件に過大な余裕代を設定する必要があり、安価な脱Pシステムの構築が困難であったことである。
そこで、本発明は、高真空雰囲気下での大型装置を用いることなく、簡便な設備にて脱P速度を確保する安価な高純度Siの精製方法を提供することを目的とする。
まず、従来技術と本発明の違いについて説明する。従来技術では、溶融Si表面を覆う薄い固体膜による脱P速度低下に対して、安価かつ有効な対策が存在しなかったのに対し、本発明では、溶融Si表面二酸化珪素を主成分とする物質の粒を浮かせること、または、蒸発容器内をSiOおよびSiを主成分とするガスで満たすことが改良点である。発明の具体的手段は、以下の通りである。
本発明は、精製装置内で溶融シリコンからPを蒸発させて除去する方法において、溶融シリコン液面の一部に二酸化珪素を主成分とする粒状、棒状又は筒状の形状を有する固体物質を浮かせ、及び、精製装置内の雰囲気をSiOまたはSiの一方または両方のガスを主成分とし、さらに、分子流が発生する圧力より高く、かつ、飽和蒸気圧未満のシリコンまたはSiOの一方または両方を主成分とする気体で精製装置内を満たすとともに、単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けることを特徴とするシリコンの精製方法、に関する
2)シリコン液面直上における精製装置内気体のシリコン液面から垂直方向への移動速度を当該位置における精製装置内気体の分子熱運動速度の大きさの平均値の3%を超える値に維持する前記(1)記載のシリコンの精製方法、に関する。尚、以下、簡単のため、「シリコン液面直上における精製装置内気体のシリコン液面から垂直方向への移動速度」を「浴面上上向きガス流速度」と呼ぶことにする。
精製装置内の雰囲気をSiOまたはSiの一方または両方のガスを主成分とする場合には、シリコン蒸気またはSiOガスの一方または両方を凝縮させる部位を装置系内に設けるとともに、該凝縮部位表面温度を1200℃以下に維持することよりシリコン蒸気またはSiOガスの一方または両方とともに輸送されてきたリン蒸気を凝縮部位に捕捉して固定する前記(1)または(2)に記載のシリコンの精製方法、に関する
本発明により、中間流領域での蒸発容器内ガスに対して、従来技術の10倍の脱P速度を得ることができ、Siの高純度化が安価、簡便な設備、方法で容易に達成できる。
まず、第1発明の原理について述べる。従来技術において、非酸化性るつぼを使用し、非酸化性雰囲気の高真空下においてもSi融液表面での薄い固体膜生成が回避できず、脱P速度が低下することの理由は、次の通りである。高真空下においては、Si融液表面の薄い固体膜は、従来、考えられていたようなSiOが主成分ではなく、炭化珪素が主体であることを本発明者らは発見した。この炭化珪素は、黒鉛るつぼと溶融Siの接触や、炉材に使用される炭素がガス化して溶融Si表面で化学反応することにより発生する。従来技術の装置構成において、高真空下に蒸発容器への外気のリークを避けることはエンジニアリング的にみて極めて困難であり、そもそも、非酸化性雰囲気といっても、蒸発容器内で局所的には酸素ガスを含有した雰囲気領域が存在するのが一般的である。また、高純度Si融液を操作する場合の炉材として、高温下で溶融Siを汚染することが少なく、加工が容易で比較的安価な構造材料としては、実質的に高純度黒鉛しか選択肢はなく、実際、当該分野での炉材として、高純度黒鉛材が工業的に最も多用されている。従って、るつぼとして黒鉛を用いない場合でも、炉材に多用される黒鉛材がリークガス中の酸素と反応してCOガス等の形となることで、かなりの量の炭素成分が蒸発炉内気相中に存在する。この気相中の炭素成分がSi融液表面に接触した際、その一部がSiと反応してSi融液表面に固体炭化珪素を形成するのである。また、代表的な非酸化性るつぼ材質である高純度黒鉛を使用した場合には、炭化珪素の生成は一層助長される。従って、従来技術において、非酸化性るつぼを使用し、かつ、蒸発容器内を単に非酸化性ガス主体の高真空にしただけでは炭化珪素の生成を防止できず、Si融液表面の薄い固体膜発生を回避することは不可能であった。
そこで、第1発明において、高温真空下で、SiOを主成分とする物質Si融液表面の一部に浮かせることにより、Si融液表面に発生した薄い固体膜を破壊することができ、安価、簡便に脱P速度の低下を回避させる。
この際、SiOを主成分とする物質の形態としては、Si液面の固体膜を破壊する能力の高い固体である。また、その形状は、比較的少量でSi液面に広がることのできる、粒状、作業性や原料入手の容易さを重視してSiOを主成分とする物質を粒状以外の形状として、板状、棒状、筒状、塊状用い。いずれの形態のSiOを主成分とする物質を用いても、その作用原理に差はないので、以下の説明では、代表的形態として粒状を前提とする。また、SiOを主成分とする物質の粒のことを以下、単に「SiO粒」と呼ぶ。
次に、SiO粒がSi融液表面の薄い固体膜発生を破壊する原理について説明する。
安価、高純度なSiO粒として、例えば、高純度けい砂を用いる場合、その比重は溶融Siよりも小さいので、けい砂はSi融液に浮かんで配置される。また、特に、けい砂粒径が例えば1mm以下の様に小さい場合には、Si融液表面でのSiOとSiの界面張力により、けい砂がSi融液に浸漬することなく、Si融液表面を覆う形で配置される場合もある。薄い固体膜を破壊する原理の第1は、次の通りである。溶融SiとSiOの接触界面においては、次の反応式(1)により高温低圧下でSiOガスが接触界面から発生する。
Si(液体)+SiO(固体) → 2SiO(気体) (1)
けい砂がSi融液表面の一部に浮かんだ状態で、両者の接触界面からSiOガスが発生すると、このガス圧によってけい砂は浴面上を水平に移動する。この際、けい砂がSi融液表面の薄い固体膜を切り裂いて、Si融液の新生表面を露出させるのである。この様にSi融液と反応して薄い固体膜を破壊しうる固体物質は多数存在するが、Si融液への汚染が少なく、かつ、安価なSiOが最適である。また、るつぼに石英ガラスを用いる場合、るつぼとSi融液の接触界面からSiOが生成することが知られている。しかし、この様な場合、接触界面の面積が小さく、かつ、液面近傍以外の接触界面ではSi液圧によりSiO生成反応が抑制されるため(低圧ほどSiO生成反応は促進されるから)、SiOガス発生速度はそもそも小さく、Si融液表面の薄い固体膜を効率的に破壊できない。従って、Si融液からSiOを単に発生させるのではなく、Si融液表面を覆ったSiO粒の表面からSiOガスを発生させる構成にすることが脱P速度低下を防止するポイントである。
次に、薄い固体膜を破壊する第2の原理として、Si融液の対流に伴って、けい砂がSi融液表面を移動して薄い固体膜を破壊することが挙げられる。このSi融液の対流は、Si融液の避けられない冷却とこれを補償するための外部からの加熱により引き起こされる自然対流による流れ、または、Si融液中のP濃度を均一化するなどの目的で実施する電磁攪拌レベルの流れで十分な効果をあげることができる。けい砂を用いずに単に液を攪拌した場合には、対流による液体せん断応力のみで薄い固体膜を破壊しなければならず、効率的ではない。本発明では、Si融液表面での、固体であるSiO粒の存在により、小さな対流でも効率的に薄い固体膜を破壊できる。
本発明に使用するSiO粒としては、けい砂、石英、石英ガラス、合成SiO等が使用可能である。また、SiO粒の粒径は、るつぼに入る大きさであれば使用可能である。しかし、大径のものは、Si融液表面を移動しにくい欠点があり、一方、小径のものはSiOガス発生速度が大きくSi歩留が低下し易い欠点をもつ。従って、SiO粒径の最適値は、0.1mm〜100mm程度が好適である。また、作業圧力としては、SiOガス生成反応の促進される1000Pa以下が望ましく、かつ、高価な特殊真空ポンプを使用しなくても得られる真空である、0.1Pa以上が望ましい。また、作業温度は、Si融点以上、かつ、SiO発生によるSi歩留低下影響の小さい2000℃以下が望ましい。また、SiO粒がSi融液に浮かぶ面積が過大な場合、Pの蒸発サイトが不足するという欠点が存在する。特に、SiO粒が溶融Si液面の全てを覆ってしまうと溶融Si中のPが蒸発できなくなるので、SiO粒が溶融Si液面に浮かぶのは液面の一部に限定される必要がある。一方、SiO粒がSi融液を覆う面積が過小であれば、SiOの発生速度が低くなり、薄い固体膜生成防止効果が低いという問題がある。従って、Si融液表面の見掛け上の面積の10%〜99%のSi融液表面がSiOに接触しない条件、即ち、SiO粒がSi融液表面の1〜90%の面積を覆う条件が好適である。るつぼ材質としては、黒鉛、石英ガラス等が使用可能である。
次に、第2発明の原理について説明する。第1発明の原理で説明した様に、蒸発容器中への外気のリークにより、蒸発容器内部の炉材が一定量酸化されることを回避することは、工業的には困難である。溶融Siを単に高温真空下で放置しただけでは、炉内で発生した炉材酸化ガスは、容易にSi融液表面に到達し、Si融液表面に薄い固体膜を形成して脱P速度を低下させてしまう。特に、雰囲気が0.1Pa以下の高真空の場合、蒸発容器内は分子流状態となり、蒸発容器内のるつぼから遠い位置で発生した炉材酸化ガスでも他の気体分子に遮られることなく、瞬時にSi融液表面に到達しうる。そこで、蒸発容器内でCOガス等の炉材酸化ガスをSi融液表面になるべく接触させないようにできれば、Si融液表面での炭化珪素等の薄い固体膜生成速度を低減できる。そのためには、Si融液表面を絶えず他の種類の気体で覆って保護し、この気体分子が遠方から飛来する炉材酸化ガスの進行を妨害することにより、炉材酸化ガスのSi融液表面への到達を抑制させればよい。炉材酸化ガスは、絶えず蒸発容器のリークガスにより発生し続け、また、Si融液表面を覆う保護ガス相も放置しておけば、いずれはガス拡散により、炉材酸化ガス濃度が上昇して効果がなくなる。従って、蒸発容器から常にガスを排気するとともに、Si融液表面の保護ガスも絶えず供給し続けることにより、蒸発容器内に炉材酸化ガス濃度分布(Si融液表面近傍では濃度が低く、それ以外の領域では濃度が高い)を維持する必要がある。
蒸発容器からのガス排気方法としては真空ポンプ等を用いれば良い。Si融液表面の保護ガスを絶えず供給し続ける方法としては、外部からArガス等をSi融液表面に向けて吹き付ける方法もあるが、本発明者らの実験結果では、真空容器内でこの様な微量ガス供給を実施しようとすると、ガス供給制御が工業的に極めて困難となり、過大なガス供給となるか、ガス供給が間欠的になるかのいずれかになることが判明した。ガス供給が間欠的になると、蒸発容器内のガス対流を促進して、ガスが停止している期間に、炉材酸化ガスのSi融液表面への輸送をかえって促進する欠点がある。また、ガス供給流量が過大な場合には、Si融液表面をガスが冷却して脱P速度が低下したり、高い真空度を維持するために巨大な真空ポンプが必要となったりする等の問題がある。さらに、供給ガスの純度にも問題がある。即ち、工業的に使用されるArガスには一般に数百ppm程度の酸素が混入しており、この様なガスをSi融液表面に吹き付けるとガス中の酸素によってSi融液表面にSiO固体膜(酸素リッチな雰囲気下ではSi融液表面の薄い固体膜は、SiO主体となる)が生成して脱P速度をかえって低下させる場合がある。従って、Si融液表面に外部からガスを吹き付ける方法は、実用的ではない。
そこで、本発明においては、Si融液表面からSiOガスを発生させて、これを蒸発容器内の主たるガス成分とすることにより、Si融液ガス表面の保護ガスとする。SiOガスの発生方法としては、例えば、第1発明に示したSiO粒をSi融液に浮かべておくことにより、容易に安定した微量のガス発生速度を維持することができる。SiOガスを単にSi融液表面のみに留めるのではなく、蒸発容器中の主成分とすることの理由は、次の通りである。第1に、この様な方法をとらない場合、高真空時には蒸発容器中のガス成分は炉材酸化ガスやリークガスが主体となり、これらのガスは、容易に保護ガス相の近傍まで高濃度で存在しうる。保護ガス相が存在しても、その厚さが小さければ、拡散によって、外部のガスが保護ガス相を通過してSi融液表面に到達する割合が高くなり、Si融液表面保護の観点から不利である。従って、保護ガス相は充分厚くする必要があり、SiOガスを蒸発容器の主成分とすれば、この効果は、最大限発揮できる。第2に、SiOガスを主成分とすれば、Si融液表面から発生して真空ポンプに達する平均流が蒸発容器内に形成される。炉材酸化ガスが発生してもこの平均流に輸送されて蒸発容器外に排気される割合が高くなるので、炉材酸化ガスがSi融液表面に到達し難くなり、Si融液表面での薄い固体膜生成が抑制されるからである。
また、Si融液温度が例えば、1700℃以上になると、Siの蒸気圧が充分上昇し、Si蒸気の発生速度がSiO発生速度に近くなる場合がある。この場合のSi蒸気は、Si融液表面の保護という点ではSiOガスと同様の効果があるので、Si蒸気が発生する場合には、この蒸気も蒸発容器内ガスの主成分とすることに何ら問題はない。従って、本発明において蒸発容器内ガスの主成分として用いるのは、SiOとSiである。
本発明におけるSiOガスまたはSi蒸気の一方または両方の好適な発生速度は、蒸発容器のリーク流量に依存する。リーク流量が大きければ、SiOまたはSiガスの一方または両方の発生速度も上昇させる必要がある。本発明者らの調査の結果、SiOまたはSiガスの一方または両方の発生速度は、リーク流量の2倍程度以上確保すれば充分なSi融液表面保護効果が得られることが判明した。本発明の作業圧力の好適な範囲は、分子流の発生が抑制される0.1Pa以上、SiOの発生が促進される1000Pa以下である。本発明の作業温度の好適な範囲は、Si融点以上、SiO発生による歩留影響の小さい2000℃以下である。SiO発生に用いるSiO粒の条件は、第1発明と同様である。但し、SiO粒がSi融液表面に浮かぶ面積は、前述の好適なSiO発生速度条件となる様に適宜調整すべきである。
次に、第3発明以降の技術が脱P速度を向上させる原理について説明する。この原理は、本発明者らが、真空脱P挙動に関する解析をもとに鋭意検討した結果、見出したものである。
まず、脱Pの原理を説明する前に、希薄気体におけるガス分子運動について統計物理学の教科書等に記載されている古典的分子運動論の知見を説明する。最も単純化された気体分子運動論においては、個々の気体分子はランダムな速度を有した剛体として表現され、気体分子間または気体分子―壁面間で衝突する際に、互いに運動量と運動エネルギを交換するものとして取り扱う。この様な気体分子の集合体の分子速度分布(確率密度)は、図7に示す様な形を呈する。同図において全分子速度の平均が巨視的にみたガス平均移動速度であり、また、個々の分子速度から平均移動速度を減じたものの大きさをさらに平均化したものがガス分子熱運動の平均速度に対応する。ガス分子熱運動速度は、温度とともに上昇し、熱的に平衡なマクスウェル速度分布に従うガスでは、(2)式のように近似的に表現できる。尚、(2)式各項の単位は、全てSI単位系である。
[熱運動平均速度]=146×([ガス絶対温度]/[ガス分子量])0.5 (2)
次に、蒸発容器の様な閉空間におけるガスの運動の様式は、その物理的性質から、連続流、分子流、並びに、中間流の3つに分類されている。連続流とは、隣接するガス分子同士の衝突により主として運動量が輸送される流れであり、非希薄ガスの流れがこれに対応し、この様なガス中では分子が他の分子と1回衝突するまでに期待される平均的な分子の飛行距離(平均自由行程)が小さいとも表現できる。また、分子流とは、ガス相中でのガス分子間の衝突頻度がガス分子−周囲壁との衝突頻度に比べて充分小さい場合の流れであり、極端に希薄なガスに対応する。直径1m程度の一般的な蒸発容器内では、概ね0.1Paより小さい領域での操業で分子流になる。さらに、中間流とは、ガス分子が隣接する分子の一部とのみ衝突し、残りは、やや遠方のガス分子や壁面と衝突する流れであり、連続流と分子流の中間的な密度のガスに対応する。従来技術では、脱P速度の高いものは分子流領域、脱P速度の低いものは分子流〜中間流領域に対応する。一方、本発明は主として中間流、一部、連続流領域に対応する。
これらの知見を基に、第3発明の原理を説明する。
図4に、従来技術における中間流状態でのSi浴面上ガス16のガス分子、並びに、ガス分子速度の空間分布を示す。この図では、Si浴面15上を比較的高密度の非凝縮性ガス20が覆っている。従来技術での非凝縮性ガスの真空排気速度は一般に小さいため、非凝縮性ガスの平均移動速度はほぼ0であり、浴面上での非凝縮性ガスの速度は上向きと下向きのものがほぼ半々となる。Si浴面15から蒸発した直後のSi浴面直上領域17では、Si蒸気18及びP蒸気19はほぼ全数が上向き方向速度を有している。ここで、「Si浴面直上領域」17とは、蒸発直後のSiの平均自由行程に比べて充分浴面に近いガス相の領域と定義する。図4では蒸発当初上向きの速度のみ有していたSiやPの蒸気は、下向き速度を有する非凝縮性ガス分子と頻繁に衝突することにより、次々と下向きに速度の変更を受け、ついには浴面に衝突してSi浴に吸収される。このため、SiやP蒸気のガス相中密度は浴面から離れるに従って急速に低下するとともに、厚い非凝縮ガス相を通過して系外に排出される正味の蒸発速度は、Si浴面直上ガス領域で観測される真の蒸発速度に比べると、はるかに小さいものになる。これが、中間流領域での従来技術では脱P速度が低下する原因であった。
次に、図5に、従来技術の分子流に対応するSi浴面上ガス16のガス分子、並びに、ガス分子速度の空間分布を示す。この条件では、非凝縮性ガス20を含めた浴上ガス領域16でのガス分子密度は極めて小さく、ガス分子間ではほとんど衝突が発生しないため、Si浴面15から蒸発したSi蒸気18及びP蒸気19は比較的容易に系外に排出され得る。これが、従来技術の脱P速度の速い場合に対応する。しかし、前述の様に、系内全体に分子流を生成、維持するためには、高額な製造費を必要として不利である。
これに対し、図6に、中間流領域での本発明に対応するSi浴面上ガス16のガス分子、並びに、ガス分子速度の空間分布を示す。この図では、Si浴面上15をSiまたはSiOの一方または両方のガス18が覆っており、かつ、これらのガスは平均的に上向きの速度分布を有している。従って、Si浴面から蒸発したP19は、SiまたはSiOガス分子と頻繁に衝突を繰り返すものの、下向きに速度の変化することはまれであり、P蒸気は浴面から離れた領域でも平均的に上向き速度を維持することができる。その結果、浴面直上領域17で観測されるP蒸発速度に近い速度でP19を系外に排出することができる。即ち、脱P速度が従来技術に比べて向上する。
ここで、SiまたはSiOの一方または両方のガスを浴面上で平均的に上向きに維持する方法について説明する。Si蒸気やSiOガスがSi浴面で発生した直後はほぼ全数の分子が上向き方向速度を有しているので、これらの分子同士の衝突ではガス平均速度を下向きにならない。しかし、浴面直上での非凝縮性ガスは、一般にランダムな方向に運動しているため、蒸発直後のSiやSiOガスと衝突するとこれらの分子を一定割合で下向き方向速度に変化させてしまう。従って、第3発明の第1の主要な条件として、浴面上のガスから非凝縮ガスを極力排除し、「シリコンまたはSiOの一方または両方を主成分とする気体で精製装置内を満たす」ことが必要である。また、SiやSiOガス分子が壁面と衝突する場合にも、衝突の度に衝突ガス分子の一部が下向きに速度変化する。このため、SiやSiOガス分子が蒸発容器中に長時間滞留するほど、個々のガス分子が壁面に衝突する回数が増大して下向き方向速度のガス蒸気の割合が増加する。従って、これらのガスが浴面から発生した後、速やかに系外に排出できれば、これらのガスの蒸発容器内での平均滞在時間が減少し、浴面上で平均的に上向きのガス流れを形成することができる。これが、第3発明における第2の主要条件である「単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けることを」ことに対応する。具体的には強力な真空排気システムを蒸発容器に設置すればこの様な条件は実現可能である。但し、本発明での排気システムの「強力さ」は、蒸発容器内が中間流領域に留まる範囲でよいので、蒸発容器内に分子流を生成する際の排気能力に比べれば、はるかに小さいもので十分であり、製造費を極端に上昇させる要因にはなりえない。一方、従来技術の中間流においては、蒸発容器内での主成分は非凝縮性ガスであり、Si浴面上からの非凝縮ガス発生はほとんど無いため、本発明のような浴面直上領域で平均的に上向き速度を有するガス分子群がそもそも存在しない。従って、従来技術で排気能力をいかに増強させたとしても浴面上で上向き方向のガス流が発生することはなく、今回発明でみられる様な劇的な脱P速度上昇効果は得られない。
また、本発明におけるSiまたはSiOの一方または両方のガス圧の操業条件の根拠について述べる。蒸発容器内はこれらのガスが主成分であるため、ガス圧の上限値は物理的にこれらのガス成分の飽和蒸気圧であるので、この値未満とすれば、Si浴面からの蒸発を阻害しない。ここで特筆すべき点は、従来技術においては、蒸発容器内での上限圧力をこれらのガス成分の飽和蒸気圧に関係なく、例えば、10Paに設定しなければならなかったことである。本発明においては、Si蒸気やSiOガスの排気能力に合わせた上限圧力を設定すれば良く、飽和蒸気圧と無関係の制限値を設定する必要はない。これは、Si浴面からいかに高速でガスが発生したとしても、充分な排気能力があれば浴面上でこれらのガスの上向き流れを形成することができ、脱P速度を阻害することがないからである。次に、圧力の下限値については、本発明は、上向き速度を有するSi蒸気やSiOガス分子とP蒸気分子が衝突することより、比較的高圧の中間流領域でも高い脱P速度を維持できることを特徴としている。従って、ガス分子間衝突のそもそもまれな分子流領域では原理的に発明の意味が存在しない。従って、本発明における圧力の下限値は、「分子流の発生する圧力より高い」圧力となる。一般的な設備に採用される直径1m程度の蒸発容器でSi融点から±500℃以内の操業条件での分子流の発生する圧力の上限値は、概ね0.1Paであるので、この条件での本発明の下限値は、0.1Paとなる。
さらに、「単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けること」の意味についてより詳しく述べる。既述の様にSi浴面上にSi蒸気やSiOガスの上向きガス流を形成するためには、系外への充分な排気能力を確保することが必要である。しかし、Si浴面上にSi蒸気やSiOガスの上向きガス流を維持するためには、これだけでは不十分である。なぜならば、従来技術においては、蒸発容器内の圧力管理は、単に圧力値のみを指標としていたため、全体の圧力値が許容値範囲内にある限り、仮に特定成分の圧力が上昇し続けたとしても排気能力増大等の措置をとることは無く、全体の圧力が許容値限界に達して初めて排気能力を一定時間増強する操業法が実施されていた。しかし、本発明の原理で説明した様に、蒸発容器内での特定成分の圧力が上昇し続ける局面とは、Si蒸気やSiOガスの正味の発生速度に比べて排気速度が低いことを意味している。この様な場合、浴面上での上向き速度ガス流の流速が上昇するかわりに系内の圧力が上昇しているのであり、圧力の上昇を放置すれば、脱P速度を極端に低下させる結果を招く。従って、本発明においては、操業中に管理すべき対象は、単に系内の全体の圧力だけではなく、圧力値変化も指標としなければならない。
但し、操業時の温度変動や化学反応速度変動の影響が小さいと予め判断できる場合(これは、操業中に温度測定やガス成分サンプリング調査を適宜実施することによって容易に確認できる)には、「単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けること」は、精製装置内の気相圧力を一定に維持することにより実現できる。その原理を説明する。蒸発容器内温度が一定である場合でも、操業の進行に伴って、Si融液表面汚染度の変化によってSiの活量が変化することやSiOとSi融液の接触状態が変化することによって、Si蒸気やSiOガスの発生速度は変動する。いま、一定温度条件下でこれらのガス発生質量流量が平均発生質量流量から偏差Δm’だけ上昇し、時間Δtだけ経過したものとする。このとき、蒸発容器内の当初ガス総質量をM、蒸発容器内圧力上昇による排気質量流量増大量をΔm’OUTとすると、蒸発容器内圧力は、当初圧力pに比べて、
Δp=(Δm’−Δm’OUT)・Δt/M・p (3)
だけ増大することになる。真空ポンプの排気(体積)速度を一定とした場合(油回転ポンプの場合ならば、ポンプ回転数一定に相当)、Δpに対応するΔm’OUTは、ポンプの圧力―排気(体積)速度特性のみに依存するので、一般には、Δm’≠Δm’OUTとなる。即ち、Si浴面から発生したガス質量相当のガスを排気し続けることができていない。一般的な真空ポンプを常用範囲で運用する限り、多くの場合、Δm’>Δm’OUTであるので、Δp>0となり蒸発容器内圧力は増大し、長時間が経過してΔpが充分大きくなり、一般的な真空ポンプでは、圧力の増大に従ってΔm’OUTが増大するので、Δm’=Δm’OUTとなった時点で蒸発容器内圧力は再び安定する。この時点で、再び、Si浴面から発生したガス質量相当のガスを排気し続けることができるようになる。一方、ポンプの運転条件を制御して、圧力が一定、即ち、Δp=0となる様に作業した場合には、(3)式からΔm’=Δm’OUTが成立し、Si浴面から発生したガス質量相当のガスを排気し続けることができる。尚、以上の検討ではリーク流量の影響は考慮されていないが、温度一定条件の操業ではリーク量の変化は一般に微量であり、無視できる。従って、初期圧力pを満足する排気速度でリーク分のガスはSi蒸気及びSiOガスとともに安定して排気されており、Δpによるリーク流量変化はほとんどないので、Δm’、Δm’OUTのみ考えて式(3)の様にΔpを計算しても問題ない。尚、圧力を一定に制御するとはいっても、これは、圧力の急激な変化を防止することを意味しており、Si浴面ガス上向き速度を維持する観点からは、微小かつ変化速度の小さい圧力変化は脱P速度に大きな影響を与えないので、長期的な圧力変動は本発明では許容されうる。本発明者らの調査の結果、絶対圧力平均値が1分間に1%程度以下で変化する場合には、圧力一定制御を実施しなくても脱P速度の顕著な低下は認められなかった。従って、1分間に1%圧力が低下し続け、1時間後に当初圧力の半分程度になった場合でも、脱P速度としては問題ない。逆に、これを超える変化率で圧力が変動しそうな場合には、これを防止する様に圧力制御操作量を修正しなければならない。以上の様な条件での操業によって、浴面上での上向き速度ガス流の流速を高い値に維持でき、脱P速度の低下が回避できるのである。
また、操業温度変化や化学反応による発生ガスのモル数変動が存在する場合には、圧力一定の管理はSi浴面上ガス上向き速度維持の観点から必ずしも最良ではない。この様な場合でも「単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けること」を管理指標とすることにより、一定のSi浴面上ガス上向き速度を維持することができる。これを具体的に実現する方法について説明する。例として、Si融液表面温度が低下して浴面からのSi蒸発速度が急に減少した場合を考える。このとき、反応容器内一定圧制御を行えば、反応容器中への供給Si蒸気量が減少するため、排気を停止して(即ち、排気速度≠蒸発速度)容器内の速やかな昇圧を図る操作となる。この間、容器内では、浴面から上向きのSi蒸気流速度が低下し、その分、容器内圧が上昇する状態になっている。従って、この期間、脱P速度は、浴面温度低下影響以上に著しく低下する。一方、浴面温度低下によって反応容器中への供給Si蒸気量が減少しても、供給Si蒸質量と同等量の排気を行い続ければ、浴面から上向きのSi蒸気速度を減少させることはなく、圧力一定制御時にみられた脱P速度の一次的な低下を回避することができる。この操作中には容器内圧力は低下するので圧力一定の操業ではなくなる。これが、「単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けること」である。
なお、単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量と完全に等しい質量の気体を常に気相から排出することを実現することは、実際には一定時間ごとの平均質量流量として可能なだけであり、瞬時の浴面からの気体発生質量速度と気相からのガス排出質量流量との間には若干の不一致が発生することは避けられない。上記瞬時の質量流量の不一致量が小さいほど、浴面上での上向き速度ガス流の流速が安定し、高い脱P速度を得ることができる。本発明者らが、前記瞬時の質量流量の不一致量の脱P速度への影響について、直径0.5〜2m、高さ1〜4mの蒸発容器を用いて実験により調査した結果、前記瞬時の質量流量の不一致量が、浴面からの気体発生質量速度の平均値の±50%を超えて変動すると、これより小さい変動量の場合に比べて極端に脱P速度の低下することが判明した。従って、望ましくは、前記瞬時の質量流量の不一致量が、浴面からの気体発生質量速度の平均値の±50%以内と常になるように操業を制御、管理すべきである。ここで、瞬時といっているのは、質量流量測定値の5秒間の平均値に対応する。この平均化の時間は、本実験での計測装置のバックグランド誤差を除去することの必要性から定めたものである。また、本発明において、「単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体」という場合の「相当」量とは、前記瞬時の質量流量の不一致量が、浴面からの気体発生質量速度の平均値の概ね±50%以内の範囲に収まる状態の気相からの気体排出量のことを意味する。
また、単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けることを実現するためには、瞬時のSi蒸発速度と排気速度を同時に知る必要がある。このための手法として最も確実なのは、浴面上と排気口近傍にマスフロー計を設置して質量流量を連続測定することである。マスフロー計の構成には様々なものが考えられるが、例えば、レーザ流速計、レーザ密度計の組み合わせでマスフローを算出する方法がある。また、常に、計測器を高温の炉内に設置することは製造費用や操業性の観点から望ましくない場合もあるので、代表的な操業条件(浴面温度・炉内温度・炉内圧・炉内酸化物密度等)で測定したマスフロー計測値を用いて、マスフロー予測値をこれらの操業条件の関数として表現し、実操業時には、各操業条件から、この関数式によってマスフローを推定して質量流量制御に適用しても良い。さらに、操業温度および蒸発容器内ガス種構成率が一定という特殊な条件においては、前述の様に、蒸発容器内圧力を一定に制御、管理することにより、Si蒸発速度および排気速度の絶対値を知ること無く、単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を気相から排出することができる。
また、本発明における、Si融液にSiOを添加して溶融Si中のPを除去する方法は、特許第3205352号公報に示された、固体SiOを溶融Siと接触させることにより、溶融Si中のボロン(B)を除去する方法に、一見、似ている様にみえる。しかし、当該従来技術と本発明との間には、不純物除去の原理が全く異なり、両者は、本質的に別の技術である。即ち、当該従来技術においては、固体SiOとの接触により溶融Si中で発生したSiOは、溶融Si中のBの酸化源として働き、Si中のBは、より蒸気圧の高いB酸化物に化学変化することにより、溶融SiからのB成分の蒸発が促進される。一方、Pは、本来、Siに比べて酸化されにくく、溶融Si中にSiOが存在する場合に、溶融Si中のPがSiOから酸素を奪ってP酸化物が生成することは、通常想定される操業条件範囲ではほとんど起きることはない。従って、Si融液へのSiOを添加することの脱P速度向上効果は、前述の浴面上上向きガス流れの形成によるP蒸気の移流輸送強化によるものが主体である。
次に、図2を用いて、第3発明の作用を具体的に説明する。従来技術の説明図である図1との違いは、蒸発容器1内に非凝縮性ガスを導入することなく、蒸発容器内ガス相の主成分をSi蒸気またはSiOガスの一方または両方としたことである。Si蒸気発生速度は、Si融液の温度を上下することで簡単に上下できる。また、SiOガスを発生させる方法はいくつか存在するが、いずれも系外からの酸素源供給が必要である。図2では、SiO供給管12を介してSi融液中にSiOを主成分とするけい砂を定期的に投入する形式としている。前述した(1)式のSiO生成反応での平衡蒸気圧は、1500℃で数百Pa以上存在する。実用上、一般に数十Pa以下の雰囲気圧で好適な脱P速度が達成できることがわかっているので、けい砂投入速度によりSiOガス発生量を制御する。この他にも、石英るつぼをSi融液保持に用いれば、けい砂を投入することなく、るつぼとSi融液の反応によって継続的にSiOガスを放出させることができる。Si蒸気とSiOガスのいずれを主成分とすべきかには一長一短ある。Si蒸気主体の場合には、脱P時の歩留は良好であるが、特に、Si融液温度の低い場合に、Si蒸気圧が不足して残留リークガス等と同レベルの圧力になってしまい、充分な浴面上上向きガス速度を得られず、脱P速度が低下しがちである。一方、SiOガス主体の場合には、低温でも高い蒸気圧を発生するので脱P速度は良好だが、単位質量当りの発生速度が比較的高いため、Pの単位質量当りの蒸発速度との差が小さく、脱P時のSi歩留が低下しがちである。従って、操業条件毎の特質をよく見極めて適宜両者を組み合わせて適用することが肝要である。図2の系では、発生蒸気の系外への排出は真空ポンプ8によってなされる。また、系内の圧力及び圧力変動制御は圧力計9の出力を観察して適宜実施する。圧力計としては、例えば、レーザ圧力計等が適用可能である。
次に、第4発明の原理について説明する。図7において、いま、分子速度をSi蒸気またはSiOガスの浴面から垂直方向への速度とみなし、分子速度が増す方向を上向きと定義する。分子熱運動による分子速度の確率密度分布形状は、温度一定条件では変化しないので、SiまたはSiOの一方または両方のガスの平均移動速度が上昇するほど、上向き方向速度を有する分子の割合(即ち、分子速度が0よりも大きくなる領域の割合)が上昇することがわかる。また、同図から、僅かでも正の平均移動速度をSiまたはSiOの一方または両方のガスに与えれば、僅かなりの脱P速度上昇効果が得られることが期待される。しかしながら、中間流領域において、実際に分子熱運動平均速度の1〜2%程度の平均移動速度を浴面上でSi蒸気またはSiOガスに与えても、脱P速度の上昇効果を検出することは困難である。これは、中間流程度の比較的希薄なガスでは、物質拡散によるP蒸気の輸送速度が比較的大きいためである。つまり、Si蒸気の上向き速度付与によるP蒸気の輸送は、流体力学における輸送形態として移流輸送に分類できるが、付与上向き速度の小さいうちは移流輸送よりも拡散輸送の効果が卓越するので、Si蒸気への上向き速度付与の効果は極めて限定的になるためである。そこで、Si蒸気への上向き速度付与の効果が顕著になる平均移動速度を実験により求めたところ、図8に示すような結果となった。この図より、平均移動速度が熱運動平均速度の3%以上の値になるとSi蒸気への上向き速度付与の効果が現れる様になることが明らかである。従って、「精製装置内気体の分子熱運動速度の大きさの平均値の3%を超える値に維持すること」が工業的に特に重要な脱P条件である。尚、平均移動速度を規格化する際に用いた分子熱運動平均速度は、拡散輸送時の拡散係数に比例する性質があるので、拡散輸送と移流輸送の大小を議論する限り、この規格化は、物理的に意味が大きく、例えば、操業温度条件が大きく変動した場合でも、第4発明での操業条件は有効である。尚、この、分子平均移動速度の分子熱運動平均速度に対する比率が3%という値は、精製装置内での分子平均移動が脱P速度を向上させる効果を発揮する最低限のものであり、より、大きな比率であることが脱P速度向上のために望ましいことはいうまでもない。例えば、図8より、この比率が10%以上であれば、脱P速度は、分子平均移動が存在しない場合の少なくとも数倍に向上するので、比率が3%の場合よりも、より、望ましい。さらに、図8より、この比率が50%以上であれば、溶融Si液面から蒸発したP分子の大部分は再び液面に凝縮することなく系外に排出することが可能となり、脱P速度は、実質的にその浴面温度およびその浴面P濃度条件下での最大値となり得るので、より一層望ましい。
次に、第4発明の作用を具体的に説明する。第4発明の操業条件を実現するためには、熱運動平均速度および浴面上上向きガス流速度を定量的に設定する必要がある。
第1に、熱運動平均速度を求めるためには、浴面直上ガス温度を測定して、前述の式(2)に代入して求めれば良い。
第2に、浴面上上向きガス流速度については、レーザ非接触式流速計等により測定可能である。また、既に妥当性の充分に検証されたダイレクトシミュレーションモンテカルロ法(DSMC法)等のシミュレーションを実施することによっても、操業条件毎の正確な速度値を求めることができる。より簡易的な方法として、Si蒸気の最大蒸発速度の理論値と実際に蒸発した質量から求めた正味の蒸発速度の比である蒸発速度係数αを用いて、次の簡易実験式(4)を測定値の回帰により求めることもできる。
Figure 0004995408
ここで、最大蒸発速度理論値は、物理学の教科書によればいわゆるHertz−Knudsen−Langmuirの式により、一般に次の式(5)と表される。尚、式(5)各項の単位は、全てSI単位系である。
[最大蒸発速度理論値]=0.00437×([分子量]/[絶対温度])0.5×[飽和蒸気圧]×[浴面積] (5)
また、浴面直上での「音速」は、流体力学の教科書によれば次の式で一般に次の式(6)で定義される。尚、式(6)各項の単位は、全てSI単位系である。
[音速]=([比熱比]×[気体定数]×[温度])0.5 (6)
浴面上上向きガス流速度を音速で規格化する理由は、連続流領域の高速流れにおいて流速を音速で規格化したもの、即ち、マッハ数により現象を良く整理できることからのアナロジーによるものである。本発明が主として対象とする中間流領域においても、連続流的性質が部分的に存在しているため、連続流と同様にマッハ数による流速を規格化することより、広い操業条件に対して現象を良く説明することができることが知られている(例:大宮司ら、数値流体力学、東京大学出版会、287〜324頁(1992))ので採用した。例えば、中間流において、円筒型の管の一端から他端に膨張する際には、分子の平均最大速度は入口圧力とは無関係に局所でのマッハ数1を大きく超えることはないことが知られている様に、マッハ数は、物理的に意味のある、流れの整理指標である。物性値、装置形状、並びに、温度は既知なので、操業条件毎の式(5)および式(6)の値は一意に確定できる。この値を式(4)に代入すると、浴面上上向きガス流速度が算出できる。
第3に、第2で求めた浴面上上向きガス流速度を第1で求めた熱運動平均速度で除した値が3%以上であれば、移流輸送の効果により脱P速度を上昇できる。この原理については、既に述べた。
また、分子平均移動速度の分子熱運動平均速度に対する比率の上限値について述べる。本発明が対象とする連続流〜中間流領域において、浴面上上向きガス流速度の(6)式から求められる音速に対する比率、即ち、マッハ数が4を超える条件での作業を実現するためには、装置形状の設計、施工、並びに、操業管理に対して特別は配慮が必要となり、かつ、高い蒸気圧を得るために高い溶融Si温度を必要とする。本発明に限らず、各種流体機器において、連続的にマッハ数4を超える流れを実現しているものはほとんど無く、存在しても極めて高価な設備となる。このため、本発明でマッハ数4超を実現することは、製造費が著しく上昇することが避けられないので現実的ではない。即ち、浴面上上向きガス流速度である分子平均移動速度にはマッハ数4に対応する上限値が存在する。一方、ガス分子熱運動平均速度は温度により一定の値になるので、作業時のガス温度が定まると、これに対応するガス分子熱運動平均速度と分子平均移動速度上限値も一意に決定し、その結果、分子平均移動速度の分子熱運動平均速度に対する比率の上限値が定まる。
次に、第5発明の原理について説明する。既述の様に、第2〜第4発明において、排気速度を充分大きく設定した系では脱P速度を上昇させることができる。しかし、分子流の生成ほどではないにしても、強力な排気システムを構築するために、大型の真空ポンプを設置することは相応の製造費増大を招く。そこで、大型の真空ポンプを設置することなく、強力な排気システムを構築する原理を提案する。以下、具体的に述べる。第2〜第4発明においては、蒸発容器内のガス主成分はSiやSiOであり、これらのガスは、本来、高沸点の物質である。従って、蒸発容器内に存在するSiやSiOガスが排気として真空ポンプに到達するまでの間に、これらのガスを系内で再び凝縮させて、排気ガス量を減少させることにより、真空ポンプに要求される流量負荷を大幅に低減させることができる。このためには、系内の一部の温度を低下させて、そこにSiやSiOを凝縮させれば良い。ここで問題になるのは、P蒸気の固定である。なぜならば、SiやSiOは比較的高温、例えば、1300℃でも凝縮しうるのに対し、Pは低沸点物質であり、固体Pは、500℃程度でも数Pa以上の高い蒸気圧を維持しうる。P蒸気が凝縮せず、かつ、真空ポンプも大容量のものを用いない場合にはP蒸気の雰囲気中濃度は上昇し続け、ついには拡散輸送により浴面近傍までPが逆流して、脱P速度を大幅に低下させうる。そこで、SiやSiOの凝縮と同時に、P蒸気もガス中から排除する必要がある。雰囲気が非凝縮ガス主体の従来技術において、ガス中のP蒸気を凝縮(昇華)させようとすると、Pを単体で固化させなければならず、常温より低い値まで凝縮部位温度を低下させる必要があり、現実的な装置とはなりえない。しかし、第5発明においては、系内にSiまたはSiOの凝縮部位を一定面積形成することができる。本発明者らの調査、検討の結果、P蒸気は、比較的高温でも固体Siまたは固体SiOに接触すると、固体表面に吸着、固定されることが判明した。また、吸着面でのP濃度とこれに平衡するP蒸気圧が比例することも今回明らかになった。従って、凝縮部位温度が高温の場合、P蒸気のSiやSiO表面への固定は困難である。また、低温であっても、同一のSi表面またはSiO表面にPを固定し続けると、固体表面でのP濃度が上昇して、いずれは新規のP吸着能力を失う。そこで、第5発明において、SiやSiO表面でのP濃度上昇対策として、系内のSi蒸気またはSiOガスの一方または両方を常に凝縮させ続けることにより、新鮮なP吸着面を維持する。また、Pの高温における高蒸気圧対策として、凝縮部位を冷却することにより、凝縮部位温度を一定値以下に維持することを考案した。本発明者らの調査によれば、新鮮なSiまたはSiOの一方または両方の凝縮部位を維持する限り、凝縮部位温度を1200℃以下に維持することにより、P蒸気をほぼ完全にSiまたはSiOの一方または両方の凝縮部位に吸着固定できることが判明した。尚、凝縮部位を冷却しない場合、Si蒸気やSiOガスの相変化による膨大な潜熱によって凝縮部位温度は容易に1200℃を超えうるので、第5発明において凝縮部位冷却は必須である。冷却温度の下限に関しては、Pの吸着性能に関する限り、特に制約は無い。しかし、操業性の観点から、凝縮部位温度を低くし過ぎると、P蒸気が大量に付着したSiやSiOの微粉が気相中に形成される。これが炉内を飛散して容器内やSi融液を汚染する場合がある。凝縮器側に微粉の飛散を防ぐ特別の機構(例:微粉吸着装置等)が設置されていない場合には、一般に凝縮物温度が70℃未満の場合にこの現象が顕著となるので、この温度以上で作業すべきである。
次に、図3を用いて、第5発明の作用を具体的に説明する。図3では、図2の第3発明の装置概念図に熱交換器14を内蔵した凝縮容器13が追加されている。Si、SiO等の凝縮性ガスの大半は、熱交換器外面で凝縮する。熱交換器の内部は空冷されており、表面温度は1200℃を超えない様に管理される。凝縮部位上には、Si蒸気が凝縮、SiOガスが昇華するとともにP蒸気が吸着、固定される。尚、Si融液からの非凝縮性ガス発生や、容器のリーク等により、微量ながら系内で非凝縮性ガスが発生し続ける。そこで、これらのガスを除去し、系内をSi蒸気やSiOガスで充満させるために小容量の真空ポンプ8が設置されている。
次に、Pの発生箇所である蒸発面とPの吸収箇所である凝縮部位間の距離の影響について述べる。従来技術の中間流領域における様に、蒸発装置内でのP蒸気が主として拡散機構によって輸送される場合には、Pの蒸発面とPの吸着部位間の距離が近い程、輸送速度は上昇する。これは、拡散輸送では原理的に雰囲気中でのP蒸気濃度勾配にPの輸送速度が比例するためであり、蒸発面−凝縮部位間距離が減少すればP蒸気の濃度勾配が自動的に増大するからである。しかし、実プロセス装置において、高温、かつ、清浄さの求められるP蒸発面(Si浴面)に対して、低温、かつ、高P濃度凝縮物の剥落の危険の存在する凝縮部位を接近させることは、設備構造上、品質上、並びに、操作性上の観点から高価な製造法となることは避けられない。一方、本発明において、P蒸気は、主として浴面上上向き速度を有する雰囲気による移流機構によって輸送される。このため、流れ方向のP蒸気濃度はほとんど変化せず、高濃度のP蒸気を含む雰囲気ガスが遠方の凝縮部位において直接、凝縮することが可能である。従って、本発明においては、P蒸発面と凝縮部位間の距離を特に短く設定する必要はなく、従来技術に比べて設備構成の自由度が大幅に向上するので製造費用を低減することができる。
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
第1および第2発明の実施例を説明する。蒸発容器として、直径0.5m、高さ1.5mの蒸発容器を用い、その中に、直径0.3mの黒鉛るつぼの中にPが30ppmの固体Si粒5kgを入れ、その上に粒子径10mmのけい砂200gをおいて大気圧Ar雰囲気下でSi温度を1550℃まで加熱し、Siを完全に融解させた。この時点で、けい砂は、Si融液表面から極く一部が露頭した状態で浮遊していることが観察された。次に、蒸発容器の真空ポンプを稼動し、蒸発容器内の圧力を10分間で10Paまで減圧した。この状態を維持して脱Pを実施した。この作業中に、10分ごとに蒸発容器内のガスサンプリングを行い、その成分を分析した結果、90%以上がSiおよびSi酸化物であった。この作業温度条件で大量にガス化しうるSi酸化物は、SiOと考えられるので、蒸発容器中ガスの主成分は、SiとSiOであると判断した。また、脱P中にはけい砂がSi融液表面を常に緩やかに浮遊して浴面を攪拌していることが観察された。けい砂が消耗し尽くした1時間後に脱Pを終了し、装置およびSiを冷却した。尚、脱P作業中を通じて、蒸発容器内壁表面は、全て1400℃以上の高温に維持した結果、容器内壁へのSiおよびSiOの凝縮は極く微量(1g程度以下)であった。脱P後に得られたSiは、4.85kgであった。このSiの成分分析を実施した結果、Pは、0.08ppmまで低下しており、効果的な脱Pが実施できた。
(比較例1)
けい砂を使用せず、それ以外の作業条件を全て実施例1と同様の条件として脱Pを実施した。脱P中のSi融液を観察すると、表面に薄い固体膜が生成していることが確認できた。作業中に薄い固体膜をサンプリングし、成分分析した結果、炭化珪素が検出された。また、作業中のガスサンプリングの成分分析結果では、主成分は窒素であり、蒸発容器中ではリークガスが主体であったことがわかった。最終的に得られたSiの成分分析を実施した結果、Pは、0.5ppmであり、実施例1に比べて脱P速度が大幅に低下した。この結果、本発明の効果が確認できた。
従来技術を示す模式図である。 第3発明の模式図である。 第5発明の模式図である。 従来技術におけるSi浴面上での分子運動の模式図である。 他の従来技術におけるSi浴面上での分子運動の模式図である。 第3発明におけるSi浴面上での分子運動の模式図である。 分子速度分布の分子運動の模式図である。 第4発明の原理の説明図である。
符号の説明
1 ・・・蒸発容器、
2 ・・・Si融液、
3 ・・・るつぼ、
4 ・・・加熱装置、
5 ・・・Si蒸気、
6 ・・・SiOガス、
7 ・・・P蒸気、
8 ・・・真空ポンプ、
9 ・・・圧力計、
10・・・非凝縮性ガス供給管、
11・・・弁、
12・・・SiO供給管、
13・・・凝縮容器、
14・・・熱交換器、
15・・・Si浴面、
16・・・Si浴上ガス領域、
17・・・Si浴面直上領域、
18・・・Si蒸気またはSiOガス、
19・・・P蒸気、
20・・・非凝縮性ガス。

Claims (3)

  1. 精製装置内で溶融シリコンからPを蒸発させて除去する方法において、溶融シリコン液面の一部に二酸化珪素を主成分とする粒状、棒状又は筒状の形状を有する固体物質を浮かせ、及び、精製装置内の雰囲気をSiOまたはSiの一方または両方のガスを主成分とし、さらに、分子流が発生する圧力より高く、かつ、飽和蒸気圧未満のシリコンまたはSiOの一方または両方を主成分とする気体で精製装置内を満たすとともに、単位時間当りにシリコン液面から蒸発により離脱した正味の気体質量相当の気体を単位時間当りに精製装置内の気相から排除し続けることを特徴とするシリコンの精製方法。
  2. シリコン液面直上における精製装置内気体のシリコン液面から垂直方向への移動速度を当該位置における精製装置内気体の分子熱運動速度の大きさの平均値の3%を超える値に維持する請求項記載のシリコンの精製方法。
  3. 精製装置内の雰囲気をSiOまたはSiの一方または両方のガスを主成分とする場合には、シリコン蒸気またはSiOガスの一方または両方を凝縮させる部位を装置系内に設けるとともに、該凝縮部位表面温度を1200℃以下に維持することよりシリコン蒸気またはSiOガスの一方または両方とともに輸送されてきたリン蒸気を凝縮部位に捕捉して固定する請求項1または2に記載のシリコンの精製方法。
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