JP4977011B2 - バチルス・ズブチリスを用いた甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防方法 - Google Patents

バチルス・ズブチリスを用いた甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防方法 Download PDF

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Description

本発明は、甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防作用を有する新規バチルス・ズブチリス株、同株を用いた甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防用製剤、および甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防作用を有する甲殻類および魚介類用飼料に関する。さらに詳細には、本発明は、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)B1144株(受託番号:NITE BP-39)を用いた甲殻類カビ病、特にエビ類の病原カビ病、とりわけ鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類カビ病の予防方法、同株を有効成分として含む甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防用製剤、および同株を含む甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防作用を有する甲殻類および魚介類用飼料に関する。
世界のエビ産業は発展の一途をたどっている。養殖エビの生産量は130万トンに達し、東南アジア諸国では主要輸出品になっている。しかしながら、養殖業が発展するにつれ、各種疾病による被害が大きな問題となっている。ウイルス病、細菌病、カビ病の頻発は、安定な養殖生産の大きな障害となるため養殖経営を圧迫しているのが現状である。
発生する各種疾病に対しては、様々な疾病予防対策が採られている。たとえば、免疫賦活剤やプロバイオティクスなどによって、生体防御能を向上させる飼料添加物が市販されている。また、細菌病の場合は、抗生物質や合成抗菌剤によって治療が可能となっている。
これら各種疾病の中でもエビ類に発生する病原カビ病である鰓黒病はフサリウム菌(Fusarium sp.)によって引き起こされ、養殖エビに大量斃死を引き起こすその被害の深刻さから最も怖れられているカビ病である。日本では、養殖クルマエビに感染する病原真菌としてフサリウム・ソラニ(Fusarium solani)やフサリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)などの報告例があり、ともに主症状として鰓の黒化が認められる(この主症状から本病は鰓黒病と名付けられている)。フサリウム菌に感染したエビ類の主な死因としては、鰓組織の崩壊、菌糸および壊死組織などが血管を閉塞することによる呼吸障害が考えられている。鰓黒病は養殖場内で周年発生するため、生産量の低下を招いている。特に、日本では収穫前の10〜12月の発生件数が多く、その被害は甚大である。石川(1968)(魚病研究)が鰓の黒変について最初に報告し(非特許文献1)、1972年に江草・上田は鰓黒病の病原菌がフサリウム菌であることを明らかにした(非特許文献2)。
国外のエビ養殖でも鰓黒病(フサリウム感染症)は非常に大きな問題となっている。ライトナー(Lightner)およびレッドマン(Redman)(1977)は、多くのクルマエビ属のエビにフサリウム菌による鰓の黒化が認められることを報告している(非特許文献3)。ホース(Hose)ら(1984)は、ブラウンシュリンプ(Penaeus californiensis)のフサリウム・ソラニ(Fusarium solani)による感染を報告している(非特許文献4)。コローニ(Colorni)(1989)はイスラエルの養殖エビ、ペネウス・セミスルカツス(Penaeus semisulcatus)のフサリウム感染症について報告している(非特許文献5)。コア(Khoa)ら(2004)は、フサリウム・インカマツム(Fusarium incamatum)がウシエビ(ブラックタイガーシュリンプ)に感染し、鰓黒病を発症すると述べている(非特許文献6)。また、淡水産のエビ類からもフサリウム菌感染の報告がある。たとえば、ライトナー(Lightner)とフォンテーヌ(Fontaine)(1975)はロブスターからフサリウム菌の検出とその病原性ついて述べている(非特許文献7)。バーンズ(Burns)ら(1979)は、オニテナガエビのフサリウム感染症について調査している(非特許文献8)。このように世界中でフサリウム属真菌による感染症はエビ養殖にとって大きな驚異となっているのである。
このような鰓黒病(フサリウム感染症)の疾病対策としては、鰓黒病の最初の報告から30年以上過ぎた今日でも、その被害の大きさにもかかわらず、フサリウム菌防除剤等の有効な治療薬や予防薬は販売されていないのが実情である。従って、鰓黒病(フサリウム感染症)の疾病対策としては、発生リスクを減らす予防対策がもっぱら講じられている。たとえば、養殖開始前に養殖池および養殖水槽の消毒や耕耘機を用いた池砂の天日乾燥、養殖池および養殖水槽を日干しして乾燥する日光(紫外線)による自然殺菌などが行われている。
養殖池および養殖水槽の消毒の観点から、桃山・松野ら(1986)(山口県内海水産試験場報告)は数種の消毒剤の殺菌効果を調べている(非特許文献9)。養殖現場では塩素系の消毒剤を用いた消毒が広く行われており、養殖池および養殖水槽内や機材の消毒に用いられている。
魚介類に関しては、日本では、ブリやタイ、ヒラメなどの魚類養殖が盛んで、全養殖生産量の多くを占めている。ここでも養殖の際に大きな問題となるのが疾病の発生である。養殖は、限られた空間や面積で一定量の収穫を目的とするため、高密度で飼育せざる得ない状況がある。このような環境では、養殖魚介類にとってストレス状態に陥りやすい。一定以上のストレスは、魚介類の生体防御能の低下を招き、通常では発生しない疾病の日和見感染などもしばしば起こり、通常では問題とならないような病気による死亡が多く認められる。また、高密度飼育により、疾病が容易に広がりやすい環境にあり、一度発生した病気を収束させることは難しい。
現在までにこれら問題となる疾病の防御をする目的でワクチンや免疫増強剤などの開発・利用が行われている。しかしながら、未だ病害の発生は減少しておらず、生産者が望む安定した養殖業の確立には至っていない。
魚介類の疾病としては、ウイルス病や細菌病、カビ病、寄生虫病などがある。この中でもカビ病は、ウイルス病や細菌病などのように一度に大量死を引き起こすことがないことから、これまであまり重要視されてこなかった。このため、カビ病対策の治療薬や予防薬の開発が進んでおらず、皆無に等しいのが現状である。このような状況下、カビが起因となる死亡個体数は、最終収穫時点で無視できないほど大きいにもかかわらず、カビ病による養殖魚介類の歩留まりの低下を防ぐ方法がこれまでなかった。カビの寄生を受け生体防御能が低下したところに、ウイルスや細菌が感染する二次感染例が非常に多いことを考えると、カビ病の対策・予防の確立により生産量を維持できることが予測される。
特に魚介類にカビ病を引き起こす病原体として、魚類では鞭毛菌亜門卵菌網ミズカビ目ミズカビ科のサプロレグニア(Saprolegnia)属やアファノマイセス(Aphanomyces)属、アクリア(Achlya)属のカビがよく知られており、これらのカビが引き起こす疾病による被害額は甚大なものとなっている。
魚病図鑑(緑書房、1990)には、サプロレグニア(Saprolegnia)属による疾病として、ウナギの綿かぶり病、ギンザケのミズカビ病、サケ科魚類稚魚の内臓真菌症、ヘペレイのミズカビ病が掲載されている。サプロレグニア(Saprolegnia)属は、サケ・マス類、コイ、金魚、ウナギなどの主要養殖魚種に感染する。ミズカビの代表種はサプロレグニア・パラシチカ(Saprolegnia parasitica)やサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)、サプロレグニア・フェラックス(Saprolegnia ferax)などである。ミズガビ病の原因菌として知られるサプロレグニア(Saprolegnia)属のカビは、卵や魚体全体に寄生しやすい。種苗生産場において死卵や損傷卵にはミズカビの寄生が多く認められる。稚魚・成魚では、環境の悪化やストレスによる生体防御能の低下や、体表のすり傷などが原因で発病が認められる。
アファノマイセス(Aphanomyces)属が引き起こす疾病では、アユに真菌性肉芽種症を引き起こすアファノマイセス・ピシシーダ(Aphanomyces piscicida)がよく知られている。本症の場合、菌糸はアユの筋肉内で生長するため、体表からは判断しにくい。なお、8月以降の成熟期に近くなって発病することが多いことから、被害が大きい。
現在までに、ミズカビの殺菌・除去方法として、ホルマリン、タンニン酸、次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、過酸化水素水、弱アルカリ電解水、オゾンの使用が報告されている。近年、銅ファイバーを用いたミズカビ病の防除法も報告されている。また、電気分解して得られる残留塩素を含む電解水によるミズカビの発生防止および防除方法の報告もある。
ミズカビに軽度に感染した観賞魚にはマラカイトグリーンやメチレンブルーなどの色素剤による薬浴が有効である。現在までにミズカビ目による疾病に対し、種々の治療・予防対策が報告されている。たとえば、ミズカビ病や綿かぶり病に対して、キノリン、2−ビリジンチオールーN―オキサイド、4―スルファニルアミドー2、6―ジメトキシピリミジンなど、およびその他薬剤が有効とされている。
枯草菌(バチルス・ズブチリス)を用いた微生物製剤は、主として植物の分野でのカビ防除の技術が知られている。たとえば、枯草菌を含む植物真菌感染防除剤および防除方法(特許文献1)、抗真菌作用および抗菌作用を備えた枯草菌株および培養組成物(特許文献2)、枯草菌に属する菌株で処理することによる穀類などの農産物におけるフザリウム属に属するカビによるカビ毒を防除する方法(特許文献3)などの技術が知られている。
農業分野では、枯草菌を主成分とする、灰色かび病(対象作物:ナス、トマト)防除のための微生物農薬が登録・販売されている(商品名:ボトキラー、日本農薬社)。また、畜産分野では、腸内環境を整えることを目的とし、枯草菌を主成分とした牛用・豚用・鶏用飼料添加物が販売されている(商品名:カルスポリン、カルピス社)。
さらに、野菜類のうどん粉病や灰色カビ病の防除のための微生物農薬(商品名:インプレッション、エス・ディー・エスバイオテック社)が登録・販売されている。この他に植物病害防除を目的とした枯草菌を含む微生物農薬の応用例としては、微生物農薬組成物(特許文献4)、新規微生物及びそれが産生するバイオサーファクタント(特許文献5)、青枯病防除材(特許文献6)、農作物のそうか病病原菌生育阻害化合物(特許文献7)、植物の真菌感染の生物学的コントロール(特許文献8)、耐熱性バチルス、そのバチルスを有効成分とする芝草病原体防除剤、有機質肥料、およびその製造方法(特許文献9)などが挙げられる。
水産分野で枯草菌が利用されている例としては、枯草菌を含有した水質浄化剤、免疫力増強剤、水棲生物の飼育または養殖方法が報告されている(特許文献10)。また、枯草菌をゼオライトに吸着した製品が、養殖場の底質浄化剤として販売されている(商品名:バイオコロニー、有限会社バイオ化研)。
病気の予防治療剤として枯草菌を使用している例としては、ウイルス病の予防治療薬として、バチルス属を含む複合体(特許文献11)、細菌病予防治療剤として、バチルス属を含む複合体(特許文献12)が知られている。
近年、食品の安全性という観点から、抗生物質や合成抗菌剤の利用が厳しく制限されている。このような背景から、微生物を使用した病原菌の防除(微生物的防除)の開発が行われ、特に農業分野で著しく進んでいる。水産分野においでは、ニジマスの患部から分離した細菌がサプロレグニア・パラシチカ(Saprolegnia parasitica)およびサプロレグニア・サルモニス(Saprolegnia salmonis)の発育を抑制し、これら抗菌活性を示したこれら細菌は、アルテロモナス(Alteromonas)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アエロモナス(Aeromonas)属の細菌であった(非特許文献10)。一方、甲殻類養殖では、ブラックタイガー養殖における、エビの病原細菌のビブリオ種(Vibrio spp.)を制御するバチルス・ズブチリスBT23株のプロバイオティクスとしての利用が報告されている(非特許文献11)。
特許公開平6−253827 特許公開平11−290063 特許公開平5−85911 特開2005−75813 特開2004−154090 特開平9−2911 特開2005−314410 特表2001−503642 特開平10−146185 特開2005−58137 特開平6−181656 特開平4−193832 石川雄介、魚病研究、1968, 3(1): p.34-38 江草および上田、Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries, 1972, 38(11): p.1253-1260 ライトナー(Donald V. Lightner)およびレッドマン(Rita Redman)、Journal of Invertebrate Pathology, 1977, 30: p.298-302 ホース(J. E. Hose)ら、Journal of Invertebrate Pathology, 1984, 44: p.292-303 コローニ(Angelo Colorni)、Mycopathologia, 1989, 108: p.145-147 コア(Khoa LV)ら、Journal of Fish Disease, 2004, 27(9): p.507-515 ライトナー(Donald V. Lightner)およびフォンテーヌ(C. T. Fontaine)、Journal of Invertebrate Pathology, 1975, 25: p.239-245 バーンズ(Cary D. Burns)ら、Aquaculture, 1979, 16: p.193-198 桃山和夫および松野進、山口県内海水産試験場報告, 1986, (14) p.54-70 ハッセン(Hussein, M.M.A.) および畑井(Hatai, K)魚病研究、2001, 36巻2号: p.73-78 バシーハラン(Vaseeharan, B.)およびラマサミー(Ramasamy P.)、Letters in Applied Microbiology, 2003, 36: p.83-87
上記のように現在までに鰓黒病(フサリウム症)に有効な治療剤・予防剤は開発されておらず、鰓黒病の治療は不可能なため、発生リスクを減らす予防対策がもっぱら講じられているのが現状である。予防対策としては、上記のように養殖池および養殖水槽の消毒や耕耘機を用いた池砂の天日乾燥、養殖池および養殖水槽を日干しして乾燥する日光(紫外線)による自然殺菌などが行われているが、多くのエビ養殖は養殖池および養殖水槽内の換水を自然海水に頼っているため、自然海水中に存在し常在菌であるフサリウム菌を防ぐことは不可能に近い。それゆえ、養殖開始後にフサリウム菌などの病原体の流入は避けられず、鰓黒病の防除は不可能と考えられてきた。
また、養殖池および養殖水槽の消毒に使用する消毒剤にしても、このような消毒剤は非常に殺菌力が高く、そのため養殖池および養殖水槽のあらゆる生物を非選択的に殺傷するものである。また、残留した消毒剤が養殖池および養殖水槽外、すなわち沿岸域に流出した場合、周囲の生態系に悪影響を及ぼすおそれもある。さらに、消毒剤は、養殖池および養殖水槽に散布する作業員の安全性からも使用を控えるべきものである。
さらに、平成16年から農林水産省の食品安全委員会は、抗生物質や合成抗菌剤を養殖魚介類に使用することで出現した抗生物質耐性菌が、ヒトに及ぼす影響についての調査を開始した。これらのことからも、抗生物質などに頼った養殖業に対する消費者の反発も予想され、病害防除の方向性の転換が迫られることは必至となっている。
フサリウム菌は常在菌であることから自然海水中にも存在すると考えられ、このため、養殖池および養殖水槽内をいくら殺菌しても換水時には自然海水が流入してくることから、殺菌の効果はほとんど期待できないのが現状であり、養殖池および養殖水槽の消毒だけでは完全な防除法とはいえない。
また、枯草菌を用いたカビ防除の技術や枯草菌を用いたフサリウム菌を含む植物病原真菌の防除方法なども知られているが、甲殻類カビ病、特にエビ類の病原カビ病である鰓黒病(フサリウム感染症)に有効な枯草菌株はこれまでに知られていない。
食用である養殖魚介類のカビ病に対しても、従来の抗生物質・合成抗菌剤などを使用することは薬事法上、認められていない。近年、平成17年2月14日にサケ・マス、アユなどのニシン目魚類の魚卵に付着するミズカビであるサプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)の寄生繁茂の蔓延を抑制するために、抗菌剤であるブロノポールを有効成分とした製剤(商品名:パイセス、ノバルティスアニマルヘルス社)が承認された。しかしながら、この承認されたブロノポールは、対象魚種の魚卵消毒以外の使用は認められておらず、稚魚・成魚の治療に用いることはできない。
このように水産魚介類の疾病、特にカビ病においては、その治療法がほとんどなく、治療法も確立していないことから、一度感染した病魚は、自然治癒による回復を待つか、感染拡大を防ぐために除去・処分される他はないのが現状である。また、一度、カビに冒された養殖場は、長年にわたりカビの汚染が続くことがあり、使用範囲が限られる従来の薬剤に代わる新たな防除方法が強く求められている。
以上のように、甲殻類のカビ病、特にエビ類の病原カビ病である鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類のカビ病に対する有効な感染防除手段が強く求められている。このような背景から、本発明は、有効な防除法が確立していない従来技術の問題点に着目し、従来の化学薬品などに頼らない、消費者にとって安全な養殖生産が可能となる、甲殻類の病原カビ病、特に鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類のカビ病の予防方法を提供することを目的とする。
上記のような課題を解決するため、発明者らは、養殖エビに被害をもたらす鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類のカビ病を予防するための有用細菌の探索とその飼料原料としての有用性を調査した。鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類のカビ病の予防を目的とした微生物製剤の開発を行うに当たり、以下の点に留意した:
1.残留性の高い化学物質ではないこと;
2.微生物の力を利用した方法であること;
3.その微生物が人畜に無害であること;および
4.医薬品ではなく、飼料としても利用可能なこと。
以上の観点から本発明者らは、本発明者らが所有する約1500株のバチルス(Bacillus)ライブラリーからフサリウム・ソラニ(Fusarium solani)に対して生育阻害を示すバチルス菌を探索したところ、1株に強い抗菌活性を認めた。このバチルス株(B1144株)に関して、形態観察、生化学的性状試験、API test(バチルス菌同定キット)ならびに16S rDNAの塩基配列を調査したところ、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)と同定できた。また、寒天ゲル拡散法によりこのB1144株の培養上清を調査したところ、培養上清中に抗フサリウム防除物質が存在することが示された。本発明者らは、このバチルス・ズブチリスB1144株が甲殻類の病原カビであるフサリウム・ソラニ(Fusarium solani)の生育を抑制し、それによって引き起こされる鰓黒病の発症を抑え、甲殻類カビ病の予防作用を有すること、特にエビ類の病原カビ病である鰓黒病(フサリウム感染症)を有効に防除する作用を有することを確認し、このバチルス・ズブチリスB1144株を用いることによって甲殻類カビ病を予防しうることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、このバチルス・ズブチリスB1144株の培養上清を試験したところ、魚介類のカビ病に対しても同様に予防作用を有すること、特にミズカビ目による疾病(ミズカビ病)を有効に防除する作用を有することを確認し、このバチルス・ズブチリスB1144株を用いることによって魚介類カビ病を予防しうることをも見出した。
すなわち、本発明は、第一の側面において、新規なバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を提供する。同株は甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防作用を有し、とりわけエビの鰓黒病(フサリウム感染症)やミズカビ目による疾病(ミズカビ病)を有効に防除することができる。
第二の側面において、本発明は、バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を用いた甲殻類カビ病または魚介類カビ病の予防方法を提供する。本発明による甲殻類カビ病または魚介類カビ病の予防方法は、具体的には、たとえば、同株またはその培養上清を甲殻類または魚介類の飼料に混合することにより、同株またはその培養上清を甲殻類または魚介類の養殖水槽に混合することにより、同株またはその培養上清を甲殻類または魚介類の養殖水槽の飼育砂に混合することにより、同株またはその培養上清を甲殻類または魚介類の濾過材または養殖水槽にコーティングすることにより、同株の菌液またはその培養上清に甲殻類または魚介類を浸漬することにより、同株の菌液またはその培養上清を甲殻類または魚介類の体表に直接スプレーすることにより、または同株の菌液またはその培養上清を甲殻類または魚介類の体内に注射することにより、行うことができる。
第三の側面において、本発明は、バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を有効成分として含む、甲殻類カビ病の予防用製剤を提供する。
第四の側面において、本発明は、バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を含む、甲殻類カビ病の予防作用を有する甲殻類用飼料を提供する。
第五の側面において、本発明は、バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を有効成分として含む、魚介類カビ病の予防用製剤を提供する。
第六の側面において、本発明は、バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を含む、魚介類カビ病の予防作用を有する魚介類用飼料を提供する。
本発明は、甲殻類カビ病、とりわけエビの鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類カビ病に対する防除作用を有する新規なバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を提供するものである。この新規バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を用いることにより、従来の消毒剤、抗生物質や合成抗菌剤、化学薬品などを用いることなく、甲殻類カビ病、とりわけエビの鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類カビ病を有効に防除することができる。しかも、本発明による新規バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を用いた甲殻類カビ病または魚介類カビ病の予防方法では、残留性の高い化学物質ではなく、人畜に無害の微生物を使用していることから安全性が極めて高いという利点がある。さらに、従来の甲殻類または魚介類飼料に混ぜ込む等するだけで容易に甲殻類カビ病または魚介類カビ病を有効に予防でき、取り扱いが簡単であるという利点もある。
図1は、B1144株によるフサリウム・ソラニに対する菌糸成長阻害試験の結果を示す。B1144株を加えた穴の周りにはフサリウム・ソラニの発育は認められず、B1144株菌液と分生子液を混合した区では穴から菌糸の成長は認めず、かつ周りの菌糸の成長も阻害した。
図2は、B1144株を用いた水槽試験の結果を示す棒グラフである。1.クルマエビ飼料にB1144株を混合し毎日投与;2.試験水槽に毎日一定量のB1144株培養液を添加;3.試験開始前に底砂にB1144株の培養液を混ぜ込む;4.無処理。
バチルス・ズブチリスは、好気性グラム陽性桿菌である。環境条件によっては、菌体内に構造変化を生じ、前胞子(forespore)の段階を経て完成した一個の胞子(芽胞)を形成する。この胞子は熱・放射線、化学物質に対する抵抗性が強く、成分的には栄養細胞には存在しないジピコリン酸カルシウム塩を多量に含む。1997年に、ゲノム解析プロジェクトによって枯草菌(Bacillus subtilis)の全遺伝子構造はすでに解明されている。納豆を製造するときに使用する納豆菌は本菌の近縁種であり、学名は同じである。
本発明の微生物は福岡県立花町にあるタケノコ缶詰工場の活性汚泥から分離された。細胞の形態、性状、バチルス菌同定キット(API test:日本ビオメリュー株式会社)、16S rDNAの塩基配列からバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)と同定し、株名を「B1144株」と命名した。本株は独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに平成16年11月24日に寄託され、受託番号はNITE P-39である。本株はまた、ブダペスト条約下、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに平成18年3月7日に国際寄託に移管され、その受託番号はNITE BP-39である。
枯草菌は芽胞細菌であるため、胞子の状態で長期間安定に保存できることが知られている。この性質を利用して長期間安定な飼料原料を作成することができる。普通寒天(液体)培地や芽胞形成培地などで枯草菌を培養し、胞子を回収、凍結乾燥やスプレードライ等の乾燥処理により長期間生存可能な微生物粉末が作製できる。本発明のB1144株も通常のバチルス・ズブチリスと同様、24〜72時間程度の培養を行い、胞子を回収、乾燥処理を施すことで長期間生存可能な粉末を作製することができる。
通常、販売されている飼料原料の商品形態は、乾燥粉末もしくは液体である。本発明のB1144株を利用した飼料原料の商品形態もまた液体もしくは乾燥粉末であってよい。また、食品添加物である界面活性剤や増量剤、安定剤等などを適宜利用して、人畜に安全で且つより長期間保存が可能な飼料原料を提供することができる。
本発明による新規なバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を実際に甲殻類カビ病または魚介類カビ病の予防に使用するには、たとえば、同株またはその培養上清を甲殻類または魚介類の飼料に混合するか、同株またはその培養上清を甲殻類または魚介類の養殖水槽に混合するか、または同株を甲殻類または魚介類の養殖水槽の飼育砂に混合すればよい。
本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を甲殻類または魚介類の飼料に混合するには、一定量のバチルス・ズブチリスB1144株またはその培養上清を市販の甲殻類または魚介類用飼料の粉末に加え、十分に混合したのちに整形もしくは造粒する。もしくは、一定量のバチルス・ズブチリスB1144株またはその培養上清を、市販の甲殻類または魚介類飼料に噴霧したのち、乾燥させる。この際、噴霧するときに、水中で菌体が拡散しないように粘着剤などと混合し・十分に乾燥したのちに噴霧するのが望ましい。
本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を混ぜ込むことのできる甲殻類または魚介類の飼料としては、たとえば、甲殻類または魚介類幼生用の飼料や一般の養殖飼料を使用でき、甲殻類または魚介類の生育時期を問わず使用することができる。
つぎに、本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を甲殻類または魚介類の養殖水槽に混合するには、同株菌体粉末の場合は、一定量の海水に混合し分散させたものを養殖池や養殖水槽に均一になるように撒くのが望ましい。また、同株菌液またはその培養上清の場合は、必要に応じて、一定量の海水に混合し分散させたものを養殖池や養殖水槽に均一になるように撒くのが望ましい。
また、本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を甲殻類または魚介類の養殖水槽の飼育砂に混合する場合は、同株菌体粉末の場合は、一定量の海水に混合し分散させたものを飼育砂上に均一に噴霧するもしくは飼育砂にすき込むのが望ましい。また、同株菌液またはその培養上清の場合は、必要に応じて、一定量の海水に混合し分散させたものを飼育砂上に均一に噴霧するもしくは飼育砂にすき込むのが望ましい。
本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を甲殻類または魚介類の濾過材または養殖水槽にコーティングする場合は、濾過材もしくは養殖水槽に同株を直接噴霧して乾燥させるか、粘着剤などを介し、安定的に定着させることが望ましい。
本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)の菌液またはその培養上清に甲殻類または魚介類を浸漬する場合は、一定量の同菌を海水中に懸濁した水槽に魚介類を移動し、一定時間浸漬させたのちに取り上げ、飼育水槽に戻す。また、同株の培養上清を用いる場合は一定量の培養上清を海水中に懸濁した水槽に魚介類を移動し、一定時間浸漬させたのちに取り上げ、飼育水槽に戻す。浸漬中はエアーレーションを施し、酸欠を防ぐと同時に海水を攪拌したほうがよい。
本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)の菌液またはその培養上清を甲殻類または魚介類の体表に直接スプレーする場合は、一定濃度の同菌懸濁液を噴霧器に入れ、甲殻類または魚介類の体全体にスプレーするのが望ましい。一定濃度の同菌培養上清を噴霧器に入れ、甲殻類または魚介類の体全体にスプレーするのが望ましい。
本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)の菌液またはその培養上清を甲殻類または魚介類の体内に注射する場合は、必要に応じて麻酔を施した甲殻類または魚介類に、一定濃度の同菌懸濁液を、甲殻類であれば筋肉内、魚類あれば静脈もしくは腹腔内に注射器を用いて一定量接種する。一定濃度の同菌培養上清を、甲殻類であれば筋肉内、魚類であれば静脈あるいは腹腔内に注射器を用いて一定量接種する。
本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)の使用態様は上記方法に限られるものではない。すなわち、本発明による同株が甲殻類カビ病または魚介類カビ病に対する予防作用を発揮しうる限り、いかなる態様にても使用することが可能である。
バチルス・ズブチリスは一般に安全であることが知られており、本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)も安全性について全く問題がないことを確認している。本発明者らは、本発明によるバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)がエビやフナの成長に及ぼす影響についても調べたが、エビやフナの成長に何らの副作用も認められなかった。さらに、哺乳類に対する毒性を調べるために、ラットへB1144株の単回経口投与を行ったところ、一般状態、体重および剖検のいずれにおいても異常は認められなかった。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実証例に限定されるものではない。
実施例1:B1144株によるフサリウム・ソラニに対する菌糸成長阻害作用
(1)B1144株菌液の調製
B1144株菌株を普通寒天培地で培養し、250mg/ml(湿重量)となるように調製し、マイクロチューブに入れ、-20℃で保存した。この菌液の100倍希釈液(2.5mg/ml)を試験に用いた。
(2)フサリウム菌液(分生子液)の調製
フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)をポテトデキストロース培地で7日間培養した。培地上に滅菌水を加えて、よくピペッティングし、分生子を分散させた。血球計算盤を使って分生子を計数した。105細胞/mlとなるように調製し、試験に用いた。分生子液は用時調製した。
(3)菌糸成長阻害試験
丸形シャーレに3%の塩化ナトリウムを添加した普通寒天培地を10ml加え、均等に直径8mmのペニシリンカップを配置した。ペニシリンカップを配置した状態で、3%の塩化ナトリウムを添加した普通寒天培地を等量(10ml)加えた。固化したのちにペニシリンカップを除去したものを試験培地とした。
5ヶ所に穴を開けた試験培地の両側の2穴にB1144株菌液50μlのみを加えたもの、残りの3穴に被試験菌である分生子液50μlをそれぞれ加え、28℃に保った恒温インキュベーター内で10日間培養した。
その結果、B1144株を加えた穴の周りには、フサリウム・ソラニの発育は認められなかった。ペニシリンカップの外周から阻止円の境界部までの距離を測定しところ、25〜32mmであった。また、B1144株菌液と分生子液を混合した区では穴から菌糸の成長は認めず、かつ周りの菌糸の成長も阻害した。これら結果からB1144株は、フサリウム・ソラニの発育を抑制または阻止していることが示された。試験結果を図1に示す。
実施例2:B1144株による鰓黒病予防試験
クルマエビを使用して、B1144株による鰓黒病予防試験を行った。
(1)水槽
用いたクルマエビは体重約10gであった。これを60リットル水槽に10尾ずつ入れた。飼育には水槽の底に厚さ2cmとなるように砂を敷いた。枯草菌の処理を行うまでは、市販飼料を毎夕体重3%与えた。
(2)使用する菌株の処理
使用するB1144株は普通培地で5日間培養した液を用いた。98%以上の胞子形成を認めた培養液を使用した。菌濃度は約8×109細胞/mlであった。一定量の菌液を市販のクルマエビ飼料と混合し、B1144株混合飼料を作製した。B1144株培養菌液と混合飼料は使用時まで冷蔵庫に保存した。
(3)フサリウム菌液(分生子液)の調製
フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)をポテトデキストロース培地で7日間培養した。培地上に滅菌水を加えて、よくピペッティングし、分生子を分散させた。血球計算盤を使って分生子数を数えた。105細胞/mlとなるように調製し、試験に用いた。分生子液は用時調製した。
(4)水槽試験
試験は、
1.クルマエビ飼料にB1144株を混合し毎日投与;
2.試験水槽に毎日一定量のB1144株培養液を添加;
3.試験開始前に底砂にB1144株の培養液を混ぜ込む;および
4.無処理
の4区を設定して行った。一定期間の処理を行ったのち、フサリウム菌の分生子105〜107細胞をそれぞれの飼育水槽に添加した。添加後20日間観察を行い、最終生残率から効果を判定した。それぞれの区の飼料投与量は毎夕体重3%とした。試験結果を図2に示す。
図2に示す結果から明らかなように、本発明によるB1144株を用いてクルマエビを飼育した場合には対照と比較して生残率が飛躍的に向上した。
実施例3:B1144株を用いたクルマエビの養殖
B1144株を用いたクルマエビの養殖を実施した。
(1)使用した試験飼料
使用するB1144株は普通培地で5日間培養し、98%以上の胞子形成を認めた培養液を使用した。菌濃度は約8×109細胞/mlであった。この培養液を凍結乾燥し、菌培養液粉末を作製した。一定量の粉末を市販のクルマエビ飼料と混合し(約104細胞/g)、B1144株混合飼料を作製した。B1144株混合飼料は使用時まで冷蔵庫に保存した。
(2)屋外養殖試験
直径7mのFRPシート水槽を4基用いて、B1144株処理区と無処理区に分けて養殖を開始した。砂の厚さを3〜4cmとした。水深を60cmとし、水中ブロアーによって酸素供給を行った。平均体重5gのクルマエビを放養した。飼育密度は20尾/m2とした。養殖水槽の飼育水は、毎日10%量の換水を行った。試験期間中の水温は21℃から28℃であった。試験期間中の飼料投与量は毎夕体重3〜5%とした。対照区ではB1144株を含まない餌料を同様に与えた。試験期間中、死亡したクルマエビは解剖を行い、鰓の顕微鏡観察を行うとともに、感染部位からフサリウム菌の検出を行った。
(3)結果
養殖期間中、鰓黒病の症状を示して死亡したエビの出現頻度(平均)は、B1144株処理区3%、無処理区66%であった。処理期間中、フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)の投与は行わず、鰓黒病の発生は自然感染であった。このように、本発明のB1144株を用いて養殖することにより、クルマエビの死亡頻度は激減した。
実施例4:B1144株によるサプロレグニア・バラシチカ(Saprolegnia parasitica)に対する菌糸生長阻害作用
(1)B1144株菌液の調製
B1144株菌株を普通寒天培地で培養し、250 mg/ml(湿重量)となるように調整し、マイクロチューブに入れ、−20℃で保存した。この菌液の100倍希釈液(2.5mg/ml)を試験に用いた。
(2)サプロレグニア菌糸の調製
サプロレグニア・パラシチカ(Saprolegnia parasitica)をポテトデキストロース培地で7日間培養した。伸長した菌糸を含む寒天(7mm角)を切り出した切片を抗菌試験に用いた。
(3)菌糸生長阻害試験
角形シャーレに0.2%の塩化ナトリウムを添加した普通寒天培地を30ml加え、均等に直径8mmのペニシリンカップを配置した。ペニシリンカップを配意した状態で、3%の塩化ナトリウムを添加した普通寒天培地を等量加えた。固化したのちにペニシリンカップを除去し、試験培地を完成させた。この穴の中に1)B1144株菌液50μlのみを加える、および2)菌糸を含む寒天片のみを加える、の2区を設定した。28℃に保った恒温インキュベーター内で10日間培養した。
(4)結果
B1144株を加えた穴の周りでは、サプロレグニア・パラシチカの発育は認められなかった。これら結果からB1144株は、サプロレグニア・パラシチカの発育を抑制または阻止していることが示された。
実施例5:B1144株の培養上清によるフサリウム・ソラニ(Fusarium solani)およびサプロレグニア・バラシチカ(Saprolegnia parasitica)に対する菌糸生長阻害作用
(1)B1144株の培養上清の調製
普通寒天培地で培養したB1144株菌株の1白金耳を、普通液体培地に加え、浸透培養(150rpm、27℃)を行った。72時間培養ののち、遠心分離(10,000rpm、10分)を行い、上清を回収した。0.45μmのメンブレンフィルターでろ過を行い、培養上清とした。
(2)供試菌の調製
寒天平板上で良好に発育したフサリウム・ソラニ(Fusarium solani)とサプロレグニア・バラシチカ(Saprolegnia parasitica)の菌糸の先端部分を切り出した寒天片(5mm角)を試験に用いた。
(3)抗菌活性の測定
普通寒天培地を入れたシャーレ(直径105mm)に、培養上清を染みこませたペーパーディスクを中心に置いた。その周囲1.0〜2.0 cm離れた位置に菌糸寒天片を等間隔に並べた。27℃で培養を行った。
(4)結果
フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)とサプロレグニア・バラシチカ(Saprolegnia parasitica)の伸長してくる菌糸に対して、培養上清を含んだペーパーディスクを中心とした伸長阻止領域が形成された。B1144株が生産し、かつ寒天内を拡散する抗菌物質があることが示唆された。
本発明は、甲殻類カビ病、とりわけエビの鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類カビ病に対する防除作用を有する新規なバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を提供するものである。この新規バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を用いることにより、従来の消毒剤、抗生物質や合成抗菌剤、化学薬品などを用いることなく、甲殻類カビ病、とりわけエビの鰓黒病(フサリウム感染症)や魚介類カビ病を有効に防除することができる。しかも、本発明による新規バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)を用いた甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防方法では、残留性の高い化学物質ではなく、人畜に無害の微生物を使用していることから安全性が極めて高いという利点がある。さらに、従来の甲殻類または魚介類飼料に混ぜ込む等するだけで容易に甲殻類カビ病および魚介類カビ病を有効に予防でき、取り扱いが簡単であるという利点もある。

Claims (23)

  1. バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)。
  2. 甲殻類カビ病および魚介類カビ病の予防作用を有する、請求項1に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)。
  3. 甲殻類カビ病がエビの鰓黒病である、請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)。
  4. 魚介類カビ病がミズカビ目による疾病(ミズカビ病)である、請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)。
  5. 甲殻類病原カビおよび魚介類病原カビに対して抗菌活性を有する、バチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)の菌体を含む培養液。
  6. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を用いた甲殻類カビ病または魚介類カビ病の予防方法。
  7. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を甲殻類または魚介類の飼料に混合することにより行う、請求項6に記載の方法。
  8. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を甲殻類または魚介類の養殖水槽に混合することにより行う、請求項6に記載の方法。
  9. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を甲殻類または魚介類の養殖水槽の飼育砂に混合することにより行う、請求項6に記載の方法。
  10. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を甲殻類または魚介類の濾過材または養殖水槽にコーティングすることにより行う、請求項6に記載の方法。
  11. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)の菌液または請求項5に記載の菌体を含む培養液に甲殻類または魚介類を浸漬することにより行う、請求項6に記載の方法。
  12. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を甲殻類または魚介類の体表に直接スプレーすることにより行う、請求項6に記載の方法。
  13. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を甲殻類または魚介類の体内に注射することにより行う、請求項6に記載の方法。
  14. 甲殻類カビ病がエビの鰓黒病である、請求項6ないし13のいずれかに記載の方法。
  15. 魚介類カビ病がミズカビ目による疾病(ミズカビ病)である、請求項6ないし13のいずれかに記載の方法。
  16. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を有効成分として含む、甲殻類カビ病の予防用製剤。
  17. 甲殻類カビ病がエビの鰓黒病である、請求項16に記載の予防用製剤。
  18. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を含む、甲殻類カビ病の予防作用を有する甲殻類用飼料。
  19. 甲殻類カビ病がエビの鰓黒病である、請求項18に記載の甲殻類用飼料。
  20. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を有効成分として含む、魚介類カビ病の予防用製剤。
  21. 魚介類カビ病がミズカビ目による疾病(ミズカビ病)である、請求項20に記載の予防用製剤。
  22. 請求項2に記載のバチルス・ズブチリスB1144株(受託番号:NITE BP-39)または請求項5に記載の菌体を含む培養液を含む、魚介類カビ病の予防作用を有する魚介類用飼料。
  23. 魚介類カビ病がミズカビ目による疾病(ミズカビ病)である、請求項22に記載の魚介類用飼料。
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