超音波診断装置は、超音波ビームを走査して被検体内の画像を得る装置である。超音波診断装置のうち、多チャネルのアレイ型超音波振動子を用いて受信される超音波エコー信号にそれぞれ異なる時間遅延をかけて加算処理を行うことにより超音波受信ビームのフォーカシングやステアリングを行うものは電子スキャン型を呼ばれる(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
この電子スキャン型の超音波診断装置では、超音波振動子から得られる受信信号のタイミングを調整して超音波受信ビームを形成するために受信遅延加算回路において受信信号の遅延が行われる。受信遅延加算回路における受信信号の遅延方法としては、遅延線を用いて受信信号の時間を直接遅らせる方法、乗算器で位相回転を与えて等価的に受信信号の遅延を行う方法および遅延線と乗算器とを組み合わせる方法がある。
始めに遅延線を用いる受信遅延方法について説明する。
図9は、従来の超音波診断装置に備えられる遅延線を用いた受信遅延加算回路の構成図である。
図9に示す従来の受信遅延加算回路1は、複数の受信チャネルiに対応する複数の遅延線DLiと単一の加算器Sとを備えている。図示しないプリアンプから出力される複数の超音波振動子からの受信信号は、それぞれ対応する遅延線DLiに導かれる。遅延線DLiとしては、直接受信信号の時間を遅らせるLC遅延線、シフトレジスタやディジタルフィルタにより構成されるディジタル遅延線、CCD (Charge Coupled Device) などの電荷転送素子を用いた遅延線を用いることができる。LC遅延線は、コイルとコンデンサにより構成されるアナログ遅延線である。各遅延線DLiは、図示しない制御系からの制御信号によって制御され、受信信号の遅延を行う。各遅延線DLiの出力先は、共通の加算器Sとされ、加算器Sにおいて各遅延線DLiにおいて遅延された受信信号が加算される。加算器Sにおいて加算された受信信号は、図示しない後段の信号処理部に出力される。
ここで受信チャネルiに対応する遅延線DLiに入力される受信信号の包絡線(エンベロープ)をA(t)、中心周波数をfc、位相をφとすると受信信号は、式(1)のように表される。
[数1]
Ai(t)・sin(ωc t+φi) (1)
但し、ωc=2πfcである。
また、遅延線DLiにおける遅延時間をTdiとすると、遅延線DLiの出力は式(2)のように表される。
[数2]
Ai(t−Tdi)・sin{ωfc (t−Tdi)+φi} (2)
すなわち、各遅延線DLiでは、受信信号の波形を変えることなく遅延時間Tdiだけ遅延することができる。
図10は、図9に示す従来の受信遅延加算回路1の各遅延線DLiに入力する受信信号の波形を示す図であり、図11は、図9に示す従来の受信遅延加算回路1の各遅延線DLiから出力される受信信号の波形を示す図である。
図10に示すように、包絡線E1の受信信号S1と受信信号S1に対してTdiだけ時間が遅れた同じ波形の、包絡線E2の受信信号S2がそれぞれ対応する遅延線DLiに入力したとする。受信信号S1は、遅延線DLiにおいてTdiだけ遅延されるため、図11に示すように遅延線DLiから出力される受信信号S1と受信信号S2とは互いに一致する。すなわち、各遅延線DLiの作用により互いにTdiの時間差のある複数の受信信号の波形を時間差のないように調整することができる。また、受信信号S1の包絡線E1と受信信号S2の包絡線E2も一致させることができる。
しかしながら、リアルタイム超音波診断装置における受信チャネルの数は通常100以上あり、各受信チャネルに遅延線を接続するため、受信遅延加算回路の規模が膨大になるという問題がある。さらに、近年2次元アレイ超音波振動子を用いたリアルタイム3次元超音波診断装置の開発が行われる。3次元超音波診断装置における受信チャネルの数は1000以上である。3次元超音波診断装置においても良好な超音波受信ビームを形成するためには全ての受信チャネルに遅延線を接続して超音波振動子で受信される受信信号の時間を調整する必要がある。しかしながら受信遅延加算回路の規模が膨大になるとともに超音波プローブを超音波診断装置に接続するケーブルの本数が非常に多くなり、実現性に欠けるという問題がある。
ケーブル本数を低減する対策としては、受信遅延加算回路の一部を超音波プローブ側に内蔵して数個の超音波振動子(サブアレイ)ごとに部分的な受信遅延を行って加算することが考えられる。
しかしながら、受信遅延加算回路の一部を超音波プローブ側に内蔵するためには、時間遅延を行う受信遅延加算回路の規模が大きいということが障害となる。
このような背景から受信遅延加算回路の規模を低減させる手法として回路規模の小さい乗算器を用いた位相回転により等価的に遅延を行う受信遅延加算回路を用いる方法や位相回転と遅延線による時間遅延を組み合わせることにより回路規模を低減する方法が考案されている。
そこで、乗算器を用いる受信遅延方法について説明する。
図12は、従来の超音波診断装置に備えられる乗算器を用いた受信遅延加算回路の構成図である。
図12に示す従来の受信遅延加算回路1Aには、複数の受信チャネルiにそれぞれ対応する複数の第1のローパスフィルタ (LPF: low pass filter)LPFi、複数の第1の乗算器MPLi、単一の加算器S、単一の第2のローパスフィルタLPF、単一の第2の乗算器MPLが設けられる。複数の超音波振動子からの受信信号は、それぞれ対応する第1のローパスフィルタLPFiに導かれる。第1のローパスフィルタLPFiを経由した受信信号は、対応する第1の乗算器MPLiに導かれる。第1の乗算器MPLiでは、受信信号に位相制御された参照信号を乗算することに受信信号の位相回転が行われる。
すなわち、受信チャネルiに対応する第1の乗算器MPLiに、式(1)に示す包絡線A(t)、中心周波数fc、位相φの受信信号が入力する。そして式(3)に示すように、周波数fr、位相φrの位相制御された参照信号が受信信号に乗算される。
[数3]
sin(ωrt+φri) (3)
但し、ωr=2πfrである。
そうすると、第1の乗算器MPLiの出力は式(4)に示すようになる。
[数4]
Ai(t)・sin(ωct+φi)・sin(ωrt+φri)
=(Ai(t)/2)・[−cos{(ωc+ωr)t+(φi+φri)}+cos{(ωc−ωr)t+(φi−φri)}]
(4)
ここで、フィルタ(図示せず)を用いて、ωc+ωrの成分を抽出し、受信信号の振幅の調整を行うと、式(5)に示す第1の乗算器MPLiの出力が得られる。
[数5]
Ai(t)・cos{(ωc+ωr)t+(φi+φri)} (5)
つまり第1の乗算器MPLiによって、受信信号の周波数が参照信号の周波数との差分である中間周波数に変換される。各第1の乗算器MPLiの出力信号は、後段の加算器Sにおいて加算される。加算器Sにおいて加算された受信信号は、第2のローパスフィルタLPFを経由して第2の乗算器MPLに導かれる。
そして、第2の乗算器MPLにおいて、加算器Sにおいて加算された受信信号に第1の乗算器MPLiの参照信号と同じ周波数の参照信号が乗算される。これにより、第1の乗算器MPLiによって中間周波数に変換された加算後の受信信号の周波数がもとの周波数に戻される。ただし、加算後の受信信号を中間周波数のまま図示しない後段の信号処理部に出力して信号処理を行ってもよい。ここでは加算後の受信信号の中間周波数をもとの周波数に戻す場合について説明する。
すなわち、第2の乗算器MPLにおいて第1の乗算器MPLiにおいて用いた参照信号と同じ周波数の参照信号sinωrtを第1の乗算器MPLiの出力信号に乗算すると式(6)のようになる。
[数6]
Ai(t)・cos{(ωc+ωr)t+(φi+φri)}・sinωrt
=(Ai(t)/2)・[sin{(ωc+2ωr)t+(φi+φri)}−sin{ωct+(φi+φri)}] (6)
そこで、フィルタ(図示せず)を用いてωcの成分を抽出し、信号振幅の調整を行うと、第2の乗算器MPLから出力される受信信号は、式(7)のようになる。
[数7]
Ai(t)・sin{ωct+(φi+φri)}=Ai(t)・sin{(ωct+φri)+φi} (7)
ここで、遅延線DLiを用いて受信遅延を行う場合の式(2)と式(7)とを比較し、式(8)のように設定すれば、中心周波数fcのキャリア成分に対して遅延時間Tdiと等価の遅延を与えることができる。
[数8]
φri=−ωc・Tdi=-2πfc・Tdi (8)
図13は、図12に示す従来の受信遅延加算回路1Aの第1の乗算器MPLiから出力される受信信号の波形を示す図である。
図10に示すように、受信信号S1と受信信号S1に対してTdiだけ時間が遅れた同じ波形の受信信号S2がそれぞれ対応する第1の乗算器MPLiに入力したとする。そうすると、図13に示すように受信信号S1の位相回転により周波数fcのキャリア成分は時間が受信信号S2の波形と一致する。尚、包絡線Ai(t) は位相回転の作用を受けないため遅延されない。従って、受信信号S1の包絡線E1と受信信号S1の包絡線E2とは一致せず、多少の誤差を生じる。
このようにして遅延線DLiを用いる場合と同様に乗算器MPLiを用いる位相回転によって遅延時間Tdの時間差のある受信信号の波形を時間差のないように調整することができる。
また、上述したように乗算器MPLiを用いる時間遅延では、中心周波数fcと参照周波数frの和と差が出力に現れるため、どちらを信号処理に使用するのかを選択するためのフィルタ(図示せず)が必要である。さらに、不要な帯域のノイズが第1の乗算器MPLiおよび第2の乗算器MPLのそれぞれの出力に周波数変換されて現れるため、ノイズの増加を防止するために第1の乗算器MPLiおよび第2の乗算器MPLの前段にそれぞれ第1のローパスフィルタLPFiおよび第2のローパスフィルタLPFが設けられる。そして、第1のローパスフィルタLPFiおよび第2のローパスフィルタLPFによって、不要な帯域の影響が抑制される。
しかし、乗算器は通常小さなデバイスであり、上述したフィルタを含めても小規模に構成することができる。このため、受信チャネルが多い場合に受信遅延加算回路の規模の増加を抑制することができる。
図14は、従来の超音波診断装置に備えられる遅延線と乗算器の組み合わせによる受信遅延加算回路の構成図である。
図14に示す受信遅延加算回路1Bには、複数の受信チャネルiにそれぞれ対応する複数の乗算器MPLiと複数の遅延線DLiの双方が設けられる。そして、直接受信信号の遅延を行う遅延線DLiと、乗算器MPLiによる位相回転を組み合わせて受信信号の遅延を行うことができる。この場合、遅延処理を乗算器MPLiと遅延線DLiとで分担するため、遅延線DLiの規模を図9に示す遅延線DLiのみにより遅延処理する場合に比べて若干小さくすることが可能である。
特許第5,676,147号公報
特許第5,573,001号公報
本発明に係る超音波診断装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る超音波診断装置の実施の形態を示す構成図である。
超音波診断装置10は、超音波プローブ11、送受信回路12、信号処理部13、画像処理部14、表示部15、制御回路16および操作パネル17を備えている。超音波プローブ11には、複数の超音波振動子18が1列のアレイ状に配列される。超音波プローブ11の各超音波振動子18は、それぞれ送受信回路12と電気的に接続され、送受信回路12から電気パルス信号として印加された送信信号を超音波パルスに変換して被検体Oの心臓等の観測部位に送信する一方、被検体O内の観測部位の影響を受けて発生した超音波エコーを受信し、電気信号である受信信号に変換して送受信回路12に与える機能を有する。
送受信回路12は、超音波プローブ11の各超音波振動子18にそれぞれ印加する送信信号を生成し、生成した各送信信号を各超音波振動子18に印加する一方、各超音波振動子18から受けた受信信号に対して増幅処理や受信遅延加算処理等の所定の前処理を行うことにより指向性を有する受信信号を生成し、生成した受信信号を信号処理部13に与える機能を有する。そのために、送受信回路12には、送信遅延回路19、受信遅延加算回路20、複数のパルサ21、複数のプリアンプ22が設けられる。
送信遅延回路19は、各パルサ21と接続される。送信遅延回路19は、各超音波振動子18から送信される超音波送信信号によって指向性を有する超音波送信ビームが形成されるように各超音波振動子18に印加される送信信号のタイミングを決定し、決定した基準となるタイミングからの遅延時間を対応するパルサ21に与える機能を有する。遅延時間は、超音波ビームの送信方向に応じて互いに異なる値に決定される。
各パルサ21は、それぞれ対応する超音波振動子18と接続される。各パルサ21は、所定の電圧レベルの電気パルスを発生し、発生した電気パルスを送信遅延回路19から受けた遅延時間に従ってそれぞれ対応する超音波振動子18に印加する機能を有する。
各プリアンプ22は、それぞれ対応する超音波振動子18と接続される。各プリアンプ22は、それぞれ対応する超音波振動子18からの微弱な受信信号を信号処理が可能なレベルまでに増幅し、増幅した受信信号を受信遅延加算回路20に出力する機能を有する。
受信遅延加算回路20は、各プリアンプ22から入力した各受信チャネルの受信信号に対してそれぞれ互いに異なる遅延時間を用いて遅延処理を施し、遅延処理後の受信信号を加算する機能を有する。これにより超音波受信ビームが形成される。形成された超音波受信ビームは、受信遅延加算回路20から信号処理部13に出力される。
信号処理部13は、受信遅延加算回路20から取得した超音波受信ビームに対して信号処理を行うことにより、被検体O内の観測部位における心臓等の構造物の情報や観測部位における血流速度情報を検出する機能を有する。検出された構造物の情報や血流速度情報は、信号処理部13から画像処理部14に与えられる。
画像処理部14は、信号処理部13から受けた構造物の情報や血流速度情報を画像として表示させるための画像処理を行って画像データを生成し、生成した画像データを表示部15に与える機能を有する。
表示部15は、陰極線管(CRT: Cathode-Ray Tube)や液晶ディスプレイ(LCD: Liquid Crystal Display)等の表示デバイスで構成され、画像処理部14から受けた画像データを表示させる機能を有する。
制御回路16は、送信遅延回路19、各プリアンプ22、受信遅延加算回路20、信号処理部13、画像処理部14および表示部15を制御する機能を有する。
操作パネル17は、制御回路16に操作情報を入力するためのマウスやキー等の入力装置である。
次に超音波診断装置10の動作および作用について説明する。
制御回路16から送信遅延回路19に制御信号が与えられると、送信遅延回路19は超音波プローブ11から所定の指向性を持つ超音波送信ビームが被検体Oに向けて形成されるように各超音波振動子18から互いに異なるタイミングで送信される超音波パルスの送信遅延時間情報を生成する。生成された送信遅延時間情報は、送信遅延回路19から対応するパルサ21に与えられる。各パルサ21は、所定の電圧レベルの電気パルスを発生し、発生した電気パルスを送信遅延回路19から受けた遅延時間に従ってそれぞれ対応する超音波振動子18に印加する。これにより、各超音波振動子18から所定の時間遅延を伴う超音波パルスが被検体Oに向けて送信され、所定の指向性を持つ超音波送信ビームが形成される。
超音波送信ビームは被検体O内の構造物の境界等の音響インピーダンスの異なる界面で反射し、超音波エコーとして各超音波振動子18により受信される。各超音波振動子18においてそれぞれ受信された超音波エコーは、電気信号である受信信号に変換されて各プリアンプ22に出力される。各プリアンプ22は、それぞれ対応する超音波振動子18からの微弱な受信信号を信号処理が可能なレベルまでに増幅し、増幅した受信信号を受信遅延加算回路20に出力する。
受信遅延加算回路20は、超音波振動子18から各プリアンプ22を経由して与えられた受信信号に対して時間遅延処理を行うことにより受信信号をタイミングを合わせる。そして、受信遅延加算回路20は、時間遅延処理後の受信信号を加算して信号処理部13に出力する。信号処理部13は、受信遅延加算回路20から取得した加算後の受信信号を検波して包絡線(エンベロープ)を受信データとして検出する。検出された受信データは、被検体O内の観測部位における心臓等の構造物の情報や観測部位における血流速度情報を示しており、信号処理部13から画像処理部14に与えられる。
画像処理部14は、被検体O内の撮影断面に合わせて信号処理部13から受けた受信データを座標変換し、画像表示に適した階調処理等の画像処理を施すことによって画像データを生成する。生成された画像データは、画像処理部14から表示部15に与えられる。これにより、表示部15には、被検体O内の観測部位における形態がリアルタイムで表示される。
このような超音波診断装置10の受信遅延加算回路20は、受信信号の多チャネル化に対応できるように、高密度の回路構成を有する。
図2は、図1に示す受信遅延加算回路20の構成を示す回路図である。
受信遅延加算回路20は、複数の第3のローパスフィルタ30(LPFi)、複数のアナログの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)、複数のフィルタ32(Fi1, Fi2)、加算器33(S)、第4のローパスフィルタ34(LPF)、アナログの第4の乗算器35(M)を備えている。
第3のローパスフィルタ30(LPFi)は、各プリアンプ22から出力される受信信号の複数の受信チャネルi(iは自然数)にそれぞれ対応している。すなわち、第3のローパスフィルタ30(LPFi)はそれぞれ対応するプリアンプ22の出力側と接続される。第3のローパスフィルタ30(LPFi)は受信信号から不要な帯域の信号成分を除去して対応する複数の第3の乗算器31(Mi1, Mi2)に出力する。すなわち、第3の乗算器31(Mi1, Mi2)は、1つの受信チャネルiにつき複数個備えられ、各第3のローパスフィルタ30(LPFi)の出力側は、それぞれ複数の第3の乗算器31(Mi1, Mi2)と接続される。図2は、受信チャネルiごとに2つの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)を並列に設けた例を示している。
各第3の乗算器31(Mi1, Mi2)では、それぞれ受信信号の位相を変化させることにより等価的に受信信号の時間遅延処理が行われる。そのために2つの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)のうち一方の第3の乗算器31(Mi1)には周波数fr+φi1の参照信号Ri1が、他方の第3の乗算器31(Mi2) には周波数fr+φi2の参照信号Ri2がそれぞれ与えられる。すなわち、各受信チャネルiに並列に接続された複数の第3の乗算器31において、周波数が同じで互いに位相が異なる参照信号Ri1, Ri2を用いて受信信号の位相回転処理が行われる。
また、各第3の乗算器31ごとに受信信号の互いに異なる2種以上の周波数成分を対象として時間遅延処理が行われる。そのために、参照信号Ri1, Ri2の位相は、各周波数成分について等価遅延時間が同一となるように設定される。例えば、2つの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)を用いて受信信号に対してTdの遅延を与える場合には、一方の第3の乗算器31(Mi1)において受信信号の帯域内の周波数f1の信号成分が遅延処理の対象とされる。そして、一方の第3の乗算器31(Mi1)では、式(12)に示す位相回転が受信信号に対して与えられる。
[数12]
φi1=−ω1・Td =−2πf1・Td=−2π・Td/T 1 (12)
ただし、T1=1/f1である。
同様に他方の第3の乗算器31(Mi2)では、受信信号の帯域内の周波数f2の信号成分が遅延処理の対象とされる。すなわち、式(13)に示す位相回転が受信信号に対して与えられる。
[数13]
φi2=−ω2・Td =−2πf2・Td=−2π・Td/T2 (13)
ただし、T2=1/f2である。
例えば中心周波数が2.5MHzで±1MHzの帯域を有する受信信号を受信信号の帯域内でほぼ50nsec遅延する場合には、2つの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)を用いてそれぞれf1=2MHzおよびf2=3MHzの周波数の信号成分に対して50nsecに相当する位相回転φ1および位相回転φ2が与えられる。位相回転φ1および位相回転φ2はそれぞれ式(12)および式(13)から式(14-1)および式(14-2)のように求められる。
[数14]
φ1=−ω1・Td =−2πf1・Td=−2π・2×106・50×10-9=−π/5 (14-1)
φ2=−ω2・Td =−2πf2・Td=−2π・3×106・50×10-9≒−π/6.67 (14-2)
従って2つの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)のそれぞれの参照信号Ri1, Ri2の波形は、式(15-1)および式(15-2)のように周波数fr (=ωr/2π)が同じで位相φi1, φi2がそれぞれ−π/5および−π/6.67の波形となる。
[数15]
Ri1=sin(ωr t+φi1)=sin{(2πfr t−(π/5)} (15-1)
Ri2=sin(ωr t+φi2)=sin{(2πfr t−(π/6.67)} (15-2)
そして、式(15-1)および式(15-2)に示す波形の参照信号Ri1, Ri2をそれぞれ対応する第3の乗算器31(Mi1, Mi2)に入力することにより、中心周波数が2.5MHzで±1MHzの帯域を有する受信信号のうち2MHzの信号成分と3MHzの信号成分に対してそれぞれ50nsecの遅延を等価的に与えることができる。
すなわち一方の第3の乗算器31(Mi1)の出力は周波数f1+frにおいて周波数f1に対する50nsecの等価遅延時間が設定されたものであり、他方の第3の乗算器31(Mi2)の出力は周波数f2+frにおいて周波数f2に対する50nsecの等価遅延時間が設定されたものである。このように2つの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)の出力は互いに周波数が異なるため、そのまま加算すると干渉によって信号波形に歪みが生じる。
そこで、各第3の乗算器31(Mi1, Mi2)の出力側には、それぞれ対応するフィルタ32(Fi1, Fi2)が接続される。各フィルタ32(Fi1, Fi2)では、各第3の乗算器31(Mi1, Mi2)の出力信号に対して周波数帯域が異なることに起因する干渉を低減するためのフィルタリングが行われる。そして、これらのフィルタ32(Fi1, Fi2)により第3の乗算器31(Mi1, Mi2)の出力信号間における干渉が緩和される。フィルタ32(Fi1, Fi2)の特性は必要な帯域を通過させるバンドパス特性とされる。
図3は、図2に示すフィルタ32の特性を示す図である。
図3において横軸は周波数を示す。図3に示すように、例えば中心周波数がfc=2.5MHzの周波数スペクトラムSP1を有する受信信号が2つの第3の乗算器31(Mi1, Mi2)に入力される。一方の第3の乗算器31(Mi1)では、周波数がf1=2MHzの信号成分に対して周波数fr=5MHzの参照信号を用いて位相回転処理が行われる。また、他方の第3の乗算器31(Mi2)では、周波数がf2=3MHzの信号成分に対して周波数fr=5MHzの参照信号を用いて位相回転処理が行われる。
一方の第3の乗算器31(Mi1)における位相回転の対象となる周波数f1が他方の第3の乗算器31(Mi1)における位相回転の対象となる周波数f2よりも小さい(f1<f2)とすると、小さい周波数f1を対象とする第3の乗算器31(Mi1)に接続されるフィルタ32(Fi1)の特性は、位相回転後における受信信号の中心周波数fc+frよりも低周波側の信号を通過させるバンドパス特性とされる。逆に、大きい周波数f2を対象とする第3の乗算器31(Mi2)に接続されるフィルタ32(Fi2)の特性は、位相回転後における受信信号の中心周波数fc+frよりも高周波側の信号を通過させるバンドパス特性とされる。これにより受信信号の周波数スペクトラムSP1と同様な周波数スペクトラムSP2を有する出力信号が得られる。
すなわち、基本的にはフィルタ32(Fi1) は低域通過型、フィルタ32(Fi2)は高域通過型となるが、各フィルタ32(Fi1, Fi2)は、第3の乗算器31(Mi1, Mi2)の出力信号のうち使用しないサイドバンドおよびノイズの抑制のために不要な高周波領域や低周波領域の信号を除去する帯域通過型とされる。尚、除去されるべきサイドバンドは、第3の乗算器31(Mi1, Mi2)の出力信号のうち和の周波数成分を使用する場合には差の周波数成分であり、差の周波数成分を使用する場合には和の周波数成分である。
各フィルタ32(Fi1, Fi2)の出力側は、共通の加算器33(S)と接続される。そして、加算器33(S)において、各フィルタ32(Fi1, Fi2)の出力信号が加算される。従って、各フィルタ32(Fi1, Fi2) により分割された信号が加算器33(S)において加算されることとなる。ここで、分割された周波数帯の端部周辺において加算後の信号が乱れないように、各フィルタ32(Fi1, Fi2)の遮断特性を設定することが重要である。
図4は、図2に示すフィルタ32の特性の設定方法を示す図である。
図4に示すように、各フィルタ32(Fi1, Fi2) により分割された周波数帯同士を重ね合わせることによって重畳される信号の通過領域のフィルタ特性が、各フィルタ32(Fi1, Fi2)によって形成される信号の通過領域のフィルタ特性と同等な平坦度を有するように各フィルタ32(Fi1, Fi2)の遮断特性を設定することが重要である。第3の乗算器31が3つ以上(n個)設けられる場合も対応するフィルタ32の遮断特性を同様に設定することが重要である。
このような特性を有する各フィルタ32(Fi1, Fi2)の出力信号は、時間遅延によって互いにタイミングの合った相似の波形を有するため、加算器33(S)における加算によって振幅の大きい1系統の波形を有する信号が得られる。加算器33(S)において得られる信号の中心周波数はfc+frとなる。
加算器33(S)の出力側には、第4のローパスフィルタ34(LPF)が接続される。加算器33(S)において得られた信号は、第4のローパスフィルタ34(LPF)に出力され、第4のローパスフィルタ34(LPF)において不要なサイドバンドが除去される。
第4のローパスフィルタ34(LPF)の出力側には、第4の乗算器35(M)が接続される。第4のローパスフィルタ34(LPF)において得られた信号は、第4の乗算器35(M)に出力され、第4の乗算器35(M)において信号の位相回転処理が行われる。すなわち、第4の乗算器35(M)において第3の乗算器31の参照信号と同じ周波数frの参照信号を第4のローパスフィルタ34(LPF)の出力信号に対して乗算することにより、第4のローパスフィルタ34(LPF)の出力信号の中心周波数が第3の乗算器31における位相回転処理前の中心周波数fcに戻される。そして、第4の乗算器35(M)の出力信号が、受信遅延加算回路20から出力される遅延加算処理後の受信信号とされる。
すなわち、受信遅延加算回路20では、複数の受信チャネルで受信された受信信号のタイミングを合わせるために受信チャネルごとに受信信号の時間遅延が行われ、タイミングが合わせられた受信信号が加算器33(S)により加算されて1系統の受信信号となる。このような受信遅延加算回路20における信号の処理過程は受信ビームフォーミングと呼ばれ、撮影対象となる部位に受信ビームの焦点を合わせる操作である。換言すれば、受信ビームフォーミングにより各受信チャネルで受信された受信信号の波形がタイミングを合わせたうえで加算され、各受信チャネルで受信された受信信号と相似で振幅の大きい信号が取り出される。
特に図2に示す受信遅延加算回路20では、受信信号の帯域が分割され、各帯域ごとに乗算器が割り当てられている。そして、各乗算器の参照信号は同じ周波数であり、かつ分割された受信信号の帯域のそれぞれの中心周波数における遅延時間と等価の位相が参照信号用に設定される。さらに、受信遅延加算回路20は、各乗算器の出力側に受信信号の帯域に応じた特性のフィルタ32が設けられ、受信信号の帯域の分割に対応するとともに乗算処理によって生じる不要なサイドバンドを除去した後、加算を行う構成とされている。また、受信信号の位相回転後に元の周波数に戻す場合には別の乗算器を用いて位相回転に用いた参照信号と同じ周波数の参照信号を乗算するようにしている。
このような回路構成を有する受信遅延加算回路20によれば、受信信号の帯域の少なくとも2箇所の複数の周波数において正確に位相回転による等価的な時間遅延を行うことができる。このため、従来の1箇所の周波数における位相回転による等価的な時間遅延に比べ、受信信号全体における遅延精度が向上する。また、乗算器を用いた受信遅延加算回路20の回路構成はフィルタの存在を含めて考慮したとしても集積回路技術によりきわめて小型に作成することが可能である。従って、2系統の乗算器を受信遅延加算回路20に設けたとしても受信遅延加算回路20の回路規模の増加は僅かである。
図5は、図2に示す受信遅延加算回路20において位相回転を伴って生成される信号を示す図である。
図5(a),(b),(c)においてそれぞれ横軸は時間を示し、縦軸は受信信号の強度を示す。図5(a)は、受信遅延加算回路20に入力される2つの帯域を有する受信信号の例を示している。すなわち受信チャネル2の受信信号S2は受信チャネル1の受信信号S1に対して時間遅延Tdiを有する。例えば受信信号S1の中心周波数はfc=2.5MHzであり、±1MHzの帯域を有する。また、時間遅延はTdi=50nsec程度である。
図5(b)は、受信信号を複数の帯域に分割し、複数の乗算器を用いて帯域ごとに位相回転処理を行って時間調整された受信信号S1の波形および受信信号S2の波形を示す図である。図5(b)に示すように、受信信号S1の帯域の中心周波数付近のみならず、中心周波数から離れた周波数成分であっても受信信号S2と時間を一致させることができる。
図5(c)は、図5(b)に示す位相回転処理後における受信信号S1および受信信号S2を加算して得られた受信遅延加算回路20の出力波形S3を示す図である。図5(c)に示すように受信信号の帯域内においてほぼ50nsecの遅延時間を受信信号に与えることができる。この結果、各受信チャネルにおける受信信号の波形にほぼ相似の波形を加算して得られる波形の信号を得ることができる。
すなわち、受信遅延加算回路20によれば、受信信号の中心周波数から離れた信号成分に対しても適度な遅延を行うことでき、受信音場および画質を改善することができる。また、乗算器は小規模の回路で構成できるため、受信チャネル数が膨大な超音波診断装置10であっても受信遅延加算回路20の回路規模を小さく抑えることができる。
尚、受信信号の帯域内における遅延時間の均一性を向上するためには1つの受信チャネルあたりの乗算器の数を増やせば良い。
次に、分割された受信信号の帯域ごとに複数の乗算器を有する受信遅延加算回路20を3次元超音波診断装置に適用した例について説明する。
図6は、本発明に係る3次元超音波診断装置の実施の形態を示す構成図である。
図6に示す3次元超音波診断装置40は、2次元アレイプローブ41と装置本体42とをプローブケーブル43で接続して構成される。装置本体42には、本体側送受信部44、画像処理ユニット45および表示部46が設けられる。また、2次元アレイプローブ41には、プローブ内蔵送受信部47および2次元アレイトランスデューサ48が設けられる。
図7は、図6に示す2次元アレイトランスデューサ48の構成図である。
図7に示すように、2次元アレイトランスデューサ48は、例えば64素子×64素子=4096素子の微小超音波振動子48Aを2次元に配列して構成される。
そして、3次元超音波診断装置40では、微小超音波振動子48Aを遅延制御して超音波ビームを形成することによってリアルタイムに3次元撮像を行うことができる。しかしながら、2次元アレイトランスデューサ48を備えた3次元超音波診断装置40における受信チャネルの数は1000以上となる。このため、各微小超音波振動子48Aからの受信信号の遅延制御を装置本体42側において行おうとすると、微小超音波振動子48Aの数に対応した数の受信遅延回路を装置本体42に備える必要がある。図7に示す例では、4096組の受信遅延回路が必要となる。
このように受信遅延回路を多数設けると回路規模が膨大になり、プローブケーブル43に収納される信号線の本数が微小超音波振動子48Aの数と同等程度、例えば図7の例では、4096本必要となる。従って、各微小超音波振動子48Aからの受信信号の遅延制御を装置本体42側で行う構成は、実現性、実用性に欠ける。
そこで、図7に示すように、2次元アレイトランスデューサ48が数〜十数の微小超音波振動子48Aを有するサブアレイ48Bに分割される。図7は、4×4=16の微小超音波振動子48Aが1つのサブアレイ48Bを形成する例を示している。そして、2次元アレイプローブ41内でサブアレイ48B内における微小超音波振動子48Aからの受信信号の遅延加算処理が行われる一方、装置本体42側で各サブアレイ48Bからの受信信号の遅延加算処理が行われる。そのために、2次元アレイプローブ41内のプローブ内蔵送受信部47には、複数のサブアレイ受信遅延加算回路49が設けられる一方、本体側送受信部44には、装置本体42側の遅延加算回路であるメインビームフォーマ50が設けられる。
図8は、図6に示すプローブ内蔵送受信部47の構成を示す回路図である。
図8に示すように、プローブ内蔵送受信部47には、複数のプローブ内プリアンプ60、複数のプローブ内パルサ61および複数のサブアレイ受信遅延加算回路49が設けられる。プローブ内プリアンプ60およびプローブ内パルサ61は、それぞれ各微小超音波振動子48Aと接続される。サブアレイ受信遅延加算回路49は、サブアレイ48Bごとに設けられ、単一のサブアレイ48Bに対応する複数のプローブ内プリアンプ60と接続される。
各プローブ内パルサ61は、図示しない送信遅延回路から受けた遅延時間を伴って送信信号を対応する微小超音波振動子48Aに印加する機能を有する。また、プローブ内プリアンプ60は、微小超音波振動子48Aから受けた受信信号を信号処理が可能なレベルまでに増幅してサブアレイ受信遅延加算回路49に出力する機能を有する。
サブアレイ受信遅延加算回路49は、それぞれサブアレイ48B内における微小超音波振動子48Aからプローブ内プリアンプ60を経由して得られる受信信号の遅延加算処理を行う機能を有している。さらに、各サブアレイ受信遅延加算回路49は、図2に示すような回路構成を有する。すなわち、1つの微小超音波振動子48Aからの受信信号の帯域を分割し、分割した信号に対してそれぞれ対応する乗算器を用いて位相回転処理を行うことによって等価的に時間遅延処理を行う。
このように、各サブアレイ受信遅延加算回路49の回路構成を受信信号の帯域別に乗算器を用いた構成とすることにより、受信信号の中心周波数から離れた周波数成分の時間遅延精度を維持しつつ、各サブアレイ受信遅延加算回路49の回路規模を小さくすることができる。この結果、各サブアレイ受信遅延加算回路49を2次元アレイプローブ41内に収納することが可能となる。
サブアレイ受信遅延加算回路49から出力される遅延加算後の受信信号は、プローブケーブル43内の対応する信号線を介して装置本体42側のメインビームフォーマ50に与えられる。メインビームフォーマ50は、各サブアレイ48Bに対応する受信信号の遅延加算処理を行う機能を有している。
すなわち、3次元の超音波受信ビームBを形成するための遅延加算処理を2段階に分けることによって、遅延加算回路の規模およびプローブケーブル43内の信号線の本数が低減される。プローブケーブル43内の信号線は、サブアレイ48Bの数だけ備えればよいことになるため、図7の例では信号線の本数は4096/16=256に低減される。
また、サブアレイ受信遅延加算回路49の数は、256個必要となり、メインビームフォーマ50は、256の受信信号に対する遅延加算処理を行うために必要な回路規模でよいことになる。
メインビームフォーマ50の後段には、画像処理ユニット45が接続され、画像処理ユニット45の出力側には、表示部46が接続される。画像処理ユニット45は、メインビームフォーマ50において遅延加算された受信信号に対して信号処理および画像処理を施すことにより3次元画像データを生成する機能と、生成した3次元画像データを表示部46に与える機能とを有する。表示部46は、CRTやLCD等の表示デバイスで構成され、画像処理ユニット45から受けた3次元画像データを表示させる機能を有する。
このように構成された3次元超音波診断装置40では、本体側送受信部44から超音波送信ビームBを形成するための時間遅延を伴う送信信号がプローブケーブル43内の各信号線を介して2次元アレイプローブ41内の図示しない送信遅延回路に与えられる。送信信号は、2次元アレイプローブ41内の送信遅延回路から各プローブ内パルサ61に与えられる。
そうすると、各プローブ内パルサ61は、遅延時間を伴って送信信号を対応する微小超音波振動子48Aに印加する。これにより、各微小超音波振動子48Aから超音波パルスが送信され、超音波エコーが受信される。各微小超音波振動子48Aにおいて受信された超音波エコーは、時間遅延を伴う受信信号として各微小超音波振動子48Aから対応するプローブ内プリアンプ60に与えられる。そして、各プローブ内プリアンプ60は、それぞれ対応する微小超音波振動子48Aから受けた受信信号を信号処理が可能なレベルまでに増幅してサブアレイ受信遅延加算回路49に出力する。
各サブアレイ受信遅延加算回路49では、対応するサブアレイ48Bに属する各微小超音波振動子48Aからの受信信号に対して遅延加算処理が行われる。図7に示す例では、1つのサブアレイ受信遅延加算回路49において、16個の微小超音波振動子48Aからの受信信号に対して遅延加算処理が行われる。サブアレイ受信遅延加算回路49における遅延加算後の受信信号は、プローブケーブル43内の信号線を介して本体側送受信部44のメインビームフォーマ50に与えられる。
メインビームフォーマ50では、各サブアレイ受信遅延加算回路49における複数の遅延加算後の受信信号に対して遅延加算処理が行われる。これにより生成された遅延加算後の1系統の受信信号は、メインビームフォーマ50から画像処理ユニット45に与えられる。画像処理ユニット45では、メインビームフォーマ50において遅延加算された受信信号に対して信号処理および画像処理が施され、3次元画像データが生成される。生成された3次元画像データは、画像処理ユニット45から表示部46に与えられる。この結果、表示部46には3次元画像が表示される。
このように3次元超音波診断装置40の受信遅延回路の回路構成を、受信チャネルごとに複数の乗算器を備える構成とすることにより、受信信号の帯域内における位相回転による受信信号の等価的な時間遅延処理における誤差を低減することができる。そして、良好な超音波受信ビームBを形成することができる。
尚、1次元アレイの超音波振動子18を備えた超音波プローブ11を有する超音波診断装置10および2次元アレイの超音波振動子18を備えた2次元アレイプローブ41を有する3次元超音波診断装置40に設けられる受信信号の遅延加算回路への本発明の適用例について説明したが、実現可能な他のアレイの形態の超音波プローブを有する超音波診断装置10に設けられる受信信号の遅延加算回路においても本発明は適用可能である。
また、図14に示す従来の受信遅延加算回路のように、遅延線と乗算器を組み合わせることもできる。すなわち、並列接続した複数の乗算器と、遅延線とを直列に接続し、位相回転による等価的な時間遅延と直接的な時間遅延の双方を行って受信信号の遅延処理を行うように本発明の受信遅延加算回路を構成することもできる。この場合、遅延線による直接的な時間遅延を併用するため、時間遅延処理の精度を向上させることができる。