しかしながら、上記従来の制御装置は、旋回半径短縮制御を行うために旋回内側後輪に車輪制動力を付与しているため、運転者が制動操作を行っていないにも拘らず旋回半径短縮制御中に車両が減速する。このため、旋回半径短縮制御が行われていないときに比較して旋回半径短縮制御が行われているときは、所定のアクセルペダルの操作量(加速操作量)に対して得られる実際の車速が小さくなり、その結果、運転者に違和感を与える場合があった。
本発明の車両の制御装置は、上記課題に鑑みてなされたものであって、車両駆動力を車両に付与する駆動装置と、旋回時車輪制動力付与手段と、第1制御手段と、第2制御手段と、を備える。
前記旋回時車輪制動力付与手段は、前記車両の旋回半径を短縮するための旋回半径短縮制御条件が成立しているとき、同車両の旋回半径が短縮するように前記車両が備える複数の車輪のうち所定の車輪に車輪制動力を付与するようになっている。
この場合、「車両の旋回半径を短縮するための旋回半径短縮制御条件」は、例えば、車速が所定値よりも小さく、且つ、舵角(転舵輪の舵角、又は、ステアリングホイールの操舵角)が所定値よりも大きいときに成立するように設定することができる。
「車両が備える複数の車輪のうち所定の車輪に車輪制動力を付与する」ことには、例えば、旋回内側後輪に対して車輪制動力を付与すること、旋回内側前輪に対して車輪制動力を付与すること、旋回内側前輪及び旋回内側後輪に対して車輪制動力を付与すること、場合によっては、旋回内側前輪及び旋回内側後輪に対して車輪制動力を付与するとともに旋回外側前輪に車輪制動力を付与すること等、車輪制動力を付与することによって旋回半径を短縮することが可能な一つ又は複数の車輪に対して車輪制動力を付与することを意味する。更に、「車両が備える複数の車輪のうち所定の車輪に車輪制動力を付与する」ことには、例えば、旋回内側後輪及び旋回外側後輪に対して車輪制動力を付与するとともに、旋回内側後輪に付与される車輪制動力が旋回外側後輪に付与される車輪制動力よくも大きくなるように車輪制動力を付与すること等も含まれる。
前記第1制御手段は、前記旋回半径短縮制御条件が成立していないとき、運転者の加速操作により変更される加速操作量の増加に伴って車両駆動力が増加する(即ち、加速操作量の増加に対して車両駆動力が単調増加する)ように駆動装置を制御するようになっている。この場合、「運転者の加速操作により変更される加速操作量」は、例えば、アクセルペダル操作量等の運転者が車速を増大させようとする意思の程度を表すパラメータである。
前記第2制御手段は、前記旋回半径短縮制御条件が成立しているとき、運転者の加速操作により変更される加速操作量の増加に伴って車両駆動力が増加するように、且つ、所定の加速操作量に対して発生させられる車両駆動力が同所定の加速操作量に対して前記第1制御手段により発生させられる車両駆動力よりも所定駆動力だけ大きくなるように前記駆動装置を制御するようになっている。
この場合、「所定駆動力」は、路面勾配が大きい程大きくなるように同路面勾配に応じて設定される。
この構成を備えた車両の制御装置によれば、前記旋回半径短縮制御条件が成立していないとき、第1制御手段によって、運転者の加速操作により変更される加速操作量の増加に伴って車両駆動力が増加するように駆動装置が制御される。換言すると、運転者の加速意思に沿った車両駆動力が車両に付与される。一方、前記旋回半径短縮制御条件が成立したとき、旋回時車輪制動力付与手段によって、同車両の旋回半径が短縮するように前記車両が備える複数の車輪のうち所定の車輪に対して車輪制動力が付与される。これにより、車両の最小回転半径がより小さくなるとともに、車両には車速を低下させようとする車両制動力が付与される。このとき、車両駆動力は、第2制御手段により、その時点の加速操作量に対して前記第1制御手段により発生させられる車両駆動力よりも所定駆動力だけ大きくなる。これにより、旋廻半径短縮制御開始後における車速の低下量を小さくできるので、運転者に与える違和感を小さくすることが可能となる。
更に、本車両の制御装置によれば、旋廻半径短縮制御中においても車両駆動力が加速操作量の増加に伴って増加するように制御されるので、運転者による加速操作量に応じて車両を加減速させることができる。
ところで、この制御装置は、前記旋回半径短縮制御条件が成立した状態から不成立の状態へと変化した制御終了時点以降、同制御終了時点にて前記旋回時車輪制動力付与手段によって付与されていた車輪制動力を減少させなくてはならない。この場合において、急に車輪制動力を減少させると、車輪制動力が減少されることによって車両制動力も急に減少する。よって、車両駆動力が車両制動力に対して過大となり、車両が急加速してしまう虞がある。
そこで、この車両の制御装置は、車輪制動力徐減手段と第3制御手段とを更に備えることが好適である。
前記車輪制動力徐減手段は、前記旋回半径短縮制御条件が成立した状態から不成立の状態へと変化した制御終了時点以降、同制御終了時点にて前記旋回時車輪制動力付与手段によって付与されていた車輪制動力を徐々に減少させるようになっている。
前記第3制御手段は、前記制御終了時点以降、前記車両駆動力を同制御終了時点にて前記第2駆動力制御手段により発生させられていた車両駆動力から前記第1制御手段により発生させられる車両駆動力に向けて徐々に減少させるようになっている。
これによれば、前記制御終了時点以降、同制御終了時点にて前記旋回時車輪制動力付与手段によって付与されていた車輪制動力が「徐々に」減少され、その結果、車両制動力が徐々に減少される。更に、前記車両駆動力が前記第2制御手段により発生させられていた車両駆動力から前記第1制御手段により発生させられる車両駆動力に向けて「徐々に」減少される。この結果、前記制御終了時点以降において、車両制動力の減少に追従するように車両駆動力を減少させることができるので、車両が急加速することを回避することができる。
この車両の制御装置において、前記旋回半径短縮制御条件は、少なくとも前記旋回半径短縮制御条件が成立した時点から所定時間が経過したとき不成立の状態へと変化するように定められていることが好適である。換言すると、少なくとも前記旋回半径短縮制御条件が成立した時点から所定時間が経過することによって、前記旋回半径短縮制御条件が成立した状態から不成立の状態へと変化する条件(旋回半径短縮制御終了条件)が成立することが好適である。
これによれば、本制御装置は、旋回時車輪制動力付与手段によって旋回半径を短縮するための車輪制動力が「ある車輪」に所定時間以上にわたって継続的に付与されることを回避することができる。その結果、本制御装置は、車両の旋回半径を短縮するために車輪制動力を発生させる制動装置に所定時間以上にわたって比較的大きな負荷がかかることを回避することができる。
一方、この車両の制御装置において、前記所定駆動力が、前記旋回時車輪制動力付与手段によって前記車両に発生する制動力以下の値に設定されることが好適である。
これによれば、旋回半径短縮制御中において増加される駆動力を旋回半径短縮制御のために車両に発生する制動力以下とすることができる。従って、所定の加速操作量に対して発生する車両駆動力が過大になることを回避することができる。
他方、この車両の制御装置において、前記所定駆動力が、前記旋回時車輪制動力付与手段によって前記車両に発生する制動力と実質的に等しい大きさの値に設定されることが好適である。
これによれば、本制御装置は、旋回半径短縮制御中において増加される駆動力を旋回半径短縮制御のために車両に発生する制動力と実質的に等しくすることができる。従って、前記車両に発生する制動力による車両の減速を回避することができるので、運転者に違和感を与えることを回避することができる。換言すると、運転者は、旋回半径短縮制御の開始前後において加速操作量を変更しなくても車速を一定に維持することができる。その結果、運転操作が煩雑になることを回避することができる。
この車両の制御装置において、前記駆動装置は前記車両駆動力に変換される力を発生する駆動源(例えば、内燃機関及び電動機等)を含み、前記第1制御手段及び前記第2制御手段(更に、第3制御手段)は前記駆動源が発生する力を制御するように構成されることが好適である。
これによれば、前記駆動源が発生する力(例えば、出力トルク)を制御することによって、前記車両駆動力を簡単に精度良く制御することができる。
以下、添付の図を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。
図1は車両10に適用された本発明の好ましい実施形態に係る車両の制御装置(以下、「本制御装置」と称呼する。)の概略構成を示している。車両10は後輪駆動車であり、右前輪11FR、左前輪11FL、右後輪11RR及び左後輪11RLを備えている。車両10は、更に、駆動装置20と制動装置30とを備えている。
駆動装置20は、車両10の駆動源としてのエンジン(内燃機関)21、トランスミッション22、プロペラシャフト23、リアディファレンシャル24、右後輪用ドライブシャフト25R及び左後輪用ドライブシャフト25Lを備えている。
エンジン21は電子式燃料噴射装置を備えた周知の火花点火式内燃機関である。エンジン21は、吸気通路を構成する吸気管21aと、スロットルバルブ21bと、スロットルバルブアクチュエータ21cと、を備えている。
スロットルバルブ21bは、吸気管21aに回動可能に支持されている。スロットルバルブ21bは回転角度(開度)が変更されることにより、吸気管21aの開口断面積を変更し、その結果、エンジン21の発生する出力トルクを変更するようになっている。スロットルバルブアクチュエータ21cは駆動信号(指示信号)に応答してスロットルバルブ21bの回転角度(開度)を変更するようになっている。
トランスミッション22は、周知のギヤ機構を備えている。トランスミッション22は、車両10の運転状態に応じて所定の変速段を達成するようになっている。
以上の構成により、エンジン21の出力トルク(駆動源が発生する力)は、トランスミッション22に応じて決定される所定の変速比に応じて変換される。プロペラシャフト23は、その変換されたトルクをリアディファレンシャル24に伝達するようになっている。
リアディファレンシャル24は、プロペラシャフト23を介して伝達されたトルクを、右後輪用ドライブシャフト25R及び左後輪用ドライブシャフト25Lに伝達するようになっている。
右後輪用ドライブシャフト25Rは、リアディファレンシャル24から伝達されたトルクにより右後輪11RRを回転するようになっている。同様に、左後輪用ドライブシャフト25Lは、リアディファレンシャル24から伝達されたトルクにより左後輪11RLを回転するようになっている。
以上の構成により、エンジン21の出力トルク(即ち、駆動源が発生する力)は、右後輪11RR及び左後輪11RLを回転させる駆動力(即ち、車速を増大させるための車両駆動力)へと変換される。
制動装置30は、ブレーキペダル31と、マスタシリンダ32と、油圧回路33と、ホイールシリンダ34FR、34FL、34RR及び34RLと、を備えている。
マスタシリンダ32は、周知の構成を備え、ブレーキペダル31の操作量に応じて油圧回路33に伝達する制動油の油圧(マスタシリンダ圧)を増減するようになっている。
油圧回路33は、何れも図示を省略したリザーバ、オイルポンプ及び種々の弁装置を備えていて、後述する圧力センサ42によって検出されたマスタシリンダ圧に応じて通常時制動油圧を生成するようになっている。また、油圧回路33は、後述する電子制御装置50からの信号に応答し、ホイールシリンダ34FR、34FL、34RR及び34RLに付与するための制御用制動油圧を生成するようになっている。そして、油圧回路33は、電子制御装置50からの信号に基づいて、前記生成した通常時制動油圧及び前記生成した制御用制動油圧の何れか(両者が同時に発生している場合は両者を加えた油圧)をホイールシリンダ34FR、34FL、34RR及び34RLに付与するようになっている。
ホイールシリンダ34FR、34FL、34RR及び34RLは、右前輪11FR、左前輪11FL、右後輪11RR及び左後輪11RLにそれぞれ対応するように配設されている。ホイールシリンダ34FR、34FL、34RR及び34RLは、油圧回路33により付与された制動油圧に基づいて右前輪11FR、左前輪11FL、右後輪11RR及び左後輪11RLのそれぞれと一体的に回転するロータの回転速度をそれぞれ低下させるための車輪制動力を発生するようになっている。
以上の構成により、制動油圧は、右前輪11FR、左前輪11FL、右後輪11RR及び左後輪11RLの回転速度を低下させる制動力(以下、「車輪制動力」と称呼する。)へと変換される。その結果、車両には車速を減少させるための制動力(以下、「車両制動力」と称呼する。)が付与される。即ち、車両制動力は各車輪が各車輪に付与される車輪制動力によって地面から受ける力の合力である。
一方、本制御装置は、車輪速センサ41FR、41FL、41RR及び41RLと、圧力センサ42と、アクセル操作量センサ43と、エンジン回転速度センサ44と、ステアリングセンサ45と、旋回半径短縮制御スイッチ46と、上記電子制御装置50と、を備えている。
車輪速センサ41FR、41FL、41RR及び41RLは、右前輪11FRの車輪速VwFR、左前輪11FLの車輪速VwFL、右後輪11RRの車輪速VwRR及び左後輪11RLの車輪速VwRLをそれぞれ検出するようになっている。車輪速センサ41FR、41FL、41RR及び41RLは、検出した情報を信号として電子制御装置50に出力するようになっている。
圧力センサ42は、マスタシリンダ圧Pmを検出するようになっている。マスタシリンダ圧Pmはブレーキペダル31の操作量を表している。圧力センサ42は、検出した情報を信号として電子制御装置50に出力するようになっている。
アクセル操作量センサ43は、アクセルペダル27の操作量Apを検出するようになっている。アクセル操作量センサ43は、検出した情報を信号として電子制御装置50に出力するようになっている。
エンジン回転速度センサ44は、エンジン21の回転速度NEを検出するようになっている。エンジン回転速度センサ44は、検出した情報を信号として電子制御装置50に出力するようになっている。
ステアリングセンサ(操舵角取得手段)45は、ステアリングシャフト26の回転角度θを検出するようになっている。回転角度θが0であることは、ステアリングシャフト26が回転していないこと、即ち、車両が直進していることを表している。また、回転角度θが0より大きいことは、ステアリングシャフト26が右に回転していること、即ち、車両が右に旋回していることを表している。更に、回転角度θが0より小さいことは、ステアリングシャフト26が左に回転していること、即ち、車両が左に旋回していることを表している。回転角度θの絶対値|θ|は、ステアリングシャフト26の回転角度が大きいほど大きくなる。ステアリングセンサ45は、検出した情報を信号として電子制御装置50に出力するようになっている。
旋回半径短縮制御スイッチ46は、運転者によって操作されるスイッチのオン状態及びオフ状態の何れか一方を表す信号を電子制御装置50に出力するようになっている。
電子制御装置50は、CPU、RAM、ROM及び入出力ポートを含む周知のマイクロコンピュータである。入出力ポートは、上記センサ41〜45、旋回半径短縮制御スイッチ46、スロットルバルブアクチュエータ21c及び制動装置30の油圧回路33と接続されている。入出力ポートは、上記センサ41〜45及び旋回半径短縮制御スイッチ46、からの信号をCPUに供給する。入出力ポートは、CPUの指示に応じてスロットルバルブアクチュエータ21cに駆動信号(指示信号)を出力するとともに、油圧回路33に制動信号(指示信号)を出力するようになっている。
<作動の概要>
次に、上記のように構成された本制御装置の作動の概要について説明する。
電子制御装置50のCPUは、前述した車輪速センサ41FR、41FL、41RR及び41RLから取得される各車輪速Vw(VwFR、VwFL、VwRR及びVwRL)に基づいて車両10の車速SPDを算出する。例えば、CPUは、これらの車輪速センサ41FR、41FL、41RR及び41RLから取得される各車輪速Vwの平均値を定数倍することにより車速SPDを求める。なお、車速SPDの算出は他の公知の方法に従って行われてもよい。CPUは、旋回半径短縮制御スイッチ46がオン状態にあること、車速SPDが所定値以下(例えば、10m/h以下)であること、及びステアリングセンサ45により検出されたステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|が所定値以上(例えば、ステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の9割以上)であることが成立しているときに旋回半径短縮制御条件が成立していると判定する。
そして、CPUは、旋回半径短縮制御を実行するための旋回半径短縮制御条件が成立していないと判定した場合、公知の手法に基づいて通常の車両制御を実行する。より具体的に述べると、CPUは、アクセルペダル27の操作量である加速操作量が大きくなるほど車両駆動力(車速を増大させるための力)が増大するようにスロットルバルブ21bを駆動することにより、エンジン21の出力トルクを増大させる。ここで発生される車両駆動力が第1制御手段によって発生させられる車両駆動力に相当する。
同時に、CPUは、ブレーキペダル31の操作量が大きいほど車両制動力が大きくなるように、油圧回路33を介して、マスタシリンダ圧に基づいて生成された通常時制動油圧をホイールシリンダの制動油圧Pwとしてホイールシリンダ34FR、34FL、34RR及び34RLに加える。
一方、CPUは、旋回半径短縮制御条件が成立していると判定した場合、車両の旋回半径を短縮する旋回半径短縮制御を開始する。CPUは、旋回半径短縮制御を開始するとタイマーTの計測を始める。タイマーTは、旋回半径短縮制御の経過時間を表す。
CPUは、旋回半径短縮制御において、車両10の旋回半径が短縮するように車両10が備える複数の車輪のうち所定の車輪に所定の車輪制動力(以下、「制御用車輪制動力」と称呼する。)を付与する。前述したように、CPUは、ステアリングセンサ45により検出された回転角度θによって車両の旋回方向を判定する。即ち、CPUは、回転角度θが正(θ>0)ならば車両10は右に旋回しており、負(θ<0)ならば車両10は左に旋回していると判定する。CPUは、前記旋回方向に基づいて、旋回内側後輪に対して制御用車輪制動力を付与する。この旋回半径短縮制御のために付与される制御用車輪制動力は、制御用車輪制動力が付与されている車輪がスリップしない程度の制動力に設定されることによって、旋回時において同車輪が横力を発生することができる程度の余裕を有するように設定されている。ここで旋回半径短縮制御条件が成立しているときに前記旋回内側後輪に対して車輪制動力を付与する機能を実現するCPU及び制動装置30が旋回時車輪制動力付与手段に相当する。
一方、CPUは、アクセルペダル27の操作量である加速操作量が大きくなるほど車両駆動力が増大するようにスロットルバルブ21bを駆動することにより、エンジン21の出力トルクを増大させる。更に、CPUは、所定のアクセルペダル27の操作量に対して発生させられる車両駆動力が同所定のアクセルペダル27の操作量に対して通常制御時に発生させられる車両駆動力よりも所定駆動力だけ大きくなるようにスロットルバルブ21bを制御する。この所定駆動力は、前記制御用車輪制動力によって発生する車両制動力と実質的に等しい大きさの値に設定される。ここで発生される車両駆動力が第2制御手段によって発生させられる車両駆動力に相当する。
この結果、所定の車輪制動力が前記旋回内側後輪に対して付与されることによって、車両の旋回半径が短縮する。更に、CPUが前記制御用車輪制動力によって発生する車両制動力を、増加された車両駆動力によって相殺することにより、車両10が減速することを回避することができるので、運転者に違和感を与えることを回避することができる。換言すると、運転者は、旋回半径短縮制御の開始前後においてアクセルペダル27の操作量を変更しなくても車速を一定に維持することができる。その結果、運転操作が煩雑になることを回避することができる。
CPUは、旋回半径短縮制御の終了条件(旋回半径短縮制御条件が成立した状態から不成立の状態に変更される条件)が成立した制御終了時点が到来すると、バックアップ制御を開始する。具体的に述べると、旋回半径短縮制御の終了条件は、旋回半径短縮制御スイッチ46がオフ状態にあること、車速SPDが所定車速(例えば、15km/h)より大きいこと、ステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|が所定値未満(例えば、ステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の8割未満)であること及びタイマーTが所定時間Tthを計測したことのうちの何れかが成立したときに成立する。
CPUは、バックアップ制御において、前記旋回内側後輪に対して付与されている車輪制動力を前記制御用車輪制動力から徐々に減少させる。更に、CPUは、車輪制動力の減少に伴って減少した車両制動力を演算する。CPUは、車両駆動力が演算した車両制動力と実質的に等しい大きさの値だけ通常制御時に発生させられる車両駆動力よりも大きくなるようにスロットルバルブ21bを制御する。換言すると、車両駆動力が、「通常制御時に発生される車両駆動力よりも増大されて発生させられていた車両駆動力」から「通常制御時に発生される車両駆動力」に向けて「徐々に」減少される。CPUは、旋回半径短縮制御によって前記旋回内側後輪に対して付与されていた車輪制動力が「0」に近い所定の値以下となるとバックアップ制御を終了して、通常制御を行う。ここで前記制御終了時点以降、車輪制動力を前記旋回内側後輪に対して付与していた車輪制動力から徐々に減少させる機能を実現するCPU及び制動装置30が車輪制動力徐減手段に相当する。また、バックアップ制御において発生される車両駆動力が第3制御手段によって発生させられる車両駆動力に相当する。
この結果、前記旋回内側後輪に対して付与されている車輪制動力が制御用車輪制動力から徐々に減少されるので、車両制動力が前記制御終了時点の車両制動力から急に減少されることを回避することができる。更に、車両制動力の減少に追従するように車両駆動力も減少させることができるので、車両駆動力が車両制動力に対して過大となることを回避できる。従って、本制御装置は、前記制御終了時点以降において、車両10が急加速することを回避することができる。
<作動の詳細>
以下、この本制御装置の作動の詳細について、CPUが所定時間の経過毎に繰り返し実行するルーチンを示したフローチャートを参照しながら説明する。
いま、旋回半径短縮制御中でなく(通常制御中)、且つ、上述した旋回半径短縮制御開始条件が成立していない場合から説明を開始する。
CPUは所定のタイミングにて図2のステップ200から処理を開始し、ステップ210にて旋回半径短縮制御条件フラグXcが「0」であるか否かを判定する。この旋回半径短縮制御条件フラグXcは、その値が「1」であるときに旋回半径短縮制御条件が成立している状態であること(即ち、旋回半径短縮制御条件が成立してから旋回半径短縮制御終了条件が成立するまでの期間であること)を示す。更に、旋回半径短縮制御条件フラグXcは、その値が「0」であるときに旋回半径短縮制御条件が成立していない状態であることを示す。旋回半径短縮制御条件フラグXcは図示しないイグニッション・キーがオフからオンに変更されたときに実行される図示しないイニシャルルーチンにより「0」に設定されるようになっている。
前述した仮定(旋回半径短縮制御中でなく、且つ、旋回半径短縮制御開始条件が成立していないという仮定)に従えば、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「0」であるから、CPUはステップ210にて「Yes」と判定し、以下に述べるステップ220〜ステップ240の処理を行うようになっている。
ステップ220:CPUは旋回半径短縮制御スイッチ46がオン状態であるか否かを判定する。CPUは旋回半径短縮制御スイッチ46がオン状態であればステップ230に進み、旋回半径短縮制御スイッチ46がオン状態でなければステップ290に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ230:CPUは各車輪速Vwに基づいて算出した車速SPDが10km/h以下であるか否かを判定する。CPUは車速SPDが10km/h以下であればステップ240に進み、車速SPDが10km/h以下でなければステップ290に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ240:CPUはステアリングセンサ45により検出されたステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|がステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の9割以上であればステップ250に進み、ステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|がステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の9割以上でなければステップ290に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
前述した仮定に従えば、旋回半径短縮制御スイッチ46がオン状態でないこと、車速SPDが10km/h以下でないこと、及び、ステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|がステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の9割以上でないこと、の何れかが成立している。従って、CPUはステップ220〜240の何れかのステップからステップ290に直接進む。この結果、旋回半径短縮制御条件フラグXcを「1」に設定するステップ250の処理が行われないので、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「0」に維持される。
一方、CPUは所定のタイミングにて図3のステップ300から処理を開始し、ステップ305にて、アクセルペダル27の操作量Ap、エンジン21の回転速度NE及び目標車両駆動力Etqtgtの関係を規定したテーブルと、アクセル操作量センサ43によって検出された実際のアクセルペダル27の操作量Apと、エンジン回転速度センサ44によって検出された実際のエンジン21の回転速度NEと、に基づいて、旋回半径短縮制御状態では無い通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtを設定する。
続いてCPUは、ステップ310に進んで、旋回半径短縮制御条件フラグXcが「1」であるか否かを判定する。この場合、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「0」であるので、CPUは、「No」と判定してステップ310からステップ315に進み、バックアップ制御条件フラグXBが「1」であるか否かを判定する。このバックアップ制御条件フラグXBは、その値が「1」であるときにバックアップ制御条件が成立している状態であること(即ち、バックアップ制御開始条件が成立してからバックアップ制御終了条件が成立するまでの期間であること)を示す。バックアップ制御条件フラグXBは、後述する図4のステップ440にて「1」に設定される。更に、バックアップ制御条件フラグXBは、その値が「0」であるときにバックアップ制御条件が成立していない状態であることを示す。バックアップ制御開始条件は、後で詳細に説明する旋回半径短縮制御終了条件と等しい。即ち、バックアップ制御開始条件は、旋回半径短縮制御条件が成立している状態において、旋回半径短縮制御終了条件が成立したときに成立する。バックアップ制御条件フラグXBは、後述する図3のステップ365にて「0」に設定される。更に、バックアップ制御条件フラグXBは前述したイニシャルルーチンにより「0」に設定される。
前述した仮定に従えば、旋回半径短縮制御条件が成立している状態ではないので(即ち、旋回半径短縮制御条件フラグXcが「0」であるために図4のステップ440が実行されないので)、バックアップ制御条件フラグXBは「0」である。従って、CPUはステップ315にて「No」と判定してステップ320へ進む。
CPUは、ステップ320にて、目標車両駆動力Etqtgt、エンジン21の回転速度NE及びスロットルバルブ21bの目標回転角度TAtgtの関係を規定したテーブルと、設定した目標車両駆動力Etqtgtと、エンジン回転速度センサ44によって検出された実際のエンジン21の回転速度NEと、に基づいて、スロットルバルブ21bの目標回転角度TAtgtを演算する。そして、CPUは、スロットルバルブ21bの回転角度が目標回転角度TAtgtと一致するように、スロットルバルブアクチュエータ21cに指示信号を出力する。この結果、車両駆動力は目標車両駆動力Etqtgtと一致させられる。そして、CPUは、ステップ395に進んで、本ルーチンを一旦終了する。
このようにして、本制御装置によれば、通常制御中、前記目標車両駆動力Etqtgtはアクセルペダル27の操作量Apに応じた値となる。換言すれば、運転者のアクセル操作量に応じた出力トルクがエンジン21から出力される。
次に、旋回半径短縮制御中でなく(通常制御中)、且つ、旋回半径短縮制御条件が成立した場合について説明する。即ち、通常制御中において、旋回半径短縮制御スイッチ46がオン状態且つ車速SPDが10m/h以下且つステアリングセンサ45により検出されたステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|がステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の9割以上となった場合について説明する。
CPUは所定のタイミングにて図2のステップ200から処理を開始する。この場合、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「0」であるから、CPUはステップ210にて「Yes」と判定し、続く、ステップ220〜ステップ240の各ステップにても「Yes」と判定してステップ250に進む。そして、CPUはステップ250にて旋回半径短縮制御条件フラグXcを「1」に設定し、ステップ260にて旋回半径短縮制御の経過時間を表すタイマーTの計測を開始する。続いてCPUはステップ290に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、CPUは所定のタイミングにて図3のステップ300から処理を開始し、ステップ305にて通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtを設定し、ステップ310にて旋回半径短縮制御条件フラグXcが「1」であるか否かを判定する。
旋回半径短縮制御条件フラグXcは先のステップ250にて「1」に設定されている。従って、CPUはステップ310にて「Yes」と判定し、以下に述べるステップ325〜ステップ345の処理を順に実行する。
ステップ325:CPUは前述のようにして予め定められた車輪制動力(ここでは一定値)を制御用車輪制動力BKFの初期値として設定する。
ステップ330:CPUはステップ305にて設定した通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtと、ステップ325又は後述するステップ350にて設定した制御用車輪制動力BKFによって発生する車両制動力と実質的に等しい大きさの値f(BKF)と、を合計した値を新たな目標車両駆動力Etqtgtとして設定する。ここで、車両駆動力は正の値であるから、目標車両駆動力Etqtgt及び車両制動力と実質的に等しい大きさの値f(BKF)の両者も正の値である。即ち、例えば、制御用車輪制動力BKFによって発生する車両制動力の大きさが2000Nであるとすると、通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtに加えられる車両制動力と実質的に等しい大きさの値f(BKF)は+2000Nである。
換言すると、CPUは、所定のアクセルペダル27の操作量に対して発生させられる車両駆動力が同所定のアクセルペダル27の操作量に対して通常制御時の車両駆動力よりも前記制御用車輪制動力によって発生する車両制動力(BKF)と実質的に等しい大きさの値(f(BKF))だけ大きくなるように目標車両駆動力Etqtgtを設定する。
ステップ335:CPUはステアリングセンサ45によって検出されたステアリングシャフト26の回転角度θが「0」よりも大きいか(車両が右に旋回している状態か)否かを判定する。CPUは、ステアリングシャフト26の回転角度θが「0」よりも大きい場合は「Yes」と判定し、ステップ340へ進み右後輪に制御用車輪制動力BKFを付与するように油圧回路33に指示信号を出力する。一方、CPUは、ステアリングシャフト26の回転角度θが「0」以下である場合は「No」と判定し、ステップ345へ進み左後輪に制御用車輪制動力BKFを付与するように油圧回路33に指示信号を出力する。
続いて、CPUはステップ320にて、設定された目標車両駆動力Etqtgtと、エンジン回転速度センサ44によって検出された実際のエンジン21の回転速度NEと、に基づいて、スロットルバルブ21bの目標回転角度TAtgtを演算する。そして、CPUは、スロットルバルブ21bの回転角度が目標回転角度TAtgtと一致するように、スロットルバルブアクチュエータ21cに信号を出力する。この場合、設定された目標車両駆動力Etqtgtは、ステップ330にて設定された目標車両駆動力Etqtgtのことである。そして、CPUは、ステップ395に進んで、本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPUは所定のタイミングにて図4のステップ400から処理を開始し、ステップ410にて旋回半径短縮制御条件フラグXcが「1」であるか否かを判定する。この場合、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「1」であるので、CPUはステップ420へ進む。
CPUはステップ420にて旋回半径短縮制御終了条件が成立しているか否かを判定する。旋回半径短縮制御終了条件は、旋回半径短縮制御条件が成立している状態において、下記の条件A1乃至A4の何れかが成立しているときに成立するようになっている。
A1:運転者により旋回半径短縮制御スイッチ46がオフ状態に切り替えられた。
A2:車速SPDが15km/hより大きい。
A3:ステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|がステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の8割未満である。
A4:タイマーTが所定時間Tthを計測した。
この場合、旋回半径短縮制御が開始されたところであり、旋回半径短縮制御終了条件は成立していないものとする。従って、CPUはステップ420からステップ490に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。この結果、旋回半径短縮制御条件フラグXcを「0」に設定するステップ430の処理が行われないので、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「1」に維持される。また、バックアップ制御条件フラグXBを「1」に設定するステップ440の処理が行われないので、バックアップ制御条件フラグXBは「0」に維持される。
このように、本制御装置によれば、通常制御中に旋回半径短縮制御条件が成立すると、旋回内側後輪に、制御用車輪制動力BKFが付与される。これにより、車両の旋回半径が短縮される。また、この旋回半径短縮制御において、目標車両駆動力Etqtgtは、通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtに、制御用車輪制動力BKFによって発生する車両制動力と実質的に等しい大きさの値f(BKF)が加えられる値に設定される。これにより、前記制御用車輪制動力BKFによって発生する車両制動力が通常制御時の目標車両駆動力Etqtgtに加えられた所定駆動力f(BKF)によって相殺される。従って、車両10の減速を回避することができるので、運転者に違和感を与えることを回避することができる。換言すると、運転者は、旋回半径短縮制御の開始前後においてアクセルペダル27の操作量を変更しなくても車速を一定に維持することができる。その結果、運転操作が煩雑になることを回避することができる。
次に、旋回半径短縮制御中において旋回半径短縮制御終了条件が成立した場合について説明する。即ち、運転者により旋回半径短縮制御スイッチ46がオフ状態に切り替えられた場合、車速SPDが15km/h以上となった場合、ステアリングシャフト26の回転角度の大きさ|θ|がステアリングシャフト26の回転角度の最大値の大きさ|θmax|の8割未満となった場合及びタイマーTが所定時間Tthを計測した場合の何れかが成立した場合について説明する。
CPUは所定のタイミングにて図2のステップ200から処理を開始する。この場合、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「1」であるから、CPUはステップ210にて「No」と判定し、ステップ290に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPUは所定のタイミングにて図3のステップ300から処理を開始する。CPUはステップ305にて通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtを設定し、ステップ310へ進む。この場合、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「1」であるから、CPUはステップ310にて「Yes」と判定し、ステップ325〜ステップ345及びステップ320の処理を行う。このことにより、旋回内側後輪に制御用車輪制動力BKFが付与され、設定した目標車両駆動力Etqtgtに応じてスロットルバルブアクチュエータ21cが制御される。
更に、CPUは所定のタイミングにて図4のステップ400から処理を開始する。この場合、旋回半径短縮制御条件フラグXcは「1」であるから、CPUはステップ410にて「Yes」と判定し、ステップ420へ進む。
CPUはステップ420にて旋回半径短縮制御終了条件が成立しているか否かを判定する。前述した仮定に従えば、現時点は旋回半径短縮制御終了条件が成立した直後である。従って、CPUはステップ420にて「Yes」と判定し、以下に述べるステップ430〜ステップ440の処理を行うようになっている。
ステップ430:CPUは旋回半径短縮制御条件フラグXcを「0」に設定する。この時点(旋回半径短縮制御条件が成立している状態から成立していない状態へと変化した時点)は、前述した「制御終了時点」である。
ステップ440:CPUはバックアップ制御条件フラグXBを「1」に設定し、ステップ490に進んで本ルーチンを一旦終了する。
この状態において、CPUが所定のタイミングにて図3のステップ300から処理を開始すると、CPUはステップ305にて通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtを設定する。続いてCPUは、ステップ310に進み旋回半径短縮制御条件フラグXcが「1」であるか否かを判定する。旋回半径短縮制御条件フラグXcは,先のステップ430にて「0」に変更されている。従って、CPUはステップ310にて「No」と判定し、ステップ315へ進む。
CPUは、ステップ315にてバックアップ制御条件フラグXBが「1」であるか否かを判定する。バックアップ制御条件フラグXBは,先のステップ440にて「1」に変更されている。従って、CPUはステップ315にて「Yes」と判定する。
そしてCPUは、ステップ350に進み、制御用車輪制動力BKFから所定の車輪制動力減少量ΔB(ΔB>0)を減じた値を新たな制御用車輪制動力BKFの値として設定する。換言すると、CPUは、ステップ350の処理を実行する毎に、制御用車輪制動力BKFを徐々に減少させる。
続いてCPUは、ステップ355に進み、前記設定された制御用車輪制動力BKFが「0」に近い所定の値αよりも小さいか否かを判定する。ここでは、バックアップ制御が開始された直後(即ち、フラグXBが1に変更された直後)であるから、前記設定された制御用車輪制動力BKFが前記所定の値α以上であると仮定すると、CPUは、ステップ355にて「No」と判定しステップ330〜345及びステップ320の処理を行い、本ルーチンを一旦終了する。
この結果、ステップ330にて、目標車両駆動力Etqtgtは、ステップ350にて所定の車輪制動力減少量ΔBだけ減少された新たな制御用車輪制動力BKFに応じて、新たに設定される。換言すると、目標車両駆動力Etqtgtは、制御用車輪制動力BKFの減少に追従するように徐々に減少される。
以降、CPUはステップ355にて「Yes」と判定するまで(即ち、前記設定された車輪制動力がα以下となるまで)、ステップ350及びステップ330を経て、ステップ340又はステップ345の処理及びステップ320の処理を繰り返し実行する。その結果、前記制御終了時点以降、制御用車輪制動力BKFが前記所定の値αより小さくなるまで、制御用車輪制動力BKFが図3のルーチンが実行される毎に所定の車輪制動力減少量ΔBずつ減少されることになる。更に、制御用車輪制動力BKFが前記所定の値αより小さくなるまで、目標車両駆動力Etqtgtが図3のルーチンが実行される毎に所定の車輪制動力減少量ΔBに応じた車両制動力の減少量と実質的に等しい大きさの値ずつ減少されることになる。
このようにして、本制御装置によれば、旋回半径短縮制御中に旋回半径短縮制御終了条件が成立した場合、前記制御終了時点以降、同制御終了時点にて旋回半径短縮制御により付与されていた制御用車輪制動力BKFが「徐々に」減少される。更に、車両駆動力Etqtgtが同制御終了時点にて旋回半径短縮制御により発生させられていた車両駆動力Etqtgtから通常制御時に発生させられる目標車両駆動力Etqtgtに向けて「徐々に」減少される。この結果、制御用車輪制動力BKFが所定の車輪制動力から「徐々に」減少されるので、車両制動力が前記制御終了時点の車両制動力から急に減少されることを回避することができる。更に、車両制動力の減少に追従するように車両駆動力も減少させているので、車両駆動力が車両制動力に対して過大となることを回避できる。換言すると、徐々に減少する車両制動力と同じ大きさの車両駆動力f(BKF)が通常時の車両駆動力に加えられる。従って、本制御装置は、前記制御終了時点以降において、車両が急加速することを回避することができる。
このようなバックアップ制御を行うことによって、制御用車輪制動力BKFが前記所定の値αより小さくなる時点が到来した場合、CPUはステップ355にて「Yes」と判定し、次のステップ360及びステップ365の処理を順に行う。
ステップ360:CPUはバックアップ制御条件フラグXBを「0」に設定する。
ステップ365:CPUは制御用車輪制動力BKFを「0」に変更する。そしてCPUは、ステップ330からの処理を行い、本ルーチンを一旦終了する。
このように、本制御装置によれば、バックアップ制御中に、制御用車輪制動力BKFが前記所定の値αより小さくなったことにより、バックアップ制御終了条件が成立した場合、バックアップ制御条件フラグXBが「0」に変更され、車両は通常制御状態に戻る。
なお、上記本実施形態において図3に示したステップ305及びステップ320は第1制御手段に相当する。更に、ステップ325、ステップ335、ステップ340及びステップ345は、旋回時車輪制動力付与手段に相当する。また、ステップ305、ステップ320、ステップ325及びステップ330は、第2制御手段に相当している。
更に、ステップ335、ステップ340、ステップ345及びステップ350は、車輪制動力徐減手段に相当する。更に、ステップ305、ステップ320、ステップ330及びステップ350は、第3制御手段に相当している。
このように、本制御装置によれば、前記旋回半径短縮制御条件が成立していないとき、運転者の加速意思に沿った車両駆動力が車両に付与される。一方、前記旋回半径短縮制御条件が成立したとき、前記車両の旋回半径が短縮するように前記車両が備える複数の車輪のうち所定の車輪に対して車輪制動力が付与される。よって、車両の最小回転半径がより小さくなる。
このとき、車両駆動力は、CPUにより、その時点の加速操作量に対して通常制御時に発生させられる車両駆動力よりもCPUにより制御された制動装置が前記車両に発生する制動力と実質的に等しい大きさの値だけ大きく設定される。従って、前記車両に発生する制動力による車両の減速を回避することができるので、運転者に違和感を与えることを回避することができる。換言すると、運転者は、旋回半径短縮制御の開始前後において加速操作量を変更しなくても車速を一定に維持することができる。その結果、運転操作が煩雑になることを回避することができる。
ところで、上記課題に鑑みて、前記旋回半径短縮制御条件が成立したとき、車速が一定車速に一致するように車両駆動力を制御することが考えられる(以下、比較制御装置と称呼する。)。しかしながら、そのような比較制御装置は、車速を加速操作量の増大量とは関係なく、一定車速に一致するように制御するので、旋回半径短縮制御の開始前後において車速を維持することができない場合がある。
即ち、例えば、前記比較制御装置において、前記旋回半径短縮制御条件が成立したときの車速が設定された車速より小さかった場合、旋回半径短縮制御を行うことによって、車速が設定された車速に一致するように制御されるので、運転者が加速操作を行っていないにも拘らず、車両が加速される。従って、運転者は車速を旋回半径短縮制御の開始前の車速に維持することができない。一方、例えば、前記比較制御装置において、前記旋回半径短縮制御条件が成立したときの車速が設定された車速より大きかった場合、旋回半径短縮制御を行うことによって、車速が設定された車速に一致するように制御されるので、車両が減速される。
また、前記比較制御装置は、例えば、運転者の加速操作量に基づいた車両駆動力が設定された車速を得るための車両駆動力よりも大きかった場合に、運転者の加速操作量に基づいた車両駆動力を出力するように構成され得る。しかしながら、運転者の加速操作量に基づいた車両駆動力が通常制御時に得られる車両駆動力と同じであるならば、運転者が車速を旋回半径短縮制御の開始前の車速に維持するためには、車両制動力による車速の減少量分だけ運転者は加速操作量を増大させなくてはならない。
それに対して、本制御装置によれば、前記制御用車輪制動力によって発生する車両制動力が、通常制御時よりも増加された車両駆動力によって相殺されるので、運転者は、旋回半径短縮制御の開始前後において加速操作量を変更しなくても車速を一定に維持することができる。更に、旋廻半径短縮制御中においても車両駆動力が加速操作量の増加に伴って増加するように制御されるので、運転者による加速操作量に応じて車両を加減速させることができる。
更に、本制御装置によれば、前記制御終了時点以降、同制御終了時点にてCPUにより制御された制動装置により付与されていた車輪制動力が「徐々に」減少され、その結果、車両制動力が徐々に減少される。更に、前記車両駆動力が旋回半径短縮制御を行うCPUにより制御された駆動装置により発生させられていた車両駆動力から通常制御時に発生させられる車両駆動力に向けて「徐々に」減少される。この結果、前記制御終了時点以降において、車両制動力の減少に追従するように駆動力を減少させることができるので、車両が急加速することを回避することができる。
加えて、本制御装置は、タイマTが所定時間Thを計測したとき(即ち、旋回半径短縮制御が所定時間Th以上継続したとき)、旋回半径短縮制御を終了するようになっている。この結果、本制御装置は、車両の旋回半径を短縮するために車輪制動力を発生させる制動装置に所定時間Th以上にわたって比較的大きな負荷がかかることを回避することができる。
次に、本発明の好ましい実施形態の変形例に係る車両の制御装置(以下、「変形例制御装置」と呼称する。)について図5のフローチャートを参照しながら説明する。
変形例制御装置は、本制御装置の備える構成に加えて、路面の勾配γを検出する路面勾配検出手段を更に備える。路面勾配検出手段は、勾配センサにより路面勾配γを算出する手段あってもよく、前後加速度センサにより路面勾配γを算出する手段であってもよい。検出された路面勾配γは、その値が「0」のとき車両が水平であることを表し、その値が正のとき、車両前方が車両後方よりも高い位置にあることを表す。即ち、検出された路面勾配γは、その値が正のとき、車両が登坂路を走行していることを表し、その値が負のとき、車両が降坂路を走行していることを表す。変形例制御装置は、目標車両駆動力Etqtgtを路面勾配γに基づいて設定する点において、上記本制御装置と相違している。
具体的に述べると、変形例制御装置のCPUは、本制御装置における図3のフローチャートに替えて図5のフローチャートに沿って処理を行う。図5のフローチャートは、図3のフローチャートと比較してステップ330に替えてステップ510を用いた点においてのみ相違している。以下、係る相違点を中心に説明する。
旋回半径短縮制御中でない(通常制御中)場合は、変形例制御装置のCPUは、上記本制御装置のCPUと同じ処理を行う。一方、旋回半径短縮制御条件が成立した場合、変形例制御装置のCPUは所定のタイミングにて図5のステップ300から処理を開始し、ステップ305を経て、ステップ310にて旋回半径短縮制御条件が成立しているので「Yes」と判定し、ステップ325を経て、ステップ510へ進む。
CPUはステップ510にて、ステップ305にて設定した通常制御時の目標車両駆動力Etqtgtと、所定の車両駆動力と、を合計した値を新たな目標車両駆動力Etqtgtとして設定する。ここで所定の車両駆動力は、制御用車輪制動力BKFによって発生する車両制動力と実質的に等しい大きさの値f(BKF)に、路面勾配γに基づいて決定される勾配補正値g(γ)を乗ずることによって得られる値f(BKF)・g(γ)である。勾配補正値g(γ)は、ステップ510のブロック内に示されたマップに基づいて、路面勾配検出手段によって検出された路面勾配γによって決定される。このマップによると、勾配補正値g(γ)は降坂路を走行している(γ≦0)のとき「0」から「1」までの間の一定の値、登坂路を走行している(γ>0)のとき|γ|の増大に比例して増大し且つ|γ|が所定値以上において「1」となるように規定されている。
ステップ510にて新たな目標車両駆動力Etqtgtが設定されると、CPUは、本制御装置のCPUが行った処理と同じステップ335以降の処理を行い、ステップ395まで進んで、本ルーチンを一旦終了する。
このことにより、変形例制御装置によれば、路面勾配γが大きいほど車両駆動力が大きくなるように駆動装置が制御される。換言すると、変形例制御装置は、前記旋回半径短縮制御中に増大させられる駆動力である「所定の駆動力」を路面勾配が大きい程大きくなるように路面勾配に応じて設定する。従って、変形例制御装置によれば、旋回半径短縮制御が行われるとともに路面勾配γが大きいことによる車速の低下量を小さくすることができるので、運転者に与える違和感を小さくすることが可能となる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態において、電子制御装置50のCPUからの指示に応じて油圧回路33が旋回半径短縮制御における車輪制動力を生成するようになっていたが、油圧回路33が生成する制動油圧とは独立して車輪制動力を各輪に付与することができる「パーキングブレーキ装置」を制御することにより旋回半径短縮制御における車輪制動力を発生するように構成されてもよい。また、上記実施形態において、旋回半径短縮制御において生成した制御用制動油圧に、マスタシリンダ圧に応じて生成した通常時制動油圧を加えてホイールシリンダに付与していたが、前記制御用制動油圧と前記通常時制動油圧との大小を判断して大きい方の油圧をホイールシリンダに付与してもよい。
また、上記実施形態において、CPUは、前記旋回方向に基づいて、旋回内側後輪に対して車輪制動力を付与するように構成されていたが、CPUは、前記車両の進行方向と前記旋回方向とに基づいて、進行方向及び旋回方向に対する旋回内側後輪に対して車輪制動力を付与してもよい。この際、車両の進行方向の判定は、トランスミッション22又は運転者によるシフトポジションが「D」であるか「R」であるかによって行われてもよく、公知の方法に従って行われてもよい。
更に、上記実施形態において、CPUは、旋回半径短縮制御中における制御用車輪制動力として一定の値を設定していたが、制御用車輪制動力として車速に応じた値(例えば、車速が大きいほど大きい値)を設定してもよく、ステアリングシャフトの回転角度の大きさ|θ|に応じた値(例えば、回転角度の大きさ|θ|が大きいほど大きい値)を設定してもよい。
更に、上記実施形態において、CPUは、旋回半径短縮制御中において増加される所定の車両駆動力に制御用車輪制動力によって発生する車両制動力と実質的に等しい大きさの値f(BKF)を設定していたが、所定の車両駆動力には、「f(BKF)±ξ」(ξは極めて小さい値)を設定してもよい。
また、上記実施形態において、CPUは、旋回半径短縮制御中において増加される所定の車両駆動力に「0」よりも大きく且つ制御用車輪制動力によって発生する車両制動力と実質的に等しい大きさの値「f(BKF)」以下の値を設定してもよい。
これによれば、旋廻半径短縮制御開始後における車速の低下量を小さくできるので、運転者に与える違和感を小さくすることが可能となる。更に、旋回半径短縮制御中において増加される車両駆動力を旋回半径短縮制御のために車両に発生する車両制動力以下とすることができる。従って、所定の加速操作量に対して発生する車両駆動力が過大になることを回避することができる。よって、運転者による加速操作量を増大した場合に車両が急加速することを回避することができる。
更に、上記実施形態において、CPUは、「旋回半径短縮制御中における車両駆動力」を、「通常制御時における車両駆動力」に制御用車輪制動力によって発生する車両制動力と実質的に等しい大きさの「所定の車両駆動力」を加えることによって設定していたが、通常制御時において車両駆動力を設定するテーブルとは独立したテーブルを用いて「旋回半径短縮制御中における車両駆動力」設定してもよい。
また、上記実施形態において、図3又は図5のステップ320にて、スロットルバルブ21bの目標回転角度TAtgtを演算して、スロットルバルブ21bの回転角度が目標回転角度TAtgtと一致するように、スロットルバルブアクチュエータ21cに指示信号を出力した後に、車両の前後加速度を検出し、車両の前後加速度が所定の加速度域内にあるように目標回転角度TAtgtを補正してもよい。車両の前後加速度は、その値が正であるとき車両が車両前方に加速していることを表し、その値が負のとき車両が減速していることを表す。具体的には、車両の減速度が大きい場合、即ち、車両の前後加速度が下限の閾値(<0)を下回っていた場合、換言すると車両の前後加速度が負、且つ、車両の前後加速度の大きさが下限の閾値の大きさよりも大きい場合、CPUは目標回転角度TAtgtをδ(δ>0)だけ増加補正してもよい。また、車両の加速度が大きい場合、即ち、車両の前後加速度が上限の閾値(>0)を上回っていた場合、CPUは目標回転角度TAtgtをδだけ減少補正してもよい。
また、上記実施形態において、CPUは、旋回半径短縮制御中における車両駆動力を、スロットルバルブ21bの回転角度を変更することにより増加させていたが、エンジン21に供給される混合気の空気比を通常制御時よりもリッチ側(通常制御時よりも燃料分の多い空気比)に制御することにより増加させてもよい。また、上記実施形態において、エンジン21が自着火式内燃機関であってもよく、その場合、CPUは、旋回半径短縮制御中における車両駆動力を、エンジン21に供給される燃料の噴射量を増加させるように制御することにより増加させてもよい。
更に、上記実施形態において、車両10は後輪駆動車であるが前輪駆動車又は四輪駆動車であってもよい。また、駆動源はエンジン(内燃機関)以外の電動モータであってもよい。