従来から、製品の品質を保証するために、製品の検査を行っている。製品の検査のうち異音検査では、従来、製品を駆動させたときの音を熟練検査員が聞いて判定する、いわゆる官能検査で、製品の良品・不良品を判定していた。しかしながら、官能検査では、属人性が高く、かつ、高度な専門知識が必要であるため、定量的に安定した検査が行えなかった。
そこで、コスト削減のための省人化と、検査の精度向上やばらつきを低減させて製品の信頼性向上させることを目的として、これまでは熟練検査員の勘・経験に頼るしかなかった官能検査のしくみを自動で行う異音計測システムが近年開発されている。
このような異音計測システムでは、検査対象製品の音や振動を測定し、当該音や振動の波形データから、異常の有無が判断可能な特徴量を演算するための検査用知識(異常音または異常振動を強調させるアルゴリズム)が必要である。当該検査用知識は、対象製品の音や振動、環境ノイズ、時間変化によって、個別に作成される。
ここで、検査用知識の作成、具体的には、特徴(特徴量を演算するためのアルゴリズム)に用いられるパラメータの選択は、従来、分析者(異音検査システムの検査用知識を作成する人)により行われていた。しかしながら、このパラメータの組み合わせ数は、膨大な量である。
例えば、サンプリング周波数:40kHz、分析時間:1秒、フレーム幅(単位時間):0.1秒、フレームシフト幅:0.05秒とする。なお、人間が聞こえる周波数帯域は、10Hz〜20kHzである。ただし、信号処理アルゴリズム上、2倍の分解能が必要であるため、サンプリング周波数を40kHzとしている。また、人間が聞こえる最小の周波数10Hzの波長が最低限1つ入る0.1秒を1フレームとしている。
周波数フィルタの範囲を決めるパラメータである、上限周波数および下限周波数(例えば、3000〜4000Hz)は、10〜20kHzの10Hz刻みの値をとりうる。そのため、これら上限周波数および下限周波数の組合せ総数は、約200万通り(2048C2)である。
また、周波数フィルタの範囲において、特徴(アルゴリズム)は、そのパラメータの組合せ総数も含めると、約6万通りである。特徴抽出(特徴(アルゴリズム)によって特徴量を求めること)によって求められる特徴量とは、例えば、時間tのある範囲(下限パラメータTLおよび上限パラメータTHで指定)における、波形データs(t)の値が閾値(パラメータPTで指定)を越えるピークの数PN(Peak Numbers)である。その他、時間tのある範囲(下限パラメータTLおよび上限パラメータTHで指定)における、ある順位(パラメータRPで指定)に位置するピークの値PV(Peak Value)もある。
さらに、異常成分が発生している時間帯(フレーム)を選択する必要がある。総フレーム数は20(=1/0.05)であるため、取り得る時間帯は、200(20C2)通りである。さらに、異常成分は、定常性のものと衝撃性のものがあり、定常性の異常成分は、各フレームの特徴量の値に着目することで確認でき、衝撃性の異常成分は、各フレームの特徴量の前後の変化量に着目することで確認できる。そこで、各フレームの値に着目して時間帯を選択する場合と、各フレームの前後の変化量の値に着目して時間帯を選択することが考えられるため、取り得る時間帯は、400(200×2)通りとなる。
これらの組合せ総数の積は、約48兆通りである。そのため、従来、このような膨大な組合せの中から、分析者が高度な波形解析の専門知識を使って選択していた。また、対象製品の異常音(または異常振動)は非常に細かいものであり、ある周波数帯域や時間帯を強調しなければわからないものが多い。そのため、非常に大きな工数が必要であり、検査業務の自動化の妨げとなっていた。
そこで、特許文献1、非特許文献1,2では、各種の特徴量を個体とし、該特徴量を抽出するための、各種のパラメータ(周波数帯域を示す周波数パラメータ、特徴量を演算するための演算パラメータなど)を遺伝子とし、パラメータの組合せを個体とした遺伝子アルゴリズムなどの最適化手法を用いて、最適のパラメータを探索する知識作成支援装置が開示されている。
この知識作成支援装置におけるパラメータ探索手法の手順の概要を、図16に示すフローチャートを参照しながら説明する。
まず、知識作成支援装置は、熟練検査員によって予め良品(OK)/不良品(NG)が判別されている波形データを読み込む(S101)。なお、各波形データには、判定結果(OK/NG)が対応付けされている。
次に、知識作成支援装置は、ユーザ入力に従って、探索条件を設定する(S102)。パラメータ探索には、様々なアルゴリズムを適用することが可能であるが、遺伝的アルゴリズムを用いた場合の探索条件としては、以下に示すものがある。
遺伝的アルゴリズムの動作を規定する探索条件としては、個体数、交叉率、突然変異率、世代数がある。個体数は、探索に用いる個体(解候補)の数である。また、交叉率は、個体を交叉させる確率である。突然変異率は、個体の中の遺伝子を突然変異させる確率である。世代数は、遺伝的アルゴリズムを適用する世代数である。
また、探索方法を規定する探索条件としては、分離度重視か分離数重視かの選択があり、分離数重視の場合は上位いくつを使うか、および、各重み係数がある。
さらに、探索終了を規定する探索条件としては、分離度または分離数を示す評価値が一定値を超えた時点(評価値越え)や、評価値が同一の値である世代が一定世代数を超えた時点(回数越え)などがあり、少なくとも1つを具備したときに探索条件を具備したとすることができる。
続いて、知識作成支援装置は、初期の複数の個体をランダムに生成する(S103)。上述したように、個体とは各種の特徴量であり、記特徴量PN、PVなど、特開平11−173909号公報に開示されているような各種の特徴量がある。
次に、各個体(特徴量)の値を演算する(S104)。
その後、知識作成支援装置は、各個体について、演算結果を、OK品とNG品とに分けて集計し、個体ごとの評価値を演算する(S105)。
すなわち、まず、特徴量毎の評価値を式(1)を用いて求める。ここで、係数αは、検査実績ファイルでOKとなっているセンサデータ(以下OK品)の平均が検査実績ファイルでNGとなっているセンサデータ(以下NG品)の平均より小さい場合即ち、NG品を高い値で検出している場合に値を大きくするための係数である。一方、計数βはOK品のグループとNG品のグループが完全に分離した場合に加点するための係数である。なお、式(1)は1例であり、他の式であってもよい。
Vn=α×β×(NGAven−OKAven)/OKσn ・・・ 式(1)
ここで、
Vn=0:OKσ=0
α=100:OKσ>0、AND、(NGAven−OKAven)>0
−20:OKσ>0、AND、(NGAven−OKAven)≦0
β=2:(NGMinn−OKMaxn)>0
β=1:(NGMinn−OKMaxn)≦0
但し
OKAven:OK品の特徴量nの平均値
OKσn:OK品の特徴量nの分散
NGAven:NG品の特徴量nの平均値
NGσn:NG品の特徴量nの分散
OKMinn,OKMaxn:OK品特徴量nの最大値,最小値
NGMinn,NGMaxn:NG品特徴量nの最大値,最小値
n:0 〜 特徴量数−1 である。
そして、最終的な評価値Valは、以下のようにして求める。すなわち、評価値Valは、ユーザが指定する探索方法によって式(2)と式(2)′を使い分ける。
Val=Vm ・・・(2)
Vm:MAX(Vn:n=0〜特徴量数−1)
Val=(w*Vm+(1−w)*Vk)/1 ・・・(2)′
Vm:MAX(Vn:n=0〜特徴量数−1)
Vk:MAX(Vn:n=0〜特徴量数−1かつmを除く)
w: 0.0〜1.0 (ユーザが設定する重み)
探索方法が、分離度優先の場合は式(2)を使い、探索方法が、分離数優先の場合は式(2)′を使う。式(2)′は評価値Vnが上位2つを使う式であるが、任意の上位評価値の重み付き平均でもよい。
次に、知識作成支援装置は、上記各式に基づいて算出した評価値が探索終了を規定する探索終了条件を満足するか確認する(S106)。探索終了を規定する探索条件は、S101を実行することにより設定されたものである。
探索終了条件を満たさない場合(S106でNo)、S103の処理に戻り、交叉または突然変異により新個体を生成し、評価値の低い個体を新個体で置き換え、S104〜S106を繰り返す。
一方、探索終了条件を満たす場合(S106でYes)、知識作成支援装置は、当該探索終了条件を満たす最適解(評価値が最大のパラメータ解1つ)を決定し(S107)、最適解から、良品/不良品の判別知識(判別アルゴリズム)を作成する(S108)。
特開2004−279211(2004年10月7日公開)
オムロンテクニクスVol.43 No.1 pp.99−105(2003)
オムロンテクニクスVol.44 No.1 pp.48−53(2004)
本発明の判定知識作成装置に関する実施の一形態の説明の前に、本装置により設定される判定ルール(判定知識)を用いて、対象製品の良否判定を行う検査装置について説明する。
図2は、検査装置10の構成を示すブロック図である。図2に示されるように、検査装置10は、波形取得部11と、特徴抽出部12と、判定部13と、検査結果出力部14と、特徴量演算パラメータ記憶部15と、ファジィルール記憶部16とを備えている。
波形取得部11は、製品毎に、製品の駆動時の音や振動から波形データを取得する。また製品の駆動時の振動から波形データを取得する。ここで、製品の駆動時の音は、例えばマイク等の音センサ3から得られるものとする。この音センサ3は、製品に接触または近接するように配されており、製品を駆動させた際に生じる音を収集する。また、製品の駆動時の振動は、例えば加速度センサ3から得られるものとする。この加速度センサ3は、製品に接触または近接するように配されており、製品を駆動させた際に生じる振動を収集するものである。収集された音および振動はアンプ(図示せず)により増幅され、A/D変換器5を通して、波形取得部11に送られる。
特徴量演算パラメータ記憶部15は、波形データから特徴量を演算するための演算アルゴリズムであり、当該波形データに適した有効特徴を記憶するものである。特徴量演算パラメータ記憶部15は、当該有効特徴として、波形データからフィルタリングする周波数帯域の上限周波数および下限周波数を示す周波数パラメータと、当該周波数パラメータによりフィルタリングされた波形データから演算可能であり、対象製品の良否判定に用いられる特徴量を識別する特徴量識別情報とを記憶するものである。特徴量とは、波形データから得られる値で示され、製品が良品である場合と不良品である場合とを区別可能とする要素(計測項目)のことである。特徴量とは、製品が良品であるか否かを判定するために用いる物理的特性であり、製品の品質をよく表す特性(品質特性)としてみなすことができる。
特徴量には、該特徴量を演算するために何らかのパラメータが必要な「パラメータ有の特徴量」と、パラメータが不要な「パラメータ無の特徴量」とがある。パラメータ無の特徴量の例としては、波形データの強度の平均値や分散値などが挙げられる。
一方、パラメータ有の特徴量の例としては、図3に示されるような、時間tのある範囲(下限パラメータTLおよび上限パラメータTHで指定)における、波形データs(t)の値が閾値(パラメータPTで指定)を越えるピークの数PN(Peak Numbers)や、時間tのある範囲(下限パラメータTLおよび上限パラメータTHで指定)における、ある順位(パラメータRPで指定)に位置するピークの値PV(Peak Value)がある。特徴量演算パラメータ記憶部15は、「パラメータ有の特徴量」の特徴量識別情報を記憶している場合、当該特徴量を演算するための各種パラメータの値(特徴量PNの場合、パラメータTL、TH、PTの値)も記憶している。
特徴抽出部12は、特徴量演算パラメータ記憶部15に格納されている特徴量識別情報で示される特徴量を、波形取得部11が取得した波形データから算出する。ただし、特徴量識別情報で示される特徴量がパラメータ有の特徴量である場合、特徴抽出部12は、特徴量演算パラメータ記憶部15に格納されている各種パラメータの値を用いて、特徴量を算出する。
ファジィルール記憶部16は、判定部13にて良否判定処理を行う際に使用するファジィルールを記憶するものである。
判定部13は、ファジィルール記憶部16に格納されたファジィルールに従い、特徴抽出部12にて算出された特徴量に対してファジィ推論を行い、許容範囲(閾値)との比較により良否判定を行う。
検査結果出力部14は、例えば、表示デバイス(図示せず)に、判定部13が判定した結果を含む情報、つまり、製品の検査結果の情報を表示したり、記憶装置(図示せず)に格納したりする。
この検査装置10の具体的な構成は、従来公知の各種のものを適用可能であるため、詳細な説明を省略する。本発明に係る判定知識作成装置は、上述した特徴量演算パラメータ記憶部15に格納される周波数パラメータ、特徴量識別情報ならびにパラメータ有の特徴量の場合の各種パラメータの値と、ファジィルール記憶部16に格納されるファジィルールを作成するものである。
(判定知識作成装置の構成)
図4は、本実施形態の判定知識作成装置20の概略構成を示すブロック図である。図4に示されるように、判定知識作成装置20は、波形データベース21と、検査実績データベース22と、良否判定アルゴリズム生成部23とを備えている。また、判定知識作成装置20には、ユーザインターフェイスとして、キーボードやマウスなどの入力装置1と、表示装置2とが接続されている。
波形データベース21は、図5に示されるように、サンプル品等を動作させた時に生じる音や振動をセンサ3で取得した複数の波形データを記憶するものである。波形データベース21は、各波形データに対応づけて、該波形データを識別するための波形IDを記憶している。
検査実績データベース22は、波形IDと、当該波形IDに対応する波形データに対する良品/不良品の判定結果とが対応付けられた検査実績情報を記憶している。
なお、良品/不良品の判定は、予め熟練検査員によって行われている。例えば、波形データの取得時に検査員が実際に対象製品から発生する音等を聴いて判断したり、一旦格納した波形データを再生し、熟練検査員が再生音を聴いて判断する。
良否判定アルゴリズム生成部23は、波形データベース21に格納されている波形データと、検査実績データベース22に格納されている検査実績情報とに基づいて、上述した特徴量演算パラメータ記憶部15に格納される特徴量識別情報および各種パラメータの値(パラメータ有の特徴量に限る)と、ファジィルール記憶部16に格納されるファジィルールとを作成するものである。
良否判定アルゴリズム生成部23は、周波数パラメータ決定部(周波数パラメータ決定手段)30と、特徴最適化部(特徴最適化手段)40と、ルール作成部50とを備えている。
周波数パラメータ決定部30は、波形データベース21に格納されている波形データと、検査実績データベース22に格納されている検査実績情報とに基づいて、異常波形成分が最もよく発生している周波数帯域(最適周波数帯域)を決定し、決定した最適周波数帯域の上限および下限周波数を周波数パラメータとして、検査装置10の特徴量演算パラメータ記憶部15に格納するものである。なお、周波数パラメータ決定部30の詳細な構成については後述する。
特徴最適化部40は、周波数パラメータ決定部30によって決定された周波数帯域において、良品と不良品とを最もよく分離できる特徴量(最適特徴量)を算出するための演算アルゴリズムである有効特徴を探索するものである。また、特徴最適化部40は、パラメータ有の特徴量を最適特徴量として決定する際には、有効特徴として、当該特徴量を演算するための演算パラメータも求める。
上述したように、特徴量を算出するために必要な、周波数パラメータおよび演算パラメータを含む全てのパラメータの組合せは約48兆通りもの膨大な量である。しかしながら、本実施形態では、先に周波数パラメータ決定部30が周波数パラメータを決定する。周波数パラメータの組合せ総数は、約200万通りである。そのため、周波数パラメータ以外のパラメータの組合せ総数は、全数評価が可能な範囲となる。そこで、特徴最適化部40は、全ての「特徴(アルゴリズム)」(パラメータ有の特徴量の場合には、その演算パラメータの値も含む)について、良品/不良品を最も良く分離可能な評価値(以下、特徴量決定用評価値という)を算出し、当該特徴量決定用評価値が最も大きな特徴(アルゴリズム)を最適解(有効特徴)としてルール作成部50に出力する。
そして、特徴最適化部40は、求めた有効特徴を特徴量演算パラメータ記憶部15に格納する。具体的には、特徴最適化部40は、検査装置10の特徴量演算パラメータ記憶部15にアクセスし、最適解で算出される特徴量を識別する特徴量識別情報、ならびに、パラメータ有の特徴量の場合には、その演算パラメータの値を格納する。
ルール作成部50は、周波数パラメータ決定部30によって決定された周波数パラメータと、特徴最適化部40によって求められた最適解の特徴量(パラメータ有の特徴量の場合には、その演算パラメータの値)とに基づいて、ファジィルールを作成するものである。ファジィルール作成のために使用する特徴量ならびにパラメータが既に決定されているので、公知の手法により、“IF THEN方式”のルールを簡単に作成することができる。また、これに基づいてメンバシップ関数も作成できる。そして、ルール作成部50は、検査装置10のファジィルール記憶部16にアクセスし、作成したファジィルールを格納する。
(周波数パラメータ決定部の構成)
次に、周波数パラメータ決定部30の詳細構成について説明する。図1は、周波数パラメータ決定部30の構成を示すブロック図である。図1に示されるように、周波数パラメータ決定部30は、探索条件設定部31と、波形データ分割処理部32と、指標演算部(第1算出手段)33と、評価値演算部(第2算出手段)34と、候補帯域選定部(選定手段)35と、FFT強度グラフ作成部(FFT強度グラフ作成手段)36と、最適帯域設定部(特徴最適化手段)37とを備えている。
波形データ分割処理部32は、波形データベース21に格納されている各波形データから、フレームシフト幅だけずらした、所定の単位時間の複数のフレームデータを抽出するとともに、該フレームデータに対してフィルタリング処理を行い、単位周波数帯域ごとの波形成分データに分割するものである。このとき、波形データ分割処理部32は、各波形成分データに対して、分割前の波形データに対応付けられていた波形IDを付加する。
指標演算部33は、図6に示されるように、各波形データについて、波形データ分割処理部32によって単位周波数帯域ごとに分割された、良品および不良品の各波形成分データから強度を読み取り、該強度に基づいて、異常波形成分の有無を評価するための指標(後述する第1指標および第2指標)を算出する。
異常波形成分とは、良品の波形成分データには現れず、不良品の波形成分データに現れる波形成分である。異常波形成分には、定常性の異常波形成分と、衝撃性の異常波形成分との2種類のものが想定される。
定常性の異常波形成分とは、良品の波形成分データの強度(パワー)に対して、時間方向に拘わらずに追加される強度である。例えば、定常的に発生している音(ブー音)である。
一方、衝撃性の異常波形成分とは、単位時間の強度が、異なる単位時間の間でばらつくものである。ここで、一単位時間を1フレームとする。この場合、衝撃性の異常波形成分を含むフレームの強度は、衝撃性の異常波形成分を含まないフレームの強度よりも大きくなる。例えば、衝撃性の異常波形成分は、一定期間ごとに発生する音(キッキッ音)である。
そこで、指標演算部33は、各波形データについて、単位周波数帯域ごとに、定常性の異常波形成分の有無を評価するための第1指標と、衝撃性の異常波形成分の有無を評価するための第2指標とを算出する。なお、後述するように、第1指標としては平均値が、第2指標としては分散値がある。そして、指標演算部33は、図9に示されるように、波形IDと、単位周波数帯域と、第1指標と、第2指標とが対応付けられた指標データを生成する。
探索条件設定部31は、最適周波数帯域を決定するための周波数パラメータ探索条件として、上述の単位時間、フレームシフト幅、単位周波数帯域、第1指標および第2指標を設定するものである。探索条件設定部31は、ユーザ入力に従って周波数パラメータ探索条件を設定するが、ユーザからの入力が無い場合、デフォルトとして定められた条件に設定する。
単位時間のデフォルトとして0.1秒、フレームシフト幅のデフォルトとして0.05秒が定めれらている。これは、人間が聴くことのできる最低の周波数10Hzの波が最低1つ入る時間が、0.1秒であるからである。なお、探索条件設定部31は、例えば、対象製品がエンジン等の回転駆動するものである場合、ユーザ入力に従って、回転周期の所定倍を単位時間に設定することができる。
単位周波数帯域のデフォルトとして1/3オクターブバンドが定められている。なお、探索条件設定部31は、ユーザ入力に従って、単位周波数帯域として、1/nオクターブバンド(n≠3)、所定周波数ごとの等間隔の帯域、などが設定可能である。
第1指標のデフォルトとして、波形成分データの強度(パワー)の平均値が定められている。これは、定常性の異常波形成分が発生している不良品の波形成分データの強度が、良品の波形成分データの強度に比べて大きくなるからである。図7に示されるように、例えば8000〜10000Hzで定常性の異常波形成分が発生する場合、8000〜10000Hzの単位周波数帯域において、良品の波形成分データの強度における時間方向の平均値よりも、不良品の波形成分データの強度における時間方向の平均値が大きくなる。
なお、探索条件設定部31は、ユーザ入力に従って、第1指標として、波形成分データの強度の中央値などが設定可能である。中央値である場合、ノイズや外れ値の影響が少なくなる。
第2指標としては、衝撃性の異常波形成分を含むフレームの強度が、衝撃性の異常波形成分を含むフレームの強度よりも十分に大きい場合には、波形成分データにおける単位時間ごとの強度、のばらつきを示す分散値を用いることができる。図8に示されるように、例えば8000〜10000Hzで衝撃性の異常波形成分が発生する場合、良品の波形成分データの単位時間ごとの強度の分散値よりも、不良品の波形成分データのの単位時間ごとの強度の分散値が大きくなる。
その他、第2指標として、波形成分データの尖り度や最大値が設定可能である。衝撃性の異常波形成分を含む波形成分データの強度の最大値が、衝撃性の異常波形成分を含まない波形成分データの強度の最大値よりも十分大きい場合には、最大値を第2指標として用いることができる。また、衝撃性の異常波形成分を含むフレームの数が、衝撃性の異常波形成分を含む波形の全フレーム数と比較して十分に少ない場合には、尖り度を第2指標として用いることができる。尖り度を用いることにより、衝撃度合いを評価することができる。また、最大値を用いることにより、単発の異常を捉えることができる。
探索条件設定部31は、ユーザ入力に従って、第2指標を設定する。ここでは、第2指標として、「単位時間ごとの強度」の分散値が設定されたものとする。
評価値演算部34は、検査実績データベース22に格納されている検査実績情報に基づいて、単位周波数帯域ごとに、良品の波形データに対して指標演算部33によって演算された第1指標の値と、不良品の波形データに対して指標演算部33によって演算された第1指標の値と、の分離度合いを示す評価値(以下、周波数決定用評価値という)を演算する。同様に、評価値演算部34は、検査実績データベース22に格納されている検査実績情報に基づいて、単位周波数帯域ごとに、良品の波形データに対して指標演算部33によって演算された第2指標の値と、不良品の波形データに対して指標演算部33によって演算された第2指標の値と、の分離度合いを示す周波数決定用評価値を演算する。そして、評価値演算部34は、図11に示されるように、単位周波数帯域と、第1指標に対する周波数決定用評価値と、第2指標に対する周波数決定用評価値とが対応付けられた評価値データを生成する。
本実施形態では、評価値演算部34は、周波数決定用評価値として、以下の式(3)で示される望大特性のSN比を演算する。
式(3)に示される望大特性のSN比は、異常波形成分が含まれる場合に、不良品の波形データから演算された第1指標(または第2指標)が、良品の波形データから演算された第1指標(または第2指標)の分布から離れるほど値が大きくなるものである。この望大特性のSN比は、不良品の波形データの数が少なくても、精度の良い値となるというメリットがある。生産ラインによっては、製造される製品のほぼ全てが良品であり、不良品の発生する確率が少ないものがある。このような場合、判定知識を作成する際にも、良品サンプルの波形データの数に比べて、不良品サンプルの波形データの数が少なくなる。しかしながら、このような場合であっても、式(3)に示したSN比を用いることで、良品の波形データに対して指標演算部33によって演算された第1指標(または第2指標)と、不良品の波形データに対して指標演算部33によって演算された第1指標(または第2指標)と、の分離度合いを精度良く評価することができる。
図10は、SN比の大小と、良品/不良品の波形データから演算された第1指標(または第2指標)との関係を示す図である。不良品の波形成分データに異常波形成分が含まれている単位周波数帯域では、不良品の波形データから演算された第1指標(または第2指標)が良品の波形データから演算された第1指標(または第2指標)の分布から離れることとなる。このとき、図10に示されるように、SN比が大きくなる。一方、不良品の波形成分データに異常波形成分が含まれていない単位周波数帯域では、不良品の波形データから演算された第1指標(または第2指標)が良品の波形データから演算された第1指標(または第2指標)の分布に含まれることとなる。このとき、図10に示されるように、SN比が小さくなる。
なお、周波数決定用評価値は、式(3)で示される望大特性のSN比に限定されるものではない。この他に、平均値の差や、分布の差を示す相関比あるいはカルバックライブラー情報量、F値などを用いても良い。
候補帯域選定部35は、評価値演算部34によって演算された周波数決定用評価値(ここでは、望大特性のSN比)に基づいて、定常性の異常波形成分が発生していると予想される周波数帯域、ならびに、衝撃性の異常波形成分が発生していると予想される周波数帯域の候補を選定するものである。
本実施形態での候補帯域選定部35の具体的な選定方法を図12を参照しながら説明する。まず、候補帯域選定部35は、各単位周波数帯域の第1指標および第2指標の各々の望大特性のSN比を、値の大きい順(以下、分離順位という)に並べる(図12において、○内の数字がSN比の大きい順を示している)。そして、候補帯域選定部35は、分離順位第1位のSN比に対応する単位周波数帯域を第1グループとする。ここで、分離順位第1位のSN比に対応する指標(第1指標または第2指標)を第1グループの指標とする。次に、候補帯域選定部35は、分離順位第2位のSN比に対応する指標(第1指標または第2指標)が第1グループの指標と同じであり、かつ、分離順位第2位のSN比に対応する単位周波数帯域が第1グループに含まれる単位周波数帯域と隣合う場合には、該分離順位第2位のSN比に対応する単位周波数帯域を第1グループに含め、そうでない場合には、該分離順位第2位のSN比に対応する単位周波数帯域を第2グループとする。その後、候補帯域選定部35は、分離順位の順に、各単位周波数帯域のグループ分けを行う。すなわち、候補帯域選定部35は、分離順位第n位のSN比に対応する指標(第1指標または第2指標)が作成済みの第Nグループの何れかのグループの指標と同じであり、かつ、分離順位第n位のSN比に対応する単位周波数帯域が該グループに含まれる単位周波数帯域と隣合う場合には、分離順位第n位のSN比に対応する単位周波数帯域を該グループに含め、そうでない場合には、分離順位第n位のSN比に対応する単位周波数帯域を第N+1グループとする。このようにして、候補帯域選定部35は、第6グループまで作成し、第1〜第5グループを、異常波形成分が発生していると予想される周波数帯域の候補(候補周波数帯域)として選定する。
そして、グループの指標が第1指標である場合、当該グループを、定常性の異常波形成分の候補周波数帯域とし、グループの指標が第2指標である場合、当該グループを、衝撃性の異常波形成分の候補周波数帯域とする。
なお、対象製品によっては、定常性または衝撃性のいずれかの異常波形成分に偏る場合がある。このような場合であっても、上記の方法により候補周波数帯域を選定することにより、候補周波数帯域も、異常波形成分の偏りに応じて、定常性または衝撃性のいずれかに偏ることとなる。
FFT強度グラフ作成部36は、各波形データをFFT解析し、検査実績情報が「良品」に対応する波形データのFFT解析結果を集計するとともに、検査実績情報が「不良品」に対応する波形データのFFT解析結果を集計する。そして、FFT強度グラフ作成部36は、図13に示されるように、集計したFFT解析結果に基づいて、検査実績情報「良品」/「不良品」の各々について、時間軸と周波数軸とで構成される2次元のFFT強度グラフを作成する。なお、図13において、強度は、濃淡(または色)によって表されている。
最適帯域設定部37は、候補帯域選定部35によって選定された第1〜第5グループの候補周波数帯域の中から、特徴最適化部40によって特徴量およびそのパラメータが最適化される周波数帯域(最適周波数帯域)を決定するものである。
本実施形態では、最適帯域設定部37は、候補帯域選定部35によって選定された第1〜第5グループの候補周波数帯域と、FFT強度グラフ作成部36によって作成された検査実績情報「良品」/「不良品」の各々に対応するFFT強度グラフとを表示装置2に表示させる。そして、最適帯域設定部37は、第1〜第5グループの候補周波数帯域の中から、ユーザによって指定された候補周波数帯域を最適周波数帯域として決定する。
なお、最適帯域設定部37は、最適周波数帯域として、複数の帯域を決定してもよい。異なる種類の異常波形成分(定常性の異常波形成分と衝撃性の異常波形成分)が同一の周波数帯域で発生するとは限らないからである。
ユーザは、FFT強度グラフと、候補周波数帯域とを見比べて、最適周波数帯域を指定することができる。
(判定知識の作成処理の流れ)
次に、本実施形態に係る判定知識作成装置20における、判定知識の作成処理の流れについて、図14に示すフローチャートを参照しながら説明する。
まず、良否判定アルゴリズム生成部23の周波数パラメータ決定部30および特徴最適化部40は、波形データベース21から波形データを、検査実績データベース22から検査実績情報を読み込む(S1)。
次に、周波数パラメータ決定部30の探索条件設定部31、および特徴最適化部40は、入力装置1へのユーザ入力に従って、最適解の探索条件を設定する(S2)。
具体的には、周波数パラメータ決定部30の探索条件設定部31は、ユーザ指示に従って、周波数パラメータ探索条件である、単位時間、フレームシフト幅、単位周波数帯域、第1指標および第2指標を設定する。ただし、探索条件設定部31は、ユーザ指示がない場合、周波数パラメータ探索条件をデフォルトに設定する。ここでは、探索条件設定部31は、デフォルト設定を行ったものとする。
また、特徴最適化部40は、ユーザ指示に従って、探索方法として、分離度優先および分離数優先の何れかを設定する。
次に、周波数パラメータ決定部30は、異常波形成分が発生している最適周波数帯域の上下限を示す周波数パラメータを決定する(S3)。なお、S3の処理の詳細については後述する。
続いて、特徴最適化部40は、波形データベース21に格納されている各波形データについて、周波数パラメータ決定部30によって決定された最適周波数帯域でフィルタリング処理を行い、フィルタ処理後データを生成する。そして、特徴最適化部40は、各フィルタ処理後データに基づいて、予め定められた複数種類の特徴量を演算する(S4)。
ここで、特徴最適化部40は、パラメータ有の特徴量について、当該パラメータの全ての組合せごとに、当該特徴量を演算する。すなわち、パラメータの組合せ数がm個の特徴量Mについて、特徴最適化部40は、各パラメータの組合せに対応する特徴量M−1〜M−mを演算する。
次に、特徴最適化部40は、特徴量ごとに、検査実績データベース22に格納されている検査実績情報に基づいて、良品/不良品のグループ分けを行い、良品/不良品の分離度または分離数を示す特徴量決定用評価値を算出する(S5)。
特徴量決定用評価値の算出方法は公知の技術を用いればよい。すなわち、特徴最適化部40は、特徴量毎の評価値を背景技術の欄に記載の式(1)を用いて求め、S2において、探索方法「分離度優先」を設定している場合、背景技術の欄に記載の式(2)に従って、特徴量決定用評価値Valを算出し、探索方法「分離数優先」を設定している場合、背景技術の欄に記載の式(2)′に従って、特徴量決定用評価値Valを算出する。
そして、特徴最適化部40は、特徴量決定用評価値が最も高い特徴量を演算するための特徴(アルゴリズム)を最適解(有効特徴)とし、当該特徴量、ならびに、パラメータ有の場合にはその演算パラメータの値をルール作成部50に出力する(S6)。
その後、ルール作成部50は、特徴最適化部40によって決定された特徴量(パラメータ有の特徴量の場合には、その演算パラメータの値)に基づいて、ファジィルールを作成し、検査装置10のファジィルール記憶部16に格納する(S7)。これにより、処理を終了する。
(最適周波数帯域の決定処理の流れ)
次に、周波数パラメータ決定部30における最適周波数帯域の決定処理の流れを図15に示すフローチャートを参照しながら説明する。
まず、波形データ分割処理部32は、波形データベース21に格納されている各波形データから、S2で設定した単位時間およびフレームシフト幅の複数のフレームデータを抽出する。さらに、波形データ分割処理部32は、各フレームデータに対してフィルタリング処理を行い、S2で設定した単位周波数帯域ごとの波形成分データに分割する(S11)。
次に、指標演算部33は、図6に示されるように、各波形データについて、単位周波数帯域ごとに第1指標(ここでは、時間方向の平均値)および第2指標(ここでは、時間方向の分散値)を演算する(S12)。そして、指標演算部33は、図9に示されるように、波形IDと、単位周波数帯域と、第1指標と、第2指標とが対応付けられた指標データを生成する。
続いて、評価値演算部34は、検査実績データベース22の検査実績情報を参照して、各波形IDを良品/不良品の何れかに分ける。そして、評価値演算部34は、図9に示される指標データに基づいて、単位周波数帯域ごとに、良品の波形成分データから演算された平均値と、不良品の波形成分データから演算された平均値との分離度合いを示す望大特性のSN比を演算する。同様に、評価値演算部34は、単位周波数帯域ごとに、良品の波形成分データから演算された分散値と、不良品の波形成分データから演算された分散値との分離度合いを示す望大特性のSN比を演算する(S13)。そして、評価値演算部34は、図11に示されるように、単位周波数帯域と、第1指標に対するSN比と、第2指標に対するSN比とが対応付けられた評価値データを生成する。
その後、候補帯域選定部35は、S13で算出されたSN比の大きさに従って、図12に示されるように、5つの候補周波数帯域を選定する(S14)。当該選定方法の詳細については上述したので、ここでは説明を省略する。
次に、FFT強度グラフ作成部36は、各波形データに基づいて、FFT強度グラフを求める。そして、FFT強度グラフ作成部36は、良品の各波形データに対応するFFT強度グラフを集約し、1つのFFT強度グラフを生成する。同様に、FFT強度グラフ作成部36は、不良モードの種類ごとに、不良品の各波形データに対応するFFT強度グラフを集約し、1つのFFT強度グラフを生成する(S15)。
次に、最適帯域設定部37は、候補帯域選定部35が選択した候補周波数帯域と、FFT強度グラフ作成部36が作成したFFT強度グラフとを表示装置2に表示するとともに、候補周波数帯域の再選定の指示を受け付ける(S16)。このとき、ユーザは、FFT強度グラフと候補周波数帯域とを見比べて、候補周波数帯域が異常波形成分を含む帯域か否かを確認することができる。そして、再選定が必要であると判断した場合、ユーザは、再選定の指示を入力装置1に入力すればよい。一方、再選定が必要でない、つまり、候補周波数帯域の中に異常波形成分を適格に含む周波数帯域があると判断した場合、ユーザは、当該周波数帯域を最適周波数帯域として選択入力すればよい。
その後、最適帯域設定部37は、候補周波数帯域の再選定の指示の有無を確認する(S17)。再選定の指示が入力された場合(S17でYes)、探索条件設定部31は、周波数パラメータ探索条件の再入力を促す画面を表示装置2に表示し、ユーザ入力に従って、周波数パラメータ探索条件の再設定を行う(S18)。
一方、再選定の指示がない場合(S17でNo)、最適帯域設定部37は、ユーザ入力で指定された候補周波数帯域を最適周波数帯域として決定し、該最適周波数帯域の上下限を示す周波数パラメータを検査装置10の特徴量演算パラメータ記憶部15に格納する(S19)。
(変形例)
上記説明では、検査実績情報には、良品/不良品の判定結果が含まれるとした。しかしながら、これに限らず、検査実績情報には、不良品である場合に、不良(異常)の種類(クラス)を示すクラス別情報が含まれていてもよい。
この場合、FFT強度グラフ作成部36は、クラスごとに、波形データのFFT解析結果を集計し、FFT強度グラフを作成すればよい。これにより、ユーザは、どのクラスの異常がどの周波数で発生しているのかを確認することができる。
また、上記説明では、特徴最適化部40は、全ての特徴(アルゴリズム)について、良品/不良品を最も良く分離可能な特徴量決定用評価値を算出し、当該特徴量決定用評価値が最も大きな特徴を最適解(有効特徴)としてルール作成部50に出力するものとした。しかしながら、これに限らず、特徴最適化部40は、最適解を探索する手法として、GA(遺伝的アルゴリズム)、NN(ニューラルネットワーク)、SVM(サポートベクターマシン)などを用いてもよい。
また、上記説明では、最適帯域設定部37は、ユーザ入力に従って、候補周波数帯域の中から指定された帯域を最適周波数帯域として決定するものとした。しかしながら、これに限らず、最適帯域設定部37は、候補周波数帯域の全てを最適周波数帯域として決定してもよい。この場合、ユーザの操作を省くことができる。
また、上記説明では、候補帯域選定部35は、図12に示される方法に従って、5つの候補周波数帯域を選定するものとした。しかしながら、選定方法がこれに限定されるものではない。例えば、候補帯域選定部35は、特徴量決定用評価値の順位が第1位の単位周波数帯域のみを候補周波数帯域としてもよい。もしくは、候補帯域選定部35は、特徴量決定用評価値の順位が第1〜n位までの単位周波数帯域を候補周波数帯域としてもよい。
以上のように、本実施形態の判定知識作成装置20は、取得した波形データに対し、特徴量抽出処理を行って得られた特徴量に基づいて、検査対象物が良品であるか不良品であるかを検査する検査装置10における、前記検査対象物に適したアルゴリズムである有効特徴を求める装置である。そして、判定知識作成装置20は、予め与えられた良品の波形データおよび不良品の波形データから、異常波形成分が発生している最適周波数帯域を示す周波数パラメータを決定する周波数パラメータ決定部(周波数パラメータ決定手段)30と、周波数パラメータ決定部30によって決定された周波数パラメータで示される最適周波数帯域の波形成分に基づいて、上記有効特徴を求める特徴最適化部(特徴最適化手段)40とを備える。
上述したように、特徴量を演算するための演算アルゴリズム(「特徴」)は、特徴量を演算するためのパラメータの組合せを考慮すると、約48兆通りもの膨大な数となる。この中で最も組合せ数が多いのは、特徴量を抽出する周波数帯域を示す周波数パラメータであり、約200万通りである。
従来では、約48兆通りの組合せの中から総当り的に最適解(有効特徴)を探索していたが、上記の構成によれば、まず最初に、異常波形成分が発生している最適周波数帯域を周波数パラメータとして決定し、その後に有効特徴を求める。
そのため、200万通りから、最適な1つまたは数個の周波数パラメータを探索する時間は、48兆通りから探索する時間に比べて、一層短縮することができる。また、先に周波数パラメータが決定されているので、当該周波数パラメータで示される帯域において、有効特徴を求める時間も短時間で済む。また、周波数パラメータを探索する時間と、有効特徴を求める時間との合計も、48兆通りから探索する時間に比べて、短くなる。このように、段階的に有効特徴を求めることで、判定知識としての特徴量の最適解を短時間で出力することができる。
また、48兆通りから総当り的に探索する場合に比べて、先に周波数パラメータを決定し、決定した周波数パラメータから有効特徴を求めているという導出過程を顧客に対して説明しやすくなり、顧客の信用を得ることができる。
特に、周波数パラメータは、異常波形成分を捉えているか否かを決める重要な要素である。そして、周波数パラメータを決定する段階で、顧客は、良品/不良品の波形データと、決定された周波数パラメータとを比較することで、周波数パラメータが最適であることを確認することも可能である。その結果、特徴量の導出過程に対する顧客の信用を一層得ることができる。
さらに、周波数パラメータ決定部30は、良品の波形データおよび不良品の波形データから、複数の単位周波数帯域の波形成分を抽出し、各波形成分の特徴を示す指標(第1指標および第2指標:第1の値)を算出する指標演算部(第1算出手段)33と、単位周波数帯域ごとに、良品の波形データに対応する指標と、不良品の波形データに対応する指標との分離状態を示す周波数決定用評価値(第2の値)を算出する評価値演算部(第2算出手段)34と、周波数決定用評価値に基づいて、周波数パラメータを決定する候補帯域選定部(選定手段)35、FFT強度作成部(FFT強度グラフ作成手段)36および最適帯域設定部(最適周波数帯域決定手段)37とを備える。
上述したように、ある単位周波数帯域において、良品の波形データに対応する指標と不良品の波形データに対応する指標とが分離しているということは、当該単位周波数帯域において、不良品の波形成分に異常波形成分が発生していることを意味する。
そのため、良品の波形データに対応する指標と、不良品の波形データに対応する指標とがより一層分離していることを示す周波数決定用評価値を持つ単位周波数帯域、つまり、異常波形成分が発生している単位周波数帯域を、最適周波数帯域として決定することができる。
なお、指標演算部33は、波形成分の強度を示す第1指標(例えば、平均値や中央値など)を算出する。定常性の異常波形成分は、良品にはない強度が、不良品において追加される。そのため、第1指標に基づいた周波数決定評価値により、候補帯域選定部35および最適帯域設定部37は、定常性の異常波形成分が発生している周波数帯域を最適周波数帯域として決定することができる。
また、指標演算部33は、波形成分の強度の時間方向のばらつきを示す第2指標(例えば、分散値、尖り度、最大値)を算出する。衝撃性の異常波形成分は、良品にも存在する強度が不良品において時間的にばらつくものである。そのため、第2指標に基づいた周波数決定評価値により、候補帯域選定部35および最適帯域設定部37は、衝撃性の異常波形成分が発生している周波数帯域を最適周波数帯域として決定することができる。
また、単位周波数帯域ごとの周波数決定評価値を、良品の波形データに対応する指標と不良品の波形データに対応する指標とがより分離している順に並べたときの順位を分離順位とするとき、候補帯域選定部35は、分離順位の上位の複数の単位周波数帯域を、候補周波数帯域とし、最適帯域設定部37が該候補周波数帯域を最適周波数帯域として決定する。
これにより、良品の波形データに対応する指標と、不良品の波形データに対応する指標とがより分離している複数の単位周波数帯域を最適周波数帯域として決定することができる。異常波形成分は、故障モードによって発生する周波数が異なる。そのため、複数種類の故障モードに対応する異常波形成分が発生している場合でも、各異常波形成分が発生している周波数帯域を最適周波数帯域として決定することができる。
さらに、判定知識作成装置20は、分離順位の上位の複数の単位周波数帯域を候補周波数帯域として選定する候補帯域選定部(選定手段)35と、良品の波形データに対応するFFT強度グラフ、ならびに、上記不良品の波形データに対応するFFT強度グラフを作成するFFT強度グラフ作成部(FFT強度グラフ作成手段)36と、FFT強度グラフと候補帯域選定部35が選定した複数の候補周波数帯域とを表示装置2に表示させ、ユーザ入力に従って、該複数の候補周波数帯域の中から最適周波数帯域を決定する最適帯域設定部(最適周波数帯域決定手段)37とを備える。
上記の構成によれば、ユーザは、表示されたFFT強度グラフと候補周波数帯域とを比較しながら、どの候補周波数帯域を最適周波数帯域とするかを選択することができる。ユーザは、FFT強度グラフを確認することで、例えば異常なノイズや外れ値の影響によって選定された候補周波数帯域を最適周波数帯域から除外することが可能となる。
さらに、判定知識作成装置20において、候補帯域選定部35は、分離順位の上位の複数の単位周波数帯域の中に、隣り合う単位周波数帯域がある場合、これら隣り合う単位周波数帯域をまとめて、1つの候補周波数帯域とする。
検査装置では、複数の故障モードを一度の検査で判定することが望まれる。しかしながら、故障モードによって異常波形成分が発生する周波数帯域は異なる。また、検査装置によって一度に検査できる周波数帯域の個数には制限がある(例えば5個)。
しかしながら、上記の構成によれば、隣り合う単位周波数帯域をまとめて、1つの候補周波数帯域とする。その結果、この候補周波数帯域を選択することで、異常波形成分が発生している複数の隣り合う単位周波数帯域を1つの最適周波数帯域として決定することができる。この1つの最適周波数帯域には、複数の異常波形成分が含まれており、これら異常波形成分が異なる故障モードによるものであるとき、複数の故障モードを一度に検査することが可能となる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
最後に、判定知識作成装置20の各ブロック、良否判定アルゴリズム生成部23は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、判定知識作成装置20は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである判定知識作成装置20の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記判定知識作成装置20に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、判定知識作成装置20を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。