JP4967123B2 - 種子繁殖による早期開花方法及びその方法で生産した種子繁殖苗木 - Google Patents
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本発明は、種子繁殖による早期開花方法及びその方法で生産した種子繁殖苗木に関し、更に詳しくは、観賞用モモ等のバラ科植物の中で核果類と称する群に属するものを種子繁殖させ、実生当年で早期に開花させることができる種子繁殖による早期開花方法、及び、その方法で生産した種子繁殖苗木に関する。
種子を播いて果樹などの樹木作物を育てた場合には、果実が成るまでにはおよそ3年以上の長い期間を必要とする。これは、果樹などの樹木作物を種子から成育させると、初めは花芽ができない「幼若相」が存在し、ある大きさまでに生育して初めて花芽を形成できる「成熟相」に達するためである。例えばモモを例にすれば、発芽した後に栄養成長と自然休眠を繰り返し、2〜3年の幼木期を経て3〜4年目に花芽がつくとされている(例えば、非特許文献1を参照)。
一方、挿し木や接ぎ木により果樹などの樹木作物を育てた場合には、成熟相に既に達している樹木から、接ぎ穂や挿し穂を採り、これを挿し木や接ぎ木をして育てるので、すぐに花芽ができる。したがって、観賞樹木では、挿し木や接ぎ木をしてから1〜2年で観賞でき、専ら苗は栄養繁殖で供給されている。また、挿し木などの栄養繁殖で供給されれば、同一の形質を有する苗木を無数に供給することができるので、上述した種子繁殖は品種改良を行う際の交雑実生を獲得する時に行うことがあっても、通常の苗木生産には利用されないのが実情である。
石田雅士著、「果樹園芸大百科5 モモ」、出版元:農文協、p.21〜30、p.53〜54(2005年)
石田雅士著、「果樹園芸大百科5 モモ」、出版元:農文協、p.21〜30、p.53〜54(2005年)
観賞用樹木は、接ぎ木や挿し木などの栄養繁殖によって大量増殖したクローンが苗木として供給されてきたが、こうしたクローン苗木は環境適応幅が限定され、グローバルな環境変動に対する順応性には問題があり、実際においても寿命が短いという問題があった。
一方、種子繁殖による実生樹は、(i)長寿命であるので公園植栽や緑化に有用であること、(ii)ウイルス病を保持しないので伝染源になり難いこと、(iii)対立遺伝子のヘテロ接合性が高いので変異幅が大きくて多様性を有すること、等の利点がある。しかし、実生集団内での表現形質が不揃いになり易く、観賞用樹木としての生産歩留まりが低下すると共に形態等の整合性に欠けることがあり、さらに、実生樹は開花までに長期間を要するという問題があり、こうした問題を解決できれば、上記利点を有する種子繁殖苗木が流通することになる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、観賞用モモ等のバラ科植物の中で核果類と称する群に属するものを種子繁殖させ、実生当年で早期に開花させることができる種子繁殖による早期開花方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうした早期開花方法で生産した種子繁殖苗木を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明の種子繁殖による早期開花方法は、バラ科植物の中で核果類と称する群に属するものを種子繁殖により早期に開花させる方法であって、発芽促進処理された種子を播き、実生苗を自然休眠させることなく当該実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数に至らせるまで生育を促進する工程と、前記所定の節数に至った実生苗にストレス処理を行って花芽分化を促進する工程と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、発芽促進処理された種子を播き、実生苗を自然休眠させることなくその実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数に至らせるまで生育を促進する工程と、所定の節数に至った実生苗にストレス処理を行って花芽分化を促進する工程とを有するので、種子繁殖による実生当年での開花、すなわち種子を播いてから1年での早期の開花を実現できる。その結果、長寿命の実生樹について、その表現形質を1年で確認し選別することができるので、観賞用樹木形態の整合性と生産歩留まりを著しく向上させることができる。
上記本発明の種子繁殖による早期開花方法において、前記花芽分化促進工程における好ましいストレス処理は、前記実生苗の主幹周囲の断根処理、又は、水欠乏処理である。
この発明によれば、花芽分化促進工程における好ましいストレス処理として、実生苗の主幹周囲の断根処理又は水欠乏処理を行うことにより、成熟相に達した部分からの花芽分化を促進させることができ、その結果、実生当年での開花を実現できる。
上記本発明の種子繁殖によるさらに好ましい早期開花方法としては、前記花芽分化促進工程において、前記ストレス処理後に花芽分化した実生苗を、落葉後に一定時間低温遭遇させることである。
この発明によれば、花芽分化促進工程において、ストレス処理後に花芽分化した実生苗を落葉後に一定時間低温遭遇させることにより、成熟相に達した部分からの花芽分化を促進させることができ、その結果、実生当年での開花を実現できる。
上記本発明の種子繁殖による早期開花方法において、前記バラ科植物の中で核果類と称する群に属するもののうち好ましい植物として、モモ、スモモ、アンズ、ニワウメ、ユスラウメ、フラワーアーモンド等に適用できる。
上記課題を解決するための本発明の種子繁殖苗木は、上記本発明の種子繁殖による早期開花方法により開花させた苗木であって、幼若相領域と成熟相領域を有することを特徴とする。
この発明によれば、種子繁殖による早期開花方法により開花させた苗木が幼若相領域と成熟相領域を有するので、接ぎ木や挿し木で生育させた幼若相領域を有さないものとは明らかに異なる形態を示している。その結果、(i)長寿命であるので公園植栽や緑化に有用であり、(ii)ウイルス病を保持しないので伝染源になり難く、(iii)対立遺伝子のヘテロ接合性が高いので変異幅が大きくて多様性を有するという特徴がある本発明の長寿命の種子繁殖苗木と、接ぎ木や挿し木で生育させた苗木とを区別できる。
上記本発明の種子繁殖苗木の好ましい態様としては、観賞形質別に選別された実生集団からなる苗木である。
この発明によれば、種子繁殖による実生当年で開花するので、極めて早期に観賞形質別に選別して市場に投入することができる。その結果、上記特有の効果を奏する本発明の種子繁殖苗木を需要者に早期に提供できるという格別の効果がある。
上記本発明の種子繁殖苗木のうち好ましい苗木は、モモ、スモモ、アンズ、ニワウメ、ユスラウメ、フラワーアーモンド等である。
本発明の種子繁殖による早期開花方法によれば、種子繁殖による実生当年での開花、すなわち種子を播いてから1年での早期の開花を実現できるので、長寿命の実生樹について、その表現形質を1年で確認し選別することができ、観賞用樹木形態の整合性と生産歩留まりを著しく向上させることができる。特に生育中の実生苗を自然休眠させることなく所定の節数に至らせ、その後に実生苗にストレス処理を行うので、成熟相に達した部分からの花芽分化を起こし、その結果、実生当年での開花を実現できる。
本発明の種子繁殖苗木によれば、接ぎ木や挿し木で生育させた幼若相領域を有さないものとは明らかに異なる形態を示すので、(i)長寿命であるので公園植栽や緑化に有用であり、(ii)ウイルス病を保持しないので伝染源になり難く、(iii)対立遺伝子のヘテロ接合性が高いので変異幅が大きくて多様性を有するという特徴がある本発明の長寿命の種子繁殖苗木と、接ぎ木や挿し木で生育させた苗木とを区別でき、需要者の利益に応えることができる。
また、バラ科植物の中で核果類と称する群に属するモモ等の花木類は、観賞形質が主たる価値であり、この価値判断に支障を来すほどの変異の発現でなければその他の形質に対しては許容度が大きいと考えられる。そこで、観賞形質別に早期に選別した実生集団を獲得できれば、実生品種群として流通させることができるが、本発明の種子繁殖苗木は、種子繁殖による実生当年で開花するので、極めて早期に観賞形質別に選別して市場に早期に投入することができる。
以下、本発明の種子繁殖による早期開花方法及び種子繁殖苗木について以下に詳しく説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する範囲を包含し、以下に示す形態等に限定されない。
(種子繁殖による早期開花方法)
本発明の種子繁殖による早期開花方法は、バラ科植物の中で核果類と称する群に属するものを種子繁殖により早期に開花させる方法であって、発芽促進処理された種子を播き、実生苗を自然休眠させることなくその実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数に至らせるまで生育を促進する工程(生育促進工程ともいう。)と、所定の節数に至った実生苗にストレス処理を行って花芽分化を促進する工程(花芽分化工程ともいう。)とを少なくとも有する。本発明の種子繁殖による早期開花方法は、言い換えれば、種子繁殖苗木の製造方法ということができ、少なくとも上記の2つの工程を有するが、必要に応じてそれ以外の工程を含んでいてもよい。
本発明の種子繁殖による早期開花方法は、バラ科植物の中で核果類と称する群に属するものを種子繁殖により早期に開花させる方法であって、発芽促進処理された種子を播き、実生苗を自然休眠させることなくその実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数に至らせるまで生育を促進する工程(生育促進工程ともいう。)と、所定の節数に至った実生苗にストレス処理を行って花芽分化を促進する工程(花芽分化工程ともいう。)とを少なくとも有する。本発明の種子繁殖による早期開花方法は、言い換えれば、種子繁殖苗木の製造方法ということができ、少なくとも上記の2つの工程を有するが、必要に応じてそれ以外の工程を含んでいてもよい。
本発明の種子繁殖による早期開花方法の対象となるものとして、バラ科植物の中で核果類と称する群に属するものが好ましく挙げられ、例えば、モモ、スモモ、アンズ、ニワウメ、ユスラウメ、フラワーアーモンド等の観賞用苗木が好ましいものとして挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、本発明の技術思想を共有するものであればそれ以外の品種にも適用できる。なお、ハナモモ品種については、矢口、中生白、緋桃、おはつ桃、京更紗、寒白、菊桃、寿星桃、白枝垂、等の品種を例示できる。
生育促進工程は、発芽促進処理された種子を播き、実生苗を自然休眠させることなくその実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数に至らせるまで生育を促進させる工程である。種子は、上記のバラ科植物の中で核果類と称する群に属するものの種子を用いる。種子の発芽促進処理としては、種子を低温湿潤処理する方法を好ましく適用できるが、それ以外の方法、例えば種皮を剥皮する方法等であっても構わない。なお、種子を低温湿潤処理する方法は、種子を湿潤冷蔵した後に温室で発芽させる方法であるが、その時の必要低温量等の条件は品種により異なる。
発芽促進処理された種子とは、例えば上記の低温湿潤処理等の発芽促進処理により核が割れて発芽した種子や、例えば種皮を剥皮して発芽促進処理した種子のことである。こうした種子は所定の生育場所に播かれるが、種子を播く場所は、畑であってもよいし、鉢であってもよいし、所定の育成用容器であってもよい。本発明では、後述のように、実生苗を自然休眠させることなく品種に応じた所定の節数に至らせるまで生育させるので、根が十分に成長する土壌環境に種子を位播くことが望ましい。例えば後述の実施例で説明するように、土層の深い火山灰土である関東ローム層からなる畑に播くことが好ましい。また、鉢に播いた場合には、鉢替えを行う等して根が十分に成長する土壌環境にすることが望ましい。
また、生育環境としては、自然生育としても良いし、所定の生育温度に保持できるハウス内で環境調節しながら生育させてもよい。なお、種子を播く時期は特に限定されないが、実生1年で開花させるには、夏から秋までに苗木を所定の節数に至らせる必要があるので、例えば1月から遅くとも4月、好ましくは3月末までの間に種子を播くことが望ましい。こうした時期に種子を播くためには、例えばその前年の9〜10月頃あるいは秋から低温湿潤処理等の処理を開始しておくことが望ましい。
所定の節数は、実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数であり、品種に応じて異なるが、例えばハナモモ「矢口」の現時点の例で言えば80節以上ということができる。なお、この所定の節数は、生育促進工程での各処理によって変動することが考えられるので、例えばハナモモ「矢口」の場合であっても80節以上という値に限定されるものではない。また、同じハナモモでも「箒桃」の場合は異なり、さらにハナモモ以外の品種でも、それぞれに応じた節数が存在すると考えられる。ここで、「節数」とは、葉を分化した位置(節位)の数であり、葉の数と同じ意味であるが、同一の節位に葉数は一枚とは限らないので、本願においては節位の数で示している。植物においては、基部の子葉部から1節ごとに積み上がって行き、節数が所定の節数に達した前後を生殖可能齢として花芽が分化できる条件が整ったと見ることができる。
このように、発芽した実生苗を当年内に所定の節数に至らせることにより、実生苗を自然休眠させることなく当年内に幼若相から成熟相に生育させることができる。その結果、後述するように、その後に実生苗にストレス処理を行えば、成熟相に達した部分から花芽分化が起こり、実生当年での開花を実現できる。
なお、後述するように、温室等を利用した早期播種や露地播種により、ハナモモ「矢口」の例で言えば、6月下旬までに概ね60節以上になるようにすることにより、夏休眠させることなく幼若相から成熟相に転換できるという結果が得られている。
花芽分化促進工程は、所定の節数に至った実生苗にストレス処理を行って花芽分化を促進する工程である。ストレス処理は、所定の節数に至った実生苗に対して行う。そのストレス処理としては、実生苗の主幹周囲の断根処理、又は、水欠乏処理を挙げることができる。こうしたストレス処理は、所定の節数に至って成熟相に達した部分からの花芽分化を促進させることができ、その結果、実生当年での開花を実現できる。
断根処理は、実生苗の主幹周囲の根を切る処理であり、その切断領域は特に限定されないが、例えば後述の実施例では、シャベルを使用して実生苗の主幹から30cmの距離で垂直方向に半円筒状に根を切断し、さらに地下40cmで水平方向に根を切断している。一方、水欠乏処理は、土壌乾燥処理、水ストレス処理、潅水制限処理とも言われるものであり、花芽促進効果を目的として行われるものである。
なお、ストレス処理後に花芽分化した実生苗に対し、落葉後に一定時間低温遭遇させる処理を施すことが好ましい。こうした処理を行うことにより、花芽の発育を促進させることができ、その結果、実生当年での開花を実現できる。なお、落葉や低温遭遇処理は従来公知の処理であるので特に言及しないが、落葉については例えば葉掻きのような処理を例示でき、また、低温遭遇処理については例えば5℃の環境下におよそ60日程度遭遇させるような処理を例示できるが、特に限定されない。
以上のように、本発明の種子繁殖による早期開花方法によれば、発芽促進処理された種子を播き、実生苗を自然休眠させることなくその実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数に至らせるまで生育を促進する工程と、所定の節数に至った実生苗にストレス処理を行って花芽分化を促進する工程とを有するので、種子繁殖による実生当年での開花、すなわち種子を播いてから1年での早期の開花を実現できる。その結果、長寿命の実生樹について、その表現形質を1年で確認し選別することができるので、観賞用樹木形態の整合性と生産歩留まりを著しく向上させることができる。
(種子繁殖苗木)
本発明の種子繁殖苗木は、上記した種子繁殖による早期開花方法により開花させた苗木であって、幼若相領域と成熟相領域を有する。この種子繁殖苗木は実生当年で開花したものであるので、その形態上の特徴は、実生2年で開花させたものや、接ぎ木や挿し木で開花させたものとは異なっている。
本発明の種子繁殖苗木は、上記した種子繁殖による早期開花方法により開花させた苗木であって、幼若相領域と成熟相領域を有する。この種子繁殖苗木は実生当年で開花したものであるので、その形態上の特徴は、実生2年で開花させたものや、接ぎ木や挿し木で開花させたものとは異なっている。
すなわち、本発明の種子繁殖苗木は、種子から生育させたものであるので幼若相領域と成熟相領域を必ず有するが、接ぎ木や挿し木で開花させたものは、成熟相領域のみを有する点で両者は形態上の大きな差がある。また、観賞用商品としてみれば、接ぎ木や挿し木で得られたものよりも、種子繁殖で得られたもののほうが価値が高い。すなわち、接ぎ木苗の場合は、接ぎ木部がこぶ状態で存在し、挿し木苗の場合は、根の張り方が不十分であり、また幹基部からの枝の発生が少ない。一方、種子繁殖苗では、実生1年目は頂芽も側芽も共に良く伸長して、芽の位置関係に優劣が存在しない同調生長と呼ばれる現象があり、側芽が形成された順位により、枝の長短が支配されて、主幹と枝とから構成される樹形が円錐ないし紡錘型になる。
一方、本発明に係る実生当年の種子繁殖苗木と、実生2年以上の種子繁殖苗木は幼若相領域と成熟相領域を必ず有する点においては類似し、実生当年の種子繁殖苗木は休眠芽で越冬した痕跡を有していない点で相違する。このように、1年目(当年生)と2年生以上との間に差異は存在するが、接ぎ木や挿し木等の栄養繁殖法で生育した苗木で流通している従来の花木等の木本性苗木を実生繁殖苗で流通させることができる、という本発明の視点からは、本発明に係る種子繁殖苗木は2年生以上であっても流通可能である。ただし、市場では開花させて流通させる必要があるから、桃三李四の言葉があるように、種子繁殖苗木が開花まで2年以上になる場合は、流通までのストックに多くの経費が掛かり、接ぎ木や挿し木に比べてマイナスである。当年生で流通できる本発明に係る種子繁殖苗木であれば、この点では栄養繁殖法と何ら遜色がないことになる。
以上のように、本発明の種子繁殖苗木によれば、種子繁殖による早期開花方法により開花させた苗木が幼若相領域と成熟相領域を有するので、接ぎ木や挿し木で生育させた幼若相領域を有さないものとは明らかに異なる形態を示している。その結果、(i)長寿命であるので公園植栽や緑化に有用であり、(ii)ウイルス病を保持しないので伝染源になり難く、(iii)対立遺伝子のヘテロ接合性が高いので変異幅が大きくて多様性を有するという特徴がある本発明の長寿命の種子繁殖苗木と、接ぎ木や挿し木で生育させた苗木とを区別できる。
さらに、種子繁殖させた核果類では、花粉伝染性のPDV(prune dwarf virus)、PRSV(prunus necrotic ring spot virus)に単独ないし重複感染した個体からでも非感染性の個体(ウイルスフリー)が得られるので、種子繁殖したものでは観賞用として広範囲に植栽されても、これらウイルスの核果類果樹への感染源にはならないという効果がある。
(種子繁殖苗木の観賞形質)
次に、種子繁殖苗木の観賞形質について説明する。花木類は観賞形質が主たる価値であり、この価値判断に支障を来すほどの変異の発現でなければ、その他の形質に対しては許容度が大きいと考えられる。本発明の種子繁殖苗木は、観賞形質別に選別された実生集団からなる苗木として、実生当年という極めて早期に市場に流通させることができる。
次に、種子繁殖苗木の観賞形質について説明する。花木類は観賞形質が主たる価値であり、この価値判断に支障を来すほどの変異の発現でなければ、その他の形質に対しては許容度が大きいと考えられる。本発明の種子繁殖苗木は、観賞形質別に選別された実生集団からなる苗木として、実生当年という極めて早期に市場に流通させることができる。
花桃等の観賞用苗木の第一の価値は花の形質であり、次いで樹姿の立性、枝垂れ性,わい性、箒性などであり、その次が葉の形質と考えられる。観賞形質の実生検定としては、実生当年での観賞形質の選別と判定を、実生の茎葉色・シュートと枝の角度・開花促進法を組み合わせた方法で行う。例えば、樹姿は立性が遺伝的に優性であり、他の形質は劣性であるのでホモ接合で発現することから、少なくとも2年以上必要であった従来とは異なり実生当年という極めて早期に選別できるという効果がある。また、葉の色も実生当年で判別できる。また、花色を赤系、桃色系、白系、混色系と大別するには、葉芽発芽時のシュートの色、枝の色と条斑から可能である。
樹姿の検定によれば、A)実生の節間長から判定し、短いものがわい性であり、特に長いものが枝垂れ性であることがわかり、また、B)発生側枝と主幹とのなす角度が小であれば箒性であることがわかり、また、C)頂芽の方向と主幹とのなす角度がマイナスなら枝垂れであることがわかる。
花色の検定によれば、i)幹の色と開花した時点の花色を判定し、緑色が白花系、赤の濃淡から赤色と桃色系に判別することができ、また、ii)発芽時の葉及び茎の色と花色の関係から前項と同様に判定することができ、また、iii)紅葉時の葉色から、黄色なら白花系、赤なら赤色系、黄色と赤なら混色系に判別することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ハナモモ品種「矢口」と「箒桃」の核付種子を用い、12月初旬から低温暗室(5℃)下で湿潤冷蔵し、3月中旬に核が割れ、催芽した種子を選んで宇都宮大学内の圃場(黒ボク土)に播種した。発芽後の栽培管理として、特に実生の主幹から50節までに発生した副梢は芽かきにより剪除した。断根処理には、主幹の生長量が節数で60節以上に達した実生苗を選抜し、試験に供した。断根処理は、7月に上、中、下旬の3時期に分けて、シャベルを使用して各々の実生苗の主幹から30cmの距離で垂直方向に半円筒状に、さらに地下40cmで水平方向に根を切断した。各断根処理1週間後に処理苗の未処理側半円部の断根処理を行った。処理区は各10本とした。花芽の形成状況は、12月末に目視により1株当たりの花芽数、花芽の着生節を調査した。また、年明けの春に花芽の開花状況を調査した。
ハナモモ品種「矢口」と「箒桃」の核付種子を用い、12月初旬から低温暗室(5℃)下で湿潤冷蔵し、3月中旬に核が割れ、催芽した種子を選んで宇都宮大学内の圃場(黒ボク土)に播種した。発芽後の栽培管理として、特に実生の主幹から50節までに発生した副梢は芽かきにより剪除した。断根処理には、主幹の生長量が節数で60節以上に達した実生苗を選抜し、試験に供した。断根処理は、7月に上、中、下旬の3時期に分けて、シャベルを使用して各々の実生苗の主幹から30cmの距離で垂直方向に半円筒状に、さらに地下40cmで水平方向に根を切断した。各断根処理1週間後に処理苗の未処理側半円部の断根処理を行った。処理区は各10本とした。花芽の形成状況は、12月末に目視により1株当たりの花芽数、花芽の着生節を調査した。また、年明けの春に花芽の開花状況を調査した。
図1は、「矢口」と「箒桃」を3月中旬に圃場に播種した後の生長の経過を示すグラフである。図1に示すように「矢口」と「箒桃」の当年生実生は、ともに根域制限のない圃場での栄養生長が旺盛であり、6月末にはすでに60節以上に達し、夏休眠することなく、9月末には100節を超えて生長した。
図2は、断根処理時期が「矢口」の当年生実生の花芽形成株数に及ぼす影響を示すグラフである。図2に示すように、「矢口」の当年生実生は、7月上旬の断根では80%の株に花芽が着生し、7月中旬の断根では100%の株に花芽が着生した。また、図3は、断根処理時期が「矢口」の当年生実生の花芽形成開始までの節位数に及ぼす影響を示すグラフである。図3に示すように、花芽着生開始節は80〜100節であった。
図4は、断根処理時期が花芽着生に及ぼす影響を示すグラフである。図4をみると、ハナモモ「矢口」では何れの処理区においても花芽着生が観察されたが、その着生率に差異があり、無処理区に比べて、7月上、中旬処理区がそれぞれχ2検定により、5%と0.1%水準で有意に花芽着生が多かった。しかし、7月下旬処理では有意差がなかった。一方、ハナモモ「箒桃」では7月上、中旬処理区のみに花芽着生が観察され、無処理区との間に5%水準で有意差が認められた。7月下旬処理では花芽誘導効果が認められなかった。しかし、「矢口」「箒桃」とも、7月上、中旬断根処理の花芽着生の誘導効果は大であった。
また、花芽誘導された樹の花芽着生数を比較すると、「矢口」では無処理区の平均6.2芽/樹に対し、7月上、中、下旬処理では、平均でそれぞれ16.6、11.5、10芽/樹と処理時期が早いほど1樹当たりの花芽着生数は増加した。しかし、「箒桃」では、7月上、中旬処理ともに2芽/樹程度と非常に少ないものであった。さらに、花芽形成が確認された最低節位は、「矢口」では無処理区が89.5節であるのに対し、7月上、中、下旬処理がそれぞれ83、91、99.6節であった。一方、「箒桃」では7月上旬が100.3、中旬処理が95.7節であつた。
以上の結果から、ハナモモ「矢口」では効率的に花芽誘導を起こさせることができ、特に、幼若相にある実生では効果が少ないとされていた断根処理が有効であることを見いだすことができた。
Claims (7)
- バラ科植物の中で核果類と称する群に属するものを種子繁殖により早期に開花させる方法であって、
発芽促進処理された種子を播き、実生苗を自然休眠させることなく当該実生苗が幼若相から成熟相に達する所定の節数に至らせるまで生育を促進する工程と、
前記所定の節数に至った実生苗にストレス処理を行って花芽分化を促進する工程と、を有することを特徴とする種子繁殖による早期開花方法。 - 前記花芽分化促進工程におけるストレス処理が、前記実生苗の主幹周囲の断根処理、又は、水欠乏処理である、請求項1に記載の種子繁殖による早期開花方法。
- 前記花芽分化促進工程において、前記ストレス処理後に花芽分化した実生苗を落葉後に一定時間低温遭遇させる、請求項1又は2に記載の種子繁殖による早期開花方法。
- 前記バラ科植物の中で核果類と称する群に属するものが、モモ、スモモ、アンズ、ニワウメ、ユスラウメ、フラワーアーモンド等である、請求項1〜3のいずれかに記載の種子繁殖による早期開花方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の種子繁殖による早期開花方法により開花させた苗木であって、幼若相領域と成熟相領域を有することを特徴とする種子繁殖苗木。
- 前記苗木は、観賞形質別に選別された実生集団からなる苗木である、請求項5に記載の種子繁殖苗木。
- 前記苗木は、モモ、スモモ、アンズ、ニワウメ、ユスラウメ、フラワーアーモンド等である、請求項5又は6に記載の種子繁殖苗木。
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