JP4964488B2 - プレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼管、並びにそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
高強度鋼板を複雑な形状の自動車部品に適用するには、良好なプレス成形性を確保する必要がある。そのため、鋼板にオーステナイトを残留させ、この残留オーステナイト(以下、残留γともいう。)のマルテンサイトへの加工誘起変態を利用し、プレス成形性を向上させた高強度鋼板が、例えば特許文献1に提案されている。また、残留オーステナイトの加工誘起変態を利用して、良好な加工性を有しつつ自動車の衝突時の衝撃エネルギー吸収能を高める方法が、例えば特許文献2に提案されている。
スプリングバックの発生は、応力除荷時に弾性歪分が元に戻ることに起因するため、弾性歪量が小さい場合には、スプリングバック量が減少する。また、ヤング率を増加させると弾性歪量は減少することから、高ヤング率化によってスプリングバックを抑制することができる。さらにヤング率の増加により、高剛性にもなることから、ヤング率は自動車の車体骨格部材に対しては重要な特性である。この点については、特許文献1及び2には、開示されておらず、鋼板の成形性とヤング率を同時に高める方法については不明である。
このように、従来の高ヤング率鋼板は、いずれも圧延方向と直角方向(幅方向)のヤング率が高い鋼板が多い。しかし、通常、鋼板の幅は最大でも2m程度であるため、ヤング率最大の方向を部材の長手方向とする場合には、その長さを幅以上にすることはできないという問題がある。したがって、長物部材や大型の成形品に対しては圧延方向のヤング率を高めた高強度鋼板が必要である。また、製造法についてもα+γ域での熱延を行うと圧延反力が変動しやすいため、製造性を損なうという問題があった。
すなわち、Mo、Nb、B、Tiの1種又は2種以上を所定量含有する鋼の表面近傍に所定の集合組織を発達せしめることによって、圧延方向のヤング率が高い鋼板を発明することに成功したものである。本発明によって得られる鋼板は230GPa以上、特に表面近傍では240GPa以上の極めて高いヤング率が得られることから曲げ剛性が著しく向上し、例えば形状凍結性も著しく改善される。
また、鋼板の高強度化に伴いスプリングバックなどの形状凍結不良の度合いが大きくなる要因は、プレス成形時の弾性変形量に対応しており、高ヤング率化によりその低減が可能である。 さらに残留オーステナイトを有する組織とすることで、衝突吸収エネルギーの増加やプレス成形性の向上が見込まれる。
本発明は、このような知見に基づいて完成された従来にはない全く新しい鋼板及びその製造方法であり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(2) 質量%で、Ni、Cu、Crの1種又は2種以上を合計で0.001〜0.1%含むことを特徴とする上記(1)に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
(3) 質量%で、Ca:0.0005〜0.01%を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
(4) 質量%で、Sn、Co、Zn、W、Zr、V、Mg、Remの1種又は2種以上を合計で0.001〜1%含むことを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
(5) 板厚の1/8層における{110}<001>の極密度が6以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
(6) 板厚1/2層における{211}<011>の極密度が6以上、{332}<113>の極密度が6以上、{100}<011>の極密度が6以下の何れか1以上を満足することを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
(7) 上記(1)〜(6)の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板。
(8) 上記(1)〜(6)の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板に、合金化溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(9) 上記(1)〜(6)の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板、請求項7記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板、請求項8記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板の何れか1つを母材とする高ヤング率鋼管。
(14) 熱間圧延を実施する際にロール径が700mm以下の圧延ロールを少なくとも1つ以上使用することを特徴とする上記(10)〜(13)の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板の製造方法。
(15) 上記(7)に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、上記(10)〜(14)の何れか1項に記載の方法により製造した高強度高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(16) 請求項8に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、上記(15)記載の溶融亜鉛めっきを施した後、450〜600℃の温度範囲で5s以上保持する熱処理を行うことを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(17) 上記(10)〜(14)のいずれか1項に記載の製造方法により得られた高強度高ヤング率鋼板、上記(15)に記載の製造方法により得られた高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板、上記(16)記載の製造方法により得られた高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板の何れか1つを筒状に成形し、溶接して鋼管にすることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼管の製造方法。
Cは安価に引張強度を増加させる元素であり、その添加量は狙いとする強度レベルに応じて変化するが、残留オーステナイトを室温で安定的に残留させるためには、鋼材成分でCを0.05%以上とする必要があるためこれを下限とする。一方、C量が0.30%を超えると成形性が劣化し、溶接性を損なうためこれを上限とする。
Mnはオーステナイト相(以下、γ相又はγともいう。)を安定化し、γ域を低温まで拡張する元素であり、γ域低温圧延を容易にする。また、表層近傍の剪断集合組織形成にMn自体が有利に作用している可能性もある。これらの観点から、Mnは0.1%以上添加することが必要であり、この観点から0.5%以上添加することが好ましい。更にγ域低温圧延を指向する場合の好ましい下限は1.5%以上である。一方、5.0%を超えると強度が高くなりすぎて延性が低下したり、亜鉛めっきの密着性が阻害されたりするのでこれを上限とする。なお、この観点からの好ましい上限は4.0%である。
また、Siは、固溶強化元素として強度を増加させる効果があり、ベイナイト、残留γを含む組織を得るためにも有効であり、狙いとする強度レベルに応じて0.001%以上を添加することが好ましい。溶融亜鉛めっきを施す場合には、めっき密着性の低下、合金化反応の遅延による生産性の低下などの問題が生ずるのでSi添加量の上限を1.2%以下とすることが好ましい。
Alは脱酸剤として有効であるため、0.01%以上を添加することが好ましい。一方、Alは変態点を著しく高める元素であり、過剰に添加すると低温γ域での圧延が困難となるので、上限を3.0%とすることが好ましい。
Sは不純物であり、0.015%超を含有すると、熱間割れの原因となったり加工性を劣化させたりするので、これを上限とする。
Nは不純物であり、Bと結合して窒化物を形成し、Bの再結晶抑制効果を低減させることから0.01%以下に抑える。この観点から好ましくは0.005%、更に好ましくは0.002%以下とする。一方、Nの含有量を0.0005%未満とするには製造コストの増大を招くため0.0005%以上を含有しても良い。
Mo、Nb、Ti及びB量の下限はそれぞれ0.01%、0.005%、48/14×N%、0.0001%であり、これより少ない量の添加では、上述のヤング率向上効果が小さくなることがある。圧延方向のヤング率の観点からMo、Nb、Ti及びB量の好ましい下限は、0.03%、0.01%、0.03%、0.0003%であり、更に好ましくは0.1%、0.03%、0.05%、0.0006%である。一方、Mo、Nb、Ti、Bをそれぞれ1.5%超、0.2%超、0.2%超、0.01%超添加してもヤング率の向上効果は飽和し、コストアップとなるのでこれを上限とする。
また、Mo、Nb、Ti、Bの1種又は2種以上の合計添加量が0.015%未満では十分なヤング率向上効果が得られないことから0.015%を合計添加量の下限とする。圧延方向のヤング率の観点からMo、Nb、Ti、Bの1種又は2種以上の合計は好ましくは0.035%以上、更に好ましくは合計で0.05%以上添加する。合計添加量の上限は各元素添加量の上限の和、すなわち1.91%とする。
また、0.15%以上のMo、0.01%以上のNb、48/14×N%以上のTi、0.0006%以上のBが、同時に添加されている場合には、集合組織が鮮鋭化し、特にLD方向のヤング率を低減させる表層の{110}<001>が減少する。これにより、効果的にヤング率が上昇するため、高いLD方向ヤング率が達成される。
Caは、脱酸元素として有用であるほか、硫化物の形態制御にも効果を奏するので、0.0005〜0.01%の範囲で添加しても良い。Caの含有量が0.0005%未満では効果が十分でないことがあり、0.01%超添加すると加工性が劣化することがあるのでこの範囲とすることが好ましい。
更に、Sn、Co、Zn、W、Zr、V、Mg、Remの1種又は2種以上を、結晶粒径の細粒化を目的とし、合計で0.001〜1%の範囲で添加しても構わない。これらの元素の合計含有量が0.001%未満では細粒化の効果が十分に得られないことがり、一方、1%を超えるとプレス成形性を損なうことがある。WとVはγ域の再結晶を抑制する効果があることから、何れか一方又は双方を0.01%以上添加することが好ましい。
鋼板の組織は、フェライト、ベイナイトの一方又は双方と、残留オーステナイトからなり、フェライト又はベイナイトを体積分率最大の組織とし、体積分率で3〜20%の残留オーステナイトを含む複合組織鋼とする。これにより、高強度が得られ、かつ成形性が良好となり、衝撃吸収エネルギーも上昇させることができる。フェライト又はベイナイトを体積率で最大としたのは、これらの組織の体積分率が小さいと、オーステナイト相からフェライト又はベイナイトに変態する際に、オーステナイト相中に十分にCが濃化されず、室温で安定な残留オーステナイトが得られないためである。また、フェライト又はベイナイトの体積分率は、ナイタールで腐食した試料の光学顕微鏡組織写真を画像処理するか、又はポイントカウント法によって測定した面積率とすれば良い。
残留オーステナイトの体積分率は、3%未満では十分な加工誘起変態によるn値(加工硬化指数)の向上、すなわちTRIP(TRansformation−Induced Plasticity)効果が得られないため、下限を3%とした。また、残留オーステナイト分率の上限は高いほど好ましいが、本発明の鋼において20%超の残留オーステナイトを室温で安定的に存在させることが不可能であるため、これを上限値とした。残留オーステナイトの体積分率は、X線回折法によって測定することができる。
フェライトとベイナイトの両相が混在する場合は、フェライト、ベイナイトの何れか一方の体積分率が最大であれば良く、フェライト及びベイナイトの体積分率が同一である場合は、残留オーステナイトの体積分率よりも大きければ良い。また、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト以外の相として、マルテンサイト、炭化物、窒化物を初めとする化合物が5%未満、好ましくは2%未満存在していても構わない。すなわち要求特性に応じて組織を作り分ければ良い。
板厚1/8層における{110}<223>方位、{110}<111>方位の一方又は双方の極密度は10以上とする。これによって圧延方向のヤング率を高めることが可能となり、両者が共に10未満では圧延方向のヤング率を230GPa超とすることは困難である。好ましくは14以上、さらに好ましくは20以上である。この極密度に関する限定は少なくとも板厚1/8層については満足し、実際には1/8層のみならず、板厚表層から1/4層までの広い範囲で成り立つことが好ましい。
これらの方位の極密度(X線ランダム強度比)は、X線回折によって測定される{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち複数の極点図を基に級数展開法で計算した3次元集合組織(ODF)から求めれば良い。すなわち、各結晶方位の極密度を求めるには、3次元集合組織のφ2=45°断面における(110)[2−23]、(110)[1−11]の強度で代表させる。
また、板厚1/2層における{332}<113>(上記ODFのφ2=45°断面における(332)[−1−13])の極密度は圧延方向のヤング率には若干の寄与が期待できる。したがってこの方位の極密度は6以上であることが好ましい。この観点から好ましくは極密度が8以上、更に好ましくは10以上とする。
更に、板厚1/2層における{100}<011>(上記ODFのφ2=45°断面における(001)[1−10])の極密度は圧延方向との角度が45°の方向(以下、単に45°方向、又はD方向ともいう)のヤング率を著しく低下させることから極密度を6以下にすることが好ましい。45°方向のヤング率の観点から板厚1/2層における{100}<011>の極密度を3以下とすることが好ましく、更に好ましい上限は1.5以下である。
上記の板厚1/2層における結晶方位の極密度の条件は、少なくとも1つを満足することが好ましく、複数を満足することがさらに好ましく、最適条件は、全てを満足することである。なお、以上で述べた結晶方位はいずれも±2.5°以内のばらつきは許容するものである。
鋼板を機械研磨や化学研磨などによって板厚方向に所定の位置まで研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げた後、電解研磨や化学研磨によって歪みを除去すると同時に板厚1/8層又は1/2層が測定面となるように調整する。例えば、板厚1/8層の場合は、鋼板の板厚をtとしたとき、t/8の厚み分の研磨量で鋼板表面を研磨して現れる研磨面を測定面とする。なお、正確に板厚1/8層や1/2層を測定面とすることは困難であるので、これら目標とする層を中心として板厚に対して±3%の範囲が測定面となるように試料を作製すれば良い。また、鋼板の板厚中心層に偏析帯が認められる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で偏析帯のない場所について測定すれば良い。さらにX線測定が困難な場合には、EBSP(Electron Back Scatter diffraction Pattern)法やECP(Electron Channeling Pattern)法により統計的に十分な数の測定を行う。
また、上記の{hkl}<uvw>は、上述の方法でX線用試料を採取したとき、板面に垂直な結晶方位が<hkl>で圧延方向に平行な方位が<uvw>であることを意味する。
なお、表層のヤング率の測定は表層から1/8以上の厚みで試験片を切り出し、前述の横振動法にて行う。板幅方向の表層ヤング率は特に規定しないが、表層ヤング率が高い方が幅方向の曲げ剛性が上がることは言うまでもない。また上述のような成分製法によって幅方向の表層ヤング率も圧延方向と同様に240GPaを超える。
熱間圧延に供するスラブは特に限定するものではない。すなわち、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターなどで製造したものであれば良い。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
熱延鋼板製造時に、集合組織を制御するために以下のように製造条件を限定する必要がある。
熱延加熱温度は1000℃以上とする。これは、後述する熱延仕上温度をAr3変態点以上とするために必要な温度である。熱間圧延を行う際には[8]式で計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上かつ圧下率の合計が50%以上となるようにする。このときの圧延ロールと鋼板との摩擦係数を0.2超とする。以上の条件は表層の剪断集合組織を発達せしめ、圧延方向のヤング率を高めるのに必須の条件である。
一方、熱延の仕上温度がAr3変態点未満では、{110}<223>、{110}<111>の双方の極密度が低下し、圧延方向のヤング率にとって好ましくない{110}<001>集合組織が発達することもあるため、Ar3変態点以上とする。
ここで本発明における異周速率とは、上下圧延ロールの周速差を低周速側ロールの周速で除した値を百分率で表示したものである。また、本発明の異周速圧延は、上下ロール周速のいずれが大きくてもヤング率向上効果に差はない。
また、仕上熱延に使用する圧延機にロール径が700mm以下のワークロールを一つ以上使用すると表層近傍での集合組織形成が促進されるため、使用しない場合の本発明以上にヤング率が向上することからロール径700mm以下のワークロールを使用することが好ましい。この観点から、ワークロール径は700mm以下とし、600mm以下であることが好ましく、500mm以下とすることが更に好ましい。ワークロール径の下限は特に規定しないが、300mm以下になると通板制御が困難になる。小径ロールを使用するパス数の上限は特に規定しないが、前述のように仕上熱延パスは通常8パス程度までである。
仕上圧延後、そのまま第一制御冷却を行うことが好ましく、空冷時間の下限は規定しない。しかし、例えば、水冷又はミスト冷却によって制御冷却を行う場合、仕上圧延機の出側から制御冷却装置までの間、空冷される時間の上限を30s以内とすることが必要である。
第一制御冷却の冷却速度が10℃/s未満では、フェライト又はベイナイトの体積分率の増加やパーライトの析出により、3%以上の残留オーステナイトを確保できなくなる。第一制御冷却の冷却速度は速いほど好ましいが、現状の技術では300℃/s超とすることは困難である。
本発明においては、第一制御冷却を650〜800℃の温度範囲で停止して空冷を開始し、空冷時間を2〜15sとすることが残留オーステナイト量の確保のために極めて重要である。この空冷開始温度が800℃超又は空冷時間が2s未満では、残留オーステナイト中にCを濃化させるために重要なフェライト又はベイナイト変態が不十分であるため、その後の第二制御冷却の際にマルテンサイトが生成して、残留オーステナイト量を3%以上とすることができない。一方、空冷開始温度が650℃未満の場合、フェライト又はベイナイト体積率が十分でないため、同様に第二制御冷却の際にマルテンサイトが生成してしまう。また、空冷時間を15s超とすると、パーライト組織へと変態するため、十分な残留オーステナイト量を確保できない。
第二制御冷却の停止温度は300℃超〜500℃未満の範囲内とし、この温度域で巻き取る。これは、巻き取り温度が500℃以上では、セメンタイトの析出量が多くなることで、オーステナイト中のC濃度が減少し、室温で安定な残留オーステナイトを3%以上得ることが難しいからである。また、下限値を300℃超としたのは、第二制御冷却時のマルテンサイト変態を抑制し、3%以上の残留オーステナイトを確保するためである。
熱間圧延によって組織を制御せず、酸洗後に熱延鋼板を焼鈍し、残留オーステナイトを確保しても良い。この熱延鋼板の焼鈍は、加熱時に一部のフェライト、ベイナイトをオーステナイト相に逆変態させ、その後の冷却制御及び保持によって、フェライト、ベイナイトを形成させ、残留オーステナイトを確保するために行う。
この場合も、熱間圧延によって、圧延方向のヤング率を向上させる剪断集合組織を表層に発達させるため、スラブ加熱温度、圧延ロールと鋼板との摩擦係数、有効ひずみ量ε*、圧下率の合計、熱間圧延の終了温度は上記の条件を満足する必要がある。仕上圧延後の冷却条件は特に規定しないが、巻取り条件については、400〜600℃で巻き取るとヤング率が向上する場合があるので、この範囲で巻き取るのが好ましい。
加熱速度は特に限定しないが、3〜70℃/sの範囲とすることが好ましい。加熱速度が3℃/s未満では加熱中に再結晶が進行し、圧延方向のヤング率の向上に有利な集合組織が崩れることがある。一方、加熱速度を70℃/s超としても材料特性は変化しないが、実質上、連続焼鈍ラインではこれ以上の昇温速度を得ることは困難である。
熱延鋼板の焼鈍後の冷却は、冷却速度を1℃/s未満として行うとフェライト変態が促進されるか、又はパーライトが生成して残留オーステナイトの確保が難しくなることがある。一方、冷却速度を150℃/s超とすることは現状の技術では困難である。したがって、焼鈍後の冷却速度を1〜150℃/sの範囲とする。
焼鈍後の冷却停止温度は過時効温度域であり、380℃以下ではマルテンサイト変態が生じ、500℃超では、セメンタイトの析出によってオーステナイト中のC濃度が減少し、又はパーライト変態を生じて、室温で安定な残留オーステナイトを確保できない。したがって、冷却停止温度は380℃超500℃未満とする。
冷却後、更に、380℃超〜500℃未満の範囲内で1〜1800s保持する。これは、保持時間が1s未満であるとその後の冷却中にマルテンサイト変態が生じ、保持時間が1800sを超えるとベイナイトが過剰に生成して、安定な残留オーステナイトを確保できないためである。
この場合も、冷間圧延の圧下率の下限は生産性の観点から10%以上とし、上限は圧延方向のヤング率の観点から60%未満とする。冷延後の焼鈍によって組織制御を行う際にも、熱延後の焼鈍によって組織制御を行う場合と同様の条件、即ち、最高加熱温度をAc1変態点[℃]以上0.5×(Ac1+Ac3)[℃]以下の範囲内とし、冷却速度を1〜150℃/sの範囲内とし、冷却停止温度を過時効温度域である380℃超、500℃未満とし、この過時効温度域での保持時間を1〜1800sとする。これにより、加熱時に一部のフェライト、ベイナイトをオーステナイト相に逆変態させ、その後の冷却制御及び保持によって、フェライト、ベイナイトを形成させ、残留オーステナイトを確保することができる。
合金化処理は、溶融亜鉛めっきを施した後に、450〜600℃の範囲内で行う。450℃未満では合金化が十分に進行せず、また、600℃超では過度に合金化が進行し、めっき層が脆化するため、プレス等の加工によってめっきが剥離するなどの問題を誘発する。合金化処理の時間は、5s以上とする。5s未満では合金化が十分に進行しない。上限は特に定めないが、めっき密着性を考慮すると10s程度とすることが好ましい。
焼鈍後、必要に応じて酸洗した冷延鋼板並びに溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化処理後のめっき鋼板に、インライン又はオフラインで圧下率10%以下のスキンパスを施しても良い。
次に本発明を実施例にて説明する。
熱間圧延の加熱温度は全て1230℃とした。全7段からなる仕上圧延スタンドにおいてロールと鋼板との摩擦係数を0.21〜0.24の範囲とし、最終3段の合計の圧下率を55%とした。光学顕微鏡による組織観察と画像解析によって、フェライト体積率、ベイナイト体積率、マルテンサイト体積率、セメンタイト及びパーライト体積率を求め、X線回折法によって残留オーステナイトの体積率を求めた。
ヤング率は上述した横共振法により測定した。E(RD)、E(D)、E(TD)は、それぞれ、長手方向をRD方向、45°方向、TD方向として試験片を採取し、測定して得られた室温におけるヤング率である。JIS Z 2201の5号引張試験片を採取してTD方向の引張特性をJIS Z 2241に準拠して評価した。また、板厚1/8層及び板厚7/16層における集合組織をX線回折法によって測定した。結果を表2及び3に示す。
表3において、TS[MPa]は引張強さであり、YS[MPa]は降伏強さであり、El[%]は伸びであり、E(RD)[GPa]はRD方向の平均ヤング率であり、R(D)[GPa]はRD方向に対して45°傾斜した方向の平均ヤング率であり、E(TD)[GPa]はTD方向の平均ヤング率である。これらの指標は、表4〜11においても共通する。
これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を適正な条件で熱延する際に1%以上の異周速圧延を1パス以上加えると、表層近傍での集合組織形成が促進され、更にヤング率が向上する。
これから明らかなとおり、本発明の化学成分を有する鋼を適正な条件で熱延する際に1%以上の異周速圧延を1パス以上加えると、表層近傍での集合組織形成が促進され、更にヤング率が向上する。
Claims (17)
- 質量%で、
C:0.05〜0.30%、
Mn:0.1〜2.30%、
Si、Alの双方を合計で0.15〜3.0%
含有し、
P:0.15%以下、
S:0.015%以下、
N:0.01%以下
に制限し、
Mo:0.01%〜1.5%、
Nb:0.005〜0.2%、
Ti:48/14×N[mass%]以上,0.2%以下、
B:0.0001〜0.01%
の全てを合計で0.015〜1.91質量%含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなり、フェライト又はベイナイトを体積分率最大の組織とし、体積分率で3〜20%の残留オーステナイトを含む複合組織鋼であり、かつ板厚の1/8層における{110}<223>、{110}<111>の一方又は双方の極密度が10以上であり、圧延方向のヤング率が230GPa超であることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。 - 質量%で、Ni、Cu、Crの1種又は2種以上を合計で0.001〜0.1%含むことを特徴とする請求項1に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
- 質量%で、Ca:0.0005〜0.01%を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
- 質量%で、Sn、Co、Zn、W、Zr、V、Mg、Remの1種又は2種以上を合計で0.001〜1%含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
- 板厚の1/8層における{110}<001>の極密度が6以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
- 板厚1/2層における{211}<011>の極密度が6以上、{332}<113>の極密度が6以上、{100}<011>の極密度が6以下の何れか1以上を満足することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板。
- 請求項1〜6の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板。
- 請求項1〜6の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板に、合金化溶融亜鉛めっきが施されていることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 請求項1〜6の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板、請求項7記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板、請求項8記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板の何れか1つを母材とする高ヤング率鋼管。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板を製造する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学成分を有するスラブを1000℃以上の温度に加熱し、熱間圧延をする際、圧延ロールと鋼板との摩擦係数が0.2超、[1]式で計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上、かつ圧下率の合計が50%以上となるように圧延を行い、Ar3変態点[℃]以上900℃以下の温度で熱間圧延を終了し、30s以内の空冷を行った後、10℃/s以上の冷却速度で650〜800℃の範囲内に冷却する第一制御冷却を行い、更に2〜15sの空冷を行い、10℃/s以上の冷却速度で300℃超、500℃未満の範囲内に冷却する第二制御冷却を行った後、巻き取ることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板の製造方法。
ここで、nは仕上げ熱延の圧延スタンド数、εjはj番目のスタンドで加えられたひずみ、εnはn番目のスタンドで加えられたひずみ、tiはi〜i+1番目のスタンド間の走行時間[s]、τiは気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti[K]によって[2]式で計算できる。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板を製造する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学成分を有するスラブを1000℃以上の温度に加熱し、熱間圧延をする際、圧延ロールと鋼板との摩擦係数が0.2超、[3]式で計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上、かつ圧下率の合計が50%以上となるように圧延を行い、Ar3変態点[℃]以上900℃以下の温度で熱間圧延を終了し、得られた熱延鋼板を酸洗し、最高加熱温度をAc1変態点[℃]以上0.5×(Ac1+Ac3)[℃]以下の範囲内とする焼鈍を施した後、1〜150℃/sの冷却速度で380℃超、500℃未満の過時効温度域まで冷却し、該過時効温度域に1〜1800s保持することを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板の製造方法。
ここで、nは仕上げ熱延の圧延スタンド数、εjはj番目のスタンドで加えられたひずみ、εnはn番目のスタンドで加えられたひずみ、tiはi〜i+1番目のスタンド間の走行時間[s]、τiは気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti[K]によって[4]式で計算できる。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板を製造する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学成分を有するスラブを1000℃以上の温度に加熱し、熱間圧延をする際、圧延ロールと鋼板との摩擦係数が0.2超、[5]式で計算される有効ひずみ量ε*が0.4以上、かつ圧下率の合計が50%以上となるように圧延を行い、Ar3変態点[℃]以上900℃以下の温度で熱間圧延を終了し、得られた熱延鋼板を酸洗し、10%以上60%未満の圧下率で冷間圧延を施し、最高加熱温度をAc1変態点[℃]以上0.5×(Ac1+Ac3)[℃]以下の範囲内とする焼鈍を施した後、1〜150℃/sの冷却速度で380℃超、500℃未満の過時効温度域まで冷却し、該過時効温度域に1〜1800s保持することを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板の製造方法。
ここで、nは仕上げ熱延の圧延スタンド数、εjはj番目のスタンドで加えられたひずみ、εnはn番目のスタンドで加えられたひずみ、tiはi〜i+1番目のスタンド間の走行時間[s]、τiは気体常数R(=1.987)とi番目のスタンドの圧延温度Ti[K]によって[6]式で計算できる。
- 熱間圧延の少なくとも1パス以上を、異周速率が1%以上の異周速圧延とすることを特徴とする請求項10〜12の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板の製造方法。
- 熱間圧延を実施する際にロール径が700mm以下の圧延ロールを少なくとも1つ以上使用することを特徴とする請求項10〜13の何れか1項に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼板の製造方法。
- 請求項7に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、請求項10〜14の何れか1項に記載の方法により製造した高強度高ヤング率鋼板に、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項8に記載のプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、請求項15記載の溶融亜鉛めっきを施した後、450〜600℃の温度範囲で5s以上保持する熱処理を行うことを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項10〜14のいずれか1項に記載の製造方法により得られた高強度高ヤング率鋼板、請求項15に記載の製造方法により得られた高強度高ヤング率溶融亜鉛めっき鋼板、請求項16記載の製造方法により得られた高強度高ヤング率合金化溶融亜鉛めっき鋼板の何れか1つを筒状に成形し、溶接して鋼管にすることを特徴とするプレス成形性の良好な高強度高ヤング率鋼管の製造方法。
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