本発明は、液晶層を有する液晶表示装置に関する。
今後携帯型情報機器の記憶容量が増大し、通信速度が高速化すれば、よりデータ量の多い画像情報が取り扱えるようになる。これに伴い、インターフェイスである表示装置にも今まで以上の高画質と高精細表示が要求される。画質に対する要求としては、高コントラスト,高色再現性,広視野角,屋外視認性が挙げられる。
携帯型情報機器は持ち運びが可能なことから、照度が極端に異なる多様な環境のもとで用いられる可能性がある。高照度の極限としては、例えば真夏の直射日光下が、低照度の極限としては暗室が挙げられる。これらの全般において良好な表示を得るには、半透過型液晶表示装置が適している。
IPS(In-Plane Switching)方式液晶表示装置は広視野角,高コントラスト比の透過表示が特徴であり、これを半透過型とした半透過IPS方式液晶表示装置が提案されている。半透過IPS方式液晶表示装置の反射表示部には外部からの入射光を反射するのための反射層が配置されており、表面に微小な凹凸を有する拡散反射層が用いられている(特許文献1)。拡散反射層はマクロな反射面に対して入射角と出射角が異なる拡散反射を示す。
鏡面反射板では光源と観察者の位置関係の変化に伴い観察者に到達する光量がめまぐるしく変化し、良好な視認性が得られないが、拡散反射板では上記の変化が少なく、紙のような高品位の視認性が得られる。
また、多くの場合観察者は半透過型液晶表示装置を法線方向から観察するが、光源は法線方向から離れた斜め方向にある。この時、光源光が正反射されても観察者には到達しないため、観察者に到達する光量を増大するには拡散反射層が必要である。この様に反射表示では不特定の斜め方向から入射した光を利用するため、その暗表示における反射率には視角特性が関与し、明表示と暗表示の反射率の比で表される反射コントラスト比にも視角特性が関与する。反射コントラスト比を向上するには、法線方向のみならず視角方向における暗表示反射率を低減しなければならない。
液晶表示装置では2つの電極を用いて液晶層に電界を印加し、このうち画像情報に対応した電位を各画素毎に与える方を画素電極,画素間で共通の電位を与える方を共通電極と呼ぶ。IPS方式液晶表示装置では画素電極と共通電極の少なくとも一方が櫛歯状であり、電気力線は画素電極と共通電極を結ぶように、液晶層内にアーチ状の弧を描いて分布する。アーチ状の電気力線の各部分で電気力線の方向と電界強度が異なることから、電界印加時において液晶層は不均一な配向状態になる。均一な液晶配向は電圧無印加時にのみ得られるため、電圧無印加時を暗表示にし、電圧印加と共に透過率、若しくは反射率が増大するノーマリクローズ型の印加電圧依存性にしなければならない。
偏光板を用いた反射型液晶表示装置では、反射板に到達する光の偏光状態を円偏光にすることにより暗表示を得る。即ちこの時、偏光板を通過した時点で透過光の偏光状態は直線偏光であるが、これが反射板で反射されて再び偏光板に到達する際に偏光方向が90度回転した直線偏光になり、偏光板で完全に吸収されるからである。このことは、半透過IPS方式液晶表示装置を含む半透過型液晶表示装置の全般に該当する。
液晶層と偏光板の間には位相差層を配置するが、円偏光を実現するためには液晶層と位相差層のΔnd(複屈折×層厚)の合成値を4分の1波長にしなければならない。電圧無印加時においてIPS方式液晶表示装置の液晶層はホモジニアス配向であり、液晶層の見かけのΔnは0nmにはならず、Δndも0nmではなく、ある一定値をとる。
液晶層や位相差層は可視波長域において波長と共に単調減少するΔndの波長依存性を示す。そのため、液晶層や位相差層単独ではΔndが4分の1波長になるのは可視波長域の一点のみである。2分の1波長板と4分の1波長板を組合わせた広帯域4分の1波長板ではΔndの波長依存性が補償され、可視波長の広い領域で実質的に4分の1波長板となる。広帯域4分の1波長板では反射層に近い側から4分の1波長板、2分の1波長板の順で積層される。半透過IPS方式液晶表示装置では反射表示部に位相差層を配置し、液晶層を4分の1波長板、位相差層を2分の1波長板として両者が広帯域4分の1波長板として機能するようにこれらの配向方向や遅相軸を設定する。これにより可視波長の広い領域で反射率が低下し、低反射率でかつ無彩色の反射暗表示が得られる。
位相差層を反射表示部液晶層と基板の間に配置し、かつ反射表示部に対応する部分にのみ選択的に形成すれば、透過表示部を透過型IPS液晶表示装置と同じ構成にできるため、透過型IPS液晶表示装置と同じ広視野角で高コントラストの透過表示を反射表示と両立することができる。これ以降、前記構成の半透過IPS液晶表示装置を位相板内蔵半透過IPS液晶表示装置と呼ぶことにする。反射表示部では、法線方向に対して傾いた不特定の方向から光が入射するため、法線方向から入射した光のみならず、法線方向に対して傾いた方向から入射した光についても広帯域4分の1波長板として機能しなければならない。しかしながら、位相板内蔵半透過IPS液晶表示装置では反射表示部における視角特性向上が充分になされていなかった。
本発明の目的は、広視野角で高コントラスト比の透過表示に加えて高コントラスト比の反射表示が可能になり、全環境で高品位の表示が得られる位相板内蔵半透過IPS液晶表示装置を提供することである。
本願発明は、上記課題を解決するために、第一の基板及び第二の基板間に挟持された液晶層と、複数の信号配線と、その複数の信号配線と交差して形成された複数の走査配線と、複数の信号配線と複数の走査配線とで囲まれて形成された複数の画素と、第二の基板上に形成された画素電極及び共通電極と、を有し、液晶層の配向状態は、電界無印加時にホモジニアス配向であり、複数の画素の各画素は、反射表示部と透過表示部を有し、第二の基板と液晶層間で、且つ反射表示部に対応する部分にのみ反射電極を有し、第一の基板と液晶層間で、且つ反射表示部に対応する部分にのみ位相差層を有し、位相差層は、光学等方層に偏光を照射して形成され、Nz係数が0である構成とする。
広視野角で高コントラスト比の透過表示に加えて高コントラスト比の反射表示が可能になり、全環境で高品位の表示が得られる位相板内蔵半透過IPS液晶表示装置を提供できる。
以下各実施例を図面を用いて説明する。
本発明の液晶表示装置の1画素の断面を図1,図3,図4に模式的に示す。それぞれの切断面は図2に記載してある。
液晶表示パネルは第一の基板SU1と第二の基板SU2と液晶層LCLからなり、第一の基板SU1と第二の基板SU2は液晶層LCLを挟持する。第一の基板SU1と第二の基板SU2は液晶層LCLに近接する面上に液晶層LCLの配向状態を安定化するための配向膜(第一の配向膜AL1,第二の配向膜AL2)を備える。また第二の基板SU2の液晶層LCLに近接する面上に液晶層LCLに電圧を印加するための手段を備える。
また、図1にあるように一画素内は透過表示部と反射表示部に面積的に分割されている。図3は、図2のS3−S4間の透過表示部の断面であり、図4は図2のS5−S6間の反射表示部の断面である。
第一の基板SU1は透明性と平坦性に優れ、かつイオン性不純物の含有が少ないホウケイサンガラス製であり、厚さは約400μmである。
第一の基板SU1は、反射表示部においては、液晶層LCLに近接する側より第一の配向膜AL1,段差形成層MI,保護層PL,位相差層RE,位相差膜配向膜ALP,平坦化層LL,カラーフィルタCF,ブラックマトリクスBMが順次積層されている。また透過表示部においては、液晶層LCLに近接する側より第一の配向膜AL1,保護層PL,位相差膜配向膜ALP,平坦化層LL,カラーフィルタCF,ブラックマトリクスBMが順次積層されている。第一の配向膜AL1と位相差膜配向膜ALPはポリイミド系の有機高分子膜であり、ラビング法により配向処理されており、近接する液晶層LCLに約2度のプレチルト角を付与する所謂水平配向膜である。保護層PLと平坦化層LLはアクリル系樹脂であり、透明性に優れ、下地の凹凸を平坦化し、かつ溶剤の浸透を防ぐ機能を有する。段差形成層MIは保護層PLや平坦化層LLと同様アクリル系樹脂であり、反射表示部に対応する部分にのみ分布する。カラーフィルタCFは赤色,緑色,青色を呈するストライプ状の各部分が繰り返し配列された平面構造を有する。ブラックマトリクスBMは黒色レジストからなり、画素境界部に対応するように格子状の平面分布構造を有する。
第二の基板SU2は第一の基板SU1と同様にホウケイサンガラス製であり、厚さは約400μmである。第二の基板SU2は液晶層LCLに近接する側より順に、主に第二の配向膜AL2,画素電極PE,層間絶縁膜PCIL,共通電極CE,アクティブ素子,走査配線GL,信号配線SLを備える。第二の配向膜AL2は、第一の配向膜AL1と同様にポリイミド系の有機高分子膜からなる水平配向膜である。画素電極PEと共通電極CEはいずれも透明性と導電性を兼ね備えたインジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide、ITO)であり、層厚は100nmである。両者は窒化珪素(SiN)製の層間絶縁膜PCILによって隔たれており、層間絶縁膜PCILの層厚は300nmである。画素電極PEの平面形状が櫛歯状である櫛歯状電極であるのに対し、共通電極CEは後述するように共通電極空孔部を有するものの、各画素のほぼ全面に渡って分布しているべた状電極とする。画素電極PEと共通電極CEが層間絶縁膜PCILで隔てられていることにより、電圧印加時には両者の間にアーチ状の電気力線が液晶層中にはみ出すように形成される。これは基板平面に対して平行な成分を有する所謂横電界であり、液晶層の配向状態を主に面内で回転するように変形するIPS方式液晶表示パネルである。IPS方式液晶表示パネルでは電圧印加に伴う液晶層のチルト角増大が少ないため、視角方向での階調表示特性に優れた広視野角の表示が得られる。
また、図1では画素電極PEと共通電極CEが重畳する部分が多数存在するが、この部分は液晶層LCLに対して並列に結合しているため保持期間中の印加電圧を一定に保つ保持容量として機能する。
これに加えて、第二の基板SU2の反射表示部には共通電極CEの上側、つまり共通電極CEと画素電極PEの間に反射電極RFからなる反射層を備える。更に、共通電極CEの下層、つまり第二の基板SU2と共通電極CE間には凹凸形成層SCILを有し、凹凸形成層SCILは反射層と重畳する部分において多数の微小でかつなだらかな凹凸を有する。凹凸形成層SCILは有機絶縁膜からなり、有機絶縁膜の表面をエッチングして、その後これを加熱して融解状態とする。この時の表面張力を利用して表面をなだらかな凹凸にし、これを固化して凹凸を形成する。凹凸形成層SCILの上面にある反射電極RFは凹凸形成層SCILに沿った形状になるため、反射層は巨視的な層平面に対して傾いた多数の微小平面を有し、拡散反射を示す。鏡面反射板は光源と観察方向の関係の変化に伴い反射輝度がめまぐるしく変化するので、視認上好ましくない。拡散反射板は光源と観察方向の関係が変化しても反射輝度の変化が少なく、完全拡散面に近い高品位の反射表示面が得られる。反射層は高反射率を示すアルミ膜である。
図2に示した様に、信号配線SLと走査配線GLは互いに交差している。信号配線SLと走査配線GLの交差部の近傍にはそれぞれアクティブ素子を有し、画素電極PEと1対1に対応している。画素電極PEにはアクティブ素子を介して信号配線SLより電位が付与され、アクティブ素子の動作は走査配線GLにより制御される。アクティブ素子は薄膜トランジスタであり、そのチャネル部は電子移動度の比較的高いポリシリコン層から成る。ポリシリコン層はCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成したアモルファスシリコン層をレーザー光線で加熱焼成して形成される。各画素電極PEは長方形状で互いに独立に制御され、かつ第二の基板SU2上に格子状に配置されている。
透過表示部で光はカラーフィルタCFを一回だけ通過するのに対し、反射表示部では反射板で反射されるため二回通過する。そのため、反射表示部と透過表示部に同じカラーフィルタCFを用いれば、実効的な透過率は後者のほうが低下する。更に、反射表示部は外部からの入射光を光源に利用するため、周囲が充分に明るくない場合には明るい表示が得られない。より広範な環境下で明るい反射表示を得るため、反射表示部のカラーフィルタは透過表示部よりも高透過率にする。
具体的には、図5に示した様に、反射表示部にカラーフィルタCFの存在しないカラーフィルタ空孔部CFHを配置し、空孔部との加法混色で反射表示する。ここで、図5は第一の基板SU1の平面図であり、本実施例の液晶表示装置のカラーフィルタCFやブラックマトリクスBMの平面分布を示している。図5は3画素分に対応する領域を含んでおり、左側より赤色カラーフィルタCFR,緑色カラーフィルタCFG,青色カラーフィルタCFBである。あるいはまた、反射表示部のカラーフィルタの厚さを低減しても同様の効果が得られる。
図6は図5と同様に第一の基板SU1の平面図であるが、カラーフィルタCFやブラックマトリクスBMに加えて位相差層REの平面分布を示している。位相差層REの平面分布を示すため、ブラックマトリクスBMは実際とは異なるものの白ぬきで示してある。位相差層REは各画素の反射表示部を結ぶようにしてストライプ状に分布する。
液晶層LCLは室温を含む広い温度範囲でネマチック相を示し、液晶配向方向の誘電率がその垂直方向よりも大きい正の誘電率異方性を示す。なおかつ液晶層LCLは高抵抗を示すので、アクティブ素子がオフとなる保持期間中においても電圧低下が十分に少なく、保持期間中の透過率低下や所謂フリッカ現象を生じない。第一の配向膜AL1と第二の配向膜AL2にラビング法で配向処理を施した後、第一の基板SU1と第二の基板SU2を組立て、液晶材料を真空封入して前述の液晶層LCLとする。
第一の配向膜AL1と第二の配向膜AL2の配向処理方向を反平行としたことにより、液晶層LCLを配向状態が安定なホモジニアス配向とする。その配向方向は画素電極PEの櫛歯方向に対して10度を成し、電圧印加時に発生する横電界に対して80度をなす。これにより、電圧印加時において充分に大きな液晶層の配向変化が得られる。なおかつ、電圧印加時の配向変化方向、即ち層内における液晶層LCLの回転方向(時計回り、若しくは反時計回り)が一義的に定まり、安定な配向変化が得られる。
第一の基板SU1と第二の基板SU2の外側には第一の偏光板PL1と第二の偏光板PL2を配置しており、第一の偏光板PL1と第二の偏光板PL2はヨウ素系色素を含み、ヨウ素は偏光板内で多量体を形成している。その2色性により、偏光板は入射した自然光を偏光度が十分に高い直線偏光に変換する。ヨウ素系色素の多量体の配向方向が吸収軸であり、第一の偏光板PL1と第二の偏光板PL2の吸収軸はその平面法線方向から観察して互いに直交し、かつ第一の偏光板の吸収軸は液晶配向方向に平行である。
図8は位相差層REの形成プロセスを示す模式図であり、図6中に記したS9−S10で切断した緑色カラーフィルタCFGの透過表示部と反射表示部の断面について記載している。また、図8において第一の基板SU1上のカラーフィルタCFと平坦化層LLは省略してある。
有機高分子溶液を第一の基板SU1上の全面に塗布して、この後図8(a)に示した様に溶剤を除いて光学等方層IL(有機高分子層)とする。この段階において光学等方層内の分子配向方向はランダムであるため、光学的に等方である。次に、偏光紫外光源と光学等方層の間にフォトマスクを配置する。フォトマスクは第一の基板の透過表示部に対応する部分を遮光し、反射表示部に相当する光学等方層を主に露光する。この段階において、反射表示部に対応する光学等方層の有機高分子の結合が一部分解して、光学等方層の分子配向方向に異方性が生じる。図8(b)中の破線は露光された有機高分子の結合が一部分解した状態を示した模式図である。透過領域に対応する部分(非露光部NEP)には形成されず、反射表示部に対応する部分(露光部LEP)にのみ選択的に位相差層REが形成される。また、透過表示部に対応する部分は偏光を照射されないため光学等方層のままである。これ以後、位相差層REは保護膜形成、第一の配向膜AL1形成の各プロセスで過熱される。高温状態において位相差層REを構成する有機高分子の分子運動が増大し、Δndが減少することがある。Δndの減少は、高温状態の温度が一定であれば高温状態におかれる時間の長さにほぼ比例するため、これを勘案して初期のΔndを設定する。
図17(a)に光学等方層ILである有機高分子層に照射する偏光紫外光PLUVと、実現される屈折率楕円体の関係を示す。法線方向をz軸、偏光紫外光PLUVの振動方向PLAMをy軸,y軸に直交しかつ平面に平行な軸をx軸とする。図17(b)に破線で示した様に、偏光紫外光PLUVの振動方向PLAMに平行な分子結合が選択的に切断されるため、y軸方向の屈折率が減少する。これに対して、図17(b)に実線で示した様に偏光紫外光PLUVの振動方向PLAMに垂直な方向では分子結合が分解されずに残るため、x軸とz軸では屈折率の減少は生じない。以上により、光学等方層に光学異方性を付与して位相差層REにすることができる。x軸方向,y軸方向,z軸方向の屈折率をそれぞれnx,ny,nzとすると、nz=nx>nyとなる。
なお、液晶表示装置の内部を通過する光は偏光であるため、その視角特性は偏光状態を変換する作用を有する光学異方性媒体の視角特性によって決定される。位相差層内蔵半透過IPS液晶表示装置の反射表示部に存在する光学異方性媒体は、位相差層と反射表示部液晶層である。光学異方性媒体の視角特性は、以下で定義されるNz係数によって表される。Nz係数はYasuo Fujimura, Tatsuki Nagatsuka, Hiroyuki Yoshimi, Takefumi ShimomuraがSID 91 DIGEST の739頁から742頁に記載しているとおり、次式で表される。
Nz=(ns−nz)/(ns−nf) …(1)
ここで、ns,nf,nzはそれぞれ平面内遅相軸方向の屈折率,平面内進相軸方向の屈折率,厚さ方向の屈折率である。
この(1)式においてnx=ns,ny=nfとなるので、この場合にNz係数は0になる。また、図17(c)はこのときに形成される位相差層REの屈折率楕円体の形状を示している。
液晶表示装置には多くの場合ネマチック相やスメクチック相を示す液晶層が用いられるが、何れの場合も一軸性であり、そのNz係数は1である。実用に充分な動作温度範囲,駆動電圧を示し、その他実用上の要請を満足する液晶層はネマチック相かスメクチック相を示すものに限られる。従って、反射表示部液晶層のNz係数は事実上1に固定されているものと見なして妥当である。反射表示部の視角特性は反射表示部液晶層のNz係数を1としながら、位相差層REのNz係数を最適化することにより向上できる。
基板外側の全面に貼り付けて用いられる位相差層は、有機高分子を延伸して薄膜化し、かつこれと同時に光学異方性を付与している。Nz係数も延伸条件で制御可能である。しかし、これらの位相差層は一般にΔnの値が小さく、必要なΔndを得るためには液晶層LCLの10倍以上の厚さが必要になる。その他にも耐熱性や、反射表示部への選択形成する手段がないなどの理由もあり、これらの位相差層を液晶層と基板の間に配置することはできない。
光重合性の低分子液晶を配向膜上に塗布して均一配向とし、これに光照射して光重合して光重合性の有機分子層である位相差層とすることも考えられる。この方法でNz係数が0の位相差層を形成するには、円盤状の分子骨格を有するディスコチック液晶を用いることが考えられる。すなわち、円盤状の分子骨格の末端に光重合性基を付加し、分子骨格を基板平面に対して立てた状態で一様配向して光重合する。しかし、ディスコチック液晶による上記の配向状態は不安定であり、一様配向の実現は困難である。
本発明では光分解性の有機高分子溶液を基板上に塗布して有機高分子層とし、これに偏光紫外光PLUVを照射することにより位相差層のNz係数を制御した。偏光紫外光PLUVの振動方向PLAMに平行な分子結合が選択的に分解するため、同方向の有機高分子膜の屈折率が減少する。これに対して偏光紫外光PLUVの振動方向PLAMに垂直な方向では分子結合が分解されずに残るため、屈折率の減少は生じない。これにより、有機高分子層に光学異方性を付与して位相差層REにすることができる。また、屈折率の大きい方向が2方向残るため、光学異方性が2軸異方性である位相差層を容易に実現できる。偏光紫外光PLUVを法線方向から照射すれば、振動方向が進相軸に、その垂直方向が遅相軸になる。また、厚さ方向は遅相軸と同じ屈折率になるため、Nz係数が0の位相差層が得られる。
反射表示部液晶層のNz係数は1であるため、層厚方向と面内方向の屈折率を比較すると後者の方が大きい。これに位相差層を組合わせて法線方向においては広帯域4分の1波長板として機能させ、なおかつ層厚方向と面内方向の屈折率のバランスをとるには、法線方向の屈折率の大きい位相差層を用いればよい。例えば、前述のNz係数が0の位相差層がこれに該当する。また、光分解性の有機高分子には、例えば各種のポジ型レジストが該当する。
また、第一の偏光板PL1と位相差層REと反射表示部液晶層の光学軸方向、並びに位相差層REと反射表示部液晶層のΔndは、広帯域4分の1波長板と同様にして決定される。
広帯域4分の1波長板は偏光板、2分の1波長板、4分の1波長板を順次積層した構造を有し、波長550nmを中心とした可視波長域のより広い波長域で入射偏光を円偏光、若しくはこれにごく近い偏光状態に変換する機能を有する。その原理をポアンカレ球表示を用いて以下に説明する。ポアンカレ球表示については、応用物理学会編、森北出版「結晶光学」、あるいはまた鶴田匡夫著、培風館「応用光学II」等の書籍に詳細に解説されている。
また、以下ではポアンカレ球を地球に見立て、S3軸とポアンカレ球の交点を北極と南極、S1,S2平面とポアンカレ球の交線を赤道と呼ぶことにする。この場合、北極と南極が円偏光を表し、赤道が直線偏光を表し、その他の部分が楕円偏光を表す。また、S1,S2,S3軸はそれぞれ偏光状態のストークスパラメータであり、強度を表すストークスパラメータS0で規格化された値である。
広帯域4分の1波長板は視感度が最大になる波長550nmの光を基準にして設計される。波長550nmの光が広帯域4分の1波長板を通過した際の偏光状態の変化を示す。偏光板を通過した光は直線偏光のため赤道上の一点に位置するが、2分の1波長板に入射するとその遅相軸に相当する軸の回りを2分の1回転し、赤道上の別の一点に移動する。次いで4分の1波長板に入射するとその遅相軸に相当する軸の回りを4分の1回転し、北極上に移動して円偏光に変換される。
大多数の光学異方性媒体と同様に、2分の1波長板のΔndは可視波長域において波長と共に単調減少する波長依存性を示す。そのため、可視波長域の長波長側では図12(b)に示したように回転が2分の1回転以下になり、赤道まで到達せずに北半球上に移動する。可視波長域の短波長側では図12(c)に示したように回転が2分の1回転以上になり、赤道を通過して南半球上に移動する。次の4分の1波長板では移動方向が概略逆方向になり、なおかつ先の2分の1波長板と同様の波長依存性を示す。可視波長の長波長側では図12(b)に示したように北半球上をスタート点として北極方向に向かうため、北極までの距離がより近いが、この時の回転が4分の1回転以下と小さいため北極付近に到達する。可視波長の短波長側では図12(c)に示したように南半球上をスタート点として北極方向に向かうため、北極までの距離がより遠いが、回転が4分の1回転以上と大きいため北極付近に到達する。このようにして、同じリタデーションの波長依存性を有する2分の1波長板と4分の1波長板を、ポアンカレ球上における回転方向が概略逆方向になるような角度関係で積層することによりリタデーションの波長依存性を相殺する。
本発明では反射層に近接する側より反射部液晶層,位相差層の順で積層しているため、反射部液晶層が4分の1波長板に相当し、位相差層が2分の1波長板に相当する。即ち、反射部液晶層のΔndを4分の1波長板相当に設定し、位相差層のΔndを2分の1波長板相当に設定すれば良い。
光学軸の角度設定についても、図12(a)より導かれるが、より明確にするためこれをS1,S2平面に投影して図11(a)に示す。この場合中心が北極または南極に、円周が赤道になる。図11(a)で偏光状態の変換はポアンカレ球の北半球を反時計回りに動いて北極に到達する動きとして表される。広帯域4分の1波長板としては、この他にもポアンカレ球の北半球を時計回りに動いて北極に到達,ポアンカレ球の南半球を反時計回りに動いて南極に到達,ポアンカレ球の南半球を時計回りに動いて南極に到達する動きがあり、それぞれ図11(b),(c),(d)に示した。位相差層REの遅相軸方位角θPHと液晶層LCLの配向方向方位角θLCをそれぞれ第一の偏光板PL1の透過軸方位角を0度として反時計回りに定義すると、θPHとθLCの関係は図11(a)〜(d)より次式で表される。
2θPH=±45°+θLC …(2)
尚、図11中のθPH′とθLC′は、θPH,θLCとそれぞれ2θPH′=θPH,2θLC′=θPHの関係にある。このようにθPHとθLCには多数の組合せが存在し、一義的には定まらない。しかしながら、本発明では液晶層LCLの配向方向は反射表示部と透過表示部で同様にし、かつ第一の偏光板PL1は液晶パネルの外側に貼り付けるため、その透過軸方位も反射表示部と透過表示部で同様にするという制約がある。従って、第一の偏光板PL1の透過軸方位に対し、反射部液晶層の配向方向は平行または直交になる。即ちθLC=0度若しくは±90度となり、かつポアンカレ球上における回転方向が概略逆方向になることを考慮して、結局θPH=±62.5度となる。
以上により、位相差層REと反射部の液晶層LCLの組合わせにおいて反射黒表示の反射率を最も低減できる。反射スペクトルは図10に実線で示した様に、波長550nmを中心にした広範な可視波長域に渡って反射率が低減する。あるいはまた、位相差層REと反射部液晶層のΔndの比率を概略保った上で反射部液晶層のΔndを増やせば、暗表示反射率を比較的低く保ちながら明表示反射率を増大できる。
暗表示反射率の視角依存性を計算した例を図7に示す。図7の計算では反射板を鏡面反射板とし、かつ入射角と反射角の等しい正反射の光路を仮定しているが、拡散反射板においては不特定の斜め方向から光が入射することを考慮して、入射角を連続的に変えながら暗表示反射率を計算しており、そのため図7の横軸は入射角としている。図7(a)は櫛歯電極を横断する方向の方位、図7(b)は櫛歯電極に平行な方向の方位における入射角依存性である。また、比較のため位相差層のNz係数が1の場合の反射率を破線で併記した。Nz係数が1の場合には入射角が増大するにつれて反射率が増大し、特に30度以上では反射率の増大が著しい。これに対して、Nz係数が0の場合には反射率の増大が比較的小さいことがわかる。拡散反射板を用いた場合の光路は図7の計算の仮定と全く同じではなく、例えば後述する積分球光源を用いた測定では反射後の光路は法線方向になるが、図7では入射時の光路の角度依存性は考慮されており、拡散反射板を用いた場合のNz係数の効果を反映しているものと思われる。
積分球光源をその開口部半径と同じ距離だけ離して本発明の液晶表示装置の上面に配置し、反射表示のコントラスト比を測定した。反射型表示では法線方向に対して傾いた方向から入射する光を光源として利用し、表示装置自体は法線方向から観察することが多いが、この方法により実際の使用状況を反映した反射表示特性評価が可能になる。得られたコントラスト比は、位相差層のNz係数を1とした場合に比較して約1.5倍であった。
以上のようにして、位相差層に光分解性の有機高分子層を用い、偏光紫外光PLUVを照射してNz係数が0の位相差層とすることにより暗表示反射率を低減し、半透過型IPS液晶表示装置の反射コントラスト比を向上できた。
実施例1において、光分解性の有機高分子層に偏光紫外光PLUVを照射する際に法線方向に対して傾いた2つの方向から照射した。図14(a)に光分解性の有機高分子層に対する偏光紫外光PLUV(第一の偏光紫外光PLUV1,第二の偏光紫外光PLUV2)の照射方向と、偏光紫外光PLUVの振動方向PLAM(第一の振動方向PLAM1,第二の振動方向PLAM2)を示す。2つの照射方向は法線方向に対して互いに対称である。また、法線と照射方向を含む面を光照射面とすると、偏光の振動方向は光照射面内にある。また、2つの照射方向からの光照射量は等しいものとする。
図14(b)に示した様に、光照射面と位相差層平面の交差する方向をy軸、位相差層平面内でy軸に直交する方向をx軸、位相差層の法線方向をz軸とすると、x軸は2つの照射方向の偏光振動方向のいずれに対しても直交するため、x軸方向の分子結合は切断されずに残る。これに対して、y軸とz軸は2つの照射方向の偏光振動方向に対して直交しないため、y軸方向とz軸方向の分子結合は切断される。x軸方向,y軸方向,z軸方向の屈折率をそれぞれnx,ny,nzとすると、nx>ny,nx>nzとなる。
nyとnzの大小関係は、y軸方向とz軸方向の分子結合が切断される割合で決定される。更に、y軸方向とz軸方向の分子結合が切断される割合は光照射方向が法線方向となす角によって決定される。図14(a)は光照射方向と法線方向のなす角が小さい場合である。この時偏光振動方向とy軸はより平行に近づき、偏光振動方向とz軸はより直交に近づくため、y軸方向の分子結合が切断される割合が高くなる。そのため、この時形成される屈折率楕円体の形状は、図14(c)に示した様にnx>nz>nyとなる。(1)式においてnx=ns,ny=nfとなるので、この場合にNz係数は0以上、1以下になる。
図15(a)は光照射方向と法線方向のなす角が大きい場合である。偏光振動方向とy軸はより直交に近づき、偏光振動方向とz軸はより平行に近づくため、z軸方向の分子結合が切断される割合が高くなる(図5(b))。そのため、この時形成される屈折率楕円体の形状は、図15(c)に示した様にnx>ny>nzとなる。この場合にNz係数は1以上になる。
以上のようにして、位相差層のNz係数を0以上の範囲において制御可能になる。本発明の目的である位相板内蔵半透過IPS液晶表示装置の反射コントラスト比向上にもどると、液晶層においては平面方向の屈折率が大きいため、これに組合わせる位相差層には法線方向の屈折率をより大きくすることが要求される。従って、光照射方向と法線方向のなす角を小さくする照射条件が好ましい。
このように光照射方向を斜め2方向とし、偏光の振動方向を光照射面に平行にすることにより、Nz係数が1と0の間の値の位相差層を形成できる。これ以外にも、光照射方向を斜め2方向とし、偏光の振動方向を光照射面に垂直にすることにより、Nz係数が1以上の値の位相差層を形成できる。あるいはまた、法線方向から2回照射し、かつ各照射時の偏光の振動方向が互いに直交するようにし、照射光量を調節することによりNz係数が負の位相差層を形成できる。更には、光照射方向を斜め1方向とすることにより、遅相軸が層平面に対して傾いた位相差層を形成できる。
本実施例では、図16(a)に示した様に、光分解性の有機高分子層に偏光紫外光PLUVを照射する際に法線方向から2回照射した(第一の偏光紫外光PLUV1,第二の偏光紫外光PLUV2)。2回の光照射において振動方向(第一の振動方向PLAM1,第二の振動方向PLAM2)は直交するようにした。図16(a)において、直線方向の振動方向を表す矢印の長さは光照射量を示しており、一回目の照射時の光照射量をより多くし、二回目をより少なくした。
一回目の照射時の振動方向と直交する方向をx軸、位相差層平面内でx軸に直交する方向をy軸、位相差層の法線方向をz軸とすると、図16(b)に示した様に、z軸は2つの照射方向の偏光振動方向のいずれに対しても直交するため、z軸方向の分子結合は切断されずに残る。これに対して、x軸とy軸は2つの照射方向の偏光振動方向に対して直交しないため、y軸方向とz軸方向の分子結合は切断される。x軸方向,y軸方向,z軸方向の屈折率の大小関係は、nz>ny,nz>nxとなる。
y軸方向ではより光量の大きい1回目の光照射で分子結合が切断されるため、y軸方向の屈折率はx軸方向よりも小さくなる。従って、この時形成される屈折率楕円体の形状は、図16(c)に示した様にnz>nx>nyとなる。(1)式においてnx=ns,ny=nfとなるので、この場合にNz係数は0以下になる。
本発明の目的である位相板内蔵半透過IPS液晶表示装置の反射コントラスト比向上にもどると、液晶層においては平面方向の屈折率が大きいため、これに組合わせる位相差層には法線方向の屈折率をより大きくすることが要求される。本実施例の偏光紫外光の照射方法は、法線方向の屈折率を大きくするのに有利である。
位相差層のもとになる有機高分子溶液を塗布する際に平面方向に有機高分子が流動するため、平面方向により多く配向する場合がある。この時に有機高分子膜は等方的にならず、法線方向の屈折率が平面方向に比較して小さくなる。この様な場合において、法線方向の屈折率が大きい位相差層を形成するには、本実施例の偏光紫外光の照射方法が有効である。
本実施例では、暗表示反射率を低減する位相差層と反射部液晶層のΔndの組合せを計算により求めた。第一の偏光板PL1と位相差層REと反射部液晶層の軸角度を請求項1における値に設定し、入射時及び反射時の光路は何れも法線方向と仮定した。Jonesマトリクス法による光学計算を行う市販の一次元計算ソフトウエアを用い、位相差層REと反射部液晶層のΔndの組合せを変えながら暗表示反射率を計算した。計算結果を図13(a)に示す。
図13(a)において+印は位相差層と反射部液晶層の波長550nmにおけるΔndを理想的な広帯域4分の一波長板の値、即ち前者を275nm、後者を137.5nmにした場合を示し、実線で示す領域はこの時の値の1.5倍以下の暗表示反射率が得られる領域である。その外側の破線,一転鎖線,点線はそれぞれ理想的な広帯域4分の一波長板の2.0倍,2.5倍,3.0倍の暗表示反射率が得られる領域である。この様に、良好な暗表示反射率の得られる領域は+印を中心に概略楕円状に分布している。また、該領域は長軸が傾斜した楕円であり、その傾きは正である。位相差層と反射部液晶層のΔndに比例関係が成立すれば、暗表示反射率を低減できることを示している。
これより、その楕円の長軸に相当する直線を摘出し、その関係式を求めたのが図13(b)である。位相差層のΔndをΔndPH、反射表示部の液晶層のΔndをΔndLCとすると、ΔndPHとΔndLCはΔndPH=1.37ΔndLC+86、若しくはその近傍に位置する関係にあれば、両者のΔndが理想的な広帯域4分の一波長板の値からずれていても比較的良好な暗表示反射率が得られる。
このことは、図12(b),(c)を用いて定性的に説明できる。すなわち、位相差層のΔndが理想値より小さい場合には、反射部液晶層のΔndも理想値より小さければポアンカレ球の極近傍に移動可能であり、暗表示反射率を低減できる。また逆に位相差層のΔndが理想値より大きい場合には、反射部液晶層のΔndも理想値より大きければポアンカレ球の極近傍に移動可能である。
以上の結果は、反射率をより優先して反射表示部液晶層のΔndを理想的な4分の一波長板の値よりも大きく設定するときに、位相差層のΔndを決定するのに有効である。
本実施例では、光重合性の有機分子を用いて位相差層を形成し、そのNz係数を0にした。
有機高分子溶液を第一の基板上の全面に塗布して、この後溶剤を除いて光学等方層とする。次に、偏光紫外光源と光学等方層の間にフォトマスクを配置する。フォトマスクは第一の基板の透過表示部に対応する部分を遮光し、反射表示部に相当する部分を主に露光する。この段階において、反射表示部に対応する光学等方層の有機分子が一部光重合して、光学等方層の分子配向方向に異方性が生じる。反射表示部に対応する部分にのみ選択的に位相差層が形成される。
Nz係数を0とするには、面内の一方向と厚さ方向の屈折率を等しく増大する。光学等方層中に含まれる光重合基のうち、偏光紫外光の振動方向に平行な成分が重合し、結合が生じた方向の屈折率が増大する。これより、面内の一方向と厚さ方向の屈折率を等しく増大するには偏光は照射面内において法線方向をはさむ2つの方向から照射し、偏光の振動方向は照射面に平行とすればよい。なおここで照射面とは、第一の基板もしくは第二の基板の法線方向と位相差層の遅相軸を含む面とした。
光重合性の有機分子は、側鎖に光重合性基を備えた有機高分子であってもよい。偏光紫外光の振動方向に垂直な光重合性基は反応せずに残るが、耐熱性を向上するには分子結合を密にすべきである。基板を加熱しながら光照射すれば有機高分子の熱運動が活発になる。2組の近接した光重合性基が偏光紫外光の振動方向に十分並行になれば光重合が生じ、分子配向状態も偏光紫外光の振動方向に平行な状態で固定される。これにより、光学異方性を付与しながら耐熱性も向上できる。
透過表示部に対応する部分は偏光を照射されないため、光学等方層のままである。光重合性の有機分子が有機高分子である場合には、透過表示部に対応する部分を露光し、反射表示部に相当する部分を主に遮光しながら、自然光の紫外光を照射する。局所的な分子配向によらずに光重合反応が生じるため、光学等方性を保ったまま重合反応が進展し、より密な分子結合を形成できる。
光重合性の有機分子は光重合性基を含む有機低分子であってもよい。この場合透過表示部に位置する光学等方層を前述のように自然光を照射して重合し成膜化してもよい。あるいはまた、有機溶剤で洗浄して除去しても良い。この時反射表示部に形成された位相差層は高分子化しており、有機溶剤に対する溶解性が十分に低ければ溶解せずに残る。
つまり、本発明では光反応性の有機低分子または有機高分子をランダムに配向した光学等方状態で基板上に塗布して、これに偏光紫外光を照射して位相差層のNz係数を制御した。偏光紫外光の振動方向に平行な成分が優先的に光重合反応を起こすため、これに平行な方向の屈折率が増大する。このような特徴を生かして位相差層のNz係数を0にするには、偏光は照射面内において法線方向をはさむ2つの方向から照射し、偏光の振動方向は照射面に平行とすればよい。なおここで照射面とは、第一の基板もしくは第二の基板の法線方向と位相差層の遅相軸を含む面とした。
以上のように、光重合性の有機分子を用いてNz係数が0の位相差層を形成した。これにより暗表示反射率を低減し、半透過型IPS液晶表示装置の反射コントラスト比を向上できた。
〔比較例〕
実施例1において、位相差層のNz係数を1にした。Nz係数が1の位相差層の形成には、光分解性の有機高分子層を用いるよりも、光重合性の液晶分子に光照射して形成する方が容易である。光重合性の液晶分子はネマチック相を示し、ネマチック相の配向状態を保ったまま固体化できる。ネマチック相のNz係数は1のため、これを固体化して作成した位相差層のNz係数も1になる。
図9は位相差層の形成プロセスを示す模式図であり、図6中に記したS9−S10で切断した反射表示部と透過表示部の断面について記載している。また、図9において第一の基板SU1上のカラーフィルタCFと平坦化層LLは省略してある。
図9(a)は第一の基板SU1上に位相差膜配向膜ALPをラビングロールRULにてラビング法により配向処理している状態であり、図9(b)に示した様に、完成前の位相差層RE′は位相差膜配向膜ALPの配向処理方向に沿ってホモジニアス配向する。完成前の位相差層RE′のもとになる材料はジアクリル系液晶混合物であり、これを光反応開始剤とともに有機溶媒に溶かして、スピンコート若しくは印刷等の手段で位相差膜配向膜ALP上に塗布する。塗布直後は溶液状態であるが、溶媒を蒸発させながら位相差膜配向膜ALPの配向方向に沿って配向させる。図9(c)に示した様に、これに紫外光を照射して非露光部NEP以外は分子末端のアクリル基同士を重合反応させる。この時酸素は重合反応の阻害要因となるが、光反応開始剤の濃度が充分であれば光反応が充分な速さで進行する。図9(c)には楕円で示した液晶分子がほぼ完全に結合された状態を示している。図9(d)は有機溶媒により現像した状態であり、光照射部にのみ完成前の位相差層RE′が形成される。以上により、液晶相における配向状態を概略保ったまま固体化して位相差層REを形成する。
位相差層のNz係数が1の場合と0の場合について、暗表示反射率の視角依存性を計算した例を図7に示す。Nz係数が1の場合には、破線で示したように入射角が増大するにつれて反射率が増大し、特に30度以上では反射率の増大が著しい。液晶層の屈折率分布は平面方向が大きく、これに同様の屈折率分布を示す位相差層を組合わせれば平面方向の屈折率分布が過剰になり、暗表示反射率の視角依存性が低下する。拡散反射板と組合わせた場合には入射角の大きい光入射成分が高い割合で含まれるため、暗表示反射率が増大して反射コントラスト比が低下する。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の一画素を示した断面図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の基板の平面図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の透過表示部の断面図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の反射表示部の断面図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の第一の基板上を示す平面図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の第一の基板上を示す平面図である。
暗表示反射率の入射角依存性を示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の位相差層の形成プロセスを示す図である。
比較例の位相差層の形成プロセスを示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の反射表示部の暗表示時の反射スペクトルを示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の位相差層と反射部液晶層による暗表示時における入射光の偏光状態の変換を示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の位相差層と反射部液晶層による暗表示時における入射光の偏光状態の変換を示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の暗表示反射率を低減する位相差層と反射部液晶層のリタデーション関係を示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の他の実施例の位相差層形成時の光照射方法を示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の他の実施例の位相差層形成時の光照射方法を示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の他の実施例の位相差層形成時の光照射方法を示す図である。
本発明に係る液晶表示装置の一実施例の位相差層形成時の光照射方法を示す図である。
符号の説明
PL1 第一の偏光板
PL2 第二の偏光板
SU1 第一の基板
SU2 第二の基板
LL 平坦化層
AL1 第一の配向膜
LCL 液晶層
AL2 第二の配向膜
GL 走査配線
CF カラーフィルタ
BM ブラックマトリクス
RE 位相差層
ML 段差形成層
ALP 位相差膜配向膜
PL 保護層
PCIL 層間絶縁膜
CE 共通電極
SCIL 凹凸形成層
GIL 走査配線絶縁膜
PE 画素電極
CH コンタクトホール
SE ソース配線
RF 反射電極
SL 信号配線
CFR 赤色カラーフィルタ
CFG 緑色カラーフィルタ
CFB 青色カラーフィルタ
CFH カラーフィルタ空孔部
NEP 非露光部
RUL ラビングロール
RE′ 完成前の位相差層
LCAL 液晶配向方向
REAL 位相差層遅相軸
REMR 位相差層段差形成層
PLUV 偏光紫外光
PLAM 振動方向
IL 光学等方層
PLUV1 第一の偏光紫外光
PLAM1 第一の振動方向
PLUV2 第二の偏光紫外光
PLAM2 第二の振動方向