JP4951759B2 - レドックス応答性発光プローブ及びそれを用いる検出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、レドックス応答性発光プローブ及びこの発光プローブを用いた各種の検出方法に関するものである。本発明のレドックス応答性発光プローブは、生体レドックス状態の変化に可逆的又はほぼ可逆的に応答することができるので、例えば、血液、尿、唾等の試料を用いた酸化ストレス状態の計測診断、細胞を含む生体試料中のレドックス状態の計測又はイメージング、健康食品等の抗酸化能の計測、あるいは、適当な1又は2種類以上の酵素及び/又は補酵素と共に用いることによって、特定の生体関連物質を検出するのに用いることができる。
ヒトを含む地球上の大部分の生物は、酸素を使い栄養物質を燃焼させエネルギーを得ている。この酸素は完全に酸化されると水HOになるが、実際はこの際、不完全な酸化体O −・、H、HOなども少量だが発生する。これらの不完全な酸化体は、活性酸素種と呼ばれ、元の酸素に比べ高い反応活性を持っている。この高い活性のため、活性酸素種はタンパク、核酸、脂肪酸等の各種生体成分と反応し、これらを損傷させる。これが、ガン、脳血管疾患、心疾患、糖尿病等の各種疾病や老化の根本原因であると考えられ、現在さまざまな観点から研究が行われている。
他方、生体にはこれら活性酸素種を除去する機能も備わっており、スーパーオキシドジムスターゼ(SOD)、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素やアスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェロール(ビタミンE)、グルタチオン、ポリフェノール等の抗酸化性物質がその機能を担っている。結局、生体内では、この活性酸素種による酸化作用と、抗酸化物質による抗酸化作用のバランスが重要であるといえる。このバランスはレドックスバランスと呼ばれ、「レドックスバランスが酸化側に振れると、疾病の危険因子が増大し、老化が促進される」と考えられている。
また、レドックスバランスは、様々な因子に影響されることが知られており、例えば、ストレスを受けることでも酸化側に振れることが知られている。つまり、ストレスの健康への影響も、レドックスバランスの変化で説明することができる。このように、レドックスバランスは、生体の健康状態を見る上で非常に重要なパラメータである(本明細書では、このようなレドックスバランスの酸化側へ振れた状態を酸化ストレス状態、及びこれを引き起こす要因を総称して酸化ストレスと呼ぶこともある)。
以上のように、レドックスバランスは疾病・老化に深く関係するパラメータであるので、これを計測する方法が様々に報告されている。大きく分けると、1)血又は尿中の酸化ストレスマーカー量を定量する方法、2)電子スピン共鳴(ESR)測定により活性酸素種発生量(又は種類も)若しくは抗酸化能を計測する方法、及び、3)蛍光/燐光(以下、まとめて発光と呼ぶ)測定により活性酸素種発生量(又は種類も)若しくは抗酸化能を計測・イメージングする方法等がある。
酸化ストレスマーカーは、活性酸素種と生体成分との反応でできる特異的な酸化生成物質である(非特許文献1)。8−ヒドロキシデオキシグアノシン(8−OHdG)(非特許文献2)、4−ヒドロキシノネナール(4−HNE)(非特許文献3)、F2−イソプロステイン類(非特許文献4)、カルボニル化タンパク(非特許文献5)等の様々な物質が提案されている。これらの血中もしくは尿中での量は、それぞれ実際に受けた酸化ストレスの程度と良い相関を示すことが報告されている。この方法は特に個体の受けた酸化ストレスを計測するのに有効であり、診断への応用が期待される。しかし、これらの酸化ストレスマーカーによる検出は間接的であり、酸化ストレスとの相関がどこまで成立するかは個別に詳細に検討する必要がある。
生体のレドックスバランス又は酸化ストレスを、ESRを用いて計測する方法もある。活性酸素種の内、例えば、O −・及びHOはラジカル種であるので原理的にはESRで検出できる。実際には、これらの生体中での存在量は少ないので、直接検出することは非常に難しいが、スピントラップ剤を用い、これらを安定なラジカル種に変換することで検出することが行われている。この場合、検出されるESR信号のパターンから、活性酸素種の種類を特定することができる。
また、この他、ニトロキシルラジカルなどの安定なラジカル種をプローブとすることで検出することも行われている。即ち、ニトロキシルラジカル類は、生体中ではアスコルビン酸などの生体内抗酸化物質により、ヒドロキシルアミン体に還元され常磁性を失う。しかし、これらは活性酸素種と反応すると再酸化され、ニトロキシルラジカル体に戻り、ESR信号を再び発するようになる。以上の原理で、生体のレドックス状態を調べることができる(特許文献1及び2)。
ESRによるレドックス状態の計測は、細胞、組織片及び実験動物個体レベルで行われている(非特許文献6)。特に、低周波ESRを用い、実験動物個体を対象とした実験ができる点が有利な点ではあるが、感度や空間解像度が、まだまだ満足行くものではない。特に細胞及び組織片を対象とした場合は、以下に述べる発光に基づく方法が圧倒的に有利である。
発光測定に基づく方法では、各種発光プローブが開発され、活性酸素種発生若しくは抗酸化作用の計測・イメージングが行われている。発光測定は、感度や分解能が良いので、特に細胞レベルでの研究に最適である。以下に発光プローブの種類別に紹介する。
良く使われている発光プローブは、活性酸素種と反応し発光するタイプのものである。このような発光プローブ剤は、様々なものが報告されており、幾つかは特定の活性酸素種に特異的であると報告されている(非特許文献7)。代表例としては、先ず2、7−dichlorodihydrofluorescein(DCFH)がある(特許文献3)。本プローブは、H、HO、ROO等と反応し2、7−dichlorofluoresceinに変化し蛍光を発する。特に、DCFHのジアセタトエステルは、脂溶性が高く細胞膜を良く透過し、かつ細胞内で酵素エステラーゼの働きによりDCFHに変換される。このように変換されると、今度は細胞膜を透過しないので、細胞内に滞留し効果的なイメージングが可能である。
また、Peroxyresorufin−1(PR1)、
Peroxyfluor−1(PF1)、及びPeroxyxanthone(PX−1)は、Hと特異的に反応し蛍光を発すると報告されている(非特許文献8)。この他、
2−[6−(4′−hydroxy)phenoxy−3H−xanthen−3−on−9−yl]benzoic acid(HPF)及び2−[6−(4′−amino)phenoxy−3H−xanthen−3−on−9−yl]benzoic acid(APF)が報告されている(非特許文献9及び10)。これらはHO又はHOCl等の高活性酸素種(highly reactive oxygen species)と反応し、蛍光を発する。その他にも多数が開発・報告されている(非特許文献7)。
これらのプローブは非常に便利であり、活性酸素種のイメージングによく使われている。しかし、これらのプローブは、あくまで活性酸素種を検出するものであり、レドックス状態自体を直接検出するものではない点注意する必要がある。このため、これらの蛍光プローブを用いて活性酸素種が検出されたとしても、それが常に細胞のレドックス状態変化を反映しているかどうかは分からない。極端な場合、もしプローブと活性酸素種の反応性が非常に高いと、通常なら生体の抗酸化作用で分解され、生理学的に問題とならないような活性酸素種をも検出してしまう可能性がある。また、大きな問題点として、プローブと活性酸素種との反応が非可逆的であるという点がある。このため、プローブが一度、活性酸素種と反応してしまうと発光性に変化したままとなり、その後活性酸素種濃度が低下しても、それに対応した発光強度の変化は現れない。つまり、これらのプローブを用いて、レドックス状態のダイナミックな変化を計測又はイメージングすることは非常に難しい。
上とは逆に、フリーSH基と特異的に反応する発光プローブも報告されている。このようなプローブには、例えば、monochlorobimane、monobromobimane、5−chloromethylfluorescein diacetate、及び7−amino−4−chloromethylfluoresceinがあり(非特許文献11)、これらを用いて、細胞の酸化ストレスを計測することも可能と報告されている。しかし、これらのプローブとSH基との反応も不可逆的であり、前記した活性酸素種と反応する発光プローブと同じ欠点がある。
同じく発光測定によるものであるが、タンパクの構造変化を利用したプローブも報告されている。変化の要因としては、主にシステインチオール基の酸化還元が利用される。このような変化は、実際に細胞内でレドックス状態変化に対応して起こっていると考えられるので、これらのプローブは、細胞生理学的に意味のある変化を検出できると期待できる。
そのようなタンパクプローブの代表的な例が、緑色蛍光タンパク(GFP)の変異体であるレドックス感受性GFPである(非特許文献12及び13)。これは、自身のシステインチオール基の酸化還元に応答し、蛍光特性が変化するよう変異を加えたGFPである。この変化は可逆的であるので、細胞等のレドックス状態の変化をリアルタイムに可視化することができる。しかし、GFPはまず遺伝子として細胞内に導入する必要がある。このため、測定したい細胞に安定に導入できるか、また遺伝子が安定に発現するかという問題点が常につきまとい、常にこの方法が適用できるかは分からない。
この他、メタロチオネインを利用した方法が報告されている(非特許文献14)。ここでは、メタロチオネインに二つの蛍光基(Alexa488と546)がラベルされ、レドックス変化に対応し、両蛍光基間のFRETが変化する。しかし、この場合、細胞のイメージングのためには、この二重ラベルしたタンパクを細胞内に導入する必要があり、使い勝手は良くない。
タンパクに基づかない比較的低分子量の化合物で、レドックス状態の変化に対応し可逆的に酸化還元するプローブがあれば、使い易く便利である。このようなプローブは、発色変化を利用するものも加えると数多くあるが、これらはむしろ、酵素及び補酵素と共に使われ特定の化学物質の検出に使用されている。例えば、レザズリン、アラマーブルー(特許文献4)、ベンゾフラザン−N−オキシド誘導体(NBD−amine−N−oxide)(特許文献5)、及びキノン−フルオレセイン(特許文献6)が報告され、応用例としてグルコースアッセイ等が報告されている。
グルコースアッセイでは、グルコースはグルコースデヒドロゲナーゼにより酸化され、その際、NADが還元されNADHが生成する。ここに酵素ジアフォラーゼを共存させることで、これらのプローブは、NADHにより還元され、それぞれ対応する発光性物質に変化する。このように、この還元作用には酵素ジアフォラーゼが必要であり、単独での還元性物質との反応は起こっても非常に遅いと考えられる。このため、これらのプローブを、生体のレドックス状態計測又はイメージングに使うことは難しい。また、[Ru(bpy)3+も報告されている(非特許文献15)。これは単独で生体物質と反応するが、反応性が高すぎ、水溶液中(pH=8)での半減期は約5分に過ぎない。このため、このプローブも生体レドックス状態計測又はイメージングには使用できない。
酸化還元電位及び生体物質との反応性がより適当な化合物として、ニトロキシルラジカル化合物が知られている。これらを用いたnaphthalene−nitroxyl(非特許文献16)、hematoporphyrin−nitroxyl(非特許文献17)、及びpyrene−nitroxyl(非特許文献18)が報告されている。これらについて、アスコルビン酸(非特許文献16)及びFe(2価)(非特許文献18)によるニトロキシルラジカルの還元に伴う蛍光の増強も報告されており、これまで述べてきたものの中では、生体レドックス状態に対する可逆的かつ使いやすいプローブとして最も有望である。しかし、これらの蛍光体(naphthalene、hematoporphyrin、pyrene)を含む一般の有機蛍光体には、夾雑物による蛍光やバックグラウンド蛍光の影響を強く受けるという欠点があり、試料によっては、これらのためまともな測定ができなくなる場合もある。
以上のように、細胞レベルでの詳細なレドックスシグナルや酸化ストレス応答研究には、発光プローブの使用が最適であるが、多くの発光プローブは、その発光オンへの変化が非可逆的であるという問題がある。数は少ないが、タンパクを基にしたプローブでは、可逆的な発光のオン/オフが報告されているものはある。しかし、これらは分子量が大きいため、細胞に導入するには高度な技術が必要である。また、ニトロキシルラジカルの消光能を利用した低分子量可逆型プローブも報告されているが、現在知られているものは、全て夾雑物による蛍光やバックグラウンド蛍光の影響を強く受けるという欠点がある。これらの理由のため、現在、レドックス状態のダイナミックな変化をリアルタイムに追跡することは難しく、細胞のレドックスシグナル及び酸化ストレスへの応答についてのより詳細な研究の障害となっている。
特開2002−122646号公報 特開2004−229613号公報 特開2004−518433号公報 特開平10−33196号公報 特開2004−264296号公報 特開2004−258021号公報 特開2001−335574号公報 「酸化ストレスマーカー」、二木鋭雄・内田浩二・野田範子編、学会出版センター、2005年6月 Environ. Health Perspect. 2004、112、666−671 Biochemistry 2003、42、3473−3480 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2001、98、9842−9846 J.Biomed.Biotechnol.2002、2、120−123 Appl.Magn.Reson.2003、25、217−225 J.Biochem.Biophys.Methods 2005、65、45−80 J.Am.Chem.Soc.2005、127、16652−16659 J.Biol.Chem.2003、278、3170−3175 Neuroscience Res.2005、53、304−313 Cytometry Part A 2003、51A、16−25 J.Biol.Chem.2004、279、13044−13053 J.Biol.Chem.2004、279、22284−22293 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 2003、100、2255−2260 Anal.Chem.1999、71、1504−1512 J.Am.Chem.Soc. 1988、110、1915−1917 J.Am.Chem.Soc.1990、112、7337−7346 Spectrochimica Acta Part A 2006、63、438−443 Biochemistry 1992、31、703−711 Anal.Sci.2002、18、869−874 Anal.Chem.2001,73、1869−1876 Anal.Chem.2006、78、5296−5301
本発明の課題は、細胞レベルでの詳細なレドックスシグナルや酸化ストレス応答を検出するために最適の、発光プローブを提供することにある。特に、以下のような特徴を持ったレドックス応答性発光プローブ、及びこの発光プローブを用いた各種の検出方法を提供することにある。その特徴は、(1)生体又は生体に関連したレドックス状態変化に、可逆的又はほぼ可逆的に応答する性質を有すること、(2)夾雑物による蛍光やバックグラウンド蛍光の影響を受けにくく、高感度測定が可能であること、(3)タンパクをベースとしない化合物であり、細胞等による発現を必要とせず、簡便に様々な系に適用することができるものであることである。
本発明者らは、これまでの研究成果に基づき、新規なレドックス状態計測用、即ち、レドックス応答性発光プローブを着想した。即ち、本発明は、酸化又は還元が可能な原子団(レドックス原子団ということもある)及び発光ランタニドキレート原子団の両原子団を、一分子内に含む化合物からなるレドックス応答性発光プローブである。本発明の発光プローブの特徴は、少なくとも、酸化又は還元可能な原子団と発光ランタニドキレート原子団の両原子団を、同一分子内に持つことである。なお、本発明における発光ランタニドキレート原子団は、後述のように、励起光を受けるアンテナ部と希土類イオンをキレートするキレート配位子部と希土類イオンから形成される。
本発明のようなランタニドキレートに基づいたレドックス応答型発光プローブは、これまで提案されていなかった。確かに、非特許文献19において、ニトロキシルラジカルがTb3+錯体の発光を消光する一方、その還元体は消光能を示さないことが報告されている。しかし、このケースでは、溶液中で両者を単に混合して実験しただけであり、ニトロキシルラジカルとTb3+錯体を結合させ一分子のプローブとした訳ではない。また、特許文献6には、新しいレドックス検出発光プローブが開示され、その中で請求項において、発光基としてランタニドキレート、消光基としてスピンプローブ(ニトロキシルラジカル)が挙げられている。しかし、この文献では、具体的にはキノン−フルオレセイン系しか報告しておらず、ランタニドキレートに基づくプローブについての具体的な言及は全くない。ランタニドキレートの発光機構は、フルオレセイン等の通常の有機蛍光色素のそれと異なっており、有機蛍光色素系での知識だけでは、実際に使用可能なランタニドキレート系レドックス応答発光プローブを構築することは困難である。本発明は、これを克服し、実際に使用可能なランタニドキレート系レドックス応答性発光プローブを初めて提供し得たものである。
本発明のレドックス応答性発光プローブは、例えば、細胞又は組織切片のレドックス状態の計測及びイメージングに用いることができる。また、表面又は表面に近い位置についてであれば、厚みのある組織及び生物そのものも対象とすることができる。本発光プローブの蛍光オン/オフはほぼ可逆的なので、これらの計測及びイメージングにおいて、レドックス状態のダイナミックな変化の観察を容易に行うことができる。
この他、本発明の発光プローブは、血液、尿、唾、汗、組織ホモジネートなどについても、未処理試料又は適切に処理された試料を対象に、レドックス状態の評価、診断又は計測を行うことができる。また、果物、野菜、若しくは、その他の健康食品等の試料についても、未処理試料又は適切に処理された試料を対象に、抗酸化能の評価又は計測を行うことが可能である。
更に、この他、適当な1又は2種類以上の酵素(代表的にはデヒドロゲナーゼとジアフォラーゼの2種類)及び補酵素(代表的にはNADH又はNADPH)と共に用いることで、様々な化合物の検出又は定量を行うこともできる。検出又は定量できる化合物の例としては、糖類、アルコール類、アルデヒド類、ステロイド類、キサンチン、クエン酸、乳酸、ピルビン酸、アミノ酸、テトラヒドロ葉酸、クレアチニン、クレアチン、サルコシン、又はグリセロールを挙げることができる。
以上のように、本発明の発光プローブは、様々な系においてレドックス状態の評価、計測、及びイメージング、並びに特定の化合物の検出及び定量に用いることができる。更に、これらの用途において、本プローブを用いることにより時間分解発光測定が可能となり、夾雑物による蛍光やバックグラウンド蛍光を除去した、高感度な計測を行うことができるようになる。
本発明のレドックス応答性発光プローブは、酸化又は還元が可能な原子団と発光ランタニドキレート原子団の両原子団を一分子内に含むものである。本発明における酸化又は還元が可能な原子団、あるいは発光ランタニドキレート原子団としては、以下に具体的に述べるようなものが好ましいが、それらに限定されるものではなく、それらと化学的性質が同様又は類似した類縁体や誘導体等の、その他の酸化又は還元可能な原子団又は発光ランタニドキレート原子団も含まれる。
本発明のレドックス応答性発光プローブとして用いられる、酸化又は還元が可能な原子団及び発光ランタニドキレート原子団の両原子団を一分子内に含む化合物として好ましいものは、希土類イオンと下記式1で表される配位性化合物との錯化合物である。そして、本発明において、特に好ましいのは、実施例1に式14として示される、酸化又は還元が可能なニトロキシルラジカル類を含む原子団と、発光ランタニドキレート原子団の両原子団を一分子内に含む錯化合物である。
Figure 0004951759
(式1中、Ar、Ar及びArは、希土類イオンに配位可能なヘテロ原子を少なくとも一つ含む複素環であり、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アリール基、置換基を有するアリール基、複素環基、又は置換基を有する複素環基であり、m、n、p、q、r、sは独立に1〜3であり、Qは酸化又は還元が可能な原子団であり、YはNH又はOを示す。)
前記式1において、Ar、Ar及びArは、希土類イオンに配位可能なヘテロ原子を少なくとも一つ含む複素環であれば特に制限はなく、五員環でも六員環でも、また2〜3の環からなる縮合環であっても良い。Ar、Ar及びAr間の結合並びにR、R及びR基との結合は、C−C原子間、C−ヘテロ原子間及びヘテロ−ヘテロ原子間のいずれであっても良い。Arと(CH、及びArと(CH間の結合についても、Ar、Ar中の結合に使われる原子は、炭素原子及びヘテロ原子のどちらでも良い。また、Ar、Ar及びArは、全て同じであっても、一つだけ異なっても、また三つとも異なっても構わない。Ar、Ar及びArの好ましい例としては、ピラゾール、ピリジン、イミダゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1H−トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン及びこれらの誘導体が挙げられる。
本発明の好ましい化合物としては、より具体的には、希土類イオンと下記式2又は式3で表される配位性化合物との錯化合物が挙げられる。
Figure 0004951759
Figure 0004951759
(式2及び式3中、m、n、p、q、r、sは独立に1〜3、Qは酸化又は還元が可能な原子団、Rはアリール基、置換基を有するアリール基、複素環基、又は置換基を有する複素環基、YはNH又はOを示す。)
更に、本発明の化合物としては、希土類イオンと下記式4、式5又は式6のいずれかで表される配位性化合物との錯化合物も好ましい。
Figure 0004951759
Figure 0004951759
Figure 0004951759
(式4、式5及び式6中、l、m、n、p、q、r、sは独立に1〜3、Aはアンテナ基、Qは酸化又は還元が可能な原子団、Y、Yは独立にNH又はOを示す。)
本発明の酸化又は還元可能な原子団は、酸化状態又は還元状態でラジカル体であるものが好ましい。このような原子団は、ラジカル体では大きな消光能を示し、非ラジカル体となるとその消光能は低下する。この消光能の変化を利用して、生体試料を含む様々な試料のレドックス状態及びその変化を計測、診断又はイメージングすることができる。
このような酸化又は還元可能な原子団で、酸化状態又は還元状態でラジカル体であるものの例として、ニトロキシルラジカル類(及びその還元体であるヒドロキシルアミン類、及びその酸化体であるオキソアンモニウム類)、キノン類(及びその還元体であるセミキノンラジカル類、ヒドロキノン類、カテコール類)、diphenylpicrylhydrazylラジカル(DPPH)誘導体、及びガルビノキシルラジカル誘導体を挙げることができる。特に好ましい例としては、ニトロキシルラジカル類を挙げることができる。
ニトロキシルラジカル類は、通常の空気・水中ではラジカルとして安定であるが、生体中ではアスコルビン酸等の生体内抗酸化物質により還元され、対応するヒドロキシルアミン体に変化する。このヒドロキシルアミン体は、活性酸素種と反応すると再酸化され、元のニトロキシルラジカル体に戻る。このように、ニトロキシルラジカル体←→ヒドロキシルアミン体の酸化還元はほぼ可逆であり、かつ生体レドックス状態の変化に対応した電位で起こる。このような変化を利用した酸化ストレス計測は、実際に、前記したようにESRを用いて行われており(特許文献1及び2、並びに非特許文献6)、ニトロキシルラジカル類のレドックス状態の計測用プローブとしての有効性は、ESR計測を通して確立している。更に、ニトロキシルラジカル類は、発光体の良いクエンチャーになり得るが、その還元体であるヒドロキシルアミン類にはそのような性質はない(非特許文献19)。
そこで、ニトロキシルラジカル類と適当な発光体を結合させた化合物は、レドックス応答性蛍光プローブとして特に好ましいと期待される。ニトロキシルラジカル類としては、基本骨格にpiperidin−1−yloxyl、pyrrolidin−1−yloxyl、及びoxazolidin−3−yloxylを持つものを好ましい例として挙げることができる。
これらの代表例としては、ピペリジニルオキシル骨格を有する下記式7の2、2、6、6−tetramethylpiperidin−1−yloxylラジカル(TEMPO)がある。
Figure 0004951759
また、ピロリジニルオキシル骨格を有する下記式8の2、2、5、5−tetramethylpyrrolidin−1−yloxylラジカル(PROXYL)がある。
Figure 0004951759
また、オキサゾリジニルオキシル骨格を有する下記式9の4、4−dimethyloxazolidin−3−yloxylラジカル(DOXYL)がある。式7〜9の誘導体も好ましい。
Figure 0004951759
一方、発光ランタニドキレートは、長い発光寿命を持つという特長がある。そこで、フラッシュ光照射後に時間分解測定を行うことにより、寿命の短いバックグラウンド蛍光を除去することができ、高感度な測定が可能である。この性質は実際に、イムノアッセイを代表とするバイオ分析に応用され、様々な分析物の高感度検出を可能にしてきた(例えば、非特許文献20)。そこで、発光ランタニドキレート原子団とニトロキシルラジカル等の酸化又は還元が可能な原子団を組み合わせることにより、これまでにないバックグラウンド蛍光フリーなレドックス状態計測プローブが実現される。
本発明における発光ランタニドキレート原子団は、更に、励起光を受けるアンテナ部、希土類イオンをキレートするキレート配位子部、及び希土類イオンに分けることができる。ここで、それぞれの部分は理解をしやすくするため分けたものであり、実際はアンテナ部やレドックス原子団がキレートの役割を兼ねる等の重複があっても構わない。
アンテナ部としては、300〜450nmの光を吸収し、それ自体蛍光性である原子団を用いることができる。このような例としては、クマリン、キノロン(カルボスチリル等)、ビフェニル、テルフェニル、ビピリジン、テルピリジン、ビス(ピラゾリル)ピリジン、ビス(ピリジル)トリアゾール、ビス(ピリジル)チアゾール、ビス(チアゾリル)ピリジン、フェナントロリン、ピラゾロン、キノリン、イソキノリン、ヒドロキシイソフタルアミド、及びこれらの誘導体が挙げられる。
希土類元素としては、スカンジウムSc、イットリウムY、15種のランタニドがあるが、本発明の希土類イオンとしては、可視部又は近赤外部に発光を持つものであればどれでも良い。好ましくは、Eu3+(ユウロピウムイオン)、Tb3+(テルビウムイオン)、Dy3+(ジスプロシウムイオン)、Sm3+(サマリウムイオン)を用いることができる。より好ましくは、Eu3+及びTb3+である。Eu3+及びTb3+のどちらがより好ましいかは、適用する系や使用したい励起波長/検出波長に依存する。また、両方同時に用い、二色アッセイを行っても良い。ただし、ニトロキシルラジカルによる消光はTb3+の方が効率が良いので、単色使用の場合はTb3+の使用が最も好ましい。
キレート配位子部は、希土類イオンと強く結合する構造を持つ必要がある。そこで、例えば、下記式10に示すような複数のカルボキシル基を持つ化合物又はその誘導体を用いることができる。
Figure 0004951759
(式10中、l、m、n、p、q、r、sは独立に1〜3を表す。l=m=n=p=q=r=s=1の場合は、diethylenetriaminepentaacetate(DTPA5−)に相当する。)
この他、ethylenediaminetetraacetate(EDTA4−)、1、4、7、10−tetraazacyclododecane−1、4、7、10−tetraacetate(DOTA4−)、及びこれらの誘導体も例として挙げることができる。
また、アンテナ部を複数のカルボキシル基で挟んだ骨格を持つ、下記式11で示される化合物又はその誘導体を「アンテナ部+キレート配位子部」として用いることもできる。
Figure 0004951759
(式11中、Ar、Ar及びArは、希土類イオンに配位可能なヘテロ原子を少なくとも一つ含む複素環であり、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アリール基、置換基を有するアリール基、複素環基、又は置換基を有する複素環基であり、m、n、p、q、r、sは独立に1〜3である。)
前記式11において、Ar、Ar及びArの好ましい例として、ピラゾール、ピリジン、イミダゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1H−トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン及びこれらの誘導体を挙げることができる。Ar、Ar及びArは、お互いに異なっていてもかまわない。
また、前記式11に含まれる化合物の中で特に好ましい例として、下記式12と式13の化合物を挙げることができる。
Figure 0004951759
Figure 0004951759
(式12及び式13中、m、n、p、q、r、sは独立に1〜3、Rは水素原子、アリール基、置換基を有するアリール基、複素環基、又は置換基を有する複素環基を示す。)
この他、カルボキシル基を持たない構造でも、クリプタンド型構造は希土類イオンと安定な錯体を形成するので、キレート配位子部として用いることができる。例えば、キレート配位子部とアンテナ部が一緒になった、tris(bipyridyl)cryptand構造が好ましい例として挙げられる。更にこの他、β−ジケトナト構造もキレート配位子部として用いることができる。その例として、アンテナ部と一緒になった、4、4″−bis(1、1、1、2、2、3、3−heptafluorohexane−4、6−dion−6−yl)−1、1′:2′、1″−terphenyl及びその誘導体を挙げることができる。
以上の各部分は、アンテナ部から希土類イオンへのエネルギー移動、及びレドックス原子団によるこのエネルギー移動の阻害(消光作用を示す時)が効率良く行われるように、適切に配置される必要がある。好ましくは、レドックス原子団は、キレート配位子部、若しくはアンテナ部に隣接しているのが良い。より好ましくは、レドックス原子団がキレート配位子部に隣接している構造が良い。例として、ポリカルボキシラト型配位子を用いたキレートの場合は、その一つのカルボニル炭素に、共有結合によりレドックス原子団がつながった構造を挙げることができる。具体的には、前記式10と11の場合について述べると、一つのカルボキシル基にレドックス原子団をアミド結合又はエステル結合等で連結させた構造が挙げられる。式10の場合は、アンテナ部を更にこの骨格に結合させる必要がある。この場合、例えば、残ったカルボキシル基の内の一つにアミド結合又はエステル結合などで連結させることにより、アンテナ部も希土類イオンに隣接して配置させることができる。つまり、式10の化合物をキレート配位子部に用いた場合には、式4〜6のような構造の配位性化合物と希土類イオンとの錯化合物が好ましい態様となる。また、式11の化合物を「アンテナ部+キレート配位子部」に用いた場合には、式1のような構造の配位性化合物と希土類イオンとの錯化合物が好ましい態様となる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
Ln3+−L3−・(下記式14)の合成(Ln3+=Eu3+又はTb3+; L3−・=4−(N−{[1−(2−{3−[N、N−bis(carboxylatomethyl)amino]methylpyrazol−1−yl}−4−phenylpyridin−6−yl)pyrazol−3−yl]methyl}−N−{carboxylatomethyl}amino)acetylamino−2、2、6、6−tetramethylpiperidin−1−yloxyl (BPTA3−−TEMPO) )について説明する。
Figure 0004951759
先ず、文献(特許文献7及び非特許文献21)記載の方法により、下記式15の[1、1′−(4−phenylpyridine−2、6−diyl)dipyrazole−3、3′−diyl]bis(methylenenitrilo)tetraacetic acid (HBPTA)を合成した。
Figure 0004951759
4−amino−2、2、6、6−tetramethylpiperidin−1−yloxyl(amino−TEMPO)、及びethyldiisopropylamine (DIPEA)はAldrich株式会社より購入したものを用いた。N−hydroxysuccinimide(HOSu)及びdicyclohexylcarbodiimide(DCCI)は関東化学(株)より購入したものを用いた。
[Ln3+−L3−・の合成]
BPTA 2.3mg(4.0μmol)、HOSu 1.15mg(10.0μmol)、及びDCCI 0.82mg(4.0μmol)を乾燥DMF 200μL中、アルゴン雰囲気下で一晩攪拌し、[1−(2−{3−[N−(carboxymethyl)−N−(succinimidooxycarbonylmethyl)amino]methylpyrazol−1−yl}−4−phenylpyridin−6−yl)pyrazol−3−yl]methylamino−N、N−diacetic acid (HBPTA−OSu)のDMF溶液を得た。
次いで、このHBPTA−OSuのDMF溶液(全量反応したと仮定して20mM溶液)50μLにamino−TEMPOの100mMDMF溶液50μL及びDIPEA 1μLを加え、アルゴン雰囲気下で更に一晩攪拌した。一晩攪拌した反応液に、蒸留水50μL加え、更に185μLの蒸留水に溶解したEuCl・6HO 1.83mg又はTbCl・6HO 1.87mgを加えた。一晩放置した後、以下のごとく逆相HPLCによる精製を行った。
[Ln3+−L3−・の逆相HPLC精製]
逆相HPLCは、分析時は日本分光(株)製GULLIVERシリーズHPLC装置及び分取時は(株)島津製作所製LC−8A HPLC装置を用いて行った。条件は以下のとおりである。
(HPLC条件)
使用カラム:ウォーターズ株式会社製Xterra MS C18カラム(分析時)。
ジーエルサイエンス株式会社製Inertsil WP300 C8カラム(分取時)。
溶離液:A、酢酸トリエチルアンモニウム(TEAA)水溶液(100mM、pH=7.4)。
B、アセトニトリル。
グラディエント:t = 0 〜2min、A:B=95:5。
t = 2〜45min、A:B=97−(t/min):3+(t/min)。
流量:1mL/min。
カラム温度:60℃。
検出法:紫外可視吸収、260nm吸光度。
発光(分析時のみ)、320nm励起 545nm発光(Tb3+の場合)。
340nm励起 615nm発光(Eu3+の場合)。
(精製)
前記合工程で得られた反応液を、TEAA水溶液(100mM、pH=7.4)で10倍希釈し、HPLCを行った。Eu3+及びTb3+に対して得られたクロマトグラムをそれぞれ図1(Eu3+の場合)及び図2(Tb3+の場合)に示した。保持時間から、ピークI及びピークIIは、それぞれ未反応で残ったamino−TEMPO及び[Ln−BPTA]によるものと決定され、ピークIIIが反応物によるピークと考えられた(図1及び図2のA)。そこで、ピークIIIの分取を行った(図1及び図2のB)。
ここで、ピークIIIは、よく見ると主ピークであるピークIIIbの前に、弱いピーク(ピークIIIa)が観測された。ピークIIIbはLn−L、そしてピークIIIaは、合成等の過程で、次のような反応で、ニトロキシルラジカルがヒドロキシルアミンに還元されたLn−LHによるピークと考えられる。Ln−L+e→ Ln−L、Ln−L+ H → Ln−LH。(分取に当たっては、ピークIIIaの強度は非常に小さいので、ピークIIIbのみを取った。)
ピークIIIの分取した溶液を真空乾燥させ、得られた残渣をエタノールに溶解し保存した。得られたLn−Lの量は、そのモル吸光係数が、[Ln−BPTA]のそれとamino−TEMPOのそれとの和に等しい(ε325nm=10,990M−1cm−1、但し10mM Tris−HClバッファーpH=7.4中)と仮定して、吸光度より算出した。このようにして計算した収率は28%であった。なお、後述するように、生成物には少量Ln−LHが混じっていたので、以降Ln−L/LHと記す。
[Ln−L/LHのマススペクトルによる確認]
前記のごとくして合成・精製したLn−L/LHを、MALDI−TOF−MS測定により確認した。MALDI−TOF−MSは、アプライドバイオシステムズ(株)製Voyager−DEを用いて測定した。マトリックスとしては、α−cyano−4−hydroxycinnamic acid(αCHCA) (10mg/mL in 50:50 HO/MeCN)を用いた。なお、LHは、前述したように(Ln−L+e→ Ln−L、Ln−L+ H → Ln−LH)、Lのニトロキシルラジカル部分が、一電子還元されプロトンが付加したことを示す。このような還元はイオン化の際にも起こることが報告されている(非特許文献22)。
MALDI−TOF−MS(+)の結果は以下のとおりであった。
Eu−L/LH:calcd for 1236 41 153Eu14 16(Eu3+−L3−・)、m=880.23;
found m/z=882.38(100%)([Eu−LH+H])、
881.26(95.8%)([Eu−L+H])。
Tb−L/LH:calcd for 1236 41 14 16 159Tb(Tb3+−L3−・)、m=886.23;
found m/z=888.59(100%)([Tb−LH+H])、
887.46(91.2%)([Tb−L+H])。
Ln−L/LHの発光に対するアスコルビン酸(VC)添加の効果
Ln−L/LHの発光に対するアスコルビン酸添加の影響を調べた。Ln3+からの発光強度測定は、(株)パーキンエルマー製Wallac1420 ARVO SXプレートリーダーを用い、時間分解法により行った。測定条件は以下のとおりである。
(プレートリーダーによる時間分解発光測定条件)
Eu3+測定の場合:励起波長、340nm;検出波長、615nm;Delay time、0.1ms;Window time、1.5ms;Cycle time、2.0ms。
Tb3+測定の場合:励起波長、320nm;検出波長、545nm;Delay time、0.5ms;Window time、1.0ms;Cycle time、2.0ms。
共通:使用プレート、ナルジェヌンクインターナショナル(株)製NUNC386穴プレート(ブラック)。
実施例1で得られたLn−L/LHのエタノール溶液(86μM)を、10mM Tris−HClバッファー(pH=7.4、0.05% Tween20を含む)で100倍希釈し、それを20μLずつウェルに分注した。更に、それらのウェルに、MLQ水(コントロール用)、0.1mMアスコルビン酸水溶液、又は1mMアスコルビン酸水溶液を2μL加え、時間分解発光測定を行った。それぞれの終濃度は、[Ln−L/LH]=0.78μM、[VC]=0、9.1μM、91μMとなる。結果を図3に示した。
図3のA(Tb3+の場合)とB(Eu3+の場合)から、アスコルビン酸によって、
Ln3+−L3−・+1/2VC(還元型)→Ln3+−LH3−+1/2VC(酸化型)という反応が起こることにより、Ln3+による発光強度が増加していることが分かる。
Ln−L/LHの発光に対するKFe(CN)(KFC)添加の効果
実施例2の結果では、MLQ水のみを加えた場合でも比較的高い発光値を示していた。これは、単離した化合物に、還元体Ln−LHが混じっているためと考えられる。そこで、酸化剤としてKFCを添加した時の発光の変化を調べた。実施例2と同じように、実施例1で得られたLn−L/LHエタノール溶液を、10mM Tris−HClバッファー(pH=7.4、0.05% Tween20を含む)で100倍希釈し、20μLをウェルに分注した。更に、ウェルに、MLQ水(コントロール用)又は0.1mM KFC水溶液を2μL加え、時間分解発光測定を行った。結果を図4に示した。終濃度は、[Ln−L/LH]=0.78μM、[KFC]=0(Control)、9.1μMである。
図4のA(Tb3+の場合)とB(Eu3+の場合)は、KFC添加後100分経過した時の結果を示している。図4から分かるように、Eu3+錯体についてはほとんど差が見られなかったが、Tb3+錯体では発光強度の減少が観測された。更に一晩おいたが、この後はTb3+及びEu3+錯体の発光強度は図の値で安定し、殆ど変化は見られなかった(図示せず)。
Ln−L/LHの発光に対するアスコルビン酸(VC)添加の効果(2)
KFCで完全に酸化したLn−L/LHに、アスコルビン酸を添加し発光の変化を調べた。実施例1で得られたLn−L/LHエタノール溶液を、10mM Tris−HClバッファー(pH=7.4、0.05% Tween20を含む)で100倍希釈し、20μLづつウェルに分注した。更に、それらのウェルに0.1mM KFC水溶液を2μL加え、系を十分安定させるため200分置いた。その間、時間分解発光測定を行った。200分置いた後、ウェルにMLQ水(コントロール用)又は1mMアスコルビン酸水溶液を2μL加え、引き続き時間分解発光測定を行った。結果を図5に示した。終濃度は、[Ln−L/LH]=0.72μM、[KFC]=8.3μM、[VC]=0(Control)、83μMである。
図5のA(Tb3+の場合)とB(Eu3+の場合)から、アスコルビン酸による発光強度の増加が観測され、例えば、アスコルビン酸添加120分後での発光強度は、アスコルビン酸無添加(コントロール)のそれと比較し、それぞれTb3+錯体で14倍、Eu3+錯体で3.4倍に増強したことが分かる。
Ln−L/LHの発光に対する過酸化水素添加の効果
Ln−L/LHに、過酸化水素水を添加した時の発光の変化を調べた。実施例1で得られたLn−L/LHエタノール溶液を、10mM Tris−HClバッファー(pH=7.4、0.05% Tween20を含む)で100倍希釈し、20μLずつウェルに分注した。更に、ウェルにMLQ水(コントロール用)、1mM過酸化水素水、10mM過酸化水素水、又は100mM過酸化水素水を2μL加え、時間分解発光測定を行った。9分〜22時間の間測定を行ったが、基本的に発光強度の変化は見られなかった。過酸化水素水添加180分後の結果を、図6のA(Tb3+の場合)とB(Eu3+の場合)に示した。終濃度は、[Ln−L/LH]=0.78μM、[H]=0(Control)、0.091mM、0.91mM、9.1mMである。過酸化水素単独では反応性が低いことが知られているので、この結果は妥当なものである。
Ln−L/LHの発光に対する過酸化水素及びFe2+イオン添加の効果
過酸化水素は、Fe2+イオンが共存すると以下のようなフェントン様反応により、ヒドロキシルアミンの酸化が促進されることが期待される。
+Fe2+
HO+HO+Fe3+
HO+Ln−LH → HO+Ln−L
そこで、Ln−L/LH溶液にFeSOと過酸化水素を同時に加え、発光の変化を観測した。
実施例1で得られたLn−L/LHエタノール溶液を、10mM Tris−HClバッファー(pH=7.4、0.05% Tween20を含む)で100倍希釈し、20μLずつウェルに分注した。そこにMLQ水(コントロール用)、1mM過酸化水素水、10mM過酸化水素水、又は100mM過酸化水素水を2μL加えた。これらのウェルに、更に、1mM FeSO 水溶液2μLを加え、時間分解発光測定を行った。FeSO添加後60分の結果を図7のA(Tb3+の場合)とB(Eu3+の場合)に示した。終濃度は、[Ln−L/LH]=0.72μM、[Fe]=83μM、[H]=0(Control)、0.083mM、0.83mM、8.3mMである。
コントロール及び1mM過酸化水素水添加では、Fe2+による還元の効果が強く現れ発光強度が増加していることが分かる。これに対し、10mM及び100mM過酸化水素水添加では、酸化の効果の方が大きく現れ、発光強度の減少が観測された。更に、コントロール及び1mM過酸化水素水添加でも、一日放置すると発光強度の減少が観測された(図示せず)。これは空気中の酸素による酸化のためと考えられる。
[比較例]
Tb3+−BPTA4−の発光に対するKFe(CN)(KFC)及びアスコルビン酸(VC)添加の効果(コントロール実験)
コントロール実験として、ニトロキシル基を持たない錯体[Tb−BPTA]について、その発光に対するKFC及びアスコルビン酸添加の効果を調べた。先ず、125nM Na[Tb−BPTA]の10mM Tris−HClバッファー(pH=7.4、0.05% Tween20を含む)溶液を20μLずつウェルに分注し、更にMLQ水(コントロール1用)又は0.1mM KFC水溶液(コントロール2及びアスコルビン酸添加サンプル用)を2μL加えた。系を十分安定させるため100分置いた後、ウェルにMLQ水(コントロール1及び2)又は1mMアスコルビン酸水溶液を2μL加え、時間分解発光測定を行った。結果を図8に示した。終濃度は、[Tb−BPTA]=0.104μM、[KFC]=0(Control1)、8.3μM、[VC]=0(Control1及びControl2)、83μMである。[Tb−BPTA]に対しては、KFC添加もアスコルビン酸添加も、発光強度に意味のある変化を与えないことが確認された。
Tb3+−LH3−のemission及びexcitationスペクトル
アスコルビン酸添加の効果が大きかったTb錯体について、Tb−LHのemission及びexcitationスペクトル測定を行った。emission及びexcitationスペクトル測定は、日本分光社製FP−6600 Spectrofluorometerを用い以下の条件で行った。
(Emission及びexcitationスペクトル測定条件)
Excitation bandwidth、10nm;
Emission bandwidth、10nm;
Response、0.5s;
Data acquisition interval、0.2nm;
Scan rate、200nm/min。
実施例1で得られたLn−L/LHエタノール溶液を、10mM Tris−HClバッファー(pH=7.4、0.05% Tween20を含む)で100倍希釈した溶液2mLを蛍光測定用セルに注ぎ、測定を行った。その後、その溶液に10mMアスコルビン酸水溶液20μLを加え、再び測定を行った。結果を、図9に示した。終濃度は[Tb−L/LH]=0.85μM、[VC]=99μMである。
図1Aは、Eu−L/LH合成反応溶液の逆相HPLCクロマトグラムであり、図1Bは、保持時間=19〜24分の範囲の拡大図である。 図2Aは、Tb−L/LH合成反応溶液の逆相HPLCクロマトグラムであり、図2Bは、保持時間=19〜24分の範囲の拡大図である。 図3A及びBは、それぞれTb−L/LH及びEu−L/LHの発光に対するアスコルビン酸(VC)添加の影響をみたものである。グラフ縦軸のRLUは相対発光強度単位(Relative Luminescence Unit)を示す(以降の図でも同じ)。 図4A及びBは、それぞれTb−L/LH及びEu−L/LHの発光に対するK3FeCN (KFC)添加の影響をみたものである。 図5A及びBは、それぞれKFeCN(KFC)を含むTb−L/LH及びEu−L/LH溶液の発光に対するアスコルビン酸(VC)添加の影響をみたものである。 図6A及びBは、それぞれTb−L/LH及びEu−L/LHの発光に対する過酸化水素水添加の影響をみたものである。 図7A及びBは、それぞれFeSOを含むTb−L/LH及びEu−L/LH溶液の発光に対する過酸化水素水添加の影響をみたものである。 図8は、KFeCN (KFC)を添加した[Tb−BPTA]溶液の発光に対するアスコルビン酸(VC)添加の影響をみたものである。 図9Aは、Tb−L/LHの発光スペクトルに対するアスコルビン酸添加の効果をみたものである。図9Bは、アスコルビン酸添加後の発光(λex=320nm)及び励起(λem=545nm)スペクトル。*は励起波長の2倍の位置を示す。

Claims (4)

  1. 酸化又は還元が可能なニトロキシルラジカル類を含む原子団及び発光ランタニドキレート原子団の両原子団を一分子内に含む、下記式14で表される化合物からなるレドックス応答性発光プローブ。
    Figure 0004951759

  2. 前記ランタニドイオンが、Eu3+、Tb3+、Sm3+又はDy3+である請求項1記載のレドックス応答性発光プローブ。
  3. 請求項1又は2記載のレドックス応答性発光プローブを、試料に接触させることによって酸化又は還元させることを特徴とするレドックス状態の計測又はイメージング方法。
  4. 請求項1又は2記載のレドックス応答性発光プローブを、酵素又は補酵素又は両者の存在下に、試料に接触させることによって酸化又は還元させることを特徴とする物質の検出又は定量方法。
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