JP4944782B2 - ベルト式無段変速機およびその運転方法 - Google Patents

ベルト式無段変速機およびその運転方法 Download PDF

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Description

本発明は、ベルト式無段変速機に関し、特に、プーリとVベルトとの間の摩擦係数を高めて動力伝達効率を向上させるとともに、プーリおよびVベルトの摩耗を低減する技術に関する。
近年、自動車のエンジンの高出力化に伴い、ベルト式無段変速機にもその対応が必要となってきている。ベルト式無段変速機は、断面V字状の溝を有するとともに溝の幅を変更可能な一対のプーリに、複数のエレメントをベルトで連結したVベルトを巻回したもので、プーリとエレメントとの摩擦力により駆動プーリから従動プーリへ動力を伝達するものである。近年の高出力化に伴ってプーリとエレメント間の挟圧力が増加することから、プーリとエレメントとの接触面に摩耗が発生し、両者間の摩擦係数が低下して走行性能が損なわれる可能性があった。このため、従来より、プーリとエレメントとの接触面間における摩擦係数を高めることで挟圧力を低減し、これによって、高出力化に対応してきている。また、プーリとエレメント間の摩擦係数を高めことに加えて摩耗を低減するという課題もあり、両者を満足すべく従来より種々の開発がなされてきた。
たとえば、特許文献1には、プーリの大きな動力を伝達するLow側速度比の部分に、ショットピーニングを施すことで摩擦係数を増加させるとともに耐摩耗性を向上させたベルト式無段変速機が開示されている。また、ショットピーニング以外にも、WPC処理、メッキ、コーティング、研磨加工、熱処理を行うことが開示されている。
特許文献2には、エレメントのプーリとの接触面に、黒鉛、二硫化モリブデン等の自己潤滑剤を含有する樹脂を被覆することにより、摩擦係数を高めるとともに耐摩耗性を向上させたベルト式無段変速機が開示されている。
特開2001−6551号公報(要約、請求項7) 特開2004−144110号公報(要約、0019) WO2004−108990
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ショットピーニング等に起因する表面性状の変化により、摩擦係数と耐摩耗性が向上することは認められるものの、その効果は潤滑油中に含まれる添加剤の性能によるところが大きいことが判明している。したがって、上記のような技術では、長期間の走行で潤滑油が劣化すると所期の性能が得られないから、ベルト式無段変速機の改良としては不十分である。また、特許文献1に例示されたコーティングによる改良では、膜厚を薄くすると早期に摩滅し、厚くすると剥離し易いという欠点がある。
また、エレメントのプーリとの接触面には、潤滑油を保持するための深さが約40μm程度の溝が形成されているが、特許文献2に記載の技術では、エレメントのプーリとの接触面に樹脂を被覆しているから、樹脂に上記のような微小な溝を精度良く加工することは困難である。このため、溝での潤滑油の保持が不十分となり、エレメントの接触面に潤滑油成分との反応膜が形成されず、焼付きが生じる危険性がある。また、エレメントと樹脂との熱膨張係数が異なるため、樹脂が剥離することも懸念される。さらに、エレメントは潤滑油中で使用されるため、潤滑油成分による樹脂の劣化や硬化も懸念される。以上により、特許文献2に記載の技術では、信頼性に欠けるという重大な問題がある。
したがって、本発明は、高い摩擦係数と耐摩耗性とを長期に亘って維持することができ、高出力化に充分に対応することができるベルト式無段変速機とその運転方法を提供することを目的としている。
本発明者等は、エレメントおよびプーリに高い摩擦係数と耐摩耗性を付与するためのコーティングについて研究を重ねた結果、表面を被覆するのでは上記従来技術を超えることはできないと考え、放電表面処理を適用することに思い至った。放電表面処理は、電極と被加工金属との間で放電を生じさせて、電極の金属を被加工金属の表層に拡散させる表面処理方法であり、被加工金属と電極金属とが混在する層(または化合物層)を形成する(例えば特許文献3)。そして、本発明者等は、電極として種々の金属を検討した結果、Znが最も性能が良いことを見出し、さらに検討を進めた結果、PとSを含有する潤滑油を用いたときにおいて要求される性能が得られることが判明した。本発明者等が実験で用いたエレメントおよびプーリを調べた結果、Znが拡散した拡散層にSおよびPが含有されていることが判った。そして、このような拡散層により、高い摩擦係数と耐摩耗性が付与されていることが判った。また、同様の効果は、Snのときも得られることが判った。
本発明のベルト式無段変速機は上記のような知見に基づいてなされたもので、
断面V字状の溝を有し該溝の幅を変更可能な一対のプーリに、複数のエレメントをベルトで連結してなるVベルトを巻回したベルト式無段変速機において、プーリおよびエレメントどうしの接触面の少なくとも一方に、プーリおよびエレメントの金属製素材表層の母材にZnおよびSnの1種または2種が拡散した拡散層を設け、この拡散層に、SおよびPを含有させたことを特徴としている。
拡散層にSおよびPを含有させるには、プーリおよびエレメントをSおよびPを含む液体に接触させれば良い。最も簡便な方法は、ベルト式無段変速機の慣らし運転をSおよびPを含有する潤滑油を用いて行うことである。本発明は、このような運転方法も特徴とするものであり、断面V字状の溝を有し該溝の幅を変更可能な一対のプーリに、複数のエレメントをベルトで連結してなるVベルトを巻回したベルト式無段変速機の運転方法において、プーリおよびエレメントどうしの接触面の少なくとも一方に、プーリおよびエレメントの金属製素材表層にZnおよびSnの1種または2種が拡散した拡散層を設け、ベルト式無段変速機を、S:0.06〜0.30重量%およびP:100〜600ppm含有する潤滑油と接触させながら運転することを特徴としている。
本発明のベルト式無段変速機によれば、上記のような拡散層によってエレメントとプーリに高い摩擦係数と耐摩耗性を付与することができるのは勿論のこと、厚さを適切に設定することで拡散層の摩滅を防止することができ、また厚くしても拡散層の剥離の心配はない。したがって、高い摩擦係数と耐摩耗性を長期に亘って維持することができる。さらに、エレメントに拡散層を形成する場合には、拡散層を形成した後に潤滑油を保持するための微小な溝を機械加工によって形成することができる。また、本発明のベルト式無段変速機の運転方法によれば、潤滑油中のSおよびPがエレメントおよびプーリ間で極圧状態とされるから、それら元素が拡散層に容易に浸透し、本発明のベルト式無段変速機を製造することができる。
本発明の実施形態のベルト式無段変速機を示す側断面図である。 図1のII−II線断面図である。 速度比と頻度の関係を示すグラフである。 放電表面処理装置を示す概略側面図である。 (A)は拡散層の断面を示すEPMA写真であり、(B)はその断面における成分を示すチャートである。 摺動試験方法を示す概略図である。 本発明の実施例における摺動試験の時間と分離電圧との関係を示すグラフである。 本発明の実施例における面粗度Raと摩擦係数との関係を示すグラフである。 本発明の実施例における面粗度Rqと摩擦係数との関係を示すグラフである。 本発明の実施例における面粗度Rqと摩耗量との関係を示すグラフである。 本発明の実施例における硬度と摩擦係数との関係を示すグラフである。 本発明の実施例における摩耗量を示すグラフである。 本発明の実施例におけるZnの含有量と摩擦係数との関係を示すグラフである。 本発明の実施例における拡散層の成分を示すチャートである。 本発明の実施例における拡散層の成分を示す画像である。 本発明の他の実施例における摺動試験の時間と分離電圧との関係を示すグラフである。 本発明の他の実施例における摺動試験の時間と分離電圧との関係を示すグラフである。 (A)は本発明の他の実施例における速度比と挟圧力比との関係を示すグラフであり、(B)は速度比と動力損失との関係を示すグラフである。
以下に本発明の好適な実施の形態を説明する。
ZnおよびSnは、高い摩擦係数と耐摩耗性を付与する成分であり、本発明の作用および効果を確実に得るために、拡散層のZnの含有量は0.5重量%以上であることが望ましく、Snの含有量は0.5重量%以上であることが望ましい。また、SおよびPの含有量は、それぞれ0.4重量%以上および0.15重量%以上であることが望ましい。拡散層のZnの含有量が15重量%を超えると、逆に摩擦係数が低下する。また。拡散層のSnの含有量は、18.5重量%までであれば摩擦係数は低下しない。SおよびPは、拡散層に高い摩擦係数と耐摩耗性を付与するとともに、潤滑油の酸化を防止するという作用を有している。
拡散層には、SおよびPの作用効果をさらに高めるCaを0.15〜0.4重量%含有すると好適である。この場合、潤滑油の基油となる鉱物油は、Caスルホネート、Caサリシレート、Caフェネートの1種または2種以上を300〜660ppm含むものを用いる。また、潤滑油にCaを含有することにより、CaとともにSおよびPが拡散層に浸透し易くなるという重要な作用効果を得ることができる。すなわち、慣らし運転においては、SおよびPが拡散層に浸透するまでは高い摩擦係数と耐摩耗性が付与されていないから、その間にエレメントおよびプーリが摩耗する可能性がある。したがって、SおよびPは可能な限り迅速に拡散層に浸透する必要があり、そのような作用効果を奏するのがCaである。
また、Caと同等の効果があるMgを0.1〜0.4重量%含有すると好適である。この場合、Mgは清浄剤として潤滑油に200〜260ppm添加することができる。また、下記の元素を拡散層に含有することも好適な態様である。
N:Nを粘度調整剤および清浄剤として潤滑油に0.10〜0.30重量%含有させる。
Zn:拡散層中のZnの含有量を調整するために、潤滑油にZnを150〜400ppm含有させることができる。
B:Bを分散剤として潤滑油に100〜350ppm含有させる。
本発明の作用効果を長期に亘って確実に得るために、拡散層の厚さは0.5μm以上であることが望ましい。拡散層を50μmを超えて設けてもオーバースペックとなって製造コストが割高となる。自動車の一般的な耐用年数(走行距離)を考慮すると、拡散層の厚さは5μm以下で充分である。
拡散層に、Ni、Cr、Mo、Al、およびCの少なくとも1種を総量で1〜20重量%含有させるとさらに好適である。これらの元素は、摩擦係数をさらに高める作用効果を奏する。そのような作用効果を得るためには、上記元素を1重量%以上含有させる必要があり、20重量%を超えて含有してもそれ以上の作用効果の向上は望めない。上記元素とZnおよびSnの少なくとも1種の化合物を電極として放電表面処理を行うことにより、上記元素を拡散層に含有させることができる。
1.ベルト式無段変速機の構成
図1および図2は、本発明のベルト式無段変速機の好適な例を示すものである。これらの図において符号1は駆動プーリ、2は従動プーリであり、これら駆動プーリ1および従動プーリ2にはVベルト3が巻回されている。駆動プーリ1および従動プーリ2は、それぞれ一対のディスク4から構成され、ディスク4は、断面V字状の溝を形成するとともに互いに接近離間可能とされている。Vベルト3は、無端状の金属リングを複数枚積層した金属リング集合体(ベルト)5によって複数のエレメント6を連結して構成されている。ディスク4は、例えばSCM鋼のような合金鋼で構成され、エレメント6は、例えばSKS鋼のような過共析炭素鋼から構成される。また、エレメント6のディスク4に対する接触面Xには、複数の溝8aが形成され、溝8aを含む接触面Xの全体にZnおよびSnの少なくとも1種とFeの混合組織からなる拡散層8が形成されている。また、図1に示すように、ディスク4の中央部には、ZnおよびSnの少なくとも1種とFeの混合組織からなる拡散層8が形成されている。
この実施形態では、ディスク4のうちの中央部にのみ拡散層8を設けている。具体的には、駆動プーリ1における速度比(入力回転数/出力回転数)が2.2以上のディスク4の領域にのみ拡散層8を設け、従動プーリ2における速度比が0.7以下のディスク4の領域にのみ拡散層8を形成している。これは、V溝を有する駆動プーリ1では、速度比がLow側のとき、特に、速度比が2.2以上のときにエレメント6に対する挟圧力が非常に高くなるためである。また、OD側では、速度比が0.7以下のときに従動プーリ2とエレメント6との間に発生する摩擦損失量が大きくなるからである。そして、そのような領域に拡散層8を設けることにより、摩擦係数を高めて挟圧力を低減することができる。
あるいは、ディスク4の使用頻度の高い領域にのみ拡散層8を形成することもできる。図3は、速度比の対数に対する使用頻度の関係を示すものである。図3に示すように、使用頻度が高いのは図に斜線で示すLow側とOD側である。Low側では、-log(ratio)で−0.21〜−0.37の範囲の使用頻度が高く、これを速度比に直すと1.61〜2.37である。また、OD側では、-log(ratio)で0.21〜−0.34の範囲の使用頻度が高く、これを速度比に直すと0.61〜0.46である。したがって、そのような領域にのみ拡散層8を設ければ経済的である。
拡散層8の表面粗さはRa0.2〜Ra1.2であることが望ましく、その範囲であれば大きな摩擦係数を得ることができる。なお、表面粗さの下限値をRa0.2としたのは、Ra0.2においては、拡散層が非常に薄い状態となり潤滑状態が変化してしまうこと、また、未処理の母材面粗に近くμが変化しなくなるためである。また、拡散層の硬さをHv700以上とすることにより摩擦係数を高めるとともに耐摩耗性を向上させることができる。ただし、硬さがHv1100を超えると、相手部材(エレメント6)に対する攻撃性が強くなり、相手部材の摩耗を促進する。
拡散層8の外周部には、表面粗さおよび/または硬さが変化する拡散層が形成されている。すなわち、拡散層8は、ディスク4の素材よりも表面粗さおよび硬さが高いが、拡散層では、外周側へ向かうに従って表面粗さおよび硬さが低くなり、その外周縁において素材の表面粗さまたは硬さと一致する。これにより、拡散層8とその外側の素材の部分との間をエレメント6が乗り移るときに衝撃が発生せず、各部材に過大な負荷がかかるのを防止することができる。
2.拡散層の形成方法
図4は、放電表面処理を行う装置を示す側面図である。図中符号10はエレメントまたはディスクの母材であり、11は電極である。電極11は、ZnまたはZnおよび他の金属の化合物、SnまたはSnおよび他の金属の化合物、または合金の粉末、そのような粉末と異種金属粉末との混合粉末を圧縮成形した圧粉体、あるいは、そのような圧粉体を焼結したものである。母材10と電極11は、石油系の加工液で満たされた加工槽に接近して対向配置され、電極11を陰極、母材10を陽極としてパルス電流が供給される。両者は殆ど接するくらいに接近しているので、互いに接触しないように位置の制御が行われる。電極11および母材10間にパルス電流が流れると両者の間で放電が生じ、放電で生じる熱により電極11と母材10は溶融および気化される。そして、静電気力や気化で生じる気流によって溶融した電極11の粒子が母材10の表面に運ばれ、そこで溶融した母材10の表面に拡散する。こうして母材10の表層部で母材10と電極11の粒子とが拡散融合し、ZnおよびSnの少なくとも1種が拡散した拡散層8が形成される。
図5の(A)は上記のようにして得られたZn拡散層8の断面を示すEPMA写真であり、(B)はその断面におけるFeとZnの量を示すEPMA線分析結果である。これらの図に示すように、拡散層8は、4μm程度の厚さを有しており、その間でZnとFeの含有量がなだらかに変化している。このように、拡散層8は、PVDやCVD等の蒸着やメッキのように母材表面に付着するものとは異なり、母材金属にZnおよびSnの少なくとも1種が拡散融合して形成されたものであるから、拡散層8が母材10から剥離するということはない。そして、そのような拡散層8を有するベルト式無段変速機は、SおよびPを含有する潤滑油を用いて運転されることにより、SおよびPが拡散層8に浸透して高い摩擦係数と耐摩耗性が付与される。なお、図5のデータは、次に説明する実施例の試料Z−1から得たものである。
1.摺動試験
SCM420鋼から縦:14mm、横:17mm、長さ:70mmの角棒を切り出し、これを浸炭焼入れ後に焼戻して硬さをHRC58〜64に調整した試料を作製した。一方、平均粒径2μmのZnまたはSnの粉末を縦:2mm、横:16mm、長さ:60mmの角板に成形し電極を作製した。この電極と上記試料とを図4に示す放電表面処理装置に供給した灯油を主成分とする加工油内に浸し、両者に電流を供給して放電を行った。ピーク電流を5〜7Aの範囲で設定し、放電時間0.8〜8μs、放電と放電の休止間隔2μsのパルス放電を行った。このようにして試料の上面にZnまたはSnが拡散した拡散層を形成した。拡散層は、圧粉密度を変えて電極の抵抗を種々設定することにより、表面粗さ、硬さおよびZnまたはSnの含有量が異なる複数の試料を形成した。表1に各試料の放電条件、表面粗さ、硬さおよびZnまたはSnの含有率を示す。ZnまたはSnの含有率はEDS(Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy、日本電子社製、型式:JSM6460-LA)を用いて測定した。
Figure 0004944782
一方、SKS−95鋼から直径15mmの円柱状で下端部が曲率半径18mmの凸曲面をなすピンを切り出し、このピンに焼入れ焼戻しを施して硬さをHRC60〜64に調整した。図6に示すように、各試料の拡散層の上面にピンの下端面を5kgfの荷重で押圧し、この状態で試料を200cpmのサイクルで50mm往復摺動させた。その際、拡散層の上面に、表2に示す成分を含有する潤滑油を5cc/min滴下した。また、比較のために、拡散層を形成していない試料N−1を用いた以外は全て上記と同じ条件で摺動試験を行った。
Figure 0004944782
図6に示すように、試料およびピンを介在させる電気回路を構成し、試料Z−1、S−1およびピン間に15mVの低電圧を印加して摺動試験中の分離電圧を測定した。そのときのDCアンプによる増幅率は100である。なお、試料およびピンどうしの接触面以外の全ての面には絶縁処理を施した。分離電圧は、試料およびピンが金属接触した状態ではほぼゼロであるが、試料のピンとの接触面にSおよびPを含有する皮膜が形成されるにつれて上昇する。図7に摺動試験開始からの時間と分離電圧との関係を示す。図7に示すとおり、Zn拡散層を有する本発明例では摺動試験を開始してから僅か1分程度で分離電圧が最高レベル近くまで上昇した。また、Sn拡散層を有する本発明例では、摺動試験を開始してから3分後に分離電圧が上昇した。これは、潤滑油にCaおよびMgを含むため、SおよびPの拡散層への浸透が促進されたためである。潤滑油に含まれるSおよびPは、摺動試験を開始すると直ちに拡散層へ浸透し、拡散層の表層にSおよびPが拡散した皮膜を形成する。
これに対して、拡散層を形成していない比較例の試料N−1では、摺動試験を開始してから10分間は分離電圧は変化しなかった。したがって、比較例では、その間に試料N−1が摩耗する可能性がある。なお、比較例では本発明例と同等の分離電圧を示しているが、生成された皮膜はFeにSおよびPが拡散しただけのものであり、本発明例における皮膜とは異なるものである。したがって、本発明例のような高い摩擦係数と耐摩耗性を有するものではない。
2.面粗度と摩擦係数との関係
表1に各試料の摩擦係数を併記する。また、摺動試験を行った試料の摺動面の表面粗さと摩擦係数との関係を調査した。その結果を図8に示す。図8に示すように、表面粗さRaが1.2以下のときに摩擦係数(μ)が0.062以上となった。一方、比較例(図7に示す比較例と同じ試料N−1)では、表面粗さRaは0.2であるが、摩擦係数は0.06であり、本発明例よりも劣っていた。皮膜の表面には微細な凹凸が形成されており、凹の部分に油溜まりが生じて潤滑作用をなし、凸の部分が実際に相手部材と接触して摩擦力を生じる。本発明例では、凸の部分が高い摩擦係数を有する拡散層で形成されているから、表面粗さRaが小さくなるに従って凸の部分の割合が増え、摩擦係数が増大する。
また、図9に示すように、表面粗さRqが0.2〜0.5のときに摩擦係数が0.062以上となった。図10に示すように、Rqが0.50を超えると、摩耗量が未処理材と同等かそれよりも多くなるため、上記範囲内が高い摩擦係数と耐摩耗性を得るため適切な範囲である。
3.硬さと摩擦係数との関係
摺動試験を行った試料の摺動面の硬さと摩擦係数との関係を調査した。その結果を図11に示す。図11に示すように、硬さが高くなるに従って摩擦係数は増大し、硬さがHv700〜Hv1100のときに摩擦係数(μ)が0.062以上となった。図11に示すように、硬さがHv1250のときに摩擦抵抗が減少しているのは、相手部材(ピン)に対する攻撃性が高まって互いの摩耗が進行したためである。
4.耐摩耗性
表面粗さをRa0.2〜Ra1.2、硬さをHv700〜Hv1100とした本発明例の試料と拡散層を設けていない比較例の試料により摺動試験を上記と同じ条件で60分間行った後、摺動面の摩耗量を測定した。その結果を図12に示す。図12に示すように、本発明例の試料の方が摩耗量は少なかった。
5.ZnおよびSnの含有量と摩擦係数
拡散層中のZnおよびSnの含有量と摩擦係数との関係を調査した。その結果を図13に示す。図13に示すように、Znの含有量が0.5〜15重量%の範囲では、摩擦係数は0.062以上であるが、Znの含有量が15重量%を超えると摩擦係数は低下した。ただし、図13に示すように、Snは18.45重量%でも摩擦係数は低下しなかった。
6.拡散層の成分
摺動試験後の拡散層を形成した試料Z−7に対してEPMA線分析装置(日本電子社製、型式:JOEL JXA−8100)を用いてEPMA線分析を行った。その結果を図14に示す。図14に示すように、ピンと摺動した部分では、Zn、P、Oのピークが増加している部分があり、そのピークが増加している部分に対応するFeの部分ではピークが減少している。このことから、ピンと摺動した部分にリン酸亜鉛皮膜が生成されていることが確認された。また、図14(A)から判るように、ピンと摺動した部分と摺動しなかった部分、におけるZn量を比較すると、摺動部において高いピークがあり、摺動によってはZnの減少は見られなかった。
摺動試験後の拡散層を形成した試料Z−16に対して分析装置(ULVAC PHI社製、型式;TRIFT−2)を用いてTOF−SIMS分析を行った。その結果を図15に示す。TOF−SIMS分析は、試料表面にGaイオンを照射して試料表面の元素の二次イオンを飛散させ、二次イオンの質量に起因する飛散時間から元素を同定するとともにイオン数を計数する分析方法である。この分析方法では、試料面に対してマッピングされた画像にイオン数に応じた輝度の輝点が生じ、輝度の高さとイオン数の量で元素の量を特定する。図15に示すように、摺動面にはZn、SおよびSOの分布が見られ、ZnSやZnSOの存在が確認された。したがって、上記のリン酸亜鉛とZnSやZnSOの混合皮膜の存在により、高い摩擦係数と耐摩耗性を有することが確認された。
高い摩擦係数と耐摩耗性を示した試料Z−1に対して、摺動部のZn皮膜中に含まれるP,S,Ca,Mgの定量分析を行った。P,Ca,Mgの定量分析には高周波誘導結合プラズマ質量分析法(使用機器:FI Elemental社製、型式;Plasma Trace2)を用い、Sの定量分析には還元蒸留装置(日本分光社製、型式:UNIDEC−300)を用い、JISの還元蒸留−メチレンブルー吸光光度法に準じて行った。試験には、表3に示す成分からなる潤滑油A,Bを用いた。摺動部分に硝酸溶液0.5ml(純水9:硝酸1)を滴下し、摺動部分のZn拡散層を約3分間酸分解し、分解溶液中の含有物質を定量分析した。その結果を表4に示す。表4に示すように、放電表面処理によって得られたZn拡散層の摺動部に含まれるZn重量に対して、概ね、Pは0.15〜2.0重量%、Sは0.4〜6.0重量%、Caは0.15〜0.5重量%,Mgは0.1〜0.4重量%存在していることが確認された。これら拡散層の含有物質の範囲内において、高い摩擦係数と耐摩耗性を有することが確認された。
Figure 0004944782
Figure 0004944782
7.拡散層にCrを含有した例
電極としてZnおよびCrの化合物の粉末を成形した圧粉体を用いた以外は上記と同様にして、FeにZnおよびCrが拡散した拡散層を有する試料(ZC−17,ZC−21)を作製した。この試料に対して上記と同じ条件で摺動試験を行った。その結果を図16に示す。図16から判るように、ZnとCrによる拡散層を形成することにより、約0.066という高い摩擦係数を得ることができた。
8.潤滑油にCaおよびMgを含まない例
試料Z−1とSおよびPのみを含有する潤滑油を用いて上記と同じ条件で摺動試験を行った。その結果を図17に示す。また、比較のためにCaおよびMg等を含む潤滑油を用いて摺動試験を行った結果(図7のプロット)を図17に併記する。図17に示すように、潤滑油にCaおよびMg等を含まない場合には、拡散層へSおよびPが浸透して皮膜を形成するのに時間がかかることが確認された。
9.実機試験
図1および図2に示すベルト式無段変速機を製造し、表2に示す成分を含む潤滑油を用いて運転を行ってその際の挟圧力比と動力損失を測定した。この場合において、プーリの表面には試料Z−1と同等拡散層を形成した。なお、挟圧力比は、拡散層を有しないプーリを用いたベルト式無段変速機における挟圧力を1とし、それに対する本発明のベルト式無段変速機の挟圧力の比である。速度比(-log(ratio))に対する挟圧力比および動力損失を図18に示す。
速度比が2.2以上のLow側で挟圧力が非常に高くなり、プーリの表面に段付き摩耗が生じることがあるが、図18(A)に示すように、本発明のベルト式無段変速機では、拡散層によって高い摩擦係数が得られているため、特にLow側における挟圧力が大幅に低減されている。また、図18(B)に示すように、本発明のベルト式無段変速機では、Low側とOD側において動力損失が軽減されている。具体的には、速度比が0.65以下の範囲と速度比が2.0以上の範囲である。
なお、上記実施例は、拡散層をプーリのみに設けた例であるが、エレメントのみ、あるいは両方に設けても同等の作用効果を得ることができる。エレメントに拡散層を形成する場合には、拡散層を形成した後に潤滑油を保持するための微小な溝を機械加工にて形成することができる。また、拡散層にSおよびPを浸透させる方法としては、実機で運転する方法に限られるものではなく、例えば潤滑油に浸漬したエレメントどうしを互いに擦り合わせるなど任意の方法を採用することができる。
1…駆動プーリ、2…従動プーリ、3…Vベルト、4…ディスク、
5…金属リング集合体(ベルト)、6…エレメント、8…拡散層。

Claims (12)

  1. 断面V字状の溝を有し該溝の幅を変更可能な一対のプーリに、複数のエレメントをベルトで連結してなるVベルトを巻回したベルト式無段変速機において、前記プーリおよびエレメントどうしの接触面の少なくとも一方に、前記プーリおよびエレメントの金属製素材表層の母材にZnおよびSnの1種または2種が拡散した拡散層を設け、この拡散層に、SおよびPを含有させたことを特徴とするベルト式無段変速機。
  2. 前記エレメントの前記プーリとの接触面に、潤滑油を保持するための複数の溝を設け、この溝と前記接触面の金属製素材表層に、ZnおよびSnの1種または2種が拡散した拡散層を設け、この拡散層に、SおよびPを含有させたことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
  3. 前記拡散層のZnの含有量は0.5〜15重量%であり、Snの含有量は0.5〜18.5重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式無段変速機。
  4. 前記SおよびPの含有量は、それぞれ0.4〜6.0重量%、0.15〜2.0重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
  5. 前記拡散層は、Ca:0.15〜0.5重量%および/またはMg:0.1〜0.4重量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
  6. 前記拡散層の厚さは1〜50μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
  7. 前記拡散層に、Ni、Cr、Mo、Al、およびCの少なくとも1種を総量で1〜20重量%含有させたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
  8. 前記プーリは、駆動プーリと従動プーリとからなり、前記駆動プーリにおける速度比が2.2以上の溝の領域にのみ前記拡散層を設け、前記従動プーリにおける速度比が0.7以下の溝の領域にのみ前記拡散層を設けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
  9. 前記拡散層の表面粗さはRa0.2〜Ra1.2およびRq0.2〜Rq0.5であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
  10. 前記拡散層の硬さはHv700〜Hv1100であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のベルト式無段変速機。
  11. 前記拡散層の外周部に、表面粗さまたは硬さが前記拡散層の外周縁において前記金属製素材の表面粗さまたは硬さと一致するように外周側へ向けて変化する拡散層を設けたことを特徴とする請求項8〜10のいずれか記載のベルト式無段変速機。
  12. 断面V字状の溝を有し該溝の幅を変更可能な一対のプーリに、複数のエレメントをベルトで連結してなるVベルトを巻回したベルト式無段変速機の運転方法において、前記プーリおよびエレメントどうしの接触面の少なくとも一方に、前記プーリおよびエレメントの金属製素材表層にZnが拡散した拡散層を設け、前記ベルト式無段変速機を、S:0.06〜0.30重量%およびP:100〜600ppm含有する潤滑油と接触させながら運転することを特徴とするベルト式無段変速機の運転方法。
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