磁気ディスク駆動装置に代表される磁気記録再生装置の高記録密度化に伴い、磁気記録媒体に記録されるディジタル情報のビットセルが微細化され、その結果、いわゆる熱揺らぎによって薄膜磁気ヘッドの読出しヘッド素子から検出される信号が揺らいでS/N(信号対雑音比)が劣化し、最悪の場合、信号が消失することが起こり得る。
このため、近年実用化されている垂直磁気記録方式を用いた磁気記録媒体においては、これを構成する記録膜の垂直磁気異方性エネルギーKuを高めることが有効となる。一方、熱揺らぎに対応する熱安定性指数Sは次式で表され、通常50以上が必要といわれている。
S=Ku・V/kB・T (1)
ここで、Ku:垂直磁気異方性エネルギー、V:記録膜を構成する結晶粒の体積、kB:ボルツマン常数、T:絶対温度である。
いわゆるStoner−Wohlfarthモデルによれば、記録膜の異方性磁界Hkと保磁力Hcは次式で示され、Kuの増加と共に、保磁力Hcは増加する(ただし、通常の記録膜ではHk>Hc)。
H=Hc=2Ku/Ms (2)
ただし、Ms:記録膜の飽和磁化である。
所期のデータ系列に対応した記録膜の磁化反転を行うには、薄膜磁気ヘッドの書込みヘッド素子は、最大でその記録膜の異方性磁界Hk程度の急峻な記録磁界を印加しなければならない。垂直磁気記録方式を用いて実用化された磁気ディスクドライブ(HDD)装置では、いわゆる単磁極を用いた書込みヘッド素子が用いられ、その浮上面(ABS)の表面からから記録膜に垂直方向に記録磁界が印加される。この垂直記録磁界の強度は、単磁極を形成する軟磁性材料の飽和磁束密度Bsに比例するため、この飽和磁束密度Bsのできるだけ高い材料が開発され実用化されている。しかし、飽和磁束密度Bsは、いわゆるSlater−Pauling曲線から、Bs=2.4T(テスラ)が実用的な上限であり、現状は実用的限界に迫っている。また、現用の単磁極の厚さや幅は100〜200nm程度であるが、記録密度を高める場合には、厚さや幅をさらに小さくする必要があり、それに伴って、発生する垂直磁界はより低下してしまう。
このように、書込みヘッド素子の記録能力限界から、高密度記録が難しくなっているのが現状である。このため、記録膜をレーザ光などで照射・昇温させ、記録膜の保磁力Hcを下げた状態で信号を記録するいわゆる熱アシスト磁気記録(TAMR:Thermal
Assisted Magnetic Recording)方式が提案されている。
例えば、特許文献1においては、電子放出源を用いて磁気記録媒体に電子を照射し、磁気記録媒体の記録部を加熱昇温させて保磁力を低下させた上で、磁気記録ヘッドによる磁気的情報の記録を可能としている。また、特許文献2においては、垂直磁気記録用ヘッドの主磁極に接して設けられた近接場光プローブを構成する散乱体に、ヘッド内に設けられた半導体レーザ素子を用いてレーザ光を照射して近接場光を発生させ、この近接場光を磁気記録媒体に及ぼして磁気記録媒体の加熱昇温を図る技術が開示されている。
しかしながら、これらの熱アシスト磁気記録方式にも、技術上、種々の困難な点が生じており、問題となっている。
例えば、1)磁気素子と光素子とを搭載した薄膜磁気ヘッドが必須となるが、これは、構造が極めて複雑であり、製造コストも高価となってしまう、2)保磁力Hcの温度特性変化の大きい記録膜の開発が必要となる、3)記録過程における熱減磁により、隣接トラック消去や記録状態の不安定性が生じるなど、大きな課題を有している。
一方、近年、巨大磁気抵抗効果(GMR)読出しヘッド素子やトンネル磁気抵抗効果(TMR)読出しヘッド素子の高感度化を狙いに、電子伝導におけるスピンの挙動(Spin
Transfer)に関する研究が活発になってきており、これを、磁気記録媒体の記録膜の磁化反転に応用し、磁化反転に必要な垂直磁界を低減させようという研究が開始されている(非特許文献1、特許文献3及び4)。
この技術は、磁気記録媒体の面内方向に高周波の交流磁界を垂直記録磁界と同時に印加するものであり、面内方向に印加する交流磁界の周波数数は、記録膜の強磁性共鳴周波数に対応するマイクロ波帯の超高周波(数GHz〜10GHz)である。面内方向の交流磁界と垂直記録磁界との同時印加により、垂直方向の所要反転磁界を記録膜の異方性磁界Hkの60%程度に低下させることが可能であるとの解析結果が報告されている。この技術が実用化されれば、構成が複雑なTAMR方式を用いる必要もなく、さらに、記録膜の異方性磁界Hkを高めることが可能になるので、記録密度の大幅な向上が期待される。
しかしながら、従来のマイクロ波アシスト磁気記録方式におけるマイクロ波磁界放射手段は、磁性体に巻回された書込みコイル又は書込みコイルとは別個に設けられた副コイルであるため、印加すべきマイクロ波の周波数がより高くなるとその部分で放射してしまい、たとえ供給電力を増大させても記録媒体方向にマイクロ波磁界を放射することができなくなる。このため、マイクロ波の周波数がより高くなると、記録膜の異方性磁界Hkを高めることが極めて困難であった。
そこで、本出願人は、マイクロ波アシスト磁気記録方式におけるマイクロ波磁界放射手段として、コプレーナ導波路(CPW)やインバーテッドマイクロストリップ導波路(I−MLIN)等の平面構造の導波路を用いる方法を既に提案している(例えば、特願2008−242400号、平成20年9月22日出願)。
この方法によると、接地導体(グランド電極)及び線路導体(信号電極)間の距離が極小化するので、強力な高周波電界や高周波磁界を得ることができる。これは、クーロンの電荷分布の法則E=kQ/r2に(Eは電場、Qは電荷、kは比例定数、rは電極間距離)より、電場Eは、電極間の距離rの2乗に反比例して強くなることを利用している。即ち、距離が極小化していくと、その2乗に比例して強い電場及び磁場が得られることを利用している。
図12はマイクロ波アシスト磁気記録方式におけるマイクロ波磁界放射手段として(A)CPWを用いた場合、(B)I−MLINを用いた場合の構成を示す断面図である。同図(A)及び(B)共に薄膜磁気ヘッドのトラック幅方向と垂直の断面を表わしており、従って図の面の左右方向が磁気記録媒体の相対移動方向であり、図の面に垂直の方向がトラック幅方向となる。
同図(A)において、120はCPWの線路導体、121及び122は線路導体の積層方向の上下(図12(A)においては両側)に存在する書込み磁気ヘッド素子の主磁極層及び補助磁極層、123は磁気記録媒体をそれぞれ示している。この構成において、磁気記録媒体123は接地されておらず、主磁極層121及び補助磁極層122は接地されておりCPWの接地導体を構成している。このような構成のCPWによると、マイクロ波電流を流した際に線路導体120の積層方向の上下に存在する接地導体121及び122に対して電気力線124が飛んでしまい、磁気記録媒体には直接的に電気力線が飛ばないこととなり、これら電気力線124に垂直に発生する磁場125も自ずと弱くなってしまう。即ち、磁気記録媒体123の表面に向かう電気力線124と直角の方向である、長手方向(磁気記録媒体表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界125も弱くなってしまう。この共鳴用磁界125は、磁気記録媒体123の磁気記録層の強磁性共鳴周波数FR又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界であり、書込み時にこの長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、磁気記録層の保磁力を低下させて書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を低減させることができなくなる。
また、同図(B)において、130はI−MLINの線路導体、131及び132は線路導体130の積層方向の上下(図12(B)においては両側)に存在する書込み磁気ヘッド素子の主磁極層及び補助磁極層、133は磁気記録媒体をそれぞれ示している。この場合、磁気記録媒体133は接地されており、I−MLINの接地導体を構成している。このような構成のI−MLINによると、マイクロ波電流を流した際に線路導体130の下方にある接地導体即ち磁気記録媒体133に対して電気力線134は一応飛ぶが、線路導体130の積層方向の上下に存在する主磁極層131及び補助磁極層132に対して電気力線の一部が飛んでしまうため、全てのエネルギーが磁気記録媒体133に届く訳ではない。実際、マイクロ波放射体の線路導体130と接地導体である磁気記録媒体133との間の距離に比して、マイクロ波放射体の線路導体130と積層方向の上下に存在する主磁極層131及び補助磁極層132との間の距離が狭い場合には、この影響が顕著に出てしまう。これは、電気力線が最短距離を飛ぶためである。即ち、接地されている主磁極層131及び補助磁極層132を電気力線のリターンとしているために、ほとんどの電気力線はこれら金属電極に飛んでしまい、また、磁場135の広がりも横方向にも広がりを見せて、磁気記録媒体のある下方に集中はしないこととなる。即ち、磁気記録媒体133の表面に向かう電気力線134と直角の方向である、長手方向(磁気記録媒体表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界135が弱くなってしまう。この共鳴用磁界135は、磁気記録媒体133の磁気記録層の強磁性共鳴周波数FR又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界であり、書込み時にこの長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、磁気記録層の保磁力を低下させて書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を低減させることができなくなる。
従って、本発明の目的は、磁気記録媒体にマイクロ波を効率良く印加することのできるマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッド及び磁気記録再生装置を提供することにある。
本発明によれば、マイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドは、書込み信号に応じて磁気記録媒体への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段と、書込み磁界発生手段とは独立して設けられており、マイクロ波励振電流を流すことによって磁気記録媒体の強磁性共鳴周波数FR又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を放射させる平面構造形のマイクロ波放射体における線路導体と、線路導体に対してトラック幅方向に垂直でありかつABSと平行な方向に離隔して設けられた少なくとも1つの磁極とを備えている。マイクロ波放射体が、線路導体と磁気記録媒体によって構成される接地導体とを備えたインバーテッドマイクロストリップ導波路である。線路導体と少なくとも1つの磁極との対向面が互いに平行であり、これら対向面間の距離Dが、線路導体の対向面においてABSから最遠端である位置から磁気記録媒体方向への円弧長Rと、線路導体及び磁気記録媒体間の距離Sとの和(R+S)より大きい。
線路導体と少なくとも1つの磁極との対向面間の距離Dを、線路導体の対向面においてABSから最遠端である位置から磁気記録媒体方向への円弧長Rと、線路導体及び磁気記録媒体間の距離Sとの和(R+S)より大きくしたので、線路導体の対向面から出る電気力線はそのほぼ全てが磁気記録媒体に入ることとなり、マイクロ波を磁気記録媒体に非常に効率良く印加することができる。また、マイクロストリップ線路であることから、線路導体からの電気力線のリターンは、接地導体である磁気記録媒体に直接的に戻るので、電界/磁界に変換されたマイクロ波電力を全て磁気記録媒体に印加することができる。しかも、インバーテッドマイクロストリップ導波路であることから、線路導体からの電気力線は基板の裏側方向には進まず、全て接地導体である磁気記録媒体に印加される。また、その場合に、線路導体と接地導体である磁気記録媒体との間には空気のみがあるため、誘電体損は誘電体材料が存在する場合に比して非常に小さくなる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。このように、書込み時に、磁気記録媒体の表面に向かって電気力線を印加させ、この電気力線と直角の方向である、長手方向(磁気記録媒体表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界(磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数FR又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界)を発生させ、この共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、媒体磁化を不安定にさせ、磁気記録層の保磁力を低下させて書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減させることができる。
なお、本明細書において用いられる用語は以下のごとく定義される。基板の素子形成面に形成された構成要素の層構造において、基準となる層よりも基板側にある構成要素を、基準となる層の「下」又は「下方」にあるとし、基準となる層よりも積層される方向側にある構成要素を、基準となる層の「上」又は「上方」にあるとする。例えば、「絶縁層上に下部磁極層がある」とは、下部磁極層が、絶縁層よりも積層される方向側にあることを意味する。
円弧長Rが、線路導体の対向面におけるABSから遠ざかる方向の長さをAとすると、R=πA/2であることが好ましい。
主磁極と補助磁極と主磁極及び補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、書込み磁界発生手段がこのコイル手段であり、マイクロ波放射体の線路導体が主磁極及び補助磁極間に配置されており、少なくとも1つの磁極が主磁極及び補助磁極であることも好ましい。垂直磁気記録型書込みヘッド素子においては、主磁極の先端の補助磁極側における端縁に最も強い書込み磁界が発生するので、マイクロ波放射体の線路導体をこの位置に配置することにより、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。この場合、線路導体及び主磁極間の距離と線路導体及び補助磁極間の距離とが共に円弧長Rと距離Sとの和(R+S)より大きいことがより好ましい。
また、主磁極と補助磁極と主磁極及び補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、書込み磁界発生手段がこのコイル手段であり、マイクロ波放射体の線路導体が主磁極について補助磁極とは反対側に配置されており、少なくとも1つの磁極が主磁極であることも好ましい。この場合、線路導体及び補助磁極間の距離が円弧長Rと距離Sとの和(R+S)より大きいことがより好ましい。
線路導体のトラック幅方向と垂直方向の断面が矩形形状を有していることも好ましい。
本発明によれば、さらに、磁気記録層を有する磁気記録媒体と、書込み信号に応じて磁気記録媒体への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段、書込み磁界発生手段とは独立して設けられておりマイクロ波励振電流を流すことによって磁気記録媒体の強磁性共鳴周波数FR又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を放射させる平面構造形のマイクロ波放射体の線路導体、及び線路導体に対してトラック幅方向に垂直でありかつABSと平行な方向に離隔して設けられた少なくとも1つの磁極を有しており、マイクロ波放射体が、線路導体と磁気記録媒体によって構成される接地導体とを備えたインバーテッドマイクロストリップ導波路であり、線路導体と少なくとも1つの磁極との対向面が互いに平行であり、対向面間の距離Dが、線路導体の対向面においてABSから最遠端である位置から磁気記録媒体方向への円弧長Rと、線路導体及び磁気記録媒体間の距離Sとの和(R+S)より大きい薄膜磁気ヘッドと、書込み信号を生成して書込み磁界発生手段へ印加する書込み信号供給手段と、マイクロ波励振電流を生成してマイクロ波放射体へ印加するマイクロ波励振電流供給手段とを備えた磁気記録再生装置が提供される。
線路導体と少なくとも1つの磁極との対向面間の距離Dを、線路導体の対向面においてABSから最遠端である位置から磁気記録媒体方向への円弧長Rと、線路導体及び磁気記録媒体間の距離Sとの和(R+S)より大きくしたので、線路導体の対向面から出る電気力線はそのほぼ全てが磁気記録媒体に入ることとなり、マイクロ波を磁気記録媒体に非常に効率良く印加することができる。また、マイクロストリップ線路であることから、線路導体からの電気力線のリターンは、接地導体である磁気記録媒体に直接的に戻るので、電界/磁界に変換されたマイクロ波電力を全て磁気記録媒体に印加することができる。しかも、インバーテッドマイクロストリップ導波路であることから、線路導体からの電気力線は基板の裏側方向には進まず、全て接地導体である磁気記録媒体に印加される。また、その場合に、線路導体と接地導体である磁気記録媒体との間には空気のみがあるため、誘電体損は誘電体材料が存在する場合に比して非常に小さくなる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
円弧長Rが、線路導体の前記対向面におけるABSから遠ざかる方向の長さをAとすると、R=πA/2であることが好ましい。
主磁極と補助磁極と主磁極及び補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、書込み磁界発生手段がこのコイル手段であり、マイクロ波放射体の線路導体が主磁極及び補助磁極間に配置されており、少なくとも1つの磁極が主磁極及び補助磁極であることも好ましい。垂直磁気記録型書込みヘッド素子においては、主磁極の先端の補助磁極側における端縁に最も強い書込み磁界が発生するので、マイクロ波放射体の線路導体をこの位置に配置することにより、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。この場合、線路導体及び主磁極間の距離と線路導体及び補助磁極間の距離とが共に円弧長Rと距離Sとの和(R+S)より大きいことがより好ましい。
また、主磁極と補助磁極と主磁極及び補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、書込み磁界発生手段がこのコイル手段であり、マイクロ波放射体の線路導体が主磁極について補助磁極とは反対側に配置されており、少なくとも1つの磁極が主磁極であることも好ましい。この場合、線路導体及び補助磁極間の距離が円弧長Rと距離Sとの和(R+S)より大きいことがより好ましい。
線路導体のトラック幅方向と垂直方向の断面が矩形形状を有していることも好ましい。
マイクロ波励振電流供給手段の一方の出力端子がマイクロ波放射体の線路導体に接続されており、マイクロ波励振電流供給手段の他方の出力端子が磁気記録媒体によって構成される接地導体に抵抗を介して接続されていることがより好ましい。
マイクロ波放射体の線路導体の一端が接地されるか又はマイクロ波放射体の特性インピーダンスの値と等価の抵抗体で終端されており、線路導体の他端がマイクロ波励振電流供給手段に接続されていることも好ましい。
直流励振電流を生成してマイクロ波放射体へ印加する直流励振電流供給回路をさらに備えたことも好ましい。
磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、書込み磁界が磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向を有し、共鳴用磁界が磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向を有するように設定されていることも好ましい。
本発明によれば、磁気記録媒体にマイクロ波をより効率よく印加することのできる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の構成要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
図1は本発明による磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図であり、図2は図1の磁気記録再生装置におけるヘッドジンバルアセンブリ(HGA)の部分の断面図である。
図1には磁気記録再生装置として磁気ディスクドライブ装置が示されており、同図において、10はスピンドルモータ11によってその回転軸11aの回りを回転する複数の磁気ディスク、12は磁気ディスク10に対してデータ信号の書込み及び読出しを行うための薄膜磁気ヘッド(スライダ)13を各磁気ディスク10の表面に適切に対向させるためのHGA、14は磁気ヘッドスライダ13を磁気ディスク10のトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置をそれぞれ示している。
アセンブリキャリッジ装置14は、ピボットベアリング軸15を中心にして角揺動可能なキャリッジ16と、このキャリッジ16を角揺動駆動する例えばボイスコイルモータ(VCM)17とから主として構成されている。キャリッジ16には、ピボットベアリング軸15の方向にスタックされた複数の駆動アーム18の基部が取り付けられており、各駆動アーム18の先端部にはHGA12が固着されている。なお、単数の磁気ディスク10、単数の駆動アーム18及び単数のHGA12が磁気記録再生装置に設けられていても良い。
磁気ディスク10は、スピンドルモータ11及びその回転軸11aを介して接地されている(図11参照)。
図1において、さらに、19は薄膜磁気ヘッド13の書込み及び読出し動作を制御すると共に、後述する強磁性共鳴用のマイクロ波励振電流を制御するための記録再生及び共鳴制御回路を示している。
図2に示すように、HGA12は、薄膜磁気ヘッド13と、この薄膜磁気ヘッド13を支持するための金属導電材料によるロードビーム20及びフレクシャ21と、マイクロ波励振電流及び直流励振電流を流すための伝送線路である励振電流用配線部材22とを備えている。なお、図示されていないが、HGA12には、薄膜磁気ヘッド13の書込みヘッド素子に印加される書込み信号を流すため、及び読出しヘッド素子に定電流を印加して読出し出力電圧を取り出すためのヘッド素子用配線部材も設けられている。
薄膜磁気ヘッド13は、弾性を有するフレクシャ21の一端に取り付けられており、このフレクシャ21とその他端が取り付けられたロードビーム20とによって、薄膜磁気ヘッド13を支持するサスペンションが構成されている。
励振電流用配線部材22は、その全長の大部分が上下に接地導体を有するストリップ線路で構成されている。即ち、図2に示すように、下側接地導体を構成するロードビーム20と上側接地導体22aとの間に、例えばポリイミド等の誘電体材料による誘電体層22b及び22cを介して銅(Cu)等による導体線路22dを挟んだ構成となっている。励振電流用配線部材22としては、このストリップ線路がロードビーム表面と平行に1本形成されている(マイクロ波回路が不平衡構造の場合)。ストリップ線路の磁気ヘッド側の先端は、本実施形態では、ワイヤ23を用いたワイヤボンディングによって端子電極に接続されている。一方、図示されていないが、書込みヘッド素子及び読出しヘッド素子用の配線部材は、通常のリード導体から形成されており、その先端は本実施形態ではワイヤボンディングによって書込みヘッド素子及び読出しヘッド素子の端子電極に接続されている。ワイヤボンディングを用いることなくボールボンディングによって配線部材と端子電極とを接続するように構成しても良い。
図3は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の全体を概略的に示す斜視図である。
同図に示すように、薄膜磁気ヘッド13は、適切な浮上量を得るように加工されたABS30aを有するスライダ基板30と、ABS30aを底面とした際の1つの側面に相当しておりこのABS30aと垂直な素子形成面30bに設けられた磁気ヘッド素子31と、磁気ヘッド素子31を覆うように素子形成面30b上に設けられた保護部32と、保護部32の層面から露出している5つの端子電極33、34、35、36及び37とを備えている。
ここで、磁気ヘッド素子31は、磁気ディスクからデータ信号を読出すための磁気抵抗効果(MR)読出しヘッド素子31aと、磁気ディスクにデータ信号を書込むためのインダクティブ書込みヘッド素子31bとから主に構成されており、端子電極33及び34はMR読出しヘッド素子31aに電気的に接続されており、端子電極35及び36はインダクティブ書込みヘッド素子31bに電気的に接続されており、端子電極37は後述するインバーテッドマイクロストリップ導波路(I−MLIN)の線路導体38(図4)の一端に電気的に接続されている。線路導体38の他端は接地されている(不平衡構造の場合)。
なお、端子電極33、34、35、36及び37は、図3に示された位置に限定されるものではなく、この素子形成面30bのどの位置にどのような配列で設けても良いし、また、例えば、ABS30aとは反対側の面におけるスライダ端面30cに設けられていても良い。さらに、浮上量を調整するためのヒータを備えている場合は、そのヒータに電気的に接続される端子電極が設けられる。
MR読出しヘッド素子31a及びインダクティブ書込みヘッド素子31bにおいては、各素子の一端がABS30a側の面におけるスライダ端面30dに達している。ここでスライダ端面30dとは、薄膜磁気ヘッド13の磁気ディスクに対向する媒体対向面のうちABS30a以外の面であって主に保護部32の端面からなる面である。これらMR読出しヘッド素子31a及びインダクティブ書込みヘッド素子31bの一端が磁気ディスクと対向することによって、信号磁界の感受によるデータ信号の読出しと信号磁界の印加によるデータ信号の書込みとが行われる。なお、スライダ端面30dに達した各素子の一端及びその近傍には、保護のために極めて薄いダイヤモンドライクカーボン(DLC)等のコーティングが施されていてもよい。
図4は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の全体を概略的に示すと共に図3のA−A線断面図であり、図5は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13をABS側から見た構成を概略的に示す断面図であり、図6は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の一部の構成を基板に対して上面から見た図である。
図4及び図5において、30はアルティック(Al2O3−TiC)等からなるスライダ基板であり、磁気ディスク表面に対向するABS30aを有している。このスライダ基板30の素子形成面30b上に、MR読出しヘッド素子31aと、インダクティブ書込みヘッド素子31bと、インダクティブ書込みヘッド素子31b内に形成された、後述するI−MLINの線路導体38と、これらの素子を保護する保護部32とが主に形成されている。
MR読出しヘッド素子31aは、MR積層体31a1と、この積層体を挟む位置に配置されている下部シールド層31a2及び上部シールド層31a3とを含んでいる。MR積層体31a1は、面内通電型(CIP)GMR多層膜、垂直通電型(CPP)GMR多層膜、又はTMR多層膜からなっており、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。下部シールド層31a2及び上部シールド層31a3は、MR積層体31a1が雑音となる外部磁界の影響を受けることを防止する。
このMR積層体31a1がCIP−GMR多層膜からなる場合、下部シールド層31a2及び上部シールド層31a3の各々とMR積層体31a1との間に絶縁用の下部シールドギャップ層及び上部シールドギャップ層がそれぞれ設けられる。さらに、MR積層体31a1にセンス電流を供給して再生出力を取り出すためのMRリード導体層が形成される。一方、MR積層体31a1がCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜からなる場合、下部シールド層31a2及び上部シールド層31a3はそれぞれ上部及び下部の電極層としても機能する。この場合、下部シールドギャップ層、上部シールドギャップ層及びMRリード導体層は不要である。なお、図示されていないが、MR積層体31a1のトラック幅方向の両側には、絶縁層か、又は磁区構造を安定させる縦バイアス磁界を印加するためのバイアス絶縁層及びハードバイアス層が形成される。
MR積層体31a1は、例えば、TMR多層膜を含む場合、イリジウムマンガン(IrMn)、プラチナマンガン(PtMn)、ニッケルマンガン(NiMn)又はルテニウムロジウムマンガン(RuRhMn)等からなる厚さ5〜15nm程度の反強磁性層と、例えば2つのコバルト鉄(CoFe)等の強磁性膜がルテニウム(Ru)等の非磁性金属膜を挟んだ3層膜から構成されており、反強磁性層によって磁化方向が固定されている磁化固定層と、例えばアルミニウム(Al)、アルミニウム銅(AlCu)又はマグネシウム(Mg)等からなる厚さ0.5〜1nm程度の金属膜が真空装置内に導入された酸素によって又は自然酸化によって酸化された非磁性誘電膜からなるトンネルバリア層と、例えばCoFe等からなる厚さ1nm程度の強磁性膜とニッケル鉄(NiFe)等からなる厚さ3〜4nm程度の強磁性膜との2層膜から構成されており、トンネルバリア層を介して磁化固定層との間でトンネル交換結合をなす磁化自由層とが、順次積層された構造を有している。
また、下部シールド層31a2及び上部シールド層31a3は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のNiFe(パーマロイ等)、コバルト鉄ニッケル(CoFeNi)、CoFe、窒化鉄(FeN)又は窒化鉄ジルコニウム(FeZrN)膜等から構成される。
インダクティブ書込みヘッド素子31bは、垂直磁気記録用であり、データ信号の書込み時に自身のABS30a(スライダ端面30d)側の端部から書込み磁界の発生する主磁極としての主磁極層31b1と、トレーリングギャップ層31b2と、渦巻き形状を有しており、少なくとも1ターンの間に主磁極層及び補助磁極層の間を通過するように形成された書込みコイル31b3と、書込みコイル絶縁層31b4と、ABS30a(スライダ端面30d)側の端部とは離隔した部分が主磁極層31b1と磁気的に接続された補助磁極としての補助磁極層31b5と、補助シールドとしての補助シールド層31b6と、リーディングギャップ層31b7とを備えている。
主磁極層31b1は、書込みコイル31b3に書込み電流が印加されることによって発生した磁束を、書込みがなされる磁気ディスクの磁気記録層まで収束させながら導くための導磁路であり、主磁極ヨーク層31b11及び主磁極主要層31b12から構成されている。ここで、主磁極層31b1のABS30a(スライダ端面30d)側の端部における層厚方向の長さ(厚さ)は、この主磁極主要層31b12のみの層厚に相当しており小さくなっている。その結果、データ信号の書込み時には、この端部から高記録密度化に対応した微細な書込み磁界を発生させることができる。主磁極ヨーク層31b11及び主磁極主要層31b12は、例えば、スパッタリング法、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された、それぞれ厚さ0.5〜3.5μm程度及び厚さ0.1〜1μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成される。
補助磁極層31b5及び補助シールド層31b6は、それぞれ、主磁極層31b1のトレーリング側及びリーディング側に配置されている。補助磁極層31b5は、上述したように、ABS30a(スライダ端面30d)側の端部とは離隔した部分が主磁極層31b1と磁気的に接続されているが、補助シールド層31b6は、本実施形態においては主磁極層31b1と磁気的に接続されていない。
補助磁極層31b5及び補助シールド層31b6のスライダ端面30d側の端部は、それぞれ、他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部31b51及びリーディングシールド部31b61となっている。トレーリングシールド部31b51は、主磁極層31b1のスライダ端面30d側の端部とトレーリングギャップ層31b2を介して対向している。また、リーディングシールド部31b61は、主磁極層31b1のスライダ端面30d側の端部とリーディングギャップ層31b2を介して対向している。このようなトレーリングシールド部31b51及びリーディングシールド部31b61を設けることにより、磁束のシャント効果によって、トレーリングシールド部31b51と主磁極層31b1の端部との間、及びリーディングシールド部31b61の端部と主磁極層31b1の端部との間における書込み磁界の磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読出し時のエラーレートを小さくすることができる。
なお、補助磁極層31b5又は補助シールド層31b6を適切に加工して、補助磁極層31b5又は補助シールド層31b6の一部を、主磁極層31b1のトラック幅方向の両側近傍に配置して、いわゆる側面シールドを付与することも可能である。この場合、磁束のシャント効果が増強される。
なお、トレーリングシールド部31b51及びリーディングシールド部31b61の層厚方向の長さ(厚さ)は、主磁極層31b1の同方向の厚さの数十〜数百倍程度に設定されることが好ましい。また、トレーリングギャップ層31b2のギャップ長は、10〜100nm程度であることが好ましく、20〜50nm程度であれば、より好ましい。また、リーディングギャップ層31b7のギャップ長は、0.1μm以上であることが好ましい。
補助磁極層31b5及び補助シールド層31b6は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.5〜4μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成されている。また、トレーリングギャップ層31b2又はリーディングギャップ層31b7は、例えば、スパッタリング法、CVD法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のアルミナ(Al2O3)、酸化シリコン(SiO2)、窒化アルミニウム(AlN)又はDLC膜等から構成されている。
図6に示すように、書込みコイル31b3には、リード導体31b31並びにビアホール導体31b32、31b33及び31b34等を介して書込み信号が流される。書込みコイル絶縁層31b4は、書込みコイル31b3を取り囲んでおり、書込みコイル31b3を周囲の磁性層等から電気的に絶縁するために設けられている。書込みコイル31b3は、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成された厚さ0.1〜5μm程度のCu膜等から構成されている。リード導体31b31並びにビアホール導体31b32、31b33及び31b34も、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成されたCu膜等から構成されている。また、書込みコイル絶縁層31b4は、例えば、フォトリソグラフィ法等を用いて形成された厚さ0.5〜7μm程度の加熱キュアされたフォトレジスト等で構成されている。
図4〜図6に示すように、本実施形態では、主磁極層31b1の主磁極主要層31b12と、補助磁極層31b5のトレーリングシールド部31b51との間に、I−MLINの線路導体38が形成されている。なお、本実施形態では、線路導体38のトラック幅方向の長さが、主磁極層31b1の主磁極主要層31b12のトラック幅方向の長さにほぼ等しくなっている。線路導体38には、リード導体38a1及び38a2並びにビアホール導体31a3及び31a4を介してマイクロ波励振電流及び直流励振電流が流される。線路導体38、リード導体38a1及び38a2並びにビアホール導体31a3及び31a4は、例えばスパッタリング法等を用いて形成されたCu膜等から構成されている。なお、この線路導体38の一端はリード導体及びビアホール導体を介して接地されるか又はI−MLINの特性インピーダンスの値と等価の抵抗体(図示なし)で終端されており、他端はリード導体及びビアホール導体を介して後述する励振電流供給回路115(図11)に接続されている。
図7は本実施形態における平面構造形のマイクロ波放射体の構成を説明する図である。
同図に示すように、本実施形態では、薄膜磁気ヘッド側の主磁極層31b1及び補助磁極層31b5間に設けられた線路導体38と、この薄膜磁気ヘッド13の対向する磁気ディスク10による接地導体とによって、I−MLINが構成されている。良く知られているように、I−MLIN(インバーテッドマイクロストリップ導波路)とは、MLIN(マイクロストリップ導波路)の変形例である。即ち、MLINでは、誘電体基板の一方の面に線路導体が設けられ、誘電体基板の他方の面に接地導体が設けられているのに対し、I−MLINでは、誘電体基板の一方の面に線路導体が設けられているが、その他方の面には何も設けられておらず、接地導体は線路導体及び誘電体基板の一方の面に空隙を介して対向するように設けられている。なお、磁気ディスク10は、全体が導電体でありスピンドルモータ11及びその回転軸11aを介して接地されているため、接地導体として動作することとなる。この場合、トレーリングギャップ層31b2が誘電体基板に対応する。主磁極層31b1及び補助磁極層31b5間の距離は、例えば30〜40nm程度であり、薄膜磁気ヘッドの線路導体38及び磁気ディスク10の表面との間隙は例えば3nm程度であるから、本実施形態のように、線路導体38を主磁極層及び補助磁極層間に設けても、マイクロ波的にI−MLINが構成可能となる。
この線路導体38にマイクロ波励振電流を流すことによって、主磁極層31b1とトレーリングシールド部31b51との間に、磁気ディスク10の表面に向かって電気力線が生じ、この電気力線と直角の方向である、長手方向(磁気ディスク表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界が放射される。この共鳴用磁界は、磁気ディスク10の磁気記録層の強磁性共鳴周波数FR又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である。書込み時にこの長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。
このようにマイクロ波のみで共鳴用磁界を放射させると、大きな高周波電流を必要とするため、磁気ディスク10の磁気保磁力の80%程度の静磁界を放射する直流励振電流を線路導体38に重畳して流すことによって、印加すべきマイクロ波電力を低減化することができる。
図8は本実施形態におけるマイクロ波放射体の線路導体の寸法と線路導体並びに主磁極層及び補助磁極層間の距離との関係を説明する図であり、薄膜磁気ヘッドのトラック幅方向と垂直の断面を表わしている。
同図からも分かるように、I−MLINの線路導体38は、この断面において矩形形状を有しており、互いに平行に形成されている主磁極層31b1及び補助磁極層31b5とそれぞれ平行な左端面(対向面)及び右端面(対向面)381及び382を有している。ここで、主磁極層31b1と線路導体38の左端面(対向面)381との距離をD、補助磁極層31b5と線路導体38の右端面(対向面)382との距離をD′、線路導体38の左端面(対向面)及び右端面(対向面)381及び382におけるABSから遠ざかる方向の長さをA、線路導体38の下面(対向面)383とI−MLINの接地導体である磁気ディスク10の表面との距離をSとする。
マイクロ波の技術分野において良く知られているように、電気力線は導体表面から垂直に放射されるため、線路導体38の左端面(対向面)及び右端面(対向面)381及び382から発せられる電気力線80は、同図に示すように、その面から垂直に放射され、円弧を描いて磁気ディスク10の方向に向かう。
この電気力線80の経路長よりも距離D及びD′が大きければ、線路導体38の左右端面から放射される電気力線は、主磁極層31b1及び補助磁極層31b5方向にはほとんど向かうことなく、下方の磁気ディスク10に向かうこととなる。例えば主磁極層側で電気力線80の経路長が最大となるのは、線路導体38の左端面381においてABSから最遠端である位置385から電気力線が放射された場合である。その場合の円弧長Rは半径Aの1/4円周であるから、R=2πA/4=πA/2となり、その経路長はR+Sとなる。従って、D>πA/2+S、及びD′>πA/2+Sであれば、線路導体38の左右端面(対向面)381及び382から出る電気力線はそのほぼ全てが磁気ディスク10に入ることとなり、マイクロ波を磁気ディスク10に非常に効率良く印加することができる。また、MLINであることから、線路導体38からの電気力線のリターンは、接地導体である磁気ディスク10に直接的に戻るので、電界/磁界に変換されたマイクロ波電力を全て磁気ディスク10に印加することができる。しかも、I−MLINであることから、線路導体38の上面384からは電気力線はほとんど放射されず、放射されたとしても基板の裏側方向には進まず、全て接地導体である磁気ディスク10方向に印加される。また、線路導体38と接地導体である磁気ディスク10との間には空気のみがあるため、誘電体損は誘電体材料が存在する場合に比して非常に小さくなる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
図9は線路導体と主磁極層又は補助磁極層との間の距離D又はD′と磁気ディスク表面における磁場強度との関係を示すグラフである。同図において、横軸は線路導体38の横幅(図8の断面において)、例えば10nmを単位として表わしており、縦軸は飽和時の磁場強度を0dBとした際の相対値を表わしている。
同図から分かるように、距離D又はD′が2以上、例えば20nm以上となると、磁場強度は飽和する。これは、線路導体38の左右端面から出る電気力線のほぼ全てが磁気ディスク10に入るためであると考えられる。
図10は本発明による強磁性共鳴用の磁界を用いた磁気記録方法の原理を説明すると共に上述した実施形態のヘッドモデルを示すための断面図である。
まず、同図を用いて磁気ディスク10の構造について説明する。磁気ディスク10は、垂直磁気記録用であり、ディスク基板10a上に、磁化配向層10bと、磁束ループ回路の一部として働く軟磁性裏打ち層10cと、中間層10dと、磁気記録層10eと、導電性の保護層10fとを順次積層した多層構造となっており、ディスク基板10aも含めて全ての層が導電性材料で形成されている。
磁化配向層10bは、軟磁性裏打ち層10cにトラック幅方向の磁気異方性を付与することによって、軟磁性裏打ち層10cの磁区構造を安定させて、再生出力波形におけるスパイク状ノイズの抑制を図っている。また、中間層10dは、磁気記録層10eの磁化の配向及び粒径を制御する下地層の役割を果たしている。
ここで、ディスク基板10aは、ニッケルリン(NiP)被覆Al合金、シリコン(Si)等から形成されている。磁化配向層10bは、反強磁性材料であるPtMn等から形成されている。軟磁性裏打ち層10cは、軟磁性材料であるコバルトジルコニウムニオブ(CoZrNb)等のコバルト(Co)系アモルファス合金、鉄(Fe)合金、軟磁性フェライト等、又は軟磁性膜/非磁性膜の多層膜等から形成されている。中間層10dは、非磁性材料であるRu合金等から形成されている。ここで、中間層10dは、磁気記録層10eの垂直磁気異方性を制御可能であれば、その他の非磁性金属若しくは合金、又は低透磁率の合金等でもよい。保護層10fは、化学的蒸着(CVD)法等によるカーボン(C)材料等から形成されている。
磁気記録層10eは、例えば、コバルトクロムプラチナ(CoCrPt)系合金、CoCrPt−SiO2、鉄プラチナ(FePt)系合金、又はCoPt/パラジウム(Pd)系の人工格子多層膜等から形成されている。また、この磁気記録層10eにおいては、磁化の熱揺らぎを抑制するため、垂直磁気異方性エネルギーが、例えば1×106erg/cc(0.1J/m3)以上に調整されていることが好ましい。この場合、磁気記録層10eの保磁力の値は、例えば、5kOe(400kA/m)程度又はそれ以上となる。さらに、この磁気記録層10eの強磁性共鳴周波数FRは、磁気記録層10eを構成する磁性粒子の形状、サイズ、構成元素等により決定される固有の値であるが、概ね1〜15GHz程度となっている。この強磁性共鳴周波数FRは、1つだけ存在する場合もあれば、スピン波共鳴が生じた際のように、複数存在する場合もある。
次いで、図10を用いて、本発明による磁気記録方法の原理を説明する。I−MLINにマイクロ波励振電流を流すことによって、磁気ディスク10の表面に向かって電気力線が生じ、この電気力線と直角の方向である磁気ディスク表面の面内又は略面内方向であってトラック方向に共鳴用磁界100が放射される。この共鳴用磁界100は、磁気ディスク10の磁気記録層10eの強磁性共鳴周波数FR又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界であることから、磁気記録層10eの保磁力を効率良く低減させることができ、その結果、書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層10eの表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界101の強度を大幅に低減することができる。つまり、保磁力を低減させることによって、磁化反転し易くなるため、小さい記録磁界で効率よく記録を行うことができるのである。
実際、磁気記録層の強磁性共鳴周波数FRを有する共鳴用磁界を印加することによって、例えば、磁気記録層10eの磁化を反転させることができる垂直方向の書込み磁界を40%程度低減し、60%程度とすることが可能となる。即ち、共鳴用磁界を印加する前における磁気記録層10eの保磁力が
5kOe(400kA/m)程度であっても、磁気記録層の面内方向の共鳴用磁界を印加することにより、この保磁力を実効的に2.4kOe(192kA/m)程度にまで低減することが可能となる。
なお、共鳴用磁界の強度は、磁気記録層の異方性磁界をHKとして、0.1HK〜0.2HK程度であることがより好ましく、その周波数は、磁気記録層10eの構成材料及び層厚等によるが、1〜15GHz程度であることが好ましい。
図11は本実施形態における磁気ディスクドライブ装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
同図において、11は磁気ディスク10を回転駆動するスピンドルモータ、110はこのスピンドルモータ11のドライバであるモータドライバ、111はVCM17のドライバであるVCMドライバ、112はコンピュータ113の制御に従ってモータドライバ110を及びVCMドライバ111を制御するハードディスクコントローラ(HDC)、114は薄膜磁気ヘッド13のヘッドアンプ114a及びリードライトチャネル114bを含むリードライトIC回路、115はマイクロ波励振電流及び直流励振電流を供給する励振電流供給回路、116は書込みヘッド素子に印加される書込み信号を流すため、及び読出しヘッド素子に定電流を印加して読出し出力電圧を取り出すためのヘッド素子用配線部材をそれぞれ示している。励振電流供給回路115の一方の出力端子は励振電流用配線部材22等を介して薄膜磁気ヘッド13の線路導体38に接続されており、他方の出力端子は接地されている。磁気ディスク10は、スピンドルモータ11等を介して接地されている。
図1に示した記録再生及び共鳴制御回路19は、上述したHDC112、コンピュータ113、リードライトIC回路114、及び励振電流供給回路115等から構成されている。
以上説明したように本実施形態によれば、線路導体と主磁極層又は補助磁極層との間の距離を、D>πA/2+S及びD′>πA/2+Sに設定することにより、線路導体38の左右端面(対向面)38a及び38bから出る電気力線はそのほぼ全てが磁気ディスク10に入ることとなる。その結果、マイクロ波を磁気ディスク10に非常に効率良く印加することができる。もちろん、本実施形態によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
本実施形態では、特に、マイクロ波放射体がI−MLINで構成されていることから、CPWの場合のように中央の線路導体から出た電気力線のリターンが横方向に存在するの接地導体で終端することなく、線路導体38から出た電気力線のリターンが対向位置に配置されている接地導体である磁気ディスク10に直接的に戻るので、電界/磁界に変換されたマイクロ波電力を全て磁気ディスク10に印加することができる。そのため、放射電界従って放射磁界の中央に放射の弱い部分が生じることなく、強い放射を磁気ディスク10に印加することができる。さらに、電気力線のリターンが磁気ディスクの表面と平行にはならずほぼ垂直に印加されるため、磁界の方向が磁気ディスク表面と平行(長手方向)となるから、書込みに必要な垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。しかも、I−MLINであるゆえに、線路導体38からの電気力線は基板の裏側方向には進まず、全て接地導体である磁気ディスク10に印加される。また、その場合に、線路導体38と接地導体である磁気ディスク10との間には空気のみがあるため、誘電体損は誘電体材料が存在する場合に比して非常に小さくなる。
また、本実施形態のような垂直磁気記録構造の書込みヘッド素子では主磁極の先端の補助磁極側に近い端縁に最も強い書込み磁界が発生するので、線路導体38を主磁極層及び補助磁極層間に位置に配置することにより、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気ディスク10に印加することができる。
このようにいわゆる熱アシスト(加熱)によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書込みを行うことができることが理解される。さらに、電子放出源、レーザ光源等の大きな負担となる特別の素子を用いることなく、このような磁気記録方法を実現することができ、コンパクト化及び低コスト化が可能となる。
本実施形態の変更態様として、線路導体を主磁極について補助磁極とは反対側に配置しても良い。ただし、この場合、線路導体の位置が最も強い書込み磁界が発生する位置からずれるため、マイクロ波帯共鳴用磁界の印加効果が上述の実施形態の場合に比して多少低下する。
以上、薄膜磁気ヘッド13の構成について詳細に説明したが、本発明の薄膜磁気ヘッドは上述した構成に限定されるものではなく、他の種々の構成をとり得ることは明らかである。
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。