次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明の一実施形態に従う、車両の周辺監視装置の構成を示すブロック図である。該装置は、車両に搭載され、遠赤外線を検出可能な2つの赤外線カメラ1Rおよび1Lと、車両周辺の外気の温度(外気温)を検出するセンサ5と、カメラ1Rおよび1Lによって得られる画像データに基づいて車両前方の対象物を検出するための画像処理ユニット2と、該検出結果に基づいて音声で警報を発生するスピーカ3と、カメラ1Rまたは1Lによって得られる画像を表示すると共に、運転者に車両前方の対象物を認識させるための表示を行うヘッドアップディスプレイ(以下、HUDと呼ぶ)4とを備えている。
図2に示すように、カメラ1Rおよび1Lは、車両10の前部に、車幅の中心を通る中心軸に対して対称な位置に配置されている。2つのカメラ1Rおよび1Lは、両者の光軸が互いに平行となり、両者の路面からの高さが等しくなるように車両に固定されている。赤外線カメラ1Rおよび1Lは、撮像される対象物の温度(これは、検出される遠赤外線の量に応じる)が高いほど、その出力信号のレベルが高くなる、すなわち撮像画像における輝度値が大きくなる特性を有している。
画像処理ユニット2は、入力アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路、デジタル化した画像信号を記憶する画像メモリ、各種演算処理を行う中央演算処理装置(CPU)、CPUが演算に際してデータを記憶するのに使用するRAM(ランダムアクセスメモリ)、CPUが実行するプログラムおよび用いるデータ(テーブル、マップを含む)を記憶するROM(リードオンリーメモリ)、スピーカ3に対する駆動信号およびHUD4に対する表示信号などを出力する出力回路を備えている。カメラ1Rおよび1Lの出力信号およびセンサ5の出力信号は、デジタル信号に変換されてCPUに入力されるよう構成されている。HUD4は、図2に示すように、車両10のフロントウィンドウの、運転者の前方位置に画面4aが表示されるように設けられている。こうして、運転者は、HUD4に表示される画面を視認することができる。
ここで、図3を参照して、本願発明で用いる2種類のグレースケール画像について説明する。図3(a)の上段は、撮像された対象物の温度に応じた輝度値を有する第1のグレースケール画像を示す。中断は、符号L1で示される画素行に沿った輝度値の推移を示している。下段は、温度と輝度値の関係を示し、上段の第1のグレースケール画像は、この関係に基づいて生成されている。
下段に示すように、輝度値は温度に対して比例関係を有しており、温度の値が決まれば、輝度値が一意に決定されるよう、両者の関係は予め設定されている。温度が高くなるほど、輝度値は高くなる。たとえば、この関係に従って、温度Aに対して輝度値aが割り当てられており、また、温度Bに対して輝度値bが割り当てられている場合、或る状況下において背景の温度がAであれば、背景には輝度値aが割り当てられ、他の状況下において背景の温度がBであれば、背景には輝度値bが割り当てられる。このことは、背景以外の対象物についても同様である。
この実施例では、赤外線カメラ1R,1Lが、温度に応じた信号を出力するよう構成されており、この出力信号をAD変換することによって得られるグレースケール画像が、第1のグレースケール画像に対応する。なお、この実施例では、温度と輝度値の間は比例関係であるが、温度の値に対して輝度値が一意に決定されるのであれば、必ずしも比例関係でなくてもよい。
図3(a)の中段にも示されるように、背景の温度と、人工物や生体のような対象物の温度との間の差が小さい場合、第1のグレースケール画像では、背景および対象物は、ほぼ同様の輝度値を持つ画像となる。このような場合、第1のグレースケール画像では、対象物を、背景と分離して抽出することは困難である。
他方、図3(b)を参照すると、上段は、撮像された背景の温度に対して、対象物の温度の差に応じた輝度値を持つ第2のグレースケール画像を示す。中段は、符号L1で示される画素行に沿った輝度値の推移を示している。下段は、温度差と輝度値の関係を示しており、第2のグレースケール画像は、この関係に基づいて生成されている。ここで、原点Oは、(背景の温度,背景の輝度値)を表している。横軸の「温度差」は、該背景の温度に対する温度差を示す。背景の温度には、その温度の値に関係なく一定の輝度値である背景輝度値が割り当てられる。温度差が高くなるほど、輝度値は高くなる。
下段に示すように、輝度値は温度差に対して比例関係を有しており、温度差の値が決まれば、輝度値が一意に決定されるよう、両者の関係は予め設定されている。たとえば、或る状況下では背景の温度がAであり、他の状況下では背景の温度がBである場合、どちらの場合でも、背景の画像領域には一定の背景輝度値cが割り当てられる。また、該或る状況下での対象物の温度が(A+x)であり、該他の状況下での対象物の温度が(B+x)である場合、どちらの場合でも、対象物の画像領域には、温度差xに応じた同じ輝度値dが割り当てられる。
この実施例では、背景温度に対する温度差に対し、輝度値は比例関係を有しているが、該温度差の値に対して輝度値が一意に決定されるのであれば、必ずしも比例関係でなくてもよい。
第2のグレースケール画像は、第1のグレースケール画像に基づいて生成されることができる。ここで、背景に対する温度差を求めるためには、背景の温度が必要とされる。背景の温度は、任意の適切な方法で決定されることができる。たとえば、第1のグレースケール画像の輝度値ヒストグラムにおいて最も度数の高い輝度値に対応する温度を、背景の温度とすることができ、これに、所定の背景輝度値を割り当てる。第1のグレースケール画像の各画素について、背景の温度に対する温度差を求め、図3(b)の下段に示す関係にしたがって、該温度差に応じた輝度値を割り当てることにより、第2のグレースケール画像を生成することができる。
代替的に、周知のフィルタ処理を用いて第2のグレースケール画像を生成してもよい。たとえば、画像をぼかすのに用いられるガウス(ぼかし)フィルタおよびエッジを強調するのに用いられるハイパスフィルタの組み合わせを用いて画像の鮮鋭化処理(sharpening)を第1のグレースケール画像に適用することにより、第2のグレースケール画像を生成することができる。
第2のグレースケール画像では、背景に対する対象物の温度差に応じて輝度値を割り当てるので、図3(b)の中段に示すように、背景の輝度値に対する対象物の輝度値の差を大きくすることができる。したがって、第2のグレースケール画像では、より容易に、背景と分離して、生体や人工物等の対象物を抽出することができる。
従来は、第2のグレースケール画像を所定の閾値で2値化し、背景領域と対象物領域とを分離していた。上で述べたように、第2のグレースケール画像では、背景に対する温度差に応じて輝度値が割り当てられるので、背景以外の対象物部分を、該対象物の形状を維持しつつ、背景から良好に抽出することができる。しかしながら、このように抽出される対象物には、生体の他に、車両や電光看板などの対象物が含まれることがある。特に、熱源を有する人工物は、高温対象物として抽出されやすい。生体と人工物とを区別するために、2値化された画像にパターンマッチング等を適用して対象物の形状を判定することにより、抽出された対象物が歩行者なのか、動物なのか、人工物なのか、等の判定を行っていた。2値化された画像において、抽出された対象物の数が多いほど、すべての対象物に、候補となる対象物の形状のテンプレートを用いてパターンマッチングを行うので、計算上の負荷が増大するおそれがあった。このように、第2のグレースケール画像のみを用いて、計算上の負荷を抑制しつつ、所望の対象物のみを、それ以外の対象物から分離して抽出することは困難であった。
他方、第1のグレースケール画像では、背景に対する温度差とは関係なく、撮像される対象物(背景を含む)の温度そのものに対して一意に決まる輝度値が割り当てられている。抽出すべき所望の対象物の温度を推定することができれば、第1のグレースケール画像において、該所望の対象物が存在している領域(対象物領域と呼ぶ)を、該推定された温度と異なる温度を有する他の対象物から分離して特定することができる。しかしながら、第1のグレースケール画像は、背景に対する温度差を良好に反映したものではないので、該推定された温度周辺の温度領域が背景に存在すれば、該対象物領域には、所望の対象物以外の背景部分が含まれることがあり、よって、第1のグレースケール画像のみを用いて、所望の対象物のみを、その本来の形状を維持しつつ背景から分離して抽出することは困難である。
このように、第1および第2のグレースケール画像のいずれか一方のみを用いても、所望の対象物のみを良好な精度で抽出することは難しい。そこで、本願発明では、第1のグレースケール画像と第2のグレースケール画像の両方を用いる。第1のグレースケール画像から特定される対象物領域では、上記第2のグレースケール画像において困難であった、所望の対象物が存在する領域とそれ以外の対象物との分離を、良好に実現することができる。また、第2のグレースケール画像から生成される2値画像では、上記第1のグレースケール画像において困難であった、所望の対象物と、該対象物の温度周辺の温度を持つ背景部分との分離を、良好に実現することができる。したがって、第1のグレースケール画像からの対象物領域と第2のグレースケール画像からの2値画像とを合わせることにより、所望の対象物のみを、より良好な精度で、背景および他の対象物から分離して抽出することができる。さらに、第2のグレースケール画像は、前述したように第1のグレースケール画像から生成されるので、元となるグレースケール画像は1種類である。したがって、2種類のグレースケール画像を用いてはいるものの、装置の構成を簡略化することができる。
以下、本願発明のこの手法について、より詳細に説明する。図4は、この発明の第1の実施例に従う、画像処理ユニット2によって実行される、所望の対象物を抽出するためのプロセスを示すフローチャートである。該プロセスは、所定の時間間隔で実行されることができる。この実施例では、所望の対象物として、歩行者(人間)を抽出する。また、一対のカメラ1Rおよび1Lのうち、この実施例では、カメラ1Rの撮像画像を用いるが、当然ながら、カメラ1Lの撮像画像を用いてもよい。
ステップS11およびS12において、カメラ1Rの出力信号(すなわち、撮像画像のデータ)を入力として受け取り、これをA/D変換して、画像メモリに格納する。格納される画像データは、図3(a)を参照して説明した第1のグレースケール画像である。ステップS13において、外気温センサ5によって検出された外気温i(℃)を取得する。
ステップS21〜S23は、第1のグレースケール画像を用いて、歩行者が存在する画像上の位置(領域)を見極めるための処理である。
まず、ステップS21において、ステップS13で検出された外気温iに基づいて、図5に示すようなマップを参照する。ここで、該マップを説明する。歩行者の頭部は、主にその顔面において皮膚が外気にさらされており、熱源を妨げるものが少ない部位である。したがって、外気にさらされている頭部表面は、外気温に対し、比較的安定した温度を呈する。そこで、外気にさらされている頭部表面の温度に着目し、これを、歩行者の温度とみなす。歩行者温度F(℃)と外気温i(℃)との間の関係を、実験やシミュレーション等で調べた結果、両者の間には、図5のマップに示すような関係があることが判明した。このマップにおいて、横軸は外気温i(℃)を示し、縦軸は、外気温(i)に対する歩行者温度F(i)(℃)を示す。このマップに示すように、外気温iから、歩行者温度F(i)を推定することができる。
歩行者温度Fは、外気温iに対して、曲線101に示すように推移し、外気温iが高くなるほど、歩行者温度Fも高くなる。歩行者の頭部以外の部分の温度(胴体や足等の温度)は、歩行者温度F(i)を中心とした所定範囲内にほぼ収まると考えることができる。したがって、歩行者の頭部以外の部分(胴体や足等)の温度が収まるよう、予めシミュレーションや実験等によって、F(i)を含む所定の余裕範囲(マージン)T(℃)を設定する。該余裕範囲の上限が点線101Uよって示されており、F(i)maxで表す。該余裕範囲の下限が点線101Lによって示されており、F(i)minで表す。
なお、図5のマップでは、余裕範囲Tは、F(i)を中心とするよう設定されているが、このような設定には制限されず、F(i)minおよびF(i)の差と、F(i)maxおよびF(i)の差とが異なってもよい。また、図5のマップでは、余裕範囲Tは、外気温iの変化に応じて一定となるよう設定されているが、このような設定には制限されず、外気温iの変化に対して余裕範囲Tの大きさが変化するよう、余裕範囲Tを設定してもよい。
図5に示されるようなマップは、画像処理ユニット2のメモリに予め記憶される。画像処理ユニット2は、検出された外気温i(℃)に基づいて該マップを参照することにより、外気温iに対応する歩行者温度F(i)の上限値F(i)maxおよび下限値F(i)minを求める。
図4に戻り、ステップS22において、歩行者温度の上限値F(i)maxおよび下限値F(i)minに対応する輝度値を求める。図3(a)を参照して前述したように、第1のグレースケール画像の温度と輝度値の関係は、たとえば図3(a)の下段に示されるように、予め決められている。したがって、この関係(当該下段のようなマップをメモリに記憶しておいてもよいし、温度から、所定の式によって輝度値を求めてもよい)を用いて、歩行者温度の上限値F(i)maxに対応する輝度上限値Tbmax、および歩行者温度の下限値F(i)minに対応する輝度下限値Tbminを算出する。
ステップS23において、輝度上限値Tbmaxおよび輝度下限値Tbminを閾値として用い、第1のグレースケール画像を2値化する。
ここで、図6を参照すると、第1のグレースケール画像の輝度値ヒストグラムの一例が示されている。輝度上限値Tbmaxおよび輝度下限値Tbminにより画定される領域201が、歩行者の輝度領域を示す。この実施例では、領域201内の輝度値を有する画素を、値1の白領域とし、領域201以外の輝度値を有する画素を、値ゼロの黒領域とすることにより、第1のグレースケール画像を2値化して、第1の画像を生成する。第1の画像において、白領域は、歩行者が存在する領域として特定された対象物領域を表している。
図8を参照すると、対象物抽出処理の各段階の画像を模式的に表した図が示されており、図8(a)は、ステップS12で取得される第1のグレースケール画像を表している。図では、輝度値の違いをハッチングの種類の違いで表しており、歩行者211および自動車213が撮像されている。また、背景において、歩行者の周囲の道路構造物のある領域215およびその他の領域217とでは、輝度値が異なっている。
図8(b)には、ステップS23において得られる、第1のグレースケール画像が2値化された第1の画像が示されている。白領域301は、(a)の第1のグレースケール画像において輝度領域201内の輝度値を有していたためにステップS23の2値化によって抽出された対象物領域であり、上記推定された歩行者温度F(i)に基づいて規定される歩行者の温度領域(前述したように、F(i)minからF(i)maxの間の余裕範囲Tを持つ)を表している。
このように、第1のグレースケール画像を用いて得た2値画像では、上記推定された歩行者温度に相当する温度領域を、対象物領域301として抽出するため、該歩行者温度とは異なる温度を有する他の対象物(たとえば、(a)の自動車213)から分離して、歩行者211の存在する領域を抽出することができる。しかしながら、(a)の領域215に示すように、歩行者の周囲に、歩行者温度の余裕範囲Tに含まれるような温度を有する背景が存在する場合、該歩行者211の実際の温度と該背景領域215の実際の温度とが異なっていても、(b)に示されるように、対象物領域301には、歩行者211のみならず、該歩行者周囲の背景領域215も含まれてしまう。そこで、歩行者211のみを抽出するため、以下に示すように、第2のグレースケール画像を併用する。
なお、図ではわかりやすいように、白領域301は四角形として表されているが、当然ながら、第1のグレースケール画像を2値化することによって抽出される対象物領域301の形状は、四角形に限定されない。
図4に戻り、ステップS31において、第1のグレースケール画像に基づいて、第2のグレースケール画像を生成する。前述したように、第1のグレースケール画像から背景の温度を求め、該背景の温度に対する温度差に応じた輝度値を割り当てることにより、第2のグレースケール画像を生成することができる。
ステップS32およびS33では、第2のグレースケール画像を用いて、背景から、生体や人工物などの高温対象物を分離する処理を行う。この処理は、従来の任意の適切な処理を用いることができる。簡単に説明すると、ステップS32において、第2のグレースケール画像の輝度値ヒストグラムを用いて、背景と高温対象物を分離する2値化のための閾値Taを決定する。
閾値の決定には、任意の適切な手法を用いることができる。たとえば、特開2003−216949号公報に記載の手法を用いることができる。この手法によると、前回の処理で決定された閾値を用い、今回得られたグレースケール画像の2値化処理を行う。次に、2値化画像の2値化面積率P(%)を、“2値化対象物の全体画素数/2値化対象画面全体の画素数×100”という式によって算出する。2値化面積率Pが規定値α(%)以下で、かつ閾値が最小輝度閾値Min_THでない場合、閾値から規定の割合Xを差し引いて、閾値を減少させる。同様に、2値化面率Pが規定値β(%)以上で、かつ閾値が最大輝度閾値Max_THでない場合、閾値に規定の割合Xを足し込み、閾値を増加する。このような閾値設定により、ノイズによる輝度値のばらつきの影響を受けることなく、高温対象物を、背景と分離して抽出することができる。しかしながら、閾値の決定手法は、このような手法に限定されるものではなく、たとえば、閾値を予め決められた値としてもよい。
ステップS33において、こうして設定された閾値Taを用いて、第2のグレースケール画像を2値化する。ここで図7を参照すると、第2のグレースケール画像の輝度値ヒストグラムの一例が示されている。閾値Ta以下の輝度値を有する領域203は、背景の輝度値を示す領域であり、閾値Taより高い輝度値を有する領域205が、対象物の輝度値を示す領域である。この実施例では、閾値Taより高い輝度値を有する画素を、値1の白領域とし、閾値Ta以下の輝度値を有する画素を、値ゼロの黒領域として、第2のグレースケール画像を2値化し、第2の画像を生成する。
図8を再び参照すると、(c)は第2のグレースケール画像を表し、図では、輝度値の違いをハッチングの種類の違いで表している。(c)の第2のグレースケール画像は、(a)の第1のグレースケール画像に比べて輝度値の変化が鮮明になっている。(d)には、ステップS33で得られる、2値化された第2の画像が示されている。白領域303には歩行者211が抽出されているが、符号305で囲まれた白領域に示すように、歩行者以外の対象物(この実施例では、自動車213のヘッドライトやタイヤ等の部分)も抽出されている。これは、歩行者以外の対象物でも、背景に対して所定の温度差を有する高温対象物であれば、抽出されてしまうことに起因する。
図8の(b)および(d)から明らかなように、第1の画像では、歩行者が存在する領域すなわち対象物領域301が、他の対象物から分離して抽出されており、第2の画像では、個々の高温対象物が、その本来の形状を呈した状態で、背景から分離して抽出されている。したがって、第1の画像と第2の画像の論理積を取ることにより、歩行者以外の高温対象物が除去されると共に、歩行者温度周辺の温度を有する背景部分が除去され、よって、歩行者のみが抽出された画像(e)を取得することができる。
図4のステップS41は、この論理積(AND)演算を行う処理である。第1の画像の各画素と、第2の画像の同じ位置にある各画素との間でAND演算を行う。或る画素について、前者が値1(白)で後者が値1(白)であれば、AND演算の結果は値1(白)となる。いずれかが値ゼロ(黒)であれば、AND演算の結果は値ゼロ(黒)となる。歩行者は、第1の画像においても第2の画像においても値1(白)として抽出されているので、AND演算の結果により、歩行者のみを、背景と分離するだけでなく、他の高温対象物から分離して抽出することができる。
なお、ステップS41に続けて、抽出された対象物が、歩行者かどうかをより高い精度で判定するため、周知のパターンマッチングを用いて形状判定を行うようにしてもよい。また、歩行者が抽出されたならば、スピーカ3(図1)を介して運転者に知らせたり、また、抽出された歩行者の画像をヘッドアップディスプレイ4に表示して運転者に知らせることができる。
こうして、第1のグレースケール画像と第2のグレースケール画像を用いることにより、所望の対象物(この実施例では歩行者)を、背景だけでなく、該所望の対象物以外の対象物から分離して抽出することができる。
上記実施例は、所望の対象物が歩行者である場合を例に説明している。しかしながら、本願発明は、図5のマップに示されるように、外気温との関係を予め実験やシミュレーション等によって規定することができる温度を有する対象物について適用可能であり、よって、対象物は、人間に限定されるものではなく、動物のような他の生体や、人工物であってもよい。たとえば、車両の排気管やランプは、外気温に対する温度を予めシミュレーション等によって設定することができる。したがって、これらの対象物についても、上記手法を適用することができる。
次に、第2の実施例について説明する。この実施例では、上記のように論理積演算を行う代わりに、形状判定を行って、対象物を抽出する。ここでは、形状判定として、パターンマッチングを用いる。
ここで、画像処理ユニット2のメモリまたは該画像処理ユニット2がアクセス可能な記憶装置には、図9に示されるように、抽出すべき対象物の種類のそれぞれについて、外気温に対する該対象物の温度を推定して規定したマップと、該対象物の形状の標準パターンを表すテンプレートと、が記憶されている。たとえば、対象物Aについては、外気温に対する該対象物Aの推定温度が、マップAmとして記憶され、該対象物Aの形状の標準パターンを表すテンプレートが、テンプレートAtとして記憶されている。対象物の種類としては、任意のものを設定することができ、人間や動物のようなものでもよいし、車両等の人工物でもよい。また、車両の排気管、ヘッドライトおよびテールライト等の部品でもよい。
ここで、該マップは、図5に示されるようなマップであり、外気温に対する対象物の温度を、シミュレーションや実験等を介して調べ、マップとして規定することができる。たとえば、排気管やテールライトについては、外気温に応じて、それぞれ、約300〜400℃および50〜200℃の温度を呈することがシミュレーションや実験等を行った結果判明している。このようなシミュレーションや実験等を、それぞれの外気温に対して行うことにより、マップを生成することができる。
また、記憶されるテンプレートは、複数であってもよい。たとえば、対象物AについてのテンプレートAtとして、複数のテンプレートを用意してもよい。
図10は、この発明の第2の実施例に従う、画像処理ユニット2によって実行される、所望の対象物を抽出するためのプロセスを示すフローチャートである。該プロセスは、所定の時間間隔で実行されることができる。一対のカメラ1Rおよび1Lのうち、この実施例では、カメラ1Rの撮像画像を用いるが、当然ながら、カメラ1Lの撮像画像を用いてもよい。
ステップS11〜S13およびS31〜S33の処理は、図4に示すものと同じであるので、説明を省略する。以下、図10のプロセスを、該対象物抽出処理の各段階の画像を模式的に表した図11を参照しながら説明する。
図11において、(a)、(c)および(d)は、図8と同様であり、それぞれ、ステップS12で取得される第1のグレースケール画像、ステップS31で生成される第2のグレースケール画像、および、ステップS33で得られる第2のグレースケール画像を2値化した第2の画像を示す。以下では、抽出する所望の対象物が、自動車213のヘッドライト221である場合を例に説明する。
ステップS51において、抽出する所望の対象物について、図9に示すようなテーブルを参照し、該対象物について記憶されている、外気温に対する対象物温度を規定したマップを読み出す。図4のステップS21を参照して説明したのと同様の手法で、ステップS13で検出された外気温iに基づいて該マップを参照し、該対象物の温度の上限値F(i)maxおよび下限値F(i)minを求める。したがって、抽出する所望の対象物がヘッドライトである場合、検出された外気温iに基づいて、該ヘッドライトについて記憶されていたマップを参照し、該ヘッドライトの温度の上限値および下限値を求める。
ステップS52は、図4のステップS22と同様の処理であり、上記求めた対象物温度の上限値F(i)maxに対応する輝度上限値Tbmaxと、対象物温度の下限値F(i)minに対応する輝度下限値Tbminを求める。ステップS53において、輝度上限値Tbmaxと輝度下限値Tbminの範囲内の輝度値を有する領域が、第1のグレースケール画像において特定される。こうして特定された領域(対象物領域と呼ぶ)は、抽出する所望の対象物が存在しうる位置を表している。なお、図4に示す第1の実施例では、ステップS23において第1のグレースケール画像の2値化が行われたが、この第2の実施例では、2値化する必要は必ずしもない。しかしながら、2値化を行うようにしてもよい。
ここで、図11を参照すると、(b)は、ステップS53で特定された対象物領域401を示す。この実施例では、ヘッドライト221が存在する領域として、対象物領域401が特定されている。なお、この図では、わかりやすくするため、対象物領域401を四角形で描いているが、当然ながら、四角形という形状には限定されない。
図10に戻り、ステップS54において、図9のようなテーブルを参照し、抽出する所望の対象物についてのテンプレートを読み出す。この実施例では、ヘッドライトについて記憶されているテンプレートを読み出す。
ステップS61において、第2の画像内において、ステップS53で特定された対象物領域401に対応する位置にある領域に対し、読み出したテンプレートでパターンマッチングを行う。図11を再び参照すると、(d)の第2の画像内に、第1のグレースケール画像において特定された対象物領域401に対応する領域403が示されている(すなわち、領域401の第1のグレースケール画像内の位置と、領域403の第2の画像内の位置とは同じである)。図11の(e)に示すように、この領域403に対し、読み出したテンプレートを重ねて2つの画像の相関を調べることにより、パターンマッチングを行う。
パターンマッチングには、周知の任意の手法を用いることができる。たとえば、テンプレートの画素数をP×Qとし、各画素の輝度値をIr(p,q)で表す。該テンプレートを領域403上に重ねながら移動し、各位置において、以下の式に示すように、テンプレートの各画素の輝度値Ir(p,q)と、領域403の対応する画素の輝度値Io(p,q)との差の絶対値の和Eを算出する。和Eは、テンプレートと領域403の2つの画像の相関の程度を表している。和Eが低いほど、相関が高いことを示す。最も低い値の和Eが算出された位置が、テンプレートと領域403が最も一致した位置である。この位置における和Eの値が、所定の閾値以下であれば、領域403内の画像は、テンプレートの対象物を示すと判定することができる。
たとえば、この実施例において、ヘッドライトのテンプレートは、すべての画素が白の輝度値を有するよう作成されることができる。領域403に対して該テンプレートをマッチングさせることにより、図11(e)に示すような、領域403内の白の領域部分のみが対象物として抽出され、これにより、該抽出された対象物は、ヘッドライトとして認識される。
上記第1の実施例を参照して述べた、第1のグレースケール画像および第2のグレースケール画像の両方を用いることの効果は、第2の実施例においても同様に得られる。すなわち、図11にも示されるように、第1のグレースケール画像から対象物領域401を特定することにより、ヘッドライト221が存在する領域を、他の対象物から分離して抽出することができるが、該対象物領域401には、ヘッドライト221の温度周辺の温度を有する背景部分が含まれるおそれがある。他方、第2のグレースケール画像の2値化により生成される第2の画像では、個々の高温対象物が、その本来の形状を呈した状態で、背景から分離して抽出されている。したがって、対象物領域410と第2の画像の両方を用いることにより、ヘッドライト221以外の高温対象物が除去されると共に、ヘッドライト221周辺の温度を有する背景部分が除去され、よって、ヘッドライト221のみを、より良好な精度で抽出することができる。
この実施例では、所望の対象物がヘッドライトである場合を説明したが、複数の種類の所望の対象物について、上記処理をそれぞれ同時に実行することができる。たとえば、ステップS51およびS52において、対象物の種類のそれぞれについて、対象物温度の上限値および下限値を求め、これらに対応する輝度上限値および下限値を求める。ステップS53およびS54において、該対象物の種類のそれぞれについて、対象物領域を特定し、該対象物のテンプレートを読み出す。ステップS61において、対象物の種類毎に、特定された対象物領域とテンプレートのパターンマッチングを行う。ここで、対象物Aについて対象物領域Arが特定され、対象物Bについて対象物領域Brが特定されたならば、対象物AのテンプレートAtは、該対象物領域Arにのみ適用され、対象物BについてのテンプレートBtは、該対象物領域Brにのみ適用される点に注意されたい。すなわち、この実施例によれば、特定の種類の対象物のテンプレートを、特定の限られた領域にのみ適用すればよいので、処理の効率化を図ることができる。
従来のパターンマッチングは、前述したように、第2の画像において抽出されているすべての対象物に対し、すべてのテンプレートを、総当たりでマッチングさせることにより、抽出されている対象物のそれぞれについて、人間か、動物か、自動車か、等の判定を行っていた。抽出されている対象物の数が多いほど、処理の負荷が増大していた。それに対し、本願のこの実施例によれば、抽出すべき所望の対象物の種類毎に、該対象物が撮像されている位置が第1のグレースケール画像において特定されているので、第2の画像において、該特定された部分のみに対してパターンマッチングを行えばよい。したがって、対象物の抽出および認識を、より良好な効率で実現することができる。
上記第2の実施例では、第2の画像内の領域403(図11(d))に対し、テンプレートを用いたパターンマッチングを行うことにより、領域403内の対象物の形状判定を行っている。代替的に、パターンマッチングに代えて、またはパターンマッチングに加えて、他の手法による形状判定を領域403に対して行うようにしてもよい。形状判定に関する手法は、様々なものが提案されており、これらのうち任意のものを用いることができる。たとえば、抽出すべき所望の対象物の形状に関する特徴(円形なのか四角形なのか、幅および高さの大きさ、エッジの向き等)が、該領域403内に存在するかどうかを調べることにより、該領域403内に所望の対象物が存在するかどうかを判断することができる。一例として、特開2006−185434号公報には人工構造物に関する形状判定が開示され、特開2007−310705号公報には動物に関する形状判定が開示されている。
なお、上記第1の実施例と第2の実施例とを組み合わせて用いてもよい。たとえば、或る所望の対象物については第1の実施例を用いて、他の所望の対象物については第2の実施例を用いるというように、対象物毎に、該対象物を抽出する手法を第1および第2の実施例の間で異ならせてもよい。
以上のように、この発明の特定の実施形態について説明したが、本願発明は、これら実施形態に限定されるものではない。