以下、本発明の具体的な実施形態の説明に先立って、本発明の基本的な原理を説明する。まず、感光剤上においてS偏光状態で結像する場合、パターンのピッチが小さくなるのに応じて電場エネルギー密度(以下、略して「光電場強度」という)が大きくなることを説明する。ここで、S偏光状態とは、たとえば感光剤の表面に対する法線と感光剤の表面に入射する光線とを含む面(すなわち入射面)に垂直な方向にのみ電場の方向を有する直線偏光状態である。ちなみに、P偏光状態とは、入射面に平行な方向にのみ電場の方向を有する直線偏光状態である。なお、感光剤は光電場強度に応じて感光過程が進行する特性を有するものとする。また、マスクパターンの像は、厳密に言うと、ウェハ等の基板上にて薄く塗布された感光剤上に結像されるのではなくて感光剤内部に結像されることになるが、本発明では、マスクパターンの像が感光剤上に形成または結像すると呼ぶこととする。
図1(a)において、物体(被投影原版)として、理想的な回折格子26を考える。回折格子26は±1次回折光のみを発生する位相差πの位相回折格子であり、その反射率は零であるものとする。回折格子26を平行光22で照明すると、回折光23Aおよび23Bが出射する。これらの回折光23A,23Bが光軸AXとなす角度は±θであるものとする。回折格子26に入射するのは平行光22のみであり、出射するのは回折光23A,23Bのみであるから、これらの光の間でエネルギーが保存されなければならない。つまり、電磁場のエネルギー保存であるから、物体面上におけるポインティングベクトルSの光軸方向成分Szの時間平均が入射光と出射光とで等しくなる必要がある。
いま、入射平行光22のポインティングベクトルSの光軸方向成分Szを1とする。この場合、必然的に回折光23Aの光軸方向成分Szは1/2となる。ここで、回折光23Aの電場振幅をaとすると、回折光23Aの進行方向へのポインティングベクトルSの大きさ|S|は、次の式(1)で与えられる。式(1)において、nは媒質の屈折率であり、εは真空の誘電率であり、μは真空の透磁率である。
|S|=(n/2)(ε/μ)1/2|a|2 (1)
式(1)の表現は煩雑であるため、簡単のために(n/2)(ε/μ)1/2の定数を無視し、回折光23Aの進行方向へのポインティングベクトルSの大きさ|S|が次の式(2)で表されるものとして、本発明の説明を進める。
|S|=|a|2 (2)
入射平行光22のポインティングベクトルSの光軸方向成分Szの大きさ|Sz|は、回折光23Aの進行方向へのポインティングベクトルSの大きさ|S|にcosθを乗じたものであるから、次の式(3)で表される
|Sz|=|a|2 cosθ (3)
上述したように、回折光23Aの光軸方向成分Szは1/2となる。そして、式(3)で表される光軸方向成分Szの大きさ|Sz|が1/2になるためには、回折光23Aの電場振幅aについて次の式(4)に示す関係が成立することになる。
|a|={1/(2cosθ)}1/2 (4)
回折光23Bの電場振幅aについても同様である。この電場振幅aをもつ回折光23A,23Bは、倍率mの投影光学系24を通過し、不図示の基板に塗布された感光剤25上で再び干渉して周期パターンを形成する。感光剤25上に形成される周期パターンの電場強度分布Iは、回折光23A,23BがS偏光である(回折光23A,23Bの電場成分が図1の紙面に垂直である)ため、入射角度による減衰を受けない。
図1(b)に示す如く、回折光23A,23Bが感光剤25の内部で光軸AXとなす角度をθ’とすると、感光剤25上での回折光23Aおよび23Bの複素振幅EAおよびEBは、次の式(5)および(6)でそれぞれ表される。式(5)および(6)において、振幅bは投影光学系24の倍率mによる回折波の幅の変化によってもたらされるものである。また、kは波数(=2π/λ)であり、xは感光剤25上で図1の紙面に平行な位置座標である。
EA=b・exp[ikx sinθ’] (5)
EB=b・exp[−ikx sinθ’] (6)
ここで、図1を参照して明らかなように、像側における(感光剤25上における)回折光の幅と物体側における(回折格子26上における)回折光の幅との比Fは、次の式(7)で表される。
F=(sinθ/sinθ’)(cosθ’/cosθ) (7)
倍率mが1よりも小さい投影光学系24を用いる縮小投影においては、像側の回折光の幅が物体側の回折光の幅よりも小さいのでFは1よりも小さくなるが、式(7)の右辺のうち(sinθ/sinθ’)の部分は投影光学系24の倍率mそのものであり、縮小投影によって光電場強度Iが強くなるという当然の効果である。
物体側よりも像側において回折光の幅が狭くなった分に比例して回折波の強度が増すから、回折波の幅の変化によってもたらされる振幅bは、Fの値を用いて次の式(8)で表される。また、干渉による電場Eおよび光電場強度Iは、次の式(9)および(10)でそれぞれ表される。
|b|2=(1/F)|a|2 (8)
E=EA+EB (9)
I=|E|2 (10)
こうして、光電場強度Iは、次の式(11)で表される。また、式(4)に示される電場振幅aおよび式(7)に示される比Fを式(11)に代入して、光電場強度Iは次の式(12)で表される。
I=|b|2{1+cos(2kxsinθ’)} (11)
I=(sinθ’/sinθ){1/(2cosθ’)}{1+cos (2kxsinθ’)} (12)
光電場強度Iを表す式(12)のうち(sinθ’/sinθ)は、投影光学系24の倍率mの逆数に他ならないから、θ,θ’に関わらず一定である。すなわち、(sinθ’/sinθ)=1/mの関係を用いて、式(12)は次の式(13)に示すように変形される。
I=(1/m){1/(2cosθ’)}{1+cos(2kxsinθ’)} (13)
こうして、最終的に得られた式(13)を参照すると、光電場強度Iの振幅は{1/(2cosθ’)}に比例することがわかる。つまり、感光剤25上に形成される周期パターンの強度振幅は、感光剤25の内部における回折光23A,23Bと光軸AXとがなす角度θ’に依存する。以上の説明は回折格子26からの回折光が2本しか存在しない場合を前提にしているが、それ以外の場合にも光軸AXとなす角度の大きい回折光の感光剤25への寄与が大きくなることに変わりはない。
以上の考察より、たとえば被投影原版にピッチの異なる複数のパターンが混在するように形成されている場合、被投影原版上のパターン領域の全体を均一な光強度分布で照明して投影露光すると、感光剤上においてS偏光状態で結像するパターンの光電場強度がピッチに依存して異なるため、具体的にはピッチが小さいパターンの方が感光剤上での光電場強度が大きくなるため、ピッチが比較的小さいパターンの結像領域では露光オーバー(露光量の過剰)の傾向になることがわかる。
換言すれば、感光剤上においてS偏光状態で結像するピッチの異なる複数のパターンに対してほぼ適切な露光量を確保するには、パターンのピッチが小さくなるのに応じて感光剤上の結像領域に達する光の強度(一般的には露光量=光強度×時間)を相対的に減少させることが必要である。
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図2は、本発明の実施形態にかかる露光装置の構成を概略的に示す図である。図2において、感光性基板であるウェハWの法線方向に沿ってZ軸を、ウェハWの面内において図2の紙面に平行な方向にY軸を、ウェハWの面内において図2の紙面に垂直な方向にX軸をそれぞれ設定している。図2を参照すると、本実施形態の露光装置は、露光光(照明光)を供給するための光源1を備えている。
光源1として、たとえば248nmの波長の光を供給するKrFエキシマレーザ光源や193nmの波長の光を供給するArFエキシマレーザ光源などを用いることができる。光源1からZ方向に沿って射出されたほぼ平行な光束は、X方向に沿って細長く延びた矩形状の断面を有し、一対のレンズ2aおよび2bからなるビームエキスパンダー2に入射する。各レンズ2aおよび2bは、図2の紙面内(YZ平面内)において負の屈折力および正の屈折力をそれぞれ有する。したがって、ビームエキスパンダー2に入射した光束は、図2の紙面内において拡大され、所定の矩形状の断面を有する光束に整形される。
なお、説明を簡単にするために、図2において、光源1からは、Y方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光光が供給されるものとする。整形光学系としてのビームエキスパンダー2を介したほぼ平行な光束は、折り曲げミラー3でY方向に偏向された後、偏光状態切換部4及び照明条件に応じて切り換え可能に構成される回折光学素子5を介してアフォーカルレンズ6に入射する。ここで、偏光状態切換部4は、回転調整可能に設けられた1/2波長板4a及び照明光路に対して挿脱可能に設けられたデポラライザ4bを有し、デポラライザ4bは、1以上の水晶等の複屈折性楔プリズムで構成され、不図示の駆動系を介して偏光照明時には照明光路から退避し、非偏光照明時には照明光路に設定される。
なお、デポラライザ4bを照明光路に配置して、非偏光状態で輪帯照明、2極や4極等の多極照明、通常照明(円形照明)等の任意の照明条件のもとでマスクMのパターンを感光性基板へ投影露光することができるが、以下においては、デポラライザ4bを照明光路から退避させて、偏光照明を行うことを前提とした例の説明を行う。アフォーカルレンズ6は、その前側焦点位置と回折光学素子5の位置とがほぼ一致し且つその後側焦点位置と図中破線で示す所定面7の位置とがほぼ一致するように設定されたアフォーカル系(無焦点光学系)である。
一般に、回折光学素子は、基板に露光光(照明光)の波長程度のピッチを有する段差を形成することによって構成され、入射ビームを所望の角度に回折する作用を有する。ここで、輪帯照明用の回折光学素子、4極明用の回折光学素子、2極照明用の回折光学素子、および通常照明用(円形照明用)の回折光学素子を有する不図示の照明切換装置を介して、所望の回折光学素子のうちの1つが回折光学素子5として選択的に照明光路内に設定される。例えば、回折光学素子5として輪帯照明用の回折光学素子が照明光路に設定された場合には、矩形断面を有する平行光束は輪帯照明用の回折光学素子の回折作用により、そのファーフィールド(またはフランホーファー回折領域)に輪帯状の光強度分布が形成される。
また、回折光学素子5として4極明用の回折光学素子が照明光路に設定された場合には、矩形断面を有する平行光束は4極照明用の回折光学素子の回折作用により、そのファーフィールド(またはフランホーファー回折領域)に4極状の光強度分布が形成される。さらに、回折光学素子5として2極明用の回折光学素子が照明光路に設定された場合には、矩形断面を有する平行光束は2極照明用の回折光学素子の回折作用により、そのファーフィールド(またはフランホーファー回折領域)に2極状の光強度分布が形成される。このように、回折光学素子の選択に応じて所望の形状の照明に変更することができる。以下においては、回折光学素子5として輪帯照明用の回折光学素子が照明光路に設定されているものとして説明する。
輪帯照明用の光束変換素子としての回折光学素子5に入射したほぼ平行光束は、アフォーカルレンズ6の瞳面に輪帯状の光強度分布を形成した後、ほぼ平行光束となってアフォーカルレンズ6から射出される。なお、アフォーカルレンズ6の前側レンズ群6aと後側レンズ群6bとの間の光路中においてその瞳面またはその近傍には、円錐アキシコン系8が配置されているが、その詳細な構成および作用については後述する。以下、説明を簡単にするために、円錐アキシコン系8の作用を無視して、基本的な構成および作用を説明する。
アフォーカルレンズ6を介した光束は、σ値可変用のズームレンズ9および偏光変換素子10を介して、オプティカルインテグレータとしてのマイクロフライアイレンズ(またはフライアイレンズ)11に入射する。偏光変換素子10の構成および作用については後述する。マイクロフライアイレンズ11は、縦横に且つ稠密に配列された多数の正屈折力を有する微小レンズからなる光学素子である。一般に、マイクロフライアイレンズは、たとえば平行平面板にエッチング処理を施して微小レンズ群を形成することによって構成される。
ここで、マイクロフライアイレンズを構成する各微小レンズは、フライアイレンズを構成する各レンズエレメントよりも微小である。また、マイクロフライアイレンズは、互いに隔絶されたレンズエレメントからなるフライアイレンズとは異なり、多数の微小レンズ(微小屈折面)が互いに隔絶されることなく一体的に形成されている。しかしながら、正屈折力を有するレンズ要素が縦横に配置されている点でマイクロフライアイレンズはフライアイレンズと同じ波面分割型のオプティカルインテグレータである。
所定面7の位置はズームレンズ9の前側焦点位置の近傍に配置され、マイクロフライアイレンズ11の入射面はズームレンズ9の後側焦点位置の近傍に配置されている。換言すると、ズームレンズ9は、所定面7とマイクロフライアイレンズ11の入射面とを実質的にフーリエ変換の関係に配置し、ひいてはアフォーカルレンズ6の瞳面とマイクロフライアイレンズ11の入射面とを光学的にほぼ共役に配置している。
したがって、マイクロフライアイレンズ11の入射面上には、アフォーカルレンズ6の瞳面と同様に、たとえば光軸AXを中心とした輪帯状の照野が形成される。この輪帯状の照野の全体形状は、ズームレンズ9の焦点距離に依存して相似的に変化する。マイクロフライアイレンズ11を構成する各微小レンズは、被投影原版としてのマスクM上において形成すべき照野の形状(ひいてはウェハW上において形成すべき露光領域の形状)と相似な矩形状の断面を有する。
マイクロフライアイレンズ11に入射した光束は多数の微小レンズにより二次元的に分割され、その後側焦点面またはその近傍(ひいては照明瞳)には、入射光束によって形成される照野とほぼ同じ光強度分布を有する二次光源、すなわち光軸AXを中心とした輪帯状の実質的な面光源からなる二次光源が形成される。マイクロフライアイレンズ11の後側焦点面またはその近傍に形成された二次光源からの光束は、ビームスプリッター12a、コンデンサー光学系13および補正フィルター20を介した後、マスクブラインド14を重畳的に照明する。
こうして、照明視野絞りとしてのマスクブラインド14には、マイクロフライアイレンズ11を構成する各微小レンズの形状と焦点距離とに応じた矩形状の照野が形成される。なお、ビームスプリッター12aを内蔵する偏光および露光量をモニターする検出系12は、マイクロフライアイレンズ11とコンデンサー光学系13との間に配置されている。また、補正フィルター20の構成および作用については後述する。マスクブラインド14の矩形状の開口部(光透過部)を介した光束は、結像光学系15の集光作用を受けた後、所定のパターンが形成されたマスクMを重畳的に照明する。
すなわち、結像光学系15は、マスクブラインド14の矩形状開口部の像をマスクM上に形成することになる。マスクMのパターンを透過した光束は、投影光学系PLを介して、感光剤が塗布された基板であるウェハ(感光性基板)W上にマスクパターンの像を形成する。こうして、投影光学系PLの光軸AXと直交する平面(XY平面)内においてウェハWを二次元的に駆動制御しながら一括露光またはスキャン露光を行うことにより、ウェハWの各露光領域にはマスクMのパターンが逐次露光される。
次に、アキシコン系8について説明する。この円錐アキシコン系8は、光源側から順に、光源側に平面を向け且つマスク側に凹円錐状の屈折面を向けた第1プリズム部材8aと、マスク側に平面を向け且つ光源側に凸円錐状の屈折面を向けた第2プリズム部材8bとから構成されている。そして、第1プリズム部材8aの凹円錐状の屈折面と第2プリズム部材8bの凸円錐状の屈折面とは、互いに当接可能なように相補的に形成されている。また、第1プリズム部材8aおよび第2プリズム部材8bのうち少なくとも一方の部材が光軸AXに沿って移動可能に構成され、第1プリズム部材8aの凹円錐状の屈折面と第2プリズム部材8bの凸円錐状の屈折面との間隔が可変に構成されている。
ここで、第1プリズム部材8aの凹円錐状屈折面と第2プリズム部材8bの凸円錐状屈折面とが互いに当接している状態では、円錐アキシコン系8は平行平面板として機能し、形成される輪帯状の二次光源に及ぼす影響はない。しかしながら、第1プリズム部材8aの凹円錐状屈折面と第2プリズム部材8bの凸円錐状屈折面とを離間させると、円錐アキシコン系8は、いわゆるビームエキスパンダーとして機能する。したがって、円錐アキシコン系8の間隔の変化に伴って、所定面7への入射光束の角度は変化する。
図3は、輪帯状の二次光源に対する円錐アキシコン系の作用を説明する図である。図3を参照すると、円錐アキシコン系8の間隔が零で且つズームレンズ9の焦点距離が最小値に設定された状態(以下、「標準状態」という)で形成された最も小さい輪帯状の二次光源30aが、円錐アキシコン系8の間隔を零から所定の値まで拡大させることにより、その幅(外径と内径との差の1/2:図中矢印で示す)が変化することなく、その外径および内径がともに拡大された輪帯状の二次光源30bに変化する。換言すると、円錐アキシコン系8の作用により、輪帯状の二次光源の幅が変化することなく、その輪帯比(内径/外径)および大きさ(外径)がともに変化する。
図4は、輪帯状の二次光源に対するズームレンズの作用を説明する図である。図4を参照すると、標準状態で形成された輪帯状の二次光源30aが、ズームレンズ9の焦点距離を最小値から所定の値へ拡大させることにより、その全体形状が相似的に拡大された輪帯状の二次光源30cに変化する。換言すると、ズームレンズ9の作用により、輪帯状の二次光源の輪帯比が変化することなく、その幅および大きさ(外径)がともに変化する。
なお、輪帯照明用の回折光学素子5に代えて、4極照明用の回折光学素子(不図示)を照明光路中に設定することによって、4極照明を行うことができる。4極照明用の回折光学素子は、矩形状の断面を有する平行光束が入射した場合に、そのファーフィールドに4極状の光強度分布を形成する機能を有する。したがって、4極照明用の回折光学素子を介した光束は、マイクロフライアイレンズ11の入射面に、たとえば光軸AXを中心とした4つの円形状の照野からなる4極状の照野を形成する。その結果、マイクロフライアイレンズ11の後側焦点面またはその近傍にも、その入射面に形成された照野と同じ4極状の二次光源が形成される。
また、輪帯照明用の回折光学素子5に代えて、円形照明用の回折光学素子(不図示)を照明光路中に設定することによって、通常の円形照明を行うことができる。円形照明用の回折光学素子は、矩形状の断面を有する平行光束が入射した場合に、ファーフィールドに円形状の光強度分布を形成する機能を有する。したがって、円形照明用の回折光学素子を介した光束は、マイクロフライアイレンズ11の入射面に、たとえば光軸AXを中心とした円形状の照野からなる4極状の照野を形成する。その結果、マイクロフライアイレンズ11の後側焦点面またはその近傍にも、その入射面に形成された照野と同じ円形状の二次光源が形成される。
さらに、輪帯照明用の回折光学素子5に代えて、他の複数極照明用の回折光学素子(不図示)を照明光路中に設定することによって、様々な複数極照明(2極照明、8極照明など)を行うことができる。同様に、輪帯照明用の回折光学素子5に代えて、適当な特性を有する回折光学素子(不図示)を照明光路中に設定することによって、様々な形態の変形照明を行うことができる。
次に、本実施形態の一例としての周方向偏光輪帯照明の詳細について説明する。まず、偏光照明の設定としては、図2の偏光状態切換部4のデポラライザ4bは不図示の駆動系を介して照明光路から退避し、1/2波長板4aは、Z方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光光が回折光学素子5に導かれるように、不図示の駆動系を介して回転調整されている。
次に、輪帯照明の設定としては、不図示の照明切換装置を介して、回折光学素子5として輪帯照明用の回折光学素子のうちの1つが照明光路内に設定される。同時に、不図示の駆動系を介して円錐アキシコン系8内のプリズム(8a,8b)を可動させて瞳での適切な輪帯比が設定されると共に、σ値可変用のズームレンズ9による瞳での適切な光束径が設定される。以上の偏光照明の設定及び輪帯照明の設定により、偏光変換素子10には、輪帯形状の光束断面形状を有すると共に、Z方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光光が入射する。
図5は、図2の偏光変換素子の構成を概略的に示す図である。また、図6は、水晶の旋光性について説明する図である。また、図7は、偏光変換素子の作用により周方向偏光状態に設定された輪帯状の二次光源を概略的に示す図である。本実施形態にかかる偏光変換素子10は、マイクロフライアイレンズ11の直前に、すなわち照明光学装置(1〜PL)の瞳またはその近傍に配置されている。したがって、輪帯照明の場合、偏光変換素子10には光軸AXを中心としたほぼ輪帯状の断面を有する光束が入射することになる。
図5を参照すると、偏光変換素子10は、全体として光軸AXを中心とした輪帯状の有効領域を有し、この輪帯状の有効領域は光軸AXを中心とした円周方向に等分割された8つの扇形形状の基本素子により構成されている。これらの8つの基本素子において、光軸AXを挟んで対向する一対の基本素子は互いに同じ特性を有する。すなわち、8つの基本素子は、光の透過方向(Y方向)に沿った厚さ(光軸方向の長さ)が互いに異なる4種類の基本素子10A〜10Dを2個づつ含んでいる。
具体的には、第1基本素子10Aの厚さが最も大きく、第4基本素子10Dの厚さが最も小さく、第2基本素子10Bの厚さは第3基本素子10Cの厚さよりも大きく設定されている。その結果、偏光変換素子10の一方の面(たとえば入射面)は平面状であるが、他方の面(たとえば射出面)は各基本素子10A〜10Dの厚さの違いにより凹凸状になっている。なお、偏光変換素子10の双方の面(入射面および射出面)をともに凹凸状に形成することもできる。
また、本実施形態では、各基本素子10A〜10Dが旋光性を有する光学材料である水晶により構成され、各基本素子10A〜10Dの結晶光学軸が光軸AXとほぼ一致するように設定されている。以下、図6を参照して、水晶の旋光性について簡単に説明する。図6を参照すると、厚さdの水晶からなる平行平面板状の光学部材100が、その結晶光学軸と光軸AXとが一致するように配置されている。この場合、光学部材100の旋光性により、入射した直線偏光の偏光方向が光軸AX廻りにθだけ回転した状態で射出される。
このとき、光学部材100の旋光性による偏光方向の回転角(旋光角度)θは、光学部材100の厚さdと水晶の旋光能ρとにより、次の式(b)で表わされる。
θ=d・ρ (b)
一般に、水晶の旋光能ρは、波長依存性(使用光の波長に依存して旋光能の値が異なる性質:旋光分散)があり、具体的には使用光の波長が短くなると大きくなる傾向がある。「応用光学II」の第167頁の記述によれば、250.3nmの波長を有する光に対する水晶の旋光能ρは、153.9度/mmである。
本実施形態において、第1基本素子10Aは、Z方向に偏光方向を有する直線偏光の光が入射した場合、Z方向をY軸廻りに+180度回転させた方向すなわちZ方向に偏光方向を有する直線偏光の光を射出するように厚さdAが設定されている。したがって、この場合、図7に示す輪帯状の二次光源31のうち、一対の第1基本素子10Aの旋光作用を受けた光束が形成する一対の円弧状領域31Aを通過する光束の偏光方向はZ方向になる。
第2基本素子10Bは、Z方向に偏光方向を有する直線偏光の光が入射した場合、Z方向をY軸廻りに+135度回転させた方向すなわちZ方向をY軸廻りに−45度回転させた方向に偏光方向を有する直線偏光の光を射出するように厚さdBが設定されている。したがって、この場合、図7に示す輪帯状の二次光源31のうち、一対の第2基本素子10Bの旋光作用を受けた光束が形成する一対の円弧状領域31Bを通過する光束の偏光方向はZ方向をY軸廻りに−45度回転させた方向になる。
第3基本素子10Cは、Z方向に偏光方向を有する直線偏光の光が入射した場合、Z方向をY軸廻りに+90度回転させた方向すなわちX方向に偏光方向を有する直線偏光の光を射出するように厚さdCが設定されている。したがって、この場合、図7に示す輪帯状の二次光源31のうち、一対の第3基本素子10Cの旋光作用を受けた光束が形成する一対の円弧状領域31Cを通過する光束の偏光方向はX方向になる。
第4基本素子10Dは、Z方向に偏光方向を有する直線偏光の光が入射した場合、Z方向をY軸廻りに+45度回転させた方向に偏光方向を有する直線偏光の光を射出するように厚さdDが設定されている。したがって、この場合、図7に示す輪帯状の二次光源31のうち、一対の第4基本素子10Dの旋光作用を受けた光束が形成する一対の円弧状領域31Dを通過する光束の偏光方向はZ方向をY軸廻りに+45度回転させた方向になる。
なお、別々に形成された8つの基本素子を組み合わせて偏光変換素子10を得ることもできるし、あるいは平行平面板状の水晶基板に所要の凹凸形状(段差)を形成することにより偏光変換素子10を得ることもできる。偏光変換素子10の有効領域の径方向の大きさの1/3以上の大きさを有し且つ旋光性を有しない円形状の中央領域10Eが設けられている。ここで、中央領域10Eは、たとえば石英のように旋光性を有しない光学材料により形成されていてもよいし、単純に円形状の開口であってもよい。ただし、中央領域10Eは偏光変換素子10に必須の要素ではない。
本実施形態では、周方向偏光輪帯照明(輪帯状の二次光源を通過する光束が周方向偏光状態に設定された変形照明)に際して、Z方向に偏光方向を有する直線偏光の光を、偏光光生成手段としての偏光変換素子10に入射させる。その結果、マイクロフライアイレンズ11の後側焦点面またはその近傍には、図7に示すように、輪帯状の二次光源(輪帯状の照明瞳分布)31が形成され、この輪帯状の二次光源31を通過する光束が周方向偏光状態に設定される。周方向偏光状態では、輪帯状の二次光源31を構成する円弧状領域31A〜31Dをそれぞれ通過する光束は、各円弧状領域31A〜31Dの円周方向に沿った中心位置における光軸AXを中心とする円の接線方向とほぼ一致する偏光方向を有する直線偏光状態になる。
周方向偏光状態の輪帯状の照明瞳分布に基づく周方向偏光輪帯照明(一般には周方向偏光状態の照明瞳分布に基づく周方向偏光照明)では、最終的な被照射面としてのウェハWに照射される光がS偏光を主成分とする偏光状態になる。ここで、S偏光とは、入射面に対して垂直な方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光(入射面に垂直な方向に電気ベクトルが振動している偏光)のことである。ただし、入射面とは、光が媒質の境界面(被照射面:ウェハWの表面)に達したときに、その点での境界面の法線と光の入射方向とを含む面として定義される。その結果、周方向偏光輪帯照明では、投影光学系の光学性能(焦点深度など)の向上を図ることができ、ウェハ(感光性基板)上において高いコントラストのマスクパターン像を得ることができる。
しかしながら、前述したように、マスク(被投影原版)Mにピッチの異なる複数のパターンが混在するように形成されている場合、マスクM上のパターン領域の全体を均一な光強度分布で照明して投影露光すると、感光剤上においてS偏光状態で結像するパターン(本実施形態において周方向偏光輪帯照明を行う場合にはマスクM上のすべてのパターン)のうち、ピッチが小さいパターンの方が感光剤上での光電場強度が大きくなるため、ピッチが比較的小さいパターンの結像領域では露光オーバー(露光量の過剰)の傾向になる。そこで、本実施形態では、パターンのピッチが小さくなるのに応じて感光剤上の結像領域に達する光の強度を相対的に減少させることにより、感光剤上においてS偏光状態で結像するピッチの異なる複数のパターンに対してほぼ適切な露光量を確保する。
具体的に、本実施形態では、マスクMと光学的にほぼ共役に配置されたマスクブラインド14の近傍に、所定の光透過率分布を有する補正フィルター20を配置している。この補正フィルター20に形成された光透過率分布は、マスクパターンのピッチが小さくなるのに応じてマスクM上のパターン領域に入射する光の強度を相対的に減少させるように、ひいては結像パターンのピッチが小さくなるのに応じて感光剤上の結像領域に達する光の強度を相対的に減少させるように規定されている。したがって、補正フィルター20は、マスクMの交換に際して(場合によっては照明条件の変更に際して)、必要に応じて、光透過率分布の異なる他の補正フィルターと交換することになる。
なお、補正フィルター20の光透過率分布は、周知の不透明物質の蒸着または塗布により、具体的には例えばクロムドットの濃度パターンなどにより形成することができる。あるいは、微細な位相(段差)構造による0次回折光の強度制御により、具体的には例えば透過型の位相格子のような回折格子などを用いて、補正フィルター20に光透過率分布を形成することもできる。さらに、補正フィルター20に対する光透過率分布の付与については、本発明の範囲内において様々な変形例が可能である。
こうして、補正フィルター20は、パターンが感光剤上において結像する領域に達する光強度(一般には光量)をパターンのピッチ(一般にはパターンの特性)に応じて制御するための光量制御手段を構成している。換言すれば、補正フィルター20は、感光剤に至る偏光光の少なくとも一部の光量をマスク(被投影原版)Mのパターンの特性に応じて制御する制御手段を構成している。その結果、本実施形態では、パターンのピッチが小さくなるのに応じて感光剤上の結像領域に達する光の強度を相対的に減少させる補正フィルター20の作用により、感光剤上においてS偏光状態で結像するピッチの異なる複数のパターンに対してほぼ適切な露光量を確保することができ、ひいては微細なパターンを忠実に且つ高精度に投影露光することができる。
なお、上述の実施形態では、周方向偏光輪帯照明(一般には周方向偏光照明)によりマスクM上のすべてのパターンが感光剤上においてほぼS偏光状態で結像する場合を想定して本発明を適用している。しかしながら、これに限定されることなく、たとえばマスクM上のピッチの異なるパターンのうち、ピッチの比較的小さいパターンに着目し、そのパターンのピッチ方向とほぼ直交する方向にのみ電場の方向を有するほぼ直線偏光状態の光でマスクMを照明する場合にも、同様に本発明を適用することができる。
また、上述の実施形態では、マスクMと光学的にほぼ共役に配置されたマスクブラインド14の近傍に補正フィルター20を配置している。しかしながら、これに限定されることなく、一般的に照明系(1〜15)の光路中においてマスクMと光学的にほぼ共役な位置に補正フィルター20と同様の補正フィルターを配置することにより、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。あるいは、図8(a)に示すように、マスクMの光源側に近接して補正フィルター20と同様の補正フィルター20aを配置する変形例においても、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
あるいは、図8(b)に示すように、たとえばマスクMのパターン面90(ウェハ側の光学面)とは反対側の光学面(光源側の光学面)に、補正フィルター20の光透過率分布に対応する光透過率分布91を形成する変形例においても、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。一般的には、マスク(被投影原版)M上のパターンのうちの少なくとも一部のパターンに対応する光学面領域に、そのパターンの特性(ピッチ)に応じて変化する透過率分布(反射型の被投影原版の場合には反射率分布)を形成することにより、本発明の効果を得ることができる。
また、上述の実施形態および図8(a)に示す変形例では、マスクMよりも光源側の光路中に補正フィルター20,20aを配置している。しかしながら、これに限定されることなく、図8(c)に示すように投影光学系PL中の瞳位置またはその近傍に、光量制御手段として所定の光透過率分布を有する補正フィルター20bを配置する変形例も可能である。ただし、図8(c)に示す変形例では、ピッチが小さいパターンからの回折光ほど投影光学系PL中の瞳位置において光軸(中心)AXから離れた位置を通過するので、補正フィルター20bは中心よりも周辺の方が光透過率の低い分布を有する。
ここで、補正フィルター20bの光透過率分布は、例えばクロムドットの濃度パターンにより形成することができる。このように、補正フィルター20bの光透過率分布は、上述の実施形態および図8(a)や(b)に示す変形例とは異なり、マスクM上のパターンの特性(ピッチ)に依存しない。したがって、補正フィルター20bは、マスクMの交換に際して交換する必要はなく、投影光学系PL中の瞳位置またはその近傍に固定的に配置される。
このように、理論上は、マスクM上のパターンの特性(ピッチ)に依存することなく規定された光透過率分布を有する補正フィルターを光量制御手段として投影光学系PL中の瞳位置またはその近傍に固定的に配置する手法が、最も正確であり理にかなっている。しかしながら、マスクM上のパターンが決まれば、S偏光状態での結像における光電場強度のパターンピッチによる増強度を計算により簡単に予測することができるので、この計算結果に基づいて上述の実施形態および図8(a)や(b)に示す変形例における所要の光透過率分布を容易に求めることができる。
なお、マスクにおいて様々な形状やピッチを持つパターンが形成されている場合には、図2及び図8(a)に示す補正フィルター(20,20a)や図8(b)に示す補正フィルター部91は、光量制御が必要なピッチを持つパターン部分のみの光量を制御するように対応する領域(局所的な領域)に所望の光透過率分布を持つように構成されることが好ましい。
以上においては、偏光状態切換部4にて偏光照明状態を設定し、輪帯照明用の回折光学素子5、円錐アキシコン系8、σ値可変用のズームレンズ9、及び偏光変換素子10を用いて周方向偏光輪帯照明を行う例について述べたが、本発明はこれに限ることはない。例えば、偏光状態切換部4にて偏光照明状態の設定を維持しつつ、不図示の駆動系を介して偏光変換素子10を光路外へ退避させるとともに、不図示の駆動系を介して2極照明用の回折光学素子5を照明光路に設定することで、偏光2極照明を行うようにしてもよい。
このとき、図2に示す如く、Z方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光光が2極照明用の回折光学素子5へ入射する場合には、この2極照明用の回折光学素子の回折作用により、ファーフィールドには、光軸AXに対してX方向に対称な2極状の光強度分布が形成され、この2極状の光強度分布内の光はZ方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光となる。従って、マイクロフライアイレンズ11の入射面及び射出面(瞳面)には光軸AXに対してX方向に対称な2極状の光強度分布が形成され、この2極状の光強度分布内の光はZ方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光光となっている。
この偏光2極照明の例では、図2に示すように、X方向に一次元的な周期パターンを有するマスクMを用いる場合には、マスクMのパターンの長手方向と偏光方向とが一致するため、偏光照明として有効である。しかしながら、本発明の効果を得るためには、図2及び図8に示すように、このマスクMのパターンの所定のピッチ以下となる領域に対して作用する光量制御のための補正フィルターを、マスクブラインド14の近傍に配置、マスクMの近傍に配置、投影光学系PLの瞳面近傍に配置、あるいはマスクそのものに形成することが好ましい。
また、図2に示すように、Y方向に一次元的な周期パターンを有するマスクMを用いる場合には、図2に示す偏光状態切換部4の内部の1/2波長板を不図示の駆動系を介して回転させ、X方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光光を2極照明用の回折光学素子5へ入射させる。
この場合には、この2極照明用の回折光学素子の回折作用により、ファーフィールドには、光軸AXに対してZ方向に対称な2極状の光強度分布が形成され、この2極状の光強度分布内の光はX方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光となる。従って、マイクロフライアイレンズ11の入射面及び射出面(瞳面)には光軸AXに対してZ方向に対称な2極状の光強度分布が形成され、この2極状の光強度分布内の光はX方向に偏光方向(電場の方向)を有する直線偏光光となっている。この偏光2極照明の例においてもマスクMのパターンの長手方向と偏光方向とが一致するため、偏光照明として有効である。しかしながら、本発明の効果を得るためには、図2及び図8に示すように、このマスクMのパターンの所定のピッチ以下となる領域に対して作用する光量制御のための補正フィルターを、マスクブラインド14の近傍に配置、マスクMの近傍に配置、投影光学系PLの瞳面近傍に配置、あるいはマスクそのものに形成することが好ましい。
また、上述の実施形態では、光量制御手段としての補正フィルター20の作用により、パターンが感光剤上において結像する光の強度をパターンのピッチに応じて制御している。しかしながら、これに限定されることなく、パターンが感光剤上において結像する時間の長さをパターンのピッチに応じて制御することにより、たとえば走査型露光における走査中の露光量の時間的な制御により、感光剤上においてS偏光状態で結像するピッチの異なる複数のパターンに対してほぼ適切な露光量を確保することもできる。
ところで、上述の実施形態では、マイクロフライアイレンズ11の直前に、偏光光生成手段としての偏光変換素子10を配置している。しかしながら、これに限定されることなく、一般にビームエキスパンダー2から投影光学系PLまでの光学系(2〜PL)の瞳またはその近傍に、たとえば投影光学系PLの瞳またはその近傍や、結像光学系15の瞳またはその近傍や、円錐アキシコン系8の直前(アフォーカルレンズ6の瞳またはその近傍)などに偏光変換素子10を配置することもできる。
ただし、投影光学系PL中や結像光学系15中に偏光変換素子10を配置すると、偏光変換素子10の所要有効径が大きくなり易いため、高品質で大きい水晶基板を得ることが困難である現状を考えるとあまり好ましくない。また、円錐アキシコン系8の直前に偏光変換素子10を配置すると、偏光変換素子10の所要有効径を小さく抑えることができるが、最終的な被照射面であるウェハWまでの距離が長く、その間の光路中にレンズの反射防止コートやミラーの反射膜のように偏光状態を変化させる要素が介在し易いのであまり好ましくない。ちなみに、レンズの反射防止コートやミラーの反射膜では、偏光状態(P偏光とS偏光)や入射角度によって反射率に差が生じ易く、ひいては光の偏光状態が変化し易い。
また、上述の実施形態では、偏光変換素子10の少なくとも一方の面(たとえば射出面)が凹凸状に形成され、ひいては偏光変換素子10が周方向に離散的(不連続的)に変化する厚さ分布を有する。しかしながら、これに限定されることなく、偏光変換素子10が周方向にほぼ不連続的に変化する厚さ分布を有するように、偏光変換素子10の少なくとも一方の面(たとえば射出面)を曲面状に形成することもできる。
また、上述の実施形態では、輪帯状の有効領域の8分割に対応する8つの扇形形状の基本素子により偏光変換素子10を構成している。しかしながら、これに限定されることなく、たとえば円形状の有効領域の8分割に対応する8つの扇形形状の基本素子により、あるいは円形状または輪帯状の有効領域の4分割に対応する4つの扇形形状の基本素子により、あるいは円形状または輪帯状の有効領域の16分割に対応する16つの扇形形状の基本素子により偏光変換素子10を構成することもできる。すなわち、偏光変換素子10の有効領域の形状、有効領域の分割数(基本素子の数)などについて様々な変形例が可能である。
また、上述の実施形態では、水晶を用いて各基本素子10A〜10Dを(ひいては偏光変換素子10を)形成している。しかしながら、これに限定されることなく、旋光性を有する他の適当な光学材料を用いて各基本素子を形成することもできる。この場合、使用波長の光に対して100度/mm以上の旋光能を有する光学材料を用いることが好ましい。すなわち、旋光能の小さい光学材料を用いると、偏光方向の所要回転角を得るために必要な厚さが大きくなり過ぎて、光量損失の原因になるので好ましくない。
また、上述の実施形態において、偏光変換素子10を照明光路に対して固定的に設けたが、この偏光変換素子10を照明光路に対して挿脱可能に設けても良い。また、上述の実施形態では、ウェハWに対するS偏光と輪帯照明とを組み合わせた例を示したが、ウェハWに対するS偏光と2極や4極などの多極照明および円形照明と組み合わせても良い。なお、上述の実施形態において、マスクMへの照明条件やウェハWへの結像条件(開口数や収差等)は、例えばマスクMのパターンの種類等に従って自動的に設定することができる。
また、上述の実施形態において、偏光変換素子10よりもウェハW側の光学系(照明光学系や投影光学系)が偏光収差(リターデーション)を有している場合には、この偏光収差に起因して偏光方向が変化することがある。この場合には、これらの光学系の偏光収差の影響を考慮した上で、偏光変換素子10により旋回される偏光面の方向を設定すれば良い。また、偏光変換素子10よりもウェハW側の光路中に反射部材が配置されている場合、この反射部材にて反射された偏光方向毎に位相差が生じることがある。このとき、反射面の偏光特性に起因する光束の位相差を考慮した上で、偏光変換素子10により旋回される偏光面の方向を設定すれば良い。
ところで、以上においては、マスクMの全面を所定の偏光状態の光で照明した例を説明したが、本発明はこれに限ることなく、マスクMに対して局所的に任意の偏光照明をする場合にも適用することができる。この例について、図9〜図11を参照しながら説明する。なお、図9〜図11に示す実施の形態において、図2及び図8に示す実施の形態と同じ機能を持つ部材には同じ符号を付してあるが、図9〜図11に示す実施の形態では、図2及び図8に示す実施の形態の偏光変換素子10の代わりに、偏光変換部材21を具備している点が異なる。但し、本実施の形態の理解を容易にするために、本実施の形態においては、図2及び図8に示す実施の形態のフィルター20をマスクMの近傍に配置した例について最初に説明する。
図11(a)に示す如く、マスクMには、4つの異なるパターン領域(aM〜dM)が形成されており、第1パターン領域aMには、縦方向に微細なピッチを有する一次元パターンが形成されており、第2パターン領域bMには、横方向に微細なピッチを有する一次元パターンが形成されている。第3パターン領域cMには、第1パターン領域aMの一次元パターンよりも大きなピッチを有する縦方向に沿った一次元パターンが形成されており、第4パターン領域dMには、第2パターン領域bMの一次元パターンよりも大きなピッチを有する横方向に沿った一次元パターンが形成されている。なお、第3パターン領域cM及び第4パターン領域dMに形成されている各パターンは偏光照明が不要な粗いピッチを有している。
ここで、第1パターン領域aM及び第2パターン領域bMを偏光照明しつつ光量を制御する手法について説明する。まず、図11(b)に示す如く、マスクM上の第1〜第4パターン領域(aM〜dM)に対応して形成された3つのパターン領域(a21〜c21)を有する複合型偏光変換部材(偏光制御手段)21がマスクMに近接した位置に配置されている。この第1パターン領域a21には、図11(b)に示す如く、マスクM上の第1パターン領域aMのパターンの長手方向と平行な方向の直線偏光の光を生成する第1波長板が配置されており、第2パターン領域b21には、マスクM上の第2パターン領域bMのパターンの長手方向と平行な方向の直線偏光の光に対応して形成された第2波長板が配置されている。また、この第3パターン領域c21は、図11(b)に示す如く、マスクM上の第3パターン領域cM及び第4パターン領域dMをカバーするような領域を有し、この領域c21には水晶等の複屈折性の楔状プリズムと非複屈折性の楔プリズムとの組み合わせ等で構成されたデポラライザ(偏光解消素子)が配置されている。
なお、図11(b)に示す偏光変換部材21を構成する第1波長板、第2波長板及びデポラライザがそれぞれ所定の機能を果たすように、偏光変換部材21には適切な方向の直線偏光した光が導かれ、偏光状態切換部4として照明光路に設定されている1/2波長板は適正な軸方向に設定(回転調整)されている。
以上の図11(b)に示す如き偏光変換部材21によって、図11(a)に示すマスクMの各領域(aM〜dM)は、それぞれ適切な偏光状態で照明されるが、マスクMの第1領域aM及び第2領域bMの光量が多いなる。このため、図9に示す如く、マスクMの第1領域aM及び第2領域bMでの適切な光量(強度)に減光するための補正フィルター20がマスクの近傍である偏光変換部材21とマスクMとの間に配置されている。この補正フィルター20は、マスクMの第1領域aMに対応する位置に配置された第1フィルターa20と、マスクMの第2領域bMに対応する位置に配置された第2フィルターb20と、マスクMの第3領域cM及び第4領域dMをカバーするような対応位置に配置された光学的に透明な光学部材c20とを有している。
以上の偏光変換部材21及び補正フィルター20によって、ウェハW上またはウェハW上に塗布された感光剤上に形成される図11(a)に示されるマスクMのパターン像は、適切な偏光照明条件かつ適切な光量(露光量、エネルギー量)のもとで形成されるため、極めて良好なる露光を達成することができ、良好なる高精度なデバイスの製造が実現できる。
図9〜図11に示す実施の形態では、偏光変換部材21及び補正フィルター20をマスクM面の近傍に配置したが、この配置に限ることなく、偏光変換部材21及び補正フィルター20は、マスクM面と光学的に共役な面またはその近傍に配置することも可能である。さらに、偏光変換部材21及び補正フィルター20aは、必ずしも互いに近接した位置への配置や配置順序に制限される必要はなく、両者は、マスク面またはその近傍、あるいはマスクM面と光学的に共役な面またはその近傍に配置されていれば良い。
従って、例えば、図9に示す偏光変換部材21をマスクブラインド14の近傍に配置することも可能であり、図10(a)に示す如く偏光変換部材21及び補正フィルター20をマスクブラインド14の近傍に配置することも可能であり、さらには、補正フィルター20をマスクブラインド14の近傍に配置し、偏光変換部材21をマスク面近傍に配置することも可能である。
また、マスクMそのものに偏光変換部材21及び補正フィルター20の機能を付与することも可能であり、図10(b)には、補正フィルター20の機能を持つ部材91と偏光変換部材21の機能を持つ部材92とをマスクMに形成した変形例を示している。
さらに、図8(c)に示した例と同様の構造及び機能を有する補正フィルター20bを投影光学系PLの瞳位置またはその近傍に位置に配置した変形例においても、図10(c)に示す如く、偏光変換部材21は、マスクブラインド14の近傍であるマスクM面と光学的に共役な面またはその近傍に配置されていれば良い。さらには、図10(c)の偏光変換部材21をマスク面またはその近傍に配置しても良い。
また、偏光変換部材21と補正フィルター(20,20b)との一部をマスクに形成し、残りの一部をマスク面の近傍、マスクM面と光学的に共役な面またはその近傍に配置する構成とすることも可能である。
図2および図9〜図11に示す如く、以上の各実施の形態における光量制御手段(光量補正手段)としての補正フィルター(20,20a,20b)は、投影光学系PLの像側の開口数をNA、感光性基板(ウェハ)に塗布された感光剤の屈折率をnとするとき、以下に記載の条件を満たす場合に設定されるのがより好ましい。
{1−(NA/n)2}0.5<0.83
以上の条件を満たすと、適切な光量のもとで適切な偏光の光により感光剤上にはマスクパターン像が形成されるため、より一層精度良い露光が実現できる。一例として、NAを1.0、nを1.7とした場合には、上記条件を満たすため、偏光照明する際には光量制御手段(光量補正手段)を用いて、感光剤上にてマスクパターン像の光量を制御することが良い。なお、以上の条件の上限値は0.83の代わりに1/1.2と表現しても良い。
以上においては、光量制御手段(光量補正手段)として、補正フィルターを露光装置の光路に配置した例を示したが、露光時間をマスクのパターンのピッチに応じて制御したり、あるいは、マスクのパターンのピッチに応じて光源1からの出力を制御する構成を採用することも可能であり、これら以外の手法によって感光剤上に形成されるマスクパターン像の光量を制御することも可能である。
なお、S偏光等の偏光照明する際に、マスク面や感光性基板面へ導かれる光は完全なる直線偏光状態の光であることが理想であるが、さまざまな要因によって楕円成分を含む場合があるため、直線偏光成分が光強度で80%以上であれば実質的に問題ない。
また、図8(b)及び図10(b)に示す例は、被投影原版が透過型のマスクM(レチクル)とした例を示したが、反射型マスクであっても本発明を適用できることは言うまでもない。この場合、補正フィルターとして機能するフィルター部91は所望の反射率分布を有するように構成されることが好ましい。
上述の実施形態にかかる露光装置では、照明光学装置によってマスク(レチクル)を照明し(照明工程)、投影光学系を用いてマスクに形成された転写用のパターンを感光性基板に露光する(露光工程)ことにより、マイクロデバイス(半導体素子、撮像素子、液晶表示素子、薄膜磁気ヘッド等)を製造することができる。以下、上述の実施形態の露光装置を用いて感光性基板としてのウェハ等に所定の回路パターンを形成することによって、マイクロデバイスとしての半導体デバイスを得る際の手法の一例につき図12のフローチャートを参照して説明する。
先ず、図12のステップ301において、1ロットのウェハ上に金属膜が蒸着される。次のステップ302において、その1ロットのウェハ上の金属膜上にフォトレジストが塗布される。その後、ステップ303において、上述の実施形態の露光装置を用いて、マスク上のパターンの像がその投影光学系を介して、その1ロットのウェハ上の各ショット領域に順次露光転写される。その後、ステップ304において、その1ロットのウェハ上のフォトレジストの現像が行われた後、ステップ305において、その1ロットのウェハ上でレジストパターンをマスクとしてエッチングを行うことによって、マスク上のパターンに対応する回路パターンが、各ウェハ上の各ショット領域に形成される。その後、更に上のレイヤの回路パターンの形成等を行うことによって、半導体素子等のデバイスが製造される。上述の半導体デバイス製造方法によれば、極めて微細な回路パターンを有する半導体デバイスをスループット良く得ることができる。
また、上述の実施形態の露光装置では、プレート(ガラス基板)上に所定のパターン(回路パターン、電極パターン等)を形成することによって、マイクロデバイスとしての液晶表示素子を得ることもできる。以下、図13のフローチャートを参照して、このときの手法の一例につき説明する。図13において、パターン形成工程401では、上述の実施形態の露光装置を用いてマスクのパターンを感光性基板(レジストが塗布されたガラス基板等)に転写露光する、所謂光リソグラフィー工程が実行される。この光リソグラフィー工程によって、感光性基板上には多数の電極等を含む所定パターンが形成される。その後、露光された基板は、現像工程、エッチング工程、レジスト剥離工程等の各工程を経ることによって、基板上に所定のパターンが形成され、次のカラーフィルター形成工程402へ移行する。
次に、カラーフィルター形成工程402では、R(Red)、G(Green)、B(Blue)に対応した3つのドットの組がマトリックス状に多数配列されたり、またはR、G、Bの3本のストライプのフィルターの組を複数水平走査線方向に配列したカラーフィルターを形成する。そして、カラーフィルター形成工程402の後に、セル組み立て工程403が実行される。セル組み立て工程403では、パターン形成工程401にて得られた所定パターンを有する基板、およびカラーフィルター形成工程402にて得られたカラーフィルター等を用いて液晶パネル(液晶セル)を組み立てる。
セル組み立て工程403では、例えば、パターン形成工程401にて得られた所定パターンを有する基板とカラーフィルター形成工程402にて得られたカラーフィルターとの間に液晶を注入して、液晶パネル(液晶セル)を製造する。その後、モジュール組み立て工程404にて、組み立てられた液晶パネル(液晶セル)の表示動作を行わせる電気回路、バックライト等の各部品を取り付けて液晶表示素子として完成させる。上述の液晶表示素子の製造方法によれば、極めて微細な回路パターンを有する液晶表示素子をスループット良く得ることができる。
なお、上述の実施形態では、露光光としてKrFエキシマレーザ光(波長:248nm)やArFエキシマレーザ光(波長:193nm)を用いているが、これに限定されることなく、他の適当なレーザ光源、たとえば波長157nmのレーザ光を供給するF2レーザ光源などに対して本発明を適用することもできる。
また、上述の実施形態において、投影光学系と感光性基板との間の光路中を1.1よりも大きな屈折率を有する媒体(典型的には液体)で満たす手法、所謂液浸法を適用しても良い。この場合、投影光学系と感光性基板との間の光路中に液体を満たす手法としては、国際公開番号WO99/49504号公報に開示されているような局所的に液体を満たす手法や、特開平6−124873号公報に開示されているような露光対象の基板を保持したステージを液槽の中で移動させる手法や、特開平10−303114号公報に開示されているようなステージ上に所定深さの液体槽を形成し、その中に基板を保持する手法などを採用することができる。
なお、液体としては、露光光に対する透過性があってできるだけ屈折率が高く、投影光学系や基板表面に塗布されているフォトレジストに対して安定なものを用いることが好ましく、たとえばKrFエキシマレーザ光やArFエキシマレーザ光を露光光とする場合には、液体として純水、脱イオン水を用いることができる。また、露光光としてF2レーザ光を用いる場合は、液体としてはF2レーザ光を透過可能な例えばフッ素系オイルや過フッ化ポリエーテル(PFPE)等のフッ素系の液体を用いればよい。