JP4932538B2 - ねじ装置及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ねじ軸とナットとの間に転がり運動可能にボール、ローラなどの転動体を介在させ、ナットにボールを循環させる戻し部材を設けたねじ装置及びその製造方法に関する。
ねじ軸とナットとの間に転がり運動可能に転動体を介在させ、ナットに転動体を循環させる循環経路を設けたねじ装置が知られている。ナットに対してねじ軸を相対的に回転させると、ねじ軸とナットとの間に介在される転動体が転がり運動するので、すべり接触するねじに比べて摩擦係数を低減できる。モータの動力を効率よく推力に変換でき、高精度の位置決めもできることから、工作機械、半導体・液晶製造装置、ロボットなどの位置決め機構や、自動車のステアリングなどに多用されている。
ねじ装置のナットには、リターンパイプなどの転動体を循環させるための戻し部材が取り付けられる。戻し部材には、ナットの負荷転動体転走溝の一端と他端を接続する転動体戻し通路が形成される。戻し部材は、金属製のパイプの両端部を曲げ加工したり、転動体戻し通路の軸線に沿って二分割された樹脂製の半割りピースを結合したりすることで製造される。
モータがねじ装置を作動させて転動体を循環させると、転動体戻し通路を移動する転動体から戻し部材に圧力がかかる。特に高負荷、大推力用のねじ装置の場合には、戻し部材に大きな圧力がかかる。戻し部材を転動体戻し通路の軸線方向に沿って二分割したとき、転動体からの大きな圧力によって閉じていた一対の半割りピースが開いてしまうおそれがある。
出願人はこの問題を解決するために、図14に示されるように、一対の半割りピース51a,51bからなるリターンパイプ51にカバー52を取り付けたねじ装置を提案している(特許文献1参照)。このねじ装置によれば、リターンパイプ51に転動体からの圧力がかかり、一対の半割りピース51a,51bを開こうとする力が働いても、カバー52が一対の半割りピース51a,51bが開こうとする力に対抗するので、一対の半割りピース51a,51bが開くのを防止することができる。出願人が実際にカバー52を取り付けたところ、取り付けない場合に比べて、リターンパイプの強度を飛躍的に向上することができた。
実用新案登録第3097525号公報
しかし、従来のねじ装置にあっては、カバー52がリターンパイプ51の中央部のみを覆っていた。万一転動体からの異常な圧力が作用してリターンパイプ51が破損すると、破損した部分から転動体が外に飛び出してしまうおそれがある。カバー52がリターンパイプを覆っている部分は、たとえリターンパイプが破損したとしても、カバーが転動体が外に飛び出すのを防止するので、転動体が外に飛び出すことはない。一方、カバーがリターンパイプを覆っていない部分は、リターンパイプが破損すると、転動体を押えることができなくなるから、転動体が外に飛び出してしまう。こうなると、転動体を循環させることができなくなり、ねじ装置の作動も停止する。
ねじ装置は一旦機械に組み込まれたら、長期間使用し続けられることが期待される。たとえ戻し部材が破損したとしても、転動体を循環させることができれば、その間はねじ装置を使用することができる。
そこで本発明は、たとえ戻し部材が破損したとしても転動体を循環させることができ、見た目にも安心できるねじ装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
請求項に記載の発明は、外周に螺旋状の転動体転走溝(7a)が形成されるねじ軸(7)と、内周に前記ねじ軸(7)の前記転動体転走溝(7a)に対向する螺旋状の負荷転動体転走溝(1a)が形成されるナット(1)と、前記ナット(1)の側面に設けられ、前記ナット(1)の前記負荷転動体転走溝(1a)の一端と他端を接続する転動体戻し通路(13)が形成される戻し部材(8)と、前記ねじ軸(7)の前記転動体転走溝(7a)と前記ナット(1)の前記負荷転動体転走溝(1a)との間の負荷転動体転走路(15)、並びに前記戻し部材(8)の前記転動体戻し通路(13)に収容される複数の転動体(9)と、前記ナット(1)に取り付けられ、前記戻し部材(8)の形状に対応させた凹部(4e)を有すると共に、前記ナット(1)の外部に露出する前記戻し部材(8)の全体を覆うカバー(2)と、を備え、前記カバー(2)は、前記ナット(1)の外周のうち、前記戻し部材(8)が設けられている側の半周を覆う第一の半割りカバー(4)と、前記戻し部材(8)が設けられていない側の半周を覆う第二の半割りカバー(5)を結合させてなることを特徴とするねじ装置である。
請求項に記載の発明は、請求項1に記載のねじ装置において、前記ナット(1)と前記ナット(1)に取り付けられる前記カバー(2)との間で、前記戻し部材(8)を挟むことによって、前記戻し部材(8)が前記ナット(1)に取り付けられることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載のねじ装置において、前記戻し部材(8)は、前記ナット(1)の側面に複数設けられ、前記ナット(1)の隣接する一対の前記戻し部材(8)間には、前記カバー(2)を前記ナット(1)に結合するための結合部材(11)が螺合するねじ部(1d)が加工されることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1ないしのいずれかに記載のねじ装置において、前記ナット(1)の軸線方向の端部には、前記ナット(1)を相手部品に取り付けるためのフランジ(3)が形成され、前記カバー(2)の軸線方向の端部には、前記フランジ(3)のボルト挿入孔(3a)に挿入されるボルト(6)が前記カバー(2)に干渉しないように、ボルト用切欠き(4d,5d)が設けられることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、ねじ軸(7)の外周の螺旋状の転動体転走溝(7a)と、ナット(1)の内周の螺旋状の負荷転動体転走溝(1a)との間の負荷転動体転走路(15)に複数の転動体(9)が配列され、前記ナット(1)の前記負荷転動体転走溝(1a)の一端と他端を接続する転動体戻し通路(13)が形成される戻し部材(8)が前記複数の転動体(9)を循環させるねじ装置の製造方法において、ねじ軸(7)の外周の螺旋状の転動体転走溝(7a)と、ナット(1)の内周の螺旋状の負荷転動体転走溝(1a)との間の負荷転動体転走路(15)に複数の転動体(9)を配列する工程と、前記転動体戻し通路(13)に沿って二分割された半割りピース(8-1,8-2)を結合させてなる前記戻し部材(8)に複数の転動体(9)を配列する工程と、前記戻し部材(8)を前記ナット(1)に装着する工程と、前記戻し部材(8)の形状に対応させた凹部(4e)を有するカバー(2)を、前記ナット(1)の外部に露出する前記戻し部材(8)の全体を覆うように前記ナット(1)に取り付ける工程と、を備え、前記カバー(2)は、前記ナット(1)の外周のうち、前記戻し部材(8)が設けられている側の半周を覆う第一の半割りカバー(4)と、前記戻し部材(8)が設けられていない側の半周を覆う第二の半割りカバー(5)を結合させてなるねじ装置の製造方法である。
請求項に記載の発明によれば、カバーがナットの外部に露出する戻し部材の全体を覆っているので、戻し部材が万一破損しても、カバーが転動体が外に飛び出すのを防止し、転動体を循環させる。また、カバーを第一の半割りカバーと第二の半割りカバーとから構成し、ナットの全周を覆うことで、ナットに強固にカバーを取り付けることができる。さらに、ナットの全周をカバーで覆うことで、ナットの重量バランスや見た目も向上する。
請求項に記載の発明によれば、戻し部材をナットに取り付けるための張出し部を戻し部材に形成する必要がなくなる。よって、戻し部材の形状がシンプルになる。
請求項に記載の発明によれば、ナットの負荷転動体転走溝のうち、転動体が転がらない領域となる一対の戻し部材間を、ナットの外周から負荷転動体転走溝まで貫通するねじ部を加工するスペースとして有効に利用することができる。
請求項に記載の発明によれば、ナットにカバーを取り付けても、ナットのフランジにボルトを挿入し、ナットを相手部品に取り付けることができる。
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態におけるねじ装置の斜視図を示す。このねじ装置のナット1は、円筒形状のカバー2で覆われている。円筒形のナット1には、軸線方向の端部にナット1を相手部品に取り付けるためのフランジ3が形成される。フランジ3には、ボルト6を挿入するボルト挿入孔3aが周方向に均等間隔で開けられる。
カバー2は、ナット1のフランジ3から、フランジ3が形成されていない側の軸線方向の端部までに渡ってナット1の外周を覆う。カバー2は、ナット1の軸線に沿って二分割されていて、ナット1の外周のうち、上半分の半周(戻し部材が設けられている側の半周)を覆う第一の半割りカバー4と、下半分の半周(戻し部材が設けられていない側の半周)を覆う第二の半割りカバー5を結合させてなる。
第一の半割りカバー4には、第一の半割りカバー4をナット1に取り付けるため複数のカバー取付け孔4aが加工される。カバー取付け孔4aは座繰り孔からなる。複数のカバー取付け孔4aはカバー2の軸線方向に一列に並べられる。カバー取付け孔4aの個数は戻し部材の個数よりも一つ多い。半円筒形状の第一の半割りカバー4の周方向の端部には、第一の半割りカバー4を第二の半割りカバー5に結合するためのカバー結合孔4bが複数個加工される。カバー結合孔4bも座繰り孔からなり、カバー2の軸線方向に一列に並べられる。
図2は、カバー2の分解斜視図を示す。第二の半割りカバー5の合せ面5aには、第一の半割りカバー4を第二の半割りカバー5に結合するためのねじ部5bが加工される。また第二の半割りカバー5には、ねじ装置に潤滑油を供給する潤滑油供給装置が組み込まれる切欠き5cが形成されてもよい。
図1に示されるように、第一の半割りカバー4及び第二の半割りカバー5のフランジ側の端部には、軸線方向に細長く伸びるボルト用切欠き4d,5dが形成される。この実施形態のカバー2の外形はフランジ3の外形と略等しい。カバー2をナット1に取り付けると、フランジ3のボルト挿入孔3aに挿入するボルト6がカバーに干渉してしまい、フランジ3にボルト6を挿入できなくなる。これを防止するために、第一の半割りカバー4及び第二の半割りカバー5にボルト用切欠き4d,5dが形成される。
図3及び図4は、カバー2を取り外したねじ装置を示す。ねじ装置は、外周に螺旋状のボール転走溝7aが形成されるねじ軸7と、内周にボール転走溝7aと対向する螺旋状の負荷ボール転走溝1aが形成されるナット1と、ナット1に装着される戻し部材であるリターンパイプ8と、を備える。
ねじ軸7の外周面には、一定のリードを備えたボール転走溝7aが切削または転造加工される。ボール転走溝7aの断面形状は、二つの円弧を組み合わせてなるゴシックアーチ溝形状であるか、ボール9の半径よりも若干大きい単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状である。ねじ軸7のボール転走溝7aをボール9が負荷を受けながら転がり運動するので、ねじ軸7のボール転走溝7aの硬さ、表面粗さ、及び寸法精度は注意して製作される。具体的には、ねじ軸7の材質には、好ましくは軸受け鋼、炭素工具鋼などの焼入れに適した材質が用いられる。ねじ軸7のボール転走溝7aの表面は、焼入れなどの熱処理を経て所定の硬度に加工される。表面粗さを低減するために、ボール転走溝7aは研削加工される。
ナット1は略円筒状をなし、例えば、素材を円筒形状に押出し成形し、外径・端面を切削加工することで製造される。ナット1の内周面には、ねじ軸7のボール転走溝7aに対向する負荷ボール転走溝1a(図4参照)が切削又は転造加工される。負荷ボール転走溝1aの断面形状は、二つの円弧を組み合わせてなるゴシックアーチ溝形状であるか、ボールの半径よりも若干大きい単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状である。ナット1の材質には、好ましくは軸受け鋼、炭素工具鋼などの焼入れに適した材質が用いられる。ナット1の負荷ボール転走溝1aの表面は、焼入れなどの熱処理を経て所定の硬度に加工される。表面粗さを低減するために、負荷ボール転走溝1aは研削加工される。ナット1の軸線方向の端部には、ナット1を相手部品に取り付けるためのフランジ3が設けられる。
ナット1の外周には、リターンパイプ8を装着するための平面的な平取り部1cが加工される。ナット1には、リターンパイプ8の脚部が挿入されるパイプ挿入孔1bが一つのリターンパイプ8あたり二つ開けられる。この実施形態ではリターンパイプ8の個数が三個であるから、パイプ挿入孔1bは全部で六個設けられる。ナット1の外周から内周の負荷ボール転走溝1aまで貫通するパイプ挿入孔1bは、平取り部1cから外れた位置に設けられる。
ナット1の側面の隣接するリターンパイプ8間には、第一の半割りカバー4をナット1に取り付けるための結合部材としてのボルト11(図2参照)が螺合するねじ部1dが加工される。隣接するリターンパイプ8間の負荷ボール転走溝には、ボール9が転がらない領域がある。ねじ部1dはこのボール9が転がらない領域に加工される。また平取り部1cのうち、ナット1の軸線方向の両端のリターンパイプ8からさらに外側に外れた部分の負荷ボール転走溝1aにも、ボール9が転がらない領域がある。ボール9がすでにリターンパイプによって掬い上げられているからである。負荷ボール転走溝1aのボール9が転がらない領域にねじ部1dを加工することで、平取り部1cから負荷ボール転走溝1aまで貫通するねじ部1dを加工することができる。
ナット1の軸線方向の端部の内側には、ナット1の内部の潤滑剤が外部に漏れたり、異物がナット1の内部に入ったりするのを防止するためのシール部材12が組み込まれる。平取り部1cのリターンパイプ8が配列される領域よりも外側にねじ部1dを加工する場合、シール部材12が組み込まれる分だけ負荷ボール転走溝1aが短くなることに注意する必要がある。
なお、ナット1の平取り部1cから外れた円筒面1eに、ねじ部1dを加工することは困難である。なぜならば、円筒面1eの負荷ボール転走溝1aには、ボール9が配列されているから、ねじ部1dが負荷ボール転走溝1a内に露出することはできない。しかも、ナット1の円筒面1eと内周の負荷ボール転走溝1aとの間の肉は薄いから、ねじ部1dを円筒面1eから内周の負荷ボール転走溝1aまで到達しないように加工するのも困難である。
図4に示されるように、ねじ軸7のボール転走溝7aとナット1の負荷ボール転走溝1aとの間の負荷ボール転走路15、並びにリターンパイプ8内のボール戻し通路13には、複数のボール9及びスペーサ14が交互に配列される。ボール9は一般の軸受けに用いられる転動体と同様に鋼製である。ボール9間には隣接するボール9の接触を防止するスペーサ14が介在される。ボール9が鋼製であるのに対し、スペーサ14は樹脂製である。スペーサ14は略円柱形状であると共に、その進行方向の両端にボール9の形状に合わせた球面状凹部を有する。各スペーサ14は他のスペーサ14から分離していてもよいし、全てのスペーサ14が帯状のバンドを用いて一連に繋げられてもよい。
リターンパイプ8は略門形に形成され、中央部8aと中央部8aの両側に設けられた一対の脚部8bとを有する。リターンパイプ8の一対の脚部8bはナット1のパイプ挿入孔1bに挿入される。リターンパイプ8の脚部8bは、ねじ軸7の軸線方向からみてねじ軸7の両側に配置される。リターンパイプ8の脚部8bには、負荷ボール転走路15を移動するボール9をリターンパイプ8内に掬い上げる掬上げ部18が形成される。リターンパイプ8の脚部8bは、螺旋状の負荷ボール転走路15の接線方向にかつリード角方向にボールを掬い上げる。リターンパイプ8の内部空間がボール9を循環させるためのボール戻し通路13になる。リターンパイプ8のボール戻し通路13は、ナット1の負荷ボール転走溝1aの一端P1と数巻き手前の負荷ボール転走溝1aの他端P2を接続する。ボール9はナット1の負荷ボール転走溝1aの一端P1まで転がった後、リターンパイプ8内に掬い上げられ、リターンパイプ8のボール戻し通路13を経由した後、再び負荷ボール転走溝1aの他端P2に戻される。この実施形態では、リターンパイプ8がナット1の軸線方向に並べて三個設けられ、ボール9の循環経路も三組設けられる。
図5はナット1の軸線方向からみたリターンパイプ8の詳細図を示す。リターンパイプ8は、ボール戻し通路13の軸線方向に沿って二分割された半割りピース8−1,8−2を結合させてなる。半割りピース8−1,8−2には、合わせ面に沿ってフランジ8cが設けられる。一対の半割りピース8−1,8−2のフランジ8cを重ね合わせ、ねじ、接着剤、溶着などの結合手段で結合することで、一対の半割りピース8−1,8−2が結合される。なお、リターンパイプ8の掬上げ部18は複雑な形状をしているので、分割されていない。リターンパイプ8を二分割すると、リターンパイプ8が大型化しても切削などにより加工可能になるし、リターンパイプ8を樹脂の成型品にすることもできる。リターンパイプ8には、リターンパイプ8をナット1に取り付けるための張出し部53(図14参照)は形成されていない。ナット1とナット1に取り付けられるカバー2との間でリターンパイプ8を挟むことで、リターンパイプ8をナット1に取り付けることができるからである。リターンパイプ8はその断面形状が軸線方向においてほぼ一定である。張出し部53を設けないと、リターンパイプ8の形状がシンプルになるので、リターンパイプ8の製造コストを低減することができる。
図6は、リターンパイプ8の他の例を示す。この例のリターンパイプ8は分割されておらず、円筒形の金属製のパイプの両端部を折り曲げて製造される。リターンパイプ8の脚部に掬上げ部18が形成されるのは上述したとおりである。
図7はカバー2を取り付けたねじ装置の部分断面図を示す。第一の半割りカバー4には、リターンパイプ8が隙間無く嵌まるようにリターンパイプ8の形状に合わせた凹部4eが加工される。リターンパイプ8の両端部は円弧形状に曲がっているので、凹部4eも円弧形状の溝に削られる。第一の半割りカバー4の厚みはリターンパイプ8の外形の厚みよりも厚い。第一の半割りカバー4に凹部4eを加工することで、ボール戻し通路13を移動するボール9から一対の半割りピース8−1,8−2に圧力が働き、一対の半割りピース8−1,8−2がボール戻し通路13の長手方向と直交する方向に分離しようとしても、凹部4eの壁面からの半力によって分離しにくくなる。また、リターンパイプ8が分離されていない場合にも、凹部4eの壁面からの半力によってリターンパイプ8が破損しにくくなる。
図3に示されるように、リターンパイプ8の脚部8bは平取り部1cから外れる。ボール径が大きくなったり、負荷ボール転走路15の接線方向にボール9を掬い上げるために、リターンパイプ8の脚部8bを負荷ボール転走路15の接線方向に配置したときに、平取り部1cから外れ易くなる。平取り部1cから外れたリターンパイプ8も覆うために、第一の半割りカバー4は平取り部1cだけでなく、ナット1の円筒面1eの一部をも覆う。
ねじ装置の組立て方法について説明する。まず、ナット1の内側にねじ軸7を挿入し、ナット1の負荷ボール転走溝1aとねじ軸7のボール転走溝7aとの間に複数のボール9及び複数のスペーサ14を交互に配列する。
次に、リターンパイプ8内に複数のボール9及び複数のスペーサ14を交互に配列し、リターンパイプ8の脚部8bを下に向けてもリターンパイプ8から複数のボール9及びスペーサ14が落下しないように、リターンパイプ8にグリースなどの潤滑剤を封入する。
リターンパイプ8の脚部8bをナット1のパイプ挿入孔1bに挿入し、リターンパイプ8をナット1に仮止めする。その後、ナット1の外部に露出するリターンパイプ8を覆うように第一の半割りカバー4をナット1に被せる。第一の半割りカバー4の複数のカバー取付け孔4aに締結部材であるボルト11(図2参照)を挿入し、ボルト11をナット1の平取り部1cのねじ部1dにねじ込む。これにより、第一の半割りカバー4がナット1に強固に固定される。第一の半割りカバー4がナット1に固定されるのに伴って、第一の半割りカバー4とナット1との間に挟まれるリターンパイプ8がナット1に固定される。
次に、ナット1の外周の下側半分に第二の半割りカバー5を被せる。第二の半割りカバー5の合せ面5aと第一の半割りカバー4の合せ面4cとを合わせ、切欠き5cと凸部によって第二の半割りカバー5を第一の半割りカバー4に位置決めする。そして、第一の半割りカバー4のカバー結合孔4bにボルト19を通し、ボルト19を第二の半割りカバー5の合せ面5aのねじ部5bにねじ込む。以上により、第二の半割りカバー5が第一の半割りカバー4に結合される。第二の半割りカバー5を設けることで、カバー2を円筒形のナット1に強固に固定することができる。
図8ないし図11は、本発明の第二の実施形態のねじ装置を示す。図8はカバーを取り付けたねじ装置の斜視図を示し、図9はカバーの分解斜視図を示し、図10はカバーを取り外したねじ装置の斜視図を示し、図11はカバーを取り付けたねじ装置の部分断面図を示す。図11に示されるように、この実施形態のねじ装置においては、リターンパイプ8の他に、ボール9及びスペーサ14の少なくとも一方を負荷ボール転走路15からボール戻し通路13に掬い上げるヨーク20が設けられる。ヨーク20は、図12のナット1のリターンパイプ側の断面図に示されるように、ナット1の負荷ボール転走溝1aのボール9が循環しない領域に配置される。ヨーク20は隣接するリターンパイプ8の脚部8b間に設けられ、また軸線方向の最も端に位置するリターンパイプ8の脚部8bに対しても設けられる。ヨーク20の個数はリターンパイプ8の個数よりも一つ多く、例えば三つのリターンパイプ8に対して四つのヨーク20が設けられる。ヨーク20は、負荷ボール転走溝1aの形状に合わせた外形形状に形成され、ナット1の負荷ボール転走溝1a内に埋め込まれる。
図13は、ナット1の軸線方向からみたリターンパイプ8及びヨーク20を示す。負荷ボール転走路15を移動するボール9及びスペーサの少なくとも一方はヨーク20の長さ方向の両端部の掬い面20aに衝突して、リターンパイプ8内に導かれる。ヨーク20を設けることで、リターンパイプ8の掬上げ部18にボール9及びスペーサ14の少なくとも一方を衝突させなくてすむので、リターンパイプ8の掬上げ部18の摩耗や破損を防止することができる。
図10に示されるように、ナット1の平取り部1cには、ナット1にヨーク20を取り付けるためのボルトが挿入される貫通孔1fが空けられる。一方ヨーク20には、図12に示されるように、タップ20bが加工される。ナット1の内周の負荷ボール転走溝1aにヨーク20を装着し、平取り部1cの貫通孔1fからボルトを挿入し、ヨーク20をナット1の負荷ボール転走溝1aに固定する。
ナット1の平取り部1cの貫通孔1fの周方向の両側には、第一の半割りカバー4をナット1に固定するための一対のねじ部1dが設けられる。図8及び図9に示されるように、第一の半割りカバー4には、一対のねじ部1dに対応して周方向に位置をずらして一対のカバー取付け孔4aが開けられる。一対のカバー取付け孔4aは、第一の実施形態のねじ装置と同様に、ナット1の軸線方向に位置をずらして複数設けられる。
なお、本発明は上記実施形態に限られることなく、その要旨を変更しない範囲で様々な実施形態に具現化できる。例えば、カバーは第一の半割りカバーと第二の半割りカバーからならなくても、第一の半割りカバーのみからなってもよい。この場合、第一の半割りカバーは平取り部の一列に並ぶ四つのねじ部に固定される。一列に並ぶねじ部だけではカバーの取付け強度が不足する場合には、ナット1の外周の円筒面に負荷ボール転走溝に影響しない深さのねじ部をさらに加工してもよい。さらに、ナットに対するリターンパイプの位置決め精度を高めるために、ナットに取り付けるための張出し部をリターンパイプに形成してもよい。さらに、転動体には、ボールの替わりにローラを用いることもできる。
本発明の第一の実施形態におけるねじ装置の斜視図 上記ねじ装置のカバーの分解斜視図 カバーを取り外したねじ装置の斜視図 図3のねじ装置の断面図(図中(A)は軸線と直交する断面図を示し、(B)は軸線に沿った断面図を示す) カバーを取り付けたねじ装置の斜視図(一部断面図を含む) ナットの軸線方向からみたリターンパイプを示す図 リターンパイプの他の例を示す図 本発明の第二の実施形態におけるねじ装置の斜視図 図8のねじ装置のカバーの分解斜視図 カバーを取り外したねじ装置の斜視図 カバーを取り付けたねじ装置の斜視図(一部断面図を含む) ナットのリターンパイプ側の断面図 ナットの軸線方向からみたリターンパイプ及びヨークを示す図 従来のリターンパイプを示す斜視図
符号の説明
1…ナット
1a…負荷ボール転走溝(負荷転動体転走溝)
1c…平取り部
1d…ねじ部
1e…円筒面
2…カバー
3…フランジ
3a…ボルト挿入孔
4…第一の半割りカバー
4d,5d…ボルト用切欠き
4e…凹部
5…第二の半割りカバー
6…ボルト
7…ねじ軸
7a…ボール転走溝(転動体転走溝)
8…リターンパイプ(戻し部材)
8−1,8−2…半割りピース
9…ボール(転動体)
11…ボルト(結合部材)
13…ボール戻し通路(転動体戻し通路)
15…負荷ボール転走路(負荷転動体転走路)

Claims (5)

  1. 外周に螺旋状の転動体転走溝が形成されるねじ軸と、
    内周に前記ねじ軸の前記転動体転走溝に対向する螺旋状の負荷転動体転走溝が形成されるナットと、
    前記ナットの側面に設けられ、前記ナットの前記負荷転動体転走溝の一端と他端を接続する転動体戻し通路が形成される戻し部材と、
    前記ねじ軸の前記転動体転走溝と前記ナットの前記負荷転動体転走溝との間の負荷転動体転走路、並びに前記戻し部材の前記転動体戻し通路に収容される複数の転動体と、
    前記ナットに取り付けられ、前記戻し部材の形状に対応させた凹部を有すると共に、前記ナットの外部に露出する前記戻し部材の全体を覆うカバーと、を備え、
    前記カバーは、前記ナットの外周のうち、前記戻し部材が設けられている側の半周を覆う第一の半割りカバーと、前記戻し部材が設けられていない側の半周を覆う第二の半割りカバーを結合させてなることを特徴とするねじ装置。
  2. 前記ナットと前記ナットに取り付けられる前記カバーとの間で、前記戻し部材を挟むことによって、前記戻し部材が前記ナットに取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のねじ装置。
  3. 前記戻し部材は、前記ナットの側面に複数設けられ、
    前記ナットの隣接する一対の前記戻し部材間には、前記カバーを前記ナットに結合するための結合部材が螺合するねじ部が加工されることを特徴とする請求項1又は2に記載のねじ装置。
  4. 前記ナットの軸線方向の端部には、前記ナットを相手部品に取り付けるためのフランジが形成され、
    前記カバーの軸線方向の端部には、前記フランジのボルト挿入孔に挿入されるボルトが前記カバーに干渉しないように、ボルト用切欠きが設けられることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載のねじ装置。
  5. ねじ軸の外周の螺旋状の転動体転走溝と、ナットの内周の螺旋状の負荷転動体転走溝との間の負荷転動体転走路に複数の転動体が配列され、前記ナットの前記負荷転動体転走溝の一端と他端を接続する転動体戻し通路が形成される戻し部材が前記複数の転動体を循環させるねじ装置の製造方法において、
    ねじ軸の外周の螺旋状の転動体転走溝と、ナットの内周の螺旋状の負荷転動体転走溝との間の負荷転動体転走路に複数の転動体を配列する工程と、
    前記転動体戻し通路に沿って二分割された半割りピースを結合させてなる前記戻し部材に複数の転動体を配列する工程と、
    前記戻し部材を前記ナットに装着する工程と、
    前記戻し部材の形状に対応させた凹部を有するカバーを、前記ナットの外部に露出する前記戻し部材の全体を覆うように前記ナットに取り付ける工程と、を備え
    前記カバーは、前記ナットの外周のうち、前記戻し部材が設けられている側の半周を覆う第一の半割りカバーと前記戻し部材が設けられていない側の半周を覆う第二の半割りカバーを結合させてなるねじ装置の製造方法。
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