(1)第1実施形態
(1−1)第1実施形態の構成
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、本発明の検査方法をスポット溶接に適用した場合について説明するが、本発明の検査方法はスポット溶接以外での検査に適用することができるのは言うまでもない。図1は、本発明の第1実施形態に係る検査方法を行う検査装置10を表すブロック図である。
検査装置10は、ワークW1,W2に溶接電流を通電するスポット溶接ガンの電極チップ11a,11bを備えている。溶接電流およびその通電時間は、溶接タイマ(図示略)により制御される。電極チップ11aは、ワークW1,W2への超音波パルスの送信およびワークW1,W2からの反射波の受信を繰り返し行うセンサ12を内蔵している。センサ12は、超音波送受信部13からのパルス信号の受信により横波の超音波パルスを発生し、それに対応するワークW1,W2から受信された反射波を電気信号に変換して超音波送受信部13に送信する。センサ12からの反射波の信号は、超音波送受信部13で増幅され検出部14に送信される。
検出部14は、溶接電流の通電を停止する第1時刻t1、ワークW1,W2からの反射波の受信回を示す受信指標、反射波の経過時間、および、反射波の強度を検出するとともに、それら信号を判定部15に送信する。また、それら信号は記憶部16に記憶される。受信指標は、たとえば反射波の受信順番、反射波の受信時刻、反射波に対応する超音波パルスの送信順番、あるいは、反射波に対応する超音波パルスの送信時刻である。また、各反射波の強度は、それに対応する受信指標と経過時間とを軸とする座標系を用いて表示部(図示略)に2次元表示あるいは3次元表示される。表示部による表示の詳細については後述する。
判定部15は、ワークW1,W2からの反射波毎に、受信指標、経過時間、強度を関連づけて記憶する。判定部15は、記憶部16に記憶された反射強度の閾値データと照合することにより、反射強度が閾値以上にある反射波成分を抽出し、その抽出された反射波成分からなる反射波成分群(抽出された反射波群)の受信指標および経過時間のデータを用いて近似式を求め、その近似式を利用して溶融部からの反射波成分を識別する。この場合、記憶部16に記憶された受信指標および経過時間のそれぞれの範囲限定データを参照して、反射波成分群のなかから、受信指標および経過時間のそれぞれが所定範囲内にある反射波成分を抽出するが、その抽出は、近似式を求める前後のいずれかで行う。
そして、判定部15は、識別された溶融部からの反射波成分の強度が最大になる第1時刻と、その反射波成分の強度が所定値まで低下する第2時刻との差から溶融部の凝固時間を求め、その凝固時間を記憶部16に記憶された相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する。記憶部16には、反射波の強度の閾値データ、受信指標および経過時間のそれぞれの範囲限定データ、および、溶融部の大きさと凝固時間に関する相関データが記憶されている。溶融部の大きさは、溶融部の直径や容積として得られる。反射波成分群の抽出方法および範囲限定データの詳細については後述する。
(1−2)第1実施形態の動作
次に、検査装置10を用いて溶融部の大きさを推定する方法について、おもに図2〜12,17,18を参照して説明する。
まず、図1に示すように、電極チップ11a,11bによりワークW1,W2を挟んで加圧し、そこへの溶接電流の通電を時刻tsで開始する(図17(a))。すると、ワークW1,W2が発熱溶融し、そこに溶融部Lが形成され、時間の経過に伴い溶融部Lの大きさが大きくなる。次いで、溶接電流の通電を時刻t1で停止する。このとき溶融部Lの大きさが最大となる(図17(b))。溶接電流の通電を停止すると、溶融部Lの凝固が始まり凝固部Mが形成され(図17(c))、溶融部Lの凝固は時刻t3で終了する(図17(d))。時刻tuで電極チップ11a,11bをワークW1,W2から離間(すなわち、ガン開)する。
このようなスポット溶接では、センサ12が、ワークW1,W2への超音波パルスの送信およびワークW1,W2からの反射波の受信を繰り返し行う。これにより、各超音波パルスに対応する反射波からなる反射波群を得る。各反射波の受信時には、センサ12は、溶接電流の通電を停止する第1時刻t1、ワークW1,W2からの反射波の受信順番、反射波の経過時間、および、反射波の強度を検出している。検出時間は、おおよそ通電開始からガン開までの所定時間(たとえば0.5〜5秒)である。その間の受信回数は数十〜数百回である。
ここで、センサ12で検出されるワークW1,W2からの反射波には、溶融部Lからの反射波成分だけではなく、電極チップ11aの下端からの反射波成分、ワークW1,W2の間からの反射波成分、電極チップ11bの上端からの反射波成分、および、ノイズのうちの少なくとも1つが含まれているから、次のように溶融部Lからの反射波成分を識別する。
まず、判定部15は、ワークW1,W2からの反射波毎に、受信順番、経過時間、および、強度を関連付けて記憶する。これについて図2〜4を参照して説明する。図2〜4は、通電開始前、通電中、および、冷却中の各超音波パルスに対応するワークW1,W2からの反射波の強度と経過時間との関係を表す図である。図中の符号HはワークW1,W2間からの反射波成分、符号Iは溶融部Lからの反射波成分、符号Jは電極チップ11aの下端からの反射波成分を示している。
図2〜4に示すように、N(=1〜9)番目の超音波パルスに対応するワークW1,W2からの各反射波について、受信順番Nと記憶され、その受信順番Nに対応する経過時間および強度を記憶する。図中では、説明の簡略化のために、通電開始前、通電中、および、冷却中における反射波の受信回数をそれぞれ3回としている。また、図の繁雑化を避けるために、(受信順番、経過時間、強度)の記憶例を数カ所のみに記載している。
次に、判定部15は、各反射波について強度が閾値以上となっている時刻を反射波成分群(抽出された反射波群)として抽出する。これについて、図5を参照して、図4(a)に示すワークW1,W2からの各反射波成分(N=7)を用いて説明する。図5(a)は図4(a)の拡大図、図5(b),(C)は、反射波成分群の抽出手法を表す図である。図5(b),(C)に示すように、判定部15は、図5(a)に示す反射波の反射波成分の強度が閾値であるか否かを判定する。その判定では、反射波成分I,Jの一部の強度が閾値以上であるから、それに対応する時刻が反射波成分群(図5(C)の●印)として抽出され、これに対して反射波成分Hの強度は閾値以下であるから、それに対応する時刻は反射波成分群として抽出されない。
このとき、必要に応じて、反射波の受信順番と経過時間とを軸とする座標系を用い、反射波成分群を表示部に表示してもよい。たとえば図6に示すように、反射波の受信順番と経過時間とを軸とする座標系を用い、反射波成分群の時刻を2次元表示する。また、たとえば強度が閾値以上である時刻を反射波成分群として抽出せずに、図8に示すように、反射波の受信順番、経過時間、および、反射強度を軸とする座標系を用い、溶融部Lからの反射波成分Iを3次元表示することも可能である。
スポット溶接中に発生する各反射波について、図2〜4,6を参照して説明する。通電開始前には、図2に示すように、ワークW1,W2間からの反射波成分H、電極チップ11aの下端からの反射波成分Jが発生する。通電開始後には、ワークW1,W2における境界近傍の中央部に溶融部Lが形成されるから、図3に示すように、時間の経過にともない、ワークW1,W2間からの反射波成分Hの強度は低下し、溶融部Lからの反射波成分Iが発生し、その強度が増加する。これにより、ワークW1,W2間からの反射波成分Hは検出されず、電極チップ11aの下端からの反射波成分Jとともに溶融部Lからの反射波成分Iが検出される。
通電終了後には、溶融部Lの凝固が始まり凝固部Mが形成されるから、図4に示すように、溶融部Lからの反射波成分Iの強度が低下する。これにより、通電終了直後には電極チップ11aの下端からの反射波成分Jとともに溶融部Lからの反射波成分Iが検出されるが、時間の経過に伴い、溶融部Lからの反射波成分Iが検出されなくなる。
時刻tuでの電極チップ11a,11bのワークW1,W2からの離間後(すなわち、ガン開後)には、電極チップ11aの下端からの反射波成分Jが発生するから、反射波成分Jが検出される。以上のようにスポット溶接中に発生する各反射波成分が抽出されるから、表示部による2次元表示では図6に示すように、反射波成分H,I,Jが一連の反射波成分群として表示される。
このような反射強度のデータの表示では、反射波の波形の経時変化を確認することができるので、各反射波成分H,I,Jの識別を容易に行うことができる。また、仮に溶融部Lに欠陥が存在する場合、それに起因したデータが表示されるから、溶融部Lにおける欠陥の存在を確認することができる。
続いて、判定部15は、図7に示すように、記憶部16に記憶された受信順番および経過時間のそれぞれの範囲限定データを参照して、以上のように反射波群から抽出された反射波成分群のなかから、受信順番および経過時間のそれぞれが所定範囲α,β内にある反射波成分を抽出する。なお、このような反射波成分の抽出は、下記のような近似式を得た後に行ってもよい。
受信順番および経過時間に関する範囲限定データは、次のようにして作成する。すなわち、多数のワークに対し溶接条件(電流値や通電時間など)を変えてスポット溶接を行い、その都度、溶接電流の通電を停止する第1時刻t1、ワークW1,W2からの反射波の受信順番、反射波の経過時間、および、反射波の強度を検出する。そして、検出されたデータを用いて図6,8に示すようなデータ図を作成し、各反射波成分を特定することにより、溶融部からの反射波成分が発生する可能性の大きな受信順番の範囲αおよび経過時間の範囲βを範囲限定データとして作成する。そして、その範囲限定データを記憶部16に記憶しておく。
次に、図7に示すように、判定部15は、最小2乗法などの近似法を用いて、以上のように抽出された反射波成分群の受信順番および経過時間のデータの近似式Mを得る。ここで、仮に近似式Mから所定距離d1以下にあるデータ(たとえば、点Pのデータ)がある場合、そのデータは溶融部Lからの反射波成分Iのデータと判定され、近似式Mから所定距離d1より大きな距離にあるデータ(たとえば点Qのデータ)がある場合、そのデータはノイズと判定され除外される。
以上のように、ワークW1,W2からの反射波のなかから溶融部Lからの反射波成分Iが識別される。図9は、溶融部Lから反射波成分Iの強度と溶接電流の経時変化を表す図である。図9では、実線Aは溶接電流の電流値、破線Bは溶融部Lからの反射波成分の強度を示している。図9に示すように、時刻tsでの溶接電流の通電開始後、時刻t0で溶融部Lからの反射波成分が観測され、溶融部Lの大きさが大きくなると、それに応じて反射波成分の強度が大きくなる。時刻t1での溶接電流の通電の停止後、溶融部Lの凝固が始まり凝固部Mが形成され、反射波成分の強度は減少に転じる。すなわち、通電停止の時刻t1で溶融部Lの大きさと反射波成分の強度が最大になる。溶融部の凝固が終了する時刻t3では、反射波成分が消失し、その強度がゼロになる。
溶融部からの反射波成分の強度が最大になる時刻t1を始期(第1時刻)とし、反射波成分の強度がゼロになる時刻t3を終期(第2時刻)として溶融部Lの凝固時間を算出する。ただし、時刻t3を終期とすると、ノイズの影響により計測誤差が生じ易くなる。したがって、ゼロよりも若干大きい閾値を設定し、反射波成分の強度が閾値まで達した時刻t2(第2時刻)を凝固時間の終期としてもよい。この場合、凝固時間Tは真の値(t3−t1)よりも若干短くなるが、相関データの作成に際し、上記値(t2−t1)を凝固時間として用いることにより、溶融部Lの判定精度に対する影響はほとんどない。
なお、センサ12は、ワークW1,W2におけるセンサ径を超える部分からの反射波を検出することができないから、溶融部Lからの反射波成分の強度の検出限界は次のようにセンサ12のセンサ径に規定される。すなわち、図17(a)〜17(d)に示すように、センサ径が溶融部Lの最大径以上の場合、センサ12は、溶融部Lの全ての部分からの反射波を検出することができるので、センサ12は溶融部Lからの反射波成分の強度の最大値を検出することができる(図9の破線B)。したがって、この場合、上記のように反射波成分の強度が最大になる時刻t1を始期(第1時刻)として用いることができる。
一方、図18(a),18(b)に示すように、センサ径が溶融部Lの最大径より小さい場合、センサ12は、溶融部Lにおけるセンサ径を超える両端部からの反射波を検出することができない。この場合、通電時に溶融部Lの径がセンサ径に一致する前と通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致した後では、センサ径が溶融部Lの最大径以上の図9の破線Bに示す場合と同じ変化を示すが、通電時に溶融部Lの径がセンサ径に一致してから通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致するまでは、図9の実線B’に示すように反射波成分の強度が一定となる。このように反射波成分の強度には、センサ径を超える溶融部の径の変化が反映されない。
したがって、この場合、溶接電流の通電を停止する時刻t1を凝固時間Tの始期としている。溶接電流の通電停止時には溶融部Lの大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。この場合、通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致する時刻t5を用い、凝固時間Tを(t5−t1)としてもよい。
また、ワークW1,W2が亜鉛メッキ鋼板の場合、メッキ層の溶融が母材の反射強度の検出に次のような影響を与える。すなわち、亜鉛の融点は鉄の融点よりも低いため、ワークW1,W2間のメッキ層が溶融した後、母材の溶融が始まる。このため、図10(a)に示すように、時刻tsで溶接電流の通電を開始すると、まず、ワーク間の溶融メッキ層からの反射波成分Dが生じる。ワークW1,W2間のメッキ層はやがて蒸発してなくなるが、それと前後して母材の溶融が始まる。この場合、通電電流値が高く、溶融部が大きいとき、電極チップ11a,11b側へ熱が伝わり、電極チップ11a,11b側のメッキ層が溶けることがある。このため、図10(b)に示すように、電極チップ11a側の溶融メッキ層からの反射波成分Eが発生し、母材へ超音波パルスが入射しなくなるから、母材溶融部から反射するはずの反射波成分Bの強度のピークを検出することが不可能になる。
したがって、この場合、溶接電流の通電を停止する時刻t1を凝固時間Tの始期としている。すなわち、溶接電流の通電停止時には溶融部の大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。時刻t4で電極チップ11a,11b側のメッキ層からの反射がなくなると、母材溶融部からの反射波成分Bが現れるので、凝固時間Tの終期は、通常のワークの場合と同様、反射波成分Bの強度が閾値まで低下する時刻t2にすればよい。
続いて、図11に示すように、凝固時間Tを相関データと照合して溶融部Lの大きさを推定する。溶融部Lの大きさと凝固時間に関する相関データは、次のようにして作成する。すなわち、多数のワークに対し溶接条件(電流値や通電時間など)を変えてスポット溶接を行い、その都度、溶融部の凝固時間Tを計測し記録しておく。溶接されたワークの破壊検査を行い、溶融部の垂直及び水平断面から溶融部の大きさVを求める。そして、溶融部の大きさと凝固時間Tを対応させて相関データを作成する。
以上のように第1実施形態では、ワークW1,W2への超音波パルスの送信およびワークW1,W2内の溶融部Lからの反射波の受信を繰り返し行い、各超音波パルスに対応する反射波からなる反射波群を得る。各反射波の受信時には、超音波パルスのワークからの反射波の受信順を示す受信指標、反射波の経過時間、および、反射波の反射強度からなる座標データを得ている。このようにして得られた反射波群の各反射波の座標データに基づいて近似式Mを求め、その近似式Mに基づいて溶融部Lからの反射波成分Iを識別する。このようにワークW1,W2からの反射波のなかから溶融部Lからの反射波成分Iを識別するから、その識別された溶融部Lからの反射波成分Iを利用することができる。したがって、溶融部Lの大きさを正確に推測することができる。
特に、電極チップ11aの傾きがある場合、超音波パルスがワークW1,W2に対して斜めに入射するため、反射波成分の強度が低下するが、強度が最大になる第1時刻t1は変化しない。一方、強度の差は、反射波成分がその閾値まで低下する第2時刻t2での閾値付近ではほとんど生じないから、第2時刻t2での誤差は無視できるほど小さくなる。図7は、電極チップの傾きが反射強度に与える影響を説明するための図である。図7では、超音波が垂直に入射した場合の反射強度を実線、超音波が斜めに入射した場合の反射強度を一点鎖線で示している。図7に示すように、溶融部Lの凝固時間Tは変化しないので、ワークW1,W2に対する超音波パルスの入射角変化の影響を受けることなく、溶融部Lの大きさを正確に推定することができる。また、この場合、ワークW1,W2の温度変化の影響を受けることもない。
(2)第2実施形態
(2−1)第2実施形態の構成
第2実施形態は、溶融部の大きさの推定に溶融部からの反射波の代わりに溶融部からの透過波を利用する以外は、第1実施形態と同様である。図13は、本発明に係る第2実施形態の検査装置20のブロック図を示している。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には同符号を付し、その構成・作用の説明は省略する。
検査装置20では、図13に示すように、ワークW2の下側の電極チップ11bに、溶融部からの透過波を受信するセンサ17を設ける。センサ17は、たとえばセンサ12と同一径を有するとともに、ワークW1,W2に対してセンサ12とは対称な位置に配置されている。センサ12は、超音波送受信部13からのパルス信号を受けて横波の超音波パルスを発生する。センサ17では、溶融部からの透過波を受信し、その透過波を電気信号に変換して超音波送受信部13に送信する。透過波の信号は、超音波送受信部13で増幅され検出部14に送信される。
検出部14は、ワークW1,W2からの透過波の受信回を示す受信指標、透過波の経過時間、および、透過波の強度を検出するとともに、それらデータを判定部15に送信する。また、それらデータは記憶部16に記憶される。受信指標は、たとえば透過波の受信順番、透過波の受信時刻、透過波に対応する超音波パルスの送信順番、あるいは、透過波に対応する超音波パルスの送信時刻である。また、各透過波の強度は、それに対応する受信指標と経過時間とを軸とする座標系を用いて表示部(図示略)に2次元表示あるいは3次元表示される。
判定部15は、記憶部16に記憶された透過強度の閾値データと照合することにより、透過強度が閾値以上にある透過波成分を透過波成分群(抽出された透過波群)として抽出し、その透過波成分群の透過波成分の受信指標および経過時間のデータを用いて近似式を求め、その近似式を利用して溶融部からの透過波成分を識別する。この場合、記憶部16に記憶された受信指標および経過時間のそれぞれの範囲限定データを参照して、透過波成分群のなかから、受信指標および経過時間のそれぞれが所定範囲内にある透過波成分を抽出するが、その抽出は、近似式を求める前後のいずれかで行う。
そして、判定部15は、識別された溶融部からの透過波成分の強度が最小になる第1時刻と、その透過波成分の強度が所定値まで増加する第2時刻との差から溶融部の凝固時間を求め、その凝固時間を記憶部16に記憶された相関データと照合することにより溶融部の大きさを推定する。記憶部16には、透過波の強度閾値データ、受信指標および経過時間のそれぞれの範囲限定データ、および、溶融部の大きさと凝固時間に関する相関データが記憶されている。溶融部の大きさは、溶融部の直径や容積として得られる。
(2−2)第2実施形態の動作
次に、検査装置20を用いて溶融部の大きさを推定する方法について、おもに図14〜18を参照して説明する。なお、図17,18では、センサ17の図示を省略している。
第2実施形態では、検査装置20を用いて第1実施形態と同様にワークW1,W2のスポット溶接を行う。このようなスポット溶接では、センサ12は、ワークW1,W2への超音波パルスの送信を繰り返し、センサ17は、その超音波パルスに対応するワークW1,W2からの透過波の受信を繰り返し行う。これにより、各超音波パルスに対応する透過波からなる透過波群を得る。各透過波の受信時には、センサ12は、ワークW1,W2からの透過波の受信順番、透過波の経過時間、および、透過波の強度を検出している。検出時間は、おおよそ通電開始からガン開までの所定時間(たとえば0.5〜5秒)である。その間の受信回数は数十〜数百回である。
ここで、センサ12で検出されるワークW1,W2からの透過波には、溶融部Lからの透過波成分だけではなく、ノイズが含まれているから、次のように溶融部からの透過波成分を識別する。
まず、判定部15は、記憶部16に記憶された透過波の強度閾値データと照合することにより、図14に示すように、透過強度が閾値以上にある時刻を透過波成分群(抽出された透過波群)として抽出する。図14は、透過波の受信順番と経過時間とを軸とする座標系を用いて、閾値以上の透過強度を有する透過波成分群を2次元表示した一例を表す図である。なお、この場合、透過強度が閾値以上である時刻を透過波成分群として抽出せずに、図15に示すように、透過波の受信順番、経過時間、および、透過強度を軸とする座標系を用い、溶融部Lからの透過波成分Kを3次元表示することも可能である。
スポット溶接中に発生する透過波について説明する。通電開始前には、超音波パルスの全てがワークW1,W2を通過し、透過波成分Kは大きな強度を有するから、図14に示すように、透過波成分Kが抽出される。通電開始後には、ワークW1,W2における境界近傍の中央部に溶融部Lが形成されるから、溶融部Lにより超音波パルスの一部が反射され、透過波成分Kの強度が低下する。これにより、図14に示すように、透過波成分Kは徐々に抽出されなくなる。
溶融部Lの径がセンサ17のセンサ径を超える場合、センサ17は、ワークW1,W2におけるセンサ径を超える溶融部Lの両端部に対応する部分からの透過波を検出することができない。これにより、図14に示すように、透過波成分Kが抽出されない。一方、 溶融部Lの径がセンサ17のセンサ径を超えない場合、ワークW1,W2における溶融部Lを超える部分からの透過波を検出することができる。これにより、透過波成分Kの一部が抽出される。これにより、通電終了時には、透過波成分の強度が最小となる。
通電終了後には、溶融部Lの凝固が始まり、凝固部Mが形成され溶融部Lが縮小するから、溶融部Lの径がセンサ径以下になるとワークW1,W2におけるセンサ径以内の部分から超音波パルスが再び透過する。そして、時間の経過に従い、溶融部Lが縮小が進行するから、透過波の強度が大きくなる。これにより、透過波成分Kが徐々に抽出される。
時刻tuでの電極チップ11a,11bのワークW1,W2からの離間後(すなわち、ガン開後)には、超音波パルスはワークW1,W2を透過しないから、透過波成分Kが抽出されない。
このような透過強度のデータの表示では、透過波の波形の経時変化を確認することができるので、透過波成分の識別を容易に行うことができる。また、仮に溶融部Lに欠陥が存在する場合、それに起因したデータが表示されるから、溶融部Lにおける欠陥の存在を確認することができる。
続いて、判定部15は、記憶部16に記憶された受信順番および経過時間のそれぞれの範囲限定データを参照して、以上のように透過波群から抽出された透過波成分群のなかから、必要に応じて、受信順番および経過時間のそれぞれが所定範囲内にある透過波成分を抽出する。なお、このような透過波成分の抽出は、下記のような近似式Nを得た後に行ってもよい。
受信順番および経過時間に関する範囲限定データは、次のようにして作成する。すなわち、多数のワークに対し溶接条件(電流値や通電時間など)を変えてスポット溶接を行い、その都度、溶接電流の通電を停止する第1時刻t1、ワークW1,W2からの透過波の受信順番、超音波パルスの送信時刻から透過波の受信時刻までの経過時間、および、透過波の強度を検出する。そして、検出されたデータを用いて図14,15に示すようなデータ図を作成し、各透過波成分を特定することにより、溶融部からの透過波成分が発生する可能性の大きな受信順番の範囲および経過時間の範囲を範囲限定データとして作成する。そして、その範囲限定データを記憶部16に記憶しておく。
次に、図14に示すように、判定部15は、最小2乗法などの近似手法を用いて、以上のような透過波成分群の受信順番および経過時間のデータの近似式Nを得る。ここで、仮に近似式Nから所定距離d2以下にあるデータ(たとえば、点Rのデータ)がある場合には、そのデータは溶融部Lからの透過波成分Kのデータと判定され、近似式Nから所定距離d2より大きな距離にあるデータ(たとえば点Sのデータ)がある場合には、そのデータはノイズと判定され除外される。
以上のように、ワークW1,W2からの透過波のなかから溶融部Lからの透過波成分Kが識別される。図16は、溶融部Lから透過波成分Kの強度と溶接電流の経時変化を表す図である。図16では、実線Aは溶接電流の電流値、破線Fは溶融部Lからの透過波成分の強度を示している。図16に示すように、通電開始前(時刻tsより前)は、超音波パルスはワークW1,W2により反射されないから、このときの透過波成分の強度は最大である。時刻tsでの溶接電流の通電開始後、溶融部Lで超音波が反射されるから、透過波成分が減少する。溶融部Lの大きさが大きくなると、それに応じて透過波成分の強度が小さくなる。時刻t1で溶接電流の通電停止後、溶融部Lの凝固が始まり凝固部Mが形成され、透過波成分の強度は増加に転じる。すなわち、通電停止の時刻t1で溶融部Lの大きさが最大、透過波成分の強度が最小になる。溶融部Lの凝固が進行すると、それに応じて透過波成分の強度が大きくなる。溶融部Lの凝固が終了する時刻t3では、透過波成分の強度が再び最大となる。
溶接電流の通電を停止する時刻t1を始期(第1時刻)とし、透過波成分の強度が最大になる時刻t3を終期(第2時刻)として溶融部Lの凝固時間を算出する。ただし、時刻t3を終期とすると、ノイズの影響により計測誤差を生じ易くなる。そこで、透過波成分の最大強度よりも若干小さい閾値を設定し、透過波成分の強度が閾値まで達した時刻t2(第2時刻)を凝固時間の終期としてもよい。
この場合、凝固時間Tは真の値(t3−t1)よりも若干短くなるが、相関データの作成に際し、以上の値(t2−t1)を凝固時間として採用しておけば、溶融部の判定精度に対する影響はほとんどない。
なお、センサ17は、ワークW1,W2におけるセンサ径を超える部分からの透過波成分を検出することができないから、溶融部Lからの透過波成分の強度の検出限界は、第1実施形態の反射波の場合と同様に、センサ17のセンサ径に規定される。すなわち、センサ径が溶融部Lの最大径以上の場合、センサ17は、ワークWにおける溶融部Lに対応する全ての部分からの透過波を検出することができるので、センサ17は透過波成分の強度の最小値を検出することができる(図16の破線F)。したがって、この場合、上記のように透過波成分の強度が最小になる時刻t1を始期(第1時刻)として用いることができる。
一方、センサ径が溶融部Lの最大径より小さい場合、センサ17は、ワークW1,W2におけるセンサ径を超える溶融部Lの両端部に対応する部分からの透過波を検出することができない。この場合の透過強度の曲線は、センサ径が溶融部Lの最大径以上の場合の図16の破線Fに示す曲線を時間軸方向に向けて下方に平行移動したような曲線となり(図16の実線F’)、通電時に溶融部Lの径がセンサ径に一致してから通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致するまで、透過波成分の強度がゼロとなる。このように透過波成分の強度には、センサ径を超える溶融部の径の変化が反映されない。したがって、この場合、溶接電流の通電を停止する時刻t1を凝固時間Tの始期としている。溶接電流の通電停止時には溶融部Lの大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。この場合、通電終了後の冷却中に溶融部Lの径がセンサ径に一致する時刻t5を用い、凝固時間Tを(t5−t1)としてもよい。
また、ワークが亜鉛メッキ鋼板の場合、反射波を利用した第1実施形態と同様、溶接電流の通電を停止する時刻t1を凝固時間Tの始期としている。つまり、溶接電流の通電停止時には溶融部の大きさが最大に達しているので、この時を凝固時間Tの始期として用いることができる。
続いて、図11に示すように第1実施形態と同様に凝固時間Tを相関データと照合して溶融部Lの大きさを推定する。
以上のように第2実施形態では、超音波パルスのワークW1,W2からの透過波の受信順を示す受信指標、透過波の経過時間、および、透過波の透過強度からなる透過波群の各透過波の座標データに基づいて近似式Nを求め、その近似式Nに基づいて溶融部からの透過波成分Kを識別する。このようにワークW1,W2からの透過波のなかから溶融部Lからの透過波成分Kを識別するから、その識別された溶融部Lからの透過波成分Kを利用することができる。したがって、溶融部Lの大きさを正確に推測することができる。
特に、電極チップ11の傾きがある場合、超音波パルスがワークW1,W2に対して斜めに入射するため、溶融部Lからの透過波成分Kの強度が低下するが、透過波成分Kの強度が最小になる第1時刻t1は変化しない。一方、透過強度の差は、透過波成分Kがその閾値まで増加する第2時刻t2付近ではほとんど生じないから、第2時刻t2での誤差は無視できるほど小さくなる。すなわち、溶融部Lの凝固時間Tは変化しないので、ワークW1,W2に対する超音波パルスの入射角変化の影響を受けることなく、溶融部Lの大きさを正確に推定することができる。また、この場合、ワークW1,W2の温度変化の影響を受けることもない。
11a,11b…電極チップ、12,17…センサ、13…超音波送受信部、14…検出部、15…判定部、16…記憶部、A…溶接電流、B,B’…反射強度、F,F’…透過強度、L…溶融部、M…凝固部、W1,W2…ワーク、t1…第1時刻、t2…第2時刻、M,N…近似式、I…溶融部からの反射波成分、K…溶融部からの透過波成分