以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明が適用されるホイールローダ(作業車両)の外観を示す図である。図1において、ホイールローダ100は、車体前部101と車体後部102で構成され、車体前部101と車体後部102は、ステアリングシリンダ103により車体後部102に対して車体前部101の向きが変わるように相対回動自在に連結されている。車体前部101には、フロント作業装置104が設けられ、車体後部102には運転席106が設けられ、運転席106には操作レバー107、ハンドル108等の操作手段が設けられている。
フロント作業装置104は、バケット(作業具)111とブーム112を有し、バケット111は、バケットシリンダ113の伸縮によりチルト・ダンプ動作し、ブーム112はブームシリンダ114の伸縮により上下に動作する。ブーム112とブームシリンダ114は支持部115にピン結合され、支持部115と共にリンク機構を構成している。
図2は、本発明の一実施の形態に係わる変速制御装置を備えたホイールローダ(作業車両)100の走行システムの全体構成を概略的に示す図である。
図2において、ホイールローダ100の走行システムは、エンジン10、エンジンコントローラ85、トルクコンバータ11、トランスミッション12、前輪13及び後輪14を有している。エンジン10、エンジンコントローラ85、トルクコンバータ11及びトランスミッション12はホイールローダ100の車体後部102に搭載され、前輪13及び後輪14はそれぞれ車体前部101及び車体後部102に備えられ(図1参照)、エンジンコントローラ85により制御されるエンジン10で発生した動力をトルクコンバータ11及びトランスミッション12を介して前輪13及び後輪14に伝達し、走行を行う。
本実施の形態に係わる変速制御装置は、このようなホイールローダ100の走行システムに備えられるものであり、モードスイッチ21、初期化スイッチ22、調整停止スイッチ23、前後進切換スイッチ24、速度段変速スイッチ25の各種スイッチ類と、アクセルペダル60、ブレーキペダル61の各種ペダル類と、エンジン回転センサ26、トルコン出力回転センサ27、中間軸回転センサ28、トランスミッション出力軸回転センサ29の各種センサ類と、これらスイッチ類、ペダル類及びセンサ類からのスイッチ信号、ペダル信号及びセンサ信号を入力し、所定の演算処理を行う車体コントローラ30と、車体コントローラ30の処理結果に基づいて走行速度等の情報(後述)を表示する表示装置49と、車体コントローラ30の処理結果に基づいて作動するクラッチ切換電磁弁装置50と、車体コントローラ30及びエンジンコントローラ85と車体ネットワーク90を介して接続された情報蓄積コントローラ80とを備えている。
モードスイッチ21は例えば回転ダイヤル式であり、マニュアルモード位置と、複数のオート変速モード1〜3の各位置を有し、モードスイッチ21の位置の切り替えによりマニュアルモードとオート変速モード1〜3のいずれか1つを選択可能である。初期化スイッチ22はスイッチ操作部を押したときだけONとなるモーメンタリ動作のスイッチである。調整停止スイッチ23はスイッチ操作部を押す力を取り除いてもON状態を維持し、さらにもう一度押すとOFFとなるオルタネイト動作のスイッチである。
表示装置49はホイールローダ100の運転席106に装備されている(図1参照)。
図3は、クラッチ切換電磁弁装置50の構成の概要と、車体コントローラ30、情報蓄積コントローラ80及びエンジンコントローラ85の機能の概要を示すブロック図である。
クラッチ切換電磁弁装置50は、前進クラッチ切換電磁弁51、後進クラッチ切換電磁弁52、1速クラッチ切換電磁弁53、2速クラッチ切換電磁弁54、3速クラッチ切換電磁弁55、4速クラッチ切換電磁弁56を含む複数の電磁弁を有している。
車体コントローラ30は、モードスイッチ判定部31、初期化スイッチ判定部32、調整停止スイッチ判定部33、前後進スイッチ判定部34、速度段スイッチ判定部35、エンジン回転演算部36、トルコン出力回転演算部37、中間軸回転演算部38、トランスミッション出力軸回転演算部39、エンジン目標回転演算部70、ブレーキ圧力演算部71、速度比演算部40、車速演算部41、回転センサエラー判定部42、補正値記憶部43、変速タイミング記憶部44、トランスミッション変速制御部45、通信部73の各種機能を有している。
モードスイッチ21、初期化スイッチ22、調整停止スイッチ23からのスイッチ信号は、それぞれ、モードスイッチ判定部31、初期化スイッチ判定部32、調整停止スイッチ判定部33に入力され、前後進切換スイッチ24、速度段変速スイッチ25からのスイッチ信号は、それぞれ、前後進スイッチ判定部34、速度段スイッチ判定部35に入力され、中間軸回転センサ28からのパルス信号は中間軸回転数演算部38に入力される。判定部31〜33で判断されたモードスイッチ信号、初期化スイッチ信号、調整停止信号、判定部34,35で判断された前後進信号及び速度段信号、中間軸回転演算部38で演算された中間軸回転速度(回転数)はそれぞれ変速制御部45に入力される。
エンジン回転センサ26、トルコン出力回転センサ27からのパルス信号はエンジン回転演算部36及びトルコン出力回転演算部37に入力され、これら演算部36,37はそれぞれ回転速度(回転数)を演算し、その回転速度を速度比演算部40に入力する。速度比演算部40は、入力された回転速度から速度比を演算し、その速度比を変速制御部45に入力する。速度制御部45はこの速度比から走行の負荷を知ることができる。
トランスミッション出力軸回転センサ29からのパルス信号はトランスミッション出力軸回転演算部39に入力され、この演算部39でトランスミッション出力軸の回転速度(回転数)を演算し、その回転速度を車速演算部41に入力する。車速演算部41は、入力された回転速度から車速を演算し、その車速を変速制御部45に入力する。
前後進スイッチ判定部34、速度段スイッチ判定部35、エンジン回転演算部36、トルコン出力回転演算部37、中間軸回転演算部38、車速演算部41からの各種情報は回転数エラー判定部42に入力され、回転数エラー判定部42はそれら情報に基づいて回転センサ26〜29のエラー判定を行い、その判定結果を変速制御部45に入力する。
アクセルペダル60からのパルス信号はエンジン目標回転演算部70に入力され、エンジン目標回転演算部70はエンジン10の目標回転速度(回転数)を演算し、そのエンジン目標回転速度(回転数)を変速制御部45に入力する。
ブレーキペダル61からのパルス信号はブレーキ圧力演算部71に入力され、ブレーキ圧力演算部71はブレーキ圧を演算し、そのブレーキ圧を変速制御部45に入力する。
変速タイミング記憶部44には、変速モード1〜3のそれぞれに対し、変速ポイントごとに変速制御のしきい値の初期値(標準値)が記憶され、補正値記憶部43には、変速ポイントごとにしきい値の補正値(後述)が記憶されている。変速タイミング記憶部44には、変速制御のしきい値の初期値に補正値を加えた変速制御のしきい値も記憶される。
変速制御部45は、モードスイッチ21でマニュアルモードが選択されている場合は、クラッチ切換電磁弁装置50の電磁弁51〜56のうち、前後進切換スイッチ24及び速度段変速スイッチ25による前後進信号及び速度段信号に対応するものに指令信号を出力し、前後進制御と変速制御を行う。また、変速制御部45は、モードスイッチ21でオート変速モード1〜3のいずれか1つが選択されている場合は自動変速制御処理(後述)を行う。
通信部73は車体ネットワーク90と接続されており、この車体ネットワーク90を介してエンジンコントローラ85及び情報蓄積コントローラ80と情報のやり取りを行う。
すなわち、通信部73は、変速制御部45が入力した運転状況データを定期的(例えば0.1秒毎)に車体ネットワーク90に出力する。運転状況データには、例えば、モードスイッチ21、初期化スイッチ22、補正停止スイッチ23、前後進切換スイッチ24、速度段変速スイッチ25など各スイッチ類の操作信号、エンジン回転速度(回転数)、トルコン出力回転速度(回転数)、速度比、中間軸回転速度(回転数)、トランスミッション出力軸回転速度(回転数)、車速、目標エンジン回転、ブレーキ圧等の状態量、回転センサエラー判定結果などが含まれる。
また、通信部73は、車体ネットワーク90から自動変速制御のしきい値の補正値を定期的(例えば1.0秒毎)に受信し、変速制御部45に送る。
エンジン制御コントローラ85は、エンジン制御部87及び通信部86を備えている。エンジン制御部87は、通信部86を介して車体ネットワーク90からエンジン10の回転速度(回転数)とエンジン10の目標回転速度(回転数)を定期的(例えば1.0秒毎)に入力し、それを用いてエンジン10の燃料噴射量を制御することでエンジン10の出力トルクと回転数を制御する。通信部86は車体ネットワーク90と接続されており、この車体ネットワーク90からエンジン10の回転速度(回転数)とエンジン10の目標回転速度(回転数)を定期的(例えば1.0秒毎)に受信し、それをエンジン制御部87に送る。これによりエンジン制御コントローラ85はオペレータのアクセルペダル60の入力とエンジン負荷に応じてエンジン10の出力トルクと回転数を制御することができる。
情報蓄積コントローラ80は、情報記憶制御部82、頻度分布データ生成部83、補正値演算部84、通信部81を備えている。
情報記憶制御部82は、通信部81を介して車体ネットワーク90から運転状況データを定期的(例えば1.0秒毎)に入力し、その運転状況データをデータベースに記憶する。
頻度分布データ生成部83は、情報記憶制御部82のデータベースに記憶した運転状況データのうち、自動変速制御のしきい値の補正値を作成するのに必要なものを定期的(例えば1時間毎)に読み出し、それらの頻度分布データを作成し、記憶する。
補正値演算部84は、頻度分布データ生成部84で作成し、記憶した頻度分布データを定期的(例えば1.0秒毎)に読み出し、その頻度分布データを用いて自動変速制御のしきい値の補正値を作成する。
通信部81は車体ネットワーク90と接続されており、この通信部81は車体ネットワーク90から運転状況データを定期的(例えば1.0秒毎)に受信し、それを情報記憶制御部82に送るとともに、補正値演算部84で作成した自動変速制御のしきい値の補正値を定期的(例えば0.1秒毎)に車体ネットワーク90に出力する。
以上において、エンジン回転センサ26、トルコン出力回転センサ27、トランスミッション出力軸回転センサ29、コントローラ30、エンジン回転演算部36、トルコン出力回転演算部37、速度比演算部40、トランスミッション出力軸回転演算部39、車速演算部41、トランスミッション変速制御部45の図7に示すステップS10〜S90の処理機能(後述)、変速タイミング記憶部44、及び補正値記憶部43は、オート変速モードを有し、このオート変速モードにおいて、予め設定した変速制御のしきい値に基づいて変速装置12の変速段を切り換え、変速を行わせる自動変速制御手段を構成し、情報記憶制御部82は、作業車両の運転状況データを蓄積するデータ蓄積手段を構成し、頻度分布データ生成部83は、データ蓄積手段に蓄積した運転状況データを用いてその頻度分布データを作成するデータ処理手段を構成し、補正値演算部84、通信部81、車体ネットワーク90、通信部73、トランスミッション変速制御部45の図19に示すステップS520〜S580の処理機能(後述)、及び補正値記憶部43は、データ処理手段で作成した頻度分布データを分析してしきい値補正データを作成し、このしきい値補正データを用いてしきい値を補正するデータ分析補正手段を構成する。
次に、変速制御部45における自動変速制御処理の詳細と、情報蓄積コントローラ80の頻度分布データ生成部83及び補正値演算部84の処理内容の詳細を説明する。
まず、変速制御部45における自動変速制御処理について説明する。
<自動変速制御処理>
モードスイッチ21で複数のオート変速モード1〜3のいずれか1つが選択されると、変速制御部45は、変速タイミング記憶部44及び補正値記憶部43に記憶された変速制御のしきい値の初期値及び補正値のそれぞれについて、選択された変速モードに対応するものを読み出して変速制御のしきい値(初期値と補正値の加算値)を設定し、このしきい値と、車速演算部41からの車速情報及び速度比演算部40からの速度比情報、前後進切換スイッチ24及び速度段変速スイッチ25による前後進信号及び速度段信号とを用いて所定の演算処理を行い、その処理結果に基づいてクラッチ切換電磁弁装置50の電磁弁51〜56の対応するものに指令信号を出力して前後進制御と速度段制御を行う。
自動変速制御処理の概要を図4〜図6を用いて説明する。図4はオート変速モード1の場合のもの、図5はオート変速モード2の場合のもの、図6はオート変速モード3の場合のものである。図中、横軸は車速を示し、縦軸は変速段を示している。
<図4:オート変速モード1>
1.加速時
・始動時は速度段2にある。
・始動後、車速V>BU1かつ速度比α>Y1になると、速度段2から速度段3に変速する。
・車速>CU1かつ速度比α>Z1になると、速度段3から速度段4に変速する。
・下記減速時に速度段1に変速後は、車速V<AU1になると、速度段1から速度段2に変速する。
・AU1,BU1,CU1は変速制御の車速のしきい値(変速車速)であり、Y1,Z1は変速制御の速度比のしきい値(変速速度比)である。
2.減速時
・車速V≦CD1になると、速度段4から速度段3に変速する。
・車速V≦BD1になると、速度段3から速度段2に変速する。
・車速V≦AD1かつ速度比α<X1になると、速度段2から速度段1に変速する。
・AD1,BD1,CD1は変速制御の車速のしきい値であり、X1は変速制御の速度比のしきい値である。
<図5:オート変速モード2>
1.加速時
・始動時は速度段2にある。
・始動後、車速V>BU2かつ速度比α>Y2になると、速度段2から速度段3に変速する。
・車速>CU2かつ速度比α>Z2になると、速度段3から速度段4に変速する。
・BU2,CU2は変速制御の車速のしきい値であり、Y2,Z2は変速制御の速度比のしきい値である。
2.減速時
・車速V≦CD2になると、速度段4から速度段3に変速する。
・車速V≦BD2になると、速度段3から速度段2に変速する。
・BD2,CD2は変速制御の車速のしきい値である。
<図6:オート変速モード3>
1.加速時
・始動時は速度段2にある。
・車速V>BU3かつ速度比α>Y3になると、速度段2から速度段3に変速する。
・車速>CU3かつ速度比α>Z3になると、速度段3から速度段4に変速する。
・BU3,CU3は変速制御の車速のしきい値であり、Y3,Z3は変速制御の速度比のしきい値である。
2.減速時
・車速V≦CD3になると、速度段4から速度段3に変速する。
・車速V≦BD3になると、速度段3から速度段2に変速する。
・BD3,CD3は変速制御の車速のしきい値である。
自動変速制御処理の詳細を図7〜図11のフローチャートを用いて説明する。
図7は変速制御処理の全体を示すフローチャートである。
変速制御部45は、まず、車体ネットワーク90から通信部73を介して各オート変速モード1〜3の各変速ポイントそれぞれに対応する変速制御のしきい値の補正値(後述)を全て取得し、補正値記憶部43に格納する(ステップS2)。
補正値記憶部43に格納した変速制御の補正値を用いて変速制御の車速のしきい値を設定する(ステップS4)。変速制御の車速のしきい値の設定は次のように行う。まず、モードスイッチ21で選択されているオート変速モードに応じて変速タイミング記憶部44及び補正値記憶部43から車速のしきい値の初期値及び補正値を読み出す。次いで、
しきい値=初期値+補正値
の演算を行って、変速制御のしきい値を算出する。例えば、モード1の場合は、しきい値として、図4のAU1,BU1,CU1,AD1,BD1,CD1を算出し、モード2の場合は、しきい値として、図5のBU2,CU2,BD2,CD2を算出し、モード3の場合は、しきい値として、図6のBU3,CU3,BD3,CD3を算出する。
ここで、メーカ側が設定を提供した時点では、しきい値の補正値は0であり、しきい値の初期値としてメーカ側の推奨値(標準値)が設定されている。図4〜図6に示したオート変速モード1〜3のしきい値は、それぞれ、初期値の場合を示している。また、オート変速モード1〜3の速度比のしきい値、X1,Y1,Z1(図4)、Y2,Z2(図5)、Y3,Z3(図6)としては、メーカ側の推奨値(標準値)が記憶されている。
また、オート変速モード1〜3のそれぞれの変速ポイントごとに、しきい値の補正可能範囲が予め決められており、変速タイミング記憶部44には、モードスイッチ21で選択されているオート変速モードに応じて、変速段上げ側のしきい値として各変速ポイントの補正可能範囲の上限値が記憶され、変速段下げ側のしきい値として各変速ポイントの補正可能範囲の下限値が記憶されている。図4〜図6中、各速度段の変速ポイントに付されている左右の矢印は変速制御の車速のしきい値の補正可能範囲を示している。
次いで、変速制御部45は、速度段変速スイッチ25が指示する速度段(スイッチ速度段)が速度段1(1速)、速度段2(2速)、速度段3(3速)、速度段4(4速)のいずれであるかを判断し(ステップS10〜S40)、スイッチ速度段が1速である場合は1速変速制御処理を行い(ステップS10→S50)、スイッチ速度段が2速である場合は2速変速制御処理を行い(ステップS20→S60)、スイッチ速度段が3速である場合は3速変速制御処理を行い(ステップS30→S70)、スイッチ速度段が4速である場合は4速変速制御処理を行い(ステップS40→S80)、スイッチ速度段が1速〜4速のいずれでもない場合はエラー処理を行う(ステップS40→S90)。エラー処理では例えば強制的に2速変速制御処理を行う。
図8は、図7に示した1速変速制御処理の詳細を示すフローチャートである。1速変速制御処理では、現在の速度段(現速度段)が1速、2速、3速、4速のいずれであるかを判断し(ステップS100〜S130)、現速度段が4速である場合は、現在の車速が3速に変速してよい車速かどうか(4速から3速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定する(ステップS160)。現速度段は、変速制御部45が、現在、クラッチ切換電磁弁53〜56のうちのどの電磁弁に指令信号を出力しているかにより知ることができる。その判定結果がYESであれば、3速クラッチ切換電磁弁55へ指令信号を出力してトランスミッション12を3速に切り換え(ステップS162)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。
現速度段が3速である場合も、同様に、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が2速に変速してよい車速かどうか(3速から2速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS150)、この判定結果がYESであれば2速クラッチ切換電磁弁54へ指令信号を出力してトランスミッション12を2速に切り換え(ステップS152)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。
現速度段が2速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに係わらず、現在の車速が1速に変速してよい車速かどうか(2速から1速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS140)、YESであれば1速クラッチ切換電磁弁53へ指令信号を出力してトランスミッション12を1速に切り換え(ステップS142)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。現速度段が1速である場合は何もせず、図7のステップS2に戻る。現速度段が1速〜4速のいずれでもない場合は、例えばステップS90と同様のエラー処理を行う(ステップS130→S170)。
以上により速度段変速スイッチ25が1速にあるときの自動変速制御は、速度段が1速に収斂するように行われる。
図9は、図7に示した2速変速制御処理の詳細を示すフローチャートである。2速変速制御処理においても、現在の速度段が1速、2速、3速、4速のいずれであるかを判断し(ステップS200〜S230)、その判断結果に応じた変速処理を行う。この場合、現速度段が3速以上にあるときの処理内容は、1速変速制御処理と同じである。すなわち、現速度段が4速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が3速に変速してよい車速かどうか(4速から3速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS270)、YESであれば3速クラッチ切換電磁弁55へ指令信号を出力してトランスミッション12を3速に切り換え(ステップS272)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。現速度段が3速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が2速に変速してよい車速かどうか(3速から2速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS260)、YESであれば2速クラッチ切換電磁弁54へ指令信号を出力してトランスミッション12を2速に切り換え(ステップS262)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。
一方、現速度段が2速である場合は、モードスイッチ21の選択モードがオート変速モード1かどうかを判定し(ステップS250)、YESであれば、現在の車速が1速に変速してよい車速かどうか(2速から1速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)と、現在の速度比が1速に変速してよい速度比かどうか(2速から1速への変速ポイントの速度比しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS252,S254)、両方の判定結果がYESであれば1速クラッチ切換電磁弁53へ指令信号を出力してトランスミッション12を1速に切り換え(ステップS256)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。現在速度比は速度比演算部40の演算値により知ることができる。
また。現速度段が1速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに係わらず、現在の車速が2速に変速してよい車速かどうか(1速から2速への変速ポイントの車速しきい値より大きいかどうか)を判定し(ステップS240)、YESであれば2速クラッチ切換電磁弁54へ指令信号を出力してトランスミッション12を2速に切り換え(ステップS242)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。現速度段が1速〜4速のいずれでもない場合は、例えばステップS90と同様のエラー処理を行う(ステップS230→S280)。
以上により速度段変速スイッチ25が2速にあるときの自動変速制御は、速度段が2速以下となるように制御され、かつそのときの車速と速度比に応じて1速と2速の間で変速制御される。
図10は、図7に示した3速変速制御処理の詳細を示すフローチャートである。3速変速制御処理においても、現在の速度段が1速、2速、3速、4速のいずれであるかを判断し(ステップS300〜S330)、その判断結果に応じた変速処理を行う。この場合、現速度段が3速以上にあるときの処理内容は、1速変速制御処理と同じである。すなわち、現速度段が4速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が3速に変速してよい車速かどうか(4速から3速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS370)、YESであれば3速クラッチ切換電磁弁55へ指令信号を出力してトランスミッション12を3速に切り換え(ステップS372)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。現速度段が3速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が2速に変速してよい車速かどうか(3速から2速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS360)、YESであれば2速クラッチ切換電磁弁54へ指令信号を出力してトランスミッション12を2速に切り換え(ステップS362)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。
一方、現速度段が2速である場合は、モードスイッチ21の選択モードがオート変速モード1かどうかを判定し(ステップS350)、YESであれば、現在の車速が1速に変速してよい車速かどうか(2速から1速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)と、現在の速度比が1速に変速してよい速度比かどうか(2速から1速への変速ポイントの速度比しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS351,S352)、両方の判定結果がYESであれば1速クラッチ切換電磁弁53へ指令信号を出力してトランスミッション12を1速に切り換える(ステップS353)。また、ステップS350,S351での判定結果がNOである場合、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が3速に変速してよい車速かどうか(2速から3速への変速ポイントの車速しきい値より大きいかどうか)と、現在の速度比が3速に変速してよい速度比かどうか(2速から3速への変速ポイントの速度比しきい値より大きいかどうか)を判定し(ステップS354,S355)、両方の判定結果がYESであれば3速クラッチ切換電磁弁55へ指令信号を出力してトランスミッション12を3速に切り換える(ステップS356)それ以外の場合は何もせず、図7のステップS2に戻る。
また。現速度段が1速である場合は、2速変速制御の場合と同様の処理を行う。つまり、モードスイッチ21で選択したモードに係わらず、現在の車速が2速に変速してよい車速かどうか(1速から2速への変速ポイントの車速しきい値より大きいかどうか)を判定し(ステップS340)、YESであれば2速クラッチ切換電磁弁54へ指令信号を出力してトランスミッション12を2速に切り換え(ステップS342)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。現速度段が1速〜4速のいずれでもない場合は、例えばステップS90と同様のエラー処理を行う(ステップS330→S380)。
以上により速度段変速スイッチ25が3速にあるときの自動変速制御は、速度段が3速以下になるように制御され、かつそのときの車速と速度比に応じて1速と3速の間で変速制御される。
図11は、図7に示した4速変速制御処理の詳細を示すフローチャートである。4速変速制御処理においても、現在の速度段が1速、2速、3速、4速のいずれであるかを判断し(ステップS400〜S430)、その判断結果に応じた変速処理を行う。この場合、現速度段が4速にあるときの処理内容は、1速変速制御処理と同じである。すなわち、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が3速に変速してよい車速かどうか(4速から3速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS470)、YESであれば3速クラッチ切換電磁弁55へ指令信号を出力してトランスミッション12を3速に切り換え(ステップS472)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。
一方、現速度段が3速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が2速に変速してよい車速かどうか(3速から2速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS460)、YESであれば2速クラッチ切換電磁弁54へ指令信号を出力してトランスミッション12を2速に切り換え(ステップS462)、NOであれば、更に、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が4速に変速してよい車速かどうか(3速から4速への変速ポイントの車速しきい値より大きいかどうか)と、現在の速度比が4速に変速してよい速度比かどうか(3速から4速への変速ポイントの速度比しきい値より大きいかどうか)を判定し(ステップS464,S466)、両方の判定結果がYESであれば4速クラッチ切換電磁弁56へ指令信号を出力してトランスミッション12を4速に切り換え(ステップS468)、NOであれば、何もせず、図7のステップS2に戻る。
現速度段が2速である場合と1速である場合の処理は、3速変速制御の場合と同様である。すなわち、現速度段が2速である場合は、モードスイッチ21の選択モードがオート変速モード1かどうかを判定し(ステップS450)、YESであれば、現在の車速が1速に変速してよい車速かどうか(2速から1速への変速ポイントの車速しきい値より小さいかどうか)と、現在の速度比が1速に変速してよい速度比かどうか(2速から1速への変速ポイントの速度比しきい値より小さいかどうか)を判定し(ステップS51,S452)、両方の判定結果がYESであれば1速クラッチ切換電磁弁53へ指令信号を出力してトランスミッション12を1速に切り換える(ステップS453)。また、ステップS450,S451での判定結果がNOである場合、モードスイッチ21で選択したモードに応じて現在の車速が3速に変速してよい車速かどうか(2速から3速への変速ポイントの車速しきい値より大きいかどうか)と、現在の速度比が3速に変速してよい速度比かどうか(2速から3速への変速ポイントの速度比しきい値より大きいかどうか)を判定し(ステップS454,S455)、両方の判定結果がYESであれば3速クラッチ切換電磁弁55へ指令信号を出力してトランスミッション12を3速に切り換える(ステップS456)それ以外の場合は何もせず、図7のステップS2に戻る。
現速度段が1速である場合は、モードスイッチ21で選択したモードに係わらず、現在の車速が2速に変速してよい車速かどうか(1速から2速への変速ポイントの車速しきい値より大きいかどうか)を判定し(ステップS440)、YESであれば2速クラッチ切換電磁弁54へ指令信号を出力してトランスミッション12を2速に切り換え(ステップS442)、NOであれば何もせず、図7のステップS2に戻る。現速度段が1速〜4速のいずれでもない場合は、例えばステップS90と同様のエラー処理を行う(ステップS430→S480)。
このように速度段変速スイッチ25が4速にあるときの自動変速制御は、速度段が4速以下になるように制御され、かつそのときの車速と速度比に応じて1速と4速の間で変速制御される。
次に、情報蓄積コントローラ80の頻度分布データ生成部83及び補正値演算部84の処理内容の詳細を説明する。
情報記憶制御部82は、前述したように、通信部81を介して車体ネットワーク90から得た運転状況データをデータベースに記憶する。この情報記憶制御部82のデータベースに記憶した運転状況データには時間情報が含まれている。
頻度分布データ生成部83は、その情報記憶制御部82のデータベースに記憶した運転状況データのうち、自動変速制御のしきい値の補正値を作成するのに必要なものを定期的(例えば1時間毎)に読み出し、それら運転状況データの頻度分布データを作成し記憶する。
ここで、頻度分布データとは、情報記憶制御部82のデータベースから読み出した一定時間分(例えば、100時間分)の運転状況データに対して、運転データの種類ごとに、ある大きさに設定された複数の目盛り範囲ごとに各データが出現する時間を集計し、その時間を上記一定時間分(例えば、100時間分)に対する割合として示したものである。
また、本実施の形態では、ブレーキ部品の負荷を減らすよう自動変速制御のしきい値を補正するため、車速とブレーキ圧の頻度分布をそれらの相関として作成する。
図12は頻度分布データ生成部83の処理内容の詳細を示すフローチャートである。
頻度分布データ生成部83は、まず、運転状況データの蓄積開始後、初めての頻度分布データ作成であるかどうかを判断する(ステップS600)。ステップS600での判定結果がYESである場合、情報記憶制御部82から受け取った運転状況データが100時間分あるかどうかを判断し(ステップS610)、YESであれば、運転状況データから頻度分布データを作成し、NOであればステップS600に戻る。また、ステップS600での判定結果がNOである場合、前回の頻度分布データ作成から1時間以上経過したかどうかを判断し、YESであれば、運転状況データから頻度分布データを作成し、NOであればステップS600に戻る。
図13〜図15は、頻度分布データのうち、車速とブレーキ圧に関する頻度分布データで速度段が4速である場合の頻度分布データの一例を表形式で示す図であり、図13はブレーキ圧の頻度分布が低いブレーキ圧側に偏っている場合の例を、図14はブレーキ圧の頻度分布が中間(目的とする頻度分布)の場合の例を、図15はブレーキ圧の頻度分布が高いブレーキ圧側に偏っている場合の例をそれぞれ示している。図13〜図15において、各図の左部には複数の車速範囲が示されており、下方に行くほど速い車速範囲を示している。また、上部にはブレーキ圧範囲が示されており、より右方のブレーキ圧範囲ほど高いブレーキ圧を示している。各速度範囲及び各ブレーキ圧範囲にはその範囲に該当するデータの頻度(%)が示されており、例えば、図13において、車速範囲が27.5〜29.9(km/h)であり、ブレーキ圧範囲が1.6〜1.8(MPa)である場合の頻度は2.6(%)である。
図16〜図18はそれぞれ図13〜図15に示した頻度分布データをグラフ形式で示した図である。図14に対応する図17(ブレーキ圧の頻度分布が中間(目的とする頻度分布)の場合)では、ブレーキ圧の頻度分布がほぼ中央にある。これに対し、図13に対応する図16では、ブレーキ圧の頻度分布が低い側に偏っており、図15に対応する図18では、ブレーキ圧の頻度分布が高い側に偏っている。これは、速度段4速での走行時(比較的高速での走行時)において、図13の頻度分布を示す場合は、シフトダウンする車速が速すぎることにより、操作者が意図するよりも速い速度でエンジンブレーキがかかってしまうので、走行速度が遅くなり効率が悪くなると共に、操作フィーリングが悪くなることを示しており、図15の頻度分布を示す場合は、強くブレーキをかける必要があり、ブレーキ部品にかかる負荷が高いことを示している。
本実施の形態では、図16(図13)及び図18(図15)に示した頻度分布を図17(図14)に示した頻度分布(目的とする頻度分布)に近づけ、ブレーキ圧を低減するための自動変速制御のしきい値の補正値を算出する。
自動変速制御のしきい値の補正値の演算処理の詳細を図19〜図23を用いて説明する。
図19は、補正値の演算処理のうち、速度段3速と4速の間のしきい値の演算に用いる補正値の演算処理を例にとり示すフローチャートである。
補正値演算部84は、まず、調整停止スイッチ23がON状態であるかどうか判断する(ステップS500)。
調整停止スイッチ23は、自動変速制御のしきい値の補正値の調整を停止するものであり、YESであれば、しきい値の補正値として前回補正値を出力してステップS500に戻り、NOであれば、初期化スイッチ22がON状態であるかどうかを判断する。初期化スイッチ22は、自動変速制御のしきい値の補正値を初期化する(調整開始前の値に戻す)ものであり、YESであれば、しきい値の補正値をクリアし(すなわち、補正値=0とし)、NOであれば、補正時間に達したかどうか(すなわち、前回の補正値演算時から一定の時間(例えば1時間)が経過したかどうか)を判定し(ステップS520)、NOであれば、しきい値の補正値として前回補正値を車体ネットワーク90を介して変速制御部45に出力してステップS500に戻り、YESであれば、速度段2から速度段3及び速度段3から速度段2への変速ポイントのしきい値(図4におけるBU1,BD1)の補正値を調整するための調整値((2−3)(3−2)変速調整値)を演算し(ステップS530)、次に、速度段3から速度段4及び速度段4から速度段3への変速ポイントのしきい値(図4におけるCU1,CD1)の補正値を調整するための調整値((3−4)(4−3)変速調整値)を演算する(ステップS540)。
次に、(2−3)(3−2)変速調整値について、前回の補正値演算時に演算した補正値(前回補正値)にステップS530で演算した調整値を加えて今回補正値とし(ステップS550)、ステップS550で演算した今回補正値が、予め設定した最大値よりも大きいかどうかを判定し(ステップS552)、YESであれば最大値を補正値に設定し(ステップS556)、NOであればステップS550で演算した今回補正値を補正値に設定する(ステップS554)。
次に、(3−4)(4−3)変速調整値について、前回の補正値演算時に演算した補正値(前回補正値)にステップS540で演算した調整値を加えて今回補正値をとし(ステップS560)、ステップS560で演算した今回補正値が、予め設定した最大値よりも大きいかどうかを判定し(ステップS562)、YESであれば最大値を補正値に設定し(ステップS566)、NOであればステップS560で演算した今回補正値を補正値に設定する(ステップS564)。
次に、ステップS530〜ステップS566で演算した全ての補正値を車体ネットワーク90に出力し(ステップS570)、補正時間をクリアする(ステップS580)。
図20及び図21は、図19に示したステップS530及びステップS540における(2−3)(3−2)変速調整値演算処理及び(3−4)(4−3)変速調整値演算処理の詳細を示すフローチャートである。
図21に示した(3−4)(4−3)変速調整値演算処理においては、まず、速度段4速使用時の車速とブレーキ圧の頻度分布データ(図13,14,15)において、各車速範囲毎にブレーキ圧の頻度を合計し(ステップS541)、各ブレーキ圧範囲毎に車速の頻度を合計する(ステップS542)。例えば、図13で示した頻度分布データでは、各車速範囲ごとのブレーキ圧の頻度の合計は右部に、各ブレーキ圧範囲ごとの車速の頻度の合計は下部に示されている。図14及び図15においても同様である。
次に、ブレーキ圧の頻度の合計が最大となる車速範囲を選択し(ステップS543)、車速の頻度の合計が最大となるブレーキ圧範囲を選択する(ステップS544)。図13において、車速の頻度の合計が最高となる車速範囲は図中*印で示す27.5〜29.9(km/h)であり、その値は図中*印で示す10.2(%)である。同様に、ブレーキ圧の頻度の合計が最高となるブレーキ圧範囲は1.6〜1.8(MPa)であり、その値は1.2(%)である。図14において、車速の頻度の合計が最高となる車速範囲は図中*印で示す30〜32.4(km/h)で、その値は図中*印で示す11.1(%)であり、ブレーキ圧の頻度の合計が最高となるブレーキ圧範囲は2.8〜3.0(MPa)で、その値は1.2(%)である。図15において、車速の頻度の合計が最高となる車速範囲は図中*印で示す32.5〜34.9(km/h)で、その値は図中*印で示す11.3(%)であり、ブレーキ圧の頻度の合計が最高となるブレーキ圧範囲は4.1〜(MPa)で、その値は16(%)である。
次に、ステップS543で選択した車速範囲とステップS544で選択したブレーキ圧範囲を用い、(3−4)(4−3)変速調整値決定用の調整値マップ(後述)に基づいて、(3−4)(4−3)変速の調整値を決定する(ステップS545)。
図20に示した(2−3)(3−2)変速調整値演算処理においても、上述した(3−4)(4−3)変速調整値演算処理と同様の処理を行う。
すなわち、(2−3)(3−2)変速調整値演算処理では、まず、速度段3速使用時の車速とブレーキ圧の頻度分布データ(図示せず)において、各車速範囲ごとにブレーキ圧の頻度を合計し(ステップS531)、各ブレーキ圧範囲毎に車速の頻度を合計する(ステップS532)。次に、ブレーキ圧の頻度の合計が最大となる車速範囲を選択し(ステップS533)、車速の頻度の合計が最大となるブレーキ圧範囲を選択する(ステップS534)。次に、ステップS533で選択した車速範囲とステップS534で選択したブレーキ圧範囲を用い、(2−3)(3−2)変速調整値決定用の調整値マップ(図示せず)に基づいて、速度段2と速度段3の間の自動変速制御のしきい値の補正値の調整値を演算する(ステップS535)。
図22及び図23は、頻度分布データから自動変速制御のしきい値の補正値を調整するための調整値を求めるために用いる調整値マップの一例であり、図22は車速の頻度分布データとブレーキ圧の頻度分布データから速度段4速から3速への自動変速制御のしきい値の補正値の調整値を求めるためのものであり、図23は速度段3速から4速への自動変速制御のしきい値の補正値の調整値を求めるためのものである。図22及び図23はそれぞれ、上部にブレーキ圧範囲、左部に車速範囲が示されており、図21のステップS543及びステップS544で選択したブレーキ圧の範囲及び車速の範囲から速度段4速から3速への自動変速制御のしきい値の補正値の調整値を決定する。たとえば、図13に示した頻度分布データにおいて、車速の頻度の合計が最高となる車速範囲は図中*印で示す27.5〜29.9(km/h)であり、ブレーキ圧の頻度の合計が最高となるブレーキ圧範囲は1.6〜1.8(MPa)であるので、図22及び図23における−2.0が調整値として決定される。図14及び図15の頻度分布データの場合も同様にして調整値を決定する。すなわち、図14に示した頻度分布データにおいては、車速の頻度の合計が最高となる車速範囲は図中*印で示す30〜32.4(km/h)であり、ブレーキ圧の頻度の合計が最高となるブレーキ圧範囲は2.8〜3.0(MPa)であるので、図22及び図23における0が調整値として決定される。また、図15に示した頻度分布データにおいては、車速の頻度の合計が最高となる車速範囲は図中*印で示す32.5〜34.9(km/h)であり、ブレーキ圧の頻度の合計が最高となるブレーキ圧範囲は4.1〜(MPa)であるので、図22及び図23における+2.5が調整値として決定される。
なお、速度段3速と4速の間の自動変速制御のしきい値の補正値の調整値を求めるために、速度段4速の場合の頻度分布データ(図13,14,15)と、速度段4速から3速への変速ポイント調整値マップ(図22)及び速度段3速から4速への変速ポイント調整値マップ(図23)を用いる場合を例にとり説明したが、速度段3速と2速の間の自動変速制御のしきい値の補正値の調整値を求める場合も同様である。すなわち、速度段3の場合の頻度分布データ、速度段3速から2速への変速ポイント調整値マップ及び速度段2速から3速への変速ポイント調整値マップを用いて同様の処理を行うことにより、自動変速制御のしきい値の補正値の調整値を演算する。
また、図19に示したフローチャートでは、速度段2速と3速及び速度段3速と4速の間の自動変速制御のしきい値の補正値を演算する場合について説明したが、例えば、速度段1速と2速の間の自動変速制御のしきい値の補正値を演算する場合においても同様である。
以上のように構成した本実施の形態においては、作業車両の運転状況データを蓄積し、その運転状況データを頻度分布データ化し、その頻度分布データを分析し、しきい値を補正するので、作業現場の状況に応じて適切に変速制御のしきい値の補正値を補正することが可能となり、これによりあらゆる作業現場に対して最適な変速制御を行うことができる。
また、本実施の形態においては、蓄積した運転状況データを用いて車速とブレーキ圧に関する頻度分布データを作成し、この頻度分布データを分析してしきい値補正データを作成するので、作業現場の状況に応じてブレーキ操作頻度と車速との関係を最適化することが可能となり、これによりブレーキ部品の負荷を減らし、ブレーキ部品の寿命を延長するとともに、良好な走行操作フィーリングを得ることができる。
すなわち、自動変速制御において、速度段4速の頻度分布データが図15及び図18に示したように、ブレーキ圧の頻度分布が高い側に偏っている場合には、ブレーキ部品(制動関係の部品)への負担が大きい。このような場合においては、前述したように、速度段3速と4速の間のしきい値(CD1,CU1)の補正値の調整値は、それぞれ+2.5Km/hと算出される。例えば前回の補正値が0である場合には速度段3速と速度段4速の間のしきい値もそれぞれ+2.5Km/h加算される。つまり、補正値を調整する前のしきい値ではCD1が15Km/hであり、車速が15Km/h以下にならないと速度段4から速度段3へ変速しないのに対し、補正値を調整した後のしきい値は、+2.5Km/h加算され17.5Km/hとなり、車速が17.5Km/h以下になると速度段4から速度段3へ変速するので、より高い速度で速度段4から速度段3へ変速するようになる。これにより、より高い車速でエンジンブレーキが効くようになり、ブレーキ部品(制動関係の部品)への負担を軽減することができる。
また、速度段4速の頻度分布データが図13及び図16に示したように、ブレーキ圧の頻度分布が低い側に偏っている場合には、シフトダウンする車速が速すぎることにより、操作者が意図するよりも速い速度でエンジンブレーキがかかってしまうので、走行速度が遅くなり効率が悪くなると共に、操作フィーリングが悪くなる。このような場合においては、前述したように、速度段3速と4速の間のしきい値(CD1,CU1)の補正値の調整値は、それぞれ−2.0Km/hと算出される。例えば前回の補正値が0である場合には速度段3速と速度段4速の間のしきい値もそれぞれ−2.0Km/h加算される。つまり、補正値を調整する前のしきい値ではCD1が15Km/hであり、車速が15Km/h以下になると速度段4から速度段3へ変速するのに対し、補正値を調整した後のしきい値は、−2.0Km/h加算され13.0Km/hとなり、車速が13.0Km/h以下にならないと速度段4から速度段3へ変速しないので、より低い速度で速度段4から速度段3へ変速するようになる。これにより、より低い車速でエンジンブレーキが効くようになり、良好な走行操作フィーリングが得られる。
更に、本実施の形態においては、運転状況データの蓄積開始から、予め設定した一定時間(100時間)経過するまでは自動変速制御のしきい値の補正値の調整を行わないので、少ない運転状況データを基にして自動変速制御のしきい値の補正値の調整を行うことによる誤差を無くすことができ、その作業現場に合った調整を行うことができる。
また、本実施の形態においては、ブレーキ圧の頻度分布が低い場合において、車速の頻度分布データとブレーキ圧の頻度分布データを用いることにより、ブレーキ圧の頻度分布を所望の頻度分布に近づけることができるので、より低い速度で自動変速制御の速度段がシフトアップするようにでき、燃費を向上することができる。
すなわち、自動変速制御において、速度段4速の頻度分布データが図13(ブレーキ圧が低い)に示すような分布を示す場合には、しきい値の補正値の調整値は−2.0Km/hと算出されるので、したがって、補正値は−2.0Km/hされ、速度段3速と速度段4速の間のしきい値も−2.0Km/h加算される。つまり、補正値の調整前は、車速がしきい値CU1(例えば17Km/h)を越え、速度比がしきい値Z1(例えば0.8)を越えると、速度段3から速度段4への変速が行われていたのに対し、補正値の調整後は、しきい値CU1は−2.0Km/h加算され15.0Km/hとなり、より低い速度で速度段が3速から4速へ変速する。これにより、燃費を向上することができる。
更に、本実施の形態においては、調整停止スイッチ23により、自動変速制御のしきい値の補正値の調整を停止することができるので、自動変速制御のしきい値を維持することができ、したがって、操作者が操作フィーリングを維持することができる。
また、本実施の形態においては、初期化スイッチ22により、自動変速制御のしきい値の補正値を初期化することができるので、作業現場が変わることによって運転状況が著しく変わった場合においても、新しい作業現場に合わない、前の作業現場での補正値を用いた自動変速制御のまま作業を行う必要がなく、メーカが提供する自動変速制御のしきい値の初期値から新たに始めて、新しい作業現場に合った自動変速制御のしきい値の補正値の調整を開始することができる。