しかしながら、従来の注射器には、以下の問題が生じる。
特許文献1に記載されている注射器では、架橋ブリッジ133が受部131の内壁面に対して垂直になるように形成されている。すなわち、架橋ブリッジ133が受部131の内壁面に対して延びる付根部分が、該受部131の内壁面に対して垂直になっている。このような受部131を射出成型により製造する場合、架橋ブリッジ133が受部131の内壁面に対し垂直になっているので、受部131の内壁に相当する部分に流れ込んだ樹脂材料は、架橋ブリッジ133に相当する部分に流れ込みにくくなる。このため、上記の架橋ブリッジ133における成型性が不十分になり、架橋ブリッジ133に十分な強度が得られない場合がある。それゆえ、注射器の流通中(例えば注射器の運搬時)に振動が加わることで、架橋ブリッジ131の強度が弱まり、場合によってはひびが入ることになる。このような注射器を使用すると、薬液を投与する最中に、架橋ブリッジ133が破断してしまうという問題が起こる。また、流通時にすでに架橋ブリッジ133が破断してしまうという問題が生じる。
また、架橋ブリッジ133において、内壁面に対し垂直になっている角の部分に衝撃が集中するので、保管中や流通中に架橋ブリッジ133が破損しやすく問題がある。
また、特許文献1に記載されている注射器では、図17(b)に示すように、投与後の押圧部132を押し込み操作により、破断した架橋ブリッジ断片133’が付根部に残る。そして、押圧部132の押し込み操作中に、この架橋ブリッジ断片133’が押圧部131と受部132との間隙に入り込んでしまう。その結果、投与後に押圧部132を押し込む際に、この架橋ブリッジ133’が抵抗となって、押圧部132が軸方向先端部へスムーズに移動しなくなる。それゆえ、投与後に押圧部132を押し込みにくくなるという問題が生じる。
以上のように、従来の注射器には、(1)流通中または投与中に架橋ブリッジ133が破断してしまう、(2)投与後に押圧部131を押し込みにくくなる、といった問題が生じる。
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、流通中または投与中に破断せず、投与後にスムーズに押し込むことが可能な架橋ブリッジを有する注射器及びプランジャロッドを提供することにある。
本発明の注射器は、上記の課題を解決するために、先端に注射針を取付け可能でかつ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に上記ピストンが取り付けられかつ後端部が上記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、上記シリンジの外周側に設けられるケーシングとを備え、上記ケーシングは、その先端部よりも上記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により上記注射針の外周を覆う第2位置に向けて上記シリンジに対して軸方向移動可能であり、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記架橋ブリッジの破断により移動可能になった第2軸部がシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込まれることにより、該第2軸部とともに上記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、上記ケーシングに後方から当接する当接部が第2軸部に設けられた注射器であって、上記挿通孔の内壁には、破断した架橋ブリッジを収容する第1窪部が形成されていることを特徴としている。
本発明の注射器は、先端に注射針を取付け可能でかつ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に上記ピストンが取り付けられかつ後端部が上記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、上記シリンジの外周側に設けられるケーシングとを備えるというものである。なお、シリンジの先端には予め注射針が固定されていてもよく、使用時に注射針アタッチメントを装着していてもよい。上記シリンジ内には注射液が収容されており、その後部が上記ピストンにより、液密状にシールされている。
上記の構成によれば、上記ケーシングは、その先端部よりも上記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により上記注射針の外周を覆う第2位置に向けて上記シリンジに対して軸方向移動可能であるので、上記ケーシングが第1位置にある場合には、注射針が突出した状態になる一方、上記ケーシングが第2位置にある場合、注射針の外周が覆われ、ケーシングにより収容された状態になる。
上記の構成によれば、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記第2軸部に当接する架橋ブリッジが形成されている。そして、ピストンが先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在である。すなわち、上記架橋ブリッジは、ピストンが先端に移動するまでの間(注射液がシリンジ内に収容されている間)は破断されないようになっている。このため、ピストンが先端に移動するまでの間では、第2軸部が軸方向先端側に押し込まれることにより、力が上記架橋ブリッジに伝わり、この架橋ブリッジを介してピストンに力が伝わり、移動するようになっている。
また、ピストンが先端に移動した後(シリンジ内の注射液を注射し終わった後、すなわち投与後)、さらに第2軸部が押し込まれる(付勢する)ことにより架橋ブリッジが破断する。そして、架橋ブリッジが破断後、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動自在になる。このとき、第2軸部が軸方向先端側に押し込まれることにより、力は架橋ブリッジの破断により、ピストンには伝わらず、第2軸部にのみ伝えられることになる。
そして、このように移動可能になった第2軸部がシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込まれることにより、当接部が上記ケーシングに後方から当接する。これにより、力は、上記ケーシングの後端に伝わり、上記ケーシング及び第2軸部が、上記シリンジに対して軸方向に移動する。そして、ケーシングが上記第1位置から上記第2位置へ移動したとき、注射針の外周を覆い、ケーシングにより注射針が収容された状態になる。
本発明の注射器によれば、このような注射器において、さらに、上記挿通孔の内壁には、第1窪部が形成されており、この第1窪部に破断した架橋ブリッジが収容される。すなわち、架橋ブリッジの破断により移動可能になった第2軸部を、シリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込むに際し、破断した架橋ブリッジ断片が、上記第1窪部に収容されるようになる。このため、従来の注射器のように、破断した架橋ブリッジが挿通孔と第2軸部との間隙に入り込み、薬液投与後に第2軸部を押し込む際に、破断した架橋ブリッジが抵抗となることがない。その結果、本発明では、上記(2)の問題を招来せず、投与後にプランジャロッドを押し込む際に、第2軸部が軸方向先端部へスムーズに移動し、投与後にプランジャロッドを押し込みやすくなる注射器を提供することができる。
また、上記第1窪部は、上記架橋ブリッジから該架橋ブリッジが押し込まれる方向に向かって、形成されていることが尚好ましい。これにより、破断した架橋ブリッジがよりスムーズに第1窪部に収容されるようになる。
なお、架橋ブリッジが押し込まれる方向は、第1軸部と第2軸部との挿通状態により異なっている。第1軸部に第2軸部が挿通する挿通孔が形成されている場合、架橋ブリッジは、軸方向先端に向かって押し込まれることになる。一方、第2軸部に第1軸部が挿通する挿通孔が形成されている場合、架橋ブリッジは、軸方向後端に向かって押し込まれることになる。
本発明の注射器は、上記の課題を解決するために、先端に注射針を取付け可能でかつ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に上記ピストンが取り付けられかつ後端部が上記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、上記シリンジの外周側に設けられるケーシングとを備え、上記ケーシングは、その先端部よりも上記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により上記注射針の外周を覆う第2位置に向けて上記シリンジに対して軸方向移動可能であり、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記架橋ブリッジの破断により移動可能になった第2軸部がシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込まれることにより、該第2軸部とともに上記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、上記ケーシングに後方から当接する当接部が第2軸部に設けられた注射器であって、上記架橋ブリッジには、その幅が上記挿通孔の内壁に近づくに従い大きくなり、かつ、上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを滑らかに結ぶように曲面が形成されているとともに、上記他方の軸部が当接する当接面よりも大きい平坦面が形成されていることを特徴としている。なお「上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを滑らかに結ぶ」とは、上記挿通孔の内壁から架橋ブリッジに渡って、その曲面に接する接面の傾きが連続的に上記平坦面の傾きに近づくように上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを結ぶことをいう。
上記の構成によれば、上記架橋ブリッジには、その幅が上記挿通孔の内壁に近づくに従い大きくなり、かつ、上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを滑らかに結ぶように曲面が形成されており、従来の注射器と比較して、架橋ブリッジは挿通孔の内壁面に対して垂直になるように形成されていない。このため、上記架橋ブリッジは、上記曲面により補強される。それゆえ、本発明では、上記(1)の問題を招来せず、流通時の運搬による落下あるいは振動に対して、架橋ブリッジの強度が強くなり、流通時にすでに架橋ブリッジが破断してしまうことがない。
さらに、上記の構成によれば、第1軸部を射出成型により成型する場合、上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとは垂直ではなく、滑らかに結ぶようになっているので、挿通孔の内壁に相当する部分に流れ込んだ材料が、架橋ブリッジに相当する部分に流れ込みやすくなる。このため、架橋ブリッジにおける曲面部分の成型性が良好になり、架橋ブリッジに十分な強度が得られる。
なお、上記曲面において、第2軸部を押し込む方向における幅を挿通孔の内壁に近づくに従い大きくすると、より一層架橋ブリッジの落下衝撃に対する強度が強まるので有効である。
さらに、上記の構成によれば、上記架橋ブリッジには、上記他方の軸部が当接する当接面よりも大きい平坦面が形成されている。すなわち、架橋ブリッジの平坦面には、上記当接面以外に上記他方の軸部と当接しない非当接面が存在する。
以下、本発明の構成について、上記第1軸部に上記第2軸部が挿通し、第1軸部に挿通孔が設けられた構成について説明する。この場合、架橋ブリッジは、第2軸部と当接していることになる。
この構成によれば、プランジャロッドを軸方向先端部側へ押し込み、第2軸部が当接する当接面に力が加わると、上記曲面の強度が強いため破断することがない。また、当接面では、該当接面と第2軸部との間の摩擦により、一様に力が働いている一方、その摩擦力の反作用により、破断しにくくなり軸方向先端部側へ伸びて押し込まれる。これに対して、非当接面では、当接による摩擦力が働かないため、第2軸部の軸方向先端部側への押し込みによる力がそのまま掛かることになる。また、非当接面には、当接面が軸方向先端部側へ伸びることにより、応力が集中する。そして、架橋ブリッジが非当接面で破断することになる。このように、架橋ブリッジに非当接面を形成することで、投与後の第2軸部の軸方向先端部側への押し込みにより、非当接面で架橋ブリッジが破断することになる。
なお、第2軸部に第1軸部が挿通する場合(架橋ブリッジが第1軸部に当接する場合)についても上記と同様の効果を奏する。
このように、上記の構成では、架橋ブリッジに、強度の強い曲面と上記非当接面とが形成されていることで、投与時あるいは流通時に架橋ブリッジが破断しない一方、投与後の第2軸部の押し込み時に架橋ブリッジが破断するという相反する特性を実現している。また、本発明の注射器では、上記曲面が円弧状壁面であることが好ましい。
「円弧状壁面」とは、架橋ブリッジが挿通孔の内壁を架橋する方向に破断したときの断面が円弧を含むような曲面のことをいう。より具体的には、例えば円柱の側面の一部を切り取ったような形状である。
また、本願発明者は、薬液投与中に破断せず、かつ、薬液投与後に容易に破断しうる、上記(1)の問題を解決するような架橋ブリッジの破断強度の設定について鋭意検討した結果、架橋ブリッジの破断強度が15.7N以上34.3N以下であることが好適であることを見出し、本発明に至った。なお、ここでいう「破断強度」とは、第1軸部あるいは第2軸部を押し込むことにより、架橋ブリッジが分離するときに加えられた荷重のことである。
すなわち、本発明の注射器は、上記の課題を解決するために、先端に注射針を取付け可能でかつ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に上記ピストンが取り付けられかつ後端部が上記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、上記シリンジの外周側に設けられるケーシングとを備え、上記ケーシングは、その先端部よりも上記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により上記注射針の外周を覆う第2位置に向けて上記シリンジに対して軸方向移動可能であり、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記架橋ブリッジの破断により移動可能になった第2軸部がシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込まれることにより、該第2軸部とともに上記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、上記ケーシングに後方から当接する当接部が第2軸部に設けられた注射器であって、上記架橋ブリッジの破断強度が15.7N以上34.3N以下であることを特徴としている。
本発明の別の態様として、以下のものをあげることができる。すなわち、本発明の注射器は、上記の課題を解決するために、先端に注射針を取付け可能でかつ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に上記ピストンが取り付けられかつ後端部が上記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、上記シリンジの外周側に設けられるケーシングとを備え、上記ケーシングは、その先端部よりも上記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により上記注射針の外周を覆う第2位置に向けて上記シリンジに対して軸方向移動可能であり、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンが先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記架橋ブリッジの破断により移動可能になった第2軸部がシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込まれることにより、該第2軸部とともに上記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、上記ケーシングに後方から当接する当接部が第2軸部に設けられた注射器であって、上記第1軸部と第2軸部との何れか一方に、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を一時的に係止し上記架橋ブリッジへの当接を防止する一時係止部が設けられていることを特徴としている。
上記の構成によれば、一時係止部は、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を一時的に係止し、架橋ブリッジへの当接を防止する機能を有するものである。このような構成にすることにより、流通時の運搬による落下あるいは振動に対して、一時係止部が、第2軸部の軸方向移動を係止し、架橋ブリッジへの当接を防止するので、流通時にすでに架橋ブリッジが破断する、あるいはひびが入った不良品ができなくなる。
このような一時係止部の構成としては、第1軸部と第2軸部との何れか一方には、軸部の壁面に対し突起した上記一時係止部としての突起部が設けられ、他方の軸部には、突起部が当接する突起当接部が設けられた構成が挙げられる。
本願発明者は、薬液投与時に容易に架橋ブリッジを破断でき、かつ、流通時の運搬による落下あるいは振動時には、第1軸部の架橋ブリッジと第2軸部との当接を防止することが可能な一時係止部としての突起部高さの設定について鋭意検討した結果、突起部における突起当接部と当接する部分の高さ(「突起部の実効高さ」)が、0.10mm以上0.14mm以下であることを見出した。
すなわち、本発明の注射器では、第1軸部と第2軸部との何れか一方には、軸部の壁面に対し突起した上記一時係止部としての突起部が設けられ、他方の軸部には、突起部が当接する突起当接部が設けられており、突起部における突起当接部と当接する部分の高さ(「突起部の実効高さ」)が、0.10mm以上0.14mm以下であることが好ましい。
なお、ここでいう「突起部の実効高さ」とは、突起部の底部が突起当接部と当接している場合、「突起部における先端部と底部との距離」(すなわち、狭義の「突起部の高さ」)と同様である。一方、突起部が底部で突起当接部と当接しておらず、突起方向の途中で突起当接部と当接している場合、突起部の実効高さは、「突起部における先端部と底部との距離」から「突起部の底部と第1軸部との間に形成された隙間」を差し引いた距離となる。
また、本発明の注射器では、さらに、上記挿通孔の内壁には、上記架橋ブリッジから該架橋ブリッジが押し込まれる方向と反対方向に、第2窪部が形成されていることが好ましい。
これにより、架橋ブリッジにおいて第2軸部が当接する面である当接面よりも大きい2つの平坦面を形成することが可能になる。すなわち、架橋ブリッジの平坦面に、上記当接面以外に、第2軸部と当接しない非当接面を形成することが可能になる。
本発明の別の態様として、以下のものをあげることができる。すなわち、本発明の注射器は、上記の架橋ブリッジを備えた構成に限らず、架橋ブリッジの代わりに第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止する係止部を備えている構成であっても同様の効果を奏する。
すなわち、本発明の注射器は、上記の課題を解決するために、先端に注射針を取付け可能でかつ後端が開口する筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンと、先端部に上記ピストンが取り付けられかつ後端部が上記シリンジの後端開口から後方に突出するプランジャロッドと、上記シリンジの外周側に設けられるケーシングとを備え、上記ケーシングは、その先端部よりも上記シリンジ先端に取り付けられた注射針が先端側に突出する第1位置から、その先端部により上記注射針の外周を覆う第2位置に向けて上記シリンジに対して軸方向移動可能であり、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、第1軸部または第2軸部に、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止する係止部が形成されており、該プランジャロッドは、ピストンが先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記係止部による係止が解除され、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記係止の解除により移動可能になった第2軸部がシリンジ及び第1軸部に対して軸方向先端側に押し込まれることにより、該第2軸部とともに上記ケーシングをその第1位置から第2位置へ移動させるように、上記ケーシングに後方から当接する当接部が第2軸部に設けられていることを特徴としている。
上記の係止部を備えた構成としては、例えば、第1軸部と第2軸部との何れか一方に、軸部の壁面に対し突起した上記係止部としての突起部が設けられている構成が挙げられる。
また、上記係止部の第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止するための抵抗力は、架橋ブリッジの破断強度と同様に、15.7N以上34.3N以下の範囲であることが好ましい。
また、本発明の注射器では、さらに、上記第1位置にあるケーシングの後部に、一端側が閉塞されたキャップが搭載されていることが好ましい。
上記の構成によれば、保管時や搬送時において、プランジャロッドを上記キャップにより保護でき、不慮にプランジャロッドが操作されてしまうことや、プランジャロッドの破損等を防止できる。
また、上記キャップが上記第1位置にあるケーシングのシリンジに対する軸方向移動を規制するようになっていることが好ましい。
このように、上記キャップを、上記第1位置にあるケーシングのシリンジに対する軸方向移動を規制し、ケーシングとプランジャロッドとを固定するロック部材として用いることにより、使用前におけるケーシングの不慮の動作をより確実に防止できる。さらに、使用直前に、注射針をシリンジ先端に押し込み装着するのに際し、その作業を、ケーシングを把持した状態で行うことができるので、装着作業性が向上し、迅速かつ容易に注射針を取り付けることができる。
また、本発明の注射器では、さらに、上記シリンジの後端部には、接続部が設けられ、上記接続部は、プレートと、該プレートから直径方向に張り出す一対のタブと、上記ケーシングを案内保持するスロットとを備え、上記プレートには、上記第1位置にあるケーシングを係止する第1の係止片が設けられていることが好ましい。
上記の構成によれば、上記プレートには、上記第1位置にあるケーシングを係止する第1の係止片が設けられているので、第1位置にあるケーシングをより確実に固定することが可能になる。
また、上記接続部のプレートには、さらに、上記ケーシングが第2位置に移動したとき、上記架橋ブリッジの破断により移動可能になった第2軸部を係止する第2の係止片が設けられていることが好ましい。
上記の構成によれば、上記プレートには、上記架橋ブリッジの破断により移動可能になった第2軸部を係止する第2の係止片が設けられているので、ケーシングが第2位置に移動したとき、当接部と接続部とが固定される。このため、第2位置にあるケーシングをより確実に固定することができる。
また、本発明の注射器では、さらに、注射針の未装着時にシリンジ先端に取り付けられる栓体と、上記ケーシングの先端部に着脱可能に外嵌される先端キャップとを備え、上記先端キャップは、上記栓体を覆うことが好ましい。上記の構成によれば、栓体とケーシングの隙間から異物がケーシング内に入り込むこと先端キャップにより防止することができる。
なお、本発明の注射器は、医療用、及び医療用以外の種々の用途のいずれかの注射器としても実施可能であり、より好ましくは医療用である。
本発明のプランジャロッドは、上記の課題を解決するために、筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンとを備え、注射針を格納する注射針格納機構を有する注射器に用いるためのプランジャロッドであって、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記挿通孔の内壁には、破断した架橋ブリッジを収容する第1窪部が形成されていることを特徴としている。なお、上記「注射針格納機構」とは、投与後のプランジャロッドの押し込みにより、注射針が格納されるような機構のことをいう。
また、本発明のプランジャロッドでは、上記第1窪部は、上記架橋ブリッジから該架橋ブリッジが押し込まれる方向に向かって、形成されていることが好ましい。
本発明のプランジャロッドは、上記の課題を解決するために、筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンとを備え、かつ注射針格納機構を有する注射器に用いるためのプランジャロッドであって、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記架橋ブリッジには、その幅が上記挿通孔の内壁に近づくに従い大きくなり、かつ、上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを滑らかに結ぶように曲面が形成されているとともに、上記他方の軸部が当接する当接面よりも大きい平坦面が形成されていることを特徴としている。
また、本発明のプランジャロッドでは、上記曲面が円弧状壁面であることが好ましい。
本発明のプランジャロッドは、上記の課題を解決するために、筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンとを備え、かつ注射針格納機構を有する注射器に用いるためのプランジャロッドであって、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記架橋ブリッジの破断強度が15.7N以上34.3N以下であることを特徴としている。
本発明の別の態様として、本発明のプランジャロッドは、上記の課題を解決するために、筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンとを備え、注射針を格納する注射針格納機構を有する注射器に用いるためのプランジャロッドであって、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、該挿通孔には、その互いに向かい合う内壁面を架橋し、かつ上記他方の軸部に当接する架橋ブリッジが形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記架橋ブリッジが破断し、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になり、上記第1軸部と第2軸部との何れか一方に、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を一時的に係止し上記架橋ブリッジへの当接を防止する一時係止部が設けられていることを特徴としている。
また、挿通孔の内壁に第1窪部が形成されている場合、さらに、上記架橋ブリッジには、その幅が上記挿通孔の内壁に近づくに従い大きくなり、かつ、上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを滑らかに結ぶように曲面が形成されているとともに、上記他方の軸部が当接する当接面よりも大きい平坦面が形成されていてもよい。そして、上記架橋ブリッジの破断強度は15.7N以上34.3N以下の範囲が好ましい。
本発明のプランジャロッドでは、さらに、上記挿通孔の内壁には、上記架橋ブリッジから該架橋ブリッジが押し込まれる方向と反対方向に、第2窪部が形成されていることが好ましい。
本発明のさらなる態様として、本発明のプランジャロッドは、上記の課題を解決するために、筒状のシリンジと、該シリンジ内に軸方向移動自在に設けられるピストンとを備え、かつ注射針格納機構を有する注射器に用いるためのプランジャロッドであって、上記プランジャロッドは、先端部に上記ピストンが取り付けられる第1軸部と、該第1軸部よりも後方に突出する第2軸部とを備え、上記第1軸部と上記第2軸部との何れか一方に、他方の軸部が挿通する挿通孔が形成されているとともに、第1軸部または第2軸部に、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止する係止部が形成されており、該プランジャロッドは、ピストンがシリンジ先端に移動するまでの間は第1軸部と第2軸部とが一体となって上記ケーシングに対して軸方向移動自在であるとともに、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記係止部による係止が解除され、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になっていることを特徴としている。
上記の係止部を備えた構成としては、例えば、第1軸部と第2軸部との何れか一方に、軸部の壁面に対し突起した上記係止部としての突起部が設けられている構成が挙げられる。
また、上記係止部の第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止するための抵抗力は、架橋ブリッジの破断強度と同様に、15.7N以上34.3N以下の範囲であることが好ましい。
以下、第1軸部に第2軸部が挿通する場合について、本発明の効果を説明する。
本発明の注射器は、以上のように、上記挿通孔の内壁には、破断した架橋ブリッジを収容する窪部が形成されている構成である。また、本発明のプランジャロッドは、以上のように、上記挿通孔の内壁には、破断した架橋ブリッジを収容する窪部が形成されている構成である。
それゆえ、従来の注射器のように、破断した架橋ブリッジが挿通孔と第2軸部との間隙に入り込み、薬液投与後に第2軸部を押し込む際に、破断した架橋ブリッジが抵抗となることがない。その結果、投与後にプランジャロッドを押し込む際に、第2軸部が軸方向先端部へスムーズに移動し、投与後にプランジャロッドを押し込みやすくなる注射器を提供することができるという効果を奏する。
また、本発明の注射器は、以上のように、上記架橋ブリッジには、その幅が上記挿通孔の内壁に近づくに従い大きくなり、かつ、上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを滑らかに結ぶように曲面が形成されているとともに、上記他方の軸部が当接する当接面よりも大きい平坦面が形成されている構成である。また、本発明のプランジャロッドは、以上のように、上記架橋ブリッジには、その幅が上記挿通孔の内壁に近づくに従い大きくなり、かつ、上記挿通孔の内壁と架橋ブリッジとを滑らかに結ぶように曲面が形成されているとともに、上記他方の軸部が当接する当接面よりも大きい平坦面が形成されている構成である。
この構成によれば、上記架橋ブリッジは、上記曲面により補強されるので、流通時の運搬による落下あるいは振動に対して、架橋ブリッジの強度が強くなり、流通時にすでに架橋ブリッジが破断する、あるいはひびが入った不良品ができなくなる。
また、一方、上記架橋ブリッジには、上記他方の軸部が当接する当接面よりも大きい平坦面が形成されている、すなわち他方の軸部と当接面が存在するので、架橋ブリッジに非当接面を形成することで、投与後の第2軸部の軸方向先端部側への押し込みにより、当接面では、当接による摩擦力で一様に力が働いている一方、その摩擦力の反作用により、破断することなく押し込まれる。これに対して、非当接面では、当接による摩擦力が働かないため、第2軸部の軸方向先端部側への押し込みによる力がそのまま掛かることになる。そして、架橋ブリッジが非当接面で破断することになる。
このように、架橋ブリッジに上記曲面と上記非当接面とが形成されていることで、投与時あるいは流通時に架橋ブリッジが破断しない一方、投与後の第2軸部の押し込み時に架橋ブリッジが破断するという相反する特性を実現している。
さらに、本発明の注射器は、以上のように、上記架橋ブリッジの破断強度が15.7N以上34.3N以下である構成である。また、本発明のプランジャロッドは、以上のように、上記架橋ブリッジの破断強度が15.7N以上34.3N以下である構成である。
上記のような架橋ブリッジの破断強度の設定により、架橋ブリッジは、薬液投与中に破断せず、かつ、薬液投与後に容易に破断することが可能になる。
本発明の注射器は、以上のように、上記第1軸部と第2軸部との何れか一方に、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を一時的に係止し上記架橋ブリッジへの当接を防止する一時係止部が設けられている構成である。
これにより、流通時の運搬による落下あるいは振動に対して、一時係止部が、第2軸部の軸方向移動を係止し、架橋ブリッジへの当接を防止するので、流通時にすでに架橋ブリッジが破断する、あるいはひびが入った不良品ができなくなる。
また、本発明の注射器は、上記の架橋ブリッジを備えた構成に限らず、架橋ブリッジの代わりに、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止する係止部を備えた構成であっても、同様の効果を奏する。
上記の係止部を備えた構成としては、例えば、第1軸部と第2軸部との何れか一方に、軸部の壁面に対し突起した上記係止部としての突起部が設けられている構成が挙げられる。
この場合、上記係止部の第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止するための抵抗力は、架橋ブリッジの破断強度と同様に、15.7N以上34.3N以下の範囲であることが好ましい。
なお、第2軸部に第1軸部が挿通する場合についても上記と同様の効果を奏し、その場合は上記記載中、「第2軸部」を「第1軸部」に、「軸方向先端側」を「軸方向後端側」と読みかえればよい。
本発明の一実施形態について図1ないし図15に基づいて説明すると以下の通りである。図1は、本実施形態の注射器の構成を示す全体縦断面図である。
図1に示すように、注射器1は、先端に注射針2を取付け可能で且つ後端が開口している円筒状のシリンジ3と、ゴム製のピストン4と、フィンガーグリップ(接続部)5と、プランジャロッド6と、管状ケーシング7と、一端側が閉塞されているキャップ8とを備えている。
ピストン4は、シリンジ3内に設けられており、液密性を維持しつつ軸方向に移動可能になっている。そして、シリンジ3の後端開口部には、フィンガーグリップ5が取り付けられている。また、プランジャロッド6の先端部には、ピストン4が取り付けられている。そして、プランジャロッド6の後端部は、シリンジ3の後端開口から後方へ向かって突出するようになっている。また、シリンジ3の外周側には、管状ケーシング7が設けられている。
シリンジ3は、先端部にはノズル部31が一体成形されている。注射器1の出荷時や保管時には、ノズル部31にはゴム栓32が取り付けられており、シリンジ3内に収容された薬液を外気から密封している。そして、ゴム栓32を取り外して、注射針2を備える注射針アタッチメント20をノズル部31に嵌着することによって、注射針2がシリンジ3の先端に取り付けられるようになっている。また、シリンジ3の後端部にはフランジ33が一体成形されている。
また、注射器1は、管状ケーシング7の先端部に着脱自在に外嵌される先端キャップ9をさらに備えている。この先端キャップ9は、先端部が閉塞されているとともに後端が開口している。そして、この後端の開口部が管状ケーシング7の先端部に嵌着され、先端キャップ9と管状ケーシング7先端部とは全周にわたって接触している。上記ゴム栓32は、管状ケーシング7に取り付けられた先端キャップ9の内部に収容され、該先端キャップ9によりゴム栓32が覆われている。この先端キャップを装着することで、ゴム栓32と管状ケーシング7との隙間から異物が管状ケーシング7とシリンジ3との間に混入することが防止される。
次に、注射器1におけるフィンガーグリップ5、プランジャロッド6、管状ケーシング7、及びキャップ8の構成について、より具体的に説明する。
まず、フィンガーグリップ5の構成について、図2〜図4に基づいて説明する。図2は、注射器1のフィンガーグリップ5の構成を示し、図2(a)は正面図であり、図2(b)は左側面図であり、図2(c)は上面図であり、図2(d)は底面図である。また、図3は、図2(a)のI−I線断面図である。さらに、図4は、図2(b)のII−II線断面図である。
フィンガーグリップ5は、図2〜図4に示すように、楕円板状プレート(プレート)51と、一対のタブ52と、チャック54と、一対の第2係止片55と、一対の第1係止片56とを一体に備えている。一対のタブ52は、楕円板状プレート51から長軸方向に張り出すように形成されている。また、チャック54は、楕円板状プレート51の前面から前方に延出しており、シリンジ3のフランジ33に外嵌固定されている。また、一対の第2係止片55は、楕円板状プレート51の後面から後方に延出している。また、一対の第1係止片56は、楕円板状プレート51の前面から前方に延出しており、管状ケーシング7を係止するようになっている。楕円板状プレート51には、管状ケーシング7を案内保持する円弧状のスロット53と、プランジャロッド6を案内保持する中心貫通孔57とが形成されている。このフィンガーグリップ5は、例えば、ポリカーボネート製、またはABS樹脂製の射出成形品により構成できる。
次に、プランジャロッド6の構成について、図5及び図6に基づいて説明する。図5は、注射器1のプランジャロッド6の構成を示し、図5(a)は正面図であり、図5(b)は側面図である。また、図6は、プランジャロッド6の構成を示し、図6(a)は図5(a)のIII−III線断面図であり、図6(b)は図5(b)のIV−IV線断面図である。
図5及び図6に示すように、プランジャロッド6は、第1軸部61と第2軸部62とを備えている。第1軸部61の先端部には、ピストン4が取り付けられている。第1軸部61はピストン4の後端部から後方に延びて上記フィンガーグリップ5の中心貫通孔57に挿通されている。また、第2軸部62は、第1軸部61へ軸方向に挿通されるようになっている。そして、第2軸部62の後端部は、管状ケーシング7の後端部よりも後方に突出している。そして、第2軸部62の後端部には、フレア状またはフランジ状の操作部(当接部)69が形成されている。操作部69を軸方向先端部へ押し込むと、ピストン4の摺動によりシリンジ3内の薬液が注射されることになる。
以下、プランジャロッド6の第1軸部61の構成について説明する。図7は、プランジャロッド6の第1軸部61単体を軸方向後端側から見た平面図である。図7に示すように、第1軸部61の内周には、軸方向全長に渡って、第2軸部62を内部に挿通し得る挿通孔65が形成されている。さらに、この挿通孔65には、第1軸部61を軸方向に案内する案内凸部66が形成されている。また、図5に示すように、第2軸部62の外周面には、軸方向先端部から後方へ向けて延びる案内凹部67が形成されている。そして、案内凸部66と案内凹部67とが互いに係合することで、第2軸部62は、第1軸部61の挿通孔65内部を軸方向に移動可能になっている。また、図1及び図5に示すように、第2軸部62には、係止片68が設けられており、この係止片68が第1軸部61の軸方向後端部と係合することで、挿通孔65内部における第1軸部61の軸方向後端への移動を制限している。
また、図5に示すように、第1軸部61の挿通孔65には、架橋ブリッジ63が2つ形成されている。架橋ブリッジ63は、挿通孔65において互いに向かい合う内壁面を架橋するように形成されている。この架橋ブリッジ63は、第1軸部61に対して第2軸部62を所定の設定値を超える力で押し込むことにより、容易に破断するようになっている。この所定の設定値は、ピストン4の摺動によりシリンジ3内の薬液を注射する際にプランジャロッド6に生じる軸力よりも大きく、注射中に架橋ブリッジ63が破断しないようになっている。この架橋ブリッジ63が破断する設定値については、後述する。
したがって、プランジャロッド6は、ピストン4がシリンジ3内の軸方向途中部から先端に移動する間は、架橋ブリッジ63に力が加わり、第1軸部61と第2軸部62とが一体となって管状ケーシング7に対して軸方向移動自在になっている。そして、ピストン4がシリンジ3の軸方向先端部に移動した(シリンジ3の薬液を注射し終わった)とき、第1軸部61の押し込み動作(移動)が規制される。また、このとき、第1軸部61の架橋ブリッジ63が破断することで、第2軸部62のみが軸方向先端部側へ移動可能になる。
このように架橋ブリッジ63の破断により移動可能になった第2軸部62を、さらにシリンジ3及び第1軸部61に対して軸方向先端側に押し込むことにより、操作部69が管状ケーシング7の後方から当接するようになる。そして、管状ケーシング7の後方から当接した操作部69を、さらに軸方向先端側へ押し込むことにより、第2軸部62とともに、管状ケーシング7がその第1位置から第2位置へ移動するようになる。「第1位置」とは、管状ケーシング7において注射針2が突出した状態になる位置のことをいい、例えば、後述する図15(a)におけるGの位置のことをいう。また、「第2位置」とは、管状ケーシング7の先端部により注射針2の外周を覆い、注射針2がケーシングにより収容された状態になる位置のことをいい、例えば、後述する図15(a)におけるHの位置のことをいう。
なお、図7及び図8では、第1軸部61に第2軸部62が挿通し、第1軸部61に挿通孔65が形成されている構成が示されているが、プランジャロッド6の構成は、この構成に限定されるものではなく、第1軸部あるいは第2軸部が架橋ブリッジに当接するような構成であればよい。例えば、第2軸部に第1軸部が挿通し、第2軸部に挿通孔が形成され、かつ該挿通孔に第1軸部に当接する架橋ブリッジが形成された構成であってもよい。
次に、上記架橋ブリッジ63近傍の構成について、図8に基づいて説明する。図8は、第2軸部62に当接された架橋ブリッジ63近傍の構成を示す側面図である。
図8に示すように、第2軸部62は、架橋ブリッジ63と平面を介して当接している。これにより、第2軸部62を軸方向先端部側へ押し込んだときに、架橋ブリッジ63に掛かる荷重が分散し、力が一点に集中しなくなる。このため、流通時の運搬による落下あるいは振動に対して、架橋ブリッジ63の強度が強くなる。それゆえ、流通時にすでに架橋ブリッジが破断する、あるいはひびが入った不良品ができなくなる。
また、架橋ブリッジ63には、4つの円弧状壁面Aが形成されている。これら円弧状壁面Aはそれぞれ、架橋ブリッジ63の互いに対向する面の間隔が挿通孔65の内壁に向かうに従い(すなわち、架橋ブリッジ63の幅が挿通孔65の内壁に近づくに従い)大きくなるように形成されており、挿通孔65の内壁と架橋ブリッジ63とを滑らかに結ぶ曲面である。
この円弧状壁面Aは、挿通孔65の内壁面に対して垂直になるように形成されておらず、上記架橋ブリッジ63は、円弧状壁面Aにより補強される。このため、従来の注射器のように架橋ブリッジが受部の内壁面に対し垂直になるように形成された場合に比べ、架橋ブリッジ63は強度が強くなる。したがって、流通時の運搬による落下あるいは振動に対して、架橋ブリッジ63の強度が強くなる。それゆえ、流通時にすでに架橋ブリッジが破断する、あるいはひびが入った不良品ができなくなる。
また、投与後のプランジャロッド6の軸方向先端部側への押し込みにより破断するように、架橋ブリッジ63では、第2軸部62が当接する面である当接面Bよりも大きい2つの平坦面Cが形成されている。すなわち、架橋ブリッジ63の平坦面Cには、上記当接面B以外に、第2軸部62と当接しない非当接面Dが存在する。
この構成によれば、投与後、プランジャロッド6をさらに軸方向先端部側へ押し込み、第2軸部62が当接する当接面Bに力が加わると、円弧状壁面Aの強度が強いため、架橋ブリッジ63の付根部分で破断することがない。また、当接面Bでは、該当接面Bと第2軸部62との摩擦により、一様に力が働いている一方、その摩擦力の反作用により、破断しにくくなり軸方向先端部側へ伸びて押し込まれる。これに対して、非当接面Dでは、第2軸部62の軸方向先端部側への押し込みによる力がそのまま掛かる。また、非当接面Dには、当接面Bが軸方向先端部側へ伸びることにより、応力が集中する。そして、架橋ブリッジ63が非当接面Dで破断することになる。このように、架橋ブリッジ63に非当接面Dを形成することで、投与後の第2軸部62の軸方向先端部側への押し込みにより、非当接面Dで架橋ブリッジ63が破断することになる。このように、架橋ブリッジ63に強度が弱い非当接面Dを形成することで、投与後の第2軸部62の軸方向先端部側への押し込みにより、力が非当接面Dに集中し、架橋ブリッジ63が破断することになる。
このように注射器1では、架橋ブリッジ63に、強度の強い円弧状壁面Aと非当接面Dとが形成されていることで、投与時あるいは流通時に架橋ブリッジが破断しない一方、投与後のプランジャロッドの押し込み時に架橋ブリッジが破断するという相反する特性を実現している。
なお、上記円弧状壁面Aの曲率半径Rは、従来公知の曲面の形成方法にて形成することが可能な曲面の曲率半径であれば、特に限定されるものではない。特に、射出成形にて上記円弧状壁面Aを形成する場合、その曲率半径Rは0.2mm以上であればよい。
また、図8では、円弧状壁面Aが、架橋ブリッジ63の両端の軸方向先端部側と軸方向後端部側との4箇所に形成されている。しかしながら、この円弧状壁面は、強度が強い構成であれば特に限定されるものではなく、例えば、架橋ブリッジ63の両端の軸方向先端部側に2つ形成されていてもよい。
また、図8に示すように、軸方向先端側及び軸方向後端側から架橋ブリッジ63へ向かって、挿通孔65の互いに対向する内壁面の間隔が大きくなるように広がった4つの傾斜面64a1・64a2が形成され、この傾斜面64a1・64a2から架橋ブリッジ63へ向かって、挿通孔65の互いに対向する内壁面の間隔を所定の間隔Eを保ちつつ延びる4つの平面64b1・64b2が形成されている。そして、架橋ブリッジ63の近傍には、上記傾斜面64a1・64a2と上記平面64b1・64b2とにより第1窪部64・第2窪部64’が形成されている。
なお、図8に示すように、第2窪部64’は、軸方向後端側から架橋ブリッジ63へ向かって、挿通孔65の互いに対向する内壁面の間隔が大きくなるように広がった傾斜面64a1と、傾斜面64a1から架橋ブリッジ63へ向かって、挿通孔65の互いに対向する内壁面の間隔を所定の間隔Eを保ちつつ延びる平面64b1とにより形成されている。さらに、第1窪部64は、軸方向先端側から架橋ブリッジ63へ向かって、挿通孔65の互いに対向する内壁面の間隔が大きくなるように広がった傾斜面64a2と、傾斜面64a2から架橋ブリッジ63へ向かって、挿通孔65の互いに対向する内壁面の間隔を所定の間隔Eを保ちつつ延びる平面64b2とにより形成されている。
注射器1では、投与後にプランジャロッド6(第2軸部62の操作部69)を押し込むことにより破断した架橋ブリッジ63(以下、架橋ブリッジ断片とする)が、上記の第1窪部64に収容されるようになる。このため、プランジャロッド6の押し込み操作中に架橋ブリッジ断片が第2軸部62を塞ぐことがない。その結果、投与後にプランジャロッド6を押し込む際に、第2軸部62が軸方向先端部へスムーズに移動し、投与後にプランジャロッド6を押し込みやすくなるという効果を奏する。
また、第1窪部64は、架橋ブリッジ断片を収容可能なスペースを確保できるだけ窪んでいれば、特に限定されるものではない。
第1窪部64の深さ(挿通孔65の内壁面と第1窪部64の平面64bとの幅)は、上記架橋ブリッジ63の厚み(架橋ブリッジ63における2つの平坦面C間の間隔)よりも大きければよい。第1窪部64の深さが架橋ブリッジ63の厚みよりも小さい場合、架橋ブリッジ断片を収容可能なスペースを確保できず、プランジャロッド6の押し込む際に、架橋ブリッジ断片が第2軸部62を塞いでしまう。
また、架橋ブリッジ63に対して軸方向後端側に形成された第2窪部64’(上記傾斜面64a1と上記平面64b1とにより形成される窪部)が形成されていることにより、架橋ブリッジ63において第2軸部62が当接する面である当接面Bよりも大きい2つの平坦面Cを形成することが可能になる。すなわち、架橋ブリッジ63の平坦面Cに、上記当接面B以外に、第2軸部62と当接しない非当接面Dを形成することが可能になる。
なお、特許請求の範囲の請求項における「第1窪部」は、上記の第1窪部64に相当する。また、「第2窪部」は、上記の第2窪部64’に相当する。
なお、上記プランジャロッド6における第1軸部61は、射出成形品からなるものである。また、その材質は、耐久性、あるいは軽量であることから樹脂(プラスチック)であることが好ましい。第1軸部61の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、スチレンブタジエンコポリマー(商品名;クリアレン)、ポリスチレン、ポリアセタール、または、ABS樹脂などが挙げられる。
次に、プランジャロッド6における架橋ブリッジ63が破断する設定値について説明する。
本願発明者は、流通時または薬液投与中に破断せず、かつ、薬液投与後に容易に破断しうる架橋ブリッジ63の破断強度について検討した結果、架橋ブリッジ63の破断強度が15.7N以上34.3N以下(1kg重≒9.8Nにて換算すると、1.6kg重以上3.5kg重以下)であることが好適であることを見出した。以下、この検討について説明する。
まず、注射器1を用いて薬液投与している時に、架橋ブリッジ63にかかる荷重を評価するために、注射器1及び従来の注射器を用いて、薬液投与時における突刺対象物の摺動値を測定した。なお、突刺対象物の摺動値の測定環境は、室温(25℃)である。
従来の注射器として、株式会社 トップ製;商品名プレフィルシリンジ Bタイプに1.1mL注射用蒸留水が入った充填シリンジを用いた。また、注射針として26ゲージの針を用いた。この注射器の投与時の機能評価のために、注射部位と想定される突刺対象物の摺動値を測定した。なお、突刺対象物として、(1)牛肉(肩バラブロック塊)、(2)牛肉(脂身ブロック塊)、(3)豚肉(肩ロース塊)、(4)豚肉(脂身ブロック塊)、(5)鶏肉(モモ肉)、(6)鶏肉(ササミ)、(7)羊肉(赤身ブロック塊)、(8)ブランク(突刺対象物なし)を用いた。
上記(1)〜(8)の突刺対象物に注射器を突刺した状態で、レオメータ(レオテック社製;RT−2020D)を用いて、摺動速度30cm/mimにおけるピストンの最大抵抗値を測定した。そして、上記(1)〜(8)の突刺対象物に対して、それぞれ10本の注射器を用い、測定された最大抵抗値(摺動値)の平均値、偏差を評価した。その結果を表1に示す。なお、表1では、上記平均値、標準偏差、及び、10本の注射器を用い測定した摺動値の最大値と最小値が示されている。
さらに、薬液投与時における摺動速度を考慮して、摺動速度(A)30cm/mim、(B)60cm/mim、及び(C)90cm/mimにおける摺動値を測定した。なお、突刺対象物の摺動値の測定環境は、室温(25℃)である。
具体的には、注射器として、株式会社 トップ製;商品名プレフィルシリンジ Bタイプに1.1mL注射用蒸留水が入った充填シリンジを用いた。また、注射針として26ゲージの針を用いた。そして、突刺対象物として、(1)ブランク(突刺対象物なし)、(2)牛肉(肩バラブロック塊)、(3)牛肉(脂身ブロック塊)、(4)鶏肉(モモ肉)、(5)鶏肉(ササミ)を用いた。
上記(1)〜(5)の突刺対象物に注射器を突刺した状態で、精密万能試験機(SHIMADZU社製:オートグラフAG−IS MS型)を用いて、摺動速度(A)30cm/mim、(B)60cm/mim、及び(C)90cm/mimにおけるピストンの最大抵抗値を測定した。そして、上記(1)〜(5)の突刺対象物に対して、それぞれ10本の注射器を用い、測定された最大抵抗値(摺動値)の平均値、偏差を評価した。その結果を表2に示す。なお、表2では、上記平均値、及び標準偏差が示されている。
本発明の注射器1における架橋ブリッジ63の破断強度の設定においては、薬液投与中に架橋ブリッジ63が破断しないように、薬液投与中のピストン4の摺動値を上回る強度を設定する必要がある。より具体的には、架橋ブリッジ63は、上記の表1または表2に示されたピストンの摺動値を上回る破断強度を有する必要がある。例えば、表2において、(3)牛肉脂身を突刺対象物とした場合のピストンの摺動値を上回る破断強度を設定することができる。以下、(3)牛肉脂身を突刺対象物とした場合のピストンの摺動値を上回る架橋ブリッジ63の破断強度の設定について説明する。
一般的に、注射器を用いて皮下または筋肉内に薬液を投与する場合、ピストンの摺動速度は、通常30〜60cm/minの範囲内である。また、ピストンの摺動値は、投与対象、投与部位、あるいは薬液の特性に応じて変動するものであり、ばらつきがある。
このような摺動値のばらつきの範囲を考慮し、表2に示されるピストンの摺動値(平均値)について、さらに(D)3×標準偏差、(E)3.5×標準偏差、または(F)4×標準偏差を加えた値を算出した。その結果を表3に示す。
架橋ブリッジ63の破断強度は、上記の表3に示されたピストンの摺動値を考慮して設定される。
まず、ピストンの摺動速度60cm/minを基準とし、ばらつきの範囲を標準偏差の3倍の範囲とした場合、架橋ブリッジ63の破断強度は、(D)平均値+(3×標準偏差)を上回る強度、すなわち1.6kg重以上である。
好ましくは、薬液の投与中の誤作動の可能性をより低くするために、ばらつきの範囲を標準偏差の4倍の範囲というように、より広い範囲を考慮して、架橋ブリッジ63の破断強度は、(F)平均値+(4×標準偏差)を上回る強度、すなわち1.8kg重(17.6N)以上である。
より好ましくは、投与中のピストンの摺動速度を上回る場合(すなわち、ピストンの摺動速度が90cm/minである場合)を考慮して、ばらつきの範囲を標準偏差の4倍の範囲として、架橋ブリッジ63の破断強度は、(F)平均値+(4×標準偏差)を上回る強度、すなわち2.0kg重(19.6N)以上である。
なお、上記の説明では、注射部位と想定される突刺対象物を(3)牛肉脂身として、架橋ブリッジ63の破断強度を設定しているが、これに限定されない。注射部位と想定される突刺対象物をブランク(突刺対象物なし)、牛肉(肩バラブロック塊)、鶏肉(モモ肉)、または鶏肉(ササミ)として、架橋ブリッジ63の破断強度を設定してもよい。
また、架橋ブリッジ63の破断強度の上限値(3.5kg重以下)に関しては、上述した図17に示された従来の注射器における架橋ブリッジと本発明の注射器1における架橋ブリッジ63とにおいて、破断強度を比較することにより検討した。なお、このとき、従来の注射器の架橋ブリッジの寸法は、0.47mm×0.70mmであり、その材質はPE−HD(高密度ポリエチレン)である。
従来の注射器における架橋ブリッジと注射器1における架橋ブリッジ63とにおいて、ピストンの摺動速度6cm/minにおける破断強度を測定した。なお、両架橋ブリッジともに、3つのサンプルについて破断強度を測定し、その平均値を算出した。その結果を表4に示す。
表4に示すように、ピストンの摺動速度6cm/minとした場合、従来の注射器における架橋ブリッジの破断強度は、平均値として約4kg重となっている。これに対し、注射器1(本発明の注射器)における架橋ブリッジ63の破断強度は、約3.4kg重となっている。すなわち、従来の注射器では、架橋ブリッジを破断するために、約4kg重の荷重による押し込みが必要である。一方、注射器1では、架橋ブリッジ63を破断するために、約3.4kg重の荷重による押し込みが必要である。このことは、注射器1では、従来の注射器と比較して、より少ない荷重で架橋ブリッジを破断することができるとともに、プランジャロッドをスムーズに押し込むことができることを示している。
それゆえ、架橋ブリッジ63の破断強度は3.5kg重以下であることが好ましい。より好ましくは、3.0kg重以下(29.4N)である。
架橋ブリッジ63の破断強度が3.5kg重以上である場合、薬液投与後のプランジャロッド6の押し込みにより、容易に架橋ブリッジ63を破断することができなくなるので、好ましくない。
また、注射器1では、薬液投与後に、片手の操作のみでプランジャロッド6を押し込むことで、架橋ブリッジ63を破断することができることが、針刺し事故を回避できるので好ましい。特に、注射器1は、在宅での自己注射に好適である。このような場合、高齢者、または女性といった非力の操作者がプランジャロッド6を押し込むことで、容易に架橋ブリッジ63を破断できることが好ましい。このような観点から、本願発明者は、架橋ブリッジ63の破断強度が3.5kg重以下であることが好ましく、より好ましくは3.0kg重以下であることを見出した。
また、流通時に架橋ブリッジが破断しないようにするため、プランジャロッドの第2軸部に、一時係止部が設けられた構成であってもよい。一時係止部は、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を一時的に係止し、架橋ブリッジへの当接を防止する機能を有するものである。
このような構成にすることにより、流通時の運搬による落下あるいは振動に対して、一時係止部が、第2軸部の軸方向移動を一時的に係止し、架橋ブリッジへの当接を防止するので、流通時にすでに架橋ブリッジが破断する、あるいはひびが入った不良品ができなくなる。
以下、このような一時係止部が設けられたプランジャロッドの一例を、図9及び図10に基づいて説明する。図9は、一時係止部が設けられた第2軸部の構成を示す断面図である。図10は、図9に示された一時係止部の拡大図である。
図9に示される第2軸部62’においては、位置Cに一時係止部としての棒状の突起部62’aが設けられている。この突起部62’aは、第2軸部62’の側壁に対し垂直方向に突起したものである。そして、突起部62’aは、第1軸部61の後端外周部(突起当接部)に当接する(引っ掛かる)ようになっている。また、図9及び図10に示すように、第2軸部62’には、係止片68’が設けられており、この係止片68’が第1軸部61の軸方向後端部と係合することで、第1軸部61に対する第2軸部62’の軸方向後端への移動を制限している。
突起部62’aは、流通時の運搬による落下あるいは振動時に、第1軸部61に対する第2軸部62の軸方向前端の移動を一時的に係止する機能を有する。これにより、第1軸部の架橋ブリッジと第2軸部62’との当接を防止している。そして、突起部62’aは、ピストンが先端に移動するとき(すなわち、薬液投与中)には、係止を解除し架橋ブリッジへ当接させている。
この突起部62’aは、図9及び図10に示すように、第2軸部62’の対向する両外壁に、2箇所形成されている。しかしながら、第2軸部62’に形成される突起部62’aの数は、これに限定されず、第2の軸部を構成する材料、あるいは第1軸部・第2軸部の寸法に応じて適宜設定することが可能である。
また、突起部62a’が形成される位置Cは、第2軸部の外壁であって、第1軸部の架橋ブリッジと第2軸部とが当接した際に、第1軸部と第2軸部とにおいて互いに重なる部分にあることが必要である。第1軸部と第2軸部とが互いに重ならない部分に突起部が形成されている場合、第1軸部の架橋ブリッジと第2軸部とが当接した状態で、第2軸部の軸方向の移動を係止することになるため、流通時の運搬による落下あるいは振動時に、第1軸部の架橋ブリッジと第2軸部との当接を防止することができない。
さらに、上記突起部の位置Cとしては、第1軸部に対して第2軸部を押していった際に、第1軸部の架橋ブリッジと第2軸部とが当接する以前に、上記突起部と第1軸部上に設けられた突起当接部とが当接し、当該当接により、流通時の運搬による落下あるいは振動時に架橋ブリッジと第2軸部との当接を防止できる位置関係であればよい。
突起部62’aは、ピストンが先端に移動するとき(すなわち、薬液投与中)に、係止を解除し架橋ブリッジへ当接させるために、その抵抗力が架橋ブリッジの破断強度よりも小さくなっている。
しかしながら、一時係止部が第2軸部の軸方向前端の移動を係止する力(抵抗力)は、架橋ブリッジと第2軸部との当接を防止することができる力であればよい。一時係止部を備えた注射器においては、薬液投与時(ピストンが先端に移動するとき)に、架橋ブリッジと第2軸部とが当接していてもよいし、当接していなくてもよい。
一時係止部の抵抗力が架橋ブリッジの破断強度よりも小さい(一時係止部の抵抗力≦架橋ブリッジの破断力)場合、薬液投与時に第1軸部に対する第2軸部の軸方向前端への移動の係止が解除され、第2軸部が架橋ブリッジへ当接する。そして、第1軸部と第2軸部とが一体となって軸方向へ移動する。この場合、一時係止部の抵抗力は、架橋ブリッジの破断防止、及びプランジャロッドを押し込む際の使用感の観点から見て、架橋ブリッジの破断強度の1/20倍ないし1倍であることが好ましく、架橋ブリッジの破断強度の1/10倍ないし1/2倍であることがより好ましい。
また、一時係止部の抵抗力が架橋ブリッジの破断強度と略同じ値である場合には、第2軸部は、架橋ブリッジと当接しない状態で、第1軸部と一体となって移動する。そして、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、一時係止部による係止が解除され、第2軸部が架橋ブリッジと当接するようになる。
さらに、一時係止部の抵抗力が架橋ブリッジの破断強度以上の値である(一時係止部の抵抗力>架橋ブリッジの破断力)場合、薬液投与時に、第2軸部は、一部係止部による第2軸部の軸方向前端への移動の係止により架橋ブリッジと当接しない。そして、第2軸部は、架橋ブリッジと当接しない状態で、第1軸部と一体となって移動する。ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、一時係止部による係止が解除され、第2軸部が架橋ブリッジと当接するようになる。
このように、一時係止部は、(I)薬液投与中に係止が解除され、第2軸部が架橋ブリッジと当接するような構成と、(II)薬液投与中に、第1軸部と第2軸部とが一体となって移動し、薬液投与後に係止が解除され、第2軸部が架橋ブリッジと当接するような構成との何れの構成であってもよい。なお、一時係止部の抵抗力≦架橋ブリッジの破断力である場合であっても、付勢の状況により、上記(II)のような動作となることがある。すなわち、十分ゆっくり付勢させる等して、ピストン移動の抵抗力より一時係止部の抵抗力が大きくなった場合が、これに該当する。
また、突起部の実効高さは、高齢者、または女性といった非力の操作者がプランジャロッドを押し込むことで、容易に架橋ブリッジを破断でき、かつ、流通時の運搬による落下あるいは振動時には、第1軸部の架橋ブリッジと第2軸部との当接を防止することが可能な高さであることが好ましい。ここで、「突起部の実効高さ」とは、突起部における第1軸部の突起当接部と当接する部分の高さのことをいう。突起部の底部が第1軸部と当接している場合、突起部の実効高さは、「突起部における先端部と底部との距離」(すなわち、狭義の「突起部の高さ」)と等しくなっている。一方、突起部の底部が第1軸部と当接していない場合、突起部の実効高さは、「突起部における先端部と底部との距離」から「突起部の底部と第1軸部との間に形成された隙間」を差し引いた距離となる。
このような観点から、本願発明者は、後述の実施例に示されるように、突起部の実効高さが0.10mm以上0.14mm以下であることが好ましいことを見出した。
また、図9及び図10では、突起部62’aが当接する突起当接部が、第1軸部61の後端外周部になっていた。しかしながら、突起当接部は、第1軸部の後端外周部に限定されず、上述した架橋ブリッジと第2軸部との当接が防止できる位置関係である限り、いかなる箇所でもよい。さらに、突起当接部の形状は、いかなるものでもよい。
また、突起部の形状は、図10に示す棒状形状に限定されず、第1軸部に対する第2軸部の軸方向の移動を一時的に係止することが可能な形状であればよい。例えば、図11に示されるような三角形状であってもよい。
図11に示すように、第2軸部62’’には、三角形状を有する突起部62’bが形成されている。
このような突起部の形状は、第2軸部の射出成形時の鋳型(金型)の構造に依存するものである。それゆえ、突起部の形状は、製造する第2軸部の形状に応じて設計される鋳型(金型)の構造により、適宜設定される。
次に、管状ケーシング7の構成について、図12に基づいて説明する。図12は、注射器1の管状ケーシング7の構成を示し、図12(a)は正面図であり、図12(b)は側面図である。
管状ケーシング7は、図12に示すように、先端側の小径筒部71と後端側の大径筒部72とがテーパー部73を介して一体的に設けられている。小径筒部71は完全な円筒からなり、その内径はシリンジ3の外径よりも若干大径である。大径筒部72は、直径方向に対向し且つ離間する一対の円弧状壁部72a,72bにより主構成されており、各円弧状壁部72a,72bがそれぞれフィンガーグリップ5のスロット53に挿通され、軸方向移動自在に案内保持されている。そして、ケーシング7は、その先端部よりもシリンジ先端に取り付けられた注射針2が先端側に突出する第1位置から、その先端部により注射針2の外周を覆う第2位置に向けて、上記シリンジ3に対して軸方向移動可能となっている。また、管状ケーシング7の外周面には、キャップ8を螺着するためのネジ74が形成されている。
さらに、キャップ8の構成について、図13及び図14に基づいて説明する。図13は、注射器1のキャップ8の構成を示す正面図である。また、図14は、注射器1のキャップ8の構成を示す断面図である。
キャップ8は、軸方向一端側が閉塞し他端側が開口する筒状であって、注射前のプランジャロッド6の後部を保護するために第1位置にあるケーシング7の後部に装着可能である。
より詳細には、キャップ8の開口する側の端部の外周面には、管状ケーシング7の外周に螺着するためのネジ81が形成されている。そして、管状ケーシング7の外周にキャップ8を螺着したとき、図1に示すように、キャップ8が第2軸部62並びに管状ケーシング7の後部を覆い隠すようになる。そして、このようにキャップ8が第1位置にある管状ケーシング7の後部に装着されたとき、キャップ8の先端部がフィンガーグリップ5のプレート51の後面に当接することによって、管状ケーシング7のシリンジ3に対する軸方向移動が規制されるようになっている。このキャップ8によって、第1位置にある管状ケーシング7のシリンジ3に対する軸方向移動を解除操作可能にロックするシリンジ後退防止手段が構成されている。
このキャップ8の外周形状は、正12角形状であって、フィンガーグリップ5のプレート51の外周縁に沿うか或いはプレート51の外周縁よりも内側にある。したがって、キャップ8を装着しても、注射器1の最大外径寸法は非装着のときと同様であり、キャップ装着時の外観の向上並びに取り扱いの利便性向上を図ることができる。また、キャップ8を非円形とすることによって、装着時の転がり防止が図られている。
次に、図15に基づいて、上記注射器1の使用方法を説明する。
まず、保管されていた注射器1のシリンジ3先端から先端キャップを取り除いた後、ゴム栓32を取り外し、図15(a)に示すように注射針アタッチメント20をノズル部31に取り付ける。このとき、キャップ8によってプランジャロッド6の押し込み操作並びに管状ケーシング7に対するシリンジ3の軸方向移動が防止されているため、ケーシング7やキャップ8を把持して針アタッチメント20をノズル部31に押し込むことができる。このとき、管状ケーシング7は、その先端部よりも注射針2が先端側に突出する第1位置Gにある。
注射針2の装着後、図15(b)に示すようにキャップ8を取り外し、フィンガーグリップ5のタブ52に人差し指と中指を掛けて親指によりプランジャロッド6の後端部(操作部69)を押し込むと、ピストン4によりシリンジ3内の薬液が注射される。この際、フィンガーグリップ5の一対の第1係止片により、管状ケーシング7が係止されているので、より確実に管状ケーシング7を第1位置Gに固定することが可能になる。
ピストン4がシリンジ3内の先端まで押し込まれると、図15(c)に示すようにプランジャロッド6の操作部69が管状ケーシング7の後端に当接し、この状態からさらに操作部69を押し込むと、プランジャロッド6の第1軸部61と第2軸部62との間の架橋ブリッジ63が破断して、第1軸部61に対して第2軸部62を押し込み操作可能となる。
第2軸部62をさらにシリンジ3に対して押し込んでいくと、この第2軸部62とともに管状ケーシング7がシリンジ3に対して軸方向に第2位置Hに移動し、図15(d)に示すように管状ケーシング7先端部により注射針2の外周を保護する。この際、フィンガーグリップ5の一対の第2係止片55により、第2軸部62の操作部69が係止されているので、より確実に管状ケーシング7を第2位置Hに固定することが可能になる。
また、本発明の注射器は、上記の架橋ブリッジを備えた構成に限らず、架橋ブリッジの代わりに、第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止する係止部を備えた構成であっても、同様の効果を奏する。
上記の係止部を備えた構成としては、例えば、第1軸部と第2軸部との何れか一方に、軸部の壁面に対し突起した上記係止部としての突起部が設けられている構成が挙げられる。
この場合、上記係止部の第1軸部に対する第2軸部の軸方向移動を係止するための抵抗力は、架橋ブリッジの破断強度と同様に、15.7N以上34.3N以下の範囲であることが好ましい。
上記の係止部を備えた構成としては、例えば、第1軸部と第2軸部との何れか一方には、軸部の壁面に対し突起した上記係止部としての突起部が設けられている構成が挙げられる。
係止部のさらなる具体的な構成としては、例えば図9〜図11に示されるプランジャロッドにおいて、架橋ブリッジを備えていない構成が挙げられる。すなわち、図9〜図11に示される突起部62’aが、架橋ブリッジと同様の役割を果たす。換言すると、この構成では、突起部62’aが第1軸部に対する第2軸部62’の軸方向移動を係止し、ピストンが先端に移動し、さらに付勢したときに、上記突起部62’aによる係止が解除され、シリンジに対して第2軸部のみが軸方向移動可能になっている。
そして、突起部62’aの第2軸部の軸方向移動を係止するための抵抗力としては、流通時または薬液投与中に突起部62’aによる係止が解除されず、かつ、薬液投与後に容易に突起部62’aによる係止が解除されるとの観点より、15.7N以上34.3N以下に設定することが好ましい。
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実施例1〕
上記図8に示す架橋ブリッジ63の破断力(架橋ブリッジを切断する時の最大荷重;破断強度)を測定した。なお、本実施例では、架橋ブリッジ63における円弧状壁面Aの曲率半径Rを0.3mmとし、挿通孔65の互いに対向する内壁面の間隔を2.0mmとし、互いに対向する平面64b間の間隔(すなわち所定の間隔E)を2.4mmとしている。そして、第1軸部61と架橋ブリッジ63とが当接する当接面Bの幅を2.0mmとし、2つの非当接面Dの幅を0.2mmとしている。すなわち、架橋ブリッジ63の平坦面Cの幅を2.4mmとしている。
まず、240本の架橋ブリッジ63について破断力を測定した。架橋ブリッジの破断力を測定するために、レオメータ(レオテック社製;商品名RT−2020D・D)を用いた。なお、レオメータの設定条件は、以下の通りである。
荷重ダイヤル:10 試料台速度(T.SPEED):30cm/min
レコーダ出力調節(REC.ADJ):1V アンプモード(HOLD):F
表示レンジ(RANGE):20K オペレーションスイッチ:UP
上記の条件にて、破断力を測定し、記録した。この結果、240本の架橋ブリッジ63について破断力を測定した値の平均値は2.494kg重、標準偏差は0.106であった。
〔実施例2〕
本実施例では、図8に示す円弧状壁面Aと非当接面Dとを有する架橋ブリッジ63と、非当接面を有するが円弧状壁面を有さず、窪部の壁面である平面64bに対して垂直に延びた架橋ブリッジ63’(図16参照)とにおいて、ピストンの摺動速度を変えて、破断強度を測定した。なお、図8と図16とを比較すれば、明らかなように、架橋ブリッジ63’近傍の構成は、平面64bに対して垂直に延びている以外、架橋ブリッジ63近傍の構成と同様であり、第1窪部64が形成されている。
摺動速度(A)30cm/mim、(B)60cm/mim、及び(C)90cm/mimにおける架橋ブリッジ63または架橋ブリッジ63’のブリッジ破断抵抗値を測定した。まず、ガラスシリンジ/ガスケットに架橋ブリッジ63または架橋ブリッジ63’を有するプランジャロッドを装着した。このとき、ガスケットはガラスシリンジ先端部にあり、薬液排出終了時の位置にあった。そして、精密万能試験機(SHIMADZU社製:オートグラフAG−IS MS型)を用いて、摺動速度(A)30cm/mim、(B)60cm/mim、及び(C)90cm/mimにおけるブリッジ破断抵抗値を(10本/条件)を測定した(突刺対象物なし)。その測定結果を表5に示す。なお、本実施例では、装着する注射針として、26ゲージの注射針を用いた。
表5に示すように、摺動速度(A)30cm/mim、(B)60cm/mim、及び(C)90cm/mimの何れにおいても、架橋ブリッジ63と架橋ブリッジ63’とで、ブリッジ破断抵抗値は変わらなかった。このことは、図8に示すように、架橋ブリッジ63に円弧状壁面Aが形成されていても、破断強度には影響しないことを意味する。すなわち、この円弧状壁面Aは、破断強度を強くする機能を有さず、落下衝撃、あるいは投与中のプランジャロッドの押し込みに対してのみ強度が強くなるように働くこと意味する。
さらに換言すれば、非当接面Dさえ形成されていれば、円弧状壁面Aが形成されていなくても形成されていても、同様に破断することを意味する。
〔実施例3〕
本実施例では、図8に示す円弧状壁面Aと非当接面Dとを有する架橋ブリッジ63を有する注射器1が、流通時の落下衝撃に耐えうるか否かを検討した。
具体的には、架橋ブリッジ63または架橋ブリッジ63’を有する注射器を1本ずつ組箱に収納し、さらに、組箱を10箱ずつ内箱に収納した。この内箱を、先端方向を下にし落下させた後に、破断力を測定した。なお、注射器を落下させる高さは、60cmとした。そして、注射器を落下させる落下装置として、JIS Z−0202「包装貨物の落下試験方法」に記載の落下装置を使用した。具体的には、チヨダ工業社製;包装貨物落下試験機:5C型(落下面が12mm厚の鉄板である)を使用した。また、本実施例では、注射器を室温(約20〜25℃)で24時間以上放置した後、落下実験を行った。
注射器を10回落下させた後の架橋ブリッジの破断力と15回落下させた後の破断力を測定した。そして、架橋ブリッジ63または架橋ブリッジ63’を有する注射器それぞれについて、10サンプル準備し、落下による影響を調べた。その結果を表6に示す。
表6に示すように、落下回数が10回である場合の破断力は、架橋ブリッジ63と架橋ブリッジ63’とを比較して、変わりがなかった。しかしながら、落下回数を15回にした場合、架橋ブリッジ63は10サンプルともに同様の破断力を有しているのに対し、架橋ブリッジ63’では、10サンプル中1つ(No.6に相当する)の破断力が低下していた。すなわち、架橋ブリッジ63’におけるNo.6サンプルは、落下衝撃に対して強度が低下していることを意味する。人体への投与に関連する医薬品産業あるいは医療産業においては、流通時の運搬による落下あるいは振動による破損の可能性は少ないほど好ましく、表6の結果より、架橋ブリッジ63’と比較して、架橋ブリッジ63はすぐれた形態であることがわかる。
〔実施例4〕
本実施例では、図10及び図11に示すような第2軸部に突起部(一時係止部)を有するプランジャロッドを備えた注射器の架橋ブリッジが、流通時の落下衝撃に耐えうるか否かを検討した。
具体的には、突起部を有する注射器を1本ずつ組箱に収納し、さらに、組箱を10箱ずつ内箱に収納した。この内箱を、先端方向を下にし落下させた後に、架橋ブリッジが破断されるか否かを検討した。本実施例で使用する注射器は、上記実施例3にて使用した架橋ブリッジ63を有する注射器(以下、被験注射器Iと記す)、図10に示す棒状形状の突起部を有するプランジャロッドを備えた注射器、及び図11に示す三角形状の突起部(突起部の高さ0.10mm)を有するプランジャロッドを備えた注射器(以下、被験注射器IVと記す)である。また、棒状形状の突起部を有するプランジャロッドを備えた注射器に関しては、突起部の高さが0.10mmであるもの(以下、被験注射器IIと記す)と、突起部の高さが0.125mmのもの(以下、被験注射器IIIと記す)とについて、検討を行った。なお、実施例4〜6においては、全ての注射器において、突起部の底部が第1軸部と当接しているため、突起部の高さと突起部の実効高さとは等しくなっている。
本実施例で使用した落下装置は、実施例3で使用した落下装置と同じものである。また、注射器を落下させる高さも、上記実施例と同様である。
なお、本実施例では、注射器を0〜5℃で24時間以上放置し、その直後に落下実験を行った。それゆえ、本実施例の落下試験は、上記実施例3よりも注射器の脆弱性がはるかに増す、過酷な試験条件である。
被験注射器I、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVを連続10回落下させたときに、組箱に収納した10個の注射器のうち、架橋ブリッジが破断された注射器が何個存在するかを調べた。その結果を表7に示す。
表7に示すように、高さ60cmの位置から注射器を落下させた場合、被験注射器Iでは、架橋ブリッジの破断が観察された注射器が6個であった。一方、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVでは、架橋ブリッジの破断が観察された注射器が0個であった。なお、被験注射器Iを連続5回落下させたときには、架橋ブリッジの破断が観察された注射器が3個であった
このことから、第2軸部に突起部を設けることにより、落下衝撃に対し架橋ブリッジが破断されにくくなり、さらに強度が増したことがわかる。
なお、被験注射器I、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVにおける突起部の高さは、プランジャロッドの第2軸部両端に形成された突起部の先端間の距離と、第2軸部の幅(突起部が形成されていない部分における対向する側壁間の距離)との差を算出し、算出された値の1/2とした。この際、被験注射器I、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVに加え、突起部の形状が三角形状であり、かつその高さが0.15mmであるプランジャロッドを備えた被験注射器Vを作製している。被験注射器Vについては、後述する実施例6にて使用している。
〔実施例5〕
本実施例では、被験注射器I、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVについて、架橋ブリッジの破断力(破断強度)を測定した。
まず、架橋ブリッジの破断力を測定するために、レオメータ(レオテック社製;商品名RT−2020D・D)を用いた。なお、レオメータの設定条件は、以下の通りである。
荷重ダイヤル:10 試料台速度(T.SPEED):30cm/min
レコーダ出力調節(REC.ADJ):1V アンプモード(HOLD):F
表示レンジ(RANGE):20K オペレーションスイッチ:UP
上記の条件にて、破断力を測定し、記録した。この結果を表8に示す。
表8に示すように、被験注射器I、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVの何れにおいても、架橋ブリッジの破断強度は変わらなかった。
次に、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVについて、突起部によるプランジャロッド押し込みの影響を検討した。具体的には、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVについて、予め架橋ブリッジを破断したプランジャロッドを用意し、該プランジャロッドを押し込んだときの突起部の抵抗力を測定した。
突起部の抵抗力を測定するための装置として、上記レオメータ(レオテック社製;商品名RT−2020D・D)を用い、レオメータの設定条件も上記と同様の設定で行った。その結果を表9に示す。
表9に示すように、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVの何れにおいても、突起部の抵抗力は、架橋ブリッジの破断強度よりも低い値を示した。このことは、プランジャロッドを押し込み架橋ブリッジを破断させる際に、突起部による抵抗が少なく、スムーズにプランジャロッドを押し込むことができるということを意味する。すなわち、薬液投与後にプランジャロッドを押し込み、架橋ブリッジを破断させる動作時に、手応えが硬くなく、使用時の感触に不都合がないことを意味する。
〔実施例6〕
本実施例では、被験注射器II、被験注射器III、被験注射器IV、及び被験注射器Vについて、官能試験を行った。具体的には、注射器を実際に使用した場合において、プランジャロッドを押し込み、架橋ブリッジを破断させる動作時の手応え(使用時の感触)が硬いか否かを検定した。その結果を、表10に示す。なお、表10では、被験注射器II、被験注射器I、被験注射器III、及び被験注射器IVについて、実施例4で行った落下試験の結果も併せて示されている。また、官能試験結果において、「OK」は、プランジャロッドを押し込む際の手応えが硬くなく良好であることを意味する。
表10に示すように、被験注射器II、被験注射器III、及び被験注射器IVでは、プランジャロッドを押し込む際の手応えが硬くなく良好であるという官能試験結果が得られた。一方、突起部の高さが0.15mmとなっている被験注射器Vでは、プランジャロッドを押し込む際の手応えが硬いという官能試験結果が得られた。
プランジャロッドを押し込む際の手応えが硬くないようにし、高齢者または女性といった非力の操作者が容易に操作できるとの観点から、プランジャロッドの第2軸部に設けられた突起部の実効高さは、0.15mmよりも小さいことが好ましい。