ところで、このような切削インサートの特にコーナ部によって、被加工面が凹凸するワークをこの凹凸に沿って倣いながら旋削しようとすると、このワークの被加工面の凹凸により、切刃がワークに切り込まれる切削ポイントが凸曲線状をなすコーナ部に沿って変化することになる。しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されたように、ブレーカ壁面が一直線状または2段あるいは4段の直線状に延びていたり、ましてや凹曲線状の稜線をなすように形成された切削インサートでは、このブレーカ壁面とコーナ部の各部位との距離もコーナ部に沿って変化することになるため、この距離が小さい部位が切削ポイントとなる場合には切屑が詰まり気味になってしまう一方、この距離が大きい部位が切削ポイントとなる場合には逆に切屑が伸び気味となってホルダに巻き付いたりしてしまい、いずれの場合も確実かつ円滑な切屑処理を図ることが困難となって生産性を低減させるおそれがあった。特に、低切込みで切屑の厚さが薄い仕上げ旋削においては、上記距離が大きいと切屑が伸び気味のままチップブレーカを乗り越えて排出されてしまうため、このような問題は一層顕著となる。
また、特許文献2、3に記載のように、ブレーカ壁面が直線状あるいは凹曲線状に延びる複数のブレーカ壁によって構成されていると、これらのブレーカ壁同士が交差する稜線部に切屑が衝突した場合には、該稜線部においてブレーカ壁面に欠損が生じたり、早期にブレーカ壁面が摩滅したりするおそれがある。さらに、切屑がこの稜線部に沿って衝突すると該稜線部に線接触するだけとなるため、切屑の排出方向を制御してワークへの噛み込みを防いだりすることも困難となり、特に切屑の流出方向もコーナ部に沿って変化することになる倣い旋削では、旋削された加工面が切屑によって傷つけられてしまうおそれもある。
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のような焼き入れ鋼のような中硬度ないしは高硬度鋼等からなるワークの旋削のために、切刃コーナ部周辺がcBN焼結体で形成されるとともに、このコーナ部に形成された面取り部にチップブレーカが形成された切削インサートにおいて、さらにワークの倣い仕上げ旋削加工を行う場合でも、切屑処理性の向上や切屑の流出方向の確実な制御を図ることが可能で、しかも寿命の長い切削インサートを提供することを目的としている。
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、インサート本体に形成される切刃のコーナ部周辺がcBN焼結体により形成されるとともに、このコーナ部には上記切刃に沿って面取り部が形成され、この面取り部に、上記コーナ部に臨んで、上記切刃のすくい面側を向くブレーカ底面とこのブレーカ底面に対して立ち上がるブレーカ壁面とを備えたチップブレーカが形成された切削インサートであって、上記チップブレーカは、上記コーナ部に臨む部分において、上記ブレーカ壁面が、該コーナ部がなす凸曲線に沿って湾曲する凸曲面状、または上記凸曲線に沿って凸曲折する5段以上の多段面状とされており、上記ブレーカ壁面がなす凸曲面の曲率半径、または上記ブレーカ壁面がなす多段面の凸曲折部に接する凸曲面の曲率半径が、上記コーナ部がなす凸曲線の曲率半径の±20%の範囲内とされていることを特徴とする。
このような切削インサートでは、ワークに切り込まれる切刃のコーナ部周辺が高硬度のcBN焼結体により形成されていて、さらにこのコーナ部に切刃に沿った面取り部が形成されているので、上述の焼き入れ鋼のような中硬度あるいは高硬度の鋼材等よりなるワークに対しても切刃に欠損を生じたりすることなく確実な旋削を行うことができる。そして、この面取り部において上記コーナ部に臨むように形成されるチップブレーカは、そのブレーカ壁面が、該コーナ部がなす凸曲線に沿って湾曲する凸曲面状、または上記凸曲線に沿って凸曲折する5段以上の多段面状とされているので、このブレーカ壁面とコーナ部との距離が該コーナ部に沿って変化するのを抑えることができるとともに、このブレーカ壁面を全体的にコーナ部における切刃側に近づけて形成することができる。
すなわち、このブレーカ壁面が凸曲面状であれば、その曲率半径をコーナ部がなす凸曲線と略等しくして、この凸曲線に沿って上記距離を略一定として、ブレーカ壁面を切刃のコーナ部に近づけることができる。一方、ブレーカ壁面が多段面状の場合でも、5段以上とその段数を多くすることにより、近似的に凸曲面形状とすることができて、上記距離が大きく変化するのを防ぐとともに、やはりブレーカ壁面をコーナ部に接近させることができる。従って、本発明の切削インサートによれば、倣い旋削において切刃のコーナ部上の切削ポイントが変化しても、切屑が詰まり気味となったり、逆に伸び気味となったりすることがなく、所定の距離でブレーカ壁面に衝突させることができ、特に低切込みの仕上げ旋削の際に厚さの薄い切屑が生成される場合には、このブレーカ壁面を切刃側に近づけることにより、切屑が伸びきる前にブレーカ壁面に衝突させて確実にカールさせることができる。
また、この倣い旋削により切屑の流出方向がコーナ部に沿って変化しても、該切屑は、ブレーカ壁面が凸曲面の場合にはこの凸曲面の母線が延びる方向に沿って衝突し、しかもある程度の幅をもって面接触することになるので、衝突した切屑に十分な抵抗を与えてカールさせることができるとともに、こうしてカールした切屑を所定の排出方向に安定して排出することができ、さらに凸曲面が湾曲する方向には特定の稜線部が形成されることがないので、かかる稜線部が欠損したり摩滅したりすることもない。一方、ブレーカ壁面が凸曲折する5段以上の多段面の場合でも、その凸曲折部においては各段面同士に大きな交差角を確保することができるので、欠損や摩耗を防ぐことができるとともに、切屑が段面に接触したときは勿論、この凸曲折部における稜線部に接触したときでも、切屑をある程度の幅をもって接触させてカールさせるとともに排出方向を制御することができる。
なお、このようにブレーカ壁面とコーナ部との距離がコーナ部に沿って変化するのを防ぐには、コーナ部がなす凸曲線とブレーカ壁面がなす凸曲面の曲率半径、またはコーナ部がなす凸曲線と上記ブレーカ壁面がなす多段面の凸曲折部に接する凸曲面の曲率半径とは互いに等しくされるのが望ましい。ただし、これらは厳密に一致していなくてもよく、ブレーカ壁面がなす凸曲面の曲率半径、またはコーナ部がなす凸曲線とブレーカ壁面がなす多段面の凸曲折部に接する凸曲面の曲率半径が、コーナ部がなす凸曲線の曲率半径に対して±20%の範囲内で略等しくされていればよい。
また、上記ブレーカ壁面は、例えば特許文献3に記載のように全面がブレーカ底面に垂直とされた垂直とされていてもよいが、例えばブレーカ底面に対して立ち上がるに従いこのコーナ部の内側に該ブレーカ底面に垂直な方向に対して60°以下の範囲で漸次後退するように傾斜させられていてもよく、これにより、切屑の詰まりを防ぐとともに切屑を速やかにワークから離れるように案内することが可能となる。ただし、このブレーカ壁面の傾斜角度が60°を上回るほど大きく傾斜していると、切屑がブレーカ壁面に衝突しても十分な抵抗が与えられなくなったり、チップブレーカを乗り越えて流出してしまったりするおそれがある。
一方、このブレーカ壁面は、ブレーカ底面側がブレーカ底面に垂直な垂直壁面部とされる一方で、上記ブレーカ底面から離れた側には、該ブレーカ底面に対して立ち上がるに従い上記コーナ部の内側に漸次後退する傾斜壁面部を備えたものとしてもよい。こうして垂直壁面部を設けることにより、ブレーカ底面側では切屑との接触を避けて抵抗が大きくなりすぎるのを防ぎつつ、このブレーカ底面から離れた側では上記と同様に、切屑の詰まりを防ぐとともにワークから速やかに離れるように切屑を案内して排出することが可能となる。
さらにまた、特にブレーカ壁面を5段以上の多段面状とした場合には、例えばブレーカ壁面をコーナ部がなす凸曲線に高精度で一致した曲率半径の凸曲面に形成する場合などに比べ、上述のように略同様の作用を奏しつつもブレーカ壁面の形成を比較的容易とすることができ、個々のコーナ部におけるチップブレーカ形成のための時間や労力を軽減することが可能となる。逆に、同じコストならインサート本体のより多くのコーナ部にこのようなチップブレーカを形成することができ、例えばインサート本体が多角形平板状をなしている場合に、その表裏の多角形面のコーナ部に上記チップブレーカを形成することが可能となるので、1つのインサート本体を有効に利用して経済的かつ効率的な切削インサートを提供することができる。
以上説明したように、本発明によれば、焼き入れ鋼等よりなるワークの倣い旋削や仕上げ旋削においても、切屑を確実にカールさせて所望の方向に排出することができて、切屑処理性の向上と確実な排出方向の制御を図ることができ、仕上げられた加工面に切屑が噛み込まれて傷つけられたり切屑がホルダに巻き付いたりするような事態を防いで、高精度で、しかも円滑な仕上げ加工を促すことができるとともに、ブレーカ壁面の欠損や早期の摩滅も防いで長寿命な切削インサートを提供することが可能となる。
図1ないし図7は、本発明の第1の実施形態を示すものである。本実施形態においてインサート本体1は超硬合金等の硬質材料により形成されて菱形平板状をなし、その一対の菱形面のうちの一方がすくい面2とされるとともに、他方は当該インサート本体1を図示されないインサート着脱式切削工具のホルダに取り付ける際の着座面3とされ、これらすくい面2と着座面3の周囲に配置される4つの側面が逃げ面4とされて、これら逃げ面4とすくい面2との交差稜線部が切刃5とされている。ただし、この交差稜線部には、切刃5に沿うようにして、すくい面2と逃げ面4とに鈍角に交差する面取り部6がすくい面2の全周に亙って一定の幅で形成されており、この面取り部6は、すくい面2との交差角が逃げ面4との交差角よりも大きくされている。
また、周方向に隣接する逃げ面4同士の交差稜線部は、これらの逃げ面4に滑らかに接する凸曲面とされて、本実施形態では凸円筒面状とされており、従ってこれらの交差稜線部とすくい面2とが交差するすくい面2の4つのコーナ部において切刃5は、該すくい面2に対向する方向から見て凸曲線状とされて、本実施形態では凸円弧状を呈することになり、またこれらのコーナ部において上記面取り部6は円錐台面状を呈することになる。なお、本実施形態では、上記4つのコーナ部のうち鋭角をなすコーナ部Cの頂角が80°とされるとともに、逃げ面4はすくい面2に垂直な方向に形成され、さらにすくい面2の中央から着座面3にかけては当該インサート本体1をその厚さ方向に貫通する取付孔7が形成されたCNGAタイプの切削インサートとされている。
さらに、すくい面2の上記鋭角をなす一対のコーナ部Cには、インサート本体1の該コーナ部Cを含んだ部分を切り欠くようにして、すくい面2に平行な底面8Aと、これら一対のコーナ部C同士を結ぶすくい面2の対角線Lに垂直に上記底面8Aからすくい面2に至る壁面8Bとを有する凹所8が形成されている。そして、この凹所8には、超硬合金9AとcBN(立方晶窒化硼素)焼結体9Bとを層状に積層して一体に焼結した切刃チップ9が、このcBN焼結体9B部分をすくい面2側に向けてろう付け等により接合されて固着されている。
ここで、この切刃チップ9は、インサート本体1のすくい面2、逃げ面4、および上記面取り部6と、上記凸曲面状の逃げ面4同士の交差稜線部も含めて面一に連なるようにその表面が形成されており、また上記cBN焼結体9Bの厚さは、すくい面2から上記面取り部6と逃げ面4との交差稜線までの幅(面取り部6の上記厚さ方向の幅)よりも大きくされている。従って、切刃5の上記コーナ部C周辺においては、円弧状をなすこのコーナ部Cの切刃部5Aから、この切刃部5Aの両端に滑らかに接して直線状に延びる切刃部5Bの所定の長さまでの部分が、このcBN焼結体9B部分に形成されることになる。
そして、さらにこのcBN焼結体9B部分に形成された面取り部6には、上記コーナ部Cに臨んで、すくい面2側を向くブレーカ底面10Aと、このブレーカ底面10Aに対して立ち上がるブレーカ壁面10Bとを備えたチップブレーカ10が形成されており、このチップブレーカ10は、そのコーナ部Cに臨む部分において、上記ブレーカ壁面10Bが、本実施形態では該コーナ部Cにおける上記切刃部5Aがなす凸曲線に沿って湾曲する凸曲面状とされている。ここで、このチップブレーカ10は、対角線Lに沿って上記厚さ方向に延びる平面に対称に形成され、本実施形態では上記切刃部5Aがこの対角線L上に中心を有する円弧状をなすのに対し、上記ブレーカ壁面10Bも、そのコーナ部Cに臨む部分のブレーカ底面10Aとの交差稜線が同じく対角線L上に中心を有する円弧状とされ、かつその半径も互いに等しくされている。
また、ブレーカ底面10Aは、面取り部6と逃げ面4との交差稜線よりもすくい面2側に一定の間隔をあけて、すくい面2および着座面3に平行な平面状に形成されている。従って、このブレーカ底面10Aと面取り部6との交差稜線と面取り部6と逃げ面4との交差稜線との間の幅も、切刃部5Aから切刃部5Bに亙って一定とされている。一方、ブレーカ壁面10Bは、上記対角線L上に位置する部分が、ブレーカ底面10Aからの幅が最も大きくなるようにされ、ただしこの部分でも、すくい面2と面取り部6との交差稜線には達しないように、すくい面2と間隔をあけて形成されている。
さらに、このブレーカ壁面10Bは、上記コーナ部Cに臨んで凸曲面状をなす部分の両端側が、すくい面2に対向する方向から見て、この凸曲面に滑らかに接し、コーナ部Cの上記頂角よりも大きな角度(本実施形態では90°)をなして対角線Lから離間するに従い面取り部6とブレーカ底面10Aとの交差稜線側に接近する直線状に延びるように形成されている。従って、このブレーカ壁面10Bの上記幅と、ブレーカ底面10Aの幅も、上記対角線L上の位置から切刃5に沿って直線状の切刃部5B側に向かうに従い漸次小さくなり、cBN焼結体9B部分において、それぞれの幅が0となるように、すなわち面取り部6とブレーカ底面10Aおよびブレーカ壁面10Bとの交差稜線部同士が交差して、当該チップブレーカ10の端部が画成されるようになされている。
さらにまた、ブレーカ壁面10Bは、本実施形態ではブレーカ底面10A側が該ブレーカ底面10Aに垂直な垂直壁面部11とされるとともに、この垂直壁面部11よりもブレーカ底面10Aから離れたすくい面2側の部分は、ブレーカ底面10Aに対して立ち上がるに従いコーナ部Cの内側に漸次後退する傾斜壁面部12とされている。ここで、上記垂直壁面部11のブレーカ底面10Aからの幅は、ブレーカ壁面10B自体の幅が0に近づく上記チップブレーカ10の端部側を除いて一定とされ、かつ上記対角線L上の部分においては傾斜壁面部12の幅よりも十分小さくされている。従って、このブレーカ壁面10Bのコーナ部Cに臨む部分は、そのブレーカ底面10A側が垂直壁面部11によって凸円筒面状とされ、また、すくい面2側は傾斜壁面部12により傾斜した凸円筒面状または円錐台面状とされて、その垂直壁面部11に対する傾斜角θは、本実施形態では10°とされている。
このように構成された切削インサートでは、まずインサート本体1のすくい面2における鋭角をなすコーナ部Cの周辺において、切刃5が切刃チップ9のcBN焼結体9B部分に形成されているので、このコーナ部C周辺の切刃5を使用して中硬度から高硬度の焼き入れ鋼等の旋削を行う場合でも、切刃5に欠損を生じたりすることなく確実な旋削加工を行うことができる。しかも、このコーナ部Cを含めて、切刃5には面取り部6が形成されているので、この切刃5の強度をさらに確実に確保することが可能となる。
そして、さらにこのコーナ部Cには、上記面取り部6にチップブレーカ10が形成されており、このチップブレーカ10におけるブレーカ壁面10Bのコーナ部Cに臨む部分が、コーナ部Cにおいて切刃5がなす凸曲線状の切刃部5Aに沿って湾曲する凸曲面状とされているので、図6に示すようにこの切刃部5Aとブレーカ壁面10Bとの距離が該コーナ部Cの切刃部5Aに沿って大きく変化するのを防ぐことができる。従って、このようなコーナ部Cを用いてワークの倣い切削を行う場合に、コーナ部Cの切刃5A上における切削ポイントがワークの凹凸に伴って変化していっても、切屑を所定の距離でブレーカ壁面10Bに衝突させることができ、この距離が短すぎて切屑が詰まりを生じたり、逆にこの距離が長くなりすぎて切屑が伸び気味となり、ホルダに巻き付いて絡んだり、旋削したワークの加工面に当たって傷を付けたりするような事態を防止して、円滑な旋削加工を促すことが可能となる。
また、この倣い旋削によって切刃部5Aにおける切削ポイントが変化することにより、切屑の流出方向がコーナ部Cに沿って変化しても、上記ブレーカ壁面10Bが凸曲面状であるので、このブレーカ壁面10Bに衝突した切屑は、上記凸曲面がなす円筒面や円錐台面の母線に沿うように、しかもこの母線を中心としてある程度の幅をもって面接触しながら該ブレーカ壁面10Bに摺接することになる。このため、ブレーカ壁面10Bに衝突した切屑に十分な抵抗を与えることができて、切屑を一層確実にカールさせることが可能となり、またこうしてカールした切屑の排出方向を上記母線に沿った方向に制御することができるので、より円滑な切屑処理を図ることが可能となる。しかも、こうしてブレーカ壁面10Bが凸曲面状とされていることにより、該ブレーカ壁面10Bを全体的にコーナ部Cにおける凸曲線状をなす切刃部5Aに接近させることができるので、たとえ仕上げの倣い旋削などにおいて厚さの薄い切屑が生成されるような場合でも、切屑が伸びきってしまう前にブレーカ壁面10Bに衝突させてカールさせることが可能となる。
さらに、ブレーカ壁面10Bに角張った部分が形成されることもないので、このような部分に切屑が集中的に衝突することによって欠損が生じたり、摩耗が早期に進行してブレーカ壁面10Bが摩滅してしまうようなこともなく、上述のように切刃5の強度が確保されることとも相俟って、長寿命の切削インサートを提供することが可能となる。なお、このようなブレーカ壁面10Bの摩耗を一層確実に防ぐには、このブレーカ壁面10Bや、ブレーカ底面10Aも含めたチップブレーカ10全体、あるいはこのチップブレーカ10も含めた切刃チップ9のcBN焼結体9B部分の表面全体、もしくはこれとすくい面2や逃げ面4、および面取り部6も含めたインサート本体1の表面全体を、例えばTiCN、TiAlN、TiN等の硬質皮膜でコーティングするのが望ましい。
また、特に本実施形態の切削インサートでは、切刃5のコーナ部Cにおける切刃部5Aがなす凸曲線(凸円弧)の曲率半径(半径)と、上記ブレーカ壁面10Bがなす凸曲面の曲率半径(ブレーカ底面10Aとの交差稜線がなす凸円弧の半径)とが互いに等しくされているので、この切刃部5Aからブレーカ壁面10Bまでの距離を一層確実に均一として切屑処理性のさらなる向上を図ることができる。なお、このブレーカ壁面10Bの曲率半径は、厳密に切刃部5Aの曲率半径と一致していなくてもよいが、この切刃部5Aの曲率半径に対して±20%の範囲内で等しくされているのが望ましい。また、これら切刃部5Aがなす凸曲線やブレーカ壁面10Bがブレーカ底面10Aとの交差稜線においてなす凸曲線は、その曲率半径が変化する楕円形状などであってもよい。
さらに、本実施形態では、このブレーカ壁面10Bが、ブレーカ底面10A側は該ブレーカ底面10Aに垂直な垂直壁面部11とされる一方で、これとは反対のすくい面2側はブレーカ底面10Aに対して立ち上がるに従いコーナ部Cの内側に漸次後退する傾斜壁面部12とされている。しかるに、この点、ブレーカ壁面10Bは、例えば特許文献3記載の切削インサートと同様にその全面が垂直壁面部11とされていてもよいが、こうしてブレーカ底面10Aから離れた側に傾斜壁面部12を形成することにより、切屑に抵抗が作用しすぎるのを防ぐことができるとともに、該切屑を例えばワークから離れる側に案内しつつ速やかにすくい面2側に排出することができて、カールした切屑がワークの加工面に当たってしまうような事態をさらに確実に防止することができる。
その一方で、ブレーカ壁面10Bのブレーカ底面10A側には垂直壁面部11が形成されているので、例えば特許文献1のようにブレーカ壁面全体が底面から凹円弧面状をなして立ち上がるように形成されていたり、特許文献2のようにブレーカ壁面全体が傾斜平面とされていたりするのに比べては、切屑とブレーカ壁面10Bとの接触面積を小さくして抵抗の増大を防ぐことができる。なお、上述のように傾斜壁面部12を形成する場合においては、上記傾斜角θが大きくなりすぎると切屑がブレーカ壁面10Bに衝突しても十分な抵抗が与えられなくなったり、切屑がチップブレーカ10を乗り越えて流出してしまうおそれがあるので、傾斜角θはブレーカ壁面10Bの上記対角線L上の位置において60°以下の範囲とされるのが望ましく、さらには45°以下の範囲とされるのがより望ましい。
さらにまた、本実施形態では、このチップブレーカ10のブレーカ底面10Aが、インサート本体1のすくい面2および着座面3に平行な平面状とされており、かかる切削インサートをホルダに取り付けてワークの旋削加工を行うときに、ワークの回転軸線に対するこのブレーカ底面10Aの高さ、すなわち芯高位置を切刃5に沿って一定にして当該切削インサートを保持することができる。このため、例えば特許文献1に記載されたブレーカ底面が傾斜している切削インサート等に比べ、特に上記倣い旋削のように切削ポイントが変化する場合などでも、コーナ部Cに臨むブレーカ底面10Aの芯高位置が変化するのを防ぐことができ、一層安定した倣い旋削を可能とすることができる。
また、このようにブレーカ底面10Aがインサート本体1のすくい面2および着座面3に平行とされているため、本実施形態では、そのインサート厚さを着座面3からこのブレーカ底面10Aまでの高さとしてISO基準に準ずるように設定することにより、このブレーカ底面10Aからすくい面2までの高さ分だけ切刃5の高さを高くすることができ、これによって被削材に対する切刃5の角度をより負角側(ネガ)にすることができる。従って、このような構成を採れば、切屑をブレーカ壁面10Bにより衝突させやすくすることができて、さらなる切屑処理性の向上を図ることができるとともに、切削抵抗の低減を図ることもできて、切刃5やブレーカ壁面10Bの欠損等をさらに確実に防止することができるという効果も得られる。
次に、図8ないし図14は本発明の第2の実施形態を示すものであり、また図15ないし図21は本発明の第3の実施形態を示すものであり、それぞれ上記第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。すなわち、上記第1の実施形態では、チップブレーカ10のブレーカ壁面10Bが、切刃5のコーナ部Cにおける切刃部5Aがなす凸曲線に沿って湾曲する凸曲面状であったのに対し、これら第2、第3の実施形態では、ブレーカ壁面10Bが、この切刃5のコーナ部Cにおける切刃部5Aがなす凸曲線に沿って凸曲折する5段以上の多段面状とされていることを構成上の特徴とする。
ここで、図8ないし図12に示した第2の実施形態は、上記第1の実施形態と同様に鋭角をなすコーナ部Cの頂角が80°であるCNGAタイプの切削インサートに上記構成を適用したものであり、また図15ないし図20に示す第3の実施形態は、この頂角が55°であるDNGAタイプの切削インサートである。また、ブレーカ壁面10Bは、切刃部5Aが凸曲線をなすそのコーナ部Cに臨む部分が、第2の実施形態では9段の段面10B1〜10B9により構成され、また第3の実施形態では7段の段面10B1〜10B7により構成されていて、これら第2、第3の実施形態ではいずれも奇数段の多段面状とされている。なお、これら第2、第3実施形態でもチップブレーカ10は、対角線Lに沿ってインサート本体1の厚さ方向に延びる平面、すなわちコーナ部Cを二等分する平面に関して対称に形成されている。
さらに、これらの段面10B1〜10B9,段面10B1〜10B7はいずれも平面状をなし、ただしブレーカ底面10Aに対して立ち上がるに従いコーナ部Cの内側にブレーカ底面10Aに垂直な方向に対して、第1の実施形態の傾斜壁面部12と同様、60°以下の範囲の互いに等しい傾斜角θで漸次後退するように傾斜させられた傾斜平面とされており、第2、第3の実施形態ではこの傾斜角θはともに20°とされている。なお、これら第2、第3の実施形態におけるブレーカ壁面10Bには、そのブレーカ底面10A側に垂直壁面部11は形成されていない。また、隣接する段面10B1〜10B9,10B1〜10B7同士の交差角も互いに等しく、第2の実施形態では173°、第3の実施形態では168°の鈍角とされている。
そして、このコーナ部Cに臨むブレーカ壁面10Bを構成する多段面10B1〜10B9,段面10B1〜10B7は、互いに隣接する段面同士が交差するその凸曲折部に接する凸曲面の曲率半径が、切刃5の上記コーナ部Cにおける切刃部5Aがなす凸曲線の曲率半径と等しくされている。すなわち、これら第2、第3の実施形態では、このブレーカ壁面10Bのコーナ部Cに臨む部分がブレーカ底面10Aと交差してなす凸曲折した折れ線が、切刃部5Aがなす凸曲線(第2、第3の実施形態でも円弧)と等しい曲率半径の凸曲線に内接するように形成されている。なお、この折れ線が内接する凸曲線の曲率半径も、切刃部5Aがなす凸曲線の曲率半径の±20%の範囲内とされていればよい。
さらにまた、上述のようにこのコーナ部Cに臨む部分のブレーカ壁面10Bが奇数段の多段面状とされ、しかも上記対角線Lに沿って上記厚さ方向に延びる平面に対称であることから、第2の実施形態においては5段目の段面10B5が、また第3の実施形態においては4段目の段面10B4が、それぞれ上記平面に直交するように配置されることになる。また、このコーナ部Cに臨む部分の両端に位置する第2の実施形態の1、9段目の段面10B1,10B9と第3の実施形態の1、7段面の段面10B1,10B7とは、それぞれ切刃5の直線状切刃部5Bに臨むブレーカ壁面10B両端の傾斜平面部分に、やはり鈍角に交差して凸曲折するように連ねられており、この傾斜平面部分は第1の実施形態と同様にコーナ部Cの頂角よりも大きな角度(第2の実施形態では90°、第3の実施形態では84°)をなして対角線Lから離間するに従い面取り部6とブレーカ底面10Aとの交差稜線側に接近する直線状に延びるように形成されている。
このように構成された第2、第3の実施形態では、チップブレーカ10のブレーカ壁面10Bが多段面状ではあるものの、その段数が5段以上と多く、近似的に第1の実施形態と同様の凸曲面に略等しい形状とすることができるので、切刃5のコーナ部Cにける切刃部5Aとこのブレーカ壁面10Bとの距離を略一定とすることができて、切屑の詰まりや伸び気味の切屑によるホルダへの巻き付き等を防止することができ、さらにはブレーカ壁面10Bを切刃部5Aに近づけることができる。また、隣接する段面間には交差稜線が形成されるが、多段面であるのでこの交差稜線における段面同士の交差角をより大きな鈍角にすることができ、この交差稜線に沿って切屑が摺接しても欠損や摩耗を抑えることができる一方、切屑を線接触ではなく、ある程度の幅をもって面接触させて十分な抵抗を与えることができるとともに、この交差稜線の延びる方向へと確実に案内することが可能となる。
さらに、これら第2、第3の実施形態のようにブレーカ壁面10Bを平面状の段面によりコーナ部Cがなす凸曲線に沿って湾曲する多段面状に形成するのは、第1の実施形態のような凸曲面状のブレーカ壁10Bを正確に上記凸曲面に沿って湾曲形成するのに比べ、該段面を形成する砥石や放電加工機の端子を直線的に移動させるだけで済むので容易であり、また所望の精度を得やすいという利点もある。ただし、この多段面の段数が多くなりすぎるとこのような利点が失われ、また逆に段数が少ないと隣接する段面同士の交差角が小さくなって上述の効果が十分に奏功されなくなるおそれがあるので、インサート本体1の大きさやコーナ部Cの頂角などにもよるが、こうしてブレーカ壁面10Bのコーナ部Cに臨む部分を多段面状に形成する場合には、ブレーカ壁面10Bの両端部を除いて5〜15段程度の段数とするのが望ましい。
一方、これら第2、第3の実施形態では、このブレーカ壁面10Bのコーナ部Cに臨む部分の多段面が奇数段とされており、チップブレーカ10が上記二等分線Lに沿って上記厚さ方向に延びる平面に対称であることから、その中央の段面10B5,10B4は上記平面に直交して二等分線L上に位置することになる。このため、通常の仕上げ旋削などにおいてコーナ部Cのうちでもこの二等分線L上の部分の切刃5が使用されて、切屑が該二等分線Lに沿って流出するような場合には、厚みが薄いためにより伸び気味となる切屑でも、上記中央の段面10B5,10B4に確実に面接触させて抵抗を与えることによりカールしつつ、該段面10B5,10B4に沿って案内してその排出方向も確実に制御することが可能となる。
なお、これら第2、第3の実施形態では、このブレーカ壁面10Bが全体的に、ブレーカ底面10Aから離れてすくい面2側に向かうに従いブレーカ底面10Aに垂直な方向に対して傾斜角θで漸次後退する傾斜面とされており、第1の実施形態のような垂直壁面部11が形成されていないので、当該ブレーカ壁面10Bの形成が一層容易であるが、第1の実施形態と同様の垂直壁面部11をブレーカ底面10A側に形成してもよく、また逆に第1の実施形態において垂直壁面部11を形成せずに、ブレーカ壁面10B全体を傾斜壁面部12によって形成してもよく、さらには上述したように第1〜第3の実施形態においてブレーカ壁面10B全体をブレーカ底面10Aに対して垂直に形成してもよい。ただし、このブレーカ壁面10Bを部分的にでも傾斜させる場合には、その傾斜角θは60°以下、より望ましくは45°以下とされ、なおかつ面取り部6の傾斜角よりも小さくされるのが望ましい。
ところで、これら第1〜第3の実施形態ではいずれも菱形平板状のインサート本体の一方の菱形面のみがすくい面2とされて、他方の菱形面は着座面3とされ、このすくい面2の一対の鋭角をなすコーナ部Cに切刃チップ9が配設されて上記チップブレーカ10が形成されているが、特にこのチップブレーカ10のブレーカ壁面10Bが第2、第3の実施形態のように多段面状であるときには上述のようにその形成が容易であるので、1つのコーナ部Cにチップブレーカ10を形成する時間や労力、コストも少なくて済み、逆に同じ時間や労力、コストを費やすならばより多くのコーナ部Cにチップブレーカ10を形成することができるので、例えば図22ないし図25に示す第4の実施形態のように、両方の菱形面の合計4つのコーナ部Cに切刃チップ9を配設してチップブレーカ10を形成することが可能となる。この場合、一対の菱形面の一方が選択的にすくい面2とされるとともに他方は着座面3とされ、インサート本体1を表裏反転して両菱形面の4つのコーナ部C周辺の切刃5が順次使用に供される。
従って、このような第4の実施形態の切削インサートでは、1つのインサート本体1で使用可能なコーナ部Cの数が倍になるので、インサート本体1を有効利用して経済的な切削インサートを提供することができ、また所定の切削加工に必要なインサート数は半分になるので、その管理が容易となって効率的な作業を行うことが可能となる。なお、この第4の実施形態の切削インサートは上記一対の菱形面が表裏反転対称とされており、従って図23に示す平面図は同時に底面図ともなる。また、この第4の実施形態ではチップブレーカ10として第2の実施形態の多段面状のブレーカ壁面10Bを有するものを適用してるが、第1の実施形態の凸曲面状のブレーカ壁面10Bを有するチップブレーカ10としてもよい。さらに、本発明は、上述した実施形態のような菱形平板状の切削インサート以外の、例えば正三角形平板状のTNGAタイプの切削インサートなど、各種形状の切削インサートにも勿論適用可能である。