以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図1から図17は、本発明の実施の形態によるレーザ光照射装置およびマルチビーム走査光学系を適用したレーザアニール装置およびこの装置を用いて実施するレーザアニールに関する図である。図18は本発明のレーザ光照射装置を示す断面図、図19(a),(b)はマルチ横モード光が持つ干渉性を低減する構成を説明するための図である。
なお、上記図1から図17に示すレーザアニール装置およびこの装置を用いて実施するレーザアニールについては後述する。
図18に示すレーザ光照射装置221は、マルチ横モードのレーザ光をそれぞれ射出する4つのマルチ横モード半導体レーザ223A〜223D(以後、単に、半導体レーザ223A〜223D、あるいは、まとめて半導体レーザ223ともいう)と、半導体レーザ223A〜223Dから射出された各レーザ光をコリメートするコリメートレンズ124A〜124D(まとめてコリメートレンズ124ともいう)と、コリメートされた各レーザ光を所定面Hp上へスポット状(面積のある1点)に集光させる集光光学系である集光レンズ230とを備えている。
なお、レーザ光照射装置221において、4個の半導体レーザ223A〜223Dは、図示Y方向(図18の紙面上下方向)に1列に配列されている。また、半導体レーザ223A、223B、223C、223Dそれぞれからレーザ光La、Lb、Lc、Ld(以後、まとめてレーザ光LLともいう)のそれぞれが射出される。なお、上記半導体レーザ223は気密封止されたものであってもよい。
また、上記コリメートレンズ124と集光レンズ230とで構成される結像光学系が、各レーザ光La、Lb、Lc、Ldの近視野像を所定面Hp上へ結像させることにより上記スポット状の領域が形成される。すなわち、上記結像光学系が、半導体レーザ223のレーザ光LLの射出面におけるこのレーザ光LLの光強度分布を示す近視野像を所定面Hp上に結像させる。なお、必ずしも、上記コリメートレンズ124と集光レンズ230とで構成される結像光学系がレーザ光の近視野像を所定面Hp上へ結像させる必要はなく、単にレーザ光を所定面Hp上にスポット状に集光させるようにしてもよい。
さらに、上記レーザ光照射装置221は、コリメートレンズ124から集光レンズ230に至るまでの光路に配された、互に異なる光路を伝播する2つのレーザ光La、Lcを偏光合波して同一光路へ伝播させるとともに、互に異なる光路を伝播する2つのレーザ光Lb、Ldを偏光合波して同一光路へ伝播させる後述する偏光合波手段と、上記偏光合波されたレーザ光と他のレーザ光を、両レーザ光の光軸が所定面において互に交わるように角度合波させる角度合波手段と、上記レーザ光La、Lcを偏光合波させたレーザ光Lacと他のレーザ光Lb、Ldを偏光合波させたレーザ光Lbdを、両レーザ光の光軸を互に平行にせしめた状態で、かつ、両光軸間の間隔を半導体レーザ223から射出されるときの各レーザ光の光軸間の間隔よりも小さくせしめた状態で集光レンズ230へ入射させるように、両レーザ光の光路を変位させる後述する光路変位手段と、コリメートレンズ124から集光レンズ230に至るまでの上記光路中に配された、レーザ光Lacの光軸に対して対称な位置を伝播する2つの波面成分の所定面Hp上での干渉性を低減させるとともに、他のレーザ光Lbdの光軸に対して対称な位置を伝播する2つの波面成分の所定面上での干渉性を低減させる後述する干渉性低減手段とを備えている。
なお、上記4個の半導体レーザ223、4個のコリメートレンズ124、偏光合波手段、光路変位手段、干渉性低減手段等が半導体レーザ光源部221Gを構成している。
すなわち、上記レーザ光照射装置221は、ここでは半導体レーザ光源部221Gと集光レンズ230とから構成されるものである。
上記集光レンズ230は角度合波手段を兼ねるものである。
上記偏光合波手段は、偏光ビームスプリッタであるPBS126A,PBS126B、および1/2波長位相差素子である1/2波長板127を組合わせたものである。上記PBS126A,PBS126Bはいずれも、直角プリズムを2個接着してなるキューブ状の偏光ビームスプリッタである。なお、上記干渉性低減手段は、半導体レーザ223におけるレーザ光LLの射出面から離れた遠方でのレーザ光LLの光強度分布を示す遠視野像の形成位置近傍に配置されている。
PBS126Aに入射したレーザ光La,Lbが射出されるこのPBS126Aの射出面と、このPBS126Aの射出面から射出されたレーザ光La,Lbを入射させるPBS126Bの入射面とが接合または隣接配置されている。また、レーザ光Lc,Ldを入射させるPBS126Bの入射面上には、レーザ光Lc,Ldの偏光方向を90°回転させる1/2波長板127が取り付けられている。
PBS126Aが、例えばP波成分を反射させS波成分を反射させる場合には、PBS126Aに入射したレーザ光La,Lbは、各々S波成分がPBS126Aを透過し、P波成分がPBS126A内で反射されてPBS126Bに入射するようになっている。なお、上記PBS126Aに入射するレーザ光La,LbはP波成分の多い偏光の向きとなっている。
また、PBS126Bは、PBS126Aとは反対にS波成分を反射させP波成分を透過するようになっており、PBS126Aによって反射されたP波成分はそのままPBS126Bを透過する。
上記レーザ光Lc,Ldは各々、1/2波長板127により偏光方向を90°回転させてからPBS126Bへ入射させることにより、今度はS波成分の多い偏光の向きとなるので、従ってS波を反射するPBS126Bにおいては、光量の割合の少ないP波成分がPBS126Bを透過して、光量の割合の多いS波が反射される。
半導体レーザは、比較的光出力が小さく、単独では高速走査アニールするために必要な光パワー密度が得られないので、半導体レーザ光源部221Gは、複数(ここでは4個)の半導体レーザ223を備える構成としている。さらに、後述するレーザアニール装置100のレーザヘッド120は半導体レーザ光源部221Gを複数(ここでは8個)備える構成となっている。
個々の半導体レーザ223から出射されたレーザ光を角度合波のみで合波すると、焦点深度が浅くなり、焦点ずれによる光強度ばらつきが大きくなる恐れがある。マルチ横モードの半導体レーザでは、ファスト軸方向の放射角度が40°〜60°であり、スロー軸方向の放射角度15°〜25°である。本実施形態では、複数の半導体レーザ223から出射されたレーザ光La〜Ldを、ファスト軸方向に偏光合波させ、上記ファスト軸方向と直交するスロー軸方向に角度合波させる構成とすることで、焦点ずれによる光強度ばらつきを抑制し、必要な光パワー密度を得ている。なお、上記角度合波させるスロー軸方向は、上記光路変位手段によりレーザ光の光路を変位させる方向とすることが望ましい。
半導体レーザ光源部221Gからレーザ光が射出される出口には、マルチ横モードの半導体レーザ223から出射される個々の次数の高次横モードのレーザ光の波面成分であって、光軸に対して略対称方向に伝播する2つの波面成分の干渉性を低減するために、後述する1/2波長位相差素子128が設けられている。1/2波長位相差素子128は、上記2つの波面成分のうち一方の波面成分の偏光方向を90°回転させるものである。したがって、上記1/2波長位相差素子128は、上記レーザ光の光軸を通りこの光軸と直交する直線を間に挟んで互に対向する2つの光束のうちの片側の光束のみを通すように配置されている。
上記光路変位手段は、ここでは、反射ミラー125A〜125D(以後、まとめて反射ミラー125ともいう)と1/2波長板127とPBS126AとPBS126Bとで構成されている。
上記光路変位手段は、各半導体レーザ223から射出され反射ミラー125で反射されて互いの光軸の間隔が狭くなったレーザ光La、Lb、Lc、Ldのうちのレーザ光La、Lcを上記偏光合波手段に通して偏光合波させたレーザ光Lacと、レーザ光Lb、Ldを上記偏光合波手段に通して偏光合波させたレーザ光Lbdとを得る。そして、レーザ光Lacとレーザ光Lbdとを、両レーザ光の光軸を互に平行にせしめた状態で、かつ、両光軸間の間隔を半導体レーザ223A〜223Dから射出されるときの各レーザ光La〜Ldの光軸間の間隔よりも小さくせしめた状態で集光レンズ230へ入射させるように、両レーザ光の光路(レーザ光Lacの光路とレーザ光Lbdの光路)の一方、または両方を変位させる。
ここで、レーザ光Lacとレーザ光Lbdとを、両レーザ光の光軸を互に平行にせしめた状態で、かつ、両光軸間の間隔を半導体レーザ223A〜223Dから射出されるときの各レーザ光L1〜L4の光軸間の間隔よりも小さくせしめた状態で集光光レンズ230へ入射させるとは、以下のような態様を意味するものである。
すなわち、レーザ光Lacを構成するレーザ光La、Lcが半導体レーザ223A、223Cから射出されたときの光軸それぞれを光軸Ja、Jc、レーザ光Lbdを構成するレーザ光Lb、Ldが半導体レーザ223B、223Dから射出されたときの光軸それぞれを光軸Jb、Jd、レーザ光Lac、Lbdそれぞれの光軸を光軸Jac、光軸Lbdとする。このときに、光軸Ja、Jcのうちの1つの光軸と光軸Jb、Jdのうちの1つの光軸との間の最小間隔よりも、光軸Jacと光軸Lbdとの間隔の方が小さくなるように、上記光路変位手段が両レーザ光Lac、Lbdの光路を変位させ、かつ、両レーザ光Lac、Lbdの光軸Jac、Lbdを互に平行にせしめることを意味する。
ここでは、上記半導体レーザ223A〜223Dから射出されるときの光軸Ja、Jcのうちの1つの光軸と光軸Jb、Jdのうちの1つの光軸との間の最小間隔は、光軸Jaと光軸Jb、光軸Jcと光軸Jb、光軸Jcと光軸Jdそれぞれの間隔はいずれも値Vpで互に等しいので、上記最小間隔の値は値Vpとなる。一方、光軸Jacと光軸Lbdとの間隔の値を値Vqとすると、上記光路変位手段は、光軸Jac、Lbdを互に平行にせしめた状態で、光軸Jac、Lbd間の間隔Vqを上記最小間隔Vpよりも小さくするように、すなわち、間隔Vq<間隔Vpの条件を満足するように、両レーザ光Lac、Lbdの光路を変位させる。
また、上記干渉性低減手段は、上記コリメートレンズ124から集光レンズ230に至るまでの光路中に配された、合波されたレーザ光Lacの光軸に対して対称な位置を伝播する2つの波面成分の上記所定面Hp上での干渉性を低減させる干渉性低減手段である1/2波長位相差素子128A(例えば1/2波長板)と、合波されたレーザ光Lbdの光軸に対して対称な位置を伝播する2つの波面成分の上記所定面Hp上での干渉性を低減させる干渉性低減手段である1/2波長位相差素子128B(例えば1/2波長板)とを有するものである。
図19に示すように、上記半導体レーザ223等のマルチ横モードの半導体レーザLDは、次数の異なる複数の高次横モードが同時に発振される。図19(a)に示す如く、任意の1つの次数mの高次横モード光の近視野像NFP(m)は、次数に応じて複数のピークを持つ強度分布を有し、隣接するピーク間の位相が反転した像である。図19(b)に模式的に示す如く、半導体レーザLDの光導波路Rには、光軸Aに対して平行な2つの壁面E1、E2がある。ある1つの次数の高次横モード光は、これら2つの壁面E1、E2間で反射を繰り返して出射されるので、ある1つの次数の高次横モード光は概略、光軸Aに対して略対称方向に伝播する2つの波面成分W1とW2とが複数重ね合わされたものとなる。
2つの波面成分W1とW2とは概略、波面成分W1が壁面E1で反射されるときに波面成分W2が壁面E2で反射され、波面成分W1が壁面E2で反射されるとき波面成分W2が壁面E1で反射される関係にある。これら2つの波面成分W1とW2との干渉により、上記の強度分布と位相分布を有する近視野像NFP(m)が形成されると考えられる。
実際には次数の異なる複数の高次横モードが同時に発振されるので、実際の近視野像NFPは、次数の異なる複数の高次横モードの近視野像NFP(m)が重なったものとなる。
任意の1つの次数mの高次横モード光に着目すれば、上記2つの波面成分W1とW2は光軸Aに対して略対称方向に伝播し、光軸Aに対して略対称な双峰性の強度分布P1、P2を有する遠視野像FFP(m)を形成することになる。
高次横モード光は次数が異なっても、光軸Aに対して略対称方向に伝播する上記2つの波面成分W1とW2とが複数重ね合わされて構成される。ただし、双峰性の光強度分布P1、P2のピーク分離角θは、半導体レーザの光導波路Rのストライプ幅及び屈折率分布、発振波長、高次横モードの次数等により決定され、次数が高くなる程ピーク分離角θが大きくなる傾向にある。
この図では、双峰性の光強度分布P1、P2のピーク分離角θが最も大きい高次横モード光の遠視野像FFP(m)を実線で示し、その他の次数の高次横モード光の遠視野像FFP(m)を破線で示してある。
互に異なる次数の高次横モード光の間の干渉性は小さいが、同一次数の高次横モード光を構成する上記2つの波面成分W1とW2の間の干渉性は大きい。そこで、本実施形態では、2つの波面成分W1とW2のうち一方の波面成分W2の偏光方向を90°回転させる1/2波長位相差素子128を設けて、これら2つの波面成分W1とW2との干渉性を低減し、半導体レーザLDからの出射光の強度分布が均一になるように構成されている。
上記のように構成されたレーザ光照射装置221では、各半導体レーザ223から射出された各レーザ光La、Lb、Lc、Ldを、コリメートレンズ124および反射ミラー125へ通し、さらに、1/2波長板127、PBS126A、126B等へ通して偏光合波および光路変位させた互に平行な光軸を有する2つのレーザ光Lac,Lbdを得る。そして、上記レーザ光照射装置221は、これらのコリメートされた互に光軸が平行なレーザ光Lac,Lbdを集光レンズ230へ入射させ、集光レンズ230の作用により、2つレーザ光Lac,Lbdの各光軸Jac、Jbdを所定面Hp上で交差させるようにして上記各レーザ光の光束を集光させて、上記2つレーザ光Lac,Lbdそれぞれを所定面Hp上のスポット状の領域に集光させる。
なお、上記態様は、4つの各半導体レーザ223から射出された4つの各レーザ光La、Lb、Lc、Ldをスポット状の1点に集光させる場合について説明したが、このような場合に限らない。
本願発明のレーザ光照射方法および装置は、例えば、3つの各半導体レーザから射出された3つの各レーザ光をスポット状の1点に集光させたり、5つ以上の各半導体レーザから射出された5つ以上の各レーザ光をスポット状の1点に集光させたりしてもよい。
例えば、3つの各半導体レーザから射出された3つの各レーザ光をスポット状の1点に集光させる場合には、偏光合波手段により、第1および第2の半導体レーザから射出されコリメートされた第1および第2のレーザ光を偏光合波させ光軸を一致させて1つのレーザ光にまとめるとともに、光路変位手段により上記まとめられたレーザ光と第3の半導体レーザから射出されコリメートされた第3のレーザ光との互いの光軸を平行にし、かつ、半導体レーザから射出されたときよりも互いの光軸を接近させて上記第1〜第3のレーザ光を集光レンズに入射させることにより、上記と同様の効果を得ることができる。
ここで、半導体レーザから射出されたときよりも互いの光軸を接近させるとは、第3の半導体レーザから射出されるときの第3のレーザ光の光軸と第1の半導体レーザから射出されるときの第1のレーザ光の光軸との間隔、および上記第3のレーザ光の光軸と第2の半導体レーザから射出されるときの第2のレーザ光の光軸との間隔のうちのいずれか小さい方の間隔よりも、上記偏光合波でまとめられたレーザ光の光軸と第3のレーザ光の光軸との間隔を小さくすることを意味する。
すなわち、例えば、上記図18に示すレーザ光照射装置において、半導体レーザ223Dを除いた3つの半導体レーザ223A、223B、223Cのみを用いて、所定面Hc上へ3つのレーザ光La、Lb、Lcをスポット状に集光させるようにしても上記と同様の効果を得ることができる。
次に、上記レーザ光照射装置221を複数適用して構成した、本発明の他の態様のレーザ光照射装置であるマルチビーム走査光学系200について説明する。
図20は本発明のレーザ光照射装置を採用したマルチビーム走査光学系の概略構成を示す概念図、図21は上記マルチビーム走査光学系をレーザ光が並ぶ方向(図中X方向)から見た様子を示す概念図、図22は上記マルチビーム走査光学系をレーザ光の伝播方向(図中Z方向)から見た様子を示す概念図である。
なお、上記レーザ光照射装置221の構成要素と同等の構成要素には同じ参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
ここでは、マルチビーム走査光学系200は、上記レーザ光照射装置221を構成する半導体レーザ光源部221Gと同等の合波半導体レーザ光源を8個備えており、各合波半導体レーザ光源210a、b、・・から射出されたレーザ光は1つの集光レンズによって所定面Hp上の1方向(図中矢印X方向)に並ぶ8つの領域それぞれにスポット状に集光される。
図20、21、22に示すマルチビーム走査光学系200は、同一平面Ha上に並べて配設された複数の合波半導体レーザ光源210a、210b、・・・(以後、まとめて合波半導体レーザ光源210ともいう)と、各合波半導体レーザ光源210a、210b、・・・から射出された各レーザ光La、Lb・・・(以後、まとめてレーザ光Lともいう)についての近視野像を非晶質半導体膜249上の領域である所定面Hp上に結像させる1つの集光レンズ230と、コリメートされた各レーザ光La、Lb、・・・が、集光レンズ230の入射瞳Irを通過してこの集光レンズ230に入射するように各レーザ光La、Lb・・・を偏光させる偏向光素子であるプリズム240a、240b、・・・(まとめてプリズム240ともいう)とを備えている。
上記非晶質半導体膜249は、この非晶質半導体膜249中の結晶状態の違い(場所による結晶状態の違い)に応じてレーザ光Lの照射を受けたときの上記レーザ光Lから吸収するエネルギの吸収率が変動するものである。
上記マルチビーム走査光学系200は、レーザ光Lを非晶質半導体膜249上の領域である上記所定面Hpへ走査させるときに、非晶質半導体膜249で吸収されるレーザ光Lのエネルギがこの非晶質半導体膜249上の場所によらず一定となるように、レーザ光Lの光強度または走査速度を調節する吸収エネルギ調節手段である後述の空間変調素子245および後述の動的偏向手段を制御する走査速度制御部255を備えている。なお、上記空間変調素子245はレーザ光Lの光強度を調節するものであり、速度制御部255はレーザ光Lの走査速度を調節するものである。
上記動的偏向手段としては、所定面Hp上における8つの各レーザ光La、Lb、・・・の集光点であるスポット状の8つの結像点Pa、Pb・・・(以後、まとめて結像点Pともいう)を走査させるガルバノメータ250を採用することができ、上記走査速度制御部255はこのガルバノメータ250の走査速度を制御するものである。
上記空間変調素子245は、レーザ光Lの光路中に配された逆フーリエ変換プロファイルの複素振幅分布を持つ空間変調素子である。なお、吸収エネルギ調節手段としては、レーザ光Lの波長を合波させる波長合波素子246等を採用してもよい。
ここで、上記合波半導体レーザ光源210aから射出されるレーザ光Laは、互に光軸が平行で異なる光路を通る2つのコリメートされたレーザ光からなるものである。他の合波半導体レーザ光源210b、210c・・・から射出されるレーザ光Lb、Lc・・・のそれぞれも、互に光軸が平行で異なる光路を通る2つのコリメートされたレーザ光からなるものである。また、合波半導体レーザ光源210a、210b・・・から射出される各レーザ光La、Lb・・・も互に光軸が平行となるように調節されている。
なお、上記偏向光素子の代わりに回折光学素子等を採用することができる。
また、上記偏向光素子であるプリズム240は、個別の部材で構成されたものとしたり、アレイ状に一体化されたものとすることができる。
また、各プリズム240a、240b、・・・は、各レーザ光La、Lb、・・・が集光レンズ230の後側焦点fbの近傍を通るように各レーザ光La、Lb、・・・の光路を偏向させる。上記各レーザ光Lを集光レンズ230の後側焦点fbに通すことにより各レーザ光Lを所定面Hp上の各領域に正確に結像させることができる。しかしながら、必ずしも各レーザ光La、Lb、・・・が上記後側焦点fbを通らなくても、各レーザ光Lを上記集光レンズ230の入射瞳Irに通せば、実質的に各レーザ光Lを所定面Hp上に結像させることができる。
なお、上記集光レンズ230は像側テレセントリックな結像光学系であるが、集光レンズ230としては必ずしも像側テレセントリックな結像光学系を採用する場合に限らない。
上記マルチビーム走査光学系200は、さらに、各レーザ光La、Lb、・・・それぞれの結像点Pa、Pb・・・(以後、まとめて結像点Pともいう)が所定面Hp上で並ぶ方向(図中矢印X方向)と交差する方向に、結像点Pa,Pb、・・・が移動するように、コリメートされた各レーザ光La、Lb、・・・を動的に偏向させる動的偏向手段であるガルバノメータ250を備えている。なお、上記動的偏向手段としてはポリゴンミラーを採用することもできる。
なお、所定面Hp上に結像された各レーザ光La、Lb、・・・の結像点Pa、Pb・・・が所定面Hp上で走査される方向(図中矢印Z方向)に対して直交する方向(図中矢印X方向)と各レーザ光La、Lb、・・・のスロー軸の方向とを互に一致させることが望ましい。
上記ガルバノメータ250は、上記レーザ光Lを反射させるガルバノミラー251と、ガルバノミラー251を回動可能に支持する回転軸252と、上記回転軸252を回動させて上記ガルバノミラー251を往復回動させる駆動モータ253とを有している。
上記回転軸252の回転軸線252Jが、上記後側焦点fbおよび各レーザ光Lを反射させるガルバノミラー251の反射面Mhを通るように、上記ガルバノメータ250の位置が定められている。
なお、マルチビーム走査光学系200は、上記複数の合波半導体レーザ光源210a、210b、・・・を冷却するための冷却部282を備えている。上記8個の合波半導体レーザ光源210a、210b、・・・は、上記冷却部282上にマウントされている。
上記冷却部282は、合波半導体レーザ光源210の側に上記平面Haと平行な冷却面282mを有している。この冷却面282mは、上記平面Haと平行であって上記合波半導体レーザ光源210の上記冷却部282の側の面である被冷却面282rに接触せしめられて、上記合波半導体レーザ光源210a、210b、・・・が冷却される。すなわち、各合波半導体レーザ光源210は冷却部282によって冷却される。
次に上記マルチビーム走査光学系200の作用について説明する。
合波半導体レーザ光源210a、210b、・・・を駆動し、各合波半導体レーザ光源210から各レーザ光Lを所定の出力で射出させるとともに、冷却部282による各合波半導体レーザ光源210の冷却を開始する。
合波半導体レーザ光源210はレーザ光Lの出力にともない発熱するが、冷却部282の冷却により上記合波半導体レーザ光源210の温度は所定の一定温度に保たれる。
上記合波半導体レーザ光源210からコリメートされて射出された互に平行な各レーザ光Lは、プリズム240に入射する。各プリズム240は、上記入射した各レーザ光Lを、これらのレーザ光Lが集光レンズ230における入射瞳Irおよび後側焦点fbを通るように偏向させる。
上記入射瞳Irおよび後側焦点fbに向かって伝播する各レーザ光Lは、上記入射瞳Irおよび後側焦点fbを通るとともに、ガルバノミラー251の反射面Mhで反射されて集光レンズ230に入射する。
上記集光レンズ230に入射した各レーザ光Lは、この集光レンズ230で集光され所定面Hp上に結像される。
上記所定面Hp上に結像された各レーザ光Lの結像点Pa、Pb・・・は、ガルバノミラー251の往復回動に応じて、各結像点Pa、Pb・・・が上記所定面Hp上すなわち非晶質半導体膜249上で並ぶ方向と交差する方向(図中矢印Z方向)に移動せしめられる。
ここで、非晶質半導体膜249上に照射されるレーザ光の光強度は、上記空間変調素子245により静的に調節されるとともに、速度制御部255により動的に調節される。これにより、非晶質半導体膜249中の結晶状態の違いに応じたレーザ光のエネルギの吸収率の変動を相殺するように上記レーザ光Lを非晶質半導体膜上に照射することができ、この非晶質半導体膜で吸収されるレーザ光Lのエネルギを上記非晶質半導体膜上のいずれの領域においても一定とすることができる。
なお、本発明のレーザ光照射装置は、必ずしも上記干渉性低減手段を備える場合に限らず、上記干渉性低減手段を備えなくても上記と同様の効果を得ることができる。
以下、上記マルチビーム走査光学系を適用可能なレーザアニール装置およびこの装置を用いて実施するレーザアニールについて図1から18を参照して説明する。
なお、上記レーザ光照射装置221あるはマルチビーム走査光学系200の構成要素と同等の構成要素には同じ参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
ここで、上記レーザアニール装置を構成するための、後述する被アニール半導体膜を載置する基板ステージ110、レーザ光を出射するレーザヘッド120、およびレーザヘッド120から出射されたレーザ光を走査する走査光学系140のうちの、レーザヘッド120および走査光学系140からなる構成要素に対して上記マルチビーム走査光学系200を適用することができる。
「レーザアニール方法」
従来より、非結晶シリコン(a−Si)と多結晶シリコン(poly−Si)とは、レーザ光の波長に対するエネルギの吸収特性が異なることは知られていた。しかしながら、従来は、粒状結晶シリコンとラテラル結晶シリコンとはいずれも多結晶シリコン(poly−Si)であり、これらのレーザ光に対するエネルギの吸収特性に違いがあるとは考えられていなかった。
本発明者は、粒状結晶シリコンとラテラル結晶シリコンとについて、レーザ光の波長に対する吸収特性について評価を実施し、これらの吸収特性に差があることを見出した。そして、粒状結晶部分及び非結晶部分が融解し、かつラテラル結晶部分が融解しないレーザ光の照射条件が存在することを見出した。本発明者は、かかるレーザ光の照射条件でレーザアニールを行うことにより、いったん生成されたラテラル結晶は再融解せず、その結晶性が変化することなく、粒状結晶部分及び非結晶部分のみを選択的に融解させて、これらをラテラル結晶化することができ、略全面ラテラル結晶とすることができることを見出した。以下、本発明者が行った評価について説明する。
GaN系半導体レーザ(発振波長405nm)を用い、非結晶シリコン(a−Si)膜に対して細長い矩形状のレーザ光Lを相対走査しながら連続照射して、レーザアニールを行った。基板平面をxy平面とし、レーザ光の主相対走査方向をx方向、副相対走査方向をy方向とする。
図1(a)に示すように、あるy位置でレーザ光Lのx方向相対走査を1回実施すると、レーザ光Lの主相対走査方向xに延びる横方向成長のラテラル結晶が生成し、ラテラル結晶の生成領域の外側に、結晶粒の小さい粒状結晶(粒状poly−Si)が生成される。この1回だけのレーザ光Lの相対走査後には、帯状に延びるラテラル結晶成長の領域を挟んで両側に、粒状結晶が生成される。
ここでは、レーザ光Lが直接照射される領域内の端部に、粒状結晶が生成された場合について、図示してある。レーザアニール条件によっては、レーザ光Lが直接照射される領域内の端部、及び/又はレーザ光Lは直接照射されないが熱が伝導する領域(=レーザ光Lが直接照射される領域のすぐ外側の領域)に、粒状結晶が生成される。
なお、本明細書において、レーザ光の相対走査を実施してラテラル結晶を成長させる場合、あるy位置でレーザ光Lのx方向相対走査を1回実施したときにアニールされる領域を、「1回のレーザアニールのアニール領域」と言う。
膜全面を処理するために、図1(b)に示すように、y位置を変えてレーザ光Lのx方向相対走査を繰り返し実施する。y位置を変えてレーザ光Lのx方向相対走査を実施する際には、y位置を変える前にラテラル結晶の外側に生成された粒状結晶の少なくとも一部及び結晶化されずに残っている非結晶の少なくとも一部を含む領域に対して、レーザアニールを実施する。このとき、先に生成されたラテラル結晶に重ねてレーザ光Lを照射してもよい。
図示するように、y位置を変えてレーザ光Lのx方向相対走査を実施する際(アニール領域を変える際)には、被アニール半導体膜に対して、先にレーザ光Lが照射された領域と次にレーザ光Lが照射される領域とが部分的に重なるよう、レーザアニールを実施することが好ましい。
図1(a)中、被アニール半導体膜に符号20を付し、基板ステージに符号110を付し、レーザヘッドに符号120を付してある。図1(a)は、あるy位置でレーザ光Lのx方向相対走査を1回実施している途中の図である。ここでは、視認しやすくするため、膜に対してレーザヘッドの大きさを大きく図示してある。
図1(b)はy位置を変えてレーザ光Lのx方向相対走査を繰り返し実施したときの結晶化のイメージ平面図である。図中、レーザ光Lが照射された領域のうち特にハッチングを付けていない領域がラテラル結晶の生成領域である。
ラテラル結晶部分(ラテラルpoly−Si)、粒状結晶部分(粒状poly−Si)、及び非結晶部分(a−Si)について各々、測定光の波長を変えて、エリプソメータにて複素屈折率n+ik(kは消衰係数であり、ikは虚数部を示す。)を測定した。各結晶状態における波長と屈折率nとの関係を図2に示す。また、下記式に基づいて、各結晶状態における波長と吸収係数αとの関係を求めた。結果を図3に示す。いずれの結晶状態においても、400nm付近で吸収係数が大きく低下する傾向にあることが明らかとなった。
吸収係数α=k/4πλ
(式中、kは消衰係数、λは波長である。)
次に、ラテラル結晶シリコン、粒状結晶シリコン、及び非結晶シリコンについて各々、各波長におけるシリコン膜の吸収率を求めた。
レーザヘッドからの出射エネルギーは、レーザアニール装置に組み込まれた各種光学系を透過する間に生じる損失、及び膜表面でのフレネル反射による損失によって減衰して、膜に吸収される。膜に吸収される光エネルギーは下記式で表される。
(膜に吸収される光エネルギー)=(膜に照射される光エネルギー)×(表面反射せずに膜に入射する光量の割合)×(膜に吸収される光量の割合)
上記式中の(表面反射せずに膜に入射する光量の割合)×(膜に吸収される光量の割合)が吸収率である。吸収率は、膜に照射されたレーザ光の光量に対して膜に吸収される光量の割合であり、吸収率=a×bで表される。
上記式中、aは膜に吸収される光量の割合であり、下記式から求められる。膜厚tは、レーザアニールにより結晶化を行ってポリシリコンTFTを形成する場合に一般的な50nmとした。
a=exp−αt
(式中、αは吸収係数、tは膜厚)
上記式中、bは表面反射せずに膜に入射する光量の割合であり、下記式から求められる。bはレーザヘッドから出射されたレーザ光の光量からフレネル反射による膜表面での損失分を差し引いて求められる量である。
b=1−((1−n)/(1+n))2
(式中、nは屈折率である。)
さらに、各波長において、非結晶シリコンの吸収率に対する粒状結晶シリコンの吸収率比(=粒状poly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)、及び非結晶シリコンの吸収率に対するラテラル結晶シリコンの吸収率比(=ラテラルpoly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)を求めた。これらの吸収率比は、非結晶シリコンの吸収率を1としたときの、粒状結晶シリコンの相対吸収率及びラテラル結晶シリコンの相対吸収率である。結果を図4に示す。
粒状結晶シリコンとラテラル結晶シリコンとはいずれも多結晶シリコン(poly−Si)であるが、図4には、レーザ光の波長に対するこれらのレーザ光の吸収特性が大きく異なることが示されている。
図2〜図4に示すように、粒径の小さい粒状結晶シリコン(粒状poly−Si)は、非結晶シリコン(a−Si)とラテラル結晶シリコン(ラテラルpoly−Si)との中間的な特性を示すことが明らかとなった。このように、ラテラル結晶シリコンと粒状結晶シリコンとを分けて、吸収特性を評価した例は、過去には見当たらない。
図4に示すように、350nm未満の波長域では、粒状結晶シリコンとラテラル結晶シリコンとの吸収特性に大きな差はなく、いずれも、非結晶シリコンの吸収率の0.7〜0.9倍程度の高い吸収率を示すことが明らかとなった。これに対して、350nm以上の波長域では、粒状結晶シリコンとラテラル結晶シリコンとはいずれも、長波長になるにつれて非結晶シリコンに対する吸収率比が低下する傾向にあるが、ラテラル結晶シリコンの方が、非結晶シリコンに対する吸収率比の低下のレベルがより大きく、しかもその低下がより短波長側で起こることが明らかとなった。350〜650nmの波長域では、非結晶シリコンに対する粒状結晶シリコンの吸収率比と、非結晶シリコンに対するラテラル結晶シリコンの吸収率比との差が大きくなっている。
図4は非結晶シリコン(a−Si)の吸収率を基準とした相対的な吸収率比を示すものであるが、図3に示すように、絶対的な吸収率の値で見れば、500nm以上の波長域においては、ラテラル結晶シリコン、粒状結晶シリコン、及び非結晶シリコンのすべての吸収率が著しく小さくなる。したがって、ラテラル結晶シリコンの吸収率と粒状結晶シリコンの吸収率との差が大きく、かつ、粒状結晶シリコン及び非結晶シリコンの吸収率がある程度高い範囲内で、用いるレーザ光の波長を決定することが好ましい。
すなわち、膜厚t=50nmの条件では、350〜500nm、好ましくは350〜450nmの波長域にあるレーザ光を用いることで、粒状結晶部分及び非結晶部分を融解させてラテラル結晶化することができ、かつ既に生成されたラテラル結晶部分は融解させないレーザアニールを実施することができる。
現在レーザアニールに一般に使用されているエキシマレーザ光は波長300nm以下の紫外レーザ光であるので、ラテラル結晶部分と粒状結晶部分と非結晶部分とはいずれも吸収率が高く、吸収特性に大きな差はない。
また、「背景技術」の項で挙げた特許文献1〜5で用いられている可視レーザ光は、固体レーザの第2高調波等の500〜550nmの波長域のレーザ光である。かかる波長域では、図4ではラテラル結晶部分と粒状結晶部分との吸収特性に大きな差があるように見えるが、図3に示すように、非結晶部分の吸収率自体が小さいため、実際にはラテラル結晶部分と粒状結晶部分との吸収特性に大きな差はない。
すなわち、従来は、ラテラル結晶部分と粒状結晶部分との吸収特性に大きな差のない300nm以下の波長域、あるいは500〜550nmの波長域のレーザ光が用いられていた。そして、ラテラル結晶部分と粒状結晶部分とはいずれも多結晶シリコンであるから、吸収特性に大きな差はないと考えられていた。本発明者は、ラテラル結晶部分と粒状結晶部分との吸収特性に大きな差が現れる波長域が存在することをはじめて明らかにした。
特開2004-64066号公報には、GaN系半導体レーザ(波長350〜450nm)を用いたレーザアニール装置が開示されている。照射条件としては、走査速度3000mm/s、非結晶シリコン膜面上における光パワー密度600mJ/cm2が挙げられている(段落0127)。しかしながら、この文献では、結晶状態と吸収率の関係などについては、検討されていない。
単結晶シリコン(c−Si)の融点は約1400℃であり、非結晶シリコン(a−Si)の融点は約1200℃である。したがって、粒状結晶部分及び非結晶部分を融解させるには、粒状結晶部分及び非結晶部分におけるレーザ光の表面到達温度が約1400℃以上であることが好ましい。
本発明者が、GaN系半導体レーザ(発振波長405nm)を用い、非結晶シリコン膜に対して、レーザ光の相対走査速度0.01m/s以上の条件で、レーザヘッドからの出射光量を変えてレーザアニールを行い、レーザビームの中央部分において実際にラテラル結晶が成長するのか否かをSEM及びTEMにより観察し、ラテラル結晶成長に必要なレーザ光の表面到達温度を求めたところ、約1700℃であった。また、実際の実験から、レーザ光の表面到達温度が約2200℃以上では、アブレーションにより膜の部分的な剥離が生じる場合があることが分かった。すなわち、粒状結晶部分及び非結晶部分をラテラル結晶化するには、これらの部分におけるレーザ光の表面到達温度が約1700〜2200℃であることが好ましい。レーザ光の表面到達温度は、レーザ光が照射されたときの瞬間的な膜表面温度である。
表面到達温度は、シリコン膜に入射する光量(この光量は、レーザヘッドからの出射光量から、レーザアニール装置に組み込まれた各種光学系を透過する間に生じる光量損失、及び膜表面におけるフレネル反射による光量損失を差し引いて求められる。)、及びシリコン膜の吸収率から、理論的に求められる。
レーザ光の表面到達温度を所望の温度とするのに、必要な照射エネルギーは下記式で概念的に表される。なお、各エネルギーは、時間変化及び温度変化するため、単純には表記できないが、ここでは概念的に示してある。式中、融解エネルギーE2は、融点にて必要なエネルギーである。
(照射エネルギーE1)=(融解エネルギーE2)+(所望の温度に上昇させるために必要なエネルギーE3)+(放熱エネルギーE4)
参考のために、1μm×1μm×50nmの直方体を加熱したときの断熱モデルでの計算例を示す。ここでは、所望の温度が1400℃の条件で計算してある。
1μm×1μm×50nmの体積中に含まれるSiを融解させるために必要な融解エネルギーE2は、以下のように算出される。
E2=(単位融解エネルギー)×(1μm×1μm×50nmの体積中に含まれるSiのモル数)=46×103×((2.32 g/cm3)×(10-6×10-6×50×10-9 m3)/28)=1.9×10-10 J
1μm×1μm×50nmの体積中に含まれるSiを所望の温度(この計算例では1400℃=融点)に上昇させるために必要なエネルギーE3は、以下のように算出される。
E3=(比熱)×(1μm×1μm×50nmの体積中に含まれるSiの質量)×(所望の温度)=770J/kg K×(2.32g/cm3×(10-6×10-6×50×10-9 m3))×1400℃=1.3×10-10 J
レーザ光の表面到達温度が2200℃となる吸収光エネルギーに対するエネルギー比と、レーザ光の表面到達温度との関係を図5に示す。非結晶シリコンは約1200℃以上で融解するが、この図では、ラテラル結晶及び粒状結晶が融解しない表面到達温度約1400℃以下の領域を「非融解」として図示してある。また、ラテラル結晶が成長するレーザ光の表面到達温度約1700〜2200℃の領域、及びアブレーションにより膜の部分的な剥離が生じるレーザ光の表面到達温度約2200℃以上の領域を図示してある。
被アニール半導体膜20に均一な光エネルギー分布の光を照射しても、結晶状態によって吸収される光エネルギー量は変化するので、各結晶状態におけるレーザ光の表面到達温度が変化する。図5には、レーザ光の表面到達温度が2200℃となる吸収光エネルギーに対するエネルギー比が0.82以上の条件でラテラル結晶成長が可能であり、同エネルギー比が0.70以下の条件では粒状結晶が融解しないことが示されている。
粒状結晶部分及び非結晶部分を融解させてラテラル結晶化することができ、かつ既に生成されたラテラル結晶部分は融解させないためには、粒状結晶部分及び非結晶部分についてはレーザ光の表面到達温度が約1700〜2200℃となる吸収光エネルギーを与え、ラテラル結晶部分についてはレーザ光の表面到達温度が約1400℃以下となる吸収光エネルギーを与えればよい。
ラテラル結晶部分、粒状結晶部分、及び非結晶部分に対して、同一照射条件でレーザ光を照射する場合には、非結晶シリコンの吸収率に対する粒状結晶シリコンの吸収率比(=粒状poly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)が0.82以上であり、非結晶シリコンの吸収率に対するラテラル結晶シリコンの吸収率比(=ラテラルpoly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)が0.70以下となる波長を選択することで、ラテラル結晶部分、粒状結晶部分、及び非結晶部分に吸収されるエネルギー比を、0.70以下:0.82〜1.0:1.0とすることができる。
すなわち、被アニール半導体膜20が非結晶シリコン膜である場合、ラテラル結晶部分、粒状結晶部分、及び非結晶部分におけるレーザ光の吸収率が、下記式(1)及び(2)の関係を充足する条件で、レーザアニールを実施することが好ましい。
0.82≦粒状結晶部分の吸収率/非結晶部分の吸収率≦1.0・・・(1)、
ラテラル結晶部分の吸収率/非結晶部分の吸収率≦0.70・・・(2)
粒状結晶部分及び非結晶部分がラテラル結晶化し、ラテラル結晶が融解しないレーザアニールを安定的に実施するには、下記式(1A)及び(2)を充足する条件で、レーザアニールを実施することがより好ましい。
0.85≦粒状結晶部分の吸収率/非結晶部分の吸収率≦1.0・・・(1A)、
ラテラル結晶部分の吸収率/非結晶部分の吸収率≦0.70・・・(2)
図4には、吸収率比=0.7及び吸収率比=0.82のラインを記載してある。非結晶シリコンの吸収率に対する粒状結晶シリコンの吸収率比(=粒状poly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)が0.82以上であり、非結晶シリコンの吸収率に対するラテラル結晶シリコンの吸収率比(=ラテラルpoly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)が0.70以下となる波長は、シリコン膜の膜厚t=50nmの条件では、360〜450nmの波長である。
レーザ光の吸収率は、シリコン膜の膜厚tによって変化する。膜厚t(nm)=50,100,200としたときの、レーザ光の波長と、非結晶シリコンの吸収率に対するラテラル結晶シリコンの吸収率比(=ラテラルpoly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)との関係を求めた。結果を図6に示す。
図6には、非結晶シリコンの吸収率に対するラテラル結晶シリコンの吸収率比(=ラテラルpoly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)が0.7以下となる波長は、膜厚によって変わることが示されている。同様に、非結晶シリコンの吸収率に対する粒状結晶シリコンの吸収率比(=粒状poly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)が0.82以上となる波長も、膜厚によって変わる(図示略)。
レーザアニールにより結晶化を行ってポリシリコンTFTを形成する場合、膜厚t(nm)>120では、TFTの素子形成が難しくなると共にリーク電流も多くなり、膜厚t(nm)<40では、活性層の膜厚が薄くなりすぎて素子の信頼性が低下する。したがって、TFT用では40≦膜厚t(nm)≦120nm(式(4))が好ましい。レーザアニールにより結晶化を行ってポリシリコンTFTを形成する場合の非結晶シリコン膜の膜厚tは50nm程度が最も一般的である。
図7に、膜厚tに対して、粒状結晶部分及び非結晶部分の表面到達温度が約1700〜2200℃となり、かつ、ラテラル結晶部分の表面到達温度が約1400℃以下となるレーザ光の波長の範囲を示す。
非結晶シリコンの吸収率に対するラテラル結晶シリコンの吸収率比(=ラテラルpoly−Siの吸収率/a−Siの吸収率)が0.7以下となる波長は膜厚によって変わるが、膜厚t(nm)とレーザ光の波長λ(nm)とが下記式(3)を充足する条件で、レーザアニールを実施すればよい。
0.8t+320≦λ≦0.8t+400・・(3)
40≦膜厚t(nm)≦120であれば、350〜500nm、好ましくは350〜490nmの波長域にあるレーザ光を用いることで、粒状結晶部分及び非結晶部分を融解させてラテラル結晶化することができ、かつ既に生成されたラテラル結晶部分は融解させないレーザアニールを実施することができる。
粒状結晶部分及び非結晶部分をラテラル結晶化するには、これらの部分におけるレーザ光の表面到達温度が約1700〜2200℃であることが必要であることを述べた。本発明者が上記表面到達温度の範囲内で条件を変えてレーザアニールを行ったところ、粒状結晶部分では、上記範囲内でも比較的低い表面到達温度条件において、粒状結晶が核となってレーザ光の主相対走査方向に対して非平行方向(例えばレーザ光の主相対走査方向に対して5〜45°の角度方向)にラテラル結晶が成長しようとし、かつ、同時に主相対走査方向に揃うようにラテラル結晶が成長しようともするので、湾曲したラテラル結晶が生成することがあった。TFTの素子特性のばらつきを抑制するには、膜の略全面でラテラル結晶方向が概ね揃っていることが好ましい。
本発明者は、粒状結晶部分及び非結晶部分におけるレーザ光の表面到達温度が約2000±200℃となる条件でレーザアニールを行うことで、粒状結晶が瞬間的に融解して、粒状結晶を核とするラテラル結晶成長が抑制されて、膜の略全面でラテラル結晶方向を揃えることができることを見出した。本発明者は、かかる条件でレーザアニールを行うことにより、膜の略全面でレーザ光の主相対走査方向とラテラル結晶成長方向となす角度を5°以下に揃えることができることを見出している。
図8に、レーザ光の相対走査速度に対して、非結晶部分における表面到達温度が約2000±200℃となる吸収パワー密度の範囲を示す。この図に示されるように、非結晶部分におけるレーザ光の吸収パワー密度P(MW/cm2)とレーザ光の相対走査速度v(m/s)とが下記式(5)を充足する条件で、レーザアニールを実施することが好ましい。
0.44v0.34143≦P≦0.56v0.34143・・・(5)
従来、SOIの分野における研究において、1cm/s以下のSiの結晶成長速度が下記式で表されることが報告されている。
V=V0×exp(−Ea/kT)
(式中、Vはa−SiからPoly−Siへの固相成長速度(cm/s)である。kはボルツマン定数である。Tはアニール温度(K)である。V0は係数であり、V0=2.3〜3.1×108 cm/sである。Eaは活性化エネルギー(=c−Si中での空孔形成エネルギーに等しい)であり、Ea=2.68〜2.71eVである。)
本発明者は、上記レーザアニールにおけるラテラル結晶成長速度も、上記関係式で表されることを確認している。先に述べたように、非結晶部分におけるアニール温度は約2200℃が上限であるので、ラテラル結晶成長速度の上限は8m/sとなる。
ラテラル結晶部分、粒状結晶部分、及び非結晶部分に対して、同一照射条件でレーザ光を照射する場合、
非結晶シリコンの吸収率に対する粒状結晶シリコンの吸収率比が0.82以上であり、非結晶シリコンの吸収率に対するラテラル結晶シリコンの吸収率比が0.70以下となる波長を選択し、
粒状結晶部分及び非結晶部分の表面到達温度が約1700〜2200℃となり、かつ、ラテラル結晶部分の表面到達温度が約1400℃以下となるようにレーザアニールを行ったときの、
非結晶部分、粒状結晶部分、及びラテラル結晶部分における、吸収率分布、膜面上のレーザ光の照射光強度分布、レーザ光の吸収エネルギー分布、及び温度分布のイメージ図を図9に示す。
この図では、レーザ光の表面到達温度ではなく、膜の温度分布を示してある。また、この図には、レーザアニールを実施している際中の、被アニール半導体膜の表面と、該表面におけるレーザビーム位置及びレーザビームの相対走査方向とを図示してある。
非結晶部分、粒状結晶部分、及びラテラル結晶部分における、膜面のレーザ光の照射光強度分布は均一であるが、各々の吸収率が異なっているので、各部分におけるレーザ光の吸収エネルギーが異なっている。そして、粒状結晶部分及び非結晶部分は融解する温度になるが、いったん生成されたラテラル結晶部分は重ねてレーザ光を照射しても再融解しない温度に抑えられている。
図1(a)に示したように、あるy位置でレーザ光Lのx方向相対走査を1回だけ実施した場合、帯状に延びるラテラル結晶成長の領域を挟んで両側に、粒状結晶が生成される。従来の方法では、y位置をずらして2回目のレーザ光Lのx方向相対走査を実施する際にも、1回目と同様に、帯状に延びるラテラル結晶成長の領域を挟んで両側に、粒状結晶が生成される。
しかしながら、上記方法では、ラテラル結晶部分に重ねてレーザ光を照射しても、ラテラル結晶部分が再融解せず、該部分の温度が粒状結晶の生成温度に満たないので、図9に示すように、y位置をずらして2回目のレーザ光Lのx方向相対走査を実施する際には、帯状に延びるラテラル結晶成長の領域の片側だけ、非結晶シリコン側にのみ、粒状結晶が生成されることになる。すなわち、上記方法では、2回目のレーザアニールによって、1回目に帯状に延びるラテラル結晶成長の領域を挟んで両側に生成された粒状結晶のうち、片方の側に生成された粒状結晶をラテラル結晶化させることができ、しかも先にレーザアニールを実施した側には、2回目のレーザアニールによって、不要な粒状結晶が新たに生成することがない。y位置を変えて、同様の操作を繰り返し行うことによって、略全面をつなぎ目なくラテラル結晶化することができる。
以上説明したように、上記方法では、略全面ラテラル結晶膜が得られる。「ラテラル結晶膜」とは、横方向(=レーザ光を相対走査する場合は、その相対走査方向)に延びる帯状の結晶粒で構成される多結晶膜であり、この多結晶膜は実効的にほぼ単結晶膜(擬似単結晶膜)と見なすことができる。本発明者は、レーザ光の相対走査方向の長さが5μm程度以上であり、幅が0.2〜2μmである結晶粒からなる略全面ラテラル結晶膜を実現している(後記実施例1のSEM・TEM表面写真(図14)を参照)。
上記評価は被アニール半導体膜20がシリコン膜の場合の評価であるが、被アニール半導体膜20の構成材料に関係なく、粒状結晶部分及び非結晶部分が融解し、かつラテラル結晶部分が融解しないレーザ光の照射条件でレーザアニールを行うことにより、いったん生成されたラテラル結晶は再融解せず、その結晶性が変化することなく、粒状結晶部分及び非結晶部分をラテラル結晶化することができ、略全面ラテラル結晶とすることが可能である。
すなわち、上記レーザアニール方法は、非結晶半導体からなる被アニール半導体膜の一領域に対して、ラテラル結晶が成長する条件でレーザ光を照射するレーザアニールを実施してラテラル結晶を成長させ、
さらに、アニール領域をずらして、ラテラル結晶の外側に生成された粒状結晶の少なくとも一部及び結晶化されずに残っている非結晶の少なくとも一部を含む領域に対して、レーザアニールを再度実施して、該部分をラテラル結晶化させる操作を1回以上実施するレーザアニール方法において、
被アニール半導体膜の粒状結晶部分及び非結晶部分が融解し、被アニール半導体膜のラテラル結晶部分が融解しない条件で、レーザアニールを実施することを特徴とするものである。
被アニール半導体膜の構成材料は特に制限なく、シリコン、ゲルマニウム、及びシリコン/ゲルマニウム等が挙げられる。
上記レーザアニール方法において、図1(b)に示したように、被アニール半導体膜に対して、先にレーザ光が照射された領域と次にレーザ光が照射される領域とが部分的に重なるよう、レーザアニールを実施することが好ましい。
レーザ光の照射領域の部分的な重ね方については特に制限されない。後からレーザ光を照射される領域が、先のレーザ光照射により形成された粒状結晶部分を100%カバーしていれば、粒状結晶部分が全てラテラル結晶化され、先の照射で形成されたラテラル結晶領域との間に粒状結晶領域なく、次のラテラル結晶領域を形成することができる。
被アニール半導体膜の用途によっては、ラテラル結晶領域間に粒状結晶領域が残っていてもよい場合がある。その場合でも、後からレーザ光が照射される領域と粒状結晶領域との重なりが1%以上あれば粒状結晶領域が部分的にラテラル結晶化されるので、ラテラル結晶領域を広くすることができる。後からレーザ光が照射される領域と粒状結晶領域との重なりの割合が大きくなる程、ラテラル結晶領域が広くなり、好ましい。後からレーザ光が照射される領域と粒状結晶領域との重なりの割合は、50%以上が好ましい。
レーザアニール条件によっては、レーザ光が直接照射される領域内の端部、及び/又はレーザ光は直接照射されないが熱が伝導する領域(=レーザ光が直接照射される領域のすぐ外側の領域)に、粒状結晶が生成される。
1回目のx方向の相対走査では、レーザ光は直接照射されないが熱が伝導する領域(=レーザ光が直接照射される領域のすぐ外側の領域)に粒状結晶が生成し、y位置を変えた次のx方向の相対走査で粒状結晶に対してレーザ光を直接照射するような場合には、先にレーザ光が照射された領域と次にレーザ光が照射される領域とが部分的に重ならなくても、粒状結晶をラテラル結晶化させることができる。ただし、粒状結晶の生成領域とレーザ光の照射位置との位置ずれを考慮すれば、被アニール半導体膜に対して、アニール領域をずらしてレーザアニールを再度実施する際には、先にレーザ光が照射された領域と次にレーザ光が照射される領域とが部分的に重なるよう、レーザアニールを実施することが好ましい。
上記レーザアニール方法において、レーザ光として連続発振レーザ光を用いることが好ましい。パルスレーザ光では、レーザヘッドをオンにしている間にもレーザ光が照射されない時間が周期的に訪れる。連続発振レーザ光を用いる場合には、レーザヘッドをオンにしている間は常に被アニール半導体膜に対してレーザ光が連続的に照射されるので、緻密で均一な膜処理ができ、より粒径の大きいラテラル結晶を成長させることができ、好ましい。上記レーザアニールを実施する際に用いて好適な波長域を考慮すれば、レーザ光として半導体レーザ光を用いることが好ましい。
被アニール半導体膜に対してレーザ光を相対走査する場合について説明したが、上記方法は、レーザ光を相対走査しなくても、ラテラル結晶が成長する条件でレーザアニールを行う場合に適用可能である。
例えば、はじめにある領域に対して矩形状にレーザ光を照射し、同じ領域に対して照射中心線は変えずに一方向の照射幅を小さくしながら、レーザ光を複数回繰り返し照射することで、はじめにレーザ光を照射した領域の外側から温度が冷えていき、照射中心線と外側との間に温度勾配が発生して照射中心線から外側に延びるラテラル結晶を成長させることができる。このとき、ラテラル結晶の生成領域の外側に粒状結晶が生成されることは、相対走査によりラテラル結晶を成長させる場合と同様である。この場合には、同じ領域に対して上記条件でレーザ光が複数回照射されてアニールされる領域が、1回のレーザアニールのアニール領域になる。ただし、かかる方法では、1つのアニール領域に対して、フォトマスク等を用いて照射面積を変えて複数回レーザ光を照射する必要があるので、連続的な膜処理ができず非効率的であり、略全面を均一に処理することも難しい。
したがって、上記レーザアニール方法において、被アニール半導体膜に対して、レーザ光を部分的に照射しつつレーザ光を相対走査して、レーザアニールを実施することが好ましい。かかる構成では、レーザ光の相対走査方向に結晶が成長するので、ラテラル結晶を連続的に成長させることができ、膜面全体を効率よく処理することができる。また、膜面全体を連続的に緻密に処理できるので、均一性に優れた略全面ラテラル結晶膜が得られる。
上記レーザアニール方法を用いることにより、結晶性及び均一性が高く、薄膜トランジスタ(TFT)の活性層等として好適な半導体膜を低コストに製造することができる。この半導体膜を用いることにより、素子特性(キャリア移動度等)や素子均一性に優れたTFT等の半導体装置を製造することができる。
このレーザアニール方法では、略全面において、粒状結晶部分がほとんどなく、しかもつなぎ目のないラテラル結晶膜を製造できるので、TFT等の半導体装置の形成位置の設計情報に基づいて、レーザ光のビーム端部とTFT等の半導体装置の素子形成領域とが重ならないようレーザ光を走査する、あるいはTFT等の半導体装置の素子形成領域にのみレーザ光を選択的に照射するなどの工夫が不要であり、素子特性(キャリア移動度等)及び素子均一性に優れたTFT等の半導体装置を低コストに安定的に製造することができる。かかるTFT等の半導体装置を備えた電気光学装置は、表示品質等の性能に優れたものとなる。
「レーザアニール装置」
図面を参照して、上記レーザアニール方法に係る実施形態のレーザアニール装置の構成について、説明する。図10はレーザアニール装置の全体構成図、図11は1個の合波半導体レーザ光源121の内部構成を示す図である。
本実施形態のレーザアニール装置100は、非結晶シリコン膜等の被アニール半導体膜20を載置する基板ステージ110と、レーザ光Lを出射するレーザヘッド120と、レーザヘッド120からの出射レーザ光Lを走査する走査光学系140とを備えている。
本実施形態では、レーザヘッド120から出射されたレーザ光Lは、走査光学系140により図示x方向(主相対走査方向)に走査されるようになっている。また、基板ステージ110がステージ移動手段(図示略)により図示y方向に移動可能とされており、これにより、レーザ光Lが図示y方向(副相対走査方向)に相対走査されるようになっている。本実施形態では、基板ステージ110及び走査光学系140により、レーザ光Lを被アニール半導体膜20に対して相対走査する相対走査手段が構成されている。
レーザヘッド120は、水冷ヒートシンク131上に隙間なく配置された複数の合波半導体レーザ光源121により概略構成されている。
ここで、上述したように、レーザヘッド120および走査光学系140からなる構成要素に対して上記マルチビーム走査光学系200を適用することができる。図11に示す如く、個々の合波半導体レーザ光源121には、レーザ光発振源として連続波出力の1個のマルチ横モードの半導体レーザLD(ブロードエリア半導体レーザ、図示略)がそれぞれ内蔵され気密封止された4個のLDパッケージ123(123A〜123D)と、これら4個のLDパッケージ123から出射されたレーザ光L1〜L4を各々コリーメートする、LDパッケージ123と同数のコリーメートレンズ124(124A〜124D)とが組み込まれたLDユニット122が備えられている。
合波半導体レーザ光源121それぞれにはさらに、レーザ光L1〜L4を各々反射するLDパッケージ123と同数の反射ミラー125(125A〜125D)と、反射ミラー125A,125Bにより反射されたレーザ光L1,L2が入射する偏光ビームスプリッタ126Aと、反射ミラー125C,125Dにより反射されたレーザ光L3,L4が入射する偏光ビームスプリッタ126Bとが備えられている。
偏光ビームスプリッタ(以下、PBSとする)126A,126Bはいずれも、直角プリズムを2個接着した構成のキューブ状のPBSであり、PBS126Bの光入射面には、レーザ光L3,L4の偏光方向を90°ずらす1/2波長位相差素子127が取り付けられている。
PBS126AがたとえばP波成分を反射する場合は、PBS126Aに入射したレーザ光L1,L2は各々、光出力検出用にS波成分がPBS126Aを透過してフォトダイオード129A,129Bに入射し、P波成分がPBS126A内で反射されてPBS126Bに入射するようになっている。レーザ光L1、L2の偏光の向きを調整することにより、P波成分とS波成分の割合を変えることができるので、この場合はP波成分が多くなる向きに調整することにより、より多くの光を有効に使うことができる。
PBS126Bを、PBS126Aとは反対の成分を反射する(あるいは透過する)特性のものとすることにより、すなわち、この場合はS波を反射するものとすることにより、PBS126Aによって反射されたP波はそのまま透過させることができる。一方、レーザ光L3,L4は各々、1/2波長位相差素子127により偏光方向を90°ずらしてからPBS126Bに入射させることにより、今度はS波成分の多い偏光の向きとなるので、従ってS波を反射するPBS126Bにおいては、光出力検出用に光量の割合の少ないP波成分がPBS126Bを透過してフォトダイオード129C,129Dに入射し、光量の割合の多いS波が反射される。
従って、合波半導体レーザ光源121では、PBS126B内で、偏光成分の異なるレーザ光L1とレーザ光L3、及び、レーザ光L2とレーザ光L4とがファスト軸方向に偏光合波され、さらに偏光合波されたレーザ光L1,L3と偏光合波されたレーザ光L2,L4とをスロー軸方向に角度合波するようにしている。
半導体レーザLDは比較的光出力が小さく、単独では高速走査アニールするために必要な光パワー密度が得られないので、レーザヘッド120は、複数のLDパッケージ123を備えた合波半導体レーザ光源121を複数(ここでは8個)備える構成としている。個々の合波半導体レーザ光源121において、複数のLDパッケージ123からの出射光を角度合波のみで合波すると、焦点深度が浅くなり、焦点ずれによる光強度ばらつきが大きくなる恐れがある。マルチ横モードの半導体レーザLDでは、ファスト軸方向の放射角度40〜60°であり、スロー軸方向の放射角度15〜25°である。本実施形態では、複数のLDパッケージ123から出射されたレーザ光L1〜L4を、ファスト軸方向に偏光合波し、スロー軸方向に角度合波する構成とすることで、焦点ずれによる光強度ばらつきを抑制し、必要な光パワー密度を得ている。
合波半導体レーザ光源121では、コリーメートレンズ124、反射ミラー125、ビームスプリッタ126A,126B、1/2波長板127,及び1/2波長位相差素子128A,B等により、4個のLDパッケージ123からのレーザ光L1〜L4をまとめて射出する光学系が構成されている。
図10に示す如く、複数の合波半導体レーザ光源121を備えたレーザヘッド120の光出射面には、複数の合波半導体レーザ光源121の形成位置に合わせて偏向角度を設定した複数のプリズム132aからなるプリズムアレイ(偏向素子)132が取り付けられている。
走査光学系140は、ガルバノミラー等の光走査ミラー(動的偏向素子)141と各レーザ光を集光させる集光レンズ142とから構成されている。
レーザヘッド120に搭載された複数の合波半導体レーザ光源121から出射されたレーザ光Lは、上記吸収エネルギ調節手段である空間変調素子133を通りプリズムアレイ132によって偏向されて、光走査ミラー141に入射して、図10中の矢印x方向に走査される。
レンズ142は、光走査ミラー141による光走査に合わせて走査されるようになっており、光走査ミラー141により偏向されたレーザ光Lがレンズ142に入射して互いの光軸が平行となる。
本実施形態では、上記構成により、図10中の矢印y方向を長手方向とする細長いレーザビームが形成され、このレーザビームが被アニール半導体膜20に照射されつつ走査される。本発明者は例えば、被アニール半導体膜20の膜面における照射光パワー密度が0.5〜2.7W/cm2である、20μm×4μm〜40μm×8μmの形状のレーザビームを実現した。
本実施形態のレーザアニール装置100において、レーザ光Lの照射条件は、被アニール半導体膜20の粒状結晶部分及び非結晶部分が融解し、かつ被アニール半導体膜20のラテラル結晶部分が融解しない条件に設定されている。
被アニール半導体膜20が非結晶シリコン膜である場合、レーザ光Lの照射条件は、ラテラル結晶部分、粒状結晶部分、及び非結晶部分におけるレーザ光の吸収率が、下記式(1)及び(2)の関係を充足する条件に設定されていることが好ましい。
0.82≦粒状結晶部分の吸収率/非結晶部分の吸収率≦1.0・・・(1)、
ラテラル結晶部分の吸収率/非結晶部分の吸収率≦0.70・・・(2)
被アニール半導体膜20が非結晶シリコン膜である場合、レーザ光Lの照射条件は、被アニール半導体膜20の膜厚t(nm)とレーザ光Lの波長λ(nm)とが下記式(3)を充足する条件に設定されていることが好ましい。
0.8t+320≦λ≦0.8t+400・・(3)
被アニール半導体膜20が非結晶シリコン膜である場合、レーザヘッド120に搭載された半導体レーザ(レーザ光発振源)LDは、発振波長が350〜500nmの波長域にある半導体レーザであることが好ましい。350〜500nmの波長域にあるレーザ光を発振するレーザとしては、GaN,AlGaN,InGaN,InAlGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたGaN系半導体レーザ、及びZnO系やZnSe系等のII-VI族化合物系半導体レーザ等が挙げられる。
本実施形態のレーザアニール装置100において、被アニール半導体膜20が非結晶シリコン膜である場合、レーザ光Lの照射条件と相対走査条件とは、非結晶部分におけるレーザ光の吸収パワー密度P(MW/cm2)とレーザ光Lの相対走査速度v(m/s)とが下記式(5)を充足する条件に設定されていることが好ましい。
0.44v0.34143≦P≦0.56v0.34143・・・(5)
本実施形態のレーザアニール装置100は、被アニール半導体膜20に対して、y位置を変えてレーザ光Lのx方向相対走査を実施する際(アニール領域を変える際)には、先にレーザ光Lが照射された領域と次にレーザ光Lが照射される領域とが部分的に重なるよう、レーザアニールを実施するものであることが好ましい。
以上の構成の本実施形態のレーザアニール装置100を用いることで、上記の上記レーザニール方法を実施することができる。
本実施形態のレーザアニール装置100は上記構成に限らず、適宜設計変更可能である。基板ステージ110の移動と走査光学系140による光走査とにより、被アニール半導体膜20に対するレーザ光Lの相対走査を実施する構成としたが、被アニール半導体膜20に対するレーザ光Lの相対走査は、レーザヘッド120の図示x方向及びy方向の機械的走査、基板ステージ110の図示x方向及びy方向の機械的走査、あるいはレーザ光Lの図示x方向及びy方向の光走査等によっても実施することができる。
本実施形態で挙げたように、高出力が得られ、細長いレーザビーム形状が得られることから、レーザヘッド120は、マルチ横モードの半導体レーザLDを複数備えた合波半導体レーザ光源121を複数搭載したものであることが好ましい。個々の合波半導体レーザ光源121に搭載されるLD数が4個の場合について説明したが、その数は適宜設計できる。レーザヘッド120は、単数の合波半導体レーザ光源121のみを備えたものであってもよい。レーザヘッド120は、単数の半導体レーザLDのみを備えたものであってもよい。
「半導体膜、半導体装置、アクティブマトリクス基板」
図面を参照して、上記レーザアニールに係る実施形態の半導体膜、これを用いた半導体装置、及びこれを備えたアクティブマトリクス基板の製造方法と構成について説明する。本実施形態では、トップゲート型の画素スイッチング用薄膜トランジスタ(画素スイッチング用TFT)と、これを備えたアクティブマトリクス基板を例として説明する。図12は、工程図(基板の厚み方向の断面図)である。
はじめに、図12(a)に示す如く、基板10を用意し、基板10の表面全体に、非結晶半導体からなる被アニール半導体膜20を成膜する。ここでは、被アニール半導体膜20が非結晶シリコン(a−Si)膜である場合について図示してある。
基板10としては特に制限なく、ガラス基板(石英ガラス基板、バリウムホウケイ酸ガラス基板、アルミノホウケイ酸ガラス基板等)、本実施形態のTFTプロセス及びTFTプロセスの後工程における熱処理に耐え得る耐熱性を有し、かつガラス同等以上の断熱性を有するプラスチック基板、シリコン基板、及び金属基板(ステンレス基板等)の表面に絶縁膜を形成してガラス同等以上の断熱性を付与した基板等が挙げられる。
被アニール半導体膜20は基板10上に直接形成するのではなく、基板10上に酸化シリコンや窒化シリコン等の下地膜(図示略)を成膜してから、その上に、被アニール半導体膜20を成膜してもよい。下地膜及び被アニール半導体膜20の成膜方法としては特に制限なく、プラズマCVD法、LPCVD法、及びスパッタ法等の気相成長法が挙げられる。
下地膜の膜厚は特に制限なく、例えば200nm程度が好ましい。被アニール半導体膜20の膜厚は特に制限なく、40〜120nmが好ましい。被アニール半導体膜20の膜厚は、例えば50nm程度が好ましい。
プラズマCVD法等により成膜された被アニール半導体膜20には、通常水素が多く含まれる。水素が多く含まれたままレーザアニールによる結晶化を行うと、水素が突沸して膜表面が荒れる、水素の突沸により膜が部分的に剥離するなどの問題が生じる恐れがある。したがって、レーザアニールに先立ち、脱水素処理を行うことが好ましい。脱水素処理方法としては特に制限なく、熱アニール処理(例えば約500℃・約10分間)等が挙げられる。
次に、図12(b)に示す如く、被アニール半導体膜20に対して、上記レーザアニールを実施して、被アニール半導体膜20の全面を結晶化する。本実施形態では、略全面ラテラル結晶化が可能である。
次に、図12(c)に示す如く、フォトリソグラフィ法により、レーザアニール後の半導体膜21をパターニングして、TFTの素子形成領域以外の領域を除去する。パターニング後の半導体膜に符号22を付してある。
次に、図12(d)に示す如く、CVD法やスパッタリング法等により、SiO2等からなるゲート絶縁膜24を形成する。ゲート絶縁膜24の膜厚は特に制限なく、例えば100nm程度が好ましい。
次に、図12(e)に示す如く、電極材料を成膜し、フォトリソグラフィ法によるパターニングを実施することにより、ゲート絶縁膜24上に、ゲート電極25を形成する。
次に、図12(f)に示す如く、ゲート電極25をマスクとして、半導体膜22にP,B等のドーパントをドープし、活性領域であるソース領域23aとドレイン領域23bとを有する活性層23を形成する。ドーパントがPの場合について図示してある。活性層23において、ソース領域23aとドレイン領域23bとの間の領域がチャネル領域23cとなる。ドープ量は、例えば3.0×1015ions/cm2程度が好ましい。この工程により、TFTの活性層をなす半導体膜23が形成される。
次に、図12(g)に示す如く、SiO2やSiN等からなる層間絶縁膜26を成膜し、さらに、ドライエッチングやウエットエッチング等のエッチングを実施して、層間絶縁膜26に、半導体膜23のソース領域23aに通じるコンタクトホール27aと、ドレイン領域23bに通じるコンタクトホール27bとを開孔する。
さらに、層間絶縁膜26上の所定の領域に、ソース電極28aとドレイン電極28bとを形成する。ソース電極28aは、コンタクトホール27aを介して半導体膜23のソース領域23aに導通され、ドレイン電極28bはコンタクトホール27bを介して半導体膜23のドレイン領域23bに導通される。
本実施形態では、レーザアニール後パターニング前の半導体膜21、パターニング後不純物注入前の半導体膜22、及び不純物注入後の半導体膜23のいずれも、上記レーザアニール技術を用いて製造された半導体膜である。
以上の工程により、本実施形態の画素スイッチング用TFT30が製造される。
次に、図12(h)に示す如く、SiO2やSiN等からなる層間絶縁膜31を成膜し、ドライエッチングやウエットエッチング等のエッチングを実施して、層間絶縁膜31にソース電極28aに通じるコンタクトホール32を開孔する。
さらに、層間絶縁膜31上の所定の領域に、画素電極33を形成する。画素電極33は、コンタクトホール32を介してTFT30のソース電極28aに導通される。
一対の画素電極33とTFT30のみを図示してあるが、実際には、1個の基板10に対して、画素電極33はマトリクス状に多数形成され、各画素電極33に対応して画素スイッチング用TFT30が形成される。
通常、液晶装置用では、1つのドットに対して1個の画素電極33と1個の画素スイッチング用TFT30とが形成され、EL装置用では、1つのドットに対して1個の画素電極33と2個の画素スイッチング用TFT30とが形成される。
以上の工程により、本実施形態のアクティブマトリクス基板40が製造される。
アクティブマトリクス基板40の製造にあたっては、走査線や信号線等の配線が形成される。ゲート電極25が走査線を兼ねる場合と、ゲート電極25とは別に走査線を形成する場合がある。ドレイン電極28bが信号線を兼ねる場合と、ドレイン電極28bとは別に信号線を形成する場合がある。
本実施形態では、上記レーザアニール技術を用いているので、結晶性が高く、TFTの活性層として好適な半導体膜21〜23を製造することができる。これらの半導体膜21〜23を用いて製造された本実施形態の画素スイッチング用TFT30は、素子特性(キャリア移動度等)や素子均一性に優れたものとなる。この画素スイッチング用TFT30を備えた本実施形態のアクティブマトリクス基板40は、電気光学装置用として高性能なものとなる。
液晶装置やEL装置等の電気光学装置では、同じ基板上に、画素電極と画素スイッチング用TFTとがマトリクス状に多数形成された画素部と、この画素部を駆動する、複数の駆動回路用TFTを用いて構成された駆動回路を備えた駆動部とが設けられる場合がある。駆動回路は、通常、N型TFTとP型TFTとのCMOS構造を有する。
上記レーザアニール技術では、被アニール半導体膜20を略全面ラテラル結晶化することができるので、画素スイッチング用TFTの活性層と駆動回路用TFTの活性層とを同時に形成することができる。上記レーザアニール技術では、キャリア移動度等の素子特性に優れた駆動回路用TFTを製造することができる。
「電気光学装置」
図面を参照して、上記レーザアニールに係る実施形態の電気光学装置の構成について説明する。このレーザアニール、EL装置や液晶装置等に適用可能であり、有機EL装置を例として説明する。図13は有機EL装置の分解斜視図である。
本実施形態の有機EL装置(電気光学装置)50は、上記実施形態のアクティブマトリクス基板40の上に、電流印加により赤色光(R)、緑色光(G)、青色光(B)を各々発光する発光層41R、41G、41Bが所定のパターンで形成され、その上に、共通電極42と封止膜43とが順次積層されたものである。
封止膜43を用いる代わりに、金属缶もしくはガラス基板等の封止部材で封止を行ってもよい。この場合には、酸化カルシウム等の乾燥剤を内包させてもよい。
発光層41R、41G、41Bは、画素電極33に対応したパターンで形成され、赤色光(R)、緑色光(G)、青色光(B)を発光する3ドットで一画素が構成されている。共通電極42と封止膜43とは、アクティブマトリクス基板40の略全面に形成されている。
有機EL装置50では、画素電極33と共通電極42のうち、一方が陽極、他方が陰極として機能し、発光層41R、41G、41Bは、陽極から注入される正孔と陰極から注入される電子の再結合エネルギーによって発光する。
発光効率を向上するために、発光層41R、41G、41Bと陽極との間には、正孔注入層及び/又は正孔輸送層を設けることができる。発光効率を向上するために、発光層41R、41G、41Bと陰極との間には、電子注入層及び/又は電子輸送層を設けることができる。
本実施形態の有機EL装置(電気光学装置)50は、上記実施形態のアクティブマトリクス基板40を用いて構成されたものであるので、TFT30の素子特性(キャリア移動度等)や素子均一性に優れており、表示品質等の電気光学特性が優れたものとなる。
<<実施例>>
上記レーザアニールに係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
ガラス基板上に、プラズマCVD法にて、酸化シリコンからなる下地膜(200nm厚)と、非結晶シリコン膜(a−Si、50nm厚)とを順次成膜した。その後、約500℃・約10分の熱アニールを実施して、非結晶シリコン膜の脱水素処理を実施した。
この非結晶シリコン膜に対して、上記実施形態のレーザアニール装置100(図10及び図11を参照)を用いて、レーザアニールを実施した。レーザ光発振源としては、GaN系半導体レーザ(発振波長405nm)を用いた。非結晶シリコン膜面上におけるレーザビームの形状は、20×3μmの細長い矩形状とした。
下記条件で、略全面レーザアニールを実施した。
<条件1>
レーザ光の相対走査速度0.01m/s、非結晶部分における吸収パワー密度0.1MW/cm2、重ね量75%。
重ね量が75%とは、あるy位置においてレーザ光のx方向相対走査を実施した後、y位置を変えてレーザ光のx方向相対走査を実施する際には、y位置を5μmだけずらして、先にレーザ光が照射された20μm幅の領域に対して、照射領域が15μm重なるように、レーザアニールを実施したことを意味する。
略全面レーザアニール後の膜表面のSEM写真及びTEM写真を図14(a),(b)に示す。図示するように、本実施例の条件では、粒状結晶部分及び非結晶部分は融解するが、いったん生成されたラテラル結晶部分は重ねてレーザ光を照射しても再融解せず、略全面において、粒状結晶部分がほとんどなく、しかもつなぎ目のないラテラル結晶膜が得られた。しかも、膜の略全面でレーザ光の主相対走査方向とラテラル結晶成長方向となす角度を5°以下に揃えることができた。
レーザアニール条件を下記条件に変えて、同様にレーザアニールを実施しても、略全面において、粒状結晶部分がほとんどなく、しかもつなぎ目のないラテラル結晶膜が得られた。
<条件2>
レーザ光の相対走査速度1.0m/s、非結晶部分における吸収パワー密度0.5MW/cm2、重ね量75%。
<条件3>
レーザ光の相対走査速度0.1m/s、非結晶部分における吸収パワー密度0.15MW/cm2、重ね量75%。
<条件4>
レーザ光の相対走査速度0.01m/s、非結晶部分における吸収パワー密度0.1MW/cm2、重ね量25%。
レーザ光の相対走査速度が遅い程、周囲に熱が伝導しやすく、粒状結晶が生成されやすい傾向にあるが、上記レーザアニール方法によれば、レーザ光の相対走査速度0.01m/sの条件においても、粒状結晶部分及び非結晶部分は融解するが、いったん生成されたラテラル結晶部分は重ねてレーザ光を照射しても再融解せず、略全面において、粒状結晶部分がほとんどなく、しかもつなぎ目のないラテラル結晶膜が得られた。
(比較例1)
下記条件でレーザアニールを実施した以外は、実施例1と同様にレーザアニールを実施した。
<条件5>
レーザ光の相対走査速度0.01m/s、非結晶部分における吸収パワー密度0.09MW/cm2、重ね量70%。
略全面レーザアニール後の膜表面のSEM写真及びTEM写真を図15(a),(b)に示す。図示するように、本比較例の条件では、粒状結晶部分とラテラル結晶部分がいずれも重ねてレーザ光を照射しても再融解しなかった。そのため、重ねてレーザ光を照射しても粒状結晶部分はラテラル結晶化しなかった。また、粒状結晶が核となってレーザ光の主相対走査方向に対して非平行方向(レーザ光の走査方向に対して5〜45°の角度方向)にラテラル結晶が成長しようとし、かつ、同時に主相対走査方向に揃うようにラテラル結晶が成長しようともするので、湾曲したラテラル結晶が生成した。膜面積に対して、粒状結晶の占める割合は30%以上であった。
(比較例2)
下記条件でレーザアニールを実施した以外は、実施例1と同様にレーザアニールを実施した。
<条件6>
レーザ光の相対走査速度0.01m/s、非結晶部分における吸収パワー密度0.08MW/cm2、重ね量70%。
略全面レーザアニール後の膜表面のTEM写真を図16に示す。比較例1よりも吸収パワー密度を落とした本比較例では、非結晶部分もラテラル結晶化せず、得られた膜は略全面が粒状結晶からなるシリコン膜であった。
(Vg−Id特性の評価)
実施例1の<条件1>のレーザアニールにより得られたシリコン膜を用いてTFTを製造し、得られたTFTのVg−Id特性(ゲート電圧Vgとドレイン電流Idとの関係)を評価した。
同様に、比較例1のレーザアニールにより得られたシリコン膜を用いてTFTを製造し、そのVg−Id特性を評価した。比較例1については、2個のTFT(比較例1−A、比較例1−B)について、評価を実施した。
結果を図17に示す。図17において、左右の縦軸はいずれも同じId値を示しているが、右の縦軸は通常表示、左の縦軸は対数表示になっている。図示するように、実施例1で得られたTFTは、比較例1で得られたTFTよりも、キャリア移動度が高く、素子電流特性が良好であった。
上記レーザアニール装置は、薄膜トランジスタ(TFT)及びこれを備えた電気光学装置の製造等に好ましく適用することができる。