JP4907781B2 - 化合物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、加圧及び加熱下に反応して得られた化合物の製造方法において、内部エネルギーを利用して反応媒体及び又は洗浄液等の付着物を化合物から除去する工程を含む化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
所望する固体粒子製品が、反応母液との混合物であるスラリーとして得られるケースは、化学プロセスにおいて散見される。一般的には該スラリーが分離および乾燥の単位操作を経ることで、固体粒子製品が得られる。
これまでに上記単位操作を改良し、プロセスを向上させる試みが数多くなされてきた。例えば乾燥操作について、特開昭52−59177号には圧搾空気移送型乾燥機を使用し、熱ガスもしくは熱空気を使用した外部加熱による乾燥の例が示されている。また、特公昭58−11418号や特開昭55−164650号には加熱管内でスラリーの液を蒸発させ、固体と気体を得るという例が示されている。ただし、これらは独立した乾燥操作を実施するという前提のもと、新たに熱を与えることでケーキを乾燥させるため、乾燥に相応のエネルギーを使用することが必要であった。
【0003】
一方、固液分離の前処理としてスラリー状態を保ちつつ温度を低下させて晶析を実施することは一般的である。例えば、英国特許1152575号には、溶媒を蒸発させて冷却を生じさせテレフタル酸を沈殿させる例が示されている。ただし、蒸発そのものはスラリー濃度を若干上げるにすぎず、温度を下げる以外にプロセスへの効果は見られない。
また、特開平11−33532号にはテレフタル酸を洗浄液でリスラリーしてフラッシュさせる例が示されている。粉体を加圧状態より抜き出すことは困難であるので、リスラリー化して抜き出す方法は一般に知られているが、エネルギーを損失している負の部分については着目されてこなかった。従って上記2件の例に示されるような、スラリーの温度を下げてエネルギーを散逸させ乾燥で再加熱するプロセスは、エネルギーが有効に利用されているとは言い難い。
【0004】
また、特開平1−299618号、米国特許5698734号、WO91/09661では、加圧状態でのケーキ分離が例示されているが、分離前スラリーの熱エネルギー保持がケーキ乾燥に有効であることについては何ら言及していない。
また、特表平60−506461号には加圧下でテレフタル酸と水のスラリーを分離してケーキ中に残留する水分をフラッシュ蒸発させる例が記載されている。しかし、水の蒸発潜熱は高いため、ケーキに付着している液の一部分しか蒸発させることが出来ず、化合物を取り出すためには通常の乾燥工程を経ることが必要である。
【0005】
【発明の解決しようとする課題】
本発明の目的は、反応後のスラリーが持つ内部エネルギーを利用し、乾燥工程におけるエネルギー使用を削減すること、特に好ましくはスラリーの持つ内部エネルギーのみからケーキを乾燥させることで、使用エネルギーを大幅に削減することと分離/乾燥工程を一体化して簡略なプロセスを構築することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造工程を採用することにより、加圧及び加熱下に反応を行って得られた反応物の持つ内部エネルギーが、ケーキ付着液の大半を蒸発させる能力を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明の要旨は、少なくとも以下の工程を有する化合物の製造方法に存する。
(A)反応器中で、大気圧より高い圧力下であり、且つ、反応媒体の大気圧における沸点以上で反応を行って、化合物を生成する反応工程、
(B)分離装置中で、大気圧より高い圧力且つ反応媒体の大気圧における沸点以上の温度にて化合物と反応媒体を含むスラリーから一定量以上の反応媒体を分離してケーキ付着液の固形分に対する重量比が50%以下のケーキを得る分離工程、及び
(C)得られたケーキを分離装置中の圧力より低い圧力且つ分離装置中の温度より低い温度の化合物回収帯域へ移動させ、その移動によって開放された内部エネルギーによりケーキ付着液を蒸発せしめる乾燥工程。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の具体的方法を説明するための概念図である。
反応器1にライン11より原料及び反応媒体が供給される。反応器中で一定の条件下で反応が行われる。反応後の反応物は液1相、気液2相、固液2相、気液固3相であっても良く、特に固液2相、気液固3相となっているものをスラリーと呼ぶ。本発明の製造方法においては、分離工程において固液分離を行うため、少なくとも分離装置に移されるまでにはスラリーとなっていることが必要である。
目的の化合物は固体として、好ましくは結晶として得られ、少なくとも固体の化合物と反応媒体含むスラリーが得られる。なお、目的の化合物は一部反応媒体中に溶解していても良い。
【0009】
反応物はライン12を経て必要に応じて中間処理槽2へ移され、必要応じて晶析、溶解、その他の中間処理が行わる。中間処理の行われた反応物はライン13を経由して分離装置3へ移される。反応物の中間処理を行わない場合には、反応器1から直接分離装置へ反応物が移される。
【0010】
分離装置3においては、スラリー中の固体と液体が分離され、ケーキ付着液の固形分に対する重量比が50%以下、好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下のケーキが作製される(以下、本明細書においては、ケーキ付着液(W1)の固形分(W2)に対する重量比(W1/W2)をケーキ付着液の含液率又は含有率と称する)。分離装置内では、必要に応じて洗浄液を用いてケーキが洗浄される。
分離装置3において作製されたケーキは、チャンバー4、バルブ5を通り粉体槽6(化合物回収帯域)に移され、目的の化合物が固体として得られる。
【0011】
次に、本発明の製造方法における反応工程(A)、分離工程(B)、乾燥工程(C)及び必要に応じて付加される中間処理工程(D)の各工程について説明する。
【0012】
(A)反応工程
本発明の製造方法において、化合物を生成する反応は、大気圧より高い圧力、且つ反応媒体の大気圧における沸点以上の温度で行われる。反応器1には、ライン11から原料が供給される。ライン11はフィード条件に合わせ単数であっても複数であっても良い。
原料は気、液、固、スラリーのいずれでも良く、かつ単相でも混合相でも良い。さらに組成は純物質でも混合物でも良いが、通常は反応基質に反応媒体、必要に応じて触媒や添加物が加えられる。それらの組成は反応の種類に応じて任意に決められる。温度も任意に決められるが、通常は反応基質及び反応媒体の分解しない範囲である。また、温度に応じて原料の相状態を意図的に変えることもある。例えば、温度を上げてスラリーを完全溶解相にしたり液相を液ガス混合相にする例が挙げられる。
【0013】
本発明に用いられる反応形態としては、酸化反応、還元反応、置換反応、付加反応、脱離反応等、いずれでもよい。又、発熱反応、吸熱反応のいずれでもよいよいが、内部エネルギーを有効に利用する観点から発熱反応が好ましい。また、反応容器において生成された化合物は、液体であってもよいが、好ましくは固体、さらに好ましくは結晶として得られる。
また、反応は回分で行ってもよく、連続で行っても良い。
【0014】
本発明に用いられる反応媒体は、反応工程中で液体または気液2相となるものであり、反応基質または反応後の目的化合物に化学的な変化をきたさないものが用いられる。また、反応媒体の大気圧における蒸発潜熱(以下、本発明において蒸発潜熱を定義するときは大気圧におけるものである)は、300kcal/kg以下が好ましく、200kcal/kg以下が更に好ましく、150kcal/kg以下が特に好ましい。また、蒸発潜熱の下限は特に規定されないが、通常50kcal/kg以上であり、好ましくは70kcal/kg以上である。
【0015】
また、反応媒体の大気圧における沸点は好ましくは40℃以上200℃以下、さらに好ましくは50℃以上180℃以下、特に好ましくは60℃以上150℃以下である。反応媒体の大気圧下における沸点が上記範囲より著しく低い場合には、各工程での反応媒体の取り扱い及び回収が困難になる傾向にあり、著しく高い場合には、分離工程において化合物回収帯域に目的化合物を移動させた際に反応媒体の残留量が増加する傾向にある。
【0016】
反応器1では原料の供給を受け、対象とする反応基質を3割以上、好ましくは5割以上、さらに好ましくは7割以上、例えば8割以上、化学的に変化させる。反応混合物は液1相、気/液2相、気/液/固3相の様々なケースが挙げられる。
反応条件は、反応速度や副反応、反応媒体に対する溶解度等の様々な因子を勘案して決められるが、温度は通常50℃以上350℃以下、好ましくは100℃以上300℃以下、さらに好ましくは130℃以上250℃以下、特に好ましくは150℃以上230℃以下の範囲であり、且つ、反応媒体の大気圧における沸点以上の温度で実施される。また、圧力は大気圧を越え20MPa以下、好ましくは0.2MPa以上10MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以上5MPa以下、特に好ましくは1MPa以上3MPa以下の範囲で実施される。反応温度及び圧力が上記範囲より著しく小さい場合には、本発明の製造工程中に得られるケーキの有する内部エネルギーが小さく、化合物回収帯域へケーキを移動させる際のケーキ付着液の蒸発が十分ではない。また、反応温度及び圧力が上記範囲より著しく大きい場合には、複反応が起きたり化合物の分解が生じやすく、収率が低下する傾向にある。
【0017】
本発明の製造方法において反応工程中、触媒を用いてもよく、触媒は不均一触媒であっても均一触媒であってもよい。反応器の温度コントロールは加熱もしくは除熱によって実施する。これは、給液の温度や吸熱及び発熱といった反応の種類等によって決まる。加熱はジャケットやコイルによって行い、除熱はさらに蒸発による操作も可能である。
【0018】
反応工程において、反応条件が途中で変化する場合(反応器が複数ある場合も含む)があってもよく、その場合は本発明の反応工程の反応条件としての規定(大気圧より高い圧力且つ反応媒体の大気圧における沸点以上の温度)は、分離工程と時間的に最も近い反応条件を指す。従って、本発明の製造方法は、反応工程において、大気圧以下の圧力又は反応媒体の大気圧における沸点以下の温度で反応を行い、反応終了後に加圧及び/又は加熱を行って分離装置に到達した時点で大気圧より高い圧力且つ反応媒体の大気圧における沸点以上の温度がもたらされる製造方法とは区別される。
なお、反応器から必要に応じて用いられる中間処理槽を経て分離装置までの工程は、圧力を大気圧以上、且つ温度を反応媒体の沸点以上に維持する条件を満たすのであれば、希釈や加熱等の追加の単位操作が入ってもかまわない。
【0019】
(D)中間処理工程
中間処理工程は必須ではなく、また、中間処理槽は複数設置することも可能である。中間処理工程としては例えば、冷却、加熱、昇圧、降圧、濃縮、希釈、沈殿、添加等が挙げられ、典型的には晶析又は溶解が行われる。例えば、化合物の回収率を高めたい場合には晶析が行われ、化合物の純度を上げたいときには溶解が行われる。これらの中間処理工程は、目的の化合物の種類や、製品スペック等により適宜選択される。
【0020】
なお、反応工程によって得られた反応物が、過飽和の状態等、液1相、気液2相等の固体を含まない状態の場合には、分離工程の前までに目的化合物を固体化することが必須であり、好ましくは中間処理工程において晶析が行われる。
また、中間処理工程は、中間処理槽のような容器を用いる必要はなく、反応工程から分離工程へ移動するまでのライン中で行っても良い。
【0021】
中間処理工程における操作の好ましい例として晶析を行う場合、晶析段数は4段以下、さらに好ましくは2段以下、特に好ましくは1段である。ライン12、中間処理槽2、ライン13のいずれの箇所においても、反応物が反応媒体の大気圧における沸点以上の温度を保っており、且つ大気圧より高い圧力を保っている。その圧力範囲は好ましくは大気圧を越え20MPa以下、さらに好ましくは0.2MPa以上10MPa以下、特に好ましくは0.3MPa以上5MPa以下である。その温度範囲は通常50℃以上350℃以下、好ましくは100℃以上300℃以下、さらに好ましくは130℃以上250℃以下である。
【0022】
反応媒体の大気圧における沸点(Bp1)と、中間処理工程2の反応物の温度(TD)との差(TD−Bp1)は、好ましくは5℃以上200℃以下の範囲、さらに好ましくは10℃以上150℃以下の範囲、特に好ましくは15℃以上100℃以下の範囲である。上記の温度差を保つことによってライン12から抜き出した反応物が持つ熱エネルギーの少なくとも一部はライン13の反応物に残留させることが可能となる。なお、前述の通り反応物は液1相、気液2相、固液2相、気液固3相であっても良く、特に固液2相、気液固3相となっているものをスラリーと呼ぶが、本発明の製造工程中、反応物はライン13を移動する時点では通常スラリーとなっている。
【0023】
(B)分離工程
スラリー状の反応物は、中間処理槽2からライン13を経由するか、または反応器1から別のライン(図示せず)を経由して分離装置3に移される。
分離装置3は機構に特に制限はなく、特表平7−507291に示されるような遠心分離機、水平ベルトフィルター、ロータリーバキュームフィルター等の一般に知られたものや、特表平6−502653に示されたフィルターセルを使用することもできる。特に、遠心分離機を使用する場合はスクリーンボウルデカンターやソリッドボウルデカンターからの選択が可能である。
【0024】
ライン13から分離装置3に入るスラリーのもつ熱エネルギーが完全に散逸してしまわないために、分離装置3の圧力及び温度は調整される。分離装置3の圧力が低いとスラリーがフラッシュを起こし温度が低下する。従って、分離装置3の圧力は大気圧以上で、所望に応じて反応器1または中間処理槽2の圧力より高くてもよい。
分離装置に移されたスラリーは、分離装置内で固液分離が行われ、スラリー中の反応媒体の固形分に対する含有率を50%以下、好ましくは30%以下まで低下させ、ケーキを得る。本発明の製造方法においては、目的化合物は固体としてケーキの主成分をなし、これに反応媒体あるいは、後述のようにケーキを洗浄する場合には洗浄液(本明細書においては、ケーキ中に存在する反応媒体と洗浄液とを併せてケーキ付着液と称する)の固形分に対する含有率が50%以下、好ましくは30%以下の範囲で含まれる。
【0025】
分離装置3中で得られた排出直前のケーキの温度(TB2)は、分離装置3より排出される直前のケーキ付着液の大気圧における沸点(Bp2)より高いことが好ましい。例えば、圧力の高い分離工程3にライン13よりスラリーを移送する場合、分離工程3に入る前でポンプ等により昇圧する事で移送可能となる。分離工程3の圧力範囲は好ましくは0.11Mpa以上22MPa以下、さらに好ましくは0.21MPa以上12MPa以下、特に好ましくは0.31MPa以上7MPa以下である。排出直前のケーキ温度の範囲は50℃以上350℃以下、好ましくは100℃以上300℃以下、さらに好ましくは130℃以上250℃以下である。分離工程3より排出される直前のケーキ付着液の大気圧における沸点と、分離工程3より排出されるケーキの温度差(TB2−Bp2)は、好ましくは5℃以上200℃以下の範囲、さらに好ましくは10℃以上150℃以下の範囲、特に好ましくは15℃以上100℃以下の範囲である。
【0026】
また、分離装置3に洗浄機能を付加することも可能である。洗浄液の種類は特に限定されず、反応媒体と全く異なる成分であっても逆に同一の成分であっても構わない。また、洗浄におけるリスラリー化の有無も特に限定されない。ここでも、分離ケーキの熱エネルギーが散逸しないために、洗浄液の量と温度が制御される。温度の低い洗浄液を用いる場合には、影響を抑えるために洗浄液の量を少なくする。洗浄液の温度を上げて、ケーキからの除熱を抑制できれば洗浄液の量を増やすことが可能となる。従って、洗浄液の具体的な温度は、洗浄液の大気圧における沸点より高くTB1+100℃以下の範囲(ただし、TB1は未洗浄ケーキの温度であり、これは通常洗浄前の分離装置中の温度にほぼ等しい)、好ましくはTB1以上TB1+80℃以下の範囲、さらに好ましくはTB1+5℃以上TB1+60℃以下の範囲である。
【0027】
また、具体的な洗浄液量は好ましくはケーキ中の固形分に対する重量比で0.03以上5.0以下であり、さらに好ましくは0.05以上4.0以下であり、特に好ましくは0.1以上3.0以下である。なお、洗浄液の突沸を避けるために、洗浄液を導入する分離装置内の圧力は洗浄液の蒸気圧以上とする。好ましくは分離装置への供給スラリーの蒸気圧より分離装置内圧力が0.01〜2.0MPa高く、さらに好ましくは0.01〜1.0MPa高く、特に好ましくは0.02〜0.5MPa高い範囲である。
【0028】
洗浄液の種類は、分離装置中の圧力、温度条件で液体で存在することを除けば、特に制限はされない。また、洗浄液の組成が反応媒体と全く異なっていても良いし、反応媒体の蒸発潜熱には何ら制限はない。
洗浄液の蒸発潜熱は、好ましくは300kcal/kg以下、さらに好ましくは200kcal/kg以下、特に好ましくは150kcal/kg以下である。また、蒸発潜熱の下限は特に規定されず洗浄液として使用可能であれば出来る限り小さい方が良いが、通常50Kcal/kg以上であり、好ましくは70kcal/kg以上である。
【0029】
また、洗浄液の大気圧下における沸点は好ましくは40℃以上200℃以下、さらに好ましくは50℃以上180℃以下、特に好ましくは60℃以上150℃以下である。洗浄液の大気圧下における沸点が上記範囲より著しく低い場合には、洗浄液の取り扱いが困難になる傾向にあり、著しく高い場合には、分離工程において化合物回収帯域に目的化合物を移動させた際に洗浄液の残留量が増加する傾向にある。
なお分離され、必要に応じて洗浄されたケーキの含液率(ケーキ中の付着液の固形分に対する重量比)は50%以下であり、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下である。
【0030】
(C)乾燥工程
本発明に用いられる乾燥装置の形式は、以下に述べる乾燥工程の各操作が行えるものである限り特に制限はないが、通常ディスチャージバルブ(以下、単にバルブと称することがある)を備えた加圧乾燥装置が用いられる。
分離されたケーキはチャンバー4に保持され、必要に応じて粉面を制御しながらバルブ5によって粉体槽(化合物回収帯域)6へ抜き出す。チャンバー4と分離装置3は実質的に同圧である。また、粉体槽6は分離装置3よりも低い圧力であり、好ましくは大気圧である。チャンバー4の加圧下のケーキをバルブ5を通して大気圧に解放することでケーキ付着液の沸点が下がり、沸点差による顕熱でケーキ付着液が蒸発する。従って、本発明においては顕熱として利用できる内部エネルギーを反応より一貫して残留させていることが重要である。そのために、反応物、ケーキ、目的の化合物等は、反応工程(A)、中間処理工程(D)、分離工程(B)、そして乾燥工程(C)においてバルブ5を通過するまでの温度及び圧力について、各工程が、各形に存在する液体の大気圧における沸点以上の温度を保ち、且つ各工程が大気圧より高い圧力を保っている。
【0031】
ケーキ抜き出し方法としてチャンバー4でためるケーキ量および抜き出し頻度に特に制限はなく、ケーキがチャンバー4内に常時滞留していても間欠的に空になっても良い。なお、粉体槽6に対してチャンバー4の圧力が高い状態を維持しつつ常時バルブ5を開けておくこともできるが、ガスシール性が必須のため間欠的な開閉が好ましい。チャンバー4内のケーキ量の測定は間接、直接特に制約はない。一般的には、ケーキ面の位置を検知するために、電気的な接触式検知器や光や音波を利用した距離測定器が用いられる。
【0032】
分離装置3から化合物回収帯域への抜き出しバルブは単数及び複数が可能で、複数にして化合物回収帯域に最も近いバルブ5の前に他のバルブを追加することも可能である。バルブ5又は9の例として、ボールバルブ、バタフライバルブ、ロータリーバルブ、フラップダンパー、スライドダンパー、スピンドル式バルブ等が挙げられる。バルブ5およびバルブ9で例示されるように2つのバルブで抜き出す場合、例えばバルブ5およびバルブ9を交互に開閉することで、中間室16にケーキを間欠的に溜めてバルブ5より排出することも可能である。また、所望に応じて中間室16を密閉し、適宜加温、冷却、加圧、減圧、ガス置換を実施してバルブ5よりケーキを排出してもよい。連続的にケーキを排出する態様においては、バルブ9の解放とバルブ5の解放のタイミングが重ならないように制御され、その解放時間は好ましくは0.5秒〜20秒、さらに好ましくは1秒〜15秒、特に好ましくは2秒〜10秒である。具体的には、熱交換器の仕様やガスの圧入、ガスパージ等が挙げられる。また、更にバルブを追加して直列に連結された中間室の数を増やしてバルブの開閉タイミングをコントロールすることで、各バルブ前後の圧力差を低減することも可能である。
【0033】
これらバルブはシール部の形状によって特徴づけられ、例えば面接触、線接触があり、線接触にも形状が方形のものや円形のものがある。本発明の適用例として、中間室を設けるようなバルブを複数使用する場合は、シール部の形状に特に制限はない。ただし、単数のバルブで分離装置から化合物回収帯域へ化合物を排出する場合、好ましくはシール部が線接触で円形のものが用いられる。具体的にはスピンドル式で弁体が略円錐型のバルブが用いられる。線接触であれば摺動部が少なく固体のかこみこみを抑制する効果がある。さらに円形のシール部形状をもつスピンドル式の略円錐型弁体のバルブであれば、高速駆動が可能である。
バルブが単数の場合、乾燥工程において解放時間が長いと、分離工程及びそれ以前の工程の圧力も漏出するため、解放時間を適度に制御することが好ましく、例えば解放と閉止を繰り返す操作が挙げられる。その解放時間は好ましくは0.01〜1秒、さらに好ましくは0.02〜0.5秒、特に好ましくは0.04〜0.2秒、最も好ましくは0.05〜0.15秒である。さらに本形式のバルブを備えた加圧乾燥装置を図2に示す。
【0034】
分離装置より排出されたケーキはチャンバー4へと移送される。チャンバー4は図2の例示に従えば、略円錐型の弁体上に備えられたシール22によりシュート7とは隔てられている。検知器21によりケーキ量が適切な量までたまったら、オイルユニットにつながれたシリンダー24が駆動してバルブ5が下がり、シール22に開部ができてケーキを排出する。排出されたケーキはシュートを通り、粉体槽へと移送される。また、シール23により、シュート7と外気が遮断されている。チャンバー4やシュート7の内面には必要に応じて付着防止の処理を施す。シール22は高温及び高応力、摩擦に耐えうる材質と形状が選定される。
【0035】
また、チャンバーと粉体槽をバルブを用いて完全に遮断する方法の他に、ディスチャージバルブの代わりにスクリュウコンベヤーを用い、スクリュウコンベヤー内のケーキによりシールする方法もある。この場合は、スクリュウコンベヤーにより、ケーキがチャンバーから粉体槽へ移送される。
化合物回収帯域へ移送されたケーキから温度差によって蒸発することによりケーキ付着液の一部又は全部が除去されるが、蒸発したケーキ付着液による再汚染を防ぐために、乾燥ガスを化合物回収帯域又は中間室16に導入することが好ましい。乾燥ガスとしては、化合物及び付着液に対して不活性であり、付着液の組成で飽和していないものであればいずれも用いることができ、例えば窒素ガス、アルゴン、ネオン等の希ガス等が用いられる。
【0036】
チャンバー4内のケーキは、粉体槽6へ移動する際に、開放された内部エネルギーにより付着液が蒸発し、ケーキの含液率が低下するが、好ましくは3%以上、さらに好ましくは6%以上、特に好ましくは9%以上低下する。ここで、ケーキの含液率が3%低下するとは、ケーキの含液率が例えば15%から12%へ低下することを意味する。また、ケーキの含液率を10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下に下げることができ、ケーキは好ましくは含液率の低い粉体として粉体槽に貯められる。
【0037】
ケーキ付着液は反応媒体、洗浄液、反応副生成物、反応基質、その他の添加剤等、及びこれらの混合物であるが、主として反応媒体または洗浄液あるいはこれらの混合物である。本発明で効果のあるのは大気圧におけるケーキ付着液の蒸発潜熱が300kcal/kg以下であり、特に好ましくは250kcal/kg以下でありさらに好ましくは200kcal/kg以下、例えば150kcal/kg以下である。ケーキ付着液が混合物の場合は、この蒸発潜熱は混合物の平均値として求められる。付着液は蒸発してガスとなり、蒸発ガスはライン14より排出され、必要に応じて回収される。
【0038】
粉体槽6に抜き出した目的の化合物はライン15を通して回収される。含液率が製品として許容できる範囲を超えていれば乾燥機に通す必要が生じるが、その場合には、加熱乾燥操作をすることなく、中間槽16又は粉体槽6へ乾燥ガスを導入して化合物を乾燥するのが好ましい。
【0039】
分離装置内のケーキ温度と化合物回収帯域に排出されたケーキの温度差は、好ましくは5℃〜250℃、さらに好ましくは10℃〜200℃、特に好ましくは20℃〜170℃である。上記範囲より著しく小さい場合には乾燥が不十分となり、上記範囲より著しく大きい場合には分離装置内のケーキの温度が高くなりすぎるので、化合物の分解が起こる可能性がある。また、分離装置内の圧力と化合物回収帯域の圧力の差は好ましくは0.01MPa〜22MPa、さらに好ましくは0.11MPa〜12MPa、特に好ましくは0.21MPa〜7MPaである。上記範囲より著しく小さい場合にはケーキの排出が困難となり、上記範囲より著しく大きい場合には排出が急激になり制御が困難となる。
分離装置より排出されるケーキの体積平均粒径は好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上、特に好ましくは60μm以上である。上記範囲より著しく小さい場合には脱液が悪くなる。上限は特にないが、通常は300μm以下である。
【0040】
なお、上述した反応工程(A)、中間処理工程(D)、分離工程(B)における温度及び圧力の相対関係について、各工程が、各形に存在する液体の大気圧におけるに沸点以上の温度を保っており、且つ各工程が大気圧より高い圧力を保っておいること以外に制限されない。例えば、温度について反応工程の温度(以下TA)>中間処理工程の温度(以下TD)>分離工程の温度(以下TB)の場合、TA>TD<TBの場合、TA<TD<TBの場合のいずれも本発明に適合する。また、反応工程と分離工程の関係においても、TA<TB、TA>TBのいずれでも良い。圧力についても全く同様であり、反応工程中の圧力(以下PA)>中間処理工程中の圧力(以下PD)>分離工程中の圧力(以下PB)の場合、PA>PD<PBの場合、PA<PD<PBの場合、PA<PBの場合、PA>PBの場合のいずれでも良い。さらに、温度と圧力の関係が必ずしも連動している必要はなく、例えば中間処理工程で昇圧して冷却器に通せば、温度はPA>PBとなるが、圧力はPA<PBとなる。
【0041】
次に、本発明の製造方法は、目的化合物として固体として回収されるものに適用される。本発明の製造方法によって製造される化合物は、上述した各工程において安定に存在し、少なくとも分離工程前までに少なくとも一部が固体として存在するものであればよいが、好ましくは、芳香族カルボン酸であり、さらに好ましくは芳香族ジカルボン酸であり、特に好ましくはテレフタル酸である。
【0042】
また、本発明の製造方法は固液分離の工程が含まれ、目的物が固体で回収されることから、未反応の原料はそれ自身が液体であるか、または、反応媒体及び/又は洗浄液に対する溶解性が高いもののほうが、目的化合物の純度を高めることが出来るので好ましい。
【0043】
本発明における好ましい実施態様として、アルキルベンゼンの分子状酸素による液相酸化が挙げられる。該反応により芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸等の芳香族カルボン酸及びその一部のアルキル基が酸化されたものが得られる。本発明の方法に従い、代表例としてテレフタル酸の製造に適用して以下説明する。なお、原料となるアルキルベンゼンとしてはパラキシレンが挙げられる。
【0044】
パラキシレンの液相酸化は通常、反応媒体として酢酸を使用する。反応媒体の使用量は、通常、パラキシレンに対して1〜10重量倍、好ましくは2〜8重量倍、更に好ましくは3〜6重量倍である。また、酢酸に加えて通常25重量%以下、好ましくは10重量%以下の水を含有していてもよい。また、パラキシレンの液相酸化反応においては、水が生成するが、溶媒に当初から含まれる水と併せて、反応媒体中の水分濃度は、最大で通常5〜25重量%、好ましくは7〜20重量%となるよう制御される。この水分濃度の調整は常法に従って、反応器より揮発したガスを凝縮して得られる凝縮還流液の一部を系外にパージすることにより行うことができる。
【0045】
パラキシレンの酸化に用いられる分子状酸素含有ガスとしては、空気、酸素希釈空気、酸素富化空気などが用いられるが、設備面及びコスト面などからは空気が望ましい。
【0046】
また、酸化反応における触媒は公知のものをいずれも用いることが出来るが典型的には主としてコバルト、マンガン及び臭素が用いられる。触媒成分の具体的な化合物として、コバルト化合物は、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、臭化コバルトなどが例示され、中でも酢酸コバルトが好ましい。マンガン化合物としては、酢酸マンガン、ナフテン酸マンガン、臭化マンガンなどが例示され、中でも酢酸マンガンが好ましい。また、臭素化合物としては、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化コバルト、臭化マンガン、ブロモエタンなどが例示され、中でも臭化水素が好ましい。これらの化合物は併用してもかまわない。また、酢酸溶媒中にはそれ以外の金属成分が存在していても構わない。例えばナトリウム成分が1ppm以上100ppm以下存在すると、さらにマンガン成分の沈殿を防止する役割を持ちまた得られるテレフタル酸の透過率を向上させる効果を持つ。
【0047】
触媒の使用量は、コバルト成分の使用量がコバルト金属換算で溶媒に対し、100重量ppm以上、2000重量ppm以下、好ましくは200重量ppm以上、1000重量ppm以下である。マンガン成分の使用量は1重量ppm以上1000重量ppm以下、好ましくは5重量ppm以上、500重量ppm以下である。臭素成分の使用量は400ppm以上2000ppm以下である。
また、反応促進のために共酸化剤を併用することもできる。
なお、反応媒体には4カルボキシベンズアルデヒド、パラトルイル酸、パラトルアルデヒドといった反応中間体、および安息香酸のような不純物が含まれる。
【0048】
パラキシレンの酸化反応で、酢酸溶媒中、コバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒の存在下、140℃〜230℃、好ましくは150℃〜210℃の温度で分子状酸素含有ガスを連続的に供給しながら、パラキシレンの95%以上を酸化する。これを第一反応帯域と呼ぶ。反応圧力は少なくとも反応温度において混合物が液相を保持できる圧力以上で、通常0.2〜5MPaである。酸化の反応時間(平均滞留時間)は通常30〜300分である。
第一反応帯域において、反応系気相部の酸素分圧を高めるために、反応器から抜き出したガスから凝縮性成分を凝縮除去して得た酸化排ガスを2つの流れに分岐させ、一方は系外に排出し、他方は反応器に連続的に循環供給する方法を用いることもできる。
【0049】
次に必要に応じて130℃〜240℃、好ましくは140℃〜220℃、さらに好ましくは160℃〜200℃の第二反応帯域を設けることが出来る。該帯域においてパラキシレンを追加することなく分子状酸素により低温追酸化を行う。低温追酸化の反応時間(平均滞留時間)は通常20〜90分である。
次に必要に応じて第二反応帯域より高い温度の150〜300℃、好ましくは200℃〜280℃の第三反応帯域においてパラキシレンを追加することなく分子状酸素により追酸化を行うこともできる。追酸化の反応時間(平均滞留時間)は5〜120分である。
【0050】
酸化反応は第一反応帯域で終了しても良いし、第二反応帯域もしくは第三反応帯域まで実施しても良い。本明細書中の定義によれば、選択したプロセスにおける最後の反応帯域が図1の反応器1に相当する。例えば第三反応帯域まで実施すれば、第三反応帯域が図1の反応器1に相当する。
図1のライン12より中間処理工程へと導かれるスラリーは上記例示に従えば130℃から300℃となる。本中間処理は実施しても良いし、実施せずに直接ライン13より分離工程3へ移送しても良い。たとえば、テレフタル酸の例で第二反応帯域まで反応を実施した場合、130℃〜240℃のスラリーが得られるが晶析は不要なため、反応温度を維持して分離装置へと移送される。スラリーの圧力はスラリー中母液の蒸気圧もしくはそれ以上である。該圧力を下げると温度も下がるので、実際にはスラリーの圧力を操作して温度を制御する。
【0051】
図1のライン13より分離装置に供給されるスラリーは、ケーキから蒸発させるべきケーキ付着液の量を勘案して温度が決められる。例えば、反応媒体中の水濃度が10重量%、酢酸濃度が90重量%である混合液がテレフタル酸のケーキに重量比11%で付着しているとして、ケーキ付着母液を完全に蒸発させるのに必要なケーキ温度は170℃以上である。従って、第二反応帯域まで反応を実施して得られるスラリーは例えば130℃〜240℃だが、170℃より高い温度で第二反応帯域での反応を実施するのが好ましい。なお、170℃より低い温度で反応を実施しても、大気圧下での沸点である110℃より高い温度を維持していれば、実際のケーキ温度との差を顕熱としてケーキ乾燥に工業的に利用することが可能となる。
【0052】
従って、反応後のプロセス内でスラリー圧力を大気圧まで解放せず、温度を常圧沸点以上に保つことは本発明におけるエネルギー利用の観点から重要な意味を持つ。ただし、例示されたケースで170℃以下のスラリーしか得られない場合、ケーキ乾燥に不足した熱量は補わなければならず、分離前スラリー、分離後ケーキ、排出後ケーキのいずれかに加熱を実施する。分離前のスラリーであれば熱交換機の使用、分離後のケーキであれば洗浄液の加温やガス雰囲気の加温、排出後ケーキであれば粉体槽外部からの加温やガス雰囲気の加温更新等が挙げられる。なお、スラリーを170℃以上に維持するためには0.6MPa以上の圧力が必要であり、分離器の圧力は、好ましくは0.65MPa以上1.5MPa以下、さらに好ましくは0.7MPa以上1.3MPa以下、特に好ましくは0.8MPa以上1.0MPa以下である。
【0053】
なお、ケーキ洗浄液についてはケーキの持つ熱エネルギーを持ち去らないためにケーキと同温もしくはそれ以上の温度であることが好ましい。具体例を挙げればケーキ温度が170℃であれば170℃以上の酢酸を主成分とする洗浄液で、例えば5℃以上高い洗浄液を準備する。さらに、洗浄液の突沸を避けるために、洗浄液を導入する分離装置内の圧力は洗浄液の蒸気圧以上とする。例示すると、分離装置への供給スラリーの蒸気圧より分離装置内圧力が0.01〜1.0MPa高く、洗浄液の蒸気圧がこの範囲に入ることが好ましい。ケーキ洗浄液の種類は、各成分の蒸発潜熱を積み上げて、300Kcal/kg以下であることが好ましい。単体では水の蒸発潜熱は500kcal/kg以上あるが、混合物として平均値が300kcal/kgの蒸発潜熱となるのであれば、水が含まれていても好ましく用いられる。また、洗浄液の組成が反応媒体と全く異なっていても良い。例えば、該例示における酢酸を主成分とする反応媒体のケースで、洗浄液は全く異なる、例えば酢酸エステルの純物質でも良いし、また不純物を除いて反応媒体と全く同じ成分であっても良い。
【0054】
分離装置を出たテレフタル酸ケーキは図1に例示されるチャンバー4に滞留する。ケーキは間欠もしくは連続的に大気圧の粉体槽へと抜き出される。チャンバー4のケーキ滞留量の平均値は例えば1時間の処理量を1とすれば重量比で0.0001〜0.1が好ましく、チャンバーの形状やケーキ量上限、ケーキ量下限の設定に依存する。チャンバー4内でのケーキ上限及び下限と滞留量から抜き出し量を決めるが、例えば1時間の処理量を1とすればバルブ5の駆動1回当たりの排出量は0.002から0.02である。なおバルブ5の駆動距離は3〜50mmが好ましく、10〜25mmが更に好ましい。また、駆動頻度は50〜500回/hrが好ましい。駆動距離と駆動頻度を好ましい範囲とすることによって、分離装置から化合物回収帯域への化合物の排出が良好となる。
【0055】
図1に例示される粉体槽6に排出されたテレフタル酸ケーキは、必要であれば例えば乾燥ガスによる微量ケーキ付着液の除去等を実施した後、ライン15から回収される。また大気圧系内に発生した酢酸を主成分とするガス及び導入した乾燥ガスはライン14より除去される。ライン15より回収されたケーキは必要に応じてさらに精製の工程を経て製品となる。
【0056】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
比較例1
テレフタル酸の生産量が36Ton/hrの設備において液相酸化反応器に連続的にパラキシレン、パラキシレンの5.5重量倍の酢酸、酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素を供給し、温度197℃、圧力1.45Mpa、反応時間(平均滞留時間)90分で酸化反応を行った。触媒の使用量は、コバルト成分の使用量がコバルト金属換算で溶媒に対し、280重量ppm、マンガン成分の使用量は280重量ppm、臭素成分の使用量は700ppmである。
【0058】
分子状酸素による酸化反応を行うためのガスとしては空気を用いる。このとき空気の酸素含有率は21%である。そして、反応器から排出されるガス(以下、廃ガスと称することがある)中の酸素濃度が5容量%になるように反応器中に圧縮空気を供給した。次いで低温追酸化反応器に酸化スラリーを連続的に移し、温度190℃、圧力1.3Mpa、反応時間(平均滞留時間)35分で酸化反応を行うためのガスとして空気(酸素含有率21%)を、廃ガス中の酸素濃度が6容量%になるように供給し、低温追酸化を行った。
【0059】
低温追酸化スラリーは3段の中間処理槽にて連続的に晶析し、大気圧において固液分離を行なった。このとき固液分離されたケーキの含液率は15.0%であった。
【0060】
次に、このケーキを蒸気を加熱源とするスチームチューブドライヤー型乾燥機にて大気圧において乾燥させた。乾燥機の周囲には0.4Mpaの圧力を有する蒸気が循環されて乾燥炉が加熱される。加熱により蒸発したケーキ付着液は、乾燥機内に流通させている窒素ガスにより、系外に取り出される。また、乾燥機の出口温度140℃である。
この乾燥機によってテレフタル酸1Tonを乾燥したところ、乾燥機に使用さ蒸気の熱量は36000Kcalであった。また、得られたテレフタル酸の含液率は0.1%であった。
従って、テレフタル酸ケーキを15.0%の含液率から0.1%の含液率まで大気圧において乾燥する場合、テレフタル酸1Tonあたり、36000Kcalの熱量が必要となる。
【0061】
実施例1
次に、本発明の製造方法、即ち、反応工程で生ずる圧力及び温度を維持したまま固液を分離しそのケーキを分離帯域よりも低い帯域へ移した場合において発生する顕熱差を利用するケーキ付着液を蒸発分離する効果を検証する実験を行なった。
比較例と同様の方法によって得られたケーキを、図3に示す設備を用いてフラッシュ分離による乾燥を行った。
【0062】
フラッシュ分離装置は内容積1.2リットル(内径40mm、長さ800mmの円筒状)、の加熱器32と内容積3リットルの受器34(化合物回収帯域)ならびに加熱器を加熱するためのジャケット38、受器は、加熱又は冷却するために、オイルバス35に浸漬可能となっている。
比較例1と同様な方法によって得られた含液率14.1%のケーキ(固形分として700g相当:水濃度10%−酢酸濃度90%のケーキ付着液組成)を大気圧下において上部バルブ31から加熱器32に仕込んだ。そのまま加熱するとケーキに付着した酢酸および水の一部が気化しケーキに含液する量が変わるのでその分をあらかじめ加熱器に加えたのちに加熱器を密閉して173℃まで昇温した。このときの加熱器内の圧力は0.6Mpaであった。
【0063】
加熱器の下に位置する受器においてはその内部を酢酸蒸気雰囲気とするために気化してその容積に相当する量の酢酸をあらかじめ仕込んだのち受器は115℃の熱媒油に浸漬した。そして、底部バルブ33を開放し、加熱器内のケーキおよび付着液が気化した蒸気を大気圧の受器へ移送した。
加熱器の圧力は瞬時に大気圧となったのですぐさま加熱器の底部バルブを閉止するとともに、受器とエチレングリコールの入ったトラップ容器37間の弁36を閉止した。受器内の温度は123℃で安定したので冷却した。
フラッシュ分離後に受器を大気に開放しておくとケーキ表面に残存する液成分の大気への拡散が速いために真の値が測定し難い。そのために受器は密閉系で冷却し、受器の気相部にあるガス成分を凝縮させたのち、具体的には酢酸、水の蒸気が殆ど生じない20℃まで十分冷却したのち、受器内にある酢酸を含んだケーキ全量を回収した。
ケーキ乾燥後の重量減からケーキ付着液量を求める方法とケーキ表面を水洗した液中の組成分析を行なってケーキ付着液量を求める双方の結果が一致することを確認した。
【0064】
フラッシュ分離によって受器を経由して排出する酢酸ならびに水の蒸気はエチレングリコールや水を入れた容器に導いて吸収したのち酢酸および水量を重量の増加量ならびに容器内の液成分をガスクロマトグラフィーによって分析しマスバランスを確認した。
このようにして求められたケーキ付着液量から受器を冷却する前の受器気相部に存在していた酢酸量を差し引いた値をフラッシュ分離直後のケーキに付着した液量としてを含液率を求めた。なお、このケーキのメディアン径は99μmだった。メディアン径の分析は、セイシン企業社製のレーザー散乱式粒度分布計「Lazer Micron Sizer/LMS−24」を使用した。本装置の水を張った試料室に回収ケーキ1gと界面活性剤を入れた。その後、30秒間超音波下での分散と、レーザー散乱による分析が自動で進行する。分析が終了すると、各粒径区間毎の体積度数分布が得られる。その結果から累積度数50%となる粒径を算出した。
【0065】
実施例2
実施例1において、水濃度10%-酢酸濃度90%のケーキ付着液組成、ケーキの含液率10.4%、加熱器の温度187℃とした以外は、実施例1と同様にフラッシュ分離を行なった。フラッシュ分離後の受器温度は110℃で安定したので冷却した。
【0066】
実施例3
実施例1において、酢酸濃度100%のケーキ付着液組成、ケーキの含液率15.0%、加熱器の温度144℃とした以外は、実施例1と同様にフラッシュ分離を行なった。
【0067】
実施例1〜3の実施条件を第1表に、結果を第2表に纏めて示す。
実施例1〜3のいずれの場合も、反応工程で生じた温度及び圧力を維持したまま、分離工程と乾燥工程を行うことを想定したものである。従って、反応工程で生じた温度及び圧力以外には、新たなエネルギーを乾燥工程において用いられていない。実施例1においては、含液率14.1%から1.3%へ、実施例2においては含液率10.4%〜0.1%へ、実施例3においては含液率15.0%から5.7%へ、新たな熱量を加えることなくそれぞれ乾燥されている。
【0068】
また、第2表に示されたとおり、フラッシュ分離操作後のケーキ含液率はその系がもつエンタルピーから計算される量と合致した。従って、本発明の製造方法を採用することにより、反応工程でもたらされた内部エネルギーを乾燥工程に有効利用でき、従来乾燥工程で必要であった大量の熱エネルギーを節減することが出来ることが示された。
【0069】
【表1】
Figure 0004907781
【0070】
【表2】
Figure 0004907781
【0071】
【発明の効果】
大気圧下において固液を分離したのち再加熱乾燥する方法においては多大な熱量を必要とするが、それは蒸発させるべき母液媒体のほかにテレフタル酸自体も加熱する必要があるためであり、それと比べて大気圧以上においてその温度を保持したまま固液を分離したのち加圧乾燥する方法においては、乾燥に費やされるエネルギーを大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するためのプロセス例の概略図である。
【図2】本発明を実施するための好ましいフラッシュ槽の一例の概略図である。
【図3】実施例で使用したフラッシュ槽の概略図である。
【符号の説明】
1 反応器
2 中間処理槽
3 分離装置
4 チャンバー
5 ディスチャージバルブ
6 粉体槽(化合物回収帯域)
7 シュート
8 略円錐型の弁体
9 上部バルブ
11 原料等導入ライン
12 反応物移送ライン
13 反応物移送ライン
14 蒸発ガス排出ライン
15 化合物回収ライン
16 中間室
21 検知器
22 シール
23 シール
24 シリンダー
31 加熱器の上部バルブ
32 加熱器
33 加熱器の底部バルブ
34 受器(化合物回収帯域)
35 オイルバス
36 受器とトラップの間の弁
37 トラップ
38 ジャケット

Claims (24)

  1. (A)反応器中で、大気圧より高い圧力、且つ反応媒体の大気圧における沸点以上で反応を行って、化合物を生成する反応工程、
    (B)分離装置中で、大気圧より高い圧力、且つ反応媒体の大気圧における沸点以上の温度にて、化合物と反応媒体を含むスラリーから一定量以上の反応媒体を分離してケーキ付着液の固形分に対する重量比が50%以下のケーキを得る分離工程、及び
    (C)得られたケーキを分離装置中の圧力より低い圧力、且つ分離装置中の温度より低い温度の化合物回収帯域へ移動させ、その移動によって開放された内部エネルギーによりケーキ付着液を蒸発せしめる乾燥工程
    を有する化合物の製造方法。
  2. 分離工程(B)において、大気圧より高い圧力、且つ反応媒体の大気圧における沸点以上の温度に維持した状態で、ケーキを大気圧での沸点における蒸発潜熱が300kcal/kg以下の洗浄液で洗浄する請求項1に記載の化合物の製造方法。
  3. 反応媒体の大気圧での沸点における蒸発潜熱が300kcal/kg以下である請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
  4. 分離工程(B)において、洗浄液の大気圧における沸点以上「TB1+100℃」以下(ただし、TB1は未洗浄ケーキの温度(℃)を示す)の範囲の温度の洗浄液によってケーキを洗浄する請求項1乃至3のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  5. 分離工程(B)において、ケーキ中の固形分の重量に対して0.03〜5.0倍の洗浄液によってケーキを洗浄する請求項1乃至4のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  6. 反応工程(A)において生成する化合物が、芳香族カルボン酸である請求項1乃至5のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  7. 芳香族カルボン酸がテレフタル酸である請求項6に記載の化合物の製造方法。
  8. 反応工程(A)において、分子状酸素によりアルキル基置換芳香族化合物を液相酸化し、芳香族カルボン酸を得る請求項6に記載の化合物の製造方法。
  9. 反応工程(A)において、分子状酸素によりパラキシレンを液相酸化し、テレフタル酸を得る請求項7に記載の化合物の製造方法。
  10. 反応工程(A)が、50℃以上350℃以下の温度範囲で行われる請求項1乃至9のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  11. 反応工程(A)が、大気圧を越え20MPa以下の圧力範囲で行われる請求項1乃至10のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  12. 乾燥工程(C)において、分離装置内のケーキの温度と化合物回収帯域に排出されたケーキの温度差が5℃〜250℃である請求項1乃至11のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  13. 乾燥工程(C)において、分離装置内の圧力と化合物回収帯域の圧力差が0.01MPa〜22MPaである請求項1乃至12のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  14. 乾燥工程(C)において、排出された化合物のメディアン径が40μm以上、300μm以下である請求項1乃至13のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  15. 乾燥工程(C)において、ケーキ付着液の固形分に対する重量比を10%以下に下げる請求項1乃至14のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  16. 乾燥工程(C)において、ケーキ付着液の固形分に対する重量比を3%以上低下させる請求項1乃至15のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  17. 乾燥工程(C)において、分離装置と化合物回収帯域との間に中間室を有する請求項1乃至16のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  18. 乾燥工程(C)において、中間室及び/又は化合物回収帯域に乾燥ガスを導入する請求項1乃至17のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  19. 乾燥工程(C)において、化合物回収帯域の圧力が大気圧である請求項1乃至18のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  20. 乾燥工程(C)において、ディスチャージバルブを備えた加圧乾燥装置を用いる請求項1乃至19のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  21. ディスチャージバルブの弁体と弁座の接触部が線状で形状が円形である請求項20に記載の化合物の製造方法。
  22. 乾燥工程(C)において、ディスチャージバルブが間欠的に解放し、解放時間が0.01秒〜1秒である請求項20又は21に記載の化合物の製造方法。
  23. 反応工程(A)と分離工程(B)との間に、化合物の晶析又は溶解を行う中間処理工程(D)を有する請求項1乃至22のいずれかに記載の化合物の製造方法。
  24. 反応工程(A)において、生成した化合物が固体として得られる請求項1乃至23のいずれかに記載の化合物の製造方法。
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