JP4903129B2 - 耐熱性酵母菌株 - Google Patents
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Description
酵母に限らず、産業上利用される微生物は、耐熱性または耐酸性に優れた菌株が望ましい場合がある。耐熱性または耐酸性に優れた菌株は、他の菌株は生育することができない高温または酸性条件下で生育させることができるため、培養中のコンタミネーションのリスクを避けることができる。また、耐熱性菌株に元来存在する酵素タンパク質自体が、耐熱性を有している場合が多く、これらの酵素を単離および利用する際に、その単離および処理工程において低温下で行なう必要性が低く、便利である。その他にも、耐熱性または耐酸性に優れた菌株は種々の利点を有しており、その発見またはその開発が、種々の産業における発展に寄与し得ることは、言及するまでもない。
一般に、通常の酵母の最適生育温度は生育温度範囲は種や株によって異なるが普通2〜35℃の範囲にあり(飯塚廣、後藤昭二著、酵母の分類同定法、第2版、東京大学出版会、東京、日本国、1973年)、通常17〜25℃程度で培養することが一般的である。酵母についても、耐熱性に優れた菌株の利用価値は高いが、現在までに報告されている、最も高温で生育可能な株は、カンジダ・サーモフィラ(Candida thermophila)であり、該菌株は最高で約50〜51℃で生育可能であり、最適生育温度は約30〜35℃である(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(2001),51:2167−2170)。50℃以上で生育可能な酵母菌株は、他には報告例がない。
本発明の別の目的は、上記酵母菌株の使用を提供することである。
本発明者は、日本国神奈川県箱根町大湧谷の小川から採取した水の中から新規の耐熱性酵母菌株を見出した。この酵母株は、既存株との菌学的性質の比較から、新菌株であることが判明し、クリプトコッカス・テピデゥス(Cryptococcus tepidus)と命名し、さらなる分析の結果、この株は耐熱性と耐酸性に優れることが分かった。
この新規の酵母菌株は、クリプトコッカス・テピデゥスM9962として、2003年2月14日付けでオランダ国(Uppsalalaan 8,P.O.Box 85167,3508 AD UTRECHT,The Netherlands)の寄託機関CBS(Centraalbureau voor Schimmelcultures)に受託番号CBS 9427として寄託され、その後2005年2月25日付けでブダペスト条約下の国際寄託に変更され、同一の受託番号「CBS 9427」が付与されている。
本発明は、以下の特徴を有する。
第1の態様において、本発明は、クリプトコッカス・テピデゥスM9962(受託番号CBS 9427)またはその変異株である、耐酸性および耐熱性の特性をもつ酵母菌を提供する。
本発明の変異株は、寄託酵母を親株とし、これに突然変異処理を施すことによって得られる株、あるいは保存の間に自然変異によって得られる株、の双方を指し、耐酸性および耐熱性の両特性をもつものである。このような変異株は、親株と比べて遺伝子型に変化が生じており、その表現型は、親株と実質的に同等であってもよいし、あるいは耐酸性および/または耐熱性について親株より優れた特性を提示するものであってもよい。
一の実施形態において、本発明の酵母菌は、pH1〜9のpHで増殖可能であることによって特徴付けられる。
別の実施形態において、本発明の酵母菌は、少なくとも35〜60℃の温度で増殖可能であることによって特徴付けられる。
第2の態様において、本発明は、本発明の酵母菌を処理してタンパク質、脂質、糖類、核酸またはそれらの混合物を回収することを含む、酵母由来の物質の製造方法を提供する。
本明細書中で使用する「処理」とは、菌の乾燥、菌の機械的または化学的破壊、物質の抽出、沈殿(例えば塩析)、濃縮および精製、などを含む手順をいう。また、このような処理によって得られた酵母由来の物質を、本明細書中では「処理物」と称する。処理物には、精製物または未精製物の両方が含まれる。
一の実施形態において、タンパク質は酵素である。
別の実施形態において、酵素は耐熱性酵素である。
第3の態様において、本発明は、上記の本発明の方法によって得られた耐熱性酵素を提供する。
本明細書中で使用する「耐熱性酵素」とは、熱安定性の高い酵素をいい、通常の酵母に由来する酵素に比べて高温、例えば60℃、でも活性を維持するものをいう。
一の実施形態において、耐熱性酵素は、例えばプロテアーゼ、グリコシダーゼまたはウレアーゼである。
さらに、プロテアーゼは、耐熱性に加えて、耐酸性である。該プロテアーゼは、例えばpH約2〜約4の酸性域においてタンパク質分解活性を有する。
第4の態様において、本発明は、DNA組換え技術を用いて異種タンパク質を製造するための、宿主細胞としての本発明の酵母菌の使用を提供する。
本明細書中で使用する「異種タンパク質」とは、本発明の酵母菌が本来生産しないタンパク質を指す。異種タンパク質の例は、異なる生物種、例えば哺乳動物、好ましくはヒト、由来のタンパク質、例えば医療上有用なタンパク質である。
第5の態様において、本発明は、本発明の酵母菌またはその処理物を含む組成物を提供する。
ここで、処理物には、乾燥菌体、菌体の破壊物またはその抽出物、菌体から得られるタンパク質、脂質、核酸(DNA、RNA)、ミネラル、糖類またはそれらの混合物、あるいはそれらの分解物、例えばペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、脂肪酸類、プリン類、ピリミジン類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、単糖類、オリゴ糖類などが含まれるが、これらに限定されない。
一の実施形態において、本発明の組成物は動物飼料である。
別の実施形態において、本発明の組成物は培地成分である。
ここで、培地成分は、一般に酵母エキスと称されるものを含む。
第6の態様において、本発明は、物質生産のための、本発明の酵母菌の使用を提供する。
一の実施形態において、本発明の酵母菌をバイオマスのために使用する。
ここで、「バイオマス」とは、化石燃料を除いた再生可能な生物由来の有機エネルギーや資源を指す。本発明では、本発明の酵母が高温および酸性の条件下でも生育可能であるため、より過酷な条件下で有機エネルギーや資源の生産のために利用できる。
第7の態様において、本発明は、クリプトコッカス・テピデゥスM9962酵母菌(受託番号CBS 9427)に対し突然変異処理を施し、耐酸性および耐熱性の特性をもつ変異体酵母株を分離することを含む、変異体酵母株の製造方法を提供する。
一の実施形態において、変異体酵母株は、pH1〜9のpHおよび少なくとも35〜60℃の温度で増殖可能である。
[発明の効果]
本発明の酵母菌株クリプトコッカス・テピデゥスは、50〜60℃で700時間程度インキュベートした後であっても、生存しており増殖能を失わないし、また、pH1程度の強酸性条件下でも増殖可能である。これらの特性により、本発明の菌株は、タンパク質工学分野における有用性が期待できるとともに、バイオマス利用においては培養中のコンタミネーションのリスクを回避可能であるという利点を有している。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2005−061250号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図2は、クリプトコッカス・テピデゥスM9962の増殖の温度依存性を示す。
図3は、クリプトコッカス・テピデゥスM9962の増殖のpH依存性を示す。
図4は、クリプトコッカス・テピデゥスM9962の培養液および培地(陰性対照)の各々にアルブミンを基質として添加し、かつpHを1.2、2.0、3.3および8.2としたときの、37℃でのプロテアーゼ活性を調べたSDS−PAGE電気泳動図を示す。図中、+はM9962由来のプロテアーゼが存在することを示し、−は該プロテアーゼが存在しないことを示す。両サイドに分子量マーカー(kDa)を示し、中央のバンドはアルブミンを示す。
(a)培養的・形態的性質
麦芽汁又はYM液体培地:
YM液体培地において、25℃で培養3日後、栄養細胞は卵形、楕円形、または円筒形で、サイズは(3.8−5.5)x(4.3−10)μm、出芽により増殖し、単体、二連、または小さな塊を形成している。液体培地表面にはリングを形成し、沈澱物もある。また17℃で培養1ヶ月後、液面にはもろいがリングが形成され、液表面には島状に点在する菌塊があり、沈澱物は多いが培地は濁っていない。
麦芽汁寒天培地又はYM寒天培地:
YM寒天培地において、17℃で1ヶ月後、ストリークしたカルチャーは淡黄色で、表面は平滑、やや光沢があり、柔らかまたはバター質で、縁は全縁である。
ポテト又はコーンミール寒天培地によるスライド培養法又はダルモー平板培養法:
コーンミール寒天培地によるスライド培養では、真正菌糸および偽菌糸はつくらない。
(b)胞子の形成
有性胞子:
コーンミール寒天培地上で、二核菌糸、担子器等を形成しない。
射出胞子:
コーンミール寒天培地上で、射出胞子を形成しない。
(c)生理学的・化学分類学的性質
簡単に説明すると、4週間の観察期間中、最初の一週間で陽性と判断できるものを陽性(+)と判断し、一週間目では陽性と判断できなかったものの4週間目には陽性であったものもを潜在的に陽性(L)と判断した。
該菌株の26S rDNAのD1/D2領域と5.8S rDNAを含むITS領域の配列の解析および特性解析から、該菌株はクリプトカックス・テピデゥス(Cryptococcus tepidus)M9962と命名した。この株は、上記のとおり、オランダ国CBS(Centraalbureau voor Schimmelcultures,Institute of the Royal Netherlands Academy of Arts and Sciences,Uppsalalaan 8,P.O.Box 85167,3508 AD UTRECHT,The Netherlands)に国際寄託されており、「CBS 9427」の受託番号が付与されている(CBS国内寄託日:2003年2月13日、国際寄託への変更日:2005年2月25日)。
本発明の酵母菌は、少なくとも35℃〜60℃の温度で増殖(または生育)可能である。本発明の酵母菌は、通常の酵母の培養には用いない35℃を超える温度、すなわち36℃以上、好ましくは38℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは45℃以上、例えば約50〜約60℃などの高温条件下で培養可能である。生育温度の上限は確定していないが、60℃で700時間培養が可能であったことから、60℃を超える温度であっても増殖速度は遅くなるが生育可能であると推定される。
このような耐熱性を利用すると、例えば約50〜60℃の範囲内の温度下で12時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは48時間以上、例えば100〜500時間程度、上記温度に曝したあとで、約50℃以下の温度にて培養することにより、約50℃以上の温度では死滅し得る通常の菌を死滅させた後、約50〜60℃の温度下に数百時間曝しても死滅しない本発明の酵母菌のみを分離することができる。
さらにまた、本発明の酵母菌は、耐酸性菌であり、通常の酵母は約pH3〜7.6の範囲内で増殖可能であるとされるが、本発明の酵母菌は約pH1〜9の広いpH範囲で増殖可能である。特にpH1〜4.5程度の強酸性条件下で増殖させることもできる。すなわち、本発明の酵母菌は、pH6以下、好ましくはpH5.5、より好ましくはpH5.0以下、さらに好ましくはpH4.5以下、最も好ましくはpH4.0以下、例えばpH3.5または3.0、さらにpH3〜1、等の強酸性条件下で増殖させることが可能である。
このような強酸性条件下で生育可能であるために、本発明の酵母菌の培養時に、他の菌のコンタミネーション等を防止できる点で有利である。また、上記の高温条件と酸性条件とを組み合わせることによって、耐熱性と耐酸性を併せ持つ菌しか生存できないために、さらに強力にコンタミネーションを防止することができる。
本発明の酵母菌には、クリプトカックス・テピデゥスM9962(受託番号CBS 9427)の他に、これを親株としてそれに突然変異処理を施して得られた変異株、あるいは親株の保存の間に生じた自然突然変異によって得られた変異株、も包含される。このような変異株は、例えば、M9962株との比較において、26SrDNA配列(D1/D2領域;Kurtzman,C.P.とRobnett,C.J.(1997)J.Clin.Microbiol.,35,1216−1223)の同一性が98%以上、好ましくは99%以上のものである。
突然変異処理には、当業者に慣用の手法、例えばUV、γ線などの照射線または放射線の照射、ニトロソグアニジンなどの変異原物質による処理が含まれる。
得られた変異株は、例えば、固体培地(例えば、寒天)上で培養し、親株と異なるコロニーを選別し、上記の耐熱性と耐酸性について試験し、必要により上記と同様に菌学的性質を調べることによって、親株と同等またはそれより優れた特性(特に、耐熱性と耐酸性)をもつ変異株を分離することができる。
本発明において、変異株は、親株と比べて遺伝子型に変化が生じており、その表現型は、親株と実質的に同等であってもよいし、あるいは耐酸性および/または耐熱性について親株より優れた特性を提示するものであってもよい。
本発明の酵母菌は、炭素源、窒素源、塩類、微量元素、ビタミン混合物を含む培地にて培養することによって増殖することができる。炭素源、窒素源には、例えばスクロース、グルコース、デンプン、ふすま、硫酸アンモニウム、尿素、ペプトン、酵母エキス、麦芽汁などが含まれる。塩類には、例えばリン酸二水素ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムなどが含まれる。微量元素には、例えば硫酸亜鉛、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、ホウ酸、ヨウ化カリウム、モリブデン酸ナトリウム、塩化コバルト、リン酸などが含まれる。ビタミン混合物には、例えばパントテン酸カルシウム、ニコチン酸、m−イノシトール、チアミン、ピリドキシン、ビオチンなどが含まれる。
本発明の酵母菌は、上記の培地成分を含む液体または固体培地を調製し、pH調整、滅菌したのち、一定温度の制御下で培養される。培地のpHは、例えばpH1〜9のいずれかのpH範囲、例えばpH1〜5、pH1〜4、pH1〜3、pH1〜2である。また、培養温度は、24〜60℃、例えば35〜55℃、40〜60℃、50〜60℃の範囲のいずれかの温度を使用することができる。培養は、好気的条件下で行われ、通気攪拌培養、静置培養、深部通気培養などの通常の方法で行うことができる。
本発明はさらに、本発明の酵母菌の利用に関する。
具体的には、本発明は、本発明の酵母菌を処理してタンパク質、脂質、糖類、核酸またはそれらの混合物を回収することを含む、酵母由来の物質の製造方法を提供する。
タンパク質、脂質または核酸はいずれも酵母菌の構成成分であるか発現産物である。タンパク質には、細胞壁、細胞質膜または核膜を形成するタンパク質、シトゾルタンパク質、ミトコンドリアタンパク質、細胞骨格タンパク質、細胞質膜タンパク質、ヒストンタンパク質、酵素タンパク質、発現タンパク質などが含まれる。脂質は、膜を構成する脂質を含む。核酸は、核およびミトコンドリアのDNA、RNA(mRNA、rRNA)を含む。糖類は、例えば細胞壁、膜などの糖脂質に由来するものを含む。
好ましくは、タンパク質は酵素、特に耐熱性酵素である。
本発明の酵母菌の優れた耐熱性および耐酸性特性のために、該菌体内のタンパク質は耐熱性の高いタンパク質であることは、種々の耐熱性菌を用いた研究等から当業者には明らかであり、該菌株から単離される種々の酵素は、精製工程の便宜、保存ならびに利用の点から有用であることは理解できよう。酵素の精製は、当業者には公知な方法を用いて可能であるが、耐熱性酵素であるため、低温管理下で精製工程を行なう必要性は低く、作業が容易に行なえる利点がある。精製は、例えば、細胞壁を破砕後、可溶性画分について、塩析(硫安分画など)、限外ろ過、クロマトグラフィー(例えばゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、HPLC、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーなど)、電気泳動、等電点電気泳動などを適宜組み合わせて行うことができる。
本明細書中で使用する「耐熱性酵素」とは、本発明の酵母菌が産生する熱安定性の高い酵素をいい、通常の酵母に由来する酵素に比べて高温でも活性を維持するものをいう。例えば、40℃以上、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、例えば50〜60℃、の温度の反応条件下においても、通常の酵母に由来する酵素に比べて高い活性を示すことを特徴とする。
酵素の例は、プロテアーゼ、グリコシダーゼ、ウレアーゼ、リパーゼ、インベルターゼ、ラクターゼなどであり、好ましくは、プロテアーゼ、グリコシダーゼ、ウレアーゼである。しかし、酵素は、これらの特定例に限定されないものとし、本発明の酵母が本来的に有する酵素、特に耐熱性酵素のすべてを包含するものとする。
該酵素は、耐熱性に加えて、耐酸性を有するものも包含される。後述の実施例に示されるように、特にプロテアーゼは、アルブミンを基質としたとき、pH約2〜約4の酸性域においてタンパク質分解活性を有することが証明された。
本発明はさらに、DNA組換え技術を用いて異種タンパク質を製造するための、宿主細胞としての本発明の酵母菌の使用を提供する。
具体的には、目的の異種タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを構築し、この発現ベクターで本発明の酵母細胞を形質転換し、形質転換酵母細胞を培養することによって異種タンパク質を産生させ、これを回収する。このような方法は、DNA組換え技術として、当業者には周知の技術であり、本発明において利用することができる。
異種タンパク質は、酵母菌が産生しないタンパク質であり、例えば哺乳動物タンパク質、特にヒトタンパク質である。有用なタンパク質、例えば治療、診断用タンパク質、物質生産、ラボ用の酵素タンパク質などが好ましい。
発現ベクターは、酵母用の市販ベクターを使用することができる。例えば、基本ベクターとしてpUC,Bluescript,pBR,pSP2,pEP,pEAなどを用い、選択マーカーにLEU2,URA3,his3+,ura4+などを用いたベクターなどである。発現ベクターは、通常、プロモーターを含む。
プロモーターには、PGK1、CYC1、TRP1、ADH1、ADH2、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼなどの遺伝子のプロモーターが含まれる。
形質転換としては、一般的なスフェロプラスト融合法を使用することができる。リゾチーム処理によって、酵母の細胞壁を破壊しスフェロプラストとしたのち、発現ベクターとの融合を行う。
DNA組換え技術については、例えば、日本生化学会編、新生化学実験講座2、核酸III、組換えDNA技術、東京化学同人、東京、日本国、1992年;塚越規弘編著、生物化学実験法45、組換えタンパク質生産法、学会出版センター、東京、日本国;Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY,1989を参照することができる。
本発明の酵母菌を使用することによって、異種タンパク質を生産させるとき、形質転換酵母の培養温度を、該形質酵母菌が増殖可能でかつ通常の酵母菌が増殖しない温度、例えば40〜60℃の範囲内の温度に設定することで、他の酵母菌のコンタミネーションを防止することが可能である。さらに、該菌は、pH1〜4程度の強酸性条件下でも増殖が可能であるので、このような強酸条件下で形質転換酵母を培養することにより他の菌のコンタミネーションを防止できるという利点も有している。このため、本発明の酵母菌を宿主とすることによって、異種タンパク質を高率よく簡便に製造することが可能である。
本発明はさらに、本発明の酵母菌またはその処理物を含む組成物を提供する。
処理物には、乾燥菌体、菌体の破壊物またはその抽出物、菌体から得られるタンパク質、脂質、核酸(DNA、RNA)、ミネラル、またはそれらの混合物、あるいはそれらの分解物、例えばペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、脂肪酸類、プリン類、ピリミジン類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、単糖類、オリゴ糖類などが含まれるが、これらに限定されない。菌体の破壊には、例えば超音波破砕機、フレンチプレスなどを使用する。
一の実施形態において、本発明の組成物は動物飼料である。別の実施形態において、本発明の組成物は培地成分である。培地成分は、一般に酵母エキスと称されるものを含む。
本発明の酵母菌のさらなる利用として、本発明の酵母菌を、例えば突然変異処理、遺伝子組み換えを施して、物質生産のために使用することができる。本発明の酵母菌は、耐熱性かつ耐酸性の特性のために、物質生産に都合がよい。物質生産は、いわゆる発酵法による物質生産を含む。そのような物質は、医薬、農薬、香粧品、診断薬、飼料、食品、健康食品などに使用しうるものである。
実施形態において、本発明の酵母菌はバイオマスのために使用できる。バイオマスとは、化石燃料を除いた再生可能な生物由来の有機エネルギーや資源を指す。酵母はバイオマス利用が広く開発されている菌であり、本発明の酵母菌を上記培養条件下でコンタミネーションを回避して培養することにより、バイオマスのための菌体を効率よく簡便に得ることができる。このようにして得られた菌体は、バイオマスとして、例えば動物飼料等に用いられ得る。また、その他の食品工業的利用が期待される。さらにまた、該菌株の耐熱性および耐酸性から、工場廃水等の処理にも利用可能であると考えられる。
このように、本発明の酵母菌はあらゆる利用方法が考えられ、食品工業およびタンパク質工学等種々の分野において有用である。
温泉地である神奈川県箱根町大湧谷の小川から採取した水(約100μl)を、Sabourond寒天プレート(50μg/mlクロラムフェニコール含有)上に播種し、27℃でインキュベートし、形成したコロニーを単離した。該コロニーに由来する菌が単一の菌種であることを確認し、クリプトコッカス・テピデゥス(Cryptococcus tepidus)M9962と命名した。
形態学的、生理学的および生化学的性質については、Yarrowの方法(1988)にしたがって決定した。窒素化合物の資化性については、窒素枯渇させた菌を固相培地上で生育させて調べた。ビタミン要求性については、KomagataおよびNakaseの方法(1967)にしたがって決定した。主要ユビキノンについての分析は、菌をYM液体培地中で25℃にて振盪培養し、対数増殖期の早期で回収して蒸留水で洗浄し、NakaseおよびSuzuki1986)の方法にしたがって、ユビキノンを抽出および精製して同定した。G+C含量の分析は、菌をYM液体培地中で25℃にて振盪培養し、対数増殖期の後期で回収して蒸留水で洗浄し、RaederおよびBroda(1985)の方法に従って菌体を破砕してDNAを抽出し、精製を行った。G+C含量の測定はTamaokaとKomagata(1984)に従って行った。
配列決定および系統学的解析
菌体より核DNAを抽出し、5.8S rRNAを含むITS領域を、SugitaおよびNakaseの方法(2002)にしたがってPCR増幅させた。26S rRNAのD1/D2領域は、KurtzmanおよびRobnettの方法(1997)にしたがって増幅させた。PCR産物は、ABI Prism BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Applied Biosystems)を用いて直接法による配列解析を行なった。ITS領域および26S rRNAのD1/D2領域それぞれについて、DDBJ/GenBank/EMBLデータベースに登録した(各登録番号:AB094945およびAB094946)。
系統学的解析に用いた配列は、DDBJ/GenBank/EMBLデータベースから得た。CLUSTAL Wバージョン1.8コンピュータプログラム(Thompsonら、1994)を用いて関連種の配列とアラインし、さらに手作業で調整した。系統樹は、ネイバージョイニング法(neighbor−joining method)(SaitouおよびNei、1987)にしたがって構築した。進化論的距離データはKimuraの方法(1980)にしたがって算出した。配列中のギャップが存在する部位については排除した。ネイバージョイニング法についてのBootstrap解析(Felsenstein、1985)は100個のランダムリサンプリングを用いて行なった。
26S rDNA配列のD1/D2領域に基づく系統樹において、bootstrap値が高くなかったにもかかわらず(図1)、該菌株はB.formosensis(該株は、台湾でL.gracileの葉から分離され、Trichosporonalesに位置する)とクラスタを構成した。
B.formosensis(既知のもので最近縁株)に対する配列類似性は、26SのrDNAのD1/D2領域では97.5%であり、ITS(internal transcribed spacer)全領域では89.3%(ITS1 86.3%とITS2 91.3%)であった。これは該菌株が別種であり、すなわちこれが新種であることを示すものである。
該菌株の生理的で生化学性質は、B.formosensisと類似していたが、亜硝酸ナトリウム資化性と37℃での増殖能を有している点でB.formosensisとは明らかに相違しており、両者は明らかに別種であるとの結論が得られた(上記参照)。また、該菌株は、コーンミール寒天上でのスライド培養では、淡黄色で滑面様のコロニーを形成し、菌糸体または偽菌糸体を形成しないのに対し、B.formosensisは菌糸は曲がりくねっており、またプリミティブではあるが花序型に分岐したの菌糸体を形成した。該菌株のコーンミール寒天培養では、ballistoconidium形成活性が認められなかった。以上より、該菌株は、酵母(FellおよびStatzell−Tallman(1998))の分類学上は、クリプトコックス属に属する酵母菌株として分類される。
温度依存的増殖能の解析
39〜60℃の範囲内の温度で、YM broth中で上記菌株を20rpmにて試験管中で振盪培養した(Advantec TVS 126MAを使用)。菌の増殖を660nmの吸光度にて、700時間までモニターした。
図2に、左側から、39℃、41.8℃、45.6℃、47.7℃、51.3℃、54.9℃および60℃で、700時間、本発明の酵母菌を培養し、さらに室温に戻して5日後の増殖結果を示す。
ここで39℃および41.8℃の温度では、ほぼ同等の増殖速度であり、100時間以内に充分な増殖が認められた。さらに45.6℃、47.7℃、51.3℃での培養では、さらに増殖速度は遅かったが、増殖は認められた。また、54.9℃および60℃での培養では、700時間経過後であっても、菌が静菌的に生きていると認められた。
このことから、該菌株は耐熱性に優れており、通常の酵母菌の生育温度よりはるかに高温であっても生存し、かつ、通常の酵母が生育できない約47℃程度の高温でも増殖可能であることが確認された。
pH依存的増殖能の解析
pH1.15〜8.61の範囲内の12種のpHに希塩酸および希水酸化ナトリウムで調整したYM broth中で、上記菌株を37℃で20rpmで振盪培養した。接種約239時間培養し、経時的に菌の増殖を660nmの吸光度にて測定した。その結果を図3に示す。約pH1.15〜8.61の範囲内で増殖可能であり、該菌は、通常の酵母菌では増殖不可能な強酸性環境下においても増殖可能であり、耐酸性菌であることがわかった。
耐酸性プロテアーゼの確認
HClまたはNaOHで各種pH(1.2,2.0,3.3および8.2)に調整したYeast Nitrogen Base(グルコースを炭素源として使用)にC.tepidus M9962を接種し、8日間37℃で震盪培養を行った。フィルターを用いて菌体を除いた培養液200μlに1%アルブミン溶液20μlを基質として加え、また、陰性対照として培地に等量のアルブミン溶液を加え、それぞれ37℃で1晩反応後、SDS−PAGEにより電気泳動を行った。
結果を図4に示した。図から、pH2.0および3.3のとき、バンドの濃さから判定されるように、培養液中に分泌されたプロテアーゼによって、アルブミンが顕著にタンパク質分解されたことが判った。
参考文献
Fell,J.W.and Statzell−Tallman,A.(1998).Cryptococcus Vuillemin.InThe Yeasts,A Taxonomic Study,4th ed.by Kurtzman,C.P.and Fell,J.W.,Elsevier,Amsterdam,pp.742−767.
Felsenstein,J.(1985)Confidence limits on phylogenies:An approach using the bootstrap.Evolution,39,783−791.
Kimura,M.(1980)A simple method for estimating evolutionary rate of base substitutions through comparative studies of nucleotide sequences.J.Mol.Evol.,16,111−120.
Komagata,K.and Nakase,T.(1967)Microbiological studies on frozen foods.V.General properties of yeasts isolated from frozen foods(in Japanese).J.Food Hyg.Soc.Japan,8,53−57.
Kurtzman,C.P.and Robnett,C.J.(1997)Identification of clinically important ascomycetous yeasts based on nucleotide divergence in the 5’ end of the large−subunit(26S)ribosomal DNA gene.J.Clin.Microbiol.,35,1216−1223.
Nakase,T.and Suzuki,M.(1986)Bullera megalospora,a new species of yeast forming large ballistospores isolated from dead leaves of Oryza sativa,Miscanthus sinensis,and Sasa sp.in Japan.J.Gen.Appl.Microbiol.,32,225−240.
Nakase,T.,Tsuzuki,S.and Takashima,M.(2002)Bullera taiwanensis sp.nov.and Bullera formosensis sp.nov.,two new ballistoconidium−forming yeast species isolated from plant leaves in Taiwan J.Gen.Appl.Microbiol.,32,345−355.
Raeder,U.and Broda,P.(1985)RAPID PREPARATION OF DNA FROM FILAMENTOUS FUNGILETTERS IN APPLIED MICROBIOLOGY 1,17−20.(Lett.Appl.Microb.)Saitou,N.and Nei,M.(1987)The neighbor−joining method:A new method for reconstructing phylogenetic trees.Mol.Biol.Evol.,4,406−425.
Sugita,T.and Nakase,T.(1999)Non−universal usage of the leucine CUG codon and the molecular phylogeny of the genus Candida.Syst.Appl.Microbiol.,22,79−86.
Tamaoka,J.and Komagata,K.(1984)Determination of DNA base composition by reversed−phase high−performance liquid chromatography.FEMS Lett.,25,125−128.
Thompson,J.D.,Higgins,D.G.and Gibson,T.J.(1994).CLUSTAL W:Improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting,position−specific gap penalties and weight matrix choice.Nucleic Acids Res.,22,4673−4680.
Yarrow,D.(1998).Methods for the isolation,maintenance and identification of yeasts.In The Yeasts,A Taxonomic Study,4th ed.by Kurtzman,C.P.and Fell,J.W.,Elsevier,Amsterdam,pp.77−100.
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
Claims (14)
- クリプトコッカス・テピデゥス(Cryptococcus tepidus)M9962(受託番号CBS 9427)またはその変異株である、耐酸性および耐熱性の特性をもつ酵母菌。
- pH1〜9のpHで増殖可能である、請求項1記載の酵母菌。
- 少なくとも35〜60℃の温度で増殖可能である、請求項1記載の酵母菌。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵母菌を処理してタンパク質、脂質、糖類、核酸またはそれらの混合物を回収することを含む、酵母由来の物質の製造方法。
- タンパク質が酵素である、請求項4記載の方法。
- 酵素が耐熱性酵素である、請求項5記載の方法。
- DNA組換え技術を用いて異種タンパク質を製造するための、宿主細胞としての請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵母菌の使用。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵母菌またはその処理物を含む組成物。
- 動物飼料である、請求項8記載の組成物。
- 培地成分である、請求項8記載の組成物。
- 物質生産のための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵母菌の使用。
- バイオマスのためのものである、請求項11記載の使用。
- クリプトコッカス・テピデゥス(Cryptococcus tepidus)M9962酵母菌(受託番号CBS 9427)に対し突然変異処理を施し、耐酸性および耐熱性の特性をもつ変異体酵母株を分離することを含む、変異体酵母株の製造方法。
- pH1〜9のpHおよび少なくとも35〜60℃の温度で増殖可能である、請求項13記載の方法。
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