(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる音響処理装置100の一例を示した図である。図1に示す例では、図1に示すように、第1の実施の形態においては、音響信号補正装置を、ポータブルオーディオプレーヤー等の音響処理装置に適用した例について説明する。図1に示す音響処理装置100は、音響再生装置110と、イヤホン120と、から構成されている。
音響再生装置110は、図示しないヒンジ部により結合された二つ折りの筐体を備えており、その内側面には、表示部111と操作入力部112とを備えている。また、イヤホン120は、カナル型のイヤホン等であって、受聴者の耳に装着された状態で用いられる。なお、本実施の形態では、イヤホン120をカナル型とした場合について説明するが、これに限らず、他の形式やヘッドホンとしてもよい。
なお、音響信号補正装置は、音響処理装置に対して適用する際に、音響再生装置に内蔵されることに制限するものではなく、イヤホンまたはヘッドホンに内蔵されてもよいし、音響再生装置とイヤホンとの間に外部接続されてもよい。
図2は、第1の実施の形態にかかる音響再生装置110の構成の例を示すブロック図である。図2に示すように、音響再生装置110は、音響信号取得部201と、音響信号補正部202と、出力部203と、第1の共鳴周波数入力部204と、を備える。
図2に示す音響再生装置110の例は、変換パラメータ取得部212で取得されたフィルタ係数を用いてフィルタ処理された音響信号が、出力部203からイヤホン120に出力される実現形態となることは言うまでもない。この場合は、音響再生装置110の内部の音響信号補正部202で補正処理を経た音響信号が、音響再生装置110からの音響信号として出力される。そして、出力部203が、イヤホン120に接続される構成であればよい。
音響信号取得部201は、音響再生装置110内部の(図示しない)音響信号生成部が生成した音響信号又は、(図示しない)メモリや外部端子から入力された音響信号を取得する。
なお、音響信号取得部201が取得する音響信号は、再生に用いるための音源となる音響信号であって、音響補正の対象となる。当該音響信号として、例えば、音楽等のオーディオ信号を適用できる。また、音響信号は、オーディオ符号化や音声符号化やロスレス符号化等の圧縮データでもよいし、必要なデコード処理を行って、取得したオーディオ波形信号などであってもよい。また、音響再生装置110は、通常L(Left)、R(Right)の2chのオーディオ信号を出力するが、モノラルの信号や多chの信号を出力するものでもよい。換言すれば、音響信号は、再生される際に、ch数に応じて適切な補正が行われる対象であればよい。
第1の共鳴周波数入力部204は、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際に閉塞した空間(以下、閉空間とも称す)で生じる共鳴周波数を特定する特定情報を入力する。入力する共鳴周波数を特定する特定情報は、共鳴周波数を特定するために行われたユーザの操作情報や、ユーザの耳に対して行われた共鳴に関する測定結果(例えば、閉空間で生じたものとして特定された1次共鳴周波数)を示す情報であってもよい。第1の共鳴周波数入力部204は、この入力された特定情報を、変換パラメータ取得部212に出力する。
また、第1の共鳴周波数入力部204は、特定情報を入力するために、ユーザの耳の共鳴周波数の測定を行ってもよい。共鳴周波数の測定手法としては、例えば、イヤホン又はヘッドホンと、耳と、で形成される閉空間に対して音響信号を出力し、出力した後にマイクが集音した信号を分析して、周波数の共鳴ピークを求める手法がある。
また別の測定手法としては、テスト音や音楽に対して、共鳴を抑止するために特殊な信号処理を施して出力した複数種類の音響信号を出力する。そして、ユーザは、装着したイヤホン又はヘッドホンで、当該音響信号による再生音を聞いて、共鳴による増音感から、いずれの信号処理が音響信号を聞く上で適切なのか(例えば操作入力部112から)選択する。これら信号処理は、それぞれ補正する対象として異なる共鳴周波数が設定されているものとする。このように、第1の共鳴周波数入力部204は、ユーザの選択から、ユーザ毎に、共鳴の補正の対象となる共鳴周波数を選択的に特定できる。
特定情報は、共鳴周波数を特定可能な情報であればよい。例えば、特定情報は、共鳴周波数の値でもよいし、共鳴周波数のタイプでもよい。また、上述した選択的に判断する手法など、共鳴周波数の候補が予め定められている場合には、特定情報は、何番目の候補であるかを特定する情報(例えば、インデックス情報など)であってもよい。例えば、共鳴周波数のタイプ、又は候補が、8個で示されている場合には、これら8個から選択できるように予め番号付け(インデックス付け)してもよい。
音響信号補正部202は、変換パラメータ取得部212と、補正処理部211と、から構成されている。この補正処理部211は、共鳴周波数変換部215から構成されている。そして、音響信号補正部202は、音響信号に対する補正処理を行う。
ところで、従来から、イヤホンまたはヘッドホンで音楽を聴取する際、耳と、イヤホンまたはヘッドホンと、で形成される空間で音の共鳴現象が生じている。これは、イヤホンまたはヘッドホンによって塞がれた外耳道を含む空間内において、共鳴現象が生じるためである。図3は、多数の被験者から取得した1次共鳴周波数と2次共鳴周波数との分布を示した図である。図3に示すように、被験者に応じて、共鳴周波数が異なることが分かる。
このように、イヤホンまたはヘッドホン装着時、ユーザは、閉塞された空間内で発生している共鳴現象に基づいて、共鳴周波数の信号成分が増強された不自然な再生音を聴いていることになる。この不自然な再生音は、ユーザに、篭もり感や開放感の無さを感じさせる要因となっている。そこで、本実施の形態にかかる音響再生装置110は、耳と、イヤホン又はヘッドホンと、で形成される空間で生じる不自然な再生音による篭もり感を抑止し、開放感がある再生音になるよう補正を行う。
まず、本実施の形態及び後述する実施の形態など、様々な機材で適用される骨子となる原理について説明する。本実施の形態に音響再生装置110、及び後述する実施の形態にかかる音響再生装置は、装着対象となるイヤホン又はヘッドホンと、装着するユーザと、の組み合わせで異なる閉管共鳴の周波数を抑える補正処理を行うだけでなく、イヤホン又はヘッドホンを外したときの開放感をユーザが感じられるように、補正処理を行う。この開放感を感じられるようにする補正としては、ユーザ毎に異なる開放共鳴を、ユーザの耳と、ユーザが装着したイヤホン又はヘッドホンと、の成す閉空間の関係に合わせて適応的に付加/強調する補正がある。開放共鳴とは、各ユーザが、イヤホン又はヘッドホンを装着していない場合、換言すればイヤホン及びヘッドホンから耳が開放されている場合に、各ユーザが外部環境から音を聞く際に生じる共鳴とする。つまり、音響信号で開放共鳴が生じていると、ユーザは、開放感のある音響信号として認識する。
そこで、本実施の形態に音響再生装置110、及び後述する実施の形態にかかる音響再生装置は、個人の耳とイヤホン又はヘッドホンと、の成す閉空間における共鳴特性を有する共鳴周波数を、開放共鳴としての特性を有する周波数に変換する。当該共鳴周波数の変換を実施することで、現実の自然環境における物理現象に従って、ユーザがより自然と感じられる周波数への変換が可能となる。次に、各閉空間で共鳴が生じる環境と、開放共鳴が生じる環境と、の違いについて説明する。
図4は、イヤホンの装着時に形成される閉空間で生じる耳共鳴をモデル化した模式図である。図4は、外耳道をモデル化した音響管400に対して、イヤホン401を装着した状態を表している。図4に示す音響管400では、外耳道の長さDを有する。図4に示す例では、イヤホン401が、外耳道を示す音響管400の内部に長さδだけ入り込んで装着されている。そして、音響管400の左端402が、鼓膜側に相当する。なお、図4では、イヤホン401を装着した例について説明するが、閉空間が生じるものであればよく、ヘッドホン等を装着したものでも良いことはいうまでもない。
図4に示す例では、装着されたイヤホン401と、外耳道を表した音響管400と、で形成される閉空間が、長さLの閉管としてモデル化されている。長さLは、外耳道の長さDから、イヤホン401が、音響管400に入り込んだ長さδを、減算した長さ(L=D−δ)と見なすことができる。外耳道の長さDは、個人により異なる値であり、長さδは、ユーザと当該ユーザが使用するイヤホンと、の組合せに応じて変化する値となる。そして、これらで形成される閉空間で音を再生する場合、イヤホンと外耳道とで形成される閉空間の長さLが、共鳴周波数に支配的に働く。
図4に示す例では、長さLの閉管における1次共鳴の定在波を図示している。この1次共鳴の定在波においては、長さLの中間が共鳴の腹となり、音響管の左端402とイヤホン401の左端にそれぞれ節が生じる共鳴が発生する。なお、図4では示していないが、当該音響管内では、さらに2次以上の高次の共鳴も発生することが知られている。これら高次の共鳴についても、補正の対象としても良い。
イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際の、閉空間での共鳴周波数Fcloseは、後述する様々な手法で、個人毎に特定できる。共鳴周波数Fcloseが特定されると、以下に示す式(1)で、イヤホン又はヘッドホンと、外耳道と、で形成される閉空間の長さLを算出できる。
L=(λclose)/2=(ν/Fclose)/2 ……(1)
変数νは、音速を表す。また、λcloseは、長さLの閉管における1次共鳴の定在波の波長を表している。式(1)から、Fcloseについて、以下に示す式(2)で表すことができる。
Fclose=ν/(2L) ……(2)
次に、イヤホン及びヘッドホンともに装着してないときの開放共鳴における共鳴周波数Fopenについて検討する。図5は、図4で示したイヤホン401を外した時に生じる共鳴をモデル化した図である。図5に示す例では、イヤホン401を外した外耳道をモデル化したものであることから、音響管500の右端は開放されている。なお、図5は、イヤホン401が、外耳道に入り込んだ長さδを考慮しない例とする。
図4では長さLの閉管が形成されていたことから、図5に示す例では、長さLで右端が開放された音響管500でモデル化したときの、開放共鳴(1次開放共鳴)を示している。図5に示す例のように、片側開管である音響管500では、1次開放共鳴は、音響管500の左端が節となり、音響管500で開放された右端が腹となる。この場合、開放共鳴における共鳴周波数Fopenは、以下の式(3)で示すことができる。
Fopen(L)=ν/(4L)=(Fclose)/2 ……(3)
式(3)を用いることで、イヤホン装着時に形成される閉空間で生じる耳共鳴の共鳴周波数Fcloseから、開放共鳴が生じる共鳴周波数Fopen(L)に変換できる。図5に示す例では、開放共鳴の共鳴周波数Fopen(L)は、Fcloseの周波数のγ倍(γ=0.5)で表されることが式(3)から分かる。なお、図5に示す例は、音響管500による概算なので、γ=0.5付近の値であればよく、例えば、γ=0.4〜0.6程度であればよい。
開放共鳴における共鳴周波数Fopenの算出は、図5に示す手法に制限するものではなく、様々な算出手法がある。次に、イヤホン401が外耳道の内部に入り込んだ長さδを考慮した例について説明する。図6に示す例では、閉空間の長さLと、イヤホン401装着時の深さδとを考慮した、外耳道の本来の長さDで、その右端を開放した音響管600でモデル化したときの、開放共鳴(1次開放共鳴)を示している。図6に示す例のように、片側開管である音響管600では、1次開放共鳴は、音響管600の左端が節となり、音響管500で開放された右端が腹となる。この場合、開放共鳴における共鳴周波数Fopenは、以下の式(4)で示すことができる。
Fopen(D)=ν/(4D)=ν/(4(L+δ)) ……(4)
つまり、図6に示す例では、イヤホン装着の深さδを考慮した上で、イヤホン装着時に形成される閉空間で生じる耳共鳴の共鳴周波数Fcloseから、開放共鳴の共鳴周波数Fopen(D)を導き出す。また、式(4)で導き出されたFopen(D)は、以下に示す式(5)の関係が成り立つ。
Fopen(D)=ν/(4(L+δ))<(Fclose)/2 ……(5)
式(5)においては、開放共鳴の共鳴周波数Fopen(D)は、Fcloseの周波数の1/2より小さくなることを示している。すなわち開放共鳴が生じる共鳴周波数Fopen(D)は、Fcloseの周波数のγ倍(γ<0.5)で表される。
このような、開放共鳴の共鳴周波数Fopen(D)を用いて、音響信号を補正した場合、イヤホンが外耳道に入り込んでいることを考慮した上で、開放共鳴における共鳴周波数を算出しているので、よりユーザに快適な環境を提供できる。
つまり、物理的な音響管の長さLに起因して生じていたイヤホン装着時の共鳴を抑えるのみならず、イヤホン装着の深さのδを考慮していることになる。これらを考慮した、片側開放で長さD(>L)の音響管モデルを適用することで、より実際の耳とイヤホンの装着/非装着の関係に適合した形で、開放共鳴が生じる共鳴周波数Fopen(D)を導き出せることになる。つまり、再生音の閉塞感や篭もり感を抑えるだけでなく、音の自然な開放感も再生音に積極的に与えるという効果が得られる。なお、イヤホン装着の深さδの算出手法は、どのような手法で算出してもよく、例えば、ユーザが複数の選択肢から選択する等が考えられるし、実測により求めてもよい。
さらに、外耳道のさらに外側にある耳介(耳殻)まで考慮してもよい。図7は、閉空間の長さLと、イヤホン401装着時の深さδと、耳介の厚さ(あるいは耳介の深さ)αと、を考慮した、長さD1で、その右端を開放した音響管700でモデル化したときの、開放共鳴(1次開放共鳴)を示している。図7に示す例では、耳介の厚さαを含めることで、Dよりも長い長さD1の閉管として、音響管700がモデル化される。
図7に示すように、耳介の厚さαを含む長さD1の音響管700の右端が、1次開放共鳴の周波数の腹となる。この場合、開放共鳴における共鳴周波数Fopenは、以下の式(6)で示すことができる。
Fopen(D1)=ν/(4D1)=ν/(4(L+δ+α)) ……(6)
なお、式(6)において、耳介の厚さα>0となる。イヤホン装着時の深さδと、耳介の厚さαと、までを考慮した長さD1(>D>L)の音響管の片側を開放した音響管700に基づいて、開放共鳴の共鳴周波数Fopen(D1)を、イヤホン装着時に形成される閉空間で生じる耳共鳴の共鳴周波数Fcloseから変換し、当該開放共鳴が生じる共鳴周波数Fopen(D1)を再生音に与えるようにすることで、より実際に即した耳とイヤホンの装着/非装着の関係に適合した補正を行うことになり、再生音の閉塞感や篭もり感を抑えるだけでなく、音の自然な開放感も再生音に積極的に与えることができる。なお、この図5〜図7に示した概念は、当然に本実施の形態に留まらず、以降に示す実施の形態や様々な変形例、あるいは再生音を聞くための様々な機材に適用し、効果を得ることができる。
これら図5〜図7について、具体的な例を用いて説明する。例えば、音速ν=340(m/s)、L=2.5cm、D=3.5cm、D1=4cmとする。この場合、式(2)〜(4)、及び(6)から、Fclose=6800(Hz)、Fopen(L)=3400(Hz)、Fopen(D)=2428.57(Hz)、Fopen(D1)=2125(Hz)を算出できる。この場合、各Fopenは、Fcloseの周波数のγ倍とした場合、γの範囲が約0.3〜0.5程度となる。これらは音響管モデルによる概算なので、実際には、γとして0.2〜0.6程度の範囲であればよい。これら範囲が厳密である必要はなく、開放時に共鳴が生じる共鳴周波数(ただしユーザ毎に異なる)の近傍の周波数(以下、開放共鳴の周波数とも称す)が、適切な度合いで強調されていれば、ユーザは開放感を感じるためでもある。また、これらの周波数から、以下に示す式(7)が成り立つ。
Fopen(D1)<Fopen(D)<Fopen(L)=(Fclose)/2<Fclose……(7)
式(7)から、本実施の形態、後述する実施の形態及び変形例にかかる音響再生装置において、再生音に与えるために閉空間での共鳴周波数Fcloseから変換して求められる開放共鳴の周波数Fopenは、共鳴周波数Fcloseよりも低い周波数である必要がある。さらに詳細には、この開放共鳴の周波数Fopenは、上述したように共鳴周波数Fcloseのγ倍(γは0.2〜0.6付近の値)となるように設定することが好ましい。
図5〜図7に示した開放共鳴は、イヤホン/ヘッドホン装着時に形成される閉空間で生じる耳共鳴の周波数Fcloseから、対応する開放共鳴として求められたものである。そして、本実施の形態、後述する実施の形態及び変形例にかかる音響再生装置では、このような関係に基づいて処理を行うことで、現実の世界の物理現象に沿った、より自然な開放共鳴の周波数への変換が可能となる。
変換パラメータ取得部212は、第1の共鳴周波数入力部204から入力された共鳴周波数の特定情報に基づいて、閉空間による共鳴周波数から、イヤホン及びヘッドホンから開放された開放共鳴の周波数に変換する変換パラメータを取得する。変換パラメータ取得部212が取得する開放共鳴による周波数は、上記の図5〜図7を用いて説明した手法で求められるものとし、例えば、閉空間の共鳴周波数に対してγ(γ=0.2〜0.6付近の値)を乗じて算出する。なお、γの実際の値は、イヤホンの形状や、耳介の厚さを考慮するか否か等の実際に用いられる状況に応じて、適切な値が設定されるものとする。
このように、変換パラメータ取得部212は、特定情報から、閉空間による共鳴周波数より低い、イヤホン及びヘッドホンから開放された時の共鳴周波数の周波数を特定し、特定された周波数に変換する変換パラメータを取得する。換言すると、変換パラメータ取得部212は、特定された閉空間における共鳴周波数に基づいて、当該共鳴周波数よりも低く、開放された時に共鳴が生じる周波数の成分を強調する変換パラメータを求める。変換パラメータの一例としては、フィルタ係数情報を用いることができる。そして、変換パラメータ取得部212が取得した変換パラメータは、補正処理部211に出力される。
なお、変換パラメータ取得部212で求められる変換パラメータは、開放共鳴の周波数成分を強調するだけでも補正の効果は得られるが、さらに閉空間の共鳴周波数を抑圧する補正を含むように構成されている。これにより、閉塞感が解消されて開放感の高い高品質な音をユーザに提供することが可能となる。
補正処理部211は、共鳴周波数変換部215を備え、音響信号取得部201から入力された音響信号に対して、補正処理を行う。
共鳴周波数変換部215は、補正処理部211による補正制御において、入力された変換パラメータを用いて、音響信号の共鳴のピークが、共鳴周波数Fcloseから、開放共鳴の開放周波数Fopenとなる周波数変換を行う。
共鳴周波数変換部215は、変換パラメータ取得部212から入力された変換パラメータを用いて、音響信号取得部201から入力された音響信号に対して、閉空間における共鳴周波数Fcloseの周波数振幅を抑止し、開放時の開放周波数Fopenの周波数振幅を強調するよう、周波数変換を行う。これにより、物理的な音響管の長さLに起因して生じていたイヤホン装着時の共鳴を抑えるとともに、開放共鳴の開放周波数Fopen(L)が強調されることで、同じ長さLの音響管の片側を開放したときにユーザが現実世界として体験するであろう再生音を聞くことができるため、再生音の閉塞感や篭もり感を抑えるだけでなく、音の自然な開放感も再生音に積極的に与えることが可能となる。
次に、補正処理部211で用いられる補正特性について説明する。図8は、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際に音源信号を出力した際に生じる共鳴現象の特性を示した図である。図8に示す例では、共鳴のピークとして特定された共鳴周波数Fcloseと、開放共鳴の開放周波数Fopenと、が示されている。そして、図8に示す開放共鳴の開放周波数Fopenは、変換パラメータ取得部212により、共鳴周波数Fcloseから特定される。つまり、開放共鳴の開放周波数Fopenは、共鳴周波数Fcloseに対して、γ(γ=0.2〜0.6付近の値)を乗算することで求められた周波数とする。つまり、開放共鳴の開放周波数Fopen近傍の周波数が、共鳴のピークとなっていれば、ユーザは音の自然な開放感を得られる。
そこで、開放共鳴の開放周波数Fopen近傍の周波数が共鳴のピークとなるように、補正処理部211は、変換パラメータによるフィルタ係数情報を用いて補正する。図9は、補正処理部211が行う補正特性901の例を示した図である。破線902は、図8で示した共鳴現象の特性を示している。図9に示す補正特性901は、共鳴周波数Fcloseの周波数成分(周波数振幅)を抑止し、Fcloseより低い開放共鳴の開放周波数Fopenの周波数成分(周波数振幅)を強調するための一例となる補正特性となっている。なお、補正特性901における、共鳴周波数Fclose及び開放周波数Fopenにおける周波数振幅は、実際の適用された際に適切な値が設定されればよい。これは、共鳴周波数Fcloseの共鳴ピークが少しでも抑止され、開放周波数Fopenの周波数成分が少しでも強調されるだけで、ユーザの閉塞感が解消され、開放感を得られるからである。例えば、補正処理部211は、開放周波数Fopenに対して、2,3dB程度以上12dB程度以下の範囲内で、強調する補正などが考えられる。
図10は、補正処理部211が、図9で示した補正特性で補正した後の共鳴特性1001を示した図である。図10に示されているように、補正前の音源信号902に対して、補正処理部211が補正を行うことで、共鳴のピークが、共鳴周波数Fcloseから、開放共鳴の開放周波数Fopenに変換されている。すなわち、図9の実線に示された周波数特性を有するフィルタC(z)で、補正処理部211が音響信号を補正することで、イヤホン又はヘッドホン装着で閉塞した耳空間の共鳴周波数Fcloseを、開放共鳴の共鳴周波数Fopenに変換する処理が実現できる。
図11は、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際に音源信号を出力した際に生じる共鳴現象の特性の第2の例を示した図である。図11は、図8で示した共鳴周波数Fcloseよりも低い共鳴周波数Fclose’の例とする。つまり、図8及び図11の違いからもわかるように、閉空間における共鳴周波数は、個人や、当該個人とイヤホン又はヘッドホンとの組合せ、耳の特性の違いから、異なることは上述したとおりである。そして、図11に示すように、閉空間の共鳴周波数(例えばFclose’)が低い場合、変換パラメータ取得部212は、これに応じて開放共鳴の周波数(例えばFopen’)に低い値を設定する。
そして、補正処理部211は、このように、図11で示された共鳴周波数Fclose’に対する補正として、図12の補正特性1201を用いて補正処理を行うことになる。その結果、補正処理後の音源信号は、図13に示すような共鳴特性を有することとなる。
そして、図11〜図13とは逆に、閉空間の共鳴周波数が高い場合、変換パラメータ取得部212は、これに応じて、開放共鳴の周波数に高い値を設定する。これにより、実際のイヤホン又はヘッドホンの、装着と非装着との共鳴の違いとして、変換パラメータ取得部212が特定するフィルタ係数を用いることで、現実世界での物理的な閉塞/開放の共鳴の関係を自然な形として反映できる。
なお、閉空間の共鳴周波数Fcloseと開放共鳴の共鳴周波数Fopenとが互いに1次共鳴である場合は、開放共鳴の共鳴周波数Fopen<閉空間の共鳴周波数Fcloseの関係が保たれる必要がある。
補正処理部211で行なう処理は、以下の式(8)で示すことができる。
式(8)に示す例では、入力された音響信号x(n)に対して、フィルタ係数c(i)(i=0,1,...,M-1)(Mはフィルタの次数)を用いた処理を行うことで、出力される音響信号y(n)が出力される。なお、フィルタ係数c(i)(i=0,1,...,M-1)は、変換パラメータの一例として示したものとする。
図2に戻り、出力部203は、音響信号補正部202により音響信号の音響特性が補正処理された後、補正処理後の音響信号を、イヤホン120を介してユーザの耳に対して再生出力する。
音響再生装置110では、音響信号取得部201が取得した音響信号に対して、低域強調や各種エフェクト等の他の音響処理を経た後、音響信号補正部202に入力される構成としてもよい。また、音響信号補正部202で補正された後の音響信号に対して低域強調や各種エフェクト等の他の音響処理を行った後に、出力部203に出力する構成であってもよい。これらの構成を備えた場合でも、音響信号の補正効果が得られることは明らかである以上、これら構成を備えた音響再生装置も、本実施の形態及び後述する実施の形態から導き出される概念に含まれることは言うまでもない。
次に、本実施の形態にかかる音響再生装置110における、音響信号に対する処理について説明する。図14は、本実施の形態にかかる音響再生装置110における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
まず、第1の共鳴周波数入力部204が、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際の共鳴周波数(例えば、1次共鳴周波数)を特定する特定情報を入力する(ステップS1401)。その際、第1の共鳴周波数入力部204は、ユーザ操作、又は共鳴周波数の測定結果などに基づいて、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際に閉空間で生じる耳共鳴の共鳴周波数(例えば、1次共鳴周波数)を特定し、特定された共鳴周波数を表す特定情報を音響信号補正部202に送る。
次に、変換パラメータ取得部212は、閉空間で生じる耳共鳴の共鳴周波数を特定する特定情報を基に、閉空間で生じた共鳴周波数よりも低く、イヤホン及びヘッドホンから開放された際に共鳴が生じる共鳴周波数の近傍の周波数に変換する、変換パラメータを取得する(ステップS1402)。なお、変換パラメータは、変換パラメータ取得部212内に予め記憶されていても良いし、入力された閉空間の共鳴周波数に基づいて算出しても良い。
そして、音響信号取得部201は、再生に用いるための音源となる音響信号を取得する(ステップS1403)。
そして、補正処理部211に含まれる共鳴周波数変換部215が、音響信号取得部201から入力された音響信号に対して、取得された変換パラメータを用いて、共鳴周波数変換を行う(ステップS1404)。これにより、閉空間の共鳴周波数の周波数成分が抑止され、開放共鳴の共鳴周波数の周波数成分を強調する補正処理がなされたこととなる。
その後、出力部203が、補正処理された音響信号を出力する(ステップS1405)。音響再生装置110において、上述した手順で処理が行われることで、ユーザは閉塞感のない再生音を聞くことが可能ことになる。
第1の実施の形態では、補正処理として、1次共鳴周波数に基づいて補正処理を行う例について説明したが、補正処理を行う際に、1次共鳴周波数を用いることに制限するものではなく、2次以降の共鳴周波数を用いて補正処理を行っても良い。
このように、音響再生装置110が、補正処理を行なうことで、イヤホン又は密閉型ヘッドホンに特有の不自然な音(音の篭もり感や、開放感の無さなど)を解消した高品質の再生音をユーザに提供することができる。換言すれば、イヤホン又はヘッドホンを装着したときに耳が塞がれた状態になることに起因する、個人毎に異なる閉塞共鳴による音のこもり感を解消し、より自然で開放感の高い、高音質な音を楽しむことが可能となる。
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態においては、共鳴周波数変換部215において、共鳴周波数変換部215が共鳴周波数を変換する例について説明した。しかしながら、補正処理をこのような制御に制限するものではなく、閉空間の共鳴周波数を抑圧する構成と、開放共鳴の周波数を強調する構成とを、分けても良い。
図15は、第2の実施の形態にかかる音響再生装置1500の構成の例を示すブロック図である。図15に示すように、音響再生装置1500は、音響信号取得部201と、音響信号補正部1501と、出力部203と、第1の共鳴周波数入力部204と、を備える。以下の説明では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
第2の実施の形態にかかる音響信号補正部1501は、共鳴周波数の抑圧と強調とを行う構成を分けたため、上述した第1の実施の形態にかかる音響信号補正部202と異なる構成を有する。
音響信号補正部1501は、補正処理部1511と、第1の補正パラメータ取得部1512と、第2の補正パラメータ取得部1513と、第2の周波数決定部1514と、を備える。
第1の補正パラメータ取得部1512は、第1の共鳴周波数入力部204から入力された特定情報から、当該特定情報から定められる閉空間の共鳴周波数について、周波数成分を抑圧するパラメータを取得する。取得したパラメータは、第1の共鳴周波数抑圧部1521に出力される。
第2の周波数決定部1514は、第1の共鳴周波数入力部204から入力された特定情報から、閉空間の共鳴周波数に基づいて、開放共鳴の周波数を決定する。この開放共鳴の周波数の決定手法については、第1の実施の形態と同様として説明を省略する。
第2の補正パラメータ取得部1513は、決定された開放共鳴の周波数の周波数成分を強調するパラメータを取得する。そして、取得したパラメータは、第2の周波数強調部1522に出力される。
補正処理部1511は、第1の共鳴周波数抑圧部1521と、第2の周波数強調部1522と、を備え、入力された音響信号に対して補正処理を行う。
第1の共鳴周波数抑圧部1521は、第1の補正パラメータ取得部1512から入力されたパラメータを用いて、音響信号に対して、閉空間の共鳴周波数の周波数成分を抑圧する補正を行う。
第2の周波数強調部1522は、第2の補正パラメータ取得部1513から入力されたパラメータを用いて、音響信号に対して、開放共鳴の共鳴周波数の周波数成分を強調する補正を行う。
次に、本実施の形態にかかる音響再生装置1500における、音響信号に対する処理について説明する。図16は、本実施の形態にかかる音響再生装置110における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
まず、第1の共鳴周波数入力部204が、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際の共鳴周波数(例えば、1次共鳴周波数)を特定する特定情報を入力する(ステップS1601)。
次に、第1の補正パラメータ取得部1512は、閉空間で生じる共鳴周波数を特定する特定情報から、当該閉空間の共鳴周波数(第1の周波数)の周波数成分抑圧用の補正パラメータを取得する(ステップS1602)。
また、第2の周波数決定部1514は、第1の共鳴周波数入力部204から入力された特定情報から、閉空間の共鳴周波数に基づく、開放共鳴の共鳴周波数(第2の周波数)を決定する(ステップS1603)。
そして、第2の補正パラメータ取得部1513は、決定された開放共鳴の共鳴周波数(第2の周波数)の周波数成分を強調するための、補正パラメータを取得する(ステップS1604)。
そして、音響信号取得部201は、再生に用いるための音源となる音響信号を取得する(ステップS1605)。
そして、第1の共鳴周波数抑圧部1521が、ステップS1602で取得された補正パラメータを用いて、音響信号に対して、閉空間の共鳴周波数の周波数成分を抑圧する補正を行うとともに、第2の周波数強調部1522が、ステップS1604で取得された補正パラメータを用いて、音響信号に対して、開放共鳴の周波数成分を強調する補正を行う(ステップS1606)。
その後、出力部203が、補正処理された音響信号を出力する(ステップS1607)。音響再生装置110において、上述した手順で処理が行われることで、ユーザは閉塞感のない再生音を聞くことが可能ことになる。
第2の実施の形態にかかる音響再生装置1500では、第1の実施の形態の音響再生装置110と同様の効果を得ることができる。
(第3の実施の形態)
第1の実施の形態及び第2の実施の形態においては、閉空間の1次共鳴周波数の抑止と、1次の開放共鳴となる周波数を強調する場合について説明した。しかしながら、補正対象となる共鳴周波数は、1次周波数に制限するものではない。そこで、第3の実施の形態にかかる音響再生装置1700では、1次より大きい共鳴周波数についても考慮する例とする。
図17は、第3の実施の形態にかかる音響再生装置1700の構成の例を示すブロック図である。図17に示すように、音響再生装置1700は、音響信号取得部201と、音響信号補正部1701と、出力部203と、第1の共鳴周波数入力部204と、を備える。以下の説明では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
音響信号補正部1701は、変換パラメータ取得部1711と、補正処理部1712と、から構成されている。この補正処理部1712は、共鳴周波数変換部1713から構成されている。そして、音響信号補正部1701は、音響信号に対する補正処理を行う。
ところで、イヤホン及びヘッドホンから開放された際に、開放共鳴が生じるが、この共鳴周波数は、1次のみならず、複数次数についても生じる。
図18は、長さLで右端が開放された音響管500をモデル化したときの、複数の開放共鳴の共鳴周波数を示している。なお、図18は、イヤホン401が、外耳道に入り込んだ長さδを考慮しない例とする。そして、図18に示す例のように、片側開管である音響管500では、1次開放共鳴及び3次開放共鳴ともに、音響管500の左端が節となり、音響管500で開放された右端が腹となる。
このようにして、片側開管である音響管500で生じる1次共鳴と、3次共鳴と、の共鳴周波数に基づいて、音響信号補正部1701が補正処理を行うこととする。このように、開放共鳴の1次共鳴周波数Fopen1のみならず、3次共鳴周波数Fopen3についても強調する補正を行うことで、ユーザに対してより違和感のない音響信号を提供する。
図18に示したモデル以外においても、片側開管であれば複数の開放共鳴が生じている。図19に示す例は、閉空間の長さLと、イヤホン401装着時の深さδとを考慮した、外耳道の本来の長さDで、その右端を開放した音響管600でモデル化したときの、1次開放共鳴と3次開放共鳴とを示している。
さらに、図20に示す例は、閉空間の長さLと、イヤホン401装着時の深さδと、耳介の厚さαと、を考慮した、長さD1で、その右端を開放した音響管700でモデル化したときの、1次開放共鳴と3次開放共鳴とを示している。
これら図18〜図20に示した開放共鳴の1次共鳴周波数Fopen1を算出する手法は、第1の実施の形態で示した手法など、様々な手法を用いて算出できる。また、図18〜図20に示した開放共鳴の3次共鳴周波数Fopen3の算出手法としては、どのような手法を用いても良く、例えば、変換パラメータ取得部1711が、1次共鳴周波数Fopen1に対して予め定められた数(例えば、‘3’付近の数値)を乗算することで、3次共鳴周波数Fopen3を求めても良いし、閉空間の3次共鳴周波数Fclose3から開放共鳴の3次共鳴周波数Fopen3を求めても良い。
変換パラメータ取得部1711は、第1の共鳴周波数入力部204から入力された共鳴周波数の特定情報に基づいて、閉空間による1次共鳴周波数から、開放共鳴による1次共鳴周波数及び3次共鳴周波数に変換するパラメータを取得する。変換パラメータ取得部1711が取得する開放共鳴による共鳴周波数は、上記の図18〜図20を用いて説明した手法で求められるものとし、例えば、閉空間の1次共鳴周波数Fclose1に対してγ(γ=0.2〜0.6付近の値)を乗じて1次共鳴周波数を算出した後、当該1次共鳴周波数に対してγ’(γ’=3近傍の値)を乗じて3次共鳴周波数を算出する。なお、γ及びγ’の実際の値は、イヤホンの形状や、耳介の厚さを考慮するか否か等の実際に用いられる状況に応じて、適切な値が設定されるものとする。
補正処理部1712は、共鳴周波数変換部1713を備え、音響信号取得部201から入力された音響信号に対して、補正処理を行う。
共鳴周波数変換部1713は、補正処理部1712による補正制御において、取得された変換パラメータを用いて、音響信号の共鳴のピークが、1次共鳴周波数Fclose1から、開放共鳴の1次共鳴周波数Fopen1及び3次共鳴周波数Fopen3となる周波数変換を行う。
次に、補正処理部1712で用いられる補正特性について説明する。図21は、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際に音源信号を出力した際に生じる共鳴現象の特性を示した図である。図21に示す例では、共鳴のピークとして特定された1次共鳴周波数Fclose1と、開放共鳴の1次周波数Fopen1及び3次周波数Fopen3と、が示されている。そして、図21に示す1次周波数Fopen1及び3次周波数Fopen3は、変換パラメータ取得部1711により、1次共鳴周波数Fclose1から特定される。つまり、1次共鳴周波数Fclose1にγ(γ=0.2〜0.6付近の値)を乗算して1次周波数Fopen1を求めた後、求められた1次周波数Fopen1にγ’(γ’=3近傍の値)を乗算して、3次周波数Fopen3を求める。
そして、開放共鳴の1次周波数Fopen1及び3次周波数Fopen3が共鳴のピークとなるように、補正処理部1712は、フィルタ係数情報を用いて補正を行う。図22は、補正処理部1712が行う補正特性2201の例を示した図である。破線2202は、図21で示した共鳴現象の特性を示している。図22に示す補正特性2201の例では、共鳴周波数Fclose1の周波数成分(周波数振幅)を抑止し、Fclose1より低い共鳴周波数Fopen1と、Fclose1より高い周波数共鳴Fopen3と、の周波数成分(周波数振幅)を強調する補正特性となっている。なお、補正特性2201における、共鳴周波数Fclose1、1次共鳴周波数Fopen1及び3次周波数Fopen3で補正する周波数成分(周波数振幅)は、これら周波数成分毎に適切な値が設定されればよい。
図23は、補正処理部1712が、図22で示した補正特性で補正した後の共鳴特性2301を示した図である。図23に示されているように、補正前の音源信号2202に対して、補正処理部1712が補正を行うことで、共鳴のピークが、1次共鳴周波数Fclose1から1次共鳴周波数Fopen1及び3次共鳴周波数Fopen3に変換されている。すなわち、図22の実線に示された周波数特性を有するフィルタC(z)で、補正処理部1712の共鳴周波数変換部1713が音響信号を補正することで、イヤホン又はヘッドホン装着で閉塞した耳空間の1次共鳴周波数Fclose1を、1次共鳴周波数Fopen1及び3次共鳴周波数Fopen3に変換する処理が実現できる。
第3の実施の形態にかかる音響再生装置1700では、上述した構成を備えることで、開放共鳴として、1次のみならず3次の周波数まで考慮することで、ユーザに対して、より閉塞感を削減し、開放感のある再生音を提供できる。
このように、第3の実施の形態にかかる音響再生装置1700は、上述した構成を備えて、開放共鳴として、1次のみならず3次の共鳴周波数まで考慮して補正処理を行なうことで、第1の実施の形態と比べて、より自然で開放感が高い高品質の再生音をユーザに提供することができる。
(第3の実施の形態の変形例1)
上述した実施の形態では、閉空間の共鳴周波数を抑止する例について説明した。しかしながら、閉空間の共鳴周波数は必ずしも抑止する必要があるわけではなく、開放共鳴となる周波数を強調するだけでも、ユーザが開放感を得られるという効果が得られる。そこで、第3の実施の形態の変形例1として、1次及び3次の開放共鳴の共鳴周波数を強調するが、閉空間の共鳴周波数を抑止しない例とする。閉空間の共鳴周波数を抑止しない点を除けば、第3の実施の形態と同様なので、第3の実施の形態の構成を用いて説明する。
第3の実施の形態の変形例1にかかる音響再生装置1700の補正処理部1712は、上述した実施の形態と同様に、フィルタ係数情報を用いて補正を行う。図24は、補正処理部1712が行う補正特性2401の例を示した図である。破線2402は、閉空間の音響信号の共鳴現象の特性を示している。図24に示す補正特性2401の例では、Fclose1より低い1次共鳴周波数Fopen1と、1次周波数Fclose1より高い3次共鳴周波数Fopen3と、の周波数成分(周波数振幅)を強調する補正特性となっている。
図25は、補正処理部1712が、図24で示した補正特性で補正した後の共鳴特性を示した図である。図25に示されているように、補正前の音源信号に対して、補正処理部が補正を行うことで、共鳴周波数Fclose1と、1次共鳴周波数Fopen1と、3次共鳴周波数Fopen3と、の3つの共鳴ピークを有するようになる。
このように、第3の実施の形態の変形例1にかかる音響再生装置1700では、共鳴周波数Fclose1こそ抑止されないものの、開放共鳴である、1次周共鳴波数Fopen1及び高い3次共鳴周波数Fopen3を強調することで、再生音を聞くユーザに対して、開放感を提供できる。
(第3の実施の形態の変形例2)
上述した実施の形態では、閉空間の共鳴周波数として1次共鳴周波数を抑止する例について説明した。しかしながら、抑止する対象となる閉空間の共鳴周波数を、1次共鳴周波数に制限するものではない。そこで、第3の実施の形態の変形例2として、閉空間の共鳴周波数として、1次のみならず2次の共鳴周波数についても抑止する例について説明する。なお、閉空間の2次共鳴周波数も抑止する点を除けば、第3の実施の形態と同様なので、第3の実施の形態の構成を用いて説明する。
第3の実施の形態の変形例2にかかる補正処理部1712で用いられる補正特性について説明する。図26は、イヤホン又はヘッドホンを耳に装着した際に音源信号を出力した際に生じる共鳴現象の特性を示した図である。図26に示す例では、共鳴のピークとして特定された1次共鳴周波数Fclose1及び2次共鳴周波数Fclose2と、開放共鳴の1次共鳴周波数Fopen1及び3次共鳴周波数Fopen3と、が示されている。図26に示す1次共鳴周波数Fclose1及び2次共鳴周波数Fclose2の特定手法としては、音響信号を用いて実際に検出を行っても良いし、ユーザが選んだ選択肢により特定されるものでも良い。その際、被験者の結果データによる1次共鳴周波数と2次共鳴周波数との関係を用いて、ユーザ等の操作で1次共鳴周波数が選択された際に、当該1次共鳴周波数に基づいて2次共鳴周波数を特定しても良い。また、開放共鳴の1次共鳴周波数Fopen1、及び3次共鳴周波数Fopen3は、第3の実施の形態と同様の手法で導き出されるものとする。
そして、このような音響信号に対して、補正処理部1712は、フィルタ係数情報を用いて補正を行う。図27は、補正処理部1712が行う補正特性2701の例を示した図である。破線2702は、図26で示した共鳴現象の特性を示している。図27に示す補正特性2701は、共鳴周波数Fclose1及び共鳴周波数Fclose2の周波数成分(周波数振幅)を抑止し、共鳴周波数Fopen1及び共鳴周波数Fopen3の周波数成分(周波数振幅)を強調するための一例となる補正特性となっている。
図28は、補正処理部1712が、図27で示した補正特性で補正した後の共鳴特性2801を示した図である。図28に示されているように、補正前の共鳴特性2802に対して、補正処理部1712が補正を行うことで、共鳴のピークが、閉空間の共鳴周波数Fclose1及び共鳴周波数Fclose2から、開放共鳴である1次共鳴周波数Fopen1及び3次共鳴周波数Fopen3に変換されている。すなわち、図27の実線2701に示された周波数特性を有するフィルタC(z)で、補正処理部1712が音響信号を補正することで、開放共鳴に変換する処理が実現できる。
このように、第3の実施の形態の変形例2にかかる音響再生装置1700は、補正処理を行なうことで、イヤホン又は密閉型ヘッドホンに特有の不自然な音を解消した、第3の実施の形態と比べてさらなる高品質の再生音をユーザに提供することができる。
上述した実施の形態の音響再生装置110、1500及び1700で実行される音響補正プログラムは、通常音響再生装置110、1500及び1700の(図示しない)ROM等に予め組み込んで提供されるが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体記録されて提供してもよい。
また、上述した実施の形態の音響再生装置110、1500及び1700で実行される音響補正プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、上述した実施の形態の音響再生装置110、1500及び1700で実行される音響補正プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
上述した実施の形態の音響再生装置110、1500及び1700で実行される音響補正プログラムは、上述した各部(音響信号取得部、音響信号補正部、第1の共鳴周波数入力部、出力部)を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記記憶媒体から音響補正プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ、音響信号取得部、音響信号補正部、第1の共鳴周波数入力部、出力部が主記憶装置上に生成されるようになっている。