JP4900946B2 - カーボンナノチューブの製造方法および精製方法 - Google Patents
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Description
アーク放電法は、欠陥が少なく品質の良いカーボンナノチューブが得られる点で優れている。しかしながら、アーク放電法はCVD法に比べてカーボンナノチューブの収率が低い。このため量産可能な方法が種々提案されている。例えば、特開2003−277032号公報には、使用する電極に鉄触媒を含有させることにより、カーボンナノチューブを含有する生成物におけるカーボンナノチューブ含有率を向上させる方法が開示されている。また、安藤義則ら著、「材料」(2001年4月)、第50巻、第4号、第357〜360頁には、ニッケル−イットリウム触媒を含有する電極を用いたカーボンナノチューブの製造方法が記載されている。ニッケル−イットリウム触媒は活性が高いため、より高い収率でカーボンナノチューブを得ることができる。
カーボンナノチューブの精製に関し、例えば、特開2002−265209号公報および特開2003−89510号公報に記載されるような方法が従来用いられている。しかし、より効率よくカーボンナノチューブを精製して高純度のカーボンナノチューブを製造することが求められている。
ここで「カーボンナノチューブ」とは、チューブ状の炭素同素体(典型的にはグラファイト構造の円筒構造物)をいい、特定の形態(長さや直径)に限定されない。いわゆる単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、あるいはチューブ先端が角状のカーボンナノホーンは、ここでいうカーボンナノチューブに包含される典型例である。また、ここで「炭素質材料」とは、カーボンナノチューブを含む材料であって炭素(カーボン)成分を主体とする材料をいい、炭素以外の成分の含有を排除するものではない。例えば、種々の方法によって得られたカーボンナノチューブ生成物(未精製物)は、ここでいう「炭素質材料」の典型例である。
本発明者は、カーボンナノチューブを含む炭素質材料に、別途(すなわち外部から)、過酸化水素(H2O2)と鉄材とを添加することにより、炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブ以外の炭素成分(不純物であるスス等)や触媒金属等を酸化させる能力が著しく高められることを見出した。すなわち、かかる方法によると、カーボンナノチューブ以外の炭素成分(アモルファスカーボンその他の炭素物質を含む煤状不純物)を効率よく酸化除去することができる。これにより、任意の方法で得られたカーボンナノチューブ含有炭素質材料(種々の不純物を含み得る。)から高純度のカーボンナノチューブを容易に得ることができる。
これら鉄以外の触媒金属を含有させた電極を用いるアーク放電法は、カーボンナノチューブの収率自体は高い点で好適であるものの、該方法による生成物は、未精製の段階(すなわちアーク放電後の回収物)ではカーボンナノチューブ以外の不純物炭素成分(アモルファスカーボン等)や触媒金属粒子の含有率が比較的高いものであった。また、不純物炭素成分は触媒金属粒子に強く結合して(例えば、触媒金属粒子を厚く覆う形態で)存在する場合があり、そのような不純物の除去は特に煩雑であった。本発明によれば、過酸化水素(H2O2)および鉄(Fe)材の添加によって、このように触媒金属粒子と不純物炭素成分とが強く結合した不純物であっても容易に酸化除去することができる。したがって、上記アーク放電法による生成物(炭素質材料)に、かかる精製処理を適用することによって、高純度なカーボンナノチューブを効率よく得ることができる。
このような割合でごく少量の炭化水素を含む雰囲気ガスを使用することによってアモルファスカーボン等の不純物炭素成分の含有率が低い炭素質材料(アーク放電により生じる生成物)を得ることができる。従って、かかる炭素質材料を使用することによってカーボンナノチューブの収率をさらに向上させることができる。
このような割合でごく少量の炭化水素を含む雰囲気ガスを使用することによってアモルファスカーボン等の不純物炭素成分の含有率を減少させ、上記鉄含有炭素質材料からのカーボンナノチューブの収率を向上させることができる。
上記無機酸成分は、炭素質材料に過酸化水素および鉄材を添加して該炭素質材料をいったん処理した後に添加してもよい。この場合には、当該処理後に残留し得る触媒金属成分や添加した鉄材に由来する鉄粒子を、上記無機酸成分の添加によって、効率よく溶解除去することができる。あるいは、過酸化水素および鉄材とともに上記無機酸成分を添加してもよい。この場合には、上記無機酸成分の添加によって過酸化水素の添加量を節約し得、あるいは不純物炭素成分を酸化除去する能力を向上させることができる。
かかる精製方法は、種々の入手方法によって得られた種々の不純物を含む炭素質材料に適用されて、鉄材および過酸化水素を添加するといった簡単な方法により上述のようにカーボンナノチューブを高純度に精製することができる。
このようなカーボンナノチューブ精製用材料は、任意の方法により得られたカーボンナノチューブ含有炭素質材料を処理して精製されたカーボンナノチューブを得る用途に好適である。該精製用材料は、典型的には、適当な酸化剤(特に好ましくは過酸化水素)とともに上記カーボンナノチューブ含有炭素質材料に添加して使用される。例えば、上述したいずれかのカーボンナノチューブ製造方法またはカーボンナノチューブ精製方法に使用される鉄材として、上記精製用材料を好ましく採用することができる。上記のように微細な鉄粒子は単独では凝集しがちであるところ、上記カーボンナノチューブ精製用材料では該鉄粒子が炭素質材料に分散して配置されている。このことによって、該鉄粒子を効果的に利用してカーボンナノチューブを効率よく精製することができる。
かかる態様のカーボンナノチューブ精製用材料では、鉄粒子がアモルファスカーボンに包まれていることにより、該鉄粒子が変質(酸化等)から保護されている。したがって、該鉄粒子を効果的に利用してカーボンナノチューブを効率よく精製することができる。
このようなカーボンナノチューブ精製用材料は、任意の方法により得られたカーボンナノチューブ含有炭素質材料を処理して精製されたカーボンナノチューブを得る用途に好適である。該精製用材料は、典型的には、適当な酸化剤(特に好ましくは過酸化水素)とともに上記カーボンナノチューブ含有炭素質材料に添加して使用される。例えば、上述したいずれかのカーボンナノチューブ製造方法またはカーボンナノチューブ精製方法に使用される鉄材として、上記精製用材料を好ましく採用することができる。上記カーボンナノチューブ精製用材料は、典型的には、平均粒径5〜100nm(例えば5〜30nm)の鉄粒子が、アモルファスカーボンに包まれた複合粒子として分散した構成を有する。このことによって、該鉄粒子を効果的に利用してカーボンナノチューブを効率よく精製することができる。
本発明の製造方法は、カーボンナノチューブを含む未精製の(あるいは、さらなる精製を要する)炭素質材料に鉄材および過酸化水素を添加して該炭素質材料からカーボンナノチューブを高純度に取り出し得るものであればよく、種々の材料および構成をその目的のために適用することができる。
すなわち、適当な雰囲気ガスを導入した反応容器内に配置した触媒金属を含む陽極炭素成形物(典型的には棒状)と陰極炭素成形物(典型的には棒状)との間に所定の直流電圧又は交流電圧を印加し、電流を供給する。これにより発生したアーク放電に伴うアーク熱によって、上記陽極炭素成形物(交流の場合は一対の電極(炭素成形物)の両方)からカーボン、触媒金属等が蒸発する。蒸発したカーボン等は、電極間の隙間において、アーク熱と触媒作用によって、単層カーボンナノチューブを含む生成物を形成する。このようなアーク放電法によって得られたカーボンナノチューブは、比較的収率が高く、かつ品質に優れる。
上記アーク放電法において使用される雰囲気ガスは、カーボンナノチューブの収率向上の観点から不活性ガス(窒素、アルゴン等)と水素ガスとを主体とする混合ガスが好適であるが、更に少量(雰囲気ガス全体の3mol%以下)の炭化水素ガスを含有するものが特に好ましい。
典型的には大気圧又はそれ以下の減圧条件(例えば0.01〜0.1MPa)で使用される雰囲気ガス中に少量の炭化水素ガスが含まれることによって煤含有率(生成率)が減少し、カーボンナノチューブの収率を向上させることができる。使用する炭化水素ガスとしては、メタンガス、エタンガス等のアルカン、エチレンガス等のアルケン、或いはアセチレンガス等のアルキンが好ましく、特にメタンガスが好ましい。例えば圧力が0.02〜0.08MPa程度の混合ガス(例えばアルゴン等の不活性ガスと水素ガスの混合ガスであって水素ガスのモル比(体積比)が10〜80mol%である混合ガス)中に0.5〜3mol%程度(特に1〜2mol%)のメタンガスその他の炭化水素ガスを含ませることが好ましい。
従って、本発明は、別の側面として、カーボンナノチューブ(特に単層カーボンナノチューブ)を製造するために所定の容器内に配置された一対の電極の周囲に導入する雰囲気ガスとして、上述したような少量の炭化水素ガスを含有する雰囲気ガスを使用することを特徴とする、アーク放電に基づくカーボンナノチューブ製造方法(換言すればカーボンナノチューブを含む炭素質材料の製造方法)を提供する。
或いは、交流電圧を印加してもよい。交流を使用することによって、陰極(典型的には触媒金属を含有する棒状炭素成形物)側にアモルファスカーボン等から成る析出物が生成・付着するのを抑止することができる。また、両方の電極からカーボンナノチューブを含む炭素質材料を生成する(蒸発させる)ことができる。従って、カーボンナノチューブの収率の向上を図れるとともに炭素電極の有効利用を図ることができる。交流を利用する場合、一対の電極間に所定の交流電圧を印加するための交流電源として、市販される種々のアーク溶接機(例えばTIG溶接機)を好適に使用することができる。
両方の電極(即ち仮陽極および仮陰極)から均等に効率よく炭素質材料を蒸発させるためには単位時間当たり(定周波であれば単位周波数当たり)の一方の電極(例えば仮陽極)の陽極/陰極時間比(即ち、電流が正方向に流れる時間と逆方向に流れる時間との比率)が5/5程度であることが特に好ましい。他方、TIG溶接機等のアーク溶接機では、溶接効果を高めるために一方の電極(例えばタングステン電極側)における陽極/陰極時間比が3/7程度に標準設定されている場合が多い。従って、この種の溶接機を交流電源として使用する場合には、かかる陽極/陰極時間比が5/5程度(典型的には4/6〜6/4、特に好ましくは4.5/5.5〜5.5/4.5)になるように波形制御(例えばAC矩形波の電流(デューティー比)制御)を行うことが望ましい。
このような鉄含有炭素質材料は、カーボンナノチューブを含む他の炭素質材料(典型的には、鉄を含まない炭素質材料)を精製して、精製されたカーボンナノチューブ(以下「精製カーボンナノチューブ」ともいう。)を得るためのカーボンナノチューブ精製用材料として把握され得る。
このようにアモルファスカーボンで覆われた微細な鉄粒子を有するカーボンナノチューブ精製用材料(鉄材)と過酸化水素等の酸化剤とを被精製物(カーボンナノチューブを含む炭素質材料)に添加すると、該鉄粒子を覆うアモルファスカーボンが酸化除去されて、該鉄粒子(典型的には、金属鉄の状態にある鉄粒子)が剥き出しとなる。この鉄粒子を効果的に利用してカーボンナノチューブを効率よく精製することができる。かかる観点から、上記鉄粒子を覆うアモルファスカーボンの厚みは比較的薄いことが好ましい。例えば、平均厚さが概ね2〜5nmのアモルファスカーボン層で覆われた鉄粒子を含むカーボンナノチューブ精製用材料(鉄材)が好適である。
かかる鉄含有炭素質材料の典型的な態様では、上記鉄成分が粒子状として含まれている。好ましくは、上記鉄成分が金属鉄の粒子として含まれている。該粒子がよく分散していることが好ましい。その粒子の平均粒径は、例えば100nm以下(典型的には3〜100nm、好ましくは3〜50nm、より好ましくは5〜20nm、例えば5〜10nm)であり得る。このようなサイズの鉄粒子を含む鉄含有炭素質材料によると、上記炭素質材料(被精製物)に含まれる不純物の酸化除去効率を高める効果が特によく発揮され得る。
市販の過酸化水素水を使用して、該過酸化水素水を含む溶液(例えば水溶液)に炭素質材料および鉄材を浸漬した状態で精製処理を行う場合、該溶液における過酸化水素水の含有率は特に限定されず、種々の含有率において処理することができる。例えば、過酸化水素水の含有率を、炭素質材料を含む溶液(処理液)全体の5〜50質量%(好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%)とするとよい。かかる含有率となるように炭素質材料に過酸化水素水を添加することが好ましい。なお、後述するような加熱還流条件で精製を行う場合には、該加熱還流中に全液量(処理液の量)が減少しがちであるので、適宜過酸化水素水を追加するとよい。
また、鉄材として上述のような鉄含有炭素質材料を使用する場合には、炭素質材料ともに鉄含有炭素質材料をあらかじめ溶媒中に分散させておき(鉄含有炭素質材料を分散させる方法としては、炭素質材料と同様の各種分散方法を適宜採用することができる。)、この分散液に過酸化水素を添加することが好ましい。このように、鉄材としての鉄含有炭素質材料を被精製物たる炭素質材料(典型的には、鉄を含まない炭素質材料)とともに溶媒に分散させておくことで、これら二種の炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブを効率よく精製することができる。
所望により、さらに無機酸を添加して炭素質材料を処理することができる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、亜硝酸等を特に制限なく用いることができる。このうち好ましい無機酸として塩酸が例示される。無機酸の濃度は特に限定されない。無機酸の添加は、鉄材および過酸化水素の添加の後に行うことができる。この場合は、無機酸を添加する前に所定時間の加熱還流処理を行った後、無機酸を添加し、その添加後さらに加熱還流処理を継続するとよい。あるいは、鉄材および過酸化水素の添加と同時に無機酸を添加してもよい。すなわち、鉄、過酸化水素および無機酸の存在下で炭素質材料の加熱還流処理を開始することができる。
洗浄後のカーボンナノチューブは、例えば、吸引濾過等の手段によって回収することができる。精製されたカーボンナノチューブの収率は、炭素質材料自体の製造手段にもよるが、例えば、精製前の炭素質材料の質量を100%として、その5〜80%、好ましくは10〜50%、特に10〜30%程度に相当する質量の精製カーボンナノチューブが得られる収率であり得る。
精製されたカーボンナノチューブの具体的な製造例について説明する。まず、使用した単層カーボンナノチューブの製造装置について、その一例を図面を参照して説明する。
図1に単層カーボンナノチューブ製造装置1の一構成例を示す。この装置1は、大まかに言って、反応容器3と、反応容器3内に配置された一対の電極13,15と、反応容器3にガスを供給するガス供給手段7とから構成される。
その反応容器3内に陽極13および陰極15が配置されている。これらの電極13,15はいずれも棒状に形成されている。陽極13は、反応容器3内においてその中心軸(長軸)を略垂直方向に向けて配置されている。一方、陰極15は、陽極13の中心軸に対して斜め(例えば略20〜50°、特に30°)の角度をもって、その一端16が陽極13の一端14に向かい合う位置に配置されている。すなわち、陽極13の中心軸の延長線と陰極15の中心軸の延長線とが所定の角度で交差するように配置されている。なお、各電極13,15の形状はスティック状に限られず、これらの電極が互いに向かい合う箇所(例えば、対向する面)があればよい。したがって、これらの電極の一方または両方が例えばタブレット状であってもよい。陽極13と陰極15との隙間のサイズは特に限定されない。例えば、アーク放電による単層カーボンナノチューブ発生効率が高い0.1〜10mm、特に0.5〜5mm程度が好適である。なお、図1では陽極13と陰極15とが鋭角で配置された例を示しているが、陽極13と陰極15との一端が互いに向かい合っていればよく、図1に示す配置に限定されない。例えば、棒状陽極13と棒状陰極15とが互いに水平方向に向かい合って配置されていてもよく(水平対向配置)、あるいは垂直方向に向かい合って配置されていてもよい(鉛直対向配置)。交流電圧印加の場合は、水平対向配置が好適である。
陽極13および陰極15には、陽極13と陰極15の間にアーク放電を発生し得る電圧を印加可能な直流電源23が接続されている。なお、ここでは直流電源を用いた例を示しているが、交流電源を用いることもできる。この場合、一対の電極13,15のいずれも陽極となり陰極となる。
陽極13における陰極15の対向面(先端部)14とは反対側の端部(基部)19には、ソレノイド22が接続されている。このソレノイド22は、図示しない電極保持部に保持された陽極13(電極保持部)を垂直方向(すなわち、陰極15の対向面(先端部)16方向、特に図1においては下方向)に移動可能としている。このソレノイド22を利用して、カーボン蒸発による陽極13の消耗にともなって陽極13を移動させることにより、両電極13,15間の隙間を一定に保持することができる。
この陰極15にはモータ21が接続されている。モータ21は、図示しない電極保持部に保持された陰極15を、その長軸を中心として回転可能に設置されている。
このような構成の製造装置1を用いて単層カーボンナノチューブを合成した。まず、上述したような陽極13および陰極15を用意し、あらかじめ設定した所定間隔が実現されるように、これらの電極13,15をそれぞれ反応容器3内の図示しない電極保持部にセットした。そして、反応容器3に設けられた排出部11のバルブ44を開け、当該排出口45に接続する真空ポンプ49を作動させて反応容器3内のガスを排気した。これにより反応容器3内の圧力を減少させた。容器3内が13〜1.3×10-3Pa程度の高真空に減圧されたらバルブ44を絞り、ガス供給手段7から反応容器3内に雰囲気ガスを導入した。ここでは雰囲気ガスとしてヘリウムガスを使用した。そして、真空ポンプ49とガス供給手段7とによって、反応容器3内におけるヘリウムガスの圧力が6.6×104Pa程度に維持されるように、反応容器3内のガス圧(雰囲気ガス圧力)を調整した。
上記のようにして得られた生成物(炭素質材料)には、単層カーボンナノチューブとともに、触媒(例えばニッケル/イットリウム粉末)および不純物炭素が含まれていた。かかる生成物に対し、これら触媒および不純物炭素の含有量を低減する処理、すなわちカーボンナノチューブの精製処理を施した。その精製処理の手順を以下に示す。
まず、得られた炭素質材料200mgとエタノール50mlとを100mlビーカーに入れ、30分間の超音波処理(超音波振動を付与する処理)を施した。これを吸引濾過して流体を除去し、炭素質材料を回収した。
その回収された炭素質材料に蒸留水200mlを加え、4分間ミキサーにかけた。より具体的には、まず2分間ミキサーにかけ、1分間休憩し、再び2分間ミキサーにかけた。このようにして得られた炭素質材料分散液を100mlづつに分け、第一被精製物および第二被精製物とした。
第二被精製物についても同様の還流処理を行って還流処理液を得た。
その回収画分に蒸留水200mlを加えて10分間の超音波処理を行い、2時間ほど静置した後に上澄み液を捨て、再度蒸留水200mlを加えて10分間の超音波処理を行った。同様に2時間ほど放置した後に上澄み液を捨て、再び蒸留水200mlを加えて10分間の超音波処理を行った。これを2時間ほど放置した後、上澄み液を捨て、今度はエタノールを加えて10分間の超音波処理を行った。その後、吸引濾過することにより、精製した単層カーボンナノチューブを得た。得られた精製物の質量は、精密天秤で秤量したところ、28mgであった。収率は14%であった。
上記(3)の精製工程によって得られた単層カーボンナノチューブの観察を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope、株式会社日立製作所製、型式H7000)および走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope、株式会社トプコン製、型式ABT−150F)によって行った。また、精製効果を比較評価するために、上記(2)の製造工程において得られた精製前の炭素質材料を透過電子顕微鏡(TEM)にて観察した。それらの写真を図2〜4に示す。図2は精製前の炭素質材料のTEM写真、図3は精製後の単層カーボンナノチューブのTEM写真、図4は精製後の単層カーボンナノチューブのSEM写真である。
これに対して、本実施例により精製されたカーボンナノチューブ(図3,4)では、これら触媒金属粒子や炭素質の不純物がほとんど観察されず、その表面が清浄でカーボンナノチューブの純度が高いことが判る。また、精製の前後でカーボンナノチューブの構造に変化は観察されず、この精製処理によってカーボンナノチューブにダメージが与えられることはなかったことが判る。
上記(3)の精製工程において鉄微粒子を使用しなかった点以外は実施例1と同様にして、上記(2)で調達したカーボンナノチューブ含有炭素質材料の精製を行った。すなわち本比較例では、上記炭素質材料(被精製物)に過酸化水素水を添加したが、鉄材を添加することなく精製処理を行った。
本実施例では、上記(3)の精製工程において、平均粒径約0.2μmの鉄粒子に代えて平均粒径約2μmの鉄粒子を使用した。その他の点については実施例1と同様にして、上記(2)で調達したカーボンナノチューブ含有炭素質材料の精製を行った。すなわち本実施例では、上記炭素質材料(被精製物)に過酸化水素水と平均粒径約2μmの鉄粒子(鉄材)とを添加して精製処理を行った。
次に、上記(2)において得られたカーボンナノチューブ含有炭素質材料の他の精製例を説明する。この製造例は、鉄を不純物として含む炭素質材料(鉄含有炭素質材料)を鉄材に用いて上記炭素質材料を精製した例である。
その回収した混合炭素質材料に蒸留水200mlを加え、4分間ミキサーにかけた。より具体的には、まず2分間ミキサーにかけ、1分間休憩し、再び2分間ミキサーにかけた。このようにして得られた混合炭素質材料分散液を100mlづつに分け、第一被精製物および第二被精製物とした。
第二被精製物についても同様の還流処理を行って還流処理液を得た。
その回収画分に蒸留水200mlを加えて10分間の超音波処理を行い、2時間ほど放置した後に上澄み液を捨て、再度蒸留水200mlを加えて10分間の超音波処理を行った。同様に2時間ほど放置した後に上澄み液を捨て、再び蒸留水200mlを加えて10分間の超音波処理を行った。これを2時間ほど放置した後、上澄み液を捨て、今度はエタノールを加えて10分間の超音波処理を行った、その後、吸引濾過することにより、精製した単層カーボンナノチューブを得た。得られた精製物の質量は、精密天秤で秤量したところ、42mgであった。収率は21%であった。
以上の実施例および比較例により得られた精製物のTEM写真を図6〜図9に示す。これらのTEM写真と各実施例および比較例との対応関係を、その精製条件の概略とともに表1にまとめた。表中、実施例または比較例において過酸化水素の欄に「有」と示されているのは、当該実施例または比較例において過酸化水素を添加して精製を行ったことを表している。また、比較例において鉄材の欄に「−(ハイフン)」が表示されているのは、該比較例において鉄材を添加することなく精製を行ったことを表している。なお、図8は、他の実施例および比較例との対比を容易にするために、実施例1により得られた精製物を図3とは倍率を変えて観察したTEM写真である。
以上の実施例および比較例により得られた精製物につき、熱重量測定(TGA:Thermo Gravimetric Analysis)を行った。このTGA測定には、島津製作所社製のTGA測定装置(型番「DTG−60M」)を使用した。それらの測定結果(チャート)を図10〜図13に示す。図10は比較例により得られた精製物についてのTGA測定結果であり、図11は実施例2により得られた精製物、図12は実施例1により得られた精製物、図13は実施例3により得られた精製物についてのTGA測定結果である。これらのTGA測定結果と各実施例および比較例との対応関係を表1に併せて示した。
実施例3において鉄材として使用した鉄含有炭素質材料をTEMにより観察した。そのTEM写真を図14(a)および図14(b)に示す。図14(b)は、図14(a)の一部を拡大して観察したものである。
図14(a)には、この鉄含有炭素質材料を構成するカーボンナノチューブの表面に多数の微細な鉄粒子(黒い点として表れている。)が分散して付着している様子が示されている。それらの鉄粒子は、該炭素質材料の全体によく散らばって、略均一に配置されている。すなわち、著しい凝集を示すことなく薄く散らばっている。該鉄粒子の平均粒径は概ね5〜10nmの範囲にある。
次に、カーボンナノチューブを含む炭素質材料をアーク放電法に基づいて製造する場合において、雰囲気ガスに炭化水素ガスを少量導入する効果について試験した。
即ち、上記実施例1で使用したカーボンナノチューブ製造装置1と同様の構成であって、ガス供給手段7に更にもう一つの炭化水素ガス供給用ボンベ(第3ボンベ:図示せず)を接続した装置を用意した。ここで第1ボンベ27Aからは不活性ガスとしてアルゴンガスを供給し、第2ボンベ27Bからは水素ガスを供給し、第3ボンベからはメタンガス、エチレンガスまたはアセチレンガスを供給した。
具体的には、あらかじめ設定した所定間隔が実現されるように、一対の電極13,15をそれぞれ反応容器3内の図示しない電極保持部にセットした。そして、反応容器3に設けられた排出部11のバルブ44を開け、当該排出口45に接続する真空ポンプ49を作動させて反応容器3内のガスを排気した。これにより反応容器3内の圧力を減少させた。容器3内が13〜1.3×10-3Pa程度の高真空に減圧されたらバルブ44を絞り、ガス供給手段7から反応容器3内に混合ガスを導入した。ここでは混合ガスとしてAr−H2混合ガス(モル比Ar:H2=6:4)を使用した。そして、真空ポンプ49とガス供給手段7とによって、反応容器3内における混合ガスの圧力が約200Torr(約0.027MPa)に維持されるように、反応容器3内のガス圧(雰囲気ガス圧力)を調整した。
本試験例では、反応容器3内に供給する混合ガスとして、上記Ar−H2混合ガス100%であるものの他、メタンガスを0.5%添加したガス(Ar−H2混合ガス199Torr、CH41Torr)、1%添加したガス(Ar−H2混合ガス198Torr、CH42Torr)、2%添加したガス(Ar−H2混合ガス196Torr、CH44Torr)、3%添加したガス(Ar−H2混合ガス194Torr、CH46Torr)、4%添加したガス(Ar−H2混合ガス192Torr、CH48Torr)、5%添加したガス(Ar−H2混合ガス190Torr、CH410Torr)、10%添加したガス(Ar−H2混合ガス180Torr、CH420Torr)を使用した。
また、上記メタンガスに代えて、エチレン(C2H4)ガスを上記割合で添加した混合ガス、ならびにアセチレン(C2H2)ガスを上記割合で添加した混合ガスを使用し、同様に試験した。
この結果発生したアーク放電によるアーク熱で陽極13からカーボンを蒸発させた。
また、印加された電圧から、アーク放電状態を制御機構53で演算し、アーク放電によるカーボンの蒸発(すなわち電極の消耗)に応じて制御信号を入出力回路55からモータ21およびソレノイド22に出力し、一方の電極(仮陽極)13の移動および他方の電極(仮陰極)15の回転を行った。
このようなアーク放電法を3分間継続して行い、電極間の隙間においてアーク熱と触媒作用によって単層カーボンナノチューブを含む生成物を得た。そして、得られた単層カーボンナノチューブ含有生成物(本試験例に係る炭素質材料)60を反応容器3から回収した。
上記いずれかの分量でメタンガスをAr−H2混合ガスに添加したときのアーク放電(3分)後の電極蒸発量(g)、単層カーボンナノチューブ回収量(g)および回収率(%)を表2に示す。
また、メタンガスが0.5mol%、1mol%及び2mol%の分量で含有されている雰囲気ガス(Ar−H2混合ガス)を使用したときに得られた単層カーボンナノチューブ含有生成物の電子顕微鏡(SEM)写真を、それぞれ、図15、図16及び図17に示す。これらSEM写真から明らかなように、アモルファスカーボン等の不純物が比較的少ない純度の高い単層カーボンナノチューブ含有生成物が得られることが確認された。具体的なSEM写真は示していないが、エチレンガス又はアセチレンガスを同量(特に0.5〜2mol%)添加したガスを使用した場合、メタンガス添加の場合と同様の結果が認められた。
これらのラマンスペクトルから明らかなように、炭化水素を0.5〜3mol%の分量となるように添加した雰囲気ガス(Ar−H2混合ガス)を使用した場合に特に1593cm-1付近にシャープなピークが観察された。即ち、このような雰囲気ガスを使用することによって純度の高い単層カーボンナノチューブ含有生成物を得られることがラマンスペクトルからも確認された。
3 反応容器
7 ガス供給手段
11 排出部
13 陽極(交流使用時…仮陽極)
15 陰極(交流使用時…仮陰極)
31 ガス供給口
49 真空ポンプ
Claims (8)
- アーク放電に基づくカーボンナノチューブの製造方法であって、
所定の反応容器内に配置された一対の電極の周囲に導入する雰囲気ガスとして、0.5〜3mol%の炭化水素ガスを含有する雰囲気ガスを使用することを特徴とする、カーボンナノチューブ製造方法。 - 前記雰囲気ガスは不活性ガスと水素ガスとを主体とする混合ガスであって、水素ガスのモル比(体積比)が10〜80mol%であることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造方法。
- 前記容器内における雰囲気ガスの圧力を0.01〜0.1MPaに設定することを特徴とする、請求項2に記載のカーボンナノチューブ製造方法。
- 前記電極間に交流電圧を印加してアーク放電を発生させることを特徴とする、請求項3に記載のカーボンナノチューブ製造方法。
- 前記一対の電極のうち少なくとも一方の電極として、鉄を含む炭素成形物から成る電極を用いることを特徴とする、請求項4に記載のカーボンナノチューブ製造方法。
- 前記炭素成形物から成る電極は、鉄粉末と炭素粉末とを含む混合材料から成る棒状成形物であることを特徴とする、請求項5に記載のカーボンナノチューブ製造方法。
- 前記炭素成形物における鉄の原子比(Fe/C)が0.1〜10at%であることを特徴とする、請求項5又は6に記載のカーボンナノチューブ製造方法。
- 前記炭化水素ガスがメタンガスであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のカーボンナノチューブ製造方法。
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