本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本発明の実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100の斜視図、図2は、その光ファイバ式ひずみゲージ100におけるゲージベース10を説明するための図、図3は、その光ファイバ式ひずみゲージ100における光ファイバ11を示す図である。まず、図1を用いて、光ファイバ式ひずみゲージ100の構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100は、ゲージベース10と光ファイバ11とを備えている。このゲージベース10には、長手方向の中央部にH型の空隙部13が幅方向に亘って形成されており、この空隙部13を挟んで長手方向の両側には厚肉部18A、18Bが形成されている。そして、ゲージベース10は、全体として薄い直方体形状となっている。
また、この空隙部13と厚肉部18A、18Bとの両境界部には、段差16A、16Bが形成されており、H型の空隙部13を形成している周囲の部分は、厚肉部18A、18Bより厚みの薄い薄肉部17となっている。つまり、薄肉部17と厚肉部18A、18Bとは、段差16A、16Bによって区画形成された態様となっている。そして、薄肉部17は、ゲージベース10の長手方向の中心線を基準線として線対称となるようにくびれ部20を有している。
また、厚肉部18A、18Bには、ゲージベース10の幅方向の中心部に、ゲージベース10の長手方向の全域に亘り、空隙部13を介して連続的に第1溝部14A、14Bと、第1溝部14A、14Bより幅の狭い第2溝部15A、15Bが形成されている。光ファイバ11は、この第1溝部14A、14B、及び第2溝部15A、15Bに挿入されて固定される。また、厚肉部18A、18Bには、固着部12A、12Bが形成されている。
次に、図2を用いて、ゲージベース10の詳細な構成について説明する。
図2(a)は、ゲージベース10の平面図、図2(b)は、その長手方向の側面図、図2(c)は、その幅方向の側面図である。上述したように、ゲージベース10には、固着部12A、12B、空隙部13、第1溝部14A、14B、第2溝部15A、15B、段差16A、16B、薄肉部17、厚肉部18A、18B、及びくびれ部20が形成されている。
本実施形態の特徴的な部分である固着部12A、12Bは、図2(a)、図2(b)に示すように、ゲージベース10の幅方向の側部から、第1溝部14A、14B、及び第2溝部15A、15Bを基準線として線対称となるように2つずつ形成されている。この固着部12A、12Bは、ゲージベース10の幅方向に延びる第1固着部12A1、12B1と、ゲージベース10の長手方向に延びる第2固着部12A2、12B2との2つの固着部から形成されており、第1固着部12A1、12B1、第2固着部12A2、12B2は、測定対象物に対して溶接によって固着し易いように薄肉状となっている。
この第2固着部12A2、12B2は、ゲージベース10の幅方向の側部に形成されており、第1固着部12A1、12B1は、この第2固着部12A2、12B2の長手方向の中央部から、ゲージベース10の中央部に向けて延びるように形成されている。つまり、本実施形態の固着部12A、12Bは、T字形状となっており、T字の横棒の部分が、第2固着部12A2、12B2となり、T字の縦棒の部分が、第1固着部12A1、12B1となる。
図2(a)、図2(c)に示すように、第1溝部14A、14B、及び第2溝部15A、15Bは、ゲージベース10の幅方向の中心線を基準線として線対称となるように形成されており、ゲージベース10の長手方向の両側部から第1固着部12A1、12B1の中心線を僅かに超えた位置までが第1溝部14A、14Bとなり、第1溝部14A、14Bから空隙部13までの間が第2溝部15A、15Bとなっている。
くびれ部20は、図2(a)、図2(b)に示すように、薄肉部17に、ゲージベース10の幅方向の両側部から内側に向けて形成された凹部であり、厚肉部18A、18Bはこのくびれ部20が形成された薄肉部17によって連結される態様となっている。そのため、このくびれ部20によりゲージベース10の剛性が低下するので、ゲージベース10に外力等が作用した際には、くびれ部20で撓み易くなっている。
尚、本実施形態では、ゲージベース10の寸法は、以下の通りとなっている。即ち、ベース10の全長lが40mm、ゲージベース10の全幅bが12mm、厚肉部18A、18Bの厚さdが0.6mm、第1固着部12A1、12B1の中心線間の距離(ゲージ長)Lが28mm、空隙部13の間隔Gが6mm、第1固着部12A1、12B1の長さl1が5mm、第1固着部12A1、12B1の幅b1が1mm、第2固着部12A2、12B2の長さl2が7mm、第2固着部12A2、12B2の幅b2が1.5mm、第1溝部14A、14Bの幅b3が0.5mm、第2溝部15A,15Bの幅b4が0.13mm、第1溝部14A、14B、及び第2溝部15A,15Bの深さd1が0.3mm、薄肉部17の幅b5が1mm、薄肉部17の厚さd2が0.2mmとなっている。
また、本実施形態のゲージベース10は、厚肉部18A、18B、第1固着部12A1、12B1、第2固着部12A2、12B2、及び薄肉部17の部分を耐食性のフィルムでマスキングして空隙部13の部分を強い腐食性の液でエッチングして作製する。その後、厚肉部18A、18Bを、耐食性のフィルムでマスキングして第1固着部12A1、12B1、第2固着部12A2、12B2、及び薄肉部17の部分を強い腐食性の液でエッチングして作製し、その後、第1溝部14A、14Bと第2溝部15A、15Bを、回転ソーによって浚うことによって作製される。
また、本実施形態では、このゲージベース10は、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304で作成されている。オーステナイト系ステンレス鋼は、Crの不働態化効果とNiによる耐食性に優れており、加工性と溶接性に優れ、低温における靭性が高いという特徴を有している。
尚、このゲージベース10の各部の寸法及び材質については、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100の温度補償と密接な関係があるので、温度補償との関係については、後に温度補償の方法を説明する際に併せて説明する。次に、本実施形態の光ファイバ11について、図3を用いて詳細に説明する。
図3(a)は、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100に使用される光ファイバ11を側方から見た図、図3(b)は、この光ファイバ11のα−α断面図、図3(c)は、この光ファイバ11のβ−β断面図である。図3(a)、図3(b)、図3(c)に示すように、この光ファイバ11は、ファイバ素線11aと、このファイバ素線11aをコーティングする第1被膜樹脂層11bとを備えている。そして、第1被膜樹脂層11bの無い部分には、第1被膜樹脂層11bより、厚みの薄い、強度と防湿性の高い樹脂による第2被膜樹脂層11cが設けられている。
また、この第2被膜樹脂層11cに被膜された部分のファイバ素線11aに、センシング素子としてのFBG111(光ファイバブラック回折格子)が形成されている。このFBG111は、ファイバ素線11aのコア部11dを、光ファイバ11の長手方向に周期的に屈折率を変化させて回折格子状に形成した光ディバイスであり、ある特定の波長の光信号のみを反射する特性を有している。そして、光ファイバ11を伝播していく光信号は、ファイバ素線11aの中でも屈折率の高いコア部分11dに集中するので、光ファイバ11を伝播していく光信号は、大部分が伝播損失の少ないFBG111に到達し、一部の光信号は、FBG111を透過し、一部の光信号はFBG111で反射することになる。従って、このような光ファイバ11は、高精度な検出能力を有するセンシング素子として使用することが可能となる。
また、第2被膜樹脂層11cは、第1被膜樹脂層11bより強度と剛性が高くなっているため、第2被膜樹脂層11cは、第1被膜樹脂層11bよりひずみが伝達する際の剪断変形が低くおさえられる。これにより、この第2被膜樹脂層11cに覆われたFBG111は、ひずみを高精度に検出することが可能となっている。
尚、本実施形態の光ファイバ11では、外径が250μm、ファイバ素線11aの径は125μm、コア部分11dの径は5〜10μmであり、FBG111の回折格子の間隔は各約0.5μmで、FBG111の全長は4mmである。また、第1被膜樹脂層11bはUV樹脂、第2被膜樹脂層11cはポリイミド樹脂、ファイバ素線11aは石英ガラスであり、コア部分11dには、紫外線感光性を有するゲルマニウムが添加されている。そして、このゲルマニウムの特性を利用して、コア部分11dに紫外線を照射することによりFBG111は形成されている。
上述した、ゲージベース10と光ファイバ11とで構成される本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100では、FBG111が、空隙部13の上方に配設される態様となっている。そして、空隙部13の周囲の薄肉部17にはくびれ部20が形成されており、このゲージベース10は、このくびれ部20の付近から撓んでいくようになっている。つまり、FBG111は、ゲージベース10の最も撓み易い部分に配設されることになる。従って、この光ファイバ式ひずみゲージ100は、測定対象物のひずみ等をFBG111に高精度に伝達することが可能となり、FBG111によって測定対象物のひずみを高精度に検出することが可能となっている。
この光ファイバ式ひずみゲージ100は、測定対象物のひずみが、検出部として設けたFBG111に伝達されるとひずみを検出する態様となっているため、この光ファイバ式ひずみゲージ100でひずみの検出を行う場合、まず、測定対象物(図示せず)に光ファイバ式ひずみゲージ100を固定する必要がある。そして、この光ファイバ式ひずみゲージ100は、測定対象物に固定される場合、第1固着部12A1、12B1、及び第2固着部12A2、12B2の内部と測定対象物とを溶接するようになっている。
このように、第1固着部12A1、12B1、及び第2固着部12A2、12B2が溶接されるので、光ファイバ式ひずみゲージ100は、測定対象物と一緒に伸縮することになり、固定された位置からずれたりすることがない。そのため、測定対象物のひずみは、ゲージベース10が測定対象物と一緒に伸縮して空隙部13の間隔Gが増減することにより、FBG111へと伝達されることになる。
また、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100では、ゲージベース10を測定対象物に固定する場合、第1固着部12A1、12B1、第2固着部12A2、12B2の内部にスポット溶接機の丸棒状の電極を挿入し、この電極で加圧して通電し、接触点を加熱溶接することによって測定対象物に固定する態様となっている。そのため、厚肉部18A、18Bより薄肉状に形成されている第1固着部12A1、12B1、第2固着部12A2、12B2と、厚肉部18A、18Bとの間には段差が生じる。そして、スポット溶接機の電極を、この段差に沿わせて動かすだけで、光ファイバ式ひずみゲージ100は、測定対象物に固定することが可能となるので、光ファイバ式ひずみゲージ100の取り付け作業の容易化を図ることが可能となる。
そして、上述した光ファイバ式ひずみゲージ100でひずみを検出する場合、固定された光ファイバ式ひずみゲージ100の光ファイバ11の一端に光サーキュレイタ(図示せず)を介して光源装置(図示せず)を接続し、さらに光サーキュレイタにスペクトラムアナライザ(図示せず)を接続する。そして、光源装置から発せられた光が、FBG111へと送られ、FBG111で反射し、この反射光の波長をスペクトラムアナライザによって測定することにより、光ファイバ式ひずみゲージ100はひずみを検出する。
つまり、FBG111にひずみが伝達されると、FBG111における回折格子の周期が変化することから、反射光の波長にシフトを生じる。そのため、FBG111にひずみが伝達されている状態の反射光の波長と、FBG111にひずみが伝達されていない状態の反射光の波長との波長が変化することになる。そして、この波長変化をスペクトラムアナライザで測定することによって、この光ファイバ式ひずみゲージ100では、ひずみを検出することが可能となっている。
次に、この光ファイバ式ひずみゲージ100における温度変化の影響を除外する方法(温度補償)について説明する。まず、光ファイバ式ひずみゲージ100の温度補償について説明するための前提条件となる、FBG111におけるひずみの測定原理と温度影響について説明する。
FBG111におけるひずみの測定原理は、FBG111の反射する光信号の波長を求める次の数1から求めることができる。
ここで、数1の各変数は、λ
B:ブラッグ波長、n
eff:光ファイバの実効屈折率、Λ:回折格子の間隔、である。
FBG111にひずみが負荷された場合、回折格子の間隔が変化するためブラッグ波長も変化し、さらに、実効屈折率もひずみに依存する。従って、ブラッグ波長のシフト量は、数1から以下のように導かれる。
次にこの数2を数1で割り、数3のように値を整理する。
ここで、数3の各値を数4と置き換えることにより、数5を導く。
ここで、数5の各変数は、Δλ
B:ファイバの軸方向負荷ひずみによるブラッグ波長の波長シフト量、P
ρ:光弾性係数(ひずみによる屈折率変化の寄与を表す係数)、ε
Z:ファイバの軸方向の負荷ひずみ、である。そして、この数5から、光ファイバのひずみ感度は、数6のように求められる。
本実施形態の光ファイバ11は、ブラッグ波長が1550nmであるので、数6の各変数に値を代入すると、ひずみ感度は、約1.2pm/μεとなる。
FBG111における温度影響は、FBG111の反射する光信号の波長を求める先の数1から求めることができる。FBG111に温度変化を与えた場合、実効屈折率が変化するためブラッグ波長も変化する。また、光ファイバのガラスも熱膨張するため、これに伴って回折格子の間隔が変化する。従って、ブラッグ波長のシフト量は、数1から以下のように導かれる。
ここで、数7の各値を数8と置き換えることにより、数9を導く。
ここで、数9の各変数は、Δλ
B:温度変化によるブラッグ波長シフト量、ζ:屈折率温度係数、α:光ファイバの線膨張係数である。そして、この数9から、光ファイバの温度感度は、数10のように求められる。
本実施形態の光ファイバ11は、ブラッグ波長が1550nmであるとき、実験値として数10の温度感度は、約9.5pm/℃が得られる。このように、FBGではひずみ測定を行う際には、温度影響を無視することができないので、温度影響を補正する温度補償を行う必要がある。次に、温度補償の基本構造について、図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態の温度補償の基本構造となる、基本型ゲージベース1を説明するための図である。この基本型ゲージベース1は、光ファイバ式ひずみゲージ100のベースゲージ10に第2固着部12A2、12B2と、薄肉部17とが形成されていないものであり、固着部2、空隙部3、第1溝部4、第2溝部5、厚肉部8を備えており、固着部2によって図示しない起歪体に固着されている。また、第1溝部4、第2溝部5に、FBGが形成された光ファイバを挿入して固定することによって、ひずみの検出を行なうことが可能となっている。そして、この基本型ゲージベース1では、FBGの温度補償を行う場合には、ΔλB/ΔT=9.5pm/℃だけの温度影響を受けるためこれを補償する必要がある。
そこで、基本型ゲージベース1で採用されている方法として、材料の線膨張係数を利用して温度1℃の上昇に伴い−9.5pmだけ波長が変化するひずみをFBGに与えることによって温度補償を行う方法がある。−9.5pm/℃はひずみに換算すると−7.92με/℃となる。つまり、1℃の温度上昇に伴い、7.92μεの圧縮ひずみをFBGに与える構造部を設ければ、温度補償が可能となる。この基本型ゲージベース1では、ΔTの温度変化に対して空隙部3の間隔Gの変化量を求める数11により、具体的な寸法の値を求めることができる。
FBGが厚肉部8に予め張力を与えた状態で固定されている場合、温度補償に必要なひずみ(ε)は、数12から求められる。ここで、Lgは、基本構造におけるゲージ長(熱膨張及びひずみ伝達の基準寸法)である。
ここで、基本型ゲージベース1では、空隙部3の間隔G=6mm、起歪体(本実施形態では、析出硬化系ステンレス鋼であるSUS630を使用)の線膨張係数α
e=10.7×10
−6、基本型ゲージベース1(材質:SUS304)の線膨張係数α
b=16.4×10
−6、FBG111の線膨張係数α
FBG=0.55×10
−6、温度補償を行うために必要なひずみε=7.92μmとなり、この値と数12から、ゲージ長Lgは、25mmと算出される。
尚、数12にて求められる値は、測定対象物のひずみが接合部(図示せず)上の基本型ゲージベース1に100%伝達し、基本型ゲージベース1のひずみは光ファイバに100%伝達するものとして算出された値である。従って、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100にこの方法を採用する場合、実際の設計にあたっては、数11によって算出された値を元に、各部材間での伝達効率を実測またはFEM(有限要素法)等で求め、それらのひずみ伝達効率を考え合わせることにより最適形状を求めれば良い。
本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100では、第1固着部12A1、12B1、第2固着部12A2、12B2の寸法や、ゲージベース10の材料特性に基づき有限要素法によって算出した結果、第1固着部12A1、12B1の中心線間の距離(固着間距離)Lが28mmとなった。これは、第1固着部12A1、12B1の他に、第2固着部12A2、12B2を設けているためであり、そのため、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100の固着間距離Lは、基本構造におけるゲージ長Lgより長くなる。
具体的には、ゲージ長Lgは、第2固着部12A2、12B2の空隙部13よりの端部と、第1固着部12A1、12B1の中心線との略中間付近を結んだ部分となる。従って、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100では、ゲージベース10の大きさが、基本型ゲージベース1に比べてやや大きくなるものの、上述した式を元に構成された構造を有しているので、温度変化による影響を減少させることが可能となっている。
つまり、温度の上昇により光ファイバ11に熱が加えられると、光ファイバ11が熱膨張し、FBG111における回折格子の周期が長くなり、さらに、FBG111の屈折率が変化することによって、反射光の波長にシフトを生じる。しかしながら、厚肉部18A、18Bもそれに伴って伸長し、その分だけ空隙部13の間隔Gが減少する。
これにより、光ファイバ11に温度変化による熱膨張と屈折率の変化が生じ、これに伴って反射光の波長にシフトが生じたとしても、空隙部13の間隔Gが熱膨張によって縮み、光ファイバ11を物理的に圧縮する。従って、光ファイバ11では、反射光の波長にシフトが生じた分が厚肉部18A、18Bの伸長によって相殺される。従って、光ファイバ式ひずみゲージ100は、温度影響が少ない光ファイバ式ひずみゲージ100を実現できる。
なお、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100では、本実施形態の固着部12A、12BがT字形状となっているが、本発明の実施の形態としては、T字ではなく、固着部12A、12BをL字形状としても良い。その場合、固着間距離Lが変化するので、次に、固着部12A、12Bの形状と固着間距離Lの変化について図5を用いて説明する。
図5は、固着部の形状と固着間距離L、及び基本構造におけるゲージ長Lgとの関係について説明するための図であり、図5(a)は、基本型ゲージベース1を示す図であり、図5(b)は、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100のゲージベース10を示す図であり、図5(c)は、本発明における第2の実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ1000のゲージベース1010を示す図であり、図5(d)は、本発明における第3の実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ2000のゲージベース2010を示す図である。
図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)に示すように、光ファイバ式ひずみゲージ100、1000、2000では、第2固着部12A2、12B2、1012A2、1012B2、2012A2、2012B2を設けているため、それぞれの固着間距離L、L1000、L2000が、基本型ゲージベース1のゲージ長Lgに比べて長くなる。
また、固着間距離L、L1000、L2000は、固着部12A、12B、1012A、1012B、2012A、2012Bの形状に応じて変化する。例えば、光ファイバ式ひずみゲージ100のように固着部12A、12BをT字形状とした場合、固着間距離Lは、基本型ゲージベース1のゲージ長Lgに比べて僅かに長くなるのに対し、固着部1012A、1012BをL字形状にした第2の実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ1000の固着間距離L1000は、光ファイバ式ひずみゲージ100の固着間距離Lに比べてさらに長くなる。
また、固着部2012A、2012BをL字形状にし、L字の底辺部分を第1溝部2014A、2014B付近に形成した第3の実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ2000では、ひずみ伝達の起点となる位置が、L字の下棒を形成する第2固着部2012A2、2012B2の先端部分になるため、ゲージ長Lgが、第2固着部2012A2、2012B2の先端部分の間隔となってしまう。そのため、第3の実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ2000では、固着間距離L2000が、他の実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100、1000の固着間距離L、L1000に比べて長くなる。
従って、本発明の実施の形態としては、第2固着部12A2、12B2がゲージベース10の側部に設けられており、固着部12A、12Bの形状がT字形状となっている光ファイバ式ひずみゲージ100が、ゲージベース10のサイズの面では最も好適な形態であると言える。次に、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100の固着強度について図6、図7を用いて説明する。
図6は、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100と比較例としての従来の光ファイバ式ひずみゲージ200の固着強度の差を説明するための図であり、図7は、光ファイバ式ひずみゲージ100と従来の光ファイバ式ひずみゲージ200における面外変形の差について説明するための図である。
ここで、図6(a)は、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200の固着部212A近傍の斜視図であり、図6(b)は、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200の固着部212A近傍の平面図である。また、図6(c)は、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100の固着部12A近傍の斜視図であり、図6(d)は、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100の第1固着部12A1、第2固着部12A2近傍の平面図である。そして、図7(a)は、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200に力Fが加えられた場合の面外変形を示す図であり、図7(b)は、光ファイバ式ひずみゲージ100に力Fが加えられた場合の面外変形を示す図である。
図6(a)、図6(b)に示すように、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200では、ゲージベース210は、ゲージベース210の幅方向に延びる固着部212Aと測定対象物(図示せず)とを溶接することによって固定する。そのため、ゲージベース210の固着部212A付近の幅方向における厚肉の部分は、薄肉状になっている固着部212Aと光ファイバ11を挿入する第1溝部214Aとが設けられていない部分だけになる。
これにより、図6(a)、図7(a)に示されているように、ゲージベース210を面外に変形させる力Fがゲージベース210に作用した際に、このゲージベース210では、固着部212A付近の厚肉の部分が僅かしか設けられていないので面外剛性が低くなってしまい、面外変形し易くなってしまう。従って、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200では、測定対象物の曲げ変形等に基づくひずみを測定した際に、ゲージベース210が面外に塑性変形してしまい、測定対象物に曲げ力等の負荷が除去された後も、変形したまま元に戻らなくなる虞がある。そして、ゲージベース210が元に戻らない場合には、この光ファイバ式ひずみゲージ200は、測定対象物に発生しているひずみを忠実に測定することができなくなる。
これに対し、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100では、図6(c)、図6(d)に示すように、ゲージベース10は、ゲージベース10の幅方向に延びる第1固着部12A1、及びゲージベース10の長手方向に延びる第2固着部12A2と測定対象物(図示せず)とを溶接することによって固定する。そのため、ゲージベース10の第1固着部12A1付近の幅方向における厚肉の部分が、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200と同じく、薄肉状になっている第1固着部12A1と光ファイバ11を挿入する第1溝部14Aとが設けられていない部分だけになる。
しかしながら、光ファイバ式ひずみゲージ100は、さらに、第2固着部12A2によってゲージベース10の長手方向にも溶接によって固定されている。そのため、第2固着部12A2によって、ゲージベース10には、長手方向の固着力が働くことになり、溶接の止端部も厚肉となる。そのため、図6(c)、図7(b)に示されているように、ゲージベース10を面外に変形させる力Fがゲージベース10に作用した際に、このゲージベース10では、第2固着部12A2によって剛性が高くなっているため、面外変形し難くなる。従って、光ファイバ式ひずみゲージ100では、測定対象物の曲げ変形等に基づくひずみを測定した際に、ゲージベース10が面外変形して、元に戻らなくなるといった現象を防止することが可能となり、検出精度を向上させることが可能となる。
また、図7に、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200では、固着部212A、212Bから変形が起き始めるが、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100では、第2固着部12A2、12B2の空隙部13側溶接部止部付近から変形が起き始まる事になる。そのため、従来の光ファイバ式ひずみゲージ200では、厚肉の部分が少ない部分で変形が起き始めるのに対し、光ファイバ式ひずみゲージ100では、より厚肉な部分が多い所で変形が開始されるので、ゲージベース10の変形量を少なくすることが可能となる。
上述した各作用により、光ファイバ式ひずみゲージ100では、面外変形に対する剛性が高くなっているため、溶接部に発生する塑性変形や非線形な接触に伴うヒステリシス、NL(非直線性)、繰り返し性等のセンサ特性を向上させることが可能となる。
次に、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100の使用例について図8、図9を用いて説明する。
図8は、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100を利用した変位計300を示す図である。ここで、図8(a)は、変位計300を上方からみた断面図、図8(b)は、その変位計300を側方からみた断面図、図8(c)は、光ファイバ式ひずみゲージ100が取り付けられている部分を拡大した図である。
図8(a)、図8(b)、図8(c)に示すように、変位計300は、本体301、起歪部302、カバー303、シャフト304、載荷シャフト305、球面座306、ガイドパイプ307、エンドブッシュ308、初期値調整ナット309、引っ張りばね310、取付ボルト311、コネクタ312、光ケーブル313、等を備えている。
本体301には、空間部301aが設けられており、この空間部301a内に起歪部302が配設されている。この起歪部302は、コの字型の部材であり、一端は、取付ボルト311によって本体301に固定されており、もう一端は、載荷シャフト305と球面座306とが接続されている。また、起歪部302の中間部には、楕円形の空隙が設けられており、この空隙が設けられた部分に本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100は取り付けられる。
また、載荷シャフト305には、引っ張りばね310が接続されており、この引っ張りばね310のもう一方の端部には本体部301から外に飛び出しているシャフト304に接続されている。また、シャフト304は、本体301に取り付けられたガイドパイプ307によって保護されており、ガイドパイプ307の先端部には、シャフト304が貫通するようにエンドブッシュ308が設けられている。さらに、エンドブッシュ308の近傍には、初期値調整用ナット309が設けられており、この初期値調整用ナット309によってシャフト304の先端部の位置を調整することが可能となっている。
また、本体301のガイドパイプ307が取り付けられている部分の反対側には、コネクタ312が2つ取り付けられており、コネクタ312にはそれぞれ光ファイバ11を保護する光ケーブル313が接続されている。そして、この光ケーブル313から空間部301a内へと光ファイバ11は挿入され、光ファイバ式ひずみゲージ100に固定される。そして、本体301にカバー303が取り付けられて、空間部301a内は封止されることになる。
このような変位計300は、シャフト304に測定対象物を接続し、測定対象物の変位を引っ張りばね310、及び載荷シャフト305を介して起歪部302に伝達して起歪部302を曲げ変形させ、この曲げにより発生したひずみを光ファイバ式ひずみゲージ100に伝達することによってひずみを検出している。尚、起歪部302は、楕円形の空隙部が設けられており、この部分が最も剛性が低くなっていることからこの空隙部に最もひずみが発生することになる。その為、この空隙部に取り付けられている光ファイバ式ひずみゲージ100は、この起歪部302のひずみを高精度に検出することが可能となる。次に、変位計300に光ファイバ式ひずみゲージ100を取り付ける工程について、図9を用いて説明する。
図9は、変位計300の起歪部302に光ファイバ式ひずみゲージ100を取り付ける際の工程を説明するための図である。ここで、図9(a)は、起歪部302を上方からみた図であり、図9(b)は、起歪部302を側方からみた図である。
図9(a)、図9(b)に示すように、起歪部302に光ファイバ式ひずみゲージ100を取り付ける場合、起歪部302を取付用治具400に取り付けて作業を行う。この取付用治具400は、起歪部押さえ401と、プーリー保持具402と、ファイバ押さえ403と、プーリー404とを備えている。
まず、起歪部302の空隙部の設けられた部分に、光ファイバ式ひずみゲージ100のゲージベース10を、第1固着部12A1、12B1、及び第2固着部12A2、12B2を溶接することによって固定する。それから、起歪部302を起歪部押さえ401に固定用ボルト405を使用して固定する。
次に、ファイバ押さえ403に光ファイバ11を固定し、この光ファイバ11を第1溝部14A、14B、第2溝部15A、15Bに挿入し、その光ファイバ11をさらにプーリー404まで延長する。そして、プーリー404から光ファイバ11を垂れ下げ、その垂れ下げた光ファイバ11に錘406を取り付ける。これにより、光ファイバ11には張力が与えられることになり、この予め張力が与えられた状態で光ファイバ11を、ゲージベース10の第1溝部14A、14B、第2溝部15A、15Bに接着剤を流入させることによって固定する。以上の工程により、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100は、起歪部302に取り付けられ、図8に示すように、この起歪部302は本体301に取り付けられる。
尚、接着剤の硬化を速める為に、本実施形態では、ヒーター固定台407に取り付けられた棒状ヒーター408を、取付用治具400の起歪部302の下方部に装着することが可能となっている。本実施形態では、FBG111の全長が4mmに対して、空隙部13の間隔Gが6mmとなっているため、FBG111を空隙部13の上方に配設するのが比較的容易になっており、組み立て時の作業性を向上させることが可能となっている。次に、この変位計300の性能試験を行った結果について、図10〜14を用いて説明する。
図10は、変位計300の負荷特性を示す図、図11は、変位計300の非直線性を示す図、図12は、変位計300のヒステリシスを示す図、図13は、恒温槽(チャンバ)に変位計300を入れ、槽内の温度を変化させた際の変位計300における測定値の変動の変化量を示す図、図14は、変位計300の安定性を示す図である。
この性能試験では、変位計300について3種類の試験を行った。第1の試験は、変位計300に10点ステップで3回繰り返して変位を加え、計測を行うものであり、その結果を図10、図11、及び図12に示す。第2の試験は、変位計300に一定の変位を加えた状態で、変位計300を恒温槽(チャンバ)内部に入れ、槽内の温度を変化させた際の変位計300における測定値の変動を調べるもので、その結果を図13に示す。第3の試験は、変位計300に一定の変位を加えた状態での安定性を調べるもので、その結果を図14に示す。
第1の試験は、変位計300に0mm〜40mmまでの変位を与え、4mm毎に検出された値を記録し、これを3回繰り返すものである。第1の試験において、本実施形態の変位計300の負荷特性は、図10に示すようにほぼ直線状を示した。尚、図10中の直線は、全てのデータの近似値を元に引かれた直線であり、この直線の式は、y=0.0661x+1545となる。そして、この負荷特性の直線を基準として、図11、図12の試験結果はグラフ化されている。図11、図12に示されているように、変位計300の検出値は、負荷特性の直線と比較して、非直線性の値の変動は、0%ROから−1%ROの範囲内に収められた。またヒステリシスにおいても、値の変動は0%ROから−1%ROの範囲内に収められた。従って、この変位計300では、使用されている光ファイバ式ひずみゲージ100に繰り返し荷重が加えられたとしても、検出精度を維持することが可能となり、繰り返し検出を行ったとしても高精度な検出を行うことが可能であることが判る。
第2の試験は、変位計300を恒温槽(チャンバ)に入れ、20mmの変位を与えた状態で、3時間毎に27時間、恒温槽(チャンバ)内の温度を20℃ずつ、−20℃から60℃までの範囲で変化させ、その間の変位計における検出値の変化を記録したものである。第2の試験において、27時間の間に80℃温度を変化させてみたが、変位計の検出する値の変動は、0%ROから1%ROの範囲に収められた。これにより、この変位計300では、使用する光ファイバ式ひずみゲージ100が温度補償されており、−20℃から60℃の温度範囲において、温度補償が可能であることが判る。
第3の試験では、変位計に一定の変位を与えた状態を960時間継続され、その間の変位計における検出値の変化を記録したものである。第3の試験において、検出値の変動は、960時間経過した場合でも、初期に0.5%ROの変動が発生したのみでその後はほぼ一定であった。これにより、光ファイバ式ひずみゲージ100が、長時間負荷が与えられたとしても安定した計測が可能であることが判る。
以上に述べたように、本実施形態の光ファイバ式ひずみゲージ100は、第1固着部12A1、12B1、第2固着部12A2、12B2により、ゲージベース10を幅方向と長手方向の2方向に固定することが可能となる。そのため、この光ファイバ式ひずみゲージ100では、ゲージベース10を測定対象物に強固に固定して、面外変形することを防止することが可能となり、曲げ力等によって発生する測定対象物のひずみを高精度に検出することができる。そして、FBG111を用いた光ファイバ式ひずみゲージ100でありながら、温度補償用のFBG111を設けることなく、1つのFBG111で温度補償をしたひずみ計測が可能であり、長時間繰り返しひずみ計測を行ったとしても、高精度にひずみを計測することが可能となる。
尚、本発明の実施形態は、以上に述べたものに限定されるものではなく、ひずみを測定する使用環境や、ゲージベース10、光ファイバ11の材質等に応じて、溝部14、固着部12A、12B、くびれ部20等を形成する位置を変更しても良い。例えば、FBG111の温度補償を行う事が可能な態様であれば、溝部14、固着部12A、12B、くびれ部20は、それぞれの基準線から線対称となっていなくても良いし、ゲージベース10の寸法L、G等も本実施形態の数値でなくても良い。
また、本実施形態では、固着部12A、12Bは、第1固着部12A1、12B1と第2固着部12A2、12B2とでT字型となるように形成されていたが、本発明の固着部はこの形状に限定されるものではなく、例えば、第2固着部が第1固着部の端部から空隙部側にのみ延びるように形成されたL字型であっても良く、光ファイバ式ひずみゲージ100と同様の作用・効果を奏することが可能となる。
また、ゲージベース10の材質は、本実施形態では、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304を使用していたが、本発明のゲージベースの材質はこれに限定されるものではなく、FBGの温度補償が可能な線膨張係数を有する素材であればよい。
また、ゲージベース10と測定対象物とを固定するための溶着には種々の形態を採用することができ、本実施形態のスポット溶接の他、レーザー溶接、更に、ガス圧接のような圧接のみならず、種々の融接技術等で両者を固定することが可能である。