本発明は、エレクトロウェッティング現象を利用した光学装置、及び、係る光学装置を組み込んだ照明装置に関する。
近年、エレクトロウェッティング現象(電気毛管現象)を利用した光学装置の開発が進められている。エレクトロウェッティング現象は、導電性を有する液体と電極との間に電圧を印加したときに電極表面と液体との固液界面におけるエネルギーが変化し、液体表面の形状が変化する現象を云う。
図21の(A)及び(B)に、エレクトロウェッティング現象を説明するための原理図を示す。図21の(A)に模式的に示すように、例えば、電極101の表面に絶縁膜102が形成されており、この絶縁膜102の上に電解液から成る導電性の液滴103が置かれているとする。絶縁膜102の表面には撥水処理が施されており、図21の(A)に示すように、電圧を印加していない状態では、絶縁膜102の表面と液滴103との間の相互作用エネルギーは低く、接触角θ0は大きい。ここで、接触角θ0は、絶縁膜102の表面と液滴103の正接線との成す角度であり、液滴103の表面張力や絶縁膜102の表面エネルギー等の物性に依存する。
一方、図21の(B)に模式的に示すように、電極101と液滴103との間に電圧を印加すると、液滴側の電解質イオンが絶縁膜102の表面に集中することによって電荷二重層の帯電量変化が生じ、液滴103の表面張力の変化が誘発される。この現象がエレクトロウェッティング現象であり、印加電圧の大きさによって液滴103の接触角θvが変化する。即ち、図21の(B)において、接触角θvは、印加電圧Vの関数として、以下の式(A)の Lippman-Young の式で表される。
cos(θv)=cos(θ0)+(1/2)(ε0・ε)/(γLG・t)×V2 (A)
ここで、
ε0 :真空の誘電率
ε :絶縁膜の比誘電率
γLG:電解液の表面張力
t :絶縁膜の膜厚
である。
以上のように、電極101と液滴103との間に印加する電圧Vの大きさによって、液滴103の表面形状(曲率)が変化する。従って、液滴103をレンズ素子として用いた場合、焦点位置(焦点距離)を電気的に制御できる光学素子を実現することができる。
このような光学素子を用いた光学装置の開発が進められている。例えば、特開2000−356708には、ストロボ装置用のレンズアレイが提案されている。このレンズアレイにあっては、基板表面の撥水膜上にアレイ状に配置された絶縁性液体の液滴と導電性液体を封入することで、可変焦点レンズが構成されている。そして、この構成にあっては、絶縁性液体と導電性液体との間の界面形状で個々のレンズが形成され、エレクトロウェッティング現象を利用して個々のレンズ形状を電気的に制御し、焦点距離を変化させている。また、特開2002−162507には、液体レンズから成る円柱レンズが開示されている。
特開2000−356708
特開2002−162507
しかしながら、上述した従来の円柱レンズにおいては、円柱レンズが隔壁で囲まれているため、隔壁の四隅(コーナー部)近傍に位置する導電性液体及び絶縁性液体の部分によって形成される円柱レンズの部分の収差が大きいといった問題を有する。
従って、本発明の目的は、エレクトロウェッティング現象を利用した液体レンズから構成され、収差を少なくすることが可能であり、高い光学パワーを得ることができる構成、構造を有する光学装置、及び、係る光学装置を組み込んだ照明装置を提供することにある。
上記の目的を達成するための本発明の光学装置は、液体レンズから成る円柱レンズが複数、配列された光学装置であって、
(a)入射光に対して透明な第1支持体、
(b)入射光に対して透明であり、第1支持体に対面した第2支持体、及び、
(c)第1支持体と第2支持体との間に配設された複数の隔壁、
を有するハウジングを備えており、
第1支持体、第2支持体、及び、隔壁によって円柱レンズ室が構成され、
各円柱レンズ室は、液体レンズを構成する第1の液体及び第2の液体の積層構造によって占められており、
各円柱レンズ室の平面形状は、四隅が丸みを帯びた長方形であることを特徴とする。
上記の目的を達成するための本発明の照明装置は、液体レンズから成る円柱レンズが複数、配列された光学装置、及び、発光手段を具備した照明装置であって、
光学装置は、
(a)発光手段からの入射光に対して透明な第1支持体、
(b)発光手段からの入射光に対して透明であり、第1支持体に対面した第2支持体、及び、
(c)第1支持体と第2支持体との間に配設された複数の隔壁、
を有するハウジングを備えており、
第1支持体、第2支持体、及び、隔壁によって円柱レンズ室が構成され、
各円柱レンズ室は、液体レンズを構成する第1の液体及び第2の液体の積層構造によって占められており、
各円柱レンズ室の平面形状は、四隅が丸みを帯びた長方形であることを特徴とする。
本発明の光学装置、あるいは、本発明の照明装置における光学装置(以下、これらを総称して、単に、本発明の光学装置等と呼ぶ)にあっては、第1の液体と第2の液体との界面は、隔壁の側面上に位置する構成とすることが好ましい。
上記の好ましい構成を含む本発明の光学装置等にあっては、絶縁膜を介して絶縁性の第1の液体と接する第1電極、及び、導電性の第2の液体と接する第2電極が、各円柱レンズ室に配設されている形態とすることができる。
そして、このような好ましい形態にあっては、第1電極は隔壁の側面上に配設され、第2電極は第2支持体上に配設されている形態とすることができる。ここで、係る形態を、便宜上、第1の形態に係る光学装置等と呼ぶ。第1の形態に係る光学装置等にあっては、第1電極は隔壁の側面上から第1支持体上に延在している構成とすることができる。あるいは又、このような好ましい形態にあっては、第1電極は隔壁の側面上に配設され、第2電極は第1支持体上に配設されている形態とすることができる。ここで、係る形態を、便宜上、第2の形態に係る光学装置等と呼ぶ。第2の形態に係る光学装置等にあっては、第1電極は隔壁の側面上から第2支持体上に延在している形態とすることができる。
以上に説明した各種の好ましい構成、形態を含む本発明の光学装置等において、絶縁膜の表面には撥水処理が施されていることが好ましい。撥水処理として、例えば、ポリパラキシリレンをCVD法で成膜する方法、フッ素系のポリマーであるPVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の材料をコーティングする方法を挙げることができる。また、高誘電率材料と撥水性材料とを複数組み合わせた積層構造で絶縁膜の表面を被覆してもよい。
本発明の光学装置、あるいは、本発明の照明装置における光学装置(以下、これらを総称して、単に、本発明と呼ぶ)にあっては、第1の液体と第2の液体とは、不溶、不混合であることが望ましい。
そして、本発明において、導電性の第2の液体(以下、導電性液体と呼ぶ場合がある)として、例えば、水、電解液(塩化カリウムや塩化ナトリウム、塩化リチウム、硫酸ナトリウム等の電解質の水溶液)、これらの電解質を溶かし込んだ例えばトリエチレングリコール水溶液、分子量の小さなメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、常温溶融塩(イオン性液体)等の有極性液体、これらの液体の混合物を挙げることができる。尚、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類は、水溶液として導電性を持たせたり、塩を溶かして導電性を持たせて使用すればよい。また、絶縁性の第1の液体(以下、絶縁性液体と呼ぶ場合がある)として、例えば、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、ウンデカン等の炭化水素系の材料、シリコーンオイル、フッ素系の材料等の無極性溶媒を挙げることができる。尚、導電性液体と絶縁性液体とは、互いに異なる屈折率を有すると共に、互いに混和することなく存在できることが要求される。また、導電性液体の密度と絶縁性液体の密度を、出来る限り同じ値とすることが望ましい。導電性液体及び絶縁性液体は、入射光に対して透明な液体であることが望ましいが、場合によっては、着色されていてもよい。
第1支持体及び第2支持体を構成する材料は、入射光に対して透明であることが要求される。また、隔壁を構成する材料は、入射光に対して透明であることが望ましい。ここで、「入射光に対して透明である」とは、入射光の光透過率が80%以上であることを意味する。第1支持体や第2支持体、隔壁を構成する材料として、具体的には、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ガラスを例示することができる。各部材を構成する材料は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
電極は、使用される部位、要求される特性に応じて、ITO系材料、銀添加ITO、IZO系材料、SnO2系材料、In2O3系材料、Sb2O5系材料、ZnO系材料、In2O3−ZnO系材料、Ga添加ZnO、In4Sn3O12、InGaZnO等の導電性金属酸化物や、金属、合金、半導体材料等から構成された透明電極とすることもできるし、不透明な金属や合金から構成された電極とすることもできる。具体的には、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)等の金属;これらの金属元素を含む合金(例えばMoW)あるいは化合物(例えばTiN等の窒化物や、WSi2、MoSi2、TiSi2、TaSi2等のシリサイド);シリコン(Si)等の半導体;ダイヤモンド等の炭素薄膜を例示することができる。これらの電極の形成方法として、例えば、電子ビーム蒸着法や熱フィラメント蒸着法といった蒸着法、スパッタリング法、CVD法やイオンプレーティング法とエッチング法との組合せ;スクリーン印刷法;メッキ法(電気メッキ法や無電解メッキ法);リフトオフ法;レーザアブレーション法;ゾル・ゲル法等を挙げることができる。
絶縁膜は、電気絶縁性の物質であれば特に制限されず、好適には、比誘電率が比較的高い物質が選択される。また、比較的大きな静電容量を得るために絶縁膜の膜厚は薄い方が好ましいが、絶縁強度を確保できる膜厚以上であることが必要である。絶縁膜を構成する材料として、例えば、SiOX系材料やSiN、SiON、酸化フッ化シリコン、ポリイミド樹脂、SOG(スピンオングラス)、低融点ガラス、ガラスペーストといったSiO2系材料、酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化クロム(CrOx)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化スズ(SnO2)、又は、酸化バナジウム(VOx)を挙げることができる。絶縁膜の形成方法として、CVD法、塗布法、スパッタリング法、スクリーン印刷法、メッキ法、電着法、浸漬法等の公知のプロセスを挙げることができる。
本発明の光学装置等において、各円柱レンズ室の平面形状は、四隅が丸みを帯びた長方形であるが、「丸み」の形状として、外側に向かって凸の円弧、楕円の一部、双曲線の一部、放物線の一部を例示することができるし、外側に向かって凸の任意の滑らかな曲線の一部とすることもできる。
ここで、円柱レンズ室の中心を通る第1支持体の法線をZ軸とし、円柱レンズ室の中心を通る円柱レンズ室の軸線をX軸とする。ここで、第1電極及び第2電極に電圧を印加し、円柱レンズが最大の光学パワーを発揮しているとき、XZ平面(あるいは、XZ平面と平行な平面)における円柱レンズの光学パワーは実質的に0であり、YZ平面における円柱レンズの光学パワーは有限の値である。第1電極及び第2電極に電圧を印加し、円柱レンズが最大の光学パワーを発揮しているときの、YZ平面における隔壁の側面上での第1の液体と第2の液体との界面が隔壁の側面と成す角度(接触角)を(180−θ)度とし、隔壁の側面における界面の高さをhとする。尚、円柱レンズが最大の光学パワーを発揮しており、且つ、第1支持体に対面した第2支持体の面(第2支持体の対向面)に向かって凸の状態にある場合には、界面の高さhを、第2支持体に対面した第1支持体の面(第1支持体の対向面)から計った高さとする。一方、円柱レンズが最大の光学パワーを発揮しており、且つ、第1支持体の対向面に向かって凸の状態にある場合には、界面の高さhを、第2支持体の対向面から計った高さとする。更には、円柱レンズ室のXZ平面に沿った長さを2a、YZ平面に沿った長さを2bとする。
ここで、「r」を以下の式(1)にて定義すると、高さh、長さb及びrの関係は、式(2)で表すことができる。
r =b/cos(θ) (1)
r2=b2+h2 (2)
そして、「丸み」の形状を円弧とする場合、円柱レンズ室の四隅において、接触角は0度を保持できればよいので、円柱レンズ室の四隅における「丸み」の円弧の半径r0の最大値は(b2+h2)であり、最小値はbである。従って、r0は、
b≦r0≦(b2+h2)1/2
といった範囲内の値とすればよい。
円柱レンズのYZ平面に沿った長さ2bは、毛管長κ-1以下に設定することが望ましい。ここで、毛管長κ-1とは、界面張力に対して重力の影響を無視できる最大の長さを云い、具体的には、導電性液体と絶縁性液体との間の界面張力をΔγ、導電性液体と絶縁性液体との間の密度差をΔρ、重力加速度をgとしたとき、以下の式(B)で表すことができる。
κ-1={Δγ/(Δρ・g)}1/2 (B)
毛管長κ-1は、界面を構成する2つの媒体の種類によって異なる。2つの媒体が水と空気、水と油の場合のそれぞれの界面張力、密度差、毛管長を以下の表1に示す。
[表1]
界面張力(Δγ) 密度差(Δρ) 毛管長(κ-1)
水と空気 72.88(mN/m) 0.99997(g/cm3) 2.7(mm)
水と油 29.5 (mN/m) 0.0129 (g/cm3) 15.2(mm)
水と空気の場合の毛管長(κ-1)は2.7mmであるのに対して、水と油の場合の毛管長(κ-1)は15.2mmである。従って、導電性液体と絶縁性液体との間の密度差(Δρ)を0.0129まで小さくすることで、長さ2bを最大15.2mmとすることが可能である。
本発明の照明装置における発光手段として、キセノン管、蛍光灯、ランプや、発光ダイオード、半導体レーザ等の半導体発光素子を例示することができる。また、本発明の照明装置の具体的な応用例として、ストロボ装置、例えば、液晶表示装置に用いられるバックライトユニットを例示することができる。
本発明にあっては、液体レンズから成る円柱レンズが複数、配列された光学装置であるが故に、容易にレンズの占有面積を増やすことができるし、大きな光学パワーを得ることができる。また、各円柱レンズ室の平面形状は、四隅が丸みを帯びた長方形であるが故に、円柱レンズの四隅における収差を少なくすることが可能となる。更には、複数の円柱レンズをアレイ状に並べることで、薄型の光学装置を実現することができる。しかも、本発明にあっては、エレクトロウェッティング現象を利用して光の配光状態を変化させることができるので、モータ等の駆動部が不要であり、光学装置の部品点数の削減、小型化、薄型化、低コストを実現することができるし、機械的な力の加わる部品がないため、長寿命、高信頼性、音が全く発生しないといった利点を有するし、電圧制御であり、電流は殆ど流れないため、低消費電力を実現できる。
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
実施例1は、本発明の光学装置に関し、より具体的には、第1の形態に係る光学装置に関する。実施例1の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図1の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図1の(B)に示す。また、円柱レンズ室の配列状態を模式的に図2に示す。尚、図面においては、図面の簡素化のために3つの円柱レンズを図示したが、円柱レンズの数はこれに限定するものではない。
実施例1の光学装置は、液体レンズから成る円柱レンズ20が複数、配列された光学装置であって、
(a)(発光手段からの)入射光に対して透明な第1支持体11、
(b)(発光手段からの)入射光に対して透明であり、第1支持体11に対面した第2支持体12、及び、
(c)第1支持体11と第2支持体12との間に配設された複数の隔壁13、
を有するハウジング10を備えている。
そして、第1支持体11、第2支持体12、及び、隔壁13によって円柱レンズ室10Aが構成され、各円柱レンズ室10Aは、液体レンズを構成する第1の液体31及び第2の液体32の積層構造によって占められており、各円柱レンズ室10Aの平面形状は、四隅(コーナー部)が丸みを帯びた長方形である。ここで、円柱レンズ20は、シリンドリカルレンズ、シリンダーレンズとも呼ばれ、1つの面が円柱の円周面(円柱側面)の一部の形状を有するレンズである。
以上に説明した光学装置の構成は、後述する実施例2〜実施例8においても、同様である。
そして、実施例1の光学装置にあっては、絶縁膜42を介して絶縁性の第1の液体31と接する第1電極41、及び、導電性の第2の液体32と接する第2電極44が、各円柱レンズ室10Aに配設されている。第1の液体31と第2の液体32とは、不溶、不混合であり、界面において分離されており、この界面がレンズ面を構成する。第1の液体31と第2の液体32との界面は、隔壁13の側面上に位置する。以上の構成は、後述する実施例2〜実施例8においても同様である。
更には、実施例1の光学装置にあっては、第1電極41は隔壁13の側面上に配設され、第2電極44は第2支持体12上に配設されている。尚、第1電極41は隔壁13の側面上から第1支持体11の対向面上に延在している。以上の構成は、後述する実施例2〜実施例4においても同様である。そして、絶縁膜42の表面には撥水処理が施されている。具体的には、絶縁膜42の表面には撥水処理層43が形成されている。このような構成は、後述する実施例2〜実施例8においても同様である。尚、絶縁膜42の全ての領域の上に撥水処理層が形成されていてもよい。後述する実施例2〜実施例8においても同様である。
実施例1の光学装置にあっては、具体的には、第1支持体11、第2支持体12及び隔壁13は、ガラス、あるいは、アクリル系樹脂等の樹脂から作製されている。また、第1の液体31はシリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社(旧GE東芝シリコーン株式会社)製TSF437)から成り、密度は1.02グラム/cm3であり、屈折率は1.49である。一方、第2の液体32は塩化リチウム水溶液から成り、密度は1.06グラム/cm3であり、屈折率は1.34である。撥水処理層43はポリパラキシリレンやフッ素系のポリマーから成り、絶縁膜42はポリパラキシレンや酸化タンタル、酸化チタン等の金属酸化物から成る。また、第1電極41及び第2電極44は、ITOから成る透明電極から構成されている。尚、電極に透明性を要求されない場合、電極は、金、アルミニウム、銅、銀等の金属電極から構成することができる。ハウジング10の平面形状は正方形である。以上に説明した事項は、後述する実施例2〜実施例8においても、特に断りの無い限り、同様とすることができる。
実施例1にあっては、円柱レンズ20のXZ平面に沿った長さ2a及びYZ平面に沿った長さ2bを
2a=4mm
2b=1mm
とした。また、円柱レンズ20の個数を
6×6=36個
とした。ここで、「丸み」の形状は円弧であり、「丸み」の円弧の半径r0は、r0=bを満足している。
図20の(A)及び(B)に示すように、円柱レンズ室10Aの中心を通る第1支持体の法線をZ軸とし、円柱レンズ室10Aの中心を通る円柱レンズ室の軸線をX軸とする。第1電極41及び第2電極44に電圧を印加し、円柱レンズ20が最大の光学パワーを発揮しているとき、XZ平面(あるいは、XZ平面と平行な平面)における円柱レンズ20の光学パワーは実質的に0であり、YZ平面における円柱レンズ20の光学パワーは有限の値である。即ち、図20の(A)に示すように、第1電極41及び第2電極44に電圧を印加し、円柱レンズ20が最大の光学パワーを発揮しているときの、YZ平面における隔壁の側面上での第1の液体と第2の液体との界面が隔壁の側面と成す角度(接触角)を(180−θ)度とし、隔壁13の側面における界面の高さをhとする。ここで、「r」は式(1)にて定義したとおりであり、高さh、長さb及びrの関係は、式(2)で表すことができる。
X軸に沿って中心点が原点から(a−b)まで移動したときの、中心点から距離rに位置する点「A」の軌跡を、図20の(B)に一点鎖線で示す。また、X軸に沿って中心点が原点から(a−b)まで移動したときの、中心点から距離bに位置する点の軌跡を、図20の(B)に実線で示すが、この軌跡は、隔壁13の側面と一致している。場合によっては、
b≦r0≦(b2+h2)1/2
を満足するようなr0の値を設定してもよい。図20の(B)には、「丸み」の部分における係るr0をr’0の軌跡として点線で示すが、円柱レンズ20のYZ平面に沿った長さは2b’であり、b’<r’0である。
第1電極41及び第2電極44は、図示しない接続部を介して、外部の制御回路に接続され、所望の電圧が印加される構成、構造となっている。そして、第1電極41と第2電極44との間に電圧を印加すると、第1の液体31と第2の液体32との界面によって構成されたレンズ面が、図1の(A)及び(B)に示した下に凸の状態から、上に凸の状態に向かって変化する。レンズ面の変化状態は電極に印加する電圧によって変化する(式(1)参照)。こうして、実施例1の光学装置にあっては、円柱レンズ20における光学パワーが、独立して可変であり、円柱レンズ20の焦点距離を可変とすることができる。実施例2〜実施例4においても同様である。
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図3の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図3の(B)に示す。
実施例1の光学装置にあっては、円柱レンズ室10Aと円柱レンズ室10Aとを区画する隔壁13は、第1支持体11から第2支持体12まで延びている。
一方、実施例2の光学装置にあっては、円柱レンズ室10Aと円柱レンズ室10Aとを区画する隔壁13は、第2支持体12から第1支持体11に向かって延びているが、隔壁13の頂面と第1支持体11との間には隙間が存在する。この点を除き、実施例2の光学装置の構成、構造は、実施例1の光学装置の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
実施例3も、実施例1の変形である。実施例3の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図4の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図4の(B)に示す。
実施例3の光学装置にあっては、円柱レンズ室10Aと円柱レンズ室10Aとを区画する隔壁13は第1支持体11から第2支持体12に向かって延びており、隔壁13の頂面と第2支持体12との間には隙間が存在する。この点を除き、実施例3の光学装置の構成、構造は、実施例1の光学装置の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
実施例4も、実施例1の変形である。実施例4の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図5の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図5の(B)に示す。
実施例4の光学装置にあっては、円柱レンズ室10Aと円柱レンズ室10Aとを区画する隔壁13の底面と第1支持体11との間には隙間が存在し、隔壁13の頂面と第2支持体12との間には隙間が存在する。この点を除き、実施例4の光学装置の構成、構造は、実施例1の光学装置の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
実施例5も、実施例1の変形であるが、第2の形態に係る光学装置に関する。実施例5の光学装置が実施例1の光学装置と相違する点は、第1の液体31と第2の液体32の配置、並びに、第1電極41及び第2電極44の配置が、天地を逆にした点にある。実施例5の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図6の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図6の(B)に示す。第1電極41は、隔壁13の側面上から第2支持体12上に延在して配設されており、第2電極44は第1支持体11上に配設されている。尚、図6の(A)及び(B)に示した例では、第2電極44は、隔壁13の一部の側面まで延びているが、第2電極44を、第1支持体11の対向面にのみ設けてもよい。以上の点を除き、実施例5の光学装置の構成、構造は、実施例1の光学装置の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
実施例5にあっても、第1電極41及び第2電極44は、図示しない接続部を介して、外部の制御回路に接続され、所望の電圧が印加される構成、構造となっている。そして、第1電極41と第2電極44との間に電圧を印加すると、第1の液体31と第2の液体32との界面によって構成されたレンズ面が、図6の(A)及び(B)に示した上に凸の状態から、下に凸の状態に向かって変化する。レンズ面の変化状態は電極に印加する電圧によって変化する(式(1)参照)。こうして、実施例5の光学装置にあっては、円柱レンズ20における光学パワーが、独立して可変であり、円柱レンズ20の焦点距離を可変とすることができる。実施例6〜実施例8においても同様である。
実施例6は、実施例2の変形であるが、第2の形態に係る光学装置に関する。実施例6の光学装置が実施例2の光学装置と相違する点は、第1の液体31と第2の液体32の配置、並びに、第1電極41及び第2電極44の配置が、天地を逆にした点にある。実施例6の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図7の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図7の(B)に示す。第1電極41は、隔壁13の側面上から第2支持体12上に延在して配設されており、第2電極44は第1支持体11上に配設されている。尚、図7の(A)及び(B)に示した例では、第2電極44は、隔壁13の一部の側面まで延びているが、第2電極44を、第1支持体11の対向面にのみ設けてもよい。
あるいは又、XZ平面で切断したときの模式的な断面図を図8の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図8の(B)に示す実施例6の光学装置の変形例にあっては、第2電極44は、隔壁13の一部の側面にのみ形成されている。このような構成を採用することで、光路に配置された電極を減らすことができ、光透過率の向上を図ることができる。
以上の点を除き、実施例6の光学装置の構成、構造は、実施例2の光学装置の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
実施例7は、実施例3の変形であるが、第2の形態に係る光学装置に関する。実施例7の光学装置が実施例3の光学装置と相違する点は、第1の液体31と第2の液体32の配置、並びに、第1電極41及び第2電極44の配置が、天地を逆にした点にある。実施例7の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図9の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図9の(B)に示す。第1電極41は、隔壁13の側面上から第2支持体12上に延在して配設されており、第2電極44は第1支持体11上に配設されている。尚、XZ平面で切断したときの模式的な断面図を図10の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図10の(B)に示すように、第2電極44が隔壁13の一部の側面まで延びている構成とすることもできる。
あるいは又、XZ平面で切断したときの模式的な断面図を図11の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図11の(B)に示す実施例7の光学装置の変形例にあっては、第2電極44は、隔壁13の一部の側面にのみ形成されている。このような構成を採用することで、光路に配置された電極を減らすことができ、光透過率の向上を図ることができる。
以上の点を除き、実施例7の光学装置の構成、構造は、実施例3の光学装置の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
実施例8は、実施例4の変形であるが、第2の形態に係る光学装置に関する。実施例8の光学装置が実施例4の光学装置と相違する点は、第1の液体31と第2の液体32の配置、並びに、第1電極41及び第2電極44の配置が、天地を逆にした点にある。実施例8の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図を図12の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図12の(B)に示す。第1電極41は、隔壁13の側面上から第2支持体12上に延在して配設されており、第2電極44は第1支持体11上に配設されている。尚、XZ平面で切断したときの模式的な断面図を図13の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図13の(B)に示すように、第2電極44が隔壁13の一部の側面まで延びている構成とすることもできる。
あるいは又、XZ平面で切断したときの模式的な断面図を図14の(A)に示し、YZ平面で切断したときの模式的な断面図を図14の(B)に示す実施例8の光学装置の変形例にあっては、第2電極44は、隔壁13の一部の側面にのみ形成されている。このような構成を採用することで、光路に配置された電極を減らすことができ、光透過率の向上を図ることができる。
以上の点を除き、実施例8の光学装置の構成、構造は、実施例4の光学装置の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
例えば、実施例1において説明した光学装置(図1参照)は、以下の方法で作製することができる。
先ず、第1支持体11、第2支持体12、隔壁13を作製する。尚、隔壁13には、液体を注入し、また、液体を排出するための注入口及び排出口を適宜設けておく。そして、第1支持体11及び隔壁13を、接着剤等を用いて組み立てる。次いで、例えば、スパッタリング法に基づき、第1支持体11及び隔壁13に第1電極41を形成し、例えば、スパッタリング法に基づき第1電極41上に絶縁膜42を形成し、更に、絶縁膜42上に撥水処理層43を形成する。その後、第2電極44が形成された第2支持体12を隔壁13の頂面に固定する。
次いで、第1支持体11、第2支持体12及び隔壁13によって囲まれた円柱レンズ室10Aを減圧しながら、隔壁13に設けられた注入口(図示せず)から第1の液体31を注入し、第1の液体31の一部を排出口(図示せず)から排出することで、円柱レンズ室10Aを第1の液体31で完全に充填する。次いで、隔壁13に設けられた注入口(図示せず)から第2の液体32を注入する。このとき、第1の液体31及び第2の液体32との間で界面が形成されるように、第2の液体32を注入する。第1の液体31及び第2の液体32の一部は、排出口(図示せず)から排出される。最後に、注入口及び排出口を封止し、電極を外部の制御回路と接続することで、光学装置を完成させることができる。
尚、実施例2〜実施例8において説明した光学装置も、実質的に同様の方法で作製することができる。
実施例9は、本発明の照明装置に関する。実施例9の照明装置は、具体的にはストロボ装置から成る。実施例9の照明装置は、具体的には、実施例1〜実施例8において説明した光学装置、並びに、キセノン管から成る発光手段を具備している。実施例9の照明装置の概念図を、図15の(A)及び(B)に示すが、実施例1〜実施例8において説明した光学装置を備え、円柱レンズにおける光学パワーが独立して可変であり、円柱レンズによって形成されたレンズの焦点距離を可変とすることができる結果、広角側から望遠側まで照射角を可変としたストロボ装置を提供することができる。尚、ストロボ装置及び発光制御回路等は、周知のストロボ装置及び発光制御回路等とすることができるので、詳細な説明は省略する。
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において説明した光学装置や照明装置(ストロボ装置)の構成、構造は例示であるし、光学装置を構成する材料等も例示であり、適宜、変更することができる。光学装置の平面形状は正方形に限定されず、本質的に任意の形状(例えば、長方形や円形、楕円形、長円形等)とすることができる。第1電極、第2電極の構成、構造、配置状態も、これらの電極と直接、あるいは絶縁膜を介して接する液体の性質(導電性、絶縁性)に応じて、適宜、変更することができる。光学装置の第1支持体に光が入射し、第2支持体から光が出射してもよいし、光学装置の第2支持体に光が入射し、第1支持体から光が出射してもよい。実施例1〜実施例9においては、円柱レンズを構成する第1電極を円柱レンズ毎に分割し、分割された第1電極毎に印加する電圧を制御してもよい。
円柱レンズの配列の変形例を、図16の(A)、(B)、図17の(A)、(B)、図18の(A)、(B)、図19の(A)、(B)に例示する。図16の(A)に示す例にあっては、例えば、5×3=15の円柱レンズが2次元マトリクス状に配列されている。また、図16の(B)に示す例にあっては、円柱レンズが2次元マトリクス状に(但し、千鳥状に)配列されている。図17の(A)及び(B)、並びに、図18の(A)及び図19の(B)に示す例にあっては、X軸の向きが異なる円柱レンズが配列されている。また、図18の(B)に示す例にあっては、大きさの異なる円柱レンズが配列されている。図19の(A)に示す例にあっては、円柱レンズと通常のレンズ(平面形状が円形)が混在して配列されている。
図1の(A)及び(B)は、実施例1の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図2は、実施例1の光学装置における円柱レンズ室の配列状態を模式的に示す図である。
図3の(A)及び(B)は、実施例2の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図4の(A)及び(B)は、実施例3の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図5の(A)及び(B)は、実施例4の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図6の(A)及び(B)は、実施例5の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図7の(A)及び(B)は、実施例6の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図8の(A)及び(B)は、実施例6の光学装置の変形例をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図9の(A)及び(B)は、実施例7の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図10の(A)及び(B)は、実施例7の光学装置の変形例をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図11の(A)及び(B)は、実施例7の光学装置の別の変形例をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図12の(A)及び(B)は、実施例8の光学装置をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図13の(A)及び(B)は、実施例8の光学装置の変形例をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図14の(A)及び(B)は、実施例8の光学装置の別の変形例をXZ平面で切断したときの模式的な断面図、及び、YZ平面で切断したときの模式的な断面図である。
図15の(A)及び(B)は、実施例9の照明装置の概念図である。
図16の(A)及び(B)は、円柱レンズの配列の変形例を示す模式図である。
図17の(A)及び(B)は、円柱レンズの配列の変形例を示す模式図である。
図18の(A)及び(B)は、円柱レンズの配列の変形例を示す模式図である。
図19の(A)及び(B)は、円柱レンズの配列の変形例を示す模式図である。
図20の(A)及び(B)は、円柱レンズ室の模式的な断面図及び平面図である。
図21の(A)及び(B)は、電気毛管現象を説明するための原理図である。
符号の説明
10・・・ハウジング、10A・・・円柱レンズ室、11・・・第1支持体、12・・・第2支持体、13・・・隔壁、20・・・円柱レンズ、31・・・第1の液体、32・・・第2の液体、41・・・第1電極、42・・・絶縁膜、43・・・撥水処理層、44・・・第2電極