近年、インターネットの普及等により通信需要が急速に増大しており、それに対応して光ファイバを用いた高速で大容量のネットワークが整備されつつある。そして、通信の大容量化のために、一本の光ファイバ伝送路に複数チャンネル分の光パルス信号をまとめて伝送する光多重技術が重要視されている。
光多重技術としては、光時分割多重(OTDM: Optical Time Division Multiplexing)、波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)及び光符号分割多重(OCDM:OpricaL Code Division Multiplexing)が盛んに研究されている。
この中にあって、OCDMは、送受信される光パルス信号の、1ビット当たりに割り当てられる時間軸上の制限がないという運用面における柔軟性を有している。また、時間軸上で同一の時間スロットに複数のチャンネルを設定でき、あるいは波長軸上においても同一の波長に複数の通信チャンネルを設定できるという特長を有している。
以後の説明において、光パルス信号とは、2値デジタル信号を反映した光パルス列を意味するものとする。すなわち、規則正しい一定の間隔(ビットレートに相当する周波数の逆数に相当する時間間隔)で光パルスが時間軸上に並ぶ光パルス列であって、この光パルス列を構成する光パルスの存在及び非存在に対応させて2値デジタル信号を反映させた光パルス列を光パルス信号というものとする。
OCDMとは、チャンネルごとに異なる符号(パターン)を割り当て、パターンマッチングにより信号を抽出する通信方法である(例えば、非特許文献1参照)。すなわち、OCDMは、送信側では通信チャンネルごとに異なる符号で光パルス信号を符号化し、かつ受信側では送信側と同じ符号を用いて復号化して元の光パルス信号に戻す光多重技術である。
OCDMによれば、復号時には符号化されたときの符号と合致する光パルス信号のみが有効な信号として抽出されて処理されるため、同じ波長あるいは複数の波長が組み合わせられた光からなる光パルス信号を、複数の通信チャンネルに割り当てることが可能となる。また、OCDMによれば、受信側において復号化するために符号化に用いた符号と同一の符号を用いる必要があるため、この符号が知られない限り復号化されない。このため、OCDMは、情報の安全確保にも優れた伝送方法である。
また、OCDMによれば、同一の波長で同一時刻に複数のチャンネルを多重する事が可能であり、OTDMやWDMに比べて通信容量が飛躍的に向上できることから、大容量のデータ通信が行える点で注目されている。
光パルス信号を符号化、あるいは復号化するための手段には、スーパーストラクチャファイバブラッググレーティング(SSFBG: Superstructrured Fiber Bragg Grating)やアレイ導波路グレーティング(AWG: Array Waveguide Grating)等の電力を消費しない受動光素子を用いることが可能である。受動光素子を利用する通信装置によれば、この受動光素子が電気的な処理速度制限を受けずに動作可能であるので、通信レートの高速化への対応が容易である。
具体的なOCDM通信として、2値位相符号(binary code)が利用されたOCDM通信方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。以後、2値位相符号を、単に位相符合ということもある。位相符号が利用されたOCDM通信方法とは、次のようなステップを経て行われる通信方法である。まず、送信側で、多波長連続波光源の出力を光パルス列に変換し、この光パルス列を基にして、2値デジタル信号である送信信号をRZ(return to zero)フォーマットの光パルス信号に変換して送信すべき光パルス信号を生成する。以後、RZフォーマットの光パルス信号を、単に光パルス信号ということもある。
送信側では、送信すべき光パルス信号に対して符号器による符号化を行って符号化光パルス信号に変換して送信する。一方、受信側では、符号化光パルス信号を受信して、上述の符号器に設定されている符号と同一の符号が設定されている復号器によってこの符号化光パルス信号を復号化して、送信された光パルス信号を再生する。
位相符号が利用されたOCDM通信方法においては、光パルス信号が、符号器によって、この符号器に設定されている一定の規則に従って、時間軸上に拡散されることによって符号化光パルス信号に変換される。この場合、一定の規則は符号によって規定されている。以後、光パルス信号が時間軸上に拡散されて生成される符号化光パルス信号を構成する光パルスを、チップパルスということもある。すなわち、符号器は、光パルス信号を構成する光パルスの一つ一つが符号器によって時間軸上にチップパルスの列として拡散する機能を果たす。
一方、符号化光パルス信号は、復号器によって元の光パルス信号に復号化される。すなわち、復号器によって、符号化光パルス信号を構成するチップパルスの列から、元の光パルス信号を構成する光パルスの一つ一つが再生されることによって、元の光パルス信号が復号化される。ここで、送信側で、多波長連続波光源を利用して送信すべき光パルス信号が生成された場合、チップパルスは、単一波長の光パルスであるが、光パルス信号を構成する個々の光パルスは、複数の波長の光を含む光パルスとなる。
SSFBGを用いた符号器及び復号器の関係は、SSFBGに設定されている符号が同一であるが、SSFBGの入出力端が逆の関係となる。すなわち、SSFBGの両端をそれぞれA、Bとしたとき、符号器に設置されるSSFBGの入力側が端Aであり、出力側が端Bとなるように設定されている場合、復号器に設置されるSSFBGの入力側は端Bであり、出力側が端Aとなるように設定される。従って、符号器に設置されるSSFBGの端Aには光パル信号が入力され、端Bから符号化光パルス信号が出力される。また、復号器に設置されるSSFBGの端Bには符号化光パル信号が入力され、端Aから復号化された光パルス信号が出力される。
上述したように、SSFBGを用いた符号器と復号器とは、入力端と出力端が互いに逆の関係になっているだけであり、それぞれは素子として同一のものである。そこで、以後の説明においては、符号器及び復号器のいずれをも指す場合には、光パルス時間拡散器ということもある。
ファイバブラッググレーティング(FBG: Fiber Bragg Grating)とは、コアに周期的な屈折率変調を施したブラッグ回折格子が形成されている光ファイバであり、設定された周期に応じた特定の波長の光を反射するフィルタの機能を有する(例えば、非特許文献3参照)。FBGは、光ファイバのコアの屈折率が周期的に変調されているだけであり、幾何的形状は、ODDMによる光通信の光伝送路に使われる光ファイバと同一のものである。従って、FBGを光通信装置の構成要素として利用すれば、これらと光伝送路との接続は、光ファイバ同士の接続となる。そして、光ファイバ同士の接続は、PLC等の光ファイバ以外の光導波路と光ファイバとを接続する場合に比べて、格段に容易である。
光パルス時間拡散器は、周期が一定であって、一定の長さを有する単位FBGが、複数個の光ファイバのコアの長さ方向に沿って直列に配置することによって形成されたSSFBGである。単位FBGとは、途中に屈折率変調周期の変動あるいは位相の跳躍する部分が存在しない、一続きのFBGの部分を言う。
符号器あるいは復号器に利用されるSSFBGは、隣接して配置される単位FBG間に位相シフト部が設けられている。この位相シフト部に設定する位相シフト量は、符号器あるいは復号器に設定される符号によって確定される。例えば、位相シフト部は、単位FBGがS個配置されたSSFBGにあっては(S-1)個所に設けられることになり、この(S-1)個所のそれぞれに設定される位相シフト量によって、SSFBGに設定される符号が確定する。
符号器及び復号器には、上述のSSFBG以外にも、トランスバーサル型フィルタ構造のPLC(Planer Lightwave Circuit)を利用することもできる(例えば、非特許文献3を参照)。また、AWG(Array Waveguide Gratings)を利用することもできる(例えば、非特許文献4を参照)。PLCあるいはAWGを利用した符号器及び復号器は、それらに設定可能である符号に制限がないという特長がある。しかしながらその一方で、SSFBGを利用する場合と比較して、光損失量が大きく、素子の小型化が難しいという難点がある。
図1、図2(A)及び(B)を参照して、SSFBGによる符号化及び復号化の原理を説明する。図1は、同一の符号が設定されたSSFBGを利用した符号器及び復号器の動作原理の説明に供する図である。すなわち、図1は、送信側で符号化が行なわれ受信側で復号化が行われる様子を示している。以後、SSFBGを利用した符号器をSSFBG符号器といい、SSFBGを利用した復号器をSSFBG復号器ということもある。
図1において、符号器及び復号器を構成するSSFBGについて、単位FBGだけを横縞を含む矩形で概略的に示してある。そして、それぞれの単位FBGに設定される相対位相を、それぞれの単位FBGの横に数値で示してある。以後の説明において、図1と同種の図3、図7(A)、図8(A)、図10、図12においても、単位FBG等は同一の手法で示してあるので、単位FBGの横に示す数値の意味等、重複する説明を省略することもある。
ここで、SSFBGを構成する単位FBGの内の任意の単位FBG(基準単位FBGという。)からのブラッグ反射光の位相を0と定義し、基準単位FBGからのブラッグ反射光の位相と他のFBGからの位相差を、このFBGの位相として表現する場合、この単位FBGからのブラッグ反射光の位相を相対位相と呼ぶこととする。このように定義すると、SSFBGを構成する各単位FBGからのブラッグ反射光の位相が、基準単位FBGからの位相差として全て確定する。この発明の光パルス時間拡散器を形成するSSFBGの動作を説明する上では、SSFBGを構成する各単位FBGからのブラッグ反射光の位相は、それぞれ相互の単位FBGからのブラッグ反射光の位相差のみが必要となる。
図1において、単位FBGの横に示してある相対位相の内0と示す単位FBGからのブラッグ反射光の位相は全て互いに等しい。また、これらの数値のうち0.5と示す単位FBGからのブラッグ反射光の位相も全て互いに等しい。そして、0と示す単位FBGからのブラッグ反射光の位相と0.5と示す単位FBGからのブラッグ反射光の位相との位相差は半波長分(光パルスの波長をλとして0.5λ)ずれている。角度位相に換算して(2π×0.5)ずれている。すなわち、符号化及び復号化される光パルスの波長をλとすると、0と示す単位FBGからのブラッグ反射光の相対位相と0.5と示す単位FBGからのブラッグ反射光の相対位相との位相差は0.5λに等しい。相対位相を具体的数値で示す場合、例えば、0と示す単位FBGからのブラッグ反射光の相対位相を0と表現し、0.5と示す単位FBGからのブラッグ反射光の相対位相を0.5であると表現し、λあるいは2πの定数部分を省略する。
基準単位FBGは、SSFBGを構成する単位FBGの内から、SSFBGの両端の何れか一方に配置される単位FBGをとるのが説明上便利である。そこで、以後の説明では、基準単位FBGは、SSFBGの入出力端に配置された単位FBGあるいは、入出力端の反対側の端に配置された単位FBGの何れかとするものとし、特にどの単位FBGを基準単位FBGとしたかについては断らないものとする。SSFBGの両端に配置されている単位FBGのブラッグ反射光の相対位相として0と表記されている、SSFBGの入出力端あるいは入出力端の反対側の端に配置された単位FBGが、基準単位FBGとして選定されているものと了解されたい。
ここで、ブラッグ反射光の位相について、更に具体的に説明する。光パルスの時間波形として観測される形状は、光パルスを形成している光搬送波の包絡線の時間波形を意味している。従って、ここでいうブラッグ反射光の位相とは、単位FBGからブラッグ反射された光パルスを形成している光搬送波の位相を意味する。
符号器を構成する、t個の単位FBGを有するSSFBGに入力された光パルスは、t個の光パルスとして時間軸上に拡散(以後、時間拡散ということもある)されて出力される。すなわち、このSSFBGに入力された光パルスは符号化されて出力される。符号器に入力された光パルスが、時間拡散されて生成されたこのt個の光パルスを、チップパルスということもある。
チップパルスの時間軸上でのピーク位置は、各チップパルスを生成した単位FBGのSSFBGにおける設置位置によって決まる。また、各チップパルスを形成している光搬送波の位相は、各単位FBGを構成している屈折率周期構造のSSFBGにおける相対位置によって決まる。
図1に示すように、入力光パルスが光サーキュレータ12を介して符号器のSSFBG 10に入力されて時間拡散されて、再び光サーキュレータ12を介して、チップパルス列として出力される。図1に示す符号器のSSFBG 10は、光ファイバの導波方向に沿って7つの単位FBGが配列されて構成されたSSFBGである。従って、符号器のSSFBGから出力される、時間軸上に並ぶチップパルスの数は7個となる。
ここでは、一例として、PNパターン(擬似乱数(PN: pseudo-random number)パターン)のM系列の7ビットの2値符号(0,0,1,0,1,1,1)が符号器のSSFBG 10に設定されている場合を例にとり説明する。ここで、符号を与える「0」及び「1」からなる数列の項数を符号長ということもある。この例では、符号長が7である。また、符号を与える数列を符号列といい、符号列の各項「0」及び「1」をチップということもある。そして、0及び1の値そのものを符号値ということもある。
符号器のSSFBG 10を構成する単位FBG 10a、10b、10c、10d、10e、10f及び10gは、それぞれ、上述の光位相符号の第1番目のチップ「0」、第2番目のチップ「0」、第3番目のチップ「1」、第4番目のチップ「0」、第5番目のチップ「1」、第6番目のチップ「1」及び第7番目のチップ「1」と、ぞれぞれ対応する。符号値が0であるか1であるかを決定するのは、それぞれの単位FBGに設定されている相対位相である。
符号器のSSFBG 10に光パルスを入力すると、単位FBG 10a、10b、10c、10d、10e、10f及び10gから、それぞれブラッグ反射光a、b、c、d、e、f及びgが生成されて、出力される。ブラッグ反射光a、b、及びdと、ブラッグ反射光c、e、f及びgとのそれぞれの相対位相は0及び0.5となる。以後、このような相対位相のブラッグ反射光からなるチップパルスの集合を、各チップパルスの出現順序も含めて、その相対位相値の数列、(0,0,0.5,0,0.5,0.5,0.5)によって表現することもある。ここでは、符号値が0であるチップに対しては、相対位相が0であるチップパルスを対応させ、符号値が1であるチップに対しては、相対位相が0.5である光パルスを対応させている。
すなわち、光サーキュレータ12の側から、第1番目のチップと第2番目のチップとは等しい符号値0をとっているので、第1番目のチップに対応する単位FBG 10aから反射されるブラッグ反射光の位相と、第2番目のチップに対応する単位FBG 10bから反射されるブラッグ反射光の位相とは等しい。また、第2番目のチップの符号値は0であり第3番目のチップの符号値は1であるから、両者は互いに異なる。したがって、第2番目のチップに対応する単位FBG 10bから反射されるブラッグ反射光の位相と、第3番目のチップに対応する単位FBG 10cから反射されるブラッグ反射光の位相との差がπとなっている。
同様に第3番目のチップの符号値は1であり第4番目のチップの符号値は0であるから、両者は互いに異なる値をとっている。したがって、第3番目のチップに対応する単位FBG 10cから反射されるブラッグ反射光の位相と、第4番目のチップに対応する単位FBG 10dから反射されるブラッグ反射光の位相との差がπとなっている。
第5番目以降のチップについても同様であるので、その説明を省略する。
次に、光パルスが符号器で符号化されて符号化光パルス列に変換され、その符号化光パルス列が復号器で復号化されて自己相関波が形成される過程を説明する。図1に示す単一の光パルスが光サーキュレータ12を介して符号器のSSFBG 10に入力されると、単位FBG 10a、10b、10c、10d、10e、10f及び10gからのブラッグ反射光が生成される。そこで、単位FBG 10a、10b、10c、10d、10e、10f及び10gからのブラッグ反射光をそれぞれa、b、c、d、e、f及びgとする。すなわち、図1に示す単一の光パルスが、ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f及びgに時間拡散されて符号化光パルス列に変換される。
ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f及びgは、時間軸に対して表すと、図1の送信側と受信側とをつなぐ光ファイバ伝送路18の上側に示すように、7つの光パルスに時間拡散されて、時間軸上で単位FBG 10a、10b、10c、10d、10e、10f及び10gの配列の仕方に依存する特定の間隔で配列された光パルス列を構成する。したがって、符号化光パルス列とは、符号器に入力された光パルスが時間軸上に複数の光パルスとして時間拡散された光パルス列である。この時間軸上に時間拡散されて配列された個々の光パルスがそれぞれチップパルスに対応する。
符号化光パルス列を構成するこれらのブラッグ反射光a、b、c、d、e、f及びgの位相の関係(相対位相)は、(0, 0, 0.5, 0, 0.5, 0.5, 0.5)である。ブラッグ反射光aの位相とブラッグ反射光bの位相とは等しい。ブラッグ反射光bの位相とブラッグ反射光cの位相との差がπとなっている。ブラッグ反射光cの位相とブラッグ反射光dの位相との差がπとなっている。以下、ブラッグ反射光e, f, gについても同様である。すなわち、ブラッグ反射光aの位相を基準にすると、ブラッグ反射光a、ブラッグ反射光b及びブラッグ反射光dの位相は等しく、これらに対してブラッグ反射光c, e, f, gの位相はπ異なっている。
光サーキュレータ12から出力されるチップパルス列は、光ファイバ伝送路18を伝播して、光サーキュレータ14を介して復号器のSSFBG 16に入力される。復号器のSSFBG 16は符号器のSSFBG 10と同一の構造であるが、入力端と出力端が逆になっている。すなわち、復号器のSSFBG 16の入力端から順に単位FBG 16a, 16b, 16c, 16d, 16e, 16f及び16gと並んでいるが、単位FBG 16aと単位FBG 10gとが対応する。また、同様に単位FBG 16b、単位FBG 16c、単位FBG 16d、単位FBG 16e、単位FBG 16f、及び単位FBG 16gは、単位FBG 10f、単位FBG 10e、単位FBG 10d、単位FBG 10c、単位FBG 10b及び単位FBG 10aとそれぞれ対応する。
図2(A)及び(B)を参照して、符号器10から出力されるチップパルス列が、復号器のSSFBG 16に入力されて自己相関波として生成されて出力される過程を説明する。図2(A)及び(B)は、チップパルス列から自己相関波が生成される過程の説明に供する図である。
図2(A)は、単位FBG 16a、16b、16c、16d、16e、16f及び16gからそれぞれブラッグ反射されて生成されるチップパルスa'、b'、c'、d'、e'、f'、g'の時間波形を示す図であり、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から13を付して時刻の前後関係を表示してあり、この数値が小さいほど、先の時刻であることを示している。
チップパルス列は復号器のSSFBG 16に入力されると、まず単位FBG 16aでブラッグ反射される。単位FBG 16aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 16b、単位FBG 16c、単位FBG 16d、単位FBG 16e、単位FBG 16f、及び単位FBG 16gでブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c’、d'、e'、f'及びg'と表すこととする。
チップパルス列を構成するチップパルスa、b、c、d、e、f及びgが、単位FBG 16aによって、ブラッグ反射されて、図2(A)においてa'と示した時間軸上に並ぶ。単位FBG 16aによってブラッグ反射されたチップパルスaは、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 16aによってブラッグ反射されたチップパルスbは、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。同様に、単位FBG 16aによってブラッグ反射されたチップパルスc、d、e、f及びgは、それぞれ時間軸上で3、4、5、6、及び7と示してある位置にピークをもつ光パルスである。
単位FBG 16bによっても、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c、d、e、f及びgがブラッグ反射されて、図2(A)においてb'と示した時間軸上に並ぶ。単位FBG 16bから反射されるブラッグ反射光b'は、ブラッグ反射光a'と同位相である。したがって、a'と示した時間軸上に並ぶ光パルスの列と、b'と示した時間軸上に並ぶ光パルスの列とは、両光パルス列の相互の位相関係は同一である。
同様に、単位FBG 16c及び単位FBG 16eによっても、チップパルス列を構成するチップパルスがブラッグ反射されて、図2(A)においてそれぞれc'及びe'と示した時間軸上に光パルスが並ぶ。単位FBG 16c及び単位FBG 16eから反射されるブラッグ反射光c'及びe'は、ブラッグ反射光a'と比較すると、相互の位相関係は同一である。したがって、図2(A)において、c'と示した光パルス列とe'と示した光パルス列として時間軸上に並ぶ。ブラッグ反射光a'、b'、c'及びe'に関連した光パルスは、時間軸上で平行にずれているが、それぞれのブラッグ反射光に関連する光パルスの相互の位相関係は同一である。
一方、単位FBG 16d、単位FBG 16f及び単位FBG 16gから反射されるブラッグ反射光は、単位FBG 16a、単位FBG 16b、単位FBG 16c及び単位FBG 16eから反射されるブラッグ反射光との位相差がπである。したがって、チップパルス列a'、 b'、 c'及びe'を構成するチップパルスの相対位相が(0.5, 0.5, 0, 0.5, 0, 0, 0)であるのに対してチップパルス列d'、f'及びg'を構成するチップパルスの相対位相が(0, 0, 0.5, 0, 0.5, 0.5, 0.5)となっている。ここで、チップパルス列を構成するチップパルスの相対位相を示す数列は、図2(A)に示す時間軸に対して右から左に向けて並ぶチップパルスの相対位相を順次並べて表記したものである。
図2(B)は復号器のSSFBG 16で復号化された入力光パルスの自己相関波を示している。横軸は時間軸であり、図2(A)に示した図と時間軸を合わせてある。自己相関波は、復号器の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'及びg'で与えられるので、図2(A)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'及びg'を全て足し合わせたものとなっている。図2(B)の時間軸上で7と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'及びg'に関連する光パルスが全て同位相で足しあわされるので、最大のピークを構成する。また、図2(B)の時間軸上で7と表示してある時刻以外の時刻では、チップパルスが7つ重なることはなく、しかも、必ずしも同一の相対位相のチップパルス同士が重なっているとは限らない。
そのため、図2(B)の時間軸上で7と表示してある時刻以外の時刻では、7と表示してある時刻に形成される光パルス以上の大きさの光パルスが生成されることはない。すなわち、以上説明したように、光パルスが符号器のSSFBG 10で時間拡散されてチップパルスの列となり、このチップパルスの列が復号器のSSFBG 16に入力されることによって、自己相関波が生成される。ここで取り上げた例では7ビット(符号長7)の光位相符号(0, 0, 1, 0, 1, 1, 1)を用いたが、光位相符号がこれ以外の場合であっても上述した説明は同様に成り立つ。
図2(B)に示す自己相関波は、次のようなメカニズムで生成されたものと解釈することができる。時間軸上で1と示す位置に形成されるピーク波形は、単位FBG 16aから反射された、チップパルスaに対するブラッグ反射光a'によって形成されたものである。従って、時間軸上で1と示す位置に形成されるピーク波形の振幅は、チップパルスの振幅に等しい。
時間軸上で2と示す位置に形成されるピーク波形は、単位FBG 16aから反射された、チップパルスbに対するブラッグ反射光b'と、単位FBG 16bから反射された、チップパルスaに対するブラッグ反射光a'との和として形成されたものである。これら両者の和は、相対位相がどちらも0.5である光チップパルス同士の和であるから、その振幅がチップパルスの振幅の2倍となる。
以下、時間軸上で3から13と示す位置に形成されるピーク波形の振幅は、上記と同一のメカニズムで生成されたピーク波形であり、それぞれチップパルスの振幅の、1倍、0倍、1倍、0倍、7倍、0倍、1倍、0倍、1倍、2倍、1倍となっている。図2(B)において、それぞれのピーク波形の振幅が、チップパルスの振幅の何倍となっているかを、括弧で括って、ピーク波形のそれぞれのピーク位置に示してある。これらのピーク波形の振幅の合計は、時間軸上で1から13と示す位置に形成されるピーク波形の順に合計すると、1+2+1+0+1+0+7+0+1+0+1+2+1=17となる。これをエネルギーに換算すると、チップパルス1つ分に対して289倍(=172倍)となる。すなわち、自己相関波の総エネルギーは、チップパルス1つ分のエネルギーの289倍である。
また、自己相関波のピーク(パルスの尖塔値)の振幅は、チップパルス1つ分の7倍であるから、エネルギーに換算すると49倍となる。
以上の説明では、符号器と復号器とに設定された符号が同一である場合について説明した。すなわち、符号器によってチップパルス列として時間拡散された後、このチップパルス列が復号器に入力されて、自己相関波として生成されて出力される場合を説明した。次に、図3及び図4(A)及び(B)を参照して、符号器と復号器に設定された符号が異なる場合について説明する。
図3は、相異なる符号が設定されたSSFBGをそれぞれ符号器及び復号器として利用した場合の、符号器及び復号器の動作原理の説明に供する図である。図1と異なる点は、送信側に設置されている符号器の役割を果たすSSFBGに設定されている符号と、受信側に設置されている復号器の役割を果たすSSFBGに設定されている符号とが互いに異なっている点である。その他の点では、図1と図3とでは同一である。
送信信号を構成する光パルスが、光サーキュレータ22を介して符号器のSSFBG 20に入力される。符号器のSSFBG 20は、入出力端(光サーキュレータ22に近い側)から順に、単位FBG 20a、単位FBG 20b、単位FBG 20c、単位FBG 20d、単位FBG 20e、単位FBG 20f、単位FBG 20gが配置されている。それぞれの単位FBGから反射されるブラッグ反射光、a, b, c, d, e, f, およ及びgの相対位相は、(0.5, 0.5, 0, 0, 0, 0.5, 0.5)である。これらの各ブラッグ反射光は、それぞれチップパルスとなる。
光サーキュレータ22から出力されるチップパルス列は、図3で光サーキュレータ22と光サーキュレータ24との間の光ファイバ伝送路28の上側に示すように、a, b, c, d, e, f, およ及びgで示すチップパルスの列となる。各チップパルスは、aで示すチップパルスからgで示す光パルスまで順に光サーキュレータ22から出力され、それらの相対位相は、順に(0.5, 0.5, 0, 0, 0, 0.5, 0.5)である。
光サーキュレータ22から出力されるチップパルス列は、光ファイバ伝送路28を伝播し、光サーキュレータ24を介して復号器のSSFBG 26に入力される。復号器のSSFBG 26は、入出力端(光サーキュレータ24に近い側)から順に、単位FBG 26a、単位FBG 26b、単位FBG 26c、単位FBG 26d、単位FBG 26e、単位FBG 26f、単位FBG 26gが配置されている。それぞれの単位FBGのから反射されるブラッグ反射光、a'、b'、c'、d'、e'、f'およ及びg'相対位相は、(0.5, 0.5, 0.5, 0, 0.5, 0, 0)である。すなわち、符号器20に設定されている符号と、復号器のSSFBG 26に設定されている符号とは異なっている。
図4(A)及び(B)を参照して、符号器20から出力されるチップパルス列が、復号器26に入力されて自己相関波として生成されて出力される過程を説明する。図4(A)及び(B)は、チップパルス列から相互相関波が生成される過程の説明に供する図である。
図4(A)は、単位FBG 26a, 単位FBG 26b, 単位FBG 26c, 単位FBG 26d, 単位FBG 26e, 単位FBG 26f及び単位FBG 26gからそれぞれブラッグ反射されるチップパルスa'、b'、c'、d'、e'、f'、g'の時間波形を示す図であり、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から13を付して時刻の前後関係を表示してあり、この数値が小さいほど、先の時刻であることを示している。
チップパルス列は復号器のSSFBG 26に入力されると、まず単位FBG 26aでブラッグ反射される。単位FBG 26aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 26b、単位FBG26c、単位FBG 26d、単位FBG 26e、単位FBG 26f、及び単位FBG 26gでブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c’、d'、e'、f'及びg'と表すこととする。
単位FBG 26aからは、チップパルス列を構成するチップパルスa、b、c、d、e、f及びgがブラッグ反射されて、図4(A)においてa'と示した時間軸上に並ぶ。単位FBG 26aからブラッグ反射されたチップパルスaは、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 26aからブラッグ反射されたチップパルスbは、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。同様に、光パルスc、d、e、f及びgは、それぞれ時間軸上で3、4、5、6、及び7と示してある位置にピークをもつ光パルスである。
単位FBG 26bからも、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c、d、e、f及びgがブラッグ反射されて、図4(A)においてb'と示した時間軸上に並ぶ。図4(A)において、a'、b'、c’、d'、e'、f'及びg'で示すそれぞのチップパルスの列に並ぶチップパルスの相対位相は、図2(A)を参照して説明した原理に従い、図4(A)に示す、それぞれのチップパルスに記載された0及び0.5となっている。
図4(B)は復号器のSSFBG 26で復号化された入力光パルスの相互相関波を示している。横軸は時間軸であり、図4(A)に示した図と時間軸を合わせてある。相互相関波は、復号器の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'及びg'で与えられるので、図4(A)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'及びg'を全て足し合わせたものとなっている。すなわち、光パルスが符号器20で時間拡散されてチップパルスの列となり、このチップパルスの列が復号器26に入力されることによって、相互相関波が生成される。図4(B)に示す相互相関波が生成されるメカニズムは、図2(B)で示した自己相関波が生成されるメカニズムと同様である。
図4(B)において、それぞれのピーク波形の振幅が、チップパルスの振幅の何倍となっているかを、括弧で括って、ピーク波形のそれぞれのピーク位置に示してある。
図4(B)に示す相互相関波のピーク波形の振幅の合計は、時間軸上で1から13と示す位置に形成されるピーク波形の順に合計すると、1+2+1+2+3+0+1+0+1+2+1+2+1=17となる。これをエネルギーに換算すると、チップパルス1つ分に対して289倍(=172倍)となる。すなわち、自己相関波の総エネルギーは、チップパルス1つ分のエネルギーの289倍である。また、相互相関波のピーク(パルスの尖塔値)の振幅は、高々チップパルス1つ分の3倍であるから、エネルギーに換算すると9倍に過ぎない。
図4(B)に示す相互相関波を構成するピークの内最大のピーク振幅の大きさは、チップパルスの振幅の3倍となっている。受信側において、自己相関波と相互相関波との識別は、自己相関波及び相互相関波を構成する、それぞれのピーク強度の比に基づいて行われる。図2(B)に示した自己相関波の最大ピークの振幅の大きさはチップパルスの振幅の7倍であり、図4(B)に示す相互相関波を構成するピークのうち最大のピーク振幅の大きさは、チップパルスの振幅の3倍となっていることから、両者のピーク強度比は72対32=49対9となる。
上述したように、自己相関波の総合エネルギーはチップパルス1つ分のエネルギーの289倍であり、相互相関波の総合エネルギーも289倍と、両者は違わない。一般に従来の符号化及び復号化においては、自己相関波の総合エネルギーと相互相関波の総合エネルギーとは同程度の大きさである。従って、OCDMにおいて多重するチャンネル数が多くなると、自己相関波成分のエネルギーは相互相関波成分のエネルギーよりも小さくなる。例えば、多重するチャンネル数が2つである場合は、自己相関波成分及び相互相関波成分のそれぞれに分配されるエネルギー比(信号のS/N比に相当する。)は、ほぼ1対1であるが、多重するチャンネル数が4つである場合は、自己相関波成分及び相互相関波成分のそれぞれに分配されるエネルギー比は1対3となる。自己相関波として生成されるのは、多重された1チャンネル分に対してだけであるのに対して、相互相関波として生成されるのは、自己相関波として再生成される以外の3チャンネル分となるからである。
すなわち、OCDMにおいて多重するチャンネル数が多くなると、S/N比が小さくなるので、受信側では、自己相関波と相互相関波との識別のために、時間ゲート処理を行う、あるいは非線形高額デバイスを利用する等の、特別の手段を必要としていた(例えば、非特許文献5参照)。
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西木玲彦、岩村英志、小林秀幸、沓澤聡子、大柴小枝子「SSFBGを用いたOCDM用位相符号器の開発」信学技法:TechnicaL Report of IEICE. OFT2002-66, (2002-11).
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以下、図を参照して、この発明の実施形態につき説明する。なお、各図は、この発明による実施形態に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の断面形状や配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、各図において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。更に、以下の説明において、特定の材料および条件等を用いることがあるが、これら材料および条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。
以下に示す実施形態は、光パルス時間拡散器がSSFBGによって構成されているものとして明する。そこで、まず、この発明の第1及び第2実施形態の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器を構成するためのSSFBGについて説明する。もちろん、上述したこの発明が奏する効果は、光パルス時間拡散器をSSFBG以外の、例えば、トランスバーサル型フィルタ構造のPLCあるいはAWGを利用して構成しても、同様に得られる。トランスバーサル型フィルタ構造のPLCあるいはAWGを利用して構成した場合には、以下の説明でチップパルスに相対位相を与える単位FBGに代えて、トランスバーサル型フィルタ構造のPLCあるいはAWGにおけるチップパルスに相対位相を与える構成部分をそれぞれ置き換えることによって、以下の説明はそのまま成り立つ。
<SSFBG>
図5(A)、(B)及び(C)を参照して、この発明による各実施形態の光パルス時間拡散器に利用されるSSFBGの概略的構造を説明する。図5(A)は、SSFBG 50の模式的な断面図である。このSSFBG 50は、コア54とクラッド52を具える光ファイバ56のコア54にSSFBG 50が作り付けられた構造である。32個の単位FBGが、光ファイバ56の光導波路であるコア54の導波方向に沿って直列に配置されてSSFBG 50が構成されている。図5(A)及び(B)において、32個の第1から第32単位FBGに対しては、A1からA32まで順次記号を付して区別してある。
図5(B)は、図5(A)に示されたSSFBG 50の屈折率変調構造を概略的に示す図である。横軸はSSFBG 50が形成された光ファイバ56の長手方向に沿った位置座標である。縦軸は光ファイバ56の屈折率変調構造を表しており、光ファイバ56のコアの屈折率の最大と最小の差をΔnとして表してある。また、図5(C)には、光ファイバ56のコア54の屈折率変調構造を一部拡大して描いてある。
屈折率変調周期はΛである。したがってブラッグ反射波長λは、λ=2NeffΛで与えられる。ここで、Neffは光ファイバ56の実効屈折率である。単位FBGを32個具えるSSFBG 50に入力された光パルスは、32個のチップパルスに時間拡散される。図5(A)及び(B)に示されたSSFBG 50の左端から右端の方向に配列されたA1からA32と示す第1から第32単位FBGと、このSSFBG 50から出力されるチップパルスとが、一対一に対応する。
図5(C)に示すように、隣接する単位FBG間は、屈折率変調がなされていない領域である。Aiで示された第Ai単位FBGとAi+1で示された第Ai+1単位FBGとの間の間隔Diについて、この間隔がどのように設定されているかを説明する。ここに、iは1から31までの任意の整数である。間隔Diは、Aiで示された第Ai単位FBGの屈折率周期構造の任意のピーク位置から、Ai+1で示された第Ai+1単位FBGの屈折率周期構造の任意のピーク位置までの距離である。ここで、Aiで示された第Ai単位FBGの有する相対位相をPiとし、Ai+1で示された第Ai+1単位FBGの有する相対位相をPi+1であるとする。このとき両者の位相差diは、Pi+1-Piである。Diとdiとは、Aiで示された第Ai単位FBGとAi+1で示された第Ai+1単位FBGとの間の光ファイバの実効屈折率をNeffとして、Di=(M+di)λ/2なる関係がある。ここでMは任意の整数で、λは、光パルスの真空中の屈折率をλ0としたときλ=λ0/Neffである。(M+di)λ/2を角度位相で表すと、π(M+di)となる。
この発明の第n光パルス時間拡散器を製造するに当たり、SSFBG 50の入出力端に配置された単位FBGの相対位相を0として、その隣の単位FBGの相対位相がπ[a+(n-1)/N]、その隣の単位FBGの相対位相がπ[a+(n-1)/N]×2となるように形成するには、D1=(M+a+(n-1)/N)λ/2、D2=(M+[a+(n-1)/N])×2λ/2に等しく設定すればよい。一般に、SSFBG 50の入出力端に配置された第1単位FBGを第1番目として、第k番目の第k単位FBGの相対位相がπ[a+(n-1)/N]×(k-1)となるように形成するには、Dk=(M+[a+(n-1)/N])×(k-1)λ/2に等しく設定すればよい。
<第1実施形態>
図6を参照して、この発明による第1実施形態の光パルス時間拡散装置(以後、第1の光パルス時間拡散装置という。)の構成及びその動作を説明する。図6は、この発明の第1実施形態の光パルス時間拡散装置の概略的構成図である。第1の実施形態の光パルス時間拡散装置は、第1光パルス時間拡散器36-1から第S光パルス時間拡散器36-SのS個の光パルス時間拡散器を具えて構成される。第1から第S光パルス時間拡散器は、それぞれ空間的に離れて設置されているか否かにかかわらず、第1から第S光パルス時間拡散器を1セット具えることによって、光パルス時間拡散装置が構成されるものとする。
図6に示すように、第1実施形態の光パルス時間拡散装置は、第1から第S光パルス時間拡散器(SはS≦Nを満たす整数)を具えて構成される。第1から第S光パルス時間拡散器は、それぞれ単位FBGが、各光パルス時間拡散器の入出力端から、第1から第N単位FBGの順で並べて配置されて構成されている。図6では、光ファイバのコアの部分に示す縦縞によって、第1から第N単位FBGをそれぞれ示している。図6に示す第1から第N単位FBGが、それぞれ第1から第Nの位相制御手段に対応する。
第1、第2、....、及び第S光パルス時間拡散器のそれぞれの入出力端には、光サーキュレータ30-1から30-Sが接続されている。図6に示す光パルス時間拡散装置が、チップパルス変換装置として利用される場合は、各光サーキュレータ30-1から30-Sを介して、それぞれ光パルス時間拡散器に入力された光パルスは、時間拡散されたチップパルスの列に変換されて、再び各光サーキュレータ30-1から30-Sを介して出力される。この場合は、例えば、各光サーキュレータ30-1から30-Sを介して、それぞれ光パルス時間拡散器に入力された光パルスは、第1から第Sチャンネルの光パルス信号を構成する光パルスに相当する。
また、図6に示す光パルス時間拡散装置が、光パルス復元器として利用される場合は、各光サーキュレータ30-1から30-Sを介して、それぞれ光パルス時間拡散器に入力されたチップパルスの列は、自己相関波あるいは相互相関波に変換されて、再び各光サーキュレータ30-1から30-Sを介して出力される。この場合は、各光サーキュレータ30-1から30-Sを介して、それぞれ光パルス時間拡散器に入力されたチップパルスの列は、第1から第Sチャンネルのチップパルスの列に相当する。
まず、光パルス時間拡散器36-1を取り上げて、光パルス時間拡散器の構成を説明する。光パルス時間拡散器36-1に入力される光パルス29-1は、光サーキュレータ30-1を介して入力される。光パルス29-1は、第1光パルス時間拡散器36-1の第1から第N単位FBGによって時間拡散されて、チップパルスの列35-1として生成される。
すなわち、光サーキュレータ30-1を介して、第1光パルス時間拡散器36-1に入力された光パルス34-1は、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成る、チップパルス列35-1として生成されて、光サーキュレータ30-1を介して、チップパルスの列31-1として出力される。
第1から第N単位FBGのそれぞれが、チップパルス列35-1を構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×d1(=2πa)に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)d1(=2πa×(N-1))に等しい相対位相を与える。ただし、パラメータaは0≦a<1を満たす任意の実数である。
光パルス時間拡散器36-2に入力される光パルス29-2は、第2光サーキュレータ30-2を介して入力される。光パルス29-2は、第2光パルス時間拡散器36-2の第1から第N単位FBGによって時間拡散されて、チップパルスの列31-2として生成される。
すなわち、光サーキュレータ30-2を介して、第2光パルス時間拡散器36-2に入力された光パルス34-2は、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成る、チップパルス列35-2として生成されて、光サーキュレータ30-2を介して、チップパルスの列31-2として出力される。
チップパルス列35-2を構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×d2(=2π(a+(1/N))に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)d2(=2π(a+(1/N)×(N-1))に等しい相対位相を与える。
以下同様に、光パルス時間拡散器36-nに入力される光パルス29-nは、第n光サーキュレータ30-nを介して入力される。光パルス29-nは、第n光パルス時間拡散器36-nの第1から第N単位FBGによって時間拡散されて、チップパルスの列31-nとして生成される。
すなわち、光サーキュレータ30-nを介して、第n光パルス時間拡散器36-nに入力された光パルス列34-nは、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成る、チップパルス列35-nとして生成されて、光サーキュレータ30-nを介して、チップパルの列31-nとして出力される。
チップパルス列31-nを構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×dn(=2π[a+(n-1)/N])に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)dn(=2π[a+(n-1)/N]×(N-1))に等しい相対位相を与える。
光パルス時間拡散器36-Sに入力される光パルス29-Sは、第S光サーキュレータ30-Sを介して入力される。光パルス29-Sは、第S光パルス時間拡散器36-Sの第1から第N単位FBGによって時間拡散されて、チップパルスの列31-Sとして生成される。
すなわち、光サーキュレータ30-Sを介して、第S光パルス時間拡散器36-Sに入力された光パルス34-Sは、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成る、チップパルス列35-Sとして生成されて、光サーキュレータ30-Sを介して、チップパルの列31-Sとして出力される。
チップパルス列35-Sを構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×dS(=2π[a+(S-1)/N])に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)dS(=2π[a+(S-1)/N]×(N-1))に等しい相対位相を与える。
次に、図7(A)、(B)及び(C)を参照して、同一の屈折率周期構造を作りつけた一組のSSFBGを利用した第1の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器によるチップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理について説明する。図7(A)は動作原理の説明に供する図であり、図7(B)は、単位FBG 46a、46b、46c及び46dからそれぞれブラッグ反射されるチップパルスa'、b'、c'及び d'の時間波形を示す図であり、図7(C)は、SSFBG 46で復号化された入力光パルスの自己相関波の時間波形を示している。
図7(A)は、この発明の第1の光パルス時間拡散装置の1組の一方が具えるSSFBG 40をチップパルス変換器とし、他方が具えるSSFBG 46を光パルス復元器とした例を示している。すなわち、SSFBG 40は、一方のチップパルス変換装置である光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器であり、SSFBG 46は、他方の光パルス復元装置である光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器である。
図7(A)では、位相制御手段を4つ具える光パルス時間拡散器、すなわちN=4である場合を、一例として取り上げて示しているが、以下の説明は、N=4以外の場合であっても、チップパルスの数が異なるだけで、チップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理については、同様である。
図7(A)に示すように、入力光パルスが光サーキュレータ42を介してSSFBG 40に入力されて時間拡散されて、再び光サーキュレータ42を介して、チップパルス列として出力される。図7(A)に示すSSFBG 40は、光ファイバの導波方向に沿って4つの単位FBGが配列されて構成されたSSFBGである。従って、SSFBG 40から出力される、時間軸上に並ぶチップパルスの数は4個となる。
SSFBG 40に光パルスを入力すると、単位FBG 40a, 40b, 40c及び40dから、それぞれブラッグ反射光a、b、c及び dが生成されて、出力される。ブラッグ反射光a、b、c及び dのそれぞれの相対位相は0、0.25、0.5、0.75となっている。これを、相対位相値の数列として表すと、(0、0.25、0.5、0.75)となる。
すなわち、図7(A)に示すSSFBG 40を第1光パルス時間拡散器として、SSFBG 46をこの第1光パルス時間拡散器と同一の屈折率周期構造を有するSSFBGとして示してある。SSFBG 46は、SSFBG 40と屈折率周期構造が同一であることに加えて、入出力端も同一に設定されている。この点が、符号が設定されたSSFBGを利用する従来の符号化器と復号化器との関係と相違する。すなわち、従来の符号化器と復号化器との関係は、互いに入出力端が逆の関係に設定される。
図7(A)に示すこの発明の第1の光パルス時間拡散装置の第1光パルス時間拡散器の例では、n=1、N=4、a=0.25である場合に相当する。すなわち、a+(n-1)/N=0.25+(1-1)/4=0.25である。従って、第1光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、(0、0.25、0.5、0.75)で与えられる。以後、a+(n-1)/Nを相対位相の最小単位ということもある。
一方、第2光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、次のようになる。
すなわち、a=0.25、、n=2、N=4であるので、第1のチップパルス(時間軸上で先頭位置のチップパルス)に対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2π[a+(n-1)/N]に等しい相対位相を与える。従って、第2のチップパルスに対しては、2π[a+(n-1)/N]=2π(0.25+(2-1)/4)=2π(0.25+0.25)=2π×0.5となるので、2πを省略して相対位相値は0.5となる。同様に第3のチップパルスに対しては、2π[a+(n-1)/N]×2=2π(0.25+(2-1)/4) ×2=2π(0.25+0.25) ×2=2π×0.5×2=2π×1となるので、2πを省略して相対位相値は1となる。同様に、第4のチップパルスに対しては、2π[a+(n-1)/N]×3=2π(0.25+(2-1)/4) ×3=2π(0.25+0.25) ×3=2π×0.5×3=2π×1.5となるので、2πを省略して相対位相値は1.5となる。すなわち、第2光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、(0、0.5、1、1.5)となる。
また、既に述べたように相対位相値を示すのに、λあるいは2πという定数部分を省略して表記している関係上、1は1周期を示し、0と1とは位相としては同位相を意味する。従って、第2光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、(0、0.5、1、1.5)=(0、0.5、0、0.5)となる。以後、相対位相値を示すに当たっては、0以上1未満の実数で表記する。
次に、光パルスが符号器で符号化されて符号化光パルス列に変換され、その符号化光パルス列が復号器で復号化されて自己相関波が形成される過程を説明する。すなわち、光パルスがSSFBG 40で時間拡散されてチップパルスの列に変換され、そのチップパルスの列がSSFBG 46によって自己相関波(復元された光パルス)が形成される過程を説明する。
図7(A)に示す単一の光パルスが光サーキュレータ42を介してSSFBG 40に入力されると、単位FBG 40a, 40b, 40c及び40dからのブラッグ反射光が生成される。そこで、単位FBG 40a, 40b, 40c及び40dからのブラッグ反射光をそれぞれa、b、c及び dとする。すなわち、図7(A)に示す単一の光パルスが、ブラッグ反射光a、b、c及び dとして時間拡散されて符号化光パルス列に変換される。
ブラッグ反射光a、b、c及び dは、時間軸に対して表すと、図7(A)の送信側と受信側とをつなぐ光ファイバ伝送路48の上側に示すように、4つの光パルスに時間拡散されて、時間軸上で単位FBG 40a, 40b, 40c及び40dに依存する特定のチップパルスの列を構成する。したがって、チップパルスの列とは、符号器に入力された光パルスが時間軸上に複数のチップパルスとして時間拡散されたチップパルスの列である。
チップパルスの列を構成するこれらのブラッグ反射光a、b、c及び dの相対位相は、(0, 0.25, 0.5, 0.75)で示すようになっている。ブラッグ反射光aの位相とブラッグ反射光bの位相差は、0.25である。ブラッグ反射光bの位相とブラッグ反射光cの位相との差、ブラッグ反射光cの位相とブラッグ反射光dの位相との差も0.25となっている。
光サーキュレータ42から出力されるチップパルスの列は、光ファイバ伝送路48を伝播して、光サーキュレータ44を介して復号器のSSFBG 46に入力される。SSFBG 46はSSFBG 40と同一の構造であり、入力端と出力端も同一である。すなわち、SSFBG 40の入力端から順に単位FBG 40a, 40b, 40c及び40dと並んでおり、SSFBG 46の入力端からも同様に順に単位FBG 46a, 46b, 46c及び46dと並んでいる。
図7(B)及び(C)を参照して、SSFBG 40から出力されるチップパルス列が、SSFBG 46に入力されて自己相関波として生成されて出力される過程を説明する。図7(B)及び(C)は、チップパルス列から自己相関波が生成される過程の説明に供する図である。
図7(B)は、単位FBG 46a、46b、46c及び46dからそれぞれブラッグ反射されて生成されるチップパルスa', b', c'及びd'の時間波形を示す図であり、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から7を付して時刻の前後関係を表示してあり、この数値が小さいほど、先の時刻であることを示している。
チップパルス列は復号器のSSFBG 46に入力されると、まず単位FBG 46aでブラッグ反射される。単位FBG 46aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 46b、単位FBG 46c及び単位FBG 46dでブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c’及びd'と表すこととする。
チップパルス列を構成するチップパルスa、b、c及び dが、単位FBG 46aによって、ブラッグ反射されて、図7(B)においてa'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列になる。単位FBG 46aによってブラッグ反射されたチップパルスaは、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 46aによってブラッグ反射されたチップパルスbは、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。同様に、単位FBG 46aによってブラッグ反射されたチップパルスc及びdは、それぞれ時間軸上で3及び4と示してある位置にピークをもつチップパルスである。
単位FBG 46bによっても、チップパルスの列を構成する光パルスa、b、c及び dがブラッグ反射されて、図7(B)においてb'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列になる。単位FBG 46bから反射されるブラッグ反射光b'は、ブラッグ反射光a'と比べて0.25だけ増えている。したがって、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列に対して、b'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列は、各チップパルスの相対位相に0.25だけ加えられた値となっている。すなわち、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列の右側から左側に向って相対位相が(0, 0.25, 0.5, 0.75)となっているのに対して、b'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列の相対位相値は、右側から左側に向って、0.25がそれぞれ加えられて、(0.25, 0.5, 0.75, 0)となっている。
単純に0.25を加えるだけであれば、b'と示した列の相対位相は、(0.25, 0.5, 0.75, 1)となるのであるが、最後の第4項が1ではなく0となっているのは、既に述べたように、相対位相値が0と1とでは、位相としては、両者は同じ意味であるからである。
同様に、c'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列は、a'と示したチップパルスの列の相対位相値(0, 0.25, 0.5, 0.75)に0.5が加えられて、(0.5, 0.75, 1, 1.25)=(0.5, 0.75, 0, 0.25)となっている。また、d'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列は、a'と示した列のチップパルスの列の相対位相値(0, 0.25, 0.5, 0.75)に0.75が加えられて、(0.75, 1, 1.25, 1.5)=(0.75, 0, 0.25, 0.5)となっている。
図7(C)はSSFBG 46で復元された入力光パルスの自己相関波を示している。横軸は時間軸であり、図7(B)に示した図と時間軸を合わせてある。自己相関波は、SSFBG 46の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'で与えられるので、図7(B)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'を全て足し合わせたものとなっている。図7(C)の時間軸上で4と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'に関連する光パルスが全て同位相で足しあわされるので、最大のピークを構成する。また、図7(C)の時間軸上で4と表示してある時刻以外の時刻でも各チップパルスは、同一の位相で重なり合うが、重なり合うチップパルスの数が4つ未満(3、2及び1つ)であるので、4と表示してある時刻における最大ピークよりも小さい。
以上説明したように、光パルスがSSFBG 40で時間拡散されてチップパルスの列となり、このチップパルスの列がSSFBG 46に入力されることによって、自己相関波が生成される。ここで取り上げた例では4ビットの相対位相(0, 0.25, 0.5, 0.75)を用いたが、相対位相がこれ以外の場合であっても上述した説明は同様に成り立つ。
図7(C)に示す自己相関波は、次のようなメカニズムで生成されたものと解釈することができる。時間軸上で1と示す位置に形成されるピーク波形は、単位FBG 46aから反射された、チップパルスaに対するブラッグ反射光a'によって形成されたものである。従って、時間軸上で1と示す位置に形成されるピーク波形の振幅は、チップパルスの振幅に等しい。
時間軸上で2と示す位置に形成されるピーク波形は、単位FBG 46aから反射された、チップパルスbに対するブラッグ反射光b'と、単位FBG 46bから反射された、チップパルスaに対するブラッグ反射光a'との和として形成されたものである。これら両者の和は、相対位相がどちらも0.25である同位相の光チップパル同士の和であるから、その振幅がチップパルスの振幅の2倍となる。
以下、時間軸上で3から7と示す位置に形成されるピーク波形の振幅は、上記と同一のメカニズムで生成されたピーク波形であり、それぞれチップパルスの振幅の、3倍、4倍、3倍、2倍、1倍となっている。図7(C)において、それぞれのピーク波形の振幅が、チップパルスの振幅の何倍となっているかを、括弧で括って、ピーク波形のそれぞれのピーク位置に示してある。これらのピーク波形の振幅の合計は、時間軸上で1から7と示す位置に形成されるピーク波形の順に合計すると、1+2+3+4+3+2+1=16となる。これをエネルギーに換算すると、チップパルス1つ分に対して256倍(=162倍)となる。すなわち、自己相関波の総エネルギーは、チップパルス1つ分のエネルギーの256倍である。
以上の説明では、符号器に類似する役割を果たすSSFBG 40と復号器に類似する役割を果たすSSFBG 46とを構成する各単位FBGのそれぞれに設定された相対位相が同一である場合について説明した。すなわち、SSFBG 40によってチップパルス列として時間拡散された後、このチップパルスの列がSSFBG 46に入力されて、自己相関波として生成されて出力される場合を説明した。
次に、符号器に類似する役割を果たすSSFBGと復号器に類似する役割を果たすSSFBGとに設定された符号が異なる場合について説明する。図8(A)、(B)及び(C)は、異なる屈折率周期構造を作りつけた一組のSSFBGを利用した第1の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器によるチップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理の説明に供する図である。図8(A)は動作原理の説明に供する図であり、図8(B)は、単位FBG 56a、56b、56c及び56dからそれぞれブラッグ反射されるチップパルスa、b、c及び dの時間波形を示す図であり、図8(C)は、復号器のSSFBG 56で復号化された入力光パルスの相互相関波の時間波形を示している。図8(A)、(B)及び(C)においても、図7(A)、(B)及び(C)と同様に、位相制御手段を4つ具える光パルス時間拡散器、すなわちN=4である場合を、一例として取り上げて示している。
図8(A)、(B)及び(C)を参照して、相異なる屈折率周期構造を作りつけた一組のSSFBGを利用した第1の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器によるチップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理について説明する。
図8(A)では、第1の光パルス時間拡散装置の1組の一方が具えるSSFBG 50をチップパルス変換器とし、他方が具えるSSFBG 56を光パルス復元装置とした例を示している。すなわち、SSFBG 50は、一方のチップパルス変換装置である光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器であり、他方の光パルス復元装置である光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器である。
すなわち、SSFBG 50は、光パルス時間拡散装置の1組の一方が具える第2光パルス時間拡散器であり、SSFBG 56は、光パルス時間拡散装置の1組の他方が具える第1光パルス時間拡散器である。
図8(A)に示すように、入力光パルスが光サーキュレータ52を介してSSFBG 50に入力されて時間拡散されて、再び光サーキュレータ52を介して、チップパルス列として出力される。図8(A)に示すSSFBG 50は、光ファイバの導波方向に沿って4つの単位FBGが配列されて構成されたSSFBGである。従って、SSFBG 50から出力される、時間軸上に並ぶチップパルスの数は4個となる。
SSFBG 50を構成する単位FBG 50a、50b、50c及び50dは、それぞれ、光位相符号の第1番目のチップa、第2番目のチップb、第3番目のチップc、第4番目のチップdと、ぞれぞれ対応する。
SSFBG 50に光パルスを入力すると、単位FBG 50a、50b、50c及び50dから、それぞれブラッグ反射光がa、b、c及び dが生成されて、出力される。SSFBG 50は、第2光パルス時間拡散器に対応するから、ブラッグ反射光a、b、c及び dのそれぞれの相対位相は0、0.5、0、0.5となっている。これを、相対位相値の数列として表すと、(0、0.5、0、0.5)となる。すなわち、第2光パルス時間拡散器に対応する、SSFBG 50は、n=2、N=4、a=0.25である場合に相当する。すなわち、相対位相の最小単位a+(n-1)/Nは、a+(n-1)/N=0.25+(2-1)/4=0.5である。第2光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、(0、0.5、0、0.5)で与えられる。
これに対して、SSFBG 56は、第1光パルス時間拡散器に対応するから、ブラッグ反射光a、b、c及び dのそれぞれの相対位相を表す数列は(0、0.25、0.5、0.75)となる。すなわち、第1光パルス時間拡散器に対応する、SSFBG 56は、n=1、N=4、a=0.25である場合に相当する。すなわち、相対位相の最小単位a+(n-1)/Nは、a+(n-1)/N=0.25+(1-1)/4=0.25である。従って、第1光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、(0、0.25、0.5、0.75)で与えられる。
次に、光パルスが第2光パルス時間拡散器に対応するSSFBG 50で時間拡散されてチップパルスの列に変換され、そのチップパルスの列が第1光パルス時間拡散器に対応するSSFBG 56によって相互相関波が形成される過程を説明する。
図8(A)に示す単一の光パルスが光サーキュレータ52を介して符号器のSSFBG 50に入力されると、単位FBG 50a、50b、50c及び50dからのブラッグ反射光が生成される。そこで、単位FBG 50a、50b、50c及び50dからのブラッグ反射光をそれぞれa、b、c及び dとする。すなわち、図8(A)に示す単一の光パルスが、ブラッグ反射光a、b、c及び d時間拡散されて符号化光パルス列に変換される。
ブラッグ反射光a、b、c及び dは、時間軸に対して表すと、図8(A)の送信側と受信側とをつなぐ光ファイバ伝送路58の上側に示すように、4つの光パルスに時間拡散されて、時間軸上で単位FBG 50a、50b、50c及び50dに依存する特定のチップパルスの列を構成する。したがって、チップパルスの列とは、符号器に入力された光パルスが時間軸上に複数のチップパルスとして時間拡散されたチップパルスの列である。
チップパルスの列を構成するこれらのブラッグ反射光a、b、c及び dの相対位相は、(0, 0.5, 0, 0.5)で示すようになっている。ブラッグ反射光aの位相とブラッグ反射光bの位相差は、0.5である。ブラッグ反射光bの位相とブラッグ反射光cの位相との差、ブラッグ反射光cの位相とブラッグ反射光dの位相との差も0.5となっている。
光サーキュレータ52から出力されるチップパルスの列は、光ファイバ伝送路58を伝播して、光サーキュレータ54を介してSSFBG 56に入力される。
図8(B)及び(C)を参照して、SSFBG 50から出力されるチップパルス列が、SSFBG 56に入力されて相互相関波として生成されて出力される過程を説明する。図8(B)及び(C)は、チップパルス列から相互相関波が生成される過程の説明に供する図である。
図8(B)は、単位FBG 56a、56b、56c及び56dからそれぞれブラッグ反射されて生成されるチップパルスa', b', c'及びd'の時間波形を示す図であり、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から7を付して時刻の前後関係を表示してあり、この数値が小さいほど、先の時刻であることを示している。
チップパルス列は復号器のSSFBG 56に入力されると、まず単位FBG 56aでブラッグ反射される。単位FBG 56aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 56b、単位FBG56c及び単位FBG 56dでブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c’及びd'と表すこととする。
チップパルス列を構成するチップパルスa、b、c及び dが、単位FBG 56aによって、ブラッグ反射されて、図8(B)においてa'と示した時間軸上に並ぶ。単位FBG 56aによってブラッグ反射されたチップパルスaは、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 56aによってブラッグ反射されたチップパルスbは、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。同様に、単位FBG 56aによってブラッグ反射されたチップパルスc及びdは、それぞれ時間軸上で3及び4と示してある位置にピークをもつチップパルスである。
単位FBG 56bによっても、チップパルスの列を構成する光パルスa、b、c及び dがブラッグ反射されて、図8(B)においてb'と示した時間軸上に並ぶ。単位FBG 56bから反射されるブラッグ反射光b'は、ブラッグ反射光a'と比べて0.25だけ増えている。したがって、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列に対して、b'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列は、各チップパルスの相対位相に0.25だけ加えられた値となっている。すなわち、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列の右側から左側に向って相対位相が(0, 0.5, 0, 0.5)となっているのに対して、b'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列の相対位相値は、右側から左側に向って、0.25がそれぞれ加えられて、(0.25, 0.75, 0.25, 0.75)となっている。
同様に、c'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列は、a'と示した列のチップパルスの列の相対位相値(0, 0.5, 0, 0.5)に0.5が加えられて、(0.5, 0, 0.5, 0)となっている。また、d'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列は、a'と示した列のチップパルスの列の相対位相値(0, 0.5, 0, 0.5)に0.75が加えられて、(0.75, 1.25, 0.75, 1.25)=(0.75, 0.25, 0.75, 0.25)となっている。
図8(C)はSSFBG 56で復元された入力光パルスの相互相関波を示している。横軸は時間軸であり、図8(B)に示した図と時間軸を合わせてある。相互相関波は、SSFBG 56の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'で与えられるので、図8(B)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'を全て足し合わせたものとなっている。
図8(C)の時間軸上で1と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'の内、最も右側にあるチップパルスだけで形成されるピークであるから、その振幅はチップパルス1つ分の振幅に等しい。時間軸上で2と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'の内、右側から2番目にあるチップパルスと、ブラッグ反射光b'の内最も右側にあるチップパルスの和として形成されるピークである。両者のチップパルスの位相は、それぞれ、0.5、0.25であるので、その和として形成されるピークは、その振幅はチップパルス2つ分より小さい。このことを、図8(C)では、(<2)と示してある。
同様に、時間軸上で3と表記してある時刻ではその振幅がチップパルス1つ分より小さく、時間軸上で5と表記してある時刻ではその振幅がチップパルス1つ分より小さく、及び時間軸上で6と表記してある時刻ではその振幅がチップパルス2つ分より小さいピークとなる。また、時間軸上で4と表記してある時刻では、重なり合うチップパルスがちょうど相殺されてその振幅は0となっている。また、時間軸上で7と表示してある時刻では、ブラッグ反射光d'の内、最も左側にあるチップパルスだけで形成されるピークであるから、その振幅はチップパルス1つ分の振幅に等しい。
図8(C)において、それぞれのピーク波形の振幅が、チップパルスの振幅の何倍となっているかを、括弧で括って、ピーク波形のそれぞれのピーク位置に示してある。これらのピーク波形の振幅の合計は、時間軸上で1から7と示す位置に形成されるピーク波形の順に合計すると、1+2+1+0+1+2+1=8よりも小さくなる。これをエネルギーに換算すると、チップパルス1つ分に対して64倍(=82倍)より小さい値となる。すなわち、相互相関波の総エネルギーは、チップパルス1つ分のエネルギーの64倍より小さい。
従って、第1光パルス時間拡散器で時間拡散して、第1光パルス時間拡散器で光パルスを復元した場合、自己相関波エネルギーがチップパルス1つ分のエネルギーの256倍であったのに対して、第2光パルス時間拡散器で時間拡散して、第1光パルス時間拡散器で光パルスを復元した場合、相互相関波エネルギーがチップパルス1つ分のエネルギーの64倍となる。すなわち、この発明の第1の光パルス時間拡散装置によって、光パルスの時間拡散及び光パルスの復元を行った場合、自己相関波のエネルギーは相互相関波のエネルギーの4(=256/64)倍となることを示している。また、図7(C)に示したように自己相関波のピーク強度はチップパルス1つ分の4倍であった。すなわちエネルギーに換算して16倍である。一方、図8(C)に示すように、相互相関波のピーク強度は0となっている。
以上のことから、この発明の第1の光パルス時間拡散装置によれば、相互相関波成分に対する自己相関波成分成分へのエネルギー分配比が大きく取れ、自己相関波のピーク強度が、相互相関波のピーク強度に比べて十分に大きく取れることが分かる。
<第2実施形態>
次に、図9を参照して、この発明による第2実施形態の光パルス時間拡散装置(以下、第2の光パルス時間拡散装置という。)の構成及びその機能について説明する。図9は、第2の光パルス時間拡散装置の概略的構成図である。図9に示す第1から第(N×j)単位FBGがそれぞれ、第1から第(N×j)の位相制御手段に対応する。
第2の光パルス時間拡散装置が具える第1、第2、....、及び第S光パルス時間拡散器が具える単位FBGが、各光パルス時間拡散器の入出力端(光サーキュレータが接続されている端)から、第1から第(N×j)単位FBGの順で並べて配置されている。
光サーキュレータ30-1を介して、第1光パルス時間拡散器36-1に入力された光パルス34-1は、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第(N×j)チップパルスまでの(N×j)個のチップパルスから成る、チップパルス列35-1として生成されて光サーキュレータ30-1を介して出力される。チップパルス列35-1を構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×d1(=2πa)に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)d1に等しい相対位相を与え、・・・、第(N×j-3)チップパルスに対して2×(N×j-3)d1に等しい相対位相を与え、第(N×j-2)チップパルスに対して2×(N×j-2)d1に等しい相対位相を与え、第(N×j-1)チップパルスに対して2×(N×j-1)d1に等しい相対位相を与える。
光サーキュレータ30-2を介して、第2光パルス時間拡散器36-2に入力された光パルス34-2は、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第(N×j)チップパルスまでの(N×j)個のチップパルスから成る、チップパルス列35-2として生成されて光サーキュレータ30-2を介して出力される。チップパルス列35-2を構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×d2(=2π(a+(1/N))に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)d2に等しい相対位相を与え、・・・、第(N×j-3)チップパルスに対して2×(N×j-3)d2に等しい相対位相を与え、第(N×j-2)チップパルスに対して2×(N×j-2)d2に等しい相対位相を与え、第(N×j-1)チップパルスに対して2×(N×j-1)d2に等しい相対位相を与える。
以下同様に、光サーキュレータ30-nを介して、第n光パルス時間拡散器36-nに入力された光パルス34-nも、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第(N×j)チップパルスまでの(N×j)個のチップパルスから成る、チップパルス列35-nとして生成されて光サーキュレータ30-nを介して、出力される。チップパルス列35-nを構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×dn(=2π[a+(n-1)/N])に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)dn(=2π[a+(n-1)/N]×(N-1))に等しい相対位相を与え、・・・、第(N×j-3)チップパルスに対して2×(N×j-3)dnに等しい相対位相を与え、第(N×j-2)チップパルスに対して2×(N×j-2)dnに等しい相対位相を与え、第(N×j-1)チップパルスに対して2×(N×j-1)dnに等しい相対位相を与える。
光サーキュレータ30-Sを介して、第S光パルス時間拡散器36-Sに入力された光パルス34-Sも、時間軸上に時間拡散されて順次並ぶ、第1から第(N×j)チップパルスまでの(N×j)個のチップパルスから成る、チップパルス列35-Sとして生成されて光サーキュレータ30-Sを介して出力される。チップパルス列35-Sを構成する、第1のチップパルスに対して0に等しい相対位相を与え、第2のチップパルスに対して2×dS(=2π[a+(S-1)/N])に等しい相対位相を与え、・・・、第Nチップパルスに対して2×(N-1)dS(=2π[a+(S-1)/N]×(N-1))に等しい相対位相を与え・・・、第(N×j-3)チップパルスに対して2×(N×j-3)dSに等しい相対位相を与え、第(N×j-2)チップパルスに対して2×(N×j-2)dSに等しい相対位相を与え、第(N×j-1)チップパルスに対して2×(N×j-1)dSに等しい相対位相を与える。
図9において、j=1として与えられる第1チップパルス群、j=2として与えられる第2チップパルス群、及びj=jとして与えられる第jチップパルス群をそれぞれ生成する単位FBG群を、それぞれ第1から第S光パルス時間拡散器ごとに矩形に破線で囲って示してある。ここで、第1チップパルス群とは、第1チップパルスから第Nチップパルスで構成されるチップパルス群であり、第2チップパルス群とは、第(N+1)チップパルスから第2Nチップパルスで構成されるチップパルス群であり、第jチップパルス群とは、第((j-1)N+1)チップパルスから第(N×j)チップパルスで構成されるチップパルス群である。
図10、図11(A)及び(B)を参照して、同一の屈折率周期構造を作りつけた一組のSSFBGを利用したこの発明の第2の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器によるチップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理について説明する。図10は動作原理の説明に供する図であり、図11(A)は、単位FBG 60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g及び60hからそれぞれブラッグ反射されるチップパルスa、b、c、d、e、f、g及びhの時間波形を示す図であり、図11(B)は、SSFBG 66で復号化された入力光パルスの自己相関波を示している。
図10では、この発明の一方の第2の光パルス時間拡散装置が具えるSSFBG 60をチップパルス変換器とし、他方の第2の光パルス時間拡散装置が具えるSSFBG 66を光パルス復元器とした例を示している。すなわち、図10に示すSSFBG 60を第1光パルス時間拡散器として、SSFBG 66をこの第1光パルス時間拡散器と同一の屈折率周期構造を有するSSFBGとして示してある。SSFBG 66は、SSFBG 60と屈折率周期構造が同一であることに加えて、入出力端も同一に設定されている。
図10では、位相制御手段を8つ具える光パルス時間拡散器、すなわちN=4、j=2である場合を、一例として取り上げて示しているが、以下の説明は、N=4、j=2以外の場合であっても、チップパルスの数が異なるだけで、チップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理については、同様である。
図10に示すように、入力光パルスが光サーキュレータ62を介してSSFBG 60に入力されて時間拡散されて、再び光サーキュレータ62を介して、チップパルス列として出力される。図10に示すSSFBG 60は、光ファイバの導波方向に沿って8つの単位FBGが配列されて構成されたSSFBGである。従って、SSFBG 60から出力される、時間軸上に並ぶチップパルスの数は8個となる。SSFBG 60を構成する単位FBG 60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g及び60hは、それぞれ、上述の光位相符号の第1番目のチップaから第8番目のhと、ぞれぞれ対応する。
図10に示すこの発明の第2の光パルス時間拡散装置の第1光パルス時間拡散器の例では、n=1、N=4、a=0.25、j=2である場合に相当する。jはチップパルス群の数であり、図10に示す第1光パルス時間拡散器に対応するSSFBG 60及びSSFBG 66は、2つのチップパルス群の繰り返しパターンとして構成されている。第1光パルス時間拡散器の相対位相の最小単位は、a+(n-1)/N=0.25+(1-1)/4=0.25である。従って、第1光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列の、第1番目のチップパルス群は、(0、0.25、0.5、0.75)で与えられる。これに続く第2番目のチップパルス群も、(0、0.25、0.5、0.75)で与えられる。従って、第1光パルス時間拡散器の相対位相は、(0、0.25、0.5、0.75、0、0.25、0.5、0.75)となる。
一方、この発明の第2の光パルス時間拡散装置の第2光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、次のようになる。第2光パルス時間拡散器の例では、n=2、N=4、a=0.25、j=2である場合に相当する。第2光パルス時間拡散器の相対位相の最小単位は、a+(2-1)/N=0.25+(2-1)/4=0.5である。従って、第2光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列の、第1番目のチップパルス群は、(0、0.5、0、0.5)で与えられる。これに続く第2番目のチップパルス群も、(0、0.5、0、0.5)で与えられる。従って、第1光パルス時間拡散器の相対位相は、(0、0.5、0、0.5、0、0.5、0、0.5)となる。
次に、光パルスが符号器で符号化されて符号化光パルス列に変換され、その符号化光パルス列が復号器で復号化されて自己相関波が形成される過程を説明する。すなわち、光パルスがSSFBG 60で時間拡散されてチップパルスの列に変換され、そのチップパルスの列がSSFBG 66によって自己相関波(復元された光パルス)が形成される過程を説明する。
図10に示す単一の光パルスが光サーキュレータ62を介してSSFBG 60に入力されると、単位FBG 60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g及び60hからのブラッグ反射光が生成される。そこで、単位FBG 60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g及び60hからのブラッグ反射光をそれぞれa、b、c、d、e、f、g及びhとする。すなわち、図10に示す単一の光パルスが、ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhとして時間拡散されて符号化光パルス列に変換される。
ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhは、時間軸に対して表すと、図10の送信側と受信側とをつなぐ光ファイバ伝送路68の上側に示すように、8つの光パルスに時間拡散されて、時間軸上で単位FBG 60a、60b、60c、60d、60e、60f、60g及び60hに依存する特定のチップパルスの列を構成する。
チップパルスの列を構成するこれらのブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhの相対位相は、SSFBG 60が、この発明の第2の光パルス時間拡散装置の第1光パルス時間拡散器を利用されているものであるから、(0、0.25、0.5、0.75、0、0.25、0.5、0.75)で示すようになっている。ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhの中で隣接するブラッグ反射光同士の位相差は0.25となっている。
光サーキュレータ62から出力されるチップパルスの列は、光ファイバ伝送路68を伝播して、光サーキュレータ64を介して復号器のSSFBG 66に入力される。SSFBG 66はSSFBG 60と同一の構造であり、入力端と出力端も同一であり、どちらも、この発明の第2の光パルス時間拡散装置の第1光パルス時間拡散器である。
図11(A)及び(B)を参照して、SSFBG 60から出力されるチップパルス列が、SSFBG 66に入力されて自己相関波として生成されて出力される過程を説明する。図11(A)及び(B)は、チップパルス列から自己相関波が生成される過程の説明に供する図である。
図11(A)は、単位FBG 66a、66b、66c、66d、66e、66f、66g及び66hからそれぞれブラッグ反射されて生成されるチップパルスa'、b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'の時間波形を示す図であり、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から15を付して時刻の前後関係を表示してあり、この数値が小さいほど、先の時刻であることを示している。
チップパルス列は復号器のSSFBG 66に入力されると、まず単位FBG 66aでブラッグ反射される。単位FBG 66aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 66b、単位FBG 66c、単位FBG 66d、単位FBG 66e、単位FBG 66f、単位FBG 66g及び単位FBG 66h、でブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'と表すこととする。
チップパルス列を構成するチップパルスa、b、c、d、e、f、g及びhが、単位FBG 66aによって、ブラッグ反射されて、図11(A)においてa'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列になる。単位FBG 66aによってブラッグ反射されたチップパルスa'は、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 66aによってブラッグ反射されたチップパルスb'は、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。以下同様に、単位FBG 66aによってブラッグ反射されたチップパルスh'は、時間軸上で8と示してある位置にピークをもつチップパルスである。
単位FBG 66bによっても、チップパルスの列を構成する光パルスa、b、c、d、e、f、g及びhがブラッグ反射されて、図11(A)においてb'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列になる。単位FBG 66bから反射されるブラッグ反射光b'は、ブラッグ反射光a'と比べて0.25だけ増えている。したがって、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列に対して、b'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列は、各チップパルスの相対位相に0.25だけ加えられた値となっている。すなわち、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列の右側から左側に向って相対位相が(0、0.25、0.5、0.75、0、0.25、0.5、0.75)となっているのに対して、b'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列の相対位相値は、右側から左側に向って、0.25がそれぞれ加えられて、(0.25、0.5、0.75、0、0.25、0.5、0.75、0)となっている。
図11(B)はSSFBG 66で復元された入力光パルスの自己相関波を示している。横軸は時間軸であり、図11(A)に示した図と時間軸を合わせてある。自己相関波は、SSFBG 66の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'で与えられるので、図11(A)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'を全て足し合わせたものとなっている。図11(B)の時間軸上で8と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'に関連する光パルスが全て同位相で足しあわされるので、最大のピークを構成する。
以上説明したように、光パルスがSSFBG 60で時間拡散されてチップパルスの列となり、このチップパルスの列がSSFBG 66に入力されることによって、自己相関波が生成される。ここで取り上げた例では8ビットの相対位相(0、0.25、0.5、0.75、0、0.25、0.5、0.75)を用いたが、相対位相がこれ以外の場合であっても上述した説明は同様に成り立つ。
図11(B)に示す自己相関波は、図7(B)あるいは図8(B)を参照して説明した、自己相関波あるいは相互相関波が生成されるメカニズムと同様であるので、その説明を省略する。図11(B)において、それぞれのピーク波形の振幅が、チップパルスの振幅の何倍となっているかを、括弧で括って、ピーク波形のそれぞれのピーク位置に示してある。これらのピーク波形の振幅の合計は、時間軸上で1から15と示す位置に形成されるピーク波形の順に合計すると、1+2+3+4+5+6+7+8+7+6+5+4+3+2+1=64となる。これをエネルギーに換算すると、チップパルス1つ分に対して4096倍(=642倍)となる。すなわち、自己相関波の総エネルギーは、チップパルス1つ分のエネルギーの4096倍である。また、自己相関波のピーク(パルスの尖塔値)の振幅は、チップパルス1つ分の8倍であるから、エネルギーに換算すると64倍となる。
以上の説明では、符号器に類似する役割を果たすSSFBG 60と復号器に類似する役割を果たすSSFBG 66とを構成する各単位FBGのそれぞれに設定された相対位相が同一である場合について説明した。すなわち、SSFBG 60によってチップパルス列として時間拡散された後、このチップパルスの列がSSFBG 66に入力されて、自己相関波として生成されて出力される場合を説明した。
次に、符号器に類似する役割を果たすSSFBGと復号器に類似する役割を果たすSSFBGとに設定された符号が異なる場合について説明する。図12、図13(A)及び(B)は、異なる屈折率周期構造を作りつけた一組のSSFBGを利用した第2の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器によるチップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理の説明に供する図である。
図12、図13(A)及び(B)においても、図10、図11(A)及び(B)における場合と同様に、位相制御手段を8つ具える光パルス時間拡散器、すなわちN=4、j=2である場合を、一例として取り上げて示している。
図12は動作原理の説明に供する図であり、図13(A)は、単位FBG 70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g及び70hからそれぞれブラッグ反射されるチップパルスa、b、c、d、e、f、g及びhの時間波形を示す図であり、図13(B)は、復号器のSSFBG 76で復号化された入力光パルスの相互相関波を示している。
図12、図13(A)及び(B)を参照して、相異なる屈折率周期構造を作りつけた一組のSSFBGを利用した第2の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器によるチップパルス列の生成及び、チップパルス列から光パルスを復元する動作原理について説明する。図12は動作原理の説明に供する図であり、図13(A)は、単位FBG 70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g及び70hからそれぞれブラッグ反射されるチップパルスa、b、c、d、e、f、g及びhの時間波形を示す図であり、図13(B)は、復号器のSSFBG 76で復号化された入力光パルスの相互相関波を示している。
図12では、この発明の第2の光パルス時間拡散装置の一方が具えるSSFBG 70を光パルス時間拡散器とし、他方の第2の光パルス時間拡散装置の他方が具えるSSFBG 76をを光パルス復元装置とした例を示している。すなわち、SSFBG 70は、一方の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器であり、SSFBG 76は、他方の光パルス時間拡散装置が具える光パルス時間拡散器である。
図12に示すように、入力光パルスが光サーキュレータ72を介してSSFBG 70に入力されて時間拡散されて、再び光サーキュレータ72を介して、チップパルス列として出力される。図12に示すSSFBG 70は、光ファイバの導波方向に沿って8つの単位FBGが配列されて構成されたSSFBGである。従って、SSFBG 70から出力される、時間軸上に並ぶチップパルスの数は8個となる。SSFBG 70を構成する単位FBG 70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g及び70hは、それぞれ、上述の光位相符号の第1番目のチップaから第8番目のチップhと、ぞれぞれ対応する。
SSFBG 70に光パルスを入力すると、単位FBG 70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g及び70hから、それぞれブラッグ反射光がa、b、c、d、e、f、g及びhが生成されて、出力される。SSFBG 70は、第2光パルス時間拡散器に対応するから、ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhのそれぞれの相対位相は0、0.5、0、0.5、0、0.5、0、0.5となっている。これを、相対位相値の数列として表すと、(0、0.5、0、0.5、0、0.5、0、0.5)となる。すなわち、第2光パルス時間拡散器に対応する、SSFBG 70は、n=2、N=4、a=0.25である場合に相当する。すなわち、相対位相の最小単位a+(n-1)/Nは、a+(n-1)/N=0.25+(2-1)/4=0.5である。第2光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、(0、0.5、0、0.5、0、0.5、0、0.5)で与えられることになる。
これに対して、SSFBG 76は、第1光パルス時間拡散器に対応するから、ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhのそれぞれの相対位相を表す数列は(0、0.25、0.5、0.75、0、0.25、0.5、0.75)となる。すなわち、第1光パルス時間拡散器に対応する、SSFBG 76は、n=1、N=4、a=0.5である場合に相当する。すなわち、相対位相の最小単位a+(n-1)/Nは、a+(n-1)/N=0.25+(1-1)/4=0.25である。従って、第1光パルス時間拡散器のSSFBGを構成する単位FBGに設定される相対位相値の数列は、(0、0.25、0.5、0.75、0、0.25、0.5、0.75)で与えられることになる。
次に、光パルスが第2光パルス時間拡散器に対応するSSFBG 70で時間拡散されてチップパルスの列に変換され、そのチップパルスの列が第1光パルス時間拡散器に対応するSSFBG 76によって相互相関波が形成される過程を説明する。
図12に示す単一の光パルスが光サーキュレータ72を介して符号器のSSFBG 70に入力されると、単位FBG 70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g及び70hからのブラッグ反射光が生成される。そこで、単位FBG 70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g及び70hからのブラッグ反射光をそれぞれa、b、c、d、e、f、g及びhとする。すなわち、図12に示す単一の光パルスが、ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhとして時間拡散されて符号化光パルス列に変換される。
ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhは、時間軸に対して表すと、図12の送信側と受信側とをつなぐ光ファイバ伝送路78の上側に示すように、8つの光パルスに時間拡散されて、時間軸上で単位FBG 70a、70b、70c、70d、70e、70f、70g及び70hに依存する特定のチップパルスの列を構成する。
チップパルスの列を構成するこれらのブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhの相対位相は、(0、0.5、0、0.5、0、0.5、0、0.5)で示すようになっている。ブラッグ反射光a、b、c、d、e、f、g及びhの中で隣接するブラッグ反射光同士の位相差は0.25となっている。
光サーキュレータ72から出力されるチップパルスの列は、光ファイバ伝送路78を伝播して、光サーキュレータ74を介してSSFBG 76に入力される。
図13(A)及び(B)を参照して、SSFBG 70から出力されるチップパルス列が、SSFBG 76に入力されて相互相関波として生成されて出力される過程を説明する。図13(A)及び(B)は、チップパルス列から相互相関波が生成される過程の説明に供する図である。
図13(A)は、単位FBG 76a、76b、76c、76d、76e、76f、76g及び76hからそれぞれブラッグ反射されて生成されるチップパルスa'、b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'の時間波形を示す図であり、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から15を付して時刻の前後関係を表示してあり、この数値が小さいほど、先の時刻であることを示している。
チップパルス列は復号器のSSFBG 76に入力されると、まず単位FBG 76aでブラッグ反射される。単位FBG 76aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 76b、単位FBG 76c、単位FBG 76d、単位FBG 76e、単位FBG76f、単位FBG 76及び単位FBG 76hでブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'と表すこととする。
チップパルス列を構成するチップパルスa、b、c、d、e、f、g及びhが、単位FBG 76aによって、ブラッグ反射されて、図13(A)においてa'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列になる。単位FBG 76aによってブラッグ反射されたチップパルスa'は、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 76aによってブラッグ反射されたチップパルスbは、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。同様に、単位FBG 76aによってブラッグ反射されたチップパルスcからhは、それぞれ時間軸上で3から8と示してある位置にピークをもつチップパルスである。
単位FBG 76bによっても、チップパルスの列を構成する光パルスa、b、c、d、e、f、g及びhがブラッグ反射されて、図13(A)においてb'と示した時間軸上に並ぶ。単位FBG 76bから反射されるブラッグ反射光b'は、ブラッグ反射光a'と比べて0.25だけ増えている。したがって、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列に対して、b'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列は、各チップパルスの相対位相に0.25だけ加えられた値となっている。すなわち、a'と示した時間軸上に並ぶチップパルスの列の右側から左側に向って相対位相が(0, 0.5, 0, 0.5, 0, 0.5, 0, 0.5)となっているのに対して、b'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列の相対位相値は、右側から左側に向って、0.25がそれぞれ加えられて、(0.25, 0.75, 0.25, 0.75, 0.25, 0.75, 0.25, 0.75)となっている。
同様に、c'と示す時間軸上に並ぶチップパルスの列は、a'と示した列のチップパルスの列の相対位相値(0, 0.5, 0, 0.5, 0, 0.5, 0, 0.5)に0.5が加えられて、(0.5, 0, 0.5, 0, 0.5, 0, 0.5, 0)となっている。以下、d’からh’と示す時間軸上に並ぶそれぞれのチップパルスの列についても同様である。
図13(B)はSSFBG 76で復元された入力光パルスの相互相関波を示している。横軸は時間軸であり、図13(A)に示した図と時間軸を合わせてある。相互相関波は、SSFBG 76の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'で与えられるので、図13(A)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'、d'、e'、f'、g'及びh'を全て足し合わせたものとなっている。
図13(B)の時間軸上で1と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'の内、最も右側にあるチップパルスだけで形成されるピークであるから、その振幅はチップパルス1つ分の振幅に等しい。時間軸上で2と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'の内、右側から2番目にあるチップパルスと、ブラッグ反射光b'の内最も右側にあるチップパルスの和として形成されるピークである。両者のチップパルスの位相は、それぞれ、0.5、0.25であるので、その和として形成されるピークは、その振幅はチップパルス2つ分より小さい。このことを、図13(B)では、(<2)と示してある。
図13(B)において、それぞれのピーク波形の振幅が、チップパルスの振幅の何倍となっているかを、括弧で括って、ピーク波形のそれぞれのピーク位置に示してある。これらのピーク波形の振幅の合計は、時間軸上で1から15と示す位置に形成されるピーク波形の順に合計すると、1+2+1+0+1+2+1+0+1+2+1+0+1+2+1=16よりも小さくなる。これをエネルギーに換算すると、チップパルス1つ分に対して256倍(=162倍)より小さい値となる。すなわち、相互相関波の総エネルギーは、チップパルス1つ分のエネルギーの256倍より小さい。また、相互相関波のピーク(パルスの尖塔値)の振幅は、最大でもチップパルス1つ分に対してほぼ2倍であり、エネルギーに換算してチップパルス1つ分に対してほぼ4倍である。上述した相互相関波形では、ピーク強度はチップパルス1つ分に対してほぼ64倍であったのに比較して、1/16以下の強度となっていることが言える。
従って、第1光パルス時間拡散器で時間拡散して、第1光パルス時間拡散器で光パルスを復元した場合、すなわち自己相関波エネルギーがチップパルス1つ分のエネルギーの4096倍であったのに対して、第2光パルス時間拡散器で時間拡散して、第1光パルス時間拡散器で光パルスを復元した場合、すなわち相互相関波エネルギーがチップパルス1つ分のエネルギーの256倍となる。すなわち、この発明の第2の光パルス時間拡散装置によって、光パルスの時間拡散及び光パルスの復元を行った場合、自己相関波のエネルギーを相互相関波のエネルギーの16(=4096/256)倍となることを示している。
以上のことから、この発明の第2の光パルス時間拡散装置によれば、この発明の第1の光パルス時間拡散装置以上に、更に相互相関波成分に対する自己相関波成分へのエネルギー分配比が大きく取れ、自己相関波のピーク強度が、相互相関波のピーク強度に比べて十分に大きく取れることが分かる。
表1に以上説明したこの発明の第1及び第2の光パルス時間拡散装置によって得られる相互相関波のエネルギーに対する自己相関波のエネルギーがどれだけとなるかを見やすい形に整理して示す。また、比較のために従来の7チップの符号器と比較できるように、従来の符号器についても、相互相関波のエネルギーに対する自己相関波のエネルギーがどれだけとなるかを、合わせて示してある。
この発明の第1の光パルス時間拡散装置によれば、相互相関波のエネルギーB(64より小さい)に対する自己相関波のエネルギーA(256である。)の比A/Bは4以上となる。また、この発明の第2の光パルス時間拡散装置によれば、相互相関波のエネルギーB(256より小さい)に対する自己相関波のエネルギーA(4096である)の比A/Bは16以上となる。また、これに対して、従来の符号器によれば、相互相関波のエネルギーB(289である)に対する自己相関波のエネルギーA(289である)の比A/Bは1であることとなる。
従って、この発明の第1あるいは第2の光パルス時間拡散装置によれば、従来の光パルス時間拡散装置に比べて、相互相関波成分に対する自己相関波成分成分へのエネルギー分配比が大きく取れることが分かる。また、上述したように、自己相関波のピーク強度(パルスの尖塔値)も、相互相関波のピーク強度に比べて十分に大きく取れることが分かる。
<自己相関波及び相互相関波>
図14を参照して、この発明の第1の光パルス時間拡散装置によって、得られた自己相関波及び相互相関波について説明する。図14は、この発明の第1の光パルス時間拡散装置によって生成された自己相関波及び相互相関波の時間波形である、自己相関波形及び相互相関波形を示す。ここで、SSFBGの各単位FBGに設定される相対位相を確定するパラメータは、次のとおりである。すなわち、N=36とし、第4光パルス時間拡散器(n=4)で光パルスをチップパルスの列として時間拡散し、第1光パルス時間拡散器(n=1)でこのチップパルスの列から相互相関波を生成した。また、第1光パルス時間拡散器(n=1)で光パルスをチップパルスの列として時間拡散し、第1光パルス時間拡散器(n=1)でこのチップパルスの列から自己相関波を生成した。
パラメータaの値は特に示さないが、このパラメータは、単なる位相の定数値を与えるものであり、自己相関波あるいは相互相関波の、エネルギー及びピーク強度には影響を与えないパラメータである。
図14において、横軸に時間をps(ピコ秒)単位で示し、縦軸は、規格化した光強度(規格化パワー)を任意スケールで示してある。光パルスとしては、その半値幅が3 psであり、ビットレートが622 Mbit/sであるデータ信号を利用した。図14においては、自己相関波と相互相関波とは同一のスケールで示してある。図14から、相互相関波に比べて、自己相関波の強度が十分に大きいことが分かる。
<多重数とS/N比との関係>
図15を参照して、この発明の第1の光パルス時間拡散装置による、チップパルス変換ステップ及び光パルス復元ステップを行った場合の、多重数とS/N比との関係を説明する。なお、SSFBGの各単位FBGに設定される相対位相を確定するパラメータ等は、図14における設定と同一である。図15は、多重数とS/Nとの関係を示す図であり、横軸に多重数、縦軸にS/N比(dB)をとって示してある。多重数が2、4、8,16と増えていくとS/N比も減少するが、16多重したとしても、約6 dBのS/N比を得ることが可能であることが分かる。
以上説明したように、この発明の第1あるいは第2の光パルス時間拡散装置によれば、チップパルス列から生成される自己相関波のエネルギーと相互相関波のエネルギーとの比(S/N比に相当する。)を大きくすることが可能である。受信側では、他チャンネルの相互相関波成分の成分は、受信信号である自己相関波に対する雑音となる。受信側で受信信号を選択する手段に使われる閾値処理においては、S/N比が大きいほど、受信信号の選択の確実性が増す。
この理由は、閾値処理をする素子の時間応答特性に基づく。すなわち、閾値処理をする素子は、その時間応答特性に基づいて、一定の時間間隔で受信信号のエネルギーの積分値を検出しているという事情に基づく。そのため、再生された自己相関波形の尖塔値が単に大きいというだけでなく、自己相関波形を形成している時間波形の面積、すなわち、積分値である光パルスそのもののエネルギーが大きい必要がある。言い換えると、上述したS/N比が大きいということは、光パルスの時間波形の面積(積分値)が大きいことに対応し、相互相関波のエネルギーに対する自己相関波のエネルギーの比が大きいことに対応する。
この発明の第1及び第2の光パルス時間拡散装置によれば、チャンネル数が増えてもS/Nが小さくなりにくい。これに対して、従来の符号に基づいて形成される光パルス時間拡散器では、チャンネル数を増大させるとS/N比は急激に小さくなる。チャンネル数とは、光パルス時間拡散器に設定可能な時間拡散パターンの数を意味し、この発明の第1及び第2の光パルス時間拡散装置では、パラメータSで与えられる。
<光信号伝送方法及び装置>
この発明の第1及び第2光パルス時間拡散装置は、この発明の光信号伝送装置に適用して好適である。すなわち、この発明の光パルス時間拡散装置を符号器(チップパルス変換装置)及び復号器(光パルス復元装置)として採用することで、以下のステップを含むこの発明の光信号伝送方法が実現できる。
この発明の光信号伝送方法は、符号化ステップ(チップパルス変換ステップ)と光パルス復元ステップ(光パルス復元ステップ)とを含んでいる。そして、チップパルス変換ステップと光パルス復元ステップとをこの発明の第1あるいは第2光パルス時間拡散装置を利用して実行する。チップパルス変換ステップは、光パルス信号を、チップパルスの列として生成するステップである。光パルス復元ステップは、チップパルス変換ステップで用いた相対位相が与えられた光パルス時間拡散器を用いて、光パルス信号の自己相関波を生成するステップである。
上述の光信号伝送方法は、この発明の第1あるいは第2光パルス時間拡散装置を具える、この発明の光信号伝送装置で実現することが可能である。すなわち、この発明の光信号伝送装置は、これらチップパルス変換装置及び光パルス復元装置として、この発明の光パルス時間拡散装置を用いる。
チップパルス変換装置は、光パルス信号を、チップパルスの列として生成するチップパルス変換ステップを実現する。光パルス復元装置は、チップパルスの列から光パルス信号の自己相関波を生成する光パルス復元ステップを実現する。
図16を参照して、この発明の光信号伝送装置の構成及びその機能について説明する。図16は、この発明の光信号伝送装置の概略的ブロック構成図である。図16において信号の経路に付された番号は、経路そのものを指示するほか、それぞれの経路を伝播する光パルスあるいはチップパルスの列等の信号を意味することもある。
図16では4チャンネル構成の例が示してあるが、この発明の光信号伝送装置は、4チャンネルに限られるものではなく、チャンネル数がいくつの構成であっても、以下の説明は同様に成立する。図16で、符号器150-1から150-4と示されている部分の構成要素が、送信側に設置されるこの発明の第1あるいは第2の光パルス時間拡散装置が具える、第1から第4光パルス時間拡散器に対応する。また、復号器184-1から復号器184-4と示されている部分の構成要素が、受信側に設置されるこの発明の第1あるいは第2の光パルス時間拡散装置が具える、第1から第4光パルス時間拡散器に対応する。
この発明の光信号伝送装置は、送信部140でチャンネルごとにチップパルスの列を生成して、合波器170で全てのチャンネルのチップパルスの列を多重して送信信号172aとして、光伝送路172を伝播させて受信部180に伝送する構成である。
受信部180に伝送された全てのチャンネルのチップパルスの列が多重された送信信号172aは、分岐器182によって、チャンネル数と等しい数に強度分割される。そして強度分割された多重化されたチップパルスの列181a、181b、181c及び181dはそれぞれ、受信部180の受信部第1チャンネル200、受信部第2チャンネル202、受信部第3チャンネル204及び受信部第4チャンネル206に入力される。
まず、各チャンネルの送信信号である光パルス信号を生成するための基となる光パルス列を発生させてその光パルス列を各チャンネルに供給する機能部分について説明する。この部分はパルス光源142と分岐器144を具えて構成される。
パルス光源142は、例えば、分布帰還形半導体レーザ(DFB-LD)を用いて構成することができる。このDFB-LDから出力される連続波光を光変調器(図示せず。)で光パルス列に変換してこの光パルス列を一本の光ファイバ端から出力するように構成された光源が、パルス光源142である。パルス光源142の出力光143は分岐器144によって、チャンネル数分(ここでは4つ)に強度分割されて、各チャンネルに分配される。すなわち第1から第4チャンネルに対してそれぞれ、光パルス列145a、光パルス列145b、光パルス列145c及び光パルス列145dとして強度分割されて供給される。
以下で行なうチップパルス生成部の説明は、各チャンネル共通の事項であるので、ここでは第1チャンネルを例にとって説明する。第1チャンネルの符号化部である送信部第1チャンネル160は、変調電気信号発生部146と、変調器148と、符号器150-1とを具えて構成される。第2チャンネル162、第3チャンネル164及び第4チャンネル166は、第1チャンネル160と同様の構造である。異なるのは、それぞれのチャンネルが具える符号器(光パルス時間拡散器)に設定されている識別パラメータnである。識別パラメータnは、チャンネルごとに相異なるものが設定される。例えば、第1から第4チャンネルのそれぞれに、n=1から4を割り当てる。これによって、チャンネルごとに独立して光パルス信号を送受信できる。
図16において、符号器150-1から符号器150-4は、図6に示す光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器36-1から36-4(S=4に相当する。)に、それぞれ対応する。
送信部第1チャンネル160は、第1チャンネルの光パルス信号を、第1チャンネル用に設置された光パルス時間拡散器(符号器)を用いて時間拡散して、チップパルス列を生成するチップパルス変換ステップを実行する部分である。
上述したように、送信部第1チャンネル160を構成するための必須構成要素は、変調電気信号発生部146、変調器148及び符号器150-1である。この符号器150-1には、識別パラメータnが1に設定されたSSFBGによる光パルス時間拡散器が使われている。同様に第2、第3及び第4チャンネルに設置されている符号器には、それぞれ、識別パラメータn=2、n=3及びn=4が設定されたSSFBGによる光パルス時間拡散器が使われている。
変調電気信号発生部146は、送信信号を担う電気パルス信号147を発生させる。電気パルス信号147は、第1チャンネルに割り当てられた送信情報が反映された2値デジタル電気信号として生成された電気信号である。変調器148は、光パルス列145aを、電気パルス信号147によって、光パルス信号149に変換する。光パルス列145aは、変調器148によって電気パルス信号147を反映したRZフォーマットに強度変調されて、光パルス信号149として生成される。
符号器150-1は、光パルス信号149を、時間拡散してチップパルスの列161を生成する。また、受信部180の受信部第1チャンネル200に具えられる復号器184-1には、符号器150-1
と同一の相対位相の構造が設定された(識別パラメータn=1が設定された)光パルス時間拡散器が使われる。すなわち、復号器184-1は、強度分割されて第1チャンネルに割り当てられた符号化光パルス信号181aを、第1チャンネルの符号器と同一の識別パラメータn=1が設定された光パルス時間拡散器を用いて、チップパルスの列を復号化する。その結果、復号器184-1では、第1チャンネルの光パルス信号の自己相関波成分及び第2から第4チャンネルの光パルス信号の相互相関波成分を含む再生光パルス信号が生成される。
図16において、復号器184-1から復号器184-4は、図6に示す光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器36-1から光パルス時間拡散器36-4(S=4に相当する。)に、それぞれ対応する。
復号器184-1において、再生された自己相関波成分185は、受光器190によって電気信号に変換されて、第1チャンネルの受信信号191が生成される。この受信信号191の波形は、送信部140の送信部第1チャンネル160が具えている変調電気信号発生部146から出力される電気パルス信号147を反映した信号である。こうして、第1チャンネルを通じて送信されるべき電気パルス信号147は、受信部180によって第1チャンネルの受信信号191として受信される。
受信部180の受信部第2チャンネル202、第3チャンネル204及び第4チャンネル206においても、受信部第1チャンネル200と同様に、それぞれの多重化されたチップパルスの列から自己相関波が再生される。この自己相関波から、それぞれのチャンネルを通じて送信された電気パルス信号が生成される過程は同一であるので、その説明を省略する。
以上説明したように、この発明の光信号伝送方法及びこの発明の光信号伝送装置は、この発明の光パルス時間拡散装置を利用して実現される。したがって、この発明の光信号伝送方法及びこの発明の光信号伝送装置によれば、チャンネル数が増えてもS/Nが小さくなりにくいという効果が得られる。